以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の冷却器10の全体構成を断面図示すると共に、その全体構成図の下側に冷却器10の温度分布を示した図である。この図1の全体構成図に示すように、冷却器10は、加熱部14、冷却部16、体積変化吸収部18、および中継部20等を備えている。冷却器10は、その冷却器10内に封入された冷媒を利用して発熱体121、122を冷却する。詳細に言えば、冷却器10は、冷却器10内に封入された冷媒を冷媒振動方向DRvに沿って自励振動させることにより、加熱部14に取り付けられた熱源である発熱体121、122の熱を加熱部14から冷却部16へ移動させて冷却部16から外部へと放熱する。
なお、図1下側の温度分布図は、冷媒振動方向DRvに沿った冷却器10の温度分布を示した図である。すなわち、その図1下側の温度分布図では、横軸が冷却器10における冷媒振動方向DRvの位置を表し、縦軸が、加熱部14と中継部20と冷却部16とから成る冷媒容器のうち後述の冷媒封入空間32に面し冷媒に接触する冷媒接触面の温度を表している。この温度分布図における横軸および縦軸の構成は、後述の図3(d)、図5(c)、および図6〜8でも同様である。
冷却器10内に封入された冷媒は、常温では液体で、発熱体121、122により加熱されることにより冷却器10内にて沸騰する流体である。また、冷媒振動方向DRvとは、冷却器10内に封入された冷媒の自励振動においてその冷媒が往復する方向、言い換えれば、冷却器10内の蒸気冷媒(すなわち気体の冷媒)と液冷媒(すなわち液体の冷媒)との境目を成す気液界面26が往復する方向である。
発熱体121、122は発熱するものであり、冷却器10によって冷却される部材である。具体的に発熱体121、122は、冷却が必要な半導体素子などである。一例を挙げれば、インバータの半導体素子モジュールである。本実施形態では、発熱体121、122は2つ設けられており、加熱部14の外側に取り付けられ固定されている。そして、発熱体121、122はそれぞれ、発熱体121、122の熱を加熱部14へ伝える伝熱面121a、122aを有している。
加熱部14の内部には加熱部空間14aが形成されている。また、その加熱部空間14aは冷媒で満たされている。具体的には、加熱部14は有底筒形状を成している。そして、冷媒振動方向DRvにおける加熱部空間14aの冷却部16側の端である一端は冷却部16の冷却部空間16aへ連通するように開口しているが、加熱部空間14aの他端は閉塞されている。
また、加熱部14は発熱体121、122の熱を加熱部空間14a内の冷媒へ伝える役割を果たすので、例えばアルミニウム合金など熱伝導性の良い金属によって構成されている。
加熱部14のうち、冷媒振動方向DRvに直交する冷媒振動交差方向DRcにおける一方側の外表面141には、2つの発熱体121、122のうちの第1の発熱体121が伝熱可能に接触させられている。詳細には、その一方側の外表面141は第1の発熱体121が有する伝熱面121aに面接触している。
これと同様に、加熱部14のうち冷媒振動交差方向DRcにおける他方側の外表面142には、2つの発熱体121、122のうちの第2の発熱体122が伝熱可能に接触させられている。詳細には、その他方側の外表面142は第2の発熱体122が有する伝熱面122aに面接触している。このように発熱体121、122が加熱部14に装着されていることから、加熱部14は、発熱体121、122の熱を加熱部空間14a内の冷媒へ放熱させ、その冷媒への放熱によりその冷媒を加熱し沸騰気化させる。
なお、発熱体121、122から加熱部14への熱の伝わりを良くするために、発熱体121、122の伝熱面121a、122aは、その伝熱面121a、122aに塗布されたグリスを介して加熱部14の外表面141、142にそれぞれ接触していても差し支えない。
冷却部16の内部には、加熱部空間14aと連通している冷却部空間16aが形成されている。そして、冷却部16は、加熱部14で気化され冷却部空間16aへ流入してきた気体の冷媒すなわち蒸気冷媒を冷却して液化させる。具体的に冷却部16は、冷却部壁161と冷却装置162とを備えている。冷却部16は、加熱部14に対し冷媒振動方向DRvの一方に中継部20を挟み並んで配置されている。
冷却部壁161は筒状の形状を成しており、その内側に冷却部空間16aが形成されている。冷却装置162は、冷却部壁161と一体に成形され冷却部壁161の周りに設けられた多数の冷却フィン162aから構成されている。そして、冷却装置162は、冷却部空間16a内の冷媒を、冷却器10外部の空気である外気と熱交換させることにより冷却する。
冷却部壁161および冷却装置162は、冷却部16で高い放熱性能が得られるように、例えばアルミニウム合金等の熱伝導性の良い金属で構成されている。そして、冷却部壁161は薄肉に形成されている。
冷却部空間16aは冷媒振動方向DRvへ細長く延びた空間であり、冷媒振動方向DRvに直交する管路断面積が極めて小さい管路で構成されている。そのため、冷却部空間16a内に冷媒の気液界面26が存在する場合には、その気液界面26は重力方向に拘わらず、冷媒の表面張力により、冷媒振動方向DRvの加熱部14側を向くように維持される。そして、冷媒振動方向DRvにおいて、気液界面26を境に加熱部14側には蒸気冷媒が存在し、その反対側には液冷媒が存在する。
例えば、冷媒が加熱部14で加熱されることにより、気体になった冷媒の体積が増すほど、冷却部空間16a内において気液界面26は、加熱部空間14aから遠ざかる方向すなわち図1の左方向へ移動する。そうすると、冷却部16は、液冷媒も冷却するが、それと共に、加熱部14で気化された蒸気冷媒も冷却し凝縮させる。
中継部20は、冷媒振動方向DRvにおいて加熱部14と冷却部16との間に配置されている。具体的に、中継部20は、冷媒振動方向DRvに延びた筒形状を成している。そして、冷媒振動方向DRvにおける中継部20の一端は冷却部16の冷却部壁161に接続され、中継部20の他端は加熱部14に接続されている。すなわち、中継部20の内部には、加熱部空間14aと冷却部空間16aとをつなぐ中継部空間20aが形成されている。
この中継部空間20aも冷却部空間16aと同様に、管路断面積が極めて小さい管路で構成されている。そのため、中継部空間20a内に冷媒の気液界面26が存在する場合には、その気液界面26は重力方向に拘わらず、冷媒の表面張力により、冷媒振動方向DRvの加熱部14側を向くように維持される。
また、中継部20は、熱抵抗部201と加熱部側接続部202と冷却部側接続部203とを有している。この熱抵抗部201、加熱部側接続部202、および冷却部側接続部203は冷媒振動方向DRvに沿って直列に接続され、加熱部14側から加熱部側接続部202、熱抵抗部201、冷却部側接続部203の順に並んで配置されている。
加熱部側接続部202は加熱部14に接続され、加熱部14と一体構成になっている。そして、冷却部側接続部203は冷却部16に接続され、冷却部16と一体構成になっている。従って、加熱部14、加熱部側接続部202、熱抵抗部201、冷却部側接続部203、冷却部16、および体積変化吸収部18は、加熱部14、加熱部側接続部202、熱抵抗部201、冷却部側接続部203、冷却部16、体積変化吸収部18の順に冷媒振動方向DRvに沿って直列に配置されている。
また、加熱部側接続部202は例えば加熱部14と同じ材料で構成され、冷却部側接続部203は冷却部16と同じ材料で構成さている。
熱抵抗部201は、その内側に中継部空間20aの一部を形成するリング形状を成している。従って、熱抵抗部201の内周面201aは冷媒に対し直接に接触する。
また、冷媒振動方向DRvにおける熱抵抗部201の長さは、加熱部14の長さおよび冷却部16の長さと比較して格段に短い。すなわち、熱抵抗部201は冷媒振動方向DRvにおいて局所的に設けられている。
熱抵抗部201は、加熱部側接続部202と冷却部側接続部203とをロウ付けした部位である。言い換えれば、加熱部側接続部202および冷却部側接続部203は、その熱抵抗部201に隣接して接合する接合部位である。熱抵抗部201は、その加熱部側接続部202および冷却部側接続部203に比して熱伝導率が低いロウ材で構成されている。熱抵抗部201の構成材料としては、アルミニウムシリコン合金などの金属材料を例示することができる。
熱抵抗部201がこのような低熱伝導率の材料で構成されていることにより、熱抵抗部201では、冷媒振動方向DRvにおける単位長さあたりの熱抵抗RLtすなわち単位長さ熱抵抗RLtが部分的に大きい。詳しく言えば、熱抵抗部201の熱伝導率が加熱部側接続部202および冷却部側接続部203の熱伝導率に比して低いことに起因して、熱抵抗部201の単位長さ熱抵抗RLtが局所的に大きい。
その熱抵抗部201で単位長さ熱抵抗RLtが部分的に大きいこととは、具体的に言えば、加熱部側接続部202および冷却部側接続部203に比して熱抵抗部201での単位長さ熱抵抗RLtが大きいことである。
熱抵抗とは熱の伝わりにくさであり、熱抵抗が大きいほど熱は伝わりにくい。そして、上記の単位長さ熱抵抗RLtは、下記式F1によって導き出される。従って、単位長さ熱抵抗RLtの単位は例えば、「K/(Wm)」である。
この式F1から判るように、熱抵抗部201の熱伝導率が低いほど、熱抵抗部201の単位長さ熱抵抗RLtは大きくなる。
ここで、上記式F1において、Rは熱抵抗部201の熱抵抗であり、Lは冷媒振動方向DRvでの熱抵抗部201の長さであり、kは熱抵抗部201の熱伝導率である。そして、Aは熱抵抗部201の断面積すなわち伝熱面積である。その断面積Aを有する断面は、加熱部側接続部202から冷却部側接続部203への熱の伝導方向を向いた面であるので、本実施形態では冷媒振動方向DRvを向いた環状面になる。また、上記の熱抵抗部201の伝熱面積とは、詳細に言えば、熱抵抗部201が加熱部側接続部202から冷却部側接続部203へ熱を伝導するときの伝熱面積である。
また、加熱部側接続部202と冷却部側接続部203とが熱抵抗部201によって接合されているので、加熱部14、中継部20、および冷却部16は一体となって、冷媒が収容される1つの冷媒容器を構成している。
体積変化吸収部18は、一軸方向または略一軸方向へ伸縮する伸縮部材で構成されており、冷却器10内に封入された冷媒の体積変化を吸収する吸収部として機能する。その体積変化吸収部18の伸縮方向である上記一軸方向は、本実施形態では冷媒振動方向DRvと同じである。体積変化吸収部18は、例えばベローズまたは蛇腹等で伸縮可能に構成されている。
詳細には、体積変化吸収部18の内側に吸収部空間18aが形成されており、その吸収部空間18aは、冷媒振動方向DRvにおける冷却部空間16aの加熱部14側とは反対側の端部に連通している。そして、体積変化吸収部18は、吸収部空間18aの膨張と収縮とによって冷媒の加熱および冷却による体積変化を吸収する。
体積変化吸収部18のうち冷却部16側の端部である接続端18bは、冷却部16の加熱部14側とは反対側の端部に対して気密に固定されている。また、体積変化吸収部18のうち接続端18bとは反対側の端部は、閉塞された閉塞端18cとなっている。従って、吸収部空間18a、上述の加熱部空間14a、中継部空間20a、および冷却部空間16aは全体として、冷媒が封入された一空間としての気密な冷媒封入空間32を構成している。言い換えると、加熱部14、中継部20、冷却部16、および体積変化吸収部18は全体として、冷媒封入空間32が形成された冷媒封入容器を構成している。
そして、その冷媒封入空間32は常に冷媒で満たされている。また、吸収部空間18aは、例えば冷媒の自励振動中であっても常に液冷媒で満たされている。
例えば、冷却部空間16a内の冷媒が吸収部空間18a内へ流入すると、吸収部空間18aが伸びて体積変化吸収部18の閉塞端18cが冷媒振動方向DRvで冷却部16から離れる側へ移動する。逆に、吸収部空間18aが縮んで体積変化吸収部18の閉塞端18cが冷媒振動方向DRvで冷却部16へ近づく側へ移動すると、吸収部空間18a内の冷媒が冷却部空間16a内へ流出する。このように構成された体積変化吸収部18は、冷却器10の中で機械的な動作を行う駆動部となっている。
次に、冷却器10で行われる冷媒の自励振動について図1を用いて説明する。上述のように構成された冷却器10では、加熱部空間14a内の液冷媒が発熱体121、122の熱により加熱され沸騰させられると冷媒の気体部分が増す。それと共に冷媒全体の体積が増加するので、体積変化吸収部18の吸収部空間18aが膨張し閉塞端18cが冷却部16から離れる側へ移動する。
冷媒の気体部分がある程度増し例えば気液界面26が中継部空間20aを超えて冷却部空間16a内に入ると、冷却部16が、その冷媒の気体部分を冷却し凝縮させる。冷媒の気体部分が凝縮することにより気体部分が少なくなると、それと共に冷媒全体の体積が減少する。そうなると、体積変化吸収部18の吸収部空間18aが収縮し閉塞端18cが冷却部16へ近づく側へ移動すると共に、凝縮した液冷媒は冷却部空間16aから中継部空間20aを経て加熱部空間14aへと流れる。そして、加熱部空間14aへ流入した液冷媒は再び、加熱部14にて発熱体121、122の熱により加熱され沸騰させられる。
このように、冷却器10において加熱部14および冷却部16は、冷媒に蒸発と凝縮とを繰り返させることにより、冷媒封入空間32内で冷媒の気液界面26を自励振動させる。要するに、加熱部空間14aから冷却部空間16aにわたる空間14a、16a、20a内で冷媒を自励振動させる。
そして、体積変化吸収部18は、その冷媒の自励振動に伴う冷媒全体の体積変化を吸収する。更に、体積変化吸収部18は、所定のばね定数を持っているので、その体積変化吸収部18の伸縮方向における釣合い点に向って伸縮量に応じた反力を生じ、冷媒の自励振動を補助する役割を果たす。
この気液界面26の自励振動すなわち冷媒の自励振動に伴い冷媒が蒸発と凝縮とを繰り返すことで、発熱体121、122から冷媒を介し外気に至る熱伝達経路において高い熱伝達性能を得ることができる。
また、冷却部空間16a内および吸収部空間18a内において、気液界面26付近では冷媒は飽和状態になっているが、気液界面26から離れた部位の液冷媒はサブクール状態になっている。従って、そのサブクール状態の液冷媒が、体積変化吸収部18が収縮すると共に加熱部空間14aへ流れ込むので、発熱体121、122を冷却する高い冷却性能を得ることができる。
上述したように、本実施形態によれば、加熱部14と冷却部16との間に配置された中継部20は、単位長さ熱抵抗RLtが部分的に大きい熱抵抗部201を有している。これにより、例えば単位長さ熱抵抗RLtが中継部20の中で熱抵抗部201でも一様である構成と比較して、発熱体121、122の発熱中に、熱抵抗部201の冷媒振動方向DRv長さに対する温度勾配を大きくし易い。従って、冷却器10において冷媒の自励振動の始動性を向上させることが可能である。
例えば、この熱抵抗部201が加熱部14と冷却部16との間に設けられていることによって、発熱体121、122の発熱開始当初に冷媒の気液界面26の微小揺らぎが増幅しやすくなるので、加熱部14と冷却部16との間隔に関わらず冷媒の自励振動を確実に始動させることが可能である。
ここで、加熱部14の熱抵抗が大きくなるほど、発熱体121、122の熱を冷媒へ伝えて冷媒を加熱する加熱部14の加熱性能は低下する。また、冷却部16の熱抵抗が大きくなるほど、冷媒から放熱させて冷媒を冷却する冷却部16の冷却性能は低下する。従って、熱抵抗部201を設けたことによる効果について詳細に言えば、加熱部14の加熱性能および冷却部16の冷却性能が損なわれないように、冷媒の自励振動の始動性を向上させることが可能である。
この熱抵抗部201の単位長さ熱抵抗RLtと冷媒の自励振動の始動性との関係を明らかにするために、図2に示す比較例としての冷却器90を用いて冷媒の自励振動が始動する際の挙動について説明する。図2は、比較例の冷却器90の全体構成を断面図示する全体構成図であって、図1上側の図に相当する図である。
この図2に示す比較例の冷却器90は、図1に示す熱抵抗部201を備えておらず、この点を除いて本実施形態の冷却器10と同じ物である。従って、図2では、冷却器90のうち、本実施形態の冷却器10と共通する部分には図1と同じ符号が付されている。また、図2の冷却器90の加熱部14、冷却部16、および中継部20は互いに同じ材料で一体に構成されており、例えば加熱部14の加熱性能および冷却部16の冷却性能が損なわれないように熱伝導率の高い金属材料で構成されている。
そして、図2の冷却器90において冷媒の自励振動が始動する際の挙動は、図3によって説明される。その図3は、図2の冷却器90において冷媒の自励振動が始動する際の挙動を示すと共に、その始動の際の冷却器90の温度分布を示した図である。図3(a)は、発熱体121、122が発熱しておらず冷媒の自励振動が停止している停止時を示している。また、図3(b)は、発熱体121、122が発熱を開始し加熱部14の加熱面温度Thが冷媒の飽和温度Tsatに到達した状態を示している。また、図3(c)は、冷媒の自励振動が始動された始動時の状態を示している。また、図3(d)は、図3(a)〜(c)の各状態において冷却器90の温度分布を示した図である。
先ず、図3(a)に示すように、発熱体121、122が発熱していないときには冷媒の自励振動は生じておらず、冷媒封入空間32は液冷媒で満たされている。このときの冷媒振動方向DRvにおける温度分布は、図3(d)の実線Laで示されるようになる。すなわち、加熱面温度Thは冷却面温度Tcと同じであり、冷媒の飽和温度Tsatよりも低い温度になっている。その加熱面温度Thとは、加熱部14のうち加熱部空間14aに面し冷媒に接触する加熱面143の温度Thである。また、冷却面温度Tcとは、冷却部16のうち冷却部空間16aに面し冷媒に接触する冷却面163の温度Tcである。
次に、発熱体121、122が発熱を開始すると冷媒温度が上昇する。そして、加熱面温度Thが冷媒の飽和温度Tsatに到達すると冷媒の蒸発が進み、図3(b)に示すように冷媒の気液界面26は加熱部空間14aと中継部空間20aとの間へ移動する。このときの冷媒振動方向DRvにおける温度分布は、図3(d)の実線Lbで示されるようになる。すなわち、冷却面温度Tcは冷媒の飽和温度Tsatよりも低いまま変わらないが、加熱面温度Thは冷媒の飽和温度Tsatと一致する。従って、中継部空間20aに面する中継部20の内面204は、その内面204のうち加熱面143と接続している位置すなわち冷媒の気液界面26に接触する気液界面位置で冷媒の飽和温度Tsatになっている。
さらに加熱面温度Thが上昇すると、冷却器90の温度分布は、図3(d)の実線Lcで示されるようになる。すなわち、中継部20の内面204の温度勾配ΔTL1は加熱面温度Thの上昇に伴って大きくなる。そして、その温度勾配ΔTL1は、図3(c)に示す気液界面位置にて所定の閾値を超える。そうなると、冷媒の気液界面26で微小揺らぎが増幅し、図3(c)の矢印V1のように、その微小揺らぎの増幅によって冷媒の自励振動が始動される。
なお、その中継部20が有する内面204の温度勾配ΔTL1とは、冷媒振動方向DRvの単位長さ当たりの温度差である。すなわち、冷却器90では、その内面204の温度勾配ΔTL1は、中継部20が均一材料かつ均一肉厚で構成されているので、冷媒振動方向DRvでの内面204の全長にわたって均一である。そして、その内面204の温度勾配ΔTL1は、冷媒振動方向DRvでの中継部20の長さL1(すなわち、中継部長さL1)と、下記式F2から算出される加熱面温度Thと冷却面温度Tcとの温度差ΔTとに基づいて、下記式F3から算出される。
ΔT=Th−Tc ・・・(F2)
ΔTL1=ΔT/L1 ・・・(F3)
ここで、上記の温度勾配ΔTL1と冷媒の自励振動の始動性との関係について説明する。
気液界面26において冷媒は基本的には飽和温度Tsatになっているが微細に見れば冷媒温度は不均一であり、その冷媒温度の不均一に起因して冷媒の局所蒸発および凝縮が生じる。この局所蒸発および凝縮よって、気液界面26の微小揺らぎすなわち微小変位が発生する。
そして図3(c)において、気液界面26が冷媒振動方向DRvの一方に微小変位する場合を想定すると、その微小変位前の気液界面位置における内面204の温度と微小変位後の気液界面位置における内面204の温度との差は、その内面204の温度勾配ΔTL1が大きいほど大きくなる。そして、その気液界面26の微小変位に起因した冷媒の蒸発および凝縮による冷媒の圧力変化も、その温度勾配ΔTL1が大きいほど大きくなる。従って、その温度勾配ΔTL1が大きいほど気液界面26の微小変位は増幅されやすく、冷媒の自励振動が始動されやすくなる。図3(a)〜図3(d)を用いて説明した冷媒の自励振動が始動する際の挙動は、本実施形態の冷却器10でも同様である。
この点を踏まえ本実施形態の冷却器10を見ると、図1に示すように、加熱部14と冷却部16との間の中継部20は熱抵抗部201を有している。これにより、加熱部側接続部202から冷却部側接続部203へ熱が伝導されにくくなるので、図1下側の温度分布図に示すように発熱体121、122の発熱中には、上記温度勾配ΔTL1は、冷媒振動方向DRvにおける熱抵抗部201の位置にて部分的に大きくする。従って、冷媒の蒸発が加熱部空間14aで進み気液界面26が熱抵抗部201に接するまで移動すると、気液界面26の微小変位が増幅されやすくなり、上述したように冷媒の自励振動が始動されやすくなる。
次に、図4に示す実験結果について説明する。図4は、発熱体121、122の発熱量Qinと中継部長さL1とをそれぞれ変化させ、冷媒の自励振動が始動したときの加熱面温度Thと冷却面温度Tcとの温度差ΔTを計測した実験結果を示している。その冷媒の自励振動が始動したときとは、詳細に言えば、冷媒の気液界面26が加熱部空間14aと冷却部空間16aとの間で往復運動を開始したときである。図4では、発熱体121、122の発熱量Qinが横軸に示され、冷媒の自励振動が始動したときの温度勾配ΔTL1が縦軸に示されている。その縦軸の温度勾配ΔTL1は上記式F3から算出されたものである。図4の実験では、図2に示す比較例の冷却器90が用いられた。
この図4の実験結果から判るように、冷媒の自励振動が始動したときの温度勾配ΔTL1は、中継部長さL1および発熱体121、122の発熱量Qinによらず略一定の大きさになっている。このことから、冷媒の自励振動を始動させるためには、中継部20の内面204のうち気液界面26が接する位置での温度勾配ΔTL1が所定の閾値を超える必要があるものと考えられる。このことは本実施形態でも同様に適用される。そして、冷媒の自励振動によって発熱体121、122を冷却する構成の冷却器10、90では、その冷媒の自励振動が始動するかどうかは冷媒の気液界面位置における温度勾配ΔTL1によって決まる。
本実施形態では、図1の熱抵抗部201での温度勾配ΔTL1は、図1下側の温度分布図に記載の実線Dtの勾配として示されており、熱抵抗部201の単位長さ熱抵抗RLtは、その熱抵抗部201での温度勾配ΔTL1が上記所定の閾値を十分超えるように決定されている。
次に、図2に示す比較例の冷却器90を用いて、中継部長さL1の長短と中継部20での温度勾配ΔTL1との関係について説明する。図5は、その中継部長さL1の長短と中継部20での温度勾配ΔTL1との関係を示した図である。図5(a)は、中継部長さL1が短い冷却器90の全体構成を示した図であり、図5(b)は、中継部長さL1が図5(a)のものと比較して長い冷却器90の全体構成を示した図である。また、図5(c)は、図5(a)(b)の各冷却器90において、冷媒振動方向DRvに沿った温度分布を示した図である。図5(c)の実線L2aは図5(a)の冷却器90での温度分布を示し、図5(c)の実線L2bは図5(b)の冷却器90での温度分布を示している。なお、図5(c)のTlimは、発熱体121、122に含まれる素子が予め定められた耐熱温度になったときの加熱面温度Thである。
図5(c)に示すように、図5(a)の冷却器90と図5(b)の冷却器90とを、それらの間で加熱面温度Thを同じにすると共に冷却面温度Tcも同じにして相互比較した場合、図5(b)の冷却器90における中継部20での温度勾配ΔTL1は、図5(a)の冷却器90での温度勾配ΔTL1よりも小さくなる。
従って、例えば加熱面温度Thが図5(a)(b)の冷却器90で相互に同じ温度にまで上昇しても、図5(a)の冷却器90に対し図5(b)のように中継部長さL1が長くなると、冷媒の気液界面26の位置(すなわち、気液界面位置)における温度勾配ΔTL1が図5(b)の冷却器90では小さくなる。そのため、図5(a)の冷却器90において冷媒の自励振動を始動することができたときても、図5(b)の冷却器90では冷媒の自励振動を始動できないことがある。
また、図5(c)の破線で示すように、図5(b)の冷却器90において図5(a)の冷却器90と同じ温度勾配ΔTL1を得るためには、図5(a)の冷却器90との比較で加熱面温度Thを更に高くする必要がある。そうなると、発熱体121、122に含まれる素子の温度が、冷媒の自励振動が始動する前に耐熱温度Tlimを超えて破損してしまう可能性がある。
これに対し、図1に示す本実施形態の冷却器10では、熱抵抗部201の単位長さ熱抵抗RLtが加熱部側接続部202および冷却部側接続部203に比して大きいことに加え、その熱抵抗部201は冷媒振動方向DRvにおいて局所的に設けられている。従って、熱抵抗部201での温度勾配ΔTL1を大きくさせ易いというメリットがある。
また、本実施形態によれば、熱抵抗部201は、加熱部側接続部202および冷却部側接続部203に比して熱伝導率が低い材料で構成されている。これにより、その熱抵抗部201では、単位長さ熱抵抗RLtが加熱部側接続部202および冷却部側接続部203に比して大きい。従って、加熱部14と冷却部16とを接合するロウ付け部位を、単位長さ熱抵抗RLtを局所的に大きくする熱抵抗部201として利用することが可能である。
言い換えれば、熱抵抗部201に該当するロウ材部分では熱伝導が悪いので、発熱体121、122の発熱中には、図1の実線Dtの勾配として示すように熱抵抗部201で局所的に大きな温度勾配ΔTL1がつく。そのため、冷媒の気液界面26の微小揺らぎが増幅しやすくなり、その気液界面26の自励振動を確実に始動することが可能となる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点を主として説明する。また、前述の実施形態と同一または均等な部分については省略または簡略化して説明する。このことは後述の第3実施形態以降でも同様である。
図6は、本実施形態の冷却器10の全体構成を断面図示すると共に、その全体構成図の下側に冷却器10の温度分布を示した図であって、第1実施形態の図1に相当する図である。この図6に示すように、本実施形態では熱抵抗部201が第1実施形態とは異なっている。
具体的に、本実施形態の熱抵抗部201はOリングである。このOリングは、シール部材として一般に用いられるものであり、例えばゴムなどの弾性体で構成されている。また、熱抵抗部201としてのOリングは例えば略円形断面を有し、中継部空間20aまわりに環状に形成されている。
中継部20では、加熱部側接続部202と冷却部側接続部203とが、熱抵抗部201としてのOリングを挟んでボルト205によって接合されている。そして、そのOリングは、加熱部側接続部202と冷却部側接続部203との間から冷媒が漏れ出ることを防止している。
また、加熱部側接続部202と冷却部側接続部203とは直接には接触しておらず、熱抵抗部201としてのOリングは加熱部側接続部202と冷却部側接続部203との各々に直接接触している。
また、熱抵抗部201としてのOリングは例えばゴムなどで構成されているので、加熱部側接続部202および冷却部側接続部203と比較して、上記式F1における熱抵抗部201の熱伝導率kは低い値になる。従って、本実施形態でも第1実施形態と同様に、熱抵抗部201が、加熱部側接続部202および冷却部側接続部203に比して熱伝導率kが低い材料で構成されることにより、その熱抵抗部201では、単位長さ熱抵抗RLtが部分的に大きくなっている。
更に、そのOリングと加熱部側接続部202との接触面、および、そのOリングと冷却部側接続部203との接触面は何れも、中継部空間20aまわりに細長く線状に延びた形状を成すので、上記式F1における熱抵抗部201の断面積Aも局所的に小さくなっている。従って、本実施形態の熱抵抗部201では、冷媒振動方向DRvを向いた断面の面積Aである伝熱面積Aが加熱部側接続部202および冷却部側接続部203に比して小さくなっていることによっても、単位長さ熱抵抗RLtが部分的に大きくなっている。
このように、Oリングで構成された熱抵抗部201においては熱伝導が悪いので、発熱体121、122の発熱中には、図6の実線Dtの勾配として示すように熱抵抗部201で局所的に大きな温度勾配ΔTL1がつく。そのため、冷媒の気液界面26の微小揺らぎが増幅しやすくなり、その気液界面26の自励振動を確実に始動することが可能となる。
本実施形態では、前述の第1実施形態と共通の構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点を主として説明する。
図7は、本実施形態の冷却器10の全体構成を断面図示すると共に、その全体構成図の下側に冷却器10の温度分布を示した図であって、第1実施形態の図1に相当する図である。この図7に示すように、本実施形態では熱抵抗部201が第1実施形態とは異なっている。
具体的に、本実施形態の熱抵抗部201は加熱部側接続部202および冷却部側接続部203と同じ材料で構成されている。例えば、熱抵抗部201、加熱部側接続部202、冷却部側接続部203、加熱部14、および冷却部16は同じ材料で構成され一体に成形されている。
但し、本実施形態の熱抵抗部201では、加熱部側接続部202および冷却部側接続部203に比して肉厚が薄く形成されている。すなわち、中継部20の肉厚が熱抵抗部201で部分的に薄くなっている。詳しく言えば、その肉厚が熱抵抗部201で局所的に薄くなっている。
すなわち、熱抵抗部201では上記式F1における断面積Aが局所的に小さくなっている。従って、本実施形態の熱抵抗部201では、冷媒振動方向DRvを向いた断面の面積Aである伝熱面積Aが加熱部側接続部202および冷却部側接続部203に比して小さくなっていることにより、単位長さ熱抵抗RLtが部分的に大きくなっている。
このように単位長さ熱抵抗RLtが大きい熱抵抗部201においては熱伝導が悪いので、発熱体121、122の発熱中には、図7の実線Dtの勾配として示すように熱抵抗部201で局所的に大きな温度勾配ΔTL1がつく。そのため、冷媒の気液界面26の微小揺らぎが増幅しやすくなり、その気液界面26の自励振動を確実に始動することが可能となる。
本実施形態では、前述の第1実施形態と共通の構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
また、上述したように本実施形態によれば、熱抵抗部201では、冷媒振動方向DRvを向いた断面の面積Aが加熱部側接続部202および冷却部側接続部203に比して小さくなっていることにより、単位長さ熱抵抗RLtが部分的に大きくなっている。従って、熱抵抗部201の形状によって単位長さ熱抵抗RLtを部分的に大きくすることが可能である。例えば、加熱部側接続部202および冷却部側接続部203とは異なる材料で熱抵抗部201を構成する必要がないというメリットがある。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点を主として説明する。
図8は、本実施形態の冷却器10の全体構成を断面図示すると共に、その全体構成図の下側に冷却器10の温度分布を示した図であって、第1実施形態の図1に相当する図である。この図8に示すように、本実施形態では熱抵抗部201が第1実施形態とは異なっている。
具体的に本実施形態では、加熱部側接続部202と冷却部側接続部203とがボルト205によって接合されている。すなわち、そのボルト205によるボルト止めでは、冷媒振動方向DRvにおいて加熱部側接続部202の冷却部側接続部203側を向いた接触面202aと、冷却部側接続部203の加熱部側接続部202側を向いた接触面203aとが互いに対向して直接接触している。本実施形態では、この2つの接触面202a、203aが熱抵抗部201を構成している。
第1実施形態の説明で前述したように加熱部側接続部202および冷却部側接続部203はアルミニウム合金等の金属材料で構成されているので、上記2つの接触面202a、203aはボルト205の締結力によって互いに押圧しつつ金属接触している。そして、図8におけるIX部分の拡大した図9に示すように何れの接触面202a、203aも面粗さを有しているので、微細に見れば2つの接触面202a、203aの直接接触は多数の点接触で構成されている。
このような熱抵抗部201の構成から、接触面202a、203a間の多数の点接触から成る熱抵抗部201の伝熱面積が、上記式F1における熱抵抗部201の断面積Aに該当する。そして、その熱抵抗部201の伝熱面積は多数の点接触の接触面積を寄せ集めた大きさであるので、熱抵抗部201の伝熱面積は局所的に小さくなっている。
従って、本実施形態の熱抵抗部201では、上記式F1における熱抵抗部201の断面積Aである伝熱面積Aが加熱部側接続部202および冷却部側接続部203に比して小さくなっていることにより、単位長さ熱抵抗RLtが部分的に大きくなっている。
このように熱抵抗部201では金属接触により熱抵抗が局所的に大きくなっているので、図8の発熱体121、122の発熱中には、図8の実線Dtの勾配として示すように熱抵抗部201で局所的に大きな温度勾配ΔTL1がつく。そのため、冷媒の気液界面26の微小揺らぎが増幅しやすくなり、その気液界面26の自励振動を確実に始動することが可能となる。
本実施形態では、前述の第1実施形態と共通の構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
(他の実施形態)
(1)上述の第1実施形態において、加熱部側接続部202および冷却部側接続部203は、熱抵抗部201に接合する接合部位であるが、その加熱部側接続部202および冷却部側接続部203が無く、加熱部14および冷却部16が熱抵抗部201に直接に接合されていても差し支えない。その場合には、加熱部14のうち熱抵抗部201側の部位と冷却部16のうち熱抵抗部201側の部位とがそれぞれ、熱抵抗部201に接合する接合部位に該当する。このことは、第2〜4実施形態でも同様である。
(2)上述の各実施形態において、発熱体121、122は2つ設けられているが、発熱体121、122は1つまたは3つ以上設けられていても差し支えない。
(3)上述の各実施形態において、発熱体121、122は、冷却が必要な半導体素子などであるが、電気部品である必要はない。
(4)上述の各実施形態において、発熱体121、122は、加熱部14の外側に取り付けられているが、加熱部空間14a内に収容され、冷媒が直接接触するように配置されていても差し支えない。
(5)上述の各実施形態において、冷却器10は冷媒振動方向DRvに延びた形状を成しているが、冷却器10の形状に限定はなく、例えば冷却器10は、特許文献1に記載された蒸気エンジンのようにU字状に形成されていても差し支えない。
(6)上述の各実施形態において、冷却部16は、冷却部空間16a内の冷媒を外気と熱交換させることにより冷却するが、冷却部16まわりに冷却水が流れる配管を設け、冷媒を、その冷却水と熱交換させることにより冷却しても差し支えない。
(7)上述の各実施形態において、体積変化吸収部18は蛇腹等で構成され冷媒振動方向DRvに伸縮するが、例えばダイヤフラム等で構成されていてもよいし、或いは、冷媒の膨張および収縮を吸収することができれば、伸縮しない構成であっても差し支えない。
(8)上述の各実施形態において、冷却器10の設置方向は特に限定されていないが、冷却器10の上下方向が特定されていても差し支えない。例えば、冷却器10は、冷却部空間16aが加熱部空間14aの下方に位置するように設置されていてもよい。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。