以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、測定対象ワークとして、ねじの呼びがM3で呼び長さが30mmの六角穴付きボルトを主として述べるが、これは説明のための例示である。ねじの種類としてはメートル並目ねじの他に、メートル細目ねじ、管用テーパねじ、管用平行ねじ、ウイットウォース並目ねじ、ユニファイ並目ねじ、ユニファイ細目ねじ、ミニチュアねじ、メートル台形ねじであってもよい。また、呼び長さは30mm以外のものであってもよい。頭部穴は頭部に設けられる締付工具用の回し溝または回し穴で、六角穴の他に、すりわり(マイナス溝)、十字穴、プラスマイナス穴、四角穴、トルクス(登録商標)やその改良版であるトルクス・プラス(登録商標)等の六角星形の穴であるヘクスローブ穴、三角穴であってもよい。また、頭部を有しなくてもよく、頭部を有しても頭部穴を有しないものでもよい。
以下で述べる形状、寸法、材質、測定箇所等は、説明のための例示であって、ねじ寸法自動測定システムの仕様等に合わせ、適宜変更が可能である。また、以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、実施の形態のねじ寸法自動測定システム10の構成図である。ねじ寸法自動測定システム10は、ねじ寸法自動測定装置12と、演算制御装置100と、空圧制御装置102を含んで構成される。ねじ寸法自動測定装置12は、防振台14と、防振台14の上に設けられる筐体15の内部に配置される基台16を含んで構成される。図1には、ねじ寸法自動測定装置12の正面図が示される。図2には、ねじ寸法自動測定装置12の筐体15の内部の部分についての左側面図と上面図が示される。図2の(a)は左側面図、(b)は上面図である。図1,2に、直交するX方向とY方向とZ方向を示した。XZ平面は基台16の上面に平行な面で、基台16の上面に垂直な方向が重力方向に平行なY方向である。X方向は、左側面図における左右方向で、Z方向は正面図における左右方向である。
ねじ寸法自動測定装置12の構成要素ではないが、測定対象のワーク8を示した。ワーク8は、ねじの呼びがM12で呼び長さが30mmの六角穴付ボルトである。ワーク8の軸方向はY方向に平行な方向である。換言すればY方向はワーク8の軸方向である。
基台16の上面からY方向に平行に立設される柱部18,19と、2つの柱部18,19の上端部を接続する天板部20とは、基台16とともに枠空間を形成する。柱部18,19の互いに向かい合う面にはそれぞれガイドレール22,23が設けられ、ガイドレール22,23で挟まれる内側には、ねじ柱24,25が基台16の上面からY方向に平行に立設される。ねじ柱24,25は、外周面に軸方向に沿っておねじが刻まれ、基台16に回転自在に支持される回転可能な軸柱である。ねじ柱24,25の−Y方向の端部は、基台16の上面板から下方に突出し、プーリがそれぞれ設けられる。
Yステージ26は、図2(b)に示されるようにZ方向の両端にガイドレール22,23に摺動可能なスライド部を有し、2組の軸受部27,28が設けられて上面が平坦なテーブル台である。2組の軸受部27,28のうち、一方の軸受部27は、ガイドレール22の+Z側に設けられ、他方の軸受け部28は、ガイドレール23の−Z側に設けられる。2組の軸受部27,28は、ねじ柱24,25の外周に刻まれたねじと噛み合うボールナットで構成される。外周におねじが刻まれたねじ柱24,25とボールナットを含む軸受部27,28は、ボールねじ機構を構成し、ねじ柱24,25は、ボールねじ機構用のボールねじに相当する。Yステージ26は、このボールねじ機構の作用により、ねじ柱24,25が回転駆動されることでガイドレール22,23に案内されてY方向に移動する移動テーブルである。
基台16には、ねじ柱24,25を回転駆動するサーボモータであるYモータ29が取り付けられる。Yモータ29の出力軸は基台16の上面板から下方に突出し、プーリが設けられる。ベルト31は、Yモータ29の出力軸に設けられるプーリと、ねじ柱24,25の−Y方向の端部に設けられるプーリとの間に架設される動力伝達部材である。かかる3つのプーリとしては、周方向に沿って凹凸が設けられるタイミングプーリを用いることができ、ベルト31としては、表面に凹凸を有するタイミングベルトを用いることができる。Yモータ29としてはACサーボモータを用いることができる。
Yモータ29は、演算制御装置100の制御の下で駆動され、ねじ柱24,25を回転させてYステージ26をY方向に昇降させる昇降用モータである。Yモータ29にはその出力軸の回転状態を検出するセンサ30が設けられる。ねじ柱24,25のそれぞれの回転状態を検出するセンサを設けることもできる。かかるセンサ30としては、エンコーダを用いることができる。センサ30によって検出された検出データは適当な信号線を用いて演算制御装置100に伝送される。演算制御装置100は、伝送されたデータに基づき、Yステージ26のY方向位置を算出する。このように、Yモータ29またはねじ柱24,25に設けられるセンサ30は、Yステージ26のY方向位置を検出するYセンサである。Yセンサとしてのセンサ30としては、Yモータ29の回転状態を検出するセンサに代えて、Yステージ26のY方向位置を直接的に検出する位置センサを用いてもよい。位置センサとしては、リニアスケール方式の光学センサ、磁性体の変位を検出する差動トランス式の変位センサ、容量式の変位センサ等を用いることができる。
Yモータ29、ベルト31、ねじ柱24,25、Yステージ26に設けられる軸受部27,28は、Yステージ26を基台16に対しY方向に移動する軸方向移動部を構成する。
Yステージ26の上面に搭載される光学的計測装置32は、ワーク8の寸法、形状を光学的に非接触的に測定する測定装置である。光学的計測装置32は、ワーク8の軸方向及び軸周りの寸法を測定する画像投影部34と、ワーク8の頭部の寸法形状及び頭部穴の深さを測定する頭部計測部40とを含んで構成される。
画像投影部34は、ワーク8のY方向中心線に対しZ方向の一方側に配置され平行光線を出力する光源36と、ワーク8のY方向中心線に対しZ方向の他方側に配置され、光源36からの平行光線を受けてワーク8の影となる投影形状について光源36と同一の受光光軸を有し光軸に平行な成分のみをXY平面に平行な撮像面上に結像させて撮像するテレセントリック光学系の投影撮像カメラ38とを有する。かかる光源36としては、コリメータ等の適当な光線平行化手段を有する光源や、テレセントリック光学系を含む光源を用いることができる。かかる投影撮像カメラ38としては、CCDイメージセンサを用いたCCDカメラやCMOSイメージセンサを用いたカメラ装置を用いることができる。例えば、1画素が約8μmで、撮像面の大きさが約20mm角であるCCDカメラを用いることができる。
画像投影部34の光源36の配置位置は、Yステージ26の中心から+Z側に設けられ、Yステージ26に対し固定される。投影撮像カメラ38は、Yステージ26の中心から−Z側に設けられるが、Yステージ26上に設けられる合焦移動部50の上に搭載され、Z方向に移動可能である。投影撮像カメラ38と合焦移動部50を合わせたものが投影撮像部である。
合焦移動部50は、Yステージ26に対しZ方向に移動可能なZステージ52と、Zステージ52をZ方向に沿って移動駆動するZモータ54とを含んで構成される。Zモータ54の動作は、演算制御装置100によって制御される。合焦移動部50の機能については、図8を用いて後述する。かかるZモータ54としては、ACサーボモータまたはDCサーボモータを用いることができる。
頭部計測部40は、ワーク8の頭部穴の形状をXZ平面に平行な撮像面上で撮像する頭部撮像カメラ42と、ワーク8のY方向に対し所定の傾斜角度で、XZ平面上で直線状に延びるビームをワーク8の頭部の上面と頭部穴の底面とに跨って照射するレーザ光源44を含んで構成される。レーザ光源44のビームは、Z方向に平行に直線状に延びる。アクチュエータ45はレーザ光源44をY方向に沿って移動させる駆動手段である。アクチュエータ45としては、小形のモータを用いることができる。かかる直線状に延びるレーザビームを用いる頭部穴深さ測定方法については、図7を用いて後述する。
頭部撮像カメラ42は、ワーク8の頭部の上面に向かい合い撮像面がXZ平面に平行な撮像カメラである。かかる頭部撮像カメラ42としては、CCDイメージセンサを用いたCCDカメラまたはCMOSイメージセンサを用いたカメラ装置を用いることができる。リング照明部46は、頭部撮像カメラ42の−Y方向側に設けられ、ワーク8の上面を照明する環状ランプである。頭部撮像カメラ42とレーザ光源44とリング照明部46は、相対的な配置関係の位置決めを行って、いずれも取付板48に固定して取り付けられる。
退避移動部56は、取付板48をX方向に移動可能とする機構で、X方向に沿って移動可能なXステージ58と、Xステージ58を所定の移動距離Lで±X方向に移動させるピストン・シリンダ機構60を含んで構成される。ピストン・シリンダ機構60は、演算制御装置100の制御の下で動作し、空圧制御装置102から供給される空気圧によってピストンを±Lの距離で往復移動させることができる。
ピストンが+L移動すると、取付板48に取り付けられた頭部撮像カメラ42とレーザ光源44とリング照明部46が一体となって+X方向に移動して、ちょうど頭部撮像カメラ42の光軸がワーク8の頭部の中心に来る。この状態が、頭部形状の測定と穴深さの測定を行うことができる測定状態である。ピストンが−L移動すると、取付板48に取り付けられた頭部撮像カメラ42とレーザ光源44とリング照明部46が一体となって−X方向に退避移動する。この状態は、Yステージ26が−Y方向に下降しても、ワーク8に頭部撮像カメラ42等が干渉しない退避状態である。
把持部68は、把持回転部62を介して基台16上に配置され、ワーク8のおねじの軸方向の一方端を把持する装置である。把持部68は、円板状の外形を有するアダプタ80とアダプタ80の外周側面を少なくとも3点で挟持して固定する締付チャック70とを含んで構成される。把持回転部62は、締付チャック70を軸方向周りに360度回転させるθモータ64と、θモータ64と締付チャック70との間に設けられるロータリジョイント部66を含んで構成される。
ロータリジョイント部66は、空圧制御装置102からの空気圧を締付チャック70に供給する際の空気圧中継部である。ロータリジョイント部66は、空気圧を供給するための供給チューブが締付チャック70の軸方向回転によって絡まないように中継する機能を有する。θモータ64の回転動作は、演算制御装置100によって制御される。かかるθモータ64としては、ACサーボモータまたはDCサーボモータを用いることができる。
図3は、把持部68の詳細を示す分解図である。ここでは、把持部68を構成する締付チャック70と、締付チャック70によって固定されるアダプタ80と、アダプタ80に把持されるワーク8のそれぞれの詳細構成が示される。図3の(a)から(c)は、締付チャック70とアダプタ80とワーク8のそれぞれの断面図を示し、(d)はアダプタ80の分解図を示し、(e)から(g)は、締付チャック70とアダプタ80とワーク8のそれぞれの上面図を示す。
ワーク8は、おねじ部2と、頭部4と、おねじ部2と頭部4の間の首下部3とを含んで構成され、頭部4には六角形の頭部穴6が設けられる。ワーク8は、M12のねじ呼びで、呼び長さが30mmのメートル並目ねじである。日本工業規格値によれば、おねじ部2においてねじが固定できる長さは約30mm、おねじ部2の最大径は約13.7mm、ねじのピッチは1.75mm、頭部4の基準外形寸法は18mm、頭部4の基準高さ寸法は12mm、頭部穴6は六角形穴で、二面幅の呼び寸法は10mm、穴深さの最小寸法は6mm、首下部3の丸みの最大状態の半径である首下Rは最小で0.6mmである。二面幅とは、六角形の向かい合う辺の間の寸法である。頭部穴6の底面は平坦ではなく、開き角度120度を有する円錐形である。おねじ部2の不完全ねじ部は、最大で2ピッチで、今の場合、2ピッチ=3.50mmである。
締付チャック70は、支持台72の上に互いに先端部が向かい合う3つのスライド台74a,74b,74cが配置される。初期状態では、3つのスライド台74a,74b,74cが支持台72の外周側に退避した状態である。空圧制御装置102から供給される空気圧で動作するピストン・シリンダ機構のピストン78a,78bによって、スライド台74a,74b,74cの3つが同期して、支持台72の外周側と中心軸側との間で移動駆動される。
3つのスライド台74a,74b,74cにはそれぞれ挟持爪部76a,76b,76cが取り付けられる。3つの挟持爪部76a,76b,76cの先端部はそれぞれ支持台72の中心軸の方向を向くように配置される。初期状態では挟持爪部76a,76b,76cも支持台72の外周側に退避した状態である。3つのスライド台74a,74b,74cが同期して支持台72の中心軸の方向に移動駆動されることで、挟持爪部76a,76b,76cの先端部は同期して支持台72の中心軸の方向に集まるように移動し、支持台72の中心に配置されるアダプタ80を中心軸の位置に合うようにセンタリングしながらアダプタ80の外周側面を挟持して固定する締付状態となる。このように、締付チャック70は、退避状態と締付状態との間で空気圧によって移動駆動される三つ割チャック機構である。
締付チャック70のセンタリング挟持動作は、演算制御装置100の制御の下で行われる。締付チャック70によるアダプタ80の挟持は、3つの挟持爪部76a,76b,76cの先端部で行われる。3つの挟持爪部76a,76b,76cの先端部はそれぞれ平坦面であるので、アダプタ80の外形が円板状であるときには、その外周側面が3点、正確には、軸方向に沿った3本の接線で挟持される。アダプタ80の外周側面の挟持は少なくとも3点で行えばよい。例えば、挟持爪部の先端部の形状をV字形として、互いに向かい合う2つの挟持爪部でアダプタ80の外周側面を挟持する構造としてもよい。この場合には、4点でアダプタ80の外周側面が挟持される。
アダプタ80は、締付チャック70に挟持される円板状の外形部を有し、ワーク8のおねじ部2の先端部をねじ込んだときに、ワーク8の軸方向がぶれないように固定できる所定の噛み合わせ長さのめねじを一方端面の中心に有するワーク固定治具である。
アダプタ80は、ワーク8のおねじ部2の先端部が所定の噛み合わせ長さでねじ込まれるリングゲージ82aと、締付チャック70によって挟持される円板状の外形部を有するホルダ86と、リングゲージ82aとホルダ86の間に配置されるスペーサ84aとが一体化して構成される。
リングゲージ82aは、円板状の形状を有し、その中心軸に沿って基準めねじ83aが刻まれた部材である。基準めねじ83aは、ワーク8のおねじ部2のねじ寸法に対応し予め定めた噛み合い精度を有するめねじである。かかるリングゲージ82aは、ねじ検査に用いられるねじ外径ゲージをそのまま用いることができる。標準的なねじ外径ゲージは、M12の場合、8ピッチの基準めねじ83aが刻まれる。1ピッチ=1.75mmであるので、リングゲージ82aの厚さは、8ピッチ=14.00mmに正確に管理されている。基準めねじ83aは、不完全ねじ部を有しない。
ワーク8のおねじ部2の先端部は、リングゲージ82aの一方端面側である上面側から所定の噛み合わせ長さでねじ込まれる。所定の噛み合わせ長さは、ワーク8のおねじ部2の先端部をリングゲージ82aの基準めねじ83aにねじ込んで噛み合わせたときに、ワーク8の軸方向にぶれない程度に設定される。ワーク8の軸方向のぶれ量はゼロであることが好ましいが、ワーク8の各種寸法の測定精度に影響がない範囲であれば許容される。ワーク8が良品であれば、ワーク8のおねじ部2の有効ねじ部を約1ピッチ分、リングゲージ82aの基準めねじ83aに噛み合わせれば、ほぼワーク8の軸方向のぶれが許容範囲に収まる。ワーク8のおねじ部2は最大で2ピッチ分の不完全ねじ部を有するので、ワーク8のねじ込み量である所定の噛み合わせ長さは、(不完全ねじ部のピッチ数分の長さ+完全ねじ部の1ピッチ分の長さ)よりもできるだけ長く設定することが好ましい。
リングゲージ82aは、ワーク8のねじ検査に用いることができる高精度を有するので、ワーク8が所定の噛み合わせ長さでリングゲージ82aにねじ込むことができないときは、そのワーク8は不良品とされる。したがって、ワーク8のリングゲージ82aの基準めねじ83aにねじ込まれた先端部については、良品部分であると判定される。しかしながら、その部分は、ねじ寸法自動測定システム10による定量的な測定が行われないので、所定の噛み合わせ長さはできるだけ短く設定することが好ましいことになる。このように、ワーク8の軸方向のぶれを少なくしたい観点と、ねじ寸法自動測定システム10による定量的な測定が行える範囲を広くしたい観点とは相反する。
そこで、以下では、所定の噛み合わせ長さ=ワーク8のおねじ部2の3ピッチ分の長さ=5.25mmとする。所定の噛み合わせ長さを1ピッチの長さの整数倍である3ピッチ分の長さとするのは、ワーク8のおねじ部2の先端部のリングゲージ82aへのねじ込み深さを1ピッチの整数倍の正確な値とするためである。ワーク8がM12のねじ呼びで呼び長さが30mmのメートル並目ねじであり、日本工業規格値によればおねじ部2の不完全ねじ部は最大で2ピッチである。そこで、この最大の2ピッチに1ピッチを加算して、少なくとも1ピッチは完全ねじ部で噛み合わせられるように、所定の噛み合わせ長さを3ピッチ分の長さとした。
なお、品質レベルの低いワーク8の場合は、不完全ねじ部が2ピッチ以上あることもあり、噛み合わせ長さが3ピッチ分の長さとしてもワーク8が軸方向にぶれることがある。そのような場合には、所定の噛み合わせ長さを3ピッチ分の長さから1ピッチ分の長さを単位として長くする。例えば、所定の噛み合わせ長さを4ピッチ分の長さ、あるいは5ピッチ分の長さとする。逆に、高精度用に加工されたねじ等の場合で不完全ねじ部が1ピッチ以下で収まる場合には、所定の噛み合わせ長さを3ピッチ分の長さから1ピッチ分の長さ単位で短くしてもよい。例えば、所定の噛み合わせ長さを2ピッチ分の長さとしてもよい。所定の噛み合わせ長さの1ピッチ単位の調整は、後述するように、スペーサ84aの枚数を増減することによって行われる。
ホルダ86は、リングゲージ82aの基準めねじ83aに噛み合うおねじ92aが突き出る一方端面である上面を有する円板状の部材である。リングゲージ82aにワーク8のおねじ部2がねじ込まれる側をリングゲージ82aの上面側とすると、ホルダ86のおねじ92aは、リングゲージ82aの下面側からねじ込まれる。ホルダ86の円板状の部分は、締付チャック70によって挟持されたときにY方向の位置決めが正確に行われるように、挟持リング部88と、これより外径の大きなストッパ鍔部90を有する。挟持リング部88は、ワーク8の呼び寸法が異なっても同じ外径を有することが締付チャック70を標準化できるので好ましい。ここでは、挟持リング部88の外径を20mm、ストッパ鍔部90の外径を35mmとした。ストッパ鍔部90の−Y方向側の端面である下面が締付チャック70の3つの挟持爪部76a,76b,76cの上面に当接することで、ホルダ86が締付チャック70によって挟持されるときのY方向位置決めが正確に行われる。なお、ストッパ鍔部90の外周を一部切り欠くことで、ホルダ86を作業台等に置いたときにホルダ86が転がることを防ぐことができる。
おねじ92aは、ホルダ86のストッパ鍔部90の一方側端面である上面から予め設定された突出し量で突き出す。おねじ92aは、不完全ねじ部を有していても構わない。
おねじ92aがリングゲージ82aの基準めねじ83aにねじ込まれる長さは、{(リングゲージ82aの厚さ)−(リングゲージ82aにワーク8のおねじ部2が噛み合う所定の噛み合わせ長さ)}に正確に設定される。上記の場合、{(リングゲージ82aの厚さ)−(リングゲージ82aにワーク8のおねじ部2が噛み合う所定の噛み合わせ長さ)}={(8ピッチの長さ)−(3ピッチの長さ)}=(5ピッチの長さ)=(14.00mm−5.25mm)=8.75mmに設定される。
おねじ92aのストッパ鍔部90からの所定の突出し量は、この(5ピッチの長さ)=8.75mmとすることも可能ではあるが、おねじ92aに首下部ができることを考慮して、(5ピッチの長さ)=8.75mmよりも長く設定することがよい。長く設定するときは、ピッチの整数倍の長さ分を長くする。これにより、おねじ92aの突出し量が正確にピッチの整数倍となり、ワーク8のおねじ部2の先端部のリングゲージ82aへのねじ込み深さを1ピッチの整数倍の正確な値とすることができる。ここでは、おねじ92aの突出し量=(7ピッチの長さ)=12.25mmとする。
リングゲージ82aの下面側からホルダ86のおねじ92aをリングゲージ82aの基準めねじ83aに噛み合わせ、リングゲージ82aの上面側からワーク8のおねじ部2の先端をリングゲージ82aの基準めねじ83aにねじ込むと、ワーク8のおねじ部2の先端部はホルダ86のおねじ92aの先端のところで止まる。ワーク8のおねじ部2の先端部のリングゲージ82aへのねじ込み深さは、(リングゲージ82aにワーク8のおねじ部2が噛み合う所定の噛み合わせ長さ)で、{(リングゲージ82aの厚さ)−(リングゲージ82aにホルダ86のおねじ92aがねじ込まれる長さ)}である。
上記のように、ホルダ86のおねじ92aの突出し量が1ピッチ分の長さ単位で変更されることがあり、また、既に述べたように、リングゲージ82aにワーク8のおねじ部2が噛み合う所定の噛み合わせ長さも1ピッチ分の長さ単位で調整されることがある。このような場合でも、ワーク8のおねじ部2の先端部のリングゲージ82aへのねじ込み深さは、1ピッチの整数倍の正確な値とする。このようにすることで、リングゲージ82aの上面のY位置の測定値から、ワーク8のおねじ部2の先端部のY位置を正確に求めることができる。スペーサ84aは、この1ピッチ長さ単位の調整のために用いられる。
スペーサ84aは、おねじ92aが通り抜けられる貫通穴を中心に有する環状薄板である。1枚のスペーサ84aは、正確にワーク8の1ピッチに対応する厚さを有する。図3では、スペーサ84aの枚数を2枚として示したが、以下のいくつかの例に述べるように、枚数は2枚に限られず、1枚の場合もあり、3枚の場合もある。上記の例で、リングゲージ82aの厚さ=8ピッチ分の長さで、ホルダ86のおねじ92aの突出し量が7ピッチに相当する長さの場合は、ホルダ86のストッパ鍔部90とリングゲージ82aとの間に1ピッチ分の厚さを有するスペーサ84aを2枚挿入する。これによって、ワーク8のおねじ部2の先端部とリングゲージ82aとの所定の噛み合わせ長さ=[(リングゲージ82aの厚さ)−{(おねじ92aの突出し量)−(スペーサ84aの厚さ)}]=[(8ピッチ分の長さ)−{(7ピッチ分の長さ)−(2ピッチ分の長さ)}]=3ピッチ分の長さとなる。このようにすることで、リングゲージ82aの上面のY位置の測定値から、3ピッチ分だけ−Y方向に下がった位置を、ワーク8のおねじ部2の先端部のY位置として正確に求めることができる。
ワーク8のおねじ部2の先端部とリングゲージ82aとの所定の噛み合わせ長さを3ピッチ分の長さから変更する必要があるときは、スペーサ84aの挿入枚数を増減すればよい。例えば、ワーク8のおねじ部2の不完全ねじ部の長さ等の理由によって所定の噛み合わせ長さを3ピッチ分から4ピッチ分へ長くしたいときは、上記の例で、スペーサ84aの挿入枚数を1枚増やす。これによって、リングゲージ82aの上面のY位置の測定値から、4ピッチ分だけ−Y方向に下がった位置をワーク8のおねじ部2の先端部のY位置として正確に求めることができる。所定の噛み合わせ長さが2ピッチ分で足りるときは、上記の例で、スペーサ84aの挿入枚数を1枚減らす。これによって、リングゲージ82aの上面のY位置の測定値から、2ピッチ分だけ−Y方向に下がった位置を、ワーク8のおねじ部2の先端部のY位置として正確に求めることができる。
ホルダ86のおねじ92aの突出し量を7ピッチ分の長さから変更する必要がある場合も、スペーサ84aの挿入枚数を増減すればよい。例えば、ホルダ86のおねじ92aの首下部の長さ等の理由からおねじ92aの突出し量を7ピッチ分から8ピッチ分の長さとしたいときは、スペーサ84aの挿入枚数を1枚増やす。おねじ92aの突出し量が6ピッチ分で済むときは挿入枚数を1枚減らす。これによって、いずれの場合も、リングゲージ82aの上面のY位置の測定値から、3ピッチ分だけ−Y方向に下がった位置をワーク8のおねじ部2の先端部のY位置として正確に求めることができる。
このように、スペーサ84aの枚数の増減のみで、ワーク8のおねじ部2の不完全ねじ部の長さやホルダ86のおねじ92aの首下部の長さ等のばらつきに広範囲に対応して、ワーク8のおねじ部2の先端部の位置を、アダプタ80のリングゲージ82aの上面から正確に1ピッチの長さの整数倍の長さだけ−Y方向に下がった位置とすることができる。これによって、ワーク8のおねじ部2の先端部がアダプタ80によって把持されても、アダプタ80のリングゲージ82aの上面のY位置を測定することで、ワーク8の全長を計算で算出することができる。
ここで、アダプタ80を構成するリングゲージ82aとスペーサ84aとホルダ86のおねじ92aは、ワーク8の種類によってそれぞれ異なる厚さやねじ部を有するが、挟持リング部88とストッパ鍔部90は、ワーク8の種類によらず共通の形状と寸法を有する。
図4は、ワーク8の種類によって異なるアダプタの例を示す図である。ここでは、3つのワーク8の種類に対応するアダプタを示すが、これ以外の異なる種類のワーク8のアダプタも同様の構造とすることができる。図4(a)は、ワーク8のねじの呼びがM12の場合で、図3で説明したアダプタ80と同じである。
図4(b)は、ワーク8のねじの呼びがM6の場合のアダプタ80bを示す図である。挟持リング部88とストッパ鍔部90は、(a)と同じである。ここで、M6のピッチは1.00mmであるので、リングゲージ82bの厚さは8ピッチ=8.00mm、1枚のスペーサ84bの厚さは1ピッチ=1.00mm、ストッパ鍔部90からのおねじ92bの突出し量は7ピッチ=7.00mmである。
図4(c)は、ワーク8のねじの呼びがM3の場合のアダプタ80cを示す図である。挟持リング部88とストッパ鍔部90は、(a)と同じである。ここで、M3のピッチは0.50mmであるので、リングゲージ82cの厚さは8ピッチ=4.00mm、1枚のスペーサ84cの厚さは1ピッチ=0.50mm、ストッパ鍔部90からのおねじ92cの突出し量は7ピッチ=3.50mmである。
再び図1に戻り、演算制御装置100は、ねじ寸法自動測定装置12を構成する各要素と空圧制御装置102の動作を全体として制御し、ワーク8の軸方向及び軸周りの寸法を算出し、算出した結果をプリンタ等の出力装置104に伝送し、出力装置104に検査表106としてプリントアウトさせる機能を有する。かかる演算制御装置100は、適当なコンピュータで構成することができる。
演算制御装置100は、ねじ径算出部110、全長算出部112、合焦位置算出部114、輪郭データ算出部116、首下R算出部118、頭部寸法算出部120、頭部穴深さ算出部122、測定データ出力部124を含んで構成される。これらの機能は、演算制御装置100が実行するソフトウェアによって実現でき、具体的には、ねじ自動測定プログラムを実行することで実現できる。これらの機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
上記構成のねじ寸法自動測定システム10の作用、特に演算制御装置100の各機能について、図5から図11を用いてさらに詳細に説明する。図5は、ねじ寸法自動測定システム10における測定の手順を示すフローチャートである。図6は、図5の各手順が行われるワーク8の測定箇所を示す図である。図6(a)は、側面図における測定箇所を示し、(b)は、上面図における測定箇所を示す図である。
ワーク8の測定を行うには、ねじ寸法自動測定システム10の初期化がまず行われる。初期化は、電源をオン状態とし、空圧制御装置102を始動させ、演算制御装置100を初期状態とする。これによって、Yステージ26は所定の初期Y位置に戻る。初期Y位置は、把持部68の先端位置よりもY方向に沿って十分高い位置に設定される。また、Zステージ52は所定の初期Z位置に戻り、Xステージ58は退避状態に戻る。把持部68は所定の初期θ位置に戻る。締付チャック70の3つの挟持爪部76a,76b,76cは退避状態に戻る。
初期化が終わると、把持部68にワーク8をセットする(S10)。図4で説明したように、ワーク8は、おねじ部2の先端部の3ピッチ分が把持部68に把持されて固定される。この処理は、前もってM12用のアダプタ80を準備し、アダプタ80のリングゲージ82aにワーク8のおねじ部2の先端部をねじ込む。M12用のアダプタ80は、所定の噛み合わせ長さがM12のねじの3ピッチ=5.25mmに設定されているので、ワーク8は5.25mmだけねじ込んだところで止まる。次に、ワーク8を把持したアダプタ80を、締付チャック70の退避状態にある3つの挟持爪部76a,76b,76cの間の空間にセットする。ここまでの処理は、作業者の手作業で行われる。
把持部68にワーク8がセットされると、作業者が締付固定ボタン等を押すことで、演算制御装置100が空圧制御装置102に指令を出して、把持部68の締付チャック70のピストン・シリンダ機構に所定の締付用空気圧を供給させる。これによって3つの挟持爪部76a,76b,76cが同期して支持台72の中心軸側に移動し、ワーク8をしっかりと締付固定する。この状態からワーク8の形状寸法の測定が開始する。
S10の後は、頭部寸法測定が行われる(S12)。この処理は、演算制御装置100の頭部寸法算出部120の機能によって実行される。具体的には、Yステージ26を下降させ、頭部撮像カメラ42の焦点位置がちょうどワーク8の頭部4の上面の位置になるようにする。そして、頭部撮像カメラ42でワーク8の頭部4の形状の撮像データを取得し、撮像データを2値化し、エッジ検出法等を用いて、頭部4の直径寸法、頭部穴6の二面幅寸法等を算出する。図6において頭部4の上面図をS12としてこのことを示した。
頭部4の外形は円形であるので、ワーク8を軸周りに1度間隔で360度回転させて、各角度において頭部4の直径寸法の測定を繰り返す。これらの測定結果の最大値と最小値と平均値を、頭部4の直径寸法の測定値とする。頭部穴6の二面幅は六角形の向かい合う辺の間の間隔であり、六角形の向かい合う辺は3組あるので、ワーク8を軸周りに120度間隔で360度回転させて、3組の二面幅の測定を行う。これらの測定結果の最大値と最小値と平均値を、頭部穴6の二面幅の測定値とする。
次に、頭部穴深さ測定が行われる(S14)。頭部穴6はワーク8の頭部に設けられる締結工具用の回し溝または回し穴で、いまの場合六角形穴である。この処理は、演算制御装置100の頭部穴深さ算出部122の機能によって実行される。具体的には、レーザ光源44からワーク8のY方向に対し所定の傾斜角度で、XZ平面上で直線状に延びるビームをワーク8の頭部4の上面と頭部穴6の底面に跨って照射する。そして照射した直線状に延びるビームが頭部4の上面に投影される投影位置と頭部穴6の底面に投影される投影位置のXZ平面上における食い違い量が頭部穴6の深さに応じて異なることを利用する。
図7は、頭部穴6の深さを測定する手順を示す図である。図7(a)は、ワーク8が任意の把持状態にある図であり、(b)は、(a)の状態からワーク8を軸周りにΔθ回転させた状態を示す図であり、(c)は、レーザ光源44をワーク8に対してY方向の位置をΔY移動させて頭部穴深さを測定する状態を示す図である。これらの図において、上段側の図は、頭部4の上面図、下段側の図は、ワーク8の断面図である。
図7(a)は、頭部穴6の六角形の向かい合う辺がZ方向に平行な状態で、レーザ光源44からY方向に対し所定の傾斜角度ψで、直線状に延びるビーム130を頭部の上面5と頭部穴6の底面7に照射した図である。ビーム130は、Z方向に平行に直線状に延びるラインビームである。例えばレーザ光源44が赤色発光型であると、赤色ラインが頭部4の上面5と頭部穴6の底面7に投影される。図7(a)では、頭部4の上面5に投影される赤色ライン132と、頭部穴6の底面7に投影される赤色ライン133を示した。頭部穴6の底面は平坦ではなく、開き角度120度を有する円錐形であるので、底面7に投影される赤色ライン133は、円弧状となる。
頭部穴6の深さを深さゲージで検査するとき、深さゲージは、頭部穴6の六角形の角部の底面9で突き当たる。頭部穴6の六角形の角部の底面9は、開き角度120度を有する円錐形の円錐面である底面7とは異なる。したがって、頭部穴6の深さを光学的に測定するには、頭部穴6の底面に投影される赤色ラインが頭部穴6の六角形の角部の底面9で突き当たるように、ビーム130を照射することが好ましい。図7(a)では赤色ライン133は円錐面である底面7に突き当たり、頭部穴6の六角形の角部の底面9に突き当たっていず、しかも頭部4の上面5の影によって、赤色ライン133は端部が頭部穴6の六角形の辺のところまで延びていない。
図7(b)は、ワーク8を軸周りにΔθ回転させて、六角形の辺がX方向に対し平行とした状態を示す図である。ここでは、頭部4の上面5に投影される赤色ライン134と、頭部穴6の円錐面である底面7に投影される赤色ライン135が示されるが、赤色ライン135の端部が頭部穴6の六角形の辺まで延びている。しかし、赤色ライン135は、頭部穴6の六角形の角部の底面9に突き当たっていない。
図7(c)は、(b)の状態に対し、レーザ光源44のY方向の位置をワーク8に対し+Y方向にΔYずらした状態を示す図である。ΔYの大きさに応じて、ビームが+X方向に移動する。図7(c)では、頭部4の上面5に投影される赤色ライン136と、頭部穴6の底面に投影される赤色ライン137が示される。赤色ライン136,137のX方向位置は、ビーム131のY方向移動量ΔYに応じて移動する。ここでは、頭部穴6の底面に投影される赤色ライン137が頭部穴6の六角形の角部の底面9に突き当たった状態のΔYが示されている。赤色ライン137が頭部穴6の六角形の角部の底面9に突き当たった状態か否かは、頭部撮像カメラ42が取得する頭部4の撮像データに基づいて判断することができる
ΔYは、レーザ光源44をY方向に移動駆動するアクチュエータ45の制御によって任意に設定できる。頭部撮像カメラ42の焦点深度が十分深い場合は、アクチュエータ45を省略し、レーザ光源44の位置をYステージ26に対し固定位置とし、Yステージ26を−ΔYだけ移動させてもよい。
図7(c)において、頭部穴6の深さDは、ビーム131のY方向に対する所定の傾斜角度ψと、赤色ライン136と赤色ライン137のXZ平面上のX位置の食い違い量Lに基づいて、D=Lcotψで算出できる。食い違い量Lは、頭部4の六角形と赤色ライン136の交点のX位置と、頭部4の六角形と赤色ライン137の交点のX位置の差である。このようにして、光学的に非接触で、頭部穴6の深さDの測定が行われる。
頭部穴6が六角形の場合は、ワーク8を軸周りに120度間隔で360度回転させて、上記の測定を繰り返す。これらの測定結果の最大値と最小値と平均値を、頭部穴6の深さ測定値とする。
再び図5に戻り、S14の処理が終わると、頭部撮像カメラ42を用いる測定は終了するので、ピストン・シリンダ機構60を動作させ、Xステージ58を退避状態に戻す。これ以後は、投影撮像カメラ38によって取得されたワーク8の撮像データに基づいて、ワーク8の軸方向及び軸周りの寸法の算出が行われる。
投影撮像カメラ38によって撮像されたワーク8の投影形状データで必要なのは、白データから黒データに遷移する位置のデータである。ワーク8はおねじ部2も頭部4もXZ平面上で円筒状またはこれに螺旋ねじが刻まれたものである。したがって、投影形状で白データから黒データに遷移する位置は、円筒状の縁部で円弧状の曲面の頂点位置となる。このことから、投影撮像カメラ38の焦点位置をこの曲面の頂点位置に合わせる必要がある。また、曲面の表面にごみ等が付着すると、投影形状データにノイズとなる。
図5のS16の合焦位置の算出と、S18の輪郭データの算出は、投影撮像カメラ38によって取得したワーク8の投影形状データから各種寸法の算出を行うに当って前もって行われる処理である。
合焦位置算出(S16)は、演算制御装置100の合焦位置算出部114の機能によって実行される。具体的には、合焦移動部50のZステージ52を移動させ、投影撮像カメラ38の焦点位置をZ方向に移動させ、そのときの白データから黒データへの遷移が最も急峻となるZ位置を求め、これを合焦位置とする。合焦位置算出処理は、いわゆるオートフォーカス処理であるが、一般的なオートフォーカスは、対象物の表面に合焦するものであり、S16の合焦位置算出は、投影形状データが白データから黒データに遷移するエッジ領域において、ワーク8の曲面上に合焦させるときの位置を算出するものである。
図8は、合焦位置の算出方法を示す図である。図8(a)は、ワーク8の輪郭の投影状態を示す図で、(b)は、投影撮像カメラ38の焦点位置がAからEのときの撮像された白黒状態を示す図で、(c)は、白黒状態の変化を階調値Iの変化で示す図で、(d)は、階調値IのZ位置に対する微分波形を示す図で、(e)は、(d)の波形の半値幅ΔZ0.5のZ位置に対する関係を示す図である。
図8(a)は、XZ平面に平行な面における光源36と投影撮像カメラ38とワーク8の関係を示す図である。光源36からの平行光線はワーク8によってさえぎられて、ワーク8の下流側に影領域140が生じる。この影領域を投影撮像カメラ38で撮像すると黒データとなる。白データから黒データに遷移する白黒境界142はワーク8の曲面に接する線で示される。投影撮像カメラ38をワーク8に対し±Z方向に移動させると、その移動距離に相当して投影撮像カメラ38の焦点位置が±Z方向に移動する。図8(a)では、投影撮像カメラ38のZ方向移動量を5通りに変え、そのときのワーク8の曲面上における焦点位置A,B,C,D,Eを示した。
図8(b)は、投影撮像カメラ38の焦点位置がAからEのときに投影撮像カメラ38によって撮像された撮像面における白黒状態を示す図である。白黒状態の程度は、斜線で示した状態が完全黒の状態、細かい点の集合で示した状態が完全黒でもなく完全白でもない状態、斜線も細かい点の集合もない状態が完全白の状態である。光源から見てワーク8の下流側に焦点位置があるときは、白黒境界142付近では完全白でもなく完全黒でもない状態であることが示される。ワーク8の上流側に焦点位置があるときは、ワーク8に対して焦点が合っていないので、全体が完全白でもなく完全黒でもない状態となる。
図8(c)は、(b)の白黒状態の変化を階調値Iの変化で示す図である。横軸はZ位置、縦軸は階調値Iである。焦点位置がCのときにZ位置の変化に対し階調値Iが急激に変化するが、それ以外の焦点位置ではZ位置の変化に対する階調値Iの変化が緩やかになる。
図8(d)は、Z位置の変化に対する階調値Iの変化の程度を明確化するため、階調値IのZ位置に対する微分波形を示す図である。横軸はZ位置、縦軸はdI/dZである。階調値Iの変化はパルス状の波形で示され、そのパルス状の波形のピーク値が大きいほど、またパルス状の波形の半値幅ΔZ0.5が小さいほど、階調値Iの変化が大きい。
図8(e)は、(d)の波形の半値幅ΔZ0.5のZ位置に対する関係を示す図である。横軸はZ位置で、投影撮像カメラ38の焦点位置A,B,C,D,Eも参考に付した。縦軸はΔZ0.5である。ここでは、焦点位置CでΔZ0.5が最小値となる。ΔZ0.5の逆数、または(d)におけるパルス状の波形のピーク値を合焦の評価関数とすれば、評価関数の値が最大値をとるZ位置Z0を算出することで、投影撮像カメラ38の合焦位置を算出することができる。図8(e)の場合、焦点位置がCのときのZ位置がZ0である。投影撮像カメラ38のZ位置がこのZ位置Z0となる状態でZステージ52の位置が固定される。
再び図5に戻り、輪郭データ算出(S18)の処理は、演算制御装置100の輪郭データ算出部116の機能によって実行される。具体的には、ワーク8の投影形状データの白黒境界をワーク8の投影形状の輪郭として輪郭追跡処理を行って1次的なねじ輪郭プロファイルのデータを算出する。そして、この1次的なねじ輪郭プロファイルのデータについて、ワーク8の断面図形から見て異常となるデータをノイズとして除去するスムージング化処理を行って2次的なねじ輪郭プロファイルを算出する。このノイズ除去されたねじ輪郭プロファイルを以後の各種寸法の算出のための輪郭データとする。
図9は、輪郭プロファイルのノイズ除去方法を示す図である。図9(a)は、輪郭追跡処理のルールを示す図である。(b)は、ワーク8について輪郭追跡処理を行って得られた1次的なねじ輪郭プロファイルのデータであり、(c)は、(b)からノイズを除去した輪郭データを示す図である。
輪郭データ算出では、輪郭データの分解能を上げるために、投影撮像カメラ38によって撮像されたワーク8の投影形状データを任意の位置分解能を有するビットマップの2次元データに変換する。例えば、投影撮像カメラ38の撮像面における画素分解能が約8μmであれば、1画素を8×8のサブ画素に分割して位置分解能が1μmの2次元ビットマップに変換される。このようにして、十分な位置分解能を有する2次元ビットマップを得ることができ、以下では、2次元ビットマップのデータを用いて輪郭追跡処理と、ノイズ除去処理が行われる。
図9(a)は、輪郭追跡処理のルールを示す図である。輪郭追跡処理は、2次元ビットマップにおける白黒境界を追跡する処理で、輪郭追跡処理のルールは、1つの黒データの位置から次に黒データがある位置を探すときの順番を決めるルールである。黒データと白データを区別する2値化処理は、データの階調値に対する所定の閾値を用いて行われる。
図9(a)は、輪郭追跡処理についての公知のルールを示す図である。このルールは、1つの黒データの位置の周囲の8つのデータ位置について反時計回りで黒データであるかどうかを順次判断し、最初に黒データとなったデータ位置を次の黒データの位置とするものである。図9(a)の数字1から8は、最初の黒データの位置から次の黒データを探す追跡順番を示すもので、数字1の位置から数字8の位置へ向かって順次追跡が行われる。
図9(b)は、ワーク8の投影形状データを2次元ビットマップデータに変換したものについて、(a)の輪郭追跡処理のルールを適用し、白黒境界の黒データの位置をつないだものである。折れ曲がり線144は、追跡処理の軌跡を示す。斜線を引いたデータ位置が白黒境界の黒データ位置で、これをつないだものが1次的なねじ輪郭プロファイルである。
最初に、2次元ビットマップの左上の位置から右方向に黒データの有無を探す走査を行う。ここでは、上から2行目の走査で、最初の黒データが検出された。これを最初の黒データの位置145とする。この黒データの位置145の周囲の8つのデータ位置を(a)のルールに従って次に黒データとなる位置を探す。(b)の例では、黒データの位置145から見て斜め下のデータ位置、(a)で示される追跡の順番では4番目のデータ位置が次の黒データの位置である。これを繰り返して、2次元ビットマップの端部に到達したときに輪郭追跡が終了する。
図9(b)では、黒データの位置146,148,150において追跡処理の軌跡である折れ曲がり線144が後戻りしている。ワーク8の輪郭形状はおねじ部2であっても滑らかな変化をするので、この3つの黒データの位置146,148,150は、ごみ等の存在によるノイズの可能性が高く、ねじの断面形状から見て異常と判断される。
図9(c)は、ねじの断面形状から見て異常と判断される3つの黒データの位置146,148,150を除去するスムージング化処理を行って、ワーク8の輪郭形状として正常とみられる2次的なねじ輪郭プロファイルを生成した図である。折れ曲がり線152は、後戻りがなく単調変化の追跡軌跡となっている。ここでは、ノイズ判断基準として、輪郭追跡の軌跡を示す折れ曲がり線144における後戻りの有無を用いた。後戻りの有無に代えて、折れ曲がり線144の方向の変化の程度をノイズ判断基準としてもよい。また、ワーク8の正常とみられる輪郭形状の追跡軌跡で実際の追跡軌跡を規格化して、正常とみられる輪郭形状の追跡軌跡と実際の輪郭形状の追跡軌跡の差分が所定の閾値範囲を超えるときをノイズとするノイズ判断基準を用いてもよい。
このようにして、公知の輪郭追跡処理で得られる輪郭プロファイルデータに予め定めたノイズ判断基準を適用してノイズを除去するスムージング化処理を行い、ワーク8のねじ輪郭プロファイルを示す輪郭データを算出することができる。
S16,S18の処理が終わると、投影撮像カメラ38が取得するワーク8の投影形状データを用いて、各種の寸法測定が行われる。ワーク8はY方向に延びる形状を有するので、ワーク8の寸法測定は、投影撮像カメラ38を初期Y位置から−Y方向に下降させながら順次行うのが効率的である。そこで、頭部寸法測定(S12)と頭部穴深さ測定(S14)に続いて、頭部4の高さ寸法を投影撮像カメラ38が取得した投影形状データに基づいて行う。この測定は、後述する全長算出(S26)の一部として行われる。具体的には、図6に示すように、頭部4の上面のY位置Y10と、下面のY位置Y9を測定する。
ここでは、投影撮像カメラ38の撮像面に頭部4の上面を示す輪郭データが入るように、Yモータ29の動作を制御し、センサ30によって、Y10のデータ値を取得する。次いで、ワーク8を軸周りに1度間隔で360度回転させながら、各角度について投影撮像カメラ38が取得した頭部4の上面の輪郭データのY方向の位置を2次元ビットマップ上で求め、例えば、1μm単位でY10の精密な値を算出する。各角度ごとに、算出したY10の精密な値について、最大値と最小値と平均値を求め、これにセンサ30からのデータ値を加算して、Y10の最大値、最小値、平均値とする。
同様に、頭部4の下面についても、センサ30からのデータを取得し、次いでワーク8を軸周りに1度間隔で回転させながら、投影撮像カメラ38が取得した頭部4の下面の輪郭データのY方向の位置を2次元ビットマップ上で求め、例えば、1μm単位でY9の精密な値を算出する。各角度ごとに、算出されたY9の精密な値について、最大値と最小値と平均値を求め、これにセンサ30からのデータ値を加算して、Y9の最大値、最小値、平均値とする。
頭部4の高さ寸法測定が終わると、Yステージ26をY方向にさらに下降させ、首下R測定(S20)が行われる。首下Rは、頭部4とおねじ部2との間の首下部における曲率半径である。この処理は、演算制御装置100の首下R算出部118の機能によって実行される。具体的には、投影撮像カメラ38が取得したワーク8の首下部3の輪郭データを図9で説明した方法を用いて2次元ビットマップ上で求める。このことを図6において、ワーク8の首下部3についてS20として示した。この輪郭データのR部分の両側の2本の直線のなす角度を2等分する角度分割線を求め、この線から先ほどの2本の直線に下ろした垂線の長さを首下Rとして算出する。
図10は、首下Rの算出方法を示す図である。図10(a)はワーク8の首下部3の2次元ビットマップ上の輪郭データ160を示す図である。図10(b)は、(a)の輪郭データ160を構成する2本の直線162,163を求め、この2本の直線162,163のなす角度を2等分する角度分割線164を求め、この角度分割線164から直線162,163にそれぞれに下ろした垂線166,167を示す図である。
この垂線166,167の長さに基づいて首下Rの値が算出される。すなわち、ワーク8を軸周りに1度間隔で360度回転させ、各角度についてそれぞれ垂線166,167の長さを求める。360度について1度間隔で求めるので、垂線の長さの値は合計720個求まる。求められた値についてその最大値、最小値、平均値を首下Rの値とする。
再び図5に戻り、S20の次は、山径測定(S22)、谷径測定(S24)が行われる。山径はねじ山の外径寸法であり、谷径はねじ谷の内径寸法である。この処理は、演算制御装置100のねじ径算出部110の機能によって実行される。山径測定(S22)と谷径測定(S24)は、ワーク8のおねじ部2の軸方向に沿って複数箇所について行われる。図6では、山径測定(S22)と谷径測定(S24)が行われる3箇所のY位置Y8,Y7,Y6をS22,S24として、そのことを示した。測定箇所の数は、ワーク8のおねじ部2の長さによって適宜定めることができる。
図11は、山径測定の方法を示す図である。図11(a),(c)は、2次元ビットマップ上におけるワーク8のおねじ部2の輪郭データを示す図で、(b)は(a)の一部の拡大図である。
図11(a)には、ワーク8のおねじ部2の2つの輪郭データ170,171が示される。2つの輪郭データ170,171は、ワーク8のおねじ部2の左右両側の輪郭形状を示すデータである。(b)は、(a)の部分拡大図で、これを用いて輪郭データ170の山部の回帰直線172を求める方法が示される。山部の回帰直線172は、おねじ部2の複数の山部頂点における平均位置を通る直線である。
回帰直線172が求められると、輪郭データ170の全体について回帰直線172よりも外径側にある山部頂点を求める。これは、回帰直線172に垂直な線173を求め、垂直な線173の延びる方向に沿って回帰直線172の位置を移動させる。そして輪郭データ170における少なくとも1つの山部頂点に引っかかる回帰直線172の移動量の最大値aを求める。移動量は、回帰直線172に垂直な線173に沿って測定される。aは、回帰直線172から見て輪郭データ170において最も外径側にある山部頂点の位置を示す値である。
次に、図11(c)に示すように、回帰直線172をこれに垂直な線173に沿って輪郭データ171の側に移動させ、輪郭データ171における複数の山部頂点に引っかかる回帰直線172の移動量の最大値bを求める。bは、回帰直線172から見て輪郭データ171において最も外径側にある山部頂点の位置を示す値である。山径はワーク8のおねじ部2における山部の外径であるので、(a+b)は、ワーク8のおねじ部2の2つの輪郭データ170,171についての山径の値に相当する。
ここでワーク8を軸周りに1度間隔で360度回転させ、各角度における2つの輪郭データの(a+b)をそれぞれ求める。360個の(a+b)の値が求まると、その最大値、最小値、平均値をその測定箇所における山径の測定値とする。山径の算出は図6に示すように、3つの測定箇所のそれぞれについて行われる。3つの測定箇所の位置は、ワーク8のおねじ部2の全長の全域をほぼカバーするように設定される。測定箇所の数は3つ以外であってもよい。例えば、4以上でもよく、2以下でもよい。
図12は、谷径測定の方法を示す図である。図11と同様に、図12(a),(c)は、2次元ビットマップ上におけるワーク8のおねじ部2の輪郭データを示す図で、(b)は(a)の一部の拡大図である。図12(a)には図11と同じ2つの輪郭データ170,171が示される。谷部測定は、山部測定に似ていて、図12(b)に示す回帰直線176がおねじ部2の複数の谷部底点における平均位置を通る直線であることが相違する。
谷部について回帰直線176が求まると、図12(b)に示すように、輪郭データ170の全体について回帰直線176よりも内径側にある谷部底点の位置を求める。これは、回帰直線176に垂直な線177を求め、垂直な線177の延びる方向に沿って回帰直線176の位置を移動させる。そして輪郭データ170における少なくとも1つの谷部底点に引っかかる回帰直線176の移動量の最大値cを求める。移動量は、回帰直線176に垂直な線177に沿って測定される。cは、回帰直線176から見て輪郭データ170において最も内径側にある谷部底点の位置を示す値である。
次に図12(c)に示すように、回帰直線176をこれに垂直な線177に沿って輪郭データ171の側に移動させ、輪郭データ171における少なくとも1つの谷部底点に引っかかる回帰直線176の移動量の最大値dを求める。dは、回帰直線176から見て輪郭データ171において最も内径側にある谷部底点の位置を示す値である。谷径はワーク8の谷部における最小内径であるので、(d−c)は、ワーク8のおねじ部2の2つの輪郭データ170,171についての谷径の値に相当する。
ここでワーク8を軸周りに1度間隔で360度回転させ、各角度における2つの輪郭データの(d−c)をそれぞれ求める。360個の(d−c)の値が求まると、その最大値、最小値、平均値をその測定箇所における谷径の測定値とする。谷径測定は山径測定と対として行われ、谷径の測定箇所は山径の測定箇所と同じである。
山径の測定値と谷径の測定値が算出されると、有効径=(山径+谷径)/2を算出する。有効径についても最大値と最小値と平均値を算出する。最大値は、山径の最大値と谷径の最小値から算出し、最小値は、山径の最小値と谷径の最大値から算出し、平均値は、山径の平均値と谷径の平均値から算出する。これ以外の算出法を用いて有効径に関する各種の算出を行ってもよい。
S22、S24の測定が終わると、Yステージ26をさらに下降させ、ワーク8のおねじ部2の先端部を把持するアダプタ80のリングゲージ82aの上面のY位置Y1の測定が行われる。具体的には、既に説明した頭部4の上面のY位置Y10と下面のY位置Y9の測定と同様の手順で行うことができる。すなわち、投影撮像カメラ38の撮像面にリングゲージ82aの上面を示す輪郭データが入るように、Yモータ29の動作を制御し、センサ30によって、Y1のデータ値を取得する。次いで、ワーク8を軸周りに1度間隔で360度回転させながら、投影撮像カメラ38が取得したリングゲージ82aの上面の輪郭データのY方向の位置を2次元ビットマップ上で求め、例えば、1μm単位でY1の精密な値を算出する。算出した1度ごとのY1の精密な値について、最大値と最小値と平均値を求め、これにセンサ30からのデータ値を加算して、Y1の最大値、最小値、平均値とする。
再び図5に戻り、次に全長算出(S26)が行われる。この処理は、演算制御装置100の全長算出部112の機能によって実行される。具体的には、既に測定されたY位置Y10,Y9,Y1の値と、リングゲージ82aの基準めねじ83aとワーク8のおねじ部2の先端部との所定の噛み合わせ長さである3ピッチの長さ=5.25mmに基づいて、ワーク8の全長が算出される。おねじ部2の全長は、{(Y9−Y1)+5.25mm}として算出される。頭部4も含むワーク8の全長は、{(Y10−Y1)+5.25mm}として算出される。全長算出は、Y10,Y9,Y1のそれぞれの最大値、最小値、平均値に基づいて、全長の最大値、最小値、平均値を算出する。例えば、おねじ部2の全長の最大値は、Y9の最大値とY1の最小値から算出し、おねじ部2の全長の平均値は、Y9の平均値とY1の平均値から算出する。これ以外の算出法を用いて全長に関する各種の算出を行ってもよい。
全長算出(S26)が終わると、ワーク8の各種寸法の測定データ出力(S28)が行われる。この処理は、演算制御装置100の測定データ出力部124の機能によって実行される。具体的には、S12の頭部寸法測定、S14の頭部穴深さ測定、S20の首下R測定、S22の山径測定、S24の谷径測定、S26の全長算出によって得られた各種寸法の最大値、最小値、平均値等が所定の検査表のフォーマットに従って所定の記入箇所に記入され、出力装置104から検査表106として印刷されて出力される。
このように、ねじ寸法自動測定システム10によれば、ねじに関する各種寸法を自動的に測定でき、その測定結果を所定のフォーマットの検査表として自動的に出力できる。
上記では、頭部穴深さの測定を光学的に非接触で行うものとした。これに代えて、接触式であるが、ねじ検査用の頭部穴ビットを用いて、頭部穴深さの測定を行うことができる。図13は、ワーク8に頭部穴ビット180をワーク8の頭部穴6に挿入し、その状態を投影撮像カメラ38で撮像し、取得された投影形状データに基づいて頭部穴深さDを算出する方法を示す図である。図13(a)は断面図、(b)は上面図である。
ねじ検査用の頭部穴ビット180は、頭部穴嵌め合い部182と、外形が円板状の鍔部184と、把持用円筒部186と、円錐頂部188を含んで構成される。頭部穴ビット180をワーク8の頭部穴6に挿入するには、鍔部184と把持用円筒部186を2つ割チャック等で把持し、頭部穴6の上方に搬送し、そこで2つ割チャック等の把持を解除して頭部穴ビット180を落とすことで行うことができる。頭部穴ビット180をワーク8の頭部穴6へ落とすときに、円錐頂部188の上方側から下方側に押し込むようにすることが好ましい。2つ割チャックの頭部穴ビット180の把持とその解除、円錐頂部188の押し込みは、空圧制御装置102から供給される空気圧で動作するピストン・シリンダ機構等を用いて自動的に行うことも可能である。
頭部穴ビット180の頭部穴嵌め合い部182の高さ寸法Gや形状は、ワーク8の種類によって変更される。その他の鍔部184と、把持用円筒部186と、円錐頂部188の寸法と形状は、ワーク8の種類によらず同じとすることができる。
ワーク8の頭部穴6に頭部穴ビット180が挿入された状態は、投影撮像カメラ38によって撮像され、その輪郭データに基づいて、ワーク8の頭部の上面と頭部穴ビット180の鍔部184の下面との間のY方向に沿った間隔寸法Y2を算出できる。算出された間隔寸法Y2と頭部穴ビット180の頭部穴嵌め合い部182の高さ寸法Gに基づき、頭部穴深さ寸法D=(G−Y2)として算出できる。
図14は、ワーク8の種類によって異なる頭部穴ビットを示す図である。ここでは、3つのワーク8の種類に対応する頭部穴ビットを示すが、これ以外の異なる種類のワーク8の頭部穴ビットも同様の構造とすることができる。図14(a)は、ワーク8のねじの呼びがM12の場合で、図13で説明した頭部穴ビット180と同じである。
図14(b)は、ワーク8のねじの呼びがM6の場合の頭部穴ビット180bを示す図である。鍔部184と、把持用円筒部186と、円錐頂部188は、(a)と同じである。(a)と異なるのは、頭部穴嵌め合い部182bの形状と寸法である。図4(c)は、ワーク8のねじの呼びがM3の場合の頭部穴ビット180cを示す図である。鍔部184と、把持用円筒部186と、円錐頂部188は、(a),(b)と同じである。(a),(b)と異なるのは、頭部穴嵌め合い部182cの形状と寸法である。
このように、頭部穴嵌め合い部182以外の要素の形状と寸法を共通化することで、頭部穴ビット180,180b,180cを把持する2つ割チャック等を、ワーク8の種類に関わらず、共通に用いることができる。
図15は、実施形態の別例のねじ寸法自動測定システムを構成するねじ寸法自動測定装置12aの主要部の正面図である。図16は、図15のねじ寸法自動測定装置12aの右側面図である。図17(a)はねじ寸法自動測定装置12aの上面図で、頭部撮像カメラ42を右側に退避させた状態を示す図であり、図17(b)は頭部撮像カメラ42を撮像位置に移動させた状態を示す上面図である。図18は、ねじ寸法自動測定装置12aの上面図で頭部撮像カメラ42を省略した図である。
別例のねじ寸法自動測定システムにおいて、防振台14、筐体15、基台16、演算制御装置100、空圧制御装置102、及び出力装置104(図1参照)の基本的な構成は、図1から図12に示した構成と同様である。別例のねじ寸法自動測定システムを構成するねじ寸法自動測定装置12aは、ガントリ型である。具体的には、ねじ寸法自動測定装置12aの基台16の上面を形成する上面板16aには、外形が四角柱の柱部材190が立設して固定される。柱部材190は、図17に示すようにY方向から見た場合の形状が略矩形である。柱部材190の正面(図15の手前側面、図16の左側面、図17(a)の下側面)には、昇降アクチュエータ192が取り付けられる。
昇降アクチュエータ192は、柱部材190の正面(+X方向側)に固定されたアクチュエータケース194と、ねじ軸(図示せず)と、Yモータ29aと、ナット部材(図示せず)とを含む。アクチュエータケース194は、上下方向であるY方向に沿って長い長尺状である。アクチュエータケース194の上面には、Yモータ29aのケースが固定され、Yモータ29aから下方(−Y方向)に伸びる出力軸には、ねじ軸がアクチュエータケース194内に−Y方向に沿って伸びて配置され、アクチュエータケース194に回転可能に支持される。これによりYモータ29aの回転によりねじ軸が回転する。Yモータ29aの駆動は演算制御装置100(図1)により制御される。柱部材190の−X側(図15の裏側、図16の左側、図17(a)の上側)には、後述するビット掴みユニット210を形成する昇降部材212がY方向に移動可能に支持される。
アクチュエータケース194の正面側(+X側)のZ方向両端部には、Y方向に沿ってほぼ全長にわたって平行な2つのガイド孔195が形成される。そして、アクチュエータケース194にはYテーブル196がY方向に移動可能に支持される。Yテーブル196は、YZ平面に沿う略平板状の移動テーブルである。図15では分かりやすくするために、Yテーブル196を砂地で示している。
アクチュエータケース194内のナット部材は、ねじ軸のねじ部に複数のボールを介して噛合して、ボールねじ機構を構成する。ナット部材のZ方向両端部には平行な2つのスライド脚部198(図17(a))が形成される。各スライド脚部198はガイド孔195を通じてアクチュエータケース194から外側に突出する。そして各スライド脚部198の先端部にはYテーブル196が固定される。これによりYモータ29aの回転によりYテーブル196がY方向に沿って移動される。昇降アクチュエータ192は、Yテーブル196を基台16に対しY方向に移動する軸方向移動部を構成する。
さらに、図16に示すように、アクチュエータケース194の+Z側端部にはリニアスケール方式の位置センサ200が取り付けられている。すなわち、Yテーブル196のY方向位置を位置センサ200が検出する。位置センサ200は、例えばYテーブル196に取り付けられた移動部材202のY方向位置を光学的または磁気的に高精度に検出すればよい。例えば磁気的な位置センサ200は、移動部材202において、電流を流す励磁コイルと検出コイルとが取り付けられ、アクチュエータケース194に固定された固定側部材204のY方向複数位置に固定側コイル(図示しない)が配置される。移動部材202がY方向に移動した場合には、移動部材202の励磁コイル及び検出コイルが複数の固定側コイルの1つに近接対向し、検出コイルの両端の電圧変化から移動部材202の位置が検出される。移動部材202の検出位置を示す信号は、演算制御装置100(図1)に送信される。
Yテーブル196の正面(+X方向)側には、光学的計測装置32aが支持される。光学的計測装置32aは、画像投影部34aと、頭部計測部40aとを含んで構成される。画像投影部34aは、Yテーブル196の正面側に固定されてZ方向に長い下側固定テーブル230と、下側固定テーブル230の−Z側端部に固定された光源36と、下側固定テーブル230の+Z側端部に支持された投影撮像カメラ38とを有する。
下側固定テーブル230には、Z移動テーブル232がZ方向に移動可能に支持される。Z移動テーブル232は、リニアアクチュエータ234によって、下側固定テーブル230に対しZ方向に移動させる。リニアアクチュエータ234は、電動モータと、ボールねじ機構とを含み、電動モータの回転でボールねじ機構のねじ軸にボールを介して噛合するナット部材をZ方向に移動させる。Z移動テーブル232は、ナット部材に固定されてナット部材のZ方向の移動によりZ移動テーブルもZ方向に移動する。電動モータは、演算制御装置100により制御される。これにより、電動モータの回転により投影撮像カメラ38が+Z方向または−Z方向に移動する。リニアアクチュエータ234とZ移動テーブル232とにより合焦移動部50が構成される。投影撮像カメラ38と光源36とは、撮像対象のねじであるワーク8を挟んで、Z方向に対向する。リニアアクチュエータを構成する電動モータとして、ACサーボモータまたはステッピングモータを用いることができる。
ワーク8は、図1から図13の構成と同様に、アダプタ80のリングゲージ82cにねじ込まれ、アダプタ80は締付チャック70で保持される。締付チャック70の支持台72は、基台16に対し上下方向に伸びる回転部材236の上側に固定される。
回転部材236は、その下端が基台16に固定されたロータリジョイント238に、Y軸の周りに回転可能に支持される。回転部材236のY方向中間部に固定されたプーリ240と、基台16の上面板16aの下側で+Z方向(図15における右側)にずれて固定されたθモータ64の出力軸に固定されたプーリ242とには、ベルト244が掛け渡される。これにより、θモータ64の回転によって、ベルト244を介して回転部材236が回転されて、締付チャック70がワーク8とともにY軸周りに回転する。支持台72を回転できれば、どのような構成でも構わない。
投影撮像カメラ38は、光源36からの平行光線を受けてワーク8の影となる投影形状についてXY平面に平行な撮像面上に結像させて撮像する。
ワーク8の上方に配置される、頭部計測部40aは、Yテーブル196の正面側(+X側)において下側固定テーブル230の上側に固定された上側固定テーブル250と、上側固定テーブル250の正面側に取り付けられた頭部カメラ移動部252と、頭部撮像カメラ42とを有する。頭部カメラ移動部252は、先端部に頭部撮像カメラ42が固定されたロッド部254と、ロッド部254をZ方向に伸縮させるピストン・シリンダ機構256とを有する。ピストン・シリンダ機構256は演算制御装置100(図1)により制御され、空圧制御装置102(図1)から供給される空気圧によってピストンをZ方向について往復移動させることができる。ピストンにロッド部254が固定されており、ピストンが−Z方向に移動することにより頭部撮像カメラ42も−Z方向に移動し、ピストンが+Z方向に移動することにより頭部撮像カメラ42も+Z方向に移動する。これにより、頭部撮像カメラ42は、少なくとも図17(a)に示すようにXZ平面におけるワーク8の位置Pから+Z方向に退避した位置と、図17(b)に示すようにワークの位置Pの真上位置との2つの位置の間で移動可能である。
頭部撮像カメラ42は、図1から図12に示した構成と同様に、ワーク8の頭部の形状の撮像データを取得し、頭部の直径寸法、頭部穴6(図3参照)の二面幅寸法などを算出する。頭部計測部40aは、図1から図12の構成と異なり、ワーク8の頭部穴深さを測定するためのレーザ光源も、レーザ光源を移動させるアクチュエータも含んでいない。その代わりに、ねじ寸法自動測定装置12aは、頭部穴ビット180(図19)を掴んで移動させるビット掴みユニット210を含んでいる。
図19は、図15の左側面図においてビット掴みユニット210を示す図である。図15、図17、図19に示すように、ビット掴みユニット210は、柱部材190の−Z側(図15、図17(a)の左側、図19の手前側)に取り付けられてY方向に長いガイド部材214と、昇降部材212とを有する。図19では柱部材190及び昇降アクチュエータ192の図示を省略している。
昇降部材212は、ガイド部材214の−Z側において、Y方向について移動可能に支持される。昇降部材212には、X方向に伸縮可能な伸縮アーム216が取り付けられている。伸縮アーム216は、ピストン・シリンダ機構218によって伸縮される。ピストン・シリンダ機構218への空気圧は空圧制御装置102(図1)によって制御される。伸縮アーム216の先端部には、ワーク8の上面に対向可能にビット把持部220が取り付けられている。ビット把持部220は下端部に2つの爪部221を有する2つ割りチャックである。2つの爪部221は、空圧制御装置102から供給される空気圧により作動され、ビット把持部220の半径方向に移動する。2つの爪部221は、ワーク8の頭部穴深さ測定用の頭部穴ビット180(図19)を把持する機能と、ワーク8の上方で頭部穴ビット180の把持を解除することで、頭部穴6(図3参照)に向けて頭部穴ビット180を落とす機能とを有する。
図19に示すように昇降部材212は、基台16に支持された上下ロッド222の先端部に固定される。上下ロッド222はY方向に沿って設けられ、ピストン・シリンダ機構224によってY方向に変位する。ピストン・シリンダ機構224は空圧制御装置102によって制御される。これにより、空圧制御装置102がビット掴みユニット210の各ピストン・シリンダ機構218,224及びビット把持部220への空気圧を制御することによって、ビット把持部220が所定の位置で頭部穴ビット180を掴んで、X方向及びY方向における所定位置に移動して、ワーク8の上方で頭部穴ビット180を離して頭部穴6に落とすことができる。
ビット掴みユニット210において、伸縮アーム216の先端部にレーザ光源を取り付けてレーザ照射ユニットとし、レーザ光源から、ワーク8の頭部の斜め上側からこの頭部に向けてレーザ光を照射させる構成としてもよい。このために、ビット掴みユニット210のビット把持部220は、レーザ光源を含むレーザ照射部材と交換可能な構成とすることが好ましい。
上記の構成によれば、投影撮像カメラ38をY方向及びZ方向の所望位置に移動でき、頭部撮像カメラ42もY方向及びZ方向の所望位置に移動できる。また、アダプタ80と締付チャック70とを含む把持部68に、ねじであるワーク8をセットするだけで、ワーク8の軸方向及び軸周りの各種寸法を自動で測定できる。また、上記の図5のS18の処理と同様に、演算制御装置100の輪郭データ算出部116によって輪郭データを算出した後、ワーク8の高さ方向寸法を測定する際に、投影撮像カメラ38の輪郭データから算出したY方向位置、例えばY10の最大値と最小値と平均値とに、位置センサ200の高精度の検出データを加算できる。これにより、ワーク8の高さ方向寸法を、より高精度に測定できる。その他の構成及び作用は、上記の図1から図12に示した構成と同様である。
一方、図1から図12の構成または図15から図19の構成において、ワーク8のY軸周りの寸法、例えば山径及び谷径の測定を行う際に、次に説明するように異物の付着を考慮して、より高精度に測定を行うこともできる。図20は、本発明に係る実施形態の別例のねじ寸法自動測定システムにおいて、輪郭データを算出した後、所定角度において山径を算出する方法を示す図で、図12(c)の拡大図である。図21(a)は、所定角度における山径dmax及び谷径dminの測定データを曲線で結んで、角度θとの関係で示す図であり、図21(b)はねじであるワーク8の軸方向一部の断面図である。図22は、所定角度における山径dmaxの測定データと測定データの個数との関係において、理想モデルの場合(a)と、1例において所定範囲から外れた測定データを除外する場合(b)とを示す図である。
図20に示すようにワーク8の山径dmax及び谷径dminを求めるときには、ワーク8のY軸周りのある角度において、ワーク8の2つの輪郭データ170,171を算出した後、上記の図1から図12の構成で説明したように、ワーク8のおねじ部2の軸方向であるY方向の複数位置でワーク8の山径dmax及び谷径dminを算出する。このとき、上記のように2つの輪郭データ170,171の山部の頂点に引っかかる回帰直線172,174から、輪郭データ170,171の山径dmax(=a+b)が求められる。また、ワーク8のY軸周りの所定の角度間隔毎、例えば1度間隔毎において、山径dmaxの測定値が求められる。同様に、輪郭データ170,171の谷部の底点に引っかかる回帰直線から谷径dminの測定値が求められる。
このとき、山径dmax及び谷径dminについて、所定の角度間隔毎の各角度の測定データの群の全体からそれぞれの最大値、最小値及び平均値を求めると、ワーク8に異物が付着している場合に大きい誤差が発生する可能性がある。具体的には、図21(b)に示すように、ワーク8のおねじ部2には塵、ほこりなどの異物11が付着する可能性がある。図21(a)では、山径dmax、谷径dminを縦軸で示し、横軸で測定時のワーク8のY軸周りの回転角度θを示している。このとき、上記の異物11の付着に基づいて一点鎖線Q1,Q2で囲んで示す部分のように、山径dmax及び谷径dminのそれぞれの全測定データの平均値da、dbから大きく外れて誤差が発生する。また、同じ演算処理を複数回重ねて山径dmax及び谷径dminを求める場合において、一部の角度θにおける測定データの誤差が増幅されて最終的に求められる計算値が真の値から大きく外れる可能性がある。このような事情から、山径dmax及び谷径dminについて、所定の角度間隔毎の測定データの群の全体から山径dmax及び谷径dminの最大値、最小値及び平均値を求める代わりに、次のフィルタリング処理を行う。フィルタリング処理は、測定データの群から一部のデータを除外して山径dmax、谷径dminのそれぞれの最大値、最小値及び平均値を算出する。
このフィルタリング処理では、まずワーク8のおねじ部2への異物11の付着がない理想モデルの測定データの分布を考える。このとき、図22(a)に示すように山径dmaxを横軸で示し、縦軸で測定データの個数を示した場合に、山径dmaxの測定データは正規分布となる。「理想モデル」は、測定対象のねじの設計寸法に応じて予め設定することができる。一方、ワーク8のおねじ部2に異物の付着がある1例では、図22(b)に示すように測定データが分布する。具体的には、図22(b)では、異物の存在によって、実線αで示すように平均値da1及び最頻値db1が、破線βで示す理想モデルの平均値daから正の側にずれる。理想モデルの最頻値は平均値daと同一である。
そして、演算制御装置100は、フィルタリング処理として、ワーク8の所定の角度間隔毎の輪郭データについてのワーク8の山径dmaxの測定データの群から、予め設定した理想モデルの測定データの平均値daを基準として、山径dmaxの測定データの一部を除外する。そして、山径dmaxの測定データの残りの群に基づいて山径dmaxについての値、例えば最大値を算出する。
具体的には、フィルタリング処理では、一部のデータを除外するための下限閾値である下限カット値と、上限閾値である上限カット値とを、それぞれ理想モデルの平均値daを基準として、標準偏差σに比例した範囲として設定する。このとき、Kを変更可能な任意の比例定数として、理想モデルの平均値daから下側と上側とにKσだけ離れた値をそれぞれ下限カット値(da−Kσ)、上限カット値(da+Kσ)とする。例えばKは1.0または1.2または0.7等の任意の数とする。そして、図22(b)に示すように、実線αで示す山径dmaxの測定データの曲線において、下限カット値(da−Kσ)から上限カット値(da+Kσ)までの範囲から外れる測定データ(図22(b)の斜線部)を除外する。そして、測定データの残りの群に基づいて、山径dmaxについての値、例えば山径dmaxの最大値と最小値と平均値とを算出する。谷径dminについても山径dmaxと同様に上限カット値、下限カット値を設定して、下限カット値から上限カット値までの範囲から外れる測定データを除外して、谷径dminについての値、例えば谷径の最大値と最小値と平均値とを算出する。そして、演算制御装置100は、山径dmax、谷径dminについて算出した値を、出力装置104(図1参照)に印刷させて出力させる。
上記の構成によれば、ワーク8のY軸周りの寸法についての値を、より精度よく算出することができる。例えば、図22(b)に斜線部で示すように、山径dmaxについて下限カット値未満の測定データ、及び上限カット値を超える測定データが除外されるので、異物11の影響を少なくして、山径dmaxの真の値により近い最大値、最小値及び平均値を得ることができる。なお、上記では、平均値daから下限カット値までの大きさと、平均値daから上限カット値までの大きさとを、同じ値Kσとしているが、それぞれの大きさを異ならせてもよい。例えば比例定数を2つの異なる値K1,K2として、下限カット値を(da−K1σ)とし、上限カット値を(da+K2σ)としてもよい。このとき、上限カット値についての比例定数K2を、下限カット値についての比例定数K1σより小さくしてもよい。また、上限カット値及び下限カット値の設定に標準偏差σを用いずに、上限カット値及び下限カット値をそれぞれワーク8の設計寸法に応じて予め設定した任意の値に設定してもよい。
また、上記の図9に示した例では、ワーク8についての輪郭追跡処理を行って2次元ビットマップのデータにおいて、異常と判断されるデータを除去しスムージング化処理を行ってねじ輪郭プロファイルを生成する場合を説明した。一方、次のように、2次元ビットマップの1次的なねじ輪郭プロファイルにおいて、ローパスフィルタを行うことによりスムージング化処理を行って、2次的なねじ輪郭プロファイルを生成してもよい。
図23は、ワーク8の所定角度における輪郭データにローパスフィルタを行う場合において、ワーク8の1次的なねじ輪郭プロファイル(a)と、フィルタ処理後の2次的なねじ輪郭プロファイル(b)とを示す図である。1次的なねじ輪郭プロファイルは、ワーク8の軸方向に沿って連続した測定データの軌跡である。
図23では、1次的なねじ輪郭プロファイルにおいて、ローパスフィルタにより異物の付着による異常部分及びノイズの除去を行っている。具体的には、演算制御装置100は、図9で示した白黒の2値化の境界における黒データから輪郭データを求める。演算制御装置100は、ワーク8をY軸周りに回転させたときに得られる所定の角度間隔毎の輪郭データにおいて、ワーク8のY方向に沿って連続した測定データの軌跡を1次的なねじ輪郭プロファイルと設定する。さらに、1次的なねじ輪郭プロファイルに予め設定した所定周波数についてのローパスフィルタを行うことによりスムージング化処理を行って、ワーク8の所定の角度間隔毎における輪郭データである2次的なねじ輪郭プロファイルを求める。これによって、演算制御装置100は、ねじ輪郭プロファイルにおける異常部分及びノイズの除去を行う。
例えば、1次的なねじ輪郭プロファイルとして、図23(a)の実線γで示す曲線が得られる場合がある。この曲線γでは、ねじ輪郭に沿う低周波の波形の曲線に対して、ノイズに基づく高周波の波形の曲線が重畳している。また、曲線γでは、一点鎖線Q3で囲んだ部分でおねじに異物が付着し、その異物が付着した部分でも高周波の波形となっている。演算制御装置100は、曲線γについて軸方向であるY方向に沿って、予め設定した所定周波数fA以下の周波数の波形を残し、所定周波数fAを上回る周波数の波形を除去するように、ローパスフィルタを行う。所定周波数fAは、測定対象のねじの設計寸法に基づく理想モデルのねじのピッチからある程度高くなるように予め設定される。これにより、曲線γの1次的な輪郭プロファイルから、ノイズ及び異物に基づく高周波の波形が除去されて、図23(b)の実線δで示す曲線のように、低周波のスムーズな波形の2次的な輪郭プロファイルが得られる。
この2次的な輪郭プロファイルは、各角度に応じて求められる。そして、上記の図11、図12、または図21,22で示した構成のように、各角度の輪郭プロファイルに基づいて、ワーク8のY軸周りの寸法、例えば山径、谷径、それぞれの最大値、最小値及び平均値が算出される。そして、演算制御装置100は、山径、谷径について算出した値を、出力装置104(図1参照)に印刷させて出力させる。
なお、上記の図23に示したローパスフィルタによる処理は、1次的な輪郭プロファイルをフーリエ変換し、所定周波数fAを上回る高周波成分を除去した後、逆フーリエ変換することにより図23(b)の曲線δのような曲線を得る処理としてもよい。例えばフーリエ変換は高速フーリエ変換(FFT)とし、逆フーリエ変換は逆高速フーリエ変換(IFFT)とすることができる。また、上記ではワーク8のおねじ部2の輪郭プロファイルにローパスフィルタを行う場合を説明した。一方、ワーク8のおねじ部2以外の部分、例えば図10の首下Rの輪郭データ160において高周波のノイズまたは異物による異常部分がある場合にローパスフィルタを行ってノイズ及び異物の影響を小さくする、またはなくすこともできる。
図23では、ワーク8の輪郭プロファイルにおいて、Y方向についてローパスフィルタを行う場合を説明した。一方、図23(a)の1次的な輪郭プロファイルまたは図23(b)の2次的な輪郭プロファイルにおいて、Y軸周りの角度θのずれによるY方向位置のずれを予測することもできる。そして、その予測したずれで補正した点に基づき、X方向位置についての軌跡にローパスフィルタを行うこともできる。具体的には、演算制御装置100は、上記のように図9の白黒の2値化の境界における黒データについて、ワーク8をY軸周りに回転させたときに、得られる所定の角度間隔毎の輪郭データを、1次的なねじ輪郭プロファイルと設定する。そして、演算制御装置100は、ワーク8の所定の角度間隔毎における輪郭プロファイルについて、ワーク8が所定角度ずつずれることに基づくY方向のずれを予測する。そして、演算制御装置100は、ワーク8のY軸周りの角度に対応して、予測したずれで補正した点から予測される点のX方向位置についての軌跡にローパスフィルタを行う。そして、1次的な輪郭プロファイルの複数の点でこれを繰り返すことにより、フィルタ処理後の2次的なねじ輪郭プロファイルを生成する。さらに、演算制御装置100は、フィルタ処理後の輪郭プロファイルに基づいてワーク8のY軸周りの寸法についての値を算出する。そして、演算制御装置100は、Y軸周りの寸法について算出した値を、出力装置104(図1参照)に印刷させて出力させる。
図24は、ワーク8の所定角度における輪郭データを求める際にローパスフィルタによりX方向についての異常部分の除去を行う場合において、ワーク8を所定角度ずつ回転させた場合における1次的なねじ輪郭プロファイルの変化を示す図である。図25(a)は、ワーク8の輪郭プロファイルの一部の点において、所定角度におけるX方向位置についての軌跡にローパスフィルタを行う場合において、フィルタ処理前の軌跡(a)と、フィルタ処理後の軌跡(b)とを示す図である。
図24(a)(b)(c)で示すように、ワーク8を所定角度ずつ同方向に回転させて角度θ1、θ2、θ3になった場合を考える。この場合には、ワーク8のおねじ部2が螺旋形状であるので、1次的なねじ輪郭プロファイルがY方向に沿って徐々にずれる。また、各所定角度毎の輪郭プロファイルは、X方向及びY方向のいずれにもずれる場合がある。例えば、山部の複数の頂点G1,G3、G5・・・及び谷部の底点G2,G4・・・のうち、1つの山部の頂点G3に着目する。このとき、頂点G3のY方向へのずれは、測定対象のねじのピッチに基づいて予めL1,L2のように予測される。これにより、このずれL1、L2で補正しX方向位置を点G3と同一とした点G3a、G3bから所定距離内に存在する頂点を各角度θ1、θ2での点G3と予測する。図24では、各角度θ1、θ2での点G3は、点G3a、G3bからX方向にD1,D2分、ずれている。そして、その予測した頂点G3のX方向位置についての軌跡が角度θについて図25(a)のη1で示される。図25(a)の横軸は、ワーク8のY軸周りの回転角度θを示しており、縦軸は頂点G3のX方向位置である。
図25(a)から明らかなように、頂点G3のX方向位置の軌跡である曲線η1は、低周波の波形の曲線に対して、ノイズに基づく高周波の波形の曲線が重畳している。また、曲線η1において、一点鎖線Q4で囲んだ部分では、ワーク8のおねじ部への異物の付着によって高周波の波形となっている。
演算制御装置100は、曲線η1についてY方向に沿って、予め設定した所定周波数fB以下の周波数の波形を残し、所定周波数fBを上回る周波数の波形を除去するように、ローパスフィルタを行う。所定周波数fBは、測定対象のねじのピッチ、リード等の所定設計寸法から予め設定される。これにより、曲線η1から、ノイズ及び異物に基づく高周波の波形が除去されて、図25(b)の曲線η2のように、異物の影響が除去されスムージング化される。なお、頂点G3のX方向位置の軌跡は理想的にはX方向位置が一定の直線であるが、ワーク8の締め付けチャック70(図1または図15)による保持状態でワーク8が上下方向(Y方向)に対しわずかに傾斜する可能性がある。このようにワーク8が傾斜した場合には、図25(b)に示すようにX方向位置が曲線となりやすい。上記の図24、図25で示した構成は、このようにワーク8が傾斜した場合において、ノイズ及び異物の影響を小さくできる点で有効である。
そして、演算制御装置100は、図24の頂点G3以外の山部の頂点G1,G5・・・及び谷部の底点G2,G4・・・を含んで輪郭プロファイルの複数の位置のX方向位置についても、頂点G3と同様にローパスフィルタを行う。そして、演算制御装置100は、各頂点及び各底点に基づいて各角度θにおけるフィルタ処理後の2次的なねじ輪郭プロファイルを生成する。これにより、2次的なねじ輪郭プロファイルでは、異物の付着による異常部分及びノイズの除去が行われる。そして、演算制御装置100は、フィルタ処理後の各角度θの2次的な輪郭プロファイルに基づいて、図11、図12、または図21,22で示した構成のように、ワーク8のY軸周りの寸法、例えば山径、谷径、それぞれの最大値、最小値及び平均値を算出する。
なお、上記の図25に示したローパスフィルタによる処理を行う場合にも、フーリエ変換及び逆フーリエ変化を用いてもよい。具体的には、図25(a)に示す輪郭プロファイルのX方向位置の軌跡についてフーリエ変換を行い、所定周波数fAを上回る高周波成分を除去した後、逆フーリエ変換を行うことにより図25(b)のような曲線を得る処理を行ってもよい。このとき、フーリエ変換としてFFTを用い、逆フーリエ変換としてIFFTを用いてもよい。
図26は、ワークを固定するためのアダプタの別例を示している図4に対応する図である。図3、図4で説明した構成では、ワーク8を固定するアダプタ80において、ワーク8のおねじ部2のリングゲージ82aへのねじ込み深さを1ピッチ長さ単位で正確に調整するために、スペーサ84a、84b、84cを用いている。一方、図1から図25に示した構成のいずれか1つの構成において、図26に示すようにアダプタ80dがスペーサを持たない構成としてもよい。
図26に示すアダプタ80dでは、リングゲージ82aの他方端面である下面が、ホルダ86のストッパ鍔部90の上面に突き当てられる。
このとき、ホルダ86のおねじ92aがリングゲージ82aの基準めねじ83aに対し下からねじ込まれる。この場合には、リングゲージ82aの下端から、おねじ92aの上端までの長さは、ストッパ鍔部90の上面からのおねじ92aの突出高さHSと同じである。そしてアダプタ80dでは、基準めねじ83aの上側から、ワーク8のおねじ部2(図3、図4参照)をねじ込みできる長さである、ねじ込み長さLwは、{(リングゲージ82aの厚さDR)−(ホルダ86のおねじ92aの突出高さHS)}である。このねじ込み長さLwは、基準めねじ83aのピッチPcの整数倍(=N×Pc)に設定される。ここで、Nは任意の整数である。
また、N1,N2を任意の整数として、リングゲージ82aの厚さDRを、基準めねじ83aのピッチPcの整数倍(=N1×Pc)と設定し、かつ、ホルダ86のおねじ92aの突出高さHsもピッチPcの整数倍(=N2×Pc)と設定してもよい。
リングゲージ82aにホルダ86を結合する場合には、リングゲージ82aの下面側からホルダ86のおねじ92aをリングゲージ82aの基準めねじ83aにねじ込む。また、リングゲージ82aの上面側から、図3に示すワーク8のおねじ部2の先端部をリングゲージ82aの基準めねじ83aにねじ込んで、ワーク8のおねじ部2の先端を、ホルダ86のおねじ92aの先端に突き当てる。これによって、リングゲージ82aにワーク8が固定される。このときに、上記のように、リングゲージ82aの上側のねじ込み長さLwを基準めねじ83aのピッチPcの整数倍としている。このねじ込み長さLwは、リングゲージ82aにワーク8のおねじ部2が噛み合う噛み合い長さLwであり、1ピッチ分の長さ単位で正確に調整できる。例えば、(リングゲージ82aの厚さDR)を8ピッチの長さとし、ホルダ86のおねじ92aの突出高さHsを5ピッチとした場合に、ワーク8のおねじ部2の噛み合い長さLwは3ピッチの長さに調整できる。したがって、リングゲージ82aの上面のY位置の測定値から、ワーク8のおねじ部2の先端部のY位置を正確に求めることができる。
また、ワーク8として同じ規格のねじを用いる場合でも、先端部に不完全ねじ部があるなどの原因により、おねじ部2の先端部が基準めねじ83aに十分に噛まない場合がある。このことを考慮して、アダプタ80dにおいて、上側のねじ込み長さLwがピッチPcの異なる整数倍である複数種類のアダプタを用意することが好ましい。
また、図3、図4に示した構成のように、リングゲージ82aとホルダ86との間にスペーサ84a、84b、84cを配置してねじの噛み合い長さを調整する構成では、スペーサの寸法精度を高くすることが重要である。一方、スペーサの寸法精度を高くすることは、厚さの大きいリングゲージ82aの寸法精度を高くする場合に比べて難しい。これにより、スペーサを用いる構成では図26の構成に比べて測定精度が低くなる可能性がある。また、スペーサはリングゲージ82aに比べて変形しやすい。図26の構成によれば、スペーサを用いる構成の場合に比べて測定精度を高くできる。特に、ピッチPcが小さい小ねじではより高精度な形状で噛み合う部材を用いることが好ましく、その点で図26の構成は有利である。また、スペーサを省略できるので、コスト低減を図れる。例えば、スペーサのない高精度のアダプタの製造コストは、高精度のスペーサの製造コストとほぼ同程度になる場合がある。