JP2019143688A - 流体動圧軸受装置及びこれを備えたモータ - Google Patents
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Abstract
【課題】組立て時における潤滑油の漏れ出しを効果的に防止しつつ、使用時における潤滑油の減少を可及的に抑制することにより、優れた軸受性能を長期にわたって発揮可能とする流体動圧軸受装置を低コストに提供する。【解決手段】本発明に係る流体動圧軸受装置1は、有底筒状のハウジング7と、軸受スリーブ8と、挿脱可能に軸受スリーブ8の内周に挿入された軸部2aを有する軸部材2と、軸部材2の外周面との間に径方向隙間Gaを形成する環状部9と、ラジアル軸受部R1,R2と、スラスト軸受部Tと、スラスト軸受部Tを収容する底隙間Gbとを備える。ハウジング7の内部空間の一部が潤滑油11で満たされており、かつ径方向隙間Gaを含む残部の領域が潤滑油11で満たされていない空隙部となっている。軸部材2の外周面のうち軸受スリーブ8の内周面8a1と対向する第一の部分2a1の外径寸法d3よりも、環状部9の内周面9aと対向する第二の部分2b1の外径寸法d4のほうが大きい。【選択図】図4
Description
本発明は、流体動圧軸受装置及びこれを備えたモータに関する。
周知のように、流体動圧軸受装置は、高速回転、高回転精度および低騒音等の特長を有する。このため、流体動圧軸受装置は、情報機器をはじめとする種々の電気機器に搭載されるモータ用の軸受装置として、具体的には、HDD等のディスク駆動装置に組み込まれるスピンドルモータ用、これらディスク駆動装置やPC等に組み込まれるファンモータ用、あるいはレーザビームプリンタ(LBP)に組み込まれるポリゴンスキャナモータ用の軸受装置などとして好適に使用されている。
流体動圧軸受装置の一例が下記の特許文献1に記載されている。この流体動圧軸受装置は、有底筒状(筒状部とその軸方向一端を閉塞する底部とを一体に有する形状)のハウジングと、ハウジングの内周に配設された軸受スリーブと、挿脱自在に軸受スリーブの内周に挿入された軸部材と、ラジアル軸受隙間に形成される潤滑油の油膜で軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部と、軸部材の一端を支持するスラスト軸受部と、スラスト軸受部を収容した底隙間と、ハウジングの開口部内周に固定された環状部材(シール部材)とを備える。
この流体動圧軸受装置において、環状部材は、その一端面(相対的に軸受内部側に位置する端面)を軸受スリーブの対向端面に当接させた状態でハウジングの内周に固定されている。そのため、ハウジングに対する軸受スリーブの固定力(軸受スリーブの抜去力)が高まり、軸方向におけるハウジングと軸受スリーブの相対位置、ひいては所望の軸受性能が安定的に維持される。また、この流体動圧軸受装置は、ハウジングの内部空間全域を潤滑油で満たした、いわゆるフルフィル状態で使用されるものであり、環状部材の内周面と軸部材の外周面との間にシール空間(ラジアル軸受隙間よりも隙間幅の大きい径方向隙間)が設けられる。シール空間は、潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有し、想定される温度変化の範囲内において潤滑油の油面を常にシール空間の範囲内に保持し得るように設計されている。従って、潤滑油の外部漏洩に起因した軸受性能の低下や周辺環境の汚染が可及的に防止される。
しかしながら、ハウジングの内部空間全域を潤滑油で満たした、いわゆるフルフィル状態の潤滑油含浸構造を採用すると、流体動圧軸受装置の組立て後に、真空含浸等の煩雑な手法を用いてハウジングの内部空間全域を潤滑油で満たし、かつ潤滑油のシール空間における油面位置を精度良く管理する(潤滑油の充填量を微調整する)必要がある。そのため、従来の含油構造では流体動圧軸受装置に対する更なる低コスト化の要請に対応することが難しい、という問題が指摘されていた。
そこで、本出願人は、上記課題を解決すべく特許文献2に記載の如き流体動圧軸受装置を提案している。すなわち、この流体動圧軸受装置は、軸方向一端が閉塞されると共に軸方向他端が開口している有底筒状のハウジングと、ハウジングの内周に配設された軸受スリーブと、挿脱可能に軸受スリーブの内周に挿入された軸部材と、一端面を軸受スリーブの一端面に当接させた状態でハウジングの一端内周に固定され、軸部材の外周面との間に径方向隙間を形成する環状部材と、軸受スリーブの内周面と軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に形成される潤滑油の油膜で軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部と、軸部材の一端をスラスト方向に支持するスラスト軸受部と、スラスト軸受部を収容し、潤滑油で満たされた底隙間とを備えたもので、ハウジングの内部空間に空隙部が設けられ、ラジアル軸受隙間の隙間幅をW1、径方向隙間の隙間幅をW2としたとき、30×W1≦W2≦250×W1の関係式を満たすことを特徴とする。
このようにハウジングの内部空間に空隙部を設けることで、ハウジングの内部空間に充填する潤滑油量が、上記内部空間の全容積よりも少なくなり、上記内部空間に潤滑油で満たされていない領域が設けられる。よって、ハウジングの内周に軸受スリーブ及び環状部材を固定した後であって、軸受スリーブ内周への軸部材の挿入前に、適当な給油具(例えばマイクロピペット)を用いて内部空間に潤滑油を注入するだけで、内部空間に必要量の潤滑油を介在させることができる。従って、注油のための大掛かりな設備や高精密な油面の調整及び管理作業が不要となり、流体動圧軸受装置の製造コストを低廉化することができる。
また、ラジアル軸受隙間の隙間幅をW1、径方向隙間の隙間幅をW2としたとき、30×W1≦W2≦250×W1の関係式を満たすように、ラジアル軸受隙間の隙間幅と径方向隙間の隙間幅をそれぞれ設定することにより、軸部材の挿入に伴う環状部材の内周面への潤滑油の付着が可及的に防止される。従って、組立て時の潤滑油漏れを可及的に防止することが可能となり、これにより、流体動圧軸受装置への注油、ひいては流体動圧軸受装置の組立てを簡便かつ低コストに実行可能としている。
特許文献2に記載された技術は、所定量の潤滑油を注入した状態から挿脱自在な軸部材を挿入することにより、ラジアル軸受隙間や底隙間などハウジングの内部空間のうち最低限必要な部分に潤滑油を満たしてなる、いわばパーシャルフィル状態の含油構造を得るものである。従って、当該技術によれば、従来よりも少ない潤滑油でもって優れた軸受性能を発揮することが可能となる。一方で、この種の形態をなす流体動圧軸受装置においては、軸部材と環状部材との間の径方向隙間の大きさが問題となる。すなわち、上述のように、組立て時の潤滑油の漏れ出しを効果的に防止するためには、径方向隙間の隙間幅W2をラジアル軸受隙間W1の30倍以上とする必要があるが、これだけ径方向隙間を大きくすると、ハウジングの内部空間のうち径方向隙間を介して大気に開放されている領域が大きくなるため、どうしても潤滑油の蒸発が問題となる。ましてや、上述のように特許文献2に記載の技術は、従来よりも潤滑油の注油量を少なくしているため、蒸発による潤滑油の消失は、軸受性能の低下に直結し易い。
以上の実情に鑑み、本発明では、組立て時における潤滑油の漏れ出しを防止しつつ、使用時における潤滑油の減少を可及的に抑制することにより、優れた軸受性能を長期にわたって発揮可能な流体動圧軸受装置を低コストに提供することを、解決すべき技術課題とする。
前記課題の解決は、本発明に係る流体動圧軸受装置によって達成される。すなわち、この軸受装置は、軸方向一端が閉塞されると共に軸方向他端が開口している有底筒状のハウジングと、ハウジングの内周に配設された軸受スリーブと、挿脱可能に軸受スリーブの内周に挿入された軸部を有する軸部材と、ハウジングの他端開口側に位置し、軸部材の外周面との間に径方向隙間を形成する環状部と、軸受スリーブの内周面と軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に形成される潤滑油の油膜で軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部と、軸部材の一端をスラスト方向に支持するスラスト軸受部と、スラスト軸受部を収容する底隙間とを備えた流体動圧軸受装置において、ハウジングの内部空間の一部が潤滑油で満たされており、かつ径方向隙間を含む残部が潤滑油で満たされていない空隙部であって、軸部材の外周面のうち軸受スリーブの内周面と対向する第一の部分の外径寸法より、環状部の内周面と対向する第二の部分の外径寸法のほうが大きい点をもって特徴付けられる。なお、ここでいう「スラスト軸受部」は、軸部材の一端をスラスト方向に接触支持するピボット軸受部であってもよいし、軸部材の一端を潤滑油の動圧でスラスト方向に非接触支持する動圧軸受部であってもよい。
このように、本発明に係る流体動圧軸受装置では、ハウジングの内部空間の一部を潤滑油で満たした、いわばパーシャルフィルの形態をなす含油構造を採用しながら、軸部材の外径寸法を、組立て完了状態において軸受スリーブとの間でラジアル軸受隙間を形成する部分と、環状部との間で径方向隙間を形成する部分とで異ならせた。具体的には、軸部材の外周面のうちラジアル軸受隙間を形成する第一の部分の外径寸法よりも、径方向隙間を形成する第二の部分の外径寸法を大きくした。これにより、軸部材の軸受スリーブへの挿入時、軸部材の外周面の第一の部分と環状部との間に相対的に大きな径方向隙間(挿入時隙間)が形成されるので、軸部材の挿入に伴いハウジングの内部空間に残存している空気が挿入時隙間を通じてスムーズに排出される一方、潤滑油の環状部内面への付着は可及的に防止される。また、軸部材を挿入し終えた後、すなわち流体動圧軸受装置の組立てが完了した後、軸部材の外周面の第二の部分と環状部との間に径方向隙間が形成されるが、この径方向隙間は挿入時隙間に比べて相対的に小さいために、ハウジングの内部空間のうち径方向隙間を通じて大気に開放されている領域は縮小する。以上の作用より、本発明によれば、軸部材の挿入時における潤滑油の漏れ出しを効果的に防止しつつも、使用時における潤滑油の蒸発を可及的に抑制して、優れた軸受性能を長期にわたって発揮することが可能となる。また、軸部材の外径寸法を所定の領域間で異ならせただけの構成変更で済むため、大幅なコストアップを避けて量産することが可能となる。もちろん、本発明によれば、軸部材の挿入前に潤滑油を注入するだけで済むため、真空含浸などの大掛かりな設備を必要とする注油作業や高精密な油面の調整ないし管理作業が不要となる。また、注油量も上述の通り必要最小限で足りる。以上の点より、本発明に係る流体動圧軸受装置の製造コストを下げることが可能となる。
また、本発明に係る流体動圧軸受装置においては、軸受スリーブの内径寸法をd1、環状部の内径寸法をd2、軸部材の外周面のうち軸受スリーブとの間にラジアル軸受隙間を形成する第一の部分の外径寸法をd3、及び環状部との間に径方向隙間を形成する第二の部分の外径寸法をd4としたとき、10×(d1−d3)≦d2−d4<60×(d1−d3)を満たしていてもよい。
上述のように各部材の寸法を具体的に設定することにより、流体動圧軸受装置の組立て完了状態において、軸部材と環状部との径方向隙間の隙間幅が、ラジアル軸受隙間の隙間幅の30倍未満となる。径方向隙間の隙間幅を上述の程度までに留めておけば、流体動圧軸受装置の使用時、ハウジングの内部空間に充填されている潤滑油の大気への蒸発を効果的に抑制して、潤滑油の減少を最小限に抑えることができる。従って、軸受性能の低下を防止して長期にわたって優れた軸受性能を発揮させることが可能となる。また、径方向隙間の隙間幅をラジアル軸受隙間の隙間幅の5倍以上にしておけば、組立て時、すなわち軸部材の挿入時に、軸部材と環状部とが干渉する事態を確実に防止できるので、組立て作業を円滑かつ安全に行うことが可能となる。
また、この場合、本発明に係る流体動圧軸受装置においては、60×(d1−d3)≦d2−d3を満たしていてもよい。
上述のように各部材の寸法を設定することにより、流体動圧軸受装置の組立て時、より具体的には軸部材の挿入時において、軸部と環状部との径方向隙間(すなわち挿入時隙間)の隙間幅がラジアル軸受隙間の隙間幅の30倍以上となる。ラジアル軸受隙間と径方向隙間とが上述のような関係を満たす場合、軸部材の挿入に伴う環状部材の内周面への潤滑油の付着が効果的に防止される。従って、組立て時の潤滑油漏れを安定して防止することが可能となる。
また、本発明に係る流体動圧軸受装置においては、軸部材が、軸部と、軸部より大径で、環状部との間に径方向隙間を形成する第二の部分が外周に設けられた大径部とを一体に有するものであってもよい。
あるいは、軸部材が、軸部と、軸部の外周に配置され、環状部との間に径方向隙間を形成する第二の部分が外周に設けられた隙間形成部材とを有するものであってもよい。
軸部と大径部とが一体化されていれば、軸部が軸受スリーブに対して位置決めされると同時に大径部の環状部に対する位置決めもなされる。従って、ラジアル軸受隙間を高精度に管理することで、径方向隙間も自動的に高精度に管理することが可能となる。また、軸部とは別に隙間形成部材を用意し、軸部の外周に配置した構成をとることで、軸部を単純形状として、より簡便に軸受スリーブへの挿入を行うことができる。また、径方向隙間の大きさのみを変更したい場合にも迅速かつ容易に対応することができる。
また、本発明に係る流体動圧軸受装置においては、径方向隙間と底隙間とを連通させる連通路をさらに有し、連通路の少なくとも一部で空隙部が構成されていてもよい。
このように構成すれば、内部空間に潤滑油を注入した後に、軸受スリーブの内周に軸部材を挿入した場合であっても、軸部材の挿入に伴って底隙間の側に押し込まれる空気を、連通路を介して大気に円滑に排出することができるので、軸部材の挿入に伴う潤滑油の外部漏洩を一層効果的に防止することができる。
また、本発明に係る流体動圧軸受装置においては、軸受スリーブが、内部空孔に潤滑油を含浸させた多孔質体からなるものであってもよい。
このように軸受スリーブを多孔質体で形成し、その内部空孔に潤滑油を含浸させた構造とすれば、軸受スリーブの表面開孔からの潤滑油の滲み出しにより、ラジアル軸受隙間及び底隙間の双方を潤沢な潤滑油で満たすことができる。よって、ラジアル軸受部及びスラスト軸受部の軸受性能を安定的に維持することが可能となる。また、予め潤滑油を含浸させた状態の軸受スリーブをハウジングに固定できれば、その分ハウジングの内部空間に注入する潤滑油の量を少なくできる。よって、ハウジング内部への注油作業をより簡便に行うことが可能となる。
また、本発明に係る流体動圧軸受装置においては、潤滑油が、エステル系もしくはPAO系潤滑油であってもよい。
このように、エステル系もしくはPAO系の潤滑油を使用することで、流体動圧軸受装置1の使用時や輸送時における温度変化等に強い含油構造を得ることができる。
以上の説明に係る流体動圧軸受装置は、上述のように、組立て時における潤滑油の漏れ出しを効果的に防止しつつ、使用時における潤滑油の減少を可及的に抑制することにより、優れた軸受性能を長期にわたって発揮可能とするものであるから、例えばこの流体動圧軸受装置を備えたモータとして好適に提供可能である。
以上より、本発明によれば、組立て時における潤滑油の漏れ出しを防止しつつ、使用時における潤滑油の減少を可及的に抑制することにより、優れた軸受性能を長期にわたって発揮可能な流体動圧軸受装置を低コストに提供することが可能となる。
以下、本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態に係るファンモータの一構成例を概念的に示したものである。このファンモータは、流体動圧軸受装置1と、流体動圧軸受装置1の回転部となる軸部材2と、軸部材2が取付けられ、かつ図示しない羽根を有するロータ3と、ロータ3に取付けられるロータマグネット4と、ロータマグネット4と半径方向のギャップを介して対向するステータコイル5と、ステータコイル5が取付けられ、ファンモータの静止側を構成する保持部材としてのモータベース6とを備える。流体動圧軸受装置1のハウジング7は、モータベース6の内周に固定され、ロータ3は、流体動圧軸受装置1の軸部材2の一端に固定されている。このように構成されたファンモータにおいて、ステータコイル5に通電すると、ステータコイル5とロータマグネット4との間の電磁力でロータマグネット4が回転し、これに伴って軸部材2、および軸部材2に固定されたロータ3が一体に回転する。
なお、ロータ3が回転すると、ロータ3に設けられた羽根の形態に応じて図1中上向き又は下向きに風が送られる。このため、ロータ3の回転中にはこの送風作用の反力として、流体動圧軸受装置1の軸部材2に図1中下向き又は上向きの推力が作用する。ステータコイル5とロータマグネット4との間には、この推力を打ち消す方向の磁力(斥力)を作用させており、上記推力と磁力の大きさの差により生じたスラスト荷重が流体動圧軸受装置1のスラスト軸受部Tに作用する。上記推力を打ち消す方向の磁力は、例えば、ステータコイル5とロータマグネット4とを軸方向にずらして配置することにより発生させることができる(詳細な図示は省略)。また、ロータ3の回転時には、流体動圧軸受装置1の軸部材2にラジアル荷重が作用する。このラジアル荷重は、流体動圧軸受装置1のラジアル軸受部R1,R2に作用する。
図2は、本実施形態に係る流体動圧軸受装置1の断面図である。この流体動圧軸受装置1は、ハウジング7と、ハウジング7の内周に配設された軸受スリーブ8と、軸受スリーブ8の内周に挿入された軸部材2と、軸受スリーブ8よりもハウジング7の開口側でハウジング7の内周に固定された環状部材9とを主に備える。ここで、環状部材9が本発明に係る環状部に相当する。ハウジング7の内部空間には所定量の潤滑油11(図2中、密な散点ハッチングで示す)が充填されており、少なくとも、軸部材2をラジアル方向に支持するラジアル軸受部R1,R2のラジアル軸受隙間Gr(図4を参照)と、軸部材2の下端をスラスト方向に支持するスラスト軸受部Tを収容した底隙間Gbとが潤滑油11で満たされている。なお、以下では、説明の便宜上、環状部材9が配置された側を上側、その軸方向反対側を下側とするが、使用時における流体動圧軸受装置1の姿勢を限定するものではない。
ハウジング7は、筒状部7aと、筒状部7aの下端側を閉塞する底部7bとを有する形状(いわゆる有底筒状)をなし、本実施形態では、図2に示すように筒状部7aと底部7bが金属で一体に形成されている。筒状部7aと底部7bの境界部内周には、筒状部7a及び底部7bと一体に段部7cが形成され、段部7cの上端面7c1に軸受スリーブ8の下端面8b(の外周側領域)が当接している。本実施形態では、ハウジング7の底部7bの内底面7b1のスラスト軸受面となる領域に、例えば樹脂製のスラストプレート10を配置している。これにより内底面7b1(すなわちスラストプレート10の上端面)が段部7cの上端面7c1よりも所定高さ分だけ低くなるようにしている。ただし、このスラストプレート10は必ずしも設ける必要はなく、省略しても構わない。その場合、底部7bの上端面がスラスト軸受面となる。もちろん、このハウジング7は樹脂の射出成形品とすることもできる。
軸部材2は、軸受スリーブ8の内周に挿入される軸部2aを有する。この場合、軸部材2のうち少なくとも軸部2aがステンレス鋼などの鋼材をはじめとする高剛性の金属材料で形成される。軸部2aの外周面2a1は平滑な円筒面に形成されると共に、凸球面状の先端部2a2を除いて軸部2aの全長にわたって外径寸法が一定となるように形成されている。この場合、軸部2aの外周面2a1が本発明に係る第一の部分に相当する。軸部材2の外径寸法は、軸受スリーブ8および環状部材9の内径寸法よりも小径とされる。従って、軸部材2は、軸受スリーブ8および環状部材9に対して挿脱自在とされる。軸部2aの先端部2a2は、ハウジング7の内底面7b1(スラストプレート10の上端面)と接触している。
また、本実施形態では、軸部材2は、軸部2aと、軸部2aより大径で、軸部2aが軸受スリーブ8の内周に挿入された状態において環状部材9との間に後述する径方向隙間Ga(図4を参照)を形成する大径部2bとを一体に有する。この場合、大径部2bの外周面2b1が本発明に係る第二の部分に相当する。径方向隙間Gaの詳細については後述する。
軸受スリーブ8は、多孔質体、ここでは銅系粉末(純銅粉末だけでなく銅合金粉末を含む)あるいは鉄系粉末(純鉄粉末だけでなく鉄合金粉末を含む)を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成される。この場合、軸受スリーブ8の内部空孔には、潤滑油11が含浸されている。軸受スリーブ8は、焼結金属以外の多孔質体、例えば多孔質樹脂で形成することもできる。この軸受スリーブ8は、その下端面8bをハウジング7の段部7cの上端面7c1に当接させた状態でハウジング7に固定されている。これにより、ハウジング7と軸受スリーブ8の軸方向における相対的な位置決めがなされ、かつ軸受スリーブ8の下端面8bとハウジング7の内底面7b1(スラストプレート10の上端面)との間に所定容積の底隙間Gbが形成される。
軸受スリーブ8は、圧入(大きな締め代をもたせた圧入)、接着、圧入接着(圧入と接着の併用)等の適宜の手段でハウジング7の内周に固定し得るが、本実施形態では、環状部材9とハウジング7の底部7b(の外径端に設けた段部7c)とで軸受スリーブ8をその軸方向両側から挟持することにより、軸受スリーブ8をハウジング7の内周位置においてハウジング7に固定している。このようにすれば、環状部材9をハウジング7に固定するのと同時に、軸受スリーブ8をハウジング7に固定することができるので、部材同士の組み付けに要する手間を軽減することができる。また、軸受スリーブ8を、金属製とされる本実施形態のハウジング7の内周に大きな締め代をもって圧入すると、圧入に伴う軸受スリーブ8の変形が軸受スリーブ8の内周面8aに及び、ラジアル軸受隙間Grの幅精度、ひいてはラジアル軸受部R1,R2の軸受性能に悪影響が及ぶ可能性があるが、上記の固定方法ではこのような弊害が可及的に防止される。さらには、軸受スリーブ8の内部空孔に予め潤滑油11を含浸させておき、然る後、ハウジング7に固定する場合、接着固定だと、軸受スリーブ8の外周面8dから潤滑油11が滲み出て、接着に支障を来すおそれがあるが、軸方向に挟持することでハウジング7に固定するのであれば、このような問題も生じない。
軸受スリーブ8の内周面8aには、対向する軸部2aの外周面2a1との間にラジアル軸受隙間Gr(図4を参照)を形成する円筒状のラジアル軸受面が軸方向の二箇所に設けられる。図3に示すように、各ラジアル軸受面には、ラジアル軸受隙間内の潤滑油11に動圧作用を発生させるための動圧発生部(ラジアル動圧発生部)A1,A2がそれぞれ形成されている。本実施形態のラジアル動圧発生部A1,A2は、それぞれ、互いに反対方向に傾斜し、かつ軸方向に離間して設けられた複数の上側動圧溝Aa1および下側動圧溝Aa2と、両動圧溝Aa1,Aa2を区画する凸状の丘部とを有し、全体としてヘリングボーン形状を呈する。本実施形態の丘部は、周方向で隣り合う動圧溝間に設けられた傾斜丘部Abと、上下の動圧溝Aa1,Aa2間に設けられ、傾斜丘部Abと略同径の環状丘部Acとからなる。
上側のラジアル動圧発生部A1においては、上側の動圧溝Aa1の軸方向寸法が下側の動圧溝Aa2の軸方向寸法よりも大きくなっている。一方、下側のラジアル動圧発生部A2においては、下側の動圧溝Aa2の軸方向寸法が上側の動圧溝Aa1の軸方向寸法よりも大きくなっている。さらに、ラジアル動圧発生部A1を構成する上側の動圧溝Aa1の軸方向寸法は、ラジアル動圧発生部A2を構成する下側の動圧溝Aa2の軸方向寸法と等しく、また、ラジアル動圧発生部A1を構成する下側の動圧溝Aa2の軸方向寸法は、ラジアル動圧発生部A2を構成する上側の動圧溝Aa1の軸方向寸法と等しくなっている。従って、軸部材2の回転時、上側(ラジアル軸受部R1)および下側(ラジアル軸受部R2)のラジアル軸受隙間Gr内の潤滑油11は、それぞれ、下側および上側のラジアル軸受隙間に向けて押し込まれる。
なお、ラジアル動圧発生部A1,A2は、例えば、軸受スリーブ8を成形するのと同時に(詳細には、金属粉末を圧粉成形した後、焼結してなる焼結体にサイジング加工を施すことで仕上がり寸法の軸受スリーブ8を成形するのと同時に)型成形で形成してもよいし、焼結金属の良好な加工性に鑑み、内周面が平滑面に成形された軸受素材に転造等の塑性加工を施すことで形成してもよい。また、ラジアル動圧発生部A1,A2(各動圧溝)の形態はこれに限定されるものではない。例えば、ラジアル動圧発生部A1,A2の何れか一方又は双方は、スパイラル形状の動圧溝を円周方向に複数配列したものとしてもよい。また、ラジアル動圧発生部A1,A2の何れか一方又は双方は、対向する軸部2aの外周面2a1に形成してもよい。
ハウジング7(の筒状部7a)の内周面7a1の上側領域には、図2に示すように、金属又は樹脂で円環状に形成された環状部材9が接着、圧入、圧入接着等の適宜の手段で固定される。環状部材9の内周面9aと、これに対向する軸部材2の大径部2bの外周面2b1との間には径方向隙間Gaが形成されており、軸受スリーブ8の上側は、この径方向隙間Gaを介して大気に開放されている。
図4に拡大して示すように、径方向隙間Gaの隙間幅w2は、ラジアル軸受部R1,R2(図4では上側のラジアル軸受部R1のみ図示している)のラジアル軸受隙間Grの隙間幅w1よりも広く設定される。具体的には、軸受スリーブ8の内径寸法をd1、環状部材9の内径寸法をd2、軸部2aの外周面2a1(第一の部分)の外径寸法をd3、及び大径部2bの外周面2b1(第二の部分)の外径寸法をd4としたとき、10×(d1−d3)≦d2−d4<60×(d1−d3)を満たすように、各部材の寸法が設定される。これを径方向隙間Gaの隙間幅w2と、ラジアル軸受部R1(R2)の隙間幅w1を用いて書き直すと、5×w1≦w2<30×w1となる。
なお、ラジアル軸受隙間Grの隙間幅w1は、必要とされる軸受性能に応じて適宜の大きさに設定され、通常数μm程度、より具体的には2〜10μmに設定される(図4では、ラジアル軸受隙間Grの隙間幅w1を誇張して描いている)。従って、例えばラジアル軸受隙間Grの隙間幅w1が10μmに設定される場合、径方向隙間Gaの隙間幅w2は、50μm(0.05mm)以上でかつ300μm(0.30mm)未満に設定される。
一方、上述のとおり、環状部材9は、軸受スリーブ8をハウジング7に対して固定するための固定部材としての機能も有することから、径方向隙間Gaの隙間幅w2をあまりに大きく設定すると、環状部材9と軸受スリーブ8との接触面積が減少し、ハウジング7に対する軸受スリーブ8の固定力低下を招来する。ただし、w2<30×w1の関係式を満たすように各部材の寸法を設定すれば、固定力不足の問題は生じない。
また、軸部2aの挿入に伴う環状部材9の内周面9aへの潤滑油11の付着を効果的に防止する観点からは、60×(d1−d3)≦d2−d3を満たすように、各部材の寸法を設定するのがよい。効果については後述する。
流体動圧軸受装置1は、本実施形態では、径方向隙間Gaと底隙間Gbとを連通させるための連通路12を有する。連通路12は、ハウジング7と軸受スリーブ8との間に形成され、一端が底隙間Gbに開口した第1通路12aと、軸受スリーブ8と環状部材9との間に形成され、一端が径方向隙間Gaに開口すると共に他端が第1通路12aの他端につながった第2通路12bとで構成される。ここでは、軸受スリーブ8の外周面8dに形成した一又は複数の軸方向溝8d1とハウジング7(筒状部7a)の内周面7a1とで形成される軸方向の流体通路、および軸受スリーブ8の下端面8bに形成した一又は複数の径方向溝8b1とハウジング7の段部上端面7c1とで形成される径方向の流体通路で上記の第1通路12aを構成している。また、軸受スリーブ8の上端面8cに形成した一又は複数の径方向溝8c1と環状部材9の下端面9bとで形成される径方向の流体通路で、上記の第2通路12bを構成している。
以上の構成を有する流体動圧軸受装置1が図2に示す姿勢で配置された状態では、ハウジング7の内部空間のうち、少なくともラジアル軸受部R1,R2のラジアル軸受隙間Gr及びスラスト軸受部Tを収容した底隙間Gbを含む一部の領域が潤滑油11で満たされる。本実施形態では、さらに、軸受スリーブ8の下端面8bに形成した径方向溝8b1、軸受スリーブ8の下端外周チャンファで形成される環状空間、および軸受スリーブ8の上端内周チャンファと軸部2aの外周面2a1との間に形成される径方向隙間(環状空間)も潤滑油11で満たされる(図2を参照)。一方、ハウジング7の内部空間のうち、連通路12の一部を含む残部の領域(上述した一部の領域を除いた領域)は潤滑油11で満たされていない。具体的には、軸受スリーブ8の外周面8dに形成した軸方向溝8d1(第1通路12aの一部)、軸受スリーブ8の上端外周チャンファで形成される環状空間、軸受スリーブ8の上端面8cに形成した径方向溝8c1(第2通路12b)、及び径方向隙間Gaが潤滑油11で満たされていない。
以上より、この流体動圧軸受装置1では、ハウジング7の内部空間に充填される潤滑油11の量(体積)が、ハウジング7の内部空間の容積よりも少なくなっており、従って、この流体動圧軸受装置1(ハウジング7)の内部空間には潤滑油11が介在しない空隙部が設けられている。本実施形態では、連通路12の一部と径方向隙間Gaとで空隙部が構成されている。
ここで、潤滑油11としては、流体動圧軸受装置1の使用時や輸送時における温度変化等を考慮して、エステル系もしくはPAO系潤滑油が好適に使用される。
以上の構成を具備する流体動圧軸受装置1は、以下のような手順で組み立てられる。
まず、内部空孔に潤滑油11を含浸させた軸受スリーブ8を用意する。そして、この軸受スリーブ8の下端面8bがハウジング7の段部7cの上端面7c1に当接するまで、軸受スリーブ8をハウジング7の内周に軽圧入もしくは隙間嵌めする。次いで、環状部材9を、その下端面9bを軸受スリーブ8の上端面8cに当接させた状態でハウジング7の内周面7a1の上端部に固定し、軸受スリーブ8を、環状部材9とハウジング7の底部7b(段部7c)とで軸方向両側から挟持して、ハウジング7に固定する。このようにハウジング7と軸受スリーブ8、及び環状部材9がサブアセンブリされた状態で、ハウジング7の内部空間(例えば、軸受スリーブ8の内周)に所定量の潤滑油11を充填する(図5(a)を参照)。そして、図5(b)に示すように、環状部材9および軸受スリーブ8の内周に軸部2aを挿入し、軸部2aの先端部2a2をスラストプレート10の上端面、すなわちハウジング7の底部7bの内底面7b1に当接させると共に(図2を参照)、軸部材2の大径部2bの外周面2b1を環状部材9の内周面9aと対向させる(図4を参照)。これにより、図2に示す流体動圧軸受装置1が完成する。
以上の構成からなる流体動圧軸受装置1において、軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aの上下2箇所に離間して設けられたラジアル軸受面と、これに対向する軸部2aの外周面2a1との間にラジアル軸受隙間Gr,Grがそれぞれ形成される。そして軸部材2の回転に伴い、両ラジアル軸受隙間Gr,Grに形成される油膜の圧力がラジアル動圧発生部A1,A2の動圧作用によって高められ、軸部材2をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が軸方向の二箇所に形成される。これと同時に、ハウジング7の内底面7b1(スラストプレート10の上端面)で軸部材2をスラスト一方向に接触支持するスラスト軸受部Tが形成される。なお、図1を参照しながら説明したように、軸部材2には、これを下方(ハウジング7の底部7b側)に押し付ける外力としての磁力を作用させている。従って、軸部材2が回転するのに伴って軸部材2が過度に浮上するのを、ひいては軸受スリーブ8の内周から抜脱するのを可及的に防止することができる。
以上で説明したように、本発明に係る流体動圧軸受装置1では、ハウジング7の内部空間の一部(ここではラジアル軸受隙間Gr及び底隙間Gbなど)が潤滑油11で満たされた状態(図2を参照)において、径方向隙間Gaを含むハウジング7の内部空間の残部を空隙部としている。これはすなわち、内部空間に充填されている潤滑油11の量が、内部空間の全容積よりも少ないことを意味する。本発明に係る流体動圧軸受装置1では、軸部材2が、軸受スリーブ8(および環状部材9)に対して挿脱自在であることから、上述したように、ハウジング7の内周に軸受スリーブ8及び環状部材9を固定した後であって、軸受スリーブ8内周への軸部材2の挿入前に、適当な給油具を用いてハウジング7の内部空間に潤滑油11を充填するだけで、ハウジング7の内部空間に必要量の潤滑油11を介在させることができる。そのため、真空含浸など注油のための大掛かりな設備や高精密な油面の調整ないし管理作業が不要となり、流体動圧軸受装置1の製造コストを低廉化することができる。
また、本発明に係る流体動圧軸受装置1では、上述のように、ハウジング7の内部空間の一部を潤滑油11で満たした、いわばパーシャルフィルの形態をなす含油構造を採用しながら、軸部材2の外径寸法を、組立て完了状態において軸受スリーブ8との間でラジアル軸受隙間Grを形成する第一の部分と、環状部材9との間で径方向隙間Gaを形成する第二の部分とで異ならせた。具体的には、ラジアル軸受隙間Grを形成する軸部2aの外周面2a1の外径寸法d3よりも、径方向隙間Gaを形成する大径部2bの外周面2b1の外径寸法d4を大きくした(図4を参照)。これにより、軸部2aの軸受スリーブ8への挿入時、図6に示すように、軸部2aの外周面2a1と環状部材9の内周面9aとの間に相対的に大きな径方向隙間(挿入時隙間Ga’)が形成されるので、軸部2aの挿入に伴いハウジング7の内部空間に残存している空気が挿入時隙間Ga’を通じてスムーズに排出される一方、潤滑油11の環状部材9の内周面9aへの付着は可及的に防止される。また、軸部2aを挿入し終えた後、すなわち流体動圧軸受装置1の組立てが完了した後、軸部材2の大径部2bの外周面2b1と環状部材9の内周面9aとの間に径方向隙間Gaが形成されるが(図2及び図4を参照)、この径方向隙間Gaの隙間幅w2は挿入時隙間Ga’の隙間幅w3に比べて相対的に小さいために、ハウジング7の内部空間のうち径方向隙間Gaを通じて大気に開放されている領域は縮小する。以上の作用より、本発明によれば、軸部材2の挿入時における潤滑油11の漏れ出しを効果的に防止しつつも、使用時における潤滑油11の蒸発を可及的に抑制して、優れた軸受性能を長期にわたって発揮することが可能となる。また、軸部材2の外径寸法を所定の領域間(軸部2aと大径部2bとの間)で異ならせただけの構成変更で済むため、大幅なコストアップを避けて量産することが可能となる。もちろん、本発明によれば、軸部材2の挿入前に潤滑油11を注入するだけで済むため、真空含浸などの大掛かりな設備を必要とする注油作業や高精密な油面の調整ないし管理作業が不要となる。また、注油量も上述の通り必要最小限で足りる。以上の点より、本発明に係る流体動圧軸受装置1の製造コストを下げることが可能となる。
なお、これら軸部2aの外径寸法d3と大径部2bの外径寸法d4は、具体的には、軸受スリーブの内径寸法をd1、環状部の内径寸法をd2との間で、10×(d1−d3)≦d2−d4<60×(d1−d3)を満たすように設定されるのがよい。この関係式を満たすように各部材(軸部材2、軸受スリーブ8、環状部材9)の寸法を具体的に設定することにより、流体動圧軸受装置1の組立て完了状態において、大径部2bと環状部材9との径方向隙間Gaの隙間幅w2が、ラジアル軸受隙間Grの隙間幅w1の30倍未満となる。径方向隙間Gaの隙間幅w2を上述の程度に留めておけば、流体動圧軸受装置1の使用時、ハウジング7の内部空間に充填されている潤滑油11の大気への蒸発を効果的に抑制して、潤滑油11の減少を最小限に抑えることができる。従って、軸受性能の低下を防止して長期にわたって優れた軸受性能を発揮させることが可能となる。また、径方向隙間Gaの隙間幅w2をラジアル軸受隙間Grの隙間幅w1の5倍以上にしておけば、組立て時、すなわち軸部2aの挿入時に、軸部2aないし大径部2bと環状部材9とが干渉する事態を確実に防止できるので、組立て作業を円滑かつ安全に行うことが可能となる。
また、本実施形態では、60×(d1−d3)≦d2−d3を満たすように、軸部材2と軸受スリーブ8、及び環状部材9の寸法を設定した。これにより、流体動圧軸受装置1の組立て時、より具体的には軸部2aの挿入時において、軸部2aと環状部材9との径方向隙間、すなわち挿入時隙間Ga’の隙間幅w3(図6を参照)がラジアル軸受隙間Grの隙間幅w1の30倍以上となる。軸部材2の挿入に伴いハウジング7の内部空間に残存する空気は圧縮されるために、例えば軸受スリーブ8の内周に注入した潤滑油11は、ラジアル軸受隙間Grを通じて軸受外部側(図2でいえば上側)に押し出される向きの力を受ける。この際、挿入時隙間Ga’の隙間幅w3がラジアル軸受隙間Grの隙間幅w1の30倍以上の大きさを有していれば、環状部材9の内周面9aへの潤滑油11の付着が効果的に防止される。従って、組立て時の潤滑油漏れを安定して防止することができる。
さらに、本実施形態では、径方向隙間Gaと底隙間Gbとを連通させる連通路12を設けたので、ハウジング7の内部空間に潤滑油11を注入した後に、軸受スリーブ8の内周に軸部材2を挿入した場合であっても、軸部材2の挿入に伴ってハウジング7の底部7b側に押し込まれる空気を、連通路12を介して大気に排出することができる。従って、軸部材2の挿入に伴う潤滑油11の外部漏洩を一層効果的に防止することができる。
また、軸部材2には、軸部材2をハウジング7の底部7b側に押し付ける(スラスト他方向に支持する)外力を作用させるようにしたので、軸部材2をスラスト両方向に支持することが可能となる。これにより、スラスト方向の支持精度(回転精度)を高めることができる。本実施形態では、上記外力を、磁力で与えるようにし、しかもこの磁力を、ハウジング7を内周に保持するモータベース6に設けられるステータコイル5と、ロータ3に設けられるロータマグネット4とを軸方向にずらして配置することによって与えるようにした。この種の流体動圧軸受装置1が組み込まれる各種モータは、ロータマグネット4とステータコイル5とを必須の構成部材として備える。従って、上記構成を採用すれば、上記外力を特段のコスト増を招くことなく安価に付与することができる。
なお、図示は省略するが、径方向隙間Gaを介しての潤滑油漏れを一層効果的に防止するため、径方向隙間Gaに隣接して大気に接した軸部材2の大径部2bの外周面2b1や環状部材9の上端面に撥油膜を形成してもよい。
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明に係る流体動圧軸受装置1及びその製造方法は上記例示の形態に限定されることなく、本発明の範囲内において任意の形態を採り得る。
例えば、上記実施形態では、環状部材9として、内径寸法d2が一定の円筒状をなす内周面9aを有するものを例示したが、もちろんこれ以外の形態をとることも可能である。図7はその一例(本発明の他の実施形態)に係る流体動圧軸受装置1の要部拡大断面図を示している。図7に示すように、この流体動圧軸受装置1は、環状部材9の内周構造が図2等に示す流体動圧軸受装置1のそれと相違している。具体的には、図7に示す環状部材9は、内径寸法が相対的に小さい小径内周面9cと、小径内周面9cに比べて内径寸法が大きい大径内周面9dとを有する。ここで、小径内周面9cが軸受スリーブ8から遠い側に配設され、大径内周面9dが軸受スリーブ8に近い側に配設される。小径内周面9cは大径部2bの外周面2b1と対向し、大径内周面9dは軸部2aの外周面2a1と対向する。よって、この場合、小径内周面9cと大径部2bの外周面2b1とのラジアル方向隙間が本発明に係る径方向隙間Gaとなる。
このように環状部材9及び軸部材2を構成することによっても、軸部材2の挿入時における潤滑油11の漏れ出しを効果的に防止しつつ、使用時における潤滑油11の蒸発を可及的に抑制して、優れた軸受性能を長期にわたって発揮することが可能となる。また、本構成によれば、環状部材9の大径内周面9dと軸部2aの外周面2a1との間のラジアル方向隙間を潤滑油11のバッファとして利用することもできるので、図2等に示す流体動圧軸受装置1に比べて温度変化に強い含油構造とすることができる。
もちろん、大径部2bの外周面2b1は小径内周面9cと対向するだけでなく、図8に示すように、大径内周面9dとも対向するように軸部材2を構成してもよい。このようにすれば、小径内周面9cとの間に隙間幅w2が一定の径方向隙間Gaを容易に形成することができる。
また、軸部材2に関し、上記実施形態では、軸部材2を、軸部2aと、軸部2aよりも大径でハウジング7の上側に位置する大径部2bとで一体に構成した場合を例示したが、これ以外の構成をとることも可能である。図9はその一例に係る流体動圧軸受装置1の要部拡大断面図を示している。図9に示すように本実施形態に係る流体動圧軸受装置1は、軸部材2の上部構造において上記実施形態と相違している。具体的には、この軸部材2は、軸部2aと、軸部2aとは別体とされて軸部2aの外周に配設される隙間形成部材2cとを有する。この隙間形成部材2cは、図示を省略するが、軸部2aの軸受スリーブ8への挿入後に図9に示す位置に配置可能な構造となっており、好ましくは、軸部2aの軸受スリーブ8への挿入完了後に、環状部材9と対向する位置に配設される。これにより、組立て完了状態においては、隙間形成部材2cの外周面2c1は、環状部材9の内周面9aとの間に径方向隙間Gaを形成している。
このように環状部材9と軸部材2を構成することによっても、軸部材2の挿入時における潤滑油11の漏れ出しを効果的に防止しつつも、使用時における潤滑油11の蒸発を可及的に抑制して、優れた軸受性能を長期にわたって発揮することが可能となる。なお、本実施形態では、環状部材9の下端面9bと軸受スリーブ8の上端面8cは接触しておらず、軸受スリーブ8の外周面8dがハウジング7の内周面7a1に固定されている。また、環状部材9はその外周に設けた外周突出部9eをハウジング7の内周面7a1とその上端に設けた小径面7a2との段部に係合させることで、ハウジング7に固定している。
また、上記実施形態では、スラスト軸受部Tとしてピボット軸受部を採用した場合を例示したが、もちろん、これ以外の形態を採用することも可能である。図10はその一例に係る流体動圧軸受装置1の断面図を示している。この流体動圧軸受装置1は、スラスト軸受部Tをいわゆる動圧軸受で構成している。この場合、軸部材2の先端(下端)には、軸部2aの中心線と直交する向きに広がる平坦面2a3が設けられている。そして、図示は省略するが、軸部材2の平坦面2a3及びこれに対向するハウジング7の底部7bの内底面7b1の何れか一方には、動圧溝等の動圧発生部(スラスト動圧発生部)が形成される。
また、以上で示した実施形態では、モータベース6の内周に、モータベース6と別体に設けたハウジング7を固定するようにしたが、ハウジング7にモータベース6に相当する部位を一体に設けることもできる。
また、ラジアル軸受部R1,R2の何れか一方又は双方は、いわゆる多円弧軸受、ステップ軸受、および波型軸受等、公知のその他の動圧軸受で構成することもできる。また、スラスト軸受部Tを動圧軸受で構成する場合(図10を参照)、この動圧軸受は、いわゆるステップ軸受や波型軸受等、公知のその他の動圧軸受で構成することもできる。
また、以上で示した実施形態では、ロータマグネット4とステータコイル5とを軸方向にずらして配置することにより、軸部材2に、軸部材2をハウジング7の底部7b側に押し付けるための外力を作用させるようにしたが、このような外力を軸部材2に作用させるための手段は上記のものに限られない。図示は省略するが、例えば、ロータマグネット4を引き付け得る磁性部材をロータマグネット4と軸方向に対向配置することにより、上記磁力をロータ3に作用させることもできる。また、送風作用の反力としての推力が十分に大きく、この推力のみで軸部材2を下方に押し付けることができる場合、軸部材2を下方に押し付けるための外力としての磁力(磁気吸引力)は省略しても構わない。
また、以上では、回転部材として、羽根を有するロータ3が軸部材2に固定される流体動圧軸受装置1に本発明を適用した場合について説明を行ったが、本発明は、回転部材として、ディスク搭載面を有するディスクハブ、あるいはポリゴンミラーが軸部材2に固定される流体動圧軸受装置1にも好ましく適用することができる。すなわち、本発明は、図1に示すようなファンモータのみならず、ディスク装置用のスピンドルモータや、レーザビームプリンタ(LBP)用のポリゴンスキャナモータ等、その他の電気機器に組み込まれる流体動圧軸受装置1にも好ましく適用することができる。
1 流体動圧軸受装置
2 軸部材
2a 軸部
2a1 外周面
2a2 先端部
2a3 平坦面
2b 大径部
2b1 外周面
2c 隙間形成部
2c1 外周面
3 ロータ
4 ロータマグネット
5 ステータコイル
6 モータベース
7 ハウジング
7a 筒状部
7a1 内周面
7b 底部
7b1 内底面
7c 段部
8 軸受スリーブ
8b1 径方向溝
8c1 径方向溝
8d1 軸方向溝
9 環状部材
9a 内周面
10 スラストプレート
11 潤滑油
12 連通路
A1,A2 ラジアル動圧発生部
Aa1,Aa2 動圧溝
d1 内径寸法(軸受スリーブ)
d2 内径寸法(環状部材)
d3 外径寸法(軸部)
d4 外径寸法(大径部)
Ga 径方向隙間
Ga’ 挿入時隙間
Gb 底隙間
R1,R2 ラジアル軸受部
T スラスト軸受部
w1 隙間幅(ラジアル軸受隙間)
w2 隙間幅(径方向隙間)
w3 隙間幅(挿入時隙間)
2 軸部材
2a 軸部
2a1 外周面
2a2 先端部
2a3 平坦面
2b 大径部
2b1 外周面
2c 隙間形成部
2c1 外周面
3 ロータ
4 ロータマグネット
5 ステータコイル
6 モータベース
7 ハウジング
7a 筒状部
7a1 内周面
7b 底部
7b1 内底面
7c 段部
8 軸受スリーブ
8b1 径方向溝
8c1 径方向溝
8d1 軸方向溝
9 環状部材
9a 内周面
10 スラストプレート
11 潤滑油
12 連通路
A1,A2 ラジアル動圧発生部
Aa1,Aa2 動圧溝
d1 内径寸法(軸受スリーブ)
d2 内径寸法(環状部材)
d3 外径寸法(軸部)
d4 外径寸法(大径部)
Ga 径方向隙間
Ga’ 挿入時隙間
Gb 底隙間
R1,R2 ラジアル軸受部
T スラスト軸受部
w1 隙間幅(ラジアル軸受隙間)
w2 隙間幅(径方向隙間)
w3 隙間幅(挿入時隙間)
Claims (9)
- 軸方向一端が閉塞されると共に軸方向他端が開口している有底筒状のハウジングと、前記ハウジングの内周に配設された軸受スリーブと、挿脱可能に前記軸受スリーブの内周に挿入された軸部を有する軸部材と、前記ハウジングの一端開口側に位置し、前記軸部材の外周面との間に径方向隙間を形成する環状部と、前記軸受スリーブの内周面と前記軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に形成される潤滑油の油膜で前記軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部と、前記軸部材の一端をスラスト方向に支持するスラスト軸受部と、前記スラスト軸受部を収容する底隙間とを備えた流体動圧軸受装置において、
前記ハウジングの内部空間の一部が潤滑油で満たされており、かつ前記径方向隙間を含む残部が潤滑油で満たされていない空隙部であって、
前記軸部材の外周面のうち前記軸受スリーブの内周面と対向する第一の部分の外径寸法よりも、前記環状部の内周面と対向する第二の部分の外径寸法のほうが大きいことを特徴とする流体動圧軸受装置。 - 前記軸受スリーブの内径寸法をd1、前記環状部の内径寸法をd2、前記軸部材の外周面のうち前記軸受スリーブとの間に前記ラジアル軸受隙間を形成する第一の部分の外径寸法をd3、及び前記環状部との間に前記径方向隙間を形成する第二の部分の外径寸法をd4としたとき、
10×(d1−d3)≦d2−d4<60×(d1−d3)を満たしている請求項1に記載の流体動圧軸受装置。 - 60×(d1−d3)≦d2−d3を満たしている請求項2に記載の流体動圧軸受装置。
- 前記軸部材は、前記軸部と、前記軸部より大径で、前記環状部との間に前記径方向隙間を形成する前記第二の部分が外周に設けられた大径部とを一体に有する請求項1〜3の何れか一項に記載の流体動圧軸受装置。
- 前記軸部材は、前記軸部と、前記軸部の外周に配置され、前記環状部との間に前記径方向隙間を形成する前記第二の部分が外周に設けられた隙間形成部材とを有する請求項1〜3の何れか一項に記載の流体動圧軸受装置。
- 前記径方向隙間と前記底隙間とを連通させる連通路をさらに有し、前記連通路の少なくとも一部で前記空隙部が構成されている請求項1〜5の何れか一項に記載の流体動圧軸受装置。
- 前記軸受スリーブが、内部空孔に前記潤滑油を含浸させた多孔質体からなる請求項1〜6の何れか一項に記載の流体動圧軸受装置。
- 前記潤滑油は、エステル系もしくはPAO系潤滑油である請求項1〜7の何れか一項に記載の流体動圧軸受装置。
- 請求項1〜8の何れか一項に記載の流体動圧軸受装置を備えたモータ。
Priority Applications (2)
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JP2018027066A JP2019143688A (ja) | 2018-02-19 | 2018-02-19 | 流体動圧軸受装置及びこれを備えたモータ |
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Applications Claiming Priority (1)
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JP2018027066A JP2019143688A (ja) | 2018-02-19 | 2018-02-19 | 流体動圧軸受装置及びこれを備えたモータ |
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ID=67620003
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
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2018
- 2018-02-19 JP JP2018027066A patent/JP2019143688A/ja active Pending
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- 2019-02-06 WO PCT/JP2019/004234 patent/WO2019159787A1/ja active Application Filing
Also Published As
Publication number | Publication date |
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WO2019159787A1 (ja) | 2019-08-22 |
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