以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。
<微生物>
本発明の一形態は、シュードモナス(Pseudomonas)に属し、以下の菌学的性質を示す微生物(油脂分解微生物)である。一実施形態では、シュードモナス(Pseudomonas)に属し、以下の菌学的性質を示し、配列番号1で示される16S rDNA塩基配列を有する、微生物(油脂分解微生物)が提供される。本明細書において、以下の菌学的性質を示す微生物を、単に「本発明に係る微生物」とも称する。
好ましい実施形態では、本発明に係る微生物は、pH5以上の条件で、1%(w/v)の油脂を24時間で50重量%以上低減する。pHの上限は、特に制限されないが、例えば11以下である。また、温度条件は、特に制限されないが、例えば30℃である。
特に好ましい実施形態では、本形態の微生物は、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)2−2306株(受託番号NITE BP−02752)である。
[スクリーニング]
本発明に係る微生物は、以下のスクリーニング方法により、石川県かほく市の土壌から単離した。
1.スクリーニング方法
石川県の土壌またはグリーストラップの廃液、下水、河川水などから採取したサンプルを、以下の方法で作製された一次スクリーニング用液体培地5mLに適量添加し、30℃で一週間培養する。培養後の培養液100μLをさらに一次スクリーニング用液体培地5mLに接種し、再度30℃で一週間培養する。
一次スクリーニング用液体培地は、以下の表4の組成となるように油脂以外の各成分を純水に溶解し、油脂を終濃度0.5w/v%となるように添加し、高温高圧滅菌して調製する。なお、油脂は、菜種油と大豆油とを1:1(w/w)の割合で混合して調製する。
104倍希釈した一次スクリーニング後の培養液100μLを、以下の方法で作製された二次スクリーニング用寒天培地に塗布し、30℃で48時間培養する。培養後、油脂の分解によるハロの形成が確認できた菌株を単離する。
二次スクリーニング用寒天培地は、以下の表5の組成となるように、油脂および寒天以外の各成分を純水に溶解し、油脂(菜種油:大豆油=1:1(w/w))を終濃度0.5w/v%および寒天を終濃度2.0w/v%となるように添加し、高温高圧滅菌した後、適宜分注して固化させて調製する。
次に、油脂0.05g(菜種油:大豆油=1:1(w/w))を、以下の方法で作製された三次スクリーニング用液体培地5mLに加えて、滅菌した試験液を調製する(油脂1%(w/v))。上記二次スクリーニングで得た各単離菌株を白金耳で一白金耳ずつ、以下の方法で作製されたLB培地に接種し、30℃で24時間振盪培養(140rpm)する。得られた培養液100μLを、上記方法で調製した試験液に接種し、30℃で24時間振盪培養(140rpm)する。
三次スクリーニング用液体培地は、以下の表6の組成となるように、各成分を純水に溶解し、塩酸にてpH6.0に調整し、高温高圧滅菌して調製する。
LB培地は、以下の表7の組成となるように、各成分を純水に溶解し、高温高圧滅菌して調製する。
培養後、JIS K0102:2016改正(工業排水試験方法)に準じてノルマルヘキサン抽出物を調製する。ノルマルヘキサン抽出物を油脂の残存量とし、試験液の調製時に添加した油脂0.05gと油脂の残存量(ノルマルヘキサン抽出物の量(g))とから、下記数式(1)により油脂減少率を求める。その結果、油脂減少率の高い菌株を単離することができる。
油脂減少率が高かった単離した菌株(単離微生物)について、16S rDNA塩基配列および菌学的性質を以下のようにして決定した。
1.培養条件
以下の条件で培養した菌株を供試菌体とする。
2.16S rDNA塩基配列解析
PCR増幅からサイクルシークエンスまでの操作は、各プロトコールに基づいて行う。
上記にて決定された単離微生物の16S rDNA塩基配列を下記配列番号:1に示す。
微生物同定用DNAデータベースDB−BA12.0(株式会社テクノスルガ・ラボ)および国際塩基配列データベース(DDBJ/ENA(EMBL)/GenBank)に対するBLAST相同性検索の結果、単離微生物の16S rDNA部分塩基配列は、シュードモナス・ソリ(Pseudomonas soli)の基準株F−279,208T(アクセッション番号HF930598)に対し相同率99.5%の相同性を示した。また、P.パラフルバ(parafulva) AJ2129T(AB060132)など複数種に対し相同率99%以上の相同性を示した。DB−BA12.0に対するBLAST検索の結果を表10に示し、国際塩基配列データベースに対するBLAST検索の結果を表11に示す。
表10の網掛け配列データを用いて、簡易分子系統解析を行った。結果を以下に示す。左上の線は、スケールバーを示し、系統枝の分岐に位置する数値はブーストトラップ値であり、株名の末尾のTは、その種の基準株(Type Strain)を示し、BSLは、バイオセーフティーレベル(BSL1*(日和見病原体)以上を表記)を示す。
上記分子系統樹において、単離微生物は、シュードモナス(Pseudomonas)属が構成するクラスター内に含まれ、P.ソリ(soli) F−279,208T(HF930598)とクラスターを形成し、近縁であることが示された。
したがって、16S rDNA部分塩基配列解析の結果からは、単離微生物は、P.ソリ(soli)に近縁なシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)と同定される。
3.菌学的性質
上記スクリーニングによって得られた菌株の菌学的性質を以下に示す。
光学顕微鏡(BX50F4、Olympus,Japan)による形態観察およびBarrow & Felthamの方法(Barrow G.I. & Feltham R.K.A. (1993), Cowan and Steel’s Manual for the Identification of Medical Bacteria. 3rd edition, Cambridge University Press)に基づき、カタラーゼ反応、オキシダーゼ反応、ブドウ糖からの酸/ガス産生、ブドウ糖の酸化/発酵(O/F)について試験を行った。グラム染色は、フェイバーG「ニッスイ」(Nissui Pharmaceutical,Japan)を用いて行った。結果を表12に示す。
次に、API(登録商標)20NE(bioMerieux,France)を用いて、製造業者のプロトコールに従って以下の項目について試験した。結果を表13に示す。
また、株式会社テクノスルガ・ラボと英国NCIMB Ltd.との技術提携事項および公知技術に従い、以下の項目について試験した。結果を表14に示す。
表12に示すように、単離微生物は、運動性を有するグラム陰性桿菌で、グルコースを酸化し、カタラーゼおよびオキシダーゼ反応はともに陽性を示した。これらの性状は、Pseudomonas属の性状と一致すると考えられる(Barrow G.I. & Feltham R.K.A. (1993). Cowan and Steel's Manual for the Identification of Medical Bacteria. 3rd edition. Cambridge: University Press)。
表13に示すように、単離微生物は、硝酸塩を還元せず;アルギニンジヒドロラーゼ活性を示し;ゼラチンを加水分解し;ブドウ糖、D−マンノース、D−マンニトール、N−アセチル−D−グルコサミン、グルコン酸カリウム、n−カプリン酸、dl−リンゴ酸、クエン酸ナトリウムおよび酢酸フェニルを資化し;L−アラビノース、マルトースおよびアジピン酸を資化しなかった。
表14に示すように、単離微生物は、6%NaClで生育し;King’s B寒天培地で蛍光色素を産生し;King’s A寒天では蛍光色素を産生しなかった。
これらの性状は、16s rDNA部分塩基配列解析の結果において近縁と示唆されたP.ソリ(soli)の性状とほぼ一致した。しかし、37℃で生育しない点は、P.ソリ(soli)と異なった。
以上より、単離微生物の性状は、シュードモナス(Pseudomonas)属に含まれ、既知種では、P.ソリ(soli)に最も近縁と考えられる。しかし、16s rDNA塩基配列解析および菌学的性質から、単離微生物は、P.ソリ(soli)とは異なる性質を有することが明らかとなった。
したがって、単離された菌株(単離微生物)は、新規な微生物であると判断し、本菌株をシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)2−2306株(本明細書中、単に「2−2306株」とも称する)と命名した。また、この2−2306株は、2018年7月24日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託されており、その受託番号は、NITE BP−02752である。
[油脂低減効果の評価]
本明細書において、油脂の減少は、以下の方法により評価される。すなわち、菜種油:大豆油=1:1(w/w)である油脂0.05gを、pH以外は上記の3次スクリーニング用液体培地と同じである無菌処理済の油脂分解評価用培地(5mL)に加えて試験液を調製する(油脂1%(w/v))。このとき使用する油脂分解評価用培地としては、pHを4〜11の範囲で調整したものを用いる(例えば、pH4、5、6、7、8、9、10および11の油脂分解評価用培地)。pHの調整は塩酸、硝酸、炭酸、硫酸などの無機酸やクエン酸、乳酸などの有機酸等の任意の酸やこれらの塩;および/または水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の任意のアルカリ;によって行えばよいが、好ましくは塩酸(酸性側)または水酸化ナトリウム(アルカリ側)である。
この試験液に対し、平板培地(例えば、二次スクリーニング用寒天培地)上で培養した微生物を接種し、任意の温度帯で24時間振盪(140rpm)培養する。接種する菌の量は、白金耳で一白金耳程度である。試験液に接種する微生物は、三次スクリーニング用液体培地などで前培養したものを用いても良い。前培養することにより、接種する菌量を容易に調節できる。前培養した微生物を用いる場合は、試験液1mLに対し、1.5×106CFU/mLとなるように接種する。培養温度は菌体の油脂分解・資化能が高い温度帯に合わせて設定すればよいが、例えば、好ましくは15〜30℃である。
培養後、JIS K0102:2016改正(工業排水試験方法)に準じてノルマルヘキサン抽出物を調製する。ノルマルヘキサン抽出物を油脂の残存量とし、試験液の調製時に添加した油脂(0.05g)と油脂の残存量(ノルマルヘキサン抽出物の量(g))とから、上記数式(1)により油脂減少率を求める。本発明に係る微生物は、pHを上記範囲(例えば、pH5〜11)で設定した油脂分解評価用培地を使用して調製された試験液全てにおいて、上記方法で求められる油脂減少率が50重量%以上であればよい。本発明の好ましい実施形態では、30℃で培養した場合における油脂減少率が、50重量%以上であり、より好ましくは60重量%以上であり、さらに好ましくは70重量%以上である。油脂減少率は高いほど好ましいので、上限は特に設定されないが、例えば、上記方法にて測定される油脂減少率が90重量%以下である。長時間培養すれば油脂減少量は多くなる。しかしながら、微生物は除害施設から順次***されるため、通常、約1〜3日ごとに除害施設へ微生物が補給される。従って、短時間(例えば24時間以内)で50重量%以上の油脂減少率を示す微生物は、実用面で優れる。
除害施設の排水の水質環境は、排出される生ゴミの種類等によって容易に変動し得る。従って、除害施設で使用される微生物には、広範なpHの環境において排水を浄化し得ることが好ましい。2−2306株は広範なpHの環境(例えば、pH5〜11)においても油脂を分解し得るという点において優れている。
本明細書において「油脂」とは、トリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドのようなグリセリド類を多く含む食用または工業用油脂、ならびに脂肪酸を指す。前記油脂としては、例えば、オリーブ油、キャノーラ油、ココナッツ油、ごま油、米油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、トウモロコシ油、菜種油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油、やし油、落花生油、牛脂、ラード、鶏油、魚油、鯨油、バター、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等の食用油脂;およびアマニ油、ジャトロファ油、トール油、ハマナ油、ひまし油、ホホバ油等の工業用油脂;が含まれるが、好ましくはグリーストラップが設置されることが多いレストラン等で頻繁に排出される食用油脂である。 脂肪酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、酪酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の飽和脂肪酸;デセン酸、ミリストレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、ヘプタデセン酸、オレイン酸、イコセン酸、ドコセン酸、テトラコセン酸、ヘキサデカジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘキサデカテトラエン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、オクタデカテトラエン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、イコサテトラエン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸、ヘンイコサペンタエン酸、ドコサジエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の不飽和脂肪酸;が挙げられる。脂肪酸は、食用または工業用油脂が分解されて生じたものであってもよい。
[微生物の培養]
本発明に係る微生物の培養方法は、当該微生物が生育・増殖できるものであれば、いずれのものであってよい。例えば、微生物の培養に使用する培地は、固体または液体培地のいずれでもよく、また、使用する微生物が資化しうる炭素源、適量の窒素源、無機塩及びその他の栄養素を含有する培地であれば、合成培地または天然培地のいずれでもよい。通常、培地は、炭素源、窒素源および無機物を含む。
本発明に係る微生物の培養において使用できる炭素源としては、使用する菌株が資化できる炭素源であれば特に制限されない。具体的には、微生物の資化性を考慮して、グルコース、マンノース、フラクトース、セロビオース、ラフィノース、キシロース、マルトース、ガラクトース、ソルボース、グルコサミン、リボース、アラビノース、ラムノース、スクロース、トレハロース、α−メチル−D−グルコシド、サリシン、メリビオース、ラクトース、メレジトース、イヌリン、エリスリトール、リビトール、キシリトール、グルシトール、マンニトール、ガラクチトール、イノシトール、N−アセチル−D−グルコサミン、デンプン、デンプン加水分解物、糖蜜、廃糖蜜等の糖類、麦、米等の天然物、グリセロール、メタノール、エタノール等のアルコール類、酢酸、酢酸フェニル、乳酸、コハク酸、グルコン酸、カプリン酸、リンゴ酸、グルクロン酸、ピルピン酸、クエン酸等の有機酸類、ヘキサデカン等の炭化水素などが挙げられる。上記炭素源は、培養する微生物による資化性を考慮して適宜選択される。例えば、2−2306株を用いる場合は、上記炭素源のうち、グルコース、マンノース、マンニトール、N−アセチル−D−グルコサミン、グルコン酸、カプリン酸、リンゴ酸、クエン酸、酢酸フェニルおよびこれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)等を用いることが好ましい。また、上記炭素源を1種または2種以上選択して使用することができる。
本発明に係る微生物の培養において使用できる窒素源としては、肉エキス、魚肉エキス、ペプトン、ポリペプトン、トリプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆加水分解物、大豆粉末、カゼイン、ミルクカゼイン、カザミノ酸、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸等の各種アミノ酸、コーンスティープリカー、その他の動物、植物、微生物の加水分解物等の有機窒素源;アンモニア、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩、硝酸ナトリウムなどの硝酸塩、亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩、尿素等の無機窒素源などが挙げられる。上記窒素源は、培養する微生物による資化性を考慮して適宜選択される。例えば、2−2306株を用いる場合は、上記窒素源のうち、魚肉エキス、トリプトン、酵母エキス、塩化アンモニウム等を用いることが好ましい。また、上記窒素源を1種または2種以上選択して使用することができる。
本発明に係る微生物の培養において使用できる無機物としては、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ナトリウム、カリウム、銅、鉄及び亜鉛などの、リン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、塩化物等のハロゲン化物などが挙げられる。上記無機物は、培養する微生物による資化性を考慮して適宜選択される。また、上記無機物を1種または2種以上選択して使用することができる。また、培地中に、必要に応じて、界面活性剤等を添加してもよい。
本発明に係る微生物に効率よく油脂を分解・資化させるあるいは微生物の油脂分解・資化能を維持するためには、培地中に油脂を添加することが好ましい。油脂としては、上述の食用油脂、工業用油脂、ならびに脂肪酸が例示できる。油脂の添加量は、特に制限されず、培養する微生物による油脂分解・資化能などを考慮して適宜選択されうる。具体的には、油脂(菜種油:大豆油=1:1(w/w))を、培地1L中に1〜30g、より好ましくは5〜15gの濃度で添加することが好ましい。このような添加量であれば、微生物は、高い油脂分解・資化能を維持できる。なお、油脂は、単独で添加してもまたは2種以上の混合物の形態で添加してもよい。
本発明に係る微生物の培養は、通常の方法によって行える。例えば、微生物の種類によって、好気的条件下または嫌気的条件下で、微生物を培養する。前者の場合には、微生物の培養は、振盪あるいは通気攪拌などによって行われる。また、微生物を連続的にまたはバッチで培養してもよい。培養条件は、培地の組成や培養法によって適宜選択され、本発明に係る微生物が増殖できる条件であれば特に制限されず、培養する微生物の種類に応じて適宜選択されうる。通常は、培養温度が、好ましくは10〜35℃、より好ましくは15〜30℃である。また、培養に適当な培地のpHは、特に制限されないが、好ましくは5以上、より好ましくは5〜11である。さらに、培養時間は、特に制限されず、培養する微生物の種類、培地の量、培養条件などによって異なる。通常は、培養時間は、好ましくは16〜48時間、より好ましくは20〜30時間である。
<排水処理方法>
本発明の一実施形態は、油脂を含む排水に、上記本発明に係る微生物を接触させる工程を含む、排水処理方法に関する。本発明に係る微生物は油脂の低減効果に優れ、特に、広範なpH(例えば、pH5〜11)の水質環境においても排水を浄化し得る特性を有する。従って、油脂を含む排水に、上記本発明に係る微生物(油脂分解微生物)を接触させることにより、油脂を効果的に低減することができる。なお、上記の微生物に関する説明は、必要に応じて改変されて本実施形態に適用され得る。
以下、図1を参酌しながら、本側面に係る排水処理方法についてより詳細に説明する。なお、本発明の排水処理方法が、図1に限定されるものではない。
図1は、グリーストラップ10による排水処理(廃水処理)の仕組みを模式的に表している。排水処理方法において、本発明に係る微生物は、グリーストラップ10に排出する前の排水にあらかじめ添加されていても良いが、典型的には、排水処理槽1中の排水へ添加される。但し、本発明に係る排水処理方法は、本発明に係る微生物と油脂含有排水とを接触させることができる限り特に限定されない。
グリーストラップ10は、パイプ導入型、側溝導入型など、いずれの流入方式でもよい。また、地中埋設、スラブ天井、シンダー内埋設、床置型など、設置条件は特に制限されない。地中埋設の場合、例えば厨房や食品加工場において、排水路に流出した排水が残渣受け3に注ぎ込まれるように、グリーストラップ10を埋設する。可動式の場合、例えば、シンクの排水溝の下部に残渣受け3が位置するようにグリーストラップ10を設置する。
図1において、排水は、矢印の方向へ流れる。なお、グリーストラップ10への排水の投入は、回分式であっても連続式であっても良い。油脂含有排水は、残渣受け3を通じて排水処理槽1へと流れ込む。このとき、生ゴミ等の残渣の全部または一部は残渣受け3で捕集されるが、大部分の油脂は残渣受け3を通過して排水処理槽1へと流入する。排水処理槽1へ流入した油脂6は水面5へ向かって浮上し、仕切り板2aと2cとで仕切られた空間に集まる。従って、本発明に係る微生物を排水に加えない場合、仕切り板2aと2cとで仕切られた空間で油脂6が次第に凝集し、スカムを形成することとなる。
本発明に係る微生物をグリーストラップ10に適用した場合、排水処理槽1にて(主として、仕切り板2aと2cとで仕切られた空間にて)、油脂を含む排水と本発明に係る微生物とが接触することとなる。本発明に係る微生物は油脂の分解活性が高く、資化性を有するため、油脂6の凝集を抑制し、スカムが形成されることを有効に防止し得る。特に、2−2306株は、広範なpH領域(例えば、pH5〜11の領域)においても高い油脂分解活性を備える。これにより、排水のpHに依存せず、油脂がトラップ管4を通じて外部環境へ流出することを防止し、環境保全の観点からも利点がある。
排水処理方法において、本発明に係る微生物は、培養液中に懸濁された状態、培養液から固形分として回収された状態、乾燥された状態、担体に固定化された状態など、様々な形態で排水に接触させられ得る。培養液中に懸濁され、培養液から固形分として回収され、または乾燥された状態の微生物は、例えば、排水中へ添加され、排水と接触させられる。担体に固定化された状態の微生物は、排水中へ添加されてもよいが、微生物を固定化した担体をグリーストラップ内に設置し、微生物固定化担体に排水を通液させることにより微生物と排水とを接触させることもできる。担体に固定化した微生物をグリーストラップ内に設置することにより、排水と共に微生物が流出して菌数が低下することを防止し得る。
培養液から固形分として回収した本発明に係る微生物を使用する場合、回収方法は当業者に公知のいずれの手段も採用できる。例えば、上述の方法により培養した油脂分解微生物の培養液を、遠心分離やろ過などにより固液分離し、固形分を回収して得ることができる。この固形分を乾燥(例えば、凍結乾燥)すれば、乾燥された状態の油脂分解微生物を得ることができる。
担体に固定化された状態の油脂分解微生物を用いる場合、油脂分解微生物を固定化する担体としては、微生物を固定化することができるものであれば特に制限されず、一般的に微生物を固定化するのに使用される担体が同様にしてあるいは適宜修飾されて使用される。例えば、アルギン酸、ポリビニールアルコール、ゲランガム、アガロース、セルロース、デキストラン等のゲル状物質に包括固定する方法や、ガラス、活性炭、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、木材、シリカゲル等の表面に吸着固定する方法などが使用できる。
また、油脂分解微生物を担体に固定化する方法もまた特に制限されず、一般的な微生物の固定化方法が同様にしてあるいは適宜修飾されて使用される。例えば、微生物の培養液を担体に流し込むことによる固定化法、アスピレーターを用いて担体を減圧下におき、微生物の培養液を担体に流し込むことによる固定化法、および微生物の培養液を滅菌した培地と担体との混合物に流し込み、振とう培養し、上記混合物から取り出した担体を自然乾燥する方法などが挙げられる。
本発明に係る方法において、排水に油脂分解微生物を添加して接触させる場合、添加する菌量は任意に設定できる。排水に添加する菌量は、特に制限されるものではないが、排水に含まれる油脂1gに対して例えば1×104〜1×1012CFUであり、好ましくは1×105〜1×1011CFUである。あるいは、排水に含まれる油脂1gに対して、例えば0.1mg〜5g(乾燥菌体重量)であり、好ましくは1mg〜1.5g(乾燥菌体重量)であり、より好ましくは10mg〜150mg(乾燥菌体重量)である。または、グリーストラップ内の排水に対して、例えば1×106〜1×1012CFU/L、より好ましくは1×107〜1×1011CFU/Lとなるような量であってもよい。あるいは、グリーストラップ内の排水に対して、例えば10mg〜15g(乾燥菌体重量)/Lであり、好ましくは0.1g〜1.5g(乾燥菌体重量)/Lである。なお、微生物を2種以上組み合わせて用いる場合は、その合計量を意味する。なお、排水に添加する微生物は、前培養したものを用いても良い。前培養することにより、接種する菌量を容易に調節できる。
排水を外部環境へ排出する際、担体に固定化しない油脂分解微生物は排水と共にグリーストラップ外へと排出されるので、本発明においては、グリーストラップ(排水)に、定期的に油脂分解微生物を添加するのが好ましい。添加する間隔は特に制限されないが、例えば、1回/3時間、1回/24時間、または2〜3日に1回の間隔で添加するのが好ましい。添加する方法は特に制限されず、排水が連続的にグリーストラップに流入する場合には、排水に混在させて添加してもよいし、グリーストラップ内の排水に直接、添加してもよい。厨房のシンクなどの排水口から微生物を添加すれば、洗浄により排出される排水とともに、微生物をグリーストラップ内に導入することができる。
排水処理方法において、本発明に係る微生物に加えて、油脂をより効率的に減少させる観点から、他の成分を排水に添加してもよい。他の成分としては、例えば、特開2017−136033号公報に記載の微生物、リパーゼなどの油分解性酵素、pH調整剤、油脂吸着剤、界面活性剤などが挙げられる。
本発明に係る微生物と共生可能な他の微生物としては、例えば、ヤロウィア(Yarrowia)属、キャンディダ(Candida)属、ピキア(Pichia)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ペニシリウム(Penicillium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、リゾプス(Rhizopus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、フザリウム(Fusarium)属、セラチア(Serratia)属、テトラスファエラ(Tetrasphaera)属、フミコラ(Humicola)属、およびステノトロフォモナス(Stenotrophomonas)属等が例示できる。これらの微生物は、ATCC、NBRC、DSMZ等のカルチャーコレクションから入手してもよい。これらの微生物のうち、油脂の分解能の高さから、ヤロウィア属、エンテロバクター(Enterobacter)属またはスフィンゴモナス(Sphingomonas)属の微生物を用いることが好ましい。
ヤロウィア属の微生物としては、ヤロウィア・リポリティカ ATCC48436、ヤロウィア・リポリティカ NBRC1548、ヤロウィア・リポリティカ LM02−011(受託番号NITE P−01813)、ヤロウィア・リポリティカ NBRC0746、ヤロウィア・リポリティカ NBRC1209のようなヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、ヤロウィア YH−01のようなヤロウィア スピーシーズ(Yarrowia sp.)等が例示できるが、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)がより好ましく、ヤロウィア・リポリティカ LM02−011(LM02−011株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に、2014年3月6日付で受託番号NITE P−01813として寄託している)が更に好ましい。
エンテロバクター属の微生物としては、エンテロバクター・エスピー(Enterobacter sp.)LM02−030株(LM02−030株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に、2015年5月12日付で受託番号NITE P−02048として寄託している)等が例示できる。
スフィンゴモナス属の微生物としては、例えば、特開2006−166874号公報に記載のスフィンゴモナス・エスピー 2629−3b、特開2017−136033号公報に記載のスフィンゴモナス・エスピー LM02−032株(LM02−032株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に、2015年6月19日付で受託番号NITE P−02069として寄託している)のようなスフィンゴモナス・エスピー(Sphingomonas sp.)等が例示できる。
本発明に係る方法において使用される微生物による鉱油の分解を補助するため、排水などにリパーゼやホスホリパーゼ等の油分解性酵素を添加してもよい。油分解性酵素としては、例えば、シュードモナス(Pseudomonas)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、バチルス(Bacillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、リゾプス(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、ムコール(Mucor)属、ペシロマイセス(Paecilomyces)属、リゾクトニア(Rhizoctonia)属、アブシディア(Absidia)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、エロモナス(Aeromonas)属、アルテルナリア(Alternaria)属、アウレオバシジウム(Aureobasidium)属、ボーベリア(Beauveria)属、クロモバクター(Chromobacter)属、コプリヌス(Coprinus)属、フザリウム(Fusarium)属、ゲオトリクム(Geotricum)属、フミコラ(Humicola)属、ハイホジーマ(Hyphozyma)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、メタリジウム(Metarhizium)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、キャンディダ(Candida)属、ピキア(Pichia)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、および/またはトリコスポロン(Trichosporon)属から得ることができる。
市販の油分解性酵素としては、リパーゼMY、リパーゼOF、リパーゼPL、リパーゼQLM(名糖産業株式会社);リパーゼA「アマノ(登録商標)」6、リパーゼDF「アマノ(登録商標)」15、リパーゼG「アマノ(登録商標)」50、リパーゼAY「アマノ(登録商標)」30SD、リパーゼR「アマノ(登録商標)」、リパーゼMER「アマノ(登録商標)」、ニューラーゼ(登録商標)F(アマノエンザイム株式会社);スミチーム(登録商標)NLS、スミチーム(登録商標)RLS(新日本化学工業株式会社);リリパーゼ(登録商標)A−10D、リリパーゼ(登録商標)AF−5、PLA2ナガセ(ナガセケムテックス株式会社);エンチロンAKG−2000、エンチロンLP、エンチロンLPG(洛東化成工業株式会社);Lipolase(登録商標)100T、Lipolase(登録商標)100L、Palatase20000L、Lipex(登録商標)100T、Lipex(登録商標)100L、Lipozyme(登録商標)RMIM、Lipozyme(登録商標)TLIM、Novozyme(登録商標)435FG(ノボザイムズ社製);ピカンターゼA、ピカンターゼR800(ディー・エス・エムジャパン社製)等が挙げられる。これらを2種以上組み合わせて用いることもできる。
油分解性酵素の量は、酵素が油脂と反応できれば特に制限されないが、排水などに含まれる油脂1gに対して、10〜2,000Uで用いることが好ましい。より好ましくは50〜1,500U、さらに好ましくは100〜1,000Uである。または、グリーストラップの容量に対して、好ましくは1,000〜100,000U/L、より好ましくは2,000〜80,000U/Lとなるような量であってもよい。なお、油分解性酵素の活性単位(U)は、37℃、pH7の条件で1分間に1μモルの脂肪酸を遊離する酵素量である。
本発明に係る方法においては、特開2012−206084号公報に記載のシラスバルーン、珪藻土、パーライトのような無機高分子、ポリウレタン、ポリエチレン、メラニン樹脂のような有機高分子などの、油脂吸着剤を排水に添加してもよい。
本発明に係る方法においては、油脂の凝集やスカムの形成を防止するため、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼンスルホン酸(NaDDBS)、ラウリル硫酸アンモニウム、カゼインナトリウムなどの陰イオン界面活性剤;脂肪族アミン塩、4級アンモニウム塩などの陽イオン界面活性剤;脂肪酸エステル(モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル)、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール−t−オクチルフェニルエーテル(トリトンX−100)、レシチンなどの非イオン性界面活性剤;ベタイン、アミンオキシド、サポニンなどの両性界面活性剤などの界面活性剤を排水に添加してもよい。
グリーストラップは、油脂含有排水を連続的に導入し、処理後の排水を連続的に排出する形態であってもよいし、油脂含有排水を導入し、一括して処理した後に、処理後の排水を一括して排出する形態であってもよい。
また、本発明に係る排水処理方法において、油脂分解微生物と油脂とを接触させる際の温度、すなわちグリーストラップ内の排水の温度としては、任意に設定することができる。また、油脂分解微生物と油脂とを接触させる際のpH、すなわちグリーストラップ内の排水のpHとしても、任意に設定することができる。一般的には、温度は、例えば5〜35℃であり、10〜35℃が好ましく、15〜30℃がより好ましい。pHは例えば5以上であり、好ましくは5〜11である。さらに、必要に応じて曝気等により排水にエアレーションを行っても良い。
<排水処理剤>
本発明の一実施形態では、上記本発明に係る微生物を含む、排水処理剤が提供される。本発明に係る微生物は油脂の低減効果に優れ、特に、広範なpH(例えば、pH5〜11)の水質環境においても排水を浄化し得る特性を有する。従って、本発明に係る微生物を含む排水処理剤をグリーストラップ等の排水処理設備(除害施設)に用いることにより、油脂を効果的に低減することができる。なお、上記の微生物および排水処理方法に関する説明は、必要に応じて改変されて本実施形態に適用され得る。
排水処理剤は乾燥形態または液状のいずれであっても良いが、粉末、顆粒、ペレット、タブレット等の乾燥形態が保存性の観点から好ましい。かような乾燥形態の排水処理剤に用いられる本発明に係る微生物としては、培養液を噴霧乾燥や凍結乾燥等により乾燥した菌体末、または上記のように担体に固定化された状態の菌体でも良く、さらに、粉末、顆粒、ペレット、またはタブレット状に成形してもよい。または、ヒドロキシプロピルメチルセルロースやゼラチン等により、菌体や培養液をカプセル化してもよい。排水処理剤はまた、ヒドロキシプロピルセルロース、デキストリン、乳糖、デンプン等の賦形剤を含んでもよい。
排水処理剤に含まれる本発明に係る微生物は、死菌であっても生菌であっても良いが、油脂分解活性の持続性の観点から生菌であることが好ましい。
排水処理剤に含まれる本発明に係る微生物の量は、例えば、排水処理剤の固形分中、例えば10〜100重量%である。または、排水処理剤に含まれる本発明に係る微生物の量は、例えば、排水処理剤全体に対して、1×102〜1×1010CFU/gとなる量である。また、排水処理剤は、本発明の目的効果が達成される限りにおいて、上記の本発明に係る微生物と共生可能な他の微生物、油脂分解性酵素、油脂吸着剤、および界面活性剤からなる群から選択される1種以上等の添加剤を含んでも良い。共生可能な他の微生物、油脂分解性酵素、油脂吸着剤、および界面活性剤としては、例えば特開2017−136033号公報に記載のものを使用できる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
実施例1:微生物の単離
石川県かほく市の土壌から採取したサンプルを上記方法にて一次スクリーニング用液体培地に接種し、30℃で一週間培養した。培養後の培養液100μLをさらに一次スクリーニング用液体培地5mLに接種し、再度30℃で一週間培養した。
104倍希釈した一次スクリーニング後の培養液100μLを、上記方法で作製された二次スクリーニング用寒天培地に塗布し、30℃で一週間培養した。培養後、油脂の分解によるハロの形成が確認できた菌株を単離した。
次に、油脂0.05g(菜種油:大豆油=1:1(w/w))を、上記の方法で作製された三次スクリーニング用液体培地5mLに加えて、滅菌した試験液を調製した(油脂1%(w/v))。上記二次スクリーニングで得た各単離菌株を白金耳で一白金耳ずつ、上記方法で調製した試験液に接種し、30℃で24時間振盪培養(140rpm)した。
培養後、JIS K0102:2016改正(工業排水試験方法)に準じてノルマルヘキサン抽出物を調製した。ノルマルヘキサン抽出物を油脂の残存量とし、試験液の調製時に添加した油脂0.05gと油脂の残存量(ノルマルヘキサン抽出物の量(g))とから、下記数式(1)により油脂減少率を求めた。その結果、油脂減少率の高い菌株を単離した。
単離した菌株をシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)2−2306株と命名し、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した(受託番号NITE BP−02752)。
実施例2:油脂減少率の評価
塩酸または水酸化ナトリウムを用いてpHを3〜13の範囲で調整した三次スクリーニング用液体培地5mLに油脂0.05gを加えて、滅菌した試験液を調製した。二次スクリーニング用寒天培地上で培養した単離菌株を白金耳で一白金耳、上記で調製した試験液に接種し、30℃で24時間振盪培養(140rpm)した。
また、上記で調製した試験液に、比較対象として「Grease Guard(登録商標) D Lipase」(ノボザイムズ社)0.75mgまたは「ビーエヌクリーン(粉末)」(株式会社明治フードマテリア;バチルス・サブチリスBN1001(Bacillus subtilis BN1001)を含む)7.5mgを添加し、30℃で24時間振盪した。
培養後、JIS K0102:2016改正(工業排水試験方法)に準じてノルマルヘキサン抽出物を調製した。ノルマルヘキサン抽出物を油脂の残存量とし、試験液の調製時に添加した油脂0.05gと油脂の残存量(ノルマルヘキサン抽出物の量(g))から、上記数式(1)により油脂減少率を求めた。その結果を下記表15に示す。
表15に示すとおり、2−2306株は、30℃、pH5〜11の条件で、1%(w/v)の油脂を24時間で50重量%以上低減したことが分かる。すなわち、2−2306株は、広範なpHの水質環境においても、油脂分解力に優れることが分かる。