JP2014167175A - 炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】単繊維数の多い炭素繊維束を製造する場合であっても単繊維間の融着防止性を良好に維持しつつ、操業安定性に優れ、かつ、機械的特性に優れた炭素繊維束を得ることができる炭素繊維前駆体アクリル繊維束を提供する。
【解決手段】炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、下記[a]〜[c]を満たす。[a]剛体振り子の自由減衰振動法により測定される30℃と180℃の振り子の振動周期差が0.03秒以下である油剤成分が乾燥繊維重量に対して0.05〜3質量%付着。[b]繊維束に付与されている油剤成分がC,H,N,Oの元素のみから成る。[c]繊維束に付与されている油剤成分中の炭素元素の割合が62〜75wt%。
【選択図】なし
【解決手段】炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、下記[a]〜[c]を満たす。[a]剛体振り子の自由減衰振動法により測定される30℃と180℃の振り子の振動周期差が0.03秒以下である油剤成分が乾燥繊維重量に対して0.05〜3質量%付着。[b]繊維束に付与されている油剤成分がC,H,N,Oの元素のみから成る。[c]繊維束に付与されている油剤成分中の炭素元素の割合が62〜75wt%。
【選択図】なし
Description
本発明は、炭素繊維前駆体アクリル繊維束に関する。
炭素繊維は、他の繊維に比べて高い比強度及び比弾性率を有するため、複合材料用補強繊維として、スポーツ及び航空・宇宙用途に加え、自動車や土木、建築、圧力容器、風車ブレードなどの一般産業用途にも幅広く展開されている。
炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系炭素繊維束が広く利用されている。該ポリアクリロニトリル系炭素繊維束の製造方法として、アクリル繊維などからなる炭素繊維の前駆体であるアクリル繊維束(前駆体繊維束)を200〜400℃の酸素存在雰囲気下で加熱処理することにより耐炎化繊維束に転換し(耐炎化工程)、引き続いて1000℃以上の不活性雰囲気下で炭素化して(炭素化工程)、炭素繊維束を得る方法が知られている。この方法で得られた炭素繊維束は、優れた機械的特性により、特に複合材料用の強化繊維として工業的に広く利用されている。
しかし、炭素繊維束の製造方法において、主に耐炎化工程で単繊維間に融着が発生し、耐炎化工程およびそれに続く炭素化工程(以下、耐炎化工程と炭素化工程を総合して「焼成工程」とも表記する)において、毛羽や束切れといった工程障害が発生し、操業性が低下する場合があった。耐炎化工程での単繊維間の融着を防止する方法としては、前駆体繊維束の表面に油剤組成物を付与し、これを炭素繊維の前駆体(炭素繊維前駆体アクリル繊維束)として用いる方法(油剤処理)が知られており、多くの油剤組成物が検討されてきた。
また、近年、炭素繊維複合材料の用途・需要の拡大に伴い、炭素繊維複合材料の生産性を向上させる目的で、24000本以上の単繊維の集合体である、いわゆるラージトウと呼ばれる炭素繊維束の需要が高まっている。
しかし、ラージトウは、24000本より少ない単繊維の集合体からなるレギュラートウ(特に構成単繊維本数の少ないものをスモールトウと称する場合もある)に比べ、操業安定性が低く、機械的特性に劣る傾向にあった。これは、前駆体繊維束を構成する単繊維の数が多くなると、均質な前駆体繊維束となるように原料を紡糸するのが困難であること、繊維束が太いため耐炎化工程において炭素繊維前駆体アクリル繊維束内部へ酸素が拡散されにくく、繊維束を形成する単繊維が不均一な耐炎化状態になりやすいこと、などが原因であると考えられる。
しかし、ラージトウは、24000本より少ない単繊維の集合体からなるレギュラートウ(特に構成単繊維本数の少ないものをスモールトウと称する場合もある)に比べ、操業安定性が低く、機械的特性に劣る傾向にあった。これは、前駆体繊維束を構成する単繊維の数が多くなると、均質な前駆体繊維束となるように原料を紡糸するのが困難であること、繊維束が太いため耐炎化工程において炭素繊維前駆体アクリル繊維束内部へ酸素が拡散されにくく、繊維束を形成する単繊維が不均一な耐炎化状態になりやすいこと、などが原因であると考えられる。
従って、油剤組成物には、焼成工程での単繊維間の融着を防止する機能(融着防止性)に加え、耐炎化工程において耐炎化炉内の循環流により炭素繊維前駆体アクリル繊維束が容易に分繊し、繊維束内部にまでガスが拡散するような分繊性を炭素繊維前駆体アクリル繊維束に付与できる機能が求められる。
また、ラージトウを製造する場合、焼成工程への繊維束の合計の投入量が増えることから、焼成工程では糸道を制御する目的で溝付きロールやガイドバー等が必要となる場合が多い。しかし、溝付きロールやガイドバーに炭素繊維前駆体アクリル繊維束が接触して擦れることで、前駆体繊維束に付着した油剤組成物あるいはその変質物が脱落し、その粘性によって炭素繊維前駆体アクリル繊維束の単繊維が溝付きロールやガイドバーに取られて断糸する等の問題があった。
この問題を解決するには、粘性が低く、かつ耐熱性が良好で変質しにくい油剤組成物を前駆体繊維束に付与することが重要となる。
この問題を解決するには、粘性が低く、かつ耐熱性が良好で変質しにくい油剤組成物を前駆体繊維束に付与することが重要となる。
従来、耐熱性の高いシリコーン油剤を前駆体繊維束に付与する技術が多数提案され、工業的に広く適用されている。例えば、特定のアミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルキレンオキサイド変性シリコーンを混合した油剤は、空気中及び窒素中での加熱時の減量が少なく、融着防止効果が高いことが知られている(例えば特許文献1参照)。
しかし、特許文献1に記載の変性シリコーンを含有する油剤は、油剤を付着させた後の前駆体繊維束を乾燥する工程において、加熱ロール上で変性シリコーンオイルの粘性により繊維束が加熱ロールに取られたり、温度によって架橋反応が起こり樹脂化したりして、工程障害となる問題があった。さらに、耐炎化工程において単繊維間に油剤が介在して耐炎化反応に必須となる酸素の供給を妨げ、その結果、耐炎化反応の進行度むら、いわゆる焼成むらの発生が誘起されるという問題があった。さらには焼成むらが誘起されることで、続く炭素化工程において糸切れや毛羽が発生しやすくなり、特にラージトウを製造する場合には、操業性が低下したり、機械的特性が低下したりするという問題があった。
しかし、特許文献1に記載の変性シリコーンを含有する油剤は、油剤を付着させた後の前駆体繊維束を乾燥する工程において、加熱ロール上で変性シリコーンオイルの粘性により繊維束が加熱ロールに取られたり、温度によって架橋反応が起こり樹脂化したりして、工程障害となる問題があった。さらに、耐炎化工程において単繊維間に油剤が介在して耐炎化反応に必須となる酸素の供給を妨げ、その結果、耐炎化反応の進行度むら、いわゆる焼成むらの発生が誘起されるという問題があった。さらには焼成むらが誘起されることで、続く炭素化工程において糸切れや毛羽が発生しやすくなり、特にラージトウを製造する場合には、操業性が低下したり、機械的特性が低下したりするという問題があった。
そこで、シリコーン油剤の熱処理時の硬化挙動を特定することで、耐炎化工程での焼成むらの抑制効果を改善する技術が提案されている(例えば特許文献2参照)。
また、有機化合物やシリコーン化合物からなる粒子を繊維表面に付与することで、単繊維間に隙間を設け、単繊維間融着を抑制する方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。
さらに、150℃における動粘度が15000cSt以上である液体を必須成分とする液状微粒子を含む油剤が提案されている(例えば特許文献4参照)。該油剤によれば、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造工程において液滴が単繊維間に存在することにより、それらがスペーサーのような働きをして単繊維間の融着を抑制すると共に、それに続く耐炎化工程において前述のスペーサー効果により、単繊維間に酸素が均一に供給され、焼成むらを高効率で抑制させることができる。
また、有機化合物やシリコーン化合物からなる粒子を繊維表面に付与することで、単繊維間に隙間を設け、単繊維間融着を抑制する方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。
さらに、150℃における動粘度が15000cSt以上である液体を必須成分とする液状微粒子を含む油剤が提案されている(例えば特許文献4参照)。該油剤によれば、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造工程において液滴が単繊維間に存在することにより、それらがスペーサーのような働きをして単繊維間の融着を抑制すると共に、それに続く耐炎化工程において前述のスペーサー効果により、単繊維間に酸素が均一に供給され、焼成むらを高効率で抑制させることができる。
しかしながら、特許文献2に記載のシリコーン油剤では、シリコーンが単繊維同士を拘束することで接着剤のような働きを示すため、特にラージトウを製造する場合、耐炎化工程にて焼成むらが発生しやすく、機械的特性に優れた高品質な炭素繊維束が得られにくかった。さらに、焼成工程において硬化したシリコーン油剤が、各溝付きロールやガイドバーに堆積し、耐炎化繊維束へ転換途中の炭素繊維前駆体アクリル繊維束が巻き付くなどの工程障害を引き起こし、操業性が低下することがあった。
また、特許文献3に記載の方法では、繊維表面に付与された粒子が繊維から脱落して製造装置内を汚染しやすかった。その結果、汚染物と繊維の擦過により毛羽が発生したり、脱落した粒子が繊維に強く押し付けられることで繊維が傷ついたりしやすく、機械的特性に優れた高品質な炭素繊維束が得られにくかった。このような傾向は、ラージトウを製造する場合に顕著であった。
また、特許文献4に記載の油剤は極めて高粘度であるため、安定性が低下しやすかった。さらに、油剤を付着した後の前駆体繊維束を乾燥する際に、使用する加熱ロール上に高粘性な油剤が析出し、加熱ロールに繊維束が取られるなどの工程障害が発生し、操業性が著しく低下することがあった。
このように、従来の油剤では、油剤本来の目的である融着防止性は有するものの、工業的に必要不可欠である操業安定性を十分に満足できなかった。特に、ラージトウを製造する場合には、操業安定性の低下が顕著であった。また、昨今の要求に応える機械的強度に優れた高品質な炭素繊維束、特にラージトウを得ることは困難であった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、単繊維数の多い炭素繊維束を製造する場合であっても単繊維間の融着防止性を良好に維持しつつ、操業安定性に優れ、かつ、機械的特性に優れた炭素繊維束を得ることができる炭素繊維前駆体アクリル繊維束の提供を課題とする。
本発明者らは鋭意検討した結果、油剤組成物を構成する成分の粘性が、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性に影響することに着目した。また、その影響が顕著に現れるのが耐炎化工程であることから、耐炎化工程の温度域において油剤成分の粘性が、常温での粘性と比較して高くならないことが重要であることを見出した。そこで、油剤成分がC,H,N,Oの元素から成り、かつ炭素含有量が適正な油剤組成で、剛体振り子の自由減衰振動法により測定される30℃と180℃の振り子の振動周期差がある一定の範囲を超えて高くならない油剤を付与した炭素繊維前駆体アクリル繊維束であって、紡糸油剤付与工程前の膨潤度、延伸箇所・倍率を適正に制御することによって、単繊維数の多い炭素繊維束を製造する場合であっても、融着防止性を維持しつつ、操業安定性に優れ、かつ安定な機械的特性を発現する炭素繊維束が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、下記[a]〜[c]を満たす。
[a]剛体振り子の自由減衰振動法により測定される30℃と180℃の振り子の振動周期差が0.03秒以下である油剤成分が乾燥繊維重量に対して0.05〜3質量%付着。
[b]繊維束に付与されている油剤成分がC,H,N,Oの元素のみから成る。
[c]繊維束に付与されている油剤成分中の炭素元素の割合が62〜75wt%。
[a]剛体振り子の自由減衰振動法により測定される30℃と180℃の振り子の振動周期差が0.03秒以下である油剤成分が乾燥繊維重量に対して0.05〜3質量%付着。
[b]繊維束に付与されている油剤成分がC,H,N,Oの元素のみから成る。
[c]繊維束に付与されている油剤成分中の炭素元素の割合が62〜75wt%。
また、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法は、下記[d]〜[f]を満たす。
[d]紡糸工程の油剤処理槽前において繊維束膨潤度が110〜130質量%。
[e]乾燥緻密化した後に、乾燥状態で1.0〜2.0倍延伸を施す。
[f]紡糸工程の水膨潤状態での延伸倍率(A)と乾燥緻密化後の延伸倍率(B)との比(A/B)が2〜5である。
[d]紡糸工程の油剤処理槽前において繊維束膨潤度が110〜130質量%。
[e]乾燥緻密化した後に、乾燥状態で1.0〜2.0倍延伸を施す。
[f]紡糸工程の水膨潤状態での延伸倍率(A)と乾燥緻密化後の延伸倍率(B)との比(A/B)が2〜5である。
また、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、単繊維繊度が1.0〜3.0dTxで、単繊維本数が24000本以上である。
さらに、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、乾燥繊維重量に対して0.5〜4質量%の水分を含有する。
本発明の炭素繊維束は上記炭素繊維前駆体アクリル繊維束を焼成することによって得られる。
本発明によれば、単繊維数の多い炭素繊維束を製造する場合であっても単繊維間の融着防止性を良好に維持しつつ、操業安定性に優れ、かつ、機械的特性に優れた炭素繊維束を得ることができる炭素繊維前駆体アクリル繊維束を提供できる。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、炭素繊維の前駆体繊維束に油剤組成物が付着してなる。
ここで、本発明に用いる油剤組成物について説明する。
ここで、本発明に用いる油剤組成物について説明する。
[油剤組成物]
本発明に用いる油剤組成物について、その構成元素や構造等特に限定は無いが、焼成工程において工程障害となる酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素などのケイ素化合物の生成を避けるために、Si元素を含有しない化合物であることが望ましく、酸化物が焼成工程において固形化しないC,H,N、およびOの元素から成る化合物であることが好ましい。より好ましくは、耐熱性の観点から、環状構造を持つエステル化合物である。
また、油剤組成物は、単一の物質であっても、2種以上複数の物質の混合物であっても差し支えない。
本発明に用いる油剤組成物について、その構成元素や構造等特に限定は無いが、焼成工程において工程障害となる酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素などのケイ素化合物の生成を避けるために、Si元素を含有しない化合物であることが望ましく、酸化物が焼成工程において固形化しないC,H,N、およびOの元素から成る化合物であることが好ましい。より好ましくは、耐熱性の観点から、環状構造を持つエステル化合物である。
また、油剤組成物は、単一の物質であっても、2種以上複数の物質の混合物であっても差し支えない。
C,H,N,Oの元素から成る化合物としては、例として主成分では下記のような化合物が挙げられる。
・ アルコール成分として、シクロヘキサンジメタノール及び/又はシクロヘキサンジオールと、カルボン酸成分として、炭素数8〜22の脂肪酸との縮合反応により得られる化合物。
・ アルコール成分として、シクロヘキサンジメタノール及び/又はシクロヘキサンジオールと、カルボン酸成分として、炭素数8〜22の脂肪酸及びダイマー酸との縮合反応により得られる化合物。
・ カルボン酸成分として、シクロヘキサンジカルボン酸と、アルコール成分として、炭素数8〜22の1価の脂肪族アルコールとの縮合反応により得られる化合物。
・ カルボン酸成分として、シクロヘキサンジカルボン酸と、アルコール成分として、炭素数8〜22の1価の脂肪族アルコールと、炭素数2〜10の多価アルコール及び/又はオキシアルキレン基の炭素数が2〜4のポリオキシアルキレングリコールとの縮合反応により得られる化合物。
・ ヒドロキシ安息香酸と、炭素数8〜20の1価の脂肪族アルコールとの縮合脱水反応により得られる化合物。
・ 3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシル=イソシアネートと、炭素数8〜22の1価の脂肪族アルコールおよびそのポリオキシアルキレンエーテル化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物との反応により得られる化合物。
・ カルボン酸成分として、トリメリット酸エステルと、アルコール成分として、炭素数8〜18の1価の脂肪族アルコールとの縮合反応により得られる化合物。
・ カルボン酸成分として、ピロメリット酸エステルと、アルコール成分として、炭素数8〜18の1価の脂肪族アルコールとの縮合反応により得られる化合物。
・ ビスフェノールAの酸化エチレンおよび/または酸化プロピレン付加物と、炭素数8〜22の脂肪酸との縮合反応により得られる化合物。
・ アルコール成分として、シクロヘキサンジメタノール及び/又はシクロヘキサンジオールと、カルボン酸成分として、炭素数8〜22の脂肪酸との縮合反応により得られる化合物。
・ アルコール成分として、シクロヘキサンジメタノール及び/又はシクロヘキサンジオールと、カルボン酸成分として、炭素数8〜22の脂肪酸及びダイマー酸との縮合反応により得られる化合物。
・ カルボン酸成分として、シクロヘキサンジカルボン酸と、アルコール成分として、炭素数8〜22の1価の脂肪族アルコールとの縮合反応により得られる化合物。
・ カルボン酸成分として、シクロヘキサンジカルボン酸と、アルコール成分として、炭素数8〜22の1価の脂肪族アルコールと、炭素数2〜10の多価アルコール及び/又はオキシアルキレン基の炭素数が2〜4のポリオキシアルキレングリコールとの縮合反応により得られる化合物。
・ ヒドロキシ安息香酸と、炭素数8〜20の1価の脂肪族アルコールとの縮合脱水反応により得られる化合物。
・ 3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシル=イソシアネートと、炭素数8〜22の1価の脂肪族アルコールおよびそのポリオキシアルキレンエーテル化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物との反応により得られる化合物。
・ カルボン酸成分として、トリメリット酸エステルと、アルコール成分として、炭素数8〜18の1価の脂肪族アルコールとの縮合反応により得られる化合物。
・ カルボン酸成分として、ピロメリット酸エステルと、アルコール成分として、炭素数8〜18の1価の脂肪族アルコールとの縮合反応により得られる化合物。
・ ビスフェノールAの酸化エチレンおよび/または酸化プロピレン付加物と、炭素数8〜22の脂肪酸との縮合反応により得られる化合物。
上記油剤主成分の含有量は、40〜80質量部であり、50〜80質量部が好ましく、50〜70質量部がより好ましい(ただし、前記油剤主成分と、後述の乳化剤成分の合計を100質量部とする)。主成分の含有量が40質量部以上であると、耐炎化工程での単繊維間の融着を防止しやすくなり、高品質の炭素繊維束が得られやすくなる。一方、含有量が90質量部以下であると、後述の乳化剤成分の割合を確保できるので、油剤組成物のエマルションの安定性を維持できる。その結果、前駆体繊維束に均一に付着するので、耐炎化工程での炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性の低下を抑制できる。特にラージトウを製造する場合、毛羽の発生を抑制でき、高品質の炭素繊維束が得られる。
一方、上述のC,H,N,Oの元素から成る油剤主成分である化合物を水中に分散させる乳化剤としては、例えば下記のようなものが挙げられる。
・ポリオキシエチレンアルキルエーテル
・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル
・ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン、ブロック共重合体
・ポリオキシエチレンアルキルアミン
・脂肪酸ソルビタンエステル
・脂肪酸ジエタノールアミド
・アルキルポリグルコシド
・アルキルアルカノールアミド
・アルキルイミダゾリン
・アルキルモノグリセリルエーテル
乳化剤成分は1種類でも、2種類以上の複数の混合物であっても差し支えない。
・ポリオキシエチレンアルキルエーテル
・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル
・ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン、ブロック共重合体
・ポリオキシエチレンアルキルアミン
・脂肪酸ソルビタンエステル
・脂肪酸ジエタノールアミド
・アルキルポリグルコシド
・アルキルアルカノールアミド
・アルキルイミダゾリン
・アルキルモノグリセリルエーテル
乳化剤成分は1種類でも、2種類以上の複数の混合物であっても差し支えない。
より好ましくは下記式(1)で示されるOEユニットからなるポリオキシエチレンアルキルエーテル、および/または、下記式(2)で示されるオキシプロピレン(OP)ユニットとオキシエチレン(OE)ユニットからなるブロック共重合型ポリエーテルが特に好ましい。
式(1)中、R1は炭素数10〜20の炭化水素基である。炭素数が10以上であると、油剤組成物の熱的な安定性を維持できる。また、適切な親油性を発現しやすくなるので、アミノ基含有ポリジメチルシロキサンを乳化しやすくなる。一方、炭素数が20以下であると、油剤組成物の粘度の上昇を抑制するとともに、固化するのを防止でき、操業性を維持できる。加えて、親水基とのバランスが良好となるので、乳化性能を維持できる。これにより、油剤組成物が前駆体繊維束に均一に付着しやすくなり、耐炎化工程での炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性の低下を抑制できる。
炭化水素基としては、飽和鎖式炭化水素基や飽和環式炭化水素基等の飽和炭化水素基が好ましく、具体的にはデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。これらの中でも、本発明の油剤組成物を効率よく乳化するために、油剤組成物のその他の成分に馴染みやすい適度な親油性をもたすことができる点でドデシル基が特に好ましい。
mは、EO(エチレンオキサイド)の付加モル数を示し、3〜20であり、5〜15が好ましく、5〜10がより好ましい。mが3以上であると、水と馴染みやすくなり、乳化性能が得られやすくなる。従って、操業安定性が低下したり、耐炎化工程での炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性が低下したりすることを抑制できる。一方、mが20以下であると、油剤組成物の構成成分として用いた場合、得られる油剤組成物が付着した炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性の低下を抑制できる。
なお、R1は乳化剤の役割を果たすポリオキシエチレンアルキルエーテルの親油性に関与する要素であり、mは油剤組成物の親水性に関与する要素である。従って、mの値は、R1との組み合わせにより適宜決定される。
なお、R1は乳化剤の役割を果たすポリオキシエチレンアルキルエーテルの親油性に関与する要素であり、mは油剤組成物の親水性に関与する要素である。従って、mの値は、R1との組み合わせにより適宜決定される。
式(2)中、R2およびR3はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜24の炭化水素基である。炭化水素基は直鎖状であってもよく分岐鎖状であってもよい。
R2およびR3は、OE、OPとの均衡、その他の油剤組成物成分を考慮して決定されるが、水素原子、あるいは炭素数1〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が好ましく、より好ましくは水素原子である。
R2およびR3は、OE、OPとの均衡、その他の油剤組成物成分を考慮して決定されるが、水素原子、あるいは炭素数1〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が好ましく、より好ましくは水素原子である。
式(2)中、xおよびzはOEの平均付加モル数を示し、yはOPの平均付加モル数を示す。x、y、zはそれぞれ独立して、1〜500であり、20〜300が好ましい。
また、xおよびzの合計と、yとの比(x+z:y)が90:10〜60:40であることがより好ましい。
また、xおよびzの合計と、yとの比(x+z:y)が90:10〜60:40であることがより好ましい。
乳化剤の含有量は、20〜60質量部であり、20〜50質量部が好ましく、30〜50質量部がより好ましい(ただし、上述した油剤主成分と、乳化剤成分の合計を100質量部とする)。乳化剤の含有量が20質量部以上であると、油剤組成物のエマルションの安定性を維持できる。その結果、前駆体繊維束に均一に付着しやすくなり、耐炎化工程での炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性の低下を抑制できる。特にラージトウを製造する場合、毛羽の発生を抑制でき、高品質の炭素繊維束が得られる。一方、乳化剤成分の含有量が60質量部以下であると、油剤主成分の割合を確保できるので、油剤組成物の耐熱性が維持され、耐炎化工程での単繊維間の融着を防止しやすくなると共に、高品質の炭素繊維束が得られる。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束には、油剤組成物とは別に添加剤として帯電防止剤を含有することができる。
帯電防止剤としては、公知の物質を用いることができる。帯電防止剤はイオン型と非イオン型に大別され、イオン型としてはアニオン系、カチオン系及び両性系があり、非イオン型ではポリエチレングリコール型及び多価アルコール型がある。帯電防止の観点からイオン型が好ましく、中でも脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキシド付加物硫酸エステル塩、高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキシド付加物硫酸リン酸エステル塩、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤、ベタイン型両性界面活性剤、高級アルコールエチレンオキシド付加物ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステルなどが好ましく用いられる。
これら帯電防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
帯電防止剤としては、公知の物質を用いることができる。帯電防止剤はイオン型と非イオン型に大別され、イオン型としてはアニオン系、カチオン系及び両性系があり、非イオン型ではポリエチレングリコール型及び多価アルコール型がある。帯電防止の観点からイオン型が好ましく、中でも脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキシド付加物硫酸エステル塩、高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキシド付加物硫酸リン酸エステル塩、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤、ベタイン型両性界面活性剤、高級アルコールエチレンオキシド付加物ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステルなどが好ましく用いられる。
これら帯電防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
帯電防止剤の含有量は、前記油剤主成分と乳化剤成分の合計100質量部に対して、0.5〜7.5質量部が好ましく、1.0〜5.0質量部がより好ましく、1.0〜3.0質量部が特に好ましい。帯電防止剤の含有量が0.5質量部以上であると、帯電防止効果が十分に得られる。従って、油剤組成物が付着した後の工程、特に焼成工程において各工程段階の繊維束が帯電して広がり、隣接する繊維束とマージングしたり、搬送用のロールに巻き付いたりするなどの問題を防止することができる。一方、帯電防止剤の含有量が7.5質量部以下であると、前駆体繊維束に油剤組成物を付与する際の水系乳化溶液が泡立ちにくくなり、焼成工程において帯電防止剤が分解し、その分解生成物が炉内に堆積したりするなどの工程障害を防止することができる。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束に付与される油剤組成物は、前駆体繊維束に付着させるための設備や使用環境によって、操業性を向上させたり、油剤組成物の安定性や付着特性を向上させたりすることを目的として、酸化防止剤や抗菌剤などの添加物を含有してもよい。
また、本発明の油剤組成物が抗菌剤を含有すると、詳しくは後述するが、油剤組成物を水に分散し油剤処理液とした際に、その劣化を防止することもできる。
また、本発明の油剤組成物が抗菌剤を含有すると、詳しくは後述するが、油剤組成物を水に分散し油剤処理液とした際に、その劣化を防止することもできる。
酸化防止剤としては公知の様々な物質を用いることができるが、フェノール系や硫黄系の酸化防止剤が好適である。
フェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−ブチリデンビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート等が挙げられる。
硫黄系の酸化防止剤の具体例としては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート等が挙げられる。
これら酸化防止剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
フェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−ブチリデンビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート等が挙げられる。
硫黄系の酸化防止剤の具体例としては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート等が挙げられる。
これら酸化防止剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、酸化防止剤としては、上述したアミノ基含有ポリジメチルシロキサンに作用するものが特に好ましく、上記の中では、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンと、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]が好ましい。
酸化防止剤の含有量は、前記アミノ基含有ポリジメチルシロキサンとポリオキシエチレンアルキルエーテルの合計100質量部に対して、0.5〜3.0質量部が好ましく、0.5〜2.0質量部がより好ましい。酸化防止剤の含有量が0.5質量部以上であると、酸化防止効果が十分に得られる。従って、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造過程において前駆体繊維束に付着した油剤組成物中のアミノ基含有ポリジメチルシロキサンが、熱ロール等により加熱されて樹脂化することを防止できる。なお、アミノ基含有ポリジメチルシロキサンが樹脂化するとロール等の表面に堆積しやすくなり、油剤組成物が付着した前駆体繊維束が巻き付いて工程障害を招き、操業性が低下しやすくなる。しかし、本発明であればアミノ基含有ポリジメチルシロキサンが樹脂化することを防止できるので、工程障害が起こりにくく、操業性の低下を抑制できる。一方、酸化防止剤の含有量が3.0質量部以下であると、酸化防止剤が油剤組成物中に均一に分散できる。
抗菌剤としては、公知の物質を用いることができる。例えば5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、N−n−ブチル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−トリメチレン−4−イソチアゾリン−3−オンなどのイソチアゾリン系化合物;2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン、ヘキサブロモジメチルスルホンなどの有機臭素系化合物;ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、o−フタルアルデヒドなどのアルデヒド系化合物;3−メチル−4−イソプロピルフェノール、2−イソプロピル−5−メチルフェノール、o−フェニルフェノール、4−クロロ−3,5−ジメチルフェノール、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルなどのフェノール系化合物;8−オキシキノリン、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛、(2−ピリジルチオ−1−オキシド)ナトリウムなどのピリジン系化合物;N,N',N''−トリスヒドロキシエチルヘキサヒドロ−S−トリアジン、N,N',N''−トリスエチルヘキサヒドロ−S−トリアジンなどのトリアジン系化合物;3,4,4’−トリクロロカルバニリド、3−トリフルオロメチル−4,4’−ジクロロカルバニリドなどのアニリド系化合物;2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンズイミダゾールなどのチアゾール系化合物;2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、2−ベンズイミダゾールカルバミン酸メチルなどのイミダゾール系化合物;1−[[2−(2,4−ジクロロフェニル)−4−n−プロピル−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール、(RS)−2−(2,4−ジクロロフェニル)−1−(1H−1,2,4−トリアゾールー1−イル)ヘキサン−2−オール、α−[2−(4−クロロフェニル)エチル]−α−(1,1−ジメチルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール、α−(クロロフェニル)−α−(1−シクロプロピルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール、1−[[2−(2,4−ジクロロフェニル)−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル−1H−1,2,4−トリアゾールなどのトリアゾール系化合物;2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、5−クロロ−2,4,6−トリフルオロイソフタロニトリルなどのニトリル系化合物;4,5−ジクロロ−1,2−ジチオラン−3−オン、3,3,4,4−テトラクロロテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシドなどの有機塩素系化合物;3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート、ジヨードメチル−p−トリルスルホン、2,3,3−トリヨードアリルアルコールなどの有機ヨード系化合物等が挙げられる。これらの中でもイソチアゾリン系の抗菌剤が好ましい。
これら抗菌剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これら抗菌剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
抗菌剤の含有量は、前記アミノ基含有ポリジメチルシロキサンとポリオキシエチレンアルキルエーテルの合計100質量部に対して、100〜10000ppmが好ましく、1000〜5000ppmがより好ましい。抗菌剤の含有量が100ppm以上であると、抗菌効果が十分に得られる。一方、抗菌剤の含有量が10000ppm以下であると、焼成工程において抗菌剤、あるいは抗菌剤の分解物が焼成工程中の繊維束に損傷を与えるのを防止できるので、得られる炭素繊維束の品質を維持できる。
以上説明した本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束に付与される油剤組成物は、剛体振り子の自由減衰振動法により測定される30℃と180℃の振り子の振動周期差が0.03秒以下である。0.03秒以下であれば、耐炎化工程での炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性を低下させにくい。従って、単繊維数の多いラージトウを製造する場合であっても、炭素繊維前駆体アクリル繊維束が容易に分繊して繊維束内部まで酸素が拡散するので、均一な耐炎化状態となり、レギュラートウを製造する場合と何ら遜色のない機械的特性に優れた炭素繊維束が得られる。
ここでいう剛体振り子の自由減衰振動法による30℃と180℃の振り子の振動周期差Tとは、油剤中の油剤組成物について、後述する剛体振り子の自由減衰振動法による測定した場合の30℃における振動周期(秒)と、該油剤組成物を180℃で20分間熱処理後に同様にして測定した振動周期(秒)との差である。すなわち、振動周期差Tが0.03秒以下であるとは、下記式で表される。
T≦0.03
T=T30−T180
T30:30℃における振動周期(秒)
T180:180℃で20分間熱処理後の振動周期(秒)
T≦0.03
T=T30−T180
T30:30℃における振動周期(秒)
T180:180℃で20分間熱処理後の振動周期(秒)
好ましくは、−0.10〜0.03秒で、より好ましくは−0.05〜0.00秒である。このような振動周期差Tを有する油剤組成物を用いると、耐炎化工程における焼成斑、工程トラブルを抑制することができる。
以上説明した本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束に付与される油剤組成物は、油剤成分中の炭素含有率が62〜75wt%である。65〜75wt%が好ましく、67〜71wt%がより好ましい。62wt%より炭素含有量が少ないと、必然的にH,OおよびNの含有量が高くなり、取りうる構造から、耐熱性が低く、耐擦過性に劣り、高品質な炭素繊維束を得ることができなくなる。75wt%より炭素含有量が多くなると、不活性ガス雰囲気において昇温する工程において、炭素化して繊維表面に残渣として残り、そこが欠点となり得られる炭素繊維束の機械的強度が低下する。
ここでの油剤組成物の炭素含有量は、個々の油剤成分を測定した後に全てを加算しても良く、混合した油剤組成を測定してもよい。さらに、エマルション化した後の油剤処理液を蒸発乾固してそれを測定することもできる。
測定方法は有機物中の炭素元素を測定できる元素分析方法であれば特に限定されないが、試料を完全燃焼させ、炭素元素を二酸化炭素として検出する手法、例えばリービッヒ法が精度の観点から好ましい。
測定方法は有機物中の炭素元素を測定できる元素分析方法であれば特に限定されないが、試料を完全燃焼させ、炭素元素を二酸化炭素として検出する手法、例えばリービッヒ法が精度の観点から好ましい。
[炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法]
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、上述した油剤組成物を、水膨潤状態の前駆体繊維束に付与する工程(油剤処理)を行い、ついで油剤処理された前駆体繊維束を乾燥緻密化することで得られる。
以下、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法における各工程について詳しく説明する。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、上述した油剤組成物を、水膨潤状態の前駆体繊維束に付与する工程(油剤処理)を行い、ついで油剤処理された前駆体繊維束を乾燥緻密化することで得られる。
以下、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法における各工程について詳しく説明する。
(紡糸)
本発明に用いる、油剤処理前の前駆体繊維束としては、公知技術により紡糸されたアクリル繊維束を用いることができる。具体的には、アクリロニトリル系重合体を紡糸して得られるアクリル繊維束が挙げられる。特に、本発明は、単繊維繊度が1.0〜3.0dTex、24000本以上の単繊維からなるアクリル繊維束を用いる場合に好適である。
アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルを主な単量体とし、これを重合して得られる重合体である。アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルのみから得られるホモポリマーであってもよく、主成分であるアクリロニトリルに加えて他の単量体を併用したアクリロニトリル系共重合体であってもよい。
本発明に用いる、油剤処理前の前駆体繊維束としては、公知技術により紡糸されたアクリル繊維束を用いることができる。具体的には、アクリロニトリル系重合体を紡糸して得られるアクリル繊維束が挙げられる。特に、本発明は、単繊維繊度が1.0〜3.0dTex、24000本以上の単繊維からなるアクリル繊維束を用いる場合に好適である。
アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルを主な単量体とし、これを重合して得られる重合体である。アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルのみから得られるホモポリマーであってもよく、主成分であるアクリロニトリルに加えて他の単量体を併用したアクリロニトリル系共重合体であってもよい。
アクリロニトリル系共重合体におけるアクリロニトリル単位の含有量は、96.0〜98.5質量%であることが焼成工程での繊維の熱融着防止、共重合体の耐熱性、紡糸原液の安定性、および炭素繊維にした際の品質の観点でより好ましい。アクリロニトリル単位が96質量%以上の場合は、炭素繊維に転換する際の焼成工程で繊維の熱融着を招くことなく、炭素繊維の優れた品質および性能を維持できるので好ましい。また、共重合体自体の耐熱性が低くなることもなく、炭素繊維前駆体アクリル繊維束を製造する際、繊維の乾燥あるいは加熱ローラーや加圧水蒸気による延伸のような工程において、単繊維間の接着を回避できる。一方、アクリロニトリル単位が98.5質量%以下の場合には、溶剤への溶解性が低下することもなく、紡糸原液の安定性を維持できると共に共重合体の析出凝固性が高くならず、炭素繊維前駆体アクリル繊維束の安定した製造が可能となるので好ましい。
共重合体を用いる場合のアクリロニトリル以外の単量体としては、アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体から適宣選択することができ、耐炎化反応を促進する作用を有するアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、または、これらのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、アクリルアミド等の単量体から選択すると、耐炎化を促進できるので好ましい。
アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有ビニル系単量体がより好ましい。アクリロニトリル系共重合体におけるカルボキシル基含有ビニル系単量体単位の含有量は1.5〜4.0質量%が好ましい。
これらビニル系単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有ビニル系単量体がより好ましい。アクリロニトリル系共重合体におけるカルボキシル基含有ビニル系単量体単位の含有量は1.5〜4.0質量%が好ましい。
これらビニル系単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
紡糸の際には、アクリロニトリル系重合体を、溶剤に溶解し紡糸原液とする。このときの溶剤には、ジメチルアセトアミドあるいはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤、または塩化亜鉛やチオシアン酸ナトリウム等の無機化合物水溶液等、公知のものから適宜選択して使用することができる。これらの中でも、生産性向上の観点から凝固速度が早いジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドおよびジメチルホルムアミドが好ましく、ジメチルアセトアミドがより好ましい。
また、緻密な凝固糸を得るためには、紡糸原液の重合体濃度がある程度以上になるように紡糸原液を調整することが好ましい。具体的には、紡糸原液中の重合体濃度が17質量%以上になるように調整することが好ましく、より好ましくは19質量%以上である。
なお、紡糸原液は適正な粘度・流動性を必要とするため、重合体濃度は25質量%を超えない範囲が好ましい。
なお、紡糸原液は適正な粘度・流動性を必要とするため、重合体濃度は25質量%を超えない範囲が好ましい。
紡糸方法は、上述した紡糸原液を直接凝固浴中に紡出する湿式紡糸法、空気中で凝固する乾式紡糸法、および一旦空気中に紡出した後に浴中凝固させる乾湿式紡糸法など公知の紡糸方法を適宜採用できるが、より高い性能を有する炭素繊維束を得るには湿式紡糸法または乾湿式紡糸法が好ましい。
湿式紡糸法または乾湿式紡糸法による紡糸賦形は、紡糸原液を円形断面の孔を有するノズルより凝固浴中に吐出することで行うことができる。凝固浴としては、紡糸原液に用いられる溶剤を含む水溶液を用いるのが溶剤回収の容易さの観点から好ましい。
凝固浴として溶剤を含む水溶液を用いる場合、水溶液中の溶剤濃度は、ボイドがなく緻密な構造を形成させ高性能な炭素繊維束を得られ、かつ延伸性が確保でき生産性に優れる等の理由から、50〜85質量%、凝固浴の温度は10〜60℃が好ましい。より好ましくは50〜65質量%、10〜40℃である。後述する単繊維の繊維断面の直径と短径の比、すなわち断面形状はこの凝固工程が大きく影響する。少なくとも、水溶液中の溶剤濃度が50〜65質量%であるか、凝固浴の温度が10〜40℃であるかのいずれかが満たされる条件であることが、断面形状の最適化の観点から好ましい。
凝固浴として溶剤を含む水溶液を用いる場合、水溶液中の溶剤濃度は、ボイドがなく緻密な構造を形成させ高性能な炭素繊維束を得られ、かつ延伸性が確保でき生産性に優れる等の理由から、50〜85質量%、凝固浴の温度は10〜60℃が好ましい。より好ましくは50〜65質量%、10〜40℃である。後述する単繊維の繊維断面の直径と短径の比、すなわち断面形状はこの凝固工程が大きく影響する。少なくとも、水溶液中の溶剤濃度が50〜65質量%であるか、凝固浴の温度が10〜40℃であるかのいずれかが満たされる条件であることが、断面形状の最適化の観点から好ましい。
(延伸処理)
重合体あるいは共重合体を溶剤に溶解し、紡糸原液として凝固浴中に吐出して繊維化して得た凝固糸には、凝固浴中または延伸浴中で延伸する浴中延伸を行うことができる。あるいは、一部空中延伸した後に、浴中延伸してもよく、延伸の前後あるいは延伸と同時に水洗を行って水膨潤状態の前駆体繊維束を得ることができる。
浴中延伸は、通常50〜98℃の水浴中で1回あるいは2回以上の多段に分割するなどして行い、空中延伸と浴中延伸の合計倍率が3〜7倍になるように凝固糸を延伸するのが、得られる炭素繊維束の性能の点から好ましい。より好ましくは4〜6倍である。3〜7倍の範囲であると、油剤処理前の繊維束の膨潤度が110〜130の範囲に入るので、油剤成分が均一に繊維束に付与され好ましい。
重合体あるいは共重合体を溶剤に溶解し、紡糸原液として凝固浴中に吐出して繊維化して得た凝固糸には、凝固浴中または延伸浴中で延伸する浴中延伸を行うことができる。あるいは、一部空中延伸した後に、浴中延伸してもよく、延伸の前後あるいは延伸と同時に水洗を行って水膨潤状態の前駆体繊維束を得ることができる。
浴中延伸は、通常50〜98℃の水浴中で1回あるいは2回以上の多段に分割するなどして行い、空中延伸と浴中延伸の合計倍率が3〜7倍になるように凝固糸を延伸するのが、得られる炭素繊維束の性能の点から好ましい。より好ましくは4〜6倍である。3〜7倍の範囲であると、油剤処理前の繊維束の膨潤度が110〜130の範囲に入るので、油剤成分が均一に繊維束に付与され好ましい。
(油剤処理)
前駆体繊維束への油剤組成物の付与には、先述した油剤組成物が水中に分散した水系乳化溶液(エマルション)を用いる。
水系乳化溶液は、例えば以下のようにして調製できる。すなわち、油剤主成分と乳化剤成分とを攪拌しながら、そこに水を加えることで油剤組成物が水中に分散した水系乳化溶液が得られる。
酸化防止剤を含有させる場合は、酸化防止剤を予め主成分に溶かしておいてもよい。また、帯電防止剤や抗菌剤を含有させる場合は、水を加えて水系乳化溶液とした後に添加攪拌することが好ましい。
各成分の混合または水中分散は、プロペラ攪拌、ホモミキサー、ホモジナイザー等を使って行うことができる。特に、150MPa以上に加圧可能な超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
前駆体繊維束への油剤組成物の付与には、先述した油剤組成物が水中に分散した水系乳化溶液(エマルション)を用いる。
水系乳化溶液は、例えば以下のようにして調製できる。すなわち、油剤主成分と乳化剤成分とを攪拌しながら、そこに水を加えることで油剤組成物が水中に分散した水系乳化溶液が得られる。
酸化防止剤を含有させる場合は、酸化防止剤を予め主成分に溶かしておいてもよい。また、帯電防止剤や抗菌剤を含有させる場合は、水を加えて水系乳化溶液とした後に添加攪拌することが好ましい。
各成分の混合または水中分散は、プロペラ攪拌、ホモミキサー、ホモジナイザー等を使って行うことができる。特に、150MPa以上に加圧可能な超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
また、水系乳化溶液を調製する際には、ホモジナイザー等を用いて油剤組成物を水中に微分散させて、平均粒子径0.1〜0.50μmのミセルが形成されたO/W型の水系乳化溶液とするのが好ましい。ミセルの平均粒子径が上記範囲内であれば、前駆体繊維束の表面に油剤組成物をより均一に付与できる。また、前駆体繊維束に対する油剤組成物の付着量をより容易に調整することができる。
水系乳化溶液中のミセルの平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、商品名:LA−910)を用いて測定することができる。
水系乳化溶液中のミセルの平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、商品名:LA−910)を用いて測定することができる。
水系乳化溶液中の油剤組成物の濃度は、2〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましく、20〜30質量%が特に好ましい。油剤組成物の濃度が2質量%以上であると、必要な量の油剤組成物を水膨潤状態の前駆体繊維束に付与しやすくなる。一方、油剤組成物の濃度が40質量%以下であると、水系乳化溶液が安定化しやすいので乳化の破壊が起こりにくい。
油剤組成物を水膨潤状態の前駆体繊維束に付与する際、前記水系乳化溶液に、さらにイオン交換水を加えて所定の濃度に希釈して用いることが好ましい。
なお、「所定の濃度」は油剤処理時の前駆体繊維束の状態によって調整される。所定の濃度とした分散液を、以下「油剤処理液」という。
なお、「所定の濃度」は油剤処理時の前駆体繊維束の状態によって調整される。所定の濃度とした分散液を、以下「油剤処理液」という。
油剤組成物の前駆体繊維束への付与は、上述した浴中延伸後の水膨潤状態の前駆体繊維束に、油剤組成物の水系乳化溶液を付与することにより行うことができる。
浴中延伸の後に洗浄を行う場合は、浴中延伸および洗浄を行った後に得られる水膨潤状態の前駆体繊維束に油剤組成物の水系乳化溶液を付与することもできる。
浴中延伸の後に洗浄を行う場合は、浴中延伸および洗浄を行った後に得られる水膨潤状態の前駆体繊維束に油剤組成物の水系乳化溶液を付与することもできる。
油剤組成物を水膨潤状態の前駆体繊維束に付与する方法としては、油剤組成物が水中に分散した水系乳化溶液に、イオン交換水を加えて所定の濃度に希釈して油剤処理液とした後、水膨潤状態の前駆体繊維束に付着させる手法を用いることができる。
油剤処理液を水膨潤状態の前駆体繊維束に付着させる方法としては、ローラーの下部を油剤処理液に浸漬させ、そのローラーの上部に前駆体繊維束を接触させるローラー付着法、ポンプで一定量の油剤処理液をガイドから吐出し、そのガイド表面に前駆体繊維束を接触させるガイド付着法、ノズルから一定量の油剤処理液を前駆体繊維束に噴射するスプレー付着法、油剤処理液の中に前駆体繊維束を浸漬した後にローラー等で絞って余分な油剤処理液を除去するディップ付着法等の公知の方法を用いることができる。
これらの方法の中でも、均一付着の観点から、前駆体繊維束に十分に油剤処理液を浸透させ、余分な処理液を除去するディップ付着法が好ましい。より均一に付着するためには油剤付与工程を2つ以上の多段にし、繰り返し付与することも有効である。
油剤処理液を水膨潤状態の前駆体繊維束に付着させる方法としては、ローラーの下部を油剤処理液に浸漬させ、そのローラーの上部に前駆体繊維束を接触させるローラー付着法、ポンプで一定量の油剤処理液をガイドから吐出し、そのガイド表面に前駆体繊維束を接触させるガイド付着法、ノズルから一定量の油剤処理液を前駆体繊維束に噴射するスプレー付着法、油剤処理液の中に前駆体繊維束を浸漬した後にローラー等で絞って余分な油剤処理液を除去するディップ付着法等の公知の方法を用いることができる。
これらの方法の中でも、均一付着の観点から、前駆体繊維束に十分に油剤処理液を浸透させ、余分な処理液を除去するディップ付着法が好ましい。より均一に付着するためには油剤付与工程を2つ以上の多段にし、繰り返し付与することも有効である。
(乾燥緻密化処理)
水系乳化溶液が付与された前駆体繊維束は、続く乾燥工程で乾燥緻密化される。
乾燥緻密化の温度は、繊維のガラス転移温度を超えた温度で行う必要があるが、実質的には含水状態から乾燥状態によって異なることもある。
乾燥緻密化の方法としては、例えば温度が130〜190℃程度の加熱ローラー上で連続的に乾燥緻密化する方法など、公知の方法を用いることができる。このとき加熱ローラーの個数は、1個でもよく、複数個でもよい。
水系乳化溶液が付与された前駆体繊維束は、続く乾燥工程で乾燥緻密化される。
乾燥緻密化の温度は、繊維のガラス転移温度を超えた温度で行う必要があるが、実質的には含水状態から乾燥状態によって異なることもある。
乾燥緻密化の方法としては、例えば温度が130〜190℃程度の加熱ローラー上で連続的に乾燥緻密化する方法など、公知の方法を用いることができる。このとき加熱ローラーの個数は、1個でもよく、複数個でもよい。
(二次延伸処理)
乾燥緻密化処理された前駆体繊維束は、そのまま炭素繊維前駆体アクリル繊維束として焼成工程に供給されてもよいが、必要に応じて乾燥緻密化処理後に延伸処理を施し、これを炭素繊維束前駆体アクリル繊維束として焼成工程に供給してもよい。延伸処理の方法としては、加熱ローラーによる延伸、溶剤による延伸、加圧水蒸気延伸など公知の技術を用いることができる。中でも、延伸工程の安定性が高く、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維束の緻密性や配向度をより高めることができる点で、加熱ローラーによる延伸が好ましい。特に、乾燥緻密化した前駆体繊維束を加熱ローラーにより搬送させながら、ローラー速度を変えて、1.0〜2.0倍に延伸することで、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維束の緻密性や配向度をより向上できる。
加熱ローラーの温度としては150〜200℃程度が好ましい。温度が150℃以上であると、十分に可塑化されるので、延伸をかけた際に毛羽等が発生しにくく、続く炭素化工程で工程途中の繊維束がガイドや搬送ローラー等に巻き付いて工程障害を招き操業性が低下することを防止できる。一方、温度が200℃以下であると、酸化反応や分解反応などの進行を防止でき、炭素繊維前駆体アクリル繊維束を焼成して得られる炭素繊維束の品質を低下を抑制できる。
乾燥緻密化処理された前駆体繊維束は、そのまま炭素繊維前駆体アクリル繊維束として焼成工程に供給されてもよいが、必要に応じて乾燥緻密化処理後に延伸処理を施し、これを炭素繊維束前駆体アクリル繊維束として焼成工程に供給してもよい。延伸処理の方法としては、加熱ローラーによる延伸、溶剤による延伸、加圧水蒸気延伸など公知の技術を用いることができる。中でも、延伸工程の安定性が高く、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維束の緻密性や配向度をより高めることができる点で、加熱ローラーによる延伸が好ましい。特に、乾燥緻密化した前駆体繊維束を加熱ローラーにより搬送させながら、ローラー速度を変えて、1.0〜2.0倍に延伸することで、得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維束の緻密性や配向度をより向上できる。
加熱ローラーの温度としては150〜200℃程度が好ましい。温度が150℃以上であると、十分に可塑化されるので、延伸をかけた際に毛羽等が発生しにくく、続く炭素化工程で工程途中の繊維束がガイドや搬送ローラー等に巻き付いて工程障害を招き操業性が低下することを防止できる。一方、温度が200℃以下であると、酸化反応や分解反応などの進行を防止でき、炭素繊維前駆体アクリル繊維束を焼成して得られる炭素繊維束の品質を低下を抑制できる。
前記の凝固浴中または延伸浴中で延伸する浴中延伸、つまり水膨潤状態での延伸倍率(A)と、二次延伸、すなわち乾燥緻密化後の延伸倍率(B)が、(A)/(B)=2〜5の関係にあることが好ましい。2より大きければ、単繊維表面の皺が発達し、油剤成分を付与した際に単繊維表面にエマルションを保持し易く、油剤成分が均一に付与できる。5より小さければ、紡糸工程全体の延伸倍率が高くなりすぎて繊維束が破断するようなことも無く、安定した操業が可能となる。
上記本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、さらに乾燥繊維重量に対して0.5〜4質量%の水分を含有していることが好ましい。0.5質量%以下であると繊維の集束性が悪くなり、焼成工程でボビンから巻きだして、あるいはケンスから取り出してロールで搬送する際に前駆体繊維束がダメージを受ける場合がある。また、4質量%を超えると、水と馴染みやすい油剤成分を使用した場合などは油剤成分の移動・偏在化が起こる場合があり好ましくない。好ましくは1.0〜4質量%、より好ましくは1.0〜3質量%である。
乾燥緻密化処理、および必要に応じて二次延伸処理を経て得られる炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、室温のロールを通し、常温の状態まで冷却した後に、必要に応じて水分付与されてワインダーでボビンに巻き取られる、あるいはケンスに振込まれて収納される。
そして、炭素繊維前駆体アクリル繊維束は焼成工程に移され、炭素繊維束となる。
そして、炭素繊維前駆体アクリル繊維束は焼成工程に移され、炭素繊維束となる。
以上説明したように、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、油剤組成物が均一に付着しているので、焼成工程において単繊維間の融着を防止し、かつ操業性に優れる。さらに、耐炎化工程での分繊性に優れるので、単繊維数が多くても分繊しやすく、機械的特性に優れた炭素繊維束が得られる。また、本発明は、ラージトウの製造に適しているので、高い生産性を可能にできる。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束を焼成して得られる炭素繊維束は、機械的特性に優れ、高品質であり、様々な構造材料に用いられる繊維強化樹脂複合材料に用いる強化繊維として好適である
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束を焼成して得られる炭素繊維束は、機械的特性に優れ、高品質であり、様々な構造材料に用いられる繊維強化樹脂複合材料に用いる強化繊維として好適である
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例に用いた各成分、および各種測定方法、評価方法は以下の通りである。
本実施例に用いた各成分、および各種測定方法、評価方法は以下の通りである。
[成分]
<油剤主成分>
・A−1:3−ヒドロキシ安息香酸とオレイルアルコール(モル比1.0:2.0)からなるエステル化合物。
・A−2:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とオレイルアルコール(モル比1.0:2.0)から成るエステル化合物。
・A−3:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とオレイルアルコールと3−メチル1,5−ペンタンジオール(モル比2.0:2.0:1.0)から成るエステル化合物。
・A−4:KF−869(信越化学工業株式会社製)
・ A−5:BY16−849(東レ・ダウコーニング株式会社製)
<油剤主成分>
・A−1:3−ヒドロキシ安息香酸とオレイルアルコール(モル比1.0:2.0)からなるエステル化合物。
・A−2:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とオレイルアルコール(モル比1.0:2.0)から成るエステル化合物。
・A−3:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とオレイルアルコールと3−メチル1,5−ペンタンジオール(モル比2.0:2.0:1.0)から成るエステル化合物。
・A−4:KF−869(信越化学工業株式会社製)
・ A−5:BY16−849(東レ・ダウコーニング株式会社製)
<乳化剤成分>
・B−1:エマルゲン105(花王株式会社製)。
・B−2:NIKKOL BL−9EX(日光ケミカルズ株式会社製)。
・B−3:L−44(株式会社ADEKA製)。
・B−4:PE−128(三洋化成工業株式会社製)。
・B−1:エマルゲン105(花王株式会社製)。
・B−2:NIKKOL BL−9EX(日光ケミカルズ株式会社製)。
・B−3:L−44(株式会社ADEKA製)。
・B−4:PE−128(三洋化成工業株式会社製)。
[測定・評価]
<油剤付着量の測定>
得られた前駆体繊維束を1H−NMR(ブルカー・バイオスピン社製 AVANCE 300)を用いて測定し、前駆体繊維束のポリアクリロニトリル部と油剤組成物とのH比を算出し、ポリアクリロニトリルと油剤組成物の化学構造から質量比に換算し、付着量(質量%)を求めた。なお、油剤付着量の測定は、油剤組成物がその効力を発現する適正な範囲で前駆体繊維束に付与されていることを確認するものである。
<油剤付着量の測定>
得られた前駆体繊維束を1H−NMR(ブルカー・バイオスピン社製 AVANCE 300)を用いて測定し、前駆体繊維束のポリアクリロニトリル部と油剤組成物とのH比を算出し、ポリアクリロニトリルと油剤組成物の化学構造から質量比に換算し、付着量(質量%)を求めた。なお、油剤付着量の測定は、油剤組成物がその効力を発現する適正な範囲で前駆体繊維束に付与されていることを確認するものである。
<剛体振り子の自由減衰振動法による振動周期差Tの測定>
剛体振り子の自由減衰振動法に基づき、剛体振り子型物性試験機RPT−3000(株式会社エーアンドディ社製)を用いて振動周期を測定する。測定する油剤組成物は油剤組成の混合物であればそのまま用いても構わないが、油剤組成物が水に分散した水系乳化液の場合には、直径が約60mm、高さが約20mmのアルミ製の容器に乳化液を約1g採取し、40℃で10時間乾燥し、油剤組成物を析出する。次に、長さ50mm、幅20mm、厚み0.5mmの亜鉛メッキ鋼板製塗布基板STP−012(株式会社エーアンドディ社製)の上に、油剤組成物を厚みが20〜30μmとなるように基板幅方向全面に塗布して塗布板を作成する。塗布後、速やかに、測定機に塗布板をセットし、測定を開始する。試験機は予め30℃に温調しておき、塗布板および振り子をセットした後、50℃/分の速度で180℃まで昇温し、180℃で20分間保持す。測定の間、7秒間隔で連続的に周期測定を行い、30℃のときの周期の値、および、180℃で20分間保持した後の周期の値から30℃と180℃の振動周期差Tを計算する。測定は7回ずつ行い、最大と最小値を除いて、5回の平均値を振動周期差Tの値とした。なお、振り子は下記のものを使用する。
使用エッジ:ナイフ形状エッジRBE−160(株式会社エーアンドディ社製)
振り子重量/慣性能率:15g/640g・cm FRB−100(株式会社エーアンドディ社製)
振動周期差Tは下記式により求められる。
T=T30−T180
T30:30℃における振動周期(秒)
T180:180℃で20分間熱処理後の振動周期(秒)
剛体振り子の自由減衰振動法に基づき、剛体振り子型物性試験機RPT−3000(株式会社エーアンドディ社製)を用いて振動周期を測定する。測定する油剤組成物は油剤組成の混合物であればそのまま用いても構わないが、油剤組成物が水に分散した水系乳化液の場合には、直径が約60mm、高さが約20mmのアルミ製の容器に乳化液を約1g採取し、40℃で10時間乾燥し、油剤組成物を析出する。次に、長さ50mm、幅20mm、厚み0.5mmの亜鉛メッキ鋼板製塗布基板STP−012(株式会社エーアンドディ社製)の上に、油剤組成物を厚みが20〜30μmとなるように基板幅方向全面に塗布して塗布板を作成する。塗布後、速やかに、測定機に塗布板をセットし、測定を開始する。試験機は予め30℃に温調しておき、塗布板および振り子をセットした後、50℃/分の速度で180℃まで昇温し、180℃で20分間保持す。測定の間、7秒間隔で連続的に周期測定を行い、30℃のときの周期の値、および、180℃で20分間保持した後の周期の値から30℃と180℃の振動周期差Tを計算する。測定は7回ずつ行い、最大と最小値を除いて、5回の平均値を振動周期差Tの値とした。なお、振り子は下記のものを使用する。
使用エッジ:ナイフ形状エッジRBE−160(株式会社エーアンドディ社製)
振り子重量/慣性能率:15g/640g・cm FRB−100(株式会社エーアンドディ社製)
振動周期差Tは下記式により求められる。
T=T30−T180
T30:30℃における振動周期(秒)
T180:180℃で20分間熱処理後の振動周期(秒)
<油剤成分中 炭素含有率の測定>
アルミカップの上に油剤成分が分散したエマルションを約2g採取し秤量する。アルミカップを、表面温度110℃に設定したホットプレート上に静置し、1時間置きに秤量し、実質的に重量変動が無くなった時点を乾燥試料として元素分析に用いた。
元素分析装置には、有機元素分析装置(株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ製、マイクロコーダー JM10)を用いた。
アルミカップの上に油剤成分が分散したエマルションを約2g採取し秤量する。アルミカップを、表面温度110℃に設定したホットプレート上に静置し、1時間置きに秤量し、実質的に重量変動が無くなった時点を乾燥試料として元素分析に用いた。
元素分析装置には、有機元素分析装置(株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ製、マイクロコーダー JM10)を用いた。
<膨潤度の測定>
膨潤糸を遠心脱水機を用いて付着水を除去した(毎分1800回転を10分間)後の質量(W)と、これを沸水洗浄してから熱風乾燥機で80℃で16時間乾燥した後の質量(Wo)から以下の式で求めた値である。
膨潤度={(W−Wo)/Wo}×100 [質量%]
膨潤糸を遠心脱水機を用いて付着水を除去した(毎分1800回転を10分間)後の質量(W)と、これを沸水洗浄してから熱風乾燥機で80℃で16時間乾燥した後の質量(Wo)から以下の式で求めた値である。
膨潤度={(W−Wo)/Wo}×100 [質量%]
<分繊性の評価>
炭素繊維前駆体アクリル繊維束を空気中、0.07gf/dTexの張力下で昇温し、密度約1.27g/cm2まで耐炎化した耐炎化繊維束を2cmに切断し、黒色紙上に置き、軽く振盪して分繊状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて分繊性を評価した。分繊しやすいほど、耐炎化工程において炭素繊維前駆体アクリル繊維束内部に至るまでの炉内循環ガスが行渡りやすく、均一な耐炎化処理できる。
◎:単繊維が非常にばらけやすく、分繊性が特に良好である。
○:単繊維がばらけやすく、分繊性が良好である。
△:単繊維がばらけにくく、分繊性やや不良である。
×:単繊維が非常にばらけにくく、分繊性が著しく不良である。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束を空気中、0.07gf/dTexの張力下で昇温し、密度約1.27g/cm2まで耐炎化した耐炎化繊維束を2cmに切断し、黒色紙上に置き、軽く振盪して分繊状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて分繊性を評価した。分繊しやすいほど、耐炎化工程において炭素繊維前駆体アクリル繊維束内部に至るまでの炉内循環ガスが行渡りやすく、均一な耐炎化処理できる。
◎:単繊維が非常にばらけやすく、分繊性が特に良好である。
○:単繊維がばらけやすく、分繊性が良好である。
△:単繊維がばらけにくく、分繊性やや不良である。
×:単繊維が非常にばらけにくく、分繊性が著しく不良である。
<操業安定性の評価>
炭素繊維前駆体アクリル繊維束を用いて24時間連続して焼成し、炭素繊維束を製造したときに、溝付きロールまたは糸道制御ガイドへ焼成工程途中の繊維束中の単繊維が巻き付き、除去した回数を測定し、下記評価基準にて操業安定性を評価した。
○:除去回数(回/24時間)が1回以下。
△:除去回数(回/24時間)が2〜5回。
×:除去回数(回/24時間)が6回以上。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束を用いて24時間連続して焼成し、炭素繊維束を製造したときに、溝付きロールまたは糸道制御ガイドへ焼成工程途中の繊維束中の単繊維が巻き付き、除去した回数を測定し、下記評価基準にて操業安定性を評価した。
○:除去回数(回/24時間)が1回以下。
△:除去回数(回/24時間)が2〜5回。
×:除去回数(回/24時間)が6回以上。
<炭素繊維束の欠点検査>
炭素繊維束に1.0m/秒の風をあてながら、糸速度3m/分以下の速度で50m走行させ、該炭素繊維束に強力ライトを当て、100mあたりの炭素繊維束に存在する毛羽、毛玉の欠点数を目視で数え、下記評価基準にて欠点検査を行った。
○:欠点数が10個未満。
△:欠点数が10個以上、20個未満。
×:欠点数が20個以上。
炭素繊維束に1.0m/秒の風をあてながら、糸速度3m/分以下の速度で50m走行させ、該炭素繊維束に強力ライトを当て、100mあたりの炭素繊維束に存在する毛羽、毛玉の欠点数を目視で数え、下記評価基準にて欠点検査を行った。
○:欠点数が10個未満。
△:欠点数が10個以上、20個未満。
×:欠点数が20個以上。
<ストランド強度の測定>
炭素繊維束のストランド強度は、JIS−R−7608に規定されているエポキシ樹脂含浸ストランド法に準じて測定した。なお、測定回数は10回とし、その平均値を評価の対象とした。
炭素繊維束のストランド強度は、JIS−R−7608に規定されているエポキシ樹脂含浸ストランド法に準じて測定した。なお、測定回数は10回とし、その平均値を評価の対象とした。
[実施例1]
<油剤組成物の調製>
3−ヒドロキシ安息香酸とオレイルアルコール(モル比1.0:2.0)からなるエステル化合物と、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とオレイルアルコール(モル比1.0:2.0)から成るエステル化合物とを混合し、そこへ各乳化剤成分を混合攪拌しながら、油剤組成物の濃度が30質量%になるようにイオン交換水を加え、ホモミキサーで乳化した。この状態でのミセルの平均粒子径をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、商品名:LA−910)を用いて測定したところ、2.0μm程度であった。
その後、さらに高圧ホモジナイザーにより、ミセルの平均粒子径が0.5μm以下になるまで微分散し、油剤組成物の水系乳化溶液(エマルション)を得た。
油剤組成物中の各成分の種類と配合量(質量部)を表1に示す。また、油剤組成物の剛体振り子の自由減衰振動法による振動周期差T、および全炭素含有率の測定結果を表1に示す。
<油剤組成物の調製>
3−ヒドロキシ安息香酸とオレイルアルコール(モル比1.0:2.0)からなるエステル化合物と、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とオレイルアルコール(モル比1.0:2.0)から成るエステル化合物とを混合し、そこへ各乳化剤成分を混合攪拌しながら、油剤組成物の濃度が30質量%になるようにイオン交換水を加え、ホモミキサーで乳化した。この状態でのミセルの平均粒子径をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、商品名:LA−910)を用いて測定したところ、2.0μm程度であった。
その後、さらに高圧ホモジナイザーにより、ミセルの平均粒子径が0.5μm以下になるまで微分散し、油剤組成物の水系乳化溶液(エマルション)を得た。
油剤組成物中の各成分の種類と配合量(質量部)を表1に示す。また、油剤組成物の剛体振り子の自由減衰振動法による振動周期差T、および全炭素含有率の測定結果を表1に示す。
<炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造>
油剤組成物を付着させる前駆体繊維束は、次の方法で調製した。アクリロニトリル系共重合体(組成比:アクリロニトリル/アクリルアミド/メタクリル酸=96.5/2.7/0.8(質量比))をジメチルアセトアミドに溶解し、紡糸原液を調製し、ジメチルアセトアミド水溶液(濃度66質量%、温度38℃)を満たした凝固浴中に孔径(直径)45μm、孔数60000の紡糸ノズルより吐出し凝固糸とした。凝固糸は水洗槽中で脱溶媒すると共に5.0倍に延伸して水膨潤状態の前駆体繊維束(単繊維数:60000本)とした。紡糸原液の吐出量は前駆体繊維束の単繊維繊度が1.2dTxとなるように調整した。
先に得られた油剤組成物の水系乳化溶液をイオン交換水で希釈して、油剤組成物の濃度が1.5質量%になるように調整した油剤処理液を満たした油剤処理槽に、水膨潤状態の前駆体繊維束を導き、水系乳化溶液を付与させた。
その後、水系乳化溶液が付与された前駆体繊維束を表面温度150℃のロールにて乾燥緻密化した後に、表面温度180℃のロールを用い2.0倍延伸を施し炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得た。
油剤処理前の水膨潤状態のアクリル繊維束の膨潤度の測定結果、ならびに得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性を評価した。結果を表1に示す。
油剤組成物を付着させる前駆体繊維束は、次の方法で調製した。アクリロニトリル系共重合体(組成比:アクリロニトリル/アクリルアミド/メタクリル酸=96.5/2.7/0.8(質量比))をジメチルアセトアミドに溶解し、紡糸原液を調製し、ジメチルアセトアミド水溶液(濃度66質量%、温度38℃)を満たした凝固浴中に孔径(直径)45μm、孔数60000の紡糸ノズルより吐出し凝固糸とした。凝固糸は水洗槽中で脱溶媒すると共に5.0倍に延伸して水膨潤状態の前駆体繊維束(単繊維数:60000本)とした。紡糸原液の吐出量は前駆体繊維束の単繊維繊度が1.2dTxとなるように調整した。
先に得られた油剤組成物の水系乳化溶液をイオン交換水で希釈して、油剤組成物の濃度が1.5質量%になるように調整した油剤処理液を満たした油剤処理槽に、水膨潤状態の前駆体繊維束を導き、水系乳化溶液を付与させた。
その後、水系乳化溶液が付与された前駆体繊維束を表面温度150℃のロールにて乾燥緻密化した後に、表面温度180℃のロールを用い2.0倍延伸を施し炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得た。
油剤処理前の水膨潤状態のアクリル繊維束の膨潤度の測定結果、ならびに得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束の分繊性を評価した。結果を表1に示す。
<炭素繊維束の製造>
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束を、220〜260℃の温度勾配を有する耐炎化炉に通して耐炎化し、耐炎化繊維束とした。引き続き、該耐炎化繊維束を窒素雰囲気中で400〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維束とした。
焼成工程における操業安定性を評価した。また得られた炭素繊維束の欠点検査を行い、ストランド強度を測定した。結果を表1に示す。
得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束を、220〜260℃の温度勾配を有する耐炎化炉に通して耐炎化し、耐炎化繊維束とした。引き続き、該耐炎化繊維束を窒素雰囲気中で400〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維束とした。
焼成工程における操業安定性を評価した。また得られた炭素繊維束の欠点検査を行い、ストランド強度を測定した。結果を表1に示す。
[実施例2〜4]
油剤組成物を構成する各成分の種類と配合量を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして油剤組成物を調製した。また、紡糸工程の各延伸倍率を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束を製造し、各測定および評価を実施した。結果を表1に示す。
油剤組成物を構成する各成分の種類と配合量を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして油剤組成物を調製した。また、紡糸工程の各延伸倍率を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束を製造し、各測定および評価を実施した。結果を表1に示す。
[比較例1〜6]
油剤組成物を構成する各成分の種類と配合量を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして油剤組成物を調製した。また、紡糸工程の各延伸倍率を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束を製造し、各測定および評価を実施した。結果を表1に示す。
油剤組成物を構成する各成分の種類と配合量を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして油剤組成物を調製した。また、紡糸工程の各延伸倍率を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体アクリル繊維束および炭素繊維束を製造し、各測定および評価を実施した。結果を表1に示す。
表1から明らかなように、各実施例で得られた油剤組成物は、剛体振り子の自由減衰振動法による振動周期差Tの値が小さく、耐炎化工程においても必要以上に単繊維を拘束しないことが示唆された。
また、分繊性に優れる炭素繊維前駆体アクリル繊維束が得られ、耐炎化工程での炭素繊維前駆体アクリル繊維束内部への均一なガス拡散、熱拡散が可能であることが示唆された。
さらに、各実施例で得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、焼成工程で用いた各部材(主に溝付きロールや糸道制御ガイド等、繊維と接触のある部分)へ繊維が取られるようなことがなく、操業性が安定していた。
また、各実施例で得られた炭素繊維束は、欠点検査の結果が良好であり、かつストランド強度が高い数値を示し、機械的特性に優れていた。
また、分繊性に優れる炭素繊維前駆体アクリル繊維束が得られ、耐炎化工程での炭素繊維前駆体アクリル繊維束内部への均一なガス拡散、熱拡散が可能であることが示唆された。
さらに、各実施例で得られた炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、焼成工程で用いた各部材(主に溝付きロールや糸道制御ガイド等、繊維と接触のある部分)へ繊維が取られるようなことがなく、操業性が安定していた。
また、各実施例で得られた炭素繊維束は、欠点検査の結果が良好であり、かつストランド強度が高い数値を示し、機械的特性に優れていた。
一方、表1から明らかなように、剛体振り子の自由減衰振動法による振動周期差Tの値が大きな比較例1〜4においては、分散性および操業安定性の評価が各実施例に比べて劣っていた。また、得られた炭素繊維束は欠点が多く、均質な炭素繊維束を連続して製造するには問題があった。さらに、炭素繊維束のストランド強度が低かった。
また、水膨潤状態での延伸倍率(A)と、乾燥緻密化後の延伸倍率(B)が共に2(A/B=1)である比較例5の場合、操業安定性に問題があった。また、炭素繊維束の欠点も多く、ストランド強度も低かった。
また、水膨潤状態での延伸倍率(A)と、乾燥緻密化後の延伸倍率(B)が共に2(A/B=1)である比較例5の場合、操業安定性に問題があった。また、炭素繊維束の欠点も多く、ストランド強度も低かった。
このように、いずれの比較例においても、炭素繊維束の品質において重要な要素であるストランド強度と、炭素繊維束を生産する上で重要である操業安定性とを両立できる炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得ることはできなかった。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、焼成工程での単繊維間の融着を効果的に抑制する能力を有しながら、かつ分散性に優れ、均一で機械的特性に優れた炭素繊維束を得ることができる。特に、本発明は単繊維の多いラージトウの製造に有用であり、本発明によれば、ラージトウの炭素繊維束の高品質化と操業安定性とを共に向上させることができる炭素繊維前駆体アクリル繊維束を得ることができる。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束から得られた炭素繊維束は、プリプレグ化したのち複合材料に成形することもできる。また、炭素繊維束を用いた複合材料は、ゴルフシャフトや釣り竿などのスポーツ用途、さらには構造材料として自動車や航空宇宙用途、また各種ガス貯蔵タンク用途などに好適に用いることができ、有用である。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束から得られた炭素繊維束は、プリプレグ化したのち複合材料に成形することもできる。また、炭素繊維束を用いた複合材料は、ゴルフシャフトや釣り竿などのスポーツ用途、さらには構造材料として自動車や航空宇宙用途、また各種ガス貯蔵タンク用途などに好適に用いることができ、有用である。
Claims (6)
- 下記[a]〜[c]を満たす炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
[a]剛体振り子の自由減衰振動法により測定される30℃と180℃の振り子の振動周期差が0.03秒以下である油剤成分が乾燥繊維重量に対して0.05〜3質量%付着。
[b]繊維束に付与されている油剤成分がC,H,N,Oの元素のみから成る。
[c]繊維束に付与されている油剤成分中の炭素元素の割合が62〜75wt%。 - 下記[d]〜[f]の条件を満たす請求項1に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法。
[d]紡糸工程の油剤処理槽前において繊維束膨潤度が110〜130質量%。
[e]乾燥緻密化した後に、乾燥状態で1.0〜2.0倍延伸を施す。
[f]紡糸工程の水膨潤状態での延伸倍率(A)と乾燥緻密化後の延伸倍率(B)との比(A/B)が2〜5である。 - 単繊維繊度が1.0〜3.0dTxである請求項1に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
- 単繊維本数が24000本以上である、請求項1または3に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
- 含水率が乾燥繊維重量に対して0.5〜4質量%である請求項1、請求項3または請求項4のいずれかに記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
- 請求項1、請求項3〜5のいずれかに記載のアクリル繊維束を焼成して成る炭素繊維束。
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JP2013038541A JP2014167175A (ja) | 2013-02-28 | 2013-02-28 | 炭素繊維前駆体アクリル繊維束とその製造方法 |
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CN112746354A (zh) * | 2020-12-29 | 2021-05-04 | 镇江市高等专科学校 | 一种碳纤维原丝用油剂乳液的制造方法 |
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2013
- 2013-02-28 JP JP2013038541A patent/JP2014167175A/ja active Pending
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