グルタミン酸ナトリウムに関しては、東京大学教授の池田菊苗博士が発明した特許(出願日:1908年4月24日、1908年7月25日特許査定(特許第14805号、発明の名称:グルタミン酸塩を今後医師主要成分とせる調味料製造法))(例えば、特許文献1参照)を味の素(株)の社長鈴木三郎助氏が工業化した。この池田博士の特許は以下の請求項で構成されている。
第1項は、「本文所載の目的に於て本文に詳記したる如く強酸を用いて蛋白質若くは蛋白質含有物を加水分解せしめて生ずる果成物の全部若くは一部を塩基にて中和し因て以て固形若くは液状の飲食物及び嗜好品に特異の好味を付すべき「グルタミン」酸塩を主要成分とせる調味料を製造する方法。」に係わるものである。食品のうま味成分はアミノ酸の一種であるグルタミン酸ナトリウムに係わることを明らかにしたものである。
また、この特許におけるグルタミン酸ナトリウムはタンパク質の構成成分であり、タンパク質を塩酸で分解することで製造される。このタンパク質の分解物もうま味をもっていることが明らかになっている。
この特許に基づき、味の素(株)は、グルタミン酸ナトリウムの結晶を調味料「味の素:登録商標」として商品化すると共に、脱脂大豆のタンパク質を分解した調味料を「「味液;アジエキ、ミエキ)」:登録商標」として商品化した。池田博士の特許出願から100有余年を経た現在でも、この2つの商品は味の素(株)の主力商品として販売され世界の食卓に「美味しさ」を届けている。
この池田博士の特許は、現在では食品の味は「アミノ酸」であることを示している。
その後の多くの研究で例えば18種のアミノ酸の物理化学的性質が解明されており、アミノ酸科学からタンパク質科学に至り、生命と健康に関する研究が展開されている。
同時に、アミノ酸の味についての検討や利用もされており、多くの調味料への利用がされている。
味の素(株)製の「味液(登録商標)」は、しょう油の原料として、味の改善や製造コストの低減等に貢献し、「味液」の発売以来約80年にわたり大きな貢献をしている。しかし、「味液」には、製法上、麹をつかう本醸造しょう油と比較してクロロプロパノール(MCP等)等が含まれるという問題や、JAS規格に基づき商品にアミノ酸混合しょう油又は混合しょう油等の表示が必要であるという問題がある。
タンパク質を加水分解したものに、所定の工程を施し、調味用アミノ酸液を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。このアミノ酸液中のアミノ酸組成分析例によれば、多数のアミノ酸(バリン、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、プロリン、セリン等)が含まれている。このうちの4種のアミノ酸(アラニン、アルギニン、グリシン、及びグルタミン酸)だけを基準として、表3のアミノ酸組成分析に基づいて、その比率を計算すれば、それぞれ、15.7wt%、15.7wt%、15.7wt%、及び53.0wt%であり、アラニンは35.0wt%よりも極めて低く、アルギニンは2.2wt%よりも極めて高く、グリシンは44.2wt%よりも極めて低く、グルタミン酸は11.0wt%よりも極めて高い。グルタミン酸が含まれていることから、pHが低く、強烈な酸味があり、うま味や甘味等は得られない。
また、風味評価方法に関する発明であって、旨味物質であるアミノ酸類としてアラニン、アルギニン、グリシン及びグルタミン酸が開示されている(例えば、特許文献3参照)が、それぞれの配合比率については具体的に記載も示唆もない。グルタミン酸が含まれていることから、pHが低く、強烈な酸味があり、うま味や甘味等は得られない。なお、日本酒と料理の相性判定システムに係わる発明が開示されており(例えば、特許文献4参照)、味覚の濃淡を決定するアミノ酸としてグルタミン酸、グリシン、アルギニン、アラニンの4種類が、また、旨味成分としてグルタミン酸ナトリウムが開示されているが、それぞれのアミノ酸含有量がどのような範囲で味覚に影響するかについては、記載も示唆もない。グルタミン酸が含まれていることから、pHが低く、強烈な酸味があり、うま味や甘味等は得られない。
さらに、「味液」中には多数のアミノ酸(リジン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、シスチン等)が含まれている。これらのうちの4種のアミノ酸(アラニン、アルギニン、グリシン、及びグルタミン酸)だけを基準として、その比率を計算すれば、それぞれ、例えば、15.4wt%、14.0wt%、11.2wt%、及び59.4wt%である。アラニンは35.0wt%よりも極めて低く、アルギニンは2.2wt%よりも極めて高く、グリシンは44.2wt%よりも極めて低く、グルタミン酸は11.0wt%よりも極めて高い。
さらにまた、アミノ酸として、グリシン100重量部に対して、アラニン7〜20部、アルギニン27〜40部、グルタミン酸ナトリウム5〜10部、メチオニン1〜3部と、ヌクレオチドと、無機塩とを配合した複合調味料が知られている(例えば、特許文献5参照)。しかし、これらのうちの4種のアミノ酸(アラニン、アルギニン、グリシン、及びグルタミン酸)だけを基準として、その比率を計算すれば、アラニンの配合量は低く、アルギニンの配合量は高く、グリシンの配合量は高く、グルタミン酸ナトリウムの配合量は低い。上記メチオニンは、加熱によりMMSCL(Methyl Methionil Sulfanil Chloride;メチオニルクロライド)になり、これは、好ましくない分解臭のような独特の匂いとなる。従って、調味料が加熱される場合(しょう油等に利用する場合)には、好ましくない香りを発生するので嫌われる。
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決して、「味液」を含めたアミノ酸液の検討結果に基づき、特定のアミノ酸を利用してさらに味や香りに優れたアミノ酸混合調味料を提供することにあり、また、MCP等が含まれず、商品にアミノ酸混合しょう油等の表示を必要としない優れたアミノ酸混合調味料を提供することにある。そのために、本発明では、まず、「味液」を含めたアミノ酸液のしょう油製造への利用を検討し、次いで本発明のアミノ酸混合調味料を検討し、その調味料のしょう油、味噌等の各種醸造食品等への利用の可能性を検討する。
アミノ酸は、これまで、「味液(アミノ酸液)」の製造工程から分離精製して製造してきた。初期のアミノ酸のリジン等も「味液」製造工程からイオン交換樹脂等を用いて分離して製造されていた。
しかし、最近の技術の進歩によって、アミノ酸は、その殆どが微生物を使用した発酵法で製造されており、不純物も少なく、価格も比較的安価に入手できるようになった。
「味液」は、大豆タンパク質等を塩酸で分解して製造されているが、この殆どの利用先はしょう油及びしょう油を原料とした調味料である。この「味液」は、しょう油及び調味料の味を増強するために用いられているとされている。「味液」以外のアミノ酸液も同じ原料タンパク質や他の原料タンパク質から製造されており、原料の違いにより、アミノ酸組成には若干の差異がある。
しょう油は、原料として大豆又は脱脂大豆と小麦を通常等重量使用して製造される。これら原料のタンパク質の比率は、通常、8割の大豆タンパク質と2割の小麦タンパク質とからなり、しょう油は、この原料を麹菌酵素で分解して製造される。得られるしょう油生揚の味は、これらのタンパク質により分解されて生成したアミノ酸とペプチドに由来する。ここで、しょう油生揚とは、諸味を搾ったままのしょう油であり、火入れもろ過もしていないものをいう。
一般に、「味」を構成するアミノ酸は、物理的性質に基づいて呈味の分類をすると、水に対する溶解度に基づいて親水性アミノ酸と溶解性の少ない疎水性アミノ酸とに分類される。
この親水性アミノ酸には、リジン、ヒスチジン、アルギニンの塩基性アミノ酸と、グルタミン酸、アスパラギン酸の酸性アミノ酸と、スレオニン、セリン、プロリン、グリシン、アラニン、メチオニンの中性アミノ酸とが含まれる。
疎水性アミノ酸には、バリン、ロイシン、イソロイシン分岐性アミノ酸、シスチン、チロシン、フェニルアラニンが含まれる。
親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸の分類は極性による分類では非極性のグリシン、アラニン、プロリン、メチオニンは、疎水性に分別されるが、本明細書では、呈味性の基準になる溶解性を中心として分類したので親水性とした。超難溶性アミノ酸とは、特に溶解度の小さいチロシン、シスチン、フェニルアラニンをいうものとする。
しょう油(「味液」は添加されていない)及び「味液」中の上記アミノ酸類の構成比を表1に示す。
表1に示すように、しょう油中の各アミノ酸組成割合は、親水性アミノ酸(特に酸性アミノ酸及び中性アミノ酸)が多く、疎水性アミノ酸(特に分岐性アミノ酸)も多い。これに対して、「味液」中のアミノ酸組成割合は、親水性アミノ酸(特に酸性アミノ酸)の比率がしょう油の場合よりも圧倒的に多く、疎水性アミノ酸(特に分岐性アミノ酸)の比率は、しょう油の場合よりも低い。
このことから、しょう油には、うま味も甘味も苦みもかなり均一的に存在しているが、「味液」は疎水性アミノ酸比率が低く、親水性アミノ酸比率が高いので、うま味と甘味とを呈するアミノ酸が多く残っていることが分かる。
この理由は、しょう油の場合は、タンパク質の分解アミノ酸がそのまま残り、うま味を呈するアミノ酸(例えば、グルタミン酸ナトリウム、アスパルギン酸等)もペプチドとして残り、強い苦みを示す分岐性アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン等)も残存しているからであり、「味液」は、苦みを示すアミノ酸が圧倒的に少なくなっているからである。
すなわち、「味液」では、その製造時に濃縮やおり引等で難溶性アミノ酸が晶析されて除去された結果、うま味と甘味のアミノ酸が多く残っているために、苦みの残るしょう油への「味液」の添加により、甘味とうま味を補填して、しょう油の品質を向上させることができる。
本発明の粉末アミノ酸混合調味料は、全アミノ酸重量基準で、アラニンを一般に35.0〜45.0wt%、好ましくは37.5〜42.5wt%、最も好ましくは40.0wt%、アルギニンを一般に1.8〜2.2wt%、好ましくは1.9〜2.1wt%、最も好ましくは2.0wt%、グリシンを一般に44.2〜51.8wt%、好ましくは46.1〜49.9〜wt%、最も好ましくは48.0wt%、グルタミン酸ナトリウムを一般に9.0〜11.0wt%、好ましくは9.5〜10.5wt%、最も好ましくは10wt%、粉末の形態で含んでなることを特徴とする。
上記アミノ酸の含有量に関し、アラニンの場合、35.0wt%未満であると、甘味が減少する傾向があり、45.0wt%を超えると、甘味が強くなる傾向がある。アルギニンの場合、1.8wt%未満であると緩衝性が無くなり、味の奥深さが少なくなる傾向があり、2.2wt%を超えると、pHが高くなり、味もアルカリ味が高くなる傾向がある。グリシンの場合、44.2wt%未満であると、甘味が減少する傾向があり、51.8wt%を超えると、甘味がくどくなる傾向がある。グルタミン酸ナトリウムの場合、9.0wt%未満であると、うま味が弱くなる傾向がり、11.0wt%を超えると、うま味が強く、味がくどくなる傾向がある。
本発明の粉末アミノ酸混合調味料の製造方法は、全アミノ酸重量基準で、アラニンを一般に35.0〜45.0wt%、好ましくは37.5〜42.5wt%、最も好ましくは40.0wt%、アルギニンを一般に1.8〜2.2wt%、好ましくは1.9〜2.1wt%、最も好ましくは2.0wt%、グリシンを一般に44.2〜51.8wt%、好ましくは46.1〜49.9wt%、最も好ましくは48.0wt%、グルタミン酸ナトリウムを一般に9.0〜11.0wt%、好ましくは9.5〜10.5wt%、最も好ましくは10wt%を粉末の状態で混合することを特徴とする。
本発明の醸造食品用粉末アミノ酸混合調味料は、全アミノ酸重量基準で、アラニンを一般に35.0〜45.0wt%、好ましくは37.5〜42.5wt%、最も好ましくは40.0wt%、アルギニンを一般に1.8〜2.2wt%、好ましくは1.9〜2.1wt%、最も好ましくは2.0wt%、グリシンを一般に44.2〜51.8wt%、好ましくは46.1〜49.9wt%、最も好ましくは48.0wt%、グルタミン酸ナトリウムを一般に9.0〜11.0wt%、好ましくは9.5〜10.5wt%、最も好ましくは10wt%、粉末の形態で含んでなり、さらに食塩を全アミノ酸56〜64wt%に対して36〜44wt%含んでいることを特徴とする。
上記食塩の含有量に関し、36wt%未満であると、醸造中の食塩量が少なくなり過ぎ、醸造ができなくなる傾向があり、44wt%を超えると、製品が塩っぽくなり、好ましくない傾向がある。
本発明の醸造食品用粉末アミノ酸混合調味料の製造方法は、全アミノ酸重量基準で、アラニンを一般に35.0〜45.0wt%、好ましくは37.5〜42.5wt%、最も好ましくは40.0wt%、アルギニンを一般に1.8〜2.2wt%、好ましくは1.9〜2.1wt%、最も好ましくは2.0wt%、グリシンを一般に44.2〜51.8wt%、好ましくは46.1〜49.9wt%、最も好ましくは48.0wt%、グルタミン酸ナトリウムを一般に9.0〜11.0wt%、好ましくは9.5〜10.5wt%、最も好ましくは10wt%を粉末の形態で混合し、さらに食塩を全アミノ酸56〜64wt%に対して36〜44wt%混合することを特徴とする。
上記粉末アミノ酸混合調味料の製造方法、醸造食品用粉末アミノ酸混合調味料及びその製造方法において、アミノ酸の含有量の上限及び下限の根拠は上記した通りである。また、醸造食品用粉末アミノ酸混合調味料の製造方法において、食塩の含有量の下限及び上限の根拠は上記した通りである。
本発明によれば、MCP等が含まれず、うま味や甘味や香りに優れた粉末アミノ酸混合調味料を提供でき、また、しょう油製造工程での添加でなければ商品に(アミノ酸)混合しょう油等の表示を必要としない優れた粉末アミノ酸混合調味料であって、この粉末アミノ酸混合調味料をしょう油や味噌や漬物汁等の醸造食品等の製造へ利用することが可能になるという効果が奏される。
本発明の粉末アミノ酸混合調味料は、甘さと美味しさに欠ける従来のアミノ酸液と比べ、爽やかな甘さや後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあるという効果を奏する。
また、本発明の粉末アミノ酸混合調味料の所定量をしょう油製造中に混合した場合、従来のアミノ酸液を混合した場合と比べ、芳香な発酵香があり、甘味が強く、塩味が少なく、そして酸味が少ないしょう油が作製されるという効果が奏される。
さらに、本発明の粉末アミノ酸混合調味料は、所定量のグリシンを含有しているので、抗菌作用を有するという効果があり、本発明で用いるアミノ酸は、安価である。
さらにまた、本発明の粉末アミノ酸混合調味料を所定の量でしょう油仕込み初期に添加すると、アルコールが生成されず、酵母の発酵を阻害していることから、アルコールのないしょう油(例えば、回教徒向けのハラールしょう油)を作製することができ、酵母の発生が少ない諸味ができるので、工程管理が楽であるという効果を奏する。
上記目的を達成するために、上記池田菊苗博士の特許になぞらえて、以下、特定のアミノ酸混合物の調味料への利用としょう油製造への利用とについて検討した。
本発明では、(1)調味料の特性を最大に発現するためのアミノ酸を選択すること、(2)調味料に経済的な価格を加味すること、(3)調味料の効果を最大に発現するための汎用性を持つアミノ酸の選択を行うことについて検討した。
上記の選択基準を考慮し、(1)についてはアミノ酸の溶解性等、(2)についてはアミノ酸の価格、そして(3)については緩衝能等について検討した。
その結果、上記(1)については中性アミノ酸のなかで超難溶性(殆ど水に溶けない)であるシスチン、チロシン、フェニルアラニンの3種のアミノ酸は水に対する溶解度が極めて低く、実際に調味料化を行っても、溶液状の食品については、結晶状や白色状の不溶物が生じ、たとえ溶解させても長期保存で結晶が析出し、いわゆる「おり」となって品質を損ねるので使用しないことが好ましい。
しかし、溶解度が上記の3者の超難溶性アミノ酸ほど低くはない難溶性アミノ酸の場合は、栄養成分等の有用性があるため、使用に際して理論溶解度以下の濃度に限定して配合することはできる。すなわち、分岐性アミノ酸のバリン、ロイシン、イソロイシンを一部使用することはできるが、実際に調味料化を行っても、溶液状の食品については、結晶状や白色状の不溶物が生じ、たとえ溶解させても長期保存で結晶が析出し、いわゆる「おり」となって品質を損ねる可能性があるので使用することはあまり好ましくない。
上記(2)については、中性アミノ酸のうちで現時点ではかなり高価であるスレオニン、セリン、プロリンは、原料が自然物や天然物であり、セリン、スレオニンは構造的にも、物理化学的にも非常に近似しており単離が困難であり収率もよくないために高価であるため、安価な製品を作製するには現時点では使用することは好ましくない。
かくして、上記したアラニン、アルギニン、グリシン及びグルタミン酸ナトリウムである4種だけの安価アミノ酸の比率を変えて得られた混合アミノ酸の呈味を比較検討したところ、アルギニンは多量に使用すると、アルカリ味が発現し、溶解時に溶液が強塩基性になること、グルタミン酸ナトリウムは旨みを呈するが、多量に用いると甘味を抑えると共に、くどい味になること、そしてグリシンとアラニンとは同程度の甘味を呈することを考慮して、本発明の調味料原料に最適なアミノ酸混合物として、4種のアミノ酸を選択し、特定の配合量とした。すなわち、グリシン48wt%、アラニン40wt%、グルタミン酸ナトリウム10wt%、アルギニン2wt%からなる配合比率が味及び香りの点で最適であった。これらのアミノ酸は、公知の発酵法、合成法により得られたもの(医薬又は食品添加物規格)を使用することができる。例えば、アルギニン、グルタミン酸ナトリウムは、発酵法により得られた市販品、また、アラニン、グリシンは、合成法により得られた市販品を使用することができる。
上記最適配合比率は、使用する用途に応じて、一般的に、各配合比率の少なくとも10%程度で前後に、好ましくは、各配合比率の少なくとも5wt%程度で前後に変動を行うことが良い。
上記(3)については、調味料化した場合に使用する対象物が食品であり、この食品に対する影響や食品製造工程での中間的使用の場合の影響として微生物への影響も加味した。この場合、食品は一般的には酸性サイドであるので、この緩衝作用を持つアルギニンが本発明で最も有効なアミノ酸である。かくして、アラニン、アルギニン、グリシン、及びグルタミン酸ナトリウムからなる上記アミノ酸混合物を、しょう油、味噌を含めて、その他の発酵食品等の発酵調味料に使用する場合は、対象物のpHを調べて、随時、使用量を調整することが必要である。
表1のデータから「味液」の味の基本は親水性アミノ酸のみでも同様の味の再現をすることが可能である。本発明では、「味液」の製造時に由来する色素や有機酸、無機物等の不純物を含むことなく白色結晶の調味料をつくることが可能となった。
上記4種の安価な純粋のアミノ酸(アラニン、アルギニン、グリシン、及びグルタミン酸ナトリウム)を混合したアミノ酸混合物の有用性について、以下説明する。
以下に記載する実施例は例示であり、本発明はこれらの実施例に制限される訳ではない。単品で医薬や食品グレードである4種のアミノ酸を混合して製造する粉末アミノ酸混合調味料の実施例、また、例えばしょう油製造に用いる粉末アミノ酸混合調味料についての実施例を以下に示す。
本実施例では、医薬又は食品グレード以上の食品添加物指定の4種のアミノ酸だけを、全アミノ酸重量基準で、アラニン40wt%、アルギニン2wt%、グリシン48wt%、及びグルタミン酸ナトリウム10wt%からなる配合比率で配合し、粉末アミノ酸混合調味料を作製した(このアミノ酸混合調味料をしょう油に添加する場合にはしょう油と同等のTNになるように希釈して使用する)。
かくして得られた調味料は、官能試験による評価の結果、強い、深い甘味と、うま味が持続する味との風味を持ち、無色無臭を呈することが明らかになった。
本実施例によれば、MCP等が含まれず、うま味や甘味や香りに優れた粉末アミノ酸混合調味料を提供でき、また、しょう油製造工程での添加でなければ、商品に(アミノ酸)混合しょう油等の表示を必要としない優れた粉末アミノ酸混合調味料であって、この粉末アミノ酸混合調味料をしょう油や味噌や漬物汁等の醸造食品等の製造へ利用することが可能になるという効果が達成される。しょう油に関するJASでは、原料の仕込み時や発酵工程でアミノ酸液を添加する場合、混合しょう油又は混合醸造しょう油と表示しなければならない。
本実施例で得られた粉末アミノ酸混合調味料は、甘さと美味しさに欠ける従来のアミノ酸液と比べ、極めて格別の爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあった。本実施例の粉末アミノ酸混合調味料の所定量と食塩(例えば、アミノ酸混合調味料60wt%に対して40wt%)とをしょう油製造中に混合した場合、従来のアミノ酸液と比べ、芳香な発酵香があり、甘味が強く、塩味が少なく、そして酸味が少ないしょう油が作製でき、発酵食品の発酵助剤として有用であることが明らかであった。また、本実施例の粉末アミノ酸混合調味料は、抗菌作用を有し、安価であり、さらに、本実施例の調味料に食塩を添加した粉末アミノ酸混合調味料を所定の量でしょう油仕込み初期に添加すると、アルコールが生成せず、酵母の発酵を阻害したことから、アルコールのないしょう油を作製することができ、酵母の発生が少ない諸味ができるので、工程管理が楽であった。
実施例1記載の4種のアミノ酸について、以下の表2に記載の配合比率(wt%)で混合し、粉末アミノ酸混合調味料を作製し、その調味料の効果(うま味や甘味や香り、外観、価格等)を検討した。表2中で参考のために記載した記号「(1)」は、各アミノ酸含有量が一般的範囲内にあること、記号「(2)」は、各アミノ酸含有量が一般的範囲内及び好ましい範囲内にあること、記号「(×)」は、各アミノ酸含有量が一般的範囲外及び好ましい範囲外にあることを示す。これは、請求項1の組成範囲に基づいている。
官能評価は、次のようにして行った。
(1)パネル:調味料評価の専門パネル8名(男女各4名)
(2)使用調味料:上記表2記載の混合物番号2−1〜2−21
(3)評価方法:ブラインド試験により、パネルのそれぞれが、味と香りについて5点法で評価した。パネルの文言による評価及び数値による評価平均値を以下に示す。その際、格別顕著に、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあった調味料を評点5とし、顕著な、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあった調味料を評点4とし、通常の、甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあった調味料を評点3とし、通常の場合より劣るが、若干の、甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあった調味料を評点2とし、好ましくない甘さを有し、後味の良い甘さを有せず、さらに甘さを引き立てる旨さに乏しい調味料を評点1とした。また、「味液」についても同様な評価を行った。
上記混合物番号2−1の場合、グリシン含有量が高いので、得られたアミノ酸混合調味料は、調味料の味についての専門家である8名のパネルによる官能試験の結果、甘味は強いが、うま味は少ない傾向があり、平均評点は2.5であった。
以下の混合物番号2−2〜2−21(アミノ酸混合調味料)の場合についても、上記と同じパネルによって官能試験を実施し、以下にその結果を示す。
上記混合物番号2−2の場合、得られたアミノ酸混合調味料は、格別顕著に、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあり、平均評点は5であった。
上記混合物番号2−3の場合、アラニン含有量が低く、グリシン含有量が高いので、得られたアミノ酸混合調味料は、顕著に甘味が低い傾向があり、平均評点は2であった。
上記混合物番号2−4の場合、アルギニン含有量が低く、グリシン含有量が低く、グルタミン酸ナトリウム含有量が高いので、得られたアミノ酸混合調味料は、顕著に、緩衝性がなくなり、甘味が減少し、うまみが強くなって味がくどくなる傾向があり、平均評点は1.5であった。
上記混合物番号2−5の場合、得られたアミノ酸混合調味料は、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあり、平均評点は4であった。
上記混合物番号2−6の場合、アルギニン含有量が高く、グルタミン酸ナトリウム含有量が低いので、得られたアミノ酸混合調味料は、アルカリ味が高くなる傾向があり、平均評点は2であった。
上記混合物番号2−7の場合、グリシン含有量が低いので、得られたアミノ酸混合調味料は甘味が低い傾向があり、平均評点は2.5であった。
上記混合物番号2−8の場合、得られたアミノ酸混合調味料は、上記混合物番号2−2と同様に、格別顕著に、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあり、平均評点は5であった。
上記混合物番号2−9の場合、得られたアミノ酸混合調味料は、顕著な、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあり、平均評点は4.5であった。
上記混合物番号2−10の場合、得られたアミノ酸混合調味料は、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあり、平均評点は4であった。
上記混合物番号2−11の場合、アラニン含有量が高く、アルギニン含有量が低く、グリシン含有量が低く、グルタミン酸ナトリウム含有量が低いので、得られたアミノ酸混合調味料は、顕著に、甘味が低く、緩衝性が低くなって味の奥深さが少なく、うまみが弱い傾向があり、平均評点は1であった。
上記混合物番号2−12の場合、アラニン含有量が高く、アルギニン含有量が低く、グリシン含有量が低いので、得られたアミノ酸混合調味料は、緩衝性が無くなり、味の奥深さが少なくなり、甘味が低くなる傾向があり、平均評点は2であった。
上記混合物番号2−13の場合、アラニン含有量が高く、アルギニン含有量が高く、グルタミン酸ナトリウム含有量が低いので、得られたアミノ酸混合調味料は、顕著に、甘味が強くなり、アルカリ味が高くなり、甘味が弱くなる傾向があり、平均評点は1.5であった。
上記混合物番号2−14の場合、得られたアミノ酸混合調味料は、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあり、平均評点は4であった。
上記混合物番号2−15の場合、得られたアミノ酸混合調味料は、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあり、平均評点は4であった。
上記混合物番号2−16の場合、得られたアミノ酸混合調味料は、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあり、平均評点は4であった。
上記混合物番号2−17の場合、得られたアミノ酸混合調味料は、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあり、平均評点は4であった。
上記混合物番号2−18の場合、得られたアミノ酸混合調味料は、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあり、平均評点は4であった。
上記混合物番号2−19の場合、得られたアミノ酸混合調味料は、顕著な、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあり、平均評点は4.5であった。
上記混合物番号2−20の場合、得られたアミノ酸混合調味料は、上記混合物番号2−2と同様に、格別顕著に、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあり、平均評点は5であった。
上記混合物番号2−21の場合、得られたアミノ酸混合調味料は、爽やかな甘さや、後味の良い甘さを有し、さらに甘さを引き立てる旨さがあり、平均評点は4.5であった。
「味液」は、HVP(Hydrolyzed Vegetable Protein)独特の香りがあり、単独での調味料としては好ましくなかった。
上記実施例1及び2の結果に基づけば、以下の4種のアミノ酸だけを、アラニンを一般に35.0〜45.0wt%、好ましく37.5〜42.5wt%、最も好ましくは40.0wt%、アルギニンを一般に1.8〜2.2wt%、好ましくは1.9〜2.1wt%、最も好ましくは2.0wt%、グリシンを一般に44.2〜51.8wt%、好ましくは46.1〜49.9wt%、最も好ましくは48.0wt%、グルタミン酸ナトリウムを一般に9.0〜11.0wt%、好ましくは9.5〜10.5wt%、最も好ましくは10wt%で混合し、これらのアミノ酸を合計で100wt%になるように含んでいる調味料として有用な粉末アミノ酸混合物を調製できた。この粉末アミノ酸混合調味料は、うま味や甘味や香りや外観(白色粉末)に優れ、価格の安いものであり、さらに実施例1、2に記載したような効果が得られた。このようなバランスの良い特定の配合比率を有する4種のアミノ酸からなる粉末アミノ酸混合調味料により、従来技術にない上記のような特異な顕著な効果が達成されたのである。上記実施例1、2によれば、その数値限定の内と外のそれぞれの効果に顕著な差異がある。
また、上記粉末アミノ酸混合調味料(実施例2−1〜13)の所定量と食塩(例えば、アミノ酸混合調味料60wt%に対して40wt%)とをしょう油製造プロセスの初期工程で添加した場合、従来のアミノ酸液を添加した場合や上記比較例1〜8のアミノ酸混合調味料を添加した場合と比べ、芳香な発酵香があり、甘味が強く、塩味が少なく、そして酸味が少ないしょう油が作製できた。さらに、上記したように、これらの粉末アミノ酸混合調味料は、抗菌作用を有し、安価である。この調味料に食塩を添加した混合物を所定の量でしょう油製造プロセスの初期工程で添加すると、アルコールを生成せず、酵母の発酵を阻害することから、アルコールのないしょう油を作製することができ、酵母の発生が少ない諸味ができるので、工程管理が楽である。
実施例1、2で用いたアミノ酸混合物は、各アミノ酸が食品添加物規格(JAS規格)の範囲内にある。この組成範囲のアミノ酸混合物を液体ではなく結晶形態の混合物として調製してあり、粉体形態のままで食品へ添加することにより食品の味の向上を来すことが認められた。
また、実施例1及び2で得られた本発明の粉末アミノ酸混合調味料は、結晶水を持つアミノ酸であるグルタミン酸ナトリウムの添加比率が少ないために、通常の湿度をもつ空気中で放置(例えば、1年以上)しても「潮解」することはなく、調味料としての安定性を備えている。
さらに、本調味料は、アミノ酸の殆どが甘味を持っていることから、糖分の摂取を制限されている「糖尿病患者」や「腎臓疾患患者」の人々への調味料としても有用である。
本実施例では、単品の医薬又は食品グレード以上の食品添加物指定のアミノ酸の混合調味料として、しょう油製造工程で使用する調味料の例を示した。
しょう油の製法は、使用する原料によって決まり、大別して以下の2つの方法にわけられる。
第1は、タンパク原料の大豆(又は脱脂大豆)と炭水化物原料の小麦とを使い、各々原料処理した(公知の方法で大豆を蒸して変性させ、また、小麦は炒って変性させた)物量に麹菌を生育させ、得られたしょう油麹に高濃度(22〜23%)の食塩水を加え、酵素分解、酵母、乳酸菌発酵の微生物を使い、熟成させて得られたしょう油諸味を圧搾して生揚しょう油をつくる方法である(本醸造方式)。
第2は、タンパク原料である脱脂大豆又は小麦タンパクの小麦グルテンを塩酸や酵素で分解して得た「アミノ酸液」をしょう油発酵工程に加えてしょう油をつくる方法である(混合醸造方式)。
両者の違いは、以下の通りである。
本醸造しょう油を製造する本醸造方式の場合、麹菌酵素により原料の大豆、小麦タンパク質を分解して、呈味成分であるアミノ酸を得る方式であるが、高濃度食塩中での酵素分解であり、また、限定された酵素での分解であるので、タンパク分解が完全に行われず、一部はペプチド態として存在する。このために、収率は低いが、味はマイルドであって、複雑な微生物の作用による独特の発酵香が付与されている。
一方、混合醸造方式(タンパク質の塩酸分解)の場合、タンパク質を構成するペプチド結合をほぼ完全に切断できることで、構成するアミノ酸を高収率で得ることが出来るので、呈味力の強いアミノ酸液を得ることができる。
しかし、混合醸造方式の場合、原料中に含まれる澱粉や多糖類を構成する炭水化物、糖分は完全に分解されるので、本醸造方式の場合のような糖分や発酵による香気成分はないので、混合醸造方式によるしょう油では、アミノ酸液を生揚製造の工程で添加していたが、最近では殆ど、生揚しょう油とアミノ酸液とを混合している。
ここで、アミノ酸液のしょう油製造工程での添加の意義は、表1で示したように、しょう油と従来のアミノ酸液のアミノ酸組成の比較から、生揚の味の増強ではなく、むしろ実施例1及び2に記載の本発明のアミノ酸混合調味料の添加目的と同じ効果を狙ったものであると考えられる。
この場合、従来のアミノ酸液を加えると、アミノ酸液製造工程で副生するレブリン酸やギ酸等の有機酸の他に有機塩素関連化合物のMCP(原料中の油脂の分解で生成するグリセリンと塩素の化合物)等の混入も問題になり、好ましくない。
本実施例では、脱脂大豆600kgと小麦600kgとを使用して、10石スケールでの製麹を行ったしょう油麹に、2160リッターの22.5g/dlの高濃度食塩水を混合して仕込みを行って、生揚しょう油を製造した(本醸造方式)。
この際に、純度が食品添加物レベル以上(JAS規格)の、アラニン、アルギニン、グリシン、及びグルタミン酸ナトリウムを、全アミノ酸重量基準で、それぞれ、40.0wt%、2.0wt%、48.0wt%、及び10.0wt%の量と、このアミノ酸混合物60wt%に対し食塩を40wt%配合したものをしょう油原料の仕込み時に添加した。この添加量は、原料のTNの10%に相当する量とした。
この場合、上記アミノ酸混合物を水に溶解して仕込み食塩水量を上げる方法と、仕込み食塩水量をそのままにしてアミノ酸混合物を加える方法とがある。
前者の場合、生揚濃度は、アミノ酸無添加時のTNが1.6g/dlであるのに対して、アミノ酸添加区分では、生揚濃度が1.78g/dlとなる。
また、前者の場合、アミノ酸を水で溶解して加えると、生揚のTNは同一であるが、生揚しょう油の取得量は、アミノ酸を加えない場合と比べて約110L程度増加する。
この後者の方法は、しょう油製造での管理の最も難しい生揚のTN濃度の高度化についての改善方策でもある。
本実施例に従って粉末アミノ酸混合調味料を添加して製造したしょう油と、この調味料を添加しないで製造したしょう油(コントロール)とを比べて、味と香りの官能評価(パネル:8名(男女各4名))をブラインドで実施した。その結果、本実施例で得られたしょう油は、甘味を主体として「こく味」が強く、濃厚感があり、味と香りについて格別顕著な効果が得られたが、コントロールのしょう油はそのような効果が得られなかった。また、本実施例で用いたアミノ酸混合物は、例えば、しょう油や味噌や漬物用汁等の発酵食品の醸造プロセスで有効であることが明らかであると共に、この食塩量を、全アミノ酸56wt%〜64wt%に対して36〜44wtの範囲で変化させて、同様な試験を実施した場合も、同様な結果が得られる。しかし、食塩量がこの範囲を外れると、醸造プロセスがうまくいかず、また、味や香りが好ましくない結果が得られた。
原料が大豆の場合には、生揚の窒素濃度を上げるためにはタンパク質の含有料の少ない小麦の使用量を少なくして製麹し、仕込み食塩水量を少なくする(硬仕込み)等の管理技術を駆使して対応することが必要であった。
この仕込み方法(硬仕込み)の場合、製品の生揚には、レブリン酸や、ギ酸や、MCP等も無いことは当然であるが、手法については混合醸造方式の原理と同様であるので、現在の法的な基準(JAS)で、混合しょう油はアミノ酸しょう油となる。
本実施例では、実施例3で用いたアミノ酸混合物と食塩との配合物を、従来のしょう油の製造方法を実施する際のしょう油原料の仕込み時に添加した。なお、対照として、このアミノ酸混合物と食塩とを添加しない従来のしょう油(無添加品)と、「味液」を従来のしょう油の製造方法を実施する際のしょう油原料の仕込み時に添加して得たしょう油(「味液」の場合には、食塩を添加しない)とを用いた。
従来のしょう油の場合、脱脂大豆と小麦を等重量使用して、製麹した麹に食塩水(22.5g/dl)を通常の12水仕込みして6ヵ月発酵熟成してしょう油を製造し、これを官能評価のサンプル(以下、「無添加品」と称す)とした。
また、実施例3で用いたアミノ酸混合物と食塩との配合物の場合、上記従来のしょう油製造の仕込み時に、この配合物を上記脱脂大豆及び小麦原料中の窒素の10wt%の量添加し、同様にして発酵熟成してしょう油を製造し、これを官能評価のサンプル(以下、「本発明品」と称す)とした。また、このしょう油に鰹節を10wt%加え、ダシしょう油を作り、サンプル(ダシしょう油)とした。このダシしょう油には、通常の市販品と異なり、砂糖やみりんや核酸等を添加していない。この核酸はうまみ成分であるが、これを添加すると、麹菌のフォスファターゼで分解されてしまい、味がなくなってしまうため、本発明の粉末アミノ酸混合調味料に添加しても効果を発現できない。
さらに、上記本発明の配合物の代わりに「味液」を上記脱脂大豆及び小麦原料中の窒素の10wt%の量添加し、上記と同様にして発酵熟成してしょう油を製造し、これを官能評価のサンプル(以下、「味液」配合品)とした。また、このしょう油に鰹節を10wt%加え、ダシしょう油を作り、サンプル(ダシしょう油)とした。このダシしょう油には、通常の市販品と異なり、砂糖やみりんや核酸等を添加していない。
官能評価を実施する場合、実施例3で用いたアミノ酸混合物を配合した場合や、「味液」を配合した場合は、それぞれで製造されたしょう油は、従来のしょう油の場合と比べて高窒素になるので、TN量や食塩濃度が同様になるように調整してから官能評価を実施する必要があった。そのため、従来のしょう油の場合のTN:1.56g/dl、食塩:18g/dlと同じになるように希釈調整した。
官能評価は、次のようにして行った。
(1)パネル:某醤油(株)の研究室の専門パネル8名(男女各4名)
(2)しょう油の使用方法:市販の絹ごし豆腐に本発明品、「味液」配合品、無添加品を適当量かけて食した。また、小松菜には上記ダシしょう油を適当量かけて食した。
(3)評価方法:
パネルのそれぞれが、味と香りについて5点法で評価した。平均値を以下に示す。その際、無添加品を基準点の3点とした。その際、評価はブラインドにて行った。
表3から明らかなように、本発明品は評価が高く、ダシしょう油の場合と同じ結果が得られ、甘味を主体として、「こく味」が強く、濃厚感があった。また、「味液」配合品は、HVP(Hydrolyzed Vegetable Protein)独特の香りがあったが、本発明品はスッキリした香りがあった。