以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1Aは、本発明の実施の形態における半導体レーザの斜視図である。図1B,図1Cは、本発明の実施の形態における半導体レーザの構成を示す断面図であり、光出射方向に垂直な断面を示している。
この半導体レーザは、分布帰還活性領域131と、分布帰還活性領域131に連続して配置された2つ分布ブラッグ反射鏡領域132a,132bとを備える。この半導体レーザは、いわゆるDRレーザである。分布ブラッグ反射鏡領域132aおよび分布ブラッグ反射鏡領域132bは、導波方向に分布帰還活性領域131を挟んで分布帰還活性領域131に連続して配置されている。図1Bは、分布帰還活性領域131の断面を示している。図1Cは、分布ブラッグ反射鏡領域132aの断面を示している。分布ブラッグ反射鏡領域132bの断面は、分布ブラッグ反射鏡領域132aと同様であり、ここでは省略している。
分布帰還活性領域131は、基板101の上に形成された活性層103と、活性層103に形成され位相シフト(λ/4シフト)部を備える第1回折格子121とを備える。この例では、活性層103の上に第1回折格子121が形成されている。また、活性層103に接して形成されたn型半導体層105およびp型半導体層106を備える。この例では、基板101の平面方向に、n型半導体層105およびp型半導体層106が配置され、これらは、活性層103の側面に接して形成されている。また、n型半導体層105に電気的に接続するn型電極107と、p型半導体層106に電気的に接続するp型電極108とを備える。この例では、基板101の平面方向(横方向)に電流が注入される。
分布ブラッグ反射鏡領域132aは、活性層103に連続して形成されたコア層113aと、コア層113aに形成された第2回折格子122aとを備える。分布ブラッグ反射鏡領域132bは、活性層103に連続して形成されたコア層113bと、コア層113bに形成された第2回折格子122bとを備える。この例では、コア層113aの上に第2回折格子122aが形成され、コア層113bの上に第2回折格子122bが形成されている。
上記構成とした実施の形態における半導体レーザは、第2回折格子122a,122bの結合係数が、第1回折格子121の結合係数より小さくされているところに大きな特徴がある。
なお、基板101の上には、下部クラッド層102が形成され、この上に、活性層103が形成されている。コア層113も下部クラッド層102の上に形成されている。また、活性層103は、基板101から見て上下の方向に、半導体層104a,半導体層104bに挾まれている。また、半導体層104a,活性層103,半導体層104bの積層構造が、n型半導体層105およびp型半導体層106に挾まれている。p型半導体層106およびn型半導体層105は、基板101の平面に平行な方向で活性層103を挾んで形成されている。
ここでは、半導体層104aの上に接して活性層103が形成され、活性層103の上に接して半導体層104bが形成されている。また、半導体層104a,活性層103,半導体層104bの積層構造の側部に接し、n型半導体層105およびp型半導体層106が形成されている。なお、分布ブラッグ反射鏡領域132aにおいて、n型半導体層105およびp型半導体層106は形成していない。
実施の形態における分布帰還活性領域131において、活性層103には、基板101の平面に平行な方向で電流が注入される。なお、分布ブラッグ反射鏡領域132a,132bにおいて、n型電極107およびp型電極108は形成していない。
また、活性層103は、光出射方向に所定の長さで延在し、この延在方向の分布帰還活性領域131において、活性層103の上に第1回折格子121が形成されている。なお、ここでは、半導体層104bの上面に第1回折格子121を形成している。また、このように延在している活性層103に連続してコア層113a,113bが形成されている。第2回折格子122aは、コア層113aの上面に形成し、第2回折格子122bは、コア層113bの上面に形成している。
また、図1Aでは省略しているが、n型電極107とp型電極108との間の半導体層104b、n型半導体層105、p型半導体層106の上面は、絶縁膜111により保護されている。また、半導体レーザは、出力端面に、図示しない無反射膜が形成されている。
基板101は、例えば、シリコンから構成され、下部クラッド層102は、例えば、酸化シリコン(SiO2)から構成されている。また、活性層103は、例えば、InGaAsPからなる井戸層とバリア層が交互に積層された厚さ150nmの量子井戸構造とされている。また、活性層103は、幅0.8μm程度とされている。また、半導体層104a,活性層103,半導体層104bを合わせた厚さは、250nmとされている。なお、n型半導体層105およびp型半導体層106も、各々厚さ250nmとされている。量子井戸構造とされている活性層103の発光波長は、1.55μmである。また、第1回折格子121は、ブラッグ波長が1.55μmとされている。
また、例えば、半導体層104a,半導体層104bは、アンドープのInP(i−InP)から構成されている。また、活性層103を挾む、一方のn型半導体層105は、Siが1×1018cm-3程度ドープされたn型のInP(n−InP)から構成され、他方のp型半導体層106は、Znが1×1018cm-3程度ドープされたp型のInP(p−InP)から構成されている。また、絶縁膜111は、例えば、SiO2から構成されている。
また、コア層113a,113bは、アンドープのInP(i−InP)から構成され、幅2μm程度とされ、厚さは、250nmとされている。
以下、実施の形態における半導体レーザの製造方法について、図2A〜図2Dを用いて簡単に説明する。図2A〜図2Dは、実施の形態における半導体レーザの製造途中の状態を示す構成図であり、分布帰還活性領域131の断面を模式的に示している。
例えば、まず、酸化シリコンから構成された下部クラッド層102を備える基板(シリコン基板)101を用意する。例えば、基板101の主表面を熱酸化することで、下部クラッド層102を形成する。
一方で、InP基板の上に、InGaAsからなる犠牲層、半導体層104bとなる化合物半導体層204、活性層103となる化合物半導体層203、コア層113a,コア層113bとなる化合物半導体層をエピタキシャル成長させる。例えば、よく知られた有機金属気相成長法により、各層を成長させれば良い。
次いで、このエピタキシャル成長した基板の最上面と、前述したシリコン基板101の下部クラッド層102の表面とを公知のウエハ接合技術により直接接合し、この後、InP基板と犠牲層を除去する。この結果、図2Aに示すように、分布帰還活性領域131においては、基板101の上に、下部クラッド層102、化合物半導体層204、化合物半導体層203が形成された状態となる。
次いで、公知のフォトリソグラフィー技術により作製したレジストパタンをマスクとしたウエットエッチングおよびドライエッチングなどにより、成長させた各化合物半導体層204,化合物半導体層203などをパターニングし、図2Bに示すように、半導体層104a、活性層103からなる分布帰還活性領域131のストライプ構造を形成する。なお、各パターンを形成した後は、レジストパタンを除去する。
次に、図2Cに示すように、形成した半導体層104a、活性層103の周囲より、アンドープのInPからなる化合物半導体層205を再成長させる。次いで、例えば、イオン注入法により、活性層103の両脇の領域に選択的にn型の不純物およびp型の不純物を導入することで、図2Dに示すように、n型半導体層105およびp型半導体層106を形成し、また、半導体層104bを形成する。この段階において、図示しない分布帰還活性領域131を挾む導波方向の領域には、化合物半導体層205が残っている。
次に、半導体層104bの表面に、第1回折格子121を形成する。例えば、電子ビーム露光によるリソグラフィーで形成したレジストパタンをマスクとし、所定のエッチングによりパターニングすることで、第1回折格子121を形成すれば良い。同様に、図示しない分布帰還活性領域131を挾む導波方向の領域の化合物半導体層205の、反射鏡領域132a,132bの領域において、第2回折格子122a,122bを形成する。この段階では、コア層113a、コア層113bは形成されていない。
次に、形成した第1回折格子121を覆うように、絶縁膜111を形成する。例えば、よく知られたスパッタ法やプラズマCVD法などによりSiO2を堆積することで、絶縁膜111を形成すれば良い。半導体と、誘電体(絶縁体)もしくは空気間の高い屈折率差を用いることで、高い結合係数を有する回折格子を得ることができる。
上述したように各電極を形成した後、分布帰還活性領域131を挾む導波方向の領域の化合物半導体層205を、前述同様にパターニングすることで、第2回折格子122a,122bを形成した部分にコア層113a、コア層113bを形成する。この後、n型半導体層105の上にn型電極107を形成し、p型半導体層106の上にp型電極108を形成する。
実施の形態における半導体レーザの第1回折格子121の結合係数、および第2回折格子122a,112bの結合係数は、半導体レーザに求める特性によって決定される。例えば、分布ブラッグ反射鏡領域132a,132bにおけるミラー損が100cm-1以下、かつ、一番しきい値モード利得が低いモードと次に低いモードのしきい値モード利得差が100cm-1以上となるレーザを作製したい場合、図3に示す結果から、第2回折格子122a,122b(DBR)の結合係数は、約400〜800cm-1にすればよい。
なお、計算に用いたパラメータは、第1回折格子121が長さ20μm、屈折率2.7、結合係数1000cm-1、ブラッグ波長1550nmである。また、第2回折格子122aは長さ20μm、屈折率2.7であり、第2回折格子122bは長さ50μm、屈折率2.7である。第1回折格子121と第2回折格子122bとを異なる長さとすることで、短くした方から光を取り出すことができる。
上述した条件で作製した実施の形態における半導体レーザによれば、作製誤差により第1回折格子121と第2回折格子122a,122bのブラッグ波長が5nmずれてしまっても、発振モードが不安定になることがなく、より単一モード性に優れた半導体レーザが得られる。
上述した作製誤差に関してより詳細に説明する。まず、第1回折格子121と第2回折格子122a,122bとのブラッグ波長のずれについて説明する。
例えば、第1回折格子121(DFB)と第2回折格子122a,122b(DBR)のストップバンドの幅が同一の場合、図4Aに示すように、各々のブラッグ波長がずれると、DBRのストップバンド内にDFBのストップバンド端が入る場合が発生する。この場合、ブラッグ波長だけではなく、DFBのストップバンド端で発振してしまう可能性がある。これは、DBRのストップバンドの幅が、DFBのストップバンドの幅より広い場合も同様に発生する。
上述した状態に対し、図4Bに示すように、DBRのストップバンドをDFBよりも狭くすれば、各々のブラッグ波長がずれても、DBRのストップバンド内にDFBのストップバンド端が入ることが抑制されるようになる。
図5は、第1回折格子121のブラッグ波長が1550nm、回折格子の結合係数が1000cm-1であるときの、第2回折格子122a,122bのブラッグ波長と、1番しきい値モード利得が小さいモードと2番目に小さいモードのしきい値モード利得差の関係を示したものである。
図5に示すように、第2回折格子122a,122bと第1回折格子121のブラッグ波長が一致している際は、しきい値モード利得差は十分に大きく、単一モードで発振する。しかし、第2回折格子122a,122bの結合係数が、第1回折格子121の結合係数と同じ1000cm-1では(白丸)、第2回折格子122a,122bのブラッグ波長が5nmずれると、しきい値モード利得差が小さくなり、多モード発振する恐れがある。
一方、第2回折格子122a,122bの結合係数は500cm-1とした場合(黒四角)、しきい値モード利得差は十分に大きく、ブラッグ波長がずれても単一モードで発振する。なお、計算に用いたパラメータは、第1回折格子121が長さ20μm、屈折率2.7、結合係数1000cm-1、ブラッグ波長1550nmである。また、第2回折格子122aは長さ20μm、屈折率2.7であり、第2回折格子122bは長さ50μm、屈折率2.7である。
ところで、製造上の誤差としては、ブラッグ波長のずれ以外にも、分布帰還活性領域131における活性層103の導波方向の長さ(利得領域長)の設計値からのずれもある。前述したように、フォトリソグラフィー技術により作製したレジストパタンをマスクとてエッチングすることで活性層103を形成しているため、例えば、エッチング量が多すぎれば、利得領域長が短くなる。この場合、第1回折格子121の形成領域には、利得領域以外に、非利得領域が形成されることになる。
上述したように利得領域長が設計値より短い場合、第1回折格子121と第2回折格子122a,122bとの屈折率が異なると、第1回折格子121が形成されている領域の非利得領域では、回折格子による光の反射が起こらないため、位相変化が生じ、発振モードが不安定となる。
ここで、図6に、比屈折率差が8.32%の場合の、利得領域長の設計値からのずれ量と、しきい値モード利得との差を示す。図6では、利得領域の設計値からのずれ量は、利得領域の中心から対称に変化するものとしている。
第2回折格子122a,122bの結合係数が、第1回折格子121の結合係数と同じ1000cm-1では(白丸)、ずれ量が大きくなるにつれてしきい値モード利得差が小さくなり、多モード発振する恐れがある。
一方、第2回折格子122a,122bの結合係数は500cm-1とした場合(黒四角)、ずれ量が大きくなっても、しきい値モード利得差は十分に大きく、単一モードで発振する。
これらの結果より、第2回折格子122a,122bの結合係数を第1回折格子121よりも低下させることにより、第2回折格子122a,122b領域と第1回折格子121領域の屈折率が同じにしなくても、利得領域の設計値からのずれに対する耐性のある半導体レーザが作製できることが分かる。
なお、計算に用いたパラメータは、第1回折格子121が長さ20μm、屈折率2.7、結合係数1000cm-1、ブラッグ波長1550nmである。また、第2回折格子122aは長さ20μm、屈折率2.7であり、第2回折格子122bは長さ50μm、屈折率2.7である。
次に、第2回折格子122a,122bの結合係数を第1回折格子121よりも低下させる構成例について説明する。例えば、前述では、第1回折格子121の表面を絶縁膜111で覆い(埋め込み)、第2回折格子122a,122bの表面は、空気開放とし、各々異なる屈折率の材料で覆われているようにした。このようにすることで、両者の結合係数を変えることができる。また、第1回折格子121の材料と第2回折格子122a,122bとを、互いに異なる屈折率(材料)とすることでも、両者の結合係数を変えることができる。
また、例えば、第1回折格子121と第2回折格子122a,122bとの間で、回折格子のデューティー比を変えることによっても、これらの間の結合係数を異なる状態とすることができる。回折格子の山と谷の比率が1:1(デューティー比が0.5)の場合が最大であり、この比率を変えると結合係数が低下する。従って、例えば、第1回折格子121は、山と谷の比を1:1とし、第2回折格子122a,122bは、この比率を異なる状態とすればよい。また、回折格子の谷の深さを変えることでも結合係数を異なる状態とすることができる。
また、第1回折格子121と第2回折格子122a,122bとの間で、回折格子の幅を変えることによっても、これらの間の結合係数を異なる状態とすることができる。例えば、第1回折格子121の格子幅より第2回折格子122a,122bの格子幅を狭くすればよい。
ところで、上述では、基板の側から見て、分布帰還活性領域131および分布ブラッグ反射鏡領域132a,132bの上部に回折格子を設ける場合について説明したが、これに限るものではない。本発明は、例えば、垂直方向電流注入型の半導体レーザに適用可能である。垂直方向電流注入型では、例えば、クラッド層およびこの下部の基板が、n型半導体層となり、クラッド層の上に活性層が形成され、活性層の上にp型半導体層が形成される。
上述した垂直方向電流注入型では、活性層の上部に一方の電極を設けるため、分布帰還活性領域における活性層の側部に回折格子が形成可能となる。また、分布ブラッグ反射鏡領域においては、元々電極などを設けないため、コア層の側面に回折格子が形成可能である(非特許文献4参照)。
このように、活性層およびコア層の両側面に回折格子を設けた構成の半導体レーザにおいても、活性層に形成される第1回折格子に対し、コア層に形成される第2回折格子の結合係数を小さくすることで、製造誤差による発振モードの不安定および変調特性の劣化が抑制できる。
以上に説明したように、本発明によれば、分布帰還活性領域の回折格子に対し、分布ブラッグ反射鏡領域の回折格子の結合定数を小さくしたので、発振モードが不安定になることなく、両側にDBRを設けた位相シフトDFBレーザの活性領域がより短くできるようになる。消費電力を低くするためには、分布帰還活性領域の活性領域の長さを短くした構成が重要となるが、このように微細化を進めると、製造誤差による発振モードの不安定および変調特性の劣化がより顕著となる。本発明では、このような製造誤差による問題を招くことなく、位相シフトDFBレーザの活性領域をより短くすることが可能となり、低消費電力化に資するものとなる。