JP2018095896A - 高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Shigeo Otani
茂生 大谷
村上 俊夫
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俊夫 村上
エライジャ 柿内
Elijah Kakiuchi
エライジャ 柿内
二村 裕一
Yuichi Futamura
裕一 二村
忠夫 村田
Tadao Murata
忠夫 村田
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Abstract

【課題】引張強度、引張強度×全伸び、深絞り性、穴広げ率、限界張出し高さ、引張試験時の破断部の板厚減少率およびSW十字引張が何れも高レベルの高強度鋼板とその製造方法の提供。
【解決手段】質量%で、C:0.15〜0.35%、Si+Al:0.5〜3.0%、Mn:1.0〜4.0%、P≦0.05%、S≦0.01%を含み、残部Fe及び不可避不純物からなり、鋼組織がフェライト分率≦5%、焼戻しマルテンサイト+焼戻しベイナイト合計分率≧60%、残留オーステナイト量≧10%、残留オーステナイトの平均サイズ≦1.0μmり、サイズ1.5μm以上の残留オーステナイトが全残留オースナイト量の2%以上、MAの平均サイズ≦1.0μm、残留オーステナイト量と等しい量である炭素濃化領域におけるMnの濃度分布の半価幅≧0.3質量%、X線小角散乱でのq値が1nm−1での散乱強度が1.0cm−1以下である高強度鋼板。
【選択図】図1

Description

本発明は、自動車部品をはじめとする各種の用途に使用可能な高強度鋼板に関する。
自動車用部品等に供される鋼板には、衝突安全性と軽量化とを共に実現するために、強度の向上が求められており、さらには形状の複雑な骨格部品に加工するための優れた成形加工性が要求されている。
特許文献1は、質量%でC:0.02〜0.15%、Si:0.3%以下、Mn:1.0〜3.5%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるスラブを冷間圧延後に再結晶化してフェライト単相組織にすることで、780MPa以上の引張強さと良好な深絞り性とを示す高強度薄鋼板を開示している。
特開2007−092130号公報
しかし、自動車用部品をはじめとする各種用途において、高い引張強度と優れた深絞り性を有するだけでなく、さらに優れた強度延性バランス、優れた穴広げ率、優れた張出し成形性および優れた耐衝撃特性を有することが求められている。
引張強度、強度延性バランス、深絞り性および穴広げ率および張出し成形性のそれぞれについて、具体的には、以下のことが求められている。
引張強度(TS)については、980MPa以上であることが求められている。
強度延性バランスについては、TSと全伸び(EL)との積(TS×EL)が23000MPa・%以上であることが求められている。さらに部品成形時の成形性を確保するために、深絞り性を示すLDRが2.05以上であること、穴広げ性を示す穴広げ率λが20%以上であること、および張出し成形性を示す限界張出し高さが20mm以上であることも求められている。また、耐衝撃特性を確保する観点から、当該特性を代替する評価指標として、引張試験時の破断部の板厚減少率が50%以上であることが求められている。また、自動車用鋼板の基本性能としてスポット溶接部の継手強度も求められる。具体的には、スポット溶接部の十字引張強度は6kN以上であることが求められている。
しかし、特許文献1が開示する高強度鋼板では、これらの要求全てを満足することは困難であり、これらの要求の全てを満足できる高強度鋼板が求められていた。
本発明は、このような要求に応えるためになされたものであって、引張強度(TS)、引張強度(TS)と全伸び(EL)との積(TS×EL)、深絞り性(LDR)、穴広げ率(λ)、限界張出し高さ、引張試験時の破断部の板厚減少率(RA)およびスポット溶接部の十字引張強度が何れも高いレベルにある高強度鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明の態様1は、
C :0.15質量%〜0.35質量%、
SiとAlの合計:0.5質量%〜3.0質量%、
Mn:1.0質量%〜4.0質量%、
P :0.05質量%以下、
S :0.01質量%以下、
を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
鋼組織が、
フェライト分率が5%以下であり、
焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの合計分率が60%以上であり、
残留オーステナイト量が10%以上であり、
残留オーステナイトの平均サイズが1.0μm以下であり、
サイズ1.5μm以上の残留オーステナイトが全残留オースナイト量の2%以上であり、
MAの平均サイズが1.0μm以下であり、
残留オーステナイト量と等しい量である炭素濃化領域におけるMnの濃度分布の半価幅が0.3質量%以上であり、
X線小角散乱でのq値が1nm−1での散乱強度が1.0cm−1以下である高強度鋼板である。
本発明の態様2は、
Cu、Ni、Mo、CrおよびBの1種以上の合計:1.0質量%以下、
をさらに含む、態様1に記載の高強度鋼板である。
本発明の態様3は、
V、Nb、Ti、ZrおよびHfの1種以上の合計:0.2質量%以下、
をさらに含む、態様1または2に記載の高強度鋼板である。
本発明の態様4は、
Ca、MgおよびREMの1種以上の合計:0.01%以下、
をさらに含む、態様1〜3のいずれかに記載の高強度鋼板である。
本発明の態様5は、
C:0.15質量%〜0.35質量%、SiとAlの合計:0.5質量%〜3.0質量%、Mn:1.0質量%〜4.0質量%、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなる圧延材を準備することと、
前記圧延材をAc点と0.2×Ac点+0.8×Ac点との間の温度で5秒以上保持した後、Ac点以上950℃以下の温度まで加熱し、5〜600秒間保持してオーステナイト化することと、
前記オーステナイト化後、平均冷却速度15℃/秒以上で300〜500℃の範囲内の温度まで冷却し、300〜500℃の範囲内で、10℃/秒以下の冷却速度で10秒以上、300秒未満滞留することと、
前記滞留の後、300℃以上の温度から、100℃〜300℃の間の冷却停止温度まで平均冷却速度10℃/秒以上で冷却することと、
前記冷却停止温度から300〜500℃の範囲にある再加熱温度まで30℃/秒以上の平均加熱速度で加熱することと、
前記再加熱温度において、式(1)で規定される焼戻しパラメータPが10000以上14500以下であり、かつ保持時間tが1〜150秒を満たすように保持することと、
前記再加熱温度で保持した後、前記再加熱温度から200℃まで10℃/秒以上の平均冷却速度で冷却すること、
を含む、高強度鋼板の製造方法である。
P=T×(20+log(t/3600))・・・(1)
ここで、T:再加熱温度(K)、t:保持時間(秒)である。
本発明の態様6は、
前記焼戻しパラメータが11000〜14000、保持時間が1〜60秒である態様5に記載の製造方法である。
本発明の態様7は、
前記滞留が、300〜500℃の範囲内の一定温度で保持することを含む、態様5または6に記載の製造方法である。
本発明によれば、引張強度(TS)、引張強度(TS)と全伸び(EL)との積(TS×EL)、深絞り性(LDR)、穴広げ率(λ)、限界張出し高さ、引張試験時の破断部の板厚減少率(RA)およびスポット溶接部の十字引張(SW十字引張強度)が何れも高いレベルにある高強度鋼板およびその製造方法を提供することができる。
本発明に係る高強度鋼板の製造方法、とりわけ熱処理を説明するダイアグラムである。
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定の成分を有する鋼において、鋼組織を、フェライト分率が5%以下であり、焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの合計分率が60%以上であり、残留オーステナイト量が10%以上であり、残留オーステナイトの平均サイズが1.0μm以下であり、サイズ1.5μm以上の残留オーステナイトが全残留オースナイト量の2%以上であり、MAの平均サイズが1.0μm以下であり、残留オーステナイト量と等しい量である炭素濃化領域におけるMnの濃度分布の半価幅が0.3質量%以上であり、X線小角散乱でのq値が1nm−1での散乱強度が1.0cm−1以下とすることで、引張強度(TS)、引張強度(TS)と全伸び(EL)との積(TS×EL)、深絞り性(LDR)、穴広げ率(λ)、限界張出し高さ、引張試験時の破断部の板厚減少率(RA)およびスポット溶接部の十字引張(SW十字引張)が何れも高いレベルにある高強度鋼板を得ることができることを見出したのである。
以下に本発明の高強度鋼板およびその製造方法の詳細を示す。
1.鋼組織
以下に本発明に係る高強度鋼板の鋼組織の詳細を説明する。
以下の鋼組織の説明では、そのような組織を有することにより各種の特性を向上できるメカニズムについて説明している場合がある。これらは本発明者らが現時点で得られている知見により考えたメカニズムであるが、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに留意されたい。
(1)フェライト分率:5%以下
フェライトは、一般的に加工性に優れるものの、強度が低いという問題を有する。また、フェライト量が多いと穴広げ性(伸びフランジ性)が低下する。このため、フェライト分率を5%以下(5体積%以下)とした。さらにフェライト分率を5%以下とすることにより優れた穴広げ率λを得ることができる。
フェライト分率は好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0%である。
フェライト分率は光学顕微鏡で観察し、白い領域を点算法で測定することにより求めることができる。すなわち、このような方法により、フェライト分率を面積比(面積%)で求めることができる。そして、面積比で求めた値をそのまま体積比(体積%)の値として用いてよい。
(2)焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの合計分率:60%以上
焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの合計分率を60%以上(60体積%以上)とすることで高強度と高い穴広げ性を両立できる。焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの合計分率は好ましくは70%以上である。
焼戻しマルテンサイトおよび焼戻しベイナイト量(合計分率)は、レペラ腐食を行った断面のSEM観察を行い、MA(すなわち、残留オーステナイトと焼入れたままのマルテンサイトの合計)の分率を測定し、鋼組織全体から上述のフェライト分率とMA分率を引くことにより求めることができる。
(3)残留オーステナイト量:10%以上
残留オーステナイトは、プレス加工等の加工中に加工誘起変態により、マルテンサイトに変態するTRIP現象を生じ、大きな伸びを得ることができる。また、形成されるマルテンサイトは高い硬度を有する。このため、優れた強度−延性バランスを得ることができる。残留オーステナイト量を10%以上(10体積%以上)とすることでTS×ELが23000MPa・%以上と優れた強度−延性バランスを実現できる。
残留オーステナイト量は、好ましくは15%以上である。
本発明の高強度鋼板では、残留オーステナイトの多くは、MAの形態で存在する。MAとは、Martensite-Austenite constituentの略であり、マルテンサイトとオーステナイトの複合体(複合組織)である。
残留オーステナイト量は、X線回折によりフェライト(X線回折ではベイナイト、焼き戻しベイナイト、焼戻しマルテンサイトおよび未焼戻しのマルテンサイトを含む)とオーステナイトの回折強度比を求めて算出することにより得ることができる。X線源としてはCo−Kα線を用いることができる。
(4)MAの平均サイズ:1.0μm以下
MAは硬質相であり、変形時に母相/硬質相界面近傍がボイド形成サイトとして働く。MAサイズが粗大になるほど、母相/硬質相界面への歪集中が起こり、母相/硬質相界面近傍に形成されたボイドを起点とした破壊を生じ易くなる。
このため、MAサイズ、とりわけMA平均サイズを1.0μm以下と微細にし、破壊を抑制することで穴広げ率λを向上させることができる。
MAの平均サイズは好ましくは0.8μm以下である。
MAの平均サイズは、レペラ腐食した断面をSEMにより3000倍以上で3視野以上観察し、写真中の任意の位置に合計200μm以上の直線を引き、その直線とMAが交わる切片長を測定し、それら切片長の平均値を算出することで求めることができる。
(5)残留オーステナイトの平均サイズ:1.0μm以下、およびサイズ1.5μm以上の残留オーステナイト:全残留オーステナイト量の2%以上
残留オーステナイトの平均サイズを1.0μmとし、かつサイズ1.5μm以上の残留オーステナイトの全残留オーステナイトに占める比率(体積比)を2%以上とすることで、優れた深絞り性が得られることを見いだした。
深絞り成形時に形成されるたて壁部の引張応力に対してフランジ部の流入応力の方が小さいと、絞り成形が容易に進行することになり、良好な深絞り性が得られる。フランジ部の変形挙動は盤面方向、円周から圧縮応力が強くかかるため、等方的な圧縮応力が付与された状態で変形することとなる。一方、マルテンサイト変態は体積膨張を伴うため、等方的な圧縮応力下ではマルテンサイト変態は起こりにくくなる。よって、フランジ部での残留オーステナイトの加工誘起マルテンサイト変態が抑制されて加工硬化が小さくなる。
この結果、深絞り性が改善される。残留オーステナイトのサイズを大きいほど、マルテンサイト変態を抑制する効果が大きく発現する。
また、深絞り成形により形成されるたて壁部の引張応力を高めるためには、変形中に高い加工硬化率を持続させることが必要である。比較的低い応力下で容易に加工誘起変態する不安定な残留オーステナイトと高い応力下でないと加工誘起変態を起こさない安定な残留オーステナイトとを混在させて、広い応力範囲に亘って加工誘起変態を起こさせることで変形中に高い加工硬化率を持続させることができる。そのために粗大で不安定な残留オーステナイトと微細で安定な残留オーステナイトとをそれぞれ所定量含むような鋼組織を得ることを検討した。そして、本発明者らは、残留オーステナイトの平均サイズを1.0μmとし、かつサイズ1.5μm以上の残留オーステナイト量の全残留オーステナイト量に占める比率(体積比)を2%以上とすることで、変形中に高い加工硬化率を持続させ、優れた深絞り性(LDR)を得ることができることを見いだした。
また、上述のように、残留オーステナイトが加工誘起変態する際にTRIP現象を生じ大きな伸びを得ることができる。一方で、加工誘起変態により形成されたマルテンサイト組織は硬く破壊の起点として作用する。より大きなマルテンサイト組織ほど破壊の起点をなりやすい。残留オーステナイトの平均サイズを1.0μm以下として、加工誘起変態により形成されるマルテンサイトの大きさを小さくすることで破壊を抑制する効果も得ることができる。
残留オーステナイトの平均サイズおよびサイズ1.5μm以上の残留オーステナイト量の全オーステナイト量に占める比率は、SEMを用いた結晶解析手法であるEBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns、後方散乱)法を用いてPhaseマップを作成することにより求めることができる。得られたPhaseマップから、個々のオーステナイト相(残留オーステナイト)の面積を求め、その面積から個々のオーステナイト相の円相当径(直径)を求め、求めた直径の平均値を残留オーステナイトの平均サイズとする。また、円相当径が1.5μm以上のオーステナイト相の面積を積算し、オーステナイト相の総面積に対する比率を求めることにより、サイズ1.5μm以上の残留オーステナイトの全オーステナイトに占める比率を得ることができる。なお、このようにして求めたサイズ1.5μm以上の残留オーステナイトの全オーステナイトに占める比率は面積比であるが、体積比と等価である。
(6)残留オーステナイト量と等しい量である炭素濃化領域におけるMn濃度分布の半価幅が0.3質量%以上
上述のように残留オーステナイトの多くは、MAの形態で存在しており、光学顕微鏡またはSEMにより残留オーステナイトだけを識別するのは困難である。残留オーステナイは、炭素の固溶限がフェライト等と比べて大きいため、後述する熱処理を行うことで、残留オーステナイトに炭素が濃化する。従って、FE−EPMAを用いて、炭素の元素マッピングを行い、炭素濃度の高い測定点から順に上述のX線回折により求めた残留オーステナイト量と等しい量の測定点を炭素濃化領域とし、この炭素濃化領域を残留オーステナイトと判断することができる。すなわち、例えば、残留オーステナイト量が15体積%であった場合、元素マッピングにより炭素量を測定した測定点について炭素濃度の高い方から15%を選ぶことでこれらの炭素濃度の高い測定点(炭素濃化領域)が残留オーステナイトであると判断できる。
よって「残留オーステナイト量と等しい量である炭素濃化領域」は、残留オーステナイトに相当する(対応する)領域を意味している。
そして、この残留オーステナイト量と等しい量である炭素濃化領域におけるMnの濃度分布、特にMn濃度分布の半価幅についても、FE−EPMAを用いて測定することができる。炭素濃化領域であるとされた測定点のMn量の分布をグラフ化し、そこから半価幅を得ることができる。
このMn濃度分布の半価幅が大きいほど、残留オーステナイト中のMn濃度のばらつきが大きい(Mnの濃度分布の範囲が広い)ことを示している。本発明の高強度鋼板では、Mnの濃度分布の半価幅が0.3質量%以上であり、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは0.6質量%以上であり、さらにより好ましくは0.75質量%以上である。
このように、残留オーステナイト(炭素濃化領域)が含有するMn量をばらつかせることで、安定度が低い残留オーステナイトから安定度が高い残留オーステナイトまで、幅広い安定度の残留オーステナイトを形成できる。安定度の低い残留オーステナイトは、小さい歪量で加工誘起変態を起こしマルテンサイトとなる。安定度の高い残留オーステナイトは、小さい歪量では加工誘起変態を起さず、大きな歪量が付与されてはじめて加工誘起変態を起こしてマルテンサイトとなる。従って、幅広い安定度を有する残留オーステナイトが存在すると、加工を開始してすぐの歪量が小さい時から、加工が進み歪量が大きい時に亘って、加工誘起変態が継続的に起こることとなる。この結果、n値を広い歪範囲に亘って高くでき、歪分散性を高めて高い張出し加工性を実現できる。
(7)X線小角散乱のq値が1nm−1での散乱強度が1.0cm−1以下
X線小角散乱とは、X線を鋼板に照射して、鋼板を透過したX線の散乱を測定することにより、鋼板中に含まれる粒子のサイズ分布を求めることができる。本発明の鋼板では、X線小角散乱により、焼戻しマルテンサイト中に分散した微細粒子であるセメンタイトの粒子のサイズ分布を求めることができる。具体的にはX線小角散乱では、q値と散乱強度を用いてセメンタイトの粒子のサイズとその分率を解析することができる。
q値は鋼板中の粒子(例えばセメンタイト粒子)のサイズの指標である。「q値が1nm−1」とは、セメンタイトの粒子径が約1nmのセメンタイト粒子に対応する。散乱強度は、鋼板中のセメンタイトの体積分率の指標である。散乱強度が強いほどセメンタイトの体積分率が大きいことを示している。
あるq値の散乱強度の大小は、そのq値に対応するサイズのセメンタイト粒子の体積分け率の大小を半定量的に示す。例えば、q値が1nm−1の散乱強度というのは、約1nmの微細なセメンタイト粒子の体積分率を示している。「q値が1nm−1での散乱強度1.0cm−1以下」の鋼板では、その鋼板中に存在する約1nmの微細なセメンタイト粒子の体積分率が、所定の値(散乱強度1.0cm−1に相当する値)以下であることを意味している。以下に説明するように、「q値が1nm−1での散乱強度1.0cm−1以下」の鋼板は、約1nmのセメンタイトの体積分率が低く抑えられているので、耐衝突特性に優れていると考えられる。
残留オーステナイトを含む高延性鋼においては、炭素が残留オーステナイトに集まっている状態で、理想的にはセメンタイトが存在しないことが好ましい。鋼材中に分散している粒径1nm程度の微細なセメンタイトは、転位の移動を妨げて鋼材の変形能を低下させ得る。そのため、粒径約1nmのセメンタイトの体積分率が多い鋼材では、変形時の破壊が促進されて、耐衝突特性が低下し得る。
本発明の鋼板は、微細なセメンタイトの体積分率を低く抑えること、より具体的には、q値が1nm−1の散乱強度を1cm−1以下にすることにより、焼戻しマルテンサイトのラス内に形成される微細な炭化物を減少させて、マルテンサイト中の変形能を高めている。これにより、鋼板が衝突時に破壊するのを抑制して、鋼板の耐衝突特性を向上させる。
X線小角散乱の測定は、RIGAKU社製Nano−viwerにて、X線の線源としてはMo管球を用いて測定した。試料は鋼板からφ3mmのディスク状サンプルを切り出し、板厚1/4付近から20μm厚さのサンプルを削り出して用いた。また、q値が0.1〜10nm−1の範囲のデータを採取し、そのうち、q値が1nm−1について絶対強度を求めた。
(8)その他の鋼組織:
本明細書においては、前記したフェライト、焼戻しマルテンサイト、焼戻しベイナイト残留オーステナイトおよびセメンタイト以外の鋼組織は特に規定していない。しかしながら、それらフェライト等の鋼組織以外にも、パーライト、焼き戻されていないベイナイトおよび焼き戻されていないマルテンサイトなどが存在することがある。フェライト等の鋼組織が、前述した組織条件を満たしていれば、鋼中にパーライト等が存在しても、本発明の効果は発揮される。
2.組成
以下に本発明に係る高強度鋼板の組成について説明する。まず、基本となる元素、C、Si、Al、Mn、PおよびSについて説明し、さらに選択的に添加してよい元素について説明する。
なお、成分組成について単位の%表示は、すべて質量%を意味する。
(1)C:0.15〜0.35%
Cは、所望の組織を得て、高い(TS×EL)等の特性を確保するために必須の元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、0.15%以上添加する必要がある。ただし、0.35%以下までは溶接部の十字引張強度を確保できるが、0.35%を超えると、十字引張強度を確保できず溶接に適さない。好ましくは0.18%以上、さらに好ましくは0.20%以上である。C量が0.30%以下だとより容易に溶接することができる。
(2)SiとAlの合計:0.5〜3.0%
SiとAlは、それぞれ、セメンタイトの析出を抑制し、残留オーステナイトの形成を促進する働きを有する。このような作用を有効に発揮させるためには、SiおよびAlを合計で0.5%以上添加する必要がある。ただし、SiとAlの合計が3.0%を超えるとMAが粗大になる。好ましくは0.7%以上、さらに好ましくは1.0%以上である。好ましく2.5%以下である。
なお、Alについては、脱酸元素として機能する程度の添加量、すなわち0.10質量%未満であってよく、また、例えばセメンタイトの形成を抑制し、残留オーステナイト量を増加させる目的等ために0.7質量%以上のようなより多くの量を添加してもよい。
(3)Mn:1.0〜4.0%
Mnは、フェライトの形成を抑制し、オーステナイトを安定化させるのに必要な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには1.0%以上添加する必要がある。Mn量は、好ましくは1.3%以上、さらに好ましくは1.6%以上である。ただし、4.0%を超えると、MAが粗大になり、穴広げ性が悪化する。そのため、Mn量は4.0%以下である。Mn量は、好ましくは3.5%以下、さらに好ましくは3.0%以下である。
(4)P:0.05%以下
Pは不純物元素として不可避的に存在する。0.05%を超えたPが存在するとELおよびλが劣化する。このため、Pの含有量は0.05%以下(0%を含む)とする。好ましくは、0.03%(0%を含む)以下である。
(5)S:0.01%以下
Sは不純物元素として不可避的に存在する。0.01%を超えたSが存在するとMnS等の硫化物系介在物を形成し、割れの起点となってλを低下させる。このため、Sの含有量は0.01%以下(0%を含む)とする。好ましくは、0.005%(0%を含む)以下である。
(6)残部
好ましい1つの実施形態では、残部は、鉄および不可避不純物である。不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる微量元素(例えば、As、Sb、Snなど)の混入が許容される。なお、例えば、PおよびSのように、通常、含有量が少ないほど好ましく、従って不可避不純物であるが、その組成範囲について上記のように別途規定している元素がある。このため、本明細書において、残部を構成する「不可避不純物」という場合は、別途その組成範囲が規定されている元素を除いた概念である。
しかし、この実施形態に限定されるものではない。本発明の高強度鋼板の特性を維持できる限り、任意のその他の元素を更に含んでよい。そのように選択的に含有させることができるその他の元素を以下に例示する。
(7)Cu、Ni、Mo、CrおよびBの1種以上:合計で1.0%以下
これらの元素は、鋼の強化元素として有用であるとともに、残留オーステナイトの安定化や所定量の確保に有効な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、これらの元素は合計量で0.001%以上、さらには0.01%以上含有させることが推奨される。ただし、これらの元素を過剰に含有させても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるので、これらの元素は合計量で1.0%以下、さらには0.5%以下とするのが好ましい。
(8)V、Nb、Ti、ZrおよびHfの1種以上:合計で0.2%以下
これらの元素は、析出強化および組織微細化の効果があり、高強度化に有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、これらの元素を合計量で0.01%以上、さらには0.02%以上含有させることが推奨される。ただし、これらの元素を過剰に含有させても、上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるので、これらの元素は合計量で0.2%以下、さらには0.1%以下とするのが好ましい。
(9)Ca、MgおよびREMの1種以上:合計で0.01%以下
これらの元素は、鋼中硫化物の形態を制御し、加工性向上に有効な元素である。ここで、本発明に用いられるREM(希土類元素)としては、Sc、Y、ランタノイド等が挙げられる。上記作用を有効に発揮させるためには、これらの元素を合計量で0.001%以上、さらには0.002%以上含有させることが推奨される。ただし、これらの元素を過剰に含有させても、上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるので、これらの元素は合計量で0.01%以下、さらには0.005%以下とするのが好ましい。
3.特性
上述のように本発明の高強度鋼板は、TS、TS×EL、LDR、λ、限界張出し高さ、引張試験時の破断部の板厚減少率およびSW十字引張が何れも高いレベルにある。本発明の高強度鋼板のこれらの特性について以下に詳述する。
(1)引張強度(TS)
980MPa以上のTSを有する。これにより十分な強度を確保できる。
(2)TSと全伸び(EL)との積(TS×EL)
TS×ELが23000MPa・%以上である。23000MPa・%以上のTS×ELを有することで、高い強度と高い延性とを同時に有する、高いレベルの強度延性バランスを得ることができる。好ましくは、TS×ELは25000MPa・%以上である。
なお、TSおよびELは、JIS5号試験片を用いて、JIS Z 2241に従って引張試験を実施して、測定した。
(3)深絞り性(LDR)
LDRは深絞り性の評価に用いられている指標である。円筒絞り成形において、得られる円筒の直径をdとし、1回の深絞り加工で破断を生じずに円筒を得ることができる円盤状の鋼板(ブランク)の最大直径をDとし、d/DをLDR(Limiting Drawing Ratio)という。より詳細には、板厚1.4mmで各種径を有する円盤状の試料を、パンチ径50mm、パンチ角半径6mm、ダイ径55.2mm、ダイ角半径8mmの金型で円筒深絞りを行い、破断することなく絞り抜けた試料径(最大直径D)を求めることによりLDRを求めることができる。
本発明の高強度鋼板は、LDRが2.05以上であり、好ましくは2.10以上であり、優れた深絞り性を有している。
(4)張出し成形性(限界張出し高さ)
限界張出し高さは、張り出し成形性の評価に用いられている指標である。限界張出し高さは、荷重−ストローク線図において荷重が急激に減少する破断発生時のパンチストロークとする。
より詳細には、φ120mmの試験片を用い、φ53.4mmで肩半径8mmのダイとφ50mmの球頭パンチを用いて、ポンチと鋼板の間には潤滑用のポリシートをはさみ、ブランクホールド力1000kgfとして張出し成形を行い、破断時の高さ(パンチストローク)を測定することにより限界張出し高さ求めることができる。
本発明の高強度鋼板は、限界張出し高さが20mm以上であり、好ましくは22mm以上である。
(5)穴広げ率(λ)
穴広げ率λは、日本工業規格(JIS Z 2256)に従って求める。試験片に直径d(d=10mm)の打ち抜き穴を空け、先端角度が60°のポンチをこの打ち抜き穴に押し込み、発生した亀裂が試験片の板厚を貫通した時点の打ち抜き穴の直径dを測定し、下記の式より求める。
λ(%)={(d−d)/d}×100
本発明の高強度鋼板は、穴広げ率λが20%以上、好ましくは30%以上である。これによりプレス成形性等の優れた加工性を得ることができる。
(6)引張試験での板厚減少率(R5引張板厚減少率)
5号試験片に半径5mmの円弧形の切欠きを設けた試験片を用い、引張試験の変形速度を10mm/minとして試験を行い、試料を破断させる。その後、破面観察を行い、破面の板厚方向の厚さtを元の板厚tで割った値(t/t)を、板厚減少率とする。
この試験での板厚減少率は、50%以上、好ましくは52%以上、より好ましくは55%以上である。これにより、衝突時に大きく変形しても破断しにくくなるので、優れた耐衝撃特性を有する鋼板を得ることができる。
(7)スポット溶接の十字引張強度
スポット溶接の十字引張強度はJIS Z 3137に則って評価した。スポット溶接の条件は1.4mmの鋼板を2枚重ねたものを用いた。ドームラジアス型の電極で加圧力4kN、電流を6kAから12kAまでの範囲で0.5kAずつ増加してスポット溶接を行い、溶接時にちりが発生する電流値(最低電流値)を調べた。その最低電流値より0.5kA低い電流でスポット溶接した十字継ぎ手を、十字引張強度の測定用の試料とした。十字引張強度が6kN以上を「良好」とした。なお、十字引張強度は、好ましくは8kN以上、さらに好ましくは10kN以上である。
十字引張強度が6kN以上であると、鋼板から自動車用部品等を製造したとき、溶接時の接合強度の高い部品を得ることができる。
4.製造方法
次に本発明に係る高強度鋼板の製造方法について説明する。
本発明者らは、所定の組成を有する圧延材に、以下に説明する熱処理を行うことにより、上述の所望の鋼組織を有し、その結果、上述の所望の特性を有する高強度鋼板を得ること見いだしたのである。
以下にその詳細を説明する。
図1は本発明に係る高強度鋼板の製造方法、とりわけ熱処理を説明するダイアグラムである。
熱処理を施す圧延材は、通常、熱間圧延後、冷間圧延を行って製造する。しかし、これに限定されるものでなく熱間圧延および冷間圧延のいずれか一方を行って製造してもよい。また、熱間圧延および冷間圧延の条件は特に限定されるものではない。
(1)オーステナイト化
オーステナイト化工程は、図1の[2]に示すように、Ac点とAc点の中間の2相共存領域、より詳細にはAc点と0.2×Ac点+0.8×Ac点との間の温度T(Ac≦T≦0.2×Ac+0.8×Ac)で5秒以上保持した後、さらに図1の[3]、[4]に示すように、Ac点以上の温度T(Ac≦T)まで加熱し、温度Tで5〜600秒保持してオーステナイト化する。
保持温度Tは、図1の[2]のように、Ac点と0.2×Ac点+0.8×Ac点との間の一定の温度で保持してもよく、例えば、Ac点と0.2×Ac点+0.8×Ac点との間で徐加熱するなど、Ac点と0.2×Ac点+0.8×Ac点との間で変動させてもよい。また、温度Tに加熱して5秒以上保持する。好ましくは、保持時間は900秒以下である。
このように、フェライトとオーステナイトの2相共存領域内の比較的低い温度域で十分な時間保持することにより、共存するフェライトとオーステナイトのうち、オーステナイト側にMnが配分され、これによりMn濃化領域を得ることができる。そして、このMn濃化領域に形成され熱処理後も残留オーステナイトとして残ったオーステナイトのMn濃度が高いことから炭素濃化領域におけるMnの濃度のばらつき大きくすることが可能となり、高い張出し成形性を実現できる。
温度TがAc点より低いと、Mnが濃化したオーステナイトの量が少量となり、残留オーステナイト(炭素濃化領域)中のMn濃度のばらつきが小さくなり、十分な張出し成形性を得ることができない。
温度Tが0.2×Ac点+0.8×Ac点より高いと、オーステナイトのMn濃度が低くなり、残留オーステナイト(炭素濃化領域)中のMn濃度のばらつきが小さくなり、十分な張出し成形性を得ることができない。
温度Tでの保持時間が5秒より時間が短いと、Mnが拡散する時間が不足し、オーステナイトへのMn濃化が不十分となり、残留オーステナイト(炭素濃化領域)中のMnのばらつきが小さくなり、十分な張出し成形性を得ることができない。
保持温度Tでの保持時間は長い方が好ましいが、生産性の観点から900秒以下が好ましい。
好ましくは、温度Tは、0.9×Ac点+0.1×Ac点と0.3×Ac点+0.7×Ac点との間であり、温度Tでの保持時間は10秒以上、800秒以下である。より好ましくは、温度Tは、0.8×Ac点+0.2×Ac点と0.4×Ac点+0.6×Ac点との間であり、温度Tでの保持時間は30秒以上、600秒以下である。
なお、図1に[1]として示した、温度Tまでの加熱速度は、好ましくは5〜20℃/秒である。
次に図1の[3]および[4]で示すように、Ac点以上950℃以下の温度Tまで昇温し、温度Tで保持してオーステナイト化する。温度Tでの保持時間5〜600秒である。
Ac点以上950℃以下に加熱することで、温度Tに加熱した際は、フェライトであった部分もオーステナイトとなる。この新たにオーステナイトに変態した部分は、Mnが濃化していない。このため、オーステナイト中には上述のMnの濃化領域とともにMnが濃化していない領域が存在することとなり、熱処理後の高強度鋼板において、残留オーステナイト(炭素濃化領域)におけるMn濃度のばらつきを大きくすることが可能となり、高い張出し成形性を実現できる。
温度TがAc点よりも低い、または温度Tでの保持時間が5秒より短いと、得られた高強度鋼板のフェライト分率が5%を超えて、穴広げ率が低下する。
温度Tが950℃を超えると、先に形成したMn濃化領域のMnが拡散し、Mn濃度のばらつきが小さくなり、張出し成形性が低下する。このため、温度Tは950℃以下である。
温度Tでの保持時間が600秒より長いと、拡散によりMn濃化領域のMn濃度が低くなり、残留オーステナイト中のMn濃度のばらつきが小さくなり、張出し成形性が低下する。そのため温度Tでの保持時間は600秒以下である。
温度Tでの保持時間が5秒より短いと、得られた高強度鋼板のフェライト分率が5%を超えて、穴広げ率が低下する。
好ましくは、温度Tは、Ac点+10℃以上であり、温度Tでの保持時間は10〜450秒である。より好ましくは、温度Tは、Ac点+20℃以上であり、温度Tでの保持時間は20〜300秒である。
図1の[3]に示す、温度T1から温度Tへの加熱は、0.1℃/秒以上、10℃/秒未満の加熱速度で行うことが好ましい。
なお、Ac点およびAc点については、測定により求めてもよいが、その組成を用いて一般的に知られている計算式により算出してよい。
例えば、下記の(1)式および(2)式を用いることにより、Ac点およびAc点を算出できる(例えば、「レスリー鉄鋼材料学」丸善、(1985)参照)。
Ac点(℃)=723+29.1×[Si]−10.7×[Mn]+16.9×[Cr]−16.9×[Ni] (1)
Ac点(℃)=910−203×[C]1/2+44.7×[Si]−30×[Mn]+700×[P]+400×[Al]+400×[Ti]+104×[V]−11×[Cr]+31.5×[Mo]−20×[Cu]−15.2×[Ni] (2)
ここで、[ ]は、その中に記載された元素の質量%で示される含有量を示す。
(2)冷却と300℃〜500℃の温度域での滞留
上記のオーステナイト化後、冷却し、図1の[6]に示すように、300〜500℃の温度範囲内で10℃/秒以下の冷却速度で10秒以上、300秒未満滞留させる。
オーステナイト化後500℃までの冷却は、少なくとも平均冷却速度15℃/秒以上で冷却する。平均冷却速度を15℃/秒以上とすることで、冷却中のフェライトの形成を抑制するためである。また、平均冷却速度を200℃/秒未満とすることが好ましい。200℃/秒未満とすることで急激な冷却による過大な熱歪みの発生を防止できる。
300〜500℃の温度範囲内で10℃/秒以下の冷却速度で10秒以上滞留させる。すなわち、300〜500℃の温度範囲内において、冷却速度が10℃/秒以下の状態に10秒以上置かれる。冷却速度が10℃/秒以下の状態は、図1の[6]のように、実質的に一定の温度Tで保持する(すなわち、冷却速度が0℃/秒)場合も含む。
この滞留により、部分的にベイナイトを形成させる。そして、ベイナイトはオーステナイトより炭素の固溶限が低いことから、固溶限を超えた炭素をはき出す。この結果、ベイナイト周囲に炭素が濃化したオーステナイトの領域が形成される。
この領域が後述する冷却、再加熱を経て、やや粗大な残留オーステナイトとなる。このやや粗大な残留オーステナイトを形成することで、上述のように深絞り性を高くすることができる。
滞留させる温度が500℃より高いと、炭素濃化領域が大きくなりすぎて、残留オーステナイトだけでなく、MAも粗大になるために、穴広げ率が低下する。一方、滞留させる温度が300℃より低いと、炭素濃化領域が小さくなり、粗大な残留オーステナイトの量が不足し、深絞り性が低下する。
また、滞留時間が10秒より短いと、炭素濃化領域の面積が小さくなり、粗大な残留オーステナイトの量が不足し、深絞り性が低下する。一方、滞留時間が300秒以上になると、炭素濃化領域が大きくなりすぎて、残留オーステナイトだけでなく、MAも粗大になるため、穴広げ率が低下する。
また、滞留中の冷却速度が10℃/秒より大きいと十分なベイナイト変態が起こらず、従って、十分な炭素濃化領域が形成されず、粗大な残留オーステナイトの量が不足する。
従って、300〜500℃の温度範囲内で10℃/秒以下の冷却速度で10秒以上滞留させる。好ましくは320〜480℃の温度範囲内で8℃/秒以下の冷却速度で10秒以上滞留させ、その間、一定温度で3〜80秒保持することが好ましい。
更に好ましくは340〜460℃の温度範囲内で3℃/秒以下の冷却速度で10秒以上滞留させ、その間、一定温度で5〜60秒保持する。
(3)100℃以上、300℃未満の間の冷却停止温度Tまで冷却
上述の滞留後、図1の[7]に示すように300℃以上の第2冷却開始温度から100℃〜300℃の間の冷却停止温度Tまで10℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する。好ましい実施形態の1つでは、図1の[7]に示すように、上述の滞留の終了温度を第2冷却開始温度とする。
この冷却により、上述の炭素濃化領域をオーステナイトとして残したまま、マルテンサイト変態を起こさせる。冷却停止温度Tを100〜300℃の温度範囲内で制御することで、マルテンサイトに変態せずに残存するオーステナイトの量を調整して、最終的な残留オーステナイト量を制御する。
冷却速度が、10℃/秒より遅いと、冷却中に炭素濃化領域が必要以上に広がり、MAが粗大になるために、穴広げ率が低下する。冷却停止温度が100℃より低いと、残留オーステナイト量が不足する。この結果、TSは高くなるものの、ELが低下し、TS×ELバランスが不足する。
冷却停止温度が300℃を超えると、粗大な未変態オーステナイトが増え、その後の冷却でも残存することで、最終的にMAサイズが粗大になり、穴広げ率λが低下する。
冷却停止温度が100℃未満であると、残留オーステナイト量が不足して延性が低下する。
なお、好ましい冷却速度は15℃/秒以上であり、好ましい冷却停止温度は120℃以上、280℃以下である。更に好ましい冷却速度は20℃/秒以上であり、更に好ましい冷却停止温度は140℃以上、260℃以下である。
図1の[8]に示すように、冷却停止温度で保持してもよい。保持する場合の好ましい保持時間として、1〜100秒を挙げることができる。保持時間が長くなっても特性上の影響はほとんどないが、100秒を超える保持時間は生産性を低下させる。
(4)300〜500℃の温度範囲まで再加熱
図1の[9]に示すように、上述の冷却停止温度Tから300〜500℃の範囲にある再加熱温度Tまで、30℃/秒以上の平均再加熱速度で加熱する。
平均再加熱温度が30℃/秒未満であると、後述するように、マルテンサイト内に炭化物が形成されて、衝突変形時の亀裂進展が起こりやすくなり、耐衝撃特性が劣化する。したがって、平均再加熱速度は30℃/秒以上である。好ましい平均再加熱速度は、60℃/秒以上、より好ましくは70℃/秒以上である。
このような急速加熱は、例えば高周波加熱、通電加熱などの方法で達成することができる。
再加熱温度に到達した後は、図1の[10]に示すようにその温度で保持する。そのとき、以下の式(1)で表される焼戻しパラメータPが10000以上14500以下となるように、かつ、保持時間を1〜150秒とする。
パラメータPが11000以上14000以下となるように、かつ、保持時間が1〜80秒とするのが好ましい。本実施形態の鋼板の焼き戻しパラメータPは以下の式(1)で表される。

P=T(K)×(20+log(t/3600))・・(1)
ここで、Tは焼戻し温度(K)、tは保持時間(秒)である。
再加熱の時、マルテンサイト中に過飽和に固溶している炭素の再分配が起こる。具体的には、マルテンサイトからオーステナイトへの炭素拡散と、マルテンサイトのラス中での炭化物(セメンタイト)の析出の2つの現象が起こる。この二つの現象のうち、炭化物の析出は、低温で長時間の保持を行うと起こりやすい。また、高温で保持する場合であっても、加熱速度が遅い場合や、保持時間が長すぎると、炭化物が析出する。一方、マルテンサイトからオーステナイトへの炭素拡散は、拡散速度に強く依存するために、高温で短時間の処理で十分に行うことができる。
マルテンサイト中に存在するセメンタイトの粒子は衝突破壊の起点になりやすく、耐衝撃特性を低下させる原因になる。よって、再加熱の際には、マルテンサイトのラス内での炭化物(セメンタイト)の析出を抑制しつつ、マルテンサイトからオーステナイトへの炭素拡散を促進させるような再加熱処理を行うことが望ましい。そこで、急速加熱と、高温かつ短時間での熱処理を施すことが有効である。
ただし、十分な炭素拡散を生じさせて所望の引張強度を得るためには、温度と時間の組合せの因子としての焼戻しパラメータPを一定の範囲内に制御することが必要となる。
焼戻しパラメータPが10000より小さいと、マルテンサイトからオーステナイトへの炭素拡散が十分に起こらず、オーステナイトが不安定になり、残留オーステナイト量が確保できないために、TS×ELバランスが不足する。また、焼戻しパラメータPが14500より大きいと、短時間処理でも炭化物の形成を防止できず、残留オーステナイト量が確保できず、TS×ELバランスが劣化する。なお、焼戻しパラメータが適正でも、加熱速度が低すぎる、時間が長すぎると、マルテンサイトラス内に炭化物が形成されて、衝突変形時の亀裂進展が起こりやすくなり、耐衝撃特性が劣化する。マルテンサイトラス内の炭化物の量は、X線小角散乱の散乱強度から求めることができる。
再加熱温度が300℃より低いと、炭素の拡散が不足して十分な残留オーステナイト量が得られずTS×ELが低下する。再加熱温度が500℃より高いと、残留オーステナイトがセメンタイトとフェライトに分解して残留オーステナイトが不足し特性が確保できない。
保持を行わないまたは保持時間が1秒より短いと、同様に炭素の拡散が不足する虞がある。このため、再加熱温度で1秒以上の保持を行うのが好ましい。保持時間が150秒より長いと、同様に、炭素がセメンタイトとして析出する虞がある。このため、保持時間は150秒以下であることが好ましい。
好ましい再加熱温度は、320〜480℃であり、更に好ましい再加熱温度は、340〜460℃である。
再加熱の後、図1の[11]に示すように、室温のような200℃以下の温度まで冷却してよい。200℃以下までの好ましい平均冷却速度として10℃/秒を挙げることができる。
以上の熱処理により本発明の高強度鋼板を得ることができる。
以上に説明した本発明の実施形態に係る高強度鋼板の製造方法に接した当業者であれば、試行錯誤により、上述した製造方法と異なる製造方法により本発明に係る高強度鋼板を得ることができる可能性がある。
1.サンプル作製
表1に記載した化学組成を有する鋳造材を真空溶製で製造した後、この鋳造材を熱間鍛造で板厚30mmの鋼板にした後、熱間圧延を施した。なお、表1には組成から計算したAc点も記載した
熱間圧延の条件は本特許の最終組織・特性に本質的な影響を施さないが、1200℃に加熱した後、多段圧延で板厚2.5mmとした。この時、熱間圧延の終了温度は880℃とした。その後、500℃まで30℃/秒で冷却し、冷却を停止し、500℃に加熱した炉に挿入後、30分保持し、その後、炉冷し、熱延鋼板とした。
この熱延鋼板に酸洗を施して表面のスケールを除去した後、1.5mmまで冷間圧延を施した。この冷間圧延板に熱処理を行い、サンプルを得た。熱処理条件を表2、3に示した。なお、表2、3中の例えば、[2]のように[ ]を内に示した番号は、図1中に[ ]内に示した同じ番号のプロセスに対応する。
表2において、サンプルNo.15は、図1の[6]に相当する工程において、300〜500℃の温度範囲内で10℃/秒以下の冷却速度で10秒以上滞留させなかったサンプルである。すなわち、サンプルNo.15は、オーステナイト化後、500℃以上の温度から急冷を開始し、200℃まで一気に冷却したサンプル(図1で[6]および[7]に相当する工程をスキップしたサンプル)である。サンプルNo.22は、図1の[2]に相当する工程において、Ac点と0.2×Ac点+0.8×Ac点との間の温度で5秒以上保持しなかったサンプルである。すなわち、サンプルNo.22は、冷延鋼板に対して、オーステナイト化温度(850℃)まで一気に加熱したサンプル(図1で[2]および[3]に相当する工程をスキップしたサンプル)である。[9]に相当する再加熱は通電加熱法により行った。
なお、表1〜表7において、下線を伏した数値は、本発明の範囲から外れていることを示している。
Figure 2018095896
Figure 2018095896
Figure 2018095896
2.鋼組織
それぞれのサンプルについて上述した方法により、フェライト分率、焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの合計分率(表4および5には「焼戻しM/B」記載)、残留オーステナイト量、MAの平均サイズ、残留オーステナイトの平均サイズ、サイズ1.5μm以上の残留オーステナイトの全オーステナイトに占める比率(表4および5には、「1.5μm以上の残留オーステナイト比率」と記載)、炭素濃化領域のMn濃度分布の半価幅、およびX線小角散乱のq値が1nm−1での散乱強度を求めた。残留オーステナイト量の測定には、株式会社リガク製2次元微小部X線回折装置(RINT−RAPIDII)を用いた。得られた結果を表4および5に示す。
Figure 2018095896
Figure 2018095896
3.機械的特性
得られたサンプルについて、引張試験機を用いて、TSおよびELを測定し、TS×ELを算出した。また、上述の方法により穴拡げ率λ、限界張出し高さ、LDR、板厚減少率(表6および7のR5引張り板厚減少率)およびスポット溶接部の十字引張強度を求めた。得られた結果を表6および7に示す。
表6および7において、上記熱処理後の鋼板の特性が、引張強度:980MPa以上、TS×EL:23000MPa%以上、深絞り性(LDR):2.05以上、張出し成形での限界高さ:20mm以上、穴広げ率λ:20%以上、R5引張板厚減少率:50%以上、およびSW十字引張り強度:6kN以上の全てを満たすサンプルを合格(○)とし、それ以外のサンプルを不合格(×)とした。
Figure 2018095896
Figure 2018095896
4.まとめ
表6および7の結果を考察する。サンプルNo.4〜6、8、11〜13、20、21、24、27、38〜40および47〜66は、本発明で規定する全ての要件(組成、製造条件および鋼組織)を満たす実施例である。これらの試料はいずれも、980MPa以上の引張強度(TS)、23000MPa以上のTS×EL、2.05以上のLDR、20%以上の穴広げ率(λ)、20mm以上の限界張出し高さ、50%以上のR5引張板厚減少率および6kN以上のSW十字引張り強度を達成している。
これに対して、サンプルNo.1は、[6]1次停止温度が低いため、粗大な残留オーステナイト量が不足し、深絞り性が低下した。
サンプルNo.2は、[9]再加熱速度が小さいため、マルテンサイト内に炭化物が形成されて、q値が1nm−1の散乱強度が増加し、耐衝突特性が低下した。
サンプルNo.3は、[6]1次冷却時間が短く、粗大な残留オーステナイト量が不足し、深絞り性が低下した。
サンプルNo.7は、[11]冷却速度が小さく、q値が1nm−1の散乱強度が増加し、耐衝突特性が低下した。
サンプルNo.9および10は、[9]再加熱速度が小さいため、マルテンサイト内に炭化物が形成されて、q値が1nm−1の散乱強度が増加し、耐衝突特性が低下した。
サンプルNo.14は、[6]1次停止温度が高いため、粗大な未変態オーステナイトが増え、MAサイズが粗大になり、穴広げ率λが低下した。
サンプルNo.15は、オーステナイト化後の冷却において、300〜500℃の温度範囲で保持しなかった。そのため、粗大な残留オーステナイト量が不足し、深絞り性が低下した。
サンプルNo.16は、[2]1次保持温度が低いため、炭素濃化領域中のMn濃度のばらつきが小さくなり、張出し成形性が低下した。
サンプルNo.17は、[2]1次保持温度が高いため、炭素濃化領域中のMn濃度のばらつきが小さくなり、張出し成形性が低下した。
サンプルNo.18および19は、[9]再加熱速度が小さいため、マルテンサイト内に炭化物が形成されて、q値が1nm−1の散乱強度が増加し、耐衝突特性が低下した。
サンプルNo.22は、オーステナイト化工程で、Ac点と0.2×Ac点+0.8×Ac点との間の温度で保持をしなかった。そのため、炭素濃化領域中のMn濃度のばらつきが小さくなり、張出し成形性が低下した。
サンプルNo.23は、[9]再加熱速度が小さいため、マルテンサイト内に炭化物が形成されて、q値が1nm−1の散乱強度が増加し、耐衝突特性が低下した。
サンプルNo.25は、[8]停止温度が高いため、粗大な未変態オーステナイトが増え、MAサイズが粗大になり、穴広げ率λが低下した。
サンプルNo.26は、[9]再加熱速度が小さいため、マルテンサイト内に炭化物が形成されて、q値が1nm−1の散乱強度が増加し、耐衝突特性が低下した。
サンプルNo.28は、[8]停止温度が低いため、残留オーステナイト量が不足して延性が低下し、TS×Elのバランスが低下した。
サンプルNo.29は、[4]加熱温度が高いため、Mn濃化領域のMnが拡散し、Mn濃度のばらつきが小さくなり、張出し成形性が低下した。
サンプルNo.30は、[4]加熱時間が長いため、拡散によりMn濃化領域のMn濃度が低くなり、残留オーステナイト中のMn濃度のばらつきが小さくなり、張出し成形性が低下した。
サンプルNo.31は、[4]加熱温度が低いため、フェライト分率が5%を超えて、穴広げ率が低下した。
サンプルNo.32は、[10]保持時間が長いため、炭素がセメンタイトとして析出し、q値が1nm−1の散乱強度が増加し、耐衝突特性が低下した。
サンプルNo.33は、[10]保持温度が高く、また焼戻しパラメータが大きすぎるため、炭化物の形成を防止できず、残留オーステナイト量が不足し、TS×ELバランスが劣化した。
サンプルNo.34は、[10]保持温度が低く、また焼戻しパラメータが小さすぎるため、炭素の拡散が不足して、残留オーステナイト量が不足し、TS×ELバランスが劣化した。
サンプルNo.35〜37は、[9]再加熱速度が小さいため、マルテンサイト内に炭化物が形成されて、q値が1nm−1の散乱強度が増加し、耐衝突特性が低下した。
サンプルNo.41は、C含有量が少ないため、所望の組織が得られず、TS×ELが低下した。
サンプルNo.42は、Mn含有量が多いため、MA平均サイズが大きくなり、穴広げ性が低下した。
サンプルNo.43は、Mn含有量が少ないため、フェライト分率が5%を超え、焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの合計分率が60%未満となり、TS×EL、張出成形性、LDRが本発明の規定から外れた。
サンプルNo.44は、SiとAlの合計含有量が少ないため、炭素がセメンタイトとして析出し、残留オーステナイト量が不足し、その結果TS×ELが低下した。
サンプルNo.45は、C含有量が多いため、十字引張強度が低下した。
サンプルNo.46は、SiとAlの合計含有量が多いため、MA平均サイズが大きくなり、穴拡げ性が低下した。
このように、本発明に規定する組成と鋼組織を満たす鋼板は、引張強度(TS)、(TS)と全伸び(EL)との積(TS×EL)、LDR、穴広げ率(λ)、張出し成形性、引張試験時の破断部の板厚減少率およびスポット溶接部の十字引張が何れも高いレベルとなることが確認できた。
また、本発明の製造方法によれば、本発明に規定する組成と鋼組織を満たす鋼板を製造することができることが確認できた。

Claims (7)

  1. C :0.15質量%〜0.35質量%、
    SiとAlの合計:0.5質量%〜3.0質量%、
    Mn:1.0質量%〜4.0質量%、
    P :0.05質量%以下、
    S :0.01質量%以下、
    を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
    鋼組織が、
    フェライト分率が5%以下であり、
    焼戻しマルテンサイトと焼戻しベイナイトの合計分率が60%以上であり、
    残留オーステナイト量が10%以上であり、
    残留オーステナイトの平均サイズが1.0μm以下であり、
    サイズ1.5μm以上の残留オーステナイトが全残留オースナイト量の2%以上であり、
    MAの平均サイズが1.0μm以下であり、
    残留オーステナイト量と等しい量である炭素濃化領域におけるMnの濃度分布の半価幅が0.3質量%以上であり、
    X線小角散乱でのq値が1nm−1での散乱強度が1.0cm−1以下である高強度鋼板。
  2. Cu、Ni、Mo、CrおよびBの1種以上の合計:1.0質量%以下、
    をさらに含む、請求項1に記載の高強度鋼板。
  3. V、Nb、Ti、ZrおよびHfの1種以上の合計:0.2質量%以下、
    をさらに含む、請求項1または2に記載の高強度鋼板。
  4. Ca、MgおよびREMの1種以上の合計:0.01%以下、
    をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高強度鋼板。
  5. C:0.15質量%〜0.35質量%、SiとAlの合計:0.5質量%〜3.0質量%、Mn:1.0質量%〜4.0質量%、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなる圧延材を準備することと、
    前記圧延材をAc点と0.2×Ac点+0.8×Ac点との間の温度で5秒以上保持した後、Ac点以上950℃以下の温度まで加熱し、5〜600秒間保持してオーステナイト化することと、
    前記オーステナイト化後、平均冷却速度15℃/秒以上で300〜500℃の範囲内の温度まで冷却し、300〜500℃の範囲内で、10℃/秒以下の冷却速度で10秒以上、300秒未満滞留することと、
    前記滞留の後、300℃以上の温度から、100℃〜300℃の間の冷却停止温度まで平均冷却速度10℃/秒以上で冷却することと、
    前記冷却停止温度から300〜500℃の範囲にある再加熱温度まで30℃/秒以上の平均加熱速度で加熱することと、
    前記再加熱温度において、式(1)で規定される焼戻しパラメータPが10000以上14500以下であり、かつ保持時間tが1〜150秒を満たすように保持することと、
    前記再加熱温度で保持した後、前記再加熱温度から200℃まで10℃/秒以上の平均冷却速度で冷却すること、
    を含む、高強度鋼板の製造方法。
    P=T×(20+log(t/3600))・・・(1)
    ここで、T:再加熱温度(K)、t:保持時間(秒)である。
  6. 前記焼戻しパラメータが11000〜14000、保持時間が1〜60秒である請求項5に記載の製造方法。
  7. 前記滞留が、300〜500℃の範囲内の一定温度で保持することを含む、請求項5または6に記載の製造方法。
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