JP2015128155A - 金属酸化物含有層を有する電子デバイス - Google Patents

金属酸化物含有層を有する電子デバイス Download PDF

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才華 大坪
荒牧 晋司
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晋司 荒牧
佐藤 佳晴
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Abstract

【課題】高い電気特性を備えた電子デバイスを提供する。
【解決手段】式(I)で表される構造を有する不飽和カルボン酸金属塩重合体と、金属酸化物と、を含有する金属酸化物含有層を有する電子デバイスであり、前記不飽和カルボン酸金属塩重合体の含有率が、前記金属酸化物含有層の総質量に対して、5質量%以上、60質量%以下である。
Figure 2015128155

(式(I)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子又は任意の置換基であり、Mはm価の金属原子であり、mは2以上、5以下の整数である。nは重合度であり、2以上、10000以下の整数である。)
【選択図】図3

Description

本発明は、金属酸化物含有層を有する電子デバイス、特に光電変換素子に関する。
OPVは通常、一対の電極で活性層を挟んだ構成を有するが、電極と活性層との間に、電荷輸送効率を向上させる等の目的のために、バッファ層が設けられる場合がある。バッファ層は通常、電子取り出し層と正孔取り出し層とに分類することができる。なかでも、電子取り出し層を形成する材料としては、酸化チタン(TiOx)、酸化亜鉛(ZnO)等が用いることが知られており、正孔取り出し層を形成する材料としては、酸化モリブデン(MoO3)、酸化バナジウム(V25)等の金属酸化物を用いる例が知られている。
また、上記のような金属酸化物含有層の成膜法としては、乾式成膜法のスパッタリング法、湿式成膜法のゾルゲル法、及び分散液を塗布する塗布法等が知られている。しかしながら、各々、製造コストの高い真空雰囲気を用いる方法であること、前駆体から金属酸化物への変換に高温又は長時間の加熱が必要であること、及び均一な膜の作製が難しいこと等の課題を有している。
例えば、非特許文献1及び2には、ゾルゲル法、酸化亜鉛ナノ粒子分散液を用いる塗布方法、及び亜鉛アセチルアセトナート錯体を用いる塗布方法により得られる金属酸化物含有層をOPVのバッファ層に用いた例が記載されている。また、非特許文献3には、酸化亜鉛に対して、2モル%以下のジアクリル酸亜鉛を添加した酸化亜鉛分散液から塗布した膜を、窒素雰囲気でUV露光及び熱処理した後に、電子取り出し層に用いた光電変換素子が記載されている。
Appl.Phys.Lett.2008,92,253301−1−3. Org.Electronics 2012,13,1136−1140. Nanotechnology.2013,24,484012−1−8.
電子デバイスの実用化のためには高い電気特性が求められる。しかしながら、本発明者らの検討によると、非特許文献1及び2に記載のゾルゲル法、酸化亜鉛ナノ粒子分散液を用いる塗布方法、及び亜鉛アセチルアセトナート錯体を用いる塗布方法では、酸化亜鉛形成用組成物のインク安定性が低く、電子デバイスの特性が変動する傾向があることが判明した。また、非特許文献2に記載のUV露光及び加熱処理により得られた酸化亜鉛含有層を電子デバイスに用いた場合、高い電気特性が得られにくいことが判明した。本発明は、高い電気特性を備えた電子デバイス、特に、高い変換効率を備えた光電変換素子を提供することを課題とする。
上記実情に鑑み鋭意検討の結果、本願発明者らは、特定の不飽和カルボン酸金属塩重合体と金属酸化物を含む金属酸化物含有層を電子デバイス、特に光電変換素子に用いることで、上記課題を解決し、本発明を達成するに至った。
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 式(I)で表される構造を有する不飽和カルボン酸金属塩重合体と、金属酸化物と、を含有する金属酸化物含有層を有する電子デバイスであり、前記不飽和カルボン酸金属塩重合体の含有率が、前記金属酸化物含有層の総質量に対して、5質量%以上、60質量%以下である電子デバイス。
Figure 2015128155
(式(I)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子又は任意の置換基であり、Mはm価の金属原子であり、mは2以上、5以下の整数である。nは重合度であり、2以上、10000以下の整数である。)
[2] 前記式(I)中、Mが周期表第4周期元素から選ばれる遷移金属原子、周期表第12族元素、周期表第13族元素、及び周期表第14族元素から選ばれるいずれかの金属原子である[1]に記載の電子デバイス。
[3] 前記式(I)中、Mが亜鉛原子である[1]又は[2]のいずれかに記載の電子デバイス。
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の電子デバイスが、光電変換素子である電子デバイス。
本発明により、高い電気特性を備えた電子デバイス、特に、高い変換効率を備えた光電変換素子を提供することができる。
本発明の一実施形態としての電界効果トランジスタ素子の構成を模式的に表す断面図である。 本発明の一実施形態としての電界発光素子の構成を模式的に表す断面図である。 本発明の一実施形態としての光電変換素子の構成を模式的に表す断面図である。 本発明の一実施形態としての太陽電池の構成を模式的に表す断面図である。 本発明の一実施形態としての太陽電池モジュールの構成を模式的に表す断面図である。 実施例2で測定した酸化亜鉛含有層の赤外分光(IR)スペクトルである。 実施例2で測定した酸化亜鉛含有層の可視・紫外分光(UV−Vis)スペクトルである。 実施例3で測定した酸化亜鉛含有層の励起波長345nmでの発光(PL)スペクトルである。
以下、本発明の実施の形態を説明するが、記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。なお、以下に説明する本発明の構成において、同一部分、又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。以下、本発明の電子デバイスを構成する金属酸化物含有層(以下、本発明に係る金属酸化物含有層と称する場合がある)について説明する。
<1.金属酸化物含有層>
本発明に係る金属酸化物含有層は、金属酸化物以外に、特定の不飽和カルボン金属塩重合体を特定の含有率で含有する。なお、本発明に係る金属酸化物含有層は、後述するように電子デバイスを構成する一層として用いることができ、特には、光電変換素子のバッファ層として用いることができる。
<1.1.不飽和カルボン酸金属塩重合体>
本発明に係る金属酸化物含有層は、式(I)で表される構造を有する不飽和カルボン酸金属塩重合体(以下、本発明に係る不飽和カルボン酸金属塩重合体と称す場合がある)を含有する。
Figure 2015128155
式(I)において、mは、2以上、5以下の整数である。式(I)中のnは重合度を表し、金属酸化物含有層の電気的特性を損なわない限りにおいて特段の制限はないが、電子デバイスにおける耐久性を向上させるという観点から、通常、2以上であり、好ましくは5以上であり、より好ましくは10以上である。一方で、重合度nが大きすぎると、得られる金属酸化物含有層の電気的特性が低下する傾向があるために、10000以下であることが好ましく、5000以下であることがさらに好ましく、1000以下であることが特に好ましい。
式(I)で表される重合部の末端は、電気的特性に影響がない限りにおいて制限はなく、例えば水素原子、又はハロゲン原子が挙げられる。
なお、式(I)において、(−CR12−CR3COO-−)nはm個存在することになるが、m個の(−CR12−CR3COO-−)nはそれぞれ、同じであってもよいし、異なっていてもよく、重合度nも、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。
Mは2〜5価の金属原子である。具体的には、2価の金属原子としては、チタン(II)原子、バナジウム(II)原子、クロム(II)原子、マンガン(II)原子、鉄(II)原子、コバルト(II)原子、ニッケル(II)原子、銅(II)原子等の2価の遷移金属原子;亜鉛(II)原子、スズ(II)原子、鉛(II)原子等の2価の典型金属原子が挙げられる。3価の金属原子としては、スカンジウム(III)原子、チタン(III)原子、クロム(III)原子、マンガン(III)原子、鉄(III)原子、コバルト(III)原子等の3価の遷移金属原子;アルミニウム(III)原子、ガリウム(III)原子、インジウム(III)原子等の3価の典型金属原子が挙げられる。4価の金属原子としては、チタン(IV)原子、スズ(IV)原子、鉛(IV)原子が挙げられる。5価の金属原子としては、バナジウム(V)原子が挙げられる。
本明細書において典型金属原子とは、周期表第1族、第2族、及び第12族〜第18族の金属元素の原子を指す。また遷移金属原子とは、周期表第3族〜第11族の金属元素の原子を指す。本明細書において、周期表とは、IUPAC2005年度推奨版(Recommendations of IUPAC 2005)のことを指す。
Mの好ましい例としては、特に不飽和カルボン酸金属塩重合体を形成しやすい原子が挙げられる。具体的には、周期表第4周期元素から選ばれる遷移金属原子、又は周期表第12族元素、周期表第13族元素、及び周期表第14族元素から選ばれる金属原子が挙げられる。周期表第4周期元素から選ばれる遷移金属原子として、好ましくは、スカンジウム原子、チタン原子、バナジウム原子、クロム原子、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子が挙げられる。周期表第12族元素から選ばれる金属原子として、好ましくは亜鉛原子が挙げられる。周期表第13族元素から選ばれる金属原子として、好ましくは、インジウム原子、ガリウム原子、アルミニウム原子が挙げられる。周期表第14族元素から選ばれる金属原子として、好ましくは、スズ原子、鉛原子が挙げられる。
なかでも、2価の原子価状態をとりやすい点で、Mはマンガン原子、ニッケル原子、銅原子、又は亜鉛原子であることが好ましい。平面四配位構造の中心金属になりやすくので、不飽和カルボン酸重合体のネットワークを作り出しやすいから、亜鉛原子が特に好ましい。
1、R2及びR3は、本発明に係る金属酸化物含有層が半導体として機能する限り特段の限定はなく、式(I)中のR1、R2及びR3は、それぞれ独立して、水素原子又は任意の置換基である。任意の置換基の好ましい例としては、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、アミノ基、シリル基、ボリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、及び芳香族複素環基が挙げられる。アミノ基、シリル基、ボリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、及び芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。
ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
アミノ基としては、例えば、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、カルバゾリル基等の芳香族置換アミノ基が挙げられる。
シリル基としては,炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基が挙げられる。
ボリル基としては、例えば、ジメシチルボリル基等の芳香族置換ボリル基が挙げられる。
アルキル基としては、炭素数1以上20以下のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基又はシクロヘキシル基が挙げられる。
アルケニル基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、ビニル基、スチリル基又はジフェニルビニル基が挙げられる。
アルキニル基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、メチルエチニル基、フェニルエチニル基、トリメチルシリルエチニル基が挙げられる。
アルコキシ基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、エチルヘキシルオキシ基、ベンジルオキシ基、t−ブトキシ基等の直鎖又は分岐アルコキシ基が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、炭素数6以上20以下のものが好ましい。芳香族炭化水素基は、単環芳香族炭化水素基、縮合多環芳香族炭化水素基、及び環連結芳香族炭化水素基のいずれであってもよい。単環芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。縮合多環芳香族炭化水素基としては、例えば、フェナントリル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、ピレニル基、ペリレニル基が挙げられる。環連結芳香族炭化水素基としては、例えば、ビフェニル基又はターフェニル基が挙げられる。これらの中でも、フェニル基又はナフチル基が好ましい。
芳香族複素環基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、ピリジル基、チエニル基、フリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、オキサジアゾリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、フェニルカルバゾリル基が挙げられる。これらの中でも、ピリジル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基又はフェナントリル基が好ましい。
金属酸化物含有層が形成される際に層に損傷を与えうる化合物が生じにくくなる点で、R3が水素原子であり、R1及びR2のうちどちらか一方が、水素原子又は直鎖アルキル基であり、他方が、水素原子であることが好ましい。なかでも、R1、R2及びR3が共に水素原子である、アクリル酸が特に好ましい。
また、本発明に係る金属酸化物含有層における不飽和カルボン酸金属塩重合体の含有率は、金属酸化物含有層の総質量に対し、5質量%以上であり、好ましくは6質量%であり、より好ましくは7質量%以上であり、さらに好ましくは8質量%以上であり、特に好ましくは10質量%である。一方、60質量%以下であり、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。上記の範囲内であれば、金属酸化物含有層が高い電気的特性を有することができる。
本発明に係る不飽和カルボン酸金属塩重合体の生成法に特段の制限はなく、例えば、後述する式(II)の不飽和カルボン酸金属塩の重合により生成することができる。
<1.2.金属酸化物>
上述の通り、本発明に係る金属酸化物含有層は金属酸化物を含有する。金属酸化物は、特段の制限はないが、例えば、酸化スカンジウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化アルミニウム、酸化スズ又は酸化鉛が挙げられる。なかでも、酸化チタン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化インジウム又は酸化スズがより好ましく、金属酸化物含有層の電気的特性が高い点で、酸化亜鉛が特に好ましい。
また、金属酸化物は、他の金属元素がドープされていてもよい。
本発明に係る金属酸化物含有層における金属酸化物の含有率は、特段の制限はないが、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上あり、さらに好ましくは60質量%以上であり、特に好ましくは70質量%以上であり、一方で、通常95質量%以下であり、好ましくは93質量%以下であり、特に好ましくは90質量%以下である。
金属酸化物の平均一次粒径は、通常、1nm以上であり、好ましくは3nm以上であり、より好ましくは5nm以上である。一方で、通常、100nm以下であり、好ましくは60nm以下であり、より好ましくは40nm以下である。平均一次粒径が1nm以上であると金属酸化物が凝集しにくく、平均二次粒径が好適な大きさの金属酸化物が得られるため、好ましい。また、平均一次粒径が100nm以下であることで、金属酸化物の二次粒子ひとつひとつが適度な大きさとなり、均一な膜厚の金属酸化物含有層となるために好ましい。
金属酸化物の平均一次粒径は、動的光散乱粒子径測定装置や透過型電子顕微鏡(TEM)等で測定することができる。
金属酸化物は、後述する式(II)の不飽和カルボン酸金属塩の重合から主に生成されるが、本発明に係る金属酸化物含有層を形成するための組成物にあらかじめ添加されていてもよい。
該組成物に添加してもよい金属酸化物に特段の制限はないが、具体例としては、ナノジンク60(本荘ケミカル社製,酸化亜鉛)、ナノジンク100(本荘ケミカル社製,酸化亜鉛)、FINEX(登録商標)−30(堺化学工業社製,酸化亜鉛)、ZINCOX SUPER F−2(ハクスイテック社製,酸化亜鉛)、パゼット23K(ハクスイテック社製,アルミニウムドープ酸化亜鉛)、パゼットGK40(ハクスイテック社製,ガリウムドープ酸化亜鉛)、アルドリッチ社製酸化亜鉛分散液(カタログナンバー721085、721107等)、パゼットGK分散体(ハクスイテック社製,ガリウムドープ酸化亜鉛分散液)が挙げられる。
本発明に係る金属酸化物含有層の膜厚に対する平均粗さとしては、金属酸化物含有層が高性能で機能する上でも、ゼロに近い程、好ましい。具体的には、膜厚に対する平均粗さが、通常、10%未満、好ましくは9%以下であり、より好ましくは8%以下である。粗さが膜厚に対して、10%未満であることで、電気的特性が良好となる傾向がある。
また、本発明に係る金属酸化物含有層は、含有されている金属酸化物が、特定の結晶配向性を極端に持たないことが好ましい。薄膜の場合は、通常は単結晶でなく、多結晶である。酸化亜鉛を例にすると、酸化亜鉛はウルツ鉱型の結晶構造を取りやすく、スパッタリング法等の乾式成膜法や電気分解法では、c軸配向性が強い多結晶をつくりやすい。しかしながら、c軸配向性が強い多結晶では、電子移動度は高いが、熱や湿度といった外気の環境に対する耐久性が弱いという課題がある。その点、特定の結晶配向性を極端に持たない多結晶であれば、外気の環境に対する耐久性が向上する可能性がある。
そのため、酸化亜鉛含有半導体層であれば、薄膜X線回折法(XRD,out of plane測定)において(002)面の2θピークの半値幅が1°以上であることが好ましく、1.1°以上であることがさらに好ましく、1.2°以上が特に好ましく、通常5°以下であり、4°以下であることがさらに好ましく、3.5°以下であることが特に好ましい。この範囲内であれば、高い電子移動度と外気の環境に対する耐久性を有する電子デバイスを提供することができる。
また、金属酸化物含有層を工業的に製造する場合、例えばロールツゥーロールプロセスを用いる場合には、特に巻取の際に、成膜面が損傷する可能性があるために、層が適度な硬さを有することが好ましい。層が物理的に損傷している場合、望ましい特性が発揮できない可能性がある。
本発明に係る金属酸化物含有層の硬度は、鉛筆引っかき硬度試験(例えば、JIS K5600−5−4(1999年))や、接触型膜厚測定装置(例えば、触針式表面形状測定器Dektak150(アルバック社製))を用いた、カンチレバー針による引っかき硬度試験等で調べることができる。
接触型膜厚測定装置(触針式表面形状測定器Dektak150)を用いたカンチレバー針による引っかき硬度試験によって測定される金属酸化物含有層の耐久触針圧は、通常5.0mg以上であり、好ましくは、10.0mg以上であり、より好ましくは、15.0mg以上である。別の測定装置を用いて得られた測定値をDektak150のカンチレバー針の耐久触針圧に換算した場合に、金属酸化物含有層の耐久触針圧は通常10000mg以下であり、好ましくは5000mg以下である。耐久触針圧が上記の範囲にあることは、ロールツゥーロールプロセス等を用いた工業的製造方法に適合しうる硬度と、望ましい特性とを同時に達成しうるために好ましい。
<1.3.その他の化合物>
また、本発明に係る金属酸化物含有層は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、金属酸化物、及び不飽和カルボン酸金属塩重合体以外にも、他の化合物を含んでいてもよい。例えば、後述する形成方法により金属酸化物含有層を形成する場合、不飽和カルボン酸金属塩を構成する不飽和カルボン酸の分解物が生成される可能性があるが、このような分解物を含んでいてもよい。
また、本発明に係る金属酸化物含有層は、安定剤等を含んでいてもよい。
<1.4.金属酸化物含有層の特徴>
層を構成する金属酸化物が100質量%の金属酸化物含有層は、金属酸化物以外の化合物を含んでいる金属酸化物含有層よりも、通常は、高い電気的特性を有すると考えられる。しかしながら、本発明者等の検討によると、金属酸化物100質量%で構成される金属酸化物含有層は、外気環境に対する耐久性が弱く、電気的特性の急激な劣化や金属酸化物含有層自体が脆くなる傾向があることを見出した。
一方で、本発明においては、金属酸化物含有層が特定の不飽和カルボン酸金属塩重合体を含むことにより、以下の理由により、高い電気的特性を備えた電子デバイスを提供することができると考えられる。
不飽和カルボン酸金属塩重合体は、エチレン性アイオノマーに近い構造であるので、高い接着性及び高いバリア性を有している。そのため、金属酸化物含有層が、式(I)で表される不飽和カルボン酸金属塩重合体を含むことにより、
1)不飽和カルボン酸金属塩重合体の接着性により、生成した金属酸化物が隣接する層に密着することにより、金属酸化物含有層全体の剥離強度といった機械強度を向上させること、
2)生成した金属酸化物の隣接同士を、不飽和カルボン酸金属塩重合体が次々と接着することにより、金属酸化物含有層全体の曲げ剛性、膜硬度といった機械強度を向上させること、
3)生成した金属酸化物の隣接同士を、不飽和カルボン酸金属塩重合体が接着することにより、隣接同士の接触面積が増え、隣接間で更なる導電経路ができて、金属酸化物含有層全体の電気的特性が向上すること、
4)不飽和カルボン酸金属塩重合体のバリア性により、外気環境による金属酸化物の酸素原子量の変化が抑えられ、電気的特性が安定すること、
が期待される。
以上の理由により、金属酸化物含有層が不飽和カルボン酸金属塩重合体を適切に有していることは極めて有用である。
<2.金属酸化物含有層の形成方法>
本発明に係る金属酸化物含有層の形成方法に特段の制限はなく、式(I)で表わされる不飽和カルボン酸金属塩重合体と金属酸化物を有する金属酸化物含有層を形成できるのであればどのような方法により形成してもよいが、以下に、好適な金属酸化物含有層の形成方法について説明する。具体的には、金属酸化物含有層形成用組成物を、金属酸化物含有層を形成する所望の支持体に塗布し(金属酸化物含有層形成用組成物の塗布工程)、次いで特定の範囲の湿度雰囲気のもとで、熱処理を行うこと(熱処理工程)により本発明に係る金属酸化物含有層を形成することができる。
<2.1.金属酸化物含有層形成用組成物>
<2.1.1.不飽和カルボン酸金属塩>
金属酸化物含有層形成用組成物は、式(II)で表される不飽和カルボン酸金属塩を有する。
Figure 2015128155
式(II)で表される不飽和カルボン酸金属塩は、α,β−不飽和カルボン酸の金属塩であり、mは2以上、5以下の整数である。具体的には、ジカルボン酸金属塩(m=2)、トリカルボン酸金属塩(m=3)、テトラカルボン酸金属塩(m=4)、又はペンタカルボン酸金属塩(m=5)である。本発明において、式(II)で表される不飽和カルボン酸金属塩を含む組成物から、不純物が少ない金属酸化物含有層を形成するには、不飽和カルボン酸金属塩に占める金属原子の割合は大きい方が好ましい。そのため、mが3以下であることが好ましい。一方で、カルボン酸と金属原子との結合が弱くなるのを防ぐために、高すぎない温度で不飽和カルボン酸金属塩から金属酸化物への変換することが好ましい。この観点から、mは2以上であることが好ましい。以上のように、不飽和カルボン酸金属塩としては、ジカルボン酸金属塩又はトリカルボン酸金属塩が好ましく、適度な温度での変換が可能な点で、ジカルボン酸金属塩が特に好ましい。
式(II)において、Mは、式(I)におけるMと同義であり、式(I)におけるMと同様に、Mはチタン原子、バナジウム原子、鉄原子、ニッケル原子、銅原子、亜鉛原子、インジウム原子、ガリウム原子、アルミニウム原子又はスズ原子であることが好ましい。なかでも、チタン原子、ニッケル原子、銅原子、亜鉛原子、インジウム原子又はスズ原子がより好ましく、亜鉛原子が特に好ましい。亜鉛原子は、不飽和カルボン酸亜鉛の溶解性が高い点、不飽和カルボン酸亜鉛を含有するインク組成物を塗布成膜して得られる膜の均一性が高い点、並びに酸化亜鉛含有層の物理的特性が良好であり、かつキャリア移動度が高い点で、特に好ましい。本明細書においてキャリア移動度とは、後述するように電子移動度と正孔移動度とのどちらかのことを指す。
式(II)中のR1、R2及びR3は、式(I)におけるR1、R2及びR3の置換基と同じである。
なお、上記の置換基の組み合わせにおいて、式(I)で表される不飽和カルボン酸金属塩を形成する不飽和カルボン酸の具体的な例としては、アクリル酸(R1=R2=R3=H)、メタクリル酸(R1=R2=H、R3=CH3)、エタクリル酸(R1=R2=H、R3=C25)、クロトン酸(R1=CH3、R2=R3=H)、イソクロトン酸(R1=H、R2=CH3、R3=H)、アンゲリカ酸(R1=H、R2=CH3、R3=CH3)、チグリン酸(R1=CH3、R2=H、R3=CH3)、2−ペンテン酸(R1=C25、R2=R3=H)、2−ヘキセン酸(R1=C37、R2=R3=H)、2−ヘプテン酸(R1=C49、R2=R3=H)、2−オクテン酸(R1=C511、R2=R3=H)、2−ノネン酸(R1=C613、R2=R3=H)、2−デセン酸(R1=C715、R2=R3=H)、2−ウンデセン酸(R1=C817、R2=R3=H)、2−ドデセン酸(R1=C919、R2=R3=H)、フマル酸(R1=COOH、R2=R3=H)、マレイン酸(R1=H、R2=COOH、R3=H)、イタコン酸(R1=R2=H、R3=CH2COOH)、シトラコン酸(R1=CH3、R2=COOH、R3=H)、メサコン酸(R1=COOH、R2=CH3、R3=H)、フマル酸モノメチル(R1=COOCH3、R2=R3=H)、フマル酸モノエチル(R1=COOC25、R2=H、R3=H)、フマル酸モノブチル(R1=COOC49、R2=R3=H)、フマル酸モノオクチル(R1=COOC817、R2=R3=H)、マレイン酸モノメチル(R1=H、R2=COOCH3、R3=H)、マレイン酸モノエチル(R1=H、R2=COOC25、R3=H)、マレイン酸モノブチル(R1=H、R2=COOC49、R3=H)、マレイン酸モノオクチル(R1=H、R2=COOC817、R3=H)、イタコン酸モノメチル(R1=R2=H、R3=CH2COOCH3)、イタコン酸モノエチル(R1=R2=H、R3=CH2COOC25)、イタコン酸モノブチル(R1=R2=H、R3=CH2COOC49)、シトラコン酸モノメチル(R1=CH3、R2=COOCH3、R3=H)、シトラコン酸モノエチル(R1=CH3、R2=COOC25、R3=H)、シトラコン酸モノブチル(R1=CH3、R2=COOC49、R3=H)、シトラコン酸モノオクチル(R1=CH3、R2=COOC817、R3=H)、メサコン酸モノメチル(R1=COOCH3、R2=CH3、R3=H)、メサコン酸モノエチル(R1=COOC27、R2=CH3、R3=H)、メサコン酸モノブチル(R1=COOC49、R2=CH3、R3=H)、又はメサコン酸モノオクチル(R1=COOC817、R2=CH3、R3=H)が挙げられる。
特に、金属酸化物含有層の形成が円滑に進行しうる観点から、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して、水素原子又はアルキル基であることが好ましい。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、2−ペンテン酸、2−ヘキセン酸、2−ヘプテン酸、2−オクテン酸、2−ノネン酸、2−デセン酸、2−ウンデセン酸、又は2−ドデセン酸が挙げられる。
なかでも、金属酸化物含有層が形成される際に層に損傷を与えうる化合物が生じにくくなる点で、R3が水素原子であり、R1及びR2のうちどちらか一方が、水素原子又は直鎖アルキル基であり、他方が、水素原子であることが好ましい。具体的には、アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、2−ペンテン酸、2−ヘキセン酸、2−ヘプテン酸、2−オクテン酸、2−ノネン酸、2−デセン酸、2−ウンデセン酸、又は2−ドデセン酸が挙げられる。これらのなかでも、R1、R2及びR3が共に水素原子である、アクリル酸が特に好ましい。
また、後述するように、脱水を伴うカルボン酸金属塩化と加水分解との可逆反応を後者の加水分解側に偏らせる上で、本発明に係るα,β−不飽和カルボン酸としては、沸点が300℃未満のα,β−不飽和カルボン酸が好ましく、沸点が250℃以下のα,β−不飽和カルボン酸がより好ましく、沸点が200℃以下のα,β−不飽和カルボン酸がさらに好ましい。沸点の下限としては、炭素−炭素二重結合(C=C)1つとカルボキシル基1つとを有する最も単純で小さいα,β−不飽和カルボン酸である、アクリル酸の沸点(139℃)以上である。
また、本発明に係る金属酸化物含有層形成用組成物を用いて、金属酸化物含有層を形成することができるが、不飽和カルボン酸金属塩の未反応物が、形成される金属酸化物含有層内に多く残りすぎず、さらには少ないエネルギーにより、不飽和カルボン酸金属塩から金属酸化物への反応を進行させやすくするために、不飽和カルボン酸を構成する炭素数は少ないことが好ましい。この観点から、α,β−不飽和カルボン酸の炭素数として好ましくは12以下であり、より好ましくは6以下であり、さらに好ましくは4以下である。一方で、本発明に係るα,β−不飽和カルボン酸の炭素数は、アクリル酸に由来する3以上である。より好ましい6以下のα,β−不飽和カルボン酸の具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、2−ペンテン酸、2−ヘキセン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、又はメサコン酸モノメチルが挙げられる。なかでも、炭素−炭素二重結合(C=C)1つとカルボキシル基1つとを有する最も単純で小さいα,β−不飽和カルボン酸である、アクリル酸が、特に好ましい。
なお、1分子の不飽和カルボン酸金属塩は、上述の通り、m個の不飽和カルボン酸から構成されるが、m個の不飽和カルボン酸は、それぞれ、同じあってもよいし、異なっていてもよい。すなわち、不飽和カルボン酸金属塩を構成するm個のCR12=CR3−COO-は、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、本発明に係る金属酸化物含有層形成用組成物は、2種以上の不飽和カルボン酸金属塩を含んでいてもよい。この場合、式(I)で表される不飽和カルボン酸金属塩を1種類含んでさえいれば、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の不飽和カルボン酸金属塩を含んでいてもよい。
金属酸化物含有層形成用組成物中の不飽和カルボン酸金属塩の含有率は、特段の制限はないが、金属酸化物含有層形成用組成物の総質量に対して、通常0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、一方、99.9質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。金属酸化物含有層形成用組成物中の不飽和カルボン酸金属塩の含有率が上記の範囲内にあることは、金属酸化物含有層形成用組成物を均一に塗布しうる点、及び均一な金属酸化物含有層が得られうる点で好ましい。
また、金属酸化物含有層形成用組成物中において、不飽和カルボン酸金属塩は単独で存在していてもよいし、金属酸化物含有層形成用組成物が後述のような溶媒を含んでいる場合、不飽和カルボン酸金属塩は溶媒とともに錯体を形成していてもよいし、多量体を形成していてもよい。
<2.1.1.1.不飽和カルボン酸金属塩の合成>
本発明に係る不飽和カルボン酸金属塩は、例えば、公知文献(特開2010−001395号公報等)に記載されているように、金属化合物と不飽和カルボン酸との反応により合成することができる。反応に用いる金属化合物としては、特段に制限はなく、金属酸化物、金属水酸化物、酢酸金属塩等が挙げられる。なかでも、副生成物が無害な水である点で、不飽和カルボン酸と、金属酸化物又は金属水酸化物との脱水反応を用いて不飽和カルボン酸金属塩を合成することが好ましく、金属化合物として金属酸化物を用いることがより好ましい。また、合成の容易さの点で、酢酸金属塩のようなカルボン酸金属塩と、不飽和カルボン酸とのイオン交換により不飽和カルボン酸金属塩を合成することも好ましい。
金属酸化物としては、特段の制限はなく、最終的に形成する金属酸化物含有層の所望の金属を含む酸化物が挙げられる。例えば、酸化スカンジウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化アルミニウム、酸化スズ又は酸化鉛が挙げられる。
反応に用いる金属化合物は、粉末状態でも、溶媒に分散状態であってもよい。金属化合物が粉末状態である場合、その平均一次粒径は、動的光散乱粒子径測定装置や透過型電子顕微鏡(TEM)等で測定することができるが、不飽和カルボン酸金属塩の合成原料として用いることが可能であれば、特段の制限はない。
反応に用いる金属化合物は表面処理されていなくてもよいが、表面処理剤で表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、不飽和カルボン酸金属塩が得られる限り特段の制限はないが、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ポリメトキシシラン、ジメチルポリシロキサン、ジメチコンPEG−7コハク酸塩等のポリシロキサン化合物及びその塩;メチルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシラン、3−カルボキシプロピルトリメチルトリメトキシシラン等の有機ケイ素化合物、ギ酸、酢酸、ラウリン酸、ステアリン酸、6−ヒドロキシヘキサン酸等のカルボン酸化合物;ラウリルエーテルリン酸、トリオクチルホスフィン等の有機リン化合物;ジメチルアミン、トリブチルアミン、トリメチルアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン等のアミン化合物;ポリイミン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ尿素等のバインダー樹脂等が挙げられる。表面処理剤としては、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
反応に用いる金属化合物が溶媒に分散状態である場合、用いる溶媒は、不飽和カルボン酸金属塩が得られる限り特段の制限はないが、例えば、水;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N−メチルピロリドン(
NMP)等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン等のハロゲン炭化水素類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類が挙げられる。なかでも好ましくは、水;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N−メチルピロリドン(NMP)等のケトン類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類である。さらに好ましくは、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等のアルコール類である。溶媒としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、不飽和カルボン酸金属塩が得られるのであれば、溶媒の沸点に特に制限はない。
なお、反応に用いる金属酸化物の具体的な例としては、粉末状態の金属酸化物の例としてはナノジンク60(本荘ケミカル社製,酸化亜鉛)、ナノジンク100(本荘ケミカル社製,酸化亜鉛)、FINEX(登録商標)−30(堺化学工業社製,酸化亜鉛)、ZINCOX SUPER F−2(ハクスイテック社製,酸化亜鉛)、パゼット23K(ハクスイテック社製,アルミニウムドープ酸化亜鉛)、パゼットGK40(ハクスイテック社製,ガリウムドープ酸化亜鉛)等が挙げられる。また、分散状態の金属酸化物の例としてはアルドリッチ社製酸化亜鉛分散液(カタログナンバー721085、721107等)、パゼットGK分散体(ハクスイテック社製,ガリウムドープ酸化亜鉛分散液)が挙げられる。
<2.1.2.不飽和カルボン酸金属塩以外の化合物>
金属酸化物含有層形成用組成物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記以外の化合物を含んでいてもよい。例えば、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N−メチルピロリドン(NMP)等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン等のハロゲン炭化水素類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類が挙げられる。なかでも好ましくは、水;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N−メチルピロリドン(NMP)等のケトン類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類である。さらに好ましくは、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等のアルコール類である。なお、溶媒としては1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、電子デバイスとしての電気的特性を著しく損なわない限り、溶媒は金属酸化物含有層中に残留していてもよいことから、溶媒の沸点に特に限定はない。
また、後述するように熱処理工程後に光処理工程を行う場合は、金属酸化物含有層形成用組成物は光重合開始剤を含んでいてもよい。光重合開始剤は、光処理工程後の光重合開始剤の残渣が電気デバイスの電気的特性を損なわない限りにおいては特に制限されない。光重合開始剤は、本発明に係る不飽和カルボン酸金属塩の種類に応じて選択用いることができ、その例としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾインエーテル類、ヒドロキシケトン類、アシルホスフィンオキシド類、ジアゾニウムカチオンオニウム塩、ヨードニウムカチオンオニウム塩又はスルホニウムカチオンオニウム塩等を用いることができる。
光重合開始剤として具体的には、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキシド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−メチルチオ]フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマー、イソプロピルチオキサントン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、[4−(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、ベンゾフェノン、エチルアントラキノン、ベンゾフェノンアンモニウム塩、チオキサントンアンモニウム塩、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、1,4−ジベンゾイルベンゼン、10−ブチル−2−クロロアクリドン、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,5,4’,5’−テトラキス(3,4,5−トリメトキシフェニル)−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,5,4’,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2−ベンゾイルナフタレン、4−ベンゾイルビフェニル、4−ベンゾイルジフェニルエーテル、アクリル化ベンゾフェノン、ジベンゾイル、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム、o−メチルベンゾイルベンゾエート、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエチルエステル、活性ターシャリーアミン、カルバゾール・フェノン系光重合開始剤、アクリジン系光重合開始剤、トリアジン系光重合開始剤、ベンゾイル、トリアリルスルホニウム、ヘキサフルオロホスフェート塩、六フッ化リン系芳香族スルホニウム塩、六フッ化アンチモン系芳香族スルホニウム塩、六フッ化アンチモン系芳香族スルホニウム塩、六フッ化アンチモン系芳香族スルホニウム塩、トリアリルスルホニウム、ヘキサフルオロアンチモン、4−メチルフェニル−[4−(2−メチルプロピル)フェニル]−ヘキサフルオロホスフェート(1−)、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−2−(o−ベンゾイルオキシム)]、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(o−アセチルオキシム)、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、2−エチルヘキシル−4−ジメチルアミノベンゾエート、(9−オキソ9H−キサンテン−2−イル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−n−アルキル(C10〜13)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−n−アルキル(C10〜13)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロアンチモン、トリフェニルスルホニムトリフルオロスルホネート、トリフェニルスルホニウムビシクロ[2,2,1]ヘプタン−1−メタンスルフォネート、(9−オキソ−9H−キサンテン−2−イル)フェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、p−アジドベンズアルデヒド、p−アジドアセトフェノン、p−アジド安息香酸、p−アジドベンズアルデヒド−2−スルホン酸ナトリウム塩、p−アジドベンザルアセトフェノン、4,4’−ジアジドカルコン、4,4’−ジアジドジフェニルスルフィド、3,3’−ジアジドジフェニルスルフィド、2,6−ビス−(4’−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサン、1,3−ビス−(4’−アジドベンザル)−プロパノン、4,4’−ジアジドカルコン−2−スルホン酸ナトリウム塩、4,4’−ジアジドスチルベン−2,2’−ジスルホン酸ナトリウム塩、1,3’−ビス−(4’−アジドベンザル)−2’−ジスルホン酸ナトリウム塩−2−プロパノン、2,6−ビス−(4’−アジドベンザル)−2’−スルホン酸(ナトリウム塩)シクロヘキサノン、2,6−ビス−(4’−アジドベンザル)−2’−スルホン酸(ナトリウム塩)4−メチル−シクロヘキサノン、α−シアノ−4,4’−ジベンゾスチルベン、2,5−ビス−(4’−アジドベンザルスルホン酸ナトリウム塩)シクロペンタノン、3−スルホニルアジド安息香酸、4−スルホニルアジド安息香酸、シンナミン酸、α−シアノシンナミリデンアセトン酸、p−アジド−α−シアノシンナミン酸、p−フェニレンジアクリル酸、p−フェニレンジアクリル酸ジエチルエステル、ポリビニルシンナメート、ポリフェノキシ−イソプロピルシンナミリデンアセテート、ポリフェノキシ−イソプロピルα−シアノシンナミリデンアセテート、ナフトキノン(1,2)ジアジド(2)−4−スルホン酸ナトリウム塩、ナフトキノン(1,2)ジアジド(2)−5−スルホン酸ナトリウム塩、ナフトキノン(1,2)ジアジド(2)−5−スルホン酸エステル(I)、ナフトキノン(1,2)ジアジド(2)−5−スルホン酸エステル(II)、ナフトキノン(1,2)ジアジド(2)−4−スルホン酸塩、2,3,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノントリ(ナフトキノンジアジドスルホン酸)エステル、ナフトキノン−1,2,5−(トリヒドロキシベンゾフェノン)トリエステル、1,4−イミノキノン−ジアジド(4)−2−スルフォアミド(I)、1−ジアゾ−2,5−ジエトキシ−4−p−トリメルカプトベンゼン塩、5−ニトロアセナフテン、N−アセチルアミノ−4−ニトロナフタレン、有機ホウ素化合物、これら以外の光によりカチオンを発生する光酸発生剤、光によりアニオンを発生する光塩基発生剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
金属酸化物含有層形成用組成物が有する光重合開始剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。また、光重合開始剤は、金属酸化物含有層形成用組成物中において、単独で存在していてもよいし、溶媒等とともに錯体を形成していてもよい。また、多量体を形成していてもよい。
なお、金属酸化物含有層形成用組成物が光重合開始剤を含む場合、光重合開始剤の含有率は不飽和カルボン酸金属塩に対して、通常0.01質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上であり、特に好ましくは1質量%以上である。一方で、通常20質量%以下であり、好ましくは10質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以下である。光重合開始剤の含有率が0.01質量%以上であることは、得られる金属酸化物含有層から未反応成分が溶出することが抑えられ、充分な機械強度が得られうる点で好ましい。また、光重合開始剤の含有率が20質量%以下であることは、金属酸化物含有層の白濁及び脆化等が抑えられる点で好ましい。
また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、金属酸化物含有層形成用組成物は、上記以外にも、他の添加剤等を含んでいてもよい。
本発明に係る金属酸化物含有層形成用組成物が安定であればあるほど、金属酸化物含有層形成用組成物の大量合成や長期保存ができるので、製造コストが安くなるから好ましい。金属酸化物含有層形成用組成物の安定性は、沈殿物の生成や粘度の変化等で評価することができる。具体的には、金属酸化物含有層形成用組成物は、通常2週間以上、好ましくは1か月以上安定であることがよい。また、安定であればあるほど良いので、上限はない。
沈殿物の生成は、目視や動的光散乱粒子径測定装置で判断することができる。
粘度は、回転粘度計法(「物理化学実験のてびき」(足立吟也、石井康敬、吉田郷弘編、化学同人(1993)に記載)により求めることができ、具体的には、RE85形粘度計(東機産業社製)を用いて測定することができる。
<2.2.金属酸化物含有層形成用組成物の塗布工程>
金属酸化物含有層形成用組成物の塗布方法としては、任意の方法を用いることができる。例えば、スピンコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法、カーテンコート法、等が挙げられる。また、塗布方法として1種の方法のみを用いてもよいし、2種以上の方法を組み合わせて用いることもできる。
<2.3.熱処理工程>
本発明において、金属酸化物含有層形成用組成物の塗布後に、特定の範囲の湿度雰囲気のもとで、熱処理を行うことにより、不飽和カルボン酸金属塩を原料として、金属酸化物の生成反応が行われ、金属酸化物含有層を形成することができる。
塗布された金属酸化物含有層形成用組成物を熱処理することにより、金属酸化物を生成することができる詳細なメカニズムは分かっていないが、式(III)に示すように、不飽和カルボン酸金属塩が、外気の水分と反応することにより金属水酸化物へと加水分解され、最終的に金属酸化物に変化する経路や、(IV)に示すように不飽和カルボン酸金属塩を構成する不飽和カルボン酸が熱分解することにより、純粋な金属が生成し、これが外気の酸素と結合することにより最終的に金属酸化物に変化する経路等により、金属酸化物が得られるものと考えられる。
Figure 2015128155
上述の通り、生成反応は、水や熱等の外的刺激を与えることにより行うことができる。なお、本発明に係る生成反応では、不飽和カルボン酸金属塩の加水分解が主たる反応と思われるので、熱処理を行うことにより生成反応が促進されると考えられる。
熱処理の温度は、300℃未満であることが好ましく、250℃以下であることがさらに好ましく、200℃以下であることが特に好ましい。300℃未満であることは、ロールツゥーロール法のような、フレキシブル基材を用いる製造工程においても対応可能な温度である点で好ましい。
一方、下限としては、特に制限はないが、通常は80℃以上で、好ましくは100℃以上である。100℃以上が好ましい理由としては、水が、自由度が大きい水蒸気に変化する温度が100℃以上であることが挙げられる。金属酸化物の生成反応の詳細なメカニズムは不明だが、水蒸気は、不飽和カルボン酸金属塩が金属酸化物へ変化する際の、加水分解反応における反応物質としての役目、及び後述する熱分解反応における反応触媒としての役目のうち少なくとも一方を担いうる。このために、水蒸気の存在により、不飽和カルボン酸金属塩から金属酸化物への変化が促進されると考えられ、加熱処理の時間を短縮することができる。
より低い温度での熱処理を行うことは、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂基材や、銅等の金属箔に絶縁性を付与した複合材料等を用いた、フレキシブル基材を用いることが可能である点でも有利である。特に、フレキシブル電子デバイスにおいては、低温で、高密度かつ高性能な金属酸化物薄膜が作れるプロセスの構築が、早急に解決すべき課題として挙げられている(応用物理,2012,81,728.)。この点に関して、本発明に係る金属酸化物含有層の製造方法によれば、低温で、高性能の金属酸化物含有層を製造することができる。
加熱時間は生成反応が進行する限り特に限定されないが、通常30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、さらに好ましくは3分以上である。一方、通常180分以下、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下、さらに好ましくは15分以下である。加熱時間が上記の範囲にあることは、生成反応が十分に進行しうる点、及びロールツゥーロール法のような実用的な製造工程においても生成反応が円滑に進行しうる点で好ましい。
なお、加熱温度が300℃未満の範囲において、高い温度であれば、不飽和カルボン酸金属塩から金属酸化物への生成反応が進行しやすくなる傾向があるために、短時間の加熱で、硬度や剥離強度が高く、特性の優れた金属酸化物含有層を製造することができる。一方で、加熱温度が低くても、加熱時間を長くすることで、硬度や剥離強度が高く、特性の優れた金属酸化物含有層を製造することができる。そのため、加熱時間や加熱温度は、使用する基材等により適宜選択すればよい。
熱処理工程においては、金属酸化物含有層形成用組成物に含有される不飽和カルボン酸金属塩の全てが金属酸化物に変化する必要はない。特に、当該方法であれば、後述するように熱処理工程において、一部の不飽和カルボン酸金属塩から不飽和カルボン酸金属塩重合体が生成されるために、不飽和カルボン酸金属塩重合体を別に加えることなく、本発明に係る金属酸化物含有層を効率良く形成することができる。具体的には、金属酸化物含有層形成用組成物中に含有される不飽和カルボン酸金属塩のうち、通常60質量%以上、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上が、金属酸化物に変化すればよい。
なお、不飽和カルボン酸金属塩のうち、金属酸化物に変化したものの割合は、形成された金属酸化物含有層から赤外分光法(IR)により定量することができる。また、生成物中の金属酸化物の割合は、分光光度計やX線光電子分光法(XPS又はESCA)により定量することができる。
また、金属酸化物の生成反応の詳細なメカニズムは分かっていないものの、酸素濃度や水分濃度(湿度)といった外気の環境も、金属酸化物含有層に影響を与える可能性がある。
具体的には、熱処理を行う際の雰囲気中の酸素濃度は、通常50体積%以下、好ましくは30体積%以下、より好ましくは25%体積以下である。酸素濃度がこの範囲にあることにより、より良好な特性を有する均一な金属酸化物含有層が得られうる。酸素濃度が50体積%以下であることにより、過剰な酸素による過酸化物等の不安定物質の副生が防がれうる。
一方、熱処理を行う際の雰囲気中の水分濃度は、不飽和カルボン酸金属塩からの金属酸化物の生成に大きな影響を与える。加水分解反応における反応物質としての役目として、水が重要であるからである。具体的な水分濃度は、25℃条件時の湿度として、通常1%を超え、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは30%以上であり、一方、通常80%以下、好ましくは75%以下、より好ましくは70%以下である。水分濃度がこの範囲にあることにより、より良好な特性を有する均一な金属酸化物層が得られうる。例えば、湿度が1%を超えることにより、不飽和カルボン酸金属塩からの金属酸化物の生成が低温で安定に行われうる。また、湿度が80%以下であることにより、不飽和カルボン酸金属塩を含有するインクが、基材上に、不均一に塗布されることが防がれうる。本明細書において25℃条件時の湿度とは、雰囲気を25℃に調整した際の相対湿度のことを指す。
熱処理工程においては、不飽和カルボン酸金属塩を原料として、金属酸化物以外にも、式(V)で表されるように、不飽和カルボン酸金属塩重合体が生成される。また、不飽和カルボン酸金属塩重合体は、後述するように光処理工程をさらに追加することで、効率よく不飽和カルボン酸金属塩重合体を生成することができる。
Figure 2015128155
なお、不飽和カルボン酸金属塩から通常5質量%以上、好ましくは7質量%以上、より好ましくは10質量%以上が、不飽和カルボン酸金属塩重合体に変換されればよい。5質量%以上であれば、金属酸化物含有層の機械強度が向上する傾向にある。
なお、不飽和カルボン酸金属塩のうち、重合体に変化したものの割合は、赤外分光法(IR)により定量することができる。また、生成物中の重合体の割合は、分光光度計やX線光電子分光法(XPS又はESCA)により定量することができる。
上述の通り、熱処理に加えて、さらに光処理を行うことにより、円滑に、短時間で不飽和カルボン酸金属塩重合体を生成することも可能である。なお、光処理工程を行う場合は、金属酸化物含有層形成用組成物が上述の光重合開始剤を含むことが好ましい。光重合開始剤を含むことにより、より短時間で不飽和カルボン酸金属塩重合体の生成反応が進行する。
光処理の時間は生成反応が進行する限り特に限定されないが、通常30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、さらに好ましくは3分以上である。一方、通常60分以下、好ましくは30分以下、より好ましくは20分以下、さらに好ましくは10分以下である。光処理の時間が上記の範囲にあることは、不飽和カルボン酸金属塩重合体の生成反応が十分に進行しうる点、及びロールツゥーロール法のような実用的な製造工程においても生成反応が円滑に進行しうる点で好ましい。
<3.電子デバイス>
本発明に係る金属酸化物含有層は、電子デバイスの半導体層として適用することができる。なお、本明細書において電子デバイスとは、2個以上の電極を有し、その電極間に流れる電流や生じる電圧を、電気、光、磁気又は化学物質等により制御するデバイス、あるいは、印加した電圧や電流により、光や電場、磁場を発生させる装置である。例えば、電圧や電流の印加により電流や電圧を制御する素子、磁場の印加による電圧や電流を制御する素子、化学物質を作用させて電圧や電流を制御する素子が挙げられる。この制御としては、整流、スイッチング、増幅、又は発振が挙げられる。
電子デバイスの例としては、抵抗器、整流器(ダイオード)、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)、増幅素子(トランジスタ)、メモリー素子、若しくは化学センサー等、又はこれらの素子を組み合わせ若しくは集積化したデバイスが挙げられる。また、光電流を生じるフォトダイオード若しくはフォトトランジスタ、電界を印加することにより発光する電界発光素子、及び光により起電力を生じる光電変換素子若しくは太陽電池等の光素子も挙げることができる。
電子デバイスのより具体的な例は、S.M.Sze著、Physics of Semiconductor Devices、2nd Edition(Wiley Interscience 1981)に記載されているものを挙げることができる。
なかでも、電子デバイスとしては、電界効果トランジスタ、電界発光素子、光電変換素子、及び太陽電池が、より高い電気的特性を産む出す例としてふさわしい。これらは、pn接合を光の進行方向に配列することで性能を発揮する電子デバイスであり、本発明に係る金属酸化物含有層の特性が優位に働く。
以下、本発明に係る電子デバイスの好適な例として、電界効果トランジスタ素子(FET)、電界発光素子(LED)、光電変換素子、及び太陽電池について、以下、詳細に説明する。
<4.電界効果トランジスタ(FET)>
本発明に係る電界効果トランジスタ(FET)素子は、半導体層と、絶縁体層と、ソース電極と、ゲート電極と、及びゲート電極とを有する。また、本発明に係るFET素子は、本発明に係る金属酸化物含有層を有することに特徴がある。
以下、本発明に係るFET素子について詳細に説明する。図1は、本発明に係るFET素子の構造の一例を模式的に表す図である。図1(A)に示すように、FET素子は、基材56上に、半導体層51と、絶縁体層52と、ソース電極53と、ドレイン電極54と、ゲート電極55と、を有する。なお、FET素子の構造は図1に限定されず、例えば、図1(B)〜図1(D)に示す構造であってもよい。
<4.1.電極>
本発明に係るFET素子における、ソース電極53、ドレイン電極54及びゲート電極55の各電極には、例えば、白金、金、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属;酸化インジウム(In23)、酸化スズ(SnO2)、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性の酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子;塩酸、硫酸、スルホン酸等のブレンステッド酸、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6 -)、五フッ化ヒ素(AsF5)、塩化鉄(FeCl3)等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子等のドーパントを上述のような導電性高分子に対して添加したもの;カーボンブラック、金属粒子等が分散されている導電性の複合材料等の導電性を有する材料が用いられる。
ソース電極53、ドレイン電極54及びゲート電極55の形成方法は、特段の制限はなく、材料特性に合わせて、スピンコート法、ブレードコート法及びスピンコート法等の湿式塗布法、蒸着法、スパッタリング法、スクリーン印刷やインクジェット等の印刷法等の公知の方法により形成すればよい。
<4.2.絶縁体層>
本発明に係るFET素子の絶縁体層52に用いられる材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらの共重合体;二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化物;窒化ケイ素等の窒化物;チタン酸ストロンチウムやチタン酸バリウム等の強誘電性酸化物;並びにこれらの酸化物、窒化物、及び強誘電性酸化物等の粒子が分散されているポリマーが挙げられる。
一般に絶縁体層52の静電容量が大きくなるほどゲート電圧を低電圧で駆動できることになるので、有利になる。このことは、誘電率の大きな絶縁材料を用いるか、又は絶縁体層の厚さを薄くする事で実現できる。
絶縁体層52の形成方法は、特段の制限はなく、例えば、スピンコート法、ブレードコート法及びスピンコート法等の湿式塗布法、蒸着法、スパッタリング法、スクリーン印刷やインクジェット等の印刷法、アルミニウムにアルマイトを形成するように金属上に酸化膜を形成する方法等、材料特性に合わせた公知の方法で形成することができる。
<4.3.基材>
本発明に係るFET素子は、通常基材56上に作製する。基材56の材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されない。基材56の材料の好適な例は、石英、ガラス、サファイア又はチタニア等の無機材料;フレキシブル基材が挙げられる。本発明において、フレキシブル基材とは曲率半径が通常、0.1mm以上であり、10000mm以下の基材である。なお、フレキシブルな電子デバイスを製造する場合は、屈曲性と支持体としての特性を両立するために、曲率半径が0.3mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがさらに好ましく、一方で、3000mm以下であることが好ましく、1000mm以下であることがさらに好ましい。なお、曲率半径は、ひずみや割れ等の破壊が現れないところまで曲げた基材を、共焦点顕微鏡(例えば、キーエンス社製形状測定レーザマイクロスコープVK−X200)で求めることができる。フレキシブル基材の具体例としては、限定されるわけではないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニル又はポリエチレン等のポリオレフィン;セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン又はエポキシ樹脂等の有機材料;紙又は合成紙等の紙材料;銀、銅、ステンレス、チタン又はアルミニウム等の金属箔に、絶縁性を付与するために表面をコート又はラミネートしたもの等の複合材料が挙げられる。特に本発明に係る金属酸化物含有層の製造方法は、上述したように、フレキシブル基材を使用する際に特に有効である。
さらに、基材56に処理を施すことにより、FETの特性を向上させることができる。これは基材56の親水性/疎水性を調整することにより、成膜される半導体層51の膜質を向上させること、特に基材53と半導体層51との界面部分の特性を改良することによるものと推定される。このような基材処理としては、ヘキサメチルジシラザン、シクロヘキセン、オクタデシルトリクロロシラン等を用いた疎水化処理、塩酸、硫酸、及び酢酸等の酸を用いた酸処理、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、及びアンモニア等を用いたアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴン等を用いたプラズマ処理、ラングミュアブロジェット膜の形成処理、その他の絶縁体又は半導体の薄膜の形成処理が挙げられる。
<4.4.半導体層>
本発明に係るFET素子の半導体層51は、基材上に直接又は他の層を介して半導体を膜状に形成したものであり、本発明に係る金属酸化物含有層を用いることが好ましい。
なお、半導体層51は、本発明に係る金属酸化物含有層と、該金属酸化物含有層と異なる材料又は異なる成分を含む層の積層構造を有してもよい。
半導体層51の膜厚は、特段の制限は無く、例えば、横型の電界効果トランジスタ素子の場合、所定の膜厚以上であれば素子の特性は半導体層51の膜厚には依存しない。ただし、膜厚が厚くなりすぎると漏れ電流が増加してくることが多いため、半導体層51の膜厚は、通常0.5nm以上、好ましくは10nm以上であり、コストの観点からは通常1μm以下、好ましくは200nm以下である。
<5.電界発光素子(LED)>
電界発光素子は、電界を印加することにより、陽極より注入された正孔と陰極より注入された電子との再結合エネルギーによって蛍光性物質が発光する原理を利用した自発光素子である。
以下に、本発明に係る電界発光素子について、図面を参照しながら説明する。図2は、本発明に係る電界発光素子の一実施形態を模式的に示す断面図である。図2に示すように、電界発光素子39は、基材31上に、陽極32と、正孔注入層33と、正孔輸送層34と、発光層35と、電子輸送層36と、電子注入層37と、陰極38と、を有する。なお、正孔注入層33、正孔輸送層34、電子輸送層38、電子注入層39を必ずしも設ける必要はなく、任意で選択して設ければよい。
<5.1.基材(31)>
基材31は、電界発光素子39の支持体となるものであり、その材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されない。基材31の材料の好適な例としては、石英、ガラス、サファイア又はチタニア等の無機材料;及びフレキシブル基材が挙げられる。フレキシブル基材の具体例としては、限定されるわけではないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニル、ポリエチレン等のポリオレフィン;セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン、エポキシ樹脂等の有機材料(樹脂基材);紙又は合成紙等の紙材料;銀、銅、ステンレス、チタン、アルミニウム等の金属箔に、絶縁性を付与するために表面をコート又はラミネートしたもの等の複合材料が挙げられる。
なお、これらの中でも、本発明に係る金属酸化物含有層を製造する方法は、フレキシブル基材に用いる際に特に効果的である。例えば、金属酸化物含有層を従来の方法で製造する場合、高温プロセスが必要になるために、ガラス転移温度の低い樹脂基材を使用することは極めて困難である。一方で、本発明は、低温プロセスで、金属酸化物含有層の製造が可能であるために、ガラス転移温度の低い樹脂基材にも適用することができる。また、上述の金属箔に絶縁性を付与した複合材料を基材として用いる場合も、その膜厚は非常に小さいために、従来のように、高温プロセスで金属酸化物含有層を製造すると、基材に歪みが発生してしまう。そのため、金属箔に絶縁性を付与した複合材料を基材として用いる場合も、本発明は極めて有効である。更に、本発明は、上記の通り、フレキシブル基材を使用することができるために、ロールツゥーロール方式による電界発光素子の製造が可能となり、生産性が向上する。
樹脂基材を使用する場合には、ガスバリア性に留意する必要がある。すなわち、基材のガスバリア性が低過ぎると、基材を通過する外気により電界発光素子が劣化することがあるので望ましくない。このため、樹脂基材を使用する場合には、少なくとも一方の板面に緻密な酸化ケイ素膜等を設ける等の方法により、ガスバリア性を確保するのが望ましい。
ガラスとしてはソーダガラス、青板ガラス又は無アルカリガラス等が挙げられる。ガラスからの溶出イオンが少ない点で、これらの中でも無アルカリガラスが好ましい。
基材31の形状に制限はなく、例えば、板状、フィルム状又はシート状等のものを用いることができる。
また、基材31の膜厚に制限はないが、通常5μm以上、好ましくは20μm以上であり、一方、通常20mm以下、好ましくは10mm以下である。基材の膜厚が5μm以上であることは、電界発光素子の強度が不足する可能性が低くなるために好ましい。基材の膜厚が20mm以下であることは、コストが抑えられ、かつ質量が重くならないために好ましい。
基材31の材料がガラスである場合の膜厚は、通常0.01mm以上、好ましくは0.1mm以上であり、一方、通常1cm以下、好ましくは0.5cm以下である。ガラス基材31の膜厚が0.01mm以上であることは、機械的強度が増加し、割れにくくなるために、好ましい。また、ガラス基材31の膜厚が0.5cm以下であることは、質量が重くならないために好ましい。
<5.2.陽極(32)>
陽極32は正孔注入層33への正孔注入の役割を果たすものである。陽極32の材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されない。陽極32の材料の好適な例としては、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属;酸化インジウム、酸化スズ等の金属酸化物;ヨウ化銅等のハロゲン化金属;カーボンブラック;ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子;又は本発明に係る金属酸化物含有層が挙げられる。
陽極32の形成する方法に制限はないが、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式成膜法により行われる。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を適当なバインダー樹脂溶液に分散し、基材31上に塗布することにより陽極32を形成することもできる。さらに、陽極32として導電性高分子を用いる場合には、電解重合により直接基材31上に薄膜を形成したり、基材31上に導電性高分子を塗布して陽極32を形成したりすることもできる。陽極32は、異なる物質の積層構造とすることも可能である。また、金属酸化物含有層を用いる場合は、上述の本発明に係る金属酸化物含有層の形成方法に従って、形成することができる。
陽極32の膜厚は、必要とする透明性により異なる。陽極32に透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とし、この場合、陽極2の膜厚は、通常5〜1000nm、好ましくは10〜500nm程度である。不透明でよい場合には、陽極32は基材31と同一でもよい。また、上記の陽極32の上に、異なる導電材料を積層することも可能である。なお、可視光の透過率は、分光光度計(例えば、日立ハイテク社製U−4100)で測定できる。
<5.3.正孔注入層(33)>
陽極32の上には正孔注入層33が設けられる。正孔注入層33の材料に要求される条件としては、陽極からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送し,さらには正孔輸送層との正孔注入障壁が小さい材料であることである。そのためには、正孔注入材料のイオン化ポテンシャルと陽極の仕事関数との差が小さいことが要求される。また、可視光の光に対して透明性が高いことも必要である。さらに、正孔注入層33の材料には、陽極32とのコンタクトがよく均一な薄膜が形成でき、熱的に安定であること、すなわち、融点及びガラス転移温度(Tg)が高く、融点としては200℃以上、ガラス転移温度としては75℃以上が要求される。
このような要求を考慮した正孔注入層33の材料としては、例えば、ポルフィリン誘導体やフタロシアニン化合物(特開昭63−295695号公報)、スターバースト型芳香族トリアミン(特開平4−308688号公報)等の有機化合物、スパッタ・カーボン膜(特開平8−31573号公報)、酸化バナジウム、酸化ルテニウム、酸化モリブデン等の金属酸化物(第43回応用物理学関係連合講演会、27a−SY−9、1996年)、又は本発明に係る金属酸化物含有層が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、必要に応じて、各々、混合して用いてもよい。
正孔注入層33の材料の代表的なものとしては、ポルフィリン化合物及びフタロシアニン化合物が挙げられるが、これらの化合物は中心金属を有していてもよいし、無金属のものであってもよい。フタロシアニン化合物の具体例としては、29H,31H−フタロシアニン、銅(II)フタロシアニン、亜鉛(II)フタロシアニン、チタンフタロシアニンオキシド、銅(II)−4,4',4'',4'''−テトラアザ−29H,31H-フタロシアニンが挙げられる。
この他、正孔注入層33の好ましいものとして、正孔輸送性高分子に電子受容性化合物を混合した系が挙げられる。このような正孔輸送性高分子としては、ポリチオフェン(特開平10−92584号公報)、ポリアニリン、芳香族アミン含有ポリエーテル(特開2000−36390号公報)が挙げられる。
電子受容性化合物としては、下記化合物群から選ばれる化合物の少なくとも1種であることが好ましい。
Figure 2015128155
正孔注入層33の薄膜を形成する方法としては、昇華性を有する化合物の場合には真空蒸着法、溶媒に可溶な化合物の場合には、公知のスピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法、無機物の場合にはさらにスパッタリング法、電子ビーム蒸着法、又はプラズマCVD法を用いることができる。なお、正孔注入層33が金属酸化物含有層である場合は、本発明に係る金属酸化物含有層の形成方法に従って、形成することができる。
正孔注入層33の膜厚に制限はないが、通常、3〜300nm、好ましくは、10〜100nmである。上記範囲内の膜厚であれば、正孔注入層33に要求される条件を満たすことができる。
<5.4.正孔輸送層(34)>
正孔注入層33上には正孔輸送層34が設けられる。正孔輸送層34の材料に要求される条件としては、正孔注入層33からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく発光層35に輸送することができる材料であることである。そのためには、正孔注入層33に用いる材料のイオン化ポテンシャルと正孔輸送層34に用いる材料のイオン化ポテンシャルの差が小さく、可視光の光に対して透明性が高く、しかも正孔移動度が大きく、さらに酸化に対する安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。上記の一般的要求以外に、車載表示用の応用を考えた場合、素子には更に耐熱性が要求される。従って、ガラス転移温度(Tg)として75℃以上の値を有する材料が望ましい。
このような正孔輸送層34の材料としては、例えば、4,4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4',4”-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J. Lumin. 1997,72−74,985.)、トリフェニルアミンの四量体からなる芳香族アミン化合物(Chem.Commun. 1996,2175.)、2,2',7,7'-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9'-スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals 1997,91,209.)、又は本発明に係る金属酸化物含有層が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、必要に応じて、各々、混合して用いてもよい。
正孔輸送層34は、前記芳香族アミン化合物等を、湿式成膜法、又は真空蒸着法により、前記正孔注入層33上に積層することにより形成される。
湿式成膜法の場合は、前記芳香族アミン化合物の1種又は2種以上と、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤等の添加剤とを添加し、溶解してインクを調製し、スピンコート法等により正孔注入層33上に塗布し、乾燥して正孔輸送層34を形成する。
バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は、その添加量が多いと正孔移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、インク全量に対して、通常、50質量%以下が好ましい。
真空蒸着法の場合には、前記芳香族アミン化合物を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して蒸発させ、ルツボと向き合って置かれた、基材上の正孔注入層33上に、正孔輸送層34を形成させる。
なお、正孔輸送層34として、金属酸化物含有層を用いる場合は、本発明に係る金属酸化物含有層の形成方法に従って、形成することができる。
正孔輸送層34の膜厚に制限はないが、通常3〜300nm、好ましくは10〜100nmである。上記範囲内の膜厚であれば、正孔輸送層34に要求される条件を満たすことができる。このような薄膜を一様に形成するためには、真空蒸着法が好ましい。
<5.5.発光層(35)>
正孔輸送層34の上には発光層35が設けられる。発光層は、電界を与えられた電極間において陰極からの電子を効率よく正孔輸送層34の方向に輸送することができる化合物より形成される。
このような条件を満たす材料としては、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体(特開昭63−295695号公報)、ビススチリルアリーレン誘導体(特開平4−308688号公報)、アントラセン誘導体(特開平8−12600号公報、特開平11−312588号公報)等に記載の化合物が挙げられる。
発光層35の形成方法は、特段の制限はないが、公知の真空蒸着法により形成することができる。
電界発光素子の発光効率を向上させるとともに発光色を変える目的で、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体をホスト材料として、クマリン等のレーザ用蛍光色素をドープすることが行われている(J.Appl.Phys. 1989,65,3610.)。この方法の利点は、
1)高効率の蛍光色素により発光効率が向上、
2)蛍光色素の選択により発光波長が可変、
3)濃度消光を起こす蛍光色素も使用可能、
4)薄膜性の悪い蛍光色素も使用可能、
等が挙げられる。
電界発光素子の駆動寿命を改善する目的においても、前記発光層材料をホスト材料として、蛍光色素をドープすることは有効である。例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体をホスト材料として、ルブレンに代表されるナフタセン誘導体を、ホスト材料に対して0.1〜10質量%ドープすることにより、素子の発光特性、特に駆動安定性を大きく向上させることができる。
蛍光色素以外には、燐光性金属錯体を上記発光層ホスト材料に対して1〜30質量%ドープすることにより、素子の発光効率を大きく改善することも行われる。この場合、燐光性金属錯体としては、中心金属としてイリジウムや白金等を有し配位子としてフェニルピリジン、フェニルイソキノリン等を有するものが使用できる。
上記発光層35中に正孔輸送材料を混合させることも、特に素子の駆動安定性向上目的のためには有効である。混合比率としては、5〜50質量%が好ましい範囲である。
発光層35の膜厚に制限はないが、通常3〜300nm、好ましくは10〜100nmである。上記範囲内の膜厚であれば、発光層35に要求される条件を満たすことができる。
<5.6.電子輸送層(36)>
電界発光素子39の発光効率をさらに向上させるために、発光層35の上に電子輸送層36を積層することが有効である。この電子輸送層36に用いられる材料には、陰極38からの電子注入が容易で、電子の輸送能力が大きいことが要求される。
このような電子輸送層36の材料は、特段の制限はないが、8-ヒドロキシキノリンのアルミ錯体、オキサジアゾール誘導体(Appl.Phys.Lett. 1989,55,1489.)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、スターバースト型ベンズイミダゾール化合物(特開平10−106749号公報),シロール化合物(Appl.Phys.Lett. 2002,80,189.)、又は本発明に係る金属酸化物含有層が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、必要に応じて、各々、混合して用いてもよい。
さらに、電子輸送層36にアルカリ金属を混合させることにより、導電性を大きく改善させることが可能で、このことは電子輸送性材料がアルカリ金属との反応により還元され、電荷キャリアとなるアニオンラジカルを効率よく生成することが可能なことによる(特開平10−270171号公報)。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等が用いられ、アルカリ金属の電子輸送層における含有率は、1〜50質量%が好ましい範囲である。このアルカリ金属を混合させる方法としては、電子輸送材料とアルカリ金属の共蒸着が通常は用いられる。
電子輸送層36の膜厚に制限はないが、通常3〜300nm、好ましくは10〜100nmである。上記範囲内の膜厚であれば、電子輸送層36に要求される条件を満たすことができる。
電子輸送層36の形成手法としては、塗布法等の湿式成膜法、又は真空蒸着法等の乾式成膜法が挙げられる。なお、電子輸送層36に金属酸化物含有層を用いる場合は、本発明に係る金属酸化物含有層の形成方法に従って形成することができる。
<5.7.電子注入層(37)>
電子輸送層36の上にさらに、陰極38からの電子注入を容易にするために、電子注入層37を設けることも効果的である。
電子注入層37に用いられる材料としては,電子親和力が大きい化合物が好ましく、例えば、8-ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体、フラーレン誘導体、又は本発明に係る金属酸化物含有層等を用いることができる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、必要に応じて、各々、混合して用いてもよい。
電子注入層37の膜厚に制限はないが、通常3〜300nm、好ましくは10〜100nmである。上記範囲内の膜厚であれば、電子注入層37に要求される条件を満たすことができる。
電子注入層37の形成手法としては、塗布法等の湿式成膜法、又は真空蒸着法等の乾式成膜法が挙げられる。なお、電子注入層37として金属酸化物含有層を用いる場合は、本発明に係る金属酸化物含有層の形成方法に従って、形成することができる。
<5.8.陰極(38)>
陰極38は、発光層35に電子を注入する役割を果たす。陰極38の材料は、特段の制限はなく、陽極32に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行うには、仕事関数の低い金属を用いることが好ましい。例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。合金は、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
さらに、陰極38と、電子輸送層36又は電子注入層37との界面に、フッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化リチウム(Li2O)、炭酸セシウム(Cs2CO3)、8-ヒドロキシキノリンのリチウム錯体等の極薄絶縁膜(膜厚0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Appl.Phys.Lett. 1997,70,152.、IEEE Trans.Electron.Devices,1997,44,1245.、SID 04 Digest,2004,154.、特開平11−233262号公報)。
陰極38の膜厚は、通常は陽極32と同様である。低仕事関数金属からなる陰極38を保護する目的で、この上にさらに、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは、素子の安定性を増す。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が用いられる。
なお、図2は本発明の電界発光素子の一実施形態を示すものであって、本発明は何ら図示した構成に限定されるものではない。たとえば、図2とは逆の積層構造とすること、すなわち、基板31上に陰極38、電子注入層37、電子輸送層36、発光層35、正孔輸送層34、正孔注入層33、陽極32をこの順に積層することも可能である。
本発明の電界発光素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造の素子のいずれにおいても適用することができる。
<6.光電変換素子>
本発明に係る光電変換素子は、基材上に、少なくとも一対の電極と、該一対の電極間に存在する活性層と、該活性層と該一対の電極の一方の電極との間にバッファ層とを有する。また、本発明に係る光電変換素子は、本発明に係る金属酸化物含有層を有することに特徴がある。
図3に示すように、本発明に係る光電変換素子の一実施形態は、基材106上に、下部電極101と、下部バッファ層102と、活性層103と、上部バッファ層104と、上部電極105が順次形成された層構造を有する。本発明において、下部電極とは、基材106側に積層される電極を意味し、上部電極とは、基材106をボトムとした際に、下部電極よりも上部に積層される電極を意味する。なお、本発明において、下部電極101及び上部電極105を合わせて一対の電極と称す場合がある。また、下部バッファ層102及び上部バッファ層104は、必須の構成ではなく、任意で設ければよく、下部バッファ層102及び上部バッファ層104のうち一方のみを有していてもよい。また、光電変換素子107は、上記以外の別の層を任意で有していてもよい。以下、光電変換素子107の各構成部材について説明する。
<6.1.基材(106)>
光電変換素子107は、通常は支持体となる基材106を有する。もっとも、本発明に係る光電変換素子は基材106を有さなくてもよい。
基材106の材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されない。基材106の材料の好適な例としては、石英、ガラス、サファイア又はチタニア等の無機材料、及びフレキシブル基材が挙げられる。フレキシブル基材の具体例としては、限定されるわけではないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニル又はポリエチレン等のポリオレフィン;セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン又はエポキシ樹脂等の有機材料(樹脂基材);紙又は合成紙等の紙材料;銀、銅、ステンレス、チタン又はアルミニウム等の金属箔に、絶縁性を付与するために表面をコート又はラミネートしたもの等の複合材料が挙げられる。
なお、これらの中でも、本発明に係る金属酸化物含有層を形成する方法は、フレキシブル基材に用いる際に特に効果的である。例えば、金属酸化物含有層を従来の方法で形成する場合、高温プロセスが必要になるために、ガラス転移温度の低い樹脂基材を使用することは極めて困難である。一方で、本発明は、低温プロセスで、金属酸化物含有層の製造が可能であるために、ガラス転移温度の低い樹脂基材にも適用することができる。また、上述の金属箔に絶縁性を付与した複合材料を基材として用いる場合も、その膜厚は非常に小さいために、従来のように、高温プロセスで金属酸化物含有層を製造すると、基材に歪みが発生してしまう。そのため、金属箔に絶縁性を付与した複合材料を基材として用いる場合も、本発明は極めて有効である。更に、本発明は、上記の通り、フレキシブル基材を使用することができるために、ロールツゥーロール方式による電子デバイスの製造が可能となり、生産性が向上する。
ガラスとしてはソーダガラス、青板ガラス又は無アルカリガラス等が挙げられる。ガラスからの溶出イオンが少ない点で、これらの中でも無アルカリガラスが好ましい。
基材106の形状に制限はなく、例えば、板状、フィルム状又はシート状等のものを用いることができる。
また、基材106の膜厚に制限はないが、通常5μm以上、好ましくは20μm以上であり、一方、通常20mm以下、好ましくは10mm以下である。基材の膜厚が5μm以上であることは、光電変換素子の強度が不足する可能性が低くなるために好ましい。基材の膜厚が20mm以下であることは、コストが抑えられ、かつ質量が重くならないために好ましい。基材108の材料がガラスである場合の膜厚は、通常0.01mm以上、好ましくは0.1mm以上であり、一方、通常1cm以下、好ましくは0.5cm以下である。ガラス基材108の膜厚が0.01mm以上であることは、機械的強度が増加し、割れにくくなるために、好ましい。また、ガラス基材106の膜厚が0.5cm以下であることは、質量が重くならないために好ましい。
<6.2.一対の電極(下部電極101及び上部電極105)>
一対の電極(101、106)は、光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有する。したがって一対の電極には、正孔の捕集に適した電極(以下、アノードと記載する場合もある)と、電子の捕集に適した電極(以下、カソードと記載する場合もある)とを用いることが好ましい。一対の電極は、いずれか一方が透光性であればよく、両方が透光性であっても構わない。透光性があるとは、太陽光が40%以上透過することを指す。また、透明電極の太陽光線透過率は70%以上であることが、透明電極を透過させて活性層に光を到達させるために好ましい。光の透過率は、通常の分光光度計で測定できる。
アノードとは、一般には仕事関数がカソードよりも高い導電性材料で構成され、活性層で発生した正孔をスムーズに取り出す機能を有する電極である。
アノードの材料を挙げると、例えば、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)、酸化チタン、酸化インジウム又は酸化亜鉛等の導電性金属酸化物;金、白金、銀、クロム又はコバルト等の金属あるいはその合金が挙げられる。これらの物質は高い仕事関数を有するため、好ましく、さらに、ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルホン酸をドーピングしたPEDOT:PSSで代表されるような導電性高分子材料を積層することができるため、好ましい。このような導電性高分子を積層する場合には、この導電性高分子材料の仕事関数が高いことから、上記のような高い仕事関数の材料でなくとも、AlやMg等のカソードに適した金属も広く用いることが可能である。ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルホン酸をドーピングしたPEDOT:PSSや、ポリピロール又はポリアニリン等にヨウ素等をドーピングした導電性高分子材料を、アノードの材料として使用することもできる。
アノードが透明電極である場合には、ITO、酸化亜鉛又は酸化スズ等の透光性がある導電性金属酸化物を用いることが好ましく、特にITOが好ましい。
アノードの膜厚は特に制限は無いが、通常10nm以上、好ましくは20nm以上、さらに好ましくは、50nm以上である。一方、通常10μm以下、好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下である。アノードの膜厚が10nm以上であることにより、シート抵抗が抑えられ、アノードの膜厚が10μm以下であることにより、光透過率を低下させずに効率よく光を電気に変換することができる。アノードが透明電極である場合には、光透過率とシート抵抗とを両立できる膜厚を選ぶ必要がある。
アノードのシート抵抗は、特段の制限はないが、通常1Ω/□以上、一方、1000Ω/□以下、好ましくは500Ω/□以下、さらに好ましくは100Ω/□以下である。
アノードの形成方法としては、蒸着法若しくはスパッタ法等の真空成膜方法、又はナノ粒子や前駆体を含有するインクを塗布して成膜する湿式塗布法が挙げられる。
カソードは、一般には仕事関数が低い値を有する導電性材料で構成され、活性層103で発生した電子をスムーズに取り出す機能を有する電極である。カソードは、電子取り出し層と隣接する。
カソードの材料を挙げると、例えば、白金、金、銀、銅、鉄、スズ、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム又はマグネシウム等の金属及びその合金;フッ化リチウムやフッ化セシウム等の無機塩;酸化ニッケル、酸化アルミニウム、酸化リチウム又は酸化セシウムのような金属酸化物等が挙げられる。これらの材料は低い仕事関数を有する材料であるため、好ましい。カソードについてもアノードと同様に、電子取り出し層としてチタニアのようなn型半導体で導電性を有するものを用いることにより、高い仕事関数を有する材料を用いることもできる。電極保護の観点から、カソードの材料として好ましくは、白金、金、銀、銅、鉄、スズ、アルミニウム、カルシウム若しくはインジウム等の金属、又は酸化インジウムスズ等のこれらの金属を用いた合金である。
カソードの膜厚は特に制限は無いが、通常10nm以上、好ましくは20nm以上、より好ましくは50nm以上である。一方、通常10μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下である。カソードの膜厚が10nm以上であることにより、シート抵抗が抑えられ、カソードの膜厚が10μm以下であることにより、光透過率を低下させずに効率よく光を電気に変換することができる。カソードが透明電極である場合には、光透過率とシート抵抗を両立する膜厚を選ぶ必要がある。
カソードのシート抵抗は、特に制限は無いが、通常1000Ω/□以下、好ましくは500Ω/□以下、さらに好ましくは100Ω/□以下である。下限に制限は無いが、通常は1Ω/□以上である。
カソードの形成方法としては、蒸着法若しくはスパッタ法等の真空成膜方法、又はナノ粒子や前駆体を含有するインクを塗布して成膜する湿式塗布法等がある。
さらに、アノード及びカソードは、2層以上の積層構造を有していてもよい。また、アノード及びカソードに対して表面処理を行うことにより、特性(電気的特性や濡れ性等)を改良してもよい。
アノード及びカソードを積層した後に、光電変換素子を通常50℃以上、好ましくは80℃以上、一方、通常300℃以下、好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下の温度範囲において、加熱することが好ましい(この工程をアニーリング処理工程と称する場合がある)。アニーリング処理工程を50℃以上の温度で行うことにより、光電変換素子の各層間の密着性、例えば後述する電子取り出し層とカソード及び/又は電子取り出し層と活性層の密着性が向上する効果が得られるため、好ましい。各層間の密着性が向上することにより、薄膜太陽電池素子の熱安定性や耐久性等が向上しうる。アニーリング処理工程の温度を300℃以下にすることは、活性層内の有機化合物が熱分解する可能性が低くなるため、好ましい。アニーリング処理工程においては、上記の温度範囲内で段階的な加熱を行ってもよい。
加熱する時間としては、通常1分以上、好ましくは3分以上、一方、通常3時間以下、好ましくは1時間以下である。アニーリング処理工程は、太陽電池性能のパラメータである開放電圧、短絡電流及びフィルファクターが一定の値になったところで終了させることが好ましい。また、アニーリング処理工程は、常圧下、かつ不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。
加熱する方法としては、ホットプレート等の熱源に有機薄膜太陽電池素子を載せてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気中に有機薄膜太陽電池素子を入れてもよい。また、加熱はバッチ式で行っても連続方式で行ってもよい。
<6.3.下部バッファ層102、上部バッファ層104>
上述の通り、本実施形態に係る光電変換素子は、下部電極101と活性層103との間に下部バッファ層102と、上部電極105と活性層103との間に上部バッファ層104と、を有する。下部バッファ層102及び上部バッファ層104は、それぞれ、活性層103からカソードへの電子取り出し効率又は活性層103からアノードへの正孔取り出し効率を向上させる機能を有する。なお、活性層103からカソードへの電子取り出し効率を向上させる機能を有するバッファ層を電子取り出し層、活性層103からカソードへの電子取り出し効率を向上させる機能を有するバッファ層を正孔取り出し層という。なお、上述の通り、下部バッファ層102及び上部バッファ層104は、必須の構成部材ではなく、有機薄膜太陽電池素子4は、下部バッファ層102及び上部バッファ層104を有していなくてもよい。また、どちらか一方の層のみを有していてもよい。
下部バッファ層102及び上部バッファ層104は、どちらが電子取り出し層でも、正孔取り出し層でもよいが、下部電極101がカソードで、上部電極105がアノードの場合、下部バッファ層102は電子取り出し層であり、上部バッファ層104は正孔取り出し層である。一方、下部電極101がアノードで、上部電極105がカソードの場合、下部バッファ層102は正孔取り出し層であり、上部バッファ層104は電子取り出し層である。
<6.3.1.電子取り出し層>
電子取り出し層、特に限定は無く、活性層からカソードへ電子の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されない。具体的には、無機化合物又は有機化合物が挙げられる。無機化合物の材料としては、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウム等のアルカリ金属の塩;酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、又は酸化インジウム等のn型半導体特性金属酸化物が挙げられる。n型半導体特性金属酸化物として好ましくは、酸化亜鉛、酸化チタン又は酸化インジウムが良く、特に好ましくは、酸化亜鉛又は酸化チタンである。有機化合物の材料としては、具体的には、バソキュプロイン(BC
P)、バソフェナントレン(Bphen)、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)、ホウ素化合物、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、又はホスフィンオキシド化合物若しくはホスフィンスルフィド化合物等の周期表第16族元素と二重結合を有するホスフィン化合物が挙げられる。
なお、金属酸化物を電子取り出し層として用いる場合、本発明に係る金属酸化物含有層を電子取り出し層として用いることができる。電子取り出し層が複数の層で構成される場合は、少なくとも1つの層が、本発明に係る金属酸化物含有層であればよい。
本発明に係る金属酸化物含有層は、適度に硬く、膜均一性に優れている点や、本発明に係る光電変換素子の光電変換効率を向上させうる点で、電子取り出し層として好ましく用いられる。不飽和カルボン酸金属塩を含有するインクを用いた塗布法により、均一に成膜できることや、生成した膜が、高い硬度と高い特性を有する金属酸化物が主成分になることにより、良好な電荷(特に電子)輸送機能を発揮できると考えられる。
電子取り出し層の形成方法としては、形成方法に制限はない。例えば、昇華性を有する材料を用いる場合は真空蒸着法等の乾式成膜法により形成することができる。また、例えば、溶媒に可溶な材料を用いる場合は、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法により形成することができる。なかでも、本発明に係る金属酸化物含有層を電子取り出し層として形成する場合には、上述の組成物を用いる湿式成膜法が用いられる。本発明に係る不飽和カルボン酸金属塩を含有するインクを基材上に塗布成膜し、その後に熱処理することにより、電子取り出し層を形成することができる。
インクの塗布方法としては、任意の方法を用いることができる。例えば、スピンコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法、又はカーテンコート法が挙げられる。また、塗布法として1種の方法のみを用いてもよいし、2種以上の方法を組み合わせて用いることもできる。
電子取り出し層の全体の膜厚は特に限定はないが、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上、特に好ましくは10nm以上である。一方、通常1μm以下、好ましくは700nm以下、より好ましくは400nm以下、特に好ましくは200nm以下である。電子取り出し層の膜厚が上記の範囲内にあることで、均一な塗布が容易となり、電子取り出し機能もよく発揮されうる。
<6.3.2.正孔取り出し層>
正孔取り出し層の材料に特に限定は無く、活性層からアノードへの正孔の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されない。具体的には、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミン又はポリアニリン等に、スルホン酸及びヨウ素のうち少なくとも一方等がドーピングされた導電性ポリマー、スルホニル基を置換基に有するポリチオフェン誘導体、アリールアミン等の導電性有機化合物、ナフィオン、後述のp型半導体化合物、酸化銅、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化モリブデン、又は酸化バナジウム又は酸化タングステン等の金属酸化物が挙げられる。正孔取り出し層は、本発明に係る金属酸化物含有層であってもよい。
その中でも好ましくは、スルホン酸をドーピングした導電性ポリマーであり、より好ましくは、ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルホン酸をドーピングした(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)である。また、金、インジウム、銀又はパラジウム等の金属等の薄膜も使用することができる。金属等の薄膜は、単独で形成してもよいし、上記の有機材料と組み合わせて用いることもできる。
正孔取り出し層の全体の膜厚は特に限定はないが、通常0.5nm以上である。一方、通常400nm以下、好ましくは200nm以下である。正孔取り出し層の膜厚が0.5nm以上であることでバッファ材料としての機能を果たすことになり、正孔取り出し層の膜厚が400nm以下であることで、正孔が取り出し易くなり、光電変換効率が向上しうる。
正孔取り出し層の形成方法に制限はない。例えば、昇華性を有する材料を用いる場合は真空蒸着法等の乾式成膜法により形成することができる。また、例えば、溶媒に可溶な材料を用いる場合は、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法により形成することができる。正孔取り出し層に半導体材料を用いる場合は、後述の有機活性層の低分子有機半導体化合物と同様に、前駆体を用いて層を形成した後に前駆体を半導体化合物に変換してもよい。
なかでも、正孔取り出し層の材料としてPEDOT:PSSを用いる場合、分散液を塗布する方法によって正孔取り出し層を形成することが好ましい。PEDOT:PSSの分散液としては、ヘレウス社製のCLEVIOS(登録商標)シリーズや、アグファ社製のORGACON(登録商標)シリーズが挙げられる。
塗布法により正孔取り出し層を形成する場合は、塗布液にさらに界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤の使用により、微小な泡若しくは異物等の付着による凹み及び乾燥工程での塗布むらのうち少なくとも一方等の発生が抑制される。界面活性剤としては、公知の界面活性剤(カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤)を用いることができる。なかでも、ケイ素系界面活性剤、アセチレンジオール系界面活性剤又はフッ素系界面活性剤が好ましい。なお、界面活性剤としては1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
<6.4.活性層(103)>
活性層103は光電変換が行われる層を指し、通常、p型半導体化合物とn型半導体化合物とを含む。p型半導体化合物とは、p型半導体材料として働く化合物であり、n型半導体化合物とは、n型半導体材料として働く化合物である。光電変換素子107が光を受けると、光が活性層に吸収され、p型半導体化合物とn型半導体化合物との界面で電気が発生し、発生した電気が電極101,105から取り出される。
活性層103の材料としては無機化合物と有機化合物とのいずれを用いてもよいが、簡易な塗布プロセスにより形成しうる層であることが好ましく、本発明に係る金属酸化物含有層を用いてもよい。
活性層103の層構成としては、p型半導体化合物層とn型半導体化合物層とが積層された薄膜積層型、p型半導体化合物とn型半導体化合物とが混合した層を有するバルクヘテロ接合型、p型半導体化合物層と、p型半導体化合物とn型半導体化合物とが混合した層(i層)と、n型半導体化合物層とが積層されたもの等が挙げられる。なかでも、p型半導体化合物とn型半導体化合物が混合した層を有するバルクヘテロ接合型が好ましい。
活性層103の膜厚は特に限定されないが、通常10nm以上、好ましくは50nm以上であり、一方通常1μm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下である。活性層103の膜厚が10nm以上であることは、膜の均一性が保たれ、短絡を起こしにくくなるため、好ましい。また、活性層103の厚さが1μm以下であることは、内部抵抗が小さくなる点、及び電極(カソード−アノード)間が離れすぎず電荷の拡散が良好となる点で、好ましい。
活性層103の作成方法としては、特段に制限はないが、塗布法が好ましい。塗布法としては、任意の方法を用いることができるが、例えば、スピンコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法、又はカーテンコート法が挙げられる。
例えば、p型半導体化合物層及びn型半導体化合物層は、p型半導体化合物又はn型半導体化合物を含む塗布液を塗布することにより作製しうる。また、p型半導体化合物とn型半導体化合物とが混合した層は、p型半導体化合物及びn型半導体化合物を含む塗布液を塗布することにより作製しうる。後述するように、半導体化合物前駆体を含む塗布液を塗布した後で、半導体化合物前駆体を半導体化合物へと変換してもよい。
なお、本明細書において「半導体」とは、固体状態におけるキャリア移動度の大きさによって定義される。キャリア移動度とは、周知であるように、電荷(電子又は正孔)がどれだけ速く(又は多く)移動されうるかを示す指標となるものである。具体的には、本明細書における「半導体」は、室温におけるキャリア移動度が通常1.0x10-6cm2/V・s以上、好ましくは1.0x10-5cm2/V・s以上、より好ましくは5.0x10-5cm2/V・s以上、さらに好ましくは1.0x10-4cm2/V・s以上であることが望ましい。なお、キャリア移動度は、例えば電界効果トランジスタのIV特性の測定、又はタイムオブフライト法等により測定できる。また、本発明に係る半導体層の特性としては、室温におけるキャリア移動度が1.0x10-6cm2/V・s以上、好ましくは1.0x10-5cm2/V・s以上、より好ましくは5.0x10-5cm2/V・s以上、さらに好ましくは1.0x10-4cm2/V・s以上であることが望ましい。
<6.4.1.p型半導体化合物>
活性層103が含むp型半導体化合物としては、特に限定はないが、低分子有機半導体化合物、高分子有機半導体化合物、無機半導体化合物、及び有機無機複合半導体化合物が挙げられる。
<6.4.1.1.低分子有機半導体化合物>
低分子有機半導体化合物の分子量は、上限、下限ともに特に制限されないが、通常5000以下、好ましくは2000以下であり、一方、通常100以上、好ましくは200以上である。
また、低分子有機半導体化合物は結晶性を有することが好ましい。結晶性を有するp型半導体化合物は分子間相互作用が強く、活性層においてp型半導体化合物とn型半導体化合物との界面で生成した正孔(ホール)を効率よくアノードへ輸送しうる。本明細書において結晶性とは、分子間相互作用等によって配向の揃った3次元周期配列をとる、化合物の性質である。結晶性の測定方法としては、X線回折法(XRD)又は電界効果トランジスタ(FET)による移動度測定法等が挙げられる。特に電界効果トランジスタによる移動度測定において、正孔移動度は、通常1.0×10-6cm2/Vs以上であり、1.0×10-5cm2/Vs以上が好ましく、5.0×10-5cm2/Vs以上がより好ましく、1.0×10-4cm2/Vs以上がさらに好ましい。一方、通常1.0×104cm2/Vs以下であり、1.0×103cm2/Vs以下が好ましく、5.0×102cm2/Vs以下がより好ましい。正孔移動度が1.0×10-6cm2/Vs以上であることは、光電変換素子の正孔拡散速度向上、短絡電流向上、変換効率向上等の効果が得られうる点で好ましい。電界効果トランジスタによる移動度測定方法は、公知文献(特開2011−61095号公報)に記載の方法により実施することができる。
低分子有機半導体化合物としては、p型半導体材料として働きうるのであれば特段の制限はないが、具体的には、ナフタセン、ペンタセン又はピレン等の縮合芳香族炭化水素;α−セキシチオフェン等のチオフェン環を4個以上含むオリゴチオフェン類;チオフェン環、ベンゼン環、フルオレン環、ナフタレン環、アントラセン環、チアゾール環、チアジアゾール環及びベンゾチアゾール環のうち少なくとも一つ以上を含み、かつ合計4個以上連結したもの;フタロシアニン化合物及びその金属錯体、又はテトラベンゾポルフィリン等のポルフィリン化合物及びその金属錯体、等の大環状化合物が挙げられる。好ましくは、フタロシアニン化合物及びその金属錯体又はポルフィリン化合物及びその金属錯体である。
ポルフィリン化合物及びその金属錯体(下記式中のZ1がCH)、及びフタロシアニン化合物及びその金属錯体(下記式中のZ1がN)としては、例えば、以下のような構造の化合物が挙げられる。
Figure 2015128155
Figure 2015128155
ここで、Metは金属あるいは2個の水素原子を表し、金属としては、Cu、Zn、Pb、Mg、Pd、Ag、Co又はNi等の2価の金属のほか、軸配位子を有する3価以上の金属、例えば、TiO、VO、SnCl2、AlCl、InCl又はSi(OH)2も挙げられる。
図中のZ1はCH又はNである。
図中のR11〜R14はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上24以下のアルキル基である。炭素数1以上24以下のアルキル基とは、炭素数1以上24以下の飽和若しくは不飽和の鎖状炭化水素基又は炭素数3以上24以下の飽和若しくは不飽和の環式炭化水素である。その中でも好ましくは炭素数1以上12以下の飽和若しくは不飽和の鎖状炭化水素基又は炭素数3以上12以下の飽和若しくは不飽和の環式炭化水素である。
フタロシアニン化合物及びその金属錯体の中でも、好ましくは、29H,31H−フタロシアニン、銅フタロシアニン錯体、亜鉛フタロシアニン錯体、チタンフタロシアニンオキシド錯体、マグネシウムフタロシアニン錯体、鉛フタロシアニン錯体又は銅4,4’,4’’,4’’’−テトラアザ−29H,31H−フタロシアニン錯体であり、より好ましくは、29H,31H−フタロシアニン又は銅フタロシアニン錯体である。上記のうち一種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物の混合物を用いてもよい。
ポルフィリン化合物及びその金属錯体の中でも、好ましくは、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンコバルト(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン銅(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン亜鉛(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンニッケル(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンバナジウム(IV)オキシド、5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィン、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィン、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィンコバルト(II)、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィン銅(II)、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィン亜鉛(II)、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィンニッケル(II)又は29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィンバナジウム(IV)オキシドであり、好ましくは、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン又は29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィンである。上記のうち1種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物の混合物を用いてもよい。
低分子有機半導体化合物の成膜方法としては、真空蒸着法及び塗布法が挙げられる。塗布成膜できるというプロセス上の利点からは後者が好ましい。塗布法を用いる場合、低分子有機半導体化合物前駆体を塗布後に低分子有機半導体化合物に変換する方法がある。塗布成膜がより容易である点で、半導体化合物前駆体を用いる方法がより好ましい。
(低分子有機半導体化合物前駆体)
低分子有機半導体化合物前駆体とは、例えば加熱や光照射等の外的刺激を与えることにより、その化学構造が変化し、低分子有機半導体化合物に変換される化合物である。低分子有機半導体化合物前駆体は成膜性に優れることが好ましい。特に、塗布法を適用できるようにするためには、前駆体自体が液状で塗布可能であるか又は前駆体が何らかの溶媒に対して溶解性が高く溶液として塗布可能であることが好ましい。このため、低分子有機半導体化合物前駆体の溶媒に対する溶解性は、通常0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。一方、上限に特段の制限はないが、通常50質量%以下、好ましくは40質量%以下である。
溶媒の種類としては、半導体前駆体化合物を均一に溶解あるいは分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン又はデカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン又はオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール又はプロパノール等の低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン又はシクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル又は乳酸メチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン又はトリクロロエチレン等のハロゲン炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン又はジオキサン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド又はジメチルアセトアミド等のアミド類等が挙げられる。なかでも好ましくは、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン又はオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン又はシクロヘキサノン等のケトン類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン又はトリクロロエチレン等のハロゲン炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン又はジオキサン等のエーテル類である。より好ましくは、トルエン、キシレン又はシクロヘキシルベンゼン等の非ハロゲン芳香族炭化水素類;シクロペンタノン又はシクロヘキサノン等の非ハロゲン系ケトン類;テトラヒドロフラン又は1,4−ジオキサン等の非ハロゲン系脂肪族エーテル類である。特に好ましくは、トルエン、キシレン又はシクロヘキシルベンゼン等の非ハロゲン芳香族炭化水素類である。なお、1種の溶媒を単独で用いてもよく、2種以上の溶媒を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
さらに、低分子有機半導体化合物前駆体は、容易に半導体化合物に変換できることが好ましい。後述する低分子有機半導体化合物前駆体から半導体化合物への変換工程において、どのような外的刺激を半導体前駆体に与えるかは任意であるが、通常は、熱処理又は光処理等を行う。好ましくは、熱処理である。この場合には、低分子有機半導体化合物前駆体が、骨格の一部として、逆ディールス・アルダー反応によって脱離可能な、所定の溶媒に対する親溶媒性の基を有することが好ましい。
また、低分子有機半導体化合物前駆体は、変換工程を経て、高い収率で半導体化合物に変換されることが好ましい。この際、低分子有機半導体化合物前駆体から変換して得られる半導体化合物の収率は光電変換素子の特性を損なわない限り任意であるが、低分子有機半導体化合物前駆体から得られる低分子有機半導体化合物の収率は、通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは99モル%以上である。
低分子有機半導体化合物前駆体は上記の特徴を有するものであれば特に制限はないが、具体的には特開2007−324587号公報に記載の化合物等が用いられうる。なかでも好ましい例としては、下式で表される化合物が挙げられる。
Figure 2015128155
上式において、D1及びD2の少なくとも一方はπ共役した2価の芳香族環を形成する基を表し、Z2−Z3は熱又は光により脱離可能な基であって、Z2−Z3が脱離して得られるπ共役化合物が低分子有機半導体化合物となるものを表す。また、D1及びD2のうちπ共役した2価の芳香族環を形成する基でないものは、置換又は無置換のエテニレン基を表す。
上式で表される化合物は、下記化学反応式に示すように熱又は光によりZ2−Z3が脱離して、平面性の高いπ共役化合物を生成する。この生成されたπ共役化合物が低分子有機半導体化合物である。この低分子有機半導体化合物が、p型半導体特性を有する材料として用いられる。
Figure 2015128155
低分子有機半導体化合物前駆体の例としては、以下のものが挙げられる。以下において、t−Buはt−ブチル基を表し、Metは、ポルフィリン及びフタロシアニンについて説明したものと同様である。
Figure 2015128155
Figure 2015128155
低分子有機半導体化合物前駆体の低分子有機半導体化合物への変換の具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。
Figure 2015128155
Figure 2015128155
Figure 2015128155
Figure 2015128155
低分子有機半導体化合物前駆体は、位置異性体が存在する構造であってもよく、またその場合、複数の位置異性体の混合物であってもよい。複数の位置異性体の混合物は、単一の位置異性体成分からなる低分子有機半導体化合物前駆体と比較して溶媒に対する溶解度が向上するため、塗布成膜が行いやすく好ましい。複数の位置異性体の混合物の溶解度が高い理由は、詳細なメカニズムは明確ではないが、化合物そのものの結晶性が潜在的に保持されつつも、複数の異性体混合物が溶液内に混在することで、三次元規則的な分子間相互作用が困難になるためと想定される。複数の位置異性体混合物の、非ハロゲン性溶媒への溶解度は、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。上限に制限は無いが、通常50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
<6.4.1.2.高分子有機半導体化合物>
高分子有機半導体化合物として、特に限定はなく、ポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリアセチレン又はポリアニリン等の共役ポリマー半導体;アルキル基やその他の置換基が置換されたオリゴチオフェン等のポリマー半導体が挙げられる。また、2種以上のモノマー単位を共重合させた半導体ポリマーも挙げられる。共役ポリマーとしては、例えば、Handbook of Conducting Polymers,3rd Ed.(全2巻,2007)、Materials Science and Engineering 2001,32,1.、Pure Appl.Chem. 2002,74,2031.、Handbook of THIOPHENE−BASED MATERIALS(全2巻,2009)等の公知文献に記載されたポリマーやその誘導体、及び記載されているモノマーの組み合わせによって合成し得るポリマーを用いることができる。p型半導体化合物として用いられる高分子有機半導体化合物は、1種の化合物でも複数種の化合物の混合物でもよい。
高分子有機半導体化合物のモノマー骨格及びモノマーの置換基は、溶解性、結晶性、成膜性、HOMOエネルギー準位及びLUMOエネルギー準位等を制御するために選択することができる。また、高分子有機半導体化合物が有機溶媒に可溶であることは、光電変換素子を作製する際に塗布法により活性層を形成しうる点で好ましい。高分子有機半導体化合物の具体例としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されることはない。
Figure 2015128155
Figure 2015128155
<6.4.1.3.無機半導体化合物>
無機半導体化合物として、特に限定はなく、酸化銅(I)、酸化ニッケル、酸化スズ(II)等の金属酸化物、p型ドープされたシリコンが挙げられる。これらは、正孔移動度が高いという点で好ましい。なお、本発明に係る金属酸化物含有層の製造方法で製造された金属酸化物もp型半導体として用いることができる。
<6.4.1.4.有機無機複合半導体化合物>
有機無機複合半導体化合物として、特に限定はなく、鉛ぺロブスカイト構造化合物等のぺロブスカイト構造化合物が挙げられる。ぺロブスカイト構造化合物は、溶解性、結晶性、成膜性、HOMOエネルギー準位及びLUMOエネルギー準位等を制御するために構成材料を選択することができる。また、ぺロブスカイト構造化合物が有機溶媒に可溶であることは、光電変換素子を作製する際に塗布法により活性層を形成しうる点で好ましい。ぺロブスカイト構造化合物の具体例としては、CH3NH3PbI3、CH3NH3PbIXCl3-X、CH3NH3PbBr3、CH3NH3SnI3、CH3NH3SnBr3、CH3CH2NH3PbI3、HC(NH22PbI3が挙げられるが、これらに限定されることはない。
p型半導体化合物として、なかでも好ましくは、低分子有機半導体化合物としては、ナフタセン、ペンタセン、ピレン等の縮合芳香族炭化水素、フタロシアニン化合物及びその金属錯体、又はテトラベンゾポルフィリン(BP)等のポルフィリン化合物及びその金属錯体であり、高分子有機半導体化合物としては、ポリチオフェン等の共役ポリマー半導体であり、無機半導体化合物としては、p型ドープされたシリコンであり、有機無機複合半導体化合物としては、鉛ぺロブスカイト構造化合物である。活性層で用いられるp型半導体化合物は、一種の化合物でも複数種の化合物の混合物でもよい。
p型半導体化合物は、成膜された状態において、何らかの自己組織化した構造を有していても、アモルファス状態であってもよい。
p型半導体化合物のHOMO(最高被占分子軌道)エネルギー準位は、特に限定は無く、後述のn型半導体化合物の種類によって選択することができる。特に、フラーレン化合物をn型半導体化合物として用いる場合、p型半導体化合物のHOMOエネルギー準位は、通常−5.7eV以上、より好ましくは−5.5eV以上、一方、通常−4.6eV以下、より好ましくは−4.8eV以下である。p型半導体化合物のHOMOエネルギー準位が−5.7eV以上であることによりp型半導体としての特性が向上し、p型半導体化合物のHOMOエネルギー準位が−4.6eV以下であることにより化合物の安定性が向上し、開放電圧(Voc)も向上する。
p型半導体化合物のLUMO(最低空分子軌道)エネルギー準位は、特に限定は無いが、後述のn型半導体化合物の種類によって選択することができる。特に、フラーレン化合物をn型半導体化合物として用いる場合、p型半導体化合物のLUMOエネルギー準位は、通常−3.7eV以上、好ましくは−3.6eV以上である。一方、通常−2.5eV以下、好ましくは−2.7eV以下である。p型半導体のLUMOエネルギー準位が−2.5eV以下であることにより、バンドギャップが調整され長波長の光エネルギーを有効に吸収することができ、短絡電流密度が向上する。p型半導体化合物のLUMOエネルギー準位が−3.7eV以上であることにより、n型半導体化合物への電子移動が起こりやすくなり短絡電流密度が向上する。
<6.4.2.n型半導体化合物>
n型半導体化合物としては、特段の制限はないが、具体的にはフラーレン化合物、8−ヒドロキシキノリンアルミニウムに代表されるキノリノール誘導体金属錯体;ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド又はペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の縮合環テトラカルボン酸ジイミド類;ペリレンジイミド誘導体、ターピリジン金属錯体、トロポロン金属錯体、フラボノール金属錯体、ペリノン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ビススチリル誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、ビピリジン誘導体、ボラン誘導体、アントラセン、ピレン、ナフタセン又はペンタセン等の縮合多環芳香族炭化水素の全フッ化物;単層カーボンナノチューブ、n型高分子半導体化合物、酸化チタン又は酸化亜鉛等の金属酸化物、n型ドープされたシリコンが挙げられる。
その中でも、フラーレン化合物、ボラン誘導体、チアゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体、N−アルキル置換されたナフタレンテトラカルボン酸ジイミド及びN−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体が好ましく、フラーレン化合物、N−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体及びN−アルキル置換されたナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、酸化チタン又は酸化亜鉛等の金属酸化物、n型ドープされたシリコンがより好ましい。上記のうち1種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物の混合物を用いてもよい。
n型半導体化合物のLUMOエネルギー準位は、特に限定はされないが、例えばサイクリックボルタモグラム測定法により算出される真空準位に対する値が、通常−3.85eV以上、好ましくは−3.80eV以上である。p型半導体化合物から効率良くn型半導体化合物へと電子を移動させるためには、p型半導体化合物とn型半導体化合物とのLUMOエネルギー準位の相対関係が重要である。具体的には、p型半導体化合物のLUMOエネルギー準位が、n型半導体化合物のLUMOエネルギー準位より所定の値だけ上にあること、言い換えると、n型半導体化合物の電子親和力がp型半導体化合物の電子親和力より所定のエネルギーだけ大きいことが好ましい。開放電圧(Voc)はp型半導体化合物のHOMOエネルギー準位とn型半導体化合物のLUMOエネルギー準位の差に依存するため、n型半導体化合物のLUMOを高くすると、Vocが高くなる傾向がある。一方、LUMOの値は通常−1.0eV以下、好ましくは−2.0eV以下、より好ましくは−3.0eV以下、さらに好ましくは−3.3eV以下である。n型半導体化合物のLUMOエネルギー準位を低くすることで、電子の移動が起こりやすくなり、短絡電流(Jsc)が高くなる傾向がある。
n型半導体化合物のLUMOエネルギー準位の算出方法は、理論的に計算値で求める方法と実際に測定する方法が挙げられる。理論的に計算値で求める方法としては、半経験的分子軌道法及び非経験的分子軌道法があげられる。実際に測定する方法としては、紫外可視吸収スペクトル測定法又はサイクリックボルタモグラム測定法が挙げられる。その中でも好ましくはサイクリックボルタモグラム測定法である。
n型半導体化合物のHOMOエネルギー準位は、特に限定は無いが、通常−5.0eV以下、好ましくは−5.5eV以下である。一方、通常−7.0eV以上、好ましくは−6.6eV以上である。n型半導体化合物のHOMOエネルギー準位が−7.0eV以上であることは、n型半導体化合物の光吸収も発電に利用しうる点で好ましい。n型半導体化合物のHOMOエネルギー準位が−5.0eV以下であることは、正孔の逆移動を阻止できる点で好ましい。
n型半導体化合物の電子移動度は、特段の制限はないが、通常1.0×10-6cm2/Vs以上であり、1.0×10-5cm2/Vs以上が好ましく、5.0×10-5cm2/Vs以上がより好ましく、1.0×10-4cm2/Vs以上がさらに好ましい。一方、通常1.0×104cm2/Vs以下であり、1.0×103cm2/Vs以下が好ましく、5.0×102cm2/Vs以下がより好ましい。n型半導体化合物の電子移動度が1.0×10-6cm2/Vs以上であることは、光電変換素子の電子拡散速度向上、短絡電流向上、変換効率向上等の効果が得られうる点で好ましい。電子移動度の測定方法としては電界効果トランジスタ(FET)法が挙げられ、公知文献(特開2007−320957号公報)に記載の方法により実施することができる。
n型半導体化合物の25℃でのトルエンに対する溶解度は、通常0.5質量%以上であり、0.6質量%以上が好ましく、0.7質量%以上がより好ましい。一方、通常90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。n型半導体化合物の25℃でのトルエンに対する溶解度が0.5質量%以上であることは、溶液中でのn型半導体化合物の分散安定性が向上し、凝集、沈降、分離等を起こしにくくなるために、好ましい。
以下、好ましいn型半導体化合物の例について説明する。
<6.4.2.1.フラーレン化合物>
フラーレン化合物としては、一般式(n1)、(n2)、(n3)及び(n4)で表される部分構造を有するものが好ましい例として挙げられる。
Figure 2015128155
上式中、FLNは、閉殻構造を有する炭素クラスターであるフラーレンを表す。フラーレンの炭素数は、通常60以上130以下の偶数であれば何でもよい。フラーレンとしては、例えば、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96及びこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスターが挙げられる。その中でも、C60又はC70が好ましい。フラーレンとしては、一部のフラーレン環上の炭素−炭素結合が切れていてもよい。また、フラーレンを構成する炭素原子の一部が、他の原子に置き換えられていてもよい。さらにフラーレンは、金属原子、非金属原子あるいはこれらから構成される原子団をフラーレンケージ内に内包していてもよい。
a、b、c及びdは整数であり、a、b、c及びdの合計は通常1以上であり、一方、通常5以下であり、好ましくは3以下である。(n1)、(n2)、(n3)及び(n4)中の部分構造は、フラーレン骨格中の同一の五員環又は六員環に結合している。一般式(n1)では、フラーレン骨格中の同一の五員環又は六員環上の隣接する2つの炭素原子に対して、−R21と、−(CH2Lとがそれぞれ結合している。一般式(n2)では、フラーレン骨格中の同一の5員環又は6員環上の隣接する2つの炭素原子に対して、−C(R25)(R26)−N(R27)−C(R28)(R29)−が付加して5員環を形成している。一般式(n3)では、フラーレン骨格中の同一の5員環又は6員環上の隣接する2つの炭素原子に対して、−C(R30)(R31)−C−C−C(R32)(R33)−が付加して6員環を形成している。一般式(n4)では、フラーレン骨格中の同一の5員環又は6員環上の隣接する2つの炭素原子に対して−C(R34)(R35)−が付加して3員環を形成している。Lは1以上8以下の整数である。Lとして好ましくは1以上4以下の整数であり、さらに好ましくは1以上2以下の整数である。
一般式(n1)中のR21は、置換基を有していてもよい炭素数1以上14以下のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1以上14以下のアルコキシ基又は置換基を有していてもよい芳香族基である。
アルキル基としては、炭素数1以上10以下のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基又はイソブチル基がより好ましく、メチル基又はエチル基がさらに好ましい。
アルコキシ基としては、炭素数1以上10以下のアルコキシ基が好ましく、炭素数1以上6以下のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基又はエトキシ基が特に好ましい。
芳香族基としては、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の芳香族複素環基が好ましく、フェニル基、チエニル基、フリル基又はピリジル基がより好ましく、フェニル基又はチエニル基がさらに好ましい。
上記のアルキル基、アルコキシ基及び芳香族基が有していてもよい置換基としては特に限定されないが、ハロゲン原子又はシリル基が好ましい。
ハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。
シリル基としては、ジアリールアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、トリアリールシリル基又はトリアルキルシリル基が好ましく、ジアルキルアリールシリル基がより好ましく、ジメチルアリールシリル基がさらに好ましい。
一般式(n1)中のR22〜R24は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1以上14以下のアルキル基又は置換基を有していてもよい芳香族基である。
アルキル基としては、炭素数1以上10以下のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基又はn−ヘキシル基が好ましい。アルキル基が有していてもよい置換基としてはハロゲン原子が好ましい。ハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。フッ素原子で置換されたアルキル基としては、パーフルオロオクチル基、パーフルオロヘキシル基又はパーフルオロブチル基が好ましい。
芳香族基としては、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の芳香族複素環基が好ましく、フェニル基、チエニル基、フリル基又はピリジル基がより好ましく、フェニル基又はチエニル基がさらに好ましい。芳香族基が有していてもよい置換基は特に限定されないが、フッ素原子、炭素数1以上14以下のアルキル基、炭素数1以上14以下のフッ化アルキル基、炭素数1以上14以下のアルコキシ基又は炭素数3以上10以下の芳香族基が好ましく、フッ素原子又は炭素数1以上14以下のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基、n−ブトキシ基又は2−エチルヘキシルオキシ基がさらに好ましい。芳香族基が置換基を有する場合、その数に限定は無いが、1以上3以下が好ましく、1がより好ましい。芳香族基が置換基を複数有する場合、その置換基の種類は異なっていてもよいが、好ましくは同一である。
一般式(n2)中のR25〜R29は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1以上14以下のアルキル基又は置換基を有していてもよい芳香族基である。
アルキル基として好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ヘキシル基又はオクチル基であり、より好ましくはメチル基である。アルキル基が有していてもよい置換基としては、特に限定されないが、ハロゲン原子が好ましい。ハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。フッ素原子で置換されたアルキル基としては、パーフルオロオクチル基、パーフルオロヘキシル基又はパーフルオロブチル基が好ましい。
芳香族基としては、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の芳香族複素環基が好ましく、フェニル基又はピリジル基がより好ましく、フェニル基がさらに好ましい。芳香族基が有していてもよい置換基としては、特に限定されないが、好ましくはフッ素原子、炭素数1以上14以下のアルキル基、又は炭素数1以上14以下のアルコキシ基である。アルキル基にはフッ素原子が置換されていてもよい。さらに好ましくは炭素数1以上14以下のアルコキシ基であり、さらに好ましくはメトキシ基である。置換基を有する場合、その数に限定は無いが、好ましくは1以上3以下であり、より好ましくは1である。置換基の種類は異なっていてもよいが、好ましくは同一である。
一般式(n3)中のAr1は、置換基を有していてもよい炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の芳香族複素環基であり、好ましくはフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、チエニル基、フリル基、ピリジル基、ピリミジル基、キノリル基又はキノキサリル基であり、さらに好ましくはフェニル基、チエニル基又はフリル基である。
有していてもよい置換基として限定は無いが、フッ素原子、塩素原子、水酸基、シアノ基、シリル基、ボリル基、アルキル基で置換していてもよいアミノ基、炭素数1以上14以下のアルキル基、炭素数1以上14以下のアルコキシ基、炭素数2以上14以下のアルキルカルボニル基、炭素数1以上14以下のアルキルチオ基、炭素数2以上14以下のアルケニル基、炭素数2以上14以下のアルキニル基、炭素数2以上14以下のエステル基、炭素数3以上20以下のアリールカルボニル基、炭素数2以上20以下のアリールチオ基、炭素数2以上20以下のアリールオキシ基、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の複素環基が好ましく、フッ素原子、炭素数1以上14以下のアルキル基、炭素数1以下14以下のアルコキシ基、炭素数2以上14以下のエステル基、炭素数2以上14以下のアルキルカルボニル基又は炭素数3以上20以下のアリールカルボニル基がより好ましい。炭素数1以上14以下のアルキル基は1又は2以上のフッ素で置換されていてもよい。
炭素数1以上14以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基又はプロピル基が好ましい。炭素数1以上14以下のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基又はプロポキシ基が好ましい。炭素数1以上14以下のアルキルカルボニル基としては、アセチル基が好ましい。炭素数2以上14以下のエステル基としては、メチルエステル基又はn−ブチルエステル基が好ましい。炭素数3以上20以下のアリールカルボニル基としては、ベンゾイル基が好ましい。
置換基を有する場合、その数に限定は無いが、1以上4以下が好ましく、1以上3以下がより好ましい。置換基が複数の場合、その種類は異なっていてもよいが、好ましくは同一である。
一般式(n3)中のR30〜R33は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいアルキルチオ基である。R30又はR31は、R32とR33とのいずれか一方と結合して環を形成していてもよい。環を形成する場合における構造としては、例えば、芳香族基が縮合したビシクロ構造である一般式(n5)に示す構造が挙げられる。
Figure 2015128155
一般式(n5)においてfはcと同義であり、Z4は、2個の水素原子、酸素原子、硫黄原子、アミノ基、アルキレン基又はアリーレン基である。アルキレン基としては炭素数1以上2以下が好ましい。アリーレン基としては炭素数5以上12以下が好ましく、例えばフェニレン基が挙げられる。アミノ基は、メチル基やエチル基等の炭素数1以上6以下のアルキル基で置換されていてもよい。アルキレン基は、メトキシ基等の炭素数1以上6以下のアルコキシ基、炭素数1以上5以下の脂肪族炭化水素基、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の芳香族複素環基で置換されていてもよい。アリーレン基は、メトキシ基等の炭素数1以上6以下のアルコキシ基、炭素数1以上5以下の脂肪族炭化水素基、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の芳香族複素環基で置換されていてもよい。
式(n5)に示す構造として特に好ましくは、下記式(n6)又は式(n7)で表される構造である。
Figure 2015128155
一般式(n4)中のR34〜R35は、それぞれ独立して、水素原子、アルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数1以上14以下のアルキル基又は置換基を有していてもよい芳香族基である。
アルコキシカルボニル基を構成するアルコキシ基としては、炭素数1以上12以下のアルコキシ基又は炭素数1以上12以下のフッ化アルコキシ基が好ましく、炭素数1以上12以下のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、n−ヘキソキシ基、オクトキシ基、2−プロピルペントキシ基、2−エチルヘキソキシ基、シクロヘキシルメトキシ基又はベンジルオキシ基がさらに好ましく、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基又はn−ヘキソキシ基が特に好ましい。
アルキル基としては、炭素数1以上8以下の直鎖アルキル基が好ましく、n−プロピル基がより好ましい。アルキル基が有していてもよい置換基には特に限定は無いが、好ましくはアルコキシカルボニル基である。アルコキシカルボニル基を構成するアルコキシ基としては、炭素数1以上14以下のアルコキシ基又はフッ化アルコキシ基が好ましく、炭素数1以上14以下の炭化水素基がより好ましく、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、n−ヘキソキシ基、オクトキシ基、2−プロピルペントキシ基、2−エチルヘキソキシ基、シクロヘキシルメトキシ基又はベンジルオキシ基がさらに好ましく、メトキシ基又はn−ブトキシ基が特に好ましい。
芳香族基としては、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の芳香族複素環基が好ましく、フェニル基、ビフェニル基、チエニル基、フリル基又はピリジル基が好ましく、フェニル基又はチエニル基がさらに好ましい。芳香族基が有していてもよい置換基としては、炭素数1以上14以下のアルキル基、炭素数1以上14以下のフッ化アルキル基又は炭素数1以上14以下のアルコキシ基が好ましく、炭素数1以上14以下のアルコキシ基がさらに好ましく、メトキシ基又は2−エチルヘキシルオキシ基が特に好ましい。置換基を有する場合、その数に限定は無いが、好ましくは1以上3以下であり、より好ましくは1である。置換基の種類は異なっていても同一でもよく、好ましくは同一である。
一般式(n4)の構造として好ましくは、R34、R35が共にアルコキシカルボニル基であるか、R34、R35が共に芳香族基であるか、又はR34が芳香族基でありかつR35が3−(アルコキシカルボニル)プロピル基であるものが挙げられる。
フラーレン化合物としては、上記のうち一種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物の混合物を用いてもよい。
塗布法によりフラーレン化合物を成膜するためには、フラーレン化合物自体が液状で塗布可能であるか、又はフラーレン化合物が何らかの溶媒に対して溶解性が高く溶液として塗布可能であることが好ましい。溶解性の好適な範囲をあげると、25℃でのトルエンに対する溶解度が、通常0.1質量%以上、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上である。フラーレン化合物の溶解度が0.1質量%以上であることは、フラーレン化合物の溶液中での分散安定性が増加し、凝集、沈降、分離等が起こりにくくなるために好ましい。
フラーレン化合物を溶解させる溶媒としては、非極性有機溶媒であれば特段に制限はないが、非ハロゲン系溶媒が好ましい。ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒を用いることも可能であるが、環境負荷の面等から代替が求められている。非ハロゲン系溶媒としては、例えば、非ハロゲン系芳香族炭化水素類が挙げられる。その中でも好ましくはトルエン、キシレン又はシクロヘキシルベンゼン等である。
(フラーレン化合物の製造方法)
フラーレン化合物の製造方法としては、特に制限はないが、例えば、部分構造(n1)を有するフラーレン化合物の合成は、国際公開第2008/059771号やJ.Am.Chem.Soc. 2008,130,15429.のような公知文献の記載に従って実施可能である。
部分構造(n2)を有するフラーレン化合物の合成は、J.Am.Chem.Soc.1993,115,9798.、Chem.Mater. 2007,19,5363.、及びChem.Mater. 2007,19,5194.のような公知文献の記載に従って実施可能である。
部分構造(n3)を有するフラーレン化合物の合成は、Angew.Chem.Int.Ed. 1993,32,78.、Tetrahedron Lett. 1997,38,285.、国際公開第2008/018931号及び国際公開第2009/086210号のような公知文献の記載に従って実施可能である。
部分構造(n4)を有するフラーレン化合物の合成は、J.Chem.Soc.,Perkin Trans. 1997,1,1595.、Thin Solid Films 2005,489,251.、Adv.Funct.Mater. 2005,15,1979.、及びJ.Org.Chem. 1995,60,532.のような公知文献の記載に従って実施可能である。
<6.4.2.2.N−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体>
N−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体としては、特段の制限はないが、具体的には国際公開第2008/063609号、国際公開第2009/115553号、国際公開第2009/098250号、国際公開第2009/000756号及び国際公開第2009/091670号に記載されている化合物が挙げられる。これらの化合物は電子移動度が高く、可視域の光を吸収しうるために、電荷輸送と発電との両方に寄与しうる点から好ましい。
<6.4.2.3.ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド>
ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドとしては、特段の制限はないが、具体的には国際公開第2008/063609号、国際公開第2007/146250号及び国際公開第2009/000756号に記載されている化合物が挙げられる。これらの化合物は電子移動度が高く、溶解性が高く塗布性に優れている点から好ましい。
<6.4.2.4.n型高分子半導体化合物>
n型高分子半導体化合物としては、特段の制限はないが、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の縮合環テトラカルボン酸ジイミド類、ペリレンジイミド誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、ビピリジン誘導体及びボラン誘導体のうち少なくとも一つを構成ユニットとするn型高分子半導体化合物が挙げられる。
その中でも、ボラン誘導体、チアゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体、N−アルキル置換されたナフタレンテトラカルボン酸ジイミド及びN−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体のうち少なくとも一つを構成ユニットとするポリマーが好ましく、N−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体及びN−アルキル置換されたナフタレンテトラカルボン酸ジイミドのうち少なくとも一つを構成ユニットとするn型高分子半導体化合物がより好ましい。n型高分子半導体化合物として上記のうち一種の化合物を用いてもよいし、複数種の化合物の混合物を用いてもよい。
n型高分子半導体化合物として具体的には、国際公開第2009/098253号、国際公開第2010/012710号及び国際公開第2009/098250号に記載されている化合物が挙げられる。これらの化合物は可視域の光を吸収しうるために発電に寄与することができ、粘度が高く、塗布性に優れている点から好ましい。
<6.4.2.5.n型金属酸化物半導体化合物>
n型金属酸化物半導体化合物としては、特段の制限はないが、酸化チタン、酸化亜鉛、ドープされた酸化チタン、及びドープされた酸化亜鉛等が挙げられる。これらの化合物は電子移動度が高い点が好ましい。なお、本発明に係る金属酸化物含有層の製造方法で製造された金属酸化物もn型半導体として用いることができる。
<6.5.アニーリング処理工程>
アノード、又はカソードを積層した後に、光電変換素子を通常50℃以上、好ましくは80℃以上、一方、通常300℃以下、好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下の温度範囲において、加熱することが好ましい(この工程をアニーリング処理工程と称する場合がある)。アニーリング処理工程を50℃以上の温度で行うことにより、光電変換素子の各層間の密着性、例えば電子取り出し層とカソード、電子取り出し層と活性層等の層間の密着性が向上する効果が得られるため、好ましい。各層間の密着性が向上することにより、光電変換素子の熱安定性や耐久性等が向上しうる。アニーリング処理工程の温度を300℃以下にすることは、活性層内の有機化合物が熱分解する可能性が低くなるため、好ましい。アニーリング処理工程においては、上記の温度範囲内で段階的な加熱を行ってもよい。
加熱する時間としては、通常1分以上、好ましくは3分以上、一方、通常180分以下、好ましくは60分以下である。アニーリング処理工程は、太陽電池性能のパラメータである開放電圧、短絡電流及びフィルファクターが一定の値になったところで終了させることが好ましい。また、アニーリング処理工程は、構成材料の熱酸化を防ぐ上でも、常圧下、かつ不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。
加熱する方法としては、ホットプレート等の熱源に光電変換素子を載せてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気中に光電変換素子を入れてもよい。また、加熱はバッチ式で行っても連続方式で行ってもよい。
<6.6.光電変換特性>
光電変換素子107の光電変換特性は次のようにして求めることができる。光電変換素子107にソーラシュミレーターでAM1.5G条件の光を照射強度100mW/cm2で照射して、電流−電圧特性を測定する。得られた電流−電圧曲線から、光電変換効率(PCE)、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(FF)、直列抵抗、シャント抵抗といった光電変換特性を求めることができる。
本発明に係る光電変換素子の光電変換効率は、特段の制限はないが、通常1%以上、好ましくは1.5%以上、より好ましくは2%以上である。一方、上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。
また、光電変換素子の耐久性を測定する方法としては、光電変換素子を大気暴露する前後での、光電変換効率の維持率を求める方法が挙げられる。
(維持率)=(大気暴露N時間後の光電変換効率)/(大気暴露直前の光電変換効率)
光電変換素子を実用化するには、製造が簡便かつ安価であること以外に、高い光電変換効率を有することが重要である。この観点から、1週間大気暴露する前後での光電変換効率の維持率は、60%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、高ければ高いほどよい。
<7.太陽電池>
本発明に係る光電変換素子107は、太陽電池、なかでも薄膜太陽電池の太陽電池素子として使用されることが好ましい。
図4は本発明の一実施形態としての薄膜太陽電池の構成を模式的に表す断面図である。図4に表すように、本実施形態の薄膜太陽電池14は、耐候性保護フィルム1と、紫外線カットフィルム2と、ガスバリアフィルム3と、ゲッター材フィルム4と、封止材5と、太陽電池素子6と、封止材7と、ゲッター材フィルム8と、ガスバリアフィルム9と、バックシート10と、をこの順に備える。そして、耐候性保護フィルム1が形成された側(図4中下方)から光が照射されて、太陽電池素子6が発電するようになっている。なお、薄膜太陽電池は、これらの構成部材を全て有する必要はなく、各構成部材を任意で選択して設ければよい。
薄膜太陽電池を構成するこれらの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/180230号又は特開2012−191194号公報等の公知文献に記載のものを使用することができる。
本発明に係る太陽電池、特には上述した薄膜太陽電池14の用途に制限はなく、任意の用途に用いることができる。例えば、建材用太陽電池、自動車用太陽電池、インテリア用太陽電池、鉄道用太陽電池、船舶用太陽電池、飛行機用太陽電池、宇宙機用太陽電池、家電用太陽電池、携帯電話用太陽電池又は玩具用太陽電池が挙げられる。
本発明に係る太陽電池、特に薄膜太陽電池はそのまま用いてもよいし、例えば基材上に太陽電池を設置して太陽電池モジュールとして用いてもよい。例えば、図5に示すように、基材12上に薄膜太陽電池14を備えた太陽電池モジュール13として、使用場所に設置して用いることができる。基材12については、周知技術を用いることができ、例えば、国際公開第2013/180230号又は特開2012−191194号公報等に記載のものを用いることができる。例えば、基材12として建材用板材を使用する場合、この板材の表面に薄膜太陽電池14を設けることにより、太陽電池モジュール13として、建物の外壁用太陽電池パネルを作製することができる。
以下に、実施例により本発明の実施形態を説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。
<亜鉛化合物の分解温度(Td)>
エスアイアイ・ナノテクノロジー社製TG−DTA6300を用いた、示差熱質量同時分析により、各種亜鉛化合物の粉末状態での分解温度を測定した。測定条件は以下の通りである。
試料容器: アルミニウム製試料容器
雰囲気: 大気 200mL/分
昇温速度: 10℃/分
温度範囲: 25℃〜600℃
測定された分解温度は以下の通りであった。
ジアクリル酸亜鉛: 228℃
酢酸亜鉛二水和物: 242℃ (脱水89℃)
亜鉛アセチルアセトナート錯体: 116℃
以上より、ジカルボン酸亜鉛の分解温度は200℃以上300℃未満であり、亜鉛アセチルアセトナート錯体よりも高いことが分かった。このように、水や熱等の外的刺激を積極的に加える制御を行わないと、ジカルボン酸亜鉛は酸化亜鉛等に変換されないことが分かった。
<実施例1:金属酸化物含有層形成用組成物の作製及びインク安定性評価>
[実施例1−1]
ジアクリル酸亜鉛(日本触媒社製,800mg,3.86mmol)をエタノール(和光純薬工業社製,11.1mL)とエチレングリコール(和光純薬工業社製,0.4mL)に溶解することで、無色透明のインク(S1)を調製した。インク(S1)を制御していない大気雰囲気下(15〜35℃、湿度20〜75%)に2週間静置したところ、目視では、沈殿物は発生しなかった。結果を表1に示す。
[比較例1−1]
酢酸亜鉛二水和物(和光純薬工業社製,1760mg,8.0mmol)を、エタノールアミン(アルドリッチ社製,0.50mL)及び2−メトキシエタノール(アルドリッチ社製,10mL)に溶解させ、60℃で1時間攪拌することで、酸化亜鉛の前駆溶液である無色透明のインク(S2)を調製した。このインク(S2)を実施例1−1と同様に、制御していない大気雰囲気下に静置したところ、2週間後には、目視で沈殿物が確認された。結果を表1に示す。
[比較例1−2]
亜鉛アセチルアセトナート錯体(同仁化学研究所社製,400mg,1.42mmol)を、エタノール(和光純薬工業社製,10mL)に溶解することで、無色透明のインク(S3)を調製した。このインク(S3)を実施例1−1と同様に、制御していない大気雰囲気下に静置したところ、2日後から、目視で沈殿物が確認された。結果を表1に示す。
[比較例1−3]
酸化亜鉛エタノール分散液(アルドリッチ社製、カタログナンバー721085)をエタノール(和光純薬工業社製)で10倍に希釈することで、白色のインク(S4)を調製した。このインク(S4)を実施例1−1と同様に、制御していない大気雰囲気下に静置したところ、翌日から、目視で沈殿物が確認された。結果を表1に示す。
Figure 2015128155
表1における、インク安定性の欄での「○」、「×」は、それぞれ、制御していない大気雰囲気下(15〜35℃、湿度20〜75%)に2週間静置した後に、目視でインク内に沈殿物が確認されなかったか、確認されたかを示す。
以上より、ジアクリル酸亜鉛を溶解させた溶液は、インク安定性が高いことが分かる。理由としては、ジアクリル酸亜鉛が、インク中で分解することなく、安定に溶解し続けていることが考えられる。
<実施例2:石英基板上への金属酸化物含有層の作製、赤外分光スペクトル測定、及び可視・紫外分光スペクトル測定>
実施例1−1と同様にして、無色透明のインク(S1)を調製した。
次に、石英基板(フルウチ化学社製、光学研磨)を、アセトンを用いた超音波洗浄、イソプロパノールを用いた超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローを行った。
洗浄した基板に、インク(S1)を1mL滴下後、スピンコーターACT−300DII(アクティブ社製)を用いて、制御していない大気雰囲気下(25〜30℃、湿度30〜40%)、3000rpm、30秒間の条件でスピンコートした。
その後、神栄テクノロジー社製精密湿度供給装置SRG1Rと美和製作所製グローブボックスを用いて、乾燥した圧縮空気から作製した相対湿度10%の雰囲気で、加熱条件を変えながら、加熱処理を行い、酸化亜鉛含有層を作製した。
(加熱条件)
温度(℃):150(実施例2−1),120(実施例2−2),100(実施例2−3),80
加熱時間(分):10
得られた酸化亜鉛含有半導体層の赤外分光(IR)スペクトルを赤外分光光度計FT/IR−4100(日本分光社製)のATRモードを用いて400〜4000cm-1の波数範囲で測定した。
(測定条件)
機種名: FT/IR−4100
付属品名: ATR PRO450−S
光源: 標準光源
検出器: TGS
積算回数: 16回
分解能: 4cm-1
ゼロフィリング: ON
アポダイゼーション:Cosine
ゲイン: Auto(4)
アパーチャー: Auto(7.1mm)
スキャンスピード: Auto(2mm/sec)
フィルター: Auto(3000Hz)
得られた酸化亜鉛含有層の赤外分光(IR)スペクトルの結果を図6に示す。図6は、600〜1800cm-1の波数範囲での、石英基板、未加熱条件、80℃10分間加熱条件、100℃10分間加熱条件、120℃10分間加熱条件、及び150℃10分間加熱条件での結果である。
また、石英基板由来のピーク(波数779cm-1)を基準ピークとし、1300〜1800cm-1の波数範囲にある、炭素−炭素二重結合(C=C)及びカルボキシル基の伸縮振動に由来する4つのピークをアクリル酸亜鉛重合体由来のピークとみなした。ピークの高さは層中のアクリル酸亜鉛重合体の濃度の比と等しいので、各加熱条件と未加熱条件とのピーク比の高さから、加熱処理後に、アクリル酸亜鉛重合体が層中に存在している割合を算出することができる。ピーク比から求めた各加熱条件のアクリル酸亜鉛重合体における占有率(%)の結果を表2に示す。また、酸化亜鉛の分子量を81.4、アクリル酸亜鉛重合体の構成単位の分子量を207.5として計算した占有率(質量%)も表2に示す。
Figure 2015128155
以上の結果から、100℃10分間加熱条件では約60質量%、120℃10分間の加熱条件では約42質量%、及び150℃10分間加熱条件では約29質量%分のアクリル酸亜鉛重合体が、酸化亜鉛含有層に含まれていると推測される。一方で、80℃10分間加熱条件ではアクリル酸亜鉛重合体は生成されなかった。
また、得られた酸化亜鉛含有半導体層の可視・紫外スペクトル(UV−Vis)スペクトルを、分光光度計U−4100(日立ハイテク社製)を用いて、240〜540nmの波長範囲で測定した。
(測定条件)
機種名: U−4100
測定モード: 波長スキャン
データモード: Abs
開始波長: 540nm
終了波長: 240nm
スキャンスピード: 600nm/min
測定回数: 1
スリット: 5nm
光源切換モード: 自動切替
光源切換波長: 340nm
得られた酸化亜鉛含有層の可視・紫外スペクトル(UV−Vis)スペクトルの結果を図7に示す。図7は、240〜540nmの波長範囲での、石英基板、未加熱条件、80℃10分間加熱条件、100℃10分間加熱条件、120℃10分間加熱条件、及び150℃10分間加熱条件での結果である。
以上の結果より、湿度10%の雰囲気での加熱処理では、未加熱条件、及び80℃10分間加熱条件と比べて、100℃10分間加熱条件、120℃10分間加熱条件、及び150℃加熱条件では、酸化亜鉛由来の370nmから立ち上がりピークが観測された。
<実施例3:シリコン基板上への金属酸化物含有層の作製、及び発光スペクトル測定>
実施例1−1と同様にして、無色透明なインク(S1)を調製した。
次に、シリコン基板(エレクトロニクスエンドマテリアルズコーポレーション社製、ホウ素ドープ)を、アセトンを用いた超音波洗浄、イソプロパノールを用いた超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローを行った。
洗浄した基板に、インク(S1)を1mL滴下後、スピンコーターACT−300DII(アクティブ社製)を用いて、制御していない大気雰囲気下(25〜30℃、湿度30〜40%)、3000rpm、30秒間の条件でスピンコートした。
その後、制御していない大気雰囲気で、加熱条件を変えながら、加熱処理を行い、酸化亜鉛含有層を作製した。
(加熱条件)
温度(℃): 80,100,120,150
加熱時間(分):10
得られた酸化亜鉛含有層の発光(PL)スペクトルは、蛍光分光光度計F−4500(日立ハイテク社製)を用いて、励起波長345nmで、355〜600cm-1の波長範囲で測定した。
(測定条件)
機種名: F−4500
測定モード: 波長スキャン
スキャンモード: 蛍光スペクトル
データモード: 発光
励起波長: 345nm
蛍光開始波長: 355nm
蛍光終了波長: 600nm
スキャンスピード: 240nm/min
励起側スリット: 5.0nm
蛍光側スリット: 5.0nm
ホトマル電圧: 400V
得られた酸化亜鉛含有層の発光(PL)スペクトルの結果を図8に示す。図8は、355〜600nmの波長範囲での、シリコン基板、未加熱条件、80℃10分間加熱条件、100℃10分間加熱条件、120℃10分間加熱条件、及び150℃10分間加熱条件での結果である。
励起波長345nmでの発光スペクトルを測定したところ、未加熱条件では、ピークらしきピークは観測されなかった。また、80℃10分間加熱条件では、365nmにわずかにピークが観測された。また、100℃10分間加熱条件では367、523nmにピークが観測された。また、120℃10分間加熱条件では366、528nmにピークが観測された。また、150℃10分間加熱条件では376nmにピークが観測された。
以上の結果より、大気雰囲気での加熱処理では、100℃10分間加熱条件、120℃10分間加熱条件、及び150℃10分間加熱条件では、366〜385nm及び520〜560nmの少なくともどちらか一方の波長範囲で波長ピークを有した強い発光を伴っている。なお、366〜385nmの波長範囲での波長ピークでの発光は、酸化亜鉛ナノ粒子に由来し、520〜560nmの波長範囲での波長ピークでの発光は、酸化亜鉛のナノ粒子集合体に由来すると思われる。
<実施例4:ITO堆積ガラス基板上への金属酸化物含有層の作製、膜厚及び粗さ測定、膜硬度試験、並びに膜剥離強度試験>
[実施例4−1]
ジアクリル酸亜鉛(日本触媒社製,600mg,2.89mmol)及びアクリル酸カリウム(日本触媒社製,6.4mg,0.058mmol)をエタノール(和光純薬工業社製,8600mg)、エチレングリコール(和光純薬工業社製,280mg)、及び超純水(520mg,28.9mmol)に溶解することで、無色透明のインク(S5)を調製した。
次に、155nmの厚みでインジウムスズ酸化物(ITO)透明導電膜を堆積したガラス基板(ジオマテック社製)を、アセトンを用いた超音波洗浄、イソプロパノールを用いた超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローを行った。
洗浄した基板に、調製したインク(S5)を滴下後、スピンコーターACT−300DII(アクティブ社製)を用いて、大気雰囲気下(25℃、湿度42%)でスピンコートした。その後、神栄テクノロジー社製精密湿度供給装置SRG1Rと美和製作所製グローブボックスを用いて、乾燥した圧縮空気から作製した相対湿度3.1%の雰囲気下で、80℃x2分間,100℃x6分間,150℃x8分間の順に、昇温しながら熱処理することで、酸化亜鉛含有層を作製した。
[膜厚及び粗さ測定]
得られた酸化亜鉛含有層について、触針式表面形状測定器Dektak150(アルバック社製)を用い、以下の測定条件で、膜厚を測定した。5回の測定値の平均を結果とし、表3に示す。
(測定条件)
測定装置: Dektak150
触針圧: 1mg
触針サイズ:Radius12.5μm
測定距離: 1000μm
測定時間: 60秒間
測定モード:標準
[膜硬度試験]
得られた酸化亜鉛含有層について、触針式表面形状測定器Dektak150(アルバック社製)を用い、以下の測定条件において酸化亜鉛含有層が削られるか否かを判定することにより、膜硬度を評価した。測定結果を表3に示す。
測定装置: Dektak150
触針圧: 1、5、10、又は15mg
触針サイズ:Radius12.5μm
測定距離: 1000μm
測定時間: 60秒間
測定モード:標準
評価基準としては、例えば「10」は触針圧10mg以下では膜が削れなかったが、触針圧15mgでは膜が削られたことを示す。「>15」は、触針圧15mgでも膜が削られなかったことを示す。
[膜剥離強度試験]
得られた酸化亜鉛含有層の膜剥離強度を、ジョンソン綿棒(ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)で拭い取れるか否かにより評価した。測定結果を表3に示す。評価基準としては、○は膜が全く拭い取れなかったことを、△は膜の一部が拭い取れたことを、×は膜が完全に拭い取れたことを示す。
[実施例4−2]
熱処理までは、実施例3−1と同様に行い、さらに大気雰囲気下で、GSユアサ社製600WUV照射装置を用いて、5分間100mJ/cm2(ウシオ電機社製紫外線照度計UIT−201+UVD−365PDで照度測定)照射することで、酸化亜鉛含有層を作製した。膜厚及び粗さ、膜硬度、並びに膜の剥離強度の結果を表3に示す。
[実施例4−3]
ジアクリル酸亜鉛(日本触媒社製,600mg,2.89mmol)、アクリル酸カリウム(日本触媒社製,6.4mg,0.058mmol)、及びIrgacure184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン,BASF社製,5.9mg,0.029mmol,光重合開始剤用途)をエタノール(和光純薬工業社製,8600mg)とエチレングリコール(和光純薬工業社製,280mg)、超純水(520mg,28.9mmol)に溶解することで、無色透明のインク(S6)を調製した。実施例4−2と同様にして、酸化亜鉛含有層を作製した。膜厚及び粗さ、膜硬度、並びに膜剥離強度の結果を表3に示す。
[比較例4−1]
乳鉢で軽粉砕した酢酸亜鉛二水和物 (キシダ化学社製,6600mg,30mmol)と、エタノール(和光純薬工業社製)300mLと、を丸型フラスコに加えた後に、100℃で20分間還流した。液が透明になった後に、加熱を止めて冷却し、冷却後も析出が無いことを確認することで、亜鉛化合物溶液を調製した。
次に、水酸化ナトリウム(和光純薬工業社製,640mg, 16mmol)と、エタノール(和光純薬工業社製)160mLと、をビーカーに加えた後に、超音波浴で、液が透明溶液になるまで30分間撹拌することで、塩基溶液を調製した。
50mLサンプル瓶に、亜鉛化合物溶液(30mL)を加えた後に、撹拌しながら、塩基溶液(60mL)を室温で滴下した。超音波浴で液を30分間撹拌した後に、アクリル酸(東京化成工業社製,8.6mg, 0.12mmol)を加え、さらに超音波浴で液を30分間撹拌することで、酸化亜鉛ナノ粒子とジアクリル酸亜鉛が100対2のモル比で含まれた、ほぼ無色透明なインク(S7)を調製した。
インク(S7)が入ったサンプル瓶に、365nmの紫外線をあてると、インク(S7)が緑色に発光することより、インク(S7)が酸化亜鉛ナノ粒子含有インクであることを確認した。
窒素雰囲気下で、洗浄した基板に、インク(S7)を、スピンコーターMS−A100(ミカサ社製)を用いて、2000rpm、30秒間の条件でスピンコートしてから、GSユアサ社製600WUV照射装置を用いて、20分間100mJ/cm2(ウシオ電機社製紫外線照度計UIT−201+UVD−365PDで照度測定)照射した。次に、150℃、30分間の加熱処理を行うことで、酸化亜鉛含有層を作製した。膜厚及び粗さ、膜硬度、並びに膜剥離強度の結果を表3に示す。なお、理論上は、層全体の総質量に対して、4.9質量%のアクリル酸亜鉛重合体を含む酸化亜鉛含有層ができるが、実際には、重合体にならないジアクリル酸亜鉛の存在もあるので、重合体は4.9質量%以下である。
Figure 2015128155
以上より、本発明に係る金属酸化物含有層は、高い均一性を有する膜であることが分かる。また、大気雰囲気で熱処理後に光処理を行うことで、膜剥離強度が向上することがわかる。これは、適度なアクリル酸亜鉛重合体の存在により、膜全体の密着性が向上したことが原因に考えられる。一方、窒素雰囲気で光処理と熱処理を行った場合、膜の均一性は低く、機械強度も低かった。これは、酸化亜鉛含有層中のアクリル酸重合体の量が酸化亜鉛ナノ粒子の量に対して不足していることが原因に考えられる。
<実施例5:光電変換素子の作製及び評価>
[有機活性層塗布液の作製]
レジオレギュラーポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT,Rieke Metals社製)と、C60(Ind)2(フロンティアカーボン社製 NanomSpectra−Q400)とを、質量比1:0.95で、合計濃度が3.5質量%となるように、o−キシレン(和光純薬工業社製)に溶解した。得られた溶液を、窒素雰囲気下、80℃で1時間、スターラーを用いて攪拌混合した。攪拌後の溶液を0.45μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過することにより、有機活性層塗布液を作製した。
Figure 2015128155
[光電変換素子の作製及び評価]
[実施例5−1]
実施例1−1と同様にして、無色透明のインク(S1)を調製した。
次に、155nmの厚みでITO(酸化インジウムスズ)透明導電膜をパターン堆積したガラス基板(ジオマテック社製)を、アセトンを用いた超音波洗浄、イソプロパノールを用いた超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローを行った。
洗浄した基板に、インク(S1)を1mL滴下後、スピンコーターACT−300DII(アクティブ社製)を用いて、制御していない大気雰囲気下(25〜30℃、湿度40〜50%)、3000rpm、30秒間の条件でスピンコートした。その後、栄テクノロジー社製精密湿度供給装置SRG1Rと美和製作所製グローブボックスを用いて、乾燥した圧縮空気から作製した相対湿度10%の雰囲気大気雰囲気下で、150℃、10分間の加熱処理を行うことで、約40nmの酸化亜鉛含有層からなる電子取り出し層を形成した。
続けて、電子取り出し層上に、有機活性層塗布液を、スピンコーターMS−A100(ミカサ社製)を用いて窒素雰囲気下でスピンコートすることで、厚さ約200nmの有機活性層を形成した。
界面活性剤(日信化学工業製,オルフィンEXP4036)を1質量%含有させた、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)水性分散液(ヘレウス社製PEDOT:PSS水性分散液,商品名「CLEVIOS(登録商標) PH」)を、0.45μmのポリフッ化ビニリデン(PVDF)フィルターで濾過した。得られた濾過液を、スピンコーターACT−300DIII(アクティブ社製)を用いて、有機活性層上に大気中でスピンコートした後、窒素中で150℃、10分間加熱乾燥することで厚さ約100nmのPEDOT:PSS含有層からなる正孔取り出し層を形成した。
正孔取り出し層上に、厚さ100nmの銀電極を抵抗加熱型真空蒸着法により成膜した後に、ホットプレートを用いて120℃、5分間加熱することによって、5mm角の光電変換素子を作製した。
照射光源としてエアマス(AM)1.5G、放射照度100mW/cm2のソーラシミュレータを用い、ソースメータ2400型(ケースレーインスツルメンツ社製)により、作製した光電変換素子の電流電圧特性を4mm角のメタルマスクを付けて測定した。開放電圧Voc[V]、短絡電流密度Jsc[mA/cm2]、形状因子FF、及び光電変換効率PCE[%]の測定結果を表4に示す。
ここで、開放電圧Vocとは、電流値=0(mA/cm2)の際の電圧値(V)であり、短絡電流密度Jscとは、電圧値=0(V)の際の電流密度(mA/cm2)である。形状因子(FF)とは、内部抵抗を表すファクターであり、最大出力点をPmaxとすると次式で表される。
FF = Pmax/(Voc×Jsc)
また、光電変換効率PCEは、入射エネルギーをPinとすると次式で与えられる。
PCE = Pmax/Pin×100
= Voc×Jsc×FF/Pin×100
[実施例5−2]
120℃、10分間の加熱処理した以外は、実施例5−1と同様にして、光電変換素子を作製し、電流電圧特性を求めた。結果を表4に示す。
[比較例5−1]
比較例4−1と同様にして、ほぼ無色透明のインク(S7)を調製した。
窒素雰囲気下で、洗浄した基板に、インク(S7)を、スピンコーターMS−A100(ミカサ社製)を用いて、2000rpm、30秒間の条件でスピンコートしてから、GSユアサ社製600WUV照射装置を用いて、20分間100mJ/cm2(ウシオ電機社製紫外線照度計UIT−201+UVD−365PDで照度測定)照射した。次に、150℃、30分間の加熱処理を行うことで、酸化亜鉛含有層からなる約45nmの電子取り出し層を形成した。有機活性層以降は、実施例5−1と同様にして、光電変換素子を作製し、電流電圧特性を求めた。結果を表4に示す。
Figure 2015128155
以上の結果から、本発明に係る光電変換素子は高い変換効率を示すことが確認できる。これは、適切な量のアクリル酸亜鉛重合体が、酸化亜鉛同士を接着することで導電経路を構築した結果と思われる。また、この結果から、本発明により、高い電気的特性を備えた電子デバイスを提供できるといえる。
31 基材
32 陽極
33 正孔注入層
34 正孔輸送層
35 発光層
36 電子輸送層
37 電子注入層
38 陰極
39 電界発光素子
51 半導体層
52 絶縁体層
53 ソース電極
54 ドレイン電極
55 ゲート電極
56 基材
101 カソード
102 電子取り出し層
103 活性層
104 正孔取り出し層
105 アノード
106 基材
107 光電変換素子
1 耐候性保護フィルム
2 紫外線カットフィルム
3,9 ガスバリアフィルム
4,8 ゲッター材フィルム
5,7 封止材
6 太陽電池素子
10 バックシート
12 基材
13 太陽電池モジュール
14 薄膜太陽電池

Claims (4)

  1. 式(I)で表される構造を有する不飽和カルボン酸金属塩重合体と、金属酸化物と、を含有する金属酸化物含有層を有する電子デバイスであって、前記不飽和カルボン酸金属塩重合体の含有率が、前記金属酸化物含有層の総質量に対して、5質量%以上、60質量%以下である電子デバイス。
    Figure 2015128155
    (式(I)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子又は任意の置換基であり、Mはm価の金属原子であり、mは2以上、5以下の整数である。nは重合度であり、2以上、10000以下の整数である。)
  2. 前記式(I)中、Mが周期表第4周期元素から選ばれる遷移金属原子、周期表第12族元素、周期表第13族元素、及び周期表第14族元素から選ばれるいずれかの金属原子である請求項1に記載の電子デバイス。
  3. 前記式(I)中、Mが亜鉛原子である請求項1又は2に記載の電子デバイス。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子デバイスが、光電変換素子である電子デバイス。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN110649165A (zh) * 2019-04-04 2020-01-03 原秀玲 一种以四苯基联苯二胺衍生物为空穴传输材料的钙钛矿电池
CN112133833A (zh) * 2020-10-12 2020-12-25 中南大学 一种稳定高效的钙钛矿太阳能电池及其制备方法
WO2021079449A1 (ja) * 2019-10-24 2021-04-29 シャープ株式会社 表示装置

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