JP7146127B1 - 高強度鋼板の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】多量のマンガンを含有することなく、かつ複雑な生産工程を経ずに、引張強さ、伸びおよび穴広げ率が何れも高いレベルにある高強度鋼板の製造方法を提供する。【解決手段】所定の組成を有する圧延材を、所定の均熱処理温度で均熱処理を行う工程と、圧延材を所定の平均冷却速度で451℃以上560℃以下の温度まで冷却し、4.0秒以上44.3秒以下の保持時間で保持する第1熱処理工程と、圧延材を所定の中間冷却温度に所定の平均冷却速度で冷却する中間冷却工程と、圧延材を所定の平均加熱速度で350℃以上450℃以下の温度に加熱し、100.0秒以上990.0秒以下の保持時間で保持した後、所定の平均冷却速度で室温まで冷却する第2熱処理工程と、を順に含む高強度鋼板の製造方法である。【選択図】図1

Description

本発明は高強度鋼板の製造方法、とりわけ自動車部品をはじめとする各種の用途に使用可能な高強度鋼板の製造方法、予測モデルの生成方法および鋼板の設計方法に関する。
自動車車体軽量化ニーズの高まりから、自動車の骨格部品やシート部品に対して引張強さ(TS)が780MPa級以上の高強度鋼板の適用が進んでいる。しかしながら、高強度鋼板を自動車部品に適用した場合、延性の低下や成形性の低下に起因して、加工時に割れが生じやすくなる。また、各種用途を考慮して伸び等の延性も求められる。
このような、高いレベルの強度、成形性および延性を達成できる鋼板として特許文献1および特許文献2に記載の鋼板が知られている。特許文献1では、より高い延性を前提に強度や穴拡げ性のバランスを検討している。また、特許文献2では、連続焼鈍工程の条件を適正化することで強度、延性および伸びフランジ性の向上を図っている。
また、特許文献3は低合金鋼の機械的性質(強度)を予測する機械学習モデルを構築する技術を開示している。この機械学習モデルはディープニューラルネットと遺伝的アルゴリズムの組み合わせたものであり、そのモデルを用いて新たに低合金鋼の化学成分と熱処理工程を設計し、設計した合金の製造および試験まで行っている。
特許第6439903号公報 国際公開WO2012-36269号公報
Z. Zhu et al., Materials 2020, 13(23), 5316
近年、上述の軽量化ニーズのよりいっそうの高まり等のため、自動車部品を始めとする多くの用途において、より高いレベルで高い引張強さ、高い伸びおよび高い穴広げ率の3つを達成することが求められている。
引張強さ(TS)、破断伸び(EL)および穴広げ率(λ)、それぞれについて具体的には以下を満足することが求められている。
軽量化しても部品の十分な強度が得られるように引張強さは950MPa以上であることが求められている。
部品成形時の成形性を確保するために、穴広げ性を示す穴広げ率は20%以上であることも求められている。
また、破断伸びは22%以上であることが求められている。
さらに製造コスト低減および工程管理の簡素化の観点から添加成分をなるべく少なくすることが求められており、鋼材の主要3元素である炭素(C)、ケイ素(Si)およびマンガン(Mn)の中でも特にレアメタルであるマンガンの含有量を削減することが求められている。具体的には、例えばMn量を2.3質量%以下とすることが求められている。また、製造コスト低減の観点から製造に際し複雑な生産工程を要しないことも求められている。
特許文献1および2に記載の製造方法では、上述の引張強さ、破断伸びおよび穴広げ率を満足し、かつMnの含有量を低減した鋼材を複雑な生産工程を伴わずに製造する方法を提供することは困難であった。
上述の引張強さ等の強度ならびに破断伸びおよび穴広げ率等の延性を含む様々な特性を満足する鋼材の製造方法の開発には、通常長期の開発期間を要するが、昨今カーボンニュートラルおよび環境負荷低減の社会的要請が急激に高まっており、従来よりも一層の開発の加速化および効率化が求められる。開発を加速化および効率化させる手法の一つとして、非特許文献1でも用いられているデータ科学による手法が近年注目されており、鋼材においても適用が進んでいる。
しかし、非特許文献1等が開示するデータ科学を用いた従来の手法では、引張強さ、破断伸びおよび穴広げ率を満足し、かつMnの含有量を低減した鋼材を複雑な生産工程を伴わずに製造する方法を提供することは困難であった。
本発明はこのような状況を鑑みなされたものであって、データ科学のアプローチから目標条件を達成する実用的かつ合理的な高強度鋼板の設計条件もしくは製造方法を効率的に得ること、より具体的には、データ科学のアプローチから、省合金、とりわけ多量のマンガンを含有することなく、かつ複雑な生産工程を経ずに、引張強さ(TS)、破断伸び(EL)および穴広げ率(λ)が何れも高いレベルにある高強度鋼板の製造方法、予測モデルの生成方法および鋼板の設計方法を見出し、これを提供することを目的とする。
本発明の態様1は、
C:0.10質量%以上0.40質量%以下
Si:0.50質量%以上1.80質量%以下、
Mn:1.60質量%以上2.20質量%以下、
Al:0.01質量%以上0.90質量%以下、
Cr:0.30質量%以上0.80質量%以下、
を含有し、残部は鉄および不可避不純物からなる圧延材を、下記(1)式を満足する均熱処理温度T1で均熱処理を行う均熱処理工程と、
前記圧延材を2℃/秒以上60℃/秒以下の第1平均冷却速度C1で451℃以上560℃以下の温度TpreATまで冷却し、前記温度TpreATで4.0秒以上44.3秒以下の保持時間tpreATの間保持する第1熱処理工程と、
前記圧延材を、10℃/秒以上60℃/秒以下の第2平均冷却速度C2で下記(3)式を満足する中間冷却温度T2に冷却する中間冷却工程と、
前記圧延材を5℃/秒以上60℃/秒以下の第1平均加熱速度H1で350℃以上450℃以下の温度TpostATまで加熱し、前記温度TpostATで100.0秒以上990.0秒以下の保持時間tpostATの間保持した後、10℃/秒以上60℃/秒以下の第3平均冷却速度C3で室温まで冷却する第2熱処理工程と、
を順に含む、引張強さ950MPa以上、破断伸び22%以上且つ穴広げ率20%以上の高強度鋼板の製造方法である。

-30.0℃≦T1-Ae3≦40.0℃ (1)
ここでAe3は下記の(2)式による。

Ae3(℃)=896.5414-236.22×〔C〕+26.18998×〔Si〕-28.4882×〔Mn〕+106.9042×〔Al〕+1.284594×〔Ti〕+12.66673×〔Nb〕+42.66673×〔V〕-39.9466×〔Ni〕+2.467166×〔Mo〕-17.8592×〔Cr〕 (2)
ここで[ ]は、それぞれの元素の質量%で示した含有量である。

Ms-215≦T2≦Ms-118 (3)
ここで、Msは下記(4)式による。

Ms(℃)=561-474×[C]-33×[Mn] (4)
ここで[ ]は、それぞれの元素の質量%で示した含有量である。
本発明の態様2は、前記温度TpreATが500℃以上560℃以下である態様1に記載の高強度鋼板の製造方法である。
本発明の態様3は、前記第1熱処理工程の前記温度TpreATでの保持時間tpreATが4.0秒以上、35.0秒以下である態様1または2に記載の高強度鋼板の製造方法である。
本発明の態様4は、前記圧延材が、Cu:0.50質量%以下(0質量%を含まず)、Ni:0.50質量%以下(0質量%を含まず)、Mo:0.50質量%以下(0質量%を含まず)、B:0.01質量%以下(0質量%を含まず)、V:0.05質量%以下(0質量%を含まず)、Nb:0.05質量%以下(0質量%を含まず)、Ti:0.05質量%以下(0質量%を含まず)、Ca:0.05質量%以下(0質量%を含まず)、REM:0.01質量%以下(0質量%を含まず)から成る群から選択した1種または2種以上を更に含有する態様1~3のいずれかに記載の高強度鋼板の製造方法である。
本発明の態様5は、予測モデルの生成方法であって、
鋼板を製造するための複数種類の製造パラメータに基づいて用意された製造パラメータセットと、前記製造パラメータセットを用いて実際に製造した鋼板の、少なくとも1種類の所定の特性の関する試験結果とが対応付けられた学習用データセットを取得する工程と、
前記学習用データセットを用いた機械学習により、前記製造パラメータセットを説明変数とし、前記試験結果を目的変数とする予測モデルを生成する工程と
を包含し、
前記製造パラメータセットは、以下の製造パラメータに基づいて用意され、
前記試験結果は、前記鋼板の引張強さ、破断伸び、及び穴広げ率の中から選択された少なくとも1種類の特性に関する、
予測モデルの生成方法。
鋼板を製造するために用いられる圧延材が、
C:0.10質量%以上0.40質量%以下
Si:0.50質量%以上1.80質量%以下、
Mn:1.60質量%以上2.20質量%以下、
Al:0.01質量%以上0.90質量%以下、
Cr:0.30質量%以上0.80質量%以下、
を含有し、残部は鉄および不可避不純物からなること。
前記圧延材に、均熱処理工程、第1熱処理工程、中間冷却工程、第2熱処理工程が順に行われること。
前記均熱処理工程が、下記(1)式を満足する均熱処理温度T1で行われること。
前記第1熱処理工程が、前記圧延材を2℃/秒以上60℃/秒以下の第1平均冷却速度C1で451℃以上560℃以下の温度TpreATまで冷却し、前記温度TpreATで4.0秒以上44.3秒以下の保持時間tpreATの間保持して行われること。
前記中間冷却工程が、前記圧延材を10℃/秒以上60℃/秒以下の第2平均冷却速度C2で下記(3)式を満足する中間冷却温度T2に冷却して行われること。
前記第2熱処理工程が、前記圧延材を5℃/秒以上60℃/秒以下の第1平均加熱速度H1で350℃以上450℃以下の温度TpostATまで冷却し、前記温度TpostATで100.0秒以上990.0秒以下の保持時間tpostATの間保持した後、10℃/秒以上60℃/秒以下の第3平均冷却速度C3で室温まで冷却して行われること。
-30.0℃≦T1-Ae3≦40.0℃ (1)
ここでAe3は下記の(2)式による。
Ae3(℃)=896.5414-236.22×〔C〕+26.18998×〔Si〕-28.4882×〔Mn〕+106.9042×〔Al〕+1.284594×〔Ti〕+12.66673×〔Nb〕+42.66673×〔V〕-39.9466×〔Ni〕+2.467166×〔Mo〕-17.8592×〔Cr〕 (2)
ここで[ ]は、それぞれの元素の質量%で示した含有量である。
Ms-215≦T2≦Ms-118 (3)
ここで、Msは下記(4)式による。
Ms(℃)=561-474×[C]-33×[Mn] (4)
ここで[ ]は、それぞれの元素の質量%で示した含有量である。
本発明の態様6は、予測モデルを用いた鋼板の設計方法であって、
(a)複数種類の製造パラメータを反映した製造パラメータセットを取得する工程と、
(b)態様5に記載の生成方法によって生成された予測モデルと、前記製造パラメータセットとを用いて予測値を算出する工程と、
(c)現在の製造パラメータセットの中の所定の製造パラメータを変化させ、前記所定の製造パラメータ以外の製造パラメータが維持された新たな製造パラメータセットを生成する工程と、
(d)前記予測モデルと、前記新たな製造パラメータセットとを用いて新たな予測値を算出する工程と、
(e)前記工程(b)及び前記工程(d)で算出された複数の予測値を利用して、前記所定の製造パラメータの範囲を決定する工程と
を包含する、鋼板の設計方法。
本発明の態様7は、態様6に記載の設計方法であって、(f)前記所定の製造パラメータが所定の範囲だけ変化するまで、前記工程(c)及び(d)を繰り返す工程をさらに包含する。
本発明の態様8は、態様6または7に記載の設計方法であって、前記複数の予測値は、前記鋼板の引張強さ、破断伸び、及び穴広げ率の中から選択された少なくとも1種類の特性に関する値である。
本発明の態様9は、態様8に記載の設計方法であって、前記鋼板の引張強さ、破断伸び、及び穴広げ率の目標となる要件は、それぞれ950MPa以上、22%以上及び20%以上であり、前記予測モデルは以下の条件を満足する性能を有している。
本発明によりデータ科学のアプローチから目標条件を達成する実用的かつ合理的な薄板の設計条件もしくは製造方法を効率的に得ることができる。より具体的には、データ科学のアプローチから、とりわけ多量のマンガンを含有することなく、かつ複雑な生産工程を経ずに、引張強さ(TS)、破断伸び(EL)および穴広げ率(λ)が何れも高いレベルにある高強度鋼板の製造方法、予測モデルの生成方法および鋼板の設計方法を見出し、これを提供することができる。
本発明に係る高強度鋼板の製造方法における圧延材の熱処理パターン(熱処理履歴)を示す模式図である。 本発明に係る学習及び予測の手順を示すフローチャートである。 例示的な実施形態によるコンピュータシステムの構成を示すハードウェアブロック図である。 予測モデル取得処理の手順を示すフローチャートである。 学習用データセットの生成処理の詳細な手順を示すフローチャートである。 ある製造パラメータセットと、当該製造パラメータセットの下で製造された鋼板の引張強さ(TS)に関する試験結果とを対応付けた表の一例を示す図である。 ある学習用データセットTの一例を示す図である。 構築されたn組の学習用データセットT(i=1,・・・,n)の例を示す図である。 数4の変数xを変数xとしたときの、カーネル関数を示す図である。 予測モデルf(z)のプロファイルと、予測モデルf(z)を構成する数6の右辺各項が表す正規分布との関係を模式図である。 学習用データセットを用いたモデル学習処理の手順を示すフローチャートである。 未知の製造パラメータセットzに基づく予測処理の手順を示すフローチャートである。 複数の性能予測値を考慮した製造パラメータの決定処理の手順を示すフローチャートである。 予測に用いた既知の製造パラメータセットと各製造パラメータの範囲の例を示す図である。 引張強さ(TS)の予測値と実績値とを比較したクロスバリデーション図である。 破断伸び(EL)の予測値と実績値とを比較したクロスバリデーション図である。 穴広げ率(λ)の予測値と実績値とを比較したクロスバリデーション図である。 予測モデルに基づいて抽出された、目標特性を満足する組成例及び満足しない組成例を示す結果を示す図である。 高強度鋼板の要件を満足するために調整される製造パラメータセットと各製造パラメータの範囲の例を示す図である。
本願発明者らは、マンガン(Mn)含有量を抑制した所定の成分の圧延材を用いて、通常の連続焼鈍設備を用いて実施可能な熱処理パターンを鋭意検討した結果、詳細を後述するように、均熱処理工程、第1熱処理工程、中間冷却工程および第2熱処理工程の4つの工程それぞれの条件を最適化することで引張強さ(TS)、破断伸び(EL)および穴広げ率(λ)が何れも高いレベルにある高強度鋼板を製造できる本発明に至った。
特に、これら4つの工程の中でも破断伸びと穴広げ率のバランスを向上させるのに大きく寄与する第1熱処理工程については、強度、延性および穴広げ率を種々の鋼材で試験した結果とその結果に基づく回帰計算(ガウス過程)を基に製造パラメータとこれらの特性との関係性を見出し、そこから適正な製造条件を導き出した。当該製造条件に従って製造された鋼板は、少なくとも、引張強さ(TS)、破断伸び(EL)および穴広げ率(λ)が前述の要件:
TS≧950MPa,EL≧22%,λ≧20%
を満足すると推定され得る。
以下に本発明の詳細を説明する。
1.化学組成
本発明に係る高強度鋼板の製造方法により得られる高強度鋼板は以下の化学成分を有する。
(1)炭素(C):0.10質量%以上0.40質量%以下
Cは、焼入れ性を高めて高い強度を確保するのに必要な元素であり、このような作用を有効に発揮させるためには0.10質量%以上含有する必要がある。ただし、Cが多過ぎると粗大なMA(Martensite-Austenite constituent)が生成して穴広げ率が低下するため0.40質量%以下とする。好ましくは0.14質量%以上、0.34質量%以下である。
(2)シリコン(Si):0.50質量%以上1.80質量%以下
Siは、焼戻し軟化抵抗性を向上させるのに有効な元素である。また、固溶強化による強度向上にも有効な元素である。これらの効果を発揮させる観点から、Siを0.50質量%以上含有させる。好ましくは0.65質量%以上、さらに好ましくは0.70%以上である。しかし、Siはフェライト生成元素であるため、多く含まれると、焼入れ性が損なわれて高い強度を確保することが難しくなる。よって、Si量は1.80質量%以下とする。好ましくは1.60質量%以下、より好ましくは1.40質量%以下、更に好ましくは1.20質量%以下、より更に好ましくは1.00質量%以下とする。
(3)マンガン(Mn):1.60質量%以上2.20質量%以下
Mnはフェライトの形成を抑制する。このような作用を有効に発揮させるためには1.60質量%以上含有する必要がある。ただし、2.20質量%を超えるとベイナイト変態が抑制されるために残留γを形成することができず、穴広げ性を改善させることができない。好ましくは1.70質量%以上、さらに好ましくは1.80質量%以上である。また、好ましくは2.10質量%以下である。
このようにMnの含有量を1.60質量%以上2.20質量%以下とすることで、多量のMn含有量を必要としない要件(例えば、Mn:2.3質量%以下)を満足することができる。
(4)アルミニウム(Al):0.01質量%以上0.90質量%以下
Alは、脱酸剤として作用し、また鋼の耐食性を向上させる効果もある。これらの効果を十分発揮させるには0.01質量%以上含有させる必要がある。Alを0.04質量%以上含有させることが好ましく、0.06質量%以上含有させることがより好ましい。しかし、Alが過剰に含まれていると、介在物が多量に生成して表面疵の原因となるので、その上限を0.90質量%とする。Al量は、好ましくは0.60質量%以下、より好ましくは0.50質量%以下とする。
(5)クロム(Cr):0.30質量%以上0.80質量%以下
Crは、鋼の強度向上に寄与する元素として有用である。このような効果を十分に発揮させるためには、0.30質量%以上含有する必要がある。一方、0.80質量%を超えて含有すると、過度な強度上昇により脆化を助長する場合がある。また、経済的に不利になる場合がある。Cr含有量は、好ましくは0.40質量%以上である。またCr含有量は、好ましくは0.65質量%以下とする。
(6)残部
基本成分は上記のとおりであり、好ましい実施形態の1つでは、残部は鉄および不可避不純物である。不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる微量元素(例えば、As、Sb、Sn、N、Oなど)がある。
リン(P)および硫黄(S)については、それぞれ、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下が目安である。窒素(N)および酸素(O)については、それぞれ、N:10~60ppm、O:10ppm以下が目安である。
(7)選択的な添加元素
本発明の別の好ましい実施形態では、本発明の作用を損なわない範囲で上述した以外の元素を含有させてよい。本発明に係る高強度鋼板は、例えば、必要に応じて、銅(Cu):0.50質量%以下(0質量%を含まず)、ニッケル(Ni):0.50質量%以下(0質量%を含まず)、モリブデン(Mo):0.50質量%以下(0質量%を含まず)、ボロン(B):0.01質量%以下(0質量%を含まず)、バナジウム(V):0.05質量%以下(0質量%を含まず)、ニオブ(Nb):0.05質量%以下(0質量%を含まず)、チタン(Ti):0.05質量%以下(0質量%を含まず)、カルシウム(Ca):0.05質量%以下(0質量%を含まず)、希土類元素(REM):0.01質量%以下(0質量%を含まず)から成る群から選択した1種または2種以上を含有してよい。
なお本明細書において「0質量%を含まず」とは不純物レベルを超えて含有することを意味する。また、希土類元素(REM)の含有量は、スカンジウム(Sc)およびイットリウム(Y)にランタノイドを加えた17元素の合計含有量を意味し、17元素全てではなく一部の元素だけを含んでよい。
Cu、Ni、MoおよびBは、焼入れ性を高めることで、フェライトの形成を防止し、かつ、オーステナイトの安定化やベイナイトの微細化に寄与することで強度-延性バランスを向上する。
V、NbおよびTiは、母相を析出強化することで、延性を大きく劣化させずに強度を高め、強度-延性バランスを向上させる。
CaおよびREMは、MnSに代表される介在物を微細に分散させることで、強度-延性バランスおよび穴広げ性の改善に寄与する。
比較的高価な合金成分である上記選択元素は本発明においてコストの観点から含有量は少量までに抑制されることが好ましい。
2.高強度鋼板の製造方法
図1は、本発明に係る高強度鋼板の製造方法における圧延材の熱処理パターン(熱処理履歴)を示す模式図である。図1に示す熱処理パターンは、上記の化学組成を有する圧延材を(a)所定の条件を満足する均熱処理温度T1で均熱処理を行う均熱処理工程を行い、続いて(b)2℃/秒以上60℃/秒以下の第1平均冷却速度C1で、均熱処理温度T1から、451℃以上、560℃以下の温度TpreATまで冷却し、温度TpreATで4.0秒以上44.3秒以下の保持時間tpreATの間保持する第1熱処理工程を行い、続いて、(c)10℃/秒以上60℃/秒以下の第2平均冷却速度C2で温度TpreATから所定の条件を満足する中間冷却温度T2に冷却する中間冷却工程を行い、続いて(d)5℃/秒以上60℃/秒以下の第1平均加熱速度H1で温度T2から350℃以上、450℃以下の温度TpostATまで加熱し、温度TpostATで100.0秒以上990.0秒以下の保持時間tpostATの間保持した後、10℃/秒以上60℃/秒以下の第3平均冷却速度C3で室温まで冷却するする第2熱処理工程を順に含む。
上記のように工程(a)~(d)を連続して行う。このような熱処理方法の1つの好ましい形態は連続焼鈍設備(CAL)を用いて連続的に行うことである。すなわち、コイルから巻き出した圧延鋼板(圧延材)圧延材を再びコイルの巻き取るプロセスの間で上記工程(a)~(d)を全て行うことが好ましい。これにより、高い生産性を得られ、多量の鋼板を効率的に処理できる。
しかし、これに限定されるものではなく、例えば、それぞれ工程をバッチ処理で連続して行ってもよい。バッチ処理を用いると、少量または短尺の圧延材であれば効率的に処理できる。
以下の工程(a)~(d)を詳述する。
(a)均熱処理工程
上述の化学成分を有する圧延材(圧延鋼板)に均熱処理を行う。
用いる圧延材は例えば常法によりスラブ等の鋳造材に熱間圧延を行って得た熱延鋼板に更に常法による冷間圧延を行って得てよい。熱間圧延は連続鋳造後のスラブを加熱することなく直接圧延する方法、連続鋳造後のスラブに短時間加熱処理を施して圧延する方法など任意の条件で行ってよい。
冷間圧延も特に条件は限定されない。例えば、最終的に得られる高強度鋼板の引張強度が確実に950MPa以上となるように圧延率を調整してよい。
なお上記では熱間圧延および冷間圧延の両方を行う場合を例示したが、これに限定されず、熱間圧延および冷間圧延のいずれか一方だけを行って圧延材を得てよい。
得られた圧延材は下記(1)式を満足する均熱処理温度T1で均熱処理を行う。

-30.0℃≦T1-Ae3≦40.0℃ (1)
ここでAe3は下記の(2)式による。

Ae3(℃)=896.5414-236.22×〔C〕+26.18998×〔Si〕-28.4882×〔Mn〕+106.9042×〔Al〕+1.284594×〔Ti〕+12.66673×〔Nb〕+42.66673×〔V〕-39.9466×〔Ni〕+2.467166×〔Mo〕-17.8592×〔Cr〕 (2)
ここで[ ]は、それぞれの元素の質量%で示した含有量である。
均熱処理温度T1がAe3-30.0℃より低いとフェライト量が過多となり、十分な引張強さを得ることができない。なお、Ae3点はα相-γ相間の平衡変態温度であり、(2)式から求めることができる。
均熱処理温度T1がAe3+40.0℃より高いと、フェライト量が過少となり、十分な破断伸びを確保できない。また、熱処理温度が高く経済性および生産性の観点からも好ましくない。
なお、均熱処理温度T1での保持時間tpreATは、適正なフェライト量が得られる範囲で適宜選択すればよい。好ましい保持時間tpreATとして10秒~1800秒を例示できる。
(b)第1熱処理工程
続いて、図1に示すように均熱処理後の圧延材を均熱処理温度T1から温度TpreATまで平均冷却速度C1で冷却して保持時間tpreATの間、保持する第1熱処理を行う。
第1熱処理は、温度TpreATで時間tpreATの間保持することにより、ベイニティックフェライトを導入することでオーステナイトを細かく分割しつつ、かつ、ベイニティックフェライトの周囲に残ったオーステナイトに炭素を濃化させることができる。これにより、以降の工程である中間冷却工程および第2熱処理工程で作り込む残留オーステナイトを微細で、炭素濃度の高い安定な状態とすることができ、強度-破断伸びバランス向上に大きく寄与する。また、一般的に用いられるフェライトと異なり、ベイニティックフェライトはそれ自体の強度が高いため、周囲に存在する硬質なマルテンサイトおよび残留オーステナイトとの強度差を小さくすることができるため、破断伸び向上に伴い劣化する傾向にある穴広げ率を改善し、破断伸び-穴広げ率のバランスを向上させることにも有効である。
このように第1熱処理工程は工程(a)~(d)のなかでもひときわ重要な工程であることから、本発明者らは強度、延性および穴広げ率を種々の鋼材で試験した結果とその結果に基づく回帰計算(ガウス過程)を基に保持温度TpreATおよび保持時間tpreATとこれら特性との関係性を見出し、そこから適正な第1熱処理工程として、適正な保持温度TpreATが451℃以上560℃以下であり、適正な保持時間tpreATが4.0秒以上44.3秒以下であることを見出した。
以下、本発明者らによって実現された、ガウス過程に基づいて保持温度及び保持時間tpreATを決定する手順を説明する。
図2は、既知の製造パラメータセットを利用して学習を行い、学習結果を利用して、新たな製造パラメータセットを使用した際の結果を予測する手順を示すフローチャートである。
本手順には、4つのステップが含まれている。すなわち、ステップS2におけるデータ準備工程、ステップS4におけるデータ加工工程、ステップS6におけるモデル学習工程及びステップS8における予測計算工程である。
これらの工程は、大きく2つの処理に分けることができる。第1は、ステップS2,S4及びS6による、ガウス過程による予測モデルfを得る処理である。第2は、ステップS8による、予測モデルfを用いて、第1熱処理工程に関して適正と推定される1または複数の製造パラメータを予測する処理である。本明細書では、上述の第1の処理を「予測モデル取得処理」と呼び、第2の処理を「予測処理」と呼ぶことがある。
なお、図2では「予測モデル取得処理」と「予測処理」とが一連の手順として示されているが、この記載は理解の便宜のための例示に過ぎない。予測モデル取得処理と、予測処理とは本来独立して実行可能である。例えば、あるコンピュータシステムが予測モデル取得処理を実行して予測モデルを取得し、他のコンピュータシステムが当該予測モデルを用いて予測処理を行ってもよい。
次に、上記手順を実行するコンピュータシステムを説明する。
図3は、例示的な実施形態によるコンピュータシステム200の構成を示すハードウェアブロック図である。
コンピュータシステム200は、演算装置100と、入力装置110と、モニタ120とを有する。演算装置100は、入力装置110及びモニタ120のそれぞれと接続されている。ただし、入力装置110及びモニタ120は、演算装置100と常に接続されている必要はなく、必要に応じて都度接続されていてもよい。
演算装置100は、例えば汎用のPCである。演算装置100は、入力装置110から入力されたデータを受け取り、後述の処理を行う。演算装置100の処理の結果は、例えばモニタ120に伝送されてモニタ120に表示される。演算装置100の構成は後述する。
入力装置110は、ユーザからの入力を受け取り、演算回路10に与えるデバイスである。入力装置110の一例は、タッチパネル、マウスおよび/またはキーボードである。または、入力装置110は、既に存在するデータを記憶し、要求に応じて出力する記憶装置であってもよい。
モニタ120は、液晶表示パネルまたは有機ELパネル等の表示パネルを有する表示装置である。モニタ120は、例えば、画像処理装置100が予測モデルfを用いて予測した結果を視覚的に出力する。
演算装置100は、演算回路10と、メモリ12と、記憶装置14と、画像処理回路16と、バス18と、インタフェース装置20a~20cとを有している。構成要素同士はバス18で相互に通信可能に接続されている。
演算回路10は、例えば中央演算処理装置(CPU)またはデジタル信号処理プロセッサなどの集積回路(IC)チップであり得る。演算回路10は、後述のモデル学習処理を行って予測モデルを取得し、取得した予測モデルを用いて予測処理を実行する。
演算回路10は、予測モデルを取得するモデル学習処理、及び、予測モデルを用いた予測処理の両方の処理を行う必要はない。演算装置100は、モデル学習処理のみを行ってもよいし、他の演算装置を用いて取得された予測モデルを用いて予測処理のみを行ってもよい。
メモリ12は、複数の記憶素子を有する、RAMなどの半導体揮発性メモリおよび/またはフラッシュROMなどの半導体不揮発性メモリの総称である。メモリ12の少なくとも一部は、取り外し可能な記録媒体であってもよい。
メモリ12は、モデル学習処理時には種々の学習用データセットを格納する。予測モデルfが得られた後は、メモリ12は、予測モデルfを規定するパラメータ群12mを格納する。さらにメモリ12は、演算回路10の動作を制御するコンピュータプログラムを格納してもよい。
記憶装置14は、例えばメモリ12よりも大きな記憶容量を有するストレージデバイスである。記憶装置14は、入力装置110から受け取ったモデル学習のための種々のパラメータを格納することができる。
画像処理回路16は、GPU(Graphics Processing Unit)とも呼ばれる集積回路(IC)チップであり得る。画像処理回路16は、モニタ120に表示させるための画像データを生成する。
インタフェース装置20aは、入力装置110からデータを受け取る。インタフェース装置20bはモニタ120に映像データを出力する。インタフェース装置20cは、学習用データセット、予測モデルf、予測結果等のデータを入力し、または出力する。
インタフェース装置20a及び20cの一例は、USB端子、イーサネット端子である。インタフェース装置20bの一例は、HDMI(登録商標)端子である。これらの例に代えて、他の端子をインタフェース装置20a~20cとして利用してもよい。なお、インタフェース装置20a~20cの1つまたは複数は、無線通信を行うための無線インタフェースであってもよい。そのような無線インタフェースとして、例えば2.4GHz/5.2GHz/5.3GHz/5.6GHz等の周波数を利用して無線通信を行う、Wi-Fi(登録商標)規格に準拠した規格が採用され得る。
次に、図2に示す「予測モデル取得処理」と「予測処理」とを詳細に説明する。いずれの処理も、演算回路10によって実行されるとする。
図4は、予測モデル取得処理の手順を示すフローチャートである。
ステップS12において、演算回路10は、学習用データセットの生成処理を実行する。「学習用データセット」とは、鋼板を製造するための種々の製造パラメータのセットと、当該製造パラメータセットを用いて実際に製造した鋼板の、所定の特性の関する試験結果とが対応付けられた組み合わせを言う。なお、学習用データセットの生成処理には、実際に製造に用いられたデータを準備すること、及び、当該データを、続くモデル学習処理に好適な形式に加工することを包含する。ステップS14において、演算回路10は、学習用データセットを用いたモデル学習処理を実行する。上述のステップS12及びS14のより具体的な内容は、後に図5から図11を参照しながら詳述される。最後に、ステップS16において、演算回路10は学習済み予測モデルfを取得する。
図5は、学習用データセットの生成処理(図4のステップS12)の詳細な手順を示すフローチャートである。図5のステップのうちのステップS22からステップS28までは、例えば鋼板の製造メーカが実行する工程でありコンピュータシステム200を用いる必要はない。コンピュータシステム200は、ステップS30以降で用いられ得る。
製造メーカは、鋼板の製造パラメータセットx0を決定し(ステップS22)、製造パラメータセットx0を使用して鋼板Sを製造し(ステップS24)、製造した鋼板Sに各種試験を実施する(ステップS26)。これにより、試験結果yが取得される。ステップS26における「各種試験」は、本実施形態においては、引張強さ(TS)、破断伸び(EL)および穴広げ率(λ)を取得するための試験である。
図6は、ある製造パラメータセットと、当該製造パラメータセットの下で製造された鋼板の引張強さ(TS)に関する試験結果とを対応付けた表の一例を示している。この例では、実際に用いられた数値がそのまま製造パラメータセットとして示されている。引張強さ(TS)以外の他の試験結果、例えば破断伸び(EL)および穴広げ率(λ)、が含まれてもよい。
なお、製造メーカは通常、製造パラメータを変更しながら、ラボ実験装置や実機製造ラインで鋼板を実際に製造し、その鋼板への試験を実施してきた。そのため、製造メーカには、対応付けられた製造パラメータセットと試験結果のデータとが既に大量に蓄積されている場合があり得る。そのような場合には、ステップS22からS28は既に実行されていると言える。
次に、図5のステップS30において、演算回路10は、製造パラメータセットx0を加工して加工済み製造パラメータセットxを生成する。ここで言う「加工」は、試験結果との関連が強くなるよう、ステップS22で決定された製造パラメータの数値等から、新たなパラメータを生成する処理を言う。例えば、本実施形態においては、図6に示される「均熱温度T1」、「中間冷却温度T2」、「保持時間tpreAT」、「保持時間tpostAT」から、それぞれ「均熱温度T1-Ae3」、「Ms-中間冷却温度T2」、「log(保持時間tpreAT)」、「log(保持時間tpostAT)」が生成され、加工済み製造パラメータセットに含められる。製造パラメータセットx0のどの製造パラメータをどのように加工して加工済み製造パラメータを生成するかについてのルールは、製造メーカ等が予め決定しておくことができる。演算回路10は当該ルールに従って、製造パラメータセットから自動的に加工済み製造パラメータセットを生成することができる。
ステップS32において、演算回路10は、加工済み製造パラメータセットxと試験結果yとを対応付けて学習用データセットTを生成し保存する。図7は、ある学習用データセットTの一例を示している。図6と図7とを対比すると明らかなように、加工済み製造パラメータセットxには、「均熱温度T1-Ae3」、「Ms-中間冷却温度T2」、「log(保持時間tpreAT)」、「log(保持時間tpostAT)」が記載されていることに留意されたい。本実施形態は、加工済み製造パラメータセットxを、行ベクトルとして取り扱う。
ステップS34において、演算回路10は、n組の学習用データセットT(i=1,・・・,n)を構築する。n組の学習用データセットTには、高強度鋼板に求められる引張強さ(TS)、破断伸び(EL)および/または穴広げ率(λ)等の要件を満足する組も含まれるし、満足しない組も含まれる。これらを用いて学習が行われることにより、学習終了後は未知の製造パラメータセットから上記要件を満足するか、満足しないかの予測結果を得ることができる。
図8は、構築されたn組の学習用データセットT(i=1,・・・,n)の例を示している。本実施形態では、一組の学習用データセットは、行ベクトルである加工済み製造パラメータセットxと、ベクトルyとの組である。図8には、一例として図7に対応する学習用データセットTが明示されている。演算回路10は、構築されたn組の学習用データセットT(i=1,・・・,n)を記憶装置14に格納する。あるいは演算回路10は、当該学習用データセットTをインタフェース装置20cから他のコンピュータシステムに送信してもよい。
得られた学習用データセットTは、次に説明するモデル学習処理に利用される。図8に示すように、本実施形態では、加工済み製造パラメータセットを説明変数X、試験結果に関するデータを目的変数yとしてモデル学習処理に利用する。説明変数Xは行列であり、目的変数yは列ベクトルである。説明変数Xの行数は、鋼板を製造した際の製造パラメータのデータ数を表し、列数は加工済み製造パラメータの数を表す。
上述のように、本発明者らはガウス過程によるモデル学習を行い、学習済みの予測モデルを得た。ガウス過程により得られる予測モデルf(z)は最終的に以下の式となることが知られている。なお、zは、未知の製造パラメータセットを表す。
Figure 0007146127000002
ここで、k(z)及び行列Cは以下のように定義される。
Figure 0007146127000003
Figure 0007146127000004
(i=1,・・・,n)は、行列Xのi行目の要素ベクトルを表し、nはデータ数を表す。また、k(x,x)はカーネル関数を表す。本明細書では、代表的なカーネル関数として以下のガウスカーネルを採用して説明するが、他の周知のカーネル関数を採用してもよい。
Figure 0007146127000005
図9は、数4の変数xを変数xとしたときの、カーネル関数を示している。ガウスカーネルは、平均x、分散1/(θ1/2の正規分布と同じ形状である。
まず数3の行列Cに関し、x(i=1,・・・,n)は既知であるため(図8)、数4を代入すると、パラメータθ,θ及びσを含む形で定数行列Cを算出可能である。その結果、逆行列C-1も計算可能である。なお逆行列は存在すると仮定する。パラメータθ,θ及びσはいわゆるハイパーパラメータであり、上述の数1に示す予測モデルの出力を調整する役割を有する。パラメータθ,θ及びσの詳細は後述する。
さらに、目的変数yも既知であるから、数1における「C-1・y」項は、パラメータθ,θ及びσを含む形で、定数の列ベクトルとして計算可能である。いま、C-1・yを、列ベクトルaとおく。
Figure 0007146127000006
すると、数1は数4を用いて以下のように変形できる。
Figure 0007146127000007
このときの関数f(z)は右辺各項が表す正規分布の和として表される。図10は、予測モデルf(z)のプロファイルと、予測モデルf(z)を構成する数6の右辺各項が表す正規分布との関係を模式的に示している。図10から理解されるように、未知の製造パラメータセットzが与えられると、関数f(z)は、製造パラメータセットzと近い既知の製造パラメータセットxに対応する予測値、例えば引張強さ(TS)の予測値、を出力する。つまり直感的には、ガウス過程により得られる予測モデルf(z)は、入力zが既知の製造パラメータセットxに近い場合には、製造パラメータセットxを採用して製造された鋼板の引張強さ(TS)に近い予測値を出力すると言うことができる。
次に、実際に数6の演算結果を予測値として出力するために必要な、パラメータθ,θ及びσの設定の仕方を検討する。
一般には、ハイパーパラメータとは人間が手動で調整するパラメータである。そのため、パラメータθ,θ及びσは人手によって設定されてもよい。
一方、パラメータθ,θ及びσを推定によって設定することもできる。そのための方法として、本発明者らは、第2種最尤推定法を用いてデータX及びyから学習によって推定した。
いま、ハイパーパラメータθ,θ及びσを、パラメータベクトルθ=(θ,θ1,σ)として取り扱う。すると、数4のカーネル関数はθに依存する。
Figure 0007146127000008
カーネル関数kから計算されるカーネル行列をKとおく。カーネル行列Kは、目的変数(観測値)yがガウス過程に従うとしたときの、説明変数Xの要素x,x間の共分散をまとめた共分散行列に相当する。つまり、カーネル行列Kは、加工済み製造パラメータxを用いて算出され得る。カーネル関数がθに依存するためカーネル行列Kもθに依存する。
いま、θに依存するカーネル行列KをKθと表す。このとき、学習データの確率は以下の数8によって表される。なお、観測値yが、平均0、共分散行列Kθによる正規分布に従うことを、N()によって表している。
Figure 0007146127000009
数8は尤度関数と呼ばれる。ハイパーパラメータθの尤度関数p(y|θ)を最大化するθを求めることを、第2種最尤推定法と呼ぶ。
以上のようにして、上述のパラメータベクトルθが得られ、その結果、予測モデルを具体的に得ることができる。
図11は、学習用データセットを用いたモデル学習処理の手順を示すフローチャートである。本手順は、図4のステップS14の詳細である。
ステップS42において、演算回路10は、学習用データセットTi(i=1,…,n)を取得する。学習用データセットTiが記憶装置14に格納されている場合には、演算回路10は記憶装置14から読み出すことによって学習用データセットTiを取得する。学習用データセットTiが外部のコンピュータシステムによって生成された場合には、演算回路10はインタフェース装置20cを介して学習用データセットTiを取得する。
ステップS44において、演算回路10は、予測モデルf(z)=k(z)・C-1・y のうちのベクトルC-1・y(数5)を算出する。得られたベクトルC-1・yは上述のハイパーパラメータを含んでいる。
ステップS46において、演算回路10は、加工済み製造パラメータx及び観測値yを用いた学習により、モデル内のパラメータθ,θ及びσを決定する。
以上の処理により、数6に示すf(z)に各パラメータθ,θ,σを設定することができる。導出された予測モデルf(z)を規定する数6及び数6中のハイパーパラメータは、例えば記憶装置14に格納される。
なお、上述の説明では、第2種最尤推定法を用いる例を挙げたが、他の方法によってハイパーパラメータθを推定してもよい。例えば、ハイパーパラメータθの候補を複数用意して、最も予測精度が高くなるものを選択するグリッドサーチ法で決定してもよい。
上述の予測モデルf(z)は、試験対象とされる鋼板の特性ごとに導出される。つまり、図6~図8等では引張強さ(TS)を例示して説明したが、他に、破断伸び(EL)および穴広げ率(λ)に関する予測モデルf(z)もそれぞれ導出される。
次に、図12を参照しながら、未知の製造パラメータセットzに基づく予測処理を説明する。
図12は、未知の製造パラメータセットzに基づく予測処理の手順を示すフローチャートである。
ステップS52において、演算回路10は、例えば記憶装置14から数6及び数6に適用されるハイパーパラメータを読み出すことにより、学習済み予測モデルy=f(z)を取得する。
ステップS54において、演算回路10は、予測対象となる製造パラメータセットzを用いて出力値yを算出し、保存する。
ステップS56において、演算回路10は、製造パラメータセット中の特定の製造パラメータを所定範囲だけ変化させたか否かを判定する。例えば特定の製造パラメータが「温度TpreAT」である場合、演算回路10は、温度TpreATを200℃から600℃まで変化させたか否かを判定する。まだ所定範囲だけ変化させていないと判定されると、処理はステップS58に進み、所定範囲だけ変化させたと判定されると処理はステップS60に進む。
ステップS58において、演算回路10は、当該所定の製造パラメータを変化させる。このとき、残りの製造パラメータは変化させずに維持する。これは、演算回路10が、予測値yを算出する際に用いられた製造パラメータセットzから製造パラメータセットzi+1を生成することを意味する。演算回路10は、変化後の製造パラメータの値を保持する。例えば温度TpreATを変化させた場合、演算回路10は温度TpreATの値を所定単位(例えば1℃)だけインクリメントまたはデクリメントして、現在の温度TpreATの値をメモリ12に保持する。これにより、温度TpreATの値がインクリメントまたはデクリメントされ、その他の製造パラメータは一定に維持された製造パラメータセットzi+1が得られる。その後処理はステップS54に戻る。演算回路10は、ステップS56において特定の製造パラメータが所定範囲にわたって変えられ、その他の製造パラメータは一定に維持された複数の製造パラメータセットの各々を用いて、予測値を算出する。
ステップS60において、演算回路10は、所定の製造パラメータの変化に起因する予測値の変化から、当該所定の製造パラメータの好適な範囲を決定する。
上述のとおり、本実施の形態では引張強さ(TS)、破断伸び(EL)および穴広げ率(λ)の各々について、図12の処理が実行される。
図13は、複数の性能予測値を考慮した製造パラメータの決定処理の手順を示すフローチャートである。
ステップS72において、演算回路10は、特性に関するk種類の予測値のデータを取得する。本実施の形態では、演算回路10は、3種類の特性(引張強さ(TS)、破断伸び(EL)および穴広げ率(λ))に関する予測値のデータを取得する。
ステップS74において、演算回路10は、第1~第k特性の各要件が満足される各製造パラメータの範囲R~Rkを決定する。
図13のフローに従って予測値データを取得した具体例を図16に示す。
図16は、予測モデルに基づいて抽出された、目標特性を満足する組成例及び満足しない組成例を示している。色が付与されたマスは、所望の範囲、結果から外れると判断されたエントリ番号(最左列)、組成例及び予測結果のいずれかを示している。引張強さ(TS)、破断伸び(EL)および穴広げ率(λ)の各予測値(図16の最も右の3行)のうち、「○」は目標条件を達成した例を示しており、「×」は目標条件を達成していない例を示している。図16における「E2」及び「E-2」は、それぞれ、10の2乗及び10のマイナス2乗を表している。
図16のように製造パラメータの組合せを複数用意したときの特性予測値を基にTpreATやtpreATの満たすべき範囲を定めることができる。例えば、TpreATについては少なくとも400℃以下ではELが満足されないため本発明の範囲からは除外される。また、tpreATについては少なくとも50秒以上であるとELが満足されないため本発明の範囲からは除外される。
ステップS76において、演算回路10は、各範囲R~Rkの全てに重複する範囲Rを、当該製造パラメータが採用される範囲として決定する。
製造パラメータの組合せを多数用意してその特性予測値を検証したことで本発明では、451℃以上、560℃以下の温度範囲が温度TpreATとして採用される。ただし、当該範囲よりも狭い範囲、例えば451℃以上、530℃以下の範囲を採用することはより好適である。あるいは、例えば500℃以上、560℃以下の範囲を採用することも好適である。
同様の検証により、4.0秒以上、44.3秒以下の範囲が保持時間tpreATとして採用される。ただし、当該範囲よりも狭い範囲、例えば4.0以上、35.0秒以下の範囲を採用することはより好適である。
以上説明したように、これまで蓄積された製造パラメータセットと、当該製造パラメータセットで実際に製造された鋼板の試験結果とを利用して、ガウス過程に基づく予測モデルf(z)を取得し、当該予測モデルf(z)を用いて、未知の製造パラメータセットを用いた場合の試験結果を予測することができる。
本実施の形態において用いた予測モデルについて、本発明者らはクロスバリデーションによる検証を行い、その有効性を確認した。検証については、後の「3.材料特性と製造条件の関係」において説明する。
このようにして得られた保持温度TpreATが451℃以上560℃以下、好ましくは451℃以上530℃以下であり、保持時間tpreATは4.0秒以上44.3秒以下、好ましくは4.0秒以上35.0秒以下である。保持温度TpreATについては、例えば500℃以上、560℃以下の範囲を採用することも好適である。
得られた結果を冶金学的に検討すると、温度TpreATが451℃未満では第1熱処理工程で生成するベイニティックフェライトとオーステナイト界面でのΘ(セメンタイト)相析出駆動力が上昇し、保持中に未変態オーステナイトの炭素濃度が減少してしまう。このため、最終的に安定度の高い残留オーステナイトを作りこむことができず高い破断伸びを確保できないと考えられる。また温度TpreATが580℃を超えるとベイナイト変態が起こらず、ポリゴナルフェライトが生成してしまい、生成したポリゴナルフェライトの周囲に粗大なMAが形成されてしまうため十分な穴広げ率が確保できないと考えられる。時間tpreATについては44.3秒を超えると、ベイナイトが過度に生成して十分な引張強さを確保できないと考えられる。
第1平均冷却速度C1は、本発明において鋼板の特性を制御するために調整するパラメータではなく、上述の第1熱処理工程の目的を達成すべく設定する温度TpreATおよび保持時間tpreATといったパラメータを適切に調整するために設定するものであり、また連続焼鈍設備を用いる場合には安定した操業を実現できる条件とする。したがって、上記の学習データセットにC1の情報は含めていない。具体的な数値範囲は、第1平均冷却速度C1は2℃/秒以上、60℃/秒以下である。
なお、本明細書において「平均冷却速度」とは、冷却開始温度と冷却終了温度との温度差を冷却開始温度から冷却終了温度まで冷却するのに要した時間で除した値である。
(c)中間冷却工程
続いて、図1に示すように第1熱処理後の圧延材を温度TpreATから中間冷却温度T2まで第2平均冷却速度C2で冷却する中間冷却工程を実施する。中間冷却温度T2は以下の(3)式を満足する。(3)式に含まれるMs(マルテンサイト変態開始温度:Ms点)は、下記の(4)式により求めることができる。

Ms-215≦T2≦Ms-118 (3)
ここで、Msは下記(4)式による。

Ms(℃)=561-474×[C]-33×[Mn] (4)
ここで[ ]は、それぞれの元素の質量%で示した含有量である。
中間冷却温度T2がMs-215℃より低いと、ほとんどの未変態オーステナイトがマルテンサイト変態してしまい、破断伸びに寄与する残留オーステナイトを十分に確保できず破断伸びが不足する。一方で中間冷却温度T2がMs-118℃よい高いと過冷却の度合いが小さくマルテンサイトの量を十分確保できずに引張強度が不足する。中間冷却温度T2は好ましくはMs-230.0℃以上Ms-110.0℃以下である。さらに好ましくは、中間冷却温度T2はMs-210℃以上Ms-150℃以下である。
第2平均冷却速度C2は、本発明において鋼板の特性を制御するために調整するパラメータではなく、上述の中間冷却工程の目的を達成すべく設定する中間冷却温度T2を適切に調整するために設定するものであり、また連続焼鈍設備を用いる場合には安定した操業を実現できる条件とする。したがって、上記の学習データセットにC2の情報は含めていない。具体的な数値範囲は、第2平均冷却速度C2は10℃/秒以上、60℃/秒以下である。
(d)第2熱処理工程
続いて、図1に示すように中間冷却工程を実施した圧延材を中間冷却温度T2から温度TpostATまで第1平均加熱速度H1で加熱して保持時間tpostATの間保持し、その後温度TpostATから室温まで第3平均冷却速度C3で冷却する第2熱処理を行う。
温度TpostATは350℃以上、450℃以下であり、好ましくは380℃以上420℃以下である。保持時間tpostATは100.0秒以上990.0秒以下であり、好ましくは150.0秒以上400.0秒以下である。
温度TpostATが350℃より低いと、中間冷却工程による過冷却時に生成したマルテンサイトから未変態オーステナイトへのCの分配が十分に起こらず、安定な残留γを作り込むことができないことから十分な破断伸びを確保できない。一方、温度TpostATが450℃より高いと未変態オーステナイト中に炭化物が生成し、未変態オーステナイト中の炭素濃度を下げてしまうことから十分な破断伸びを確保できなくなる。
保持時間tpostATが100.0秒より短いと、中間冷却工程による過冷却時に生成したマルテンサイトから未変態オーステナイトへのCの分配が十分に起こらず、安定な残留γを十分に確保できないことから十分な破断伸びを確保できない。一方、保持時間tpostATが990.0秒より長いと、未変態オーステナイト中に炭化物が生成し、未変態オーステナイト中の炭素濃度を下げてしまうことから十分な破断伸びを確保できなくなる。また保持時間tpostATが長くなると生産性が低下するため、このような観点でも990.0秒以上の保持は好ましくない。
第1平均加熱速度H1は、本発明において鋼板の特性を制御するために調整するパラメータではなく、上述の第2熱処理工程の目的を達成すべく設定する温度TpostATおよび保持時間tpostATといったパラメータを適切に調整するために設定するものであり、また連続焼鈍設備を用いる場合には安定した操業を実現できる条件とする。したがって、上記の学習データセットにH1の情報は含めていない。具体的な数値範囲は、第1平均加熱速度H1は5℃/秒以上、60℃/秒以下である。
なお、本明細書において「平均加熱速度」とは、加熱開始温度と加熱終了温度との温度差の絶対値を加熱開始温度から加熱終了温度まで加熱するのに要した時間で除した値である。
第3平均冷却速度C3は、本発明において鋼板の特性を制御するために調整するパラメータではなく、上述の第2熱処理工程の目的を達成すべく設定するものであり、また連続焼鈍設備を用いる場合には安定した操業を実現できる条件とする。したがって、上記の学習データセットにC3の情報は含めていない。具体的な数値範囲は、第3平均冷却速度C3は10℃/秒以上、60℃/秒以下である。
以上に説明したように、本発明に係る高強度鋼板の製造方法では、所定の組成を有する圧延材に上述の(a)均熱処理工程、(b)第1熱処理工程、(c)中間冷却工程および(d)第2熱処理工程を順に行うことにより、引張強さ(TS)が950MPa以上、破断伸び(EL)が22%以上および穴広げ率(λ)が20%以上と優れた特性を有する高強度鋼板を得ることができる。
また、用いる圧延材のMn量は2.20質量%以下であり、多量のMnを必要とせずに上述の優れた特性を得ることができる。
さらに、(a)均熱処理工程、(b)第1熱処理工程、(c)中間冷却工程および(d)第2熱処理工程は、単一の汎用的な連続焼鈍設備(CAL)を用いて連続的に行うことができるなど、複雑な工程を必要としない。
なお、上記に説明した工程(a)~(d)における、温度T1、TpreAT、T2、TpostAT、第1平均冷却速度C1、第2平均冷却速度C2、第3平均冷却速度C2および第1平均加熱速度H1は、ワーク(圧延材)に熱電対を貼り付ける等により、熱電対をワークに接触させて測定することができる。また、例えば、設備が大型で熱電対を用いた測定が困難な場合等には、簡便な方法として、放射温度計等の非接触型温度計を用いて測定してもよい。
3.材料特性と製造条件の関係
本発明者らは、上述の予測モデルを用いた予測精度を検証し、予測モデルの有効性を確認した。
図14は、予測に用いた既知の製造パラメータセットと各製造パラメータの範囲の例を示している。本発明者らは、図14に示される範囲を満足するデータ群からガウス過程を用いて回帰的に関係式を求めた。その回帰式による予測精度については、実績と予測を比較するクロスバリデーション図にて確認を行った。
図15A~図15Cは、引張強さ(TS)、破断伸び(EL)および穴広げ率(λ)の予測値と実績値とを比較したクロスバリデーション(CV)図である。クロスバリデーションとは、統計学において標本データを分割し、その一部をまず解析して、残る部分でその解析のテストを行い、解析自身の妥当性の検証・確認に当てる手法のことである。クロスバリデーションでは、予測モデルの作成に利用したデータ量と検証に用いたデータ量との割合は、9:1とした。
クロスバリデーションによる検証を行った結果、引張強さ(TS)、破断伸び(EL)および穴広げ率(λ)のそれぞれにおいて予測と実績が良い対応を示していることが確認された。特に、図15A~図15Cの各々において破線の円で示すように、本件発明材の特性基準としている引張強さ(TS)が950MPa、破断伸び(EL)が22%、穴広げ率(λ)が20%付近を見ると、予測と実績が良い一致傾向を示すことから上述した手順によって生成した学習モデルによりこれらの特性を十分に予測できることがわかった。
なお図14には、第1平均冷却速度C1、第2平均冷却速度C2、第3平均冷却速度C2および第1平均加熱速度H1は、製造パラメータとして含められていない。本発明者らがこれらを製造パラメータとして含めずに性能予測を行い、予測値と実績値との対応を検証した結果、上述のとおり予測結果が良好であるとの結論を得られたからである。ただしこれらの一部または全部を製造パラメータとして含めて性能予測を行ってもよい。
1.サンプル作製
表1に示す成分を含有し、残部は鉄および不可避不純物からなる鋼を溶製し鋳造材を得た。表1に示した実施例1は図16のサンプルNo.1に相当し、比較例2は図16のサンプルNo.10に相当する。得られた鋳造材を熱間圧延して得た熱間圧延材をさらに冷間圧延し板厚1.4mmの圧延材(冷間圧延材)を得た。
Figure 0007146127000010
連続焼鈍設備を用いて、図1に示す熱処理パターンに従って、得られた圧延材に(a)均熱処理工程、(b)第1熱処理工程、(c)中間冷却工程、および(d)第2熱処理工程を順に行い、実施例サンプル(実施例1)と比較例サンプル(比較例1)を作製した。均熱処理温度T1での保持時間tpreATは180秒とした。
(2)式を用いて計算したAe3および均熱処理温度T1を用いて求めた(1)式中の「均熱温度T1-Ae3」、第1熱処理工程の温度TpreATと保持時間tpreAT、(4)式を用いて計算したマルテンサイト変態開始温度Msおよび中間冷却温度T2を用いて求めた「Ms-T2」(この値が118以上215以下だと(3)式を満たすことを意味する)、第2熱処理工程の温度TpostATと保持時間tpostATを表3に示す。第1平均冷却速度C1は30℃/秒とし、第2平均冷却速度C2は10℃/秒とし、第3平均冷却速度C3は30℃/秒とした。また、第1平均加熱速度H1は10℃/秒とした。
なお、それぞれの温度はサンプルに熱電対を貼り付けて測定した。
Figure 0007146127000011
2.機械的特性の評価
得られた実施例1サンプルおよび比較例1サンプルからJIS 5号引張試験片を採取した。この引張試験を用いて引張試験(JIS Z2241に準拠)を行い、引張強さ(TS)と破断伸び(EL)を測定した。引張強さについては950MPa以上の場合を合格とし、破断伸びについては22%以上を合格とした。
実施例1サンプルおよび比較例1サンプルについて、さらに日本鉄鋼連盟規格JFST 1001の規定に準拠した穴広げ試験を行い、穴広げ率(λ)の評価を行った。穴広げ率が20%以上の場合を合格とした。
引張強さ、破断伸びおよび穴広げ率の評価結果を表4に示す。
Figure 0007146127000012
本発明に係る高強度鋼板の製造方法が規定する要件を全て満足する実施例1サンプルは、引張強さ、破断伸びおよび穴広げ率の全ての結果が合格であった。
一方、Mn含有量が過多で、Cr含有量が少なく、また(1)式、(3)式、温度TpreAT、保持時間tpreATを温度TpostATおよび保持時間tpostATを満足しない比較例1サンプルは、引張強さは実施例1サンプルと同程度であり、また高い穴広げ率を示すものの、破断伸びが非常に低く不合格となった。
図17は、高強度鋼板の要件を満足するために調整される製造パラメータセットと各製造パラメータの範囲の例を示す図である。ガウス過程回帰を用いて導出した製造パラメータに基づいて製造パラメータの好適な条件を決定することができる。そのような条件の下で製造された高強度鋼板は、所定の特性要件を満足することが確認された。なお、平均加熱速度および平均冷却速度は他のパラメータの値の如何に関わらず、前述した数値範囲内である。

Claims (1)

  1. C:0.10質量%以上0.40質量%以下
    Si:0.50質量%以上1.80質量%以下、
    Mn:1.60質量%以上2.20質量%以下、
    Al:0.01質量%以上0.90質量%以下、
    Cr:0.30質量%以上0.80質量%以下、
    を含有し、残部は鉄および不可避不純物からなる圧延材を、下記(1)式を満足する均熱処理温度T1で均熱処理を行う均熱処理工程と、
    前記圧延材を2℃/秒以上60℃/秒以下の第1平均冷却速度C1で451℃以上560℃以下の温度TpreATまで冷却し、前記温度TpreATで4.0秒以上44.3秒以下の保持時間tpreATの間保持する第1熱処理工程と、
    前記圧延材を、10℃/秒以上60℃/秒以下の第2平均冷却速度C2で下記(3)式を満足する中間冷却温度T2に冷却する中間冷却工程と、
    前記圧延材を5℃/秒以上60℃/秒以下の第1平均加熱速度H1で350℃以上450℃以下の温度TpostATまで加熱し、前記温度TpostATで100.0秒以上990.0秒以下の保持時間tpostATの間保持した後、10℃/秒以上60℃/秒以下の第3平均冷却速度C3で室温まで冷却する第2熱処理工程と、
    を順に含む、引張強さ950MPa以上、破断伸び22%以上且つ穴広げ率20%以上の高強度鋼板の製造方法。

    -30.0℃≦T1-Ae3≦40.0℃ (1)
    ここでAe3は下記の(2)式による。

    Ae3(℃)=896.5414-236.22×〔C〕+26.18998×〔Si〕-28.4882×〔Mn〕+106.9042×〔Al〕+1.284594×〔Ti〕+12.66673×〔Nb〕+42.66673×〔V〕-39.9466×〔Ni〕+2.467166×〔Mo〕-17.8592×〔Cr〕 (2)
    ここで[ ]は、それぞれの元素の質量%で示した含有量である。

    Ms-215≦T2≦Ms-118 (3)
    ここで、Msは下記(4)式による。

    Ms(℃)=561-474×[C]-33×[Mn] (4)
    ここで[ ]は、それぞれの元素の質量%で示した含有量である。
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