JP2019155570A - 硬質被覆層が優れた耐酸化性・耐溶着性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
硬質被覆層が優れた耐酸化性・耐溶着性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】耐熱合金のような刃先が高温になる切削に用いても寿命の長い工具を提供する。【解決手段】WC基超硬合金、TiCN基サーメット、CBN基超高圧焼結体のいずれかの工具基体に、上部層、下部層が形成され、上部層はα型の結晶構造を有するAl2O3層からなり、下部層はNaCl型の面心立方構造の結晶層を少なくとも含むTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層からなり、前記上部層の刃先稜線における厚みをTα1、刃先稜線からすくい面方向に500μm離れた地点における厚みをTα2とするとき、Tα1は0.0〜5.0μm、Tα2は1.0〜20.0μm、Tα1<Tα2を満たし、下部層の刃先稜線における厚みをTβ1、刃先稜線からすくい面方向に500μm離れた地点における厚みをTβ2とするとき、Tβ1、Tβ2は1.0〜20.0μmで、Tβ2<Tβ1を満たす表面被覆切削工具。【選択図】図1
Description
この発明は、刃先が高温となる耐熱合金を切削加工した場合に、硬質被覆層が優れた耐酸化性や耐溶着性を備え、さらにはチッピング、欠損、剥離等の発生が抑えられ、長期の使用にわって優れた耐溶着性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
切削工具の切削性能の改善を目的として、従来、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットあるいは立方晶窒化ホウ素(以下、cBNで示す)基超高圧焼結体で構成された工具基体(以下、これらを総称して基体ということがある)の表面に、硬質被覆層として、Ti−Al系の複合窒化物層を蒸着法により被覆形成した被覆工具があり、これらは、優れた耐摩耗性を発揮することが知られている。
前記従来のTi−Al系の複合窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
前記従来のTi−Al系の複合窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
TiN層および/またはTiCN層の接合層を有する超硬合金、サーメットまたはセラミックスから構成される基体が、硬質材料で被覆され、CVDによって成膜された複数の層を有する切削工具であって、
Ti1−xAlxN層および/またはTi1−xAlxC層および/またはTi1−xAlxCN層(xは0.65〜0.95である)とAl2O3外層との間にTiCN層が配置され、
(Ti1−xAlxN、Ti1−xAlxCN、Ti1−xAlxC)nの群からの1つ以上の二重層または三重層で構成される多層中間層が前記Al2O3外層の下に配置されており、
前記外層の厚さは1〜5μmであり、
前記Ti1−xAlxN層および/またはTi1−xAlxC層および/またはTi1−xAlxCN層の厚さは1〜5μmであり、
前記接合層または前記中間層の厚さが1〜5μmであり、
前記Ti1−xAlxN層、Ti1−xAlxC層、またはTi1−xAlxCN層が最大25%の六方晶AlNを含有する、
切削工具が記載され、被覆層が断熱効果を有するとされている。
TiN層および/またはTiCN層の接合層を有する超硬合金、サーメットまたはセラミックスから構成される基体が、硬質材料で被覆され、CVDによって成膜された複数の層を有する切削工具であって、
Ti1−xAlxN層および/またはTi1−xAlxC層および/またはTi1−xAlxCN層(xは0.65〜0.95である)とAl2O3外層との間にTiCN層が配置され、
(Ti1−xAlxN、Ti1−xAlxCN、Ti1−xAlxC)nの群からの1つ以上の二重層または三重層で構成される多層中間層が前記Al2O3外層の下に配置されており、
前記外層の厚さは1〜5μmであり、
前記Ti1−xAlxN層および/またはTi1−xAlxC層および/またはTi1−xAlxCN層の厚さは1〜5μmであり、
前記接合層または前記中間層の厚さが1〜5μmであり、
前記Ti1−xAlxN層、Ti1−xAlxC層、またはTi1−xAlxCN層が最大25%の六方晶AlNを含有する、
切削工具が記載され、被覆層が断熱効果を有するとされている。
また、特許文献2には、
超硬合金、サーメットまたはセラミックスで構成される基体に、硬質材料で被覆され、CVD法によって成膜された複数の層を有する切削工具であって、
外層はTi1−xAlxN、Ti1−xAlxC、および/またはTi1−xAlxCN(0.65≦x≦0.9)からなり、この外層が100〜1100MPaの範囲内の圧縮応力を有し、TiCN層またはAl2O3層がこの外層の下に配置されており、
前記外層は、立方晶構造を有する単相、あるいは、最大25質量%の六方晶AlN、あるいは、最大30質量%の非結晶成分を有し、
塩素の含有率が0.01〜3原子%である、
切削工具が記載され、耐熱性、サイクル疲労特性を有しているとされている。
超硬合金、サーメットまたはセラミックスで構成される基体に、硬質材料で被覆され、CVD法によって成膜された複数の層を有する切削工具であって、
外層はTi1−xAlxN、Ti1−xAlxC、および/またはTi1−xAlxCN(0.65≦x≦0.9)からなり、この外層が100〜1100MPaの範囲内の圧縮応力を有し、TiCN層またはAl2O3層がこの外層の下に配置されており、
前記外層は、立方晶構造を有する単相、あるいは、最大25質量%の六方晶AlN、あるいは、最大30質量%の非結晶成分を有し、
塩素の含有率が0.01〜3原子%である、
切削工具が記載され、耐熱性、サイクル疲労特性を有しているとされている。
さらに、特許文献3には、
基材と、該基材表面に形成された被覆層とを含む表面被覆切削工具であって、
前記被覆層は、1層または複数の層により構成され、
すくい面の中心における前記被覆層表面の法線と2つの逃げ面が交差する稜とを含む平面で前記表面被覆切削工具を切断した断面において、前記被覆層のうち、刃先稜線部において最も薄くなる部分の厚みをT1、刃先稜線からすくい面方向に1mm離れた地点における厚みをT2とする場合、T1<T2を満たし、かつ、
前記被覆層表面において、刃先稜線からすくい面方向に距離Da離れた地点をaとし、逃げ面方向に距離Db離れた地点をbとする場合、前記Daは0.05mm≦Da≦0.5mmを満たし、前記Dbは0.01mm≦Db≦0.2mmを満たすものであって、地点aから地点bまでの前記被覆層における、表面から厚み0.1T1〜0.9T1を占める領域Eの10%以上の領域において、前記被覆層を構成する結晶粒の結晶方位のずれが5度以上10度未満となる、
表面被覆切削工具が記載されている。
基材と、該基材表面に形成された被覆層とを含む表面被覆切削工具であって、
前記被覆層は、1層または複数の層により構成され、
すくい面の中心における前記被覆層表面の法線と2つの逃げ面が交差する稜とを含む平面で前記表面被覆切削工具を切断した断面において、前記被覆層のうち、刃先稜線部において最も薄くなる部分の厚みをT1、刃先稜線からすくい面方向に1mm離れた地点における厚みをT2とする場合、T1<T2を満たし、かつ、
前記被覆層表面において、刃先稜線からすくい面方向に距離Da離れた地点をaとし、逃げ面方向に距離Db離れた地点をbとする場合、前記Daは0.05mm≦Da≦0.5mmを満たし、前記Dbは0.01mm≦Db≦0.2mmを満たすものであって、地点aから地点bまでの前記被覆層における、表面から厚み0.1T1〜0.9T1を占める領域Eの10%以上の領域において、前記被覆層を構成する結晶粒の結晶方位のずれが5度以上10度未満となる、
表面被覆切削工具が記載されている。
つづいて、特許文献4には、
高圧相型窒化硼素を20体積%以上含む硬質焼結体基材の表面の切削に関与する箇所に中間層を介して、
(Ti、Al)N層またはTiN層とAlN層の積層である第1硬質耐摩耗被覆層と、該第1硬質耐摩耗被覆層の外側の少なくとも一部にAl2O3層またはAl2O3層とTiCN層とを積層した第2硬質耐摩耗被覆層とを有し、
さらに、前記硬質焼結体基材のすくい面に対応する箇所の切削に関与する箇所が前記第1硬質耐摩耗被覆層および前記第2硬質耐摩耗被覆層を有し、逃げ面に対応する箇所が前記第1硬質耐摩耗被覆層のみを有し、
前記中間層は、膜厚が0.05〜5μmのTiN、TiC、TiCNおよびTiCNから少なくとも1種選択されるものであり、
前記第1および第2硬質耐摩耗被覆層の外側表面の少なくとも一部に膜厚が0.1〜5μmのTiC、TiN、TiCNおよびTiCNOから少なくとも1種選択される表面層を有し、焼入鋼や鋳鉄に使用する、
硬質耐摩耗層複合被覆切削工具が記載されている。
高圧相型窒化硼素を20体積%以上含む硬質焼結体基材の表面の切削に関与する箇所に中間層を介して、
(Ti、Al)N層またはTiN層とAlN層の積層である第1硬質耐摩耗被覆層と、該第1硬質耐摩耗被覆層の外側の少なくとも一部にAl2O3層またはAl2O3層とTiCN層とを積層した第2硬質耐摩耗被覆層とを有し、
さらに、前記硬質焼結体基材のすくい面に対応する箇所の切削に関与する箇所が前記第1硬質耐摩耗被覆層および前記第2硬質耐摩耗被覆層を有し、逃げ面に対応する箇所が前記第1硬質耐摩耗被覆層のみを有し、
前記中間層は、膜厚が0.05〜5μmのTiN、TiC、TiCNおよびTiCNから少なくとも1種選択されるものであり、
前記第1および第2硬質耐摩耗被覆層の外側表面の少なくとも一部に膜厚が0.1〜5μmのTiC、TiN、TiCNおよびTiCNOから少なくとも1種選択される表面層を有し、焼入鋼や鋳鉄に使用する、
硬質耐摩耗層複合被覆切削工具が記載されている。
加えて、特許文献5には、
すくい面と、逃げ面と、すくい面と逃げ面とが交差する位置にある切刃と、酸化アルミニウムで作られ、硬質材料層上に堆積された層を含む耐摩耗性の多層コーティングとを含む、セラミック、サーメット、または超硬合金製の切削工具であって、
前記コーティングが、前記酸化アルミニウム層にわたって堆積された1つ以上の層を含み、この/これらのさらなる層が、前記酸化アルミニウム層とともに逃げ面のみで除去されて、下地の前記硬質材料層が、少なくとも部分的に露出される、
切削工具が記載されており、
下地の前記硬質材料層の露出が、機械的除去、流体噴射による除去、レーザによる除去のいずれかであることも記載されている。
すくい面と、逃げ面と、すくい面と逃げ面とが交差する位置にある切刃と、酸化アルミニウムで作られ、硬質材料層上に堆積された層を含む耐摩耗性の多層コーティングとを含む、セラミック、サーメット、または超硬合金製の切削工具であって、
前記コーティングが、前記酸化アルミニウム層にわたって堆積された1つ以上の層を含み、この/これらのさらなる層が、前記酸化アルミニウム層とともに逃げ面のみで除去されて、下地の前記硬質材料層が、少なくとも部分的に露出される、
切削工具が記載されており、
下地の前記硬質材料層の露出が、機械的除去、流体噴射による除去、レーザによる除去のいずれかであることも記載されている。
特許文献1、2には、切削工具被覆層に断熱性または耐熱性、サイクル疲労強度を持たせることについての開示はあるものの、切削工具被覆層としての刃先稜線とすくい面のそれぞれに求められる特性に対処することについての開示はなされていない。
特許文献3の切削工具では、逃げ面とすくい面を直線近似した刃先稜線部の被覆層の膜厚を薄膜化し、被覆層の上部に歪みが生じているために、刃先強度を増強でき、その結果として、被覆層により耐摩耗性を向上しつつ、被覆層の脱落やチッピングを防ぐことができるものの、特許文献3は、特許文献1、2と同様に、切削工具被覆層としての刃先稜線とすくい面のそれぞれに求められる特性に対処することについての開示はなされていない。
特許文献4には、逃げ面は機械的摩耗が支配的であり、すくい面は熱的な摩耗の割合が高くなるとの記載があり、被覆層の逃げ面、すくい面に、それぞれ、求められる物性についての開示はなされている。しかし、特許文献4に記載の切削工具の切削対象は、焼入鋼や鋳鉄であり、耐熱合金の切削には十分に対応できない。
特許文献5の切削工具は、すくい面のAl2O3にのみ着目しており、耐熱合金の切削には十分に対応できない。
そこで、本発明は、耐熱合金のような刃先が高温になる切削に用いても、摩耗が進行せず工具寿命の長い被覆工具を提供することを目的とする。
本発明者は、上述のとおり、耐熱合金のような刃先が高温になる切削に用いても、耐酸化性・耐溶着性を発揮するとともにチッピング、欠損、剥離等の発生の抑制がなされ、長期の使用にわたって優れた耐摩耗性を有する被覆工具を提供するとの観点から、被覆層における逃げ面と刃先稜線に、それぞれ、求められる特性について鋭意検討を重ねた結果、次のような新たな知見を得た。
すなわち、下部層としてTiとAlとの複合窒化物層または複合炭窒化物層を設け、この下部層の層厚が刃先稜線およびすくい面の所定の位置において所定の層厚を有しているとき、この下部層の上の上部層として、すくい面側に、刃先稜線よりも厚い所定の層厚の化学的に安定なAl2O3層を設けると、すくい面の耐酸化性、耐溶着性が高まり耐摩耗性が向上すること、その一方で、刃先稜線には、すくい面側よりも薄い所定の層厚のAl2O3層を設けても耐摩耗性は低下しないということを見出した。
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであり、以下のとおりのものである。
「WC基超硬合金、TiCN基サーメットまたはcBN基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、上部層(α)、下部層(β)の少なくとも2層を含む硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
(a)前記上部層(α)はα型の結晶構造を有するAl2O3層からなり、
(b)前記下部層(β)はTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層からなり、
(c)前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層は、NaCl型の面心立方構造の結晶層を少なくとも含み
(d)前記上部層(α)の刃先稜線における厚みをTα1、刃先稜線からすくい面方向に500μm離れた地点における厚みをTα2とするとき、Tα1は0.0〜5.0μm、Tα2は1.0〜20.0μmを満足し、かつTα1<Tα2を満たし、
(e)前記下部層(β)の刃先稜線における厚みをTβ1、刃先稜線からすくい面方向に500μm離れた地点における厚みをTβ2とするとき、Tβ1、Tβ2は1.0〜20.0μmを満足し、かつTβ2<Tβ1を満たすことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記上部層(α)は、0.005〜0.050原子%の塩素を含有することを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)前記下部層(β)におけるTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層は、平均組成を(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Y(但し、X、Yはいずれも原子比)は、それぞれ、0.60≦X≦0.95、0≦Y≦0.005を満足することを特徴とする(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4)前記工具基体と前記下部層(β)の間にTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、0.1〜20.0μmの合計平均層厚を有する結合層が存在することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
「WC基超硬合金、TiCN基サーメットまたはcBN基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、上部層(α)、下部層(β)の少なくとも2層を含む硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
(a)前記上部層(α)はα型の結晶構造を有するAl2O3層からなり、
(b)前記下部層(β)はTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層からなり、
(c)前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層は、NaCl型の面心立方構造の結晶層を少なくとも含み
(d)前記上部層(α)の刃先稜線における厚みをTα1、刃先稜線からすくい面方向に500μm離れた地点における厚みをTα2とするとき、Tα1は0.0〜5.0μm、Tα2は1.0〜20.0μmを満足し、かつTα1<Tα2を満たし、
(e)前記下部層(β)の刃先稜線における厚みをTβ1、刃先稜線からすくい面方向に500μm離れた地点における厚みをTβ2とするとき、Tβ1、Tβ2は1.0〜20.0μmを満足し、かつTβ2<Tβ1を満たすことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記上部層(α)は、0.005〜0.050原子%の塩素を含有することを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)前記下部層(β)におけるTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層は、平均組成を(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Y(但し、X、Yはいずれも原子比)は、それぞれ、0.60≦X≦0.95、0≦Y≦0.005を満足することを特徴とする(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4)前記工具基体と前記下部層(β)の間にTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、0.1〜20.0μmの合計平均層厚を有する結合層が存在することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
下部層として、刃先稜線およびすくい面の所定位置で所定の層厚を有するTiとAlとの複合窒化物層または複合炭窒化物層を設け、この下部層の上に上部層として、高温に曝されるすくい面側に、刃先稜線よりも厚く所定の層厚の化学的に安定なAl2O3層を設けることにより、すくい面側の耐酸化性、耐溶着性が高まり耐摩耗性が向上すること、その一方で、刃先稜線には、すくい面側よりも薄く所定の層厚のAl2O3層を設けても耐摩耗性は低下しないため、被覆工具の寿命が向上するという顕著な効果を本発明は奏するものである。
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。
刃先稜線
本発明でいう刃先稜線とは、すくい面と逃げ面とをそれぞれ直線で近似し、その直線を延長した場合に両延長線が交差する交点Aをとし、刃先稜線からの距離は、当該直線の交点Aからそれぞれの直線に沿った距離をいう。刃先稜線の膜厚とは、当該直線のなす角を2等分するように直線を引き、インサート表面との交点Bとしたときの交点Bでの膜厚をいう。
本発明でいう刃先稜線とは、すくい面と逃げ面とをそれぞれ直線で近似し、その直線を延長した場合に両延長線が交差する交点Aをとし、刃先稜線からの距離は、当該直線の交点Aからそれぞれの直線に沿った距離をいう。刃先稜線の膜厚とは、当該直線のなす角を2等分するように直線を引き、インサート表面との交点Bとしたときの交点Bでの膜厚をいう。
TiとAlとの複合窒化物層または複合炭窒化物層からなる下部層(β)
TiとAlとの複合窒化物層または複合炭窒化物層からなる下部層は、熱CVD装置を用いて、少なくともNaCl型の面心立方構造の相を含むように形成する。
成膜条件の一例として、
反応ガス組成(容量%)
ガス群A:NH3:0.8〜1.6%、H2:45〜55%
ガス群B:AlCl3:0.5〜0.7%、Al(CH3)3:0.00〜0.08%、
TiCl4:0.1〜0.3%、N2:0.0〜10.0%、H2:残
反応雰囲気圧力:4.0〜5.0kPa
反応雰囲気温度:700〜900℃
を挙げることができる。
ここで、ガス群Aとガス群Bとは、熱CVD装置の反応容器内の空間で被成膜物の直前までガスを分離して供給し、被成膜物の直前でガス群Aとガス群Bが混合し、反応させるようにする。これは、互いに反応活性の高いガス種を成膜領域にわたって均一に成膜するために有効であり、詳細な技術内容は、例えば特開2015−131984号公報に開示されている。
また、下部層の層厚は、刃先稜線においてTβ1、刃先稜線からすくい面方向に500μm離れた地点のものをTβ2としたとき、Tβ1およびTβ2は、共に1.0〜20.0μmとなるように成膜する。その後、層厚がTβ2<Tβ1を満たすようにすくい面に、例えば、機械研磨またはウエットブラスト処理を施して下部層の層厚を薄くする。TiとAlとの複合窒化物または複合炭窒化物層は、硬さが高く、すぐれた耐摩耗性を有するが、特に、Tβ1、Tβ2が1.0〜20.0μmのとき、その効果が際立って発揮される。その理由は、1.0μm未満では、層厚が薄いため長期の使用にわたっての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、その平均層厚が20.0μmを超えると、TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒が粗大化しやすくなり、チッピングを発生しやすくなるためである。
ここで、後述するTα1<Tα2という上部層の厚さと相俟って、下部層の厚さはすくい面側が刃先稜線に比して薄い層厚であったとしても、耐摩耗性、耐チッピング性に優れるという知見から、下部層の層厚がTβ1>Tβ2と規定した。
また、下部層の組成は、平均組成を(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Y(但し、X、Yはいずれも原子比)は、それぞれ、0.60≦X≦0.95、0≦Y≦0.005を満足することが好ましい。その理由は、Alの平均含有割合Xが0.60未満であると、(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層は耐酸化性に劣り、耐熱合金鋼等の切削加工に供した場合には、耐摩耗性が十分でないことがあり、一方、Alの平均含有割合Xが0.95超えると、硬さに劣る六方晶の析出量が増大し硬さが低下するため、耐摩耗性が低下する可能性があるためである。また、(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層に含まれるC成分の平均含有割合Yは、0≦Y≦0.005の範囲であるとき、潤滑性がより一層向上することによって切削時の衝撃を緩和し、結果として(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層の耐チッピング性、耐欠損性が向上する。一方、C成分の平均含有割合Yが0≦Y≦0.005の範囲を逸脱すると、(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層の靭性が低下するため耐チッピング性、耐欠損性が低下することがあって好ましくない。したがって、Cの平均含有割合Yは、0≦Y≦0.005が好ましい。
なお、複合窒化物または複合炭窒化物層のAlの平均含有割合Xについては、電子線マイクロアナライザ(Electron−Probe−Micro−Analyser:EPMA)を用い、表面を研磨した試料において、電子線を試料表面側から照射し、得られた特性X線の解析結果の10点平均から求めた。Cの平均含有割合Yについては、二次イオン質量分析(Secondary−Ion−Mass−Spectroscopy:SIMS)により求めた。すなわち、イオンビームを試料表面側から70μm×70μmの範囲に照射し、スパッタリング作用によって放出された成分について深さ方向の濃度測定を行った。Cの平均含有割合YはTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層についての深さ方向の平均値を示す。
加えて、前記(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層におけるNaCl型の面心立方晶構造を有する結晶粒が存在することが必要であり、その面積割合として少なくとも40面積%以上が好ましい。これにより、高硬度であるNaCl型の面心立方晶構造を有する結晶粒の面積比率がある程度存在するため、硬さが向上する。さらに、この面積割合が60面積以上となると、NaCl型の面心立方晶構造を有する結晶粒が六方晶構造の結晶粒に比べて相対的に高くなり、硬さがより向上するという効果を得ることができる。この面積率は、より好ましくは75面積%以上である。
TiとAlとの複合窒化物層または複合炭窒化物層からなる下部層は、熱CVD装置を用いて、少なくともNaCl型の面心立方構造の相を含むように形成する。
成膜条件の一例として、
反応ガス組成(容量%)
ガス群A:NH3:0.8〜1.6%、H2:45〜55%
ガス群B:AlCl3:0.5〜0.7%、Al(CH3)3:0.00〜0.08%、
TiCl4:0.1〜0.3%、N2:0.0〜10.0%、H2:残
反応雰囲気圧力:4.0〜5.0kPa
反応雰囲気温度:700〜900℃
を挙げることができる。
ここで、ガス群Aとガス群Bとは、熱CVD装置の反応容器内の空間で被成膜物の直前までガスを分離して供給し、被成膜物の直前でガス群Aとガス群Bが混合し、反応させるようにする。これは、互いに反応活性の高いガス種を成膜領域にわたって均一に成膜するために有効であり、詳細な技術内容は、例えば特開2015−131984号公報に開示されている。
また、下部層の層厚は、刃先稜線においてTβ1、刃先稜線からすくい面方向に500μm離れた地点のものをTβ2としたとき、Tβ1およびTβ2は、共に1.0〜20.0μmとなるように成膜する。その後、層厚がTβ2<Tβ1を満たすようにすくい面に、例えば、機械研磨またはウエットブラスト処理を施して下部層の層厚を薄くする。TiとAlとの複合窒化物または複合炭窒化物層は、硬さが高く、すぐれた耐摩耗性を有するが、特に、Tβ1、Tβ2が1.0〜20.0μmのとき、その効果が際立って発揮される。その理由は、1.0μm未満では、層厚が薄いため長期の使用にわたっての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、その平均層厚が20.0μmを超えると、TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒が粗大化しやすくなり、チッピングを発生しやすくなるためである。
ここで、後述するTα1<Tα2という上部層の厚さと相俟って、下部層の厚さはすくい面側が刃先稜線に比して薄い層厚であったとしても、耐摩耗性、耐チッピング性に優れるという知見から、下部層の層厚がTβ1>Tβ2と規定した。
また、下部層の組成は、平均組成を(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Y(但し、X、Yはいずれも原子比)は、それぞれ、0.60≦X≦0.95、0≦Y≦0.005を満足することが好ましい。その理由は、Alの平均含有割合Xが0.60未満であると、(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層は耐酸化性に劣り、耐熱合金鋼等の切削加工に供した場合には、耐摩耗性が十分でないことがあり、一方、Alの平均含有割合Xが0.95超えると、硬さに劣る六方晶の析出量が増大し硬さが低下するため、耐摩耗性が低下する可能性があるためである。また、(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層に含まれるC成分の平均含有割合Yは、0≦Y≦0.005の範囲であるとき、潤滑性がより一層向上することによって切削時の衝撃を緩和し、結果として(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層の耐チッピング性、耐欠損性が向上する。一方、C成分の平均含有割合Yが0≦Y≦0.005の範囲を逸脱すると、(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層の靭性が低下するため耐チッピング性、耐欠損性が低下することがあって好ましくない。したがって、Cの平均含有割合Yは、0≦Y≦0.005が好ましい。
なお、複合窒化物または複合炭窒化物層のAlの平均含有割合Xについては、電子線マイクロアナライザ(Electron−Probe−Micro−Analyser:EPMA)を用い、表面を研磨した試料において、電子線を試料表面側から照射し、得られた特性X線の解析結果の10点平均から求めた。Cの平均含有割合Yについては、二次イオン質量分析(Secondary−Ion−Mass−Spectroscopy:SIMS)により求めた。すなわち、イオンビームを試料表面側から70μm×70μmの範囲に照射し、スパッタリング作用によって放出された成分について深さ方向の濃度測定を行った。Cの平均含有割合YはTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層についての深さ方向の平均値を示す。
加えて、前記(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層におけるNaCl型の面心立方晶構造を有する結晶粒が存在することが必要であり、その面積割合として少なくとも40面積%以上が好ましい。これにより、高硬度であるNaCl型の面心立方晶構造を有する結晶粒の面積比率がある程度存在するため、硬さが向上する。さらに、この面積割合が60面積以上となると、NaCl型の面心立方晶構造を有する結晶粒が六方晶構造の結晶粒に比べて相対的に高くなり、硬さがより向上するという効果を得ることができる。この面積率は、より好ましくは75面積%以上である。
α型の結晶構造を有するAl2O3(以下、α−Al2O3という)からなる上部層(α)
上部層の成膜は下部層の層厚を調整したのち再度実施する。α−Al2O3の成膜に当たっては、初期の核生成段階とその後の成長段階で条件を変えて成膜を行い、その後、後述する層厚を満足するように刃先稜線に、例えば、機械研磨またはウエットブラスト処理を施して上部層の層厚を薄くする。
成膜条件の一例として、
<α−Al2O3初期の核生成段階>
反応ガス組成(容量%):AlCl3:1.0〜3.0%、CO2:1.0〜5.0%、HCl:0.3〜1.0%、残部:H2
反応雰囲気圧力:5.0〜15.0kPa
反応雰囲気温度:800〜900℃
<α−Al2O3成長段階>
反応ガス組成(容量%):AlCl3:1.5〜5.0%、CO2:2.0〜8.0%、HCl:3.0〜8.0%、H2S:0.5〜1.0%、残部:H2
反応雰囲気圧力:5.0〜15.0kPa、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
を挙げることができる。
また、上部層の層厚は、刃先稜線においてTα1、刃先稜線から逃げ面方向に500μm離れた地点でTα2としたとき、Tα1は0.0〜5.0μm、Tα2は1.0〜20.0μm、かつTα1<Tα2を満足していなければならない。
上部層の層厚をこの範囲とする理由は、α−Al2O3は刃先稜線に存在しなくても(Tα1=0.0μmでも)耐摩耗性・耐チッピング性には影響せず、Tα1が5.0μmを超えると上部層の剥離やチッピングが生じる可能性があって、CVD法により成膜したTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層の耐摩耗性を低下させるためであり、また、Tα2は、1.0μm未満では、α−Al2O3による熱遮蔽効果が不十分であり、上部層の摩滅が生じやすく、熱的に不安定な準安定相であるTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層が露出して耐摩耗性が損なわれ、Tα2は20.0μmを超えるとα−Al2O3による熱遮蔽効果が飽和するためである。そして、刃先稜線はすくい面側よりも薄い層厚のAl2O3層であっても耐摩耗性・耐チッピング性が優れるとの知見により、Tα1<Tα2を規定した。
また、比較的低温(800〜900℃)でα−Al2O3層を成膜した場合、反応ガス成分である塩素が層中に混入されるようになる。α−Al2O3層中への塩素の混入は必須の要件ではないが、混入される場合は、層中に含有される塩素含有量が0.005原子%以上であると、α−Al2O3層が潤滑性を具備するようになり、刃先に機械的衝撃が作用する断続切削に供したときに機械的衝撃を吸収し、チッピング等の異常損傷を抑制する効果をより発揮する。一方、塩素含有量が0.050原子%を超え過度に含有されると、α−Al2O3層の耐摩耗性の劣化を招くことになる。したがって、α−Al2O3層からなる上部層における塩素含有量は、0.005〜0.050原子%とすることが望ましい。
上部層の成膜は下部層の層厚を調整したのち再度実施する。α−Al2O3の成膜に当たっては、初期の核生成段階とその後の成長段階で条件を変えて成膜を行い、その後、後述する層厚を満足するように刃先稜線に、例えば、機械研磨またはウエットブラスト処理を施して上部層の層厚を薄くする。
成膜条件の一例として、
<α−Al2O3初期の核生成段階>
反応ガス組成(容量%):AlCl3:1.0〜3.0%、CO2:1.0〜5.0%、HCl:0.3〜1.0%、残部:H2
反応雰囲気圧力:5.0〜15.0kPa
反応雰囲気温度:800〜900℃
<α−Al2O3成長段階>
反応ガス組成(容量%):AlCl3:1.5〜5.0%、CO2:2.0〜8.0%、HCl:3.0〜8.0%、H2S:0.5〜1.0%、残部:H2
反応雰囲気圧力:5.0〜15.0kPa、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
を挙げることができる。
また、上部層の層厚は、刃先稜線においてTα1、刃先稜線から逃げ面方向に500μm離れた地点でTα2としたとき、Tα1は0.0〜5.0μm、Tα2は1.0〜20.0μm、かつTα1<Tα2を満足していなければならない。
上部層の層厚をこの範囲とする理由は、α−Al2O3は刃先稜線に存在しなくても(Tα1=0.0μmでも)耐摩耗性・耐チッピング性には影響せず、Tα1が5.0μmを超えると上部層の剥離やチッピングが生じる可能性があって、CVD法により成膜したTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層の耐摩耗性を低下させるためであり、また、Tα2は、1.0μm未満では、α−Al2O3による熱遮蔽効果が不十分であり、上部層の摩滅が生じやすく、熱的に不安定な準安定相であるTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層が露出して耐摩耗性が損なわれ、Tα2は20.0μmを超えるとα−Al2O3による熱遮蔽効果が飽和するためである。そして、刃先稜線はすくい面側よりも薄い層厚のAl2O3層であっても耐摩耗性・耐チッピング性が優れるとの知見により、Tα1<Tα2を規定した。
また、比較的低温(800〜900℃)でα−Al2O3層を成膜した場合、反応ガス成分である塩素が層中に混入されるようになる。α−Al2O3層中への塩素の混入は必須の要件ではないが、混入される場合は、層中に含有される塩素含有量が0.005原子%以上であると、α−Al2O3層が潤滑性を具備するようになり、刃先に機械的衝撃が作用する断続切削に供したときに機械的衝撃を吸収し、チッピング等の異常損傷を抑制する効果をより発揮する。一方、塩素含有量が0.050原子%を超え過度に含有されると、α−Al2O3層の耐摩耗性の劣化を招くことになる。したがって、α−Al2O3層からなる上部層における塩素含有量は、0.005〜0.050原子%とすることが望ましい。
基体とTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層との間の結合層
基体とTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層との間には、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、0.1〜20.0μmの合計平均層厚を有する結合層を設けると、基体とTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層との間の結合がより一層優れたものとなる。
基体とTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層との間には、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、0.1〜20.0μmの合計平均層厚を有する結合層を設けると、基体とTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層との間の結合がより一層優れたものとなる。
次に、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。なお、以下の実施例ではWC基超硬合金を工具基体とする被覆工具について述べるが、工具基体としてはTiCN基サーメットやcBN基超高圧焼結体を用いた場合も同様である。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3C2粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、三菱マテリアル株式会社製のSEMT13T3AGSNのインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Cをそれぞれ製造した。
次に、これらの工具基体A〜Cの表面に、CVD装置を用い、まず、表2および表3に示される条件で、下部層である所定の組成を有する(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層を目標層厚になるまで蒸着形成した後、ウエットブラスト法によりすくい面の下部層を一部除去した。そして、同じく表2および表3に示される条件で上部層であるAl2O3層を形成し、その後、刃先稜線にウエットブラスト法により刃先稜線の上部層を一部除去して、表4に示される本発明被覆工具1〜15を製造した。なお、本発明被覆工具6〜15については、下部層を形成する前に表4に示す結合層を公知の方法により形成した。
また、比較の目的で、工具基体A〜Dの表面に、表2および表3に示される条件で本発明被覆工具1〜15と同様に、下部層を形成し、上部層を蒸着形成するものの、ウエットブラスト法による層の一部除去を行っていない、表5に示される比較被覆工具1〜15を製造した。なお、比較被覆工具6〜15については、下部層を形成する前に表5に示す結合層を公知の方法により形成した。
本発明被覆工具1〜15、比較被覆工具1〜15の各構成層の断面を、走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて、Tα1、Tα2、Tβ1、および、Tβ2を測定した。
次に、前記各種の被覆工具をいずれもカッタ径125mmの工具鋼製カッタ先端部に固定治具にてクランプした状態で、本発明被覆工具1〜15、比較被覆工具1〜15について、耐熱合金、Ni−19Cr−19Fe−3Mo−0.9Ti−0.5Al−5.1(Nb+Ta)合金の時効硬化処理材の湿式正面フライス、センターカット切削加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。その結果を表6に示す。
切削試験:湿式正面フライス、センターカット切削加工
カッタ径: 125mm
被削材: 上記耐熱合金 幅100mm、長さ400mmのブロック材
回転速度: 127min−1
切削速度: 50m/min
切り込み: 1.0mm
一刃送り量: 0.12mm/刃
切削時間: 5分
カッタ径: 125mm
被削材: 上記耐熱合金 幅100mm、長さ400mmのブロック材
回転速度: 127min−1
切削速度: 50m/min
切り込み: 1.0mm
一刃送り量: 0.12mm/刃
切削時間: 5分
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3C2粉末、TiN粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表7に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.03mmのホーニング加工を施すことによりISO規格CNMG120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体α〜γをそれぞれ製造した。
次に、これらの工具基体α〜γおよび工具基体δの表面に、CVD装置を用い、実施例1〜15と同様の方法により表2および表3に示される条件で、表8に示される本発明被覆工具16〜30を製造した。なお、本発明被覆工具21〜30については、下部層を形成する前に表8に示す結合層を公知の方法により形成した。
また、比較の目的で、同じく工具基体α〜γおよび工具基体δの表面に、通常のCVD装置を用い、表2および表3に示される条件で、比較例1〜15と同様の方法により表9に示される比較被覆工具16〜30を製造した。なお、比較被覆工具21〜30については、下部層を形成する前に表9に示す結合層を公知の方法により形成した。
本発明被覆工具16〜30、比較被覆工具16〜30の各構成層の断面を、走査電子型顕微鏡(倍率5000倍)を用いて、Tα1、Tα2、Tβ1、および、Tβ2を測定した。
次に、前記各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具16〜30、比較被覆工具16〜30について、耐熱合金、Ni−19Cr−19Fe−3Mo−0.9Ti−0.5Al−5.1(Nb+Ta)合金の時効硬化処理材の湿式連続切削試験を実施し、いずれも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
切削試験:耐熱合金の湿式連続切削加工
被削材:上記耐熱合金の丸棒
切削速度: 80 m/min
切り込み: 1.2mm
送り: 0.2mm/rev
切削時間: 5分
切削試験の結果を表10に示す。
被削材:上記耐熱合金の丸棒
切削速度: 80 m/min
切り込み: 1.2mm
送り: 0.2mm/rev
切削時間: 5分
切削試験の結果を表10に示す。
表6、表10に示される結果から、本発明の被覆工具は、α−Al2O3からなる上部層(α)の刃先稜線における厚みをTα1、刃先稜線からすくい面方向に500μm離れた地点における厚みをTα2とするとき、Tα1は0.0〜5.0μm、Tα2は1.0〜20.0μmを満足し、かつTα1<Tα2を満たし、TiとAlとの複合窒化物層または複合炭窒化物層からなる下部層βの刃先稜線における厚みをTβ1、刃先稜線からすくい面方向に500μm離れた地点における厚みをTβ2とするとき、Tβ1、Tβ2は1.0〜20.0μmを満足することで、耐熱合金の切削加工のように刃先が高温になる切削に用いた場合でも、耐チッピング性、耐欠損性に優れ、その結果、長期の使用にわって優れた耐摩耗性を発揮することが明らかである。
これに対して、本発明の発明特定事項を満たしていない比較被覆工具1〜30については、高熱発生を伴い、しかも、切れ刃に断続的・衝撃的高負荷が作用する高速断続切削加工に用いた場合、チッピング、欠損等の発生により短時間で寿命にいたることが明らかである。
前述のように、本発明の被覆工具は、耐熱合金鋼の切削加工ばかりでなく、各種の被削材の被覆工具として用いることができ、しかも、長期の使用にわたってすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (4)
- WC基超硬合金、TiCN基サーメットまたはcBN基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、上部層(α)、下部層(β)の少なくとも2層を含む硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
(a)前記上部層(α)はα型の結晶構造を有するAl2O3層からなり、
(b)前記下部層(β)はTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層からなり、
(c)前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層は、NaCl型の面心立方構造の結晶層を少なくとも含み
(d)前記上部層(α)の刃先稜線における厚みをTα1、刃先稜線からすくい面方向に500μm離れた地点における厚みをTα2とするとき、Tα1は0.0〜5.0μm、Tα2は1.0〜20.0μmを満足し、かつTα1<Tα2を満たし、
(e)前記下部層(β)の刃先稜線における厚みをTβ1、刃先稜線からすくい面方向に500μm離れた地点における厚みをTβ2とするとき、Tβ1、Tβ2は1.0〜20.0μmを満足し、かつTβ2<Tβ1を満たすことを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記上部層(α)は、0.005〜0.050原子%の塩素を含有することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 前記下部層(β)におけるTiとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層は、平均組成を(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合XおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Y(但し、X、Yはいずれも原子比)は、それぞれ、0.60≦X≦0.95、0≦Y≦0.005を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
- 前記工具基体と前記下部層(β)の間にTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、0.1〜20.0μmの合計平均層厚を有する結合層が存在することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
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JP2021160017A (ja) * | 2020-03-31 | 2021-10-11 | 株式会社タンガロイ | 被覆切削工具 |
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US11433459B2 (en) | 2020-03-31 | 2022-09-06 | Tungaloy Corporation | Coated cutting tool |
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