以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の冷却器10の全体構成を示す図であり、断面図示されている。図1に示すように、冷却器10は、加熱部14、冷却部16、体積変化吸収部18、加圧部20、および蒸気保持部22等を備えている。冷却器10は、その冷却器10内に封入された冷媒を利用して発熱体121、122を冷却する。詳細に言えば、冷却器10は、冷却器10内に封入された冷媒を冷媒振動方向DRvに沿って自励振動させることにより、加熱部14の熱源である発熱体121、122の熱を加熱部14から冷却部16へ移動させて冷却部16から外部へと放熱する。冷却器10内に封入された冷媒は、常温では液体で、発熱体121、122により加熱されることにより冷却器10内にて沸騰する流体である。
発熱体121、122は発熱するものであり、冷却器10によって冷却される部材である。具体的に発熱体121、122は、冷却が必要な半導体素子などである。一例を挙げれば、インバータの半導体素子モジュールである。本実施形態では、発熱体121、122は2つ設けられており、加熱部14の外側に取り付けられ固定されている。そして、発熱体121、122はそれぞれ、発熱体121、122の熱を加熱部14へ伝える伝熱面121a、122aを有している。
加熱部14の内部には加熱部空間14aが形成されている。その加熱部空間14aは冷媒で満たされている。そして、加熱部14は、発熱体121、122の熱を加熱部空間14a内の冷媒へ放熱させることにより、その冷媒を加熱し沸騰気化させる。
詳細には図1とその図1のII−II断面図である図2とに示すように、加熱部14は箱状の加熱部壁141を備えており、その加熱部壁141の内側に加熱部空間14aが形成されている。箱状である加熱部壁141は、冷媒振動方向DRvに直交する冷媒振動交差方向DRcにおいて一方側に設けられた第1側壁部141aと、他方側に設けられた第2側壁部141bとを含んでいる。
第1側壁部141aには、2つの発熱体121、122のうちの第1の発熱体121が接触しており、第1側壁部141aのうち第1の発熱体121が接触している範囲は、第1の発熱体121の伝熱面121aに接触しその伝熱面121aから発熱体121の熱を受ける受熱部141cとして機能する。そして、加熱部14は複数の第1介装部142を備えている。その複数の第1介装部142はそれぞれ、第1側壁部141aに含まれる受熱部141cと加熱部14の内側に配置された蒸気保持部22との間に設けられ、その受熱部141cと蒸気保持部22とに接続されている。
これと同様に、第2側壁部141bには、2つの発熱体121、122のうちの第2の発熱体122が接触しており、第2側壁部141bのうち第2の発熱体122が接触している範囲は、第2の発熱体122の伝熱面122aに接触しその伝熱面122aから発熱体122の熱を受ける受熱部141dとして機能する。そして、加熱部14は複数の第2介装部143を備えている。その複数の第2介装部143はそれぞれ、第2側壁部141bに含まれる受熱部141dと蒸気保持部22との間に設けられ、その受熱部141dと蒸気保持部22とに接続されている。なお、発熱体121、122の伝熱面121a、122aから受熱部141c、141dへの熱の伝わりを良くするために、伝熱面121a、122aは、その伝熱面121a、122aに塗布されたグリスを介して受熱部141c、141dに接触していても差し支えない。
具体的に、加熱部壁141、第1介装部142、第2介装部143、および蒸気保持部22の外壁を成す蒸気保持部壁221は、例えば熱伝導性の良い金属により一体成形され又はロウ付けされる等して、一体的に形成されている。そのため、加熱部14のそれぞれの受熱部141c、141dは蒸気保持部22と熱的に接触している。すなわち、第1介装部142は、第1の発熱体121の熱を第1側壁部141aに含まれる受熱部141cから蒸気保持部22へ伝導すると共に、第2介装部143は、第2の発熱体122の熱を第2側壁部141bに含まれる受熱部141dから蒸気保持部22へ伝導する。要するに、発熱体121、122の熱は、受熱部141c、141dから、金属などの固体を伝わって蒸気保持部22に至る。
また、第1介装部142および第2介装部143は何れもリブ形状を成しており、冷媒振動方向DRvへ延びるように設けられている。これにより、第1介装部142および第2介装部143は、加熱部空間14a内において冷媒の自励振動を妨げないようになっている。
また、図1に示すように、冷媒振動方向DRvにおける加熱部空間14aの冷却部16側の端である一端は冷却部16の冷却部空間16aに連通しているが、加熱部空間14aの他端は閉塞されている。すなわち、加熱部壁141は、加熱部空間14aを冷却部空間16aへ開口させている開口部141eを有し、その開口部141e側の反対側では加熱部空間14aを塞ぐ壁となっている。
冷却部16の内部には、加熱部空間14aと連通している冷却部空間16aが形成されている。言い換えれば、冷却部空間16aは、加熱部空間14aへ連通する連通端16bを、冷媒振動方向DRvにおける加熱部14側に有している。そして、冷却部16は、加熱部14で気化され冷却部空間16aへ流入してきた気体の冷媒を冷却して液化させる。具体的に冷却部16は、冷却部壁161と冷却装置162とを備えている。冷却部16は、加熱部14に対し冷媒振動方向DRvの一方に並んで配置されている。
冷却部壁161は管状の形状を成しており、その内側に冷却部空間16aが形成されている。冷却装置162は、冷却部壁161の周りに設けられた多数の冷却フィン162aから構成されている。そして、冷却装置162は、冷却部空間16a内の冷媒を、冷却器10外部の空気である外気と熱交換させることにより冷却する。
冷却部壁161は、高い放熱性能が得られるように薄肉に形成され、例えばアルミニウム合金等の熱伝導性の良い金属で構成されている。また、冷却部壁161、冷却装置162、および加熱部壁141は一体となって、冷媒が収容される1つの冷媒容器を構成している。
冷却部空間16aは管状に形成された空間であり、冷媒振動方向DRvに直交する管路断面積が極めて小さい管路で構成されている。そのため、冷却部空間16a内に冷媒の気液界面26が存在する場合には、その気液界面26は重力方向に拘わらず、冷媒の表面張力により、冷媒振動方向DRvの加熱部14側を向くように維持される。そして、冷媒振動方向DRvにおいて、気液界面26を境に加熱部14側には蒸気冷媒(すなわち気体の冷媒)が存在し、その反対側には液冷媒(すなわち液体の冷媒)が存在する。
例えば、冷媒が加熱部14で加熱されることにより、気体になった冷媒の体積が増すほど、冷却部空間16a内において気液界面26は、加熱部空間14aから遠ざかる方向すなわち図1の左方向に移動する。そうすると、冷却部16は、液冷媒も冷却するが、それと共に、加熱部14で気化された蒸気冷媒も冷却し凝縮させる。
体積変化吸収部18は、一軸方向または略一軸方向へ伸縮する伸縮部材で構成されており、冷却器10内に封入された冷媒の体積変化を吸収する吸収部として機能する。その体積変化吸収部18の伸縮方向である上記一軸方向は、本実施形態では冷媒振動方向DRvと同じである。体積変化吸収部18は、例えばベローズまたは蛇腹等で伸縮可能に構成されている。
詳細には、体積変化吸収部18の内側に吸収部空間18aが形成されており、その吸収部空間18aは、冷媒振動方向DRvにおける冷却部空間16aの連通端16b側とは反対側の端部に連通している。そして、体積変化吸収部18は、吸収部空間18aの膨張と収縮とによって冷媒の加熱および冷却による体積変化を吸収する。
体積変化吸収部18のうち冷却部16側の端部である接続端18bは冷却部壁161に対して気密に固定されており、接続端18bの反対側は閉塞された閉塞端18cとなっている。従って、吸収部空間18a、上述の加熱部空間14a、冷却部空間16a、および蒸気保持部壁221の内側に形成された蒸気保持部空間22aは全体として、冷媒が封入された一空間としての気密な冷媒封入空間32を構成しており、その冷媒封入空間32は常に冷媒で満たされている。また、吸収部空間18aは、例えば冷媒の自励振動中であっても常に液冷媒で満たされている。
そして、冷却部空間16a内の冷媒が吸収部空間18a内へ流入すると、吸収部空間18aが伸びて体積変化吸収部18の閉塞端18cが冷媒振動方向DRvで冷却部16から離れる側へ移動する。逆に、吸収部空間18aが縮んで体積変化吸収部18の閉塞端18cが冷媒振動方向DRvで冷却部16へ近づく側へ移動すると、吸収部空間18a内の冷媒が冷却部空間16a内へ流出する。
加圧部20は、吸収部空間18aを収縮させる向きに体積変化吸収部18を加圧する。具体的に、加圧部20は、体積変化吸収部18を取り囲む加圧壁201を有しており、その体積変化吸収部18と加圧壁201との間には加圧空間20aが形成されている。そして、その加圧空間20aは気密に形成され、加圧空間20aには、予め実験的に定められたガス圧の加圧ガスが封入されている。そのため、自励振動する冷媒の圧力が、加圧空間20aの加圧ガスによって高められる。このように構成された加圧部20および体積変化吸収部18は、冷却器10の中で機械的な動作を行う駆動部21となっている。
蒸気保持部22は、蒸気保持部22が有する蒸気保持部壁221の内側に形成された蒸気保持部空間22a内に、加熱部14で気化された冷媒を一時的に保持する。詳細には、蒸気保持部22は加熱部14の内側すなわち加熱部空間14aの内側に配置されている。言い換えれば、蒸気保持部22は加熱部空間14aに取り囲まれるように配置されている。従って、蒸気保持部22の蒸気保持部壁221は蒸気保持部空間22aと加熱部空間14aとを隔てる壁となっている。
蒸気保持部壁221は、その蒸気保持部空間22aと加熱部空間14aとを隔てる壁の一部として、加熱部壁141の開口部141eと加熱部14の中心位置Pcとを結ぶ方向すなわち冷媒振動方向DRvに拡がる側壁222、223を有している。また、蒸気保持部壁221は、冷媒振動方向DRvにおいて側壁222、223よりも開口部141e側が開口部141eへ近いほど細くなるように形成されている。これにより、冷媒が自励振動中に冷媒振動方向DRvへ滑らかに流れるようになっている。なお、上記加熱部14の中心位置Pcは、例えば、加熱部14の重心位置であっても、加熱部空間14aの重心位置であってもよいし、或いは、加熱部14および加熱部空間14aが直方体形状を成しているので、その直方体形状の互いに直交する3辺の中心になる位置であってもよい。
蒸気保持部壁221に含まれる側壁222、223には、冷媒振動交差方向DRcへ貫通し気体の冷媒(すなわち蒸気冷媒)を通す蒸気連通流路222a、223aがそれぞれ形成されている。従って、蒸気保持部空間22aは蒸気連通流路222a、223aを介して加熱部空間14aへ連通している。
また、蒸気連通流路222a、223aは、蒸気保持部22の中で加熱部14の中心位置Pcに対し加熱部壁141の開口部141eから遠い側に設けられている。蒸気保持部空間22aは、蒸気連通流路222a、223aへ連通していることを除けば密閉空間となっている。
また、蒸気連通流路222a、223aは、例えば蒸気連通流路222a、223a内の冷媒流れ方向に直交する通路断面の面積が極小さいスリット状の微細孔であり、冷媒が自励振動する自励振動作動域(例えば2〜10Hz程度)において、蒸気冷媒は通過できるが液冷媒は通過できない程度の流路抵抗を持つように形成されている。すなわち、蒸気連通流路222a、223aは、蒸気冷媒の通過を許容する一方で液冷媒の通過を止めるように形成された微細流路である。なお、蒸気連通流路222a、223aは液冷媒の通過を止めるものであるが、上述のように流路抵抗によって液冷媒の通過を止めるので、液冷媒の通過を完全に阻止できるものではない。
ここで、蒸気保持部22と発熱体121、122との位置関係について説明すると、蒸気保持部22は、図3に示すように、蒸気保持部22の一部が発熱体121、122の各伝熱面121a、122aに対しその伝熱面121a、122aの法線方向(本実施形態では冷媒振動交差方向DRcと同じ)に重ねて設けられている。言い換えれば、蒸気保持部22の一部が、伝熱面121a、122aの少なくとも何れかに対し上記法線方向に重なる範囲内すなわち伝熱面重複範囲Wov内に入っている。
図3は、図1の冷却器10のうち加熱部14、蒸気保持部22、および発熱体121、122を抜粋して示した抜粋図である。本実施形態では、図3から判るように、蒸気保持部22の殆どが伝熱面重複範囲Wov内に入っている。
なお、蒸気保持部22と発熱体121、122との位置関係は、本実施形態とは異なる図4に示すような位置関係でもよい。図4では、発熱体122が1つであり、その発熱体122の伝熱面122aに対しそれの法線方向に重なる範囲が伝熱面重複範囲Wovとなる。図4は、伝熱面重複範囲Wovを説明するための第1の変形例を示した図であって、図3に相当する図である。
また、蒸気保持部22と発熱体121、122との位置関係は、図5に示すような位置関係でもよい。図5では、2つの発熱体121、122の大きさが互いに異なり、2つの発熱体121、122の伝熱面121a、122aの法線方向から見て、2つの伝熱面121a、122aのうちの一方の内側に他方の全部が入っている。この場合、2つの伝熱面121a、122aのうち大きい側である一方の伝熱面122aに対しそれの法線方向に重なる範囲が伝熱面重複範囲Wovとなる。図5は、伝熱面重複範囲Wovを説明するための第2の変形例を示した図であって、図3に相当する図である。
また、蒸気保持部22と発熱体121、122との位置関係は、図6に示すような位置関係でもよい。図6では、2つの発熱体121、122の伝熱面121a、122aの法線方向から見て、2つの伝熱面121a、122aが互いに一部分にて重なっている。この場合、それらの伝熱面121a、122aの少なくとも何れかに対しそれの法線方向に重なる範囲が伝熱面重複範囲Wovとなる。図6は、伝熱面重複範囲Wovを説明するための第3の変形例を示した図であって、図3に相当する図である。これら図4〜6に示す変形例の何れでも、蒸気保持部22の一部が伝熱面重複範囲Wov内に入っている。
また、蒸気保持部22と発熱体121、122との位置関係は、図7に示すような位置関係でもよい。図7では、蒸気保持部22の殆どが伝熱面重複範囲Wovから外れており蒸気保持部22の僅かな一部分が伝熱面重複範囲Wov内に入っている。すなわち、蒸気保持部22の一部は、発熱体121、122の各伝熱面121a、122aに対しその伝熱面121a、122aの法線方向に重ねて設けられている。図7は、伝熱面重複範囲Wovを説明するための第4の変形例を示した図であって、図1に相当する図である。
また、蒸気保持部22と発熱体121、122との位置関係は、図8に示すような位置関係でもよい。図8では、蒸気保持部22の全部が伝熱面重複範囲Wov内に入っている。すなわち、蒸気保持部22の全部が、発熱体121、122の各伝熱面121a、122aに対しその伝熱面121a、122aの法線方向に重ねて設けられている。図8は、伝熱面重複範囲Wovを説明するための第5の変形例を示した図であって、図1に相当する図である。図3〜8を用いて説明したように、要するに、蒸気保持部22の少なくとも一部が発熱体121、122の各伝熱面121a、122aに対しその伝熱面121a、122aの法線方向に重ねて設けられていればよい。
図1に戻り、冷却器10の作動について説明する。上述のように構成された冷却器10では、加熱部空間14a内の液冷媒が発熱体121、122の熱により加熱され沸騰させられると冷媒の気体部分が増し、それと共に冷媒全体の体積が増加するので、体積変化吸収部18の吸収部空間18aが膨張し閉塞端18cが冷却部16から離れる側へ移動する。冷媒の気体部分がある程度増し例えば気液界面26が図1のように冷却部空間16a内に入ると、冷却部16が、その冷媒の気体部分を冷却し凝縮させる。
冷媒の気体部分が凝縮することにより気体部分が少なくなると、それと共に冷媒全体の体積が減少する。そうなると、体積変化吸収部18の吸収部空間18aが収縮し閉塞端18cが冷却部16へ近づく側へ移動すると共に、凝縮した液冷媒が冷却部空間16aから加熱部空間14aへと流れる。そして、加熱部空間14aへ流入した液冷媒は再び、加熱部14にて発熱体121、122の熱により加熱され沸騰させられる。
このように、冷却器10において加熱部14および冷却部16は、冷媒に蒸発と凝縮とを繰り返させることにより、冷媒封入空間32内で冷媒の気液界面26を自励振動させる。要するに、加熱部空間14aから冷却部空間16aにわたる空間14a、16a内で冷媒を自励振動させる。
そして、体積変化吸収部18は、その冷媒の自励振動に伴う冷媒全体の体積変化を吸収する。更に、体積変化吸収部18は、所定のばね定数を持っているので、その体積変化吸収部18の伸縮方向における釣合い点に向って伸縮量に応じた反力を生じ、冷媒の自励振動を補助する役割を果たす。
この気液界面26の自励振動すなわち冷媒の自励振動に伴い冷媒が蒸発と凝縮とを繰り返すことで、発熱体121、122から冷媒を介し外気に至る熱伝達経路において高い熱伝達性能を得つつ、発熱体121、122の熱を、発熱体121、122の伝熱面121a、122aから加熱部壁141と冷媒と冷却部壁161と冷却装置162とを介し、外気へ放出させることができる。
また、冷却部空間16a内および吸収部空間18a内において、気液界面26付近では冷媒は飽和状態になっているが、気液界面26から離れた部位の液冷媒はサブクール状態になっている。従って、そのサブクール状態の液冷媒が、体積変化吸収部18が収縮すると共に加熱部空間14aに流れ込むので、発熱体121、122を冷却する高い冷却性能を得ることができる。
上述したように、本実施形態によれば、図1に示すように、蒸気保持部22は加熱部14の内側に配置されている。従って、蒸気保持部22に対する冷却器10の外部環境温度の影響を抑えることができる。そのため、その外部環境温度の影響に起因した蒸気保持部空間22a内の冷媒温度の低下を防止することが可能であり、延いては、その蒸気保持部空間22a内の蒸気冷媒の凝縮を防止することが可能である。そして、蒸気保持部22の少なくとも一部が発熱体121、122の伝熱面121a、122aに対しその伝熱面121a、122aの法線方向に重ねて設けられているので、蒸気保持部空間22a内の冷媒温度の低下を更に効果的に防止することが可能である。
例えば、図9のように蒸気保持部22が外部に露出して設けられた比較例では、蒸気保持部22が外部環境温度の影響を受けて蒸気保持部空間22a内の冷媒が凝縮し、蒸気保持部空間22aが液冷媒で満たされることがある。そうなれば、加熱部空間14a内の蒸気冷媒を蒸気保持部空間22aへ逃がすことができなくなる。その結果、図9に示すように、冷媒の自励振動中に発熱体121、122からの加熱によって、加熱部空間14aの中で開口部141eから遠い側の一部に蒸気冷媒が溜まり続ける。
これに対し、図1に示す本実施形態の冷却器10では上述したように、蒸気保持部空間22a内の冷媒温度の低下が防止されているので、蒸気保持部空間22aが液冷媒で満たされることが防止される。これにより、冷却部空間16aから加熱部空間14aに流入する液冷媒を加熱部空間14aの開口部141e側とは反対側の奥にまで流入させ、冷媒の自励振動の1サイクル当たりの蒸気発生量を図9の比較例よりも増やすことが可能である。
また、本実施形態によれば、図1に示す第1介装部142は、第1の発熱体121の熱を第1側壁部141aの受熱部141cから蒸気保持部22へ伝導すると共に、第2介装部143は、第2の発熱体122の熱を第2側壁部141bの受熱部141dから蒸気保持部22へ伝導する。従って、発熱体121、122の熱を効率良く蒸気保持部22へ伝えることが可能であり、蒸気保持部空間22a内の蒸気冷媒の凝縮を防止し易くなる。更に言えば、蒸気保持部空間22aに液冷媒が入った場合に、その液冷媒を蒸発させ蒸気保持部空間22aからの液排出が可能である。
また、加熱部空間14aに面している蒸気保持部壁221の外側壁面からも、発熱体121、122の熱で加熱部空間14a内の冷媒を加熱することができる。
また、本実施形態によれば、蒸気保持部22の蒸気連通流路222a、223aは、蒸気冷媒の通過を許容する一方で液冷媒の通過を止めるように形成された微細流路である。従って、冷媒の自励振動中に、液冷媒が加熱部空間14aの中で冷媒振動方向DRvにおける開口部141eから最も遠い側の端にまで到達した場合であっても、その液冷媒が蒸気保持部空間22aへ入り込むことを防ぐことが可能である。
また、本実施形態によれば、図1に示すように、蒸気保持部22の蒸気連通流路222a、223aは、加熱部14の中心位置Pcに対し加熱部14の開口部141eから遠い側に設けられている。詳細に言えば、その蒸気連通流路222a、223aは、加熱部空間14aのうち冷媒振動方向DRvにおける開口部141e側とは反対側の端部にて、加熱部空間14aへ連通している。従って、冷却部空間16aから加熱部空間14aへ液冷媒が流入している最中に、その液冷媒が蒸気保持部空間22aへ入り込むことを防ぐことが可能である。そして、その冷却部空間16aから加熱部空間14aへ液冷媒が流入している最中に発生した蒸気冷媒を蒸気連通流路222a、223aから蒸気保持部空間22aへ逃がすことができ、冷却部空間16aから加熱部空間14aへ流入する液冷媒を開口部141e側とは反対側の端部にまで流入させることができる。
また、本実施形態によれば、蒸気保持部22の蒸気連通流路222a、223aは全て蒸気保持部22の側壁222、223に形成され、その側壁222、223は、加熱部14の開口部141eと中心位置Pcとを結ぶ方向すなわち冷媒振動方向DRvに拡がっている。そのため、冷媒の自励振動中における液冷媒の流れに対する垂直方向または略垂直方向を向いて蒸気連通流路222a、223aが加熱部空間14aに開口している。従って、自励振動に従って流れる液冷媒が蒸気連通流路222a、223aへ流入しにくい。そして、液冷媒が蒸気連通流路222a、223aを通って蒸気保持部空間22aへ流入したとしても、その蒸気保持部空間22a内の液冷媒を蒸気連通流路222a、223aから加熱部空間14aへ排出可能となっている。
また、本実施形態によれば、図8に示すように、蒸気保持部22の全部が発熱体121、122の伝熱面121a、122aに対しその伝熱面121a、122aの法線方向に重ねて設けられていてもよい。そのようにしたとすれば、例えば図7に示すように蒸気保持部22の一部分が伝熱面121a、122aに対しその伝熱面121a、122aの法線方向に重ねて設けられている構成と比較して、蒸気保持部空間22a内の冷媒温度の低下を防止し易くなる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点を主として説明し、第1実施形態と同一または均等な部分については省略または簡略化して説明する。後述の第3実施形態以降でも同様である。
図10は、本実施形態の冷却器10の全体構成を示す断面図であって、図1に相当する図である。図10に示すように、本実施形態では加熱部14および蒸気保持部22の構造が第1実施形態と異なっている。具体的には、蒸気保持部22に、蒸気保持部壁221を貫通する開口孔221aが蒸気連通流路222a、223aとは別に形成されている。この開口孔221aは、加熱部空間14aと蒸気保持部空間22aとを相互に連通させる連通孔である。また、開口孔221aは、開口部141eへ近いほど細くなっている蒸気保持部壁221の先端に形成され、冷媒振動方向DRvにおいて冷却部空間16aの連通端16bに対向するように加熱部空間14aへ開口している。
また、加熱部14は、冷媒振動方向DRvを厚み方向とした平板状の介在板146を有している。その介在板146は、加熱部空間14aのうち冷却部空間16aの連通端16bと蒸気保持部22の開口孔221aとの間に介在する介在空間14bに設けられている。そして、介在板146は、その加熱部空間14aに含まれる介在空間14bにて連通端16bと開口孔221aとの両方から離れ、介在板146の一方の主面146aを連通端16bに向けると共に他方の主面146bを開口孔221aに向けて配置されている。
また、介在板146の上記他方の主面146bの面積は開口孔221aの加熱部空間14a側の開口面積よりも大きく、介在板146は、その介在板146に対して開口孔221aの全部が冷媒振動方向DRvに重なるように配置されている。すなわち、介在板146は、冷却部空間16aから介在空間14bへ流入する液冷媒が開口孔221aへ流入することを妨げるように配置されている。
そのため、例えば冷媒の自励振動中に液冷媒が冷却部空間16a(図10参照)から加熱部空間14aへ流れてきたときは、図11に示す矢印FL1のように流れるので、その液冷媒は開口孔221aから蒸気保持部空間22a内へ入り難い。その一方で、液冷媒が蒸気保持部空間22a内へ入ってしまった場合には、その蒸気保持部空間22a内の液冷媒は、図12に示す矢印FL2のように開口孔221aから加熱部空間14aへ流出することが可能である。図11および図12は、開口孔221aおよび介在板146の近傍を図10から抜粋した部分断面図である。そして、図11は、液冷媒が冷却部空間16aから加熱部空間14aへ流れてきた際の液冷媒流れを示す図であり、図12は、蒸気保持部空間22a内の液冷媒が開口孔221aから加熱部空間14aへ流出する際の液冷媒流れを示す図である。
また、図10に示すように、蒸気保持部22の開口孔221aと蒸気連通流路222a、223aとのうちの一方は蒸気保持部空間22aへの冷媒入口として機能し、他方は蒸気保持部空間22aからの冷媒出口として機能する。従って、これらの点から、開口孔221aおよび介在板146が設けられていない第1実施形態と比較して、蒸気保持部空間22a内に液冷媒が入ってしまった場合に、蒸気保持部空間22aからの液冷媒の排出を早く行うことが可能である。
更に、液冷媒の毛細管力が大きくなるように開口孔221aを適切な径で細く形成することで、開口孔221a内の液冷媒の毛細管力を利用して蒸気保持部空間22aからの液冷媒の排出を促すことが可能である。
また、本実施形態では、前述の第1実施形態と共通の構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点を主として説明する。
図13は、本実施形態の冷却器10の全体構成を示す断面図であって、図1に相当する図である。図13に示すように、本実施形態では、第1実施形態と比較して、蒸気保持部22の蒸気連通流路222a、223aの数が多くなっている。
詳細には、本実施形態では、蒸気保持部22のそれぞれの側壁222、223において、蒸気連通流路222a、223aは複数形成されている。そして、その蒸気連通流路222a、223aは、側壁222、223のうち冷媒振動方向DRvにおける開口部141e側とは反対側の端部に限らず、側壁222、223の全体にわたって言い換えれば側壁222、223の全体に分布して形成されている。更に、何れの蒸気連通流路222a、223aも冷媒振動交差方向DRcを向いて加熱部空間14aへ開口している。
そのため、第1実施形態と同様に、自励振動中における液冷媒が蒸気連通流路222a、223aへ流入しにくく、且つ、蒸気保持部空間22a内の液冷媒を蒸気連通流路222a、223aから加熱部空間14aへ排出することが可能である。
更に、第1実施形態と比較して、本実施形態では、加熱部空間14aと蒸気保持部空間22aとを連通させる蒸気連通流路222a、223aの数が多いので、加熱部空間14aの冷媒圧力に応じて蒸気保持部22が加熱部空間14aに対し蒸気冷媒を出入りさせる応答性を向上させることが可能である。
また、本実施形態では、前述の第1実施形態と共通の構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
なお、本実施形態は第1実施形態に基づいた変形例であるが、本実施形態を前述の第2実施形態と組み合わせることも可能である。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態では、前述の第1実施形態と異なる点を主として説明する。
図14は、本実施形態の冷却器10の全体構成を示す断面図であって、図1に相当する図である。また、図15は、図14のXV−XV断面図であって、図2に相当する図である。図14および図15に示すように、本実施形態では、第1実施形態の第1介装部142および第2介装部143(図1参照)が多孔質部材147に置き換わっている点で、第1実施形態と異なる。
具体的に、本実施形態において多孔質部材147は、例えば金属を焼結させた多孔質体から成り、多孔質部材147内には微細な多数の気孔が形成されている。多孔質部材147は、冷媒振動方向DRvを軸方向とした矩形断面の管形状を成し、蒸気保持部22の外側を取り囲むように加熱部空間14a内に配置されている。そして、多孔質部材147は管形状の内面にて蒸気保持部壁221の外側に接触しており、且つ、管形状の外面にて加熱部壁141の内側に接触している。
そのため、本実施形態では、多孔質部材147のうち、第1の発熱体121に接する受熱部141cと蒸気保持部22との間に設けられた部分である第1介装部147aが、第1実施形態の第1介装部142(図1参照)に相当する。その一方で、多孔質部材147のうち、第2の発熱体122に接する受熱部141dと蒸気保持部22との間に設けられた部分である第2介装部147bが、第1実施形態の第2介装部143(図1参照)に相当する。これらの介装部147a、147bは何れも多孔質部材147の一部分であるので、多孔質体で構成されている。
なお、第1介装部147aは、第1の発熱体121に接する受熱部141cと蒸気保持部22の側壁222とにそれぞれ直接に接触している。それと共に、第2介装部147bは、第2の発熱体122に接する受熱部141dと蒸気保持部22の側壁223とにそれぞれ直接に接触している。従って、第1実施形態と同様に、発熱体121、122の熱は、受熱部141c、141dから、金属などの固体を伝わって蒸気保持部22に至る。
本実施形態によれば、多孔質部材147は加熱部空間14a内に配置されているので加熱部空間14aは多孔質部材147の多数の気孔に連通しており、冷却部空間16aから加熱部空間14aに流入してきた液冷媒は多孔質部材147の気孔内でも加熱される。従って、加熱部14において液冷媒に対する沸騰熱伝達性能を多孔質部材147によって向上させることが可能である。
また、本実施形態では、前述の第1実施形態と共通の構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
なお、本実施形態は第1実施形態に基づいた変形例であるが、本実施形態を前述の第2または第3実施形態と組み合わせることも可能である。
(他の実施形態)
(1)上述の第1実施形態において、図1に示すように、蒸気保持部壁221は、冷媒振動方向DRvにおいて開口部141eへ近いほど細くなる先細部を、側壁222、223よりも開口部141e側に有しているが、蒸気保持部壁221がその先細部を有していなくても差し支えない。このことは、上述の第2〜4実施形態についても同様である。
例えば、図16に示すように、蒸気保持部壁221のうちの開口部141e(図1参照)側が先細形状にならずに、開口部141e側の端部が、ドーム状に開口部141e側に向かって膨らんだ形状を成していても差し支えない。或いは、図17に示すように、蒸気保持部壁221のうちの開口部141e側の端部が、冷媒振動方向DRvに直交する平面形状を成していても差し支えない。なお、図16は、蒸気保持部22の外形形状が図1のものとは異なる第1実施形態の変形例において、その異なる外形形状を示した図である。また、図17は、蒸気保持部22の外形形状が図1および図16のものとは異なる第1実施形態の変形例において、その異なる外形形状を示した図である。
(2)上述の各実施形態において、発熱体121、122は、加熱部14の外側に取り付けられているが、加熱部空間14a内に収容され、冷媒が直接接触するように配置されていても差し支えない。このように発熱体121、122が加熱部空間14a内に収容されている場合には、発熱体121、122の熱は発熱体121、122の外面全体から加熱部14へ伝わるので、その発熱体121、122の外面全体が伝熱面121a、122aとなる。
(3)上述の各実施形態において、冷却器10の設置方向には特に制限はないが、例えば冷却器10の上下方向が特定されていても差し支えない。例えば第2実施形態では、図10に示す冷却器10の設置方向に制限はないが、冷却器10は図10の矢印ARuが下方を指すように、すなわち冷却部空間16aが加熱部空間14aの下方に位置するように設置されていてもよい。そのようにしたとすれば、冷却器10は、蒸気保持部22の開口孔221aにおいて加熱部空間14aへ連通している側を下方に向けて設置される。言い換えれば、蒸気保持部空間22aは開口孔221aの上方に配置されることになる。従って、液冷媒が蒸気保持部空間22a内へ入ってしまった場合に、重力をも利用してその液冷媒を蒸気保持部空間22aから排出させることが可能である。
(4)上述の各実施形態において、発熱体121、122は2つ設けられているが、発熱体121、122は1つまたは3つ以上設けられていても差し支えない。
また、第1実施形態において、2つの発熱体121、122のうち第1の発熱体121(図1参照)が設けられずに第2の発熱体122だけが設けられる場合には、図18に示すように、加熱部14は第1介装部142(図1参照)を有しておらず、第2介装部143を有していればよい。このことは第2〜4実施形態についても同様である。図18は、図1に示す2つの発熱体121、122のうち第2の発熱体122だけが設けられる構成の第1実施形態の変形例において、冷却器10のうち加熱部14、蒸気保持部22、および第2の発熱体122を抜粋して示した抜粋図である。
(5)上述の各実施形態において、発熱体121、122は、冷却が必要な半導体素子などであるが、電気部品である必要はない。
(6)上述の各実施形態において、冷却器10は冷媒振動方向DRvに延びた形状を成しているが、冷却器10の形状に限定はなく、例えば冷却器10は、特許文献1に記載された蒸気エンジンのようにU字状に形成されていても差し支えない。
(7)上述の各実施形態において、冷却部16は、冷却部空間16a内の冷媒を外気と熱交換させることにより冷却するが、冷却部16まわりに冷却水が流れる配管を設け、冷媒を、その冷却水と熱交換させることにより冷却しても差し支えない。
(8)上述の各実施形態において、体積変化吸収部18は蛇腹等で構成され冷媒振動方向DRvに伸縮するが、例えばダイヤフラム等で構成されていてもよいし、或いは、冷媒の膨張および収縮を吸収することができれば、伸縮しない構成であっても差し支えない。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。