一般的に、リフティングスリング装置は患者や歩行困難者の搬送に用いられる。リフティングスリング装置の使用にあたっては、事故防止と患者間の交差感染回避が重要な課題となる。最も初期のころ使用されていたリフティングスリング装置は織布からなり、製造コストが嵩むだけでなく、交差感染を誘発しやすかった。特許文献1は、不織材料から作製した使い捨てまたは有限回数だけ使用可能なリフティング装置(本願のリフティングスリング装置に相当)を開示している。不織材料は価格が紡織材料の数分の1であるにもかかわらず同等の積載能力を備えることから、個人専用のリフティング装置を実現可能となり、結果として交差感染のリスクが回避される。しかし、これにより、廃棄されたリフティング装置を如何に処理するかが新たな課題として生じている。通常、廃棄されたリフティング装置は埋め立てまたは焼却処理されるが、焼却中に発生する気体が環境を汚染してしまう。また、リフティング装置が生分解性でない場合には、埋め立もまた同様に環境へ悪影響となる。
現在一般的な生分解性の重合体のうち、ポリ乳酸(PLA)をプラスチックや布における生分解性/堆肥性の重合体として使用するメリットとしては、以下が挙げられる。即ち、PLAは天然かつ再生可能な材料から抽出されるが熱可塑性を有し、溶融押出によってプラスチック製品、繊維及び布を生産可能である。また、ポリオレフィン(ポリエチレンやポリプロピレン)やポリエステル(ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレート)といった石油合成による類似の材料に比べて、PLA製品は良好な機械強度、靭性及び柔軟性を有する。なお、PLAは乳酸から生成されるが、当該乳酸はトウモロコシ、小麦、穀類またはテンサイから抽出される発酵副産物である。重合時において、乳酸は下記式で示される二量体の繰り返し単位を有する脂肪族ポリエステルを形成する。
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)が、炭素源及びエネルギー源としての細胞内貯蔵物質を微生物が自然合成することで得られることは既知である。このうち、P(3HB‐co‐4HB)のコポリエステルにおける繰り返し単位は下記式で示される。
(2)ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)という生分解性の重合体は、現在のところ微生物から得ることはできないが、石油系製品を合成して得ることは可能である。PBATの融点は120℃でありPLAの融点より低いものの、PBATはPLAよりも高い弾性、優れた耐衝撃強度、そして良好な溶融加工性能を備えている。PLAは良好な溶融加工性能、強度及び生分解性/堆肥性を備えてはいるが、弾性と耐衝撃強度には劣る。これに対し、PBATとPLAの混合物はより強い弾性、可撓性及び耐衝撃強度を備える。PBATの化学構造は下記式で示される。
ポリブチレンサクシネート(PBS)はエチレングリコールの縮合重合によって合成される。PBSの化学構造は下記式で示される。
本発明が解決しようとする技術的課題は、従来技術における廃棄リフティングスリングによる環境汚染との欠点に対し、生分解性のリフティングスリング装置を提供するとともに、当該リフティングスリング装置に相応の積載能力を持たせ、かつ患者間の交差感染を回避可能とすることである。
本発明では、この技術的課題を解決するために以下の技術方案を用いた。即ち、スリング装置とクレーンを含み、前記スリング装置に位置する患者が前記クレーンにより持ち上げられ、前記スリング装置が、前記患者の身体を支持する本体部分を含むリフティングスリング装置であって、前記スリングにおける布が生分解性の布であるリフティングスリング装置を提供する。
本発明において、前記スリングにおける布は、熱接着による生分解性の方向を限定しない繊維からなる。
本発明において、前記スリングにおける布は、生分解性の化学物質により接着されてなる布で構成され、前記化学物質はエマルジョン粘着剤または接着剤を含む。
本発明では、スパンレースまたはニードルパンチによって前記スリングにおける生分解性の布を作製する。
本発明において、前記本体部分の布は生分解性の不織重合体材料からなり、前記生分解性の不織重合体材料は、ポリ乳酸、主要部をポリ乳酸とし、一部をポリヒドロキシアルカン酸とする混合物、主要部をポリ乳酸とし、一部をポリヒドロキシアルカン酸及びポリブチレンアジペートテレフタレートとする混合物、主要部をポリ乳酸とし、一部をポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンアジペートテレフタレート及びポリブチレンサクシネートとする混合物、主要部をポリ乳酸とし、一部をポリブチレンアジペートテレフタレート及びポリブチレンサクシネートとする混合物、または、ポリブチレンアジペートテレフタレートとポリブチレンサクシネートの混合物、を含む。
本発明では、通気性または非通気性の生分解性のシートを前記スリング装置における布の1または複数の面に付着させる。
本発明では、前記生分解性のシートを前記本体部分の片側または両側に付着させる。
本発明では、生分解性の接着剤または生分解性のホットメルト接着剤を用いて、前記生分解性のシートを前記本体部分の片側または両側に接着する。
本発明では、接着処理を施すことなく、生分解性のシートを前記本体部分の片側または両側に直接押出コーティングする。
本発明では、前記生分解性のシートを構成する材料として、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレートとポリブチレンサクシネートの混合物、ポリブチレンアジペートテレフタレートとポリ乳酸の混合物、ポリブチレンサクシネートとポリ乳酸の混合物、及びポリブチレンアジペートテレフタレートとポリ乳酸及びポリブチレンサクシネートの混合物、を含む。
本発明では、前記患者の足部に対応する前記スリング装置の外側領域において、懸吊ベルトを前記本体部分の下端に縫い付け、かつベルトループを設けることで、前記懸吊ベルトを使用しないときには後方へ折り畳んで前記ベルトループに差し込む。
本発明の他の局面では、生分解性の身体支持用スリングで持ち上げられる患者間の交差感染を防止する方法であって、患者ごとに生分解性の不織材料からなる専用のスリングを所有する方法を構築する。
本発明による有益な効果としては、本発明のリフティングスリング装置を使用すれば、患者間の共用による交差感染を回避可能となり、かつ廃棄リフティングスリング装置が生分解性であることから、廃棄後の環境への悪影響がなくなる。
以下に、図面と実施例を組み合わせて本発明につき更に説明する。
本発明の目的、技術方案及び利点をより明らかにするために、以下に図面と実施例を組み合わせて本発明を更に詳細に説明する。なお、本明細書で記載する具体的実施例は本発明を説明するためのものにすぎず、本発明を限定する主旨ではない。
本発明は身体支持用リフティングスリングに関する。前記リフティングスリングの布は生分解性の重合体材料からなり、患者間の交差感染発生を防止可能であるとともに、更には身体支持用リフティングスリングが生分解性及び/または堆肥性であることから、使用後に廃棄された身体支持用リフティングスリングによる環境汚染がなくなる。スリング装置は患者の背部と大腿を支持するため、前記患者は例えば懸吊ベルトまたは類似の着脱可能な懸吊部材を介してクレーン懸吊される。
前記スリング装置は、好ましくは患者の背部及び大腿を支持可能な単独の身体支持用スリング装置である。懸吊部材には少なくとも4つの取り付けポイントを設けることが求められ、うち2つが肩部領域に対応するスリング装置の側辺に、残り2つが患者の両足間のスリング装置下端に位置する。また、オプションとして2つの附属懸吊部材を、スリング装置の底部であって患者の各足領域に対応するスリング装置の布外側に配置する。これら附属懸吊部材の取り付けポイントはスリング装置の各側に配置されるが、リフティング過程で患者の足に接触することのないよう、患者の足に近づけすぎないことが好ましい。当該附属懸吊部材を使用すると、患者のリフティング過程における安全性が高まるとともに、患者に対し一層強い安心感を与えられる。患者の足が太すぎる或いは華奢すぎる、または痛みがあるといった場合には、オプションである外部懸吊部材との接触リスクを冒すわけにはいかないため、これら2つのオプション懸吊部材を使用しないよう、各懸吊部材は後方に折り畳んでベルトループに差し込まれる。好ましくは、前記懸吊部材は人の身体を支持する本体部分と、足部垂下用の下端部分を含み、前記下端部分は患者の大腿間でそれぞれ上方及び下方に延伸している。前記スリングは、上端の頭部支持延伸部分を更に備える。この場合、スリングは頭部領域に他の取り付けポイントを2つ備えてもよいし、或いは、実質的に前記延伸部分にわたって延伸し、スリング装置における肩部領域に対応するスリング装置の取り付けポイントを一定距離超えた接続線である1または複数の補強部材を備えてもよい。
前記スリングには、持ち上げ中に人体形状に一層フィットするよう、槍状部分またはその他形状が更に設けられている。また、領域内に補強及び/または当て布を施してもよい。
図1は、本発明の実施例におけるリフティングスリング装置及び患者の側面透視図である。図1に示すように、単体のスリング装置10は本体部分11を含み、前記本体部分11は、下端における足垂下用支持部分12と、上端における頭部支持延伸部分13を備える。足垂下用支持部分12が患者の両大腿間でそれぞれ下方及び上方へ延伸し、頭部支持延伸部分13が当該患者の頭部Hを支持することで、本体部分11は患者Iの背部と肩部を支持及び懸吊する。懸吊部材の短延伸ベルト14を患者の肩部対応領域に縫い付け、同様に懸吊ベルト15を足垂下用支持部分12の端部に縫い付ける。また、軸12周りの安全を確保すべく、本体部分11の下端であって患者の各足に対応するスリング装置の布外側にオプションの懸吊ベルト25を取り付ける。懸吊ベルト25を使用しない場合は、これらを後方に折り畳んでベルトループ26に差し込む。
スリング装置10には、織布的な外観を持たせるべくローリング(圧延)により形成された突起パターンを設けることが好ましい。また、付属の布層によってスリング装置10を補強してもよい。前記付属の布層領域において、懸吊ベルト14,15及びオプションの懸吊ベルト25がスリング装置に縫い付けられる。かつ、患者の快適性を向上させるべく、足垂下用支持部分12が不織布リフティングアームの2層間に当て布を有してもよい。これらスリングの製造コストは織布スリングの数分の1であり、当該スリング装置を有限回数だけ使用するようにすれば、当該装置を個人専用とでき、交差感染が防止される。
前記頭部支持延伸部分13を支持するために、スリング装置は基板上に、延伸部分13の全体にわたって延伸し、本体部分11上の各位置に接続される接続線が一定距離延伸してなる1または複数の補強部材を備えてもよい。また、選択可能に、2つの懸吊ベルト(図1に示さない)に接続される頭部対応領域を更に設けてもよい。
図1に示すように、身体支持用リフティングスリング装置は更にクレーン20を含む。図1にはクレーンアーム21の外端が示されており、ハンガー22はフォークコネクタを介して前記アームに接続される。当該コネクタ23は軸受24内に装着されている。軸受24とアーム21の端部には1の垂直軸が設けられており、かつ位置23aの軸がハンガー22に接続される。即ち、ハンガー22はアーム21の外端で剛性の垂直軸周りに回動可能であるとともに、ハンガー22とコネクタ23が一体的に垂直軸回りに回動する。また、ハンガー22はコネクタ23上で軸位置23aにより特定された横方向の水平軸回りに回動可能である。
本スリング装置は、250kgの重量物を50回持ち上げてから更に190kgの重量物を50回持ち上げる試験に耐えられ、かつ何らの摩耗も生じないことが証明された。
また、スリング装置は、繰り返し使用されないように洗濯不可能とすることが好ましい。そのために、縫い付けを強固とする一方で、洗濯を要する場合にはスリング装置を分離できるよう、取り外し可能な糸で懸吊ベルトをスリング装置に接続することが考えられる。
本発明は単体のリフティングスリング装置に限らず、その他のリフティングスリング装置にも適用可能である。また、単体のリフティングスリング装置は常に頭部支持延伸部分13を備えるとは限らない。
更に、持ち上げ及び搬送中に患者の体液を吸収しないよう、通気性または非通気性のシートをスリングにおける生分解性不織布の片側または両側に積層してもよい。
使用済みの廃棄リフティングスリング装置が環境に悪影響を及ぼすことのないよう、スリング装置の布としては生分解性及び/または堆肥性の布が用いられる。以下では、前記生分解性及び/または堆肥性の布について議論する。本発明で使用される生分解性材料は、スリング装置における相応の積載能力を保証してリフティング中の事故を防止可能とするとともに、スリング装置の製造コストを増加させることもないため、患者は当人専用のリフティングスリング装置を所有可能となり、交差感染の発生が回避される。
P(3HB‐co‐4HB)製品が土壌、汚泥及び海水に生分解しやすいことは既知であるが、水中の微生物欠乏により水中における生分解速度は大幅に減速してしまう(Saito,Yuji,Shigeo Nakamura,Masaya Hiramitsu and Yoshiharu Doi,“Microbial Synthesis and Properties of Poly(3‐hydroxybutyrate‐co‐4‐hydroxybutyrate),”Polymer International 39(1996),169‐174)。従って、P(3HB‐co‐4HB)製品は、例えば密封梱包による乾燥貯蔵や清浄液等の清潔な環境では保存期限が良好となるはずである。一方で、例えば土壌、河川の水、泥、海水及び肥料や砂、汚泥及び海水、堆肥といった微生物を含む不潔な環境に置いた場合、廃棄したP(3HB‐co‐4HB)製の布、シート及び梱包材は分解しやすくなるはずである。ここで、ポリ乳酸(PLA)は上記のような不潔な環境や環境温度下では生分解しにくいが、堆肥化は必須であることに留意せねばならない。まず、堆肥中の熱と湿度によりPLA重合体をより小さなポリマー鎖に分解し、最終的に乳酸へと分解する必要がある。堆肥や土壌中の微生物は、より小さなポリマーセグメントと乳酸を養分として消費する。そこで、PLAを有するP(3HB‐co‐4HB)製品のポリヒドロキシアルカン酸(PHA)混合物は、PHAs‐PLAの混合物からなる製品の分解性能を強化するはずである。また、PHAとPLAの混合物からなる製品は、清潔環境下における保存期限が良好なはずである。しかし、過去10年間、PLAの価格が例えばポリプロピレンとPETポリエステルの合成ポリマーよりもやや高い程度にまで大幅に値下がりしている一方で、PHAsの価格はPLAに比べ2〜3倍高を維持している。なお、当該PLAは乳酸からの大規模合成が可能である。PHAsは特定の炭素源を有する微生物によって生成され、かつ溶剤を用いて微生物から抽出せねばならない。従って、商業的には、25%を超えるPHAをPLAと混合して溶融押出で織布、ニット、不織布、シート、食品パッケージ等の製品を形成することは不可能である。
表1に、生分解性不織布、生分解性シート及び不織布と生分解性シートの積層構造について示す。中国のサプライヤーからは、9μmの純ΡΒΑΤシート及び炭酸カルシウムを20%有する9μmのΡΒΑΤシートが得られた。米国のBiax‐Fiberfilm社からは、ポリプロピレン(PP)(非生分解性)を20%含むメルトブローン(MB)Vistamaxx(登録商標)(非生分解性)が得られた。ドイツのSaxon Textile研究機構からは、通常質量が80g/m2であるカーボンブラックを有した黒色スパンボンド(SB)PLAが得られた。各試験では、5〜13g/m2のホットメルト接着剤を用いて、純PBATシート及び炭酸カルシウムを20%有するPBATシートを20%のPPを含有するVistamaxx MB及び黒色SB PLAに積層した。なお、通常は0.5〜12g/m2のホットメルト接着剤を使用するものとしたが、好ましくは1〜7g/m2のホットメルト接着剤であった。また、ホットメルト接着剤を用いてSB PLA2層を積層及び接着させた。表1に、全原材料及び積層構造について測定した重量、厚み、靭性、破断伸び、引裂強さ、破裂強さ、水蒸気透過率(MVT)及び水頭(hydrohead)を示す。なお、これらは本発明における各実施例の例示にすぎず、下記材料からなる各層は溶融を応用して接着させた。ここで、PBATシートまたはその他の生分解性/堆肥性シートについては、接着剤を用いることなく押出コーティングを基材に直接適用することが可能である。また、積層構造は、熱間圧延、全体圧延または超音波溶接により接続または接着可能であるが、これに限らない。このほか、ホットメルト接着剤に代えて、ゴムまたは水または溶剤を基礎とした接着剤或いはエマルジョンを用いて積層構造を接着することも可能である。
重合体の強度及び遮断性
*DNB:高弾性のため破裂しなかったことを示す。
表1に示すように、9μmの純(100%)PBATシート(試料1)は、MD方向に良好な伸び率を有し、かつCD方向の破断伸びは300%以上に達した。試料1〜5については破裂強さの測定が不可能であったが、これは、これら全てのシート及び積層構造の弾性が非常に良好であり、測定過程で破裂が発生せず、かつ測定後にも変形がみられなかったためである。試料1の水蒸気透過率はかなり良好であり、24時間あたり3380g/m2であった。また、静水頭は549mmであった。炭酸カルシウム(CaCO3)を20%有するPBATシート(試料2)は試料1と類似のデータを示したが、WVTR及び水頭については相対的に低かった。試料1と2に類似の6μmまたはそれ以下の厚みが一層薄いPBATシートも良好な伸び率及び高いWVTRを備えると予測されるが、水頭はより低くなる可能性がある。メルトブローンである試料3はVistamaxx(登録商標)(Vistamaxxポリオレフィンに基づく重合体は高弾性である。エクソンモービル製)を80%とPPを20%含有するが、当該布は適度に開繊されていることから、約300%のMD及びCD伸び率を備えるとともに、24時間あたり8816g/m2という高いWVTR値を示した。MB Vistamaxx布は生分解性ではないが、生分解性重合体から作製される弾性不織材料の一例となり得る。前記生分解性重合体とは、例えば伸び率及び変形回復力が非常に高いPBAT及びその他の生分解性重合体である。試料3は水頭が1043mmとたいへん高く、良好な遮断性を備えることが示された。ここで、20%のPPをVistamaxx重合体粒子に添加し、混合物をMB押出機に供給する前に物理的に混合して溶融すると、Vistamaxx MB布の粘度が高まりすぎない。100%のVistamaxxをメルトブローンした場合には粘度が非常に高くなってローリング中にダマが発生し、続く積層または使用にあたって開繊が困難となる(un‐wind)。
Vistamaxxのみの場合と比較して、ホットメルト接着剤を用いることでVistamaxxを備えた純PBAT及びCaCO320%含有PBATの積層構造は、MD及びCD靭性が明らかに向上した。更に、当該試料は非常に高いMD伸び率と特に高いCD伸び率(試料4では390%、試料5では542%)を備えていた。試料4と試料5は更に、それぞれ24時間あたり1671g/m2及び1189g/m2という著しく高いMVTR値を備え、かつ339mm及び926mmという高い水頭を備えていた。更に注目すべき点として、PBATシートはMB100%Vistamaxx上、またはある程度のPPを有するMB Vistamaxxの上に直接押出コーティングすることが可能であり、かつ、ホットメルト接着剤を使用してもしなくてもよい。また、押出コーティングでは4または5μmという更に薄い規格のPBATシートの使用が可能となっている。これより、より高いMVTRが備わるが、水頭はより低下する可能性がある。
黒色SB PLAの目標重量は80g/m2、MD靭性は104N、CD靭性は31Nであったが、MD破断伸びは3.6%と低く、CD伸び率は30.7%と高かった。破裂強さは177KN/m2であり、WVTRは24時間あたり8322g/m2とかなり高かった。かつ、水頭は109mmとかなり顕著であった。ホットメルト接着剤を用いて純PBATに80gsmの黒色SB PLAを積層した場合のMD及びCD靭性は、それぞれ107N及び39Nと単純なSB PLAよりも高かったが、CD伸び率はわずか9.8%であった。しかし、SB PLAを積層したPBATは220KN/m2という高い破裂強さを備えていた。一方で、通気性は依然として良好に保たれ、WVTRは24時間あたり2459g/m2であり、かつ、水頭は3115mmと非常に高かった。CaCO3を20%含むPBATを積層したSB PLAについては、水頭が2600mmに達したものの相対的には低い値であったことを除き、試料8と類似の属性を備えていた。より薄いPBATシートを備えたSB PLA積層構造、特に押出コーティングにより積層形成された更に薄いPBATシートを備えたSB PLA積層構造によれば、高いMVTRを備える医学、工業またはスポーツ用の防護服を生産可能となる。この防護服は着用時に快適で静水頭が高いことから、遮断及び防護に適用可能である。シートの積層前または後に、PBATシート側か任意の側のSB PLAに処理剤(フルオロシリコーンまたはその他の類の処理剤)を適用すれば、遮断及び防護力が更に高まる。更に、シートの積層前または積層後にMB PLAとSB PLAを積層結合することで、遮断及び防護力を向上させることが可能である。更に、処理剤を例えばPBATシート、SBまたはMB PLA作製用の溶融ポリマーに添加することも可能である。
SB PLA2層を溶融接着して試料9を形成したところ、MD及びCD靭性と破裂強さが実質的に一層構造の試料6の2倍となった。110g/m2のSB PPから作製した患者用リフティングスリングの破断伸び(伸び率%)に対応する目標MD及びCD靭性を、それぞれ少なくとも5cmあたり200N及び140N、MD及びCD伸び率の値をいずれも少なくとも40%とした。表1に示すように、2層を接着結合したSB PLA層のMD靭性は215Nであったが、CD靭性は必要レベルに対しわずか50%であった。また、MD及びCDの破断伸びは必要最小値である40%に比べて大幅に低かった。なお、SB布の押し出し前にPLAと5〜60%のPBAT、または、好ましくは20〜50%のPBATを混合することで、SB PLAのMD及びCD伸び率を向上させることが可能である。そのほか、PBATとPBSをPLAと混合することで、所望のMD・CD靭性及び伸び率の値と、熱暴露後の安定性を備えた布が得られる。また、スパンレース法及びニードルパンチ法を含む非熱間圧延工程でSBフィラメントウェブを接着すれば、より大きな多方向強度と伸び率が得られる。これによれば、2または複数のSB PLA布を積層または接着結合することなく、110g/m2及び更に大重量のニードルパンチSB PLAを生成可能となり、所望の強度と伸び率の値が得られる。
更に、PLAのような生分解性/堆肥性の布から作製されるスリングは、原材料段階から工場での重合体形成に至るまで、二酸化炭素のような温室効果ガスの排出がたいへん少ない。例えばPLA重合体の生産過程では、重合体1kgごとに1.3kgの二酸化炭素が発生するのに対し、PPの生産では1kgあたり1.9kgの二酸化炭素が、PETの生産では1kgあたり3.4kgの二酸化炭素が発生する。また、原料段階から工場での重合体生産に至るまで、PLAは非再生可能エネルギーの使用量が少ない。IngeoブランドのPLA生産では、重合体1kgあたり42MJの非再生可能エネルギーが使用されるのに対し、PP生産では重合体1kgあたり77MJの非再生可能エネルギーが、PET生産では重合体1kgあたり87MJの非再生可能エネルギーが使用される(“The IngeoTM Journey,Nature Works LLC Brochure Copyright 2009)。
前記スリング装置は生分解性/堆肥性の不織材料からなり、代表的な材料としては、PLA、または主要分をPLAとして少量のPHAを加えた混合物、または主要分をPLAとして少量のPHA及びPBATを加えた混合物、または主要部をPLAとして少量のPHA、PBAT及びPBSを加えた混合物、または主要部をPLAとして少量のPBAT及びPBSを加えた混合物、またはPBATとPBSの混合物、を含む。スリングは患者Iの体型に一層マッチするように裁断され、患者がより快適感を得られるよう、スリング10には槍状部分16が更に設けられる。
典型的には、前記スリングは熱接着による生分解性/堆肥性のランダム方向のポリマー繊維により作製されるが、ドライレイド、ケミカルボンド(生分解性接着剤を使用)による布形成や、ドライレイドまたはスパンレース(spun lace)による布形成としてもよい。通常、当該材料は通気性を有する(非通気性の生分解性シートが表面に貼り付けられている場合を除く)が水は通さず、かつ、患者を浴槽に入れるために、スリングに貫通孔の配置が求められる場合もある。
なお、当業者であれば上述の説明に基づく改良または変更が可能であり、これらの改良及び変換はいずれも本発明における特許請求の範囲に含まれる。