JP2017170518A - ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、ワイヤ全質量あたり、TiO2、Ni、Mo、C、Si及びSi酸化物のSi換算量の合計、ZrO2、Mn、Al、NaF、B及びB酸化物のB換算量の合計、Mg、MgO、NaF以外のNa化合物のNa換算量とK化合物のK換算量との合計、NaF以外のF化合物のF換算量、が所定の範囲であるとともに、TiO2の含有量を[TiO2]、Alの含有量を[Al]とした場合、5.00≦[TiO2]/[Al]≦70.00を満たすことを特徴とする。
【選択図】なし
Description
例えば、特許文献1では、溶接での入熱量が30〜50kJ/cmのような大入熱溶接において良好な溶接作業性を保ち、立向上進溶接で良好なビードを形成し、かつ良好な機械的性質の溶接金属を得ることができるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤが開示されている。
一方、特許文献2に係る技術は、フラックス入りワイヤ中の水分量を抑制するために、鋼製外皮において継ぎ目をなくすだけでなく、フラックス入りワイヤを直径が10.0mm以下となるまで縮径させた後、700℃以上1000℃以下の温度で焼鈍させている。
また、このガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤによれば、[TiO2]/[Al]によって算出される値を所定範囲内に特定することで、高電流だけでなく低電流でも溶接作業性が向上するとともに、溶接金属の機械的性質をより向上させることができる。
このガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤによれば、Al2O3、Ca、Tiの含有量を所定値以下に特定することで、溶接作業性をより良くするとともに、溶接金属の機械的性質をより向上させることができる。
また、本発明のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、溶接電流が高電流であろうと低電流であろうと優れた溶接作業性を発揮することができ、溶接姿勢については、特に、立向上進溶接において優れた溶接作業性を発揮することができる。
本実施形態に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ(以下、適宜「ワイヤ」という)は、ガスシールドアーク溶接に使用するワイヤであって、鋼製外皮内にフラックスが充填されたものである。
なお、本実施形態に係るワイヤのワイヤ径(直径)は、特に限定されないが、1.2〜2.4mmであればよい。
以下、本実施形態に係るワイヤの各成分の含有量を特定した理由について説明する。
また、「酸化物」とは、「単一酸化物」および「複合酸化物」のうちの一種以上を意味する。「単一酸化物」とは、例えば、TiならばTi単独の酸化物(TiO2)をいい、「複合酸化物」とは、これらの単一酸化物が複数種類集合したものと、例えば、Ti、Fe、Mnといった複数の金属成分を含む酸化物との双方をいう。
TiO2は、溶接金属を支える重要な役割を担っている。ただし、TiO2の含有量が4.0質量%未満であると、大入熱溶接時に溶接作業性が劣化し良好なビード形状及びビード外観を確保できない。一方、TiO2の含有量が10.0質量%を超えると、スラグ融点が高くなり、立向上進溶接でウィービングを行った場合にスラグが早く固まる。これにより、その運棒に沿い溶接金属が形成され、うろこ状(波目状)のビードとなってしまうとともに、良好なビード形状を確保できない。
したがって、TiO2の含有量は、ワイヤ全質量あたり4.0質量%以上10.0質量%以下である。
なお、TiO2の含有量は、大入熱溶接時のビード形状をより良好なものとする観点から、6.0質量%以上が好ましい。また、TiO2の含有量は、大入熱溶接時のビード形状をより良好なビード形状とする観点から、8.0質量%以下が好ましい。
Niは、溶接金属の機械的性質を向上させる効果がある。ただし、Niの含有量が0.2質量%未満では、溶接金属の靱性が劣化する。一方、Niの含有量が2.0質量%を超えると、溶接金属は強度過多となる。
したがって、Niの含有量は、ワイヤ全質量あたり0.2質量%以上2.0質量%以下である。
なお、大入熱溶接における溶接金属の靱性及び強度をともにより良好とするためには、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%未満が好ましい。
Moは、溶接金属の機械的性質を向上させる効果がある。ただし、Moの含有量が0.01質量%未満では、大入熱施工時の溶接金属の引張強さが十分に得られない。一方、Moの含有量が0.50質量%を超えると、溶接金属は強度過多となる。
したがって、Moの含有量は、ワイヤ全質量あたり0.01質量%以上0.50質量%以下である。
Cは、溶接金属の焼き入れ性と靭性を向上させる効果を発揮する成分である。ただし、Cの含有量が0.01質量%未満であると、溶接金属の焼き入れ性が不足し、溶接金属の引張強さが十分に得られない。一方、Cの含有量が0.10質量%を超えると、アークの吹きつけが強く、溶接の際に母材をアーク力で掘ってしまうため、良好なビード形状及びビード外観を確保できない。
したがって、C含有量は、ワイヤ全質量あたり0.01質量%以上0.10質量%以下である。
Siは、溶接作業性を向上させる。ただし、Si及びSi酸化物のSi換算量の合計が0.20質量%未満であると、溶接作業性が劣化し良好なビード形状及びビード外観を確保できない。一方、Si及びSi酸化物のSi換算量の合計が1.70質量%を超えると、粒界フェライト析出が促進され、溶接金属の靭性が劣化する。
したがって、Si及びSi酸化物のSi換算量の合計は、ワイヤ全質量あたり0.20質量%以上1.70質量%以下である。
なお、Si及びSi酸化物のSi換算量の合計は、より良好なビード形状とする観点から、0.30質量%以上が好ましい。また、Si及びSi酸化物のSi換算量の合計は、溶接金属の靱性の劣化を抑制する観点から、1.40質量%以下が好ましい。
なお、Si、Si酸化物の其々の含有量については、特に限定されないものの、仮に其々の含有量を規定する場合は、以下のとおりである。
Siは、溶接金属の粘性を向上させ溶接金属を垂れ難くすることにより、溶接作業性を向上させる。ただし、Siの含有量が0.10質量%未満であると、溶接金属の粘性が低下し、ビード形状が劣化する可能性がある。一方、Siの含有量が1.00質量%を超えると、オーステナイト粒が粗大となり溶接金属の靱性の劣化を招く可能性がある。
したがって、Siの含有量を規定する場合、ワイヤ全質量あたり0.10質量%以上1.00質量%以下が好ましい。
なお、Siの含有量は、より良好なビード形状とする観点から、0.20質量%以上がより好ましい。また、Siの含有量は、溶接金属の靱性の劣化を抑制する観点から、0.80質量%以下がより好ましい。
SiO2はスラグ形成剤として溶接金属を支える役割を担っている。ただし、SiO2の含有量が0.20質量%未満であると、スラグ量が不十分となり、ビードが垂れた形状となる可能性がある。一方、SiO2の含有量が1.50質量%を超えると、フラックスの脱酸力が低下し溶接金属の靱性が劣化する可能性がある。
したがって、SiO2の含有量を規定する場合、ワイヤ全質量あたり0.20質量%以上1.50質量%以下とする。
なお、SiO2の含有量は、より良好なビード形状とする観点から、0.40質量%以上がより好ましい。また、SiO2の含有量は、溶接金属の機械的性質の劣化を抑制する観点から、1.30質量%以下がより好ましい。
ZrO2は、SiO2と同様、スラグ形成剤として溶接金属を支える役割を担っている。ただし、ZrO2の含有量が0.1質量%未満であると、スラグ融点が低くなり、ビードは垂れた形状となるとともに、良好なビード外観を確保できない。一方、ZrO2の含有量が1.0質量%を超えると、スラグ融点が高くなり過ぎて凸型のようなビード形状となるとともに、良好なビード外観を確保できない。
したがって、ZrO2の含有量は、ワイヤ全質量あたり0.1質量%以上1.0質量%以下である。
なお、ZrO2の含有量は、より良好なビード形状とする観点から、0.2質量%以上が好ましい。また、ZrO2の含有量は、より良好なビード形状とする観点から、0.6%未満が好ましい。
Mnは、溶接金属の焼き入れ性と靭性を向上させる効果を発揮する成分である。ただし、Mnの含有量が1.3質量%未満であると、溶接金属の焼き入れ不足となり、靱性が十分に得られない。一方、Mnの含有量が3.5質量%を超えると、溶接金属の引張強さが過多となり、靭性不足となる。
したがって、Mnの含有量は、ワイヤ全質量あたり1.3質量%以上3.5質量%以下である。
なお、Mnの含有量は、溶接金属の機械的性質をより良好とする観点から、2.0質量%以上が好ましい。また、Mnの含有量は、溶接金属の靭性の劣化を抑制する観点から、3.1質量%以下が好ましい。
Alは、強力な脱酸元素であり、酸素と親和力のある溶接金属成分の歩留りを向上させることで機械的性質を向上させる役割がある。また、Alは、脱窒元素としても効果があり、溶接金属中のNの歩留まりを下げることで、機械的性質を向上させる効果がある。ただし、Alの含有量が0.10質量%未満であると、酸素と親和力のある溶接金属成分の歩留りが低く、脱窒効果も不十分であり、靱性が十分に得られない。一方、Alの含有量が1.00質量%を超えると、溶接金属成分の歩留りが過大となり靭性が劣化する。
したがって、Alの含有量は、ワイヤ全質量あたり0.10質量%以上1.00質量%以下である。
なお、Alの含有量は、溶接金属の靭性の劣化を抑制する観点から、0.40質量%未満が好ましい。
Naは、溶接中におけるアークの溶滴移行を安定化させる役割があるが、過剰なNaの添加はワイヤの耐吸湿性を劣化させる。一方、Fは、フラックス中にフッ素化合物として存在し、溶接雰囲気下の水素分圧を減少させ、溶接金属中の拡散性水素量を低下させる効果があるが、過剰なFは溶接時のヒューム発生量を増加させ、かつ、低電流領域でのアークの溶滴移行を劣化させる。
しかし、NaFであれば溶接中におけるアークの溶滴移行を安定化(特に低電流領域において安定化)させる効果を発揮するとともに、フッ化物による拡散水素量低減の効果を両立することができる。ただし、NaFの含有量が0.05質量%未満であると、低電流領域での溶接中におけるアークの溶滴移行が不安定となり、スパッタ発生量が増加し、更には溶接金属の拡散性水素量が上昇する。一方、NaFの含有量が0.60質量%を超えると、ワイヤの耐吸湿性が劣化し、更にはヒューム発生量が増加する。
したがって、NaFの含有量は、ワイヤ全質量あたり0.05質量%以上0.60質量%以下である。
なお、NaFの含有量は、アークの安定性の向上、スパッタ発生量の抑制、拡散性水素量の抑制の観点から、0.15質量%以上が好ましい。また、NaFの含有量は、耐吸湿性の劣化の抑制、ヒューム発生量の抑制の観点から、0.40質量%以下が好ましい。
B及びB酸化物(B2O3)は、溶接金属にBを添加するためにフラックスに添加される。また、Bは、オーステナイト粒界に偏析することで初析フェライトの生成を抑制する効果があり、溶接金属の靭性改善に有効である。ただし、B及びB酸化物のB換算量の合計が0.0003質量%未満であると、大部分のBがBNとして窒化物に固定化され、初析フェライトの生成を抑制する効果が無く、溶接金属の靭性の向上が期待できない。一方、B及びB酸化物のB換算量の合計が0.0300質量%を超えると、溶接金属の強度が著しく増加し、靭性が低下する。
したがって、B及びB酸化物のB換算量の合計は、ワイヤ全質量あたり0.0003質量%以上0.0300質量%以下である。
Mg及びMgOは酸化チタン等の天然原料から不純物として含まれる可能性がある成分である。そして、Mgの含有量が0.10質量%以上であると、スパッタ発生量が増加するとともに、Naと化合物を形成することでワイヤの耐吸湿性が劣化する。また、MgOの含有量が0.10質量%以上であると、スラグ粘度が高くなることでビードが凸状となるとともにビード外観の不良が発生し、更に、Mgと同様の理由によりワイヤの耐吸湿性が劣化する。
したがって、Mgの含有量は、ワイヤ全質量あたり0.10質量%未満であり、0質量%でもよい。また、MgOの含有量は、ワイヤ全質量あたり0.10質量%未満であり、0質量%でもよい。
Na及びKは溶接中におけるアークの溶滴移行を安定化させる効果があるが、この効果はNaFが担っている。一方、過剰なNa及びKの添加はワイヤの耐吸湿性を劣化させる。具体的には、NaF以外のNa化合物のNa換算量とK化合物のK換算量との合計が0.20質量%を超えると、ワイヤの耐吸湿性が劣化するとともに、溶接金属の拡散性水素量が増加する。
したがって、NaF以外のNa化合物のNa換算量とK化合物のK換算量との合計は、ワイヤ全質量あたり0.20質量%以下である。
なお、NaF以外のNa化合物中のNa換算量およびK化合物中のK換算量は、いずれか一方が0質量%であってもよく、両方が0質量%であってもよい。
Fは、フラックス中にフッ素化合物として存在し、溶接雰囲気下の水素分圧を減少させ、溶接金属中の拡散性水素量を低下させる効果があるが、この効果はNaFが担っている。一方、過剰なFの添加は溶接中のヒューム発生量を増加させる。具体的には、NaF以外のF化合物のF換算量が0.10質量%を超えると、ヒューム発生量が増加するだけでなく、スパッタ発生量も増加し、アーク安定性も劣化する。
したがって、NaF以外のF化合物のF換算量は、ワイヤ全質量あたり0.10質量%以下であり、0質量%でもよい。
TiO2の含有量を[TiO2]、Alの含有量を[Al]とした場合の[TiO2]/[Al]は、溶接金属の機械的性質と良好な溶接作業性を両立させる重要な指標である。そして、この式によって算出される値を所定範囲内とすることにより、高電流のみならず低電流における短絡移行溶接においても良好な溶接作業性(特に、立向上進溶接)を保つことができる。ただし、[TiO2]/[Al]によって算出される値が5.00未満であると、Alの脱酸力過大による溶接金属の引張強さの過大と靭性の劣化が発生し、更には立向上進溶接でビードが垂れ、ビード外観の不良も発生する。一方、[TiO2]/[Al]によって算出される値が70.00を超えると、Alの脱酸力不足による溶接金属の引張強さと靭性の劣化が発生する。
したがって、[TiO2]/[Al]によって算出される値は、5.00以上70.00以下である。
なお、[TiO2]/[Al]によって算出される値は、溶接作業性と溶接金属の機械的性質をより良好なものとする観点から、7.00以上が好ましく、14.00以上がより好ましい。また、[TiO2]/[Al]によって算出される値は、溶接金属の機械的性質をより良好なものとする観点から、60.00以下が好ましく、40.00以下がより好ましい。
Al2O3はスラグ形成剤としてビード形成に必要な成分であるが、この効果は他のスラグ形成剤が担っている。そして、Al2O3の含有量が0.5質量%を超えると、アークが不安定となりスパッタ発生量が増加する。
したがって、Al2O3をワイヤに含有させる場合、Al2O3の含有量は、ワイヤ全質量あたり0.5質量%以下である。
Caは、Mgと同様、酸化チタン等の天然原料から不純物として含まれる可能性がある成分である。そして、Caの含有量が0.10質量%を超えると、アークが不安定となりスパッタ発生量が増加する。
したがって、Caをワイヤに含有させる場合、Caの含有量は、ワイヤ全質量あたり0.10質量%以下である。
Tiは、溶接金属の機械的性質を向上させる成分である。ただし、Tiの含有量が0.25質量%を超えると、溶接金属の著しい硬化を引き起こし、靱性の劣化が顕著となる。
したがって、Tiをワイヤに含有させる場合、Tiの含有量は、ワイヤ全質量あたり0.25質量%以下である。
なお、Tiの含有量は、溶接金属の靱性の劣化を抑制する観点から、0.10質量%以下が好ましい。
Feは、ワイヤの主要成分である。溶着量や、他の成分組成の関係から、Feの含有量は、ワイヤ全質量あたり75.0質量%以上92.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、80.0質量%以上90.0質量%以下である。
本実施形態に係るワイヤの残部は、前記したFe及び不可避的不純物である。そして、前記したワイヤの成分の他、フラックス中に、Cu、Crを溶接金属のさらなる硬化剤として、MnO、FeO、V2O5をスラグ形成剤として少量含有させることもできる。これらの元素は、本発明の目的には影響を及ぼさない。
また、不可避的不純物として、Cu、Cr等が各々0.1質量%未満、MnO、FeO、V2O5が各々0.5質量%未満、含有してもよい。これらの上限を超えると、強度過剰や溶接作業性の劣化などを招くおそれがある。また、P、S等が各々0.030質量%以下、含有してもよい。これらの上限を超えると、高温割れや靱性低下を招くおそれがある。
加えて、前記した含有量の上限値のみ規定している成分や任意成分については、積極的に添加してもよいが、不可避的不純物として含まれていてもよい。
なお、前述した各元素が酸化物や窒化物として添加された場合は、本実施形態のフラックス入りワイヤの残部には、OやNも含まれる。
本実施形態に係るワイヤのフラック充填率(=フラックス質量/ワイヤ全質量×100)は、特に限定されない。ただし、フラックス充填率が10質量%未満であると、アークの安定性が悪くなるとともにスパッタ発生量が増加し、溶接作業性が劣化する。一方、フラックス充填率が25質量%を超えると、ワイヤの断線が発生したり、フラックスの充填中に粉がこぼれ落ちたりする等、生産性が著しく劣化する。
したがって、フラックス充填率は、10質量%以上25質量%以下が好ましい。
[ワイヤの製造方法]
本実施形態に係るワイヤの製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に示す方法で製造することができる。
まず、鋼製外皮を構成する鋼帯を準備し、この鋼帯を長手方向に送りながら成形ロールにより成形して、U字状のオープン管にする。次に、所定の化学組成となるように、各種原料を配合したフラックスを鋼製外皮に充填し、その後、断面が円形になるように加工する。その後、冷間加工により伸線し、例えば1.2〜2.4mmのワイヤ径のフラックス入りワイヤとする。なお、冷間加工途中に焼鈍を施してもよい。また、製造の過程で成形した鋼製外皮の合わせ目を溶接した継ぎ目が無いワイヤと、前記合わせ目を溶接せず隙間のまま残すワイヤのいずれの構造も採用することができる。
[各種試験に使用するワイヤの製造方法]
鋼帯を長手方向に送りながら成形ロールによりオープン管に成形した。次に、表1、2の化学組成となるようにフラックス中に金属、合金、Fe粉、各種原料を適宜、所定量添加した。次に、断面が円形になるように加工した後、加工したワイヤに対して冷間引き抜き加工を施しワイヤ径を約1.2mmとした。
以上の製造方法によってフラックス入りワイヤを製造した。
(溶接条件)
溶接作業性を確認するため、実施例及び比較例の各ワイヤを用いて、表3に示す組成の鋼板を母材とし、表4に示す条件にて溶接を行った。
なお、表3に示す鋼板の成分組成における残部は、Fe及び不可避的不純物である。
アーク安定性については、表4に示す〔1〕〜〔3〕の3種の溶接条件について、其々、水平すみ肉・立向上進の2種の姿勢の溶接を実施、つまり、合計6種の溶接試験を実施した。そして、各溶接条件について、2種の姿勢でのアークが安定であったものを「〇」、1種の姿勢でのアークが安定かつ1種の姿勢でのアークがやや不安定であったもの、又は、2種の姿勢でのアークがやや不安定であったものを「△」、少なくとも1種の姿勢でのアークが不安定であったものを「×」と評価した。
なお、アーク安定性については、「〇」又は「△」を合格と判断し、「×」を不合格と判断した。
ビード形状については、表4に示す〔1〕〜〔3〕の3種の溶接条件において、其々、水平すみ肉・立向上進の2種の姿勢の溶接を実施、つまり、合計6種の溶接試験を実施した後、形成した各溶接部を観察し、視覚的に評価した。具体的には、6種の溶接試験で得られた全ての溶接部のビード形状が平滑で良好であったものを「〇」、6種の溶接試験で得られた各溶接部のうち1つでもビード形状が凸状や垂れた形状等のような不良であったものを「×」と評価した。
ビード外観については、表4に示す〔1〕〜〔3〕の3種の溶接条件において、其々、水平すみ肉・立向上進の2種の姿勢の溶接を実施、つまり、合計6種の溶接試験を実施した後、形成した各溶接部を観察し、視覚的に評価した。具体的には、6種の溶接試験で得られた全ての溶接部のビード外観が波目状ではなく良好であったものを「〇」、6種の溶接試験で得られた各溶接部のうち1つでもビード外観が波目状等となり不良であったものを「×」と評価した。
スパッタ発生量については、表4に示す〔1〕〜〔3〕の3種の溶接条件において、其々、水平すみ肉・立向上進の2種の姿勢の溶接を実施、つまり、合計6種の溶接試験を実施した後、各溶接試験の際に生じたスパッタの量に基づいて定量的に評価した。具体的には、WES2807:2000に準じて、スパッタを確保する捕集箱を設置した環境内で溶接を行った。アークタイムは60秒とし、溶接完了後、捕集箱のスパッタを採取し重量を計測し、これを2回繰り返し、平均値をスパッタ発生量とした。6種の溶接試験について全てのスパッタの発生量が2g/min未満であったものを「○」、6種の溶接試験のうち1つでもスパッタの発生量が2g/min以上であったものを「×」と評価した。
ヒューム発生量については、表4に示す〔1〕〜〔3〕の3種の溶接条件において、其々、水平すみ肉・立向上進の2種の姿勢の溶接を実施、つまり、合計6種の溶接試験を実施した後、各溶接試験の際に生じたヒュームの量に基づいて定量的に評価した。具体的には、JIS Z 3930:2013に準じて、ヒューム発生量に影響を及ぼさない環境内で溶接を行った。アークタイムは60秒とし、溶接開始と同時にろ過材と装着したサンプラによる吸引を開始し、溶接完了後、30秒間の吸引を行った。そして、ろ過材のヒューム捕集前後の質量差からヒューム発生量を算出し、これを2回繰り返し、平均値をヒューム発生量とした。6種の溶接試験について全てのヒュームの発生量が1.5g/min未満であったものを「○」、6種の溶接試験のうち1つでもヒュームの発生量が1.5g/min以上であったものを「×」と評価した。
(溶接条件)
溶接金属の評価を行うため、実施例及び比較例の各ワイヤを用いて、表5に示す組成の鋼板を母材とし、表6に示す条件にて溶接を行った。
なお、表5に示す鋼板の成分組成における残部は、Fe及び不可避的不純物である。
溶接金属の機械的性質は、JIS Z 3111:2005に規定される「溶着金属の引張及び衝撃試験方法」に準拠した引張試験及び衝撃試験により評価した。
引張試験片は、溶接金属中央で板厚中央の位置から採取したA0号試験片を用いた。また、衝撃試験片は、溶接金属中央で板厚中央の位置から採取したVノッチ試験片を用いた。
靭性は、−5℃での吸収エネルギーが80J以上のものを「〇」、47J以上80J未満のものを「△」、47J未満のものを「×」と評価した。
なお、引張強さと靭性については、「〇」又は「△」を合格と判断し、「×」を不合格と判断した。
耐吸湿性の評価は、まず、製造したワイヤを3cmに切断した試料を3本用意し、110℃×1時間の試験前乾燥を施し、30℃×相対湿度80%RHの雰囲気で24時間吸湿させた。その後、ワイヤをアルゴン雰囲気中で750℃の加熱によって発生した水分量を計測した。吸湿後のワイヤの水分量が800ppm未満のものを「〇」、800ppm以上のものを「×」と評価した。
なお、本発明における大入熱溶接とは、例えば、4.1kJ/mm以上の入熱の溶接(より厳しい条件としては入熱が5.5kJ/mm以上の溶接)を想定している。
No.33(ワイヤNo.H2)は、ワイヤのTiO2の含有量が下限値未満であったため、ビード形状、ビード外観が劣化した。
No.34(ワイヤNo.H3)は、ワイヤのNiの含有量が上限値を超えていたため、引張強さが上昇し過ぎた。
No.35(ワイヤNo.H4)は、ワイヤのNiの含有量が下限値未満であったため、靱性が低下した。
No.36(ワイヤNo.H5)は、ワイヤのMoの含有量が上限値を超えていたため、引張強さが上昇し過ぎた。
No.37(ワイヤNo.H6)は、ワイヤのMoの含有量が下限値未満であったため、引張強さが低下した。
No.38(ワイヤNo.H7)は、ワイヤのCの含有量が上限値を超えていたため、ビード形状、ビード外観が劣化した。
No.39(ワイヤNo.H8)は、ワイヤのCの含有量が下限値未満であったため、引張強さが低下した。
No.40(ワイヤNo.H9)は、ワイヤのT.Siの含有量が上限値を超えていたため、靱性が低下した。
No.41(ワイヤNo.H10)は、ワイヤのT.Siの含有量が下限値未満であったため、ビード形状、ビード外観が劣化した。
No.42(ワイヤNo.H11)は、ワイヤのZrO2の含有量が上限値を超えていたため、ビード形状、ビード外観が劣化した。
No.43(ワイヤNo.H12)は、ワイヤのZrO2の含有量が下限値未満であったため、ビード形状、ビード外観が劣化した。
No.44(ワイヤNo.H13)は、ワイヤのMnの含有量が上限値を超えていたため、引張強さが上昇し過ぎ、靱性が低下した。
No.45(ワイヤNo.H14)は、ワイヤのMnの含有量が下限値未満であったため、靱性が低下した。
No.46(ワイヤNo.H15)は、ワイヤのAlの含有量が上限値を超えていたため、靱性が低下した。
No.47(ワイヤNo.H16)は、ワイヤのAlの含有量が下限値未満であるとともに、ワイヤの[TiO2]/[Al]によって算出される値が上限値を超えていたため、靱性が低下した。
No.48(ワイヤNo.H17)は、ワイヤのNaFの含有量が上限値を超えていたため、ヒューム発生量が増加し、耐吸湿性が劣化した。
No.49(ワイヤNo.H18)は、ワイヤのNaFの含有量が下限値未満であったため、アーク安定性が劣化し、スパッタ発生量が増加した。
No.50(ワイヤNo.H19)は、ワイヤのT.Bの含有量が上限値を超えていたため、引張強さが上昇し過ぎ、靱性が低下した。
No.51(ワイヤNo.H20)は、ワイヤのT.Bの含有量が下限値未満であったため、靱性が低下した。
No.52(ワイヤNo.H21)は、ワイヤの[TiO2]/[Al]によって算出される値が上限値を超えていたため、引張強さが低下し、靭性が低下した。
No.53(ワイヤNo.H22)は、ワイヤの[TiO2]/[Al]によって算出される値が下限値未満であったため、ビード形状、ビード外観が劣化し、加えて、引張強さが上昇し、靭性が低下した。
No.54(ワイヤNo.H23)は、ワイヤのMgの含有量が上限値を超えていたため、スパッタ発生量が増加し、耐吸湿性が劣化した。
No.55(ワイヤNo.H24)は、ワイヤのMgOの含有量が上限値を超えていたため、ビード外観が劣化し、耐吸湿性が劣化した。
No.56(ワイヤNo.H25)は、ワイヤのNa+Kの含有量が上限値を超えていたため、耐吸湿性が劣化した。
No.57(ワイヤNo.H26)は、ワイヤのFの含有量が上限値を超えていたため、スパッタ発生量及びヒューム発生量が増加した。
Claims (2)
- ワイヤ全質量あたり、
TiO2:4.0質量%以上10.0質量%以下、
Ni:0.2質量%以上2.0質量%以下、
Mo:0.01質量%以上0.50質量%以下、
C:0.01質量%以上0.10質量%以下、
Si及びSi酸化物のSi換算量の合計:0.20質量%以上1.70質量%以下、
ZrO2:0.1質量%以上1.0質量%以下、
Mn:1.3質量%以上3.5質量%以下、
Al:0.10質量%以上1.00質量%以下、
NaF:0.05質量%以上0.60質量%以下、
B及びB酸化物のB換算量の合計:0.0003質量%以上0.0300質量%以下、
Mg:0.10質量%未満、
MgO:0.10質量%未満、
NaF以外のNa化合物のNa換算量とK化合物のK換算量との合計:0.20質量%以下、
NaF以外のF化合物のF換算量:0.10質量%以下、
であるとともに、
TiO2の含有量を[TiO2]、Alの含有量を[Al]とした場合、5.00≦[TiO2]/[Al]≦70.00を満たすことを特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。 - ワイヤ全質量あたり、
Al2O3:0.5質量%以下、
Ca:0.10質量%以下、
Ti:0.25質量%以下、
であることを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
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