車両用駆動装置の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態では、第一通油孔61が「連通孔」に相当し、第一挿入孔44が「挿入孔」に相当し、第一壁部41が「対象壁部」に相当する。
本明細書では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。また、本明細書では、2つの部材の配置に関して、「ある方向に見て重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線に直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの部材の双方に交わる領域が少なくとも一部に存在することを意味する。また、本明細書では、部材の形状に関して、「ある方向に延びる」とは、当該方向を基準方向として、部材の延在方向が当該基準方向に平行な形状に限らず、部材の延在方向が当該基準方向に交差する方向であっても、その交差角度が所定範囲内(例えば45度未満)である形状も含む概念として用いている。
以下の説明では、特に明記している場合を除き、「軸方向L」は、差動歯車機構30の回転軸A(図4、図5参照)を基準として定義している。回転軸Aは仮想軸であり、差動歯車機構30の差動入力ギヤ31及び差動ケース33が、回転軸A周りに回転する。そして、軸方向Lの一方側を「軸方向第一側L1」とし、軸方向Lの他方側(軸方向第一側L1とは反対側)を「軸方向第二側L2」としている。また、以下の説明では、特に明記している場合を除き、「径方向R」は、第一回転電機10の回転軸(仮想軸)を基準として定義している。第一回転電機10のロータ14が、この回転軸周りに回転する。以下の説明における各部材についての方向は、それらが車両用駆動装置1に組み付けられた状態での方向を表す。また、「上」及び「下」は、車両用駆動装置1を車両に搭載した状態での鉛直方向(図4、図5における上下方向Z)を基準として定義している。また、各部材についての方向や位置等に関する用語は、製造上許容され得る誤差による差異を有する状態を含む概念である。
図1に示すように、車両用駆動装置1は、第一回転電機10と、第一回転電機10と複数の車輪W(本実施形態では、左右2つの車輪W)との間で回転駆動力を伝達する動力伝達機構3とを備えている。複数の車輪Wには第一車輪W1が含まれ、本実施形態では、第一車輪W1及び第二車輪W2が複数の車輪Wに含まれる。動力伝達機構3を介して各車輪Wに伝達される第一回転電機10のトルクにより、車両(車両用駆動装置1が搭載された車両)が走行する。動力伝達機構3は、第一回転電機10の側から入力されるトルクを複数の車輪Wに分配する差動歯車機構30を備えている。本実施形態では、動力伝達機構3は、第一回転電機10と差動歯車機構30との間で回転駆動力を伝達するカウンタギヤ機構20を備えており、差動歯車機構30には、カウンタギヤ機構20を介して第一回転電機10のトルクが入力される。本実施形態に係る車両用駆動装置1は、車両の後側の車輪W(後輪)を駆動するための駆動装置とされている。本実施形態に係る車両用駆動装置1は、例えば、車両のフロア下に配置される。
第一回転電機10は、車両に設けられた蓄電装置(図示せず)と電気的に接続されており、当該蓄電装置から電力の供給を受けて動力を発生させる。この際、第一回転電機10が発生した動力は、動力伝達機構3を介して車輪Wに伝達される。また、第一回転電機10が回生による制動力を車輪Wに作用させる際には、第一回転電機10が発生した電力が上記蓄電装置に供給される。後述する第二回転電機2(図6参照)も、車両に設けられた蓄電装置(図示せず)から電力の供給を受けて動力を発生させる。
車両用駆動装置1は、第一回転電機10を収容するケース40を備えている。ケース40には、動力伝達機構3の少なくとも一部も収容される。本実施形態では、動力伝達機構3の大部分がケース40の内部に収容されるが、図4に示すように、動力伝達機構3に備えられる出力軸4の一部は、ケース40の外部に配置される。図1及び図4に示すように、ケース40の内部には、差動歯車機構30を収容する第一空間S1と、第一回転電機10を収容する第二空間S2とが形成されている。本実施形態では、第一空間S1にはカウンタギヤ機構20も収容されている。
本実施形態では、第一回転電機10は、差動歯車機構30の回転軸A(図4、図5参照)と平行な別軸上に配置されている。よって、本実施形態では、第一回転電機10の軸方向(以下、「回転電機軸方向」という。)は、軸方向Lと一致する。図2に示すように、第一回転電機10は、ロータ14及びステータ11を備えている。ステータ11は、ケース40に固定されるステータコア12を備えている。本実施形態では、第一回転電機10は回転界磁型の回転電機であり、ステータコア12にはコイルが巻装されている。ステータコア12から回転電機軸方向(本実施形態では軸方向L)に突出するコイルの部分であるコイルエンド部13が、ステータコア12よりも回転電機軸方向の両側に形成されている。
ロータ14は、ステータ11に対して回転可能にケース40に支持される。図2に示すように、ロータ14は、ステータコア12よりも径方向Rの内側であって、径方向Rに見てステータコア12と重複するように配置されるロータコア15を備えている。すなわち、本実施形態では、第一回転電機10は、インナーロータ型の回転電機である。このように、第一回転電機10は、ロータコア15と、ロータコア15よりも径方向Rの外側に配置されるステータコア12とを備えている。そして、ステータコア12は、ロータコア15の外周面15aに対して径方向Rに対向する円筒状の内周面12aを有している。ロータコア15の外周面15aは、回転電機軸方向(本実施形態では軸方向L)に延びる円筒状に形成されている。本実施形態では、ステータコア12の内周面12aは、ステータコア12に形成された複数のティースのそれぞれの径方向Rの内側の端面によって形成される。
図2に示すように、ロータコア15は、ケース40に対して回転自在に支持されたロータ軸16の外周面に固定されている。すなわち、ロータ14は、ケース40に対して回転自在に支持されるロータ軸16と、ロータ軸16の外周面に固定されるロータコア15とを備えている。ロータコア15の内周面は、ロータ軸16に熱伝達可能に接している。本実施形態では、第一回転電機10は埋込磁石構造の回転電機(例えば、同期電動機)であり、ロータコア15には永久磁石が埋め込まれている。
図1〜図3に示すように、ケース40は、ロータコア15よりも回転電機軸方向の一方側(本実施形態では軸方向第一側L1)に配置される第一壁部41と、ロータコア15よりも回転電機軸方向の他方側(本実施形態では軸方向第二側L2)に配置される第二壁部42とを備えている。本実施形態では、更に、ケース40は、回転電機軸方向(本実施形態では軸方向L)における第一壁部41とロータコア15との間に配置される第三壁部43を備えている。上述した第一空間S1は、回転電機軸方向における第一壁部41と第三壁部43との間に形成され、上述した第二空間S2は、回転電機軸方向における第二壁部42と第三壁部43との間に形成されている。よって、第一空間S1と第二空間S2とは、第三壁部43によって回転電機軸方向に区画されている。
ロータ軸16は、第二壁部42と第三壁部43とによりケース40に対して回転自在に支持されている。具体的には、図2に示すように、ロータコア15よりも軸方向第一側L1に、ロータ軸16を第三壁部43に対して回転自在に支持する第一軸受B1が配置され、ロータコア15よりも軸方向第二側L2に、ロータ軸16を第二壁部42に対して回転自在に支持する第二軸受B2が配置されている。
ロータ軸16は、第一回転電機10のトルクを出力するための出力ギヤ17に連結されている。本実施形態では、図1及び図3に示すように、第一回転電機10のロータ軸16に連結された出力ギヤ17が、回転電機軸方向(本実施形態では軸方向L)における第一壁部41と第三壁部43との間に配置されている。本実施形態では、出力ギヤ17は、ロータ軸16と同軸上に且つロータ軸16と一体回転するように、ロータ軸16よりも軸方向第一側L1に配置されている。そして、出力ギヤ17は、第一壁部41と第三壁部43とによりケース40に対して回転自在に支持されている。具体的には、図3に示すように、出力ギヤ17よりも軸方向第一側L1に、出力ギヤ17が形成された中間軸8を第一壁部41に対して回転自在に支持する第三軸受B3が配置され、出力ギヤ17よりも軸方向第二側L2に、中間軸8を第三壁部43に対して回転自在に支持する第四軸受B4が配置されている。図2に示すように、中間軸8の軸方向第二側L2の端部は、ロータ軸16の軸方向第一側L1の端部にスプライン係合により連結されている。これにより、ロータ軸16は、出力ギヤ17と一体回転するように連結されている。
図1及び図3に示すように、カウンタギヤ機構20は、第一回転電機10の出力ギヤ17に噛み合う第一ギヤ21と、差動歯車機構30の差動入力ギヤ31に噛み合う第二ギヤ22と、第一ギヤ21と第二ギヤ22とを連結する連結軸23と、を備えている。カウンタギヤ機構20は、回転電機軸方向(本実施形態では軸方向L)における第一壁部41と第三壁部43との間に配置されており、連結軸23は、第一壁部41と第三壁部43とによりケース40に対して回転自在に支持されている。具体的には、図3に示すように、第一ギヤ21及び第二ギヤ22よりも軸方向第一側L1に、連結軸23を第一壁部41に対して回転自在に支持する第五軸受B5が配置され、第一ギヤ21及び第二ギヤ22よりも軸方向第二側L2に、連結軸23を第三壁部43に対して回転自在に支持する第六軸受B6が配置されている。
図4に示すように、差動歯車機構30は、差動入力ギヤ31と、差動出力ギヤ32(サイドギヤ)と、差動出力ギヤ32を収容すると共に差動入力ギヤ31と一体回転する差動ケース33と、を備えている。本明細書では、互いに一体回転する差動入力ギヤ31及び差動ケース33の回転軸心を、差動歯車機構30の回転軸Aとしている。本実施形態では、差動歯車機構30の少なくとも一部が、第一回転電機10のロータ14の最上部と最下部との間の高さに配置されている。すなわち、差動歯車機構30とロータ14とは、上下方向Zの配置領域が互いに重複している。具体的には、図5に示されるロータコア15の外周面15aと差動歯車機構30の回転軸Aとの上下方向Zの位置関係から明らかなように、本実施形態では、差動歯車機構30の回転軸Aは、第一回転電機10のロータコア15の最上部と最下部との間の高さに配置されている。なお、ロータコア15の外周面15aは、ステータコア12の内周面12aよりも僅かに径方向Rの内側に配置されるが、図5では簡略化のためこれらの外周面15aと内周面12aとを同一の線分で示している。
差動入力ギヤ31は、第一回転電機10のトルクを差動歯車機構30に入力するためのギヤに噛み合うギヤである。本実施形態では、差動入力ギヤ31は、カウンタギヤ機構20の第二ギヤ22に噛み合っている。図4に示すように、差動ケース33の内部には、当該差動ケース33と一体回転するピニオンシャフト37と、ピニオンシャフト37に回転自在に支持された複数のピニオンギヤ36とが配置されている。差動出力ギヤ32は、ピニオンシャフト37に対して軸方向Lの両側に分かれて配置されるように一対備えられており、一対の差動出力ギヤ32のそれぞれが、複数のピニオンギヤ36に噛み合うように配置されている。
図1及び図4に示すように、一対の差動出力ギヤ32のそれぞれは、出力軸4(ドライブシャフト)によって車輪Wに連結されている。すなわち、動力伝達機構3は、差動歯車機構30と車輪Wとを連結する出力軸4を備えている。左右2つの車輪Wの一方を第一車輪W1とし、左右2つの車輪Wの他方を第二車輪W2とすると、動力伝達機構3は、差動歯車機構30(具体的には、一対の差動出力ギヤ32の一方)と第一車輪W1とを連結する出力軸4と、差動歯車機構30(具体的には、一対の差動出力ギヤ32の他方)と第二車輪W2とを連結する出力軸4と、を備えている。差動出力ギヤ32のそれぞれは、出力軸4と一体回転するように連結(例えば、スプライン係合による連結)されている。差動入力ギヤ31にトルクが入力されると、差動ケース33の回転に伴い複数のピニオンギヤ36が公転することで、一対の差動出力ギヤ32(一対の出力軸4)が回転駆動される。この際、車両がカーブ路を走行すること等により第一車輪W1と第二車輪W2との間で回転抵抗に差が生じると、複数のピニオンギヤ36が自転することで、一対の差動出力ギヤ32が互いに異なる速度で回転する。
図4に示すように、出力軸4は、ケース40の内部と外部とを連通する挿通孔46に挿入された状態で、ケース40に対して回転可能に支持されている。そして、挿通孔46の内周面に、出力軸4の外周面に対して摺動する状態で接触する接触面5aを有するシール部材5が配置されている。シール部材5は、ケース40の内部の油が挿通孔46からケース40の外部に漏出することを防止するために設けられている。本実施形態では、シール部材5は、挿通孔46の内周面に圧入される環状の被固定部と、被固定部に支持された状態で出力軸4の外周面に接触する環状のシール部とを備えており、シール部の内周面により接触面5aが形成されている。出力軸4における挿通孔46と軸方向Lの同じ位置に配置される部分に、出力軸4と一体回転する部材(筒状部材)が出力軸4よりも径方向(回転軸Aを基準とする径方向)の外側に配置される場合には、シール部材5の接触面5aが、出力軸4と一体回転する当該部材の外周面に対して摺動する状態で接触する構成とすることができる。
図4に示すように、差動歯車機構30は、出力軸4の軸方向における差動ケース33と差動出力ギヤ32との間に配置されるワッシャ(34,35)を備えている。なお、出力軸4は、回転軸Aと同軸に配置されるため、出力軸4の軸方向は軸方向Lと一致する。ワッシャ(34,35)は、差動出力ギヤ32における軸方向Lでピニオンシャフト37とは反対側の端面に接触するように配置される。本実施形態では、差動歯車機構30は、一対の差動出力ギヤ32の一方と差動ケース33との間に、コニカルワッシャ34及びサイドワッシャ35の2つのワッシャ(34,35)を備えると共に、一対の差動出力ギヤ32の他方と差動ケース33との間に、コニカルワッシャ34及びサイドワッシャ35の2つのワッシャ(34,35)を備えている。サイドワッシャ35は、円環板状に形成されたスラストワッシャであり、差動出力ギヤ32と差動ケース33との間の摩擦抵抗を低減するために用いられている。また、コニカルワッシャ34は、皿ばねであり、弾性復元力により差動出力ギヤ32をピニオンギヤ36側に付勢するために用いられている。
図6に示すように、車両用駆動装置1は、油圧ポンプ(51,52)を備えている。そして、図5及び図6に示すように、ケース40の内部には、油圧ポンプ(51,52)が吸引する油を貯留する第一貯留部70と、第一貯留部70よりも上側に配置されて油を貯留する第二貯留部80とが形成されている。第二貯留部80は、第一貯留部70の油面を下げる等のために油を貯留するキャッチタンクとして機能する。第二貯留部80は、締結ボルト等により、ケース40の内面に固定されている。
本実施形態では、車両用駆動装置1は、第一油圧ポンプ51及び第二油圧ポンプ52の2つの油圧ポンプ(51,52)を備えている。第一油圧ポンプ51は、差動歯車機構30と分離不可能に連結され、差動歯車機構30の回転と常に連動して駆動されるポンプである。言い換えれば、第一油圧ポンプ51は、複数の車輪Wの回転に連動して駆動されるポンプである。すなわち、第一油圧ポンプ51は、第一回転電機10により駆動されるポンプである。よって、第一油圧ポンプ51の吐出油量は、車速が高くなるに従って多くなる。図3に示すように、本実施形態では、第一油圧ポンプ51のポンプロータに連結されて第一油圧ポンプ51を駆動するポンプ駆動軸53が、カウンタギヤ機構20の連結軸23と一体回転するように連結されている。すなわち、本実施形態では、第一油圧ポンプ51(ポンプ駆動軸53)は、カウンタギヤ機構20を介して、差動歯車機構30と分離不可能に連結されている。また、本実施形態では、第一油圧ポンプ51は、第一壁部41に設けられている。具体的には、第一壁部41と、第一壁部41の軸方向第一側L1の端面に取り付けられたポンプカバー54との間に、ポンプロータを収容するポンプ室が形成されている。本実施形態では、複数の車輪Wが車両の前進方向に回転している状態と、複数の車輪Wが車両の後進方向に回転している状態とのうちの、少なくとも前者の状態で、第一油圧ポンプ51が差動歯車機構30の回転に連動して(複数の車輪Wの回転に連動して)駆動されるように構成されている。
図6に示すように、第二油圧ポンプ52は、第一回転電機10とは異なる第二回転電機2により駆動されるポンプである。第二回転電機2は、動力伝達機構3による回転駆動力の伝達経路とは分離して設けられている。すなわち、第二油圧ポンプ52は、専用の回転電機により駆動されるポンプであり、第二油圧ポンプ52の吐出油量は、第一油圧ポンプ51とは異なり、車速とは無関係に調整可能である。第一油圧ポンプ51や第二油圧ポンプ52として、例えば、内接歯車ポンプ、外接歯車ポンプ、ベーンポンプ等を用いることができる。なお、図6では、第一油圧ポンプ51をMOP(Mechanical Oil Pump)と表記し、第二油圧ポンプ52をEOP(Electric Oil Pump)と表記し、第二回転電機2をM(Motor)と表記し、カウンタギヤ機構20をCG(Counter Gear)と表記し、後述するオイルクーラ7をO/C(Oil Cooler)と表記している。
図5及び図6に示すように、第一貯留部70は、ケース40の内部における下側の部分(ケース40の底部)に形成されている。第一貯留部70の油面の高さは、車両用駆動装置1に備えられる各油路や第二貯留部80に存在する油量によって変化する。ここで、複数の車輪Wの回転が停止している状態での第一貯留部70の油面の高さを「第一高さH1」とする。すなわち、第一高さH1は、車両が停止している車両停止状態での第一貯留部70の油面の高さである。本実施形態では、第一高さH1は、車両が平坦路に停止している状態での第一貯留部70の油面の高さとする。
また、複数の車輪Wが回転している状態での第一貯留部70の油面の高さを「第二高さH2」とする。すなわち、第二高さH2は、車両が走行している車両走行状態での第一貯留部70の油面の高さである。本実施形態では、第二高さH2は、複数の車輪Wが車両の前進方向に回転している状態(車両が前進走行している状態)での第一貯留部70の油面の高さとする。以下では、特に明記している場合を除き、「車両走行状態」は、車両が前進走行している状態を指す。また、本実施形態では、第二高さH2は、車両が平坦路を一定速度で直進している状態(すなわち、第一貯留部70に慣性力が作用していない状態)での第一貯留部70の油面の高さとする。
上述したように、本実施形態では、ケース40の内部には、差動歯車機構30を収容する第一空間S1と、第一回転電機10を収容する第二空間S2とが形成されている(図1参照)。本実施形態では、第一空間S1における下側の部分と、第二空間S2における下側の部分とに亘って、第一貯留部70が形成されている。そして、本実施形態では、図6に示すように、第一空間S1と第二空間S2とを区画する第三壁部43における第二高さH2よりも低い位置に、第一空間S1と第二空間S2とを連通させる連通部45が形成されている。よって、第二空間S2における油面は、第一空間S1における油面の高さに応じて、上昇又は下降する。ケース40の内部における油の移動のない静的な状態では、第二空間S2における油面の高さは、第一空間S1における油面の高さと一致する。
図1及び図6に示すように、本実施形態では、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aは、第二貯留部80に油を供給する供給部96に連通している。よって、車両走行状態では、第一油圧ポンプ51が駆動されることで第一貯留部70の油が吸引され、第一貯留部70から吸引された油の少なくとも一部が、第二貯留部80に供給されて貯留される。よって、第二高さH2は、第二貯留部80における油の貯留量に相当する高さ以上、第一高さH1よりも低くなる。図1に示すように、本実施形態では、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51a(図3参照)と供給部96とを接続する貯留油路97が、第一壁部41に形成されている。そして、図1及び図5に示すように、供給部96は、第二貯留部80よりも上側に形成されており、本実施形態では、第二貯留部80よりも上側においてケース40の内面(第一壁部41の内面)に開口するように形成されている。第二貯留部80は上方に開口する槽状に形成されており、供給部96から流出した油は第二貯留部80の上側の開口部から第二貯留部80の内部に供給される。
本実施形態では、図5及び図6に示すように、第二高さH2は、差動入力ギヤ31の下側の一部が第一貯留部70の油に浸かる高さとなる。また、図1に示すように、第二貯留部80と差動入力ギヤ31とは、差動入力ギヤ31の軸方向Lの配置領域が互いに重複するように配置されている。そして、図5に示すように、正回転する差動入力ギヤ31(図5において実線の太矢印で示す方向に回転する差動入力ギヤ31)により掻き上げられた第一貯留部70の油を第二貯留部80に供給するための供給油路94が、ケース40の内部に形成されている。供給油路94は、差動入力ギヤ31の外周部とケース40の内面との間の隙間に形成されている。なお、正回転とは、車輪Wを車両の前進方向に回転させるための回転方向である。よって、車両走行状態では、差動入力ギヤ31により掻き上げられた第一貯留部70の油は、供給油路94を通ってケース40の内部における第二貯留部80よりも上側の空間まで移動した後、第二貯留部80の上側の開口部から第二貯留部80の内部に供給される。
このように、本実施形態では、車両走行状態における第一貯留部70から第二貯留部80への油の供給が、第一油圧ポンプ51の駆動と差動入力ギヤ31による掻き上げとの双方によって行われる。よって、第一油圧ポンプ51の駆動と差動入力ギヤ31による掻き上げとのいずれか一方のみによって、第一貯留部70から第二貯留部80への油の供給を行う場合に比べて、車両が前進走行を開始してからの第一貯留部70の油面の低下速度を高めることが可能となっている。
図5に示すように、本実施形態では、第二貯留部80は、軸方向L(差動入力ギヤ31の軸方向)に直交する水平方向(図5における左右方向)に並ぶ2つの室(81,82)に区画されている。2つの室(81,82)のそれぞれは、上方に開口する槽状に形成されている。ここで、2つの室(81,82)のうちの供給油路94に近い側の室を第一室81とし、残りの室を第二室82とする。本実施形態では、第二貯留部80に油を供給する供給部96は、第二室82に油を供給可能な位置に設けられている。すなわち、本実施形態では、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aは、第二室82に油を供給する供給部96に連通している。
そして、本実施形態では、第一室81を区画する周壁部(第一周壁部81a)の上端が、第二室82を区画する周壁部(第二周壁部82a)の上端よりも低い位置に配置されている。なお、第一室81と第二室82を区画する隔壁83は、第一周壁部81a及び第二周壁部82aのそれぞれに含まれるが、第一周壁部81aの上端の高さは、第一周壁部81aにおける隔壁83を除く部分の上端の高さとする。このように、第一周壁部81aの上端を第二周壁部82aの上端よりも低い位置に配置することで、これらの上端が同じ高さに配置される場合に比べて、第一周壁部81aの上方の空間を大きく確保して、供給油路94から第一室81への油の供給効率の向上を図ることが可能となっている。また、本実施形態では、第一室81の容積は、第二室82の容積よりも小さい。すなわち、供給部96から油が供給される第二室82は、第一室81よりも容積が大きく形成されており、第二貯留部80の貯留可能容量を適切に確保することが可能となっている。
図5に示すように、本実施形態では、第二貯留部80は、当該第二貯留部80の油を出力ギヤ17と第一ギヤ21との少なくとも一方に供給する排出部84を備えている。本実施形態では、排出部84は、出力ギヤ17よりも上側であって上下方向Zに見て出力ギヤ17と重複する位置に形成されている。よって、本実施形態では、排出部84は、出力ギヤ17に対して油を直接供給するように構成されている。なお、排出部84が出力ギヤ17と第一ギヤ21との噛み合い部に対して油を直接供給する位置に形成される構成や、排出部84が第一ギヤ21に対して油を直接供給する位置に形成される構成とすることもできる。本実施形態では、排出部84は、第二室82の最下部に形成されている。また、本実施形態では、排出部84は、第二貯留部80の底部を上下方向Zに貫通する貫通孔により形成されている。図示は省略するが、第一室81の最下部にも、第二貯留部80の油を動力伝達機構3に含まれるギヤ(例えば、差動入力ギヤ31)に供給する排出部が形成されている。よって、車両が走行している状態から車両が停止すると、第二貯留部80への油の供給が停止された状態で排出部84からの油の排出が行われるため、第二貯留部80における油の貯留量は車両の走行開始前の状態に戻される。これに伴い、第一貯留部70の油面の高さは第二高さH2から第一高さH1まで上昇する。
ここで、第一貯留部70の油面の高さが第一高さH1である場合の第一貯留部70の油量から、第一貯留部70の油面の高さが第二高さH2である場合の第一貯留部70の油量を減算した値を「差分油量」とすると、第二高さH2を所望の高さとするためには、車両走行状態において、第一貯留部70以外の場所に存在する油量を、上記差分油量とする必要がある。そして、第一貯留部70以外の場所に存在する油量を上記差分油量とするためには、第一貯留部70以外に油を存在させることが可能な各場所の容積の総和が、上記差分油量以上である必要がある。第一貯留部70以外に油を存在させることが可能な場所には、第二貯留部80と、第一貯留部70の油を第一油圧ポンプ51の駆動により油の供給対象に導くための油路とが含まれるため、例えば、第二貯留部80における油の貯留可能容量と、第一貯留部70の油を第一油圧ポンプ51の駆動により油の供給対象に導くための油路の容積との和が、上記差分油量以上となる構成とすることができる。なお、ここでの油路の容積には、車両停止状態において油路内に残留する油の体積分は含めない。本実施形態では、第一貯留部70の油を第一油圧ポンプ51の駆動により油の供給対象に導くための油路には、後述する第一油路91、及び上述した貯留油路97が含まれる。第一貯留部70の油を第一油圧ポンプ51の駆動により油の供給対象に導くための油路に、更に、第一貯留部70と第一油圧ポンプ51の吸入ポートとを接続する吸入油路を含めても良い。
本実施形態では、第一油圧ポンプ51に加えて第二油圧ポンプ52が備えられ、この第二油圧ポンプ52も第一貯留部70の油を吸引する。よって、車両走行状態であって第二油圧ポンプ52が作動している状態での第一貯留部70の油面を第二高さH2とする場合には、第二貯留部80における油の貯留可能容量と、第一貯留部70の油を第一油圧ポンプ51の駆動により油の供給対象に導くための油路の容積と、第一貯留部70の油を第二油圧ポンプ52の駆動により油の供給対象に導くための油路の容積との和が、上記差分油量以上となる構成とすることができる。なお、ここでの油路の容積には、車両停止状態において油路内に残留する油の体積分は含めない。本実施形態では、第一貯留部70の油を第二油圧ポンプ52の駆動により油の供給対象に導くための油路には、後述する第二油路92が含まれる。第一貯留部70の油を第二油圧ポンプ52の駆動により油の供給対象に導くための油路に、更に、第一貯留部70と第二油圧ポンプ52の吸入ポートとを接続する吸入油路を含めても良い。
本実施形態では、図4及び図5に示すように、第一高さH1が、差動歯車機構30の少なくとも一部(本実施形態では下側の一部)が第一貯留部70の油に浸かる高さとなる。これにより、車両の発進に伴い回転を開始する際の差動歯車機構30の状態を、少なくとも一部が油に浸かった状態とすることができ、この結果、車両の発進時に差動歯車機構30の潤滑不足が発生する可能性を低く抑えることが可能となっている。
具体的には、本実施形態では、第一高さH1は、シール部材5の接触面5aの最下部よりも上側の高さとなる。また、本実施形態では、第一高さH1は、回転軸Aよりも下側の高さとなる。また、本実施形態では、第一高さH1は、ワッシャ(34,35)の少なくとも一部(本実施形態では下側の一部)が第一貯留部70の油に浸かる高さとなる。具体的には、第一高さH1は、コニカルワッシャ34の下側の一部及びサイドワッシャ35の下側の一部が第一貯留部70の油に浸かる高さとなる。なお、図4に示すように、本実施形態では、第一車輪W1(図1参照)に連結される出力軸4の外周面に接触する接触面5a(軸方向第二側L2のシール部材5の接触面5a)の最下部は、第二車輪W2(図1参照)に連結される出力軸4の外周面に接触する接触面5a(軸方向第一側L1のシール部材5の接触面5a)の最下部よりも上側に位置する。このような場合、第一高さH1が、軸方向Lの両側のシール部材5の双方の最下部よりも上側の高さであると好適である。言い換えれば、一対のシール部材5のうちの接触面5aの最下部が高い方のシール部材5が設けられる側の車輪Wを第一車輪W1として、第一高さH1が、第一車輪W1に連結される出力軸4の外周面に接触する接触面5aの最下部よりも上側の高さであると好適である。
第一高さH1は第二油圧ポンプ52の作動状態によって変化し得る。この点を考慮して、例えば、第一高さH1を、車両停止状態であって第二油圧ポンプ52が作動していない状態での第一貯留部70の油面の高さとすることができる。なお、第一高さH1を、車両停止状態であって第二油圧ポンプ52が作動している状態での第一貯留部70の油面の高さとしても良い。
本実施形態では、図5及び図6に示すように、第二高さH2が、第一回転電機10のロータコア15の最下部(外周面15aの最下部)よりも下側の高さとなる。すなわち、本実施形態では、第一高さH1が、ロータコア15の少なくとも一部(本実施形態では下側の一部)が第一貯留部70の油に浸かる高さとなるのに対して(図5参照)、第二高さH2は、第一回転電機10のロータコア15の最下部よりも下側の高さとなる。これにより、車両走行状態において、ロータコア15が第一貯留部70の油に浸かることを回避して、ロータコア15の回転による油の攪拌損失の低減を図ることが可能となっている。また、第一貯留部70の油面の低下に応じて、車両の走行中における差動歯車機構30(差動入力ギヤ31等)の回転による油の攪拌損失の低減を図ることもできる。
本実施形態では、第二高さH2が、ステータコア12の内周面12aにおける最下部よりも下側の高さとなる。すなわち、本実施形態では、第一高さH1が、ステータコア12の内周面12aにおける最下部よりも上側の高さとなるのに対して(図5参照)、第二高さH2は、ステータコア12の内周面12aにおける最下部よりも下側の高さとなる。これにより、車両走行状態において、第一貯留部70の油面の高さをエアギャップに油が浸入しない程度の低いものとして、ロータ14の回転による油のせん断損失の抑制を図ることが可能となっている。なお、図6に示すように、本実施形態では、第二高さH2が、コイルエンド部13の一部が第一貯留部70の油に浸かる高さとなるため、車両走行状態において、第一貯留部70の油によりステータ11を冷却することも可能となっている。
第二高さH2は、第一高さH1と同様に、第二油圧ポンプ52の作動状態によって変化し得る。また、第二高さH2は、車速によっても変化し得る。例えば、第二高さH2を、車両走行状態であって第二油圧ポンプ52が作動していない状態での第一貯留部70の油面の高さとすることができる。なお、第二高さH2を、車両走行状態であって第二油圧ポンプ52が作動している状態での第一貯留部70の油面の高さとしても良い。また、ここでの「車両走行状態」は、車速が予め定められた速度閾値以上である状態とすることができる。この速度閾値は、例えば、第二貯留部80の油の貯留量が第二貯留部80の貯留可能容量と等しくなる速度範囲、すなわち、第二貯留部80の上方の開口部から油が溢れ出る状態となる速度範囲に含まれる速度とすることができる。例えば、速度閾値を、時速15km〜時速30kmの範囲に含まれる速度とすることができる。
上述したように、本実施形態では、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aは、第二貯留部80に油を供給する供給部96に連通している。そして、図6に示すように、本実施形態では、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aは、更に、第一回転電機10を冷却するための冷却油路93に、第二貯留部80を介することなく連通している。以下に説明するように、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aは、第一油路91によって、冷却油路93に接続されている。また、本実施形態では、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aは、更に、ケース40の内部に配置される軸受Bに、第二貯留部80を介することなく連通している。以下に説明するように、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aは、第一油路91によって、ケース40の内部に配置される軸受Bに対する油の供給部(後述する第二通油孔62、第三通油孔63、及び第四通油孔64)に接続されている。ケース40の内部に配置される軸受Bには、上述した第一軸受B1、第二軸受B2、第三軸受B3、第四軸受B4、第五軸受B5、及び第六軸受B6が含まれ、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aは、これら6個の軸受Bの少なくともいずれかに、第二貯留部80を介することなく連通している。
図6に示すように、本実施形態では、車両用駆動装置1は、第一油路91と第二油路92とを備えている。第一油路91は、第一油圧ポンプ51が吐出した油を冷却油としてロータ14に供給すると共に潤滑油として動力伝達機構3に供給する油路である。第二油路92は、第二油圧ポンプ52が吐出した油を冷却油としてステータ11に供給する油路である。このような第一油路91及び第二油路92を備えることで、ロータ14及びステータ11の双方を車速によらずに適切に冷却することが可能となっている。
補足説明すると、ロータ14は車速に応じた回転速度で回転するため、鉄損によるロータ14の発熱量は、交番磁界の周波数が高くなるに従って(すなわち、車速が高くなるに従って)大きくなる。本実施形態では、ロータコア15には永久磁石が埋め込まれており、車速が高くなるに従って、ヒステリシス損や渦電流損、すなわち鉄損が増加して、永久磁石が発熱しやすくなる。この点に関し、第一油路91を車両用駆動装置1に備えることで、車速が高くなるに従って吐出油量が多くなる第一油圧ポンプ51が吐出した油を、車速が高くなるに従って発熱量が大きくなるロータ14に対して冷却油として供給することができる。すなわち、ロータ14に対して供給される冷却油の量が過少な場合には、ロータ14を適切に冷却することができず、ロータ14に対して供給される冷却油の量が過大な場合には、油の引き摺り損失が無駄に大きくなるおそれがあるが、第一油圧ポンプ51が吐出した油によりロータ14を冷却する構成とすることで、ロータ14の発熱量に応じた油量の冷却油をロータ14に供給して、ロータ14を適切に冷却することが可能となっている。なお、図1及び図3に示すように、第一油圧ポンプ51にはリリーフバルブ55が備えられており、車速が高く第一油圧ポンプ51の吐出油量が過剰となった場合や、油路のつまり等により油圧が異常に高くなった場合には、第一油圧ポンプ51から吐出される油の一部をリリーフバルブ55から排出して、第一貯留部70に戻すように構成されている。このように第一油圧ポンプ51から第一油路91に供給される油量を所定値以下に制限することで、油の引き摺り損失を最適化することも可能となる。第一油圧ポンプ51が吐出した油は、第一油路91により潤滑油として動力伝達機構3にも供給されるため、車両の走行中に動力伝達機構3の各部を適切に潤滑することもできる。
また、本実施形態では、ステータ11は、コイルが巻装される電機子であるため、ステータ11の発熱量は、車速には直接的に依存せず、コイルに流れる電流が大きくなるに従って大きくなる。この点に関し、第二油路92を車両用駆動装置1に備えることで、車速とは無関係に吐出油量を調整可能な第二油圧ポンプ52が吐出した油を、冷却油としてステータ11に供給することができる。よって、ステータ11の発熱量に応じた油量の冷却油をステータ11に供給して、ステータ11を適切に冷却することが可能となっている。例えば、登坂走行時のように車速が低い状態で第一回転電機10が高トルクを出力する場合には、ステータ11の発熱量が大きくなりやすいが、吐出油量が車速に応じた油量となる第一油圧ポンプ51ではなく、車速とは無関係に吐出油量を調整可能な第二油圧ポンプ52からステータ11に油を供給することで、ステータ11を適切に冷却することができる。なお、このように車速が低い状態では、ロータ14の発熱量は少なく、ロータ14に多くの冷却油が供給されると油の引き摺り損失が無駄に大きくなるおそれがあるが、本実施形態に係る車両用駆動装置1では、ロータ14には第一油圧ポンプ51から冷却油が供給されるため、このような問題を回避することが可能である。ロータ14を冷却するための油を第二油圧ポンプ52が吐出する必要がないため、第二油圧ポンプ52に要求される最大吐出油量をその分少なく抑えて、第二油圧ポンプ52の小型化を図ることができるという利点もある。本実施形態では、図6に示すように、第二油路92には、油を冷却するオイルクーラ7(熱交換器)が設けられており、オイルクーラ7に冷却された油がステータ11に供給される。
図2に示すように、本実施形態では、冷却油路93は、ロータコア15を径方向Rの内側から冷却するように構成されている。すなわち、本実施形態では、第一油路91は、ロータコア15を径方向Rの内側から冷却する冷却油路93に連通している。具体的には、ロータ軸16は、軸方向Lに延びる筒状に形成されており、ロータ軸16の内部に冷却油路93が形成されている。冷却油路93は、軸方向Lに延びるように形成されている。ロータ軸16の外周面にはロータコア15が固定されているため、冷却油路93を流通する油とロータ軸16との間の熱交換によって、ロータコア15が径方向Rの内側から冷却される。
熱のこもりやすいロータコア15の中央部分を重点的に冷却するためには、ロータコア15の軸方向Lの中央部分と熱交換可能な冷却油路93内の位置に、比較的低温の油を供給できることが望ましい。この点に鑑みて、本実施形態では、ロータ軸16よりも径方向Rの内側に配置される油路形成部材60を用いることで、ロータコア15の軸方向Lの中央部分と熱交換可能な冷却油路93内の位置に、比較的低温の油を供給することを可能としている。具体的には、図1〜図3に示すように、油路形成部材60は、ロータ軸16よりも小径であって軸方向Lに延びる筒状に形成されている。本実施形態では、油路形成部材60は、ロータ軸16と同軸上に配置されている。そして、油路形成部材60の外周面とロータ軸16の内周面との間に、冷却油路93が形成されている。また、油路形成部材60の内周面によって囲まれた空間に、内部油路91bが形成されている。内部油路91bは、軸方向Lに延びるように形成されている。内部油路91bは、第一油路91に含まれる油路であり、第一油路91の上流側部分と冷却油路93とを接続する油路である。なお、本実施形態では、ロータ軸16よりも軸方向第一側L1に、軸方向Lに延びる筒状に形成される中間軸8が、ロータ軸16と同軸上に且つロータ軸16と一体回転するように配置されている。そして、油路形成部材60は、中間軸8よりも小径に形成されており、油路形成部材60における軸方向第一側L1の部分は、中間軸8よりも径方向Rの内側に配置されている。
本実施形態では、油路形成部材60の軸方向第一側L1の端部は第一壁部41に保持され、油路形成部材60の軸方向第二側L2の端部は第二壁部42に保持されている。そして、図3に示すように、本実施形態では、第一油路91における第一油圧ポンプ51からの吐出油路91aと内部油路91bとの接続部分91cが、第一壁部41に形成されている。すなわち、本実施形態では、接続部分91cは、第一壁部41又は第二壁部42に形成され、具体的には、第一壁部41に形成されている。第一壁部41及び第二壁部42のうちの接続部分91cが形成される壁部を「対象壁部」とすると、本実施形態では、第一壁部41が対象壁部である。ここで、吐出油路91aは、上流側の端部が第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aに接続された油路である。第一油圧ポンプ51から吐出された油は、吐出油路91a及び接続部分91cを流通した後、内部油路91bに流入する。そして、内部油路91bに流入した油は、内部油路91bを軸方向第二側L2に向かって流通する。
図2に示すように、油路形成部材60は、内部油路91bと冷却油路93とを連通する第一通油孔61を備えている。第一通油孔61は、油路形成部材60を径方向Rの内側から外側に貫通するように形成されている。本実施形態では、第一通油孔61は、油路形成部材60を径方向Rに平行に貫通するように形成されている。内部油路91bを流通する油の一部は、第一通油孔61を径方向Rの外側に向かって流通して冷却油路93に流入する。本実施形態では、複数の第一通油孔61が、軸方向Lの同じ位置において周方向(第一回転電機10の周方向)の互いに異なる位置に形成されている。
内部油路91bから冷却油路93に流入した油は、ロータ軸16の回転に伴う遠心力によりロータ軸16の内周面に密着した状態で、冷却油路93を軸方向Lに流通する。本実施形態では、第一通油孔61の径方向Rの外側の開口部は、軸方向Lにおけるロータコア15の配置領域内に配置されている。具体的には、第一通油孔61の径方向Rの外側の開口部は、軸方向Lにおけるロータコア15の中央部分に配置されている。よって、ロータコア15の軸方向Lの中央部分と熱交換可能な冷却油路93内の位置に、内部油路91bの油と同程度の温度の油を供給することができ、この結果、熱がこもりやすいロータコア15の軸方向Lの中央部分を重点的に冷却することが可能となっている。
本実施形態では、図2に示すように、第一通油孔61に対して軸方向Lの両側に、冷却油路93の油をロータ軸16の外側の空間に排出するための排出油路16aが形成されている。排出油路16aは、ロータ軸16を径方向Rの内側から外側に貫通するように形成されている。よって、図2に破線矢印で油の流れを示すように、内部油路91bから冷却油路93に流入した油は、軸方向Lにおけるロータコア15の中央部分から軸方向Lの両側に向かって流通した後、ロータ軸16の回転に伴う遠心力により、排出油路16aのそれぞれからロータ軸16よりも径方向Rの外側の空間に排出される。本実施形態では、排出油路16aから径方向Rの外側に排出された油は、遠心力によってコイルエンド部13に供給される。すなわち、ロータコア15を冷却した後の油を利用して、軸方向Lの両側のコイルエンド部13を冷却することが可能となっている。
以上のように、本実施形態では、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aは、吐出油路91a、接続部分91c、及び内部油路91bを経由して、すなわち、第一油路91を経由して、冷却油路93に連通している。図2及び図3に示すように、油路形成部材60には、第一通油孔61以外にも、油路形成部材60を径方向Rの内側から外側に貫通する複数の通油孔(第二通油孔62、第三通油孔63、及び第四通油孔64)が形成されている。よって、内部油路91bの油の一部は、第二通油孔62を通って第三軸受B3に潤滑油として供給される。また、内部油路91bの油の一部は、第三通油孔63を通って第一軸受B1及び第四軸受B4に潤滑油として供給される。なお、中間軸8には、中間軸8を径方向Rの内側から外側に貫通する連通油路8aが形成されており、第三通油孔63から径方向Rの外側に流出した油は、ロータ軸16と中間軸8とのスプライン係合部や連通油路8aを通って第一軸受B1及び第四軸受B4に供給される。また、内部油路91bの油の一部は、第四通油孔64を通って第二軸受B2に潤滑油として供給される。このように、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aは、吐出油路91a、接続部分91c、及び内部油路91bを経由して、すなわち、第一油路91を経由して、ケース40の内部に配置された軸受Bに連通している。このように、第一油路91は、第一油圧ポンプ51が吐出した油を冷却油としてロータ14に供給すると共に潤滑油として動力伝達機構3(ここでは、動力伝達機構3が備える軸受B)に供給する油路である。
本実施形態では、第一油路91は、第一油圧ポンプ51が吐出した油を潤滑油としてカウンタギヤ機構20にも供給するように構成されている。すなわち、第一油路91による潤滑油の供給先の動力伝達機構3には、軸受Bに加えてカウンタギヤ機構20が含まれる。具体的には、図3に示すように、第一油路91は、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aと、カウンタギヤ機構20の連結軸23の中空部分とを接続する油路(本実施形態では、ポンプ駆動軸53の内部に形成される軸内油路91d)を備えている。軸内油路91dから連結軸23の中空部分に流入した油は、例えば、第一ギヤ21、第二ギヤ22、第五軸受B5、或いは第六軸受B6に潤滑油として供給される。
図3に示すように、本実施形態では、第一油路91の接続部分91cは、第一壁部41(対象壁部)の内部に形成されている。具体的には、第一壁部41は、油路形成部材60の軸方向第一側L1の端部が挿入される第一挿入孔44を備えている。そして、接続部分91cは、油路形成部材60よりも軸方向第一側L1(第一挿入孔44の奥側)における第一挿入孔44の内周面に開口するように設けられている。よって、吐出油路91aから接続部分91cに供給された油は、第一挿入孔44の内側に流入した後、油路形成部材60の軸方向第一側L1の端部の開口部から軸内油路91dに流入する。このように、本実施形態では、油路形成部材60の軸方向第一側L1の端部は、第一壁部41に形成された第一挿入孔44に軸方向第二側L2から挿入された状態で、第一壁部41に保持されている。同様に、本実施形態では、図2に示すように、油路形成部材60の軸方向第二側L2の端部は、第二壁部42に形成された第二挿入孔47に軸方向第一側L1から挿入された状態で、第二壁部42に保持されている。図2に示す例では、第二壁部42に対して締結部材で固定される部材に、第二挿入孔47が形成されている。
図3に示すように、本実施形態では、吐出油路91aから内部油路91bへの油の流通量を適切に確保するために、第一壁部41(対象壁部)に対して油路形成部材60が軸方向第一側L1(第一挿入孔44の奥側)へ移動することを規制するための段差部6を設けている。段差部6は、油路形成部材60の外周面と第一挿入孔44の内周面との少なくとも一方に形成され、本実施形態では、油路形成部材60の外周面に形成されている。具体的には、油路形成部材60の外周面に形成された、軸方向第一側L1の部分に比べて径方向Rの外側に突出する突出部が、段差部6とされている。段差部6の軸方向第一側L1を向く面(本実施形態では、法線方向が軸方向Lに対して傾斜した面)が、第一壁部41の軸方向第二側L2を向く面に当接することで、油路形成部材60の軸方向第一側L1への移動が制限される。すなわち、このような段差部6を設けることで、油路形成部材60に対して第一壁部41に向かう側の外力が作用した場合であっても、油路形成部材60の軸方向第一側L1への移動を制限することができる。この結果、接続部分91cにおける第一挿入孔44の内周面に開口する部分が、油路形成部材60の軸方向第一側L1の端部によって塞がれることを回避することが可能となっている。
図2及び図6に示すように、本実施形態では、第二油圧ポンプ52が吐出した油をステータ11に対して上方から供給することで、ステータ11を冷却するように構成されている。具体的には、第二油路92から供給された油をステータ11に供給する油供給部65が、軸方向Lにおける第二壁部42と第三壁部43との間に設けられている。油供給部65は、ステータ11よりも上側に配置されている。そして、第二油路92と油供給部65とを接続する接続油路95が、第二壁部42に形成されている。よって、第二油圧ポンプ52から吐出された油は、第二油路92及び接続油路95を流通した後、油供給部65に流入する。そして、油供給部65からステータ11に供給された油によって、ステータ11が冷却される。
本実施形態では、油供給部65は、軸方向Lに延びる筒状に形成されており、油供給部65の内部に、軸方向Lに延びる油路が形成されている。そして、油供給部65は、油供給部65を径方向Rの内側から外側に貫通するように形成された給油孔(66a,66b)を備えている。給油孔(66a,66b)は、上下方向Zに見てステータ11と重複する位置に設けられている。油供給部65に供給された油が重力の作用を受けて給油孔(66a,66b)からステータ11に滴下することで、ステータ11が冷却される。本実施形態では、油供給部65は、上下方向Zに見てコイルエンド部13と重複する位置に配置される第一給油孔66aを、軸方向Lの両側のコイルエンド部13のそれぞれに対応して備えると共に、上下方向Zに見てステータコア12と重複する位置に配置される第二給油孔66bを、軸方向Lにおけるステータコア12の中央部分に備えている。
〔その他の実施形態〕
次に、車両用駆動装置のその他の実施形態について説明する。
(1)上記の実施形態では、第二貯留部80が2つの室(81,82)に区画された構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第二貯留部80が1つの室のみを有する構成や、第二貯留部80が3つ以上の室に区画される構成とすることもできる。
(2)上記の実施形態では、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aが、第二貯留部80に油を供給する供給部96に連通する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aが供給部96に連通しない構成とすることもできる。
(3)上記の実施形態では、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aが、ケース40の内部に配置される軸受Bと、第一回転電機10を冷却するための冷却油路93との双方に、第二貯留部80を介することなく連通する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aが、軸受Bと冷却油路93とのいずれか一方のみに、第二貯留部80を介することなく連通する構成とすることや、第一油圧ポンプ51の吐出ポート51aが、軸受Bと冷却油路93とのいずれに対しても、第二貯留部80を介してのみ連通可能な構成とすることもできる。
(4)上記の実施形態では、第二油圧ポンプ52の吐出ポート52aが供給部96に連通しない構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、第二油圧ポンプ52の吐出ポート52aが供給部96に連通する構成とすることもできる。
(5)上記の実施形態では、油路形成部材60がケース40に保持される構成を例として説明した。すなわち、油路形成部材60が非回転部材である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、動力伝達機構3の回転部材に連動して回転する筒状部材を、油路形成部材60として用いることもできる。例えば、第一油圧ポンプ51のポンプ駆動軸53が第一回転電機10と同軸に配置される構成とし、油路形成部材60がポンプ駆動軸53に連結される構成、或いはポンプ駆動軸53の一部が油路形成部材60として機能する構成とすることもできる。
(6)上記の実施形態では、ロータ軸16よりも径方向Rの内側に油路形成部材60が配置され、油路形成部材60の内部に形成された内部油路91bから冷却油路93に油が供給される構成、すなわち、冷却油路93に対して径方向Rの内側から油が供給される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、冷却油路93に対する油の供給部が冷却油路93よりも軸方向第一側L1又は軸方向第二側L2に配置され、冷却油路93に対して軸方向Lの外側から油が供給される構成とすることもできる。
(7)上記の実施形態では、冷却油路93がロータ軸16の内部に形成される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、冷却油路93が、ロータコア15の内周面と外周面15aとの間の部分を軸方向Lに貫通する軸方向油路を備える構成や、冷却油路93が、このような軸方向油路と、ロータ軸16の内部に形成される油路との双方を備える構成とすることもできる。
(8)上記の実施形態では、第一壁部41に対して油路形成部材60が軸方向第一側L1へ移動することを規制するための段差部6が、油路形成部材60の外周面と第一挿入孔44の内周面とのうちの油路形成部材60の外周面のみに形成される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、段差部6が、第一挿入孔44の内周面のみに形成される構成や、油路形成部材60の外周面と第一挿入孔44の内周面との双方に形成される構成とすることもできる。段差部6が第一挿入孔44の内周面に形成される場合、第一挿入孔44の内周面に形成された、軸方向第二側L2の部分に比べて径方向Rの内側に突出する突出部を、段差部6とすることができる。
(9)上記の実施形態では、第一油路91の接続部分91cが第一壁部41に形成され、第二油路92と油供給部65とを接続する接続油路95が第二壁部42に形成される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、接続部分91cがケース40における第一壁部41以外の部分に形成される構成や、接続油路95がケース40における第二壁部42以外の部分(例えば、第三壁部43)に形成される構成とすることもできる。例えば、接続部分91cが、第二壁部42に形成される構成(すなわち、第二壁部42が対象壁部である構成)とすることができる。この場合、接続部分91cを、油路形成部材60よりも軸方向第二側L2(第二挿入孔47の奥側)における第二挿入孔47の内周面に開口するように設けると好適である。また、この場合、段差部6を、第二壁部42に対して油路形成部材60が軸方向第二側L2(第二挿入孔47の奥側)へ移動することを規制するように設けると好適である。このように、接続部分91cが第二壁部42に形成される構成において、上記の実施形態とは異なり、第一油圧ポンプ51を第二壁部42に設けてもよい。
(10)上記の実施形態では、差動歯車機構30の回転軸Aが、第一回転電機10のロータコア15の最上部と最下部との間の高さに配置される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、差動歯車機構30の回転軸Aが、ロータコア15の最上部よりも上側に配置される構成や、差動歯車機構30の回転軸Aが、ロータコア15の最下部よりも下側に配置される構成とすることもできる。
(11)上記の実施形態では、動力伝達機構3がカウンタギヤ機構20を備える構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、動力伝達機構3がカウンタギヤ機構20を備えない構成とすることもできる。例えば、出力ギヤ17が差動入力ギヤ31に噛み合う構成とすることができる。また、動力伝達機構3がカウンタギヤ機構20を備える構成や動力伝達機構3がカウンタギヤ機構20を備えない構成において、動力伝達機構3が、出力ギヤ17と差動入力ギヤ31との間の動力伝達経路に、遊星歯車機構等の他の機構或いは装置を備える構成とすることもできる。
(12)上記の実施形態では、ケース40の内部に第二貯留部80が形成される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、ケース40の内部に第二貯留部80が形成されない構成とすることも可能である。
(13)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用すること(その他の実施形態として説明した実施形態同士の組み合わせを含む)も可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
〔上記実施形態の概要〕
以下、上記において説明した車両用駆動装置の概要について説明する。
ロータ(14)及びステータ(11)を有する第一回転電機(10)と、前記第一回転電機(10)と車輪(W)との間で回転駆動力を伝達する動力伝達機構(3)と、前記第一回転電機(10)により駆動される第一油圧ポンプ(51)と、前記第一回転電機(10)とは異なる第二回転電機(2)により駆動される第二油圧ポンプ(52)と、を備え、前記第二回転電機(2)が、前記動力伝達機構(3)による回転駆動力の伝達経路とは分離して設けられる車両用駆動装置(1)であって、前記第一油圧ポンプ(51)が吐出した油を冷却油として前記ロータ(14)に供給すると共に潤滑油として前記動力伝達機構(3)に供給する第一油路(91)と、前記第二油圧ポンプ(52)が吐出した油を冷却油として前記ステータ(11)に供給する第二油路(92)と、を備える。
車輪(W)の駆動力源として備えられる第一回転電機(10)のロータ(14)は、車速に応じた回転速度で回転するため、鉄損によるロータ(14)の発熱量は、交番磁界の周波数が高くなるに従って(すなわち、車速が高くなるに従って)大きくなる。この点に関し、上記の構成によれば、第一回転電機(10)により駆動される第一油圧ポンプ(51)(すなわち、車速が高くなるに従って吐出油量が多くなる第一油圧ポンプ(51))が吐出した油を、冷却油としてロータ(14)に供給することができるため、車速が高くなるに従って発熱量が大きくなるロータ(14)に対して、車速が高くなるに従って多くの冷却油を供給することができる。すなわち、ロータ(14)に対して供給される冷却油の量が過少な場合には、ロータ(14)を適切に冷却することができず、ロータ(14)に対して供給される冷却油の量が過大な場合には、油の引き摺り損失が無駄に大きくなるおそれがあるが、上記の構成によれば、ロータ(14)の発熱量に応じた油量の冷却油をロータ(14)に供給して、ロータ(14)を適切に冷却することが可能となる。なお、車速が高くなるに従って吐出油量が多くなる第一油圧ポンプ(51)が吐出した油は、潤滑油として動力伝達機構(3)にも供給されるため、車両の走行中に動力伝達機構(3)の各部を適切に潤滑することもできる。
一方、車輪の駆動力源として備えられる第一回転電機(10)のステータ(11)が、コイルが巻装される電機子である場合、ステータ(11)の発熱量は、車速には直接的に依存せず、コイルに流れる電流が大きくなるに従って大きくなる。この点に関し、上記の構成によれば、動力伝達機構(3)による回転駆動力の伝達経路とは分離して設けられる第二回転電機(2)により駆動される第二油圧ポンプ(52)(すなわち、車速とは無関係に吐出油量を調整可能な第二油圧ポンプ(52))が吐出した油を、冷却油としてステータ(11)に供給することができる。よって、ステータ(11)の発熱量に応じた油量の冷却油をステータ(11)に供給して、ステータ(11)を適切に冷却することが可能となる。
以上のように、上記の構成によれば、第一油圧ポンプ(51)が吐出した油により第一回転電機(10)のロータ(14)を冷却し、第二油圧ポンプ(52)が吐出した油により第一回転電機(10)のステータ(11)を冷却する構成とすることで、これらロータ(14)及びステータ(11)の双方を車速によらずに適切に冷却することが可能となる。また、第一回転電機(10)のロータ(14)を第二油圧ポンプ(52)が吐出した油により冷却する場合に比べて、第二油圧ポンプ(52)に要求される最大吐出油量を少なく抑えて第二油圧ポンプ(52)の小型化を図ることができるという利点もある。
ここで、前記ロータ(14)は、前記ステータ(11)のステータコア(12)よりも径方向(R)の内側であって、前記径方向(R)に見て前記ステータコア(12)と重複するように配置されるロータコア(15)を備え、前記第一油路(91)は、前記ロータコア(15)を前記径方向(R)の内側から冷却する冷却油路(93)に連通していると好適である。
この構成によれば、ロータコア(15)を冷却した後の冷却油路(93)内の油が、冷却油路(93)から径方向(R)の外側に排出される構成とすることで、ロータ(14)の回転に伴う遠心力を利用して、ロータコア(15)を冷却した後の油を冷却油路(93)から排出することができる。よって、冷却油路(93)における油の流通を円滑なものとして、ロータコア(15)の冷却効率の向上を図ることができる。
なお、第一油路(91)から冷却油路(93)に供給される油量は、車速が高くなるに従って多くなるが、上記の遠心力は、ロータ(14)の回転速度が高くなるに従って(すなわち、車速が高くなるに従って)大きくなる。そのため、冷却油路(93)に供給される油量が多い場合であっても、当該遠心力によって冷却油路(93)における油の円滑な流通を確保することが可能となる。また、冷却油路(93)に供給される油量が多い場合には、ロータコア(15)の周辺に存在する油による引き摺り損失が発生しやすくなるが、冷却油路(93)に供給される油量が多い場合には上記の遠心力も大きくなるため、ロータコア(15)の周辺における余剰な油の滞留を抑制することもできる。
上記のように前記第一油路(91)が前記冷却油路(93)に連通している構成において、前記第一回転電機(10)を収容するケース(40)を備え、前記ロータコア(15)は、前記ケース(40)に対して回転自在に支持されたロータ軸(16)の外周面に固定され、前記ロータ軸(16)は、軸方向(L)に延びる筒状に形成され、前記ロータ軸(16)よりも前記径方向(R)の内側に、前記ロータ軸(16)よりも小径であって前記軸方向(L)に延びる筒状に形成された油路形成部材(60)が配置され、前記油路形成部材(60)の外周面と前記ロータ軸(16)の内周面との間に、前記冷却油路(93)が形成され、前記油路形成部材(60)の内周面によって囲まれた空間に、内部油路(91b)が形成され、前記油路形成部材(60)は、当該油路形成部材(60)を前記径方向(R)の内側から外側に貫通するように形成されて前記内部油路(91b)と前記冷却油路(93)とを連通する連通孔(61)を備え、前記連通孔(61)の前記径方向(R)の外側の開口部は、前記軸方向(L)における前記ロータコア(15)の配置領域内に配置され、前記ケース(40)は、前記ロータコア(15)よりも前記軸方向(L)の一方側である軸方向第一側(L1)に配置される第一壁部(41)と、前記ロータコア(15)よりも前記軸方向第一側(L1)とは反対側である軸方向第二側(L2)に配置される第二壁部(42)と、を備え、前記油路形成部材(60)の前記軸方向第一側(L1)の端部が前記第一壁部(41)に保持されると共に、前記油路形成部材(60)の前記軸方向第二側(L2)の端部が前記第二壁部(42)に保持され、前記第一油路(91)における前記第一油圧ポンプ(51)からの吐出油路(91a)と前記内部油路(91b)との接続部分(91c)が、前記第一壁部(41)又は前記第二壁部(42)に形成されていると好適である。
この構成によれば、冷却油路(93)を流通する油とロータ軸(16)との間の熱交換によって、ロータ軸(16)の外周面に固定されたロータコア(15)を径方向(R)の内側から冷却することができる。この際、冷却油路(93)に供給する油が流通する内部油路(91b)が、ロータ軸(16)よりも径方向(R)の内側に配置された油路形成部材(60)の内部に形成されるため、油路形成部材(60)に連通孔(61)を設けるという比較的簡素な構成で、ロータ(14)の回転中であっても内部油路(91b)の油を冷却油路(93)に適切に供給可能な構成を実現することができる。また、この連通孔(61)の径方向(R)の外側の開口部は、軸方向(L)におけるロータコア(15)の配置領域内に配置される。よって、ロータコア(15)の軸方向(L)の中央部分と熱交換可能な冷却油路(93)内の位置に、内部油路(91b)内の油と同程度の温度の油を供給することが可能となり、この結果、熱がこもりやすいロータコア(15)の中央部分を重点的に冷却することが可能となる。
また、上記の構成によれば、油路形成部材(60)の軸方向第一側(L1)の端部が保持される第一壁部(41)、又は油路形成部材(60)の軸方向第二側(L2)の端部が保持される第二壁部(42)に、第一油路(91)における第一油圧ポンプ(51)からの吐出油路(91a)と内部油路(91b)との接続部分(91c)が形成される。よって、接続部分(91c)における油密性を第一壁部(41)又は第二壁部(42)を利用して確保することが可能となり、接続部分(91c)の構成の簡素化を図ることができる。
上記のように、前記第一油路(91)における前記吐出油路(91a)と前記内部油路(91b)との接続部分(91c)が前記第一壁部(41)又は第二壁部(42)に形成される構成において、前記第一壁部(41)及び前記第二壁部(42)のうちの前記接続部分(91c)が形成される壁部を対象壁部(41,42)として、前記対象壁部(41,42)は、前記油路形成部材(60)の前記軸方向(L)の端部が挿入される挿入孔(44,47)を備え、前記接続部分(91c)は、前記油路形成部材(60)よりも前記挿入孔(44,47)の奥側における前記挿入孔(44,47)の内周面に開口するように設けられ、前記対象壁部(41,42)に対して前記油路形成部材(60)が前記挿入孔(44,47)の奥側へ移動することを規制するための段差部(6)が、前記油路形成部材(60)の外周面と前記挿入孔(44,47)の内周面との少なくとも一方に形成されていると好適である。
この構成によれば、油路形成部材(60)に対して対象壁部(41,42)に向かう側の外力が作用した場合であっても、油路形成部材(60)の挿入孔(44,47)の奥側への移動が制限されるので、接続部分(91c)における挿入孔(44)の内周面に開口する部分が、油路形成部材(60)の軸方向(L)の端部によって塞がれることを回避することが可能となる。よって、吐出油路(91a)から内部油路(91b)への油の流通量を適切に確保することができる。
また、前記第一回転電機(10)を収容するケース(40)を備え、前記ロータ(14)は、前記ケース(40)に対して回転自在に支持されるロータ軸(16)と、前記ロータ軸(16)の外周面に固定されるロータコア(15)と、を備え、前記ケース(40)は、前記ロータコア(15)よりも前記ロータ軸(16)の軸方向(L)の一方側である軸方向第一側(L1)に配置される第一壁部(41)と、前記ロータコア(15)よりも前記軸方向第一側(L1)とは反対側である軸方向第二側(L2)に配置される第二壁部(42)と、前記軸方向(L)における前記第一壁部(41)と前記ロータコア(15)との間に配置される第三壁部(43)と、を備え、前記第一回転電機(10)の前記ロータ軸(16)に連結された出力ギヤ(17)が、前記軸方向(L)における前記第一壁部(41)と前記第三壁部(43)との間に配置され、前記ロータ軸(16)は、前記第二壁部(42)と前記第三壁部(43)とにより前記ケース(40)に対して回転自在に支持され、前記出力ギヤ(17)は、前記第一壁部(41)と前記第三壁部(43)とにより前記ケース(40)に対して回転自在に支持され、前記第二油路(92)から供給された油を前記ステータ(11)に供給する油供給部(65)が、前記軸方向(L)における前記第二壁部(42)と前記第三壁部(43)との間に設けられ、前記第二油路(92)と前記油供給部(65)とを接続する接続油路(95)が、前記第二壁部(42)に形成されていると好適である。
この構成によれば、接続油路(95)が第一壁部(41)に形成される場合に比べて、接続油路(95)が形成される壁部と油供給部(65)との距離を近づけることができ、接続油路(95)の構成の簡素化を図ることができる。また、接続油路(95)が形成される壁部と油供給部(65)との距離の点では、接続油路(95)を第二壁部(42)ではなく第三壁部(43)に形成することも考えられるが、ケース(40)の内部の空間を軸方向(L)に区画する第三壁部(43)ではなく第二壁部(42)に接続油路(95)を形成することで、接続油路(95)を形成するための加工が容易になるという利点や、接続油路(95)の配置位置についての制約を受けにくいという利点がある。
本開示に係る車両用駆動装置は、上述した各効果のうち、少なくとも1つを奏することができれば良い。