JP2014042516A - 高フィチン酸合成能及び高リン吸収能を有する形質転換植物 - Google Patents

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Abstract

【課題】 亢進したフィチン酸生合成を示す形質転換植物を得ること。
【解決手段】 植物を、2−ホスホグリセレートキナーゼ又はATP結合カセット輸送体をコードする遺伝子、またはその双方の遺伝子を過剰発現するように形質転換する。更に、前記の形質転換植物を、ミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼ又はイノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼをコードする遺伝子、またはその双方の遺伝子を過剰発現するように形質転換する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、植物体に亢進したフィチン酸合成及びリン吸収を付与する遺伝子組換方法に関する。また、本発明は、当該遺伝子組換植物体を用いた富栄養化環境の浄化方法に関する。更に、当該形質転換体から有益な原料を回収する方法に関する。
殆どの穀類において、リンは主にフィチン酸(ミオ−イノシトール 1,2,3,4,5,6−ヘキサキスフォスフェート)として貯蔵される。つまり、それらの植物の種子中の総リン量のうちの60〜80%がフィチン酸態で存在し、その残りが水溶性無機リン酸(Pi)及び核酸、リン酸化蛋白質、リン脂質或いはリン酸化糖類であるに過ぎない。ヒトやある種の家畜を含む単胃動物は、フィチン酸を段階的に消化してフィチン酸からリンを放出するための酵素であるフィターゼを持たないので、フィチン酸に結合したリンを効率的に利用することはできない。従って、多くの家畜飼料は、リン欠乏を防止する目的で、リンが強化されている。
しかしながら、そのような家畜飼料へのリンの添加は、フィチン酸自体が消化されないこととも相俟って、表層水、例えば湖沼の富栄養化をもたらす。すなわち、家畜動物等の***物中に未消化のフィチン酸及び過剰のリンが含まれる結果、当該***物の流入に起因する湖沼等のリン汚染がもたらされるのである。実際に、これが農業による表層水の富栄養化の主因と考えられている。
従って、研究者は、もっぱら、フィチン酸生合成が低下した突然変異体或いは遺伝子組換植物の作出にのみ注目してきた。
非特許文献1は、イネの低フィチン酸(lpa1)突然変異体について記述している。当該低フィチン酸突然変異体の配列解析により、2−ホスホグリセレートキナーゼ活性、つまり、2−ホスホグリセレートから2,3−ビスホスホグリセレートを合成する酵素の遺伝子の関与が明らかにされた。なお、非特許文献1の突然変異体では、種子中のフィチン酸量が野生型と比べて45%減少しており、その代わりにフィチン酸減少量に見合ったモル数の無機リンが蓄積していた。
非特許文献2は、トウモロコシの低フィチン酸突然変異体において、多剤耐性関連蛋白質(MRP)ATP結合カセット輸送体の機能が欠損していたことを明らかにした。更に、野生型植物の当該輸送体のプロモーターを交換することで該輸送体の発現を抑制した場合、種子へのフィチン酸の蓄積量が68〜87%減少し、無機リンの蓄積量は有意に増加することが示された。また、同様の結果は大豆でも確かめられた。非特許文献3も、イネにおいて多剤耐性関連蛋白質(MRP)ATP結合カセット輸送体の発現を抑制した形質転換体が、低下したフィチン酸の合成と、増加した無機リンの蓄積といった、非特許文献2と同様の形質を示すことを記述している。
非特許文献4は、イネにおいて、ミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼ遺伝子(RINO1)の発現を、Ole18プロモーター制御下のアンチセンスcDNAで抑制すると、種子中のフィチン酸量が野生型に比べて68%程度も減少し、それに応じた無機リンの蓄積が観察されたことを報告している。また、非特許文献5も、大豆において同様の結果を得ている。
非特許文献6は、シロイナズナにおいてイノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼ遺伝子(IPK1)の発現を阻害することにより、種子中のフィチン酸量が野生型に比べて顕著に減少し、また、やはりそれに伴って無機リンの蓄積が観察されたことを報告している。
しかしながら、現在でも、植物のフィチン酸生合成経路及び当該経路に含まれる酵素群は、完全に解明されていない(非特許文献4等を参照)。また、これまで、特定の遺伝子を導入することで、植物体の生育や収穫量に影響を与えることなく、フィチン酸の生合成ないし蓄積を増加させた例はない。
更に重要なことに、フィチン酸の生合成を増加させることで、そのような形質転換植物がより多くのリンを吸収できることを予測させる証拠は提示されていなかった。むしろ、前記の先行文献は、いずれも、フィチン酸合成の低下に応じた無機リンの蓄積を観察しており、このことは、フィチン酸の合成量に関わらず、植物体の総リン量(つまり、植物のリン吸収量)が一定値に維持される傾向を強く示唆していた。
Kim et al.,Theor.Appl.Genet.,Vol.117,pp.767−779(2008) Shi et al.,Nat.Biotechnol.,Vol.25,pp.930−937(2007) Xu et al.,Theor.Appl.Genet.,Vol.119、pp.75−83(2009) Kuwano et al.,Plant Biotechnol.J.,Vol.7,pp.96−105(2009) Nunes et al.,Planta,Vol.224,pp.125−132(2006) Stevenson−Paulik et al.,PNAS,Vol.102,pp.12612−12617(2005)
本発明は、亢進したフィチン酸生合成を示す形質転換植物を得ることを課題とする。当該形質転換体は、フィチン酸生合成量の増加を相殺するような無機リン蓄積量の減少を示すべきではない。すなわち、フィチン酸生合成量が増加しても無機リンの蓄積量が減少しない形質転換体は、環境中からより多くのリンを吸収し得る。
本発明者は、これまで植物のフィチン酸生合成に関与することが知られていた遺伝子の中から特定の遺伝子を選択し、それを単独ないし特定の組合せで過剰発現させることで、フィチン酸の合成量を有意に増加させ得ることを見出した。また、そのような形質転換体は、野生型に匹敵する生育及び収穫量を示した。更に、驚くべきことに、本発明によりフィチン酸の生合成が亢進した形質転換体では、無機リンの蓄積量が減少することがなかった。繰り返すが、いずれの従来技術も、フィチン酸合成量の低下に伴い無機リンの蓄積が起こることを示していたことは特筆に値する。すなわち、無機リンの蓄積量とは独立してフィチン酸の合成量が増加することは予測されていなかった。従って、本発明の第1の局面は:
(1) 高フィチン酸合成能及び高リン吸収能を示し、2−ホスホグリセレートキナーゼ又はATP結合カセット輸送体をコードする遺伝子、またはその双方の遺伝子を過剰発現する形質転換植物;
(2) 更に、ミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼ又はイノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼをコードする遺伝子、またはその双方の遺伝子を過剰発現する(1)に記載の形質転換植物;及び
(3) 以下の、
1) 2−ホスホグリセレートキナーゼ及びミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼ、又は
2) ATP結合カセット輸送体、イノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼ及びミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼ
を各々コードする遺伝子を過剰発現する(2)に記載の形質転換植物、である。
より特定的な態様に言及すれば、前記(1)乃至(3)の各酵素は、植物由来であり、例えば、公知のイネ、トウモロコシ、大豆、シロイナズナ等に由来する酵素であり得る。特にイネ由来酵素の相同体であることが有利である。従って、本発明の好適な態様は:
(4) 前記遺伝子が植物由来の蛋白質をコードする(1)乃至(3)のいずれかに記載の形質転換植物;
(5) 前記植物が、イネ、トウモロコシ、大豆又はシロイナズナである(4)に記載の形質転換植物;
(6) 前記2−ホスホグリセレートキナーゼが配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる、(1)乃至(5)のいずれかに記載の形質転換植物;
(7) 前記ATP結合カセット輸送体が配列番号4で示されるアミノ酸配列からなる、(1)乃至(6)のいずれかに記載の形質転換植物;
(8) 前記ミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼが配列番号6で示されるアミノ酸配列からなる、(1)乃至(7)のいずれかに記載の形質転換植物;及び
(9) 前記イノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼが配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる、(1)乃至(8)のいずれかに記載の形質転換植物、である。
なお、前記(6)乃至(9)に記載の各配列番号により示されるアミノ酸配列に関連して、本発明では、それらのアミノ酸配列に対して60%以上の配列相同性を有し、且つ所望の酵素活性を示す蛋白質をコードする遺伝子を過剰発現してもよい。また、“60%以上の配列相同性”に関して、本発明のアミノ酸配列の相同性は、プログラムのデフォルトパラメータ(マトリクス=Blosum62;ギャップ存在コスト=11、ギャップ拡張コスト=1)を用いた検索で、インターネットサイトhttp://www.ncbi.n/m.nih.gov/egi−gin/BLASTで実装可能なBLASTPアルゴリズムによって示される陽性のパーセンテージとして定義される。しかるに、それらの好適な例としては、当該配列相同性が80%以上、90%以上、95%以上のものも例示できる。更に、当該アルゴリズムによる配列の同一性パーセンテージが60%、70%、80%、90%又は95%以上のものも本発明において過剰発現されるべき好適な蛋白質である。
また、本発明の好適な態様の1つでは、当該形質転換植物体が単子葉植物である。また、当該形質転換植物体が双子葉植物であることも好ましい別の態様である。従って、本発明は、
(10) 前記形質転換植物体が単子葉植物である、(1)乃至(9)のいずれかに記載の形質転換植物;及び
(11) 記形質転換植物体が双子葉植物である、(1)乃至(9)のいずれかに記載の形質転換植物、を意図する。
本発明の形質転換植物では、フィチン酸合成量が有意に増加しているが、予想に反して、無機リンの蓄積量が減少することがなかった。前記のとおり、フィチン酸の合成量が、無機リンの蓄積量と独立して変化し得ることを示唆した先行技術はなかった。しかして、種子中の総リン量のうちの60〜80%がフィチン酸態で存在するという知見に照らせば、約3倍程度までもフィチン酸合成量の増加が観察された本発明の形質転換植物体が、野生型よりも顕著に環境からリンを吸収し得、よって、本発明の形質転換植物を、例えば湖沼の近傍で生育させることにより、富栄養化した湖沼の浄化が可能であることを、当業者は明確に理解できるであろう。従って、本発明の第2の局面では:
(12) 富栄養化した表層水の浄化方法であって、(1)乃至(11)のいずれかに記載の形質転換植物を、浄化の必要がある表層水の近傍であって、前記形質転換植物が生育可能な地域で生育させ、生育した形質転換植物を回収することを含む前記方法、である。
また、近年、フィチン酸がヒトや動物において様々な生理活性を示し得ることが明らかになってきた。更に、フィチン酸をフィターゼで分解するとイノシトールが生成することは周知であるが、イノシトールは、それ自体が生理活性物質であるばかりでなく、例えばキロ−イノシトール及びシロ−イノシトール等の別の生理活性物質合成の原料となることも周知である。加えて、イネでは、殆どのフィチン酸がぬか層に蓄積することが知られており(非特許文献4等)、従って、米糠からフィチン酸を回収することで資源の有効な活用も可能になる。すなわち、本発明の第3の局面は:
(13) フィチン酸の製造方法であって、(1)乃至(11)のいずれかに記載の形質転換植物を生育させ、生育した植物体の全部又は一部からフィチン酸を分離することを特徴とする、前記方法。
(14) イノシトールの製造方法であって、以下の:
i−a) (1)乃至(11)のいずれかに記載の形質転換植物の全部又はその一部からフィチン酸を分離し、次いで分離したフィチン酸とフィターゼを混合するか、又は
i−b) (1)乃至(11)のいずれかに記載の形質転換植物の全部またはその一部とフィターゼを混合する工程;
ii) 上記i−a)又はi−b)の混合物を、フィターゼがフィチン酸をイノシトールと無機燐酸に分解し得るのに適した条件と時間インキュベートする工程;及び
iii) 上記ii)でインキュベートした混合物からイノシトールを回収する工程、を含む前記方法;
(15) 前記形質転換植物がイネ由来である、(13)又は(14)に記載の、フィチン酸又はイノシトールの製造方法;
(16) 前記形質転換植物の一部が種子のぬか層である、(15)に記載の製造方法;及び
(17) (14)乃至(16)のいずれかに記載の製造方法により得られたイノシトールを原料とすることを特徴とする、キロ−イノシトール又はシロ−イノシトールの製造方法、である。
本発明によれば、植物のフィチン酸合成量を向上させることができる。また、本発明によれば、植物により多くのリンを吸収、蓄積させることができる。
図1は、イネでのフィチン酸生合成経路の概略を示す。図中、RINO1はミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼを;OsPGK1は2−ホスホグリセレートキナーゼを;OsMIKはミオ−イノシトールキナーゼを;PLCはホスホリパーゼCを;OsIPK1はイノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼを、それぞれ、表す。 図2は、イネの2−ホスホグリセレートキナーゼのアミノ酸配列(配列番号2)を表す。 図3は、イネのATP結合カセット輸送体(ABCトランスポーターのサブファミリーCに属する。)のアミノ酸配列(配列番号4)を表す。 図4は、イネのミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼのアミノ酸配列(配列番号6)を表す。 図5は、イネのイノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼのアミノ酸配列(配列番号8)を表す。 図6は、OsMIK遺伝子のORFを示す(配列番号9)。 図7は、OsITP5/6K−1遺伝子のORFを示す(配列番号11)。 図8は、pActnos/Hm2−Gwベクターの構造を示す。図中、Actinはアクチンプロモーターを;35Sは35Sプロモーターを;nosTはNOSターミネーターを;nptIIはカナマイシン耐性遺伝子を;hptはハイグロマイシン耐性遺伝子を表す。 図9は、Pal Select R5ベクターの構造を示す。 図10は、イネ(キタアケ)を、2−ホスホグリセレートキナーゼのコード化遺伝子及びミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼのコード化遺伝子で形質転換した植物の、発芽後28日目第6葉でのフィチン酸合成量を、野生型キタアケのフィチン酸合成量と比較したクロマトグラムである。図中、実線は形質転換体、破線は野生型。 図11は、イネ(キタアケ)を、ATP結合カセット輸送体のコード化遺伝子、イノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼのコード化遺伝子及びミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼのコード化遺伝子で形質転換した植物の、種子中でのフィチン酸合成量を、野生型キタアケのフィチン酸合成量と比較したクロマトグラムである。図中、実線及び太い破線は各々異なるクローンの形質転換体、細い破線は野生型。 図12は、各種形質転換体の種子中の無機リン濃度を野生型と比較したグラフである。図中、NTは野生型である。PGKは2−ホスホグリセレートキナーゼ;RINOはミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼ;MRPはATP結合カセット輸送体;IPKはイノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼを意味する。 図13は、各種形質転換体の種子1個あたりの総リン量を、野生型と比較したグラフである。図中、NTは野生型である。PGK1は2−ホスホグリセレートキナーゼ;RINO1はミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼを意味する。
遺伝子
本発明の課題は、少なくとも2−ホスホグリセレートキナーゼ又はATP結合カセット輸送体をコードする遺伝子を機能的に過剰発現させることにより解決される。例えば、イネの2−ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子(OsPGK1)は、以下のCDRを有する。
Figure 2014042516
また、イネのATP結合カセット輸送体、すなわち、ABCトランスポーターのサブファミリーC(multidrug resistance−associated protein:MRP)に属する輸送蛋白質遺伝子(OsMRP13)は、以下のORFを有する。
Figure 2014042516
Figure 2014042516
なお、トウモロコシ及び大豆のATP結合カセット輸送体遺伝子も公知である(非特許文献2)。
更に、本発明の形質転換植物は、ミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼ又はイノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼをコードする遺伝子も過剰発現することが好ましい。例えば、イネのミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼ遺伝子(RINO1)は、以下のORFを有する。
Figure 2014042516
なお、大豆のミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼ遺伝子も公知である(非特許文献5)。
また、イネのイノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼ遺伝子(OsIPK1)は、以下のORFを有する。
Figure 2014042516
なお、シロイナズナのイノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼ遺伝子も公知である(非特許文献6)。
上記の配列番号1、3、5及び7に示したORFは、それぞれ、配列番号2、4、6及び8のアミノ酸配列をコードするが、前記のように、他の植物種での相同蛋白質も知られているから、本発明では、形質転換すべき植物や目的に応じて、配列番号2、4、6及び8のアミノ酸配列に対して、前記のBLASTPアルゴリズムに基づくアミノ配列相同性として60%、70%、80%、90%又は95%以上の陽性のパーセンテージを示し、且つ所望の活性を有する相同蛋白質をコードする遺伝子も利用できる。更にまた、前記したものの修飾蛋白質は、それらが野生型の蛋白質と実質的に類似の活性を有するならば、当該修飾蛋白質分子の一方の構造が野生型蛋白質分子に無くとも、又は2つのアミノ酸配列が完全に同一でなくとも、本発明の相同蛋白質と考えられる。例えば、ロイシンをバリンに、リシンをアルギニンに、グルタミンをアスパラギンに置換してもポリペプチドの機能を変化させないこともあり得る。従って、本発明において、配列番号2、4、6及び8に示すアミノ酸配列に対して数個程度のアミノ酸の欠失、挿入、付加及び/又は置換を含むアミノ酸配列を有する蛋白質は、所望の触媒活性や輸送活性を保持している限り本発明に利用でき、そしてそのような蛋白質をコードするヌクレオチド配列も本発明に利用し得る事を当業者は理解する筈である。
従ってまた、本発明のために過剰発現される遺伝子は、上記のコード化核酸と相補的なヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸として同定され得、且つその発現産物が所望の各活性を示すのを確認することで容易に入手し得るのを当業者は理解するであろう。なお、本明細書でのストリンジェントな条件は、サケ変性***DNA、6xSSC液と5xDenhart液を含む溶液中、42℃でハイブリダイゼーション、及び0.1%SDSと1xSSCを含む水溶液中で68℃での洗浄条件として記載される。更にまた、本発明の目的に利用できる相同遺伝子は、その本来の活性を維持している限り、自然界で発生し得るすべての変異や、人工的に導入された変異及び修飾を有していてもよい。例えば、特定のアミノ酸をコードする種々のコドンには余分のコドン(redundancy)が存在することが知られている。そのため本発明においても同一のアミノ酸に最終的に翻訳されることになる代替コドンを利用してよい。つまり、遺伝子コードは縮重しているので、ある特定のアミノ酸をコードするのに複数のコドンを使用でき、そのためアミノ酸配列は任意の1セットの類似のDNAオリゴヌクレオチドでコードされ得る。そのセットの唯一のメンバーだけが天然型遺伝子配列(例えば配列番号1)に同一であるが、ミスマッチのあるDNAオリゴヌクレオチドでさえストリンジェントな条件下で天然型配列にハイブリダイズでき、天然型配列をコードするDNAを同定、単離でき、更にそのような遺伝子も本発明において利用できる。特に、ほとんどの生物は特定のコドン(最適コドン)のサブセットを優先的に用いることが知られているので(Gene、Vol.105、pp.61−72、1991等)、宿主に応じて「コドン最適化」を行うことは本発明においても有用であり得る。
発現ベクター
本発明では、前記した遺伝子が形質転換植物体内で過剰発現させられる。そのような形質転換は、典型的には、外来性の上記遺伝子を含む発現ベクターで植物細胞をトランスフェクトすることにより達成される。なお、本明細書において、「外来性」ないし「外来」という用語は、形質転換前の宿主植物が、本発明により導入されるべき遺伝子を有していない場合、その遺伝子によりコードされる蛋白質を実質的に発現しない場合、及び異なる遺伝子により当該蛋白質のアミノ酸配列をコードしているが、形質転換後に匹敵する内因性蛋白質活性を発現しない場合において、本発明に基づく遺伝子ないしヌクレオチド配列を宿主に導入することを意味するために用いられる。また、本明細書において、「発現ベクター」とは、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子に機能的に結合された転写及び翻訳をレギュレートするヌクレオチド配列を含むヌクレオチドを意味する。典型的に、本発明の発現ベクターは、コード配列から5’上流にプロモーター配列、3’下流にターミネーター配列、場合により更なる通常の調節エレメントを機能的に結合された状態で含み、そのような場合に、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子が宿主植物細胞に発現可能に導入される。具体的に、本発明で好適に利用できる植物導入用(組換)発現ベクターは、本発明の遺伝子を含むDNAを適当な制限酵素で切断後、必要に応じて適切なリンカーを連結し、植物細胞用のクローニングベクターに挿入することにより得ることができる。クローニング用ベクターとしては、pBE2113Not、pBI2113Not、pBI2113、pBI101、pBI121、pGA482、pGAH、pBIG、pGreen等のバイナリーベクター系のプラスミドやpLGV23Neo、pNCAT、pMON200等の中間ベクター系のプラスミドを用いることができる。バイナリーベクター系プラスミドを用いる場合、上記のバイナリーベクターの境界配列(LB、RB)間に目的遺伝子を挿入し、この組換えベクターを大腸菌中で増幅する。次いで、増幅した組換えベクターをアグロバクテリウム・チュメファシエンスC58、LBA4404、EHA101、C58C1RifR、EHA105等に、凍結融解法、エレクトロポレーション法等により導入し、該アグロバクテリウムを植物の形質導入用に用いる。特に好ましい植物形質転換用ベクターとして、pBI101を基にして、hptII遺伝子とイネのアクチンプロモーターを導入した後、インビトロゲン社のgateway(商標)カセットを入れたもの(pActnos/Hm2−Gwとして図8に記載。)や、Pal Select R5(クミアイ化学工業社)が例示される。
前述のとおり、植物体内で外来遺伝子などを発現させるためには、構造遺伝子の前後それぞれに、植物用のプロモーターやターミネーターなどを配置させる必要がある。本発明において利用可能なプロモーターとしては、例えば、アクチンプロモーターや、カリフラワーモザイクウィルス(CaMV)由来の35S転写物[Jefferson et al.,The EMBO J.,Vol.6,pp.3901−3907(1987)]、トウモロコシのユビキチン[Christensen et al,Plant Mol.,Vol.18,pp.675−689(1992)]、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子、オクトピン(OCT)合成遺伝子のプロモーターなどが挙げられ、ターミネーター配列としては、例えば、カリフラワーモザイクウィルス由来のノパリン合成酵素遺伝子由来のターミネーターなどが挙げられる。但し、植物内で機能することが知られているプロモーターやターミネーターであれば、これらのものに限定されるものではない。
また、必要に応じて、プロモーター配列と本発明の遺伝子の間に、遺伝子の発現を増強させる機能を持つイントロン配列、例えばトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ(Adh1)のイントロン[Genes & Development,Vol.1,pp.1183−1200(1987)]を導入することができる。さらに、効率的に目的の形質転換細胞を選択するために、有効な選択マーカー遺伝子を本発明の遺伝子と併用することが好ましい。その際に使用する選択マーカーとしては、カナマイシン耐性遺伝子(NPTII)、抗生物質ハイグロマイシンに対する抵抗性を植物に付与するハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(htp)遺伝子、及びビアラホス(bialaphos)に対する抵抗性を付与するホスフィノスリシンアセチルトランスフェラーゼ(bar)遺伝子等から選ばれる1つ以上の遺伝子を使用することができる。本発明の遺伝子及び選択マーカー遺伝子は、単一のベクターに共に組み込んでも良いし、それぞれ別個のベクターに組み込んだ2種類の組換えDNAを用いても良い。
形質転換
本発明の形質転換植物の作出にあたっては、先ず、植物培養細胞、カルス、植物器官(例えば、葉、花弁、茎、根、根茎、種子等)、或いは植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)を形質転換すればよい。植物種は限定されず、大豆やシロイヌナズナ等の双子葉植物及びイネ、トウモロコシ、コムギ等の単子葉植物を用いることもできる。植物培養細胞、カルス、植物器官又は植物組織に形質導入する場合、本発明の蛋白質をコードする遺伝子を、アグロバクテリウム感染法、パーティクルガン法、又はポリエチレングリコール法などで導入して、植物宿主を形質転換することができる。或いは、プロトプラストにエレクトロポレーション法で導入して、形質転換植物を作出することもできる。
例えば、アグロバクテリウム感染法により遺伝子を導入する場合、目的の遺伝子を含むプラスミドを保有するアグロバクテリウムを植物にトランスフェクトさせる工程が必須であるが、これは、例えば形質転換すべき植物から誘導したカルスに、本発明の遺伝子を含むプラスミドを有するアグロバクテリウムを感染させ、その後、カルスを再分化させることで行えばよい。詳細に言うと、イネの場合では、その完熟種子の外頴と内頴を除去した後に次亜塩素酸や過酸化水素水等を用いて滅菌し、一定期間培養する。培養後に胚乳や芽を取り除き、膨らんだ胚盤のみを採取して更に培養し、健常なカルスを選抜してカルスを細かい塊に分け更に培養する。一方、感染させるアグロバクテリウムを適当な条件下で培養し、培養物からアグロバクテリウムの希釈液を調製する。当該希釈液内で振とうすることによってカルスを感染させ、共存培地中で培養した後、除菌する。除菌後のカルスを更に培養し、成長した新しいカルスを再分化培地に移して培養する。再分化個体を発根培地に移して植物体を育成させる。或いは、トランスフェクトは、Cloughらの花序浸し法[Clough et al.,Plant J.,Vol.16,pp.735−743(1998)]に準じて行うことができる。詳細に言うと、本発明の遺伝子を含むプラスミドを有するアグロバクテリウムを懸濁した菌液に植物の蕾を直接浸した後、蕾をそのまま生育させて、種子を収穫する。次いで、種子から目的の遺伝子を有する個体を選択するために、適切な抗生物質を加えた寒天培地に播種する。この培地で生育した植物を鉢に移し生育させることにより、本発明の遺伝子が導入された形質転換植物の種子を得ることができる。
本発明の遺伝子を導入した形質転換植物及びその次世代に目的の遺伝子が組み込まれていることを確認するには、当該植物の細胞或いは組織から常法に従ってDNAを抽出し、公知のPCR法又はサザン法を用いて導入した遺伝子を検出すればよい。なお、一般に、導入遺伝子は、宿主植物のゲノム中に導入されるが、その導入場所が異なることにより導入遺伝子の発現が異なるポジションエフェクトと呼ばれる現象が知られている。従って、プローブとして導入遺伝子のDNA断片を用いたノーザン法で検定することによって、導入遺伝子がより強く発現している形質転換体を選抜することができる。
また、本発明の別の方法としては、上記した植物の内因性遺伝子の発現を有意に活性化する方法も挙げられる。具体的には、当該内因性遺伝子の調節領域、例えばプロモーターを、前記したアクチンプロモーターや、カリフラワーモザイクウィルス(CaMV)由来の35S転写物、トウモロコシのユビキチン、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子、オクトピン(OCT)合成遺伝子のプロモーターなどの外来性の調節エレメントで置換すればよい。そして、そのような方法により内因性遺伝子の発現が有意に活性化している形質転換植物は、プローブとして当該内因性遺伝子のDNA断片を用いたノーザン法で検定することにより、該遺伝子がより強く発現している個体を選抜することで入手できる。つまり、本発明の遺伝子を導入した形質転換植物における該遺伝子の発現レベルの分析は、当該植物の細胞或いは組織から常法に従ってRNAを抽出し、公知のRT−PCR法又はノーザン法を用いて、導入した遺伝子のmRNAを検出することにより行うことができるのである。或いは、更に別の方法として、本発明の遺伝子産物を、該遺伝子産物に体する抗体を用いたウェスタン分析等により、直接分析することも可能である。そのようなプロモーターの置換方法については、非特許文献2を参照することもできる。
表層水の浄化方法
上記の説明及び以下の実施例のとおり、本発明の形質転換植物は顕著に亢進したフィチン酸生合成能に伴う、強力なリン吸収能を有する。殊に、種子中の総リン量の80%程度までがフィチン酸態のリンであり得るので、およそ2〜3倍ものフィチン酸を合成できる形質転換植物は、実質的に有意なリンを環境から吸収し得る。更に本発明の形質転換植物は、種子のみならず植物体全体において、フィチン酸の生合成が亢進している。また、本発明の形質転換植物は、野生型と同等の生育を示す。従って、本発明の形質転換植物は、富栄養化した表層水、典型的には湖沼の近傍で生育させることにより、当該湖沼からリンを吸収して、富栄養化した表層水を浄化できる。
形成転換植物を用いたフィチン酸、イノシトール及び他の生理活性物質生産
フィチン酸は、様々な生理活性を示すことが明らかにされてきている。例えば、フィチン酸は抗酸化作用を有することが知られている(特開平7-59548号公報等)。更に近年では、フィチン酸が、癌、心疾患、糖尿病及び結石の治療に有用であるとされている(特開平11−266846号公報等)。
また、フィターゼは、フィチン酸をイノシトールと無機リン酸に分解する酵素である。従って、本発明の形質転換植物又はそこから抽出したフィチン酸をフィターゼで処理することで、イノシトールを得ることができる。例えば、カビ由来のフィターゼが商業的に入手可能であり、そのようなフィターゼは、通常、pH5〜6の範囲で、20〜30℃において最大の酵素活性を示す。よって、当該条件下で、フィターゼと本発明の形質転換植物又はそこから抽出したフィチン酸を、例えば数時間〜数日間インキュベートすることにより、イノシトールを得ることができる。特に、本発明の形質転換植物がイネである場合、フィチン酸は種子のぬか層に蓄積するので、普通は廃棄されることの多い米糠を利用し、米糠をそのまま或いはそこからフィチン酸を抽出した後、前記のフィターゼで処理すればよい。
もとよりイノシトール(ミオ−イノシトール)は、多くの高等動物にとって必要不可欠な物質であるため、栄養食品、飼料、医薬品等の成分として広範に利用されている(特開平8−38188号公報等)。加えて、イノシトールからキロ−イノシトールやシロ−イノシトールなどの生理活性物質を製造できる。キロ−イノシトール(D−キロ−イノシトール)は、例えば、インスリン抵抗性を改善する作用を持ち、インスリン非依存性糖尿病等の治療に有効であるとされている(国際公開第90/10439号パンフレット)。更に、イノシトールからD−キロ−イノシトールを効率的に生産する酵素的方法も公知である(特開2005−87149号公報)。一方、シロ−イノシトールは、アミロイドβ蛋白質凝集抑制作用を有するとされ、アルツハイマー病治療における潜在的有用性が示唆されている(The Journal of Biological Chemistry、Vol.275、No.24、pp.18495〜18502(2000))。イノシトールからシロ−イノシトールを生産する方法も多くの文献に記載されている(薬学雑誌、89巻、1302〜1305頁(1969)及びLiebigs Ann.Chem.,866〜868頁(1985)等)。従って、フィチン酸を多量に生産することができる本発明の形質転換植物体は、イノシトールやキロ−イノシトール、シロ−イノシトール等の生産にも有用であることは明白である。
以上の説明を与えられた当業者は、本発明を十分に実施できる。以下、更なる説明の目的として実施例を与え、従って、本発明は当該実施例に限定されるものではない。なお、本明細書において特に断りのない限りヌクレオチド配列は5’から3’方向に向けて記載される。
以下の実施例は、フィチン酸生合成に関連する特定の遺伝子を過剰発現させることで、植物体に高フィチン酸合成能を付与できることを示す。従って、以下では、2−ホスホグリセレートキナーゼ(OsPGK1)、ATP結合カセット輸送体(OsMRP13)、ミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼ(RINO1)及びイノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼ(OsIPK1)が本発明の実施例であり、ミオ−イノシトールキナーゼ(OsMIK)及びイノシトール1,3,4−トリスキスフォスフェート 5/6−キナーゼ−1(OsITP5/6K−1)は参考例である。なお、それぞれの遺伝子のRAP IDはRINO1(Os03g0192700),OsPGK1(Os02g0819400),OsMIK(Os03g0737701),OsITP5/6K−1(Os09g0518700),OsIPK1(Os04g0661200)、及びOsMRP13(Os03g0142800)である。
[実施例1] 形質転換植物の作出
a.導入コンストラクトの構築
すべてのコンストラクトの構築にはGateway System(Invitrogen社)を用い、目的遺伝子の配列を含むエントリークローンとデスティネーションベクター(アクチンプロモーター、Nosターミネーターを含むpActnos/Hm2−GwまたはPal Select R5(クミアイ化学工業社))の間でLR反応を行わせることで、目的のコンストラクトを完成させた(図8及び図9)。
より詳細には:
RINO1
イネの培養細胞から調製したcDNAライブラリーからDifferential screening法により再分化特異的クローンを同定した(pRINO1クローン)。pRINO1クローンをもとに下記のプライマーペアを用いて、PCRによりミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼのORFを含む領域を増幅し、gateway system(Invitrogen社)を用いて,植物形質転換用ベクターpActnos/Hm2−GWまたはPal Select R5に導入した。
Figure 2014042516
OsIPK1
イネの未熟胚から調製したcDNAを鋳型として、下記のプライマーペアを用いて、PCRによりイノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼのORFを含む領域を増幅し、gateway system(Invitrogen社)を用いて,植物形質転換用ベクターpActnos/Hm2−GWに導入した。
Figure 2014042516
OsITP5/6K−1
イネのcDNAクローン(AK102571)を鋳型として、下記のプライマーペアを用いて、PCRによりイノシトール1,3,4−トリスキスフォスフェート 5/6−キナーゼ−1のORFを含む領域を増幅し、gateway system(Invitrogen社)を用いて,植物形質転換用ベクターpActnos/Hm2−GWに導入した。
Figure 2014042516
OsMIK
イネのcDNAクローン(AK243444)を鋳型として、下記のプライマーペアを用いて、PCRによりミオ−イノシトールキナーゼのORFを含む領域を増幅し、gateway system(Invitrogen社)を用いて,植物形質転換用ベクターpActnos/Hm2−GWに導入した。
Figure 2014042516
OsPGK1
イネの未熟胚から調製したcDNAを鋳型として、下記のプライマーペアを用いて、PCRにより2−ホスホグリセレートキナーゼのORFを含む領域を増幅し、gateway system(Invitrogen社)を用いて,植物形質転換用ベクターpActnos/Hm2−GWに導入した。
Figure 2014042516
OsMRP13
イネのcDNAクローン(AK121451)を鋳型として、下記のプライマーペアを用いて、PCRによりABCトランスポーターのORFを含む領域を増幅し、gateway system(Invitrogen社)を用いて,植物形質転換用ベクターpActnos/Hm2−GWまたはPal Select R5(クミアイ化学工業)に導入した。
Figure 2014042516
目的のコンストラクトを持つプラスミドをElectroporation法によりAgrobacterium tumefaciens (EHA105)に導入した。形質転換体の作出は Toki et al.,Plant J.,Vol.47,pp.969−976(2006)の方法に準じて行われた。
b.アグロバクテリウムを用いた形質転換体の作出
イネ品種キタアケを対象として形質転換を行った。各植物の完熟種子の外頴と内頴を除去し、2倍希釈次亜塩素酸中で30分撹拌の後、水で洗浄し1%過酸化水素水で3時間撹拌しながら滅菌した。これをさらに水で洗浄し、2倍希釈次亜塩素酸溶液で10分処理後、滅菌水で十分に洗浄して、N6D培地(表1及び2)に置床した。7日後、胚乳や芽を取り除き、膨らんだ胚盤のみを新しいN6D培地に置床した。21日後、塊1mm程度の大きさの鮮やかな黄色のカルスを選抜して、カルスを細かい塊に分け、新しいN6D培地に置床し、3日間培養した。ここまでの培養は、28℃、14時間明期で行った。感染させるアグロバクテリウムは、抗生物質(デスティネーションベクターにPal Select R5を用いた場合はkanamycin(50mg/l)とspectinomycin(40mg/l)、その他の場合は全てkanamycin(50mg/l)とhygromycinB(50mg/l);括弧内は最終濃度を表す。)を加えたLB液体培地で180rpm,28℃,暗黒下で一晩培養した後、LB固体培地で28℃,暗黒下で3日間前培養させた。ミクロスパーテルでかき取ったアグロバクテリウムをAAM培地(表1及び2)に溶解させ、OD600が0.1になるようにその希釈液を調製した。感染は希釈液20mlにカルスを入れ、90秒間室温で振とうすることによって行った。感染させたカルスはキムタオル(商品名)で十分に液を除いた後、共存培地(表1及び2)5.5mlを含んだ直径90mmの定性濾紙(ADVANTEC,90327161)に置床し、25℃、暗所で3日間培養した後、除菌した。除菌はMeropen(商品名:25mg/l)を含んだ滅菌水でカルスを3回洗うことにより行った。除菌後のカルスはN6D選抜培地(表1及び2)に置床し、28℃、14時間明期で2週間培養させた後、すべてのカルスを新しいN6D選抜培地に移した。さらに10日後、成長した新しいカルスを新しいN6D選抜培地に移した。7日後、活発に増殖したカルスを再分化培地(表2)に移して同じ条件で3週間程度培養し、再分化個体を発根培地(表1及び2)に移して植物体を育成した。なお、N6D選抜培地及び再分化培地に加える抗生物質として、デスティネーションベクターにPal Select R5を用いた場合はMeropen(25mg/l)とビスピリバックナトリウム塩(0.25μM)、その他の場合は全てMeropen(25mg/l)とhygromycinB(50mg/l)を使用した。
Figure 2014042516
Figure 2014042516
c.植物体の育成
形質転換体の育成は、東京大学農学部閉鎖系バイオトロン内で、長日条件で自然光の下、短日条件で人工光の下、昼30℃夜25℃の条件で行った。全ての形質転換植物は、野生型と同等に生育した。
[実施例2] リンの定量
上記のようにして作出し、育成した形質転換植物(T1〜T4)について、フィチン酸及び無機リンを測定した。
d.サンプルの調製
実験に用いる全ての器具は、リンを除去する目的で0.4N硝酸に一晩浸漬し、水洗後乾燥させて用いた。種子は外頴と内頴を取り除き、60℃で48時間乾燥させた。乾燥種子の重さを測定した後、マルチビーズショッカー(安井器械、大阪、日本)を用いて種子を破砕した。葉、根については重さを測定した後、液体窒素で凍結させマルチビーズショッカーで破砕した。
e.フィチン酸及び無機リンの定量
フィチン酸やイノシトールリン酸類、及び無機リンの測定のため、イオンクロマトグラフィーを行った。マルチビーズショッカーで粉砕後、種子はサンプル1mgに対して18μlの2.4%HClを加え、さらに乳棒乳鉢を用いてすり潰して調製した。調製したサンプルは97℃10分間の熱処理後、4℃15000rpmで10分間遠心を行い、上清300μlを5μmフィルターチューブ(Millipore,Billerica,USA)に入れ、7400rpmで5分間遠心を行い濾過した。得られた濾液100μlを、10000MWフィルターチューブ(Sartorius)を用いて12900rpm、30分の遠心で限外濾過を行った。その後、濾液2μlに水234μl、2.4%HCl 4μlを加えて120倍希釈とした。種子に大量に含まれる油脂を除去する目的で、250μlのヘキサンを加えて10分間振とうし、15000rpmで10分間の遠心を行い、下層(水層)200μlを回収した。それをさらに5分間遠心し、下層150μlを回収して試料とした。葉からも上記に準じて資料を作製した。イオンクロマトグラフィーはMitsuhashi et al.,Plant Physiol.,Vol.138,pp.1607−1614(2005)の方法に従い、5〜80mM KOH 90minのグラジェント溶出で、陰イオン交換カラムDionex IonPac AS20(商品名)を用いて行った。
図10に、2−ホスホグリセレートキナーゼのコード化遺伝子(OsPGK1)及びミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼのコード化遺伝子(RINO1)で形質転換した植物の、発芽後28日目第6葉でのフィチン酸合成量を、野生型キタアケのフィチン酸合成量と比較した典型的なクロマトグラムを示した。また。図11に、ATP結合カセット輸送体のコード化遺伝子(OsMRP13)、イノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼのコード化遺伝子(OsIPK1)及びミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼのコード化遺伝子(RINO1)で形質転換した植物(2クロ−ン)の種子中でのフィチン酸合成量を、野生型キタアケのフィチン酸合成量と比較したクロマトグラムを示した。なお、これらの多重形質転換体は、実施例1の方法により予め作出したRINO1及び/又はOsIPK1導入系統(品種キタアケ、T3またはT4種子を使用)を用いて更に形質転換することで作出した。それらの図に示した結果から、当該形質転換体は、種子だけではなく植物体全体で、有意に多量のフィチン酸を合成することが判明した。
更に、作出した形質転換植物の種子中でのフィチン酸合成量を非組換体植物のフィチン酸合成量と比べた結果を表3に示した。値は、各々の形質転換体のクローンのうちで最も高いフィチン酸合成能を示した形質転換体の値と非組換体の平均値を比較したものである。表から、2−ホスホグリセレートキナーゼ又はATP結合カセット輸送体をコードする遺伝子を過剰発現する形質転換体では、フィチン酸合成が2倍以上も活性化され得ることがわかった。更に、それらの遺伝子に加えてミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼ又はイノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼをコードする遺伝子を過剰発現させた場合も、やはりフィチン酸合成が2倍以上も活性化され得ることがわかった。もっとも高い活性化を示したのは、2−ホスホグリセレートキナーゼのコード化遺伝子(OsPGK1)及びミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼのコード化遺伝子(RINO1)で形質転換した植物、及びATP結合カセット輸送体のコード化遺伝子(OsMRP13)、イノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼのコード化遺伝子(OsIPK1)及びミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼのコード化遺伝子(RINO1)で形質転換した植物であった(約2.6倍)。しかしながら、ミオ−イノシトールキナーゼのコード化遺伝子(OsMIK)及びイノシトール1,3,4−トリスキスフォスフェート 5/6−キナーゼ−1のコード化遺伝子(OsITP5/6K−1)を過剰発現させてもフィチン酸合成は活性化されなかった。
Figure 2014042516
一方、図12に示したように、上記のとおりフィチン酸合成が活性化された形質転換植物の種子中の無機リン量は、非形質転換体のものと変わりがなかった。従って、本発明の形質転換植物は、野生型植物よりも顕著に高いリン吸収能を示すことが判明した。
更に、図13では、本発明の形質転換植物が、より多量のリンを環境から吸収する能力を、形質転換植物と野生型植物の種子1個あたりの総リン量を比較することで示した。
したがって、本発明は、環境浄化のために利用できる。更に本発明は、イノシトール及び関連する生理活性物質の生産に利用できる。従って、本発明は、環境事業や医薬品等の製造業において有用であり得る。

Claims (17)

  1. 高フィチン酸合成能及び高リン吸収能を示し、2−ホスホグリセレートキナーゼ又はATP結合カセット輸送体をコードする遺伝子、またはその双方の遺伝子を過剰発現する形質転換植物。
  2. 更に、ミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼ又はイノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼをコードする遺伝子、またはその双方の遺伝子を過剰発現する請求項1に記載の形質転換植物。
  3. 以下の、
    1) 2−ホスホグリセレートキナーゼ及びミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼ、又は
    2) ATP結合カセット輸送体、イノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼ及びミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼ
    を各々コードする遺伝子を過剰発現する請求項2に記載の形質転換植物。
  4. 前記遺伝子が植物由来の蛋白質をコードする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の形質転換植物。
  5. 前記植物が、イネ、トウモロコシ、大豆又はシロイナズナである請求項4に記載の形質転換植物。
  6. 前記2−ホスホグリセレートキナーゼが配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の形質転換植物。
  7. 前記ATP結合カセット輸送体が配列番号4で示されるアミノ酸配列からなる、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の形質転換植物。
  8. 前記ミオ−イノシトール 3−フォスフェートシンターゼが配列番号6で示されるアミノ酸配列からなる、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の形質転換植物。
  9. 前記イノシトール 1,3,4,5,6−ペンタキスフォスフェート 2−キナーゼが配列番号8で示されるアミノ酸配列からなる、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の形質転換植物。
  10. 前記形質転換植物体が単子葉植物である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の形質転換植物。
  11. 記形質転換植物体が双子葉植物である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の形質転換植物。
  12. 富栄養化した表層水の浄化方法であって、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の形質転換植物を、浄化の必要がある表層水の近傍であって、前記形質転換植物が生育可能な地域で生育させ、生育した形質転換植物を回収することを含む、前記方法。
  13. フィチン酸の製造方法であって、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の形質転換植物を生育させ、生育した植物体の全部又は一部からフィチン酸を分離することを特徴とする、前記方法。
  14. イノシトールの製造方法であって、以下の:
    i−a) 請求項1乃至11のいずれか一項に記載の形質転換植物の全部又はその一部からフィチン酸を分離し、次いで分離したフィチン酸とフィターゼを混合するか、又は
    i−b) 請求項1乃至11のいずれか一項に記載の形質転換植物の全部またはその一部とフィターゼを混合する工程;
    ii) 上記i−a)又はi−b)の混合物を、フィターゼがフィチン酸をイノシトールと無機燐酸に分解し得るのに適した条件と時間インキュベートする工程;及び
    iii) 上記ii)でインキュベートした混合物からイノシトールを回収する工程、
    を含む、前記方法。
  15. 前記形質転換植物がイネ由来である、請求項13又は14に記載の、フィチン酸又はイノシトールの製造方法。
  16. 前記形質転換植物の一部が種子のぬか層である、請求項15に記載の製造方法。
  17. 請求項14乃至16のいずれか一項に記載の製造方法により得られたイノシトールを原料とすることを特徴とする、キロ−イノシトール又はシロ−イノシトールの製造方法。
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