JP5287180B2 - 積層構造体、その製造方法、ならびにこれを用いた燃料電池 - Google Patents
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Description
本発明は、積層構造体、その製造方法、ならびにこれを用いた燃料電池に関する。
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、発電機能を発揮する複数の単セルが積層された構造を有する。当該単セルはそれぞれ、(1)高分子電解質膜(例えば、Nafion(登録商標)膜)、(2)これを挟持する一対(アノード、カソード)の触媒層(「電極触媒層」とも称される)、(3)さらにこれらを挟持する、供給ガスを分散させるための一対(アノード、カソード)のガス拡散層(GDL)、を含む膜電極接合体(MEA)を有する。そして、個々の単セルが有するMEAは、セパレータを介して隣接する単セルのMEAと電気的に接続される。このようにして単セルが積層・接続されることにより、燃料電池スタックが構成される。そして、この燃料電池スタックは、種々の用途に使用可能な発電手段として機能しうる。かような燃料電池スタックにおいて、セパレータは、上述したように、隣接する単セルどうしを電気的に接続する機能を発揮する。これに加えて、セパレータのMEAと対向する表面にはガス流路が設けられるのが通常である。当該ガス流路は、アノードおよびカソードに燃料ガスおよび酸化剤ガスをそれぞれ供給するためのガス供給手段として機能する。
PEFCの発電メカニズムを簡単に説明すると、PEFCの運転時には、単セルのアノード側に燃料ガス(例えば水素ガス)が供給され、カソード側に酸化剤ガス(例えば大気、酸素)が供給される。その結果、アノードおよびカソードのそれぞれにおいて、下記反応式で表される電気化学反応が進行し、電気が生み出される。
導電性が要求される燃料電池用セパレータの構成材料としては、従来、金属、カーボン、または導電性樹脂などが知られている。これらのうち、カーボンセパレータや導電性樹脂セパレータでは、ガス流路形成後の強度をある程度確保すべく、厚さを比較的大きく設定する必要がある。その結果、これらのセパレータを用いた燃料電池スタックの全体の厚さも大きくなってしまう。かようなスタックの大型化は、特に小型化が求められている車載用PEFCなどにおいては、好ましくない。
これに対して、金属セパレータは強度が比較的大きいため、厚さを比較的小さくすることが可能である。また、導電性にも優れることから、金属セパレータを用いるとMEAとの接触抵抗を低減させうるという利点もある。その反面、金属材料では腐食(例えば、生成水や運転時に生じる電位差などに起因するもの)による導電性の低下や、これに伴うスタックの出力の低下という問題が生じる場合がある。よって、金属セパレータでは、その優れた導電性を確保しつつ、耐食性をも向上させることが求められている。
一方、燃料電池の発電(上記反応式(2))の際に生成される水は燃料ガスの円滑な流れを妨げる場合があり、電池特性に大きな影響を与えることが知られている。したがって、燃料電池の高出力化のためには、燃料ガスの流路における水の排出性を向上させることが要求されている。
そのための技術として、例えば、特許文献1には、基材上に金属酸化物を複合化させて含有する炭素系膜が形成されたセパレータが開示されている。この方法では、セパレータの表面が金属酸化物によって親水化されることにより排水性が向上する、としている。また、炭素系膜を用いることにより耐食性に優れる、としている。
特開2007−134107号公報
しかしながら、特許文献1に記載の技術において、炭素膜に含まれる金属酸化物は絶縁性を示すため、セパレータの厚さ方向の導電性が低下したり、ガス拡散層との間の接触抵抗が増加してしまう。
そこで本発明は、金属基材層および導電性炭素層が積層されてなる燃料電池用セパレータと、複数の空孔を有するガス拡散基材を含むガス拡散層とが前記導電性炭素層と前記ガス拡散層とが対向するように積層されてなる積層構造体において、耐食性を確保しつつ、導電性および排水性を一層向上させうる手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、導電性炭素層の表面に親水導電性粒子を分散させることで導電性炭素層の表面に導電性および親水性が付与されることにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、金属基材層および導電性炭素層が積層されてなる燃料電池用セパレータと、複数の空孔を有するガス拡散基材を含むガス拡散層とが前記導電性炭素層と前記ガス拡散層とが対向するように積層されてなる積層構造体に関する。そして、本発明の積層構造体においては、前記導電性炭素層の表面であって前記ガス拡散層と接する接触領域に親水導電性粒子が分散されており、前記導電性粒子の粒子径および前記導電性粒子間の距離が前記ガス拡散基材の空孔間距離以下である。
本発明によれば、導電性炭素層の表面に親水導電性粒子を分散させることにより、炭素層を有する金属セパレータの優れた導電性および耐食性を十分に確保しつつ、セパレータ表面の排水性がより一層向上した積層構造体が提供されうる。
(積層構造体)
本発明の一実施形態は、金属基材層および導電性炭素層が積層されてなる燃料電池用セパレータと、複数の空孔を有するガス拡散基材を含むガス拡散層とが前記導電性炭素層と前記ガス拡散層とが対向するように積層されてなる積層構造体に関する。そして、本発明の積層構造体においては、前記導電性炭素層の表面であって前記ガス拡散層と接する接触領域に親水導電性粒子が分散されており、前記導電性粒子の粒子径および前記導電性粒子間の距離が前記ガス拡散基材の空孔間距離以下である。
本発明の一実施形態は、金属基材層および導電性炭素層が積層されてなる燃料電池用セパレータと、複数の空孔を有するガス拡散基材を含むガス拡散層とが前記導電性炭素層と前記ガス拡散層とが対向するように積層されてなる積層構造体に関する。そして、本発明の積層構造体においては、前記導電性炭素層の表面であって前記ガス拡散層と接する接触領域に親水導電性粒子が分散されており、前記導電性粒子の粒子径および前記導電性粒子間の距離が前記ガス拡散基材の空孔間距離以下である。
以下、添付した図面を参照して本発明を適用した最良の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図1は、本発明の1つの実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。PEFC1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。
PEFC1において、MEA10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。すなわち、セパレータ(5a、5c)はガス拡散層(4a、4c)と隣接して配置され、隣り合うセパレータ(5a、5c)およびガス拡散層(4a、4c)は積層構造体(8a、8c)を構成する。図1において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図1ではこれらの記載を省略する。
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)は、MEA側から見た凸部(接触領域9)でガス拡散層(4a、4c)と接触している。これにより、MEA10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
なお、図1に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
図2は、図1のうち、積層構造体8の部分の概略構成を示す断面図である。本実施形態において、積層構造体8は、ガス拡散層4およびセパレータ5から構成される。セパレータ5は、金属基材層52と、導電性炭素層54とを有する。そして、導電性炭素層54の表面であって前記ガス拡散層4と接する接触領域9に親水導電性粒子57が分散されている。また、金属基材層52と、導電性炭素層54との間には、中間層56が介在している。なお、PEFC1において、セパレータ5は、導電性炭素層54がMEA10側に位置するように、配置される。
以下、本実施形態の積層構造体8の各構成要素について詳説する。
(セパレータ)
[金属基材層]
金属基材層52は、セパレータ5の主層であり、導電性および機械的強度の確保に寄与する。
[金属基材層]
金属基材層52は、セパレータ5の主層であり、導電性および機械的強度の確保に寄与する。
金属基材層52を構成する金属について特に制限はなく、従来、金属セパレータの構成材料として用いられているものが適宜用いられうる。金属基材層の構成材料としては、例えば、鉄、チタン、銅、およびアルミニウムならびにこれらの合金が挙げられる。ここで、鉄合金にはステンレスが含まれる。なかでも、耐食性、機械的強度、汎用性、コストパフォーマンスまたは加工容易性などの観点から、金属基材層はステンレス、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されることが好ましい。さらに、特にステンレスを金属基材層として用いると、ガス拡散層の構成材料であるガス拡散基材との接触面の導電性が十分に確保されうる。その結果、たとえリブ肩部の膜の隙間などに水分が浸入したとしても、ステンレスから構成される金属基材層自体に生じる酸化皮膜の有する耐食性により、耐久性が維持されうる。
ステンレスとしては、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト・フェライト系、析出硬化系などが挙げられる。オーステナイト系としては、SUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316(L)、SUS317が挙げられる。オーステナイト・フェライト系としては、SUS329J1が挙げられる。マルテンサイト系としては、SUS403、SUS420が挙げられる。フェライト系としては、SUS405、SUS430、SUS430LXが挙げられる。析出硬化系としては、SUS630が挙げられる。なかでも、SUS304、SUS316等のオーステナイト系ステンレスを用いることがより好ましい。また、ステンレス中の鉄(Fe)の含有率は、好ましくは60〜84質量%であり、より好ましくは65〜72質量%である。さらに、ステンレス中のクロム(Cr)の含有率は、好ましくは16〜20質量%であり、より好ましくは16〜18質量%である。
一方、アルミニウム合金としては、純アルミニウム系、およびアルミニウム・マンガン系、アルミニウム・マグネシウム系などが挙げられる。アルミニウム合金中におけるアルミニウム以外の元素については、アルミニウム合金として一般に使用可能なものであれば特に制限されることはない。例えば、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛およびニッケルなどがアルミニウム合金に含まれうる。アルミニウム合金の具体例として、純アルミニウム系としてはA1050、A1050Pが挙げられ、アルミニウム・マンガン系としてはA3003P、A3004Pが挙げられ、アルミニウム・マグネシウム系としてはA5052P、A5083Pが挙げられる。一方で、セパレータには機械的な強度や成形性も求められるため、上記の合金種に加えて、合金の調質も適宜選択されうる。なお、金属基材層52がチタンやアルミニウムの単体から構成される場合、当該チタンやアルミニウムの純度は、好ましくは95質量%以上であり、より好ましくは97質量%以上であり、さらに好ましくは99質量%以上である。
金属基材層52の厚さは、特に限定されない。加工容易性および機械的強度、並びにセパレータ自体を薄膜化することによる電池のエネルギー密度の向上等の観点より、好ましくは50〜500μmであり、より好ましくは80〜300μmであり、さらに好ましくは80〜200μmである。特に、構成材料としてステンレスを用いた場合の金属基材層52の厚さは、好ましくは80〜150μmである。一方、構成材料としてアルミニウムを用いた場合の金属基材層52の厚さは、好ましくは100〜300μmである。上記した範囲内の場合、セパレータとして十分な強度を有しながらも、加工容易性に優れ、好適な薄さを達成可能である。
[導電性炭素層]
導電性炭素層54は、導電性炭素を含む層である。この層の存在によって、セパレータ5の導電性を確保しつつ、金属基材層52のみの場合と比較して耐食性が改善されうる。
導電性炭素層54は、導電性炭素を含む層である。この層の存在によって、セパレータ5の導電性を確保しつつ、金属基材層52のみの場合と比較して耐食性が改善されうる。
導電性炭素として使用可能な炭素材料は、セパレータとしての接触抵抗を増大させない限りにおいて特に限定されることはない。炭素材料の結晶性や結晶性組成については、例えば、ラマン散乱分光分析により算出される、Gバンドピーク強度とDバンドピーク強度との比(強度比R値:ID/IG)を用いることができる。
炭素材料をラマン分光法により分析すると、通常1350cm−1付近および1584cm−1付近にピークが生じる。結晶性の高いグラファイトは、1584cm−1付近にシングルピークを有し、このピークは通常、「Gバンド」と称される。一方、結晶性が低くなる(結晶構造欠陥が増す)につれて、1350cm−1付近のピークが現れてくる。このピークは通常、「Dバンド」と称される(なお、ダイヤモンドのピークは厳密には1333cm−1であり、上記Dバンドとは区別される)。Dバンドピーク強度(ID)とGバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)は、炭素材料のグラファイトクラスターサイズやグラファイト構造の乱れ具合(結晶構造欠陥性)、sp2結合比率などの指標として用いられる。すなわち、本発明においては、導電性炭素層54の接触抵抗の指標とすることができ、導電性炭素層54の導電性を制御する膜質パラメータとして用いることができる。
R(ID/IG)値は、顕微ラマン分光器を用いて、炭素材料のラマンスペクトルを計測することにより算出される。具体的には、Dバンドと呼ばれる1300〜1400cm−1のピーク強度(ID)と、Gバンドと呼ばれる1500〜1600cm−1のピーク強度(IG)との相対的強度比(ピーク面積比(ID/IG))を算出することにより求められる。
ここで、導電性炭素層の強度比(R値)が所定の範囲内にある場合、接触抵抗の増大を顕著に抑制させることができる。よって、導電性炭素として用いる炭素材料は、導電性炭素層がかかる所定の範囲内の強度比を有するように選択することが好ましい。具体的には、導電性炭素層の強度比(R値)に関する前記所定の範囲は、以下に制限されることはないが、好ましくは1.3以上であり、より好ましくは1.4〜2.0であり、さらに好ましくは1.4〜1.9であり、特に好ましくは1.5〜1.8である。このR値が1.3以上であれば、積層方向の導電性が十分に確保された導電性炭素層が得られる。また、R値が2.0以下であれば、グラファイト成分の減少を抑制することができる。さらに、導電性炭素層自体の内部応力の増大をも抑制でき、下地である金属基材層(後述する中間層が存在する場合には中間層)との密着性を一層向上させることができる。
なお、R値を1.3以上とすることにより上述の作用効果が得られるメカニズムは、以下のように推定されている。ただし、以下の推定メカニズムは本発明の技術的範囲をいかようにも限定することはない。
上述したように、Dバンドピーク強度が大きくなる(すなわち、R値が大きくなる)ことは、グラファイト構造における結晶構造欠陥の増加を意味する。換言すれば、ほぼsp2炭素のみからなる高結晶性グラファイトにおいてsp3炭素が増加することを意味する。ここで、R=1.0〜1.2の導電性炭素層を有するセパレータAの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した写真(倍率:40万倍)を図3Aに示す。同様に、R=1.6の導電性炭素層を有するセパレータBの断面をTEMにより観察した写真(倍率:40万倍)を図3Bに示す。なお、これらのセパレータAおよびセパレータBは、金属基材層としてはSUS316Lを用い、この表面にCrからなる中間層(厚さ:0.2μm)および導電性炭素層(厚さ:0.2μm)をスパッタリング法によって順次形成することにより作製した。また、セパレータAにおける導電性炭素層の作製時において金属基材層に対して印加したバイアス電圧は0Vであり、セパレータBにおける導電性炭素層の作製時において金属基材層に対して印加したバイアス電圧は−140Vであった。
図3Bに示すように、セパレータBの導電性炭素層は、多結晶グラファイトの構造を有することがわかる。一方で、図3Aに示すセパレータAの導電性炭素層においては、かような多結晶グラファイトの構造は確認できない。
ここで、「多結晶グラファイト」とは、微視的にはグラフェン面(六角網面)が積層した異方性のグラファイト結晶構造(グラファイトクラスター)を有するが、巨視的には多数の当該グラファイト構造が集合した等方性結晶体である。したがって、多結晶グラファイトは、ダイヤモンド様カーボン(DLC;Diamond−Like Carbon)の1種であるということもできる。通常、単結晶グラファイトは、HOPG(高配向熱分解黒鉛)に代表されるような、巨視的にみてもグラフェン面が積層された乱れのない構造を示す。一方、多結晶グラファイトにおいては、個々のクラスターとしてグラファイト構造が存在しており、乱層構造を有している。R値を上述の値に制御することで、この乱れ具合(グラファイトクラスター量、サイズ)が適度に確保され、導電性炭素層54の一方の面から他方の面への導電パスが確保されうる。その結果、金属基材層52に加えて導電性炭素層54を別途設けたことによる導電性の低下が防止されうると考えられる。
多結晶グラファイトにおいては、グラファイトクラスターを構成するsp2炭素原子の結合によりグラフェン面が形成されていることから、当該グラフェン面の面方向に導電性が確保される。また、多結晶グラファイトは実質的に炭素原子のみから構成され、比表面積が小さく、結合した官能基の量も少ない。このため、多結晶グラファイトは酸性水等による腐食に対して優れた耐性を有する。なお、カーボンブラック等の粉末においても、1次粒子を形成しているのはグラファイトクラスターの集合体である場合が多く、これにより導電性が発揮される。しかしながら、個々の粒子が分離しているため、表面に形成されている官能基が多く、酸性水等による腐食が生じやすい。また、カーボンブラックにより導電性炭素層を成膜しても、保護膜としての緻密性に欠けるという問題もある。
ここで、本実施形態の導電性炭素層54が多結晶グラファイトから構成される場合、多結晶グラファイトを構成するグラファイトクラスターのサイズは特に制限されない。一例を挙げると、グラファイトクラスターの平均直径は、好ましくは1〜50nm程度であり、より好ましくは2〜10nmである。グラファイトクラスターの平均直径がかような範囲内の値であると、多結晶グラファイトの結晶構造を維持しつつ、導電性炭素層54の厚膜化を防止することが可能である。ここで、グラファイトクラスターの「直径」とは、当該クラスターの輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。また、グラファイトクラスターの平均直径の値は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察されるクラスターの直径の平均値として算出されうる。
なお、導電性炭素層54は上述した所定のR値を有する多結晶グラファイトから構成されることが好ましいが、導電性炭素層54は多結晶グラファイトに代えてまたはこれに加えて、多結晶グラファイト以外の導電性炭素を含んで構成されてもよい。かような多結晶グラファイト以外の導電性炭素としては、グラファイトブロック(高結晶性グラファイト)、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどが挙げられる。また、カーボンブラックの具体例として、以下に制限されることはないが、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラックもしくはサーマルブラックなどが挙げられる。なお、カーボンブラックは、グラファイト化処理が施されていてもよい。これら導電性炭素は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、導電性炭素を、ポリエステル系樹脂、アラミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂のような樹脂と複合化させて用いてもよい。
導電性炭素の材料が粒子状の場合の平均粒子径は、以下に制限されることはないが、導電性炭素層の厚みを抑える観点から、好ましくは2〜100nm、より好ましくは5〜20nmである。なお、本明細書における「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。また「平均粒子径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。後述する導電性粒子の粒子径や平均粒子径も同様に定義することができる。
導電性炭素の材料がカーボンナノチューブなどの繊維状の場合の直径は、以下に制限されることはないが、好ましくは0.4〜100nm、より好ましくは1〜20nmである。一方、前記繊維状の場合の長さは、特に限定されないが、5〜200nm、より好ましくは10〜100nmである。そして、前記繊維状の場合のアスペクト比は、以下に制限されることはないが、1〜500、より好ましくは2〜100である。上記した範囲内にある場合、導電性炭素層の厚さを好適に抑えることができる。
導電性炭素層54に含まれうる炭素材料以外の材料としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)等の貴金属;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性物質;導電性酸化物などが挙げられる。これらは1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
導電性炭素層54の厚さは、特に制限されない。ただし、好ましくは1〜1000nmであり、より好ましくは2〜500nmであり、さらに好ましくは5〜200nmである。導電性炭素層の厚さがかような範囲内の値であれば、ガス拡散基材とセパレータとの間に十分な導電性を確保することができる。また、金属基材層に対して高い耐食機能を持たせることができるという有利な効果を奏しうる。なお、本実施形態では、導電性炭素層54はセパレータ5の一方の主表面にのみ存在する。ただし、場合によっては、セパレータ5の他の主表面にも導電性炭素層54が存在してもよい。
以下、本実施形態の導電性炭素層54におけるより好ましい実施形態について説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。
まず、導電性炭素層54のラマン散乱分光分析について、他の観点からは、ラマン散乱分光分析の回転異方性測定により測定された平均ピークが、2回対称パターンを示すことが好ましい。以下、回転異方性測定の測定原理について、簡単に説明する。
ラマン散乱分光分析の回転異方性測定は、測定サンプルを水平方向に360度回転させながら、ラマン散乱分光測定を実施することにより行なわれる。具体的には、測定サンプルの表面に対してレーザー光を照射し、通常のラマンスペクトルを測定する。次いで、測定サンプルを10°回転させて、同様にラマンスペクトルを測定する。この操作を、測定サンプルが360°回転するまで行なう。そして、それぞれの角度での測定において得られたピーク強度の平均値を算出し、中心がピーク強度ゼロとなる、1周360°の極座標表示とすることにより、平均ピークが得られる。そして、例えば、グラフェン面がサンプルの面方向と平行となるように、グラファイト層がサンプル表面に存在する場合には、図4Aに示すような3回対称パターンが見られる。一方、グラフェン面がサンプルの面方向と垂直となるように、グラファイト層がサンプル表面に存在する場合には、図4Bに示すような2回対称パターンが見られる。なお、明確な結晶構造が存在しない非晶質(アモルファス)状の炭素層がサンプル表面に存在する場合には、図4Cに示すような対称性を示さないパターンが見られる。したがって、回転異方性測定により測定された平均ピークが2回対称パターンを示すということは、導電性炭素層54を構成するグラフェン面の面方向が、導電性炭素層54の積層方向とほぼ一致していることを意味する。かような形態によれば、導電性炭素層54における導電性が最短のパスによって確保されることとなるため、好ましいのである。
ここで、当該回転異方性測定を行なった結果を図5Aおよび図5Bに示す。図5Aは、セパレータBを測定サンプルとして用い、当該サンプルの回転角をそれぞれ0°、60°、および180°としたときのラマンスペクトルを示す。また、図5Bは、上述した手法により得られた、セパレータBについての回転異方性測定の平均ピークを示す。図5Bに示すように、セパレータBの回転異方性測定においては、0°および180°の位置にピークが見られた。これは、図4Bに示す2回対称パターンに相当する。なお、本明細書において、ラマン散乱分光分析の回転異方性測定により測定された平均ピークが「2回対称パターンを示す」とは、平均ピークにおいて、図4Bおよび図5Bに示すように、平均ピークにおいて、ピーク強度が0である点を基準として180°対向する2つのピークが存在することを意味する。3回対称パターンで見られるピーク強度と2回対称パターンで見られるピーク強度とは原理的には同程度の値を示すとされているため、かような定義が可能となる。
好ましい実施形態では、導電性炭素層54のビッカース硬度が規定される。「ビッカース硬度(Hv)」とは、物質の硬さを規定する値であり、物質に固有の値である。本明細書において、ビッカース硬度は、ナノインデンテーション法により測定された値を意味する。ナノインデンテーション法とは、サンプル表面に対して超微小な荷重でダイヤモンド圧子を連続的に負荷および除荷し、得られた荷重−変位曲線から硬さを測定するという手法であり、Hvが大きいほどその物質は硬いことを意味する。好ましい実施形態において、具体的には、導電性炭素層54のビッカース硬度は、好ましくは1500Hv以下であり、より好ましくは1200Hv以下であり、さらに好ましくは1000Hv以下であり、特に好ましくは800Hv以下である。ビッカース硬度がかような範囲内の値であれば、導電性を有しないsp3炭素の過剰な混入が抑制され、導電性炭素層54の導電性の低下が防止されうる。一方、ビッカース硬度の下限値について特に制限はないが、ビッカース硬度が50Hv以上であれば、導電性炭素層54の硬度が十分に確保される。その結果、外部からの接触や摩擦等の衝撃にも耐えることができ、下地である金属基材層52との密着性にも優れたセパレータが提供されうる。かような観点から、導電性炭素層54のビッカース硬度は、より好ましくは80Hv以上であり、さらに好ましくは100Hv以上であり、特に好ましくは200Hv以上である。
ここで、セパレータの金属基材層としてSUS316Lを準備し、この表面にCrからなる中間層(厚さ:0.2μm)および導電性炭素層(厚さ:0.2μm)をスパッタリング法によって順次形成することにより作製した。この際、バイアス電圧および成膜方式を制御することにより、導電性炭素層のビッカース硬度を変化させた。これにより得られたセパレータにおける導電性炭素層のビッカース硬度と導電性炭素層におけるsp3比の値との関係を図6に示す。なお、図6では、ダイヤモンドはsp3比=100%であり、Hv10000となる。図6に示す結果から、導電性炭素層のビッカース硬度が1500Hv以下であると、sp3比の値が大きく低下することがわかる。また、sp3比の値が低下することで、セパレータの接触抵抗の値もこれに伴って低下することが推測される。
さらに他の観点からは、導電性炭素層54に含まれる水素原子の量もまた、考慮することが好ましい。すなわち、導電性炭素層54に水素原子が含まれる場合、当該水素原子は炭素原子と結合する。そうすると、水素原子が結合した炭素原子の混成軌道はsp2からsp3へと変化して導電性を喪失し、導電性炭素層54の導電性が低下することとなる。また、多結晶グラファイトにおけるC−H結合が増加すると、結合の連続性が失われ、導電性炭素層54の硬度が低下し、最終的にはセパレータの機械的強度や耐食性が低下してしまう。かような観点から、導電性炭素層54における水素原子の含有量は、導電性炭素層54を構成する全原子に対して、好ましくは30原子%以下であり、より好ましくは20原子%以下であり、さらに好ましくは10原子%以下である。ここで、導電性炭素層54における水素原子の含有量の値としては、弾性反跳散乱分析法(ERDA)により得られる値を採用するものとする。この方法では、測定サンプルを傾け、ヘリウムイオンビームを浅く入射することによって、前方に弾き出された元素を検出する。水素原子の原子核は、入射されるヘリウムイオンよりも軽いため、水素原子が存在するとその原子核は前方に弾き出される。かような散乱は弾性散乱であることから、弾き出された原子のエネルギースペクトルはその原子核の質量を反映することになります。したがって、弾き出された水素原子の原子核の数を固体検出器によって測定することにより、測定サンプルにおける水素原子の含有量が測定されうる。
ここで、図7は、上述したR値が1.3以上であるものの、水素原子の含有量が異なる導電性炭素層を有するいくつかのセパレータについて、接触抵抗を測定した結果を示すグラフである。図7に示すように、導電性炭素層における水素原子の含有量が30原子%以下であると、セパレータの接触抵抗の値は顕著に低下する。なお、図7に示す実験において、セパレータの金属基材層としてはSUS316Lを用い、この表面にCrからなる中間層(厚さ:0.2μm)および導電性炭素層(厚さ:0.2μm)をスパッタリング法によって順次形成することにより作製した。この際、成膜方式や炭化水素ガス量を制御することにより、導電性炭素層における水素原子の含有量を変化させた。
本実施形態においては、金属基材層52のすべてが(中間層56を介してではあるものの)、導電性炭素層54により被覆されている。換言すれば、本実施形態では、導電性炭素層54により金属基材層52が被覆された面積の割合(被覆率)は100%である。ただし、かような形態のみには限定されず、被覆率は100%未満であってもよい。導電性炭素層54による金属基材層52の被覆率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、最も好ましくは100%である。かような構成とすることにより、導電性炭素層54により被覆されていない、金属基材層52の露出部への酸化皮膜の形成に伴う導電性・耐食性の低下が効果的に抑制されうる。なお、本実施形態のように、後述する中間層56が金属基材層52と導電性炭素層54との間に介在する場合、上記被覆率は、セパレータ5を積層方向から見た場合に導電性炭素層54と重複する金属基材層52の面積の割合を意味するものとする。
[親水導電性粒子]
親水導電性粒子57(以下、単に「導電性粒子」とも称する)は、親水性を有する導電性粒子であって、導電性炭素層54の表面であってガス拡散層4と接する接触領域9に分散されている。この導電性粒子57の存在により、導電性炭素層54に親水性が付与されるとともに、導電性が一層向上し、ガス拡散層基材との接触抵抗を低下させることができる。なお、導電性粒子は接触領域9に加えて、接触領域9以外の導電性炭素層の表面や導電性炭素層の内部に存在していてもよい。ただし、接触抵抗の低減効果および親水性向上効果を効果的に発揮し、かつ製造コストを低減するために、導電性粒子57は導電性炭素層54の表層に存在することが好ましい。より具体的には、最低限の厚さで、面内で均一な分散がされているのが好ましい。このため、厚さと分散性とは、製造方法や条件に依存するところが大きい。本発明で確認できている導電性炭素層の平均厚さとしては、0.005〜1μmの厚さで存在することが好ましい。
親水導電性粒子57(以下、単に「導電性粒子」とも称する)は、親水性を有する導電性粒子であって、導電性炭素層54の表面であってガス拡散層4と接する接触領域9に分散されている。この導電性粒子57の存在により、導電性炭素層54に親水性が付与されるとともに、導電性が一層向上し、ガス拡散層基材との接触抵抗を低下させることができる。なお、導電性粒子は接触領域9に加えて、接触領域9以外の導電性炭素層の表面や導電性炭素層の内部に存在していてもよい。ただし、接触抵抗の低減効果および親水性向上効果を効果的に発揮し、かつ製造コストを低減するために、導電性粒子57は導電性炭素層54の表層に存在することが好ましい。より具体的には、最低限の厚さで、面内で均一な分散がされているのが好ましい。このため、厚さと分散性とは、製造方法や条件に依存するところが大きい。本発明で確認できている導電性炭素層の平均厚さとしては、0.005〜1μmの厚さで存在することが好ましい。
導電性粒子としては、導電性および親水性を有する材料であれば、特に制限されない。本明細書において、親水性とは、水との接触角が導電性炭素層が有する接触角85〜100°より小さい接触角度、好ましくは、70°以下、より好ましくは60°以下であるものをいう。具体的には、貴金属、貴金属を含む合金、導電性窒化物、および導電性酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。貴金属としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく挙げられる。貴金属を含む合金としては、特に制限されることはないが、金−コバルト合金(Au−Co)、金−ニッケル合金(Au−Ni)、パラジウム−ニッケル合金(Pd−Ni)などが挙げられる。導電性窒化物としては、CrN、TiN、ZrN、HfNなどが挙げられる。導電性酸化物としては、MBa2Cu3O7−x(MはY、又はCe、Pr、Tbを除く希土類元素)、SnO2、In2O3、CrO2、Fe3O4、IrO2、OsO2、PtO2、ReO2(β)、ReO3、RhO2、RuO2、WO2、W18O49、V2O3、V7O13、V8O15、V6O13よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく挙げられる。これらのなかでも、高い導電性を有する点で、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、が好ましく、コスト面からは、銀(Ag)、がより好ましい。また、金(Au)は、リサイクルも含めた利用を考慮すると、コスト面においても好適に用いられる。なお、これらの貴金属、および貴金属を含む合金、導電性窒化物、ならびに導電性酸化物の種類については、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合させて用いてもよい。
本発明において、導電性粒子の粒子径および導電性粒子間の距離はガス拡散基材の空孔間距離以下であることを特徴とする。かかる場合には、導電性粒子とガス拡散基材との接点を確保することができ、ガス拡散層との接触抵抗が低減されうる。本明細書において、「導電性粒子間の距離」は最近接した2つの導電性粒子の中心間の距離を意味するものとする。「空孔間距離」とは最近接した2つの空孔の中心間の距離を意味するものとする。「導電性粒子間の距離」は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。また、「空孔間距離」も同様に、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、ガス拡散基材の断面における数〜数十視野中に観察される空孔間距離の平均値として算出されうる。
具体的には、ガス拡散基材が繊維から構成される場合(繊維集合体)には、空孔間距離は繊維の直径に相当する。例えば、図8Aに示すように、ガス拡散基材が炭素繊維58から構成される場合には、導電性粒子57の粒子径および前記導電性粒子57間の距離が前記炭素繊維58の直径以下であることが好ましい。また、ガス拡散基材が粒子から構成される場合(粒子集合体)には、空孔間距離は粒子の直径に相当する。例えば、図8Aに示すように、ガス拡散基材がカーボン粒子58から構成される場合には、導電性粒子57の粒子径および前記導電性粒子57間の距離が前記カーボン粒子58の直径以下であることが好ましい。このようにガス拡散基材が繊維や粒子から構成される場合には、導電性粒子と炭素繊維または炭素粒子との接点を確実に確保することができる。ガス拡散基材が金網、貫通孔を有する打ち抜きのプレス板などの多孔性金属から構成される場合には、空孔中心間の最短距離に相当する。例えば、図8Bに示すように、ガス拡散基材が貫通孔61を有する多孔性金属60から構成される場合には、導電性粒子57の粒子径および前記導電性粒子57間の距離が前記多孔性金属60の空孔間距離以下であることが好ましい。かかる場合には、多孔性金属中の空孔間距離にある基材金属の幅よりも小さい間隔で微粒子が存在するため、多数の接点を確保できる。一例を挙げると、導電性粒子の粒子径および導電性粒子間の距離は1nm〜7μmである。
導電性粒子による接触領域の被覆率は、1%以上であることが好ましい。1%以上であれば、導電性粒子による親水性および導電性の向上効果が得られうる。より好ましくは2〜100%、さらに好ましくは3〜100%であり、特に好ましくは10〜100%である。かかる下限値以上であれば、親水性および導電性が顕著に向上する。一方、上限値は、親水性および導電性の向上の観点からは大きいほど好ましく、100%(完全被覆)であることが好ましいが、コスト面を考慮すると、親水性および導電性が確保される限り被覆率が小さいほうが好ましい。
ここで、2つの要素間の接触抵抗は、接点を構成する2つの部材の体積固有抵抗(ρ1、ρ2)と接点の半径の逆数(1/an)の総和から算出される。
(式中、R:接触抵抗[Ω]、ρ1、ρ2:体積固有抵抗[Ω・cm]、an:接点の半径[cm]、n:接点数)
ρ1、ρ2は材料固有の値であり、例えば、導電性粒子として金(Au)を用い、ガス拡散基材として炭素繊維を用いる場合には、ρ1およびρ2はそれぞれ金(Au)および炭素繊維の体積固有抵抗となる。したがって、接触抵抗は接点数および接点の半径に依存することがわかる。
ρ1、ρ2は材料固有の値であり、例えば、導電性粒子として金(Au)を用い、ガス拡散基材として炭素繊維を用いる場合には、ρ1およびρ2はそれぞれ金(Au)および炭素繊維の体積固有抵抗となる。したがって、接触抵抗は接点数および接点の半径に依存することがわかる。
導電性粒子の被覆率が大きいほど、導電性炭素層の表面に分散される導電性粒子の数が増加するため、ガス拡散基材との接点を増大させることができ、これにより接触抵抗を低減することができる。
本発明者らは、導電性粒子の被覆率が上記の下限値以上である場合には、ガス拡散基材との接点を有意に増大させることができ、接触抵抗を低減することができることを見出した。そして、本発明では、上記で例示した貴金属、貴金属を含む合金、導電性窒化物、および導電性酸化物などの導電性粒子を用いた場合に、導電性粒子による被覆率が上記の下限値以上であれば、接触抵抗の低減されることが認められた。ただし、ガス拡散基材と導電性粒子との接点は、導電性粒子およびガス拡散基材の材質・サイズ、導電性炭素層の接触領域の表面粗さ・材質に依存する。例えば、接触領域の接触領域の表面粗さが小さい場合には、接触領域に分散された導電性粒子とガス拡散基材との接点を増大させることができるため、接触抵抗を低減することができる。一方、一般に、親水性表面では表面粗さが大きいほど親水性が高いことが知られており、高被覆率の親水化された表面においては、表面粗さが大きい方がより一層の親水化効果を発揮しうる。このため、好ましくは、使用する導電性粒子、ガス拡散基材、導電性炭素層(接触領域)にあわせて導電性粒子の被覆率を適宜調整するのがよい。
また、導電性粒子が分散された接触領域における水の接触角は、70°以下であることが好ましく、0〜60°であることがより好ましく、45〜50°であることがさらに好ましい。かような場合は、水の流路となるセパレータ表面の排水性が一層向上されるため、特に、水の排出性が問題となるリブピッチが小さい(微細な凹凸形状を有する)セパレータにおける細い流路であっても効率よく排水することができる。なお、本発明において接触角は、JIS K6768に記載された濡れ性試験方法に基づいて測定するものとする。
なお、導電性粒子は、金属基材層の少なくとも一方に形成された導電性炭素層の表面上に存在すればよい。ただし、導電性炭素層が金属基材層の両方の主表面に存在する場合には、両方の導電性炭素層の表面上に導電性粒子が分散されていてもよいが、排水性の効果を発揮する上で、導電性粒子は、PEFCにおいてMEA側(反応面側)に配置されることとなる導電性炭素層の表面に存在することが好ましい。
[中間層]
図2に示すように、本実施形態において、セパレータ5は、中間層56を有する。この中間層56は、金属基材層52と導電性炭素層54との密着性を向上させるという機能や、金属基材層52からのイオンの溶出を防止するという機能を有する。特に、R値が上述した好ましい範囲の上限値を超える場合に、中間層56を設けることによる効果は顕著に発現する。ただし、R値が上述した好ましい範囲に含まれる場合であっても中間層が設けられうることは当然である。他の観点からは、中間層56の設置による上述した作用効果は、金属基材層52がアルミニウムまたはその合金から構成される場合にも顕著に発現する。なお、本発明において、中間層は任意の層であり、必ずしも中間層は存在しなくてもよい。以下、セパレータが中間層を含む場合の好ましい形態について簡単に説明する。
図2に示すように、本実施形態において、セパレータ5は、中間層56を有する。この中間層56は、金属基材層52と導電性炭素層54との密着性を向上させるという機能や、金属基材層52からのイオンの溶出を防止するという機能を有する。特に、R値が上述した好ましい範囲の上限値を超える場合に、中間層56を設けることによる効果は顕著に発現する。ただし、R値が上述した好ましい範囲に含まれる場合であっても中間層が設けられうることは当然である。他の観点からは、中間層56の設置による上述した作用効果は、金属基材層52がアルミニウムまたはその合金から構成される場合にも顕著に発現する。なお、本発明において、中間層は任意の層であり、必ずしも中間層は存在しなくてもよい。以下、セパレータが中間層を含む場合の好ましい形態について簡単に説明する。
中間層56を構成する材料としては、上記の密着性を付与するものであれば特に制限はない。例えば、周期律表の第4族の金属(Ti、Zr、Nf)、第5族の金属(V、Nb、Ta)、第6族の金属(Cr、Mo、W)、並びにこれらの炭化物、窒化物および炭窒化物などが挙げられる。なかでも好ましくは、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)もしくはハフニウム(Hf)といったイオン溶出の少ない金属、またはこれらの窒化物、炭化物もしくは炭窒化物が用いられる。より好ましくは、CrもしくはTi、またはこれらの炭化物もしくは窒化物が用いられる。特に、上述したイオン溶出の少ない金属またはその炭化物もしくは窒化物を用いた場合、セパレータの耐食性を有意に向上させることができる。
中間層56の厚さは、特に制限されない。ただし、セパレータ5をより薄膜化することにより、燃料電池のスタックのサイズをできるだけ小さくするという観点からは、中間層56の厚さは、好ましくは0.01〜10μmであり、より好ましくは0.05〜5μmであり、さらに好ましくは0.1〜1μmである。中間層56の厚さが0.01μm以上であれば、均一な層が形成され、金属基材層の耐食性を効果的に向上させることが可能となる。一方、中間層56の厚さが10μm以下であれば、中間層の膜応力の上昇が抑えられ、金属基材層に対する皮膜追従性の低下やこれに伴う剥離・クラックの発生が防止されうる。
また、中間層56の、導電性炭素層54側の表面は、ナノレベルで粗れていることが好ましい。かような形態によれば、中間層56上に成膜される導電性炭素層54の、中間層56に対する密着性をより一層向上させうる。
さらに、中間層56の熱膨張率が、金属基材層52を構成する金属の熱膨張率と近い値であると、中間層56と金属基材層52との密着性は向上する。ただし、かような形態では中間層56と導電性炭素層54との密着性が低下する場合がある。同様に、中間層56の熱膨張率が導電性炭素層54の熱膨張率と近い値であると、中間層56と金属基材層52との密着性が低下する場合がある。これらを考慮して、中間層の熱膨張率(αmid)、金属基材層の熱膨張率(αsub)、および導電性炭素層の熱膨張率を(αc)は、αsub>αmid>αcの関係を満足することが好ましい。
なお、中間層は、金属基材層の少なくとも一方の表面上に存在すればよい。ただし、導電性炭素層が金属基材層の一方の主表面にのみ存在する場合には、中間層は、金属基材層と導電性炭素層との間に存在する。また、導電性炭素層は、上述したように金属基材層の両面に存在する場合もある。かような場合には、中間層は、金属基材層と双方の導電性炭素層との間にそれぞれ介在することが好ましい。金属基材層といずれか一方の導電性炭素層との間にのみ中間層が存在する場合には、当該中間層は、PEFCにおいてMEA側に配置されることとなる導電性炭素層と金属基材層との間に存在することが好ましい。
[ガス拡散層]
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)は、複数の空孔を有するガス拡散基材から構成され、セパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)に隣接して配置される。ガス拡散層は、セパレータのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)は、複数の空孔を有するガス拡散基材から構成され、セパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)に隣接して配置される。ガス拡散層は、セパレータのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
ガス拡散基材は複数の空孔を有する材料(多孔質材料)であれば特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布、多孔性金属(金網、プレス版など)といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。好ましくは、炭素繊維からなる紙状抄紙体、織物および不織布、多孔性金属(金網、プレス版など)などが一般的に使われている。
ガス拡散基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒子径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、質量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
(積層構造体の製造方法)
上述した実施形態の積層構造体を製造する方法について特に制限はなく、従来公知の手法を適宜参照することにより製造することが可能である。以下、積層構造体を製造するための好ましい実施形態を記載するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。また、積層構造体8を構成するセパレータ5およびガス拡散層4の各構成要素の材質などの諸条件については、上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
上述した実施形態の積層構造体を製造する方法について特に制限はなく、従来公知の手法を適宜参照することにより製造することが可能である。以下、積層構造体を製造するための好ましい実施形態を記載するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。また、積層構造体8を構成するセパレータ5およびガス拡散層4の各構成要素の材質などの諸条件については、上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
本発明の一実施形態は、金属基材層の少なくとも一方の主表面に導電性炭素層を成膜する工程と、前記導電性炭素層の表面に親水導電性粒子を分散させる工程と、前記導電性粒子を分散させた領域に接触するようにガス拡散層を配置させる工程と、を含む、積層構造体の製造方法であって、前記導電性粒子の分散を、スパッタリング法により行なうことを特徴とする、積層構造体の製造方法である。
まず、金属基材層の構成材料として、所望の厚さのステンレス板などを準備する。次いで、適当な溶媒(例えば、エタノール、エーテル、アセトン、イソプロピルアルコール、トリクロロエチレンおよび苛性アルカリ剤など)を用いて、準備した金属基材層の構成材料の表面の脱脂および洗浄処理を行う。該処理としては、超音波洗浄などが挙げられる。超音波洗浄の条件としては、処理時間が1〜10分間程度、周波数が30〜50kHz程度、および電力が30〜50W程度である。
続いて、金属基材層の構成材料の表面(両面)に形成されている酸化皮膜の除去を行なう。酸化皮膜を除去するための手法としては、酸による洗浄処理、電位印加による溶解処理、またはイオンボンバード処理などが挙げられる。
次に、上記の処理を施した金属基材層の構成材料の表面に、導電性炭素層を成膜する。例えば、上述した導電性炭素層の構成材料(例えば、グラファイト)をターゲットとして、金属基材層上に導電性炭素を含む層を原子レベルで積層(成膜)することにより、導電性炭素層を形成することができる。これにより、直接付着した導電性炭素層と金属基材層との界面およびその近傍は、分子間力や僅かな炭素原子の進入によって、長期間にわたって密着性が保持されうる。
導電性炭素を積層(成膜)するのに好適に用いられる手法としては、例えば、スパッタリング法もしくはイオンプレーティング法などの物理気相成長(PVD)法、またはフィルタードカソーディックバキュームアーク(FCVA)法などのイオンビーム蒸着法などが挙げられる。スパッタリング法としては、マグネトロンスパッタリング法、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法、デュアルマグネトロンスパッタ法などが挙げられる。また、イオンプレーティング法としては、アークイオンプレーティング法などが挙げられる。なかでも、スパッタリング法およびイオンプレーティング法を用いることが好ましく、スパッタリング法を用いることが特に好ましい。かような手法によれば、水素含有量の少ない炭素層を形成することができる。その結果、炭素原子同士の結合(sp2混成炭素)の割合を増加させることができ、優れた導電性が達成されうる。これに加えて、比較的低温で成膜が可能であり、金属基材層へのダメージを最小限に抑えることができるという利点もある。さらに、スパッタリング法によれば、バイアス電圧等を制御することで、成膜される層の膜質をコントロールできるという利点もある。
ここで、導電性炭素層の成膜をスパッタリング法により行なう場合には、スパッタリング時に金属基材層に対して負のバイアス電圧を印加するとよい。かような形態によれば、イオン照射効果によって、グラファイトクラスターが緻密に集合した構造の導電性炭素層が成膜されうる。このような導電性炭素層は優れた導電性を発揮しうることから、他の部材(例えば、MEA)との接触抵抗の小さいセパレータが提供されうる。当該形態において、印加される負のバイアス電圧の大きさ(絶対値)は特に制限されず、導電性炭素層を成膜可能な電圧が採用されうる。一例として、印加される電圧の大きさは、好ましくは50〜500Vであり、より好ましくは100〜300Vである。なお、成膜時のその他の条件等の具体的な形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。また、UBMS法により導電性炭素層54を成膜する場合には、予め中間層を形成しておき、その上に導電性炭素層を形成することが好ましい。これにより、下地層との密着性に優れる導電性炭素層が形成されうる。ただし、他の手法によって導電性炭素層を形成する場合には、中間層が存在しない場合であっても、金属基材層との密着性に優れる導電性炭素層が形成されうる。
上述した手法によれば、金属基材層52の一方の主表面に導電性炭素層54が形成されたセパレータが製造されうる。金属基材層52の両面に導電性炭素層54が形成されてなるセパレータを製造するには、金属基材層52の他方の主表面に対して、上述したのと同様の手法によって、導電性炭素層を形成すればよい。
次に、上記の処理を施した導電性炭素層の表面の全体または一部に、導電性粒子を分散させる。上述したように、導電性粒子は導電性炭素層の表面上のガス拡散層と接触する領域に分散されていればよい。導電性炭素層の表面の一部にのみ導電性粒子を分散させるには、例えば、マスクを形成させて所望の部分に選択的に導電性粒子を分散させればよい。導電性粒子を分散させる手法としては、メッキ法、スパッタリング法もしくはイオンプレーティング法などの物理気相成長(PVD)法、またはフィルタードカソーディックバキュームアーク(FCVA)法などのイオンビーム蒸着法などが挙げられる。スパッタリング法としては、マグネトロンスパッタリング法、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法、デュアルマグネトロンスパッタ法などが挙げられる。また、イオンプレーティング法としては、アークイオンプレーティング法などが挙げられる。なかでも、スパッタリング法およびイオンプレーティング法を用いることが好ましく、スパッタリング法を用いることが特に好ましい。なかでも、スパッタリング法またはメッキ法を用いることが好ましい。
スパッタリング法を用いる場合には、密着性の高い導電性粒子の分散構造が得られる。また、導電性炭素層の成膜(スパッタリング)に続いて、ターゲットを変更するだけで連続的に導電性粒子を分散させることができるため好ましい。スパッタリング条件としては上記したような導電性粒子の分散構造が形成できるような条件であれば特に制限されない。ただし、スパッタリング時に金属基材層に対して負のバイアス電圧を印加するとよい。一例として、印加される電圧の大きさは、好ましくは50〜500Vであり、より好ましくは100〜300Vである。なお、その他の条件等の具体的な形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。
一方、メッキ法を用いる場合には、高被覆率で導電性粒子を分散させることができる。また、プロセスをロール・ツー・ロール方式で行うことが可能となるため、量産化が可能となる。メッキ条件としては上記したような導電性粒子の分散構造が形成できるような条件であれば特に制限されず、公知の条件が使用され、使用される導電性粒子の種類や量などによって異なる。例えば、メッキ処理条件は、電流密度が0.25〜5A/dm2、浴温度45〜55℃、電析時間10秒〜100分前後の時間である。ただし、析出時間は対極のサイズや形状等によっても変わるため、適宜調整することができる。このような条件によって、所望の導電性粒子の分散構造が容易に形成されうる。
なお、導電性粒子の被覆率や粒子径は、予めスパッタ時間またはメッキ時間などのスパッタ条件と分散量との関係をあらかじめ把握した上で、これらを制御することにより所望の範囲に設定することができる。また、上述したように被覆率は導電性粒子を分散させる導電性炭素層の材質や粒子の分散手法によっても異なるため、導電性炭素層の材質と被覆形態との関係をあらかじめ把握しておく必要がある。例えば、導電性炭素および樹脂を複合化させた複合材を用いた場合に、メッキ法を用いて導電性粒子を分散させると、導電性粒子は炭素の表面には吸着するが、樹脂表面には吸着しない。このため、このような複合材を用いた場合には、複合材に含まれる樹脂量についても考慮した上で被覆率を制御する必要がある。
金属基材層52の一方または両方の主表面に形成された導電性炭素層54の表面に対して上記処理を行うことで、金属基材層52の一方または両方の主表面に導電性炭素層54が形成され、かつ導電性炭素層54の表面に親水導電性粒子57が分散されたセパレータが製造されうる。
なお、中間層56を有する、図2に示す形態のセパレータを製造するには、上述した導電性炭素層の成膜工程の前に、金属基材層の少なくとも一方の主表面に中間層を成膜する工程を行なう。この際、中間層を成膜する手法としては、導電性炭素層の成膜について上述したのと同様の手法が採用されうる。ただし、ターゲットを中間層の構成材料に変更する必要がある。
続いて、上記工程により成膜された中間層の導電性炭素層と対向する主表面とは異なる主表面に、導電性炭素層を成膜する工程および導電性粒子を分散させる工程を行なえばよい。中間層の表面に導電性炭素層を成膜する手法としても、金属基材層の表面への導電性炭素層の成膜について上述したのと同様の手法が採用されうる。
そして、上記の方法により得られるセパレータの上に、ガス拡散基材を積層させることにより、セパレータとガス拡散層とが積層されてなる積層構造体を得る。この際、導電性粒子を分散させた領域にガス拡散層が接触するようにガス拡散層を積層させる。
本実施形態の積層構造体は、種々の用途に用いられうる。その代表例が図1に示すPEFCの積層構造体8である。ただし、本実施形態の積層構造体の用途はこれに限られることはない。例えば、PEFC以外にも、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体電解質形燃料電池(SOFC)またはアルカリ形燃料電池(AFC)などの各種の燃料電池を構成する積層構造体としても使用可能である。また、積層構造体以外にも、導電性・耐食性の両立が求められている各種の用途に用いられうる。他の好ましい形態において、本実施形態の積層構造体は、湿潤環境および通電環境の下で使用される。かような環境下で用いると、導電性および排水性の両立を図るという本発明の作用効果が顕著に発現しうる。なお、本実施形態の積層構造体が用いられる「湿潤環境」とは、積層構造体と接触する雰囲気の相対湿度が30RH以上の環境をいう。当該相対湿度は、好ましくは30%RH以上であり、より好ましくは60%RH以上であり、特に好ましくは100%RH以上である。また、本実施形態の積層構造体が用いられる「通電環境」とは、0.001A/cm2以上の電流密度で、積層構造体を電流が流れる環境をいう。当該電流密度は、好ましくは0.01A/cm2以上である。
以下、図1を参照しつつ、本実施形態の積層構造体を用いたPEFCの構成要素について説明する。ただし、本発明は積層構造体に特徴を有するものである。よって、燃料電池を構成する積層構造体以外の部材の具体的な形態については、従来公知の知見を参照しつつ、適宜、改変が施されうる。
[電解質層]
電解質層は、例えば、図1に示す形態のように固体高分子電解質膜2から構成される。この固体高分子電解質膜2は、PEFC1の運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
電解質層は、例えば、図1に示す形態のように固体高分子電解質膜2から構成される。この固体高分子電解質膜2は、PEFC1の運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜2は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜とに大別される。フッ素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能を向上させるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質膜が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜が用いられる。
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質膜が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
電解質層の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質層の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質層の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性及び使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
[触媒層]
触媒層(アノード触媒層3a、カソード触媒層3c)は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層3aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層3cでは酸素の還元反応が進行する。
触媒層(アノード触媒層3a、カソード触媒層3c)は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層3aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層3cでは酸素の還元反応が進行する。
触媒層は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体、および電解質を含む。以下、触媒担体に触媒成分が担持されてなる複合体を「電極触媒」とも称する。
アノード触媒層に用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒成分およびカソード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義である。よって、一括して「触媒成分」と称する。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。ただし、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過形電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定されうる。
触媒担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、および触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。
触媒担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
触媒担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m2/g、より好ましくは80〜1200m2/gである。触媒担体の比表面積がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御されうる。
触媒担体のサイズについても特に限定されないが、担持の簡便さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径を5〜200nm程度、好ましくは10〜100nm程度とするとよい。
触媒担体に触媒成分が担持されてなる電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。触媒成分の担持量がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、電極触媒における触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって測定されうる。
触媒層には、電極触媒に加えて、イオン伝導性の高分子電解質が含まれる。当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、上述した電解質層を構成するイオン交換樹脂が、高分子電解質として触媒層に添加されうる。
なお、図1に示す形態のPEFC1において、セパレータ5は、平板状の部材に対してプレス処理を施すことで凹凸状に成形されている。ただし、かような形態のみには制限されない。例えば、平板状の金属板(金属基材層)に対して切削処理を施すことによりガス流路や冷媒流路を構成する凹凸形状を予め形成し、その表面に、上述した手法によって導電性炭素層(および必要に応じて中間層)を形成することで、セパレータとしてもよい。
本実施形態のPEFC1やこれを用いた燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載されうる。
図9は、上述した実施形態の燃料電池スタックを搭載した車両の概念図である。図9に示すように、燃料電池スタック101を燃料電池車100のような車両に搭載するには、例えば、燃料電池車100の車体中央部の座席下に搭載すればよい。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができる。場合によっては、燃料電池スタック101を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームであってもよい。このように、上述した形態のPEFC1や燃料電池スタック101を搭載した車両もまた、本発明の技術的範囲に包含される。上述したPEFC1や燃料電池スタック101は出力特性・耐久性に優れる。したがって、長期間にわたって信頼性の高い燃料電池搭載車両が提供されうる。
以下、本発明による効果を、実施例および比較例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されない。
[参考例1]
セパレータを構成する金属基材層の構成材料として、ステンレス(SUS316L)板(厚さ:100μm)を準備した。このステンレス板を、前処理としてエタノール液中で3分間超音波洗浄した。次いで、洗浄したステンレス板を真空チャンバ内(真空度:10−3Pa程度)に設置し、Arガス(0.1〜1Pa程度)によるイオンボンバード処理を行なって、表面の酸化皮膜を除去した。なお、上述した前処理(洗浄)およびイオンボンバード処理は、いずれもステンレス板の両面に対して行った。
セパレータを構成する金属基材層の構成材料として、ステンレス(SUS316L)板(厚さ:100μm)を準備した。このステンレス板を、前処理としてエタノール液中で3分間超音波洗浄した。次いで、洗浄したステンレス板を真空チャンバ内(真空度:10−3Pa程度)に設置し、Arガス(0.1〜1Pa程度)によるイオンボンバード処理を行なって、表面の酸化皮膜を除去した。なお、上述した前処理(洗浄)およびイオンボンバード処理は、いずれもステンレス板の両面に対して行った。
続いて、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法により、Crをターゲットとして、ステンレス板に対して50Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、ステンレス板の両面にそれぞれ0.2μmの厚さのCrからなる中間層を形成した。
次に、UBMS法により、固体グラファイトをターゲットとして、ステンレス板に対して100Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、ステンレス板の両面の中間層の上に、それぞれ0.2μmの厚さの導電性炭素層(多結晶グラファイト層)を形成した。
さらに、UBMS法により、導電性粒子の原料であるAuをターゲットとして、ステンレス板に対して100Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、ステンレス板の両面の導電性炭素層の上に、導電性粒子を分散させた。これにより、セパレータ(1)を作製した。
[参考例2]
導電性粒子(Au)のスパッタリング時間を変更すること以外は、上述した参考例1と同様の手法により、セパレータ(2)を作製した。
導電性粒子(Au)のスパッタリング時間を変更すること以外は、上述した参考例1と同様の手法により、セパレータ(2)を作製した。
[参考例3]
導電性粒子(Au)のスパッタリング時間を変更すること以外は、上述した参考例1と同様の手法により、セパレータ(3)を作製した。
導電性粒子(Au)のスパッタリング時間を変更すること以外は、上述した参考例1と同様の手法により、セパレータ(3)を作製した。
[比較参考例1]
導電性炭素層の表面に導電性粒子を分散させなかったこと以外は、上述した参考例1と同様の手法により、セパレータ(4)を作製した。
導電性炭素層の表面に導電性粒子を分散させなかったこと以外は、上述した参考例1と同様の手法により、セパレータ(4)を作製した。
[参考例4]
導電性炭素層として、グラファイトブロック(高結晶性グラファイト)をそのまま用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、セパレータ(5)を作製した。
導電性炭素層として、グラファイトブロック(高結晶性グラファイト)をそのまま用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、セパレータ(5)を作製した。
[比較参考例2]
導電性炭素層の表面に導電性粒子を分散させなかったこと以外は、上述した参考例4と同様の手法により、セパレータ(6)を作製した。
導電性炭素層の表面に導電性粒子を分散させなかったこと以外は、上述した参考例4と同様の手法により、セパレータ(6)を作製した。
[SEM観察・被覆率測定]
上記の各参考例および各比較参考例において作成したセパレータ(1)〜(6)について、導電性炭素層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した。
上記の各参考例および各比較参考例において作成したセパレータ(1)〜(6)について、導電性炭素層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した。
これらのうち、セパレータ(1)および(2)における導電性粒子(Au)が分散された導電性炭素層の表面のSEM写真を図10および図11に示す。図10および図11より、導電性粒子(Au)が導電性炭素層の表面に均質に分散されていることが確認される。導電性粒子や金属酸化物を分散させなかったセパレータ(4)以外のセパレータについては、図10および図11と同様に、導電性粒子(Au)が導電性炭素層の表面に均質に分散されていることを確認した。
また、SEM写真から、各セパレータの表面に存在する分散粒子(導電性粒子または金属酸化物)の平均粒子径および分散粒子間の平均距離を算出した。
そして、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)により、導電性炭素層表面に存在する元素の面内分布を調査し、カーボンの占める領域を緑色、導電性粒子(Au)の占める領域を赤色として2値化し、画像処理によって赤色の占める割合を計算し、この値を被覆率(%)として求めた。
各セパレータにおける導電性粒子の粒子径および被覆率を表1に示す。
[AES(オージェ電子分光法)による元素濃度プロファイル解析]
参考例2および比較参考例1で作製したセパレータ(2)および(4)について、セパレータの積層方向の元素濃度プロファイルをAESにより測定した。図12Aおよび図12Bに、セパレータ(2)および(4)におけるオージェ電子分光分析(AES)による導電性炭素層の表面からの深さ方向における元素分布を示す。比較参考例1のセパレータ(4)では、導電性炭素層の表面に導電性粒子は存在しないが、参考例2のセパレータ(2)では、導電性炭素層の表層に導電性粒子(Au)が存在していることが確認された。導電性粒子(Au)は導電性炭素層(C)の表層に存在していた。なお、上記AES測定は下記条件で行った。
参考例2および比較参考例1で作製したセパレータ(2)および(4)について、セパレータの積層方向の元素濃度プロファイルをAESにより測定した。図12Aおよび図12Bに、セパレータ(2)および(4)におけるオージェ電子分光分析(AES)による導電性炭素層の表面からの深さ方向における元素分布を示す。比較参考例1のセパレータ(4)では、導電性炭素層の表面に導電性粒子は存在しないが、参考例2のセパレータ(2)では、導電性炭素層の表層に導電性粒子(Au)が存在していることが確認された。導電性粒子(Au)は導電性炭素層(C)の表層に存在していた。なお、上記AES測定は下記条件で行った。
AES装置名:電界放射型オージェ電子分分光装置 PHI製 Model−680
データポイント数は256×256 電子線加速電圧10kV
[接触抵抗の測定]
上記の各参考例および比較参考例において作製したセパレータについて、セパレータの積層方向の接触抵抗の測定を行なった。具体的には、図13に示すように、作製したセパレータ200を1対のガス拡散基材210で挟持し、得られた積層体をさらに1対の触媒層220で挟持し、その両端に電源を接続し、1MPaの荷重で保持して、測定装置を構成した。ガス拡散基材としては、カーボンファイバー(東レ製、平均繊維径7μm)を用いた。この測定装置に1Aの定電流を流し、その際の電圧値から、積層体の接触抵抗値を算出した。得られた結果を下記の表1に示す。また、表1に示す接触抵抗に関する結果に対応するグラフを図14に示す。
データポイント数は256×256 電子線加速電圧10kV
[接触抵抗の測定]
上記の各参考例および比較参考例において作製したセパレータについて、セパレータの積層方向の接触抵抗の測定を行なった。具体的には、図13に示すように、作製したセパレータ200を1対のガス拡散基材210で挟持し、得られた積層体をさらに1対の触媒層220で挟持し、その両端に電源を接続し、1MPaの荷重で保持して、測定装置を構成した。ガス拡散基材としては、カーボンファイバー(東レ製、平均繊維径7μm)を用いた。この測定装置に1Aの定電流を流し、その際の電圧値から、積層体の接触抵抗値を算出した。得られた結果を下記の表1に示す。また、表1に示す接触抵抗に関する結果に対応するグラフを図14に示す。
表1および図14に示すように、参考例において作製したセパレータの場合には、比較参考例の場合と比べて、接触抵抗が小さい値に抑えられており、被覆率が1%以上である場合には、接触抵抗が有意に低減されていることがわかる。さらに、被覆率が10%以上である場合には、接触抵抗が極めて小さい値に抑えられることが確認された。
また、多結晶グラファイトを用いた場合(参考例1〜3)は、グラファイトブロックを用いた場合(参考例4)に比べて、低被覆率で顕著に接触抵抗を減少することができることが確認される。多結晶グラファイトの場合には、グラファイトブロックに比べて表面粗さが小さいため、ガス拡散基材との接点を多く確保することができ、これにより一層の抵抗低減効果が得られたためであると推測される。
[接触角の測定]
上記の各参考例および比較参考例において作製したセパレータ(1)〜(6)について、JIS K6768に基づき、導電性粒子の分散された導電性炭素層の表面における水の接触角を測定した。結果を得られた結果を下記の表1に示す。また、表1に示す接触角に関する結果に対応するグラフを図15に示す。
上記の各参考例および比較参考例において作製したセパレータ(1)〜(6)について、JIS K6768に基づき、導電性粒子の分散された導電性炭素層の表面における水の接触角を測定した。結果を得られた結果を下記の表1に示す。また、表1に示す接触角に関する結果に対応するグラフを図15に示す。
この結果から、各参考例において作製した被覆率が1%以上であるセパレータの場合には、比較例の場合と比べて、導電性炭素層の表面における水の接触角が70°以下に抑えられていることがわかる。さらに、被覆率が10%以上である場合には、接触角の値が減少し、親水性が極めて向上することが確認された。
接触角については、多結晶グラファイトを用いた場合(参考例1)においては、4%程度の低被覆率で接触角を70°以下に低下させうることが確認された。また、グラファイトブロックを用いた場合(参考例4)においても、4%程度の低被覆率で接触角を70°以下に低下させうることが確認された。
[R値の測定]
上記の各参考例および比較参考例において作製したセパレータについて、導電性炭素層のR値の測定を行なった。具体的には、まず、顕微ラマン分光器を用いて、導電性炭素層のラマンスペクトルを計測した。そして、1300〜1400cm−1に位置するバンド(Dバンド)のピーク強度(ID)と、1500〜1600cm−1に位置するバンド(Gバンド)のピーク強度(IG)とのピーク面積比(ID/IG)を算出して、R値とした。得られた結果を下記の表1および2に示す。
上記の各参考例および比較参考例において作製したセパレータについて、導電性炭素層のR値の測定を行なった。具体的には、まず、顕微ラマン分光器を用いて、導電性炭素層のラマンスペクトルを計測した。そして、1300〜1400cm−1に位置するバンド(Dバンド)のピーク強度(ID)と、1500〜1600cm−1に位置するバンド(Gバンド)のピーク強度(IG)とのピーク面積比(ID/IG)を算出して、R値とした。得られた結果を下記の表1および2に示す。
表1に示すように、参考例1〜3および比較参考例1において作製したセパレータにおける導電性炭素層のR値は、いずれも1.3以上であった。一方、参考例4および比較参考例2において作製したセパレータにおける導電性炭素層のR値は、いずれも1.3未満であった。表1から、R値が1.3以上である参考例1において作製したセパレータを用いた場合には、R値以外は同様の条件で作成したR値が1.3未満である参考例4の場合と比べて、接触抵抗をより小さい値に抑えられることが確認された。
1 固体高分子形燃料電池(PEFC)、
2 固体高分子電解質膜、
3a アノード触媒層、
3c カソード触媒層、
4 ガス拡散層、
4a アノードガス拡散層、
4c カソードガス拡散層、
5、200 セパレータ、
5a アノードセパレータ、
5c カソードセパレータ、
6a アノードガス流路、
6c カソードガス流路、
7 冷媒流路、
8 積層構造体、
8a アノード積層構造体、
8c カソード積層構造体、
9 接触領域、
10 膜電極接合体(MEA)、
52 金属基材層、
54 導電性炭素層、
56 中間層、
57 親水導電性粒子、
58 炭素繊維またはカーボン粒子、
59 空孔、
60 多孔性金属、
61 貫通孔、
100 燃料電池車、
101 燃料電池スタック、
210 ガス拡散基材、
220 触媒層。
2 固体高分子電解質膜、
3a アノード触媒層、
3c カソード触媒層、
4 ガス拡散層、
4a アノードガス拡散層、
4c カソードガス拡散層、
5、200 セパレータ、
5a アノードセパレータ、
5c カソードセパレータ、
6a アノードガス流路、
6c カソードガス流路、
7 冷媒流路、
8 積層構造体、
8a アノード積層構造体、
8c カソード積層構造体、
9 接触領域、
10 膜電極接合体(MEA)、
52 金属基材層、
54 導電性炭素層、
56 中間層、
57 親水導電性粒子、
58 炭素繊維またはカーボン粒子、
59 空孔、
60 多孔性金属、
61 貫通孔、
100 燃料電池車、
101 燃料電池スタック、
210 ガス拡散基材、
220 触媒層。
Claims (13)
- 金属基材層および導電性炭素層が積層されてなる燃料電池用セパレータと、複数の空孔を有するガス拡散基材を含むガス拡散層とが前記導電性炭素層と前記ガス拡散層とが対向するように積層されてなる積層構造体において、
前記導電性炭素層の表面であって前記ガス拡散層と接する接触領域に親水導電性粒子が分散されており、
前記導電性粒子の粒子径および前記導電性粒子間の距離が前記ガス拡散基材の空孔間距離以下である、積層構造体。 - 前記導電性炭素層のラマン散乱分光分析により測定されたDバンドピーク強度(ID)とGバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)が1.3以上である、請求項1に記載の積層構造体。
- 前記ガス拡散基材が炭素繊維から構成され、
前記導電性粒子の粒子径および前記導電性粒子間の距離が前記炭素繊維の直径以下である、請求項1または2に記載の積層構造体。 - 前記ガス拡散基材が多孔性金属から構成され、
前記導電性粒子の粒子径および前記導電性粒子間の距離が前記多孔性金属の空孔間距離以下である、請求項1または2に記載の積層構造体。 - 前記導電性粒子による前記接触領域の被覆率が1%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層構造体。
- 前記接触領域における水の接触角が70°以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層構造体。
- 前記導電性粒子は貴金属、貴金属を含む合金、導電性窒化物、および導電性酸化物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層構造体。
- 前記金属基材層と前記導電性炭素層との間に、中間層が介在する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層構造体。
- 前記導電性粒子の粒子径および前記導電性粒子間の距離が1nm〜7μmである、請求項1〜8に記載の積層構造体。
- 金属基材層の少なくとも一方の主表面に導電性炭素層を成膜する工程と、
前記導電性炭素層の表面に親水導電性粒子を分散させる工程と、
前記導電性粒子を分散させた領域に接触するようにガス拡散層を配置させる工程と、
を含む、積層構造体の製造方法であって、
前記導電性粒子の分散を、スパッタリング法により行なうことを特徴とする、積層構造体の製造方法。 - 金属基材層の少なくとも一方の主表面に導電性炭素層を成膜する工程と、
前記導電性炭素層の表面に親水導電性粒子を分散させる工程と、
前記導電性炭素層の表面にガス拡散層を配置させる工程と、
を含む、積層構造体の製造方法であって、
前記導電性粒子の分散を、メッキ法により行なうことを特徴とする、積層構造体の製造方法。 - 請求項1〜9のいずれか1項に記載の積層構造体または請求項10もしくは11に記載の製造方法により製造された積層構造体を用いて構成される固体高分子形燃料電池。
- 請求項12に記載の固体高分子形燃料電池を搭載した車両。
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JP2007207718A (ja) * | 2006-02-06 | 2007-08-16 | Tokai Univ | 燃料電池用セパレータおよびその製造方法 |
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