以下、添付図面を参照して、超音波診断装置の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。図1に例示するように、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ1と、モニタ2と、入力装置3と、心電計4と、装置本体10とを有する。
超音波プローブ1は、複数の振動子(例えば、圧電振動子)を有し、これら複数の振動子は、後述する装置本体10が有する送受信部11から供給される駆動信号に基づき超音波を発生する。また、超音波プローブ1は、被検体Pからの反射波を受信して電気信号に変換する。また、超音波プローブ1は、振動子に設けられる整合層と、振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有する。なお、超音波プローブ1は、装置本体10と着脱自在に接続される。
超音波プローブ1から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として超音波プローブ1が有する複数の圧電振動子にて受信される。受信される反射波信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁等の表面で反射された場合の反射波信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。
ここで、以下で説明する実施形態において、装置本体10に接続される超音波プローブ1は、超音波により被検体Pを2次元で走査するとともに、被検体Pを3次元で走査することが可能な超音波プローブである。具体的には、装置本体10に接続される超音波プローブ1は、メカニカル4Dプローブや、2Dアレイプローブである。メカニカル4Dプローブは、一列に配置された複数の圧電振動子により、被検体Pを2次元で走査するとともに、複数の圧電振動子を所定の角度(揺動角度)で揺動させることで、被検体Pを3次元で走査することができる。2Dアレイプローブは、複数の圧電振動子がマトリックス状に配置された複数の圧電振動子により、被検体Pを3次元で超音波走査することができる。なお、2Dアレイプローブは、超音波を集束して送信することで、被検体Pを2次元で走査することも可能である。
入力装置3は、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボール、ジョイスティック等を有し、超音波診断装置の操作者からの各種設定要求を受け付け、装置本体10に対して受け付けた各種設定要求を転送する。
モニタ2は、超音波診断装置の操作者が入力装置3を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体10において生成された超音波画像データ等を表示したりする。
心電計4は、3次元走査される被検体Pの生体信号として、被検体Pの心電波形(ECG: Electrocardiogram)を取得する。心電計4は、取得した心電波形を装置本体10に送信する。
装置本体10は、超音波プローブ1が受信した反射波信号に基づいて超音波画像データを生成する装置である。図1に示す装置本体10は、2次元の反射波データに基づいて2次元の超音波画像データを生成可能な装置である。また、図1に示す装置本体10は、3次元の反射波データに基づいて3次元の超音波画像データを生成可能な装置である。以下、3次元の超音波画像データを「ボリュームデータ」と記載する場合がある。
装置本体10は、図1に示すように、送受信部11と、Bモード処理部12と、ドプラ処理部13と、画像生成部14と、画像メモリ15と、内部記憶部16と、画像処理部17と、制御部18とを有する。
送受信部11は、パルス発生器、送信遅延部、パルサ等を有し、超音波プローブ1に駆動信号を供給する。パルス発生器は、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。また、送信遅延部は、超音波プローブ1から発生される超音波をビーム状に集束し、且つ、送信指向性を決定するために必要な振動子ごとの遅延時間を、パルス発生器が発生する各レートパルスに対し与える。また、パルサは、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ1に駆動信号(駆動パルス)を印加する。すなわち、送信遅延部は、各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、振動子面から送信される超音波の送信方向を任意に調整する。
なお、送受信部11は、後述する制御部18の指示に基づいて、所定のスキャンシーケンスを実行するために、送信周波数、送信駆動電圧等を瞬時に変更可能な機能を有している。特に、送信駆動電圧の変更は、瞬間にその値を切り替え可能なリニアアンプ型の発信回路、又は、複数の電源ユニットを電気的に切り替える機構によって実現される。
また、送受信部11は、プリアンプ、A/D(Analog/Digital)変換器、受信遅延部、加算器等を有し、超音波プローブ1が受信した反射波信号に対して各種処理を行って反射波データを生成する。プリアンプは、反射波信号をチャネル毎に増幅する。A/D変換器は、増幅された反射波信号をA/D変換する。受信遅延部は、受信指向性を決定するために必要な遅延時間を与える。加算器は、受信遅延部によって遅延が掛けられた反射波信号(デジタルデータ)の加算処理を行なって反射波データを生成する。加算器の加算処理により、反射波信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調され、受信指向性と送信指向性とにより超音波送受信の総合的なビームが形成される。
送受信部11は、被検体Pを2次元走査する場合、超音波プローブ1から2次元の超音波ビームを送信させる。そして、送受信部11は、超音波プローブ1が受信した2次元の反射波信号から2次元の反射波データを生成する。また、送受信部11は、被検体Pを3次元走査する場合、超音波プローブ1から3次元の超音波ビームを送信させる。そして、送受信部11は、超音波プローブ1が受信した3次元の反射波信号から3次元の反射波データを生成する。
なお、送受信部11からの出力信号の形態は、RF(Radio Frequency)信号と呼ばれる位相情報が含まれる信号である場合や、包絡線検波処理後の振幅情報である場合等、種々の形態が選択可能である。
Bモード処理部12は、送受信部11から反射波データを受信し、対数増幅、包絡線検波処理等を行なって、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。
ドプラ処理部13は、送受信部11から受信した反射波データから速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による血流や組織、造影剤エコー成分を抽出し、速度、分散、パワー等の移動体情報を多点について抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。
なお、第1の実施形態に係るBモード処理部12及びドプラ処理部13は、2次元の反射波データ及び3次元の反射波データの両方について処理可能である。すなわち、Bモード処理部12は、2次元の反射波データから2次元のBモードデータを生成し、3次元の反射波データから3次元のBモードデータを生成する。また、ドプラ処理部13は、2次元の反射波データから2次元のドプラデータを生成し、3次元の反射波データから3次元のドプラデータを生成する。
画像生成部14は、Bモード処理部12及びドプラ処理部13が生成したデータから超音波画像データを生成する。すなわち、画像生成部14は、Bモード処理部12が生成した2次元のBモードデータから反射波の強度を輝度で表した2次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部14は、ドプラ処理部13が生成した2次元のドプラデータから移動体情報を表す2次元ドプラ画像データを生成する。2次元ドプラ画像データは、速度画像、分散画像、パワー画像、又は、これらを組み合わせた画像である。また、画像生成部14は、ドプラ処理部13が生成したドプラデータから、血流や組織の速度情報を時系列に沿ってプロットしたドプラ波形を生成することも可能である。
ここで、画像生成部14は、一般的には、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の超音波画像データを生成する。具体的には、画像生成部14は、超音波プローブ1による超音波の走査形態に応じて座標変換を行なうことで、表示用の超音波画像データを生成する。また、画像生成部14は、スキャンコンバート以外に種々の画像処理として、例えば、スキャンコンバート後の複数の画像フレームを用いて、輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)や、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)等を行なう。また、画像生成部14は、超音波画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマーク等を合成する。
すなわち、Bモードデータ及びドプラデータは、スキャンコンバート処理前の超音波画像データであり、画像生成部14が生成するデータは、スキャンコンバート処理後の表示用の超音波画像データである。なお、Bモードデータ及びドプラデータは、生データ(Raw Data)とも呼ばれる。
更に、画像生成部14は、Bモード処理部12が生成した3次元のBモードデータに対して座標変換を行なうことで、3次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部14は、ドプラ処理部13が生成した3次元のドプラデータに対して座標変換を行なうことで、3次元ドプラ画像データを生成する。すなわち、画像生成部14は、「3次元のBモード画像データや3次元ドプラ画像データ」を「3次元超音波画像データ(ボリュームデータ)」として生成する。
更に、画像生成部14は、ボリュームデータをモニタ2にて表示するための各種の2次元画像データを生成するために、ボリュームデータに対してレンダリング処理を行なう。画像生成部14が行なうレンダリング処理としては、断面再構成法(MPR:Multi Planer Reconstruction)を行なってボリュームデータからMPR画像データを生成する処理がある。また、画像生成部14が行なうレンダリング処理としては、ボリュームデータに対して「Curved MPR」を行なう処理や、ボリュームデータに対して「Maximum Intensity Projection」を行なう処理がある。
また、画像生成部14が行なうレンダリング処理としては、3次元の情報を反映した2次元画像データを生成するボリュームレンダリング(VR:Volume Rendering)処理がある。また、画像生成部14が行なうレンダリング処理としては、レンダリング対象の表面の形状を3次元的が描出されたサーフェスレンダリング(SR:Surface Rendering)画像データを生成するサーフェスレンダリング処理がある。
画像メモリ15は、画像生成部14が生成した画像データを記憶するメモリである。また、画像メモリ15は、Bモード処理部12やドプラ処理部13が生成したデータを記憶することも可能である。画像メモリ15が記憶するBモードデータやドプラデータは、例えば、診断の後に操作者が呼び出すことが可能となっており、画像生成部14を経由して表示用の超音波画像データとなる。
なお、画像生成部14は、3次元超音波画像データであるボリュームデータと当該ボリュームデータを生成するために行なわれた超音波走査の時間とを、心電計4から送信された心電波形に対応付けて画像メモリ15に格納する。後述する画像処理部17や制御部18は、画像メモリ15に格納されたデータを参照することで、ボリュームデータを生成するために行なわれた超音波走査時の心時相を取得することができる。
内部記憶部16は、超音波送受信、画像処理及び表示処理を行なうための制御プログラムや、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)や、診断プロトコルや各種ボディーマーク等の各種データを記憶する。また、内部記憶部16は、必要に応じて、画像メモリ15が記憶する画像データの保管等にも使用される。また、内部記憶部16が記憶するデータは、図示しないインターフェースを経由して、外部装置へ転送することができる。なお、外部装置は、例えば、画像診断を行なう医師が使用するPC(Personal Computer)や、CDやDVD等の記憶媒体、プリンター等である。
画像処理部17は、コンピュータ支援診断(Computer-Aided Diagnosis:CAD)を行なうために、装置本体10に設置される。画像処理部17は、画像メモリ15に格納された超音波画像データを取得して、診断支援のための画像処理を行なう。そして、画像処理部17は、画像処理結果を、画像メモリ15や内部記憶部16に格納する。なお、画像処理部17が有する各部が行なう処理については、後に詳述する。
制御部18は、超音波診断装置の処理全体を制御する。具体的には、制御部18は、入力装置3を介して操作者から入力された各種設定要求や、内部記憶部16から読込んだ各種制御プログラム及び各種データに基づき、送受信部11、Bモード処理部12、ドプラ処理部13、画像生成部14及び画像処理部17の処理を制御する。また、制御部18は、画像メモリ15や内部記憶部16が記憶する表示用の超音波画像データをモニタ2にて表示するように制御する。また、制御部18は、画像処理部17の処理結果をモニタ2に表示するように制御する。
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置の全体構成について説明した。かかる構成のもと、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、非観血的に心筋繊維の方向に関する情報や、心筋繊維が走行する心筋面内における局所的な動き成分の情報を簡便に提示するため、画像処理部17及び制御部18を用いた以下の処理を行なう。
画像処理部17は、図1に示すように、算出部171と、取得部172と、決定部173とを有する。算出部171は、被検体Pの心筋を含む3次元領域に対応する時系列に沿った複数の3次元超音波画像データを用いて、複数の3次元画像データそれぞれに設定された、心筋に対応する関心領域の動きを追跡し、心筋の動きを示す第1運動情報を算出する。例えば、算出部171は、心臓の超音波走査により生成された時系列に沿った3次元超音波画像データ群に対して3次元的なパターンマッチングを含む処理を行なって、『3次元の追跡対象として心筋に設定された「関心領域」』の動き情報である第1運動情報を算出する。具体的には、上記の関心領域は、心筋の内膜面、心筋の外膜面及び心筋の中層面の少なくとも1つの境界面である。
そして、取得部172は、心筋の心筋繊維の方向を示す方向情報を取得する。上記の方向情報は、関心領域における心筋繊維の方向を示す情報となる。そして、決定部173は、第1運動情報と心筋繊維の方向情報とに基づいて、心筋繊維の方向に対する心筋の動きを示す第2運動情報を決定する。具体的には、第1の実施形態に係る取得部172は、第1運動情報を用いて、心筋の心筋繊維の方向を示す方向情報を推定する。そして、第1の実施形態に係る決定部173は、取得部172が推定した方向情報を用いて、第2運動情報を決定する。
そして、制御部18は、第2運動情報をモニタ2に表示させる。なお、関心領域として複数の関心領域が設定されている場合、取得部172は、複数の関心領域それぞれで、心筋繊維の方向を示す方向情報を取得する。本実施形態では、取得部172は、算出部171が算出した複数の関心領域それぞれの第1運動情報を用いて、複数の関心領域それぞれで、心筋繊維の方向を示す方向情報を推定する。そして、決定部173は、複数の関心領域それぞれで第2運動情報を決定する。そして、制御部18は、複数の関心領域それぞれの第2運動情報を表示させる。
以下、上記の処理の具体例を詳細に説明する。算出部171は、画像データ間の3次元的なパターンマッチングを含む処理により、複数の3次元超音波画像データそれぞれに設定された関心領域の位置を追跡することで、第1運動情報を算出する。具体的には、算出部171は、3次元超音波画像データ群(3次元動画像データ)に対して3次元スペックルトラッキング(3D Speckle Tracking、以下「3DT」)を行なう。スペックルトラッキング法は、パターンマッチング処理と共に、例えば、オプティカルフロー法や種々の時空間補間処理を併用することで、正確な動きを推定する方法である。また、スペックルトラッキング法には、パターンマッチング処理を行なわずに、動きを推定する方法もある。
図2及び図3は、算出部を説明するための図である。まず、操作者は、3次元走査可能な超音波プローブ1を用いて、例えば、被検体Pの心臓の左心系を、心尖部アプローチにより1心拍以上の期間で3次元走査する。これにより、画像生成部14は、図2に示すように、1心拍以上の期間の時系列に沿った3次元超音波画像データ群を生成し、画像メモリ15に格納する。なお、上記の3次元超音波画像データ群は、3次元Bモード画像データ群である。
そして、例えば、操作者は、入力装置3を用いて、画像処理部17が解析を行なう対象となる3次元超音波画像データ群(時系列データ)を指定して、画像処理部17による解析開始要求を入力する。解析開始要求を受け付けた制御部18は、例えば、3次元超音波画像データ群の第1フレーム(第1ボリューム)の3次元超音波画像データを複数方向の断面にて切断した複数のMPR画像データを画像生成部14に生成させ、モニタ2に表示させる。また、算出部171は、制御部18の制御により、解析対象となる3次元超音波画像データ群を、画像メモリ15から取得する。
そして、操作者は、モニタに表示された複数のMPR画像データを参照して、3DTを行なう関心領域を設定する。例えば、操作者は、各MPR画像データにおいて、左心室の内膜及び左心室の心筋の外膜の位置をトレースする。そして、例えば、算出部171は、トレースされた内膜面や外膜面から3次元的な境界面を再構成する。そして、算出部171は、図3に例示するように、第1フレームの内膜面及び外膜面に対して複数の矩形で構成されるメッシュを設定し、メッシュの交点を追跡点として設定する。なお、図3では、外膜面のメッシュを、内膜面のメッシュの線分より太い線分で示している。
ここで、外膜面の位置については、例えば、算出部171が、内膜面から所定の厚さ(所定の距離)だけ離れた位置として自動的に発生させても良い。また、本実施形態は、操作者により用手的に設定された境界面を用いる場合に限定されるものではなく、算出部171や制御部18が3次元超音波画像データの輝度等に基づいて、境界面の位置を自動的に設定する場合であっても良い。
そして、例えば、算出部171は、図3に示すように、内膜面及び外膜面の形状に基づいて、長軸(Long-axis)及び短軸(Short-axis)等、左心室の座標系を設定する。これにより、図3に示すように、3次元超音波画像データにおいて、左心室の長軸方向(Longitudinal-direction)及び左心室の円周方向(Circumferential-direction)が設定される。また、上記の設定により、左心室の壁厚方向(Radial-direction)も設定されることになる。なお、左心室の座標系は、操作者により用手的に設定されても良い。また、本実施形態は、関心領域としての境界面として、内膜面と外膜面との中層面を設定することで、心筋内に関心領域を設定することも可能である。
そして、算出部171は、第1フレームの内膜面で設定された複数の追跡点それぞれに対して、テンプレートデータを設定する。更に、算出部171は、第1フレームの外膜面で設定された複数の追跡点それぞれに対して、テンプレートデータを設定する。これらテンプレートデータは、追跡点を中心とする複数のボクセルから構成される。
そして、算出部171は、2つのフレーム間でテンプレートデータのスペックルパターンと最も一致する領域を探索することで、テンプレートデータが次のフレームでどの位置に移動したかを追跡する。すなわち、算出部171は、第1フレームの各追跡点が、第nフレームのどの位置に移動したかを追跡する。これにより、算出部171は、ある時間「t」における境界面内の追跡点「P」の位置を、全フレームで決定する。
ここで、時間「t」での追跡点「P」は、図3に示す座標系により、2次元のアドレス「長軸方向(L):1≦L≦M、円周方向(C):1≦C≦N」を有する位置ベクトル空間「P=p(C,L)」で与えられることになる。以下、特に言及しない限り、ある位置アドレスに着眼して「C」及び「L」の表記は、割愛する。
算出部171は、3DTにより、第1運動情報として、各時間「t」における追跡位置「P(t)」の移動ベクトル「V(P(t))」を、以下の式(1)により算出する。なお、「P(t)」は、内膜面、外膜面、中層面の少なくとも1つの関心領域上のある1点を示す。
そして、取得部172は、3DT処理により第1運動情報として得られた局所的な3次元の移動ベクトル(関心領域を構成する個々の追跡点に関する移動ベクトル)であって、算出部171が行った3次元的なパターンマッチングを含む処理により得られた移動ベクトルを用いて心筋繊維の方向を示す方向情報を推定する。取得部172は、関心領域としての境界面に対する移動ベクトルの射影成分を取得し、当該射影成分を方向情報として推定する。具体的には、取得部172は、境界面に対する移動ベクトルの直交射影成分を取得し、当該直交射影成分を方向情報として推定する。より具体的には、取得部172は、移動ベクトルと、当該移動ベクトルが得られた追跡点近傍での関心領域(境界面)の法線ベクトルとから、心筋繊維の方向を示す方向情報を推定する。一例として、取得部172は、移動ベクトルが得られた追跡点の近傍の境界面上での法線ベクトルを用いて、移動ベクトルの直交射影成分を取得し、当該直交射影成分を心筋繊維の方向を示す方向情報として推定する。個々の追跡点の移動ベクトルの個々の直交射影成分により、関心領域としての境界面上にベクトル場が形成される。そして、決定部173は、推定結果から心筋繊維の方向の運動情報である第2運動情報を決定する。
上記の処理は、「3DTで得られる個々の追跡点の動く方向は、心筋の繊維方向に、概一致する」という仮定と、「壁厚方向への動き成分は、繊維の方向の動き成分では無い」という客観的な事実とに基づく処理である。すなわち、上記の処理は、「関心領域としての境界面上における個々の移動ベクトルの直交射影により壁厚方向への動きを除去して、動き元の境界面上での動き成分のみを抽出する」という処理である。以下、上記の仮定を「仮定(0)」と呼ぶ。
かかる処理について、以下、数式等を用いて、説明する。例えば、「P(t)」を含む境界面上での法線ベクトルを「n(P(t))」とすると、取得部172は、「P(t)」を含む境界面上への移動ベクトル「V(P(t))」の直交射影成分「V^(P(t))」を、以下の式(2)により求める。
ここで、式(2)に示す「<n(P(t)),V(P(t))>」は、法線ベクトル「n(P(t))」と移動ベクトル「V(P(t))」との内積を示す。各追跡点の直交射影成分「V^(P(t))」は、各追跡点の第1運動情報である移動ベクトル「V(P(t))」を、関心領域としての境界面上に射影した移動ベクトルとなる。
「V^(P(t))」から得られる情報は、「心筋の動きベクトル情報(MyoVector)」を意味する。そして、上記の仮定(0)が成立する範囲では、「MyoVector」は、近似的に、心筋繊維の方向「MyoFiber」と見なすことができる。従って、「MyoVector」を、心筋繊維方向と仮定して、「MyoVector」を、そのまま、心筋繊維に対する心筋の動きを示す運動情報(第2運動情報)として定義することが、第1の実施形態での最も単純な構成例となる。これについては、「第1方向定義」として後述する。
「MyoVector」は、心筋繊維が走行する心筋面内における動き成分を表わす。ただし、「MyoVector」の方向は、必ずしも心筋繊維の方向「MyoFiber」と一致しないことがある。例えば、壁厚増大を生じる機構として「心筋シート滑り理論」が知られているが、この理論では、心筋シートが滑る方向は、心筋繊維方向とは垂直な方向となる。従って、局所心筋の動き情報には、繊維方向への伸縮(fiber-strain)による動きの成分だけでなく、シート滑りによる動き成分も含まれている。心筋繊維方向に対して垂直方向の動き成分は、上記の構成例における制約となる。以下、かかる制約を、「制約(A)」と呼ぶ。
また、制約(A)以外にも、仮定(0)が成立しない様々なケースが考えられる。第1の実施形態に係る画像処理部17は、このような様々なケースに対応するため、以下に説明する様々な前処理を行なう。以下、仮定(0)が成立しない3つのケース(第1ケース、第2ケース及び第3ケース)それぞれに対応するために行なわれる3つの前処理(第1前処理、第2前処理及び第3前処理)について、数式や、図4〜図6等を用いて説明する。図4〜図6は、取得部が行なう前処理を説明するための図である。
まず、第1ケース及び第1前処理について説明する。第1ケースは、第1運動情報が略「ゼロ」となる場合である。すなわち、心臓の動きが静止する時相では、算出される第1運動情報「V(P(t))」のスカラー量が略「ゼロ」となり、心筋繊維の方向情報を得るための「V^(P(t))」のスカラー量も略「ゼロ」となる。かかる場合、取得部172は、心筋繊維の方向情報を推定することができない。
そこで、第1前処理として、取得部172は、推定処理により取得した心筋繊維の方向を示す方向情報の大きさが所定の閾値より小さい時相については、当該時相の心筋繊維の方向を示す方向情報を時間的な補間処理により推定する。例えば、取得部172は、「V^(P(t))」の絶対値(スカラー量)が、予め設定された閾値「Vth」を下回る場合には、「V^(P(t))」の値を時間的に補間する。
例えば、時間的補間法として、過去のデータを保持する場合には、取得部172は、以下に示す式(3)により、「V^(P(t))」を算出する。
式(3)は、「V^(P(t))」の絶対値が閾値「Vth」より小さい場合は、「V^(P(t))」を、時間「t−1」で得られた直交射影成分「V^(P(t−1))」とすることを示している。
なお、式(3)は、あくまでも一例であり、取得部172は、例えば、方向情報が所定の閾値より小さい時相については、当該時相の方向情報を、当該時相の前の時相のデータ及び当該時相の後の時相のデータを用いた補間処理により求めても良い。例えば、取得部172は、「V^(P(t−1))」と「V^(P(t+1))」との平均ベクトルを、「V^(P(t))」としても良い。
次に、第2ケース及び第2前処理について説明する。第2ケースは、心臓全体の並進(translation)運動を考慮する場合である。例えば、データ収集時に、被検体Pの息止めが不十分であったり、胸腔内で心臓周辺に水が溜まっていたりする場合、心臓は、心尖(Apex)を起点として、揺れるように動くことがある。このような並進運動の動き成分は、局所的な心筋繊維方向とは必ずしも合致しない。このため、第2前処理として、取得部172は、心臓の並進運動の影響を軽減するために、心臓全体の並進運動成分の除去処理を行なう。具体的には、第2前処理として、取得部172は、関心領域の部分的な平均移動ベクトルから、心臓の部分的な並進運動成分を取得し、当該並進運動成分を移動ベクトルから差し引いた成分を用いて、心筋繊維の方向を示す方向情報を推定する。より具体的には、取得部172は、関心領域の長軸方向において位置の異なる短軸面内で局所的に推定した並進運動成分を、移動ベクトルを短軸面内の方向に成分分離したベクトル成分から差し引いた成分を用いて、心筋繊維の方向を示す方向情報を推定する。
例えば、取得部172は、関心領域の移動ベクトルから並進運動成分「Vw(t)」を推定する。そして、例えば、取得部172は、以下の式(4)により、各追跡点における境界面上の移動ベクトルである「V^(P(t))」から「Vw(t)」を差し引いた「V’^(P(t))」を求め、「V’^(P(t))」を用いて、心筋の繊維方向を推定する。
ここで、並進運動成分「Vw(t)」は、心臓の全体的な動き成分であることから、その推定には、関心領域内での移動ベクトルを平均した平均移動ベクトルを用いることが有効である。ただし、並進運動は、左心室を釣り鐘に見立てると、心尖を中心とした横揺れの運動を主要因と見なせる。このため、平均移動ベクトルとして「関心領域全体で平均した移動ベクトル」を用いると、心尖からの距離に応じて異なるはずである横揺れ成分を正しく推定できなくなる。
従って、取得部172は、長軸方向での各短軸レベル「L」での短軸面「S(L)」において、当該レベルにおける円周方向での移動ベクトルの平均ベクトル「ave(L)_V(t)」を用いる。ただし、長軸方向への運動は、有効な収縮成分となるので、長軸方向への移動ベクトル成分には影響を与えないように、取得部172は、上記の動きベクトル成分同士の差し引きを行う必要がある。
そこで、取得部172は、「ave(L)_V(t)」を算出する際、移動ベクトル「V(P(t))」から、長軸方向に対して垂直な短軸面「S(L)」の方向へのベクトル成分を抽出する。具体的には、取得部172は、直交射影成分である移動ベクトル「V^(P(t))」が「S(L)」の回帰平面「C’(t)」に落とす直交射影ベクトル成分「Vs(P(t))」 を求める。この際、取得部172は、回帰平面「C’(t)」における単位法線ベクトル「nC’(t)」を求める。
例えば、取得部172は、図4に示すように、短軸面「S(L)」を通る内膜面上の複数の追跡点、或いは、短軸面「S(L)」を通る内膜面から所定距離内に位置する複数の追跡点を抽出する。そして、例えば、取得部172は、抽出した複数の追跡点の位置を用いた最小2乗法により、図4に示すように、回帰平面「C’(t)」を求め、回帰平面「C’(t)」から単位法線ベクトル「nC’(t)」を求める。
そして、取得部172は、短軸面「S(L)」における「Vs(P(t))」を、以下の式(5)により取得する。式(5)は、直交射影成分を導出する式(2)と同様の演算処理となる。
式(5)は、「Vs(P(t))」が、移動ベクトル「V^(P(t))」の短軸面「S(L)」の方向へのベクトル成分であることを示している。位置ベクトル空間「P=p(C,L)」の定義を用いると、「Vs(P(t))」は、「Vs(p(C,L,t))」となる。取得部172は、「1≦C≦N」の範囲で、円周方向の各追跡点の「Vs(p(C,L,t))」を求め、更に、これらの平均を求めることで、「ave(L)_V(t)」を取得する。そして、取得部172は、「ave(L)_V(t)」を並進運動成分「Vw(t)」とする。すなわち、取得部172は、以下の式(6)の演算を行なって、並進運動成分「Vw(t)」を取得する。
そして、取得部172は、式(6)で得られた「Vw(t)」を、式(4)に代入することで、「V^(P(t))」から並進運動成分を除去した「V’^(P(t))」を取得し、心筋の繊維方向を推定する。
上述した処理(円周方向平均)について、説明を補足する。長軸方向に対して、短軸面内での有効な運動は、2つある。1つは、短軸面内での心筋の壁厚(Radial)方向への変化(心筋の放射状の変化)の運動成分である。以下、この運動成分を「rad成分」と呼ぶ。もう1つは、短軸面内での回転(rotation)の運動成分である。以下、この運動成分を、「rot成分」と呼ぶ。これら2つの運動成分は、局所的な壁運動異常が無い場合には、共に短軸の回転中心軸(内膜や外膜の境界面の重心)に対して、点対称となる。このため、短軸面内で移動ベクトルを平均した「ave(L)_V(t)」では、「rad成分」及び「rot成分」が相殺されており、除去したい並進運動成分が支配的な成分として抽出される。
次に、第3ケース及び第3前処理について説明する。第3ケースは、「心筋繊維方向と垂直な動きとして見なすことができる心臓の回転運動」を考慮する場合である。心筋繊維の方向が時間的に変化すると、この変化は、第1運動情報に含まれる動き成分として観察される。しかし、「心筋繊維方向の変化に由来する動き成分」は、上記の仮定(0)の成立を困難とする。ここで、「心筋繊維方向の変化に由来する動き成分」は、捻れ、すなわち、各短軸レベル「L」での回転成分に相当する。
そこで、第3前処理として、取得部172は、「回転方向は、心筋繊維方向に対して概垂直である」と仮定して、回転成分の除去処理を行なう。以下、この仮定を「仮定(1)」と呼ぶ。
取得部172は、「仮定(1)」に基づく第3前処理として、移動ベクトルから、関心領域の長軸方向において位置の異なる短軸面内での回転成分を取得する。そして、第3前処理として、取得部172は、取得した回転成分を移動ベクトルから差し引いた成分を用いて、心筋繊維の方向を示す方向情報を推定する。
具体的には、取得部172は、まず、移動ベクトル「V(P(t))」から求めた移動ベクトル「V^(P(t))」を、長軸方向のベクトル成分「Vx(P(t))」と、長軸方向に対して直交する短軸面「S(L)」の方向のベクトル成分「Vs(P(t))」とに成分分離する。そして、取得部172は、短軸面内でのベクトル「Vs(P(t))」の回転成分「rot(S(L))_P(t)」を推定する。そして、取得部172は、回転成分「rot(S(L))_P(t)」を「Vs(P(t))」から差し引いた移動ベクトル「Vs’^(P(t)) 」を用いて、心筋繊維方向の推定を行なう。
ここで、第3前処理で取得部172が取得し、心筋繊維方向の推定に用いる最終的な移動ベクトル、すなわち、「V^(P(t))」から回転成分を除去した「V’^(P(t))」は、以下の式(7)により得られる。
式(7)は、「V^(P(t))」の長軸方向のベクトル成分と、「V^(P(t))」の短軸面方向のベクトル成分から短軸面の回転成分を差し引いたベクトル成分と合成することで、最終的な移動ベクトル「V’^(P(t))」を得ることを示している。
上記の第3前処理について、更に、詳細に説明する。まず、取得部172は、短軸レベル「L」での追跡点位置「P(t)」における長軸方向への単位方向ベクトル「x(L,P(t))」を用いて、以下の式(8)により、「Vx(P(t))」を求める。
また、取得部172は、以下の式(9)を用いて、「Vs’^(P(t)) 」を求める。なお、式(9)に示す「Vs(P(t))」は、上記の第2ケースで説明した「Vs(P(t))」と同等のベクトルである。すなわち、「Vs(P(t))」は、図5に示すように、「V(P(t))」を、単位法線ベクトル「nC’(t)」を用いて回帰平面「C’(t)」上に射影したベクトルである。
ここで、式(9)に示す回転成分「rot(S(L))_P(t)」を得るために、取得部172は、図5に示すように、「V(P(t))」と、「V(P(t0))」との角度を算出する。「V(P(t0))」は、基準時相「t0」での「V(P(t0))」を、単位法線ベクトル「nC’(t0)」を用いて「C’(t)」上に射影したベクトルである。かかる角度は、図5に示すように、時間「t」における短軸面「S(L)」での追跡位置「P(t)」の局所的な回転角「α(C,L,t)」となる。なお、図5において、回転角を定義するための回転中心は、例えば、回帰平面上の輪郭に対応する「C’(t)」の重心である。なお、図4及び図5に示す回帰平面及び回転角については、特開2010−51731号公報に詳細に記載されている。
また、取得部172は、回帰平面上の輪郭に対応する「C’(t)」上で、円周方向の各追跡点について「α(C,L,t)」を求める。そして、取得部172は、「α(C,L,t)」を「C’(t)」上で円周方向へ平均して、平均回転角「α’(L,t)」を得る。ここで、以下の処理で、「rot(S(L))_P(t)」を得るために用いる回転角「αr」としては、局所的な回転角「α(C,L,t)」、又は、平均回転角「α’(L,t)」のいずれであっても良い。また、第3前処理で用いる回転角「αr」としては、「C’(t)」上の点「C’(P(t))=C’(p(C,L,t))」近傍での微少範囲のみで平均した回転角の値を用いても良い。例えば、操作者は、推定される回転成分の空間分解能の細かさと空間的な安定性とのトレードオフから、これらの回転角の中で、どの回転角を用いるかを選択することができる。
そして、取得部172は、図6の上図に示すように、回転角を定義した際の回転中心「G(L,t)」と、「C’(t)」上の点「C’(P(t))」との距離「R」を半径とする。そして、取得部172は、点「C’(P(t))」を回転角「αr」分、回転させた位置の点「C’(r)」を取得する。
そして、取得部172は、以下に示す式(10)により、「C’(t)」上での回転成分「rot(S(L))_P(t)」を求める。
ここで、式(10)に示す「C’(r0)」は、図6の下図に示すように、「G(L,t)」をゼロベクトル「0」へ平行移動させた際に、「C’(r)」に対応する位置の点を示す。また、式(10)に示す「C’(P0(t))」は、図6の下図に示すように、「G(L,t)」をゼロベクトル「0」へ平行移動させた際に、「C’(P(t))」に対応する位置の点を示す。
図6の下図に示すように、取得部172は、既知の「C’(P0(t))」と「αr」とから「C’(r0)」を得て、回転成分を求める。
そして、取得部172は、式(10)で求めた「rot(S(L))_P(t)」を式(9)に代入することで、「Vs’^(P(t)) 」を求める。そして、取得部172は、式(9)で求めた「Vs’^(P(t)) 」を式(7)に代入することで、「V^(P(t))」から回転成分を除去した「V’^(P(t))」を算出し、「V’^(P(t))」を心筋の繊維方向情報とする。
以上が、第1の実施形態で行なわれる3つのケースそれぞれに対処するための前処理となる。なお、移動ベクトル「V^(P(t))」に対して行なわれる第1前処理、第2前処理及び第3前処理は、全て独立な処理である。従って、取得部172は、必要に応じて、これら3つの前処理を任意に組み合わせて適用することで、最終的な移動ベクトルを得ることも可能である。ただし、例えば、操作者が前処理を行なう必要が無いと判断した場合は、これら前処理が行われていない移動ベクトル「V^(P(t))」を用いて、以下の処理が行なわれるようにしても良い。
以下の説明で記載する「V^(P(t))」は、前処理を実行していない直交射影成分の移動ベクトルを示す場合でも、前処理により最終的に得られた直交射影成分の移動ベクトルを示す場合でも良い。
そして、決定部173は、取得部172が心筋繊維の方向情報として推定した移動ベクトル「V^(P(t))」を用いて、心筋繊維方向を定義し、定義した心筋繊維方向により、第2運動情報を決定する。具体的には、決定部173は、以下に説明する第1方向定義、又は、第2方向定義により、心筋繊維方向を定義する。
第1方向定義では、決定部173は、「心筋繊維の方向を示す方向情報」が関心領域としての境界面上で構成する個々のベクトルを、心筋繊維方向として定義する。換言すると、第1方向定義は、移動ベクトル「V^(P(t))」を心筋繊維方向と見なす。
また、第2方向定義では、決定部173は、「心筋繊維の方向を示す方向情報」が関心領域としての境界面上で構成するベクトル場において、当該境界面上で設定された少なくとも1つの始点から得られる少なくとも1本の流線を、ベクトル場の空間的な補間処理を用いて求め、当該少なくとも1本の流線を、心筋繊維方向として定義する。具体的には、第2方向定義では、決定部173は、以下に説明する流線ベクトル「L(t,N)」を心筋繊維方向と見なす。
第2方向定義について説明すると、まず、決定部173は、上記で得られた個々の追跡点上での移動ベクトルが、関心領域内で構成するベクトル場「V^(P(t))」において、長軸方向の端部(心尖、或いは、弁輪部の少なくとも一方)を、開始点「Q0(t)」とする。或いは、決定部173は、ベクトル場「V^(P(t))」において、長軸の中央近傍の任意レベルを、開始点「Q0(t)」とする。なお、「Q0(t)」の位置及び数は、操作者により、任意に設定可能である。
そして、決定部173は、「Q0(t)」に最寄りの「V^(Q0(t))」の値を、ベクトル場「V^(P(t))」の空間補間処理を用いて求める。そして、決定部173は、「Q0(t)」に連結されるベクトル「Q1(t)」を、以下の式(11)により求める。
決定部173は、関心領域のベクトル場の上で、逐次、この処理を繰り返して、ベクトル「Qi−1(t)」にベクトル「Qi(t)」を連結していく。そして、決定部173は、連結ベクトルの延長距離が所定の最大長(例えば8cm等)に到達するか、長軸方向の端部に到達した場合、ベクトル連結を終了する。なお、ベクトル連結終了条件は、操作者により任意に設定可能である。
上記の処理により、決定部173は、1つの開始点に対して1本の流線ベクトルを得る。決定部173は、ベクトル連結処理を、位置の離れたN個の開始点それぞれで、繰り返して行なう。N個の開始点の好適な一例としては、弁輪部の円周方向をN分割して得られる開始点群が挙げられる。この際、決定部173は、好適には、既に辿られた他の流線ベクトルと交差しない処理、具体的には、連結を行っている流線ベクトルが、他の流線ベクトルの交差を検知したら連結処理を打ち切る処理を行なう。これにより、決定部173は、最終的に、N本の流線ベクトル「L(t,N)」を、処理対象とした関心領域上で取得する。
そして、「心筋繊維の方向に対する心筋の動きを示す第2運動情報の定義、及び、第2運動情報の表示方法」は、例えば、以下に説明する4つの出力形態で行なわれる。以下、図7〜図11等を用いて、第1出力形態、第2出力形態、第3出力形態及び第4出力形態を説明する。図7〜図11は、第1の実施形態で行なわれる出力形態を説明するための図である。なお、以下で説明する出力形態は、決定部173の出力情報が入力した制御部18の制御に基づいて、画像生成部14が行なう描画処理により実現される。
まず、第1出力形態について、説明する。第1出力形態では、決定部173は、第1方向定義、又は、第2方向定義により定義した心筋繊維方向を、第2運動情報として決定し、制御部18に出力する。
第1方向定義の場合、第1出力形態では、関心領域として設定された内膜面、外膜面及び中層面の少なくとも1つの境界面の各追跡点の心筋繊維方向を、各追跡点の3次元的な位置を視認可能なように、表示する。かかる表示方法としては、ボリュームデータに対して行なわれるレンダリング処理を用いた3Dレンダリング表示を行なうことが好適である。具体的には、3Dレンダリング表示では、境界面の各追跡点の心筋繊維方向は、心臓の3次元超音波画像データの境界面に対して、SR処理を行なって得られたSR画像データを用いて表示される。或いは、境界面の各追跡点の心筋繊維方向は、アメリカ心エコー図学会やアメリカ心臓協会が推奨する複数の分画を示すポーラーマップ(Polar-map)を用いて表示するマップ表示により行なわれても良い。
具体的には、第1方向定義の場合、決定部173は、取得部172が推定した方向情報である「MyoVector」を、第2運動情報として決定する。かかる場合、決定部173は、上記のベクトル場における個々のベクトル(すなわち、各追跡点で得られた「V^(P(t))」)を、そのまま、第2運動情報として決定する。そして、制御部18は、個々のベクトルの向き及び大きさを示す線又は矢印を、関心領域の3次元レンダリング画像データ(境界面のSR画像データ)、又は、心臓のポーラーマップ(Polar-map)に重畳して表示させる。
或いは、第1方向定義の場合、決定部173は、取得部172が推定した方向情報である「MyoVector」の方向を、第2運動情報として決定する。かかる場合、決定部173は、上記のベクトル場における個々のベクトルの方向(すなわち、各追跡点で得られた「V^(P(t))」の方向)を、第2運動情報として決定する。そして、制御部18は、ベクトル場における個々のベクトルの方向を示し、規格化された長さの線分、又は、矢印を、関心領域の3次元レンダリング画像データ(境界面のSR画像データ)、又は、心臓のポーラーマップに重畳して表示させる。
すなわち、第1方向定義の場合、第1出力形態では、「V^(P(t))」を提示する表示オブジェクトとして、線分、又は、矢印を用いる。その際、前者では、「V^(P(t))」のベクトルについて、大きさと向きの双方を表示オブジェクトに反映させるのに対し、後者では、方向のみを一定のサイズの表示オブジェクトで表示する。換言すると、前者の場合は、各時相での移動ベクトル「V^(P(t))」の大きさの情報が、出力情報に含まれるのに対し、後者の場合は、各時相での移動ベクトル「V^(P(t))」で得られる心筋繊維方向の情報に特化した出力となる。
なお、後者では、心筋繊維方向への単位方向ベクトル「n」を得るために、正規化が行なわれる。すなわち、後者では、「V^(P(t))」を、「V^(P(t))」の大きさで除算することで、心筋繊維方向への単位方向ベクトル「n」を得る。かかる正規化処理において、決定部173は、好適には、移動ベクトルの大きさに、下限値「σ」を設定することが好適である。これは、心臓の動きが止まることで単位方向ベクトルの大きさが完全にゼロになる場合や、移動ベクトル「V^(P(t))」の絶対値が小さい場合にはノイズの影響を受けやすいことを考慮した処理である。
例えば、決定部173は、移動ベクトルの大きさが下限値「σ」より小さい場合には、第2運動情報を「ゼロ」として出力する。或いは、例えば、決定部173は、移動ベクトルの大きさが下限値「σ」より小さい時相については、第1前処理として説明した同様の処理により、当該時相の移動ベクトルを、時間方向で補間して得て、補間処理で得た移動ベクトルを用いて、第2運動情報を出力する。
なお、下限値「σ」を用いた処理は、前者のように、「V^(P(t))」を、そのまま、第2運動情報として定義する前者の場合でも適用することが可能である。
図7は、健常者の時系列データを解析対象とし、各追跡点で得られた「V^(P(t))」の方向を正規化した線分を用いて3Dレンダリング表示を行なった一例を示している。ここで、図7の上段は、関心領域である内膜(Endo:Endocardium)のSR画像データに、内膜面の各追跡点での心筋繊維方向を示す正規化線分を重畳表示したものである。また、図7の下段は、関心領域である外膜(Epi:Epicardium)のSR画像データに、外膜面の各追跡点での心筋繊維方向を示す正規化線分を重畳表示したものである。
また、図7では、4つの代表的な心時相で得られたベクトルの方向分布の様子を示している。ここで、図7に示す「IVC phase」は、等容収縮期であり、「Ejection phase」は、収縮期であり、「IVR phase」は、等容拡張期であり、「Before a’」は、心房収縮期直前の時相を示す。なお、図7に示す3Dレンダリング表示は、操作者の変更要求に応じて、視線の位置及び視線方向を任意に変更可能である。ここで、図7に示す3Dレンダリング表示では、境界位置を、グレー(同図では、作図上、黒で示す)で着色した境界面のSR画像データを用いているが、これは、背面に重畳された線分により、正面に重畳された線分の視認性が低下することを回避するための処理である。
図7に示すように、正規化線分は、境界面への射影成分である「V^(P(t))」の方向を示す線分であるため、恰も、境界面に張り付いているように重畳表示される。ここで、図7の「破線で囲った部分」は、各心時相で、内外膜間でベクトルの方向が大きく異なる領域を示している。例えば、図7では、収縮期における心尖部領域でのベクトルが、内外膜間で交差するような方向を向いていることが確認される。
なお、図7の上段の左下、並びに、下段の左下では、「色が異なる4本の線分で形成されるオブジェクト」を示している。同図では、4本の線分の色の違いを、濃さの違いとして、示している。そして、図7では、3Dレンダリング表示されている各線分は、線分の方向と、このオブジェクトと基づいて、カラー標識されて表示されている。このカラー標識は、第1出力形態に、更に、第2出力形態を適用した表示方法である。これについては、第2出力形態で詳細に説明する。
また、第2方向定義の場合、決定部173は、取得部172が推定した方向情報である「MyoVector」から求めた「少なくとも1本の流線(流線ベクトル)」を、第2運動情報として決定する。そして、制御部18は、「少なくとも1本の流線(流線ベクトル)」に対応する線を、関心領域の3次元レンダリング画像データ、又は、心臓のポーラーマップ(Polar-map)に重畳して表示させる。なお、流線ベクトルに対応する線は、線分、又は、曲線、又は、折れ線である。
図8は、SR画像データを用いた3Dレンダリング表示を、流線表示に適用した一例である。また、図9は、Polar-mapを用いたマップ表示を、流線表示に適用した一例である。なお、図9において、「Ant-Sept」は、前壁中隔を示し、「Ant」は、前壁を示し、「Lat」は、側壁を示し、「Post」は、後壁を示し、「Inf」は、下壁を示し、「Sept」は、中隔を示す。
図8及び図9に示す流線表示は、流体のベクトル場において、複数箇所(複数の始点)で垂らしたインクが、流体の流れに沿ってできた流線のイメージに相当する。なお、図8に示す3Dレンダリング表示は、操作者の要求に応じて、視線の位置及び視線方向を任意に変更可能である。また、図8に示す3Dレンダリング表示では、境界位置を、グレー(同図では、作図上、黒で示す)で着色した境界面のSR画像データを用いているが、これは、背面に重畳された流線により、正面に重畳された流線の視認性が低下することを回避するための処理である。
本来、心筋繊維は、連続的に配置されているので、局所的な個々のベクトル表示(図7を参照)よりも、図8及び図9に示す流線ベクトル表示の方が、繊維ベクトルの連続的な分布を把握する上では効果的である。また、マップ表示(Polar-mapを用いた線分表示及び流線表示)は、3Dレンダリング表示と比較して、関心領域全体に渡る心筋繊維方向の情報が3次元的に、一度に把握できる利点がある。
なお、上記の第1出力形態は、以下に説明するように、複数の運動情報を同時に表示する変形例により行なわれても良い。以下に説明する各表示出力において、心筋繊維方向の運動情報に関わる複数の運動情報を同時に表示することで、操作者は、詳細、且つ、総合的な左心室の壁運動評価を行なうことが可能となる。
ここで、上述したように、複数の関心領域が設定されている場合、取得部172は、複数の関心領域それぞれで、心筋繊維の方向を示す方向情報を推定し、決定部173は、複数の関心領域それぞれで第2運動情報を決定する。そして、複数の関心領域が設定されている場合、図7に示す3Dレンダリング表示のように、制御部18は、複数の関心領域それぞれの第2運動情報を、並列表示させる。
これに対して、第1出力形態の表示変形例では、制御部18は、複数の関心領域が設定されている場合、図10に例示する3Dレンダリング表示のように、複数の関心領域それぞれの第2運動情報を同時表示させても良い。図10では、内膜面境界位置を、グレー(同図では、作図上、黒で示す)で着色した内膜面のSR画像データに、内膜の各追跡点で得られた移動ベクトル「V^(P(t))」の向きと大きさを示す線を重畳して表示している。更に、図10では、内膜面のSR画像データに、外膜面の各追跡点で得られた移動ベクトル「V^(P(t))」の向きと大きさを示す線も、同時に重畳して表示している。なお、内膜面境界位置を、グレーとする理由は、上述した通りである。また、図10に例示する3Dレンダリング表示は、後述する第2出力形態を適用した表示例である。
図10に例示するレンダリング同時表示により、操作者は、弁輪部から中間レベルの領域では内外膜の繊維ベクトル(移動ベクトル)が略同じ方向であることを確認できる。一方、操作者は、図10に示す「破線で囲った領域」を参照して、心尖部近傍においては、内膜面の繊維ベクトルの方向が長軸方向(縦方向)であるのに対し、外膜面の繊維ベクトルの方向が円周方向(横方向)となっており、内外膜で繊維ベクトルの方向が異なっている様子を確認できる。更に、操作者は、図10に例示するレンダリング同時表示の時相では、心尖部での移動ベクトルの大きさが、相対的に、内外膜の双方で、小さいことも確認できる。なお、図10に示す3Dレンダリング表示は、内外膜面の流線を同時に表示する場合でも適用可能である。また、図10に示す3Dレンダリング表示は、内外膜面の各追跡点で得られた「MyoVector」の方向を正規化した線分により同時に表示する場合でも適用可能である。
また、第1出力形態の別の表示変形例では、制御部18は、第2運動情報とともに、関心領域の局所的な壁運動に関する指標を同時に表示させる。図11に示す表示例では、右側の表示領域で、内膜面境界位置をグレーで示したうえで、心筋繊維方向を正規化した線分を用いた3Dレンダリング表示が行なわれる。なお、図11に示す3Dレンダリング表示も、後述する第2出力形態を適用した表示例である。
そして、図11に示す表示例では、更に、壁運動に関する指標として、従来から行なわれているストレインの同時表示が、左側の表示領域にて行なわれている。図11では、「RS:Radial-strain」の分布がカラー変換された情報を、複数断面(A面、B面、レベル1〜3のC面)を用いて3次元Bモード画像データから生成された複数のMPR画像データで示される組織構造上に、重畳表示している。更に、図11では、分画単位(セグメント単位)のRSの時間変化曲線をグラフで表示している。
図11に示すグラフ上の縦軸のバーは、現在、表示している時相を表している。操作者は、各種画像データで示される情報が得られた時相が、RSがピークを迎える収縮末期近傍の時相であることを確認でき、更に、この時相における内膜境界面の形状の様子、及び、内膜上でのベクトルの方向が弁輪部から心尖部に対して捻れるように向きが変わっている様子を、同時に確認できる。
なお、上記の表示例以外にも、図10を用いて説明した前者の変形例では、内外膜の情報を同時に表示する3Dレンダリング同時表示において、内膜面及び外膜面の心筋繊維方向に対応する線分(又は、矢印)それぞれの色を変えた重畳表示を行なっても良い。また、前者の変形例では、内外膜の情報を同時に表示する3Dレンダリング同時表示において、双方の表示オブジェクトに関わる表示透明度を変えた重畳表示を行なっても良い。
換言すると、制御部18は、複数の関心領域それぞれの第2運動情報を、関心領域間で区別可能な表示形態により、関心領域の3次元レンダリング画像データに重畳表示させても良い。かかる表示制御を行なうことで、操作者は、例えば、内膜面及び外膜面の心筋繊維方向の双方を、より容易に識別することができる。
また、図11を用いて説明した後者の変形例では、指標として、例えば、RS、CS(Circumferential strain)及びLS(Longitudinal strain)等をカラー変換してSR画像データに重畳して、内膜面上でのストレインの分布を表示すると共に、心筋繊維方向に対応する線分を重畳して同時に表示しても良い。この変形例では、ストレインの値が低いことで壁運動異常が疑われる部位と、当該部位での心筋繊維方向の様子とを、操作者が把握し易くなると期待される。なお、ここまでの第1出力形態の説明において、出力情報の方向として便宜的に「心筋繊維方向」と呼んできた。しかし、始めに述べた仮定(0)の条件や制約(A)があるために、本実施形態で得られる「MyoVector」による方向の情報は、必ずしも心筋繊維方向になるとは限らない。一方で、「MyoVector」は、少なくとも心筋繊維が走行する心筋面内における動きや、心筋繊維の方向を示す情報を抽出したものである。そこで、第1出力形態、及び、これ以降の実施形態での出力形態における「心筋繊維方向」の呼称は、「心筋繊維方向」や「MyoVectorの方向」として解釈するのが適切である。なお、「MyoVector」による方向の情報が、心筋繊維の方向を示す方向情報とはならない場合、上述した「算出部171、取得部172及び決定部173」が行なう処理は、以下のように表現できる。算出部171は、被検体Pの心筋を含む3次元領域に対応する時系列に沿った複数の3次元超音波画像データを用いて、複数の3次元超音波画像データそれぞれに設定された、心筋の所定面の関心領域の動きを追跡し、心筋の動きを示す第1運動情報(移動ベクトル)を算出する。そして、取得部172は、第1の運動情報に基づいて、心筋の所定面の関心領域における運動の射影成分のベクトル情報(MyoVector)を取得する。そして、決定部173は、ベクトル情報に基づいて、心筋の動きを示す第2運動情報を決定する。
次に、第2出力形態について、説明する。第2出力形態では、決定部173は、第1方向定義、又は、第2方向定義により定義した心筋繊維方向から、心筋繊維角を決定する。そして、決定部173は、心筋繊維角を、第2運動情報として決定し、制御部18に出力する。すなわち、決定部173は、心筋繊維と、心筋の長軸方向、又は、心筋の円周方向とのなす角度である心筋繊維角を、第2運動情報として決定する。そして、制御部18は、心筋繊維角をモニタ2に表示させる。
具体的には、第2出力形態では、基準時相「t0」で定めた長軸方向に対して、各時相「t」で第1方向定義、又は、第2方向定義により定義した心筋繊維方向がなす角度(心筋繊維角「θ(t)」)を定量し、「θ(t)」を第2運動情報として表示する。或いは、第2出力形態では、基準時相「t0」で定めた短軸方向に対して、各時相「t」で第1方向定義、又は、第2方向定義により定義した心筋繊維方向がなす角度(心筋繊維角「θ(t)」)を定量し、「θ(t)」を第2運動情報として表示する。
より具体的には、決定部173は、第1方向定義による移動ベクトル「V^(P(t))」、又は、第2方向定義による流線ベクトル「L(t,N)」で得られた対象位置における繊維方向のベクトル「F(t)」とする。そして、決定部173は、例えば、基準時相での同じ対象位置における短軸上の円周方向の単位方向ベクトル「c(t0) 」を求める。そして、決定部173は、「F(t)」と「c(t0) 」との角度「θ(t)」を求め、「θ(t)」を、対象位置での心筋繊維角と定義する。なお、以下では、心筋繊維角を、繊維角と記載する場合がある。
ここで、MRIを用いた研究では、繊維角の方向(繊維角の極性)は、繊維方向が短軸に平行な場合が角度「ゼロ」であり、左心室を心臓の外側から見た時に短軸に対して半時計回りが「正」の向きであり、時計回りが「負」の向きであり、長軸に平行となる場合が最大で「±π/2」であると定義されている。この定義に準じて、制御部18は、短軸方向に対する繊維角が、「ゼロ度」の場合は、ピンク色のカラー割付を行ない、「±90度」の場合は、緑色のカラー割付を行ない、正の場合は、寒色系(青色)のカラー割付を行ない、負の場合は暖色系(赤色)のカラー割付を行なう。
図7、図10及び図11は、かかるカラー割付を、心筋繊維方向の線分に施して3Dレンダリング表示した例となる。また、図7及び図11に示すオブジェクトは、カラー割付の対応関係を、操作者に報知するためのオブジェクトとなる。
上記の配色とすると、略長軸に平行な繊維角は、「±90度」の緑色に近い色として表現され、略短軸に平行な繊維角は、「±0度」のピンク色に近い色として表現される。従って、上記の配色により、繊維角の極性が変わるような部位であっても同様の色として標識可能となると同時に、「±45度」付近では青色と赤色に明瞭に識別可能となる。
なお、上記では、繊維角の値域は、「±π/2」で定義される。しかし、本実施形態での「MyoVector」表示では、繊維角の値域は、「±π」に拡大して定義することも可能である。かかる場合、決定部173は、基準時相での対象位置における長軸方向の単位方向ベクトル「x(t0)」を得て、「F(t)」と「x(t0) 」との角度「α(t)」を求める。そして、決定部173は、「α(t)」を用いて、「θ(t)」の長軸に対する正負の極性を判定することで値域の拡大を行う。
この定義を用いると、例えば、収縮期に弁輪部から心尖方向へ向けて動く長軸方向の動き成分の方向と、これと反対に、拡張期には心尖方向から弁輪部方向へと動く長軸方向の動き成分の方向とを、区別して表示することが可能となる。なお、かかる場合には、図7等で示した線分を、向きを示す矢印とすることが好適である。
このように、上記の第2出力形態は、「ベクトル場における個々のベクトル」である移動ベクトル(射影成分)や、「少なくとも1本の流線」である流線ベクトルを用いた第1出力形態と組み合わせて行なわれる。従って、第2出力形態で行なわれる処理は、以下の3つの処理としてまとめることができる。
第2出力形態の第1処理では、決定部173は、移動ベクトルに加えて、心筋繊維角を、第2運動情報として決定する。そして、制御部18は、移動ベクトルの向き及び大きさを示す線分、又は、矢印の表示形態を、心筋繊維角に応じて変更する。
また、第2出力形態の第2処理では、決定部173は、移動ベクトルの方向に加えて、心筋繊維角を、第2運動情報として決定する。そして、制御部18は、移動ベクトルの向きを示す線分、又は、矢印の表示形態を、心筋繊維角に応じて変更する。
また、第2出力形態の第3処理では、決定部173は、流線ベクトルに加えて、心筋繊維角を、第2運動情報として決定する。そして、制御部18は、流線ベクトルに対応する線の表示形態を、心筋繊維角に応じて変更する。
なお、上記の処理で変更される表示形態は、上述した色に限定されるものではなく、線や矢印の太さが、心筋繊維角に応じて変更される場合であっても良い。
また、この他にも、第2出力形態では、心筋繊維角をカラー変換してポーラーマップ上に表示する表示例や、ストレイン等の壁運動指標をカラーで表示すると共に、ポーラーマップ上で、長軸(放射軸)方向に対する心筋繊維方向のなす角度に対応して傾けた線分や矢印を重畳して同時に表示する表示例が挙げられる。
次に、第3出力形態について、説明する。第3出力形態では、第1方向定義、又は第2方向定義により得られた心筋繊維方向を用いて、心筋繊維方向のストレイン成分を定義し、これにより得られた心筋繊維方向のストレイン成分を第2運動情報として決定して、表示用に出力する。
すなわち、第3出力形態では、決定部173は、心筋繊維の方向におけるストレインを、第2運動情報として決定する。具体的には、決定部173は、方向情報を用いて、心筋繊維の方向におけるストレインを取得し、当該ストレインを第2運動情報として決定する。ここで、第3出力形態では、決定部173は、心筋繊維方向のストレイン成分を、以下に説明する第1方式、又は、第2方式により求める。
第1方式では、決定部173は、空間的な補間を含む処理を用いて、関心領域における各時相での個々の追跡点と、当該追跡点から心筋繊維の方向に位置する少なくとも1点以上の追跡点との追跡点間の距離を取得する。そして、決定部173は、取得した各時相の追跡点間の距離からストレインレート(又は、瞬時的な追跡点間の距離変化率)を取得する。そして、決定部173は、取得した各時相のストレインレートを基準時相から各時相に渡って時間積分する。そして、決定部173は、各時相における時間積分した値(時間積分値)を用いて、基準時相での追跡点間の距離に対する長さの変化率の意味を有するストレインを、第2運動情報として決定する。
例えば、決定部173は、各時相「t」での追跡点「P(t)」で得られた移動ベクトル「V^(P(t))」と、「P(t)」から心筋繊維方向に沿って所定距離に位置する追跡点「Q(t)」で得られた移動ベクトル「V^(Q(t))」とのペアを形成する。そして、決定部173は、各時相「t」での追跡点「P(t)」における心筋繊維方向のストレインレート(strain-rate)である「SR(P(t))」を、以下の式(12)により、求める。
ここで、式(12)に示す「Vf^(P(t))」は、「心筋繊維方向への単位方向ベクトル「n」と、「V^(P(t))」との内積により得られるスカラー成分(「V^(P(t))」の心筋繊維方向へのスカラー成分)」を、時相の単位であるフレーム間隔の時間「dT」で除算した速度成分(単位:m/sec)を示す。また、式(12)に示す「L(t)」は、追跡点(P(t))と追跡点(Q(t))との長さ(単位:m)である。従って、「SR(P(t))」の単位は、「1/sec」となる。
そして、決定部173は、「SR(P(t))」を、基準時相「t0」から時相「t」まで時間積分することで、心筋繊維方向のストレインである「Sn(P(t))」を得る。「Sn(P(t))」は、心筋繊維方向の「natural-strain」である。「natural-strain」は、「対数歪み」とも呼ばれる定義であり、『各時相での追跡点ペア間距離「L(t)」』を『基準時相での追跡点ペア間距離「L0」』で除算した値の対数「log(L(t)/L(0))」であり、各時相でのストレインレートを基準時相から該当する時相まで時間積分した値となる。
なお、決定部173は、「Sn(P(t))」を以下の式(13)により変換して、「SL(P(t))」を求めても良い。「SL(P(t))」は、基準時相「t0」に対する長さの変化率である心筋繊維方向の「Lagrangian-strain」の意味を有する。
第2方式では、式(12)及び式(13)を用いた演算処理とは異なり、以下の演算処理により、「Lagrangian-strain」である「SL(P(t))」を直接的に求める。
すなわち、第2方式では、決定部173は、空間的な補間を含む処理を用いて、関心領域における基準時相での個々の追跡点と、当該追跡点から心筋繊維の方向に位置する追跡点とで追跡点ペアを構成する。そして、決定部173は、追跡結果から得られる基準時相以外の各時相での追跡点ペアの距離と、基準時相での追跡点ペアの距離との長さの変化率として得られるストレインを、第2運動情報として定義する。「Lagrangian-strain」は、「工学歪み」とも呼ばれる定義であり、『各時相での追跡点ペア間距離「L(t)」』を『基準時相での追跡点ペア間距離「L0」』で除算した値となる。
例えば、決定部173は、基準時相「t0」での追跡点「P(t0)」と、「P(t0)」から心筋繊維方向に沿って所定距離に位置する追跡点「Q(t0)」とのペアを形成し、追跡点「P(t0)」と追跡点「Q(t0)」との長さ「L(t0)」を求める。そして、決定部173は、追跡結果により得られた時相「t」での追跡点「P(t)」と追跡点「Q(t)」との長さ「L(t)」を求める。そして、決定部173は、以下の式(14)により、「SL(P(t))」を求める。
なお、第1方式及び第2方式において、心筋繊維方向のストレインを定義するために必要となる2点のペアを形成する際には、「P(t)」から心筋繊維方向に沿って所定距離の位置上には、追跡点が存在しない事がある。かかる場合、決定部173は、第1方式及び第2方式において、所定距離の近傍に位置する1つ以上の追跡点の位置を用いた空間的な補間処理により、「Q(t)」の位置を定める。例えば、決定部173は、第1方式及び第2方式において、所定距離の近傍にある追跡点群「Q’1(t)、Q’2(t)、・・・、Q’i(t)」を用いた空間補間処理により「Q(t)」の位置を定める。
また、第1方式において、存在しない「Q(t)」の移動ベクトル「V^(Q(t))」を求める場合には、所定距離の近傍に位置する1つ以上の追跡点の移動ベクトルを用いた空間的な補間処理を行なう。例えば、決定部173は、第1方式において、上記の追跡点群の移動ベクトル群「V^(Q’1(t))、V^(Q’2(t))、・・・、V^(Q’i(t))」を用いた空間補間処理により「V^(Q(t))」を求める。
「i=4」で上記の空間補間法を行なう場合には、決定部173は、「bi-linear補間処理」を行なうことが好適である。
そして、第3出力形態において、第1方式、又は、第2方式で得られた繊維方向のストレイン成分の出力は、制御部18の表示制御により、従来の3軸のストレイン成分と同様に、種々の形態で表示することができる。表示形態としては、例えば、3Dレンダリング表示やポーラーマップ表示、MRP画像データ上でのカラー表示等が挙げられる。
特に、繊維方向のストレイン成分は、第1出力形態や第2出力形態で行なわれる心筋繊維方向に関する情報や、従来の壁運動指標(例えば、3軸のストレイン成分)と同時に出力する表示形態が、好適である。
第3出力形態について、補足説明を行なう。上述したように、個々の心筋繊維の伸縮を示す「fiber-strain」は、一般では、「−10%〜−15%」程度の値を有する。一方、健常例の内膜上で観察されるLSは、「約―20%」程度の値を有し、CSは、「約―30%」程度の値を有しており、両者とも、「fiber-strain」の値より絶対値が大きい。従って、第3出力形態で得られる心筋繊維方向のストレイン成分は、「fiber-strain」とは必ずしも等価とはならない。すなわち、観察される心筋繊維方向のストレイン成分は、「fiber-strain」より大きくなる。これは、制約(A)として説明したように、心筋シート滑りによる心筋変形成分も加味されたストレインが「fiber-strain」として観察されるためである。
しかし、従来手法で得られるLSやCSが、心臓の形状で定めた長軸方向と短軸方向でのストレイン成分であるのに対し、第3出力形態で得られるストレイン成分は、心筋繊維方向での心筋の伸縮成分を抽出したものである。このことから、第3出力形態で得られるストレイン成分は、局所心筋の機能や「viability」を、LSやCSより直接的に反映しているものと考察される。
次に、第4出力形態について、説明する。第4出力形態では、決定部173は、関心領域としての第1境界面で得られた移動ベクトルの当該第1境界面に対する射影成分のベクトル情報と、関心領域としての第2境界面で得られた移動ベクトルの当該第2境界面に対する射影成分のベクトル情報とを用いて、第1境界面と第2境界面との間の剪断ストレインレート(shear strain-rate)、又は、剪断ストレイン(shear strain)を推定する。そして、決定部173は、剪断ストレインレートの情報、又は、剪断ストレインの情報を第2運動情報として決定する。
具体的には、決定部173は、関心領域である内膜面で得られた「MyoVector」と、関心領域である外膜面で得られた「MyoVector」とを用いて内外膜間のshear strain-rate成分を推定し、これにより得られたshear strain-rate成分の情報を第2運動情報として決定し、表示用に出力する。或いは、決定部173は、内外膜間のshear strain-rate成分を時間積分して得られるshear strain成分の情報を第2運動情報として決定し、表示用に出力する。
例えば、第4出力形態では、決定部173は、内外膜間のshear strain-rate成分「SRs(P(t))」を、以下の式(15)により求める。
ここで、式(15)において、「Vf^(Pepi(t))」は、外膜面上の追跡点「Pepi(t)」における「MyoVector」を、時間の単位であるフレーム間隔の時間「dT」で除算した速度ベクトル(単位:m/sec)を示す。また、式(15)において、「Vf^(Pendo(t))」は、基準時相において「Pepi(t)」とペアとなる内膜面上の追跡点「Pendo(t)」における「MyoVector」を、時間「dT」で除算した速度ベクトル(単位:m/sec)を示す。また、式(15)において、「W(t)」は、追跡点「Pepi(t)」と追跡点「Pendo(t)」との距離(単位:m)であり、内外膜面間の長さを意味する。その結果、「SRs(P(t))」の単位は、「1/sec」となる。なお、「SRs」の出力位置「P(t)」は、心筋内の関心領域を構成する追跡点を示し、例えば、中層面上の対応する追跡点「Pmid(t)」を割り付けることが好適である。
ここで、「MyoVector」がベクトル量であることから、「SRs」もベクトル量となる。そこで、「SRs(P(t))」を心臓の形状で決まる円周方向と長軸方向とに成分分離して、円周方向のshear strain-rate成分である「SRsC(P(t))」と、長軸方向のshear strain-rate成分である「SRsL(P(t))」の各々の成分として求めれば、決定部173は、2つのスカラー量としてshear strain-rate成分を得ることができる。
更に、決定部173は、これらのshear strain-rate成分である「SRsC(P(t))」や「SRsL(P(t))」を時間積分すれば、上述した「natural-strain」の定義によるshear strain成分を得ることができ、また、「Lagrangian-strain」の意味のshear strain成分に変換することも可能である。このような処理により、決定部173は、本実施形態で得られる「MyoVector」を用いて、例えば、内外膜間のshear strain成分である「SsC(P(t))」や「SsL(P(t))」を、容易に抽出することが可能となる。第4出力形態は、「MyoVector」が移動ベクトルを関心領域である境界面に射影することで得られるベクトル情報であることに着目し、内膜面の「MyoVector」と外膜面の「MyoVector」とを用いることで、従来では容易に求められなかった内外膜間の剪断ストレインレートや剪断ストレインを、簡易に求め、求めた情報を表示用に出力するものである。
なお、第4出力形態で入力に用いる関心領域のペアとしては、内外膜間に限らず、壁内で位置の異なる中層上の追跡点「Pmid(t)」を用いても良い。この場合には、心筋壁内を詳細に分割したshear strain成分の解析が可能となる。
次に、図12を用いて、第1の実施形態に係る超音波診断装置の処理について説明する。図12は、第1の実施形態に係る超音波診断装置が行なう処理の概要を説明するためのフローチャートである。
図12に示すように、第1の実施形態に係る超音波診断装置の制御部18は、解析対象となる時系列データが格納され、解析開始要求を受け付けたか否かを判定する(ステップS101)。ここで、解析対象となる時系列データが格納されておらず、解析開始要求を受け付けていない場合(ステップS101否定)、制御部18は、時系列データが格納され、解析開始要求を受け付けるまで待機する。
一方、解析対象となる時系列データが格納され、解析開始要求を受け付けた場合(ステップS101肯定)、制御部18の指示により、算出部171は、第1運動情報を算出し(ステップS103)、取得部172は、心筋繊維の方向情報(心筋繊維の方向を示す方向情報)を取得する(ステップS102)。具体的には、取得部172は、第1運動情報から「V^(P(t))」を推定する。なお、取得部172は、「V^(P(t))」に対して、第1前処理〜第3前処理の少なくとも1つの前処理を行なっても良い。
そして、決定部173は、予め指定された定義に基づいて、第2運動情報を決定する(ステップS104)。すなわち、決定部173は、第1方向定義、又は、第2方向定義により、方向情報から、心筋繊維方向を定義し、更に、第1出力形態〜第4出力形態のいずれかの出力形態で指定されている定義に基づいて、第2運動情報を決定する。
そして、制御部18の制御により、モニタ2は、第1出力形態〜第4出力形態のいずれかの出力形態により、第2運動情報を表示し(ステップS105)、処理を終了する。なお、ステップS105では、第2運動情報が3Dレンダリング表示やポーラーマップ表示されるが、これらの表示形態は、動画表示であっても、静止画の並列表示であっても良い。また、図12に示すフローチャートにおいて、ステップS103〜ステップS105は、操作者が、参照したい定義を変更するごとに、繰り返して実行される。
上述したように、第1の実施形態では、「3DTで得られる個々の追跡点の動く方向は、心筋の繊維方向に、概一致する」という仮定と、「壁厚方向への動き成分は、繊維の方向の動き成分では無い」という客観的な事実とに基づいて、「MyoVector」を推定し、「MyoVector」に基づく第2運動情報を表示する。
かかる構成により、第1の実施形態では、MRI装置に比べて安価な超音波診断装置により、MRI画像より時間分解能の高い超音波画像データを用いて、心筋繊維の方向に関する情報や、心筋繊維が走行する心筋面内における局所的な動き成分の情報を、ユーザーに提示することができる。従って、第1の実施形態では、非観血的に心筋繊維の方向に関する情報や、心筋繊維が走行する心筋面内における局所的な動き成分の情報を簡便に提示することができる。
また、第1の実施形態では、第2運動情報を3Dレンダリング表示やポーラーマップ表示することで、ユーザーは、心筋繊維方向の様子を直感的に評価することができる。また、第1の実施形態では、従来の3軸のストレイン成分より、生理的な心機能を反映すると考えられる心筋繊維方向のストレイン成分の情報を得ることができる。また、第1の実施形態では、「MyoVector」を求めることで、第4出力形態により、従来の3軸のストレイン成分以外に、例えば内外膜間の剪断ストレインレートや剪断ストレインの情報を得ることができる。
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、追跡結果から得られた移動ベクトルの関心領域への直交射影成分である移動ベクトルをそのまま心筋繊維方向として推定する場合、又は、追跡結果から得られた移動ベクトルの関心領域への直交射影成分である移動ベクトルから、間接的に、心筋繊維方向を推定する場合について説明した。第2の実施形態では、第1の実施形態とは異なる方法で、心筋繊維方向を推定する場合について、数式や図13等を用いて説明する。図13は、第2の実施形態を説明するための図である。
第2の実施形態で行なわれる推定方法は、2つの推定方法に大別される。以下、第1推定方法、第2推定方法の順に、説明する。
第1推定方法は、心筋繊維の方向情報の推定と第2運動情報との定義とを、決定部173が一括して行なう方法である。具体的には、第1推定方法では、決定部173は、第1運動情報から関心領域の局所的なストレインとして取得した長軸方向のストレイン及び円周方向のストレインを用いて、心筋繊維の方向におけるストレインを取得し、当該ストレインを第2運動情報として決定する。なお、LS及びCSは、算出部171が算出する場合でも、決定部173が算出する場合でも良い。
第1推定方法の一例として、関心領域を心筋の内膜面とし、3DTにより、長軸方向での局所領域でのLSと、短軸方向での局所領域でのCSを求めて、心筋繊維方向のストレイン成分を求める場合について説明する。以下では、時間(時相)を示す添え字「t」を省略して説明する。
因果関係を考慮すると、先ず、「FS:fiber-strain」が生じ、対象位置での「fiber-angle(心筋繊維角)」である「θf」により、「FS」が、長軸方向のストレイン成分(LS component)である「LSf」と、短軸方向のストレイン成分(CS component)である「CSf」とに分配されると考えられる。上記の関係を、図13に示している。なお、以下で説明する心筋繊維角の定義は、第1の実施形態で説明した定義と同等として、「θf」の値域は、「−π/2〜π/2」とする。
ここで、図13に示すように、「FS」が短縮(負値)である場合、「LSf」及び「CSf」の双方は、負値となり、「FS」が伸展(正値)である場合、「LSf」及び「CSf」の双方は、正値となることが解る。また、「θf」の値域が「−π/2〜π/2」であることから、「cos(θf)」は、常に正値となる一方、「sin(θf)」の符号は、「θf」に一致して変わる。
しかし、図13に示すように、「LSf」及び「CSf」の符号は、一致することから、「sin(θf)」は、常に正値とならなければいけない。従って、第1推定方法では、「θf」の極性として、負側は、定義されない。このため、第1推定方法では、以下の数式は、「θf」の値域を「0〜π/2」として、扱われる。
かかる値域の元、「LSf」及び「CSf」は、「FS」及び「θf」により、以下の式(16)及び図13に示すように、表わされる。
従って、「LSf/CSf」は、「θf」を用いて、以下の式(17)で表わされ、「θf」は、「LSf/CSf」を用いて、以下の式(18)で表わされる。
ただし、式(17)及び式(18)は、「CSf≠0」を条件として、成立する。ここで、「CSf=0」の場合には、「θf≧0」により、「θf=π/2」とする。
従って、「LSf」及び「CSf」が得られれば、式(18)及び「CSf=0の場合、θf=π/2」により得られる「θf」を、式(16)に代入することで、「FS」が求められることが解る。なお、「CSf=0」の場合には、「FS=LSf/sin(π/2)=LSf」となる。
そこで、第1推定方法では、3DTで得られた「CS」及び「LS」から「FS」を逆算するために、「LS*CS≧0」の条件下において、「LSf=LS」とし、「CSf=CS」とする。
そして、決定部173は、式(16)に「LSf=LS」及び「CSf=CS」を代入することで、「FS」を求める。なお、第1推定方法では、取得部172は、「CS=0」の場合には、「θf=π/2」を心筋繊維の方向情報として推定し、「CS≠0」の場合には、式(18)に「LSf=LS」及び「CSf=CS」を代入することで得られた「θf」を心筋繊維の方向情報として推定し、決定部173に出力しても良い。
ここで、第1の実施形態の第3出力形態の補足説明で述べたように、3DTで観察される「CS」及び「LS」は、「CSf」及び「LSf」と必ずしも等しくない。しかし、心筋シート滑り成分も加味された繊維方向でのストレイン成分という意味では、「LSf=LS」及び「CSf=CS」として得られるストレイン成分も、第1の実施形態で、第3出力形態として説明したストレイン成分と、同様の意味を持つ。
なお、上記の「LS*CS≧0」は、「LSf」と「CSf」との符号を同じにするための条件である。そこで、第1推定方法では、「LS」の極性が、「CS」の極性と異なる場合(「LS*CS<0」の場合)には、以下に説明する「第1コンセプト、又は、第2コンセプト」に基づいて、「FS」を逆算する。
伸展のストレイン成分は、心筋梗塞や、壁運動の低下した心不全等の症例で観察されるものである。ここで、伸展のストレイン成分は、能動的な収縮運動ではなく、周辺の心筋組織との「押しくらまんじゅう」の結果、受動的に拡張して発生する場合と、電気伝導系の異常により、本来は収縮すべきタイミングで拡張して発生する場合とがある。前者の場合を想定した処理のコンセプトが、第1コンセプトであり、後者の場合を想定した処理のコンセプトが、第2コンセプトとなる。
第1コンセプトは、解析に有効な「FS」の収縮成分が負極性であることから、負側を重視する。第1コンセプトでは、決定部173、又は、取得部172は、以下の式(19)に示す処理を行なう。
すなわち、第1コンセプトでは、式(19)に示すように、「LS<0、CS>0」であるならば、負極性の「FS=LS」が得られるように、「θf=π/2」とする。また、第1コンセプトでは、式(19)に示すように、「LS>0、CS<0」であるならば、負極性の「FS=CS」が得られるように、「θf=0」とする。
一方、第2コンセプトは、絶対値の大きな側を重視する処理となる。第2コンセプトでは、決定部173、又は、取得部172は、以下の式(20)に示す処理を行なう。
すなわち、第2コンセプトでは、式(20)に示すように、「|LS|>|CS|」であるならば、「FS=LS」とするために、「θf=π/2」とする。また、第2コンセプトでは、式(20)に示すように、「|LS|<|CS|」であるならば、「FS=CS」とするために、「θf=0」とする。
第1推定方法では、決定部173は、以上の処理で、逆算した「FS」を、第2運動情報として決定して、制御部18に出力する。「FS」の表示形態は、第1の実施形態の第3出力形態で説明した表示形態と同様に行われる。或いは、第1推定方法では、「θf」を、第2運動情報として決定して、制御部18に出力しても良い。「θf」の表示形態は、第1の実施形態の第2出力形態で説明した表示形態と同様に行なうことができる。
このように、第1推定方法は、心筋繊維方向そのものを推定する処理を行なうことなく、従来から壁運動の指標として用いられているLS及びCSから、数式的に心筋繊維方向から定義される第2運動情報「FS」を求める方法となる。
次に、第2推定方法について、説明する。第2推定方法では、取得部172は、第1運動情報から関心領域の局所的なストレイン情報を取得する。具体的には、取得部172は、「LS」及び「CS」を用いる。そして、取得部172は、取得した「LS」及び「CS」と、関心領域近傍での移動ベクトルとを用いて、心筋繊維の方向を示す方向情報を推定する。
すなわち、第2推定方法では、「LS」及び「CS」とともに、移動ベクトルの情報を併用して心筋繊維方向の推定を行う。
すなわち、第2推定方法の基本的な構成は、第1推定方法と同様であるが、第2推定方法では、心筋繊維方向を決めるために、心筋繊維角「θf」に極性を与える。そこで、第2推定方法では、「P(t)」での「LS」及び「CS」だけでなく、「P(t)」での移動ベクトルを用いて、「θf」の極性を推定する。
ここで、第2推定方法は、第1の実施形態で説明した仮定(0)に基づくものである。従って、極性定義に用いる移動ベクトルは、第1の実施形態で説明した処理により得られる移動ベクトル「V^(P(t))」となる。すなわち、第2推定方法では、取得部172は、「P(t)」での「LS」及び「CS」を取得し、「P(t)」での移動ベクトル「V^(P(t))」を、第1の実施形態で説明した処理により求める。
更に、取得部172は、第1の実施形態の第2出力形態で決定部173が行なった処理と同様に、移動ベクトル「V^(P(t))」で得られた対象位置における繊維方向のベクトル「F(t)」と、例えば、基準時相での同じ対象位置における短軸上の円周方向の単位方向ベクトル「c(t0) 」との角度「θ」を求める。
そして、取得部172は、「θ」から、極性の情報「sign(θ)」のみを抽出し、第1推定方法で決定部173が行なった処理と同様の処理により得た「θf」の値に、極性の情報「sign(θ)」を与えて、心筋繊維の方向情報である心筋繊維角「θ’f」を推定する。具体的には、取得部172は、以下の式(21)により、心筋繊維角「θ’f」を求める。
そして、第2推定方法では、決定部173は、心筋繊維角「θ’f」を第2運動情報として決定し、制御部18に出力する。また、第2推定方法では、決定部173は、第1推定方法で説明した処理により、ベクトルのスカラーに相当する「FS」を求め、「FS」に「sign(θ)」を与えた繊維方向のベクトルを、第2運動情報として決定し、制御部18に出力する。この繊維方向のベクトルは、第1の実施形態で説明した繊維方向のベクトル「F(t)」と同様の意味を持つ。
このように、第2推定方法では、第2運動情報として、「θ’f」や、「FS」に「sign(θ)」を与えた繊維方向のベクトルを出力する。更に、第2推定方法では、心筋繊維方向のベクトルの情報を用いて、第1の実施形態の第2出力形態で説明した心筋繊維方向のストレイン成分を求めて出力しても良い。
或いは、第2推定方法では、心筋繊維方向のストレイン成分として、第1推定方法と同様にして求めた「FS」を出力しても良い。これら最終出力の表示形態は、第1の実施形態で説明した種々の表示方法を適用することができる。
第2推定方法は、移動ベクトルを主体にして心筋繊維方向を推定するのではなく、従来用いられていた「LS、CS」から、心筋繊維方向のベクトルの主体であるスカラー量として「FS」を求め、その極性のみを移動ベクトルの情報で補うことで、心筋繊維方向のベクトル情報を推定するものである。なお、第2の実施形態に係る超音波診断装置が行なう処理は、図12に示すフローチャートで、ステップS103及びステップS104の処理が、上記の処理となる点以外、同様であるので、説明を省略する。
上述したように、第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に、非観血的に心筋繊維の方向に関する情報や、心筋繊維が走行する心筋面内における局所的な動き成分の情報を簡便に提示することができる。
(第3の実施形態)
第1の実施形態及び第2の実施形態では、3DTにより得られた第1運動情報を用いて、心筋組織の方向情報及び心筋組織方向を推定して、第2運動方法を出力する場合について説明した。第3の実施形態では、心筋組織の方向情報及び心筋組織方向をユーザー設定により与えて、第2運動情報を出力する場合について、図14等を用いて説明する。図14は、第3の実施形態を説明するための図である。
第3の実施形態に係る取得部172は、操作者が設定した情報として、心筋繊維の方向を示す方向情報を取得する。そして、決定部173は、操作者が設定した方向情報を用いて、第1運動情報から心筋繊維の方向への運動成分を抽出し、抽出した運動成分を用いて、第2運動情報を決定する。
第3の実施形態では、操作者が、心筋繊維方向として繊維角「θ」を設定することが、好適な例となる。例えば、操作者は、図14に示すように、既知の解剖所見に基づいて、関心領域が内膜面の場合には、「θ=+60度」に設定し、関心領域が外膜面の場合には、「θ=−60度」に設定し、関心領域が中層面の場合には、「θ=0度」に設定する。
ここで、各追跡点「P(t)」で、ユーザー設定の繊維角「θ」が与えられるとすると、繊維角は「θ(P(t))」と、表わすことができる。図14に示す一例は、対象とする関心領域全体に渡って一様に、同じ値が繊維角として与えられることから、全ての「P(t)」で、「θ(P(t))」は、同じ値となる。上記の一例は、最もシンプルな適用例である。
ただし、第3の実施形態では、操作者は、繊維角に関する関心領域内での局所的な分布、並びに、時間的な変化も加味して、追跡点の位置及び時相に応じて繊維角の値が変化する「θ(P(t))」を取得部172に与えることが好適である。このようなθ(P(t))」として、操作者は、公知のMRIを用いた手法により予め推定した値を参照して設定するか、既知の解剖所見(例えば教科書の知見)を用いて想定される値を推定値として設定する。
決定部173は、ユーザー設定された心筋繊維方向に対する移動ベクトルの成分である「MyoVector」の情報(方向、大きさ)を、第2運動情報として抽出可能であり、また、ユーザー設定された心筋繊維方向に対するストレイン成分を、第2運動情報として抽出可能である。かかる処理で出力された情報は、第1の実施形態や第2の実施形態で説明した種々の方法によって表示することができる。
第1の実施形態及び第2の実施形態では、上述した様々な手法により、心筋繊維の方向情報が自動的に推定される。しかし、解析対象の時系列データの画質が悪い症例や、解析対象の時系列データに生じた局所的なアーティファクトの影響により、第1運動情報を経由した心筋繊維方向の自動推定が、上手く機能しない場合が起こり得る。
このように、自動推定に関する信頼性が低いようなケースでは、上記のユーザー設定により、第2運動情報を得るのが好適である。上記のユーザー設定を行なう場合、非観血的に心筋繊維の方向に関する情報を、更に、簡便に提示することができる。
ただし、第3の実施形態は、以下に説明する変形例を用いても良い。すなわち、本変形例は、基本的には、第1の実施形態及び第2の実施形態のように、心筋繊維の方向情報を自動推定する構成とし、必要なデータや必要な箇所に対しては上記のようなユーザーによる心筋繊維の方向情報の設定を受け付け、内部処理で用いる方向情報の入力を切り換えて演算を行うように構成する。
ただし、本変形例では、入力を切り換える際には、第2運動情報の定義に用いる入力情報が局所的に異なる境界領域が、空間的及び時間的に発生し得る。このため、本変形例では、かかる境界領域においては、空間的な平滑化処理及び時間的な平滑化処理により双方の心筋繊維の方向情報が滑らかに接続されるようにして、後段の処理を行なうことが、好適である。
本変形例で行なわれる処理は、第1の実施形態及び第2の実施形態で自動推定される心筋繊維の方向情報を第1方向情報とし、上記のユーザー設定される心筋繊維の方向情報を第2方向情報とすると、以下のようにまとめることができる。
すなわち、本変形例に係る取得部172は、第1方向情報と第2方向情報とを用いて、心筋繊維の方向を示す第3方向情報を取得する。具体的には、本変形例に係る取得部172は、関心領域の所定の時空間領域の境界において、第1方向情報を第2方向情報に滑らかに切り換えることで、心筋繊維の方向情報である第3方向情報を取得する。なお、上記の「所定の時空間領域の境界」は、自動推定される第1方向情報の推定精度が低下した時空間領域の境界である。そして、本変形例に係る決定部173は、第3方向情報を用いて、第2運動情報を決定する。
「時空間領域の境界」は、例えば、操作者が、3次元超音波画像データ群を参照したり、CS等の指標の分布がカラーで重畳されたMPR画像データを参照したりすることで、第1運動情報の信頼度が低く、第1方向情報の推定精度が低下していると判断した空間や、時相を指定することで、設定される。或いは、「時空間領域の境界」は、例えば、3次元超音波画像データ群の輝度や、受信信号のS/N比を用いた制御部18の自動判定により、設定される。最も好適には、speckle-trackingの手法により求める動きベクトルを推定する際の信頼度の指標を用いる。信頼度の指標としては、画像輝度や輝度分散、パターンマッチングにおける類似度等、種々の指標が知られている。この場合、取得部172は、動きの信頼度に応じて第1方向情報と第2方向情報との重みを変えて平均し、第3方向情報を与える。すなわち、取得部172は、第1運動情報の信頼度に応じて、第1方向情報と第2方向情報と重み付け加算することで心筋繊維の方向を示す第3方向情報を取得する。
本変形例では、非観血的に心筋繊維の方向に関する情報や、心筋繊維が走行する心筋面内における局所的な動き成分の情報を、簡便、且つ、確実に提示することができる。
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、第2運動情報の出力表示に関する変形例について、図15等を用いて説明する。図15は、第4の実施形態を説明するための図である。
上述したように、取得部172は、複数の関心領域が設定されている場合、複数の関心領域それぞれで、心筋繊維の方向を示す方向情報を取得する。そして、第4の実施形態では、決定部173は、複数の関心領域それぞれで得た第2運動情報を、関心領域間で差分した情報を、新たな第2運動情報として決定する。
例えば、決定部173は、内膜面、外膜面及び中層面での任意の2つの繊維方向での運動情報の差分を得る。一例として、決定部173は、内膜の繊維角から外膜の繊維角を差し引いた差分繊維角を、新たな第2運動情報として決定し、出力する。
差分情報の表示形態の具体例としては、分画単位での差分情報の時間変化曲線を表示する場合や、差分情報にカラー割付を行なって、3Dレンダリング表示する場合がある。また、差分情報の表示形態としては、他にも、第1〜第3の実施形態で説明した種々の表示方法を、差分により得られた新たな第2運動情報に適用することができる。
或いは、第4に実施形態では、制御部18は、関心領域に定義された少なくとも一つの領域内における心筋繊維角の時間変化曲線をモニタ2に表示させる。例えば、第4に実施形態では、従来の壁運動指標であるストレイン等と同様に、図15に示すように、セグメント単位の心筋繊維角「θ(t)」の時間変化曲線をグラフで表示しても良い。
図15に示すグラフは、横軸を時間とし、縦軸を心筋繊維角として、心電波形とともに、心尖部(Apex)、中間部(Mid)及び心基部(Base)の3箇所のセグメントでの繊維角の時間変化を示している。なお、心筋繊維角の時間変化曲線に用いるセグメントとしては、前壁、中隔、側壁、後壁、下壁等が用いられても良い。ここで、図15のグラフで観察されるように、「θ(t)」の値域には「±90度」での折り返りが生じる。また、移動ベクトルや流線ベクトルである「MyoVector」の時間変化曲線のグラフでは、例えば、「±180度」での折り返りが生じる。
そこで、時間変化曲線のグラフを表示する際には、例えば、制御部18は、位相が折り返る場合の連結処理として、一般的に行なわれる「unwrap処理」を用いて、折り返りをなくす。或いは、制御部18は、予め心筋繊維角に所定のオフセット成分を加算して、短軸又は長軸に平行な角度近傍での折り返りが生じないようグラフ表示を行なう。
このように、第4の実施形態では、心筋繊維の方向に関する情報を、様々な形態でユーザーに提供することができる。例えば、差分情報を参照することで、ユーザーは、内外膜で、心筋繊維の運動方向が異なる領域を、簡易に認識することができる。また、例えば、セグメントごとの心筋繊維角の時間変化曲線のグラフを参照することで、ユーザーは、心筋繊維の運動が非同期となっている部分を、簡易に認識することができる。
なお、上記の第1〜第4の実施形態では、心臓の3次元超音波画像データ群を用いた画像処理が、超音波診断装置で行なわれる場合について説明した。しかし、上記の第1〜第4の実施形態で説明した画像処理は、超音波診断装置とは独立に設置された画像処理装置により行なわれる場合であっても良い。具体的には、画像処理部17及び制御部18等の機能を有する画像処理装置が、超音波診断装置、又は、PACSのデータベースや、電子カルテシステムのデータベースから心臓の3次元超音波画像データ群を受信して上述した画像処理を行なう場合であってもよい。
また、上記の第1〜第4の実施形態で説明した画像処理は、心臓の3次元超音波画像データ群だけでなく、X線CT装置やMRI装置等で収集された心臓の3次元医用画像データ群に対して行なわれる場合であっても良い。この場合、心臓の3次元医用画像データ群に対する画像処理は、データ収集を行なった医用画像診断装置により行なわれる場合であっても、上記の画像処理装置により行なわれる場合であっても良い。
また、上記の第1〜第4の実施形態では、左心室を対象として、第2運動情報を出力表示するための画像処理が行なわれる場合について説明した。しかし、上記の第1〜第4の実施形態で説明した画像処理は、研究は進んではいないが、左心室以外の心臓の別な部屋(左心房、右心房、右心室)について、適用可能であり、これらの部屋についても、左心室同様の解析結果を提示することができる。
また、上記の第1〜第4の実施形態で図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、或いは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
また、上記の第1〜第4の実施形態で説明した画像処理方法は、予め用意された画像処理プログラムをパーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することによって実現することができる。この画像処理プログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、この画像処理プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVD等のコンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
以上、説明したとおり、第1の実施形態〜第3の実施形態によれば、非観血的に心筋繊維の方向に関する情報や、心筋繊維が走行する心筋面内における局所的な動き成分の情報を簡便に提示することが可能となる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。