JP2016194191A - 機械的特性発現に優れた炭素繊維 - Google Patents

機械的特性発現に優れた炭素繊維 Download PDF

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宏子 松村
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Abstract

【課題】高い機械的特性を有する繊維強化樹脂を得るための炭素繊維を提供する。
【解決手段】炭素繊維の単繊維の表面を走査型プローブ顕微鏡によって測定した位相像が以下の条件を満たす炭素繊維。
前記位相像に炭素繊維の長手方向に延びる長さ600nm以上の溝が無い。
前記位相像に炭素繊維の長手方向に延びる長さ30nm〜200nmの溝が複数存在する。
ただし、上記位相像の溝は、繊維軸に垂直な方向に位相像の変化がない部分のことをいう。
【選択図】 図1

Description

本発明は、優れた機械的特性を有し、特に航空機用途の高靭性、耐熱性樹脂をマトリックスとした繊維強化樹脂を得るための炭素繊維に関する。
従来、樹脂系成型品の機械的特性を向上させる目的で、繊維を強化材として樹脂と複合化することが一般的に行われている。特に、比強度、比弾性に優れた炭素繊維を高性能樹脂と複合化した成形材料は、非常に優れた機械的特性を発現することから、航空機、高速移動体などの構造材料として、使用することが積極的に進められている。また、より高強度化、高剛性化の要請、更には比強度、比剛性に優れた材料の要請もあり、炭素繊維の性能もより高強度、高弾性率化の実現が求められている。これに対処するためには炭素繊維の表面形態を制御し、サイズ剤やマトリックス樹脂との接着性を適正に制御することが好ましい。
例えば、特許文献1には、炭素繊維表面の物理的および化学的形態をコントロールすることにより複合材料としての強度発現性に優れた炭素繊維の提案がある。この発明では、繊維軸方向の皺の最大深さおよび投影面積に対する実表面積の値および表面粗さを制御し、かつ炭素繊維表面の酸性官能基量を制御することによって、炭素繊維複合材料の性能を制御する方法である。しかしながら、この発明によっても、高性能な炭素繊維としては不十分であった。
また、特許文献2には表面形態を化学的に制御した炭素繊維が提案され、電解酸化処理条件を炭素繊維の焼成温度や電解質の濃度にあわせて最適化することにより炭素繊維の最表面の微細な凹凸の性状と炭素繊維表面の窒素量を最適化している。この発明における凹凸とは繊維軸長手方向の皺のことではなく、皺の表面に形成されている繊維最表面の微小な凹凸のことを示すもので、表面の凸凹は、炭素繊維の破断点となりうることから、炭素繊維そのものの機械的特性が不十分であった。
特開2003−73932号公報 特開2006−183173号公報
本発明の目的は、高い機械的特性を有する繊維強化樹脂を得るための炭素繊維を提供することにある。
前記課題は、以下の本発明によって解決される。
本発明は、炭素繊維の単繊維の表面の円周長さ1.0μm、繊維軸方向長さ1.0μmで囲まれる範囲を走査型プローブ顕微鏡によって測定した位相像が以下の条件を満たす炭素繊維である。
前記位相像に、炭素繊維の長手方向に延びる長さ600nm以上の溝が無い。
前記位相像に、炭素繊維の長手方向に延びる長さ30nm〜200nmの溝が複数存在する。
ただし、上記位相像の溝は、繊維軸に垂直な方向に位相像の変化がない部分のことをいう。
また、前記炭素繊維の単繊維の表面の円周長さ1.0μm、繊維軸方向長さ1.0μmで囲まれる範囲を走査型プローブ顕微鏡によって測定した形状像に炭素繊維の長手方向に延びる長さ0.6μm以上の表面凹凸構造が無く、平均凹凸度Raが1〜6nmの凹凸構造を有する炭素繊維であって、単繊維の単位長さ当たりの質量が0.030〜0.042mg/mの範囲にあり、ストランド強度が5900MPa以上、ASTM法で測定されるストランド弾性率が250〜380GPaの炭素繊維である。
本発明の炭素繊維によれば、高い機械的特性を有する繊維強化樹脂を提供することができる。また、電気化学的測定法(サイクリックロボルタ・メトリー)により求められるipa値が0.05〜0.25μA/cmであり、X線光電子分光法により求められる炭素繊維表面の酸素含有官能基量(O1S/C1S)が0.05〜0.15の範囲にあるような表面を有する炭素繊維とすることにより、非常に高い機械的特性を有する炭素繊維複合材料を得ることができる。
実施例1で得られた炭素繊維の走査型プローブ顕微鏡(SPM)の位相像である。 実施例1で得られた炭素繊維の走査型プローブ顕微鏡(SPM)の形状像である。 実施例2で得られた炭素繊維の走査型プローブ顕微鏡(SPM)の位相像である。 実施例2で得られた炭素繊維の走査型プローブ顕微鏡(SPM)の形状像である。 実施例3で得られた炭素繊維の走査型プローブ顕微鏡(SPM)の位相像である。 実施例3で得られた炭素繊維の走査型プローブ顕微鏡(SPM)の形状像である。
炭素繊維の表面に存在する繊維の長手方向に延びる表面凹凸構造や表面に付着させたサイジング剤は、炭素繊維を強化材とする繊維強化樹脂材料の機械的特性発現に非常に重要な役割を果たす。前記表面凹凸構造と表面に付着させたサイジング剤は、炭素繊維と樹脂の界面相形成とその特性に直接係わるものであるからである。繊維強化樹脂材料の機械的特性は、構成する3つの要素である繊維、マトリックス樹脂および界面相のそれぞれの性能に影響を受ける。これら3要素の内の一つでもその性能が悪ければ、繊維強化樹脂材料は、優れた機械的特性を発現することができない。
(単繊維の表面に繊維軸の長手方向に延びる表面凹凸構造)
炭素繊維の一般的な製造方法に起因して、炭素繊維には繊維軸方向にほぼ平行な表面凹凸構造が存在する。この表面凹凸構造は、通常、表面皺と称され、走査型プローブ顕微鏡を用いて単繊維表面を走査して得られる形状像として現される。これに対して、走査型プローブ顕微鏡においてカンチレバーの振動の位相を反映する電圧信号をデータとして取り込み得られた像を位相像と称する。
(炭素繊維の位相像)
本発明は、炭素繊維の単繊維の表面の円周長さ1.0μm、繊維軸方向長さ1.0μmで囲まれる範囲を走査型プローブ顕微鏡によって測定された位相像が、炭素繊維の長手方向に延びる長さ600nm以上の溝が無く、長さ30nm〜200nmの溝が複数存在することが必要である。炭素繊維の単繊維の表面を走査型プローブ顕微鏡によって測定された位相像は炭素繊維表面の硬さの違いを現しており、溝は炭素繊維結晶構造の発達度合いを表す。
前記溝が存在することは、グラファイト結晶構造が発達していて、結晶構造の端面が適度に存在することを意味する。このグラファイト結晶の発達度合いは炭素繊維表面に存在する酸素含有官能基の分布を左右するものであり、長手方向に長さが30nm〜200nmの溝を有することにより、これらの溝の周りに酸素含有官能基を効果的に導入することができ、それにより高い機械的特性を有する繊維強化樹脂を得ることができると考えている。
長手方向の溝の長さが、30nm〜200nmであると、グラファイト結晶の発達が小さすぎず、炭素繊維の機械的特性に劣ることがなく、さらに、炭素繊維表面への酸素含有官能基の分布に偏りが生じないので、高い機械的特性を有する繊維強化樹脂を得ることができる。なお、位相像に「炭素繊維の長手方向に延びる長さ600nm以上の溝が無い」、とは、繊維軸に垂直な方向に位相像の変化がない部分が炭素繊維の長手方向に長さ600nm以上にわたって延びていないことをいい、「長さ30nm〜200nmの溝が存在する」、とは繊維軸に垂直な方向に位相像の変化がない部分が、炭素繊維の長手方向に長さ30nm以上200nm以下にわたって延びていることをいう。
(炭素繊維の形状像)
炭素繊維の一般的な製造方法から、通常の炭素繊維の形状像には繊維軸方向にほぼ平行な表面凹凸構造が存在する。この凹凸構造は、繊維軸とほぼ平行で、繊維軸方向に伸びたうねり構造を有している。凹凸の深さは、通常50nm〜数百nm程度であり、その長さは通常0.6μm〜数μm程度で、場合により数十μmである。この表面凹凸構造は、通常、表面雛と称されている。
本発明の炭素繊維は、炭素繊維から得られる形状像が単繊維の表面に繊維の長手方向に延びる長さ0.6μm以上の表面凹凸構造を有していないものであることが好ましい。複合材料の界面相においては、このような単繊維の表面に繊維の長手方向に延びる長さ0.6μm以上の表面凹凸構造は応力集中部となる場合があった。さらに単繊維の表面に繊維の長手方向に延びる長さ0.6μm以上の凹凸構造近傍の炭素繊維組織は破壊靭性が低くなっている。したがって、複合材料に負荷される応カレベルがあまり大きくない状態においても、その凹凸構造近傍が界面破壊の起点となりやすい。その結果複合材料の機械的特性は大きく低下してしまう場合があり好ましくない。
その一方、本発明の炭素繊維は、このような凹凸構造よりも大きさが小さい凹凸構造を単繊維の表面に有している。この炭素繊維の単繊維に存在する表面凹凸構造の深さは、円周長さ1.0μm、繊維軸方向長さ1.0μmで囲まれる範囲での平均凹凸度Raによって規定される。このRaは、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いて単繊維の表面を走査して得られる。平均凹凸度Raは1〜6nmであることが好ましい。より好ましいRaは1〜5nmである。平均凹凸度が、1〜6nmの範囲であれば、炭素繊維表面が平滑すぎて樹脂との接着性が低下することもなく、また、表面の凹凸が適度であるので、樹脂との接着性も良好で、さらに表面の凹凸が欠陥となりコンポジットにしたときの強度に劣るようなこともないので好ましい。
本発明の炭素繊維を構成する各単繊維表面の凹凸構造の、より具体的な態様は以下の通りである。
通常炭素繊維表面には、炭素繊維の原料である炭素繊維前駆体繊維が紡糸により形成される際に、多数のフィブリルが集合して繊維が形成されることから、繊維の長手方向に伸びる長さ0.6μm以上の凹凸構造と前記凹凸構造よりも大きさが小さく、各フィブリルのそれぞれの表面に存在していた凹凸構造に起因する微小な凹凸構造を有する。
即ち、本発明の炭素繊維を構成する各単繊維の表面には、繊維の長手方向に延びる長さ0.6μm以上の凹凸構造が存在せず、このような凹凸構造よりも大きさが小さい、微小な凹凸構造のみが存在するものであることが好ましい。さらに、その微小な凹凸構造は、長さ300nm以下のものとなっていることが好ましい。この凹凸構造は前記のRaによって表示される。即ち、単繊維の表面の円周長さ1.0μm、繊維軸方向長さ1.0μmで囲まれる範囲で平均凹凸度Raが1〜6nmの起伏であることが好ましい。さらに好ましいRaは1〜5nmである。この微小な大きさの凹凸構造の方向には特に限定はなく、繊維軸方向に平行、あるいは垂直、あるいはある角度を有する。
(単繊維の単位長さ当たりの質量)
本発明の炭素繊維の単繊維の単位長さ当たりの質量は、0.030〜0.042mg/mであることが好ましい。繊維の単位長さ当たりの質量(単繊維目付け)が小さいことは、繊維径が小さく、断面方向に存在する構造の不均―性が小さく、繊維軸と垂直な方向の機械的特性が高いことを意味する。したがって、炭素繊維の単繊維の単位長さ当たりの質量は、0.030〜0.042mg/mであると、複合材料において、繊維軸に垂直な方向の応力に対する耐性が向上し、複合材料としての機械的特性を高くすることができるので好ましい。
(炭素繊維)
本発明の炭素繊維を用いて、優れた機械的特性を有する繊維強化樹脂を得るには、炭素繊維のストランド強度は5900MPa以上であることが好ましい。炭素繊維のストランド強度は、さらに好ましくは6000MPa以上、より好ましくは6100MPa以上である。ストランド強度は高い方が好ましいが、複合材料として、圧縮強度とのバランスを考えると、10000MPaあれば十分である。
また、本発明の炭素繊維を用いて、優れた機械的特性を有する繊維強化樹脂を得るには、炭素繊維のストランド弾性率はASTM法で測定される数値で250〜380GPaであることが好ましい。弾性率が250GPa未満では、炭素繊維としての弾性率が不足し、十分な機械的特性を発現させることができない。一方、弾性率が380GPaを超えると、炭素繊維の表面及び内部の黒鉛結晶サイズが大きくなり、それに伴い繊維断面方向強度および繊維軸方向の圧縮強度が低下し、複合材料としての引張と圧縮の性能バランスがうまく付かず、その結果として、優れた複合材料を得ることができなくなる。さらに、表面の黒鉛結晶サイズの拡大により不活性化が進み、マトリックス樹脂との接着性が低下することになり、複合材料の90°方向の引張強度、層間剪断強度、面内剪断強度や0°圧縮強度などの機械的特性の低下が顕著に現れる。
本発明の炭素繊維は、電気化学的測定法(サイクリックロボルタ・メトリー)により求められるipa値が0.05〜0.25μA/cmであることが好ましい。このipa値は、炭素繊維の酸素含有官能基数量と電気二重層形成に関与する表面凹凸度と炭素繊維表面の微細なグラファイト構造の影響を受ける。特に表層のエッチングを大きく受けた炭素繊維や、アニオンイオンが黒鉛結晶の層間に入り込んだ層間化合物を形成している炭素繊維は、大きな値を有する。優れた機械的特性を発現する複合材料において、炭素繊維と樹脂との界面は重要であり、特に適当な酸素含有官能基が存在し、かつ小さな電気二重層を形成する表面を有する炭素繊維が最適な界面を形成することがわかった。
ipa値が0.05〜0.25μA/cmの範囲であると、炭素繊維の表面に十分な酸素含有官能基が存在いて、十分な界面接着性を有するものとなり、また、表面のエッチングが過剰に生じている状態ではなく、さらに層間化合物が形成されているものでもなく、マトリックス樹脂と強固に接着させることが可能となり、樹脂との十分な界面接着性を有するものとすることができるので好ましい。より好ましくは、0.07〜0.20μA/cm、さらに好ましくは0.10〜0.18μA/cmである。
さらに、本発明の炭素繊維は、X線光電子分光法により求められる炭素繊維表面の酸素含有官能基量(O1s/Cls)が0.05〜0.15の範囲にある炭素繊維であることが好ましい。この範囲であれば、適度なマトリックス樹脂との界面接着性を有することできるので好ましい。
(前駆体繊維およびその製造方法)
本発明の炭素繊維の原料として用いる炭素繊維前駆体繊維は特に制限はないが、機械的特性発現の観点で、アクリロニトリル系前駆体繊維(以下適宜「前駆体繊維」という)から得られるものが好ましい。この前駆体繊維を構成するアクリロニトリル系共重合体は96質量%以上のアクリロニトリルと数種の共重合可能なモノマーを重合することで得られるものであることが好ましい。アクリロニトリル系共重合体を重合する際にアクリロニトリルの組成比は97質量%以上であることがより好ましい。アクリロニトリル以外の共重合成分としては例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のアクリル酸誘導体、アクリルアミド、メタクリルアミド、N―メチロールアクリルアミド、N、N―ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、酢酸ビニルなどが適する。これらは単独でも組合せでも良い。好ましい共重合体は、一つ以上のカルボキシル基有するモノマーを必須成分として共重合させたアクリロニトリル系共重合体である。
モノマーの混合物を共重合する適当な方法は、例えば水溶液におけるレドックス重合または不均―系における懸濁重合および分散剤を使用した乳化重合、その他どのような重合方法であってもよく、これら重合方法の相違によって本発明が制約されるものではない。前駆体繊維は、上述のアクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤に溶解して紡糸原液を調製するのが好ましい。これら有機溶剤は、金属成分を含まないため、得られる炭素繊維の金属成分の含有量を下げることができる。紡糸原液の濃度は、20質量%以上が好ましく、より好ましくは21質量%以上である。
本発明の炭素繊維の原料として用いる炭素繊維前駆体繊維の紡糸方法は、湿式紡糸、乾湿式紡糸のいずれでもよいが、より好ましくは乾湿式紡糸である。乾湿式紡糸においては、調製した紡糸原液を吐出孔が多数配置された紡糸口金から一旦空気中に紡出した後、調温した有機溶剤と水の混合溶液を満たした凝固液中に吐出し凝固させ、その凝固糸を引取り、次いで洗浄、延伸を行う。洗浄方法は脱溶剤することが出来ればいかなる方法でもよい。尚、引き取った凝固糸を洗浄する前に、凝固液よりも溶剤濃度が低く、温度の高い前延伸槽中にて、延伸をすることにより、フィブリル構造を形成させることができる。凝固糸を延伸する際、延伸槽の温度は40〜80℃の範囲が好ましい。温度が40〜80℃の範囲であれば、延伸性が確保できるので、均―なフィブリル構造形成ができ、また、熱による可塑化作用が適度で、糸条表面での脱溶剤が急速に進み延伸が不均―となることがないので、前駆体繊維として品質が良好であるので好ましい。より好ましい温度は、50〜75℃である。また、延伸槽の濃度は30〜60質量%が好ましい。30〜60質量%の範囲であれば、可塑化効果が適度で安定した延伸性が確保できるので好ましい。より好適な濃度は、35〜55質量%である。
この延伸槽中での延伸倍率は2〜4倍が好ましい。2〜4倍の範囲であれば延伸が適度であり、所望のフィブリル構造を形成させることができる。また、フィブリル構造自体の破断が生じたりせず、適度な構造形態の前駆体繊維が得られるので好ましい。より好ましい延伸倍率は2.2〜3.8倍であり、更に好ましくは2.5〜3.5倍である。
また、洗浄後、溶剤分の無い膨潤状態にある工程繊維を熱水中で延伸することで繊維の配向を更に高めることも可能であり、若千の緩和を入れることで前工程での延伸の歪みを取ることも可能である。好ましくはトータルの延伸倍率を上げて繊維の配向を上げる目的で、熱水中で、1.1〜2.0倍の延伸を行う。
次に、シリコーン系化合物からなる油剤を0.8〜1.6質量%となるよう付着処理を行い、乾燥緻密化する。乾燥緻密化は公知の乾燥法により乾燥、緻密化させれば良く、特に制限はない。好ましくは、複数の加熱ロールを通過させる方法である。
乾燥緻密化後の繊維は、必要に応じて130〜200℃の加圧スチームや、100〜200℃の乾熱熱媒中、あるいは、150〜220℃の加熱ロール間や加熱板上で1.8〜6.0倍延伸して、更なる配向の向上と緻密化を行った後に巻き取って前駆体繊維を得る。
本発明の炭素繊維は次のようにして製造することが好ましい。前駆体繊維を220〜260℃の熱風循環型の耐炎化炉に30〜100分間通過せしめて耐炎化糸密度1.335〜1.360g/cmの耐炎化糸を得る。その際、0〜10%の伸長操作を施す。耐炎化反応には、熱による環化反応と酸素による酸化反応があり、この2つの反応をバランスさせること重要である。この2つの反応をバランスさせるためには、耐炎化処理時間は30〜100分とすることが好ましい。30〜100分であれば、単繊維の内側まで酸化反応が十分に進み、単繊維の断面方向で大きな構造斑が生じない。その結果、得られる炭素繊維は均―な構造を有するものとなり、高い機械的特性を発現できる。また、単繊維の表面に近い部分により多くの酸素が存在することで、その後の高温での熱処理により過剰の酸素が消失する反応が生じ、欠陥点を形成することがないので、高強度が得られるので好ましい。より好ましい耐炎化処理時間は、40〜80分である。
耐炎化糸密度が1.335g/cm未満の場合、耐炎化が不十分となり、その後の高温での熱処理により分解反応が生じ、欠陥点を形成するために、高強度が得られないことがある。耐炎化糸密度が1.360g/cmを超える場合、繊維の酸素含有量が増えるために、その後の高温での熱処理により過剰の酸素が消失する反応が生じ、欠陥点を形成するために、高強度が得られない。より好ましい耐炎化糸密度の範囲は、1.340〜1.350g/cmである。
耐炎化炉での適度の伸長は、繊維を形成しているフィブリル構造の配向を維持、向上させるために好ましい。0%未満の伸長では、フィブリル構造の配向が維持できず、炭素繊維の構造形成における繊維軸での配向が十分でなく、優れた機械的特性が発現できないことがある。一方、10%を超える伸長では、フィブリル構造自体の破断が生じ、その後の炭素繊維の構造形成を損ない、また破断点が欠陥点となり、高強度の炭素繊維を得ることができない。より好ましい伸長率は、3〜8%である。
次に耐炎化繊維を窒素などの不活性雰囲気中300〜800℃の温度勾配を有する第一炭素化炉にて2〜7%の伸長を加えながら通過させることが好ましい。好適な処理温度は300から800℃であり、直線的な勾配で処理する。耐炎化工程の温度を考えると開始温度は300℃以上が好ましい。最高温度が800℃を超えると、工程糸が非常に脆くなり、次の工程への移行が困難になる。より好適な温度範囲は、300〜750℃である。温度勾配については特に制限はないが、直線的な勾配を設定するのが好ましい。
2%未満の伸長では、フィブリル構造の配向が維持できず、炭素繊維の構造形成における繊維軸での配向が十分でなく、優れた機械的特性が発現できない。一方、7%を超える伸長では、フィブリル構造自体の破断が生じ、その後の炭素繊維の構造形成を損ない、また破断点が欠陥点となり、高強度の炭素繊維を得ることができない。より好ましい伸長率は3〜5%である。
第一炭素化炉での好適な熱処理時間は1.0〜3.0分であるすることが好ましい。1.0分未満の処理では、急激な温度上昇に伴う激しい分解反応が生じ、高強度の炭素繊維を得ることができない。3.0分を超えると、工程前期の可塑化の影響が発生し、結晶の配向度が低下する傾向が生じ、その結果得られる炭素繊維の機械的特性が損なわれる。より好適な熱処理時間は、1.2〜2.5分である。
更に窒素などの不活性雰囲気中1000〜1600℃の温度勾配を有する第二炭素化炉にて緊張下で熱処理を行って炭素繊維とすることが好ましい。また、必要ならば、追加で所望する温度勾配を有する第二炭素化炉にて不活性雰囲気中、緊張下で熱処理を行う。
炭素化処理の温度は、炭素繊維の所望弾性率により設定する。高い強度特性を有する炭素繊維を得るためには、炭素化処理の最高温度は低いことが好ましい。また処理時間を長くすることにより弾性率を高くすることができるため、その結果、最高温度を下げることができるので好ましい。更に、処理時間を長くすることにより、温度勾配を緩やかに設定することが可能となり、欠陥点形成を抑制するのに効果があるので好ましい。第二炭素化炉は、第一炭素化炉の温度設定にもよるが、1000℃以上であればよい。好ましくは1050℃以上である。温度勾配については特に制限はないが、直線的な勾配を設定するのが好ましい。
第二炭素化炉での熱処理時間は、1.3〜5.0分が好適である。より好ましくは、2.0〜4.2分である。本熱処理において、工程繊維は大きな収縮を伴うために、緊張下で熱処理をすることが重要である。伸長は、−6.0〜0.0%が好適である。−6.0%未満では結晶の繊維軸方向での配向が悪く、十分な性能が得られない。一方、0.0%を超える場合は、これまで形成されてきた構造そのものの破壊が生じ、欠陥点形成が顕著となり、強度の大幅な低下が生じる。より好適な伸長は、−5.0%から−1.0%の範囲である。
次に炭素繊維は、表面酸化処理に供される。表面処理方法としては、公知の方法、即ち、電解酸化、薬剤酸化及び空気酸化などによる酸化処理が挙げられ、いずれでも良い。工業的に広く実施されている電解酸化処理は、安定な表面酸化処理が可能でありより、好適である。また、本発明で好適な表面処理状態を表すipaを既述範囲に制御するためには、電解酸化処理を用いて、電気量を変えて行うのが最も簡便な方法である。この場合、同一電気量であっても、用いる電解質及びその濃度によってipaは大きく異なつてくる。本発明においては、pHが7より大きいアルカリ性水溶液中で炭素繊維を陽極として10〜200クーロン/gの電気量を流して電解酸化処理を行うことが好ましい。その酸化処理によりipaを0.05〜0.25μA/cmとすることができる。電解質としては、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いるのが好適である。
次に本発明の炭素繊維はサイジング処理に供される。サイジング剤は、有機溶剤に溶解させたものや、乳化剤などで水に分散させたニマルジョン液を、ローラー浸漬法、ローラー接触法等によって炭素繊維に付与する。次いで、これを乾燥することによってサイジング処理を行うことができる。なお、炭素繊維の表面へのサイジング剤の付着量の調節は、サイジング剤液の濃度調整や絞り量調整によって行うことができる。又、乾燥は、熱風、熱板、加熱ローラー、各種赤外線ヒーターなどを利用して行うことができる。
本発明の炭素繊維の表面に付与されるサイジング剤組成物として最適なものは、(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂(以下適宜(a)成分という)、(b)ポリヒドロキシ化合物(以下適宜(b)成分という)及び(c)芳香環を含むジイソシアネート(以下適宜(c)成分という)の反応生成物であるウレタン変性エポキシ樹脂が挙げられる。また、(a)成分を反応に必要な数量より過剰に反応系に導入することにより得られる、反応性生物であるウレタン変性エポキシ樹脂と(a)成分の未反応物との混合物が挙げられる。
さらに、ヒドロキシ基を有しないエポキシ樹脂(以下適宜(d)成分という)を使用して得られる、ウレタン変性エポキシ樹脂と(d)成分との混合物が挙げられる。また更に、ウレタン変性エポキシ樹脂、(a)成分と(d)成分との混合物が挙げられる。
エポキシ基は、炭素繊維表面の酸素含有官能基との相互作用が非常に強く、サイジング剤成分を炭素繊維表面に強固に接着させることができる。また、ポリヒドロキシ化合物と芳香環を含むジイソシアネートから製造されるウレタン結合ユニットを有することにより、柔軟性の付与と、ウレタン結合と芳香環の有する極性による炭素繊維表面との強い相互作用の付与が可能となる。したがって、分子中にエポキシ基と上記ウレタン結合ユニットを有するウレタン変性エポキシ樹脂は、炭素繊維表面に強く付着可能でかつ柔軟性を有する化合物である。即ち、このようなサイジング剤組成物は、炭素繊維表面に強国に接着した柔軟な界面層を形成するので、炭素繊維にマトリックス樹脂を含浸、硬化させて得られる複合材料の機械的特性を優れたものとすることができる。
ここで、(a)成分は、特に制限はなく、(a)成分に含まれるヒドロキシ基の数は限定されない。たとえばゲリシドール、メチルグリシドール、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、オキシカルボン酸グリシジルエステルエポキシ樹脂などを用いることができる。特に好ましいものは、ビスフェノール型エポキシ樹脂である。これらは、芳香環を有することから、炭素繊維表面との相互作用が強い。また複合材料に用いられるマトリックス樹脂が、耐熱性、剛直性の観点から、芳香環を有するエポキシ樹脂を用いる場合が多く、これらマトリックス樹脂との相溶性に優れることによる。(a)成分として2種以上のエポキシ樹脂を用いることもできる。
また、(b)成分は、ビスフエノ−ルAのアルキレンオキサイド付加物、脂肪族ポリヒドロキシ化合物、ポリヒドロキシモノカルボキシ化合物のいずれか、あるいはこれら混合物より構成されるものであることが好ましい。これらの化合物は、前記のウレタン変性エポキシ樹脂を柔軟にすることができるからである。具体的には、ビスフェノールAのエチレンオキサイド4モル〜14モル付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド2〜14モル付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドブッロク共重合体付加物、ポリエチレングリコール、 トリメチロールプロパン、ジメチロールプロピオン酸などが挙げられる。
また、(c)成分、は特に制限されない。特に好ましいのは、トルエンジイソシアネートあるいはキシレンジイソシアネートである。
また、(d)成分のエポキシ樹脂は、特に制限はされない。好ましくは、分子中に2つ以上のエポキシ基を有するものがよい。これは、炭素繊維の表面とエポキシ基の相互作用が強く、これら化合物が表面に強固に付着するからである。エポキシ基の種類には特に制限はなく、グリシジルタイプ、脂環エポキシ基などを採用することができる。好ましいエポキシ樹脂としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(エピクロンHP-7200シリーズ:大日本インキ化学工業株式会社)、トリスヒドロキシンフェニルメタン型エポキシ樹脂(エピコート1032H60〜1032S50:ジヤパンエポキシレジン株式会社)、DPPノボラック型エポキシ樹脂(エピコート157S65、157S70:ジヤパンエポキシレジン株式会社)、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加エポキシ樹脂などを用いることができる。
(d)成分を含む前記混合物の製造時においては、(a)成分、(b)成分、(c)成分を反応させるときに(a)成分と同時に(d)成分を投入しても良いし、またウレタン化反応終了後、(d)成分を投入してもよい。このような化合物からなる水分散液としては、ハイドランN320(DIC株式会社製)などが挙げられる。
本発明の炭素繊維は、ストランド弾性率が250GPa以上であるため、比較的高温で焼成されて得られる。したがって、金属などの不純物を極力含まない前駆体繊維から得ることが有利である。その結果、得られる炭素繊維の含有する金属成分は小さいものが好適である。特に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、鉄、アルミユウムなどの金属成分が、総量で50ppm以下のものが好ましい。これら金属は、1000℃を超える温度において、炭素と反応したり、溶融あるいは蒸発を生じたりして、欠陥点形成の原因となり、高強度の炭素繊維が製造できない。
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本実施例における
炭素繊維の性能の測定、評価は、以下の方法によって行った。
(単繊維の表面位相像の測定)
炭素繊維の単繊維を走査型プローブ顕微鏡装置付属の金属製サンプルホルダー板上にのせ、両端をカーボンペーストで固定し、走査型プローブ顕微鏡にて、以下条件で測定を行う。
(測定条件)
走査型プローブ顕微鏡:エスアイアイナノテクノロジーズ社製、製品名:SPI4000プローブステーション、SPA400(ユニット)
走査モード:ダイナミックフォースモード(DFMモード)
探針 :エスアイアイナノテクノロジーズ社製、製品名:SI−DF−20
走査範囲 :1μm×1μm、
Rotation:90度(繊維軸方向に対して垂直方向にスキャン)
走査速度 :1.0Hz
ピクセル数:512×512
測定環境 :室温、大気中
データ処理:装置付属の画像解析ソフトウェア(SPIWin)を使用。
位相像のデータ処理条件:データ処理なし、得られた像をそのまま用いた。
炭素繊維の単繊維1本に対して、上記条件にて1画像を得る。得られた画像を走査型プローブ顕微鏡付属の画像解析ソフト(SPIWin)で以下条件にて画像解析を行う。
探針に際しては、装置の常法に従い、周波数90〜150KHzの範囲で、探針のQカーブ(周波数 対 振幅の図)を得、Qカーブのピークトップ(共振点)を検出し、動作点設定を低周波数として測定に適した探針の振動振幅と周波数を決定した。
単繊維1本をのせた金属製サンプルホルダー板を測定ステージ上に置き、光学顕微鏡で確認しながら測定位置決めをし、装置の自動調整機能を用いて、探針を単繊維1本の中央にのせた。
単繊維の表面を走査しながら、振幅減衰率、Iゲイン、Pゲインを適切に調整した。適切にとは、位相像および形状像のLine Traceが走査の往復で追従がよい状態のことである。
測定は単繊維1本について1ヶ所測定し、任意に選んだ単繊維10本を測定した。
サイジング処理した単繊維にあっては、サイジング剤を除去したのちに測定を行う。サイジング剤の除去方法は、例えばサイジング剤が可溶な溶媒で洗浄する方法や、加熱処理(例えば500℃×1時間熱処理)する方法などがある。
(単繊維の表面凹凸構造の測定)
測定は、データ処理方法を以下の通りとした以外、単繊維の表面位相像の測定と同じ条件で測定した。
形状像のデータ処理条件:得られた形状像を「フラット処理」、「メディアン8処理」、「三次傾き補正」を行い、曲面を平面にフィッティング補正した画像を得る。平面補正した画像の表面粗さ解析より平均面粗さRa、最大高低差P−Vを求めた。
また、走査型プローブ顕微鏡による測定の際に、長さ0.6μm以上の凹凸構造の有無、及び長さ300nm以下の凹凸構造の長さを測定した。
測定は1サンプルについて単糸10本を走査型プローブ顕微鏡で形状測定し、各測定画像について、平均面粗さRa、最大高低差P−V、その平均値をサンプルの平均面粗さRa、最大高低差P−Vとする。
なお、「フラット処理」、「メディアン8処理」、「三次傾き補正」とは、それぞれ以下の通りである。
(フラット処理)
リフト、振動、スキャナのクリープ等によってイメージデータに現れたZ軸方向の歪み・うねりを除去する処理のことである。SPM測定上の装置因によるデータのひずみを除去できる。
(メディアン8処理)
処理するデータ点Sを中心とする3×3の窓(マトリクス)においてSおよびD1〜D8の間で演算を行い、SのZデータを置き換える処理のことである。スムージングやノイズ除去といったフィルタの効果が得えられる。
メディアン8処理は、SおよびD1〜D8の9点のZデータの中央値を求めて、Sを置き換えることで処理できる。
(三次傾き補正)
傾き補正とは、処理対象イメージの全データから最小二乗近似によって曲面を求めてフィッティングし、傾きを補正することである。(一次)(二次)(三次)はフィッティングする曲面の次数を示し、三次では三次曲面をフィッティングする。三次傾き補正処理によって、データの繊維の曲率をなくしフラットな像にできる。
(炭素繊維のストランド物性評価)
樹脂含浸炭素繊維のストランド試験体の調製および強度の測定は、JIS R7601に準拠し測定し評価した。ただし、弾性率の算出はASTMに準じたひずみ範囲を用いて実施した。
(炭素繊維のipaの測定)
ipa値は次の方法により測定した。
電解液は5%りん酸水溶液でpH3とし、窒素をバブリングさせ溶存酸素の影響を除く。試料である炭素繊維を一方の電極として電解液に浸漬し、対極として充分な表面積を有する白金電極を用いる。ここで、参照電極としてはAg/AgCl極を採用した。試料形態は長さ50mmの12000本の単繊維からなる炭素繊維とした。炭素繊維電極と白金電極の間にかける電位の走査範囲は−0.2Vから+0.8Vとし、走査速度は2.0mV/secとした。
電流―電圧曲線を描き、3回以上掃引させ曲線が安定した段階で、Ag/AgCl参照電極に対して+0.4Vでの電位を基準電位として電流値Iを読み取り、次式(1)に従ってipaを算出した。
装置:AUTOMATIC POLARIZATION SYSTEM(北斗電工製、製品名:HZ-3000)

ipa=I/A=I/(8(πKM/ρ)0.5) (μA/cm)・・・(1)

A:炭素繊維の全表面積(cm)=8/10×(πKM/ρ)0.5
K:炭素繊維のフィラメント数(本)
M:炭素繊維の単繊維目付け(g/m)
ρ:炭素繊維の密度(g/cm
炭素繊維の長さとJIS R7601に記載されている方法によって求められた炭素繊維の密度と炭素繊維の単繊維目付けから見掛けの表面積Aを算出した。
(X線光電子分光法により求められる炭素繊維表面の酸素含有官能基量(O1s/Cls)の測定)
X線光電子分光機:(VG社製、製品名:ESCALAB、220iXL)
測定方法:炭素繊維をサンプル台にのせて固定し、常法により測定を行った。
酸素濃度は538eV〜524eV、炭素濃度は280eV〜293eVまでの範囲を積分し、O1sピークのC1sピーク面積に対する割合として評価した。なおOの感度補正係数2.93および装置固有の感度補正係数により補正した。
(前駆体繊維の製造例1、2、3)
前駆体繊維(1)
アクリロニトリル98質量%、メタクリル酸2質量%を重合してアクリロニトリル系重合体を得た。この重合体をジメチルホルムアミドに溶解し23.5質量%の紡糸原液を調製した。この紡糸原液を直径0.15mm、孔数2000の吐出孔を配置した紡糸口金から紡出させて乾湿式紡糸した。即ち空気中に紡出させて約5mmの空間を通過させた後、ジメチルホルムアミドを含有する水溶液(濃度79.5質量%、温度10℃)を満たした凝固液中で凝固させ、凝固糸を引き取った。次いで空気中で1.1倍延伸した後、ジメチルホルムアミドを含有する水溶液(濃度42質量%、温度70℃)を満たした延伸槽中にて3.1倍延伸した。延伸後、清浄な水で洗浄し、次に、95℃の熱水中で1.2倍の延伸を行った。引き続き、アミノ変性シリコーンを主成分とする油剤を1.1質量%となるよう付与し乾燥緻密化した。乾燥緻密化後の繊維を、加熱ロール間で2.6倍延伸して、更なる配向の向上と緻密化を行った後に巻き取ってアクリロニトリル系前駆体繊維(繊度:0.77dtex)を得た。
ここで、アミノ変性シリコーンを主成分とする油剤は以下のものを用いた。
アミノ変性シリコーン;KF−865(信越化学工業(株)製、1級側鎖タイプ、粘度110cSt(25℃)、アミノ当量 5000g/mol、85質量%、
乳化剤;NIKKOL BL−9EX(日光ケミカルズ株式会社製、POE(9)ラウリルエーテル)、15質量%。
前駆体繊維(2)
水洗浄処理前の延伸倍率を2.6倍、洗浄後の熱水中の延伸倍率を1.2倍にした。引き続き、繊維にアミノ変性シリコーンを主成分とする油剤を1.1質量%となるよう付与し乾燥緻密化した。乾燥緻密化後の繊維を、加熱ロール間で3.1倍延伸して、更なる配向の向上と緻密化を行った後に巻き取った以外は、前駆体繊維(1)と同じ条件でアクリロニトリル系前駆体繊維(繊度:0.77dtex)を得た。
前駆体繊維(3)
アクリロニトリル96質量%、アクリルアミド3質量%、メタクリル酸1質量%を共重合して得たアクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミドに溶解し、21質量%の紡糸原液を調製した。この紡糸原液を直径0.06mm、孔数24000の吐出孔を配置した紡糸口金から紡出させて湿式紡糸した。
すなわちジメチルアセトアミド水溶液(濃度67質量%、温度38℃)からなる第1凝固浴中に吐出させて凝固糸とした。この凝固糸を1.2倍で空中延伸し、60℃から98℃の範囲で5段の延伸・洗浄槽を通して、3.0倍の延伸と洗浄を同時に行い、次に、95℃の熱水中で0.98倍の緩和を行った。その後、1質量%となるようにアミノ変性シリコーン系油剤をノニオン系界面活性剤で乳化した水溶液に漬し、175℃の加熱ローラーにて乾燥緻密化した。前記乾燥緻密化工程に引き続いて、加圧スチーム中で3倍に延伸して、アクリロニトリル系前駆体繊維(繊度:0.77dtex)を得た。
ここで、アミノ変性シリコーンオイルを主成分とする水系繊維油剤は以下のものを使用した。
アミノ変性シリコーン;KF−865(信越化学工業(株)製、1級側鎖タイプ、粘度110cSt(25℃)、アミノ当量 5000g/mol)、85質量%、
乳化剤;NIKKOL BL−9EX(日光ケミカルズ株式会社製、POE(9)ラウリルエーテル)、15質量%。
(実施例1、2)
(炭素繊維の調製)
複数の前駆体繊維(1)あるいは(2)を平行に揃えた状態で耐炎化炉に導入し、220℃〜280℃に加熱された空気を前駆体繊維に吹き付けることによって、前駆体繊維を耐炎化して密度1.342g/cmの耐炎繊維を得た。ここで、密度1.200g/cmから1.250g/cmの範囲で、5.0%の伸長を行い、さらに密度1.250g/cmから1.300g/cmの範囲で1.5%の伸長を行い、さらに1.300g/cmから1.340g/cmの範囲で−0.5%伸長させた。合計の伸長率は6%とし、耐炎化処理時間は70分とした。
次に耐炎化繊維を窒素中300〜700℃の温度勾配を有する第一炭素化炉にて4.5%の伸長を加えながら通過させた。温度勾配は直線的になるように設定した。処理時間は1.9分とした。
更に窒素雰囲気中で1050〜1250℃の温度勾配を設定した第二炭素化炉を用いて伸長率−3.8%で熱処理を行った。引き続き、窒素雰囲気中1250〜1475℃の温度勾配を設定した第三炭素化炉を用いて伸長率−0.1%熱処理を行い、炭素繊維を得た。第二炭素化炉および第三炭素化炉を合わせた伸長率は、−3.9%、処理時間は3.7分とした。
引き続いて、重炭酸アンモニウム10質量%水溶液中を走行せしめ、炭素繊維を陽極として、被処理炭素繊維1g当たり40クーロンの電気量となる様に対極との間で通電処理を行い、温水90℃で洗浄した後、乾燥した。
得られた通電処理後の炭素繊維の単繊維について、表面位相像の測定および表面凹凸構造の測定、炭素繊維のipaの測定、X線光電子分光法により求められる炭素繊維表面の酸素含有官能基量(O1s/Cls)の測定を行った。得られた通電処理後の炭素繊維は引き続き、ハイドランN320(以下「サイジング剤1」という)を0.5質量%付着させ、ボビンに巻きとり、炭素繊維を得た。
(実施例3)
複数の前駆体繊維を平行に揃えた状態で耐炎化炉に導入し、220〜280℃に加熱された空気を前駆体繊維に吹き付けることによって、前駆体繊維を耐炎化して密度1.345g/cmの耐炎繊維を得た。伸張率は−4.0%とし、耐炎化処理時間は70分とした。
次に耐炎化繊維を窒素中300〜700℃の温度勾配を有する第一炭素化炉にて4.5%の伸長を加えながら通過させた。温度勾配は直線的になるように設定した。処理時間は1.3分とした。
更に窒素雰囲気中で1050〜1475℃の温度勾配を設定した第二炭素化炉を用いて熱処理を行い、炭素繊維を得た。伸張率は、−4.5%、処理時間は1.3分とした。
引き続いて、重炭酸アンモニウム10質量%水溶液中を走行せしめ炭素繊維を陽極として、被処理炭素繊維1g当たり30クーロンの電気量となる様に対極との間で通電処理を行い、温水50℃で洗浄した後乾燥した。
得られた通電処理後の炭素繊維の単繊維について、表面位相像の測定および表面凹凸構造の測定、炭素繊維のipaの測定、X線光電子分光法により求められる炭素繊維表面の酸素含有官能基量(O1s/Cls)の測定を行った。
得られた通電処理後の炭素繊維は引き続き、ハイドランN320を0.8質量%付着させ、ボビンに巻きとり、炭素繊維を得た。
(一方向プリプレグの製作)
Bステージ化(熱硬化性樹脂の硬化中間状態)したエポキシ樹脂#410(180℃硬化タイプ)(三菱レイヨン株式会社製)を塗布した離型紙上に、ボビンから巻き出した炭素繊維の束、156本を引き揃えて配置して、加熱圧着ローラーを通して、このエポキシ樹脂を含浸した。その上に保護フィルムを積層して、樹脂含有量約33質量%、炭素繊維の目付け125g/m、幅500mmの一方向引揃えプリプレグ(以下「UDプリプレグ」という)を作製した。
(積層板の成型および機械的特性評価)
前記UDプリプレグを使用して積層板を成形し、積層板の0°引張強度をASTM D3039に準拠した評価法により測定した。
炭素繊維の製造条件と評価結果を表1に示した。
なお、いずれの実施例においても、単繊維の表面に繊維の長手方向に延びる長さ0.6μm以上の表面凹凸構造は無く、長さ300nm以下の微小な大きさの凹凸構造が確認された。

Claims (1)

  1. 炭素繊維の単繊維の表面の円周長さ1.0μm、繊維軸方向長さ1.0μmで囲まれる範囲を走査型プローブ顕微鏡によって測定した位相像が以下の条件を満たす炭素繊維。
    前記位相像に、繊維軸に垂直な方向に位相像が変化する部分が炭素繊維の長手方向に延びた長さ600nm以上の溝が無い。
    前記位相像に、繊維軸に垂直な方向に位相像の変化する部分が炭素繊維の長手方向に延びた長さ30nm〜200nmの溝が複数存在する。
    ただし、上記位相像の溝は、繊維軸に垂直な方向に位相像の変化がない部分のことをいう。
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