JP2015218365A - 降伏強度と加工性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板 - Google Patents
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Abstract
【課題】降伏強度と伸びおよび伸びフランジ性を兼ね備えた高強度溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.05〜0.30%、Si:0.1〜3.0%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下、Al:0.001〜0.10%、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、マルテンサイトとオーステナイトよりなる混合組織MAの、組織全体に対する平均面積率VMAが2〜5%であり、MAの面積率が局部的に前記平均面積率VMAの60%以下となる領域が、組織全体に対する面積割合で10%以下であり、フェライトの、組織全体に対する平均面積率が2%以下であり、残部がベイナイトおよびマルテンサイトであり、転位密度が2.0×1015〜8.0×1015m−2である組織を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【選択図】なし
Description
質量%で、
C:0.05〜0.30%、
Si:0.1〜3.0%
Mn:1.0〜3.0%、
P:0.1%以下、
S:0.01%以下、
N:0.01%以下、
Al:0.001〜0.10%
であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
マルテンサイトとオーステナイトよりなる混合組織MAの、組織全体に対する平均面積率VMAが2〜5%であり、
MAの面積率が局部的に前記平均面積率VMAの60%以下となる領域が、組織全体に対する面積割合で10%以下であり、
フェライトの、組織全体に対する平均面積率が2%以下であり、
残部がベイナイトおよびマルテンサイトであり、
転位密度が2.0×1015〜8.0×1015m−2である組織を有する、
ことを特徴とする。
成分組成が、さらに、質量%で、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%、
B:0.0002〜0.0050%
の1種または2種以上を含むものである。
成分組成がさらに、質量%で、
Mo:0.01〜1.0%、
Cr:0.01〜1.0%、
Nb:0.01〜0.3%、
Ti:0.01〜0.3%、
V:0.01〜0.3%
の1種または2種以上を含むものである。
成分組成が、さらに、質量%で、
Ca:0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%
の1種または2種を含むものである。
上述したとおり、本発明鋼板は、ベイナイト+マルテンサイトを主要組織とするものであるが、特に、フェライト量が極力制限されるとともに、所定量のMAが均一に分散し、さらに転位密度が所定範囲に制御されている点に特徴を有する。
伸びを確保するためにMAの、組織全体に対する平均面積率VMAを2%以上、好ましくは2.4%以上、さらに好ましくは2.8%以上とする必要がある。ただし、MAが多すぎると伸びフランジ性が劣化するため、MAの、組織全体に対する平均面積率VMAは5%以下、好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは4%以下に制限する。
局部的なMAの分散状態を適切に制御することで、伸びと伸びフランジ性のバランスを向上することが可能となる。すなわち、MAは延性の改善に有効であるが、鋼板組織中に不均一に分散すると、鋼板内に変形の不均一が生じ、MAの少ない領域で破壊が生じるために伸びフランジ性が劣化する。そのため、MAの少ない領域を低減し、MAをできるだけ均一分散させる必要がある。具体的には、MAの面積率が局部的に前記平均面積率VMAの60%以下となる領域を、組織全体に対する面積割合で10%以下、好ましくは9%以下、さらに好ましくは8%以下とする。これにより、上記変形の不均一を抑制し、伸びフランジ性を向上させることができる。
軟質なフェライトの導入を極力少なくすることで、降伏強度が向上するとともに、マルテンサイトとの硬度差に起因するボイド発生を抑制して伸びフランジ性をも高めることができる。このような作用を有効に発揮させるため、フェライトの、組織全体に対する平均面積率は2%以下、好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下に制限する。
強度確保のため、残部はベイナイトおよびマルテンサイトとする。
焼入れままのマルテンサイトは、非常に高い転位密度を有する組織であるが、これらの転位の多くが可動転位であることによって降伏強度が低く、また延性にも乏しい。そのため、焼戻しによってマルテンサイト生成時に導入される可動転位を減少させることで、降伏強度と延性を高めることができる。このような作用を有効に発揮させるため、転位密度は8.0×1015m−2以下、好ましくは7.0×1015m−2以下に制限する。ただし、焼戻しを必要以上に行うと、転位密度が過度に減少し、強度が不足するので、転位密度は2.0×1015m−2以上、好ましくは2.5×1015m−2以上、さらに好ましくは3.0×1015m−2以上確保する必要がある。
C:0.05〜0.30%
Cは、鋼板の強度に大きく影響する重要な元素である。Cが少なすぎると強度が不足して引張強度1180MPaを確保できなくなるので、C量は0.05%以上、好ましくは0.07%以上、さらに好ましくは0.1%以上が必要である。一方、C量が過剰になると焼戻し時に粗大な炭化物が析出しやすくなり、伸びフランジ性を劣化させることに加え、溶接性の確保という観点からもC量は低いほうが望ましいため、C量は0.30%以下、好ましくは0.25%以下、さらに好ましくは0.20%以下とする。
Siは、焼戻し時における炭化物粒子の粗大化を抑制する効果を有し、伸びフランジ性向上に寄与するとともに、固溶強化元素として鋼板の降伏強度上昇にも寄与する有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、Si量は0.1%以上、好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.5%以上が必要である。ただし、Si量が過剰になると溶接性が著しく低下するため、3.0%以下、好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下とする。
Mnは、上記Siと同様、焼戻し時におけるセメンタイトの粗大化を抑制する効果を有し、伸びフランジ性向上に寄与するとともに、固溶強化元素として鋼板の降伏強度上昇にも寄与する有用な元素である。また、焼入れ性を高めることで、冷却時のフェライト変態を抑制する効果もある。このような作用を有効に発揮させるためには、Mn量は1.0%以上、好ましくは1.3%以上、さらに好ましくは1.6%以上が必要である。ただし、Mn量が過剰になると最終組織中のMA量が過剰になり、逆に伸びフランジ性を劣化させるため、3.0%以下、好ましくは2.7%以下、さらに好ましくは2.4%以下とする。
Pは不純物元素として不可避的に存在し、固溶強化により強度の上昇に寄与するが、旧オーステナイト粒界に偏析し、粒界を脆化させることで曲げ性を劣化させるので、P量は0.1%以下、好ましくは0.05%、さらに好ましくは0.03%以下に制限する。
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS介在物を形成し、曲げ変形時に亀裂の起点となることで曲げ性を劣化させるので、S量は0.01%以下、好ましくは0.005%以下、さらに好ましくは0.003%以下に制限する。
Nも不純物として不可避的に存在し、ひずみ時効により鋼板の加工性を劣化させるので、低いほうが好ましく、0.01%以下、好ましくは0.007%以下、さらに好ましくは0.005%以下とする。
Alは脱酸材として添加される有用な元素であり、このような作用を得るには0.001%以上、好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.03%以上が必要である。ただし、Al量が過剰になると鋼の清浄度を悪化させるので、0.10%以下、好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.06%以下とする。
Ni:0.05〜1.0%、
B:0.0002〜0.0050%
の1種または2種以上
これらの元素は、焼入れ性を高め、焼鈍加熱によりオーステナイト単相化された組織からのフェライト変態を抑制する効果を有する有用な元素である。このような作用を得るには、各元素とも上記それぞれの下限値以上含有させるのが好ましい。上記元素は単独で含有させてもよいし、2種以上を併用してもかまわない。しかしながら、これらの元素を過剰に含有させても、効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるため、各元素とも上記それぞれの上限値以下とする。
Cr:0.01〜1.0%、
Nb:0.01〜0.3%、
Ti:0.01〜0.3%、
V:0.01〜0.3%
の1種または2種以上
これらの元素は、成形性を劣化させずに強度を改善するのに有用な元素である。このような作用を得るには、各元素とも上記それぞれの下限値以上含有させるのが好ましい。上記元素は単独で含有させてもよいし、2種以上を併用してもかまわない。しかしながら、これらの元素を過剰に含有させると、粗大な炭化物が形成され、成形性が劣化するため、各元素とも上記それぞれの上限値以下とする。
Mg:0.0005〜0.01%
の1種または2種
これらの元素は、介在物を微細化し、破壊の起点を減少させることによって伸びフランジ性を向上させるのに有用な元素である。このような作用を得るには、いずれの元素とも0.0005%以上含有させるのが好ましい。上記元素は単独で使用してもよいし、2種を併用してもかまわない。しかしながら、過剰に含有させると逆に介在物が粗大化して伸びフランジ性が劣化するので、いずれの元素とも0.01%以下とする。
上記した要件を満足する本発明鋼板を製造するためには、以下の製造要件を満足するようにして、鋼板を製造することが好ましい。
鋼板をマルテンサイトとベイナイト主要組織にし、フェライト分率を低減することは、本発明鋼板を製造するために重要な要件である。フェライト分率を低減するためには、焼鈍時にオーステナイト単相組織にする必要がある。また、オーステナイト単相組織からのフェライト変態を抑制するためには、オーステナイト粒径を粗大化させ、焼入れ性を高めることが有効である。そのため焼鈍加熱温度はAc3点+50℃以上とする。
Ac3(℃)=910−203×√C−15.2×Ni+44.7×Si−30×Mn+700×P+400×Al−11×Cr−20×Cu+31.5×Mo+400×Ti+104×∨・・・(1)
ここで、上記式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を表す。
この一次冷却の過程では、焼鈍時に生成したオーステナイトを、冷却中にフェライト変態させないことが重要である。このため、一次冷却速度は15℃/s以上、より好ましくは30℃/s以上とする。
この二次冷却の過程において冷却速度が低すぎると、冷却中にベイナイト変態が生じ、MA分率が増加し、伸びフランジ性を阻害する。そのため、二次冷却速度は15℃/s以上、より好ましくは30℃/s以上とする。
Ms(℃)=516−474×C−33×Mn−17×Ni−17×Cr−21×Mo・・・(2)
ここで、上記式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を表す。
一般に合金化処理は、450〜600℃の温度域で60s以下の保持時間で行われる。本発明の推奨製造方法においては合金化処理中に焼戻しを行う。合金化処理温度が低すぎると炭化物が十分析出できず高い降伏強度が得られない。一方で合金化処理温度が高すぎると過度に転位密度が低下して、強度が不足する。そのため、合金化処理温度は450〜550℃、より好ましくは480〜520℃とする。
下記表1に示すA〜Kの各成分組成を有する鋼を溶製し、厚さ120mmのインゴットを作製し、このインゴットを用いて熱間圧延を行い、厚さ2.8mmとした。これを酸洗した後、厚さ1.4mmになるまで冷間圧延して供試材とし、下記表2に示す各条件で供試材に熱処理およびめっき処理を施した。
得られた各鋼板を用いて、鋼板板厚1/4部におけるフェライトの平均面積率、MAの平均面積率、MAの分散状態、ならびに転位密度を測定した。また、鋼板の機械的特性を評価するため、降伏強度(YS)、引張強度(TS)、伸び(EL)および伸びフランジ性(λ)についても測定を行った。これらの測定方法については以下に示す。
フェライトの平均面積率については、各鋼板を鏡面研磨し、その表面を3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、SEM(走査型電子顕微鏡;Scanning Electron Microscope)を用いて板厚1/4部の組織を概略40μm×30μmの領域5視野について倍率2000倍で観察して求めた。具体的には、黒く観察される領域のうち、ポリゴナル(多角形状)で内部に白く観察される炭化物を含まないものをフェライトと定義し、各視野ごとに観察領域全体に対する面積比率よりフェライトの面積率を求め、それら5視野のフェライトの面積率を算術平均してフェライトの平均面積率とした。
また、MAの平均面積率およびMAの分散状態については、各鋼板を鏡面研磨し、その表面をレペラ液で腐食して金属組織を顕出させた後、光学顕微鏡を用いて板厚1/4部の概略80μm×60μmの領域10視野について倍率1000倍で観察して求めた。
具体的には、白く観察される領域のうち、内部にコントラスト差のないものをMAと定義し、各視野ごとに観察領域全体に対する面積比率よりMAの面積率を求め、それら10視野のMAの面積率を算術平均してMAの平均面積率VMAとした。
また、各視野ごとに上記観察領域を20μm×20μmの小領域に分割し、それぞれの小領域内でのMAの面積率VMA−Lを求め、10視野全部の観察領域の合計面積に対する、下記式(3)を満たす小領域の合計面積の割合を算出した。
VMA−L≦VMA×0.6・・・(3)
転位密度については、測定対象となる鋼板にX線を照射し、得られる回折ピークの半価幅を測定することにより算出するものである。具体的には、板厚の1/4深さ位置を測定できるよう試料を調整した後、これをX線回折装置(理学電機製、RAD−RU300)に掛け、X線回折プロファイルを採取した。そして、このX線回折プロファイルを元に、中島らが提案した解析法にしたがって転位密度を算出した(中島ら:「材料とプロセス」、Vol.17(2004)p.396−399参照)。
評価対象の各鋼板を用い、圧延方向と直角方向に長軸をとってJIS Z 2201に記載の5号試験片を作製し、JIS Z 2241に従って測定を行うことで降伏強度(YS)、引張強度(TS)および伸び(EL)を求めた。
評価対象の各鋼板を用い、鉄連規格JFST1001に則り、穴拡げ試験を実施して穴拡げ率の測定を行い、これを伸びフランジ性とした。
測定結果を下記表3に示す。本実施例では、降伏強度(YS)が900MPa以上で、かつ、引張強度(TS)が1180MPa以上で、かつ、伸び(EL)が12%以上で、かつ、伸びフランジ性(λ)が60%以上のものを○で合格とし、降伏強度と伸びおよび伸びフランジ性優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板であると判定した。一方、降伏強度(YS)が900MPa未満、または、引張強度(TS)が1180MPa未満、または、伸び(EL)が12%未満、または、伸びフランジ性(λ)が60%未満のものを×で不合格と判定した。なお、表1〜3の各項目に網掛けを付したものは、本発明の要件、推奨する製造条件、機械的特性等を満足していないことを示す。
Claims (4)
- 質量%で、
C:0.05〜0.30%、
Si:0.1〜3.0%、
Mn:1.0〜3.0%、
P:0.1%以下、
S:0.01%以下、
N:0.01%以下、
Al:0.001〜0.10%
であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
マルテンサイトとオーステナイトよりなる混合組織MAの、組織全体に対する平均面積率VMAが2〜5%であり、
MAの面積率が局部的に前記平均面積率VMAの60%以下となる領域が、組織全体に対する面積割合で10%以下であり、
フェライトの、組織全体に対する平均面積率が2%以下であり、
残部がベイナイトおよびマルテンサイトであり、
転位密度が2.0×1015〜8.0×1015m−2である組織を有する、
ことを特徴とする降伏強度と加工性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。 - 成分組成が、さらに、質量%で、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%、
B:0.0002〜0.0050%
の1種または2種以上を含むものである、
請求項1に記載の降伏強度と加工性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。 - 成分組成がさらに、質量%で、
Mo:0.01〜1.0%、
Cr:0.01〜1.0%、
Nb:0.01〜0.3%、
Ti:0.01〜0.3%、
V:0.01〜0.3%
の1種または2種以上を含むものである、
請求項1または2に記載の降伏強度と加工性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。 - 成分組成が、さらに、質量%で、
Ca:0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%
の1種または2種を含むものである、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の降伏強度と加工性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
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