以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。但し本発明は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
図1は、本実施形態の排気浄化装置が適用された内燃機関を示す。内燃機関(エンジンともいう)1は、車両(図示せず)に搭載された多気筒エンジンである。本実施形態において、車両はトラック等の大型車両であり、これに搭載される車両動力源としてのエンジン1は直列4気筒ディーゼルエンジンである。しかしながら、車両および内燃機関の種類、形式、用途等に特に限定はなく、例えば車両は乗用車等の小型車両であってもよいし、エンジン1はガソリンエンジンであってもよい。
エンジン1は、エンジン本体2と、エンジン本体2に接続された吸気通路3および排気通路4と、ターボチャージャ14と、燃料噴射装置5とを備える。エンジン本体2は、シリンダヘッド、シリンダブロック、クランクケース等の構造部品と、その内部に収容されたピストン、クランクシャフト、バルブ等の可動部品とを含む。
燃料噴射装置5は、コモンレール式燃料噴射装置からなり、各気筒に設けられた燃料噴射弁すなわちインジェクタ7と、インジェクタ7に接続されたコモンレール8とを備える。インジェクタ7は、シリンダ9内すなわち燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内インジェクタである。コモンレール8は、インジェクタ7から噴射される燃料を高圧状態で貯留する。
吸気通路3は、エンジン本体2(特にシリンダヘッド)に接続された吸気マニホールド10と、吸気マニホールド10の上流端に接続された吸気管11とにより主に画成される。吸気マニホールド10は、吸気管11から送られてきた吸気を各気筒の吸気ポートに分配供給する。吸気管11には、上流側から順に、エアクリーナ12、エアフローメータ13、ターボチャージャ14のコンプレッサ14C、インタークーラ15、および電子制御式の吸気スロットルバルブ16が設けられる。エアフローメータ13は、エンジン1の単位時間当たりの吸入空気量すなわち吸気流量を検出するためのセンサであり、マスエアフロー(MAF)センサ等とも称される。
排気通路4は、エンジン本体2(特にシリンダヘッド)に接続された排気マニホールド20と、排気マニホールド20の下流側に接続された排気管21とにより主に画成される。排気マニホールド20は、各気筒の排気ポートから送られてきた排気ガスを集合させる。排気管21、もしくは排気マニホールド20と排気管21の間には、ターボチャージャ14のタービン14Tが設けられる。タービン14Tより下流側の排気通路4には、上流側から順に、酸化触媒22、フィルタ23、選択還元型NOx触媒(SCR)24およびアンモニア酸化触媒26が設けられる。これらは排気後処理を実行する後処理部材をなす。フィルタ23とNOx触媒24の間の排気通路4には、還元剤としての尿素水を排気通路4内に噴射する還元剤噴射弁としての尿素インジェクタ25が設けられる。
酸化触媒22は、排気中の未燃成分(炭化水素HCおよび一酸化炭素CO)を酸化して浄化すると共に、このときの反応熱で排気ガスを加熱昇温する。フィルタ23は、所謂連続再生式ディーゼルパティキュレートフィルタであり、排気中に含まれる粒子状物質(PMとも称す)を捕集すると共に、その捕集したPMを貴金属と反応させて連続的に燃焼除去する。フィルタ23には、ハニカム構造の基材の両端開口を互い違いに市松状に閉塞した所謂ウォールフロータイプのものが用いられる。
NOx触媒24は、尿素インジェクタ25から噴射された尿素水を加水分解して得られるアンモニアを、排気中のNOxと反応させて、NOxを還元浄化する。NOx触媒24は、ゼオライト又はアルミナなどの基材表面にPtなどの貴金属を担持したものや、その基材表面にCu等の遷移金属をイオン交換して担持させたもの、その基材表面にチタニヤ/バナジウム触媒(V2O5/WO3/TiO2)を担持させたもの等が例示できる。アンモニア酸化触媒26は、NOx触媒24から排出された余剰アンモニアを酸化して浄化する。
エンジン1はEGR装置30をも備える。EGR装置30は、排気通路4内(特に排気マニホールド20内)の排気ガスの一部(EGRガスという)を吸気通路3内(特に吸気マニホールド10内)に還流させるためのEGR通路31と、EGR通路31を流れるEGRガスを冷却するEGRクーラ32と、EGRガスの流量を調節するためのEGR弁33とを備える。EGR装置30は外部EGRを実行するためのものである。
また、本実施形態は、それぞれ排気通路4に設けられた電子制御式の排気スロットルバルブ37と、排気インジェクタ38とを備える。本実施形態において、これらはタービン14Tと酸化触媒22の間の排気通路4に設けられ、排気スロットルバルブ37より下流側に排気インジェクタ38が配置される。但しこれらの設置位置は変更可能である。排気スロットルバルブ37は排気流量を調節するためのバルブである。排気インジェクタ38は、主にフィルタ23の再生時に排気通路4内に燃料を噴射するためのインジェクタである。
このエンジン1を制御するための制御装置が車両に搭載されている。制御装置は、制御ユニットもしくはコントローラをなす電子制御ユニット(ECUと称す)100を有する。ECU100はCPU、ROM、RAM、入出力ポートおよび記憶装置等を含む。ECU100は、筒内インジェクタ7、吸気スロットルバルブ16、尿素インジェクタ25、EGR弁33、排気スロットルバルブ37および排気インジェクタ38を制御するように構成され、プログラムされている。なお特に断らない限り、吸気スロットルバルブ16および排気スロットルバルブ37は全開に制御されているものとする。
制御装置は、以下のセンサ類も有する。このセンサ類に関して、上述のエアフローメータ13の他、エンジンの回転速度、具体的には毎分当たりの回転数(rpm)を検出するための回転速度センサ40と、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサ41とが設けられる。また、酸化触媒22、フィルタ23およびNOx触媒24の上流側入口部には排気温度を検出するための排気温センサ42,43,44が設けられている。また、NOx触媒24の下流側出口部には排気温度を検出するための排気温センサ46が設けられている。また、フィルタ23の入口部および出口部の排気圧の差圧を検出するための差圧センサ45が設けられている。
また、NOx触媒24の上流側入口部と下流側出口部には、それぞれ、排気中のNOxを検出するための上流側NOxセンサ47および下流側NOxセンサ48が設けられている。これらNOxセンサ47,48は、排気ガスのNOx濃度に相関した出力を発する。但しNOxセンサ47,48はアンモニアも検出可能である。上流側NOxセンサ47は尿素インジェクタ25よりも上流側に設けられている。以上のセンサ類の出力信号はECU100に送られる。
次に、ECU100により実行される制御の内容について説明する。
まず、尿素インジェクタ25から噴射される尿素水噴射量の制御の概要を説明する。尿素水噴射量Mは、概して後述する第1噴射量MAと第2噴射量MBと第3噴射量MCの和として表され、式:M=MA+MB+MCで表される。そしてECU100は、尿素水噴射量Mを算出すると共に、算出された尿素水噴射量Mに等しい量の尿素水を尿素インジェクタ25から噴射させる。
第一に、NOx触媒24に流入するNOx量(流入NOx量)に見合った第1噴射量MAが算出される。流入NOx量は、上流側NOxセンサ47により検出されたNOx濃度と排気ガス流量の積で表される。排気ガス流量は、エアフローメータ13により検出された吸入空気量の値に基づいて算出される。流入NOx量と第1噴射量MAとの間の予め定められた関係、具体的にはマップ(関数でもよい。以下同様)が、ECU100に記憶され、ECU100はこのマップを参照して流入NOx量に対応した第1噴射量MAを算出する。ここでは、流入NOxを還元浄化するのに必要な最小限の噴射量、言い換えれば流入NOx量に対し当量比が1となるような噴射量が第1噴射量MAとして算出される。
なお、上流側NOxセンサ47は排気通路4のより上流側の位置に設けられてもよい。また流入NOx量は、エンジン運転状態(例えばエンジン回転数と筒内インジェクタ7の燃料噴射量)に基づいてECU100により推定してもよい。また排気ガス流量は、排気通路4に設けられた流量センサにより直接検出してもよい。
第二に、NOx触媒24のアンモニア吸着量を目標吸着量に近づけるための第2噴射量MBが算出される。すなわち、NOx触媒24はアンモニア吸着能を有し、多くのアンモニアを吸着する程、高いNOx浄化性能を発揮する。このため、NOx触媒24のアンモニア吸着量が推定されると共に、この推定吸着量と目標吸着量の差分に基づき、還元剤噴射量が制御される。アンモニア吸着量を推定する理由は、それを実測するのが困難だからである。
図2には、NOx触媒24のアンモニア吸着特性を示す。線aは、実験等を通じて把握されるアンモニア吸着量の上限値もしくは吸着限界を示し、この上限値は、NOx触媒24の触媒温度が高くなる程、低くなる傾向がある。なお、実際のアンモニア吸着量が上限値のときにアンモニアが供給されると、そのアンモニアはNOx触媒24に吸着できないので、NOx触媒24の下流側に流出し、アンモニアスリップを生じさせる。
線aより所定のマージンだけ低吸着量側の目標値が線bの如く定められ、この線bがマップの形でECU100に記憶されている。
ECU100は、排気温センサ44,46の少なくとも一方の検出値に基づきNOx触媒24の触媒温度を推定する。例えば、いずれか一方の検出値を触媒温度とみなしてもよいし、両方の検出値の平均値を触媒温度とみなしてもよい。そして推定した触媒温度(図2のTc1)に対応したアンモニア吸着量の目標値Wt(図2のc点の値)をマップから算出する。なお触媒温度は直接検出してもよい。推定および検出を総称して取得という。
この目標吸着量Wtと推定吸着量Weの差分ΔWが式:ΔW=Wt−Weにより求められ、この差分ΔWに応じた第2噴射量MBが算出される。差分ΔWが大きい程、大きな第2噴射量MBが算出される。
例えば図2のd点のように、推定吸着量Weが目標吸着量Wtよりも少ない場合、差分ΔWが正であるため、噴射量増大側の正の第2噴射量MBが算出され、この第2噴射量MBが噴射されることにより、推定吸着量Weが増大し、目標吸着量Wtに徐々に近づいていく。他方、例えば図2のe点のように、推定吸着量Weが目標吸着量Wtよりも多い場合、差分ΔWが負であるため、ゼロまたは負の第2噴射量MBが算出される。これにより、NOx触媒24に吸着したアンモニアがNOxの還元に消費され、推定吸着量Weが減少し、目標吸着量Wtに徐々に近づいていく。
アンモニア吸着量の推定方法については、公知方法を含め、様々な方法が採用可能である。本実施形態では、NOx触媒24におけるアンモニアとNOxの反応を表す化学反応式に基づいて数学モデルを構築し、当該モデルに基づいてアンモニア吸着量をECU100により精度良く推定するようになっている。この際、ECU100は、尿素水噴射量M、NOx触媒24の触媒温度、排気ガス流量、上下流側NOxセンサ47,48の検出値、エンジン運転状態を表すエンジンパラメータ(エンジン回転数、燃料噴射量等)等のパラメータに基づいて、アンモニア吸着量を推定する。
第三に、NOx触媒24から流出したNOx量(流出NOx量)に見合った第3噴射量MCが算出される。具体的には、下流側NOxセンサ48の出力(センサ出力)Vが所定の上限値Vup以下のときには、流出NOx量が許容範囲内であるとして、ゼロの第3噴射量MCが算出される。他方、センサ出力Vが上限値Vupを超えたときには、流出NOx量が許容範囲外であるため、尿素水噴射量を増やして流出NOx量を抑制すべく、正の第3噴射量MCが算出される。
このとき、センサ出力Vと上限値Vupの差分ΔV(=V−Vup)が算出され、この差分ΔVに応じた第3噴射量MCが算出される。こうして尿素水噴射量Mは、センサ出力Vに基づきフィードバック制御あるいはフィードバック補正されることとなる。
ここで本実施形態では、第3噴射量MCは補正係数K(≧1)によって表される。つまり前式M=MA+MB+MCは本実施形態の場合、M=K×MA+MB(=MA+MB+(K−1)×MA)で表され、MC=(K−1)×MAとされる。図3に示すようなマップがECU100に記憶され、差分ΔVがゼロから大きくなる程、1より大きな補正係数Kが算出される。また差分ΔVがリミット値ΔV1(>0)以上になったとき、補正係数Kはその上昇が抑制されてリミット値K1(>1)に制限される。差分ΔVがゼロ以下のとき補正係数Kは1である。
センサ出力Vが上限値Vupを超えたとき、差分ΔVに応じた補正係数K(>1)が算出され、ベース噴射量である第1噴射量MAが補正係数Kによって増量補正され、その結果、尿素水噴射量Mが増量補正される。
なお、ここでは単純なフィードバック制御の例を示したが、フィードバック制御は周知のPID制御等の手法を用いたより複雑なものであってもよい。また差分ΔVに応じて第1噴射量MAと無関係な加算項である第3噴射量MCを算出し、式M=MA+MB+MCにより尿素水噴射量Mを算出してもよい。
ところで、下流側NOxセンサ48は、NOxだけでなく、アンモニアも検出可能であり、両者を区別して検出できない。このため、尿素水噴射量に対するNOx触媒下流側の流出NOx量と、下流側NOxセンサ48のセンサ出力と、NOx触媒下流側に流出したアンモニア量(流出アンモニア量)との関係は、図4に示すようになる。
図の左端付近のように、尿素水噴射量が比較的少なく流入NOx量に対して不足する場合、NOx触媒24が流入NOxを全て還元できないため、NOx触媒下流側にNOxが流出するNOxスリップが起こる。そして流出NOx量は多くなり、NOxセンサ出力も大きくなる。そして尿素水噴射量が増加するにつれ、尿素水噴射量が流入NOx量に対して徐々に見合うようになって行くため、流出NOx量が徐々に減少し、NOxセンサ出力も徐々に減少する。
しかし、更に尿素水噴射量を増加すると、尿素水噴射量が流入NOx量に対して過剰となり、NOx触媒24から余剰のアンモニアが流出するアンモニアスリップが起こる。尿素水噴射量を増加するにつれ、流出アンモニア量も増加する。NOxセンサ48はこのアンモニアを検出するため、尿素水噴射量を増加するにつれ、NOxセンサ出力は徐々に増加していくこととなる。
NOxスリップとアンモニアスリップがバランスするバランス点、すなわち、流出NOx量と流出アンモニア量の両者をできるだけ最小化できる尿素水噴射量の値を図中Mhで示す。Mhより小噴射量側をNOxスリップ領域、Mhより大噴射量側をアンモニアスリップ領域とする。
NOxセンサ出力は、バランス点で極小値となる曲線を描く。よって、NOxセンサ出力のみによっては、NOxセンサ出力がNOxスリップ領域にあるのか(NOxスリップが起こっているのか)、アンモニアスリップ領域にあるのか(アンモニアスリップが起こっているのか)を判別することができない。このため従来は、尿素水噴射量を強制的に増加または減少し、それに応じてNOxセンサ出力が大小どちら側に変化するかを検出し、その結果に基づいて、NOxセンサ出力がいずれの領域にあるかを判別している。
例えば、尿素水噴射量を増量したときにNOxセンサ出力が減少した場合はNOxスリップ領域にある(NOxスリップが起こっている)と判定し、尿素水噴射量を増量したときにNOxセンサ出力が増加した場合はアンモニアスリップ領域にある(アンモニアスリップが起こっている)と判定する。
ところで、NOxスリップもアンモニアスリップも、ともに尿素水噴射量制御が好適に実行されていないために起こる結果である。本発明者はそれらの原因の一つが、アンモニア吸着量推定誤差の拡大であることに思い至り、NOxスリップとアンモニアスリップの解消に好適な尿素水噴射量制御を創案するに至った。そこで以下に、本実施形態の尿素水噴射量制御を詳細に説明する。
図5に、本実施形態の尿素水噴射量制御を実行した場合のタイムチャートを示す。なおかかる制御はECU100によって実行される。図中、(A)は下流側NOxセンサ48のセンサ出力V、(B)は補正係数K、(C)はECU100によって推定されたNOx触媒24のアンモニア吸着量(推定吸着量We)、(D)は尿素水噴射量Mを示す。
時刻t1より前では、センサ出力Vが上限値Vup未満で上昇中であり、差分ΔV(=V−Vup)は負、補正係数Kは1である(図3参照)。時刻t1において、センサ出力Vが上限値Vupに達し、それ以降、センサ出力Vが増加する。これに伴い、差分ΔVも正の値で増加し、補正係数Kは1より徐々に大きくなっていく。
時刻t2において、差分ΔVがリミット値ΔV1に達し、補正係数Kもリミット値K1に達する。それ以降もセンサ出力Vおよび差分ΔVが増加するが、補正係数Kはリミット値K1に制限され保持される。
センサ出力Vに基づくフィードバック制御により尿素水噴射量を増量補正したので、実際にNOxスリップが起こっていれば、それがやがて解消し、破線aで示す如く、センサ出力Vが上限値Vup以下に低下する可能性がある。しかし図示例では、それが解消していない。
センサ出力Vが上限値Vupを超えた時点(t1直後)から、第1経過時間がカウントされる。そしてこの第1経過時間が所定の第1閾値時間Δts1に達した時点t4でも、未だセンサ出力Vが上限値Vup以下に低下しない場合、推定吸着量Weの推定誤差が予想以上に拡大しているとみなし、推定吸着量Weの値が変更され、あるいは切り替えられる。つまり、センサ出力Vが上限値Vupを超えた状態が第1閾値時間Δts1の間継続したとき、推定吸着量Weの値が変更される。
このとき、推定吸着量Weの値は、変更直前のWe1から、より小さい所定の減少側基準値We2に、強制的かつステップ状に変更され、切り替えられ、あるいはリセットされる。We1からWe2への減少量は比較的大きい。これにより尿素水噴射量Mは、フィードバック補正の場合よりも大きく変更され、変更直前のM1からM2へと大きく増加される。
このように、推定吸着量Weを減少することにより尿素水噴射量Mは増加される。こうする理由は、まずは、真の吸着量よりかなり多い推定吸着量Weが算出されている(つまり推定吸着量Weが過大である)可能性があると疑い、その誤差を抑制するためである。推定吸着量Weが過大であると、必然的に尿素水噴射量Mは少なめとなるため、尿素水噴射量Mが不足し、NOxスリップの傾向が強まる。よって第1閾値時間Δts1内に実際にNOxスリップが起こっているのであれば、ここでの尿素水噴射量増加制御により、NOxスリップを確実に抑制することができる。
減少側基準値We2は目標吸着量Wt(図2参照)よりも比較的低い値である。これにより、目標吸着量Wtと推定吸着量Weの差分ΔWが大きくなり、第2噴射量MBが大きくなり、尿素水噴射量Mが増加される。
もし仮に、推定吸着量Weの過大が原因で(NOxスリップが原因で)第1閾値時間Δts1内にセンサ出力Vが低下しなかったのであれば(上記の疑いが正しかったのであれば)、上記の尿素水噴射量増加措置によって、破線bで示す如く、センサ出力Vが上限値Vup以下に低下する(NOxスリップが解消する)。しかし図示例では、それが低下していない。
従って、次に、推定吸着量Weの過小を疑う。すなわち、推定吸着量Weを減少した時点t4から、第2経過時間がカウントされる。そしてこの第2経過時間が所定の第2閾値時間Δts2に達した時点t5でも、未だセンサ出力Vが上限値Vup以下に低下しない場合、今度は、真の吸着量よりかなり少ない推定吸着量Weが算出されている(つまり推定吸着量Weが過小である)可能性があると疑い、その誤差を抑制するため、推定吸着量Weの値が増加される。このように、センサ出力Vが上限値Vupを超えた状態が第2閾値時間Δts2の間継続したときにも、推定吸着量Weの値が変更される。推定吸着量Weが過小であると、必然的に尿素水噴射量Mは多めとなるため、尿素水噴射量Mが過剰となり、アンモニアスリップの傾向が強まる。よって実際にアンモニアスリップが起こっているのであれば、ここでの尿素水噴射量減少により、アンモニアスリップを確実に抑制することができる。
このとき、推定吸着量Weの値は、変更直前の値We2’から、これよりも大きく、かつ推定吸着量減少前の値We1よりも大きい所定の増加側基準値We3に、強制的かつステップ状に変更され、切り替えられ、あるいはリセットされる。We1からWe3への増加量も比較的大きい。これにより、尿素水噴射量Mは、フィードバック補正の場合よりも大きく変更され、変更直前の値M2’から、これよりも少なく、かつM1よりも少ないM3へと大きく減少される。
増加側基準値We3は目標吸着量Wt(図2参照)よりも高い値である。これにより、目標吸着量Wtと推定吸着量Weの差分ΔWがマイナスとなり、第2噴射量MBはゼロもしくはマイナスとされ、尿素水噴射量Mが減少される。
もし仮に、推定吸着量Weの過小が原因で(アンモニアスリップが原因で)第1閾値時間Δts1内にセンサ出力Vが低下しなかったのであれば(つまり上記の疑いが正しかったのであれば)、上記の尿素水噴射量減量措置によって、破線cで示す如く、センサ出力Vが上限値Vup以下に低下する(アンモニアスリップが解消する)はずである。しかし図示例では、それが低下していない。
従ってこの場合には、推定吸着量Weの推定誤差拡大以外の原因による異常が考えられるため、装置に異常がある旨の異常判定を行う。すなわち、推定吸着量Weを増加した時点t5から、第3経過時間がカウントされる。そしてこの第3経過時間が所定の第3閾値時間Δts3に達した時点t6でも、未だセンサ出力Vが上限値Vup以下に低下しない場合、異常判定を行い、図示しない警告装置(チェックランプ等)を起動させ、ユーザーに点検整備を促す。このように、センサ出力Vが上限値Vupを超えた状態が第3閾値時間Δts3の間継続したときには、異常判定が行われる。
なお、推定吸着量のWe2への減少により破線bの如くセンサ出力Vが低下した場合には、推定吸着量の誤差拡大が解消したものとして、減少後の値から引き続き推定吸着量の計算が実行される。推定吸着量のWe3への増加により破線cの如くセンサ出力Vが低下した場合も同様である。
第1〜第3閾値時間Δts1〜Δts3は、任意に設定可能であり、同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。但し、センサ出力Vが上限値Vupを超えている状態が徒に長続きしないよう適度な長さに設定する必要がある。また減少側基準値We2および増加側基準値We3も、任意に設定可能であり、予め定められた一定値としてもよいし、可変値としてもよい。
このように本実施形態では、センサ出力Vが上限値Vupを超えた状態が閾値時間(第1閾値時間Δts1または第2閾値時間Δts2)の間継続したとき、推定吸着量Weを変更(減少または増加)することにより還元剤噴射量Mを変更(増加または減少)する(t4またはt5)ので、アンモニア吸着量推定誤差の拡大に起因したNOxスリップおよびアンモニアスリップを好適に解消することが可能である。また同時に、推定吸着量Weの推定誤差を縮小して推定吸着量Weを真の吸着量に近づけることができ、尿素水噴射量制御を適切に修正してNOxエミッション(大気へのNOx排出量)を抑制することが可能となる。こうした推定誤差拡大状態を放置しても、なかなかそれは解消しないが、本実施形態のように強制的に推定吸着量Weを変更する手段を設けることで、推定誤差拡大を早期に解消することが可能である。
また本実施形態では、センサ出力Vが上限値Vupを超えた状態が第1閾値時間Δts1の間継続したとき(t4)、推定吸着量Weを減少することにより尿素水噴射量Mを増加させる。その後、センサ出力Vが上限値Vupを超えた状態が第2閾値時間Δts2の間継続したとき(t5)、推定吸着量Weを増加することにより還元剤噴射量Mを減少させる。
すなわち、先に、NOxスリップを疑って推定吸着量減少による尿素水噴射量増加を行い、次に、アンモニアスリップを疑って推定吸着量増加による尿素水噴射量減少を行う。仮にこの順番が逆だと、実際にNOxスリップが起こっている場合、先に推定吸着量増加による尿素水噴射量減少を行ってしまうため、益々流出NOx量が増えてNOxエミッションが悪化する。そこで本実施形態ではまず推定吸着量減少による尿素水噴射量増加を行い、NOxスリップでないことを担保した上で、アンモニアスリップを疑って推定吸着量増加による尿素水噴射量減少を行う。これにより、NOxスリップおよびアンモニアスリップを解消する際のNOxエミッション悪化を効果的に抑制することができる。
また本実施形態では、尿素水噴射量を減少させた後(t5の後)、センサ出力Vが上限値Vupを超えた状態が第3閾値時間Δts3の間継続したとき(t6)、異常判定を行う。すなわち、推定吸着量Weを大きく変更させて還元剤噴射量Mを大きく変更させてもなおセンサ出力Vが低下しない場合には、推定吸着量Weの推定誤差拡大以外の原因による異常が装置に生じていると考えられるため、異常判定を行ってユーザーに点検整備を促す。これにより、異常状態を確実に検出すると共に、その早期解消を図ることができる。
次に、図6を参照して、上記制御を具現化する本実施形態の制御ルーチンを説明する。図示するルーチンはECU100により所定の演算周期τ(例えば10msec)毎に繰り返し実行される。なお、後述する第1〜第3フラグF1〜F3は初期状態でオフ(OFF)である。
ステップS101では第1フラグF1がオン(ON)か否かが判断され、オンでないとき(オフのとき)はステップS102に進み、オンのときはステップS108に進む。
ステップS102では第2フラグF2がオンか否かが判断され、オンでないときはステップS103に進み、オンのときはステップS112に進む。
ステップS103では第3フラグF2がオンか否かが判断され、オンでないときはステップS104に進み、オンのときはステップS115に進む。
ステップS104では、センサ出力Vが上限値Vupを超えている(V>Vup)か否かが判断され、超えていればステップS105に進み、超えてなければ今回のルーチンが終了される。
ステップS105では、センサ出力Vが上限値Vupを超えた状態が第1閾値時間Δts1の間継続したか否かが判断される。継続した場合はステップS106に進み、継続してない場合はルーチンが終了される。
ステップS106では、第1フラグF1がオンされる。次いでステップS107において、推定吸着量Weが減少され、これにより還元剤噴射量Mが増加される。こうしてルーチンが終了される。
ステップS108では、センサ出力Vが上限値Vupを超えている(V>Vup)か否かが判断され、超えていればステップS109に進み、超えてなければステップS108Aに進む。
ステップS108Aでは、第1フラグF1がオフされ、その後ルーチンが終了される。
ステップS109では、センサ出力Vが上限値Vupを超えた状態が第2閾値時間Δts2の間継続したか否かが判断される。継続した場合はステップS110に進み、継続してない場合はルーチンが終了される。
ステップS110では、第2フラグF2がオンされると共に、第1フラグF1がオフされる。次いでステップS111において、推定吸着量Weが増加され、これにより還元剤噴射量Mが減少される。こうしてルーチンが終了される。
ステップS112では、センサ出力Vが上限値Vupを超えている(V>Vup)か否かが判断され、超えていればステップS113に進み、超えてなければステップS112Aに進む。
ステップS112Aでは、第2フラグF2がオフされ、その後ルーチンが終了される。
ステップS113では、センサ出力Vが上限値Vupを超えた状態が第3閾値時間Δts3の間継続したか否かが判断される。継続した場合はステップS114に進み、継続してない場合はルーチンが終了される。
ステップS114では、第3フラグF3がオンされると共に、第2フラグF2がオフされる。次いでステップS115において、異常判定がなされる。こうしてルーチンが終了される。
この制御ルーチンを実行した場合、始めのうちは第1〜第3フラグF1〜F3がオフなので、ステップS104に進み、やがてステップS104,S105がイエスになると、ステップS106で第1フラグF1がオンされ、ステップS107で推定吸着量Weが減少され、還元剤噴射量Mが増加される。
以降の演算時期では、第1フラグF1がオンなので、ステップS101からステップS108に進み、前記同様、ステップS108,S109がイエスになるのを待つ。ステップS108,S109がイエスになった場合、ステップS110で第2フラグF2がオン、第1フラグF1がオフされ、ステップS111で推定吸着量Weが増加され、還元剤噴射量Mが減少される。
以降の演算時期では、第1フラグF1がオフ、第2フラグF2がオンなので、ステップS102からステップS112に進み、前記同様、ステップS112,S113がイエスになるのを待つ。ステップS112,S113がイエスになった場合、ステップS114で第3フラグF3がオン、第2フラグF2がオフされ、ステップS115で異常判定がなされる。
以降の演算時期では、第1および第2フラグF1,F2がオフ、第3フラグF3がオンなので、ステップS103からステップS115に進み、異常判定が継続される。
上記の説明で理解されるように、本実施形態のECU100は特許請求の範囲にいう推定部および制御部に相当する。
以上、本発明の実施形態を詳細に述べたが、本発明は他にも様々な実施形態が可能である。
(1)例えば、センサ出力Vが上限値Vupを超えた状態が第1閾値時間Δts1の間継続した場合の推定吸着量Weの減少および増加(すなわち尿素水噴射量Mの増加および減少)の順番を逆にし、先に推定吸着量Weの増加(尿素水噴射量Mの減少)を行い、次に推定吸着量Weの減少(尿素水噴射量Mの増加)を行ってもよい。例えばアンモニアスリップを優先的に止めたい場合、この方法は効果的である。
(2)還元剤は、同等の機能を有するのであれば、尿素水以外のものであってもよい。
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。