以下に、本発明に係る差動トランス式変位計の断線検知システムを備えた発電プラント1の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る差動トランス式変位計の断線検知システムを備えた発電プラント1の概略構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係る発電プラント1は、一例としてボイラ2と、蒸気タービン3と、発電機4と、復水器5と、給水ポンプ6と、タービン蒸気制御弁7と、変位計20、21と、制御装置8とを主な構成として備えている。
なお、本実施形態では、発電プラント1におけるタービン蒸気制御弁7(止め弁11及び加減弁12)に対して、弁の開度状態を計測するために変位計20、21が設置され、変位計20、21には差動トランス式変位計22を用いたものが備えられており、断線検知システム100は差動トランス式変位計22に対して設けられている。なお、断線検知システム100は、後述する計測部27a、27b、下限電圧値比較部71、電圧変化率比較部64、判定部65を含んで構成されているものとする。差動トランス式変位計22は変位を計測可能な装置であるため、変位の測定が必要な装置であれば、タービン蒸気制御弁7に限らず他の装置にも適用可能である。すなわち、本実施形態に係る断線検知システム100は、差動トランス式変位計22の用途に依らず適用することが可能である。
ボイラ2は、給水ポンプ6から送られるボイラ給水をボイラ2で過熱蒸気にして蒸気タービン3へ供給する。具体的には、ボイラ2は、節炭器、蒸発管、過熱器等から構成されている。ボイラ水は、まず節炭器にて加熱され、蒸発管で飽和蒸気となる。その後、過熱器でさらに過熱されることによって過熱蒸気となる。ボイラ2で生成された過熱蒸気は、タービン蒸気制御弁7を介して蒸気タービン3へ供給される。なお、ボイラ2の構成は、燃料を供給して火炉で燃焼した燃焼ガスとボイラ2への給水と熱交換するもの、ガスタービンなどの高温排気ガスとボイラ2への給水と熱交換するもの等があり、上記に限られず様々な構成を採用可能である。
蒸気タービン3(以下、「タービン3」という。)では、ボイラ2にて生成された過熱蒸気が供給され、過熱蒸気が膨張してタービン翼を回転駆動させている。すなわち、タービン3では、過熱蒸気のエネルギーを回転エネルギーへ変換している。タービン3の構成としては、高圧タービン、中圧タービン、低圧タービンの3段構成や、高圧タービンと中圧タービンの2段構成など様々な構成が適用可能である。なお、タービン3の回転軸は発電機4と接続されている。
発電機4では、タービン3の回転軸と発電機4の回転軸とが接続されて回転駆動されており、タービン3で生じた回転エネルギーを電気エネルギーに変換している。発電機4によって発電した電気は、例えば、昇圧器等を介して電力系統に供給される。
復水器5は、タービン3において仕事をし終えた蒸気を冷却して液相に戻して復水としている。具体的には、復水器5には、海水が供給される伝熱管が設けられ、タービン3より排出された蒸気と、海水との間で熱交換を行うことで、蒸気を冷却し、水に戻して復水としている。生成された復水は、加熱器(不図示)や脱気器(不図示)を介して、給水ポンプ6に供給される。
給水ポンプ6は、加熱器(不図示)や脱気器(不図示)を介して供給された復水をボイラ給水としてボイラ2に供給する。なお、給水ポンプ6を制御することで、ボイラ2に供給されるボイラ給水の流量等を制御することが可能である。また、給水ポンプ6から送水されたボイラ給水を、さらに高温の加熱器(不図示)で加熱してボイラ2に供給することとしてもよい。
タービン蒸気制御弁7は、ボイラ2からタービン3に供給される蒸気の流量を制御している。具体的には、タービン蒸気制御弁7は、止め弁11と加減弁12から構成されている。図2は、タービン蒸気制御弁7の構成を例示した図(縦断面図)の一例である。図2に示されるように、ボイラ2によって生成された蒸気は、止め弁11と加減弁12から構成されるタービン蒸気制御弁7を介してタービン3に供給される。なお、止め弁11と加減弁12はそれぞれ個別に設けられても良い。
止め弁11では、タービン蒸気制御弁7を通過する蒸気の流量を零(停止)としたり、また、止め弁11はタービンの回転数を上げる昇速時などにおいて少量の蒸気量を制御する先開弁(不図示)を有しており、その先開弁の開度を制御することによって蒸気の通過する流量を調整することができる。加減弁12では、開度を制御することによって、止め弁11と比較して、より大容量の蒸気流量を調整することができる。すなわち、タービン蒸気制御弁7では、止め弁11でタービン3に供給される蒸気を確実に停止を可能とし、加減弁12の開度を制御することによって、ボイラ2からタービン3に供給される発電に必要な大容量の蒸気流量を制御している。
止め弁11は、止め弁駆動機11aによって制御されている。具体的には、止め弁駆動機11aによってピストン軸11bが制御され、ピストン軸11bに接続されたリンク機構11cを介して、止め弁11の開度が調整される。例えば、止め弁駆動機11aによってピストン軸11bが矢印Aの方向に制御されると、該駆動がリンク機構11cを介して止め弁11に伝達され、止め弁11は矢印Aの方向に動作して開く(開度が全開となる)こととなる。なお、加減弁12も止め弁11と同様の駆動機構を有しており、加減弁12は、加減弁駆動機12aによって弁の開度が制御されている。例えば、加減弁駆動機12aによってピストン軸12bが矢印Bの方向に移動量が制御されると、リンク機構12cを介して加減弁12が矢印Bの方向に動作し、開度を制御されて開く(開度が大きくなる)こととなる。なお、図2に記載の止め弁11及び加減弁12の駆動機構の一例であり、他の方式によって各弁を制御することも可能である。また、以下の説明では、止め弁駆動機11a及び加減弁駆動機12aを特に区別しない場合には、弁駆動機として説明する。
止め弁駆動機11a及び加減弁駆動機12aには、止め弁11の弁の全開全閉及び加減弁12の弁の開度を測定するために、2つの差動トランス式変位計22(22a及び22b)から構成される変位計20、21がそれぞれ設けられている。具体的には、図2に示すように、止め弁駆動機11a及び加減弁駆動機12aにおけるピストン軸11b、12bの変位が計測可能なように、変位計20、21が備えられている。図3は、加減弁駆動機12aにおけるピストン軸12bと、変位計21(差動トランス式変位計22a、22bを有する)との接続例を示した図(縦断面図)である。図3の白抜き矢印で示すように、図3の左側に示した図は、図3の右側の図の差動トランス式変位計22の内部構造を概念的に示したものである。なお、止め弁駆動機11aの構成についても、図3に示す加減弁駆動機12aの場合と同様である。図2及び図3に示すように、加減弁駆動機12aにおけるピストン軸12bと差動トランス式変位計22の可動軸23とがリンク機構12d(止め弁駆動機11aの場合は、リンク機構11d)を介して接続されている。本実施形態では、1つの加減弁駆動機12aに対して、2つの差動トランス式変位計22(22a及び22b)を備える構成としている。後述するように、例えば、片方の差動トランス式変位計22aに故障(例えば、断線)が生じた場合に、制御装置8が他方の差動トランス式変位計22bによる計測値を取得するように切り替えることで、加減弁12(または止め弁11)の開度を信頼性高く計測することが可能となる。なお、差動トランス式変位計22を2つ備えることなく、単体として備えることも可能である。図3のように、加減弁駆動機12aにおけるピストン軸12bと差動トランス式変位計22とを接続することで、例えば、ピストン軸12bが矢印Cの方向に動作すると、差動トランス式変位計22の可動軸23が矢印Cの方向に動作(変位)して、該変位が差動トランス式変位計22により出力電圧として検出される。なお、以下の説明では、2系統備えた差動トランス式変位計22を区別する場合には、差動トランス式変位計22a、22bと符号を付し、区別しない場合には、単に、差動トランス式変位計22と符号を付すこととする。また、差動トランス式変位計22a、22bの内部構成は互いに同一であるため、図3に示すように、同一の符号を付している。
差動トランス式変位計22は、1次コイル24(1次巻線)と、2次コイル25(2次巻線)と、可動軸23と、可動鉄心26とを備えている。なお、以下の説明では、2系統備えた2次コイル25を区別する場合には、2次コイル25a、25bと符号を付し、区別しない場合には、単に、2次コイル25と符号を付すこととする。図4は、差動トランス式変位計22の電気的な等価回路を示した図である。1次コイル24には、電源28から電圧が供給されている。例えば、電源28は、6Vから10Vの交流電圧(例えば、1kHz)を1次コイル24に供給している。図3及び図4に示されるように、2次コイル25は、ピストン軸12bの長いストロークにも精度よく検出するために、差動トランス式変位計22の内部には可動鉄心26の移動方向に、2次コイル25a、25bを2系統並べ配置している。各2次コイル25a,25bの一方側は計測電位の基準値を合わせて共通化するためにコモン線として結合させている。したがい、2次コイル25は、可動鉄心26の往復動方向に対して2系統設けられており、それぞれの2次コイル25a、25bが可動鉄心26を介して1次コイル24と電磁結合している。そして、それぞれの2次コイル25a、25bに誘起された電圧を、計測部(電圧計)27a、27bにて計測し、制御装置8に出力している。なお、計測部(電圧計)27a、27bでは整流器を含み、整流後の電圧を計測しているものとする。
可動軸23は、止め弁駆動機11aのピストン軸11b又は加減弁駆動機12aのピストン軸12bの変位を可動鉄心26に伝達しており、1次コイル24と2次コイル25の結合には影響を与えない材料で構成されている。
可動鉄心26は、止め弁駆動機11aのピストン軸11b又は加減弁駆動機12aのピストン軸12bと連結されており、該ピストン軸の往復動に伴って移動(変位)する。また、可動鉄心26は、磁性体材料で構成されており、変位することによって1次コイル24と2次コイル25の結合度合(相互インダクタンス)を変化させている。すなわち、止め弁11又は加減弁12の開度に伴って可動鉄心26の往復動方向の位置(変位状態)が変化し、可動鉄心26の変位後の位置に基づいて1次コイル24と2次コイル25の結合状態が決定され、該結合状態に基づいて2次コイル25a及び25bに電圧が誘起される。すなわち、止め弁11又は加減弁12の開度と2次コイル25a及び25bに誘起された電圧とは相関関係を有しているため、2次コイル25a及び25bに誘起された出力電圧を計測することで、止め弁11又は加減弁12の開度を求めることが可能となる。
なお、図4に示されるように、それぞれの2次コイル25a及び25bのそれぞれの一方側において、出力電圧測定の基準となる線がコモン線として互いに接続されている(L1)。これは、それぞれの計測部27a、27bによる電圧測定の基準値を合わせるためである。
可動鉄心26の位置(ストローク位置)と2次コイル25の出力電圧の関係を図5に例示する。ピストン軸11b、ピストン軸12bのストロークの中央位置は、可動鉄心26の可動範囲の中央位置と出来るだけ合致させるように差動トランス式変位計22が設置されている。なお、図5では、ストローク位置における中央位置を0%とし、正方向及び負方向に±50%として示している。また、2次コイル25aの出力電圧をVAとし、2次コイル25bの出力電圧をVBとしている。また、差動トランス式変位計22では、弁駆動機の上限位置と下限位置に対する中央位置において、それぞれの2次コイル25に誘起される電圧(VA及びVB)が略等しくなるように可動鉄心26の位置等が調整されて設けられている。また、図5の横軸におけるストローク位置の位置S1とは、弁駆動機におけるピストン軸の可動上限位置に対応する可動鉄心26の位置であり、ストローク位置の位置S2とは、弁駆動機におけるピストン軸の可動下限位置に対応する可動鉄心26の位置である。すなわち、可動鉄心26は、位置S1及びS2の間で変位し、これに伴って、2次コイル25の出力電圧は、VAmaxからVAminの間で変化し、2次コイル25の出力電圧は、VBmaxからVBminの間で変化する。
可動鉄心26が中央位置にある場合には、1次コイル24に対して、それぞれの2次コイル25a及び25bの結合状態が略等しくなるため、誘起される電圧(VA及びVB)は略等しくなる。図5に示されるように、可動鉄心26が正方向(図3及び図4における矢印C方向)に移動すると、1次コイル24と2次コイル25aの結合状態が強まり、1次コイル24と2次コイル25bの結合状態が弱まる。これは、可動鉄心26を介して1次コイル24の磁束がより多く2次コイル25aを通過するためであり、一方で、2次コイル25bを貫通する1次コイル24の磁束は少なくなる。このため、可動鉄心26が正方向に変位すると、2次コイル25aに誘起される電圧が大きくなり、2次コイル25bに誘起される電圧が小さくなる。また、可動鉄心26が負方向(図3及び図4における矢印D方向)に変位すると、可動鉄心26が正方向に変位した場合と相反した原理により、2次コイル25bに誘起される電圧が大きくなり、2次コイル25aに誘起される電圧が小さくなる。
このため、例えば、2次コイル25aから出力電圧VA1が検出され、2次コイル25bから出力電圧VB1が検出された場合には、可動鉄心26の位置が+20%にあることがわかる。そして、可動鉄心26の位置が+20%であることから、弁駆動機のピストン軸の変位が求まり、そして、止め弁11又は加減弁12の弁の開度を求めることが可能となる。2次コイル25において測定されたそれぞれの出力電圧(VA及びVB)は、制御装置8に送信され、止め弁11及び加減弁12の開度制御及び、差動トランス式変位計22の異常(例えば、断線)検出に用いられる。
制御装置8は、タービン蒸気制御弁7の弁の開度を制御し、タービン3に供給される蒸気の流量を制御する。また、タービン蒸気制御弁7に対して設けられた差動トランス式変位計22の異常(例えば、断線)を検出する。
制御装置8は、例えば、図示しないCPU(中央演算装置)、RAM(Random Access Memory)等のメモリ、及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体等を備えている。後述の各種機能を実現するための一連の処理の過程は、プログラムの形式で記録媒体等に記録されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等である。
図6は、制御装置8が備える機能を示した機能ブロック図である。図6に示されるように、制御装置8は、開度制御部61と、断線検知部62(断線検知システム)とを備えている。
開度制御部61は、タービン蒸気制御弁7(止め弁11及び加減弁12)の弁の開度を制御している。具体的には、開度制御部61は、蒸気タービン3の全体の制御を行っている上位制御装置からタービン蒸気制御弁7の開度指令(止め弁11及び加減弁12のそれぞれに対する開度指令)を受け取るとともに、差動トランス式変位計22より、現在のタービン蒸気制御弁7の開度(止め弁11及び加減弁12の開度)の測定値を取得し、上位制御装置から取得した開度指令と現在のタービン蒸気制御弁7の開度が略一致するようにフィードバック制御を行う。なお、本実施形態では、タービン蒸気制御弁7をフィードバック制御することとしているが、タービン蒸気制御弁7の弁の開度制御については様々な方法が適用可能である。
断線検知部62は、2次コイル25の出力電圧(VA及びVB)に基づいて、差動トランス式変位計22の異常(特に、断線)を検出する。このため、断線検知部62は、電圧値比較部63と、電圧変化率比較部64と、判定部65と、切替部66を備えている。
電圧値比較部63は、計測部27a、27bにより計測された2次コイル25の出力電圧値と、予め設定された閾値とを比較し、比較結果を判定部65に出力する。具体的には、電圧値比較部63は、予め設定された下限閾値VL、上限閾値VH、及び和電圧閾値(VL´、VH´)と、計測部27a、27bにより計測された2次コイル25の出力電圧(VA及びVB)とを比較する。このため、電圧値比較部63は、下限電圧値比較部71と、上限電圧値比較部72と、和電圧値比較部73とを備えている。なお、本実施形態では、電圧値比較部63は、下限電圧値比較部71と、上限電圧値比較部72と、和電圧値比較部73のすべてを備える構成としているが、下限電圧値比較部71と、上限電圧値比較部72と、和電圧値比較部73の少なくとも1つを備える構成とすることも可能である。
下限電圧値比較部71は、計測部27a、27bにより計測された2次コイル25の出力電圧(VA及びVB)と、予め設定された下限閾値VLとを比較する。差動トランス式変位計22において、内部回路(例えば、2次コイル25と計測部とを接続する配線)に断線が発生した場合には、計測部27a、27bの計測結果は零となる。このように、差動トランス式変位計22において断線が発生した場合には計測部27a、27bで計測される電圧値は零となる(但し、2次コイル25自体の断線時は後述する2次コイル25a、25bのコモン線を接続する影響で大幅に低下する)ため、下限電圧値比較部71では、計測部27a、27bによる計測結果(VA及びVB)が、下限閾値VL以下となったか否かを検出している。なお、差動トランス式変位計22において、1次コイル24側の断線、2次コイル25側の断線、計測部27a、27bと制御装置8とを接続する配線の断線等であっても、計測部27a、27bの計測結果は零となる。このため、下限電圧値比較部71では、差動トランス式変位計22の内部回路における断線を総合的に検出することができる。また、差動トランス式変位計22において、内部回路の断線以外の要因であっても、例えば、1次コイル24の電圧供給源の故障や、計測器の故障、内部回路の短絡等でも計測部27a、27bによる計測結果が零となる可能性がある。すなわち、下限電圧値比較部71では、断線に限らず、差動トランス式変位計22における異常を総合的に判定することができる。
下限閾値VLは、可動鉄心26を動作させた場合における2次コイル25の出力電圧の最小値に所定の倍率を乗ずることによって設定される。図7は、2次コイル25の出力電圧と下限閾値VL及び上限閾値VHとの関係を例示したグラフである。図7に示すように、下限閾値VLは、可動鉄心26を変位させた場合における2次コイル25の出力電圧の最小値よりも低い値に設定される。具体的には、2次コイル25の出力電圧の最小値に対して、0.85から0.95の間で任意に設定された倍率(好ましくは0.85から0.9)を乗ずることによって設定される。なお、2次コイル25の出力電圧の最小値とは、可動鉄心26を動作させた場合における2次コイル25aの出力電圧の最小値VAminと、2次コイル25bの出力電圧の最小値VBminのうちより低い値の出力電圧を用いることが好ましい。このため、下限閾値VLは、以下の式で算出される。
[数1]
VL=MIN(VAmin、VBmin)×0.9 (1)
なお、下限閾値VLは、下限電圧値比較部71により異常検知を行える電圧範囲を示している。具体的には、下限電圧値比較部71では、2次コイル25の出力電圧が0V以上かつ下限閾値VL以下の範囲内である場合に断線の検知が可能である。後述するように、断線が発生したにも関わらず、2次コイル25の出力電圧に下限閾値VL以上の残存電圧が生じてしまった場合には、補完的に、電圧変化率比較部64にて断線を検知するが、下限電圧値比較部71と比較して電圧変化率比較部64は、直接的な計測でないために精度が低い。すなわち、下限閾値VLは、精度の高い下限電圧値比較部71による断線検知が可能な電圧範囲を示している。しかしながら、下限閾値VLが低い(倍率が小さい)場合には、下限電圧値比較部71で断線検知可能な電圧範囲が狭まってしまう。一方で、下限閾値VLが高い(倍率が大きい)場合には、下限電圧値比較部71で断線検知可能な電圧範囲が広がるが、2次コイル25の出力電圧の最小値との差が小さくなり、ノイズ等によって誤検知を招いて、実際には断線を生じていないにも係わらず断線していると判断する可能性がある。このため、下限閾値VLを決定するための倍率については、0.85から0.95の間の所定範囲、さらに好ましくは0.85から0.9の間の所定範囲とすることが良い。なお、倍率の具体的な数値については、0.85から0.95の間で任意に設定する場合に限らず、下限電圧値比較部71で断線検知可能な電圧範囲と、ノイズ等による誤検知とのトレードオフを考慮して適宜設定することも可能である。また、下限閾値VLを決定するための倍率については、0.85から0.95の間で良いことから、複数配置された同一仕様のストローク幅を検出するための差動トランス式変位計22に対して、個々に下限閾値VLを設定するのではなく、複数配置された差動トランス式変位計22の下限閾値VLを共通の値とすることができる。このため、差動トランス式変位計22を設置した際に、タービン蒸気制御弁7(止め弁11及び加減弁12)などの弁の開閉動作と2次コイル25の出力電圧を確認しつつ、個々に下限閾値VLを設定するという細かな調整等を行う必要が無い。したがい、複数の差動トランス式変位計22の下限閾値VLを共通の値とし簡便に設定することで、差動トランス式変位計22を取り付け時の初期の調整時間の削減が可能となる。
上限電圧値比較部72は、計測部27a、27bにより計測された2次コイル25の出力電圧(VA及びVB)と、予め設定された上限閾値VHとを比較する。2次コイル25は、可動鉄心26を介して電圧供給された1次コイル24と結合しているため、例えば、電源28の故障等によって1次コイル24に過電圧が印加された場合には2次コイル25の出力電圧が過大となる。このため、2次コイル25の出力電圧と上限閾値VHとを比較することによって、1次コイル24における電源28の異常などといった差動トランス式変位計22の異常を判定することが可能となる。
上限閾値VHは、可動鉄心26を動作させた場合における2次コイル25の出力電圧の最大値に所定の倍率を乗ずることによって設定される。図7に示すように、上限閾値VHは、可動鉄心26を変位させた場合における2次コイル25の出力電圧の最大値よりも高い値に設定される。具体的には、2次コイル25の出力電圧の最大値に対して、1.05から1.15の間で任意に設定された倍率(好ましくは1.05〜1.1)を乗ずることによって設定される。なお、2次コイル25の出力電圧の最大値とは、可動鉄心26を動作させた場合における2次コイル25aの出力電圧の最大値VAmaxと、2次コイル25bの出力電圧の最大値VBmaxのうちより高い値の出力電圧を用いることが好ましい。具体的には、上限閾値VHは、以下の式で算出される。
[数2]
VH=MAX(VAmax、VBmax)×1.1 (2)
なお、上限閾値VHが低い(倍率が小さい)場合には、上限閾値VHと2次コイル25の出力電圧の最大値との差が小さくなり、ノイズ等によって誤検知を招いて、実際には電源28の異常などを生じていないにも係わらず異常発生していると判断する可能性がある。このため、上限閾値VHを決定するための倍率については、1.05から1.15の間の所定範囲、さらに好ましくは1.1から1.15の間の所定範囲とすることが良い。なお、倍率の具体的な数値については、1.05から1.15の間で任意に設定する場合に限られず、ノイズ等による誤検知を考慮して適宜設定することも可能である。また、上限閾値VHを決定するための倍率については、1.05から1.15の間で良いことから、複数配置された同一仕様のストローク幅を検出するための差動トランス式変位計22に対して、個々に上限閾値VHを設定するのではなく、複数配置された差動トランス式変位計22の上限閾値VHを共通の値とすることができる。このため、差動トランス式変位計22を設置した際に、タービン蒸気制御弁7(止め弁11及び加減弁12)などの弁の開閉動作と2次コイル25の出力電圧を確認しつつ、個々に上限閾値VHを設定するという細かな調整等を行う必要が無い。したがい、複数の差動トランス式変位計22の上限閾値VHを共通の値とし簡便に設定することで、差動トランス式変位計22を取り付け時の初期の調整時間の削減が可能となる。
和電圧値比較部73は、計測部27a、27bにより計測されたそれぞれの2次コイル25の出力電圧の和(VA+VB)と、予め設定された和電圧閾値(VL´、VH´)とを比較する。具体的には、和電圧値比較部73では、計測部27a、27bにより計測されたそれぞれの2次コイル25の出力電圧の和(VA+VB)と、下限和電圧閾値VL´及び上限和電圧閾値VH´とを比較することによって、差動トランス式変位計22の異常(断線等)を検知する。具体的には、下限和電圧閾値VL´及び上限和電圧閾値VH´は、以下の式で算出される。
[数3]
VL´=(VAmin+VBmin)×0.9
VH´=(VAmax+VBmax)×1.1 (3)
なお、(3)式における下限和電圧閾値VL´の倍率は、0.9に限定されず、0.85から0.95の間で任意に設定することが可能である。また、(3)式における上限和電圧閾値VH´の倍率についても、1.1に限定されず、1.05から1.15の間で任意に設定することが可能である。
すなわち、和電圧値比較部73では、2次コイル25の出力電圧の和と、下限和電圧閾値VL´を比較することによって、断線等といった差動トランス式変位計22の異常を検知でき、2次コイル25の出力電圧の和と上限和電圧閾値VH´を比較することによって、1次コイル24の電源28の異常といった差動トランス式変位計22の異常を検知することができる。なお、本実施形態では、下限電圧値比較部71及び上限電圧値比較部72と併用して、和電圧値比較部73を設けることとしているが、下限電圧値比較部71と上限電圧値比較部72、及び和電圧値比較部73のいずれか一方を備えることとしてもよい。
電圧変化率比較部64は、計測部27a、27bにより計測された2次コイル25の出力電圧(VA及びVB)の変化率(ΔVA及びΔVB)と、予め設定された電圧変化率の閾値αとを比較する。具体的には、電圧変化率比較部64では、2次コイル25の出力電圧を取得し、2次コイル25の出力電圧の単位時間当たりの変化率(例えば、mV/msec)を算出し、算出した変化率(ΔVA及びΔVB)と、予め設定された電圧変化率の閾値αとを比較する。すなわち、電圧変化率比較部64では、2次コイル25の出力電圧が閾値を超える変化率で変化(低下)したか否かを検知している。
差動トランス式変位計22においては、図4に示されるように、それぞれの2次コイル25の一方側における電圧測定の基準となる配線がコモン線として互いに接続されている。例えば、2次コイル25aにおけるコモン線(図4におけるO点)に断線が発生した場合には、断線が発生していない2次コイル25bのコモン線と2次コイル25aのコモン線が線L1を介して接続されている状態で、2次コイル25bから2次コイル25aへ電圧が回り込むことがある。この様な場合には、コモン線に断線が発生している2次コイル25aに残存電圧が発生してしまう。残存電圧が発生すると、下限電圧値比較部71における下限閾値VL(および和電圧値比較部73の下限和電圧閾値VL´)以上の電圧値となることがあり、このような場合には、コモン線に断線が発生しているにも関わらず、下限電圧値比較部71において断線を検知することができない。そこで、本実施形態においては、断線が発生した場合に2次コイル25の出力電圧の変化率(ΔVA及びΔVB)が、蒸気制御弁の最大速度動作における差動トランス式変位計22内の可動鉄心26の移動に伴う2次コイル25の出力電圧の変化を上回る速度で、急激に低下することに着目し、2次コイル25の出力電圧の変化率(ΔVA及びΔVB)と電圧変化率の閾値αとを比較することとした。すなわち、電圧変化率比較部64では、予め設定した電圧変化率の閾値を超えるほどの変化率で2次コイル25の出力電圧が変化したか否かを検知し、これに基づいて、後述する判定部65にて異常発生の有無を判定している。
電圧変化率比較部64で用いる電圧変化率の閾値αは、2次コイル25の出力電圧における正常な変化率と、断線等発生時の異常な変化率とを区別可能なように設定される。具体的には、差動トランス式変位計22において、2次コイル25の出力電圧は、タービン蒸気制御弁7の開閉制御によって変化する。すなわち、タービン蒸気制御弁7の最大動作速度時の2次コイル25の出力電圧変化率よりも十分早く2次コイル25の出力電圧が変化した場合に、断線等が発生したと考えることが可能である。すなわち、電圧変化率の閾値は、例えば以下の式で表される。
[数4]
α=((VAmax−VAmin)/Δt)×M (4)
ここで、(4)式におけるΔtは、タービン蒸気制御弁7が最大動作速度で開閉した場合(2次コイル25aの出力電圧が最大値VAmaxから最小値VAminに変化した場合)における開閉時間であり、Mは、余裕度(例えば、2)を示す係数である。すなわち、(4)式は、2次コイル25の出力電圧がΔtの間に最大値VAmaxから最小値VAminに変化した場合の変化率(平均変化率)に所定の余裕度Mを乗じた変化率を示している。このため、該電圧変化率の閾値α以上に2次コイル25の出力電圧が変化した場合には、差動トランス式変位計22で断線が発生したと推定できることを意味している。なお、2次コイル25bについても、(4)式と同様に電圧変化率の閾値αを算出し、2次コイル25aによる電圧変化率の閾値αと、2次コイル25bによる電圧変化率の閾値αのうちより大きな電圧変化率の閾値αを用いることとしてもよい。
なお、電圧変化率比較部64で用いる電圧変化率の閾値αについては、タービン蒸気制御弁7の開閉制御に伴う2次コイル25の出力電圧の最大変化率が算出可能な場合には、最大変化率に所定の余裕度(例えば、1.1)を乗じて設定することとしてもよい。
判定部65は、電圧値比較部63(下限電圧値比較部71、上限電圧値比較部72、和電圧値比較部73)及び電圧変化率比較部64より各比較結果を取得し、差動トランス式変位計22に異常が発生しているか否かを判定する。具体的には、判定部65は、まず、電圧値比較部63による比較結果を参照し、下限電圧値比較部71の比較結果が2次コイル25の出力電圧が下限閾値VL以下であることを示す場合、及び和電圧値比較部73の比較結果が2次コイル25の出力電圧の和が下限和電圧閾値VL´以下であることを示す場合の少なくともいずれか1方が満たされた場合に、差動トランス式変位計22において、異常(例えば、断線)の発生が有りと判定する。
また、判定部65は、上限電圧値比較部72の比較結果が2次コイル25の出力電圧が上限閾値VH以上であることを示す場合、及び和電圧値比較部73の比較結果が、2次コイル25の出力電圧の和が上限和電圧閾値VH´以上であることを示す場合の少なくともいずれか一方が満たされた場合に、差動トランス式変位計22において、異常(例えば、電源28異常)の発生が有りと判定する。
そして、電圧値比較部63による比較結果を参照して異常の発生が有りと判定されなかった場合には、電圧変化率比較部64の比較結果を参照する。具体的には、判定部65は、電圧変化率比較部64の比較結果が、2次コイル25の出力電圧の変化率が電圧変化率の閾値α以上であることを示す場合には、差動トランス式変位計22において、異常(例えば、断線)の発生が有りと判定する。なお、判定部65の制御フローについては後述する。
判定部65は、電圧値比較部63(下限電圧値比較部71、上限電圧値比較部72、和電圧値比較部73)及び電圧変化率比較部64の各比較結果に基づく判定結果を、切替部66に出力する。なお、判定部65は、異常の発生が有りと判定された場合に、発電プラント1の運転員等に、異常の発生が発生したこと(断線によるものか、電源28異常によるものかを含む)を通知することとしてもよい。
切替部66は、判定部65より取得した判定結果に基づいて、差動トランス式変位計22の切り替えを行う。差動トランス式変位計22の異常検知を正確に行うことはタービン制御装置にとって非常に重要な機能であるため、図3及び図4に示すように、1つの弁駆動機に対して2つの差動トランス式変位計22を備える構成として、一方が故障や断線を発生しても弁体の制御が可能なように信頼性を向上させてもよい。切替部66は、判定部65により異常の発生が有りと判定された場合に、異常の発生が有りと判定された差動トランス式変位計22から、他方の差動トランス式変位計22へ、タービン蒸気制御弁7の開度の測定を行う差動トランス式変位計22を切り替える。
例えば、差動トランス式変位計22aを用いて運転を行っている場合(差動トランス式変位計22bは出力電圧があってもよいが、検知には使用せずに待機状態)には、制御装置8は差動トランス式変位計22aより計測結果を取得する。そして、差動トランス式変位計22aに異常が有りと判定された場合には、待機状態であった差動トランス式変位計22bに切り替えることで、制御装置8は、差動トランス式変位計22bより計測結果を取得する。
次に、上述の制御装置8において、残存電圧が発生した場合の断線検知について図7を参照して説明する。図7は、可動鉄心26の変位に対する2次コイル25aの出力電圧の変化(断線なし及び断線あり)を示している。図7に示す例では、2次コイル25aのコモン線に断線が発生した場合における2次コイル25aの出力電圧の変化をVADとして破線で示しており、可動鉄心26の位置が正方向に変位するほど、2次コイル25aに大きな残存電圧が発生する例を示している。
2次コイル25aは、断線が発生する前では、VAとして実線で示すように可動鉄心26の位置に応じて正常な電圧を出力する。しかしながら、2次コイル25aのコモン線に断線が発生した場合には、他方の正常な(非断線側の)2次コイル25bから電圧が回り込み、断線が発生した2次コイル25aに残存電圧(0Vよりも高い)が生じている場合を示す。このため、2次コイル25aから出力される電圧は、VADに示すように全体的に低下する。ここで、横軸のストローク位置で、可動鉄心26の位置がR1の領域内である場合には、2次コイル25aから出力される電圧(VAD)は下限閾値VL以下となる。このため、2次コイル25aのコモン線に断線が発生した場合であっても、可動鉄心26がR1の領域内で変位する場合には、下限電圧値比較部71によって、断線が検知可能である。しかしながら、横軸のストローク位置で、可動鉄心26の位置がR2の領域内である場合には、2次コイル25aに大きな残存電圧が生じているため、2次コイル25aから出力される電圧(VAD)は下限閾値VL以上となってしまう。このため、2次コイル25aのコモン線に断線が発生した場合であっても、可動鉄心26がR2の領域内で変位する場合には、下限電圧値比較部71によって、断線が検知できない。そこで、本実施形態では、下限電圧値比較部71によって断線が検知できない場合に、電圧変化率比較部64によって2次コイル25の出力電圧の変化率と予め設定された電圧変化率の閾値とを比較することで、異常検知を行う。また、下限閾値VLが下限和電圧閾値VL´の場合でも同様に残存電圧が生じていると断線が検知できない場合があるが、上述した電圧変化率の閾値を用いることで異常検知が可能となる。
すなわち、本実施形態における断線検知システムでは、2次コイル25の出力電圧と下限閾値VLとを比較することだけでなく、2次コイル25の出力電圧の変化率と予め設定された電圧変化率の閾値とを比較することによって、差動トランス式変位計22における異常(特に断線)の有無をより正確に検知することが可能となる。
次に、上述の制御装置8による断線検知のフローついて、図8を参照して説明する。図8に示すフローは、タービン蒸気制御弁7が稼働される(差動トランス式変位計22の測定対象の機器の動作が開始される)と実行される。なお、図8のフローは、所定の制御周期で繰り返し実行される。なお、以下の説明において、初期状態では、差動トランス式変位計22aの測定結果が制御装置8へ送られ、差動トランス式変位計22bは待機状態であるものとする。
まず、差動トランス式変位計22aの2次コイル25の電圧(VAまたはVB)が下限閾値VL以下であるか否かを判定する(S101)。差動トランス式変位計22aの2次コイル25の電圧が下限閾値VL以下である場合(S101のYES判定)には、差動トランス式変位計22aにおいて異常(断線)が発生していると推定して、差動トランス式変位計22bの測定結果を制御装置8へ送るように、差動トランス式変位計22の切替え(待機状態の差動トランス式変位計22bへ切替え)を行う(S105)。
差動トランス式変位計22aの2次コイル25の電圧(VAまたはVB)が下限閾値VL以下でない場合(S101のNO判定)には、差動トランス式変位計22aの2次コイル25の電圧(VAまたはVB)が上限閾値VH以上であるか否かを判定する(S102)。差動トランス式変位計22aの2次コイル25の電圧が上限閾値VH以上である場合(S102のYES判定)には、差動トランス式変位計22aにおいて異常(例えば電源28異常)が発生していると推定して、差動トランス式変位計22bの測定結果を制御装置8へ送るように、差動トランス式変位計22の切替え(待機状態の差動トランス式変位計22bへ切替え)を行う(S105)。
差動トランス式変位計22aの2次コイル25の電圧(VAまたはVB)が上限閾値VH以上でない場合(S102のNO判定)には、差動トランス式変位計22aの2次コイル25の電圧和(VA+VB)が下限和電圧閾値VL´以下または上限和電圧閾値VH´以上であるか否かを判定する(S103)。差動トランス式変位計22aの2次コイル25の電圧和が下限和電圧閾値VL´以下または上限和電圧閾値VH´以上である場合(S103のYES判定)には、差動トランス式変位計22aにおいて異常(断線または電源28異常)が発生していると推定して、差動トランス式変位計22bの測定結果を制御装置8へ送るように、差動トランス式変位計22の切替え(待機状態の差動トランス式変位計22bへ切替え)を行う(S105)。なお、差動トランス式変位計22aの2次コイル25の電圧和(VA+VB)に対する電圧閾値との判定(S103)は、より精度良く判定を確認するには好ましいが、必ずしも必要ではなく省略しても良い。
差動トランス式変位計22aの2次コイル25の電圧和が下限和電圧閾値VL´以下または上限和電圧閾値VH´以上でない場合(S103のNO判定)には、差動トランス式変位計22aの2次コイル25の電圧の変化率(ΔVAまたはΔVB)が電圧変化率の閾値α以上であるか否かを判定する(S104)。差動トランス式変位計22aの2次コイル25の電圧の変化率が閾値以上である場合(S104のYES判定)には、差動トランス式変位計22aにおいて異常(断線または電源28異常)が発生していると推定して、差動トランス式変位計22bの測定結果を制御装置8へ送るように、差動トランス式変位計22の切替え(待機状態の差動トランス式変位計22bへ切替え)を行う(S105)。
差動トランス式変位計22aの2次コイル25の電圧の変化率が閾値以上でない場合(S104のNO判定)には、差動トランス式変位計22aにおいて異常(断線または電源28異常)が発生していないと推定して、断線検知の処理を終了する。なお、断線検知の処理は所定の制御周期で繰り返し実行されるため、差動トランス式変位計22aにおける異常の有無は継続して監視される。
なお、図8に示すフローチャートの処理(ステップ)の順番については、適宜変更可能である。また、各処理を直列処理するだけでなく、並列処理することも可能である。
次に、本発明の一実施形態に係る制御装置8の変形例を説明する。上記実施形態では、下限閾値VLを(1)式を用いて算出する場合について説明したが、本変形例では、適切な下限閾値VLを、過去計測データに基づき自動的に設定(最適化)する。なお、本変形例では、下限閾値VLの設定方法を例示して説明するが、他の閾値(例えば、上限閾値VH、和電圧閾値(VL´、VH´)、電圧変化率の閾値α)についても、同様に自動設定可能である。
本変形例に係る制御装置8は、データベース部と、下限閾値設定部とを更に備える。
データベース部は、計測部27a、27bにより計測された2次コイル25の出力電圧(VA及びVB)を格納する。具体的には、データベース部は、計測された2次コイル25の出力電圧(VA及びVB)をデータベースとして蓄積する。なお、データベース部は、所定期間(例えば、1年)前から現在の間に計測された2次コイル25の出力電圧(VA及びVB)を格納する。
下限閾値設定部は、データベース部に格納された出力電圧(VA及びVB)の頻度分布に基づいて、下限閾値VLを設定する。具体的には、下限閾値設定部は、まず、データベース部に格納された出力電圧に基づいて、頻度分布を算出する。図9は、出力電圧VAの頻度分布の一例である。本実施形態での例では、30%程度から60%程度の弁の開度で多く運用がされ、完全に開閉状態になる頻度は少ない運用にある。なお。図9において領域Eは断線検知の対象となる領域である。すなわち、領域Eは、弁が全閉状態での出力電圧よりも低い出力電圧の下限閾値VL以下になる場合であり、下限電圧値比較部71及び電圧変化率比較部64で断線が検知可能な領域である。ここで断線が検知されたものは待機状態の他方の差動トランス式変位計22bへ切替えが行われ、実際の運用では極めて低い頻度となる。
図10は、図9に記載の領域Eを拡大したグラフである。図10に示されるように、領域E1は、2次コイル25の出力電圧が下限閾値VL以下となっている領域であり、領域E1では、下限電圧値比較部71によって差動トランス式変位計22の異常(断線)が検知可能である。また、領域E2は、2次コイル25の出力電圧が下限閾値VLより大きくなっている領域であり、領域E2では、下限電圧値比較部71によって差動トランス式変位計22の異常(断線)を検出することができず、電圧変化率比較部64によって異常(断線)の検出を行う領域である。
図11は、図10に示す領域E2に示した電圧変化率比較部64によって異常(断線)の検出を行う領域において、2次コイル25の出力電圧の変化率に対する2次コイル25の出力電圧の頻度を示したグラフである。図11に示すように、電圧変化率の閾値α以下の領域では、タービン蒸気制御弁7の正常な動作で2次コイル25の出力電圧は頻繁に変化しているため、頻度が高い状態となる。電圧変化率の閾値α以上の領域では、タービン蒸気制御弁7の正常な動作以外の要因(例えば、断線)で2次コイル25の出力電圧が変化した場合を示しているため、ここで断線が検知されたものは待機状態の他方の差動トランス式変位計22bへ切替えが行われ、実際の運用では極めて頻度が低い状態となる。すなわち、電圧変化率比較部64では、図11における電圧変化率の閾値α以上の領域(紙面で横軸の変化率でαより右側の領域)を異常判定の対象としている。
また、図11に示すように、下限閾値VLを変化させた場合には、電圧変化率比較部64で異常判定の対象とする2次コイル25の出力電圧の頻度が変化する。具体的には、下限閾値VLを低く設定した場合には、下限閾値VLを高く設定した場合と比較して、電圧変化率比較部64で異常判定の対象とする2次コイル25の出力電圧の頻度が高くなる。一方で、下限閾値VLを高く設定した場合には、下限閾値VLを低く設定した場合と比較して、電圧変化率比較部64で異常判定の対象とする2次コイル25の出力電圧の頻度が低くなる。すなわち、図10及び図11に基づくと、下限閾値VLを低く設定した場合には、2次コイル25の出力電圧にノイズがある場合でも誤検知を防止することができるものの、下限電圧値比較部71で直接的な計測により異常判定可能な電圧範囲が狭まるため、異常検知に係る精度が低下する。一方で、下限閾値VLを高く設定した場合には、下限電圧値比較部71で直接的な計測により異常判定可能な電圧範囲が広がるものの、2次コイル25の出力電圧にノイズがある場合に誤検知を行う可能性が高まる。すなわち、直接的な計測により精度の高い下限電圧値比較部71における異常判定可能な電圧範囲の拡大と、ノイズによる誤検知の耐性とはトレードオフの関係があることから、下限閾値VLの値の設定によってバランスをとることが好ましい。
下限閾値VLの値の設定による適切なバランスをとるために、評価ウエイト(重み付け)を設定することで適正な検知となるよう、下限閾値VLの値の設定を自動で行う。下限閾値VLの値(変化させた場合の各値)に対して、下限電圧値比較部71における異常判定可能な電圧範囲が拡大するほど、高い評価の評価ウエイト(重み付け)W1を設定する。また、一方では、下限閾値VLの値に対して、ノイズによる誤検知の耐性が向上するほど、評価ウエイトW1よりも低めの評価ウエイトW2を設定する。評価ウエイトW1と評価ウエイトW2の値はノイズによる誤検知発生の状況によるが、例えば、評価ウエイトW1の最高評価値は、評価ウエイトW2の最高評価値の1.5倍から3倍の間から選定してもよい。下限閾値VLの値に対して評価ウエイトW1と評価ウエイトW2を設定して実際に発生する頻度へ反映すると、下限閾値VLと評価ウエイトを付加した評価結果の関係は、例えば図12のように極大値を有する曲線となる。すなわち、図12に示される評価ウエイトと付加した評価結果の極大値もしくは極大値の付近に対応する下限閾値VLを選定することによって、下限電圧値比較部71における異常判定可能な電圧範囲の拡大した検知範囲と、ノイズによる誤検知の耐性をもつ検知範囲(すなわち2次コイル25の出力電圧の変化率と電圧変化率の閾値とを比較する方法を用いる検知範囲)とのバランスを最適にすることができる。また、バランスが適正となる下限閾値VLを、所定期間(例えば、1年)毎に定期的にデータベース部から抽出して、自動で設定するようにしてもよい。
以上説明したように、本実施形態に係る差動トランス式変位計22の断線検知システム、差動トランス式変位計22、及び断線検知方法によれば、2次コイル25の出力電圧と下限閾値VLとを比較することだけでなく、2次コイル25の出力電圧の変化率と予め設定された電圧変化率の閾値とを比較することによって、差動トランス式変位計22における異常(例えば、断線)の有無を判定している。例えば、差動トランスを構成する2次コイル25に断線が発生した場合、断線が発生した2次コイル25からの出力電圧は零となる。このため、2次コイル25の出力電圧と下限閾値VLとを比較することで、精度よく断線の発生を検出することができる。
しかしながら、2次コイル25を2系統備えて各2次巻線の一方側を計測電位の基準値を合わせるためにコモン線として結合している場合には、片方の2次コイル25に断線が発生したとしても、他方の正常な(非断線側の)2次コイル25から電圧が回り込み、断線が発生した2次コイル25に残存電圧(0Vよりも高い)が生じることがある。残存電圧が下限閾値VL以上となった場合には、2次コイル25の出力電圧と下限閾値VLの比較では、断線を検出できない。そこで、2次コイル25の出力電圧と下限閾値VLの比較に加えて、2次コイル25の出力電圧の変化率と予め設定された電圧変化率の閾値とを比較することとした。すなわち、2次コイル25において断線が発生すると2次コイル25の出力電圧は、差動トランス式変位計内の可動鉄心26の移動に伴う2次コイル25の出力電圧の変化を上回る速度で、急激に低下することに着目し、2次コイル25の出力電圧の変化率と予め設定された電圧変化率の閾値とを比較することで断線を検出することとした。
このため、断線が発生した2次コイル25に残存電圧が発生して断線の発生有無が検出しがたい出力電圧の場合に対しては、2次コイル25の出力電圧の変化率と予め設定された電圧変化率の閾値とを比較することで断線を検出することができる。以上より、2次コイル25の出力電圧と下限閾値VLとを比較すること、及び下限閾値VLとの比較では検出できなかったものには、2次コイル25の出力電圧の変化率と予め設定された電圧変化率の閾値とを比較することを加えた検知を行う。下限閾値VLとの比較と電圧変化率の閾値との比較の両方の比較を行うことで、断線が発生した2次コイル25に残存電圧の発生が影響しない出力電圧には、2次コイル25の出力電圧と下限閾値VLとの比較で直接的な計測により精度よく断線を検知し、残存電圧の発生が影響する出力電圧には、2次コイル25の出力電圧の変化率と予め設定された電圧変化率の閾値とを比較することで補完的に断線を検知することができる。すなわち、断線検知システム全体として、より正確に断線の検知を行うことが可能となる。
なお、2次コイル25の出力電圧と下限閾値VLとを比較することだけでなく、2次コイル25の出力電圧と上限閾値VHとを比較しているため、断線だけでなく、例えば、1次コイル24の電圧供給源の異常停止等といった、差動トランス式変位計22における異常を総合的に検知することができる。
また、可動鉄心26を動作させた場合における2次コイル25の出力電圧の最小値に所定範囲の倍率を乗じた値を下限閾値VLとすることとした。所定範囲の倍率とは、例えば0.85〜0.95の間の所定範囲で設定され、さらに好ましくは0.85〜0.9の間の所定範囲に設定される。このため、複数配置された同一ストローク幅を検出するための差動トランス式変位計22において、個々に下限閾値VLを設定するのではなく、複数配置された差動トランス式変位計22の下限閾値VLを共通の値とすることができる。このため、差動トランス式変位計22を設置した際に、タービン蒸気制御弁7(止め弁11及び加減弁12)などの弁の開閉動作と2次コイル25の出力電圧を確認しつつ、個々に下限閾値VLを設定するという細かな調整等を行う必要が無い。したがい、複数の差動トランス式変位計22の下限閾値VLを共通の値とし簡便に設定することで、下限閾値VLを、細かな調整等を行うことなく、簡便に設定することが可能となる。このため、差動トランス式変位計22を取り付け時の初期の調整時間の削減が可能となる。
また、可動鉄心26を動作させた場合におけるそれぞれの2次コイル25の出力電圧の最小値の和に所定範囲の倍率を乗じた値を下限和電圧閾値VL´とすることとした。所定範囲の倍率とは、例えば0.85から0.95の間の所定範囲で設定され、さらに好ましくは0.85〜0.9の間の所定範囲に設定される。このため、複数配置された同一ストローク幅を検出するための差動トランス式変位計22において、個々に下限和電圧閾値VL´を設定するのではなく、複数配置された差動トランス式変位計22の下限和電圧閾値VL´を共通の値とすることができる。このため、差動トランス式変位計22を設置した際に、タービン蒸気制御弁7(止め弁11及び加減弁12)などの弁の開閉動作と2次コイル25の出力電圧を確認しつつ、個々に下限和電圧閾値VL´を設定するという細かな調整等を行う必要が無い。したがい、複数の差動トランス式変位計22の下限和電圧閾値VL´を共通の値とし簡便に設定することで、下限和電圧閾値VL´を、細かな調整等を行うことなく、簡便に設定することが可能となる。このため、差動トランス式変位計22を取り付け時の初期の調整時間の削減が可能となる。
また、2次コイル25の出力電圧の最大値及び最小値と、可動鉄心26の動作速度に基づいて電圧変化率の閾値を決定することとした。すなわち、可動鉄心26の動作速度に基づく2次コイル25の最大電圧変化率より大きな値に電圧変化率の閾値を設定することができる。このため、可動鉄心26の動作により2次コイル25の出力電圧が変化したとしても、断線と誤検知することを防止し、より正確に断線の判定を行うことが可能となる。
また、2次コイル25の出力電圧が予め設定された上限閾値VHよりも大きくなった場合に、差動トランス式変位計22に異常が有りと判定することとした。例えば、2次コイル25は、可動鉄心26を介して、電圧供給された1次コイル24と結合しているため、1次コイル24に過電圧が印加された場合等では2次コイル25の出力電圧が過大となる。このため、2次コイル25の出力電圧と上限閾値VHとを比較することによって、1次コイル24の電圧供給系統の異常といった差動トランス式変位計22の異常を判定することが可能となる。
また、可動鉄心26を動作させた場合における2次コイル25の出力電圧の最大値に所定範囲の倍率を乗じた値を上限閾値VHとすることとした。所定範囲の倍率とは、例えば1.05〜1.15の間の所定範囲で設定され、さらに好ましくは1.1〜1.15の間の所定範囲に設定される。このため、複数配置された同一ストローク幅を検出するための差動トランス式変位計22において、個々に上限閾値VHを設定するのではなく、複数配置された差動トランス式変位計22の上限閾値VHを共通の値とすることができる。このため、差動トランス式変位計22を設置した際に、タービン蒸気制御弁7(止め弁11及び加減弁12)などの弁の開閉動作と2次コイル25の出力電圧を確認しつつ、個々に上限閾値VHを設定するとうい細かな調整等を行う必要が無い。したがい、複数の差動トランス式変位計22の上限閾値VHを共通の値とし簡便に設定することで、上限閾値VHを、細かな調整等を行うことなく、簡便に設定することが可能となる。このため、差動トランス式変位計22を取り付け時の初期の調整時間の削減が可能となる。
また、可動鉄心26を動作させた場合におけるそれぞれの2次コイル25の出力電圧の最大値の和に所定範囲の倍率を乗じた値を上限和電圧閾値VH´とすることとした。所定範囲の倍率とは、例えば1.05〜1.15の間の所定範囲で設定され、さらに好ましくは1.1〜1.15の間の所定範囲に設定される。このため、複数配置された同一ストローク幅を検出するための差動トランス式変位計22において、個々に上限和電圧閾値VH´を設定するのではなく、複数配置された差動トランス式変位計22の上限和電圧閾値VH´を共通の値とすることができる。このため、差動トランス式変位計22を設置した際に、タービン蒸気制御弁7(止め弁11及び加減弁12)などの弁の開閉動作と2次コイル25の出力電圧を確認しつつ、個々に上限和電圧閾値VH´を設定するという細かな調整等を行う必要が無い。したがい、複数の差動トランス式変位計22の上限和電圧閾値VH´を共通の値とし簡便に設定することで、上限和電圧閾値VH´を、細かな調整等を行うことなく、簡便に設定することが可能となる。このため、差動トランス式変位計22を取り付け時の初期の調整時間の削減が可能となる。
また、断線検知システムにおいて、計測部27a、27bにより計測された2次コイル25の出力電圧を格納するデータベース部と、データベース部に格納された2次コイル25の出力電圧の頻度分布に基づいて、下限閾値VLを設定することとした。2次コイル25の出力電圧と下限閾値VLとを比較する方法は、2次コイル25の出力電圧の変化率と電圧変化率の閾値とを比較する方法と比べて、直接的な計測に基づくものであり精度良く2次コイル25の断線を検出することができる。しかしながら、下限閾値VLを高い電圧設定すると、2次コイル25の出力電圧にノイズ成分が含まれている場合に、実際には断線を生じていないにも係わらず断線しているとする誤判定を招きやすくなる等の問題が生じる。そこで、2次コイル25の出力電圧の頻度分布を用いることで、断線の検出に2次コイルの出力電圧と下限閾値とを比較する方法を用いる検知範囲と、2次コイル25の出力電圧の変化率と電圧変化率の閾値とを比較する方法を用いる検知範囲とのバランスが適正となる下限閾値VLを設定することができる。
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々変形実施が可能である。