以下、本発明に実施例について、図面を用いて詳細に説明する。
図1に、本発明の実施例1に係るコンバインドサイクル発電プラントの構成例を示す。実施例1では、コンバインドサイクル発電プラント起動時に、高圧蒸気確立までの間高圧過熱器の上流側に水噴射するものであり、これを蒸気温度計測により制御する。
本発明が適用される典型的なコンバインドサイクル発電プラントは、ガスタービン1、排熱回収ボイラ2、蒸気タービン3を主たる構成要素として構成されている。これら主たる構成要素の内部構成は、種々の変形構成が採用可能あるが、以下に示す本発明に特有の構成を備えるものである。
図1の典型的なコンバインドサイクル発電プラントは、従来と共通の部分と本発明に特有の部分で構成されている。コンバインドサイクル発電プラントの共通部分は、燃料11と空気12によって駆動されるガスタービン1と、ガスタービン1から排出される排ガス13を水20と熱交換して高圧蒸気21、中圧蒸気22、低圧蒸気23を発生させる排熱回収ボイラ2と、排熱回収ボイラ2で発生した高圧蒸気21、中圧蒸気22、低圧蒸気23で駆動される高圧タービン31、中圧タービン32、低圧タービン33からなる蒸気タービン3と、ガスタービン1ならびに蒸気タービン3で生じた動力を電力に変換する発電機5によって構成されている。
また図1の排熱回収ボイラ2についてさらに詳細構成例を述べると、これはドラム式の高圧系ボイラ210、中圧系ボイラ220、低圧系ボイラ230を構成するものであり、各系とも排ガス上流側から過熱器(高圧過熱器214、中圧過熱器224、低圧過熱器234)、蒸発器(高圧蒸発器212、中圧蒸発器222、低圧蒸発器232)、節炭器(高圧節炭器211、中圧節炭器221、低圧節炭器231)を備えており、かつドラム(高圧ドラム213、中圧ドラム223、低圧ドラム233)を備えている。高圧蒸気21、中圧蒸気22、低圧蒸気23は、各系の過熱器(高圧過熱器214、中圧過熱器224、低圧過熱器234)から得られ、蒸気タービン3の各段(高圧段、中圧段、低圧段)に与えられる。なお、各系のボイラ(高圧系ボイラ210、中圧系ボイラ220、低圧系ボイラ230)の蒸発器(高圧蒸発器212、中圧蒸発器222、低圧蒸発器232)には、給水ポンプから適宜の圧力の給水が送られている。
一方、コンバインドサイクル発電プラントに新たに追加された本発明に特有の部分として、ガスタービン1から排熱回収ボイラ2に供給される排ガス13に水を噴霧する手段6と、排熱回収ボイラ2から蒸気タービン3に供給される蒸気21の温度を計測する手段71と、蒸気温度計測値を入力として水噴霧手段61の操作量を計算する手段72(以下、文脈により制御装置とも記す)と、操作量に基づいて水噴霧手段6の流量を調整する手段61が備えられている。
はじめに、本発明のコンバインドサイクル発電プラントによって高速な起動が可能になる理由とその効果を述べる前に、従来のコンバインドサイクル発電プラントで高速な起動を実現しようとする際に直面する課題を説明する。
従来のコンバインドサイクル発電プラントの構成(上述した共通部分の構成)でプラントを高速に起動しようとする場合、まずガスタービン1の起動を早めることが考えられる。具体的には、ガスタービン1の負荷上昇レートを従来よりも高い値に設定したり、負荷を一定レベルで保持する時間(起動中のガスタービン機器の安全性や信頼性の観点で保護するために設定されることが多い)を短縮したり、といった施策が、程度の問題はあれ、実施可能ではある。
しかし、これらの施策を単に採用するだけでは、ガスタービン1の下流に位置する排熱回収ボイラ2と蒸気タービン3の保護の観点で様々な問題が生じる。これらの問題は、ガスタービン1を急激に起動することにより、排熱回収ボイラ2に供給される排ガス13の温度上昇レートが大きくなることと、その結果、排熱回収ボイラ2から蒸気タービン3に供給される蒸気温度と蒸気流量の上昇レートが大きくなることにより引き起こされる。
排熱回収ボイラ1で生じる典型的な問題としては、高圧過熱器214の寿命の減耗と、高圧ドラム213の水位変動の増大が挙げられる。
高圧過熱器214は、起動時において、蒸気発生系統の上流側にある高圧蒸発器212で蒸気が発生して高圧ドラム213を通って供給されるようになって初めて内部の蒸気が流れるようになる。逆に言えば、高圧過熱器214は、このように蒸気が発生する前には、配管内部に水や蒸気のような受熱媒体が存在しない状態で、外面が排ガス13の熱に曝される(空焚きされる)。このような空焚きは、機器構造体が過熱されて熱損傷するリスクが増大するだけでなく、以下のような問題がある。ガスタービン1が上述のように急速に起動されると、排ガス温度の上昇レートが増大するため、排ガス13からの伝熱による高圧過熱器214各部の温度上昇レートが増大し、かつ、高圧過熱器214の構造体熱容量に起因して内部の過渡的温度分布が増大することになる。これらの結果、高圧過熱器214の内部には不均一な熱膨張が生じ、これに起因する応力が生じるため、構造体寿命が減耗する原因となる。特に高圧過熱器214を束ねるヘッダ部分にこのような応力が集中しやすい。
高圧ドラム213は、ガスタービン1が上述のように急速に起動されて排ガス13の温度上昇が急激になると、蒸気発生系統の上流側にある高圧蒸発器212で蒸気が発生開始する際に、蒸気の発生量が急激に増大することにより、ドラムの水面高さ(水位)が急上昇するなどして不安定化する。このように高圧ドラム213の水位が不安定化すると、液相の水が後流の高圧過熱器214に同伴混入されるようになり、高圧過熱器214や蒸気供給先の高圧蒸気タービン31を損傷する原因となる。このため高圧ドラム213の水位が不安定化すると、プラントを意図したように高速に起動できなくなる。
蒸気タービン3で生じる典型的な問題としては、上述したように蒸気タービン3(本例では特に高圧タービン31)に供給される蒸気(本例では特に高圧蒸気21)の温度と流量の上昇レートが大きくなることにより、蒸気タービン3の構造体内部における過渡的温度分布が増大し、これによって構造体に熱応力や熱伸び差・変形を生じ、機器寿命を減耗したり、静止部と回転部の接触の危険性が増えたりすることが挙げられる。このような熱応力はタービンのロータやケーシングに生じ、これら構造体の寿命を短くする原因となる。また熱伸び差はタービンのケーシングとロータの熱膨張量の過渡的差異によって生じ、タービン軸方向の熱伸び差が過大な場合は回転部と静止部が接触して機器に損傷を与え、タービン径方向の熱伸び差が過大な場合はタービンの軸振動増大やラビングにより運転の安全性と信頼性に支障を生じかつ機器に損傷を与える。従って、熱応力や熱伸び差が増大するようであると、プラントを意図したように高速に起動できなくなる。
本発明では、ガスタービン1を急速に起動しようとする場合に直面するこのような様々な問題を、上述した本発明特有の構成要素(水噴霧手段6、蒸気温度計測手段71、制御装置81、噴霧流量調整手段61)を付加することにより解決する。その原理と効果を以下に説明する。
水噴霧手段6からガスタービン排ガス13に対して水が噴霧されると、噴霧された水は高温のガスタービン排ガス13によって加熱され液体から気体に気化する。この際に、排ガス13からは、水を沸点まで昇温させるための顕熱と、さらに気化させるための蒸発潜熱が奪われる、これにより排ガスの温度は低下する。
従って、例えば、仮にガスタービン1を、あたかも単独機器(シンプルサイクルガスタービン)であるかのように見立て、後流の排熱回収ボイラ2や蒸気タービン3を熱的に保護するための制約(しばしばこの目的で、ガスタービン1の負荷上昇レートが低めに設定されたり、負荷保持時間が長めに設定されたりする)を無視して、ガスタービン自体が許容できる範囲(燃焼の安定性やガスタービン構造体への負荷や熱変形が許容できる範囲)で最速に起動したとしても、発生するガスタービン排ガス13に対して水噴霧手段6を適切に運用することで、排熱回収ボイラ2に流入する排ガス13の温度と流量の経時変化、あるいは、排熱回収ボイラ2の高圧蒸発器212から高圧ドラム213と高圧過熱器214を経て蒸気タービン3の高圧タービン31に供給される高圧蒸気21の温度と流量の経時変化を、高圧過熱器214の寿命減耗や高圧ドラム213の過大な水位変動、高圧タービン31の過大な熱応力や熱伸び差といった問題が生じないような範囲に保つことができれば、従来よりもガスタービン1を急速に先行的に起動することが可能になる。
このような起動を実現するために、本発明では、まず、排熱回収ボイラ2から蒸気タービン3(高圧タービン31)に供給される高圧蒸気21の温度を蒸気温度計測手段71で計測する。
そして、こうして計測された蒸気温度を入力として、制御装置81において、排ガス13または蒸気21の温度の経時変化が上述の諸問題(高圧過熱器214の寿命減耗、高圧ドラム213の水位変動過大、高圧タービン31の熱応力過大あるいは熱伸び差過大)を生じさせないようなものになるような、水噴霧手段6の噴霧流量(ないし噴霧流量調整手段61に対する操作量)を計算する。
また、こうして計算された噴霧流量になるように噴霧流量調整手段61を操作(ないし前記計算された操作量に基づいて噴霧流量調整手段61を操作)する。
このような温度計測にもとづく噴霧流量の制御は、単純な方法としては通常のフィードバック制御によって実現可能である。例えば、温度計測手段71で計測される温度の時系列変化に対して、起動後の時間に応じた目標値をあらかじめ設定しておき、目標値と計測値との偏差に応じて噴霧流量を増減する(計測値が目標値よりも高ければ噴霧流量を増加、低ければ噴霧流量を減少)というフィードバック制御を実行すればよい。この場合、噴霧流量調整手段61に対する操作量は、例えば次の(1)式により噴霧流量調整手段61の操作量θを求めることができる。
[数1]
θ=γ(Tsm-Tst) (1)
(1)式において、記号θは操作量、γはゲイン、Tsは蒸気温度であり、添字tは目標値、mは計測値を表す。蒸気温度の目標値Tstは、ガスタービン1の昇速段階、初負荷段階、負荷上昇段階といったガスタービン排ガス温度の時系列的変動に合わせて、可変の蒸気温度の目標値Tstとして設定されている。これに対し計測値Tsmが、目標値Tstを上回る場合に、その温度差に応じて噴霧流量が定められる。このように、蒸気温度の計測値に応じて噴霧流量を適切に調整することができるため、ガスタービン1をシンプルサイクル同等に急速に起動しても、排熱回収ボイラ2と蒸気タービン3の熱的制約に起因する上述の諸問題を起こさないようにプラント全体を起動制御できる。
上記制御によれば、コンバインドサイクル発電プラントの起動が完了するタイミングにおける蒸気温度の目標値Tstは、主蒸気温度の例えば600℃であり、高圧蒸発器212で蒸気発生し、高圧過熱器214に蒸気が通気される段階になり、計測値Tsmが600℃を超えると噴霧流量制御は停止される。上記制御によれば、排熱回収ボイラ2の高圧蒸発器212の上流側には、ガスタービン1の起動から高圧蒸気確立までの期間だけ、水噴霧が実施されることになる。
このように、本発明では、ガスタービン1を先行的にシンプルサイクル同等に急速に起動できることにより、電力系統側からの短時間での発電要求に迅速に応えて起動することが可能になる。
具体的な例としては、電力系統内で再生可能エネルギーの割合が増えることによって生じる早朝や夕刻の発電量不足に対して、効果的に電力を供給できるようになる。また、本例は、従来の相対的に起動時間が長いコンバインドサイクル発電プラントに対しても、(蒸気温度計測手段71は通常どのプラントにも備えられているため)実質的に水噴霧手段6と噴霧流量調整手段61と制御装置81(及び必要な配線)を追設するだけで適用可能であり、新たに起動時間の短い最新鋭の発電プラントを建設しなくても、既存設備を有効活用して低コストに高速な起動が実現できる。
本例に特徴的な効果として、蒸気タービン保護の観点で精度の高い起動制御が可能である。これは、水噴霧流量を決めるためのガスタービン下流側の熱負荷の状態を、蒸気タービンに供給される蒸気温度計測で取得しているためである。また、本例は上述したように簡素なフィードバック制御で容易に実現できる利点がある。また、コンバインドサイクル発電プラントを高速に起動するために制約となる様々な条件(例えば上述した、高圧過熱器214の寿命減耗、高圧ドラム213の過大な水位変動、高圧タービン31の過大な熱応力や熱伸び差)のうち、蒸気タービン関する要因が律速になることが多いため、本例は実効性が高い。
なお、実施例1において、水噴霧手段6は、排熱回収ボイラ2入口煙道の拡大部に設けられた例を示しているが、この位置に限る必要はなく、ガスタービン1の排気ダクト以降の後流でかつ排熱回収ボイラ2の高圧過熱器214よりも上流の位置にあればよい。図1と異なる設置位置の例としては、ガスタービン1の排気口の下流に設けられたサイレンサ(図では省略)、及びその支持構造体のガス流れに沿った下流側に、ガス流れに沿った方向に噴霧口を向けて水噴霧手段6を配置することも可能である。この場合、排熱回収ボイラ2を改造する必要がなく、また、排ガス13の流れの中に水噴霧手段6を安定して固定するための指示構造物を新たに設ける必要がない(既存のサイレンサを支持構造物として流用できる)ため、低コストかつ短い工期で改造が実施できる利点がある。
また、実施例1では、説明を分かりやすくするために、蒸気タービン3を保護するための条件を高圧タービン31の保護を対象とした例で説明した。しかし、蒸気タービン3の保護に関しては、中圧タービン32も同様に重要であり、実際に高圧タービン31と中圧タービン32のどちらを優先するかは、プラントの特性や起動方法(例えば、高圧タービンを先行的に起動する高圧起動方式か、中圧タービンを先行的に起動する中圧起動方式か)によっても変わりうる。
このため、本例で保護される蒸気タービン3の内容は、上述した高圧タービン31にこれに限られるものでなく、中圧タービン32の保護を対象とする場合についても、蒸気温度計測手段71が中圧蒸気32(再熱式蒸気タービンであれば再熱蒸気)の温度を測るものとして、蒸気温度に関する情報を高圧蒸気でなく中圧蒸気に変更すれば、以上の説明と同様に実施可能である。
あるいはさらに、高圧タービン31と中圧タービン32の両方を同時に保護するように、高圧蒸気温度計測手段71aと中圧蒸気温度計測手段71bの両方を設けて、制御回路812においては、計測された高圧蒸気21の温度に基づき計算される噴霧流量調整手段61の操作量と、計測された中圧蒸気22の温度にもつづき計算される噴霧流量調整手段61の操作量のうち、大きい方の値を噴霧流量調整手段61に出力すればよい。
このようにすることにより、高圧タービンと中圧タービンの両方をより安全に起動することが可能である。以降に述べる実施例においても、このように、蒸気タービン3のうち高圧タービン31を保護する場合を例に説明するものの、これに限らず、中圧タービン31の保護にも適用できることは同様である。
また、実施例1は、ガスタービン1と蒸気タービン3が駆動軸を共有する一軸式コンバインドサイクル発電プラントを例に説明したが、これに限るものでなく、ガスタービン1と蒸気タービンが別の駆動軸を持ち別々に回転可能な多軸式コンバインドサイクル発電プラントであってもよい。これについても、以降の実施例(図5を除く)に共通である。
図2に、本発明の実施例2に係るコンバインドサイクル発電プラントの構成例を示す。実施例2では、コンバインドサイクル発電プラント起動時に、高圧蒸気確立までの間高圧過熱器の上流側に水噴射するものであり、これを排ガス温度計測により制御する。
実施例2のコンバインドサイクル発電プラントでは、図1における蒸気温度計測手段71の代わりに、ガスタービン排ガス13の排気温度計測手段72が設けられている。
そして、計測された排ガス温度を入力として、制御装置82において、排ガス13または蒸気21の温度の経時変化が上述の諸問題(高圧過熱器214の寿命減耗、高圧ドラム213の水位変動過大、高圧タービン31の熱応力過大あるいは熱伸び差過大)を生じさせないようなものになるような、水噴霧手段6の噴霧流量(ないし噴霧流量調整手段61に対する操作量)を計算する。他の構成要素は図1と同じである。
排気温度計測手段72の設置位置は、図2で例示したように、水噴霧手段6よりもガス流れの上流側とすることも可能であるが、下流側とすることも可能である。この設置位置により制御方法と特徴が変わる。排気温度計測手段72が水噴霧手段6よりもガス流れに沿って上流に設置される場合、制御装置82での計算内容はフィードフォワード制御向けの噴霧水量計算となり、単純な方法としては、熱収支計算により、(2)式を満たす水噴霧流量Gwを求めることができる。
[数2]
Gt*ht=Gm*hm+Gw*hw (2)
(2)式において、記号Gは流量、hは比エンタルピ、添字wは噴霧水を表し、tとmは(1)式と同様である。
排気温度計測手段72が水噴霧手段6よりもガス流れに沿って下流に設定される場合、制御装置82での計算内容はフィードバック制御向けの噴霧流量調整手段61の操作量計算となり、単純な方法としては、(3)式により噴霧流量調整手段61の操作量θを求めることができる。
[数3]
θ=γ(Tgm-Tgs) (3)
(3)式において、記号Tgは排ガス温度であり、その他の記号と添字の意味は(1)(2)式と同じである。こうして述べたように排ガス温度の計測値に応じて噴霧流量を適切に調整することによっても、前述の図1の例と同様の効果を得ることができる。
実施例2に特徴的な効果として、高圧過熱器214保護の観点で精度の高い制御が可能である。これは、水噴霧流量を決めるためのガスタービン下流側の熱負荷の状態を、高圧過熱器214に向かって流れる排ガスの温度として取得しているためである。
また、実施例2では制御の応答が早く安定しやすい利点がある。これは、実施例2のように、排ガス温度を計測して排ガスへの噴霧流量を決定する場合、前述の図1のように蒸気温度を計測して排ガスへの噴霧流量を決定する場合に比べて、より直接的な制御操作となるためである。特に、排気温度計測手段72が水噴霧手段6よりもガス流れに沿って上流に設置される場合は、より応答の早い制御が可能になる。これは前述の(2)式のようにフィードフォワード制御することにより、フィードバック制御のような時間遅れなしに制御が実行されるためである。またこの場合の計算方法も例えば(2)式のように単純であり、制御が簡素で実現しやすいことも利点である。一方で、気温度計測手段72が水噴霧手段6よりもガス流れに沿って下流に設定される場合であっても、上述したように計算式3で表されるような通常のフィードバック制御により実現が容易である。
さらに、実施例2は、(2)(3)式における目標値の設定が、前述の図1の例に比べて比較的容易という利点がある。これは、ガスタービン排ガス13の温度の経時変化はガスタービン1の起動方法によって一意に定まり、蒸気21の温度の経時変化にようにガスタービン1と排熱回収ボイラ2の両方の起動方法に依存するという複雑さがないためである。
なお、実施例2では、排ガス温度計測手段72が、排熱回収ボイラ2の入口の煙道拡大部に設置された場合を示したが、設置位置はここに限定されるものでなく、ガスタービン1の排気口以降の後流で、かつ、排熱回収ボイラ2の高圧過熱器214よりも上流側の位置にあればよい。以降の実施例で排ガス温度計測手段72が言及される場合についても同様である。
図3に、本発明の実施例3に係るコンバインドサイクル発電プラントの構成例を示す。実施例3では、コンバインドサイクル発電プラント起動時に、高圧蒸気確立までの間高圧過熱器の上流側に水噴射するものであり、これを蒸気温度計測と排ガス温度計測により制御する。
実施例3は前述の図1と図2を組み合わせたものであり、制御装置83に入力される温度情報の取得手段として、蒸気21の温度計測手段と、排ガス13の温度計算手段の両方を備えている。制御装置83はこれら両方の温度の情報を用いて、水噴霧手段6の流量調整手段61に対する操作量を計算する。以下、前述の図1または図2と共通の部分の説明は割愛し、異なる部分のみを説明する。
制御装置83での操作量の計算方法は、幾つかのものが想定可能である。例えば第1の方法は、蒸気温度計測手段71で取得された蒸気温度に基づいて図1の制御装置71と同様の計算方法で算出された必要噴霧流量ないし流量調整手段61の操作量と、排ガス温度計測手段72で取得された排ガス温度に基づいて図2の制御装置72と同様の計算方法で算出された必要噴霧量ないし流量調整手段61の操作量のうち、大きい方の値を採用する方法が挙げられる。
また、例えば第2の方法は、蒸気温度計測手段71で取得された蒸気温度に基づいて図1の制御装置71と同様の計算方法で算出された必要噴霧流量ないし流量調整手段61の操作量を用いて、流量調整手段61を操作することを基本としつつ、排ガス温度計測手段72で取得された排ガス温度についての、時間帯ごとに定められた許容トレンドとの偏差がある基準値を超過した場合、あるいは排ガス温度の上昇速度が初期メタル温度に予め応じて定められた基準値を超過した場合に、これらの基準値との差異(とくに超過度合)に応じて噴霧流量を増加させる方法が挙げられる。
また、例えば第3の方法は、逆に、排ガス温度計測手段72で取得された排ガス温度に基づいて図2の制御装置72と同様の計算方法で算出された必要噴霧流量ないし流量調整手段61の操作量を用いて、流量調整手段61を操作することを基本としつつ、蒸気温度計測手段71で取得された蒸気温度についての、時間帯ごとに定められた許容トレンドとの偏差がある基準値を超過した場合、あるいは蒸気温度の上昇速度が初期メタル温度に予め応じて定められた基準値を超過した場合に、これらの基準値との差異(とくに超過度合)に応じて噴霧流量を増加させる方法が挙げられる。
実施例3では、このように高圧蒸気21の温度と、排ガス13の温度の両方を監視して制御することにより、蒸気タービン3と排熱回収ボイラ2の両方の保護に必要なプラント制御を効率的に実現できる。
特に、上述の第1の方法では、蒸気と排ガスの両方の観点から必要な噴霧手段の操作量が常時計算されているため、安全で信頼性ある起動制御が可能になる。
第2の方法及び第3の方法では、それぞれ優先される保護対象(第2の方法では蒸気タービン、第3の方法では排熱回収ボイラ)に着目して効率的な制御をしつつ、他方の保護対象についても問題が生じないように制御がなされるため、保護対象に関する優先度の違いが明確なプラント(例えば、排熱回収ボイラと蒸気タービンのうち、一方の設計上の許容限界への余裕が少ない場合や、一方が経年的に老朽化が著しく進んでいる場合、さらに、他方の機器で保守の実施や新設時の高耐久材料の選定により許容限界への余裕が大きい場合)を起動制御するのに好適である。
図4に、本発明の実施例4に係るコンバインドサイクル発電プラントの構成例を示す。実施例4では、コンバインドサイクル発電プラント起動時に、高圧蒸気確立までの間高圧過熱器の上流側に水噴射するものであり、水噴射量を蒸気温度計測により制御するとともに、主蒸気流量を調整するものである。この実施例4は、実施例1にさらに主蒸気流量制御を追加し、蒸気タービンへの入熱を制限したものである。
実施例4では、前述の図1の実施例1に対して、制御装置84(図1の場合は制御装置81)で操作する対象に、蒸気タービン3への高圧蒸気21の供給量を加減する弁(蒸気流量調整弁)311が加わっている。以下、図1との共通部分は割愛し、異なる部分のみ説明する。なお図4では、中圧蒸気22の供給量を加減する弁(蒸気流量調整弁)321、低圧蒸気23の供給量を加減する弁(蒸気流量調整弁)331も図示している。
制御装置84では、蒸気温度計測手段71で取得された高圧蒸気21の温度に基づいて、図1の制御装置81で説明したのと同様にして、水噴霧手段6の流量調整手段61に対する操作量を計算するだけでなく、さらに、高圧タービン31に流入する蒸気31の流量を調整する。
この調整方法としては、例えば、蒸気31の温度が許容トレンドを上回りそうな場合、あるいは上回った場合に、流量を下げるように調整する方法がある。この方法の場合、蒸気タービンの熱的保護をより強化できる。
あるいは、別の調整方法として、水噴霧手段6の噴霧流量を前述の図1の例で計算される値よりも少ない値とし、かつ、高圧タービンに持ち込まれる蒸気31の熱量が図1の例と同等になるように、蒸気流量調整弁311の開度を絞るように調整する方法がある。この方法の場合、水噴霧手段の容量を小さくすることができる。
なお、実施例4では温度計測手段7が、蒸気温度計測手段71である場合を例に説明したが、これに限る必要はなく、排ガス温度計測手段72であってもよい。その場合の蒸気流量調整弁311の操作量の計算方法は、許容トレンドが蒸気21に関するものでなく排ガス13に関するものになる点が異なる他は、上に述べた蒸気温度計測手段71に基づく場合と同様である。
図5に、本発明の実施例5に係るコンバインドサイクル発電プラントの構成例を示す。実施例1から実施例4では、既設のコンバインドサイクル発電プラントにおいてガスタービンを高速起動するときに排ガス利用側設備の熱的問題を軽減することで対応することを述べてきたが、実施例5では既設のコンバインドサイクル発電プラントにおいてガスタービンと蒸気タービンを連結する駆動軸を切断し、これらを別体とすることでガスタービンの高速化を実現する。その場合に残された排ガス利用側設備の熱的問題を軽減するものである。
図5の実施例5では、既設のコンバインドサイクル発電プラントを改造して本発明を実施する場合の、プラント構成の例であり、前述の図4の構成に加えて、もともとガスタービン1と蒸気タービン3で共有されていた駆動軸4が、ガスタービン側の駆動軸41と、蒸気タービン側の駆動軸42に分離されており、かつ、蒸気タービン側の駆動軸42には新たに、蒸気タービンの動力を電力に変換する発電機52が設けられている。以下に、図4と共通な部分は割愛し、異なる部分のみ説明する。
ここでいう、駆動軸4が、ガスタービン側の駆動軸41と蒸気タービン側の駆動軸42に分離されている状態とは、典型的には、もともとガスタービン1と蒸気タービン3の駆動軸4が一体不可分に構成されている一軸式コンバインドサイクルプラントであったものに対して、この駆動軸4を切断して別々に回転できるように改造した状態を指す。
このため切断位置においては新たに、ガスタービン1側には駆動軸41を支持するための軸受が、蒸気タービン2側には駆動軸42を支持するための軸受が設けられている(いずれも図では省略)。あるいは、別のケースとして、ガスタービン側の駆動軸41と蒸気タービン側の駆動軸42がクラッチで結合したり切り離したりできる構造のプラントの場合、このクラッチが一貫して離された状態におかれていることを指す。
また、蒸気タービン2の駆動軸42に設けられた発電機52は、軸4の切断もしくはクラッチの切り離しによってガスタービン1と別に動力を発生するようになった蒸気タービン2から電力を得るために設けられている。
このように駆動軸を分離するように改造することで、ガスタービン1は蒸気タービン3の回転数を別々に制御できるため、駆動軸が一体になっている場合に比べて、ガスタービン1と蒸気タービン3を別々に制御できる余地が増える。これにより、ガスタービン1では蒸気タービン3の保護に必要な条件に運転方法が制約される度合いが減り、より、シンプルサイクルに近い高速な起動が可能になる。
また、このような駆動軸を分離する改造は、ガスタービン1や蒸気タービン3の内部の動力機関の複雑な構造を改変することなく、そのまま活かし、軸を切断して別々に回転できるようにするだけであるので、比較的短い工期で改造を実施できる。
さらに、プラントの起動を改善するために、新たに起動特性の優良な新規プラントを建設することなく、既設のプラント資産を最大限有効活用できるため、より低コストに実施できる利点がある。
以上で述べたような駆動軸の切断を伴う構成は、本例の図5の他にも、以下のような変形構成例が採用可能である。
変形構成例1:制御装置85から蒸気流量調整弁311への出力回路がない構成。
変形構成例2:蒸気タービン3側への発電機52の追設がなく、蒸気タービンへの蒸気供給を中止(図5で表すと蒸気流量調整弁311、321、331を閉止)する構成。
上記変形構成例1では、蒸気温度と流量の両方を調整する複雑な制御を行う必要がなく、蒸気タービン3の駆動軸42がガスタービン1の駆動軸41から切り離されていることによって生じる蒸気タービン3の起動操作の独立性を活かし、蒸気温度21の制御のみに集中した簡素な構成で起動制御を実現できる。
上記変形構成例2は、蒸気タービンの運用を廃止する構成である。この場合図5には示していないが、排熱回収ボイラ2で発生した蒸気21、22、23はそれぞれ、当該発電プラントが設置された発電所の内部あるいは近隣の別の設備に供給されるようにバイパス経路が設けられる(あるいは既に設けられている)ものとする。
この場合のメリットとしては、蒸気タービン3を廃止することにより、ガスタービン1は完全に蒸気タービンの保護と無関係に起動できるため、より安全に、かつ、排熱回収ボイラ2の保護だけ考慮してより高速に簡単な制御で急速に起動できるようになる。さらに、蒸気タービン3はガスタービン1に比べて設置スペースがはるかに大きいため、蒸気タービン3が廃止されて撤去されると、プラントの設置面積が大幅に減少し、新たに生じたスペースに、例えば築エネルギー設備(例えば、蓄電池、フライホール、蒸気アキュムレータなど)を設けて、システムの運用の柔軟性を広げたり、蒸気を消費する設備や蒸気を利用して冷熱を発生させる設備を設けて、エネルギー利用効率を向上させたりすることができる。
なお、以上において、実施例5では温度計測手段7が、蒸気温度計測手段71である場合を例に説明したが、これに限る必要はなく、排ガス温度計測手段72であってもよい。その場合の蒸気流量調整弁311の操作量の計算方法は、許容トレンドが蒸気21に関するものでなく排ガス13に関するものになる点が異なる他は、上に述べた蒸気温度計測手段71に基づく場合と同様である。
図6に、本発明のコンバインドサイクル発電プラントに含まれる制御装置8(図1の場合は81、図2の場合は82、図3の場合は83、図4の場合は84、図5の場合は85に相当するものを総称して8とする)の入出力と内部動作の構成例を示している。
制御装置8は、初期状態取得手段801で取得された初期状態情報と、温度計測手段7(前述の蒸気温度計測手段71又は排ガス温度計測手段72、あるいはこれらの組み合わせを総称して7とする)で取得された温度情報を入力として受け取り、これらの情報に基づき、制御回路802で起動曲線データベース803を参照して初期状態に応じたプラントの起動曲線を抽出するとともに、この起動曲線において排熱回収ボイラ2と蒸気タービン3を保護するために必要な水噴霧手段6の噴霧流量調整手段61の操作量を計算する。以下に詳細を説明する。
初期状態取得手段801で取得される初期状態情報とは、典型的には、蒸気タービン31の構造体のメタル温度(以下、初期メタル温度)、あるいは当該発電プラントが前回停止してからの経過時間(以下、停止後経過時間)である。
これらはプラントの構造体各部が起動を開始する時点でどれだけ暖められているかを表しており、同時にこの程度によって、排熱回収ボイラ2や蒸気タービン3の起動時の熱的保護をどのようになすべきかが規定される性質を持つ。この意味で、初期状態取得手段801で取得される初期状態情報は、上述した初期メタル温度と停止後経過時間に限定される必要はなく、排熱回収ボイラ2や蒸気タービン3についての保護が必要な程度を表すものであれば、他の指標でもよい。このようなものとして、例えば、構造体の熱応力や熱変形がクリティカルな位置における温度分布や複数位置間の温度差のような情報がある。
温度計測手段7で取得される温度情報は、前述の蒸気温度計測手段71または排ガス温度計測手段72あるいはその両方から、プラント起動過程にわたって取得される蒸気温度または排ガス温度である。ここでの温度情報は、ガスタービン1の下流に位置する排熱回収ボイラ2あるいは蒸気タービン3に対する熱的負荷を表すものであり、この意味において、取得される情報は温度に限定されるものでなく熱量(エンタルピー)であってもよい。
このような方法としては、前記温度計測手段71あるいは72で取得される蒸気温度あるいは排ガス温度に加えて、蒸気流量取得手段701あるいはガス流量取得手段702(図中には示されていないが、それぞれの設置位置は温度計測手段71及び72に準じるものとし、あるいは該流量取得手段は直接的な計測手段でなく当該流体の圧力等の計測値にもとづいて計算するものであってもよいものとする)で取得された流量を用いて、前記手段71または72で取得された温度に対応する蒸気あるいは排ガスの比エンタルピと前記手段701あるいは702取得された流量を乗じて得られる蒸気21あるいは排ガス13のエンタルピ(熱量)を熱的負荷の指標として用いることが挙げられる。
起動曲線データベース803は、当該コンバインドサイクル発電プラントについての前述したプラントの初期状態に応じた起動方法が、初期状態取得手段801で取得される情報形態に応じて、取得または計算できるような情報格納検索手段あるいは計算手段である。ここでいう初期状態に応じた起動方法とは典型的には、当該発電プラントを起動するための、ガスタービン1及び、排熱回収ボイラ2、蒸気タービン3の時系列操作手順(起動シーケンス)である。起動シーケンスに含まれる情報としては、起動開始後の時間に応じて定められた、ガスタービン1の昇速レート、負荷上昇レート、負荷保持時間や、燃焼器の操作手順、排熱回収ボイラ2の給水流量や、通気時間(蒸気タービン3への蒸気供給開始時間)、蒸気タービン3の昇速レート、負荷上昇レート、バイパス弁や蒸気加減弁の開度、といった操作端の時系列操作手順を挙げることができる。
また、この起動シーケンスに応じた、ガスタービン排ガス13や蒸気21(あるいは必要に応じて22、23)の温度のうちの少なくとも一方、あるいはさらにこれら温度に対応する流体(排ガスまたは蒸気)の流量の経時変化についても、ここでは起動曲線の情報に含むものとする。
こうした蒸気温度や排ガス温度の時系列変化の情報は、例えば、排ガス温度の場合、ガスタービン1の負荷に応じた排ガス温度の設計情報(排ガス温度負荷特性)と、ガスタービン負荷の時系列変化(負荷トレンド)の情報に基づいて計算することができる。
最も単純には、負荷トレンドに対応する排ガス温度を、負荷特性を線形補間することで得ることができ、あるいは、より精度の高い方法として、先程の線形補間の計算値に対して、ガスタービンの負荷変化操作から排熱回収ボイラ2の入口での排ガス温度への応答の遅れの時定数を考慮して、一次遅れ系の計算式で計算することも可能である。
蒸気温度についても、これと同様に、ガスタービン負荷に応じた蒸気温度(蒸気温度負荷特性)の設計情報とガスタービン負荷トレンドから線形補間によって計算可能であり、より精度の高い方法として、ガスタービンの負荷変化操作から蒸気タービン31の入口での蒸気温度への応答の遅れの時定数を考慮して、一次遅れ系の計算式で計算することも可能である。
ガスタービン排ガス13の流量と蒸気21(あるいはさらに22、23)の流量も同様にして負荷特性の設計情報と、負荷トレンドと、さらに精度を高めるために応答遅れの時定数を用いることで計算可能である。本発明では、以上のようにガスタービン1と排熱回収ボイラ2と蒸気タービン3の起動シーケンス及びこれにともなう排ガス13や蒸気21の温度と流量の経時変化のような時系列情報を総称して起動曲線と呼ぶ。
起動曲線データベース803の形態は、上述したように、情報格納検索手段として実現される場合と、計算手段として実現される場合がある。情報格納検索手段の場合は、複数の初期状態に応じたガスタービン起動曲線がデータベースに格納されており、初期状態をキーとする検索によって、初期状態に応じたガスタービンの起動曲線が取得されて返されるような、検索可能なデータベースとして実装される。計算手段の場合は、あらかじめ定められた計算手順によって、初期状態に応じた起動曲線が計算されて返されるような計算回路として実装される。あらかじめ定められた計算手順としては次に述べる2つのような例がある。
第1の例は、数点の初期メタル温度に応じてプラントの各種起動曲線を予め記憶しておき、実際に起動しようとするときの初期メタル温度における起動曲線を、これらの記憶済みの起動曲線を補間するようにして生成することである。
ここでいう補間とは、例えば、前述のように予め起動曲線が記憶されている初期メタル温度のうち、実際に起動しようとするときの初期メタル温度に最も近い上側と下側の値における起動曲線を参照し、これら(上側と下側)の初期メタル温度への近さに応じて、これらの起動曲線の負荷上昇レートや負荷保持時間、弁の開閉タイミング(起動開始後のある基準となる時点からの経過時間で表される)のような値を重みづけ平均することにより、起動する際の負荷上昇レートや負荷保持時間の値を決めることである。初期メタル温度によらず一定の値で操作される項目についてはそのまま適用されることは言うまでもない。このような第1の方法は、既存の起動曲線を有効活用して、より安全で信頼性のある起動方法を効率的に生成できる。
第2の例は、起動曲線を決定づけるパラメータ(以下起動曲線パラメータ)の値を、初期メタル温度に応じて記憶させておき、指定された初期メタル温度に応じて参照される起動パラメータの値に基づき、あらかじめ定められたルールによって起動曲線を生成させることである。
起動曲線パラメータとは、直前の第1の例で述べた、起動曲線の負荷上昇レートや負荷保持時間、弁の開閉タイミング(起動開始後のある基準となる時点からの経過時間で表される)のような値の他に、機器を操作する順序の違いを表すパラメータをも含むものである。
操作する順序の違いを表すパラメータの例としては、ガスタービン負荷の上昇と蒸気タービン負荷の上昇タイミングの関係として、先にガスタービン負荷を定格まで上昇させたのちに、蒸気タービン負荷を上昇させてプラント全体を起動させるか、途中までガスタービン負荷上昇を先行させて保持しながら蒸気タービン負荷を一定程度上昇さるような操作を繰り返してプラント全体を起動させるか、初めから最後までガスタービンと蒸気タービンを並列的に負荷上昇させるようにしてプラント全体を起動させるか、といった起動操作順序の方針を番号で表したものがある。
このような起動操作順序は、初期メタル温度に応じてどの操作順序がよいか異なり、また起動時に機器寿命の減耗を最小限に抑えるか、許容できる範囲内であれば寿命減耗よりも短時間での起動を優先するか、といった目的によって最適な値が異なる。したがって、この第2の方法では、起動時に優先する事柄に応じてより柔軟に最適な起動方法を選択できる長所がある。
制御回路802は、こうして得られた、起動時初期状態に対応する起動曲線に基づいて、排熱回収ボイラ2の保護(高圧過熱器214の寿命損傷や、高圧ドラム213の水位変動過大を起こさないこと)または蒸気タービン3の保護(ロータやケーシングの熱応力や、熱伸び差が過大にならないこと)に必要な水噴霧手段6の操作量を計算して噴霧流量調整手段61に対して出力する。
ここで用いられる起動曲線は、前述した各種起動シーケンスのうち、最も単純には特に、蒸気21の温度の経時変化の情報、または、排ガス13の温度あるいはさらに流量の経時変化の情報が用いられる。これらを用いた噴霧流量調整手段61への出力情報の計算内容は以下のようなものである。
蒸気21の温度の経時変化の情報が用いられる場合は、蒸気温度の経時変化が、排熱回収ボイラ2または蒸気タービン3の保護のために必要な、予め定められた基準を満たすように、前述の図1の制御装置81ないし図4の制御装置84ないし図5の制御装置85で述べたようなフィードバック制御の計算がなされる。
排ガス13の温度とあるいはさらに流量の経時変化の情報が用いられる場合は、前述の図2の制御装置82で述べたようなフィードフォワード制御またはフィードバック制御の計算がなされる。蒸気21と排ガス13の両方の温度あるいはさらに流量の情報が用いられる場合は、図3の制御装置83で述べたようなフィードバック制御またはフィードフォワード制御に基づく計算がなされる。
このような水噴霧手段6の流量調整手段61に対する操作量の計算では、典型的には前述の図1の制御装置81、図2の制御装置82、図3の制御装置83、図4の制御装置84、図5の制御装置85の説明で述べたように、蒸気温度21あるいは排ガス温度13の経時変化に対する許容値が必要となる。例えば、排熱回収ボイラ2または蒸気タービン3を保護するために、許容値一杯になるような最も厳しめの、蒸気温度21あるいは排ガス温度13の経時変化値(以下許容トレンドと呼ぶ)がこれに相当する。
このような許容トレンドは、プラントが既設であり、類似設計のプラントの起動実績データがある場合は、初期メタル温度に応じた運転実績データの中で最も許容水準一杯に近いものを予め用意しておくことが可能であり、一方プラントが新設の場合は、プラント起動時のガスタービン1、排熱回収ボイラ2、蒸気タービン3の動的特性を模擬可能な(即ち、操作に対する応答の遅れを考慮した非定常状態が計算可能な)プラントの動特性モデルを構築し、この動特性モデルを用いて起動方法を様々に変更したシミュレーションを実施し、シミュレーション結果群のなかから、初期メタル温度に応じて最も許容水準一杯に近いものを予め選択しておくことにより策定可能である。
前者(プラントが既設であり、類似プラントの運転実績がある場合)の方法は、過去の実績に基づいているため、安全性と信頼性が高く、既設のプラントであっても、制御の計算を複雑にすることなく容易に効率的に実装できる長所がある。
後者(プラントが新設である場合)の方法は、プラントの初期メタル温度を細かく変化させた詳細な計算が可能であるため、初期メタル温度に応じた許容トレンドをきめ細かく設定可能であり、より高精度な制御が期待できる。
図7に示す実施例7では、制御装置8(81−85)を計算機で構成する場合の演算装置における情報処理手順例を示している。
図7において、最初の処理手順S821では、コンバインドサイクル発電プラントの起動開始が確認される。
次の処理手順S822では、コンバインドサイクル発電プラントの初期状態の情報が参照され、この値に基づいて処理手順S823でコンバインドサイクル発電プラントの起動曲線が決定される。この処理手順S821から処理手順S822における起動曲線の決定手順の内容は、プラントの初期状態を表す指標に基づいて、起動曲線が選定されるようなものであればよく、典型的には、前述の図6において、初期状態取得手段801と起動曲線データベース803と制御回路802を用いて説明した通りである。
なお、処理手順S822(初期状態情報の取得または設定)と処理手順S323(起動曲線の選択または設定)は、説明を分かりやすくするために、ここでは処理手順S821の後として示したが、実際には処理手順S821で起動が開始される前に、プラント起動方法を決める段階で実施されてもよい。このようにすると電力系統側から短時間での発電要求があった場合に、プラントをどのように起動可能であるか見積もることが可能となり、プラントの運用性が向上する長所がある。
処理手順S824では、水噴霧を開始するかどうかの判定がなされる。判定結果がYESになるまでは噴霧が開始されないようにされる。判定基準としては、例えば、ガスタービン1への点火(燃料供給による燃焼器の着火)が完了したかどうかを用いると好適である。プラントの起動においては、ガスタービン1への点火前にも様々な操作がなされるが、ガスタービン1を急速に起動する際に排ガス13ひいては高圧蒸気21の温度の急上昇が問題になるのは、ガスタービンでの燃焼が開始された後であるため、このような判定をすることにより、制御の開始タイミングをより明確化され、例えば、点火前に制御が不用意に発動して、まだ高温になっていない排ガスに水を噴霧して結露を招くような問題を回避できる。
処理手順S825では、水噴霧を開始後における、水噴霧手段6の流量調整手段61(図1−図5)に対する操作量が計算される。この操作量の計算内容は、処理手順S823で選定された起動曲線にもとづき、排熱回収ボイラ2または蒸気タービン3を保護するために必要な水噴霧を実現するための流量調整手段61の操作量を求めるものであればよく、典型的には、前述の図6の制御回路802で説明した通りである。
処理手順S826では、水噴霧を終了するかどうかが判定される。水噴霧が終了と判定されるまでは、処理手順S625での噴霧流量調整手段61の操作量の計算が、プラントの起動中の時間経過に応じて繰り返される。反対に、水噴霧が終了と判定されれば、続く処理手順S827で起動時の水噴霧とその制御が完了となる。このようにして水噴霧の終了タイミングが判定される。
このような水噴霧終了の判定基準として、例えば、以下の3つの方法が挙げられる。これらの確認条件は、別の言い方をすると高圧主蒸気の確立が、実質的に、直接的にあるいは間接的に確認できたことである。
第1の確認条件は、排熱回収ボイラ2における高圧蒸気21の発生開始で判定することである。排熱回収ボイラ2の高圧過熱器214は、前述したように高圧蒸発器212で蒸気発生を開始する前は配管内部に水や蒸気という受熱媒体が存在せず高い熱負荷に曝されるが、蒸気発生後は内部を蒸気が通流し排ガス13からの熱を受けて蒸気21として過熱器214から熱を持ち出すため、このように判定することにより、排熱回収ボイラの過熱器214の寿命減耗と急速起動による高圧ドラム213の水位変動過大を効果的に抑制できる。
蒸気の発生開始の判定には、高圧蒸気21の流量を計測または推定する手段(図では非表示、ここでいう推定とはあらかじめ定められた計算式により蒸気流量以外の計測値を用いて制御盤で計算されるような場合を指す)を用いる方法、あるいは排熱回収ボイラ2への給水流量を監視して蒸発開始により給水流量が増加するタイミングを判定する方法がある。後者の場合、高圧蒸発器213で蒸発が開始するまで、高圧系の給水は高圧ドラム214と蒸発器213の間を循環しているのみで、高圧過熱器214側へは流れないため、実質的に給水流量はほとんど増えないが、高圧蒸発器213で蒸発が開始されると蒸気が過熱器214側に流れるようになるため、給水流量が増加するという特性を利用し、給水流量が増加するタイミングを判定することができる。さらに、蒸発が開始した直後は、高圧蒸発器212内での急激な沸騰と気化によって、高圧ドラム213内部の水位が変動する(典型的には初めに少し下がり、その後過渡的に上昇してゆく)ため、このようなドラム水位の変動をも加味して判定すると、より高精度な判定と制御が可能になる。
第2の確認条件は、ガスタービン1または蒸気タービン3、あるいはプラント全体の定格負荷到達で判定することである。このようにすると、蒸気タービン3のロータ熱応力に関わるロータ内部温度分布(これを表す温度差)やラビング振動に関わるケーシングの温度分布(これを表す温度差)のように、ロータとケーシングの熱伸び差よりも応答時間の短い現象について、監視対象となる値(温度差)が過大にならないように効果的に抑制できる。
第3の確認条件は、蒸気タービン3あるいはプラント全体の定格負荷到達時刻後の経過時間で判定することである。ここでいう経過時間とは、例えば、蒸気タービン3が定格負荷に到達後に、ロータとケーシングの軸方向の熱伸び差がピーク値に到達するのに要する時間を推定したものであると好適である。
このような時間は、プラントの初期状態によっても異なる。これらの値は、プラントの過去の運転実績や、プラントの起動計画の設計情報、あるいは前述の図6の制御回路802で述べたようなプラントの動特性モデルを用いてシミュレーションを実施することで設定ないし取得可能である。このようにすると、蒸気タービンの軸方向熱伸び差のように、操作に対する応答の遅れ(時定数)が比較的長い現象に対して、監視対象となる値が過大にならないように効果的に抑制できる。
図8には、実施例8として既設のコンバインドサイクル発電プラントを改造する手順の一例を示している。
本発明のコンバインドサイクル発電プラントは、新規に製造する場合だけでなく、特に、先に図5を用いて説明したように、既設のコンバインドサイクル発電プラントを改造して構成することも可能である。図8に、既存のコンバインドサイクル発電プラントを、本発明の発電プラントに改造する手順の一例を示す。
図8の最初の処理手順S91では、改造工事の開始を確認する。改造は、2つの流れが並行して実施可能であり、第1の流れでは、処理手順S921から923までの軸切断に関わる作業が実施され、第2の流れでは、処理手順S931から933までの水噴霧系統の追設に関わる作業が実施される。これらの作業は併行で実施してもよく、どちらかが先に行われてもよい。これらの両方が終わると改造が完了(処理手順S94)する。各処理手順Sを以下に述べる。
軸切断側の処理手順S921では、ガスタービン1と蒸気タービン3で共有されている駆動軸4を切断するための準備がなされる。具体的には、駆動軸4を切断するための工具が設置されるとともに、切断を開始してから終了するまで間、駆動軸を支持するための作業用構造体が設置される。
処理手順S922では、駆動軸4がガスタービン1側の駆動軸41と蒸気タービン3の側の駆動軸42に分離される。駆動軸4がもとも分離不可能に一体化されている場合、この分離は機械的な切断によって実施される。切断手段は金属構造体切断手段であればよい。駆動軸4がもとも分離可能なようにクラッチで結合されている場合、この分離は、当該クラッチ部分を恒久的な切り離し(すなわち、クラッチを外すこと)によって実施される。
処理手順S923では、切断によって生じたガスタービン側の駆動軸41と蒸気タービン側の駆動軸42のそれぞれを、切断位置に近い側で支える軸受がそれぞれ設置される(これらの軸受は処理手順S921の段階で設定されていてもよい)とともに、これら2つの軸受上にガスタービン1の駆動軸41と蒸気タービン3の駆動軸42が設置される。また、これにあわせて、蒸気タービン3側の駆動軸42には、該蒸気タービン3の動力を電力に変換する発電機52が設置される。
水噴霧系統の追設に関わる処理手順S931では、温度計測手段7(蒸気温度計測手段71または排ガス温度計測手段72の少なくとも一方)が設置される。
処理手順S932では、水噴霧手段6と、噴霧流量調整手段61と、噴霧する水60を導くのに必要な配管類が設置される。なお、これら処理手順S931と932の順序は逆であっても、同時併行であってもよい。
処理手順S933では、制御装置7(図1−5の制御装置71−75に対応)が設置され、温度計測手段7からの入力信号と、噴霧流量調整手段61及び図4・図5の場合はさらに蒸気流量調整手段311に対する出力信号の配線がそれぞれなされる。
なお、以上の説明において、処理手順S921から923までの軸切断関連作業は、当該コンバインドサイクル発電プラントが、ガスタービン1と蒸気タービン3で回転軸を共有する一軸式の場合になされる作業である。もともとガスタービン1と蒸気タービン3の回転軸が別々になっている場合は、これらの処理手順Sは不要である。
さらに、処理手順S933における発電機の追設は無しとしてもよく、高圧・中圧・低圧の蒸気流量調整手段311、321、331を閉じ、排熱回収ボイラ2で発生した蒸気を蒸気タービン3に供給せず、別の系統に供給してもよい。このようにすると、ガスタービン1と比較して設置スペースの大きい蒸気タービン3を休止して撤去することにより、プラントに有効な空きスペースを設けることができ、新たな別の発電設備や蓄電設備(電池やフライホイール)を設置することも可能となり、システムの運用性を向上できる効果がある。
以上で説明した改造工事は、既設のガスタービン1や、排熱回収ボイラ2、蒸気タービン3の内部構造に手を加えることなく、実施可能であることから、高度で費用のかかる工事にならず、内部構造を改造するような工事にくらべて、効率的かつ低コストに実施できる。また、新たにプラントを建設することなく、既設のプラントを有効活用して効率的かつ低コストに運用改善することが可能になる。