JP2018192519A - ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法 - Google Patents

ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2018192519A
JP2018192519A JP2017100981A JP2017100981A JP2018192519A JP 2018192519 A JP2018192519 A JP 2018192519A JP 2017100981 A JP2017100981 A JP 2017100981A JP 2017100981 A JP2017100981 A JP 2017100981A JP 2018192519 A JP2018192519 A JP 2018192519A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
flux
cored wire
less
oxide
weld metal
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2017100981A
Other languages
English (en)
Other versions
JP6881025B2 (ja
Inventor
周雄 猿渡
Suo Sawatari
周雄 猿渡
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel and Sumitomo Metal Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Steel and Sumitomo Metal Corp filed Critical Nippon Steel and Sumitomo Metal Corp
Priority to JP2017100981A priority Critical patent/JP6881025B2/ja
Publication of JP2018192519A publication Critical patent/JP2018192519A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6881025B2 publication Critical patent/JP6881025B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Arc Welding In General (AREA)
  • Nonmetallic Welding Materials (AREA)

Abstract

【課題】引張強さ、伸びおよび−100℃における靱性に優れた溶接金属が得られ、高温割れの発生を抑制し、溶接作業性が高く、さらに高価な合金元素の量が削減されたフラックス入りワイヤ、並びにこれを用いた溶接継手の製造方法を提供する。【解決手段】本発明の一態様に係るガスシールド溶接用フラックス入りワイヤは、フラックスが、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、弗化物:合計2.00%以上10.00%以下、Ti酸化物:0.20%以上2.00%以下、及び、Si酸化物:0.20%以上1.00%以下を含有し、更に、弗化物及び酸化物を除く化学成分が、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、Al:0.010%以上0.500%以下、及びNi:3.00%以上5.50%以下等を含有し、残部がFe及び不純物からなり、高温割れ感受性指数βが3.100以下であり、伸び指数γが1.39以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、ガスシールドアーク溶接に用いられるフラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法に関するものである。
ガス精製過程では、低炭素数の炭化水素ガスが副次的に生成される。この炭化水素ガスは、石油化学製品の原材料となる可能性が高い。このため、近年、炭化水素ガスの運搬船及び地上式タンクの建造需要が高まっている。
低炭素数の炭化水素ガスは、約−100℃以下で保持される。約−100℃以下の低温環境下で使用可能なタンク構造部材の候補としては、3.5%Ni鋼、Al合金、及び、ステンレス鋼が挙げられる。3.5%Ni鋼は、Al合金やステンレス鋼に比べて、鋼材コストや強度の点で優れており、更に、低温環境下においても靭性が良好である。炭化水素ガス用タンクの建造にあたっては、この3.5%Ni鋼を接合する溶接金属についても、−100℃以下での低温環境下における良好な靭性が求められる。
このような低温環境下で使用される溶接構造物を構築するにあたっては、様々な溶接方法が適用されているが、作業効率に優れるという観点からすれば、フラックス入りワイヤを用いたガスシールドアーク溶接の適用が好ましい。しかし、現状として、3.5%Ni鋼の接合に対して、溶接金属の低温靭性を確保できる安価なフラックス入りワイヤが存在しない。厳格な安全性を満足する必要性があることから、60〜80%のNiを含むNi基溶接材料が3.5%Ni鋼の接合のために使用されている。
Ni基溶接材料は、多量のNiを含有しているため、極めて高価である。また、Ni基溶接材料には、高温割れを発生させ易いという欠陥もある。更に、Ni基溶接材料は、溶融金属の湯流れが悪いため、融合不良などの溶接欠陥を発生させ易い。溶接欠陥を防止するために、Ni基溶接材料を使用する溶接では低入熱での溶接が必要とされるので、Ni基溶接材料には溶接施工効率に関しても課題がある。
このような現状に対し、低温用鋼のフラックス入りワイヤとして、たとえば、次のような溶接材料が提案されている。
特許文献1には、−100℃において優れた靭性を有する溶接金属を得るために、溶接金属中の酸素量が低減するように、フラックス中のTi酸化物を低減した金属フッ化物を主体とするフラックス入りワイヤが開示されている。
特許文献2には、フラックス中に金属弗化物を添加し、酸素量を低減し、併せてNi添加で靭性を向上させるフラックス入りワイヤが開示されている。
特許文献3には、フラックス中のスラグ成分をTi酸化物系から金属弗化物系に置き換えることで溶接金属酸素量を低減させ、弗化物と酸化物の比を規定させて低温靭性を向上させるフラックス入りワイヤが開示されている。
特許文献4には、強度780MPa以上の溶接金属において−40℃の靭性を確保するためにフラックスをTi酸化物系から金属弗化物系に置き換え、Mo添加量を規定している。
非特許文献1には、Niを2%程度含有したフラックス入りワイヤを使用することで、−90℃での吸収エネルギーが100J程度となることが開示されている。
しかし、これら文献に開示されているフラックス入りワイヤを用いて溶接して得られた溶接金属に対して、−100℃で低温靱性を評価した場合、要求される水準に達しないことがあった。
特開2010−064087号公報 特許第3120912号公報 特開平9−57488号公報 特許第5644984号公報
Kazuhiro Kojima et al., OMAE99/MAT−2102,「Development of Offshore Structure Steels and Welding Materials for Ultra Low Temperature Service 3− Welding Materials」
本発明は、このような実情に鑑み、引張強さ、伸びおよび−100℃における靱性に優れた溶接金属が得られ、高温割れの発生を抑制し、溶接作業性が高く、さらに高価な合金元素の量が削減されたフラックス入りワイヤ、並びにこれを用いた溶接継手の製造方法を提供することを課題とする。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、鋼製外皮とフラックスとを備え、前記フラックスが、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、LiF、NaF、CaF、BaF、SrF、及びMgFのうちの1種又は2種以上である弗化物:合計2.00%以上10.00%以下、Ti酸化物:0.20%以上2.00%以下、及び、Si酸化物:0.20%以上1.00%以下を含有し、更に、前記弗化物、酸化物、及び炭酸塩を除く化学成分が、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、C:0.001%以上0.080%以下、Si:0.001%以上0.800%以下、Mn:0.10%以上1.50%以下、Al:0.010%以上0.500%以下、Ni:3.00%以上5.50%以下、Ti:0.010%以上0.100%以下、Mg:0.20%以上0.80%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、及びMo:0.001%以上0.500%以下を含有し、残部がFe及び不純物からなり、下記(1)式で定義される高温割れ感受性指標βが3.100以下であり、下記(2)で定義される伸び指標γが1.39以下である。
β=[Si]/6+[Mn]/1.5+[Ni]/3+200×[B]・・・(1)
γ=[Mn]+[Mo]+[Mg]・・・(2)
但し、(1)および(2)式の[]付元素は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。
(2)上記(1)に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、前記フラックスが更に、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、Al酸化物:0.50%未満、Ca酸化物:0.50%以下、Mn酸化物:0.50%以下、Mg酸化物:0.50%以下、前記炭酸塩:0.50%以下、及び、アーク安定剤:0.50%以下の1種又は2種以上を含有してもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、前記弗化物、前記酸化物、及び前記炭酸塩を除く前記化学成分が更に、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、B:0.01000%以下、Cu:0.50%以下、及びREM:0.050%以下からなる群から選択される一種以上を含有してもよい。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、下記(3)式で示される焼入れ性指標αが0.250%以上0.590%以下であってもよい。
α=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+([Ni]+[Cu])/15+[Mo]/5・・・(3)
なお、式(3)の[]付元素は、前記弗化物、前記酸化物、及び前記炭酸塩を除く前記化学成分に含まれる元素の前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%での含有量を表す。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、前記フラックスが更に、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、鉄粉:10.0%未満を含有してもよい。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、前記鋼製外皮がスリット状の隙間の無い形状であってもよい。
(7)上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、前記鋼製外皮がスリット状の隙間を有する形状であってもよい。
(8)上記(1)〜(7)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、前記鋼製外皮の表面に、パーフルオロポリエーテル油を更に備えてもよい。
(9)本発明の別の態様に係る溶接継手の製造方法は、上記(1)〜(8)のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いて鋼板を溶接する工程を備える。
(10)上記(9)に記載の溶接継手の製造方法は、前記溶接する工程において用いられるシールドガスが、Arと、5〜40Vol%COとの混合ガスであってもよい。
本発明によれば、Ni含有量をNi系低温用鋼並みの5.50質量%以下に低減しながら、溶接金属の低温靱性を34J以上とすることができるフラックス入りワイヤが得られる。本発明によるフラックス入りワイヤは、ガスシールドアーク溶接において溶接施工効率に優れ、安価であり、耐高温割れ性に優れ、更に、引張強さ、伸び、及び−100℃での低温靭性が優れる溶接金属を提供することができる。特に、液化ガスや化学プラントなどに使用される低温用鋼の溶接材料として本発明は好適である。
フラックス入りワイヤのTiO含有量に対する溶接金属のシャルピー吸収エネルギーの関係を示す図である。 フラックス入りワイヤのAl含有量に対する溶接金属のシャルピー吸収エネルギーの関係を示す図である。 フラックス入りワイヤの高温割れ感受性指数βに対する溶接金属の高温割れ率の関係を示す図である。 フラックス入りワイヤの伸び指数γに対する溶接金属の伸びの関係を示す図である。 フラックス入りワイヤの切断面に関し、(a)はエッジ面を突合せて溶接して作ったフラックス入りワイヤ、(b)はエッジ面を突合せて作ったフラックス入りワイヤ、(c)はエッジ面をかしめて作ったフラックス入りワイヤを示す図である。
(1)溶接金属の低温靭性について
本発明者らは、溶接金属の低温靱性が向上するガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤについて検討した。低温環境下で使用される鋼材、特に、Ni系低温用鋼の接合で形成される溶接金属に対しては、−100℃での靱性(低温靭性)が34J以上であることが要求される。この低温靱性を確保するために、本発明者らは、(1−1)溶接金属中の酸素量の低減、及び(1−2)溶接金属の組織細粒化、及び(1−3)溶接金属中での粒界フェライト生成の抑制を行う必要があり、さらに(1−4)溶接金属中での第二相生成の抑制を行うことが好ましいと知見した。更に、(1−5)溶接金属中のNi量も靭性に大きく影響を与える。ただし、フラックス入りワイヤのNi量を増大させると製造コストが増大し、さらに高温割れ発生の恐れが増大するので、本発明者らは、Ni含有量は最低限とし、その他の(1−1)〜(1−4)の手段を用いて低温靭性を向上させることを試みた。
(1−1)酸素量の低減
溶接金属中の酸素量の低減手段としては、LiF、NaF、CaF、及びMgFなどの弗化物成分をフラックス入りワイヤに含有させること、Si、Mn、Ti、及びAlなどの脱酸元素を脱酸成分として(即ち弗化物、酸化物、及び炭酸塩を構成しない形態で)フラックス入りワイヤに含有させること、及び不活性ガスを使用してガスシールドアーク溶接を行うことが考えられた。しかし、不活性ガスを使用したガスシールドアーク溶接は、アークが不安定となること、溶込み深さが十分に得られないこと、及び、溶接欠陥がない健全な溶接金属を得ることができないことがあるので、溶接金属中の酸素量の低減手段として使用することが難しい場合もあると本発明者らは考えた。従って本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおいては、溶接金属中の酸素量を低減させるために、弗化物成分及び金属脱酸成分が所定範囲内とされる。
(1−2)組織細粒化
低温靭性を確保するための組織細粒化手段として、本発明者らは、微細な粒内変態組織の生成核と言われているTi化合物、及びAl化合物(主に、Ti酸化物及びAl酸化物)を活用することとした。溶接金属中に微細分散されたTi酸化物及びAl酸化物は、結晶粒の析出核として働くことにより、溶接金属の組織における結晶粒径を微細化させることができる。溶接金属に含まれるTi酸化物及びAl酸化物の個数を増大させるために、本実施形態に係るフラックス入りワイヤでは、合金Al含有量、合金Ti含有量、及びTi酸化物の含有量が所定範囲内とされる。なお、後述されるスラグ成分としてのTi酸化物及びAl酸化物は、その大半が溶接の際に溶接金属から排出されてスラグとなるので、溶接金属に含まれるTi酸化物及びAl酸化物とは区別される。
この知見を得るに至った実験について以下に説明する。本発明者らは、TiOを種々の含有量で含有する試験用フラックス入りワイヤを作成した。試験用フラックス入りワイヤの鋼製外皮は、スリット状の隙間がない形状とし、試験用フラックス入りワイヤの径はφ1.2mmとした。試験用フラックス入りワイヤの成分組成を表1に示す。
これら試験用フラックス入りワイヤを用いて溶接することにより得られた溶接金属の機械特性をJIS Z3111(2005年)に準拠して評価した。具体的には、試験用フラックス入りワイヤを用いて鋼板同士を溶接し、試験体を作成し、この試験体から、A0号引張り試験片(丸棒)(径=10mm)とシャルピー試験片(2mmVノッチ)とを採取し、それぞれの機械特性試験を行った。機械特性試験では、溶接金属の引張強度及び全伸びと、−100℃でのシャルピー吸収エネルギーを測定した。得られた機械特性の測定結果を表2に示す。また、図1に、TiO含有量に対するシャルピー吸収エネルギーの関係を示す。引張強度は450MPa以上、全伸びは25%以上、シャルピー吸収エネルギーは34J以上を合格とした。
表2及び図1に示すように、CaFを3.8%含有するフラックス入りワイヤにおいては、TiO含有量を増加させていくと、TiO含有量0.20%を境界として、−100℃でのシャルピー吸収エネルギーが高くなり、また、TiO含有量2.00%を境界として、−100℃でのシャルピー吸収エネルギーが低くなること、つまり、TiOを0.20%以上2.00%以下含有させることで、溶接金属の低温靱性が向上することを本発明者らは知見した。そして、このTiO含有量に対する、−100℃でのシャルピー吸収エネルギーの変化傾向は、弗化物の含有量の合計値を2.00%以上10.00%以下の範囲内で変化させたフラックス入りワイヤにおいても確認された。
なお特許文献1に開示の技術では、金属弗化物のF換算値を用いて、金属Ti、Ti合金及びTi化合物のTi換算値の上限を限定しており、F換算値の増加とともに溶接金属へのTiの残留率が増加すること、及び過度のTiは溶接金属の低温靭性を低下させることが記載されている。この技術を適用すると、弗化物を3.0%含有するフラックス入りワイヤに対するTi換算値の上限は0.2%となり、TiOは0.2%まで含有させることが好ましいことになる。しかし、本発明者らによる上記実験の結果、弗化物を3.0%以上含有させた場合、低温靱性を確保するために必要なTi酸化物含有量は0.30%以上2.00%以下であることが判明した。
さらに本発明者らは、Alを種々の含有量で含有する試験用フラックス入りワイヤを作成し、溶接金属の引張強度及び全伸びと、−100℃でのシャルピー吸収エネルギーとを測定した。測定方法は、表2に示される測定値を得た際の測定方法と同じであった。表3に、試験用フラックス入りワイヤの成分組成を示し、表4に、得られた機械特性の測定結果を示す。また、図2に、Al含有量に対するシャルピー吸収エネルギーの関係を示す。引張強度は450MPa以上、全伸びは25%以上、シャルピー吸収エネルギーは34J以上を合格とした。
表4及び図2に示すように、CaFを3.80%、TiOを0.40%含有するフラックス入りワイヤにおいて、Al含有量を増加させていくと、Al含有量0.010%を境界として、−100℃でのシャルピー吸収エネルギーが高くなり、また、Al含有量0.500%を境界として、−100℃でのシャルピー吸収エネルギーが低くなること、つまり、Alを0.010%以上0.500%以下フラックス入りワイヤに含有させることで、溶接金属の低温靱性が向上することを知見した。そして、このAl含有量に対する、−100℃でのシャルピー吸収エネルギーの変化傾向は、2.00%以上10.00%以下の種々含有量の弗化物、及び、0.20%以上2.00%以下の種々含有量のTiOを含有させたフラックス入りワイヤにおいても確認された。
Ti酸化物とAlとを含むフラックス入りワイヤが低温靱性に優れた溶接金属を得られる理由は、以下の通りであると推定される。フラックス中のTi酸化物は、通常は、溶接の際にスラグとして溶接金属の外部に排出される。しかし、Ti酸化物とAlとの両方をフラックス入りワイヤに含有させた場合、溶接金属中にTi酸化物が微細分散される。これは、溶接中にAlがフラックス中のTi酸化物を脱酸し、フラックス中のTi酸化物が一旦Tiとなって溶接金属内に残存し、このTiが再び酸化されて溶接金属内に微細分散されたからであると推定される。この溶接金属中のTi酸化物が粒内変態核として働き、溶接金属の組織を微細化させていると本発明者らは考えている。
また、フラックス入りワイヤに含まれるAlも、その一部がAl酸化物として溶接金属中に微細分散され、粒内変態核として働き、溶接金属の組織を微細にすることに寄与していると考えられる。
(1−3)粒界フェライト生成の抑制
溶接による溶融・凝固後の溶接金属では、温度低下の際にオーステナイト組織から粒界フェライトが生成し、この粒界フェライトが溶接金属の低温靭性を劣化させる場合がある。従って、溶接金属の粒界フェライトの生成を抑制することも、溶接金属の低温靱性の向上に寄与する。
そこで本実施形態に係るフラックス入りワイヤでは、粒界フェライト生成の抑制のために、Niを所定量含有することとされ、好ましくはBも所定量含有される。すなわち、フラックス入りワイヤのNi含有量、及び好ましくはB含有量を増加させることにより、オーステナイト粒界の焼入れ性を向上させて、粒界フェライト生成を抑制することができる。ただし、Ni含有量が過剰である場合、溶接金属の高温割れが生じるおそれが高まる。本実施形態におけるフラックス入りワイヤでは、上記(1−1)及び(1−2)の手段によっても低温靱性が高められるので、Ni含有量は従来の低温用鋼のフラックス入りワイヤよりもはるかに低い水準とされる。
(1−4)第二相生成の抑制
上記(1−1)〜(1−3)の手段により、Ni含有量を十分に低減させながら溶接金属の低温靭性を高めることができる。しかしながら、溶接金属における第二相の生成を抑制することにより、一層の低温靭性向上が可能となる。第二相とは、MA(島状マルテンサイト)などである。本発明者らは、以下の式(3)によって定義される焼入れ性指標αを所定範囲内とすることにより、溶接金属において第二相の生成が抑制されることを知見した。
α=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+([Ni]+[Cu])/15+([Mo])/5・・・(3)
なお、式(3)の[]付元素は、前記弗化物、前記酸化物、及び前記炭酸塩を除く前記化学成分に含まれる元素の前記フラックス入りワイヤ全質量に対する質量%での含有量を表す。
溶接金属における第二相の生成は、溶接金属の焼入れ性を好適な範囲内とすることにより抑制できる。また、αを制御することにより、溶接金属の焼入れ性を制御することができる。本発明者らは、第二相の生成を抑制できる好適なαの数値範囲を知見したので、本実施形態に係るフラックス入りワイヤでは好ましくはαが所定範囲内とされる。
(2)高温割れの抑制
低温靭性を確保するためには、フラックス入りワイヤ中にNiを添加することが有効であるが、Niは溶接金属における高温割れの発生を促進し、フラックス入りワイヤの耐高温割れ性を損なう元素でもある。
本発明者らは、高温割れ発生の抑制のための検討を行った結果、Niに加えてSi、Mn、及びBも高温割れ発生を促進する作用を有し、その作用の強さが元素の種類によって異なることを知見した。そこで、これら元素の含有量を種々異ならせたワイヤを用いて実験を重ね、実験結果を重回帰分析した結果、JIS Z 3155「C形ジグ拘束突合せ溶接割れ試験方法」によって得られる割れ率(高温割れ率)と、以下の式1によって定義される高温割れ発生指標βとの間に良好な相関関係があることを知見した。
β=[Si]/6+[Mn]/1.5+[Ni]/3+200×[B]・・・(1)
高温割れ率と高温割れ発生指標βとの間の相関関係を確認するために、本発明者らは表5に示す試験用フラックス入りワイヤを作製して、これらフラックス入りワイヤを用いて溶接した際の高温割れ率について調査した。その結果を表6及び図3に示す。
表6及び図3に示されるように、高温割れ発生指標βが3.100以下である場合に高温割れが発生しないことを本発明者らは見出した。また、この相関関係は、フラックス入りワイヤの成分を変化させても維持されることも分かった。従って、本実施形態に係るフラックス入りワイヤでは、高温割れ発生指標βが3.100以下とされる。
(3)溶接金属の伸び及び引張強さについて
溶接金属の伸びは、溶接金属の硬さ及び引張強さと反比例する傾向にある。従って本実施形態に係るフラックス入りワイヤでは、溶接金属に必要とされる引張強さを確保可能な範囲内で、C、Si、Mn、及びNiなどの焼入れ性を高める元素の量を減少させることで、溶接金属の伸びが確保される。また、B含有によりオーステナイト粒界の焼入れ性を高めることで、C、Si、Mn、Niなどの焼入れ性を高める元素の添加量を抑えることができるため、溶接金属の強度が過剰に上昇せず、靭性と伸びの一層の向上に繋がる。
さらに、本実施形態に係るフラックス入りワイヤでは、以下の式によって定義される伸び指標γを所定範囲内とする。
γ=[Mn]+[Mo]+[Mg]・・・(2)
なお、式(2)の[]付元素は、前記弗化物、前記酸化物、及び前記炭酸塩を除く前記化学成分に含まれる元素の前記フラックス入りワイヤ全質量に対する質量%での含有量を表す。
本発明者らは、フラックス入りワイヤに含まれる合金成分のMn、Mo、及びMgの合計量と、溶接金属の伸びとの間に比較的強い相関関係があることを見いだした。さらに本発明者らは、Mn、Mo、及びMgの合計含有量を伸び指標γとして管理し、所定範囲内とすることで、溶接金属の伸びを一層向上させることができる旨を知見した。この知見の効果を確認するために、本発明者らは、伸び指標γを種々の値とした試験用フラックス入りワイヤを作成した。試験用フラックス入りワイヤの成分組成を表7に示す。
図4に示されるように、伸び指標γと溶接金属の伸びとの間には良好な相関関係があり、この相関関係はフラックス入りワイヤの成分を変化させても維持されることが分かった。本発明者らは、溶接金属の伸びを25%以上とするために、本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおける伸び指標γの上限を1.39と定めた。
(4)溶接の際のスパッタ発生の抑制
上述したように、低温靭性に優れた溶接金属を得るためには、フラックス入りワイヤに弗化物を含有させて溶接金属の酸素量を低減することが必須である。しかしながら弗化物は、溶接の際に生じるスパッタ発生量を著しく増大させる。多量のスパッタは、溶接後の塗装ムラ及び後続溶接におけるブローホールなどの溶接欠陥発生をもたらす。溶接欠陥は、溶接金属の強度、靱性、及び伸び等を損なう。
スパッタ発生量を抑制するために、本発明者らは、溶接金属の機械特性を向上させるためにフラックス入りワイヤが含有すべき上述された酸化物及び弗化物の含有量、並びに炭酸塩の含有量を所定範囲内とすることが必要である旨を知見した。
本発明者らは、以上のような検討過程を経て本実施形態に係るフラックス入りワイヤに至った。本実施形態に係るフラックス入りワイヤについて、さらに、必要な要件や好ましい要件について順次説明する。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、鋼製外皮と、この鋼製外皮に充填されたフラックスとを備える。まず、鋼製外皮及びフラックス中に含有される合金成分及び金属脱酸成分の成分組成及びその限定理由について説明する。なお、本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおいて、合金成分及び金属脱酸成分とは、弗化物、酸化物、又は炭酸塩を構成しない成分のことである。従って、弗化物、金属酸化物、又は炭酸塩を構成する元素の含有量は、合金成分及び金属脱酸成分に含まれない。以下に説明する合金成分及び金属脱酸成分は、金属粉又は合金粉の状態でフラックスに含まれても、鋼製外皮に合金元素として含まれても、鋼製外皮にめっきされてもよい。各成分の含有量は、ワイヤ全質量に対する鋼製外皮及びフラックス中の各成分の質量%の合計となる成分含有量を意味するものとする。
(C:0.001%以上0.080%以下)
Cは、溶接金属の焼入れ性を向上させ、粒内変態を促進させ、これにより溶接金属の強度を確保する元素である。粒内変態を促進するためには、Cをフラックス入りワイヤに0.001%以上含有させる必要がある。溶接金属の強度の向上のために、C含有量の下限を0.005%、0.008%、0.010%、又は、0.013%としてもよい。一方で、多量のNiを含有する溶接金属では、焼入れ性が高い組織となるので、フラックス入りワイヤにCを0.080%超含有させると、溶接金属が極めて硬化し、その靭性及び伸びが大きく低下し、また、高温割れ及び低温割れが溶接金属に発生する。従ってC含有量の上限値は0.080%とする。安定して靭性を確保するためには、C含有量の上限を0.070%、又は、0.060%としてもよい。
(Si:0.001%以上0.800%以下)
Siは、溶接金属の清浄度を向上し、ブローホールなどの溶接欠陥の発生を抑制するために必要な元素である。これらの効果を得るためには、フラックス入りワイヤにおいて0.001%以上のSiの含有が必要である。溶接欠陥の発生を一層防止するために、Siの下限を0.250%、又は、0.300%としてもよい。一方で、多量のNiを含有する溶接金属では、Siはミクロ偏析しやすく、0.800%超のSiをフラックス入りワイヤに含有させると、Si偏析部で顕著な脆化が生じる。従ってSi含有量の上限値は0.800%とする。また、溶接金属の靭性を安定して確保するためには、上限を0.600%、又は、0.550%としてもよい。
(Mn:0.10%以上1.50%以下)
Mnは、溶接金属の清浄度を向上し、さらにMnSを形成することで、Sを無害化し、溶接金属の靭性を向上させるのに必要な元素である。その効果を得るためには、フラックス入りワイヤにMnを0.10%以上含有させる必要がある。靭性の一層の向上のために、Mn含有量の下限を0.20%、0.30%、又は、0.40%としてもよい。一方、多量のNiを含有する溶接金属では、Mnはミクロ偏析しやすく、フラックス入りワイヤにMnを1.50%超含有させると、Mn偏析部で顕著な脆化が生じる。また、溶接金属の靭性を一層安定して確保するためには、Mn含有量の上限を1.10%、1.00%、又は、0.95%としてもよい。
(Al:0.010%以上0.500%以下)
Alは、強脱酸剤であり、スラグ剤であるTi酸化物からTiを還元し、溶接金属のミクロ組織微細化に有効な微細Ti酸化物を確保する上で必須の元素である。しかし、フラックス入りワイヤにおけるAl含有量が0.010%未満では、Alによるスラグ剤Ti酸化物の還元効果が不足するので、粒内フェライトの核となる溶接金属中の微細Ti酸化物が確保できない。この場合、溶接金属のミクロ組織が細粒化されないので、溶接金属の低温靱性が改善されない。従ってAl含有量は0.010%以上とする。溶接金属の靭性の一層の向上のために、Al含有量の下限を0.030%、又は、0.040%としてもよい。一方、0.500%超のAlをフラックス入りワイヤに含有させると、Al酸化物量が大幅に増加して、Al酸化物とTi酸化物との大形の複合酸化物が溶接金属中に形成される。この結果、溶接金属中のTi酸化物が粒内フェライトの核として機能しなくなり、溶接金属のミクロ組織が微細化されないので、溶接金属の靱性が低下する。また、この場合、Al窒化物の生成量が多くなることによっても溶接金属の靭性が低下する。従ってAl含有量の上限を0.500%とする。また、溶接金属の靭性を一層安定して確保するためには、Al含有量の上限を0.200%、0.100%、又は0.050%としてもよい。
(Ni:3.00%以上5.50%以下)
Niは、固溶靱化(固溶により靭性を高める作用)により、溶接金属の組織、成分によらず、その靱性を向上できる唯一の元素である。特に、−100℃での溶接金属の低温靭性を確保するためには、Niは必須の元素である。この効果を得るためには、3.00%以上のNiをフラックス入りワイヤに含有させる必要がある。一層安定して低温靭性を確保するためには、Ni含有量の下限を3.10%、3.20%、又は、3.50%としてもよい。一方、5.50%超のNiをフラックス入りワイヤに含有させると、その効果が飽和するのに加え、溶接材料コストが高騰し、さらに溶接金属の高温割れが発生するおそれが高まる。従って、Ni含有量を5.50%以下とする。Ni含有量の上限を5.30%、5.00%又は、4.80%にしてもよい。
(Ti:0.010%以上0.100%以下)
Tiは、強脱酸剤であり、フラックス入りワイヤに含まれる金属Tiのうち一部が酸化されスラグオフされ、その残りが溶接金属中に留まる。この溶接金属中に留まるTiは、微細なTi介在物を形成して、粒内変態核として働き、溶接金属の組織を微細化させる。従って、Tiは溶接金属の低温靱性を向上させる働きがある。また、フラックス入りワイヤにBが含まれる場合、TiはBの効果を促進させる働きを有する。初期の溶融金属凝固過程の高温域で、TiはBより先に窒化物を形成してNを固定する。これにより、以降の溶融金属凝固過程でBがBNを形成することがない。つまりTiは、BをフリーBとしてオーステナイト粒界に偏析させる上で必須の成分である。このフリーBは、粒界での粗大なフェライトの生成を抑制することにより、Ti酸化物による粒内フェライト微細化効果と相乗して、溶接金属の低温靱性の改善効果を奏する。この効果は、Ti酸化物の還元によるTi量確保のみでは不十分であり、金属Tiをフラックス入りワイヤに含有させることにより初めて上記効果が得られる。しかし、フラックス入りワイヤにおけるTi含有量が0.010%未満では、金属Tiのほとんどが酸化消耗され、TiNを形成するために十分な量のTiが溶接金属に留まらないので、上記効果が十分得られず、ミクロ組織の微細化が不十分となり、靭性改善効果が得られない。靭性の一層の向上のために、Ti含有量の下限を0.030%、又は、0.040%としてもよい。また、0.100%超のTiをフラックス入りワイヤに含有させると、固溶Tiが増加し、溶接金属が過度に硬化し、著しく靱性が低下する。また、過剰量のTiには、スパッタ発生量を増大させて溶接作業性の悪化と溶接欠陥の発生とを生じさせる恐れもある。従って、Ti含有量は0.100%以下とする。また、溶接金属の靭性を一層安定して確保するためには、Ti含有量の上限を0.080%、又は、0.070%としてもよい。
(P:0.030%以下)
Pは、不純物元素であり、溶接金属に高温割れを生じさせ、さらに溶接金属の靱性を劣化させる場合があるので、極力低減することが好ましい。この悪影響が許容できる範囲として、フラックス入りワイヤのP含有量を0.030%以下に制限する。溶接金属の靭性の一層の向上のために、P含有量の上限を0.015%、0.010%、0.008%、又は、0.006%としてもよい。
(S:0.030%以下)
Sは、不純物元素であり、溶接金属に高温割れを生じさせ、さらに溶接金属の靱性を著しく劣化させる場合があるので、極力低減することが好ましい。溶接金属の靱性への悪影響が許容できる範囲として、フラックス入りワイヤのS含有量を0.030%以下に制限する。溶接金属の靭性の一層の向上のために、0.008%、0.006%、0.004%、又は、0.003%としてもよい。
(Mg:0.20%以上0.80%以下)
Mgは、強脱酸元素である。脱酸には、溶接金属の酸素を低減し、溶接金属の靭性を改善する効果がある。また、脱酸によりブローホールの発生も抑制される。この効果を得るために、フラックス入りワイヤのMg含有量を0.20%以上とする。溶接金属の靭性の一層の向上のために、Mg含有量の下限を0.25%又は0.30%としてもよい。一方、0.80%超のMgをフラックス入りワイヤに含有させると、溶接時にスパッタ発生量が増加し、さらにアーク安定性が損なわれるので、溶接作業性が劣化する。溶接作業性の向上のために、Mg含有量の上限を0.70%、0.60%、又は、0.50%としてもよい。
(Mo:0.001%以上0.500%以下)
Moは、溶接金属の強度を高めるために有効な元素である。この効果を得るために、フラックス入りワイヤのMo含有量を0.001%以上とする。一方、Mo含有量が0.500%を超えると溶接金属の靭性が低下するので、Mo含有量は0.500%以下とする。溶接金属の靭性の向上のために、Mo含有量の上限を0.300%、0.200%又は0.100%としてもよい。上述の効果を得るためには、Mo含有量の下限を0.010%としてもよい。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、合金成分又は脱酸成分として、上述された基本成分(必須元素)に加え、さらに、溶接する鋼板の強度レベル又は求める靭性の程度に応じて、B、Cu及びREMからなる群から選択される一種以上を選択元素として含有することができる。しかしながら、これら選択元素は本実施形態に係るフラックス入りワイヤの課題を解決するために必須ではないので、これら選択元素の含有量の下限値は0%である。
(B:0.01000%以下)
Bは、フラックス入りワイヤを介して溶接金属中に適正量含有させると、固溶Nと結びついてBNを形成して、溶接金属の靭性に対する固溶Nの悪影響を減じる効果がある。また、溶接金属においてオーステナイト粒界の焼入れ性を高めることで、粗大な粒界フェライト生成を抑制し、低温靭性を確保できる効果がある。しかし、フラックス入りワイヤにBを0.01000%超含有させると、溶接金属中のBが過剰となり、粗大なBNやFe23(C、B)などのB化合物を形成して靭性を逆に劣化させる。靭性の一層の向上のために、B含有量の上限を0.00800%、又は、0.00600%としてもよい。B含有の効果を一層確実に得るためには、B含有量の下限を0.00001%、0.00005%、0.00010%又は0.00015%としてもよい。
(Cu:0.50%以下)
Cuは、ワイヤの外皮表面のめっき、及び、フラックスに単体又は合金として含有される場合があり、溶接金属の強度を向上させる効果がある。しかし0.50%超のCuをフラックス入りワイヤに含有させると、溶接金属の靭性が低下する。溶接金属の靭性の一層の向上のために、Cu含有量の上限を0.30%、0.20%、又は、0.10%としてもよい。なお、Cuの含有量については、外皮自体やフラックス中に含有されている分に加えて、ワイヤ表面に銅めっきされる場合には、その分も含む。上述の効果を得るためには、Cu含有量の下限を0.01%としてもよい。
(REM:0.050%以下)
REMは、溶接金属中での硫化物及び酸化物のサイズを微細化して、溶接金属の靭性向上に寄与することができる元素である。上述の効果を得るために、REM含有量の下限を0.001%としてもよい。しかし、フラックス入りワイヤに0.050%超のREMを含有させると、スパッタが激しくなり、溶接作業性が劣悪となる。また、スパッタの低減及びアークの安定に寄与するために、REM含有量の上限を、0.030%、0.020%、0.010%、0.005%、又は0.001%としてもよい。なお「REM」との用語は、Sc、Yおよびランタノイドからなる合計17元素を指し、上記「REMの含有量」とは、これらの17元素の合計含有量を意味する。ランタノイドをREMとして用いる場合、工業的には、REMはミッシュメタルの形で添加される。
(焼入れ性指標α:0.250%以上0.590%以下)
溶接金属の靱性を高めるために、下記(1)式で示される焼入れ性の指標αが0.250%以上0.590%以下となるように、合金成分又は脱酸成分(即ち弗化物、酸化物、及び炭酸塩を除く化学成分)の含有量を調整することが好ましい。焼入れ性指標αが0.250%以上である場合、溶接金属の靭性を損なう粒界フェライトの生成を一層抑制することができるからである。一方、焼入れ性指標αが0.590%以下である場合、溶接金属の靭性を損なう第二相(例えばMA等)の生成を一層抑制し、さらに溶接金属の過剰な硬化を確実に防ぐこともできる。
α=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+([Ni]+[Cu])/15+[Mo]/5・・・(1)
なお、式(1)の[]付元素は、合金成分又は脱酸成分として含まれるそれぞれの元素のフラックス入りワイヤ全質量に対する質量%での含有量を表す。
(高温割れ感受性指標β:3.100以下)
フラックス入りワイヤに含有される合金成分は、高温割れを発生させやすくする場合があり、これを抑制するべく、下記式(2)で示される高温割れ感受性の指標βが3.100以下となるように、合金成分又は脱酸成分の含有量を調整する必要がある。
β=[Si]/6+[Mn]/1.5+[Ni]/3+200×[B]・・・(2)
なお、式(2)の[]付元素は、合金成分又は脱酸成分として含まれるそれぞれの元素のフラックス入りワイヤ全質量に対する質量%での含有量を表す。
上述の通り、低温靭性を確保するためには、フラックス入りワイヤ中にNiを添加することが有効であるが、Niは溶接金属における高温割れの発生を促進し、フラックス入りワイヤの耐高温割れ性を損なう元素でもある。本発明者らは、高温割れ発生の抑制のための検討を行った結果、Niに加えてSi、Mn、及びBについても高温割れ発生を促進する作用を有し、その作用の強さが元素の種類によって異なることを知見して、式(2)を得た。高温割れ感受性指標βが3.100以下である場合、溶接金属における高温割れを効果的に抑制することができる。高温割れ指標γの上限値を3.000、2.900、又は2.800としてもよい。高温割れ指標γの下限値を規定する必要はないが、上述されたNi、Si、Mn、及びBの含有量の下限値に鑑みると、高温割れ指標γの実質的下限値は1.067である。
(伸び指標γ:1.39以下)
溶接金属の伸びを改善すべく、下記(3)式で示される伸びの指標γが1.39以下となるように合金成分又は脱酸成分の含有量を調整する必要がある。
γ=[Mn]+[Mo]+[Mg]・・・(3)
なお式(3)の[]付元素は、合金成分又は脱酸成分として含まれるそれぞれの元素のフラックス入りワイヤ全質量に対する質量%での含有量を表す。
上述の通り、本発明者らは、フラックス入りワイヤに含まれる合金成分のMn、Mo、及びMgの合計量と、溶接金属の伸びとの間に比較的強い相関関係があることを見いだした。さらに本発明者らは、Mn、Mo、及びMgの合計含有量を伸び指標γとして管理し、所定範囲内とすることで、溶接金属の伸びを一層向上させることができる旨を知見した。溶接金属の伸びを25%以上とするために、本実施形態に係るフラックス入りワイヤにおける伸び指標γの上限は1.39とされる。伸び指標γの上限を1.32、1.30、1.25、または1.10としてもよい。伸び指標γの下限値を規定する必要はないが、上述されたMn、Mo、及びMgの含有量の下限値に鑑みると、伸び指標γの実質的下限値は0.30である。
続いて、フラックス入りワイヤの鋼製外皮の内部に挿入されるスラグ成分について説明する。以下に説明されるスラグ成分は弗化物、酸化物、又は炭酸塩であり、上述された合金成分及び金属脱酸成分とは区別される。
(LiF、NaF、CaF、BaF、SrF、及びMgFからなる群から選択される1種又は2種以上の弗化物の合計量:2.00%以上10.00%以下)
LiF、NaF、CaF、BaF、SrF、及びMgFからなる群から選択される1種又は2種以上の弗化物(以下、特に断りが無い限り「弗化物」と略す)は、溶接金属の低温靱性向上に繋がる溶接金属酸素量の低減効果を有し、かつ溶接金属の低温割れ抑制に繋がる拡散性水素低減効果を有する。−100℃での靭性を確保するには、溶接金属中の酸素量を低減することが重要である。さらに弗化物は、アークを安定させることにより、溶接作業性を向上させ、且つ溶接欠陥の発生を抑制する効果も有する。この効果を発揮するために、弗化物を合計で2.00%以上フラックス入りワイヤに含有させる。溶接金属の靭性の一層の向上のために、弗化物の合計含有量の下限を2.50%、又は、3.00%としてもよい。一方、合計10.00%を超えて弗化物を含有させると、アークが不安定となり、且つスパッタ発生量が増大するので、溶接が困難となり、且つ溶接金属に欠陥が生じやすくなる。従って、弗化物の合計含有量は10.00%以下とされる。これら悪影響を確実に回避するために、弗化物の合計含有量の上限を8.00%、又は、7.00%としてもよい。なお、CaFは安価であるので、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%でのCaFの含有量を0.50%以上、0.80%以上、又は1.00%以上とすると、ワイヤの製造コストを削減できるので好ましい。
(Ti酸化物:0.20%以上2.00%以下)
フラックスに含まれるTiO等のTi酸化物は、溶接中にその大半がスラグとして溶接金属の外部に放出される。しかし上述されたように、本実施形態に係るフラックス入りワイヤのフラックス中のTi酸化物の一部は、Alによって一旦還元されて金属Tiとなった後、溶接金属中の酸素と結びついて、溶接金属中で、溶接金属のミクロ組織微細化に有効なTi酸化物となる。従って、Ti酸化物は、合金成分としてのAlとの相乗効果として、溶接金属の微細化及び低温靭性向上に寄与する。さらにTi酸化物は、スラグ剥離性を良好なものとし、且つアーク安定性を向上させる効果も有する。これら効果を発揮するために、0.20%以上のTi酸化物をフラックス入りワイヤに含有させる。Ti酸化物の含有量の下限を0.50%、又は、0.80%としてもよい。一方で、2.00%を超えてTi酸化物を含有させると、溶接金属酸素量を増加させ、溶接金属の低温靭性を低下させる。また、過剰量の酸化物を含有させた場合、スパッタ量が増大して溶接作業性の低下と溶接欠陥の発生とを招く恐れがある。従ってTi酸化物の含有量は2.00%以下とされる。安定して溶接金属の低温靭性を確保するためには、Ti酸化物の含有量の上限を1.70%、又は、1.40%としてもよい。また、Ti酸化物としてはTiOが例示される。
(Si酸化物:0.20%以上1.00%以下)
Si酸化物は、スラグ形状を整え、溶接後のスラグ剥離を容易にし、さらにアークを安定化させるために、本実施形態に係るフラックス入りワイヤに0.20%以上含有させる。Si酸化物の含有量の下限を0.30%、又は、0.40%としてもよい。しかし、1.00%超のSi酸化物をフラックス入りワイヤに含有させると、Si酸化物に含まれる酸素が溶融池に入りこむことで溶接金属の酸素量が増加し、溶接金属の靱性が低下する。また、過剰量の酸化物を含有させた場合、スパッタ量が増大して溶接作業性の低下と溶接欠陥の発生とを招く恐れがある。従って、Si酸化物の含有量を1.00%以下とする。安定して低温靭性を確保するためには、上限を0.80%、又は、0.70%としてもよい。また、Si酸化物としてはSiOが例示される。
また、溶接金属の低温靭性を向上させるためには、溶接金属中の酸素量を極力低減させることが重要である。そのため、溶接金属の酸素源となりえる酸化物(上述されたTi酸化物及びSi酸化物のみならず、後述されるAl酸化物、Ca酸化物、Mn酸化物、及び、Mg酸化物も含む)の含有量の合計と、溶接金属の酸素を低減する効果がある弗化物の含有量との比率には、適切な範囲がある。酸化物の含有量の合計量と弗化物の含有量の合計量との比(即ち、酸化物の含有量の合計量を弗化物の含有量の合計量で除して得られる値)は0.60以下であることが望ましい。酸化物の含有量の合計量と弗化物の含有量の合計量との比の上限は0.55、0.50、0.45、又は0.40としてもよい。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、スラグ成分として、上述された基本成分(必須成分)に加え、更に、溶接する鋼板の強度レベル又は求める靭性の程度に応じて、Al酸化物、Ca酸化物、Mn酸化物、Mg酸化物、炭酸塩、及び、アーク安定剤の1種又は2種以上を選択成分として含有することができる。ただし、これら選択成分が含まれない場合であっても本実施形態に係るフラックス入りワイヤは課題を解決できるので、これら選択成分の含有量の下限値は0%である。
(Al酸化物:好ましくは0.50%未満、Ca酸化物:好ましくは0.50%以下、Mn酸化物:好ましくは0.50%以下、Mg酸化物:好ましくは0.50%以下)
Al酸化物、Ca酸化物、Mn酸化物、及び、Mg酸化物は、スラグ形状を整え、溶接後のスラグ剥離を容易にし、アークを安定にするために添加することができる。しかし、Al酸化物を0.50%以上、Ca酸化物を0.50%超、Mn酸化物を0.50%超、又は、Mg酸化物を0.50%超含有させると、各金属酸化物に含まれる酸素が溶融池に入りこむことで溶接金属の酸素量が増加し、溶接金属の靱性が低下する。また、過剰量の酸化物を含有させた場合、スパッタ量が増大して溶接作業性の低下と溶接欠陥の発生とを招く恐れがある。一方、上述の効果を得るために、これらの酸化物それぞれの下限を0.05%とすることができる。また、Al酸化物としてはAl、Ca酸化物としてはCaO、Mn酸化物としてはMnO、Mg酸化物としてはMgOが例示される。
(炭酸塩:0.50%以下)
炭酸塩は、アーク安定化作用を有し、さらにアーク集中性を高めることができる。炭酸塩としては、CaCO、BaCO、SrCO、MgCO、及びLiCOが例示される。しかし炭酸塩を合計で0.50%超含有させると、アークの集中性が強すぎて、スパッタ発生量が多くなる。また、炭酸塩の合計含有量の上限を0.40%、0.20%、0.10%、又は、0.07%としてもよい。
(アーク安定剤:0.50%以下)
アーク安定剤をフラックス中に含有させてもよい。アーク安定剤としては、Na、又は、Kの酸化物又は弗化物(たとえば、NaO、NaF、KO、KF、KSiF、KZrF)がある。また、0.50%超のアーク安定剤を含有させると、アークが強くなりすぎて、スパッタ発生量の増加などが生じる。アーク安定剤の含有量の合計を0.40%以下、0.30%以下、0.20%以下、0.10%以下に制限してもよい。なお、アーク安定剤としての酸化物及び弗化物は、上述されたスラグ形成剤としての酸化物、及び、弗化物には含めない。
(鉄粉:10.0%未満)
鉄粉は、フラックス入りワイヤにおけるフラックスの充填率の調整のために、又は、溶着効率の向上のために、必要に応じてフラックス入りワイヤに含有させる場合がある。しかし、鉄粉の表層は、酸化されているので、フラックスが鉄粉を過剰に含有すると、溶接金属の酸素量を増加させて溶接金属の靭性を低下させる場合がある。したがって、鉄粉はフラックス入りワイヤに含有させなくてもよく、その含有量の下限値は0%である。充填率の調整のために鉄粉をフラックス入りワイヤに含有させる場合には、溶接金属の靭性を確保するために、鉄粉の含有量を10.0%未満とする。
以上が本実施形態に係るフラックス入りワイヤの成分組成に関する限定理由であるが、その他の残部成分はFeと不純物である。Fe成分としては、鋼製外皮のFe、フラックス中に添加された鉄粉及び合金成分中のFeが含まれる。不純物とは、フラックス入りワイヤを工業的に製造する際に、原料、又は製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に係るフラックス入りワイヤに悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
続いて、フラックス入りワイヤの形態について説明する。
図5に、フラックス入りワイヤの切断面を示す。図5(a)に、エッジ面を突合せて溶接して作ったフラックス入りワイヤ、図5(b)に、エッジ面を突合せて作ったフラックス入りワイヤ、及び、図5(c)に、エッジ面をかしめて作ったフラックス入りワイヤを示す。このように、フラックス入りワイヤには、図5(a)に示すように鋼製外皮にスリット状の隙間がないフラックス入りワイヤと、図5(b)、(c)に示すように鋼製外皮のスリット状の隙間を有するフラックス入りワイヤとに大別できる。本実施形態に係るフラックス入りワイヤでは、いずれの断面構造も採用することができるが、溶接金属の低温割れを抑制するためには、スリット状の隙間がないフラックス入りワイヤ(シームレスワイヤ)とすることが好ましい。
溶接時に溶接部に侵入する水素は、溶接金属内及び鋼材側に拡散し、応力集中部に集積して低温割れの発生原因となる。この水素源は溶接材料が保有する水分、大気から混入する水分、鋼表面に付着した錆びやスケールなどが上げられるが、十分に溶接部の清浄性、ガスシールドの条件が管理された溶接の下では、フラックス入りワイヤ中に主として水分で含有される水素が、溶接継ぎ手の拡散性水素の主要因となる。
このため、鋼製外皮をスリット状の隙間がない管とし、フラックス入りワイヤ製造後から使用するまでの間に、鋼製外皮からフラックスへの大気中の水素の侵入を抑制することが望ましい。鋼製外皮にスリット状の隙間(シーム)を有する管とした場合には、大気中の水分は外皮のスリット状の隙間部からフラックス中に侵入しやすく、そのままでは、水分等の水素源の侵入を防止することはできないので、製造後使用するまでの期間が長い場合は、フラックス入りワイヤ全体を真空包装するか、乾燥した状態に保持できる容器内で保存することが望ましい。
また、フラックス入りワイヤの送給性を向上させるために、フラックス入りワイヤが、その表面に塗布された潤滑剤をさらに備えても良い。フラックス入りワイヤ表面に塗布される潤滑剤としては、様々な種類のもの、例えば各種の植物油を使用できるが、溶接金属の低温割れを抑制するためには、パーフルオロポリエーテル油(PFPE油)のように水素分を含まない油が好ましい。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、通常のフラックス入りワイヤの製造方法と同様の製造工程によって製造することができる。すなわち、まず、外皮となる鋼帯、及び、合金成分、酸化物、弗化物、炭酸塩及びアーク安定剤が所定の含有量になるように配合したフラックスを準備する。鋼帯を長手方向に送りながら成形ロールによりオープン管(U字型)に成形して鋼製外皮とし、この成形途中でオープン管の開口部からフラックスを供給し、開口部の相対するエッジ面を突合せスリット状の隙間を溶接する。溶接法は電縫溶接、レーザー溶接、又は、TIG溶接が用いられる。溶接により得られたスリット状の隙間のない管を伸線し、伸線途中又は伸線工程完了後に焼鈍処理して、所望の線径を有するスリット状の隙間のないフラックス入りワイヤを得る。また、スリット状の隙間を溶接しないスリット状の隙間有りの管とし、それを伸線することでスリット状の隙間を有するフラックス入りワイヤを得る。
突合せシーム溶接されて作ったスリット状の隙間が無いフラックス入りワイヤを切断した断面は、図5(a)のように見える。この断面は、研磨して、エッチングすれば、溶接跡が観察されるが、エッチングしないと溶接跡は観察されない。そのため、上記のようにシームレスと呼ぶことがある。例えば、溶接学会編「新版 溶接・接合技術入門」(2008年)産報出版、p.111には、シームレスタイプと記載されている。
図5(b)にエッジ面を突き合わせた例を、図5(c)にエッジ面をかしめた例を示すが、図5(b)のように突合せてから、ろう付けしたり、図5(c)のようにかしめてから、ろう付けしたりしても、スリット状の隙間が無いフラックス入りワイヤが得られる。また、図5(b)、(c)において、ろう付けせず、そのままのフラックス入りワイヤは、スリット状の隙間が有るワイヤとなる。
次に、以上説明した本実施形態に係るワイヤを用いた溶接継手の製造方法について説明する。
本実施形態に係るフラックス入りワイヤの用途は限定されず、任意の種類のシールドガスを用いた、任意の鋼材の溶接に適用することができるが、3.5%Ni鋼などの低温用鋼のガスシールドアーク溶接において特に好適に用いることができる。また、溶接の際に用いるシールドガスは、純Arガス又は純Heガスのそれぞれに5〜40vol%以下の範囲内でO又はCOを混合させた混合ガスとすることが、溶接作業性及び溶接金属の欠陥の防止の観点から好ましい。また、電流、電圧などの溶接条件についても通常用いられている条件で良い。
製造される溶接継手の形状は、用途などに応じて決定され、特に限定されるものではない。通常の突合せ継手、角継手、T継手など、開先を形成する溶接継手に適用できる。したがって、溶接される鋼板の形状も、少なくとも溶接継手を形成する部分が板状であればよく、全体が板でなくともよく、たとえば、形鋼なども含むものである。また、別々の鋼板から構成されるものに限定されず、1枚の鋼板を管状などの所定の形状に成形したものの突合せ溶接継手であってもよい。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
鋼帯を長手方向に送りながら成形ロールによりオープン管に成形し、この成形途中でオープン管の開口部からフラックスを供給し、開口部の相対するエッジ面を突合わせシーム溶接することで継目無し管とし、造管したフラックス入りワイヤの伸線作業の途中で焼鈍を加え、最終のワイヤ径がφ1.2mmのフラックス入りワイヤを試作した。フラックス入りワイヤの化学成分を表8−1〜表9−2に示す。フラックス入りワイヤのフラックスには、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で10.0%未満の鉄粉を含有させた。試作後、フラックス入りワイヤ表面には潤滑剤を塗布した。表において、PFPE油と記載していないものは、すべて、植物油を塗布した。また、一部は、シーム溶接をしない継目有りの管とし、それを伸線することで、ワイヤ径がφ1.2mmのフラックス入りワイヤを試作した。ただし、フラックス入りワイヤ全体の残部は、Fe及び不純物である。
このフラックス入りワイヤを用いて、JIS Z3111(2005年)に準拠して溶接金属の機械特性を評価した。すなわち、板厚が20mmの鋼板同士を、ルートギャップ16mm、開先角度20°で突き合わせ、同鋼板の裏当金を用いて、表10及び表11に示す溶接条件で溶接を実施した。鋼板の開先面及び裏当金の表面には、試験を行うフラックス入りワイヤを用いて2層以上、かつ余盛高さ3mm以上のバタリングを実施し、試験体を作成した。このバタリングにより、溶接材料の成分が母材により希釈されることが防止され、溶接材料の特性を正確に評価することができる。表10及び表11に示すシールドガスの組成はvol%である。
作製した試験体から、機械試験片としてJIS Z3111(2005年)に準拠したA0号引張り試験片(丸棒)(径=10mm)とシャルピー試験片(2mmVノッチ)を採取し、それぞれの機械特性試験を行って、溶接金属の引張強度及び全伸びと、−100℃でのシャルピー吸収エネルギーを測定した。得られた機械特性の測定結果を表12及び表13に示す。引張強度は450MPa以上、全伸びは25%以上、シャルピー吸収エネルギーは34J以上を合格とした。
表12及び表13の試験結果に示されるように、本発明例であるフラックス入りワイヤは、引張強さ、伸び、及び低温靭性に優れ、且つ割れを含まない溶接金属が得られ、且つ溶接作業性が良好であった。
一方、比較例であるフラックス入りワイヤは、本発明で規定する要件を満たしていないため、溶接金属の引張強さ、伸び、及び低温靭性、並びに割れ抑制性能及び溶接作業性のうち1つ以上の項目を満足できず、不合格となった。
本発明によれば、Ni含有量をNi系低温用鋼並みの5.50質量%以下に低減しながら、溶接金属の低温靱性を34J以上とすることができるフラックス入りワイヤが得られる。本発明によるフラックス入りワイヤは、ガスシールドアーク溶接において溶接施工効率に優れ、安価であり、耐高温割れ性に優れ、更に引張強さ、伸び、及び−100℃での低温靭性が優れる溶接金属を提供することができる。特に、液化ガスや化学プラントなどに使用される低温用鋼の溶接材料として本発明は好適である。よって、本発明は、産業上の利用可能性が高いものである。

Claims (10)

  1. 鋼製外皮とフラックスとを備えるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤであって、
    前記フラックスが、前記フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、
    LiF、NaF、CaF、BaF、SrF、及びMgFのうちの1種又は2種以上である弗化物:合計2.00%以上10.00%以下、
    Ti酸化物:0.20%以上2.00%以下、及び、
    Si酸化物:0.20%以上1.00%以下
    を含有し、
    更に、前記フラックス入りワイヤの前記弗化物、酸化物、及び炭酸塩を除く化学成分が、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、
    C :0.001%以上0.080%以下、
    Si:0.001%以上0.800%以下、
    Mn:0.10%以上1.50%以下、
    Al:0.010%以上0.500%以下、
    Ni:3.00%以上5.50%以下、
    Ti:0.010%以上0.100%以下、
    Mg:0.20%以上0.80%以下、
    P :0.030%以下、
    S :0.030%以下、及び
    Mo:0.001%以上0.500%以下
    を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
    下記(1)式で定義される高温割れ感受性指標βが3.100以下であり、
    下記(2)で定義される伸び指標γが1.39以下である
    ことを特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
    β=[Si]/6+[Mn]/1.5+[Ni]/3+200×[B]・・・(1)
    γ=[Mn]+[Mo]+[Mg]・・・(2)
    但し、(1)および(2)式の[]付元素は、それぞれの元素の含有量(質量%)を表す。
  2. 前記フラックスが更に、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、
    Al酸化物:0.50%未満、
    Ca酸化物:0.50%以下、
    Mn酸化物:0.50%以下、
    Mg酸化物:0.50%以下、
    前記炭酸塩:0.50%以下、及び、
    アーク安定剤:0.50%以下
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  3. 前記弗化物、前記酸化物、及び前記炭酸塩を除く前記化学成分が更に、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、
    B :0.01000%以下、
    Cu:0.50%以下、及び
    REM:0.050%以下
    からなる群から選択される一種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  4. 下記(3)式で示される焼入れ性指標αが0.250%以上0.590%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
    α=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+([Ni]+[Cu])/15+[Mo]/5・・・(3)
    なお、式(3)の[]付元素は、前記弗化物、前記酸化物、及び前記炭酸塩を除く前記化学成分に含まれる元素の前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%での含有量を表す。
  5. 前記フラックスが更に、前記フラックス入りワイヤの前記全質量に対する質量%で、鉄粉:10.0%未満を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  6. 前記鋼製外皮がスリット状の隙間の無い形状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  7. 前記鋼製外皮がスリット状の隙間を有する形状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  8. 前記鋼製外皮の表面に、パーフルオロポリエーテル油を更に備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  9. 請求項1〜8のいずれか一項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いて鋼板を溶接する工程を備えることを特徴とする溶接継手の製造方法。
  10. 前記溶接する工程において用いられるシールドガスが、Arと、5〜40Vol%COとの混合ガスであることを特徴とする請求項9に記載の溶接継手の製造方法。
JP2017100981A 2017-05-22 2017-05-22 ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法 Active JP6881025B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2017100981A JP6881025B2 (ja) 2017-05-22 2017-05-22 ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2017100981A JP6881025B2 (ja) 2017-05-22 2017-05-22 ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2018192519A true JP2018192519A (ja) 2018-12-06
JP6881025B2 JP6881025B2 (ja) 2021-06-02

Family

ID=64569582

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2017100981A Active JP6881025B2 (ja) 2017-05-22 2017-05-22 ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6881025B2 (ja)

Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US20110073570A1 (en) * 2009-09-25 2011-03-31 Nippon Steel & Sumikin Welding Co., Ltd. Flux cored wire for gas shielded arc welding of high strength steel
CN102528332A (zh) * 2010-12-20 2012-07-04 昆山京群焊材科技有限公司 高强度耐低温TiO2系CO2气体保护低氢型药芯焊丝
JP2013018012A (ja) * 2011-07-08 2013-01-31 Nippon Steel & Sumitomo Metal Corp 高張力鋼ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ
WO2014119082A1 (ja) * 2013-01-31 2014-08-07 新日鐵住金株式会社 フラックス入りワイヤ、フラックス入りワイヤを用いた溶接方法、フラックス入りワイヤを用いた溶接継手の製造方法、および溶接継手
JP2015006693A (ja) * 2013-05-31 2015-01-15 新日鐵住金株式会社 溶接継手部の疲労強度と耐低温割れ性に優れるフラックス入りワイヤ

Patent Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US20110073570A1 (en) * 2009-09-25 2011-03-31 Nippon Steel & Sumikin Welding Co., Ltd. Flux cored wire for gas shielded arc welding of high strength steel
CN102528332A (zh) * 2010-12-20 2012-07-04 昆山京群焊材科技有限公司 高强度耐低温TiO2系CO2气体保护低氢型药芯焊丝
JP2013018012A (ja) * 2011-07-08 2013-01-31 Nippon Steel & Sumitomo Metal Corp 高張力鋼ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ
WO2014119082A1 (ja) * 2013-01-31 2014-08-07 新日鐵住金株式会社 フラックス入りワイヤ、フラックス入りワイヤを用いた溶接方法、フラックス入りワイヤを用いた溶接継手の製造方法、および溶接継手
JP2015006693A (ja) * 2013-05-31 2015-01-15 新日鐵住金株式会社 溶接継手部の疲労強度と耐低温割れ性に優れるフラックス入りワイヤ

Also Published As

Publication number Publication date
JP6881025B2 (ja) 2021-06-02

Similar Documents

Publication Publication Date Title
KR101674743B1 (ko) 가스 실드 아크 용접용 플럭스 내장 와이어 및 극저온용 강의 용접 방법 및 용접 조인트의 제조 방법
US20220281024A1 (en) Flux-cored wire, manufacturing method of welded joint, and welded joint
JP6291461B2 (ja) ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ
JP6766866B2 (ja) フラックス入りワイヤ、溶接継手の製造方法、及び溶接継手
JP5005309B2 (ja) 高張力鋼用ガスシールドアーク溶接フラックス入りワイヤ
KR102013984B1 (ko) 가스 실드 아크 용접용 플럭스 내장 와이어
JP6953869B2 (ja) ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法
JP2009255169A (ja) フラックス入り極低水素溶接用ワイヤ及びその製造方法
JPWO2017154122A1 (ja) フラックス入りワイヤ、溶接継手の製造方法、及び溶接継手
JP2001314996A (ja) 耐熱鋼用ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ
JP6390204B2 (ja) ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ
JP6891630B2 (ja) ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法
JP6155810B2 (ja) ガスシールドアーク溶接用高Niフラックス入りワイヤ
JP6801494B2 (ja) ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、および溶接継手の製造方法
JP6953789B2 (ja) ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法
JP6874425B2 (ja) ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ及び溶接継手の製造方法
JP2019048324A (ja) ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法
JP6953870B2 (ja) ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法
JP2019048323A (ja) ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法
JP6881025B2 (ja) ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ、及び溶接継手の製造方法
JP6728806B2 (ja) ガスシールドアーク溶接用高Niフラックス入りワイヤ及び溶接継手の製造方法
JP2020015092A (ja) 2相ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤ、溶接方法および溶接金属
JP2022061819A (ja) 溶接継手の製造方法及び開先充填用のフラックス入りカットワイヤ
JP2022061826A (ja) 溶接継手の製造方法及び開先充填用のフラックス入りカットワイヤ
JP2022061814A (ja) 溶接継手の製造方法及び開先充填用のフラックス入りカットワイヤ

Legal Events

Date Code Title Description
RD03 Notification of appointment of power of attorney

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7423

Effective date: 20181019

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20200109

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20201209

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20201222

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20210219

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20210406

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20210419

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 6881025

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151