[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る絶縁電線は、線状の導体と、この導体の外周面側に被覆される絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記絶縁層が、気孔を含む1又は複数の気孔層と、この気孔層の外周面側に積層され、気孔を含まない1又は複数の中実層とを有し、上記中実層の主成分が熱可塑性樹脂である。
当該絶縁電線は、絶縁層が気孔を含む1又は複数の気孔層を有することにより、絶縁層の低誘電率化を実現でき、コロナ放電開始電圧が向上する。また、当該絶縁電線は、絶縁層が有する1又は複数の中実層の主成分が熱可塑性樹脂なので、中実層が伸び易く、絶縁層の可撓性を維持できる。また、当該絶縁電線は、気孔を含まない中実層が気孔層の外周面側に積層されるので、中実層によって絶縁層の機械的強度が維持される。ここで「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば50質量%以上含有される成分である。
上記気孔層の主成分が熱可塑性樹脂であるとよい。このように、気孔層の主成分も熱可塑性樹脂とすることで、中実層と共に気孔層も伸び易くなるため、より確実に絶縁層の可撓性を維持できる。
上記熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド又はこれらの組合せであるとよい。これらの樹脂は誘電率が低いため、より確実に絶縁層の誘電率を低下できコロナ放電開始電圧を向上させることができる。
上記熱可塑性樹脂が架橋しているとよい。このように、熱可塑性樹脂が架橋していることで、中実層の機械的強度が向上し、絶縁層の機械的強度が維持し易い。また、中実層の耐薬品性及び耐熱性が向上するので、絶縁層の耐薬品性及び耐熱性を向上できる。
上記気孔層の気孔率としては、5体積%以上80体積%以下が好ましい。このように、気孔層の気孔率を上記範囲内とすることで、絶縁層の誘電率を確実に低下させることができ、より確実にコロナ放電開始電圧を向上させることができる。ここで「気孔率」とは、気孔層の気孔を含む体積に対する気孔の容積の百分率を意味する。
上記気孔の平均径としては、0.1μm以上10μm以下が好ましい。このように、気孔の平均径を上記範囲内とすることで、絶縁層の誘電率が局所的に高くなることを抑制でき、より確実にコロナ放電開始電圧を高い値に維持できる。ここで、「気孔の平均径」とは、気孔層に含まれる全ての気孔について、気孔の容積に相当する真球の直径の平均値を意味する。従って、絶縁層が複数の気孔層を有する場合、「気孔の平均径」とは、全ての気孔層に含まれる気孔の平均値を意味する。
上記絶縁層の平均厚さに対する上記1又は複数の気孔層の合計平均厚さの割合としては、20%以上60%以下が好ましい。このように、気孔層の合計平均厚さの割合を上記範囲内とすることで、絶縁層の誘電率を低下させると共に、より確実に絶縁層の機械的強度及び可撓性を維持することができる。
上記絶縁層の平均厚さとしては、30μm以上200μm以下が好ましい。このように、絶縁層の平均厚さを上記範囲内とすることで、導体を確実に絶縁すると共に、コイル等を形成する際のコイルの体積効率の低下を抑制できる。
本発明の一態様に係る絶縁電線の製造方法は、線状の導体と、この導体の外周面側に被覆され、上記導体側から順に気孔層及び中実層を有する絶縁層とを備える絶縁電線の製造方法であって、上記気孔層を形成する樹脂を溶剤で希釈したもの及び空孔形成剤の混合により気孔層用ワニスを調製する工程と、上記中実層を形成する熱可塑性樹脂を溶剤で希釈して中実層用ワニスを調製する工程と、上記導体の外周面側への上記気孔層用ワニスの塗布及び焼付けにより気孔層を形成する工程と、上記気孔層を形成した上記導体のさらに外周面側への上記中実層用ワニスの塗布及び焼付けにより中実層を形成する工程とを備える。
当該絶縁電線の製造方法は、気孔層を形成する樹脂を溶剤で希釈したもの及び空孔形成剤の混合により気孔層用ワニスを調製し、導体の外周面側への気孔層用ワニスの塗布及び焼付けにより気孔を含む気孔層を形成するので、当該絶縁電線の製造方法により製造された絶縁電線は、絶縁層の低誘電率化を実現でき、コロナ放電開始電圧が向上する。また、当該絶縁電線の製造方法は、気孔層を形成した導体のさらに外周面側への中実層用ワニスの塗布及び焼付けにより中実層を形成するので、当該絶縁電線の製造方法により製造された絶縁電線は、中実層によって絶縁層の機械的強度が維持される。また、当該絶縁電線の製造方法は、中実層を熱可塑性樹脂で形成するので、当該絶縁電線の製造方法により製造された絶縁電線は、中実層が伸び易く、絶縁層の可撓性を維持できる。
本発明の一態様に係る別の絶縁電線の製造方法は、線状の導体と、この導体の外周面側に被覆され、上記導体側から順に気孔層及び中実層を有する絶縁層とを備える絶縁電線の製造方法であって、共押出しにより、上記導体の外周面側を気孔層及び中実層で被覆する工程を備え、上記気孔層が気孔を含み、上記中実層が気孔を含まず、上記中実層の主成分が熱可塑性樹脂である。
当該絶縁電線の製造方法は、共押出しにより当該絶縁電線を製造するので、導体の外周面側を気孔層及び中実層で同時に被覆でき、製造時間を短縮できる。また、当該絶縁電線の製造方法は、気孔層が気孔を含むので、当該絶縁電線の製造方法により製造された絶縁電線は、絶縁層の低誘電率化を実現でき、コロナ放電開始電圧が向上する。また、当該絶縁電線の製造方法は、中実層が気孔を含まないので、当該絶縁電線の製造方法により製造された絶縁電線は、中実層により絶縁層の機械的強度が維持される。また、当該絶縁電線の製造方法は、中実層の主成分が熱可塑性樹脂であるので、当該絶縁電線の製造方法により製造された絶縁電線は、中実層が伸び易く、絶縁層の可撓性を維持できる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る絶縁電線及び絶縁電線の製造方法を説明する。
[絶縁電線]
図1の当該絶縁電線は、線状の導体1と、この導体1の外周面側に被覆される絶縁層2とを備える。絶縁層2は、気孔6を含む気孔層3と、この気孔層3の外周面側に積層され、気孔を含まない中実層4とを主に有する。また、絶縁層2は、気孔層3の内面側に気孔を含まない補助層5を有する。中実層4及び補助層5の主成分は、熱可塑性樹脂である。
<導体>
上記導体1は、例えば断面が円形状の丸線とされるが、断面が方形状の角線や、複数の素線を撚り合わせた撚り線であってもよい。
導体1の材質としては、導電率が高くかつ機械的強度が大きい金属が好ましい。このような金属としては、例えば銅、銅合金、アルミニウム、ニッケル、銀、軟鉄、鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。導体1は、これらの金属を線状に形成した材料や、このような線状の材料にさらに別の金属を被覆した多層構造のもの、例えばニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銅被覆アルミ線、銅被覆鋼線等を用いることができる。
導体1の平均断面積の下限としては、0.01mm2が好ましく、0.1mm2がより好ましい。一方、導体1の平均断面積の上限としては、10mm2が好ましく、5mm2がより好ましい。導体1の平均断面積が上記下限に満たない場合、導体1に対する絶縁層2の体積が大きくなり、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。逆に、導体1の平均断面積が上記上限を超える場合、誘電率を十分に低下させるために絶縁層2を厚く形成しなければならず、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
<絶縁層>
上記絶縁層2は、気孔を含まない補助層5と、補助層5の外周面側に積層され気孔6を含む気孔層3と、気孔層3の外周面側に積層され気孔を含まない中実層4とを有する。
絶縁層2の平均厚さの下限としては、30μmが好ましく、50μmがより好ましい。一方、絶縁層2の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、150μmがより好ましい。絶縁層2の平均厚さが上記下限に満たない場合、絶縁層2に破れが生じ、導体1の絶縁が不十分となるおそれがある。逆に、絶縁層2の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。
(気孔層)
上記気孔層3は、複数の気孔6を含んでいる。
気孔層3を形成する樹脂組成物の主成分の樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニルサルフォン、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性樹脂や、例えばポリビニールホルマール、熱硬化ポリウレタン、熱硬化アクリル、エポキシ、熱硬化ポリエステル、熱硬化ポリエステルイミド、熱硬化ポリエステルアミドイミド、芳香族ポリアミド、熱硬化ポリアミドイミド、熱硬化ポリイミド等の熱硬化性樹脂が使用できる。なお、絶縁層2の可撓性を維持し易い点で、気孔層3を形成する樹脂として熱硬化性樹脂よりも熱可塑性樹脂が好ましい。また、これらの熱可塑性樹脂の中でも、誘電率が低く絶縁層2の誘電率を低下させ易い点で、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン及びポリフェニレンサルファイドが特に好ましい。
また、気孔層3を形成する樹脂組成物の主成分の樹脂として、架橋可能な熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。架橋可能な熱可塑性樹脂としては、上記熱可塑性樹脂に加えて、例えばポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、シクロペンテン、2−ノルボルネン、シクロテトラドデセン系単量体等の環状オレフィン単量体を重合して得られる環状ポリオレフィンが好ましい。
また、気孔層3を形成する樹脂組成物に、上記樹脂と共に硬化剤を含有させてもよい。硬化剤としては、チタン系硬化剤、イソシアネート系化合物、ブロックイソシアネート、尿素やメラミン化合物、アミノ樹脂、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などの脂環式酸無水物、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物などが例示される。これらの硬化剤は、使用する樹脂組成物が含有する樹脂の種類に応じて、適宜選択される。例えば、ポリアミドイミド系の場合、硬化剤として、イミダゾール、トリエチルアミン等が好ましく用いられる。
なお、上記チタン系硬化剤としては、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラヘキシルチタネートなどが例示される。上記イソシアネート系化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタンなどの炭素数5〜18の脂環式イソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、これらの変性物などが例示される。上記ブロックイソシアネートとしては、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,6−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネートなどが例示される。上記メラミン化合物としては、メチル化メラミン、ブチル化メラミン、メチロール化メラミン、ブチロール化メラミンなどが例示される。
また、気孔層3を形成する樹脂組成物中の樹脂は、架橋していることが好ましい。気孔層3を形成する樹脂組成物中の樹脂を架橋させることにより、気孔層3の機械的強度が向上し、気孔6を含むことによる機械的強度の抑制作用を低減できるので、絶縁層2の機械的強度が維持し易くなる。また、気孔層3を形成する樹脂組成物中の樹脂を架橋させることにより、耐薬品性及び耐熱性も向上させることができる。
上記樹脂の架橋は、例えば気孔層3を形成する樹脂組成物の主成分として上述した架橋可能な熱可塑性樹脂を用い、例えば電離放射線の照射により架橋させることができる。
気孔層3の平均厚さの下限としては、絶縁層2の平均厚さの20%が好ましく、30%がより好ましい。一方、上記気孔層3の平均厚さの上限としては、絶縁層2の平均厚さの60%が好ましく、50%がより好ましい。上記気孔層3の平均厚さが上記下限未満の場合、絶縁層2の誘電率が十分に低下しないおそれがある。逆に、上記気孔層3の平均厚さが上記上限を超える場合、機械的強度の低い気孔層3の厚さが相対的に大きくなり、絶縁層2の機械的強度を維持できないおそれがある。
気孔層3の気孔率の下限としては、5体積%が好ましく、10体積%がより好ましい。一方、上記気孔層3の気孔率の上限としては、80体積%が好ましく、50体積%がより好ましい。上記気孔層3の気孔率が上記下限未満の場合、絶縁層2の誘電率が十分に低下せず、コロナ放電開始電圧を十分に向上できないおそれがある。逆に、上記気孔層3の気孔率が上記上限を超える場合、気孔層3の機械的強度が低下し過ぎ、絶縁層2の機械的強度を維持できないおそれがある。
気孔6の平均径の下限としては、0.1μmが好ましく、1μmがより好ましい。一方、上記気孔6の平均径の上限としては、10μmが好ましく、8μmがより好ましい。上記気孔6の平均径が上記下限未満の場合、気孔6の生成が困難となるおそれがある。逆に、上記気孔6の平均径が上記上限を超える場合、気孔層3内における気孔6の分布を均一にし難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。
(中実層)
上記中実層4は、気孔層3の外周面側に積層され、気孔を含まない。
中実層4を形成する樹脂組成物の主成分の樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニルサルフォン、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性樹脂が使用できる。これらの熱可塑性樹脂の中でも、誘電率が低く絶縁層2の誘電率を低下させ易い点で、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン及びポリフェニレンサルファイドが特に好ましい。中実層4は、熱可塑性樹脂を主成分とすることにより伸び易く、絶縁層2の可撓性を維持し易い。
また、中実層4を形成する樹脂組成物の主成分の樹脂として、架橋可能な熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。架橋可能な熱可塑性樹脂としては、上記熱可塑性樹脂に加えて、例えばポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、シクロペンテン、2−ノルボルネン、シクロテトラドデセン系単量体等の環状オレフィン単量体を重合して得られる環状ポリオレフィンが好ましい。
また、中実層4を形成する樹脂組成物に、上記樹脂と共に硬化剤を含有させてもよい。硬化剤としては、上述した気孔層3を形成する樹脂組成物に含有する硬化剤と同種のものが挙げられる。
また、中実層4を形成する樹脂組成物中の樹脂は、架橋していることが好ましい。中実層4を形成する樹脂組成物中の樹脂を架橋させることにより、中実層4の機械的強度が向上し、絶縁層2の機械的強度が維持し易くなる。また、中実層4を形成する樹脂組成物中の樹脂を架橋させることにより、耐薬品性及び耐熱性も向上させることができる。
上記樹脂の架橋は、例えば中実層4を形成する樹脂組成物の主成分として上述した架橋可能な熱可塑性樹脂を用い、例えば電離放射線の照射により架橋させることができる。
中実層4の平均厚さの下限としては、絶縁層2の平均厚さの20%が好ましく、25%がより好ましい。一方、上記中実層4の平均厚さの上限としては、絶縁層2の平均厚さの80%が好ましく、70%がより好ましい。上記中実層4の平均厚さが上記下限未満の場合、絶縁層2の機械的強度を維持できないおそれがある。逆に、上記中実層4の平均厚さが上記上限を超える場合、低誘電率化に寄与する気孔層3の厚さが相対的に小さくなり、絶縁層2の誘電率が十分に低下しないおそれがある。
また、中実層4の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、1.5μmがより好ましい。一方、上記中実層4の平均厚さの上限としては、80μmが好ましく、60μmがより好ましい。上記中実層4の平均厚さが上記下限未満の場合、中実層4が破れて機械的強度の低い気孔層3が露出するおそれがある。逆に、上記中実層4の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
(補助層)
上記補助層5は、導体1と気孔層3との間に積層され、気孔を含まない。補助層5は、気孔6による絶縁層2の絶縁性及び機械的強度の低下を補う。
補助層5を形成する樹脂組成物の主成分の樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニルサルフォン、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性樹脂が使用できる。これらの熱可塑性樹脂の中でも、誘電率が低く絶縁層2の誘電率を低下させ易い点でポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン及びポリフェニレンサルファイドが特に好ましい。補助層5は、熱可塑性樹脂を主成分とすることにより伸び易く、絶縁層2の可撓性を維持し易い。
また、補助層5を形成する樹脂組成物に、上記樹脂と共に硬化剤を含有させてもよい。硬化剤としては、上述した気孔層3を形成する樹脂組成物に含有する硬化剤と同種のものが挙げられる。
補助層5の平均厚さの下限としては、絶縁層2の平均厚さの1%が好ましく、1.5%がより好ましい。一方、上記補助層5の平均厚さの上限としては、絶縁層2の平均厚さの20%が好ましく、10%がより好ましい。上記補助層5の平均厚さが上記下限未満の場合、気孔層3が破れた場合に絶縁性を維持できないおそれがある。逆に、上記補助層5の平均厚さが上記上限を超える場合、低誘電率化に寄与する気孔層3の厚さが相対的に小さくなり、絶縁層2の誘電率が十分に低下しないおそれがある。
[絶縁電線の第1の製造方法]
次に、図1に示す当該絶縁電線の第1の製造方法について説明する。当該絶縁電線の第1の製造方法は、上記気孔層3を形成する樹脂を溶剤で希釈したもの及び空孔形成剤の混合により気孔層用ワニスを調製する工程(気孔層用ワニス調製工程)と、上記中実層4を形成する熱可塑性樹脂を溶剤で希釈して中実層用ワニスを調製する工程(中実層用ワニス調製工程)と、上記導体1の外周面への上記中実層用ワニスの塗布及び焼付けにより補助層5を形成する工程(補助層形成工程)と、補助層5を形成した上記導体1のさらに外周面側への上記気孔層用ワニスの塗布及び焼付けにより気孔層3を形成する工程(気孔層形成工程)と、気孔層3を形成した上記導体1のさらに外周面側への上記中実層用ワニスの塗布及び焼付けにより中実層4を形成する工程(中実層形成工程)とを備える。
<気孔層用ワニス調製工程>
上記気孔層用ワニス調製工程において、気孔層3を形成する主ポリマーを溶剤で希釈し、さらに空孔形成剤と混合して気孔層用ワニスを調製する。
上記気孔層用ワニスに混合する空孔形成剤としては、化学発泡剤が好ましく、例えば加熱により窒素ガス(N2ガス)を発生するアゾビスイソブチロニトリル等の熱分解性を有する物質が好適に用いられる。
上記化学発泡剤の発泡温度の下限としては、180℃が好ましく、210℃がより好ましい。一方、上記発泡温度の上限としては、300℃が好ましく、260℃がより好ましい。上記発泡温度が上記下限未満の場合、焼付け前に発泡が生じ易く、絶縁層2の厚さの調整が困難となるおそれがある。逆に、上記発泡温度が上記上限を超える場合、焼付け温度の上昇や焼付け時間の長大化を招き、当該絶縁電線の製造コストが増加するおそれがある。ここで「発泡温度」とは、発泡剤が発泡を開始する温度である。「焼付け時間」とは、焼付け工程においてワニスが塗布された導体1を焼付け温度で保持する時間である。
希釈用溶剤としては、絶縁ワニスに従来より用いられている公知の有機溶剤を用いることができる。具体的には、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶剤をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、クレゾール、クロルフェノールなどのフェノール類、ピリジンなどの第三級アミン類などが挙げられ、これらの有機溶剤はそれぞれ単独であるいは2種以上を混合して用いられる。
なお、これらの有機溶剤により希釈して調製した気孔層用ワニスの樹脂固形分濃度の下限としては、20質量%が好ましく、22質量%がより好ましい。一方、上記気孔層用ワニスの樹脂固形分濃度の上限としては、50質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。上記気孔層用ワニスの樹脂固形分濃度が上記下限未満の場合、気孔層用ワニスを塗布する際の1回の塗布量が少なくなるため、所望の厚さの気孔層3を形成するためのワニス塗布工程の繰り返し回数が多くなり、ワニス塗布工程の時間が長くなるおそれがある。逆に、上記気孔層用ワニスの樹脂固形分濃度が上記上限を超える場合、気孔層3を形成する主ポリマー及び空孔形成剤を均一に混合し難く、ワニスの調製に要する時間が長くなるおそれがある。
<中実層用ワニス調製工程>
上記中実層用ワニス調製工程において、中実層4を形成する主ポリマーを溶剤で希釈して中実層用ワニスを調製する。なお、ここで調製した中実層用ワニスは、後述するように補助層5の形成にも用いる。
上記気孔層用ワニスの希釈用溶剤としては、絶縁ワニスに従来より用いられている公知の有機溶剤を用いることができ、具体的には上述した気孔層用ワニスの調製に用いる希釈用溶剤と同種のものが挙げられる。
なお、これらの有機溶剤により希釈して調製した中実層用ワニスの樹脂固形分濃度の下限としては、20質量%が好ましく、22質量%がより好ましい。一方、上記中実層用ワニスの樹脂固形分濃度の上限としては、50質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。上記中実層用ワニスの樹脂固形分濃度が上記下限未満の場合、中実層用ワニスを塗布する際の1回の塗布量が少なくなるため、所望の厚さの中実層4又は補助層5を形成するためのワニス塗布工程の繰り返し回数が多くなり、ワニス塗布工程の時間が長くなるおそれがある。逆に、上記中実層用ワニスの樹脂固形分濃度が上記上限を超える場合、希釈に要する時間が長くなるおそれがある。
<補助層形成工程>
上記補助層形成工程において、上記中実層用ワニス調製工程で調製した中実層用ワニスを導体1の外周面に塗布した後、焼付けることで導体1表面に補助層5を形成する。
中実層用ワニスの一度の塗布及び焼付けにより所望の厚さの補助層5が形成できない場合、導体1表面に形成される補助層5が所定の厚さとなるまで、上記中実層用ワニスの塗布及び焼付けを繰り返し行う。
<気孔層形成工程>
上記気孔層形成工程において、上記補助層5を形成した上記導体1のさらに外周面側へ、上記気孔層用ワニス調製工程で調製した気孔層用ワニスを塗布した後、焼付けることで、導体1に形成された補助層5の外側に気孔層3を形成する。焼付けの際、気孔層用ワニスに含まれる化学発泡剤が発泡し、気孔6が気孔層3内に生成される。
気孔層用ワニスの一度の塗布及び焼付けにより所望の厚さの気孔層3が形成できない場合、気孔層3が所定の厚さとなるまで、上記気孔層用ワニスの塗布及び焼付けを繰り返し行う。
<中実層形成工程>
上記中実層形成工程において、上記気孔層3を形成した上記導体1のさらに外周面側へ、上記中実層用ワニス調製工程で調製した中実層用ワニスを塗布した後、焼付けることで、導体1に形成された気孔層3の外側に中実層4を形成する。
中実層用ワニスの一度の塗布及び焼付けにより所望の厚さの中実層4が形成できない場合、中実層4が所定の厚さとなるまで、上記中実層用ワニスの塗布及び焼付けを繰り返し行う。所定の厚さの中実層4を形成することにより、当該絶縁電線が得られる。
なお、上記絶縁電線の第1の製造方法では、中実層4及び補助層5を形成するワニスとして中実層用ワニスを共用しているが、中実層4及び補助層5で異なるワニスを用いてもよい。絶縁電線は、より高い機械的強度が外面側に要求されるので、例えば補助層5よりも高い機械的強度が得られるワニスを中実層4を形成するための中実層用ワニスとして、補助層5を形成するためのワニスとは別に調整してもよい。
なお、上述した当該絶縁電線の第1の製造方法において、空孔形成剤の混合により調製した上記気孔層用ワニスに代えて、気孔層用ワニスとして、熱分解性樹脂を混合することで調製したワニスを用いてもよい。すなわち、上記気孔層用ワニス調製工程において、気孔層3を形成する主ポリマーを溶剤で希釈したものに、さらに熱分解性樹脂を混合して気孔層用ワニスを調製する。
上記熱分解性樹脂としては、例えば気孔層3を形成する主ポリマーの焼付け温度よりも低い温度で熱分解する樹脂粒子を用いる。気孔層3を形成する主ポリマーの焼付け温度は、樹脂の種類に応じて適宜設定されるが、通常200℃以上350℃以下程度である。従って、上記気孔層用ワニスに用いる熱分解性樹脂の熱分解温度の下限としては200℃が好ましく、上限としては300℃が好ましい。ここで、熱分解温度とは、窒素雰囲気下で室温から10℃/分で昇温し、質量減少率が50%となるときの温度を意味する。熱分解温度は、例えば熱重量測定−示差熱分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社の「TG/DTA」)を用いて熱重量を測定することにより測定できる。
上記気孔層用ワニスに用いる熱分解性樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの片方、両方の末端又は一部をアルキル化、(メタ)アクリレート化又はエポキシ化した化合物、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸の炭素数1以上6以下のアルキルエステル重合体、ウレタンオリゴマー、ウレタンポリマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ε―カプロラクトン(メタ)アクリレートなどの変性(メタ)アクリレートの重合物、ポリ(メタ)アクリル酸、これらの架橋物、ポリスチレン、架橋ポリスチレン等が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル系重合体の架橋物が好ましく、架橋ポリ(メタ)アクリレートがより好ましい。また、熱分解性樹脂は、上記気孔層3を形成する樹脂の海相に微小粒子の島相となって均等分布できることが好ましい。従って、上記気孔層用ワニスに用いる熱分解性樹脂としては、上記気孔層3を形成する樹脂との相溶性に優れると共に、球状にまとまる樹脂であることが好ましく、具体的には架橋樹脂が好ましい。
上記架橋ポリ(メタ)アクリル系重合体は、例えば(メタ)アクリル系モノマーと多官能性モノマーとを乳化重合、懸濁重合、溶液重合等により重合することで得られる。
ここで、(メタ)アクリル系モノマーとしては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどが挙げられる。
また、多官能性モノマーとしては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどが挙げられる。
なお、架橋ポリ(メタ)アクリル系重合体の構成モノマーとしては、(メタ)アクリル系モノマー及び多官能性モノマー以外に他のモノマーを使用してもよい。他のモノマーとしては、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のグリコールエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、酢酸ビニル、酪酸ビニルなどのビニルエステル類、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミドなどのN−アルキル置換(メタ)アクリルアミド類、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどのニトリル類、スチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系単量体等が挙げられる。
上記熱分解する樹脂粒子を用いる場合、樹脂粒子は球状であることが好ましい。上記樹脂粒子の平均粒子径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、1μmがさらに好ましい。一方、上記樹脂粒子の平均粒子径の上限としては、100μmが好ましく、50μmがより好ましく、30μmがさらに好ましく、10μmが特に好ましい。上記樹脂粒子は気孔層3を形成する樹脂の焼付け時に熱分解して存在していた部分に気孔6を形成する。そのため、上記樹脂粒子の平均粒子径が上記下限未満の場合、気孔層3に気孔6が形成され難くなるおそれがある。逆に、上記樹脂粒子の平均粒子径が上記上限を超える場合、気孔層3内における気孔6の分布が均一になり難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。ここで、上記樹脂粒子の平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した粒度分布において、最も高い体積の含有割合を示す粒径を意味する。
希釈用溶剤としては、上述した空孔形成剤を混合することにより調整した気孔層用ワニスに用いたものと同種のものを用いることができる。また、有機溶剤により希釈して調製したワニスの樹脂固形分濃度は、上述した空孔形成剤を混合することにより調整した気孔層用ワニスの樹脂固形分濃度と同じとすることができる。
熱分解性樹脂を混合することで上記気孔層用ワニスを調製した後、上記気孔層形成工程と同様に、上記補助層5を形成した上記導体1のさらに外周面側へ、熱分解性樹脂を混合することで調製した気孔層用ワニスを塗布し、その後焼付けることで、導体1に形成された補助層5の外側に気孔層3を形成する。焼付けの際、上記気孔層用ワニスに含まれる熱分解性樹脂が熱分解し、気孔層3内の熱分解性樹脂が存在していた部分に気孔6が生成される。
次に、上記中実層形成工程と同様に、上記気孔層3を形成した上記導体1のさらに外周面側へ、上記中実層用ワニス調製工程で調製した中実層用ワニスを塗布した後、焼付けることで、導体1に形成された気孔層3の外側に中実層4を形成する。中実層4が所定の厚さとなるまで、上記中実層用ワニスの塗布及び焼付けを繰り返し行うことにより、当該絶縁電線が得られる。
[絶縁電線の第2の製造方法]
次に、図1に示す当該絶縁電線の第2の製造方法について説明する。当該絶縁電線の第2の製造方法は、共押出しにより、上記導体1の外周面側を補助層5、気孔層3及び中実層4で被覆する工程(押出し被覆工程)を備える。上記気孔層3は気孔を含み、上記中実層4及び補助層5は、気孔を含まない。
<押出し被覆工程>
上記押出し被覆工程において、気孔層3を形成する気孔層用樹脂組成物と、中実層4及び補助層5を形成する中実層用樹脂組成物とを溶融押出機に投入する。ここで、上記気孔層用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を主成分とし、空孔形成剤を含む。また、上記中実層用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を主成分とし、空孔形成剤を含まない。そして、これらの樹脂組成物を溶融押出機に投入した後、導体1側から補助層5、気孔層3及び中実層4の順で積層されるようにこれらの樹脂組成物を共押出しする。すなわち、導体1の外周に補助層5を形成するための中実層用樹脂組成物、その外周側を取り囲むように気孔層用樹脂組成物、さらにその外周側を取り囲むように中実層4を形成するための中実層用樹脂組成物が配設されるようにして導体1及びこれらの樹脂組成物を押出すことにより当該絶縁電線を得る。
ここで、気孔層3内の気孔6は、上記樹脂組成物を軟化させるための共押出し時の加熱により気孔層用樹脂組成物に含まれる化学発泡剤が発泡して生成される。これにより、気孔6を含む気孔層3と気孔を含まない中実層4とを有する絶縁層2を備える当該絶縁電線が得られる。
なお、上記気孔層用樹脂組成物として熱硬化性樹脂を主成分とするものを用いてもよいが、上述のように熱可塑性樹脂を主成分とするものを用いた方が共押出し時の加熱制御が容易にできるので、当該絶縁電線を製造し易い。
また、当該絶縁電線の第2の製造方法では、中実層4及び補助層5を形成する樹脂組成物として中実層用樹脂組成物を共用しているが、中実層4及び補助層5で異なる樹脂組成物を用いてもよい。
また、当該絶縁電線の第2の製造方法において、上記樹脂組成物を架橋させることが好ましい。上記樹脂組成物を架橋させる場合、例えば上記樹脂組成物として架橋可能な熱可塑性樹脂を用い、上記樹脂組成物を共押出しにより導体1の外周側に配設した後、電離放射線を照射することで上記樹脂組成物を架橋させる。電離放射線の照射を行うことにより、補助層5、気孔層3及び中実層4を形成する樹脂が架橋し、当該絶縁電線の機械的強度を向上できる。
ここで、電離放射線としては、電子線、高エネルギーイオン線等の荷電粒子線、γ線、X線等の高エネルギー電磁波、中性線等が挙げられ、中でも電子線が好ましい。これは、電子線発生装置が比較的安価であり、大出力の電子線が得られると共に架橋度の制御が容易であるためである。
上記樹脂組成物として、芳香族あるいは複素環を分子内に有する高分子化合物を用いる場合、これらの樹脂組成物を架橋させるために、電離放射線の照射前にイオンビームを照射しておくことが好ましい。つまり、イオンビームの照射により、ベンゼン環を含むものでは開環反応が起きパラフィン、オレフィンが生成する。また、ラジカルが発生した場合には、このラジカルが酸素と反応して水酸基やカルニル基等の反応活性な基が大量に発生する。このように、イオンビームの照射により高分子は部分的にパラフィン、オレフィン、水酸基等を含み反応活性になるので、このような樹脂組成物を用いる場合、予めイオンビームを照射することで電離放射線の照射による架橋を促進させることができる。
上述したように、当該絶縁電線の第1の製造方法及び第2の製造方法では、気孔層3の形成時に気孔6が形成される。一方、例えば国際公開第2011/118717号に記載の従来の絶縁電線の製造方法では、導体に絶縁層を皮膜した後に加圧下でガス充填することにより気孔を形成している。この従来の製造方法では、耐圧容器などの特殊装置や、24時間のガス充填などの長時間の工程が必要となる。従って、当該絶縁電線の製造方法を用いることで、設備コストを低減できると共に絶縁電線の製造時間を大きく短縮できる。また、上記従来の製造方法で製造する絶縁電線の絶縁層は熱可塑性樹脂であるため、複数の積層構造を有する絶縁電線の所定の層のみを気孔を含まない層とすることは困難である。これに対し、当該絶縁電線の製造方法では、上記中実層4のように所定の層のみを気孔を含まない層とすることができる。
[利点]
当該絶縁電線は、絶縁層2が気孔6を含む気孔層3を有することにより、絶縁層2の誘電率を低下でき、コロナ放電開始電圧を向上できる。また、当該絶縁電線は、絶縁層2が有する中実層4及び補助層5の主成分が熱可塑性樹脂なので、これらの層が伸び易く、絶縁層2の可撓性が維持できる。また、当該絶縁電線は、気孔を含まない中実層4が気孔層3の外周面側に積層されるので、中実層4によって絶縁層2の機械的強度が維持できる。また、当該絶縁電線は、補助層5によって、気孔6による絶縁層2の絶縁性及び機械的強度の低下が補われる。
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
つまり、上記実施形態においては、絶縁層が補助層、気孔層及び中実層を有する当該絶縁電線について説明したが、絶縁層が補助層を有さない当該絶縁電線としてもよい。絶縁層が補助層を有していなくても、中実層により絶縁電線の外面が保護されると共に、機械的強度が維持できる。なお、絶縁層が補助層を有しない絶縁電線を製造する場合、上記第1の製造方法では、補助層形成工程が省略される。また、上記第2の製造方法では、補助層を形成するための樹脂組成物を導体の外周に配設せずに共押出しが行われる。
また、上記実施形態においては、絶縁層が気孔層及び中実層を1つずつ有する当該絶縁電線について説明したが、気孔層の外周面側に熱可塑性樹脂を主成分とする中実層が積層されていればよく、絶縁層が複数の気孔層を有する絶縁電線としてもよいし、絶縁層が複数の中実層を有する絶縁電線としてもよい。また、気孔層及び中実層が交互に積層される絶縁層を有する絶縁電線としてもよい。絶縁層が複数の気孔層を有する場合、それぞれの気孔層が絶縁層の低誘電率化に寄与する。また、絶縁層が複数の中実層を有する場合、これらの複数の中実層が総合して絶縁層の機械的強度の向上に寄与する。
絶縁層が複数の気孔層を有する場合、気孔層の合計平均厚さの下限としては、絶縁層の平均厚さの20%が好ましく、30%がより好ましい。一方、上記気孔層の合計平均厚さの上限としては、絶縁層の平均厚さの60%が好ましく、50%がより好ましい。上記気孔層の合計平均厚さが上記下限未満の場合、絶縁層の誘電率が十分に低下しないおそれがある。逆に、上記気孔層の合計平均厚さが上記上限を超える場合、機械的強度の低い気孔層の合計厚さが相対的に大きくなり、絶縁層の機械的強度を維持できないおそれがある。
また、絶縁層が複数の中実層を有する場合、中実層の合計平均厚さの下限としては、絶縁層の平均厚さの40%が好ましく、50%がより好ましい。一方、上記中実層の合計平均厚さの上限としては、絶縁層の平均厚さの80%が好ましく、70%がより好ましい。上記中実層の合計平均厚さが上記下限未満の場合、絶縁層の機械的強度を維持できないおそれがある。逆に、上記中実層の合計平均厚さが上記上限を超える場合、低誘電率化に寄与する気孔層の合計厚さが相対的に小さくなり、絶縁層の誘電率が十分に低下しないおそれがある。
また、絶縁層が複数の中実層を有する場合、最外層の中実層の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、1.5μmがより好ましい。一方、上記最外層の中実層の平均厚さの上限としては、70μmが好ましく、50μmがより好ましい。上記最外層の中実層の平均厚さが上記下限未満の場合、最外層の中実層が破れて機械的強度の低い気孔層が露出するおそれがある。上記最外層の中実層の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
また、上記実施形態では、空孔形成剤として化学発泡剤を用いて気孔を生成させる製造方法について説明したが、空孔形成剤として熱膨張性マイクロカプセルを使用し、熱膨張性マイクロカプセルにより気孔を形成させる製造方法としてもよい。例えば上記第1の製造方法において、気孔層を形成する樹脂を溶剤で希釈したものを熱膨張性マイクロカプセルと混合して気孔層用ワニスを調製し、この気孔層用ワニスの導体の外周面側への塗布及び焼付けにより気孔層を形成してもよい。焼付けの際、気孔層用ワニスに含まれる熱膨張性マイクロカプセルが膨張又は発泡し、熱膨張性マイクロカプセルによって気孔層内に気孔が形成される。また、例えば上記第2の製造方法において、気孔層用樹脂組成物に熱膨張性マイクロカプセルを含ませてもよい。この場合、共押出し時の加熱により、気孔層用樹脂組成物に含まれる熱膨張性マイクロカプセルが膨張又は発泡し、熱膨張性マイクロカプセルによって形成された気孔を含む気孔層が形成される。
上記熱膨張性マイクロカプセルは、熱膨張剤からなる芯材(内包物)と、この芯材を包む外殻とを有する。熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤は、加熱により膨張又は気体を発生するものであればよく、その原理は問わない。熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤としては、例えば低沸点液体、化学発泡剤又はこれらの混合物を使用することができる。
上記低沸点液体としては、例えばブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタン等のアルカンや、トリクロロフルオロメタン等のフレオン類などが好適に用いられる。また、上記化学発泡剤としては、加熱によりN2ガスを発生するアゾビスイソブチロニトリル等の熱分解性を有する物質が好適に用いられる。
上記熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度、つまり低沸点液体の沸点又は化学発泡剤の熱分解温度としては、後述する熱膨張性マイクロカプセルの外殻の軟化温度以上とされる。より詳しくは、熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度の下限としては、60℃が好ましく、70℃がより好ましい。一方、熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度の上限としては、200℃が好ましく、150℃がより好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度が上記下限に満たない場合、当該絶縁電線の製造時、輸送時又は保管時に熱膨張性マイクロカプセルが意図せず膨張してしまうおそれがある。逆に、熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度が上記上限を超える場合、熱膨張性マイクロカプセルを膨張させるために必要なエネルギーコストが過大となるおそれがある。
一方、上記熱膨張性マイクロカプセルの外殻は、上記熱膨張剤の膨張時に破断することなく膨張し、発生したガスを包含するマイクロバルーンを形成できる延伸性を有する材質から形成される。この熱膨張性マイクロカプセルの外殻を形成する材質としては、通常は、熱可塑性樹脂等の高分子を主成分とする樹脂組成物が用いられる。
上記熱膨張性マイクロカプセルの外殻の主成分とされる熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリレート、メタアクリレート、スチレン等の単量体から形成された重合体、あるいは2種以上の単量体から形成された共重合体が好適に用いられる。好ましい熱可塑性樹脂の一例としては、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体が挙げられ、この場合の熱膨張剤の膨張開始温度は、80℃以上150℃以下とされる。
また、上記実施形態では、気孔層に含まれる気孔が空孔形成剤によって形成される構成の当該絶縁電線について説明したが、例えば上記気孔を中空フィラーで形成させた構成の当該絶縁電線としてもよい。上記気孔を中空フィラーで形成させる場合、例えば気孔層を形成する樹脂組成物と中空フィラーとを混練し、共押出し成形によりこの混練物を導体に被覆することで当該絶縁電線を製造できる。
中空フィラーにより気孔を形成する場合、この中空フィラーの内部の空洞部分が気孔層に含まれる気孔となる。中空フィラーとしては、例えばシラスバルーン、ガラスバルーン、セラミックバルーン、有機樹脂バルーン等が挙げられる。当該絶縁電線に可撓性が要求される場合、これらの中で有機樹脂バルーンが好ましい。また、機械的強度が重視される当該絶縁電線の場合、入手が容易で破損し難いという点からガラスバルーンが好ましい。
また、例えば当該絶縁電線において、導体の外周面にプライマー処理層を形成し、このプライマー処理層を形成した導体の外周面側に気孔層を形成してもよい。プライマー処理層は、層間の密着性を高めるために設けられる層であり、例えば公知の樹脂組成物により形成することができる。
導体外周面にプライマー処理層を設ける場合、このプライマー処理層を形成する樹脂組成物は、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステル及びフェノキシ樹脂の中の一種又は複数種の樹脂を含むとよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、密着向上剤等の添加剤を含んでもよい。このような樹脂組成物によって導体と絶縁層との間にプライマー処理層を形成することで、導体と絶縁層との間の密着性を向上することが可能であり、その結果、当該絶縁電線の可撓性や耐摩耗性、耐傷性、耐加工性などの特性を効果的に高めることができる。
また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、上記樹脂と共に他の樹脂、例えばエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、メラミン樹脂等を含んでもよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物に含まれる各樹脂として、市販の液状組成物(絶縁ワニス)を使用してもよい。
プライマー処理層の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、プライマー処理層の平均厚さの上限としては、20μmが好ましく、10μmがより好ましい。プライマー処理層の平均厚さが上記下限に満たない場合、導体との十分な密着性を発揮できないおそれがある。逆に、プライマー処理層の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。