JP2019218584A - ボルト - Google Patents

ボルト Download PDF

Info

Publication number
JP2019218584A
JP2019218584A JP2018115365A JP2018115365A JP2019218584A JP 2019218584 A JP2019218584 A JP 2019218584A JP 2018115365 A JP2018115365 A JP 2018115365A JP 2018115365 A JP2018115365 A JP 2018115365A JP 2019218584 A JP2019218584 A JP 2019218584A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
bolt
content
steel
less
tensile strength
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2018115365A
Other languages
English (en)
Other versions
JP7155644B2 (ja
Inventor
聡 志賀
Satoshi Shiga
聡 志賀
根石 豊
Yutaka Neishi
豊 根石
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Steel Corp filed Critical Nippon Steel Corp
Priority to JP2018115365A priority Critical patent/JP7155644B2/ja
Publication of JP2019218584A publication Critical patent/JP2019218584A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP7155644B2 publication Critical patent/JP7155644B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Heat Treatment Of Articles (AREA)

Abstract

【課題】機械構造用低合金鋼からなり、高強度を有し、かつ、水素侵入環境下における優れた耐水素脆化特性を有するボルトを提供する。【解決手段】質量%で、Si:0.10〜1.50%、Mn:0.20〜0.40%未満、Sb:0.001〜0.100%、Sn:0.001〜0.100%、Bi:0.001〜0.100%の1種または2種以上を含有し、式(1)及び式(2)を満たす化学組成を有し、軸部の引張強度が1000〜1300MPaであることを特徴とするボルト。0.50≦C+(1/10)×Si+(1/5)×Mn+(5/22)×Cr≦0.85・・・(1)0.003≦Sb+Sn+Bi≦0.100・・・(2)ここで、式(1)及び式(2)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。【選択図】図1

Description

本発明は、ボルトに関し、さらに詳しくは、高強度のボルトに関する。
近年、環境問題等に対応するため、自動車、産業機械、建築等に用いられる部材に対して、軽量化及び高強度化が求められている。特に、エンジンシリンダーヘッドボルト、コンロッドボルト、ハブボルトに代表される自動車用ボルトでは、1000MPa以上の引張強度が要求されている。
これら自動車用ボルトは、水素侵入環境下で使用される。しかしながら、ボルトの引張強度が1000MPa以上の高強度になれば、耐水素脆化(耐遅れ破壊)特性が低下し、侵入した拡散性水素により水素脆化(遅れ破壊)が生じる。このような高強度のボルトの素材として、Mo等の合金元素を多量に含有するSCM鋼(JIS G 4053 (2008))、及び、V等の高価な合金元素を含有する合金鋼等が用いられている。これらの合金鋼は、線材に製造され、さらに伸線及び冷間鍛造されてボルトに製造される。
上述の合金鋼をボルトとして使用した場合、水素侵入環境下においても耐水素脆化特性が良好である。しかしながら、これらの合金鋼は合金元素を多量に含有するため、鋼材コストが高い。また近年、合金元素の価格が高騰しており、需給環境も変動しやすい。そのため、これらの合金元素を低減、又は省略して鋼材コストを抑えつつ、高強度化及び優れた耐水素脆化特性を実現できるボルトが要求されている。
鋼材コストを抑えるためには、Mo及びV等の高価な合金元素を低減すればよい。合金元素を低減すれば、熱間圧延して線材を製造したときに、ベイナイト等の硬質組織の生成が抑制できる。したがって、冷間加工のための軟化熱処理が省略又は簡略化でき、製造コストが低減する。しかしながら、合金元素を低減すると鋼材の焼入れ性が低下するため、ボルトを焼入れにより高強度にすることが困難となり、さらに、耐水素脆化特性も低下する。
そこで、Mo及びV等の合金元素に代えて、ボロン(B)を含有した高強度ボルトが検討されている。Bは、MoやV等の合金元素と同様に、鋼の焼入れ性を高める。しかしながら、B含有鋼を引張強度1000MPa以上の高強度ボルトとして使用した場合、耐水素脆化特性が低くなる場合がある。
特許文献1には、Snを含有することにより耐腐食特性に優れ、腐食による水素侵入を抑制することにより、耐遅れ破壊特性に優れた高強度ボルト用鋼を得ることが開示されている。しかし、特許文献1のボルトは、Mo+2Vが0.10〜1.0質量%を満たすようにMoまたはVを含有することが要件とされる。
特許文献2には、SnまたはSbを含有することにより耐硫酸腐食特性に優れたボルト用鋼が得られると開示されている。しかしながら、特許文献2のボルトでは、引張強度が700MPa以下であり耐遅れ破壊特性を考慮していない。
特開2014−1442号公報 特開2000−73139号公報
本発明の目的は、機械構造用低合金鋼からなり、高強度を有し、かつ、水素侵入環境下における優れた耐水素脆化特性を有するボルトを提供することである。
本発明者らは、Mo、V等の高価な合金元素を多量に含有せず、C、Si、Mn、Cr、B、Sb、Sn及びBi等を含有する鋼を用いて、ボルトの引張強度、耐水素脆化特性に及ぼす成分及び組織について調査検討を行った。
[ボルトの引張強度と冷間加工性の両立について]
ボルトの引張強度を1000〜1300MPaの高強度にするためには、十分な焼入れ性が必要である。しかしながら、焼入れ性を高めるために合金元素を多量に添加すれば、ボルトの素材である線材等の冷間加工性が低下する。この場合、低下した冷間加工性を改善するため、線材等の鋼材に対して伸線及び冷間鍛造等の冷間加工を実施する前に、鋼材の軟化を目的とした長時間の軟化熱処理を複数回実施しなければならない。そのため、Mo、V等の合金元素を多量に含有することに加え、加工コストが高くなる。
したがって、長時間の軟化熱処理を複数回実施しなくても冷間加工が可能であり、かつ、上記引張強度が得られる焼入れ性を有する鋼材が望ましい。C、Si、Mn及びCrはいずれも、焼入れ性を高める元素である。本発明者は、この点に着目し、C、Si、Mn、及びCrをパラメータとする下記の関数fn1を用いて、ボルトの製造用の鋼材の焼入れ性及び冷間加工性を判定することを検討した。
fn1=C+(1/10)×Si+(1/5)×Mn+(5/22)×Cr
fn1の各元素記号の係数は、鋼の焼入れ硬化に与える影響の程度を示す数値であり、係数が大きい程、鋼の焼入れ硬化が生じ易いことを示す。尚、fn1の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
fn1が低すぎれば、十分な焼入れ性が得られない一方で、fn1が高すぎれば、焼入れ性が高くなりすぎることを見いだした。更に、前記fn1から得られる値の検討の結果、fn1が式(1)を満たせば、優れた焼入れ性を得つつ、長時間の軟化熱処理を複数回実施しなくても、十分な冷間加工性が得られることを見いだした。
0.50≦C+(1/10)×Si+(1/5)×Mn+(5/22)×Cr≦0.85・・・(1)
式(1)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
[ボルトの耐水素脆化特性について]
アンチモン(Sb)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)は、微量添加することにより水素侵入を抑制する効果を発揮する。そこで、これらの元素を添加することにより、ボルトの製造用の鋼材の焼入れ性及び冷間加工性を損なうことなく耐水素脆化特性を向上させることを検討した。すなわち、Sb、Sn及びBiをパラメータとする下記の関数fn2を用いて、ボルトの耐水素脆化特性を判定することを検討した。
fn2=Sb+Sn+Bi
fn2の各元素記号の係数は、遅れ破壊特性に対する各元素の影響の程度を示す数値である。Sb、Sn及びBiは、水素侵入を抑制する効果を同程度有するので、fn2の各元素記号の係数を1とした。
fn2の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
その結果、ボルトの引張強度が1000〜1300MPaの高強度であっても、式(2)を満たせば、耐腐食特性に優れることから水素侵入抑制効果が良好であり、優れた耐水素脆化特性が得られることを見いだした。
0.003≦Sb+Sn+Bi≦0.100・・・(2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、C:0.22〜0.40%、Si:0.10〜1.50%、Mn:0.20〜0.40%未満、Cr:0.70〜1.60%未満、Al:0.005〜0.060%、Ti:0.010〜0.050%、B:0.0003〜0.0040%、N:0.0015〜0.0080%、Cu:0.50%以下、Ni:0.30%以下、Mo:0.05%以下、V:0.050%以下、Nb:0.050%以下を含有するとともに、
Sb:0.001〜0.100%、Sn:0.001〜0.100%、Bi:0.001〜0.100%の1種または2種以上を含有し、
O:0.0020%以下、P:0.020%以下、S:0.020%以下に制限され、
残部はFe及び不純物からなり、式(1)及び式(2)を満たす化学組成を有し、
軸部の引張強度が1000〜1300MPaであることを特徴とするボルト。
0.50≦C+(1/10)×Si+(1/5)×Mn+(5/22)×Cr≦0.85・・・(1)
0.003≦Sb+Sn+Bi≦0.100・・・(2)
ここで、式(1)及び式(2)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
(2)Cu:0.02〜0.50%、Ni:0.01〜0.30%、Mo:0.01〜0.05%、V:0.005〜0.050%からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)記載のボルト。
(3)Nb:0.005〜0.050%を含有することを特徴とする(1)または(2)記載のボルト。
(4)軸部のねじ底の表面から50μm深さまでの範囲が、前記軸部の引張強度の10〜90%の圧縮残留応力を有することを特徴とする(1)〜(3)のボルト。
本発明によるボルトは、1000〜1300MPaの高強度を有し、かつ、優れた耐水素脆化特性を有する。
図1は、水素透過係数比HRと、ボルト中のSb、SnおよびBiの添加量との関係を示す図である。 図2は、環状Vノッチ付きの試験片の側面図である。 図3は、実施例で製造したねじの側面図である。
以下、本発明について詳細に説明する。はじめに、本発明のボルトの成分組成の限定理由について説明する。以下、成分についての「%」は、「質量%」を意味する。
[C:0.22〜0.40%]
炭素(C)は、ボルトの焼入れ性を高め、焼入れ及び焼戻し後のボルトの引張強度を1000MPa以上に高める。C含有量が0.22%未満であれば、上記効果が得られない。一方、C含有量が0.40%を超えれば、焼入れ性が高くなりすぎる。この場合、熱間加工後のボルト用鋼材の強度が高くなりすぎ、冷間加工性が低下する。そのため、伸線、及び、冷間鍛造等の冷間加工を実施する前の鋼材に対して、軟化を目的とした長時間の熱処理を複数回実施しなければならず、製造コストが高くなる。熱処理を実施した場合さらに、耐水素脆化特性が低下する。したがって、C含有量は0.22〜0.40%である。C含有量の好ましい下限は0.24%であり、さらに好ましくは0.26%である。C含有量の好ましい上限は0.38%であり、さらに好ましくは0.35%である。
[Si:0.10〜1.50%]
シリコン(Si)は、セメンタイトの析出を抑制して、焼戻し軟化抵抗を高める。Siはさらに、鋼を脱酸する。脱酸生成物のMnO−SiOはガラス化した軟質の介在物であり、熱間圧延中に延伸及び分断されて微細化される。そのため、耐水素脆化特性が高まる。Si含有量が0.10%未満であれば、上述の効果が得られない。一方、S含有量が1.50%を超えれば、強度が高くなり過ぎる。この場合、鋼の延性及び冷間鍛造性が低下する。したがって、Si含有量は、0.10〜1.50%である。Si含有量の好ましい下限は0.35%超であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.45%であり、さらに好ましくは0.50%超である。Si含有量の好ましい上限は1.20%であり、さらに好ましくは1.00%である。
[Mn:0.20〜0.40%未満]
マンガン(Mn)は、焼入れ性を高めてボルトの引張強度を1000MPa以上とする。Mnはさらに、Siと結合して介在物(MnO−SiO)を形成する。この介在物は軟質であり、熱間圧延中に延伸及び分断されて微細化されるため、MnO−SiOの密度が低減し、耐水素脆化性が高まる。Mn含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、粒界に偏析して粒界破壊を助長して、耐水素脆化性がかえって低くなる。したがって、Mn含有量は、0.20〜0.40%である。Mn含有量の好ましい下限は0.22%であり、さらに好ましくは0.25%である。Mn含有量の好ましい上限は0.38%であり、さらに好ましくは0.35%である。
[Cr:0.70〜1.60%未満]
クロム(Cr)は、焼入れ性を高めてボルトの引張強度を1000MPa以上とする。Crはさらに、ボルトの耐水素脆化特性を高める。Cr含有量が0.70%未満であれば、これらの効果が得られない。一方、Cr含有量が1.60%以上では、焼入れ性が高くなりすぎ、ボルト用鋼材の冷間加工性が低下する。したがって、Cr含有量は0.40〜1.60%未満である。Cr含有量の好ましい下限は0.90%である。Cr含有量の好ましい上限は1.45%である。
[Al:0.005〜0.060%]
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。Al含有量が0.005%未満であれば、この効果が得られない。一方、Al含有量が0.060%を超えれば、粗大な酸化物系介在物が生成して冷間加工性が低下する。したがって、Al含有量は0.005〜0.060%である。Al含有量の好ましい下限は0.010%である。Al含有量の好ましい上限は0.055%である。本発明による高強度ボルトの化学組成において、Al含有量は、鋼材中に含有する全Al量を意味する。
[Ti:0.010〜0.050%]
チタン(Ti)は鋼中のNと結合して窒化物(TiN)を形成する。TiNの生成により、BNの生成が抑制され、固溶B量が増える。その結果、鋼材の焼入れ性が高まる。Tiはさらに、Cと結合して炭化物(TiC)を形成して結晶粒を微細化する。これにより、ボルトの耐水素脆化特性が高まる。Ti含有量が0.010%未満であれば、これらの効果が得られない。一方、Ti含有量が0.050%を超えれば、粗大なTiNが多量に生成する。この場合、冷間加工性及び耐水素脆化特性が低下する。したがって、Ti含有量は0.010〜0.050%である。Ti含有量の好ましい下限は0.015%である。Ti含有量の好ましい上限は0.045%である。
[B:0.0003〜0.0040%]
ボロン(B)は鋼の焼入れ性を高める。Bはさらに、Pの粒界偏析を抑制して、ボルトの耐水素脆化特性を高める。B含有量が0.0003%未満であれば、これらの効果が得られない。一方、B含有量が0.0040%を超えれば、焼入れ性向上の効果が飽和する。さらに、粗大なBNが生成して冷間加工性が低下する。したがって、B含有量は0.0003〜0.0040%である。B含有量の好ましい下限は0.0005%である。B含有量の好ましい上限は0.0025%である。
[N:0.0015〜0.0080%]
窒素(N)は、鋼中のTiと結合して窒化物を生成し、結晶粒を微細化する。N含有量が0.0015%未満であれば、この効果が得られない。一方、N含有量が0.0080%を超えれば、その効果が飽和する。さらに、NがBと結合して窒化物を生成し、固溶B量を低下する。この場合、鋼の焼入れ性が低下する。したがって、N含有量は0.0015〜0.0080%である。N含有量の好ましい下限は0.0020%である。N含有量の好ましい上限は0.0070%である。
[Sb:0.001%〜0.100%;Sn:0.001%〜0.100%;Bi:0.001%〜0.100%]
本発明は上記の成分に加えて、アンチモン(Sb)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)のうちの1種または2種以上をそれぞれ0.001%〜0.10%の範囲内で添加することが特徴である。これらの元素は、微量添加することにより水素侵入を抑制する効果を発揮する。下限をそれぞれ0.001%以上としたが、効果を十分に発揮させるための好ましい下限としてはそれぞれ0.005%以上とする。さらに、好ましくはそれぞれ0.010%以上である。また、上限についてはそれぞれ0.100%を超えると、鋼の熱間加工性が劣化し、連続鋳造が困難となる。また、好ましくは、Sb、Sn、Biの濃度の合計が0.030〜0.100%であればよい。
本発明による高強度ボルトの化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、高強度ボルトを工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、後述するO、P、S及びAs、Co、Mg、Zr、Te、Bi、Pb、Zn等が挙げられる。これらの中で、As、Co、Mg、Zr、Te、Bi、Pb及びZn等は、本発明の効果を阻害しない程度に制限される。
[任意元素]
上述の高強度ボルトはさらに、Feの一部に代えて、Cu、Ni、Mo、及びVからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼の焼入れ性を高める。
Cu:0.50%以下
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Cuは鋼の焼入れ性を高める。しかしながらCu含有量が0.50%を超えれば、焼入れ性が高くなりすぎて冷間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は0.50%である。上記効果をより有効に得るためのCu含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。Cu含有量の好ましい上限は0.30%であり、さらに好ましくは0.20%である。
Ni:0.30%以下
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Niは鋼の焼入れ性を高め、さらに、焼入れ後の鋼材の靭性を高める。しかしながら、Ni含有量が0.30%を超えれば、焼入れ性が高くなりすぎて冷間加工性が低下する。したがって、Ni含有量は0〜0.30%である。上記効果をより有効に得るためのNi含有量の好ましい下限は0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。Mo含有量の好ましい上限は0.20%であり、さらに好ましくは0.10%である。
Mo:0.05%以下
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Moは鋼の焼入れ性を高める。しかしながら、Mo含有量が0.05%を超えれば、焼入れ性が高くなりすぎて、高強度ボルト用鋼材の冷間加工性が低下する。したがって、Mo含有量は0〜0.05%である。上記効果をより有効に得るためのMo含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.015%である。Mo含有量の好ましい上限は0.03%であり、さらに好ましくは0.025%である。
V:0.050%以下
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Vは鋼の焼入れ性を高める。Vはさらに、炭化物、窒化物又は炭窒化物を形成して結晶粒を微細化する。しかしながら、V含有量が0.050%を超えれば、炭化物等が粗大化して冷間加工性を低下する。したがって、V含有量は0〜0.050%である。上記効果をより有効に得るためのV含有量の好ましい下限は0.005%である。V含有量の好ましい上限は0.030%であり、さらに好ましくは0.020%である。
Nb:0.050%以下
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、NbはC及びNと結合して、炭化物、窒化物又は炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化する。Nbはさらに、ボルトの耐水素脆化特性を高める。しかしながら、Nb含有量が0.050%を超えれば、粗大な炭化物等が生成して鋼材の冷間加工性が低下する。したがって、Nb含有量は0〜0.050%である。上記効果をより有効に得るためのNb含有量の好ましい下限は0.005%である。Nb含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
[O:0.0020%以下]
酸素(O)は不純物である。Oは酸化物を形成して冷間加工性を低下する。O含有量が0.0020%を超えれば、酸化物が多量に生成するとともに、MnSが粗大化して、冷間加工性が顕著に低下する。したがって、O含有量は0.0020%以下である。O含有量の好ましい上限は0.0018%である。O含有量はなるべく低い方が好ましい。
[P:0.020%以下]
燐(P)は不純物である。Pは、結晶粒界に偏析して冷間加工性を低下し、ボルトの耐水素脆化特性を低下する。したがって、P含有量は0.020%以下である。P含有量の好ましい上限は0.015%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。
[S:0.020%以下]
硫黄(S)は不純物である。Sは硫化物を形成して冷間加工性を低下し、ボルトの耐水素脆化特性を低下する。したがって、S含有量は0.020%以下である。S含有量の好ましい上限は0.010%であり、さらに好ましくは0.008%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。
[0.50≦fn1≦0.85]
前述したように、C、Si、Mn、及びCrをパラメータとする関数fn1を用いて、ボルトの製造用の鋼材の焼入れ性及び冷間加工性を判定することができる。また、ボルトの化学組成が、下記の式(1)を満たす場合、優れた冷間加工性及び焼入れ性が得られる。
0.50≦fn1=C+(1/10)×Si+(1/5)×Mn+(5/22)×Cr≦0.85・・・(1)
式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。対応する元素が不純物レベルの場合、式(1)の対応する元素記号には「0」が代入される。
前述したように、fn1が低すぎれば、十分な焼入れ性が得られないが、fn1が高すぎれば、焼入れ性が高くなりすぎる。fn1が高すぎる場合、ボルト用鋼が線材に圧延されたとき、ベイナイトが生成され、強度及び硬さが高まる。そのため、次工程の伸線工程、及び、冷間鍛造工程の前に、長時間の軟化熱処理を複数回実施しなければ、十分な冷間加工性が得られない。fn1が式(1)を満たせば、優れた焼入れ性を得つつ、長時間の軟化熱処理を複数回実施しなくても、十分な冷間加工性が得られる。fn1の好ましい下限は0.53である。fn1の好ましい上限は0.83である。
[0.003≦fn2=Sb+Sn+Bi≦0.100]
前述したように、下記の式(2)を満たせば、耐腐食特性に優れることから水素侵入抑制効果が良好であり、優れた耐水素脆化特性が得られる。
0.003≦fn2=Sb+Sn+Bi≦0.100・・・(2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。対応する元素が不純物レベルの場合、式(2)の対応する元素記号には「0」が代入される。
以降の説明において、fn2の範囲を限定する根拠について説明する。fn2の範囲は、以下の実験により明らかにされた。
表1−1に示す化学組成を有する鋼組成No.a〜nを真空溶製して150kgのインゴットを製造した。
鋼組成No.a〜nを用いてそれぞれ製造されたインゴットを1200〜1300℃に加熱した後、熱間圧延を想定した熱間鍛伸を実施して、直径15mmの丸棒を製造した。熱間鍛造後の丸棒を大気中で放冷した。続いて、丸棒に対して、ボルト成形後の熱処理を想定した焼入れ及び焼戻しを実施して、丸棒の引張強度を約1200MPaに調整した。引張強度が調整された丸棒に対して機械加工を実施して、図2に示す環状Vノッチ付きの試験片を作製した。尚、鋼a〜mのそれぞれから得られた試験片No.a1〜m1は、いずれも、ベイナイト相及びフェライト相の面積率が合計で5%以下であり、残部は焼戻しマルテンサイトであった。
図2中の単位が示されていない数値は、試験片の対応する部位の寸法(単位はmm)を示す。図中の「φ数値」は、指定されている部位の直径(mm)を示す。「60°」は、Vノッチ角度が60°であることを示す。「0.175R」は、Vノッチ底半径が0.175mmであることを示す。
電解チャージ法を用いて、各鋼組成No.a〜nの試験片No.a1〜n1のそれぞれの内部に種々の濃度の水素を導入した。電解チャージ法は次のとおり実施した。チオシアン酸アンモニウム水溶液中に試験片を浸漬した状態で、試験片の表面にアノード電位を発生させて水素を試験片内に取り込んだ。その後、各試験片の表面に亜鉛めっき被膜を形成し、試験片中の水素の散逸を防止した。続いて、試験片のVノッチ断面に対して公称応力1080MPaの引張応力が負荷されるように一定荷重を負荷する定荷重試験を実施した。試験中に破断した試験片、及び破断しなかった試験片に対して、ガスクロマトグラフ装置を用いた昇温分析法を実施して、試験片中の水素量を測定した。測定後、各鋼において、破断しなかった試験片の最大水素量を限界拡散性水素量Hcと定義した。
さらに、JIS G4053(2008)のSCM435に相当する化学組成を有する鋼mの浸漬時間30時間における水素透過係数Hrefを基準として、水素透過係数比HR(以下、単にHRという)を次の式(A)で定義した。
HR=Hc/Href・・・(A)
HRは水素侵入抑制特性の指標である。得られたHRと各鋼のfn2とに基づいて、図1を作成した。各鋼組成No.a〜nの試験片No.a1〜n1のfn1、fn2及びHRを表1−2に示す。
Figure 2019218584
Figure 2019218584
図1より、fn2が増加するほど、つまり、Sb、SnまたはBi含有量する比が大きくなるほど、HRは顕著に高まることが明らかであり、fn2=0であるときよりもfn2=0.003において5%超HRが高くなる。
fn2が0.002を超えた場合、水素侵入抑制効果が表れ、HRが1.3よりも高くなり、歯車やクランクシャフト等の代表的な低合金鋼であるSCM435よりも優れた耐水素脆化特性が得られる。しかしながら、fn2が0.1を超えると、鋼の熱間加工性が劣化し、連続鋳造が困難となる。したがって、式(2)に示すとおり、fn2の上限は0.100である。fn2の好ましい下限は0.005である。
[金属組織]
本発明のボルトの金属組織は95%以上が焼戻しマルテンサイトであり、残り5%以下の金属組織がベイナイト及びフェライトのうち少なくともいずれかであることが好ましい。金属組織が全てベイナイト及びフェライトの少なくとも1種とすると、引張強度が1000〜1300MPaの高強度を達成することができない。また、本発明のボルトの金属組織は、焼戻しマルテンサイト100%とすることが強度の観点から好ましいが、金属組織を焼き戻しマルテンサイト単相とすることは、対費用効果の観点では有利ではない。そこで、引張強度が1000〜1300MPaの高強度を達成できる限りにおいて、前記引張強度を達成できる範囲で、焼戻しマルテンサイト以外の相が含まれても良い。本発明において、焼戻しマルテンサイト以外に、ベイナイト及びフェライトのうち少なくともいずれかを含む場合、これらの相を合計で面積率にて5%以下含まれていても良い。但し、焼戻しマルテンサイト以外に、ベイナイト相及びフェライト相の面積率の合計が5%超であるボルトは、引張強度が1000〜1300MPaの高強度を達成できないおそれがある。
ボルトの焼戻しマルテンサイト、ベイナイト及びフェライトの面積率は、次のようにして測定される。まず、ボルトの中心軸を通るように前記中心軸に平行な断面を切り出し、前記断面を研磨後、3%ナイタールで腐食し、光学顕微鏡を用いて400倍の倍率で、ねじ底部から前記中心軸方向に、ねじ底部と前記中心軸までの距離の1/2の位置を観察する。観察倍率400倍で撮影した画像中の0.5mmに対し、画像処理ソフトウェアWinroof2015を用い、焼戻しマルテンサイトを明領域として二値化した際の明領域の面積率を導出し、マルテンサイト面積率とする。
[ねじ底部の圧縮残留応力について]
好ましくは、本発明による高強度ボルトのねじ底部において、ねじ底部の表層の圧縮残留応力はボルトの引張強度の10〜90%である。
この場合、ボルト締結時にねじ底にかかる引張応力は圧縮残留応力と相殺される。このため、起点部の応力状態は緩和されて、水素脆化に伴う破断が発生しにくくなる。圧縮残留応力(の絶対値)が引張強度(の絶対値)の10%未満であれば、圧縮残留応力による引張応力相殺効果は不十分となり、優れた耐水素脆化特性が得られない。一方、圧縮残留応力(の絶対値)が引張強度(の絶対値)の90%を超えれば、上記効果が飽和する。したがって、圧縮残留応力は引張強度の10〜90%である。
ここで「表層部」とは、高強度ボルトの表面から中心軸に向かって50μm深さまでの範囲を指す。圧縮残留応力は、公知のX線法で測定される。具体的には、JIS B2711(2013)に準拠して、X線回折を利用したX線応力測定法を用いる。測定は特性X線の種類:MnKα線、Crフィルタ、基準回折角2θ:152.0°、η角14.0°、X線応力定数K:−336MPa/degを用いて行う。また、測定部位は、ねじ底部の中央位置を中心とし、測定方向はねじ部長手方向に対し平行な方向とする。引張強度は、JIS Z2241(2011)に準拠して求める。
[製造方法]
本発明によるボルトの製造方法の一例について説明する。初めに、周知の製造方法によりボルト用鋼材を製造する(素材製造工程)。その後、ボルト用鋼材を用いて、ボルトを製造する(ボルト製造工程)。以下、各工程について説明する。
[素材製造工程]
上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片を製造する。又は、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造する。製造された鋳片又はインゴットを分塊圧延して鋼片にする。鋼片を熱間加工して、高強度ボルト用鋼材(線材)とする。熱間加工はたとえば、熱間圧延である。
[ボルト製造工程]
ボルト製造工程では、ボルト用鋼材を用いてボルトを製造する。ボルト製造工程は、伸線工程、冷間鍛造工程、及び、焼入れ及び焼戻し工程を含む。以下、それぞれの工程について説明する。
[伸線工程]
初めに、線材に対して伸線加工を実施して鋼線を製造する。伸線加工は、一次伸線のみであってもよいし、二次伸線等、複数回の伸線加工を実施してもよい。伸線時において、線材の表面に潤滑被膜を形成する。潤滑被膜はたとえば、リン酸塩被膜や非リン系の潤滑被膜である。
好ましくは、Pを含有しない潤滑被膜を用いる。又は、リン酸塩被膜を用いた場合、後述の焼入れ工程前において、鋼材(鋼線)表面を洗浄又は酸洗して、リン酸塩被膜を表面から除去する。洗浄はたとえば周知のアルカリ洗浄である。
[冷間鍛造工程]
伸線後の鋼材を所定の長さに切断して、切断された鋼材に対して冷間鍛造を実施してボルトを製造する。
[軟化熱処理について]
従前のボルトの製造方法では、強度が高すぎるボルト用鋼材(線材)の軟化を目的として、伸線加工前及び冷間鍛造前に、軟化熱処理を複数回実施している。しかしながら、本発明によるボルトでは、式(1)を満たすことにより、このような軟化熱処理を簡素化する。これにより、軟化熱処理の実施による製造コストの上昇を抑えることができ、さらに、ボルトの耐水素脆化特性を高めることができる。
[ねじ加工工程]
冷間鍛造により製造された高強度ボルトに対して、周知の条件で転造加工を実施して、ねじ山を形成する。
[焼入れ及び焼戻し工程]
ねじ加工後の高強度ボルトに対して、周知の条件で焼入れ及び焼戻しを実施して、ボルトの引張強度を1000〜1300MPaに調整する。引張強度が1000MPa以下では、ボルトの強度が不足する。一方、引張強度が1300MPaを超える場合、水素感受性が高まり、耐水素脆化特性が低下する。したがって、ボルトの引張強度は1000〜1300MPaである。伸線工程時にリン酸塩被膜に代表されるPを含有する潤滑被膜を利用する場合、上述のとおり、好ましくは、焼入れを実施する前に、鋼材(鋼線)の表面をアルカリ洗浄する。
[圧縮残留応力付与工程]
好ましくは、焼入れ及び焼戻し後のボルトに対して周知の圧縮残留応力付与工程を実施して、ねじ底部の表層の圧縮残留応力をボルトの引張強度の10〜90%にする。周知の圧縮残留応力付与工程はたとえば、ショットピーニング加工である。ショットピーニング加工の条件を適宜調整することにより、ねじ底部の表層の圧縮残留応力をボルトの引張強度の10〜90%にすることができる。
上述の製造方法では、焼入れ焼戻し前にねじ加工工程(前転造工程)が含まれるが、前転造工程に代えて、焼入れ焼戻し後にねじ加工工程(後転造工程)を実施してもよい。この場合でも、ねじ底部の表層に、ボルトの引張強度の10〜90%の圧縮残留応力を付与することができる。後転造工程の場合、ショットピーニング加工を実施しなくてもよい。
以上の製造工程により、本発明のボルトが製造される。
表2の化学組成を有する鋼No.A〜Rのそれぞれの溶鋼を製造した。
表2のとおり、鋼RはJIS G4053(2008)のSCM435に相当する化学組成を有する。
表2の化学組成の鋼No.A〜Rのそれぞれの溶鋼を用いて連続鋳造法により横断面が162mm×162mmのビレットを製造した。このようにして得られた化学組成No.A〜Rのビレットを、一旦室温まで冷却し、鋳片の表面割れの有無を目視にて判定した。その結果を表3に示す。また、化学組成No.A〜Rのビレットを熱間加工(熱間圧延)して、直径11.5mmの線材を製造した。
表2の化学組成の鋼No.A〜Rのビレットからそれぞれ得られた前記線材に対して、伸線加工を実施して表3の試験番号1〜20の鋼線を製造した。このとき、軟化を目的とした熱処理を実施した。熱処理温度は750℃、熱処理時間は60分であり、熱処理後は徐冷を行った。さらに、脱脂及び酸洗を行った後、りん酸亜鉛処理(75℃、浸漬時間600sec)及び金属石けん処理(80℃、浸漬時間180sec)を実施し、表面にりん酸亜鉛皮膜及び金属石けん皮膜からなる潤滑処理膜を形成した。その後仕上げ伸線加工を行い、直径10.5mmの鋼線を製造した。この鋼線を高強度ボルト鍛造用の素材とした。
試験番号1〜20の鋼線のそれぞれに対して冷間鍛造を実施して図3に示すボルトを製造した。具体的には、冷間鍛造は2工程で行った。1工程目では、ボルトの軸部を押し込み成形した。2工程目では、ボルトの頭部及びフランジ部を成形する加工を行えるよう金型を設計し、油圧鍛造プレス機に装着して、冷間鍛造を行った。図中の各数値は、対応する部位の寸法(mm)を示す。図中の「φ数値」は、指定されている部位の直径(mm)を示す。図中の「数値°」は、指定されている部位の角度(°)を示す。「R数値」は、指定されている部位の曲率半径(mm)を示す。図中の「M7×1.0」は、外径が7mm、ピッチが1.0mmであることを示す。
試験番号1〜20の鋼線から前述のように成形されたそれぞれのボルトを目視で観察して割れの発生の有無を調査した。割れが観察されたものは、ボルト成形不可とした。
Figure 2019218584
割れが観察されなかった試験番号のボルトに対して、表3に示す温度で焼入れ及び焼戻し処理を実施した。焼入れ処理を実施する前に、ボルト表面をアルカリ洗浄してリン酸塩被膜を除去した。
焼入れ処理では、表3に示す焼入れ温度(℃)で40分保持した後、油冷した。焼戻し処理では、表3に示す焼戻し温度で70分保持した。以上の工程により、ボルトを製造した。なお、所望のボルト引張強度(1000MPa〜1300MPa)を得るための焼戻し処理温度が435℃未満になる場合については、強度不足と判断し、耐水素脆化特性評価は実施せず、本発明の対象外と判断した。
試験番号1〜12、15、及び18〜20の鋼線に対して、焼入れ及び焼戻し処理後に転造加工を施して、ねじ加工と共にねじ底部の表面に残留応力を付与した。試験番号13及び試験番号14の鋼線に対しては、焼入れ及び焼戻し処理前に転造加工を施した。ねじ底部の表層の圧縮残留応力を、JIS B2711(2013)に準拠して、X線回折を利用したX線応力測定法を用いて測定した。測定は特性X線の種類:MnKα線、Crフィルタ、基準回折角2θ0:152.0°、η角14.0°、X線応力定数K:−336MPa/degを用いて行った。また、測定部位は、ねじ底部の中央位置を中心とし、ねじ部長手方向に対し平行な方向の残留応力を測定した。
[金属組織]
試験番号1〜20の鋼線から成形された前記ボルトのそれぞれについて、焼戻しマルテンサイト、ベイナイト及びフェライトの面積率を測定した。各組織の面積率は、ボルトの中心軸を通るように前記中心軸に平行な断面を切り出し、前記断面を研磨後、3%硝酸アルコール(ナイタル腐食液)で5〜15秒腐食し、光学顕微鏡を用いて400倍の倍率で、ねじ底部から前記中心軸方向に、ねじ底部と前記中心軸までの距離の1/2の位置を観察し、組織を撮影した。観察倍率400倍で撮影した画像の合計0.5mmに対し、画像処理ソフトウェアWinroof2015を用い、焼戻しマルテンサイトを明領域として二値化した際の明領域の面積率を導出し、マルテンサイト面積率とした。試験番号1〜20の鋼線から成形された前記ボルトはいずれも、ベイナイト相及びフェライト相の面積率が合計で5%以下であり、残部は焼戻しマルテンサイトであった。
[引張試験]
JIS B1051(2000)に準拠して、室温(25℃)、大気中にて各試験番号の焼入れ及び焼戻し処理、又は転造加工後の高強度ボルトの引張強度(MPa)を測定した。測定結果を表3に示す。
[耐水素脆化特性評価試験]
各試験番号の焼入れ及び焼戻し処理、又は転造加工後のボルトに対して、図2に示す環状Vノッチ試験片を作製し、電解チャージ法を用いて、種々の濃度の水素を導入した。電解チャージ法は次のとおり実施した。チオシアン酸アンモニウム水溶液中にボルトを浸漬した。ボルトを浸漬した状態で、ボルトの表面にアノード電位を発生させて水素をボルト内に取り込んだ。
ボルト内に水素を導入した後、ボルト表面に亜鉛めっき被膜を形成し、ボルト中の水素の散逸を防止した。続いて、ボルトの引張強度の95%の引張強度を負荷した定荷重試験を実施した。試験中に破断したボルト、及び破断しなかったボルトに対して、ガスクロマトグラフ装置を用いた昇温分析法を実施して、ボルト中の水素量を測定した。測定後、各試験番号において、破断しなかった試験片の最大水素量を限界拡散性水素量Hcと定義した。
さらに、従来のボルトに使用されているJIS規格におけるSCM435に相当する化学組成を有する試験番号20の鋼線の限界拡散水素量を、限界拡散性水素量比HRの基準(Href)とした。限界拡散性水素量Hrefを基準として、式(A)を用いて限界拡散性水素量比HRを求めた。耐水素脆化特性評価として、HRが1.3よりも高いものを合格とし(表3中で「○」)、1.3以下のものを不合格(表3中で「×」)とした。
[試験結果]
表3に試験結果を示す。尚、前転造工程が行われた鋼線には表3の「前転造」の欄に「○」を示し、前転造工程が行われなかった鋼線には「前転造」の欄に「−」を示す。また、後転造工程が行われた鋼線には表3の「後転造」の欄に「○」を示し、後転造工程が行われなかった鋼線には「後転造」の欄に「−」を示す。
試験番号1〜12の高強度ボルトの化学組成は適切であった。さらに、fn1は式(1)を満たし、fn2は式(2)を満たした。また高強度ボルトのねじ底部表面の圧縮残留応力の絶対値が高強度ボルトの引張強度の10〜90%の範囲を満足した。その結果、これらの試験番号の高強度ボルトは、引張強度が1000〜1300MPaと高強度であるにもかかわらず、限界拡散性水素量比HRが1.30よりも高く、耐水素脆化特性に優れた。
試験番号13及び試験番号14のボルトの化学組成は適切であった。さらに、fn1は式(1)を満たし、fn2は式(2)を満たした。その結果、これらの試験番号のボルトは、引張強度が1200MPaと高強度であるにもかかわらず、限界拡散性水素量比HRが1.30よりも高く、耐水素脆化特性に優れた。ただし、ボルトのねじ底部表面の圧縮残留応力の絶対値がボルトの引張強度の10%未満であったため、試験番号1〜12に比べてHRが低かった。
試験番号15のボルトでは、fn1が式(1)の下限未満であった。そのため引張強度が1000MPa未満であった。
試験番号16のボルトでは、fn1が式(1)の上限を超えた。そのため、ボルト用鋼材(線材)の冷間加工性が低く、冷間鍛造後のボルトに割れが観察されたため、その後の処理及び試験は行わなかった。
試験番号17のボルトでは、fn2が式(2)の下限未満であった。そのため、HRが1.30以下となり、耐水素脆化特性が低かった。
試験番号18は、fn2が式(2)の上限を超えた。そのため、熱間加工性が劣化し、連続鋳造後の鋼片に割れが発生した例である。
試験番号19のMn含有量は高すぎた。そのため、HRが1.30以下と低く、耐水素脆化特性が低かった。
Figure 2019218584
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
本発明のボルトは、1000〜1300MPaの高強度を有し、かつ、優れた耐水素脆化特性を有するので、自動車、産業機械、建築等に用いられる部材、特に、エンジンシリンダーヘッドボルト、コンロッドボルト、ハブボルト等の自動車用ボルトに好適である。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.22〜0.40%、Si:0.10〜1.50%、Mn:0.20〜0.40%未満、Cr:0.70〜1.60%未満、Al:0.005〜0.060%、Ti:0.010〜0.050%、B:0.0003〜0.0040%、N:0.0015〜0.0080%、Cu:0.50%以下、Ni:0.30%以下、Mo:0.05%以下、V:0.050%以下、Nb:0.050%以下を含有するとともに、
    Sb:0.001〜0.100%、Sn:0.001〜0.100%、Bi:0.001〜0.100%の1種または2種以上を含有し、
    O:0.0020%以下、P:0.020%以下、S:0.020%以下に制限され、
    残部はFe及び不純物からなり、式(1)及び式(2)を満たす化学組成を有し、
    軸部の引張強度が1000〜1300MPaであることを特徴とするボルト。
    0.50≦C+(1/10)×Si+(1/5)×Mn+(5/22)×Cr≦0.85・・・(1)
    0.003≦Sb+Sn+Bi≦0.100・・・(2)
    ここで、式(1)及び式(2)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  2. Cu:0.02〜0.50%、Ni:0.01〜0.30%、Mo:0.01〜0.05%、V:0.005〜0.050%からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のボルト。
  3. Nb:0.005〜0.050%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のボルト。
  4. 軸部のねじ底の表面から50μm深さまでの範囲が、前記軸部の引張強度の10〜90%の圧縮残留応力を有することを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のボルト。
JP2018115365A 2018-06-18 2018-06-18 ボルト Active JP7155644B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2018115365A JP7155644B2 (ja) 2018-06-18 2018-06-18 ボルト

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2018115365A JP7155644B2 (ja) 2018-06-18 2018-06-18 ボルト

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2019218584A true JP2019218584A (ja) 2019-12-26
JP7155644B2 JP7155644B2 (ja) 2022-10-19

Family

ID=69095579

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2018115365A Active JP7155644B2 (ja) 2018-06-18 2018-06-18 ボルト

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP7155644B2 (ja)

Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2022077008A (ja) * 2020-11-10 2022-05-20 Jfeスチール株式会社 高圧ガス用容器およびその製造方法
JP7231136B1 (ja) * 2022-05-17 2023-03-01 日本製鉄株式会社 締結部材の素材として用いられる鋼材、及び、締結部材

Citations (8)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2011117035A (ja) * 2009-12-03 2011-06-16 Sumitomo Metal Ind Ltd 高強度ボルト用鋼
JP2013185197A (ja) * 2012-03-07 2013-09-19 Kobe Steel Ltd 耐水素吸収性に優れた硫化水素環境用鋼材および鋼構造物
JP2013256689A (ja) * 2012-06-12 2013-12-26 Kobe Steel Ltd 船舶用耐食鋼材
JP2014001442A (ja) * 2012-06-21 2014-01-09 Nippon Steel & Sumitomo Metal 耐候性ボルト用鋼材
JP2015105428A (ja) * 2013-12-02 2015-06-08 株式会社神戸製鋼所 耐遅れ破壊性に優れたボルト用鋼線および高強度ボルト並びにそれらの製造方法
JP2015183266A (ja) * 2014-03-25 2015-10-22 株式会社神戸製鋼所 耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルト用鋼および高強度ボルト
WO2017094487A1 (ja) * 2015-12-04 2017-06-08 新日鐵住金株式会社 高強度ボルト
WO2018061101A1 (ja) * 2016-09-28 2018-04-05 新日鐵住金株式会社

Patent Citations (8)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2011117035A (ja) * 2009-12-03 2011-06-16 Sumitomo Metal Ind Ltd 高強度ボルト用鋼
JP2013185197A (ja) * 2012-03-07 2013-09-19 Kobe Steel Ltd 耐水素吸収性に優れた硫化水素環境用鋼材および鋼構造物
JP2013256689A (ja) * 2012-06-12 2013-12-26 Kobe Steel Ltd 船舶用耐食鋼材
JP2014001442A (ja) * 2012-06-21 2014-01-09 Nippon Steel & Sumitomo Metal 耐候性ボルト用鋼材
JP2015105428A (ja) * 2013-12-02 2015-06-08 株式会社神戸製鋼所 耐遅れ破壊性に優れたボルト用鋼線および高強度ボルト並びにそれらの製造方法
JP2015183266A (ja) * 2014-03-25 2015-10-22 株式会社神戸製鋼所 耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルト用鋼および高強度ボルト
WO2017094487A1 (ja) * 2015-12-04 2017-06-08 新日鐵住金株式会社 高強度ボルト
WO2018061101A1 (ja) * 2016-09-28 2018-04-05 新日鐵住金株式会社

Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2022077008A (ja) * 2020-11-10 2022-05-20 Jfeスチール株式会社 高圧ガス用容器およびその製造方法
JP7231136B1 (ja) * 2022-05-17 2023-03-01 日本製鉄株式会社 締結部材の素材として用いられる鋼材、及び、締結部材
WO2023223409A1 (ja) * 2022-05-17 2023-11-23 日本製鉄株式会社 締結部材の素材として用いられる鋼材、及び、締結部材

Also Published As

Publication number Publication date
JP7155644B2 (ja) 2022-10-19

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP6497450B2 (ja) 冷間鍛造調質品用圧延棒線
JP6468365B2 (ja) 鋼、浸炭鋼部品、及び浸炭鋼部品の製造方法
JP6819198B2 (ja) 冷間鍛造調質品用圧延棒線
JP6427272B2 (ja) ボルト
JPWO2017090738A1 (ja) 鋼、浸炭鋼部品、及び浸炭鋼部品の製造方法
JP6679935B2 (ja) 冷間加工部品用鋼
JP6601284B2 (ja) 高強度ボルト
WO2018061101A1 (ja)
JP7155644B2 (ja) ボルト
JP6642236B2 (ja) 冷間鍛造用鋼
JP6477917B2 (ja) 高強度ボルト
JP2018035423A (ja) 浸炭用鋼、浸炭鋼部品及び浸炭鋼部品の製造方法
JP2841468B2 (ja) 冷間加工用軸受鋼
JP6390685B2 (ja) 非調質鋼およびその製造方法
JP7135484B2 (ja) 浸炭用鋼及び部品
JP7135485B2 (ja) 浸炭用鋼及び部品
JP2018035420A (ja) 浸炭用鋼、浸炭鋼部品及び浸炭鋼部品の製造方法
JPH09104945A (ja) 冷間加工性および耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルト用鋼、高強度ボルトの製造方法および高強度ボルト
JP7368723B2 (ja) 浸炭鋼部品用鋼材
JP7368724B2 (ja) 浸炭鋼部品用鋼材
JPH1072639A (ja) 被削性、冷間鍛造性および焼入れ性に優れた機械構造用鋼材
JP7428889B2 (ja) 鋼材
JP2018035419A (ja) 浸炭用鋼、浸炭鋼部品及び浸炭鋼部品の製造方法
JP2018035421A (ja) 浸炭時の粗大粒防止特性と疲労特性に優れた肌焼鋼およびその製造方法
JP2024016809A (ja) 鋼材、及び、機械構造用部品

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20210203

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20220216

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20220301

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20220426

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20220906

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20220919

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 7155644

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151