(導電部材の製造方法)
本発明の導電部材の製造方法は、金属基材上に、周期律表の第4族の金属(例えば、Ti、Zr、Nf)、第5族の金属(例えば、V、Nb、Ta)、第6族の金属(例えば、Cr、Mo、W)の炭化物、窒化物および炭窒化物よりなる群から選ばれてなる少なくとも1種からなる中間層を形成する工程と、前記中間層上に導電性炭素層を形成する工程とを有し、前記中間層上に導電性炭素層を形成する工程は、負のバイアス電圧を低い値から高い値へ変化させることを含むことを特徴とするものである。本発明に係る導電部材の製造方法としては、成膜時に用いる乾式成膜法(スパッタリング等)の装置の設定値を変えるだけの簡便な方法で、その優れた導電性を十分に確保しつつ、接触抵抗の増加を抑制し得る導電部材を実現し得るものである。
本実施形態は、乾式成膜法において導電性炭素層形成時における負のバイアス電圧を低い値から高い値へ変化させることを有することを特徴とするものである。
ここで、乾式成膜法でのバイアス電圧を低い値から高い値へ変化させるとは、途中で高い値から低い値に変化させる過程を含まず、例えば、図5A〜図5D等のようなパターンが挙げられる。具体的には、低い値から高い値へ1段で変化させたり(図5A)、低い値から高い値へ連続的に変化させたり(図5B)、低い値から高い値へ多段階で変化させたり(図5C)といったパターンが挙げられる。また低い値から高い値へ連続的に多段階で変化させたりしてもよい(図5D)。なお、上述したように、本願明細書において、「負のバイアス電圧を低い値から高い値へ変化させる」とは、所定の範囲で、連続的にまたは段階的にバイアス電圧を低い値から高い値へ変化させればよい。このため、バイアス電圧の変化過程に、途中に定常状態(バイアス電圧を保持した状態)を含むものであってもよい。ただし、バイアス電圧の変化は常に上昇または定常状態をとり、バイアス電圧の変化過程はバイアス電圧が低下する状態を含まない。
低いバイアス電圧で成膜すると硬質な中間層上に柔軟なsp3炭素を多く含むDLC炭素膜が形成され、高いバイアス電圧で表層部を成膜するときの炭素の衝突を緩和し、成膜しやすくなる。また、低いバイアス電圧だと中間層の凹凸への付回りを向上できる。一方、最初から200V以上といった高いバイアス電圧で行うと衝突による跳ね返りにより膜が形成できない、あるいはグラファイト化により中間層との密着性に寄与しにくくなる。
したがって、導電性炭素層膜厚のうち中間層近傍は低いバイアス電圧で成膜し、グラファイト構造の形成を抑制することで中間層との接着性が改善される。導電性炭素層形成工程の初期のバイアス電圧としては、0Vより高い電圧であればよく、通常0Vより高く50V以下の範囲であれば、中間層と導電性炭素層との間の密着性向上の効果が得られる。
より緻密で中間層との密着性が高い、中間層近傍の導電性炭素層を得る方法としては、中間層成膜後の導電性炭素層成膜開始時、および導電性炭素層形成中の基材温度を一定の範囲に制御することが挙げられる。ここで、炭素膜は、約400℃以上ではグラファイト化して、膜としての形態を保持しにくいまたは保持できない。このため、中間層の成膜を開始してから成膜終了までの成膜工程中の温度を上記温度未満に保持することが好ましい。また、成膜時の表層温度は、炭素同士の衝突により上昇する可能性がある。上記点を考慮すると、成膜工程中の基材温度は、350℃未満が好ましく、より好ましくは、300℃以下であり、さらに好ましくは270℃以下である。なお、上記温度範囲の下限は、特に制限されないが、例えば、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。このような温度範囲であれば、中間層上に形成された導電性炭素層が温度によってグラファイト化することを抑制することができる。
上記のように導電性炭素層を成膜したとき、導電性炭素層の表層部と中間層の間には、中間層と良好な密着性を示す導電性炭素層領域が形成される。この領域を本願では「境界層」と呼ぶ。
本発明の導電性炭素層が有する境界層としては、R値(=ID/IG)が、1.3未満であることが好ましく、より好ましくは1.2以下であり、さらに好ましくは1.1以下である。なお、導電性炭素層中の境界層のR値の下限は特に制限されないが、例えば、0.6以上が好ましく、0.7以上がより好ましい。R値が、このような範囲であれば、グラファイト構造の形成による密着性の阻害を十分に抑えられる観点から好ましい。ここで、「導電性炭素層中の境界層」は、低いバイアス電圧をかけて形成された層を意図し、その厚みは、特に限定されず、中間層と導電性炭素層との接着性に応じて適宜調製することができる。本明細書において、R値(=ID/IG)は、下記実施例で測定される値を意味する。
導電性炭素層のR値は、中間層と導電性炭素層の高い接着性を確保する観点から、中間層の最表面から表層部に近づくにつれて徐々に大きくなることが好ましい。表層部のR値は、1.3以上であることが好ましく、より好ましくは1.4以上、さらに好ましくは1.5以上である。表層部のR値が1.3以上であれば、表層部の導電性が確保でき、接触抵抗を十分に小さくできる。なお、導電性炭素層中の表層部のR値の上限は特に制限されないが、例えば、2.0以下が好ましく、1.9以下がより好ましい。ここで、「導電性炭素層中の表層部」は、高いバイアス電圧をかけて形成された層を意図する。導電性炭素層中の表層部の厚みは、前記境界層と同様に、特に限定されず、導電性や中間層との接着性などに応じて適宜調整することができる。
以上が、本発明に係る導電部材の製造方法の主な特徴部分の説明であり、その他の製造方法(工程など)に関しては、従来公知の手法を適宜参照することにより製造することが可能である。以下、導電部材を製造するための好ましい実施形態を記載するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。また、セパレータを構成する導電部材の各構成要素の材質などの諸条件については、後述する導電部材の項で説明するため、ここでは説明を省略する。
まず、金属基材31の構成材料として、所望の厚さのアルミニウム板、チタン板、ステンレス板などを準備する。次いで、適当な溶媒(例えば、エタノール、エーテル、アセトン、イソプロピルアルコール、トリクロロエチレンおよび苛性アルカリ剤など)を用いて、準備した金属基材31の構成材料の表面の脱脂および洗浄処理を行う。該処理としては、超音波洗浄などが挙げられる。超音波洗浄の条件としては、処理時間が1〜10分間程度、周波数が30〜50kHz程度、および電力が30〜50W程度である。
続いて、金属基材31の構成材料の表面(両面)に形成されている酸化皮膜の除去を行なう。酸化皮膜を除去するための手法としては、酸による洗浄処理、電位印加による溶解処理、またはイオンボンバード処理などが挙げられる。
次に、本発明では、図2に示す形態の導電性炭素層33を有する導電部材(セパレータ5)を製造するには、上述した導電性炭素層33の成膜工程の前に、金属基材31の少なくとも一方の主表面、好ましくは両表面に、中間層32を成膜する工程を行なう。この際、中間層32を成膜する手法としては、導電性炭素層33の成膜について後述するのと同様の手法好ましくは乾式成膜法が採用されうる。ただし、ターゲットを中間層32の構成材料に変更する必要がある。特に好ましくは、中間層32は、特開2010−287542号公報に記載される方法に従って形成されることが好ましい。当該方法によって形成される中間層は、耐腐食性に優れ、接触抵抗の増加を抑制できる。
特に本発明では、乾式成膜法にて導電性炭素層33成膜時における負のバイアス電圧を低い値から高い値へ変化させる。これにより導電性炭素層33のR値を制御することができ、中間層近傍にはR値が1.3未満の境界層が形成され、中間層と反対側にはR値が1.3以上の表層部が形成される。初期の低いバイアス電圧としては、上述のように0Vより高い電圧であればよく、通常0Vより高く50V以下の範囲であればよい。高いバイアス電圧としては、200V以上が好ましく、より好ましくは200以上500V以下、さらに好ましくは200V以上300V以下である。すなわち、導電性炭素層の形成時の負のバイアス電圧を50V以下から200V以上へ変化させることが好ましい。このような範囲であれば、R値が十分に高い表層部を得ることができ、接触抵抗が低い導電部材を得ることができる。このようにバイアス電圧を低い値から高い値に変化させることにより、中間層近傍から表層部に向かって、R値が低い値から高い値に徐々に変化する導電性炭素層33が得られる。
バイアス電圧が低いほどAr+イオンによる成膜中の押し込み効果が小さく、炭素原子の衝突のエネルギーは低い。そのため硬く、化学的に安定なチタン窒化物、炭化物、炭窒化物などの中間層32上に炭素原子を積層し、膜としての形態を保つことができる。バイアス電圧を高くするとAr+イオンによる炭素のエネルギーが大きくなることで炭素原子は膜に積層されずに跳ね返ることで膜としての形態を保てず、粉末状になり表面に残る。もしくは膜としての形態を保てたとしても粒界などに隙間を持つような緻密でない膜構造体となるため密着不良をおこす場合がある。
したがって、中間層32近傍はバイアス電圧を低い値に制御しながら成膜することにより、中間層との密着性に寄与しないグラファイトへの変化を抑制できるため、中間層に対する密着性が高い導電性炭素層を得ることができる。
そして、その後の成膜においては、表層部に近づくにつれて高いバイアス電圧を印加し、伝導度の高いグラファイト構造を持つ表層部を形成することにより、中間層との高い密着性および高い導電性を有する導電性炭素層を得ることができる。
上記した金属基材31の表面に研磨処理を施した後、あるいは負のバイアス電圧を低い値から高い値へ変化させる手法を用いる中間層32を成膜する工程では、前記中間層32は、スパッタリング法により形成する手法(皮膜を形成するコーティング処理)を行うのがよい。本発明の構造を持つ金属基材31、中間層32、導電性炭素層33からなる導電部材を形成するためには、導電性炭素層33はスパッタリング法が好適とされ、プロセス上、その前に行う中間層32の成膜についても、同様なドライプロセス、特にスパッタリング法にて行うことが望ましいためである。かかる中間層32により、導電性炭素層33を密着不良なく成膜することが可能となるため、高い導電性と耐食性を得ることができる。また導電性炭素膜と同方式にて成膜できるため、製造プロセス費を低コストにすることが可能となる。
また、負のバイアス電圧を低い値から高い値へ変化させて中間層32を成膜する工程等を含む場合、金属基材31の表面に研磨処理等の前処理を施した後、基材31の表面にスパッタリング法により皮膜を形成するコーティング処理を行うのが望ましい。これは、中間層32が柱状晶等からなる場合、研磨処理により基材粗さが小さくなると、柱状晶の核生成サイトの数が少なくなり、個々の柱状晶を太くできるためである。このような中間層を使用することにより金属基材と酸性溶液が接するのを防止でき、耐腐食性を向上させることができる。ここで、前処理としては、研磨処理の他にも、一般的に実施されている項目が広く採用できる。例えば、電解研磨、ラップ処理、マイクロショット処理などが適用可能である。
次に、上記の処理を施した金属基材31の構成材料の表面に、中間層32、導電性炭素層33を順に成膜する。使用するターゲットとしては、例えば、上述した中間層32の構成材料(例えば、チタン金属)、導電性炭素層33の構成材料(例えば、固体グラファイト)を使用することができる。まずチタン金属をターゲットとして使用し、窒素ガスを系内に導入しながら金属基材に対して負のバイアス電圧を印加してスパッタリングを行うことでチタン窒化物被膜を金属基材31の両表面上に形成する。次に、固体グラファイトをターゲットとして使用し、バイアス電圧を低い値から高い値に変化させることによって境界層33aおよび表層部33bを有する導電性炭素層33を得ることができる。このようにして金属基材31上に中間層32、導電性炭素層33を順次形成することができる。
中間層32及び導電性炭素層33を積層(成膜)するのに好適に用いられる手法としては、乾式成膜法として、例えば、スパッタリング法もしくはイオンプレーティング法などの物理気相成長(PVD)法、またはフィルタードカソーディックバキュームアーク(FCVA)法などのイオンビーム蒸着法などが挙げられる。スパッタリング法としては、マグネトロンスパッタリング法、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法、デュアルマグネトロンスパッタ法、ECRスパッタリング法などが挙げられる。また、イオンプレーティング法としては、アークイオンプレーティング法などが挙げられる。なかでも、乾式成膜法であるスパッタリング法およびイオンプレーティング法を用いることが好ましい。かような手法によれば、表層部として水素含有量の少ない乱層構造のグラファイト構造を形成することができる。その結果、表層部のR値を上昇させることができ、優れた導電性が達成されうる。これに加えて、比較的低温で成膜が可能であり、金属基材31へのダメージを最小限に抑えることができるという利点もある。さらに、スパッタリング法によれば、バイアス電圧等を制御することで、中間層32結晶構造を制御したり、成膜される各層の膜質をコントロールしたりできるという利点もある。
ここで、中間層32、導電性炭素層33の成膜を乾式成膜法であるスパッタリング法により行なう場合には、上記した通り、スパッタリング時に金属基材31に対して負のバイアス電圧を印加するとよい。かような実施形態によれば、イオン照射効果によって、上記した中間層32のように結晶構造の制御ができ、導電性炭素層33の構造を境界層と表層部で変化させることができる。これにより、耐腐食性向上に寄与する中間層の形成や本発明における導電性炭素層のように高い密着性と低い接触抵抗を両立し得る導電性炭素層を得ることができる。
中間層32は、上述のように金属基材31の防食効果を高めることができ、アルミニウムのような腐食しやすい金属の場合でも、セパレータの金属基材31として適用できる。当該形態において、印加される負のバイアス電圧の大きさ(絶対値)は特に制限されず、中間層32を成膜可能な電圧が採用されうる。一例として、印加される電圧の大きさは、好ましくは50〜500Vであり、より好ましくは100〜300Vである。
本発明に係る導電性炭素層33は、境界層による中間層との高い密着性を有しつつ、表層部は優れた導電性を発揮しうることから、他の部材(例えば、MEA)との接触抵抗の小さい導電部材(セパレータ5)が提供されうる。導電性炭素層33では、上記の通り、導電性炭素層33成膜時における負のバイアス電圧を低い値から高い値へ変化させる手法を用いる。具体的には、後述する実施例のように導電性炭素層33成膜時の初期では、中間層32との間に隙間や欠陥を生じないように低いバイアス電圧(0Vより高ければよく、0V超〜50V)で成膜を開始し、その後バイアス電圧を高い値(通常200〜500V、好ましくは200〜300V)に移行させ導電性が高い乱層構造のグラファイトに変化させればよい。
なお、中間層32及び導電性炭素層33の成膜時のその他の条件等の具体的な形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。また、UBMS法により導電性炭素層33を成膜する場合には、予め同様の装置及び製法で中間層32を形成しておき、その上に導電性炭素層33を形成することが好ましい。これにより、下地層との密着性に優れる中間層32及び導電性炭素層33が形成されうる。ただし、他の手法によって中間層32を形成し、異なる装置や製法にて導電性炭素層33を成膜するようにしても良い。この場合であっても、金属基材31との密着性に優れる中間層32、更には導電性炭素層33が形成されうる。
上述した手法によれば、金属基材31の両表面に中間層32、更には導電性炭素層33が形成された導電部材が製造されうる。金属基材31の両面に中間層32、更には導電性炭素層33が形成されてなる導電部材を製造するには、市販の適当な成膜装置(両面同時スパッタ成膜装置およびこれを用いたスパッタ成膜方法)を用いてもよいし、別途、金属基材31の両表面に中間層32、更には導電性炭素層33が成膜可能なスパッタリング装置や作成して、成膜を施してもよいなど特に制限されるものではない。また、コスト的には、有利とはいえないが、金属基材31の一方の主表面に中間層32、更には導電性炭素層33を成膜し、ついで金属基材31の他方の主表面に対して、上述したのと同様の手法によって、中間層32、導電性炭素層33を順次形成してもよい。あるいは、まず、クロムなどの金属材料をターゲットとした装置内で、金属基材31の一方の主表面に中間層32を成膜し、続いて、上記工程により成膜された中間層32と対向する主表面とは異なる主表面に中間層32を成膜する工程を行なう。続いて、ターゲットをカーボンに切り替えて、同じ装置内部で、金属基材31の一方の主表面に形成された中間層32上に導電性炭素層33を成膜し、続いて、上記工程により成膜された導電性炭素層33と対向する主表面とは異なる主表面にと対向する主表面とは異なる主表面に、導電性炭素層33を成膜する工程を行なえばよい。このように、金属基材31の両表面への中間層32の成膜や、該中間層32表面に導電性炭素層33を成膜する手法としても、金属基材31の一表面への中間層32や導電性炭素層33の成膜について上述したのと同様の手法(但し、工数は半減可能である)が採用されうるなど、特に制限されるものではない。
(導電部材)
本発明の導電部材は、金属基材と、前記金属基材上に金属窒化物、炭化物、または炭窒化物を含む中間層とが設けられ、前記中間層上に導電性炭素層が被覆されている導電部材である。前記導電性炭素層は、その形成工程に低いバイアス電圧から高いバイアス電圧に変化させる工程を含むことを特徴としている。該工程により中間層近傍に中間層との密着性が良好な境界層が形成され、最表層部は高い導電性を有する。中間層の材料としてチタン窒化物その他の第4族の金属、第5族の金属、第6族の金属の炭化物、窒化物および炭窒化物を使用することは、導電部材の耐食性を向上させる観点から有効である。
しかし、他の部材との接触抵抗低減等のために、中間層上に導電性炭素層を形成した場合、中間層と導電性炭素層との間の密着性を確保することが困難であった。この原因は、従来の導電性炭素層の形成工程で一定の高いバイアス電圧を印加していたことにある。このような方法で作製された導電性炭素層は乱層構造のグラファイトの比率が大きいためR値が高く、チタン窒化物といった上記の材料との高い密着性が得られない。
そこで、本発明では、導電性炭素層形成工程においてバイアス電圧を低い値から高い値に変化させる工程を含む。このように導電性炭素層を形成する工程において、初期の低いバイアス電圧で行うとsp3炭素が多く残った導電性炭素層が得られ、衝突エネルギーが小さいため中間層の凹凸への付回りが良く緻密になる。このようなsp3炭素を多く含む柔らかい炭素層の上に高いバイアス電圧で接触抵抗が低い表層部を積層することで、炭素の衝突が緩和され安定な膜を作製することができる。よって、接触抵抗が低くかつ、中間層と導電性炭素層との密着性が良好な導電部材を得ることができる。本発明に係る導電性部材の表面をSEMにより観察すると、図9Aに示すように中間層の粒界部分に隙間が非常に少ないことがわかる。一方、従来の製法では、中間層が硬質なチタン窒化物の様な材料の場合、導電性炭素層がグラファイト化するため、中間層表面に緻密な膜を形成することができない。結果、図9Bに示すように中間層と導電性炭素層との間に隙間が生じる。
かように、本発明の導電部材の構成によれば、中間層と導電性炭素層の表層部との間に両層との接着性が良好な境界層を設けることで、中間層と導電性炭素層の間に形成される隙間や欠陥を低減することができる。さらに、導電性炭素層の剥離や隙間の発生を抑制することにより、水の侵入を抑制する機能を付与することができる。その結果、金属基材の防食効果を高めることができる。このような防食性能を有することにより本発明に係る導電部材は、アルミニウムのような軽量で安価な反面、腐食しやすい金属を金属基材として使用した場合でも、セパレータとして長期間安定して使用できる。即ち、中間層と導電性炭素層の表層部の間に境界層を設けることで、表層部の高い導電性を有しつつ、中間層と導電性炭素層との高い密着性を得ることができる。さらには中間層と導電性炭素層との間の隙間や欠陥の生成を抑制することにより水の進入を防止し、各部材の酸化を抑制し、接触抵抗の増加を抑制することができる。
以下、添付した図面を参照して本発明を適用した実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図1は、本発明に係る導電部材の代表的な一実施形態である金属セパレータを用いてなる燃料電池の基本構成、詳しくは固体高分子型の燃料電池(PEFC)のセルユニットの基本構成のみを模式的に示す断面概略図である
図1に示す燃料電池(PEFC)のセルユニット1では、固体高分子電解質膜2の両面に触媒層3(アノード用3a及びカソード用3b)を配置されている。そして、それら固体高分子電解質膜2と触媒層3(3a、3b)との積層体は、さらにこれらを挟持するように、ガス拡散層4(アノード用4a及びカソード用4b)を配置させて、膜電極接合体(MEA)9が形成されている。MEA(Membrane Electrode Assembly)9は最終的に、導電性を有する一対の金属セパレータ5(アノード用5aおよびカソード用5b)により挟持されて、PEFCの単セルユニット1を構成する。図1において、金属セパレータ5(アノード用5a及びカソード用5b)は、MEA9の両面(両側)に位置するように図示されている。ただし、MEA9が複数積層されてなる燃料電池スタックでは、金属セパレータ5は、隣接するPEFCのセルユニット1(図3参照)のための金属セパレータ5としても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEA9は、金属セパレータ5を介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、金属セパレータ(5a、5b)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFCのセルユニット1とこれと隣接する他のPEFCのセルユニット1との間にガスシール部が配置されるが、図1ではこれらの記載を省略する(図3、図4参照)。
金属セパレータ5(5a、5b)のMEA9側から見た凸部はMEA9と接触している。これにより、MEA9との電気的な接続が確保される。また、金属セパレータ5(5a、5b)のMEA9側から見た凹部(金属セパレータ5の有する凹凸状の形状に起因して生じる金属セパレータ5とMEA9との間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路5aaには燃料ガス5ag(例えば、水素や水素含有ガスなど)を流通させ、カソードセパレータ5bのガス流路5bbには酸化剤ガス5bg(例えば、空気やO2含有ガスなど)を流通させる。
一方、金属セパレータ5(5a、5b)のMEA9側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒8w(例えば、冷却水、水)を流通させるための冷媒流路8とされる。さらに、金属セパレータ5(5a、5b)には通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際にPEFCの各セル(ユニット1)を連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタック200の機械的強度が確保されうる(図3、4参照)。
実際の燃料電池(PEFC)では、金属セパレータ5と電解質膜2の端部の周囲(周縁部)の間、並びに燃料電池のセルユニット1と隣り合う別のセルユニット1との間でガスシールを配置するが、本概略図では省略する。燃料電池用セパレータ5は、本発明に係る導電部材の一実施形態である金属セパレータ5でも、例えば厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで、図1に示すような凹凸状の形状(波型)のガス流路5aa、5bb及び冷媒流路8に成形し、そこ(ガス流路5aa、5bb)に燃料ガス5ag(水素や水素含有ガス)や酸化剤ガス5bg(空気やO2含有ガス)や冷却水8wを流す。
以上のように、金属セパレータ5は、各MEA9を直列に電気的に接続する機能に加えて、燃料ガス5agおよび酸化剤5bgガス並びに冷媒8wといった異なる流体を流すガス流路5aa、5bbや冷媒流路8やマニホールドを備え、さらにはスタックの機械的強度を保つといった機能も有する。また、電解質膜2には、通常、パーフルオロスルホン酸型の膜を使用することから、膜から溶出する種々の酸性イオンと電池に加湿ガスを投入することから、電池内は湿潤の弱酸性腐食環境下にある。
図2に示す本実施形態において、金属セパレータ5を構成する導電部材は、金属基材31に中間層32と導電性炭素層33とが順に積層された構成を有する。そして、導電性炭素層は、中間層近傍の境界層33aと表層部33bとからなる。なお、PEFCのセルユニット1において、金属セパレータ5は、導電性炭素層31がMEA9側に位置するように、配置される(図2、図3、図4参照)。
図2に示すように、本発明に係る導電部材の代表的な一実施形態である燃料電池(PEFC)の金属セパレータ5の断面構成としては、金属セパレータ5の金属基材31の両主面(表面)に中間層32と最表層部の導電性炭素層33が配置されている。金属基材31に例えばSUS316Lのような耐食性に優れたステンレスを用いた場合、金属基材31自体が燃料電池内の酸性環境下に耐えられるため、酸による腐食を防ぐことを主な目的とするならば中間層32の要求はそれほど厳しくない。しかしながら、燃料電池の起動停止時などにセル内で局所的に高電位が発生することがある。高電位に対する防食性を考慮すると上記のチタン窒化物などの材料が従来の金属からなる中間層以上に好適である。
しかし、中間層として耐高電位腐食性に優れるチタン窒化物などの材料を使用した場合、接触抵抗低減等のために中間層上に形成される導電性炭素層との密着性が乏しくなる。この原因としては、従来のR値が高い導電性炭素層に多く含まれる乱層構造のグラファイトが中間層との接着性に寄与しないことが考えられた。
そこで、本発明では中間層近傍の導電性炭素層のR値を表層部に比べて低く制御することにより、チタン窒化物などの中間層材料に対して高い密着性を有する境界層を形成している。
これにより、低い接触抵抗を有しつつ、中間層との高い密着性を有する導電部材を得ることができる。また、本発明に係る導電部材は、導電性炭素層の剥離が抑制され、導電性炭素層の接触抵抗の増大や金属基材の腐食につながるセパレータ内部への水の浸透を抑制しうる。その結果、所期の優れた電池性能を長期間安定して、発現、保持し得る。
以下、本実施形態の金属セパレータ5の各構成要素について詳説する。
[金属基材]
金属基材31は、金属セパレータ5を構成する導電部材の主層であり、導電性および機械的強度の確保に寄与する。
金属基材31を構成する金属について特に制限はなく、従来、金属セパレータ5の構成材料として用いられているものが適宜用いられうる。金属基材31の構成材料としては、例えば、鉄、チタン、およびアルミニウム並びにこれらの合金が挙げられる。これらの材料は、機械的強度、汎用性、コストパフォーマンスまたは加工容易性などの観点から好ましく用いられうる。ここで、鉄合金にはステンレスが含まれる。なかでも、金属基材31はステンレス、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されることが好ましい。ステンレスを金属基材31として用いると、ガス拡散層(GDL)4の構成材料であるガス拡散基材との接触面の導電性が十分に確保されうる。その結果、たとえリブ肩部の膜の隙間などに水分が浸入したとしても、ステンレスから構成される金属基材31自体に生じる酸化皮膜の有する耐食性により、耐久性が維持されうる。ここでGDL4は、GDL4(4a、4b)に面圧が直接かかる部分(金属セパレータ5と接触部分;リブ部分)と、直接はかからない部分(接触していない部分;流路部分)とからなり、上記リブ肩部は、上記金属セパレータ5と接触部分;リブ部分の肩部(コーナー部)をさす。
ステンレスとしては、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト・フェライト系、析出硬化系などが挙げられる。オーステナイト系としては、SUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316(L)、SUS317が挙げられる。オーステナイト・フェライト系としては、SUS329J1が挙げられる。マルテンサイト系としては、SUS403、SUS420が挙げられる。フェライト系としては、SUS405、SUS430、SUS430LXが挙げられる。析出硬化系としては、SUS630が挙げられる。なかでも、SUS304、SUS316等のオーステナイト系ステンレスを用いることがより好ましい。また、ステンレス中の鉄(Fe)の含有率は、好ましくは60〜84質量%であり、より好ましくは65〜72質量%である。さらに、ステンレス中のクロム(Cr)の含有率は、好ましくは16〜20質量%であり、より好ましくは16〜18質量%である。
一方、アルミニウム合金としては、純アルミニウム系、およびアルミニウム・マンガン系、アルミニウム・マグネシウム系などが挙げられる。アルミニウム合金中におけるアルミニウム以外の元素については、アルミニウム合金として一般に使用可能なものであれば特に制限されることはない。例えば、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛およびニッケルなどがアルミニウム合金に含まれうる。アルミニウム合金の具体例として、純アルミニウム系としてはA1050、A1050Pが挙げられ、アルミニウム・マンガン系としてはA3003P、A3004Pが挙げられ、アルミニウム・マグネシウム系としてはA5052P、A5083Pが挙げられる。一方で、金属セパレータ5には機械的な強度や成形性も求められるため、上記の合金種に加えて、合金の調質も適宜選択されうる。なお、金属基材31がチタンやアルミニウムの単体から構成される場合、当該チタンやアルミニウムの純度は、好ましくは95質量%以上であり、より好ましくは97質量%以上であり、さらに好ましくは99質量%以上である。
金属基材31の厚さは、特に限定されない。加工容易性および機械的強度、並びにセパレータ5自体を薄膜化することによる電池のエネルギー密度の向上等の観点より、好ましくは50〜500μmであり、より好ましくは80〜300μmであり、さらに好ましくは80〜200μmである。特に、構成材料としてステンレスを用いた場合の金属基材31の厚さは、好ましくは80〜150μmである。一方、構成材料としてアルミニウムを用いた場合の金属基材31の厚さは、好ましくは100〜300μmである。上記した範囲内の場合、金属セパレータ5として十分な強度を有しながらも、加工容易性に優れ、好適な薄さを達成可能である。
なお、例えば燃料電池用セパレータ5等の構成材料として十分な強度を提供するという観点からは、金属基材31は、ガス遮断性が高い材料から構成されることが好ましい。燃料電池のセパレータ5はセル同士を仕切る役割を担っているため、セパレータ5を挟んで両側で異なるガスが流れる構成となる(図3参照)。したがって、PEFCのセルユニット1のそれぞれのセルの隣り合うガスの混合やガス流量の変動をなくすという観点から、金属基材31はガス遮断性が高いほど好ましいのである。
[導電性炭素層]
導電性炭素層33は、導電性炭素を含む層である。この層の存在によって、金属セパレータ5を構成する導電部材の導電性を確保しつつ、金属基材31のみの場合と比較して耐食性が改善されうる。本発明においては、導電性炭素層形成時にバイアス電圧を低い値から高い値に変化させることによって中間層界面に中間層との密着性が良好な境界層が形成され、導電性炭素層の表面には導電性が高い表層部が形成されうる。
導電性炭素層33は、ラマン散乱分光分析により測定される、Dバンドピーク強度(ID)とGバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)により規定される。境界層と表層部のR値を一定の領域に制御することによって、中間層と導電性炭素層との密着性の向上、接触抵抗の低減、耐腐食性といった効果が増大される。以下、より詳細に説明する。
炭素材料をラマン分光法により分析すると、通常1350cm−1付近および1584cm−1付近にピークが生じる。結晶性の高いグラファイトは、1584cm−1付近にシングルピークを有し、このピークは通常、「Gバンド」と称される。一方、結晶性が低くなる(結晶構造欠陥が増す)につれて、1350cm−1付近のピークが現れてくる。このピークは通常、「Dバンド」と称される(なお、ダイヤモンドのピークは厳密には1333cm−1であり、上記Dバンドとは区別される)。Dバンドピーク強度(ID)とGバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)は、炭素材料のグラファイトクラスターサイズやグラファイト構造の乱れ具合(結晶構造欠陥性)、sp2結合比率などの指標として用いられる。すなわち、本発明においては、導電性炭素層33の接触抵抗の指標とすることができ、導電性炭素層33の導電性を制御する膜質パラメータとして用いることができる。
R(ID/IG)値は、顕微ラマン分光器を用いて、炭素材料のラマンスペクトルを計測することにより算出される。具体的には、Dバンドと呼ばれる1300〜1400cm−1のピーク強度(ID)と、Gバンドと呼ばれる1500〜1600cm−1のピーク強度(IG)との相対的強度比(ピーク面積比(ID/IG))を算出することにより求められる。
上述したように、本実施形態において、表層部のR値は1.3以上であることが好ましく、より好ましくは1.4〜2.0であり、さらに好ましくは1.4〜1.9であり、特に好ましくは1.5〜1.8である。このR値が1.3以上であれば、導電性が十分に確保された表層部が得られる。また、R値が2.0以下であれば、グラファイト成分の減少を抑制することができる。さらに、導電性炭素層33自体の内部応力の増大をも抑制でき、境界層との密着性を一層向上させることができる。
また、境界層のR値は1.3未満であることが好ましく、より好ましくは1.2以下であり、さらに好ましくは1.1以下である。R値が1.3未満であればsp3炭素を多く含む境界層を得ることができ、高いバイアス電圧で境界層上に表層部を成膜することができる。
なお、本実施形態のように表層部のR値を1.3以上または境界層のR値を1.3未満とすることにより上述の作用効果が得られるメカニズムは、以下のように推定されている。ただし、以下の推定メカニズムは本発明の技術的範囲をいかようにも限定することはない。
多結晶グラファイトにおいては、グラファイトクラスターを構成するsp2炭素原子の結合によりグラフェン面が形成されていることから、当該グラフェン面の面方向に導電性が確保される。よって、本発明に係る導電性炭素層は、低い接触抵抗を確保しつつ、中間層と導電性炭素層との高い密着性を有する。
ここで、本発明に係る導電性炭素層の表層部である多結晶グラファイトを構成するグラファイトクラスターのサイズは特に制限されない。一例を挙げると、グラファイトクラスターの平均直径は、好ましくは1〜50nm程度であり、より好ましくは2〜10nmである。グラファイトクラスターの平均直径がかような範囲内の値であると、多結晶グラファイトの結晶構造を維持しつつ、導電性炭素層33の厚膜化を防止することが可能である。ここで、グラファイトクラスターの「直径」とは、当該クラスターの輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。また、グラファイトクラスターの平均直径の値は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察されるクラスターの直径の平均値として算出されうる。
なお、本実施形態では導電性炭素層33は多結晶グラファイトのみから構成されてもよいが、導電性炭素層33は多結晶グラファイト以外の材料をも含みうる。導電性炭素層33に含まれうる多結晶グラファイト以外の炭素材料としては、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどが挙げられる。また、カーボンブラックの具体例として、以下に制限されることはないが、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラックもしくはサーマルブラックなどが挙げられる。なお、カーボンブラックは、グラファイト化処理が施されていてもよい。また、導電性炭素層33に含まれうる炭素材料以外の材料としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)等の貴金属;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性物質;導電性酸化物などが挙げられる。多結晶グラファイト以外の材料は、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
導電性炭素層33の厚さ(但し、突起状粒子33aを除く;平均値)は、特に制限されない。ただし、好ましくは1〜1000nmであり、より好ましくは2〜500nmであり、さらに好ましくは5〜200nmである。導電性炭素層33の厚さがかような範囲内の値であれば、ガス拡散基材とセパレータ5との間に十分な導電性を確保することができる。また、金属基材31に対して高い耐食機能を持たせることができるという有利な効果を奏しうる。なお、本実施形態では、導電性炭素層33は導電部材(セパレータ5)の一方の主表面にのみ存在させてもよいが、好ましくは図2などに示すように、導電部材(セパレータ5)の他の主表面にも(即ち、導電部材の両表面に)導電性炭素層33が存在した構成とするのが望ましい。これは、導電部材(導電性炭素層33)の両表面において、中間層32を介して金属基材31と、導電性炭素層33との密着性を確保しつつ、基材の防食効果をより一層維持できるためである。
本実施形態においては、中間層32を介して金属基材31のすべてが、導電性炭素層33により被覆されている。換言すれば、本実施形態では、導電性炭素層33により金属基材31が被覆された面積の割合(被覆率)は100%である。ただし、かような形態のみには限定されず、被覆率は100%未満であってもよい。導電性炭素層33による金属基材31の被覆率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、最も好ましくは100%である。かような構成とすることにより、導電性炭素層33により被覆されていない、金属基材31の露出部への酸化皮膜の形成に伴う導電性・耐食性の低下が効果的に抑制されうる。なお、本実施形態のように、中間層32が金属基材31と導電性炭素層33との間に介在する場合、上記被覆率は、導電部材(金属セパレータ5)を積層方向から見た場合に導電性炭素層33と重複する金属基材31の面積の割合を意味するものとする。
[中間層]
図2に示すように、本実施形態において、セパレータ5を構成する導電部材は、中間層32を有する。この中間層32は、酸性水溶液と金属基材の接触防止や、金属基材31からのイオンの溶出を防止するという機能を有する。特に、導電性炭素層のR値が上述した好ましい範囲の上限値を超える場合に、中間層32を設けることによる効果は顕著に発現する。ただし、R値が上述した好ましい範囲に含まれる場合であっても中間層32が設けられうることは当然である。他の観点からは、中間層32の設置による上述した作用効果は、金属基材31がアルミニウムまたはその合金といった酸性条件下で耐腐食性が低い材料から構成される場合により一層顕著に発現する。以下、導電部材に中間層32が設けられた場合の好ましい形態について説明する。
中間層32を構成する材料としては、上記の密着性を付与するものであれば特に制限はない。例えば、周期律表の第4族の金属(Ti、Zr、Nf)、第5族の金属(V、Nb、Ta)、第6族の金属(Cr、Mo、W)の炭化物、窒化物および炭窒化物などが挙げられる。なかでも好ましくは、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)もしくはハフニウム(Hf)といったイオン溶出の少ない金属の窒化物、炭化物もしくは炭窒化物が用いられる。より好ましくは、下地の金属基材の防食効果に加えて、耐高電位腐食性が高いチタン窒化物、炭化物もしくは炭窒化物が用いられる。これらの材料を使用することによって起動停止時等に発生する局所的な高電位などから導電部材を保護することができる。また、これらの金属材料は不動態皮膜の形成により、露出部が存在していたとしても、それ自体の溶出はほとんど見られない点においても特に有用である。特に金属基材が、アルミニウムまたはその合金等の耐腐食性が低い金属で構成された金属基材31の場合、界面付近に到達した水分により腐食が進行する。その結果、金属基材31全体の膜厚方向の導電性が悪化する。このような理由から中間層を設けることは導電部材の耐食性付与に有効である。
中間層32の膜厚さは、特に制限されない。ただし、セパレータ5をより薄膜化することにより、燃料電池のスタックのサイズをできるだけ小さくするという観点からは、中間層32の膜厚さは、好ましくは0.01〜10μmであり、より好ましくは0.05〜5μmであり、さらに好ましくは0.02〜5μmであり、特に0.1〜1μmである。中間層32の厚さが0.01μm以上であれば、均一な層が形成され、金属基材31の耐食性を効果的に向上させることが可能となる。一方、中間層32の厚さが10μm以下であれば、中間層32の膜応力の上昇が抑えられ、金属基材31に対する皮膜追従性の低下やこれに伴う剥離・クラックの発生が防止されうる。
また、中間層32の、導電性炭素層33側の表面は、ナノレベルで粗くなっていることが好ましい。かような形態によれば、中間層32上に緻密に成膜される境界層と中間層32との密着性をより一層向上させることができる。このような中間層としては、柱状結晶構造を有している中間層が挙げられる。
さらに、中間層32の熱膨張率が、金属基材31を構成する金属の熱膨張率と近い値であると、中間層32と金属基材31との密着性は向上する。ただし、かような形態では中間層32と導電性炭素層33との密着性が低下する場合がある。同様に、中間層32の熱膨張率が導電性炭素層33の熱膨張率と近い値であると、中間層32と金属基材31との密着性が低下する場合がある。これらを考慮して、中間層32の熱膨張率(αmid)、金属基材31の熱膨張率(αsub)、および導電性炭素層33の熱膨張率を(αc)は、αsub>αmid>αcの関係を満足することが好ましい。
なお、中間層32は、金属基材31の両表面に存在することが望ましいが、本発明の所期の効果を損なわない適用箇所などへの利用の場合には、いずれか一方の表面上にのみ存在するようにしてもよい。ただし、導電性炭素層33が金属基材31の一方の主表面にのみ存在する場合には、中間層32は、金属基材31と導電性炭素層33との間に存在する。また、導電性炭素層33は、上述したように金属基材31の両面に存在する場合もある。かような場合には、中間層32は、金属基材31と双方の導電性炭素層33との間にそれぞれ介在することが好ましい。金属基材31といずれか一方の導電性炭素層33との間にのみ中間層32が存在する場合には、当該中間層32は、PEFC1においてMEA9側に配置されることとなる導電性炭素層33と金属基材31との間に存在することが好ましい(図1、図3、図4等参照)。
図6は、本発明の導電部材、特に中間層32、導電性炭素層33の各層のいずれか少なくとも1層、好ましくはこれら各層を順にスパッタリング法を用いて成膜(形成)するための製造装置の平面概略図である。ここでは、スパッタリング装置として、実施例でも用いたアンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法に適用し得る装置を示している。
図7は、本発明の導電部材、特に中間層32、導電性炭素層33の各層のいずれか少なくとも1層、好ましくはこれら各層を順にアークイオンプレーティング(AIP)法を用いて成膜(形成)するための製造装置の平面概略図である。但し、図6及び図7中には、凹凸プレス前の平板型の金属セパレータ5に替えて、既存の円盤状のウエハをセットした例を示している。
図6及び図7に示す装置300、400を用いてそれぞれスパッタリングする場合、金属セパレータ5が回転するテーブル301、401に1枚ないし複数枚配置され、各金属セパレータ5の表裏に成膜するために、各金属セパレータ5自身も、回転するテーブルの回転面(回転軸)と直行する方向に回転する。回転するテーブル301、401の金属セパレータ5それぞれの矢印方法は、回転面(軸)同士が相互に直行する回転の方向を示す。
図6及び図7に示す真空チャンバー303、403内は10−1〜10−2Torrレベルで保持され、必要に応じて。給気口305、405より、N2、Ar等のガス(図示せず)を導入することが出来る。不要な雰囲気ガスや余分なガスソースは、真空チャンバー303、403内の所定の圧力(真空圧等)を制御すべく、排気口307、407より適宜排気される。
真空チャンバー303、403並びに各金属セパレータ5を保持するテーブル301、401自体には温調設備が接続され、温度調節もすることが出来る。
まず、図6及び図7に示す各金属セパレータ5表面をArイオンボンバード(逆スパッタ)にて金属セパレータ5表層部に存在する酸化皮膜を取り除く。酸化皮膜は数オングストロームの厚さで形成されるため、除去時間は数秒〜数分で良い。本実施形態では導電性炭素層33の成膜前に中間層32としてチタン窒化物を配置する。このため、チャンバー301、401内にはTiターゲット(スパッタリングターゲット(Ti))309、409を配置し、窒素雰囲気下でスパッタリングを実施する。チタン窒化物による中間層32形成後、続けて同一チャンバー301、401内に配置したカーボン)ターゲット(スパッタリングターゲット(C))311、411を用いて導電性炭素層33を形成する。導電性炭素層33の形成においては、図6に示すように、導電性炭素層形成時における負のバイアス電圧を低い値から高い値へ変化させてなる各種パターンにて行っても良い。この他にも、各金属セパレータ5のバイアス電圧や温度、真空度等を変更して続けて形成することが出来る。中間層32の形成においても、バイアス電圧等を所定の値で変えることなく一定で行っても良いし、2回またはそれ以上変更して(連続的に変えながらでもよい)成膜を行っても良い。この他にも、各金属セパレータ5のバイアス電圧や温度、真空度等を変更して続けて形成することが出来る。
尚、導電性炭素層33を図7に示す装置を用いて、アークイオンプレーティング(AIP)で形成する場合、ターゲットは図6と同様に、ターゲット(スパッタリングターゲット(C))411を使用することが出来るが、アーク放電向けの別の蒸着源413を配置することで、同一チャンバー401内で真空度を落とすことなしに成膜することが可能である。図7に示す装置を用いてAIP法による導電性炭素層33の形成においても、所定の特性を有する導電性炭素層33を得るために、アーク電源415の条件(電圧・電流)や真空度、温度、バイアス電圧等を、所定の値で変えることなく一定で行っても良いし、適宜を変更して形成することが出来る。
導電性炭素層33の形成は、例えば、図6及び図7の装置を用いて、中間層32の蒸着後に、ターゲットを取り替えた後、バイアス(電圧)、温度、真空度、供給ガス量(分圧)の少なくとも1つ以上を変えて、同一の装置、手法を用いて同一バッチもしくは工程上で形成するのが望ましい。これは、導電性炭素層33は、中間層32の成膜後に連続的に形成することができるためであり、同一の成膜プロセス上で形成できるため、低コストになる点で優れている。
本発明では、中間層32、導電性炭素層33は、図6に示す装置を用いてスパッタリングにて形成するか、図7に示す装置を用いてAIP法もしくはECRスパッタリング法にて形成するのが望ましい。これは、中間層32、導電性炭素層33を乾式成膜法であるスパッタリング法やAIP法を使うことで、導電性炭素層33の一方の面から他方の面への導電パスが確保されることにより、優れた導電性を十分に確保しつつ、耐食性がより一層向上した導電部材が提供されうる点で優れている。また、金属基材31と導電性炭素層33との間に中間層32を有する導電部材において、その優れた導電性を十分に確保しつつ、接触抵抗の増加を抑制する手段が提供されうる点で優れている。
中間層32、導電性炭素層33の成膜では、固体ソース(例えば、グラファイトカーボン)が望ましい。ガスソースでは、現在用いられているガス種ではいいものができにくい。これは水素が膜内に入るためである(その結果、導電性が低下する)。
なお、ターゲット309、311、409、411、413のサイズ並びに個数は、金属セパレータ5のサイズや処理量等によって適宜調整できる。
本発明では、金属セパレータ5だけでなく、導電性と耐食性が必要とされる構成部品の表面であれば、何処にでも適応が可能である。例えば、複数のセルを積層したスタック20の両端に配置する集電板30、40(図3参照)や、ガス拡散層(GDL)4、電圧をモニタリングする際の端子接続部(図示せず。図4の出力端子37、47参照)などが挙げられる。
本実施形態では、乾式成膜法において、金属基材上に中間層を形成する際に、該乾式成膜法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法が好ましい。但し、これらになんら制限されるものではなく、上記した従来公知の各種成膜技術を利用することができる。
以下、図1〜図4等を参照しつつ、本実施形態の導電部材から構成されるセパレータを用いたPEFCの構成要素について説明する。ただし、本発明はセパレータを構成する導電部材に特徴を有するものである。よって、PEFCにおけるセパレータの形状等の具体的な形態や、燃料電池を構成するセパレータ以外の部材の具体的な形態については、従来公知の知見を参照しつつ、適宜、改変が施されうる。図3は、図1の燃料電池のユニットセル構成を複数積層してなる燃料電池スタック構成の一例を説明するための断面概略図であり、図4は、図3の燃料電池スタック構成の斜視図である。
[電解質層]
電解質層は、例えば、図1、図3に示す形態のように固体高分子電解質膜2から構成される。この固体高分子電解質膜2は、複数のセルユニット1等から構成されるPEFCの運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3bへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガス5agとカソード側に供給される酸化剤ガス5bgとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜2は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜とに大別される。フッ素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能を向上させるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質膜が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜が用いられる。
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質膜が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
電解質層の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質層の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質層の厚さがかような範囲内の値であると、成膜時の強度や使用時の耐久性及び使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
[触媒層]
図1、図3に示す触媒層3(アノード触媒層3a、カソード触媒層3b)は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層3aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層3bでは酸素の還元反応が進行する。
触媒層3は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体、および電解質を含む。以下、触媒担体に触媒成分が担持されてなる複合体を「電極触媒」とも称する。
アノード触媒層3aに用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層3bに用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層3aに用いられる触媒成分およびカソード触媒層3bに用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義である。よって、一括して「触媒成分」と称する。しかしながら、アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3bの触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。ただし、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過形電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定されうる。
触媒担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、および触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。
触媒担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
触媒担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m2/g、より好ましくは80〜1200m2/gである。触媒担体の比表面積がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御されうる。
触媒担体のサイズについても特に限定されないが、担持の簡便さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径を5〜200nm程度、好ましくは10〜100nm程度とするとよい。
触媒担体に触媒成分が担持されてなる電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。触媒成分の担持量がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、電極触媒における触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって測定されうる。
触媒層3には、電極触媒に加えて、イオン伝導性の高分子電解質が含まれる。当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、上述した電解質層2を構成するイオン交換樹脂が、高分子電解質として触媒層3に添加されうる。
[ガス拡散層(GDL)]
図31に示すガス拡散層4(ガス拡散層4a、カソードガス拡散層4b)は、金属セパレータ5(アノードセパレータ5a、カソードセパレータ5b)のガス流路(燃料ガス流路5aa、酸化剤ガス流路5bb)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層3(アノード触媒層3a、カソード触媒層3b)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
ガス拡散層4(4a、4b)の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。ガス拡散層4の基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。ガス拡散層4の基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
ガス拡散層4は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層4は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MLP、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒子径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層4との接触性も向上させることが可能となる。
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、質量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは10〜1000μm、より好ましくは50〜500μmとするのがよい。
[セパレータ]
図1、図3に示す金属セパレータ5については、後述する実施例にて説明したとおりである。
本実施形態の導電部材は、種々の用途に用いられうる。その代表例が図1に示すPEFCのセパレータ5である。ただし、本実施形態の導電部材の用途はこれに限られることはない。例えば、PEFC以外にも、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体電解質形燃料電池(SOFC)またはアルカリ形燃料電池(AFC)などの各種の燃料電池用セパレータとしても使用可能である。また、燃料電池用セパレータ以外にも、導電性・耐食性の両立が求められている各種の用途に用いられうる。本実施形態の導電部材が用いられうる燃料電池用セパレータ以外の用途としては、例えば、他の燃料電池部品(集電板、バスバー、ガス拡散基材、MEA)、電子部品の接点などが挙げられる。他の好ましい形態において、本実施形態の導電部材は、湿潤環境および通電環境の下で使用される。かような環境下で用いると、導電性および耐食性の両立を図るという本発明の作用効果が顕著に発現しうる。
[セルユニットの基本的な構成]
図1、図3において、固体高分子型燃料電池の単セル(セルユニット)1の基本的な構成は、固体高分子電解質膜2の両側に、燃料極側電極触媒層3aおよび燃料極側ガス拡散層4aからなる燃料極と、酸素極側電極触媒層3bおよび酸素極側ガス拡散層4bからなる酸素極とが、それぞれ対向して配置されてなるMEA9を有しており、さらにMEA9を、燃料極側セパレータ5aおよび酸素極側セパレータ5bで挟持されてなるものである。また、MEAに供給される燃料ガス5ag(水素含有ガス)および酸化剤ガス5bg(空気)は、燃料極側セパレータ5aおよび酸素極側セパレータ5bに、燃料極側電極触媒層3aおよび酸素極側電極触媒層3bと対向する面にそれぞれ複数箇所形成された燃料ガス流路5aaおよび酸化剤ガス流路5bbなどを介して供給される。
前記セルユニット(単セル)1を燃料電池(スタック)20に用いるには、前記単セル1を単独または2以上積層したスタック(積層スタック)を、さらに前記単セル1ないし積層スタックの厚さ方向の両側(両端)から一対のエンドプレート、すなわち燃料極側エンドプレート70および酸素極側エンドプレート80で締結することにより用いられる(図4参照のこと)。
燃料電池スタック20の構成(集電板30、40で挟持された部分とする)として、より詳しくは、図3に示すように、複数の燃料電池の単セル(セルユニット)1が積層されたスタック部20を有しており、電源として利用される。電源の用途は、例えば、定置用、携帯電話などの民生用携帯機器用、非常用、レジャーや工事用電源などの屋外用、搭載スペースが限定される自動車などの移動体用である。特に、移動体用電源は、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求されるため、適用が好ましい。また、本発明の燃料電池を搭載してなる車両では、燃料電池(PEFC等)の金属セパレータ5、集電板30、40等の構成部品(導電部材)を通じて薄肉化、低コスト化が図れ、燃料電池の出力密度の向上に寄与し得る。そのため、車両重量の軽減や車両コストの低減が図れ、また同じ体積の燃料電池を搭載した際に、より長い走行距離を走ることができ、また加速性能のなどの向上にもつながる。
本発明の燃料電池の単セル(セルユニット)1では、燃料電池(PEFC)の金属セパレータ5、集電板30、40等の構成部品(導電部材)を通じて薄肉化、低コスト化が図れ、スタック20を形成した際に、燃料電池スタック20の出力密度の向上に寄与し得るものである。加えて、燃料電池の金属セパレータ5、集電板30、40等の構成部品(導電部材)の耐食性にも優れ、燃料電池スタック20の耐久性(長寿命化)も図れる。
スタック部20の両側には、集電板30、40、絶縁板50、60およびエンドプレート70、80が配置される。集電板30、40は、緻密質カーボンや銅板やアルミ板などガス不透過な導電性部材から形成され、また、スタック部20で生じた起電力を出力するための出力端子37、47が設けられている。絶縁板50、60は、ゴムや樹脂等の絶縁性部材から形成される。
ここで、上記集電板30、40として、上記したカーボン等に変えて、薄肉化、低コスト化の観点から、ステンレスよりも薄肉軽量化に優れる反面、耐食性に乏しい銅板やアルミ板等を集電板30、40に用いる場合には、本発明の構成を採用することができる。かかる構成とすることで、中間層32で液滴の浸入による基材31の腐食を防止しつつ、導電性炭素層33最表面で抵抗低減を図った導電部材を形成できる。その結果、金属製集電板30、40の導電性を維持したまま酸性雰囲気下に曝されても化学的安定性を維持することが出来る。詳しくは、電気抵抗(ここでは、図3に示すように、セパレータ5との接触抵抗)の増加を発生させることなく、ピンホール等の欠陥に対するイオン溶出性の抑制も効果的に行える表面処理を施した集電板30、40を提供することができる。
また、図1、図4に示すように、エンドプレート70、80は、剛性を備えた材料、例えば鋼などの金属材料から形成される。エンドプレート70、80は、燃料ガス5ag(例えば、水素)、酸化剤ガス5bg(例えば、酸素)および冷却水8wを流通させるために、燃料ガス流路(水素含有ガス流路)5aa、酸化剤ガス流路(酸素ガス流路)5bb及び冷却水流路(冷媒流路)8に連通してなる、燃料ガス導入口71、燃料ガス排出口72、酸化剤ガス導入口74、酸化剤ガス排出口75、冷却水導入口77、および冷却水排出口78を有する。
図4に示すように、スタック部20、集電板30、40、絶縁板50、60およびエンドプレート70、80の四隅には、タイロッド90が挿通される貫通孔が配置される。タイロッド90は、その端部に形成される雄ねじ部に、ナット(図示せず)が螺合され、燃料電池スタック200の内部(スタック部20)をエンドプレート70、80により締結する。スタック形成のための荷重は、燃料電池単セル(セルユニット)1(MEA9)の積層方向に作用し、燃料電池単セル(セルユニット)1を押し圧状態に保持する。
図4に示すように、タイロッド90は、剛性を備えた材料、例えば、鋼などの金属材料から形成され、また、燃料電池単セル201同士の電気的短絡を防止するため、絶縁処理された表面部を有する。タイロッド90の設置本数は、4本(四隅)に限定されない。タイロッド90の締結機構は、螺合に限定されず、他の手段を適用することも可能である
図1、図3に示すように、燃料電池単セル(セルユニット)1は、上述したように、MEA9、セパレータ5a、5bを有し、更にガスケット(図示せず)を有してなる構成が望ましい。MEA9は、電解質膜2と、電解質膜2を挟んで配置される燃料極側電極(触媒層3a及びガス拡散層4a)及び酸素極側電極(触媒層3b及びガス拡散層4b)を有する。セパレータ5a、5bは、MEA9の外面に配置される。セパレータ5aは、燃料ガス5agを流通させるための流路5aaを有し、エンドプレート70に配置される燃料ガス導入口71および燃料ガス排出口72に接続されている。セパレータ5bは、酸化剤ガス5bgを流通させるための流路5bbを有し、エンドプレート80に配置される酸化剤ガス導入口74および酸化剤ガス排出口75に接続されている。
なお、図1、図3に示すように、セパレータ5a、5bは、冷却水8wを流通させるための流路8を有しており、エンドプレート70、80に配置される冷却水導入口77および冷却水排出口78に接続されている。
次に、ガスケットは、MEA9の表面に位置する電極の外周を、取り囲むように配置されるシール部材であり、接着層(図示せず)を介して、MEA9の電解質膜2の外面に固定される構成を有していてもよい。ガスケットは、セパレータ5とMEA9とのシール性を確保する機能を有している。なお、必要に応じて用いられる接着層は、接着性を確保することを考慮すると、ガスケットの形状に対応し、電解質膜の全周縁部に、額縁状に配置されることが好ましい。
また、図4に示すように、本発明の導電部材を用いてなる燃料電池スタック200では、集電板30、40に貫通した状態で形成されるマニホールド(アノード(燃料ガス5ag)、カソード(酸化剤ガス5bg)ならびに冷却水8wそれぞれの入り口出口1箇所ずつ計6箇所)の貫通部内壁にも、中間層32を形成するのが望ましい実施形態である。即ち、マニホールドの貫通部内壁では、導電性が不要であるため、金メッキのような表面処理層を設けることなく、中間層32を形成するのが望ましい。これにより、マニホールドの貫通部の基材の腐食を効果的に防止できる点で極めて有効である。
以上が、本発明の導電部材を用いてなる燃料電池スタック200の構成の概要であり、金属セパレータ5及び集電板30、40以外にも、導電性と耐食性を必要とする燃料電池の構成部品(導電部材)については、本発明の構成を採用し得るものである。これにより、当該燃料電池の構成部品(導電部材)、ひいては燃料電池スタックの薄肉・軽量化を図ることができ、出力密度を向上させることに貢献し得るものである。更に、低コスト化にもつながる為、価格低減が強く求められている燃料電池車に搭載する電池要素技術としても有用である。
本発明の燃料電池の製造方法は、金属セパレータ5(特に上記した中間層32の製造方法を除いては)特に制限されず、燃料電池の分野において従来公知の知見を適宜参照することにより製造可能である。
燃料電池を運転する際に用いられる燃料ガス5ag(水素含有ガス)の種類としては、上記した説明中では水素を例に挙げて説明したが、特に限定されない。水素以外にも、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2級ブタノール、3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールを用いることができる。なかでも高出力化が可能である点で、水素とメタノールが好ましく挙げられる。
さらに、燃料電池が所望する電圧等を得られるように、金属セパレータ5を介して膜電極接合体(MEA9)を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタック200を形成してもよい(図3、図4参照)。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
本発明の燃料電池の用途としては特に制限されないが、発電性能に優れることから、自動車などの車両における駆動用電源として用いられることが好ましい。
上述したPEFCのセルユニット1や燃料電池スタック200は、導電性・耐食性に優れる導電部材から構成される金属セパレータ5を用いている。したがって、当該PEFCのセルユニット1や燃料電池スタック200は出力特性・耐久性に優れ、長期間にわたって良好な発電性能を維持することができる。なお、図1に示す形態のPEFCのセルユニット1において、金属セパレータ5は、平板状の導電部材に対してプレス処理を施すことで凹凸状に成形されている。ただし、かような形態のみには制限されない。例えば、平板状の金属板(金属基材31)に対して切削処理を施すことによりガス流路5ag、5bgや冷媒流路8を構成する凹凸形状を予め形成し、その表面に、上述した手法によって導電性炭素層33(および必要に応じて中間層32)を形成することで、金属セパレータ5としてもよい。
本実施形態のPEFCのセルユニット1やこれを用いた燃料電池スタック200は、例えば、車両に駆動用電源として搭載されうる。
燃料電池スタック200を燃料電池車のような車両に搭載するには、例えば、燃料電池車の車体中央部の座席下に搭載すればよい。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができる。場合によっては、燃料電池スタック200を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームであってもよい。このように、上述した形態のPEFCのセルユニット1や燃料電池スタック200を搭載した車両もまた、本発明の技術的範囲に包含される。上述したPEFCのセルユニット1や燃料電池スタック200は出力特性・耐久性に優れる。したがって、長期間にわたって信頼性の高い燃料電池搭載車両が提供されうる。
以下、本発明による効果を、実施例および比較例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されない。
[実施例1]
オーステナイト系ステンレスからなる板厚100μmのセパレータ板を用い、前処理としてエタノール液中で3分間超音波洗浄した後、さらに真空チャンバーに金属基材を設置し、Arガスによるイオンボンバード処理を行い、表面の酸化皮膜を除去した。前記前処理及び前記イオンボンバード処理は、いずれも金属基材の両面について行った。
次に、アークイオンプレーティング法(あるいはスパッタリング法)により、Tiをターゲットとして使用し、窒素ガスを導入しながら金属基材に対して負のバイアス電圧を印加し膜厚0.5μmのTiN皮膜からなる中間層を金属基材の両面に形成させた。中間層成膜時の温度は、200℃であり、電圧印加パターンは、50Vで一定である。
次に上記中間層の上に、スパッタリング法により、金属基材に対して負のバイアス電圧を印加しながら、固体グラファイトをターゲットとして使用し、中間層を成膜した金属基材の両面に膜厚0.02μmの導電性炭素層を成膜した。導電性炭素層成膜時の温度および電圧印加パターンは、バイアス電圧の初期値50Vで5分間保持した後、最終電圧200Vまでの7分で昇圧し、最終電圧200Vで3分間保持した。剥離試験、接触抵抗の値は下記表1に示した。
本実施例では、図8Aに示す外観写真から明らかなように導電部材の前面に光沢があり、全面成膜できている。また、表1に示すように、得られた導電性炭素層は低い接触抵抗を有しながら中間層との高い密着性を有していることが理解できる。
また、図9Aに示す表面SEM観察写真から明らかなように粒界等にも隙間がなく緻密な膜形態となっていることがわかる。
[実施例2]
実施例1の導電性炭素層を形成する工程において、バイアス電圧の初期値50Vでの保持時間を15分とし、最終電圧200Vまでの昇圧時間を10分とし、最終電圧200Vでの保持時間を5分とした以外は、同様にして導電部材を作成した。
本実施例のように低電圧での成膜時間を長くとり、昇圧に時間をかけることにより導電性炭素層の低い接触抵抗を維持しながら中間層との密着性を向上させることができる。
[実施例3]
実施例1の導電性炭素層を形成する工程において、最終電圧を300Vとした以外は、同様にして導電部材を作製した。
本実施例のように最終電圧を高く設定することによって表層部のグラファイト化度を高くすることができ、表層部の接触抵抗低減の観点から有利である。
[比較例1]
実施例1の導電性炭素層を成膜するときのバイアス印加パターンを、150Vにて15分間とした以外は同様にして導電部材を作製した。
本比較例では、図8Bの外観写真から明らかなように中央付近で粉末状になっており膜ができていない。これはバイアス電圧の値が、境界層を形成するには高過ぎるためと考えられる。
また、図8Bにおいて粉末状になっていない部分の表面SEM観察写真を示した図9Bから明らかなように、粒界等にも隙間がなく緻密な膜形態となっていることがわかる。
[比較例2]
比較例1において、導電性炭素層を成膜する直前の基材温度を350℃とし、バイアス電圧の値を50Vとした以外は同様にして導電部材を作製した。
本比較例のバイアス電圧の値は、R値が低く中間層との密着性が良好な境界層としての炭素層を成膜するのに好ましい。しかし、温度が高いためグラファイト化が進行し、中間層と導電性炭素層との接着性が確保できない。
[比較例3]
比較例1の導電性炭素層を成膜するときのバイアス印加パターンを、50Vとした以外は同様にして導電部材を作製した。
本比較例では、R値が低く中間層との密着性が良好な境界層として機能しうる炭素層を中間層上に成膜することができる。しかし、このような炭素層はグラファイト化度が低いため接触抵抗が高くなっている。
[接触抵抗の測定]
上記の実施例1〜3、および比較例3において作製した導電部材について、導電部材の積層方向の接触抵抗の測定を行なった。具体的には、図10に示すように、上記の実施例1〜3、および比較例3において成膜した導電部材(金属セパレータ5)の両側を1対のガス拡散基材(ガス拡散層4a、4b)で挟持し、得られた積層体の両側をさらに1対の電極(触媒層3a、3b)で挟持し、その両端に電源を接続し、電極を含む積層体全体に1MPaの荷重で保持して、測定装置を構成した。この測定装置に1Aの定電流を流し、1MPaの荷重をかけた時の通電量及び電圧値から当該積層体の接触抵抗値を算出した。
表1に示すように、実施例1〜3において作製した導電部材の接触抵抗は、いずれも1mΩ・cm2であった。一方、比較例3においては5mΩ・cm2であった。
[R値の測定]
上記の各実施例1〜3および導電性炭素層を成膜できた比較例3において作製した導電部材について、導電性炭素層33のR値を表層部と中間層について測定した。具体的には、まず、顕微ラマン分光器を用いて、導電性炭素層33のラマンスペクトルを計測した。そして、1300〜1400cm−1に位置するバンド(Dバンド)のピーク強度(ID)と、1500〜1600cm−1に位置するバンド(Gバンド)のピーク強度(IG)とのピーク面積比(ID/IG)を算出し、R値とした。得られた結果を下記の表1に示す。
表1に示すように、実施例1〜3において作製した導電部材における表層部33bのR値は、いずれも1.3以上であった。また、実施例1〜3および比較例3の境界層のR値は、いずれも1.3未満であった。