本発明の一実施形態について、以下に詳しく説明する。先ず、接着剤組成物に含まれる各種成分について説明する。尚、以下の説明においては、基板と当該基板の支持体とを接着する具体例として、ウエハハンドリングシステムにおいてウエハ等の基板とサポートプレート等の支持体とを貼り合わせることを挙げることとする。
〔エラストマー〕
本発明に係る接着剤組成物に含まれるエラストマーは、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含んでおり、より具体的には、主鎖の構成単位としてスチレン単位と炭化水素単位とを含んでいる。ここで、本明細書において「構成単位」とは、重合体であるエラストマーを構成する構造において、一分子の単量体に起因する構造を指す。また、本明細書において「スチレン単位」とは、スチレンを重合したときに重合体に含まれる当該スチレン由来の構成単位を指す。本明細書において「炭化水素単位」とは、重合性不飽和結合を有する炭化水素を重合したときに重合体に含まれる当該炭化水素由来の構成単位を指す。
上記エラストマーは、スチレン単位が連続して結合したスチレン部位と、重合性不飽和結合を有する炭化水素単位が連続して結合した炭化水素部位とをブロック構造として有するブロック共重合体(ブロックコポリマーとも称する)であることが好ましい。一分子のエラストマーにおけるスチレン部位および炭化水素部位の個数は、各々少なくとも一つあればよい。従って、エラストマーは、ジブロック共重合体であってもよく、トリブロック共重合体であってもよく、多ブロック共重合体であってもよい。また、エラストマーは、これらブロック共重合体の混合物であってもよい。
上記エラストマーにおけるスチレン単位の含有量は、接着剤組成物に所望する粘弾性パラメータと密着性とに応じて設定すればよく、特に制限されるものではないが、10重量%以上、70重量%以下であることがより好ましく、15重量%以上、50重量%以下であることがさらに好ましく、20重量%以上、30重量%以下であることが特に好ましい。スチレン単位の含有量が10重量%以上、70重量%以下であることにより、例えばウエハハンドリングシステムに用いた場合に、貼付容易性および剥離容易性に優れた接着層を形成することが可能な接着剤組成物とすることができる。
また、エラストマーの重量平均分子量は、10,000以上、200,000以下であることが好ましく、50,000以上、100,000以下であることがより好ましい。これにより、例えば、ウエハがレジストリソグラフィー工程に供されるときに曝されるレジスト溶剤(例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等)、酸(フッ化水素酸等)、およびアルカリ(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)等)に対して、接着層が優れた耐性を発揮する。また、炭化水素系溶剤への溶解性に優れるので、ウエハ等の基板とサポートプレート等の支持体とを剥離するときに、接着剤組成物により形成された接着層を、炭化水素系溶剤を用いて容易かつ迅速に除去することができる。
上記エラストマーとしては、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含み、接着剤組成物に所望する粘弾性パラメータと密着性とを発現することができる限りにおいて、種々のエラストマーを用いることができる。具体的には、例えば、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロックコポリマー(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SBBS)、および、これらの水添物;スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー)(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロックコポリマー(SEEPS)等が挙げられる。これらエラストマーは、一種類のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
上記エラストマーは、水添物であることがより好ましい。エラストマーが水添物であれば、熱に対する安定性が向上して分解や重合等の変質が起こり難く、さらに、炭化水素系溶剤への溶解性およびレジスト溶剤への耐性により優れる。
また、上記エラストマーのうち、分子の両末端がスチレン部位であるエラストマーがより好ましい。熱安定性の高いスチレン部位を両末端にブロック構造として有することで、エラストマーはより高い耐熱性を示す。
さらに、エラストマーは、分子の両末端がスチレン部位である、スチレンおよび共役ジエンのブロックコポリマーの水添物であることがより好ましい。これにより、熱に対する安定性が向上して分解や重合等の変質が起こり難く、さらに、炭化水素系溶剤への溶解性およびレジスト溶剤への耐性により優れると共に、熱安定性の高いスチレン部位を両末端にブロック構造として有することで、より高い耐熱性を示す。
尚、エラストマーは、必要に応じて、分子内に官能基含有原子団を少なくとも一つ有していてもよい。当該エラストマーは、例えば、公知のブロック共重合体に対して、変性剤を用いて官能基含有原子団を結合させることによって得ることができる。官能基含有原子団とは、一つ以上の官能基を含む原子団を指す。官能基含有原子団が含む官能基としては、例えば、アミノ基、酸無水物基(好ましくは無水マレイン酸基)、イミド基、ウレタン基、エポキシ基、イミノ基、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、およびアルコキシシラン基(当該アルコキシシラン基は炭素数1〜6であることが好ましい)が挙げられる。エラストマーが分子内に官能基含有原子団を少なくとも一つ有することにより、接着剤組成物の柔軟性および接着性がより向上する。
上記エラストマーとして用いることができる市販品としては、例えば、株式会社クラレ製「セプトン(Septon)(商品名)」、同社製「ハイブラー(商品名)」、旭化成ケミカルズ株式会社製「タフテック(商品名)」、JSR株式会社製「ダイナロン(商品名)」等が挙げられる。
尚、本発明に係る接着剤組成物が複数種類のエラストマーを含む場合においては、複数種類のエラストマーのうち少なくとも一つが、主鎖の構成単位としてスチレン単位を含んでいればよい。また、本発明に係る接着剤組成物が複数種類のエラストマーを含む場合において、エラストマーにおけるスチレン単位の含有量は、エラストマー全体に対する含有量として表すこととする。例えば、スチレン単位が10重量%のエラストマーと、60重量%のエラストマーとが1対1(重量比)で含まれている場合、スチレン単位の含有量は35重量%となる。但し、本発明に係る接着剤組成物が複数種類のエラストマーを含む場合においては、全ての種類のエラストマーがスチレン単位を含んでいることが最も好ましい。
本発明に係る接着剤組成物に含まれるエラストマーの含有量は、接着剤組成物の全量を100重量部としたとき、10重量部以上、50重量部以下であることが好ましく、15重量部以上、35重量部以下であることがより好ましく、20重量部以上、30重量部以下であることが最も好ましい。エラストマーの含有量が上記範囲内であれば、耐熱性を維持しつつ、基板と支持体とを好適に貼り合わせることができる。
〔ワックス〕
本発明に係る接着剤組成物に含まれるワックスは、分子量300〜10000程度の常温(23℃)で固体または半固体の、疎水性を有する結晶性の低分子量樹脂を指す。つまり、本発明に係る接着剤組成物に含まれるワックスは、特に限定されるものではなく、公知の種々のワックスを用いることができる。接着剤組成物が疎水性を有するワックスを含むことにより、粘弾性パラメータと密着性とを維持したままで、当該接着剤組成物により形成された接着層の表面の疎水性を高くすることができる。即ち、接着層は耐薬液性に優れ、当該接着層を用いて基板と支持体とを接着すると、ウエハ等の基板に対して各種薬液を用いた処理を行ったときに、接着層表面に存在するワックスが各種薬液を弾いて当該薬液の接着層内部への浸入を防ぐことができる。従って、接着層における薬液に触れた部位が膨潤を起こすことを防ぐことができる。それゆえ、その後のプロセスにおいて基板と支持体との好適な接着状態を維持することができる。
上記ワックスは、天然品であってもよく、合成品であってもよい。天然品としては、鉱物系のワックスが挙げられ、具体的には、例えば、石油系のパラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックス、石炭系のモンタンワックスが挙げられる。合成品としては、石油系または石炭系が挙げられ、具体的には、例えば、石油系のポリオレフィンワックス、石炭系のサゾールワックスが挙げられる。ワックスは、接着剤組成物の物性を制御し易いことから、合成品がより好ましい。
合成品であるポリオレフィンワックスは、例えば、オレフィン重合用触媒の存在下、水素を共存させながら、液相でオレフィンを重合または共重合させることによって製造することができる。オレフィンを重合または共重合させる重合方法や重合条件等については、特に制限はなく、常法に従い適宜、設定すればよい。
上記オレフィンとしては、具体的には、炭素数2〜20のα−オレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等が挙げられる。
また、上記オレフィンは、本発明におけるワックスの本質的な特性を損なわない範囲において、他の重合性モノマーと共重合させてもよい。他の重合性モノマーとしては、具体的には、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリル酸ビニル、メタクリル酸メチル、テトラフルオロエチレン、ビニルエーテル、アクリロニトリル等のビニル型モノマー類;スチレン、置換スチレン類、アリルベンゼン、置換アリルベンゼン類、ビニルナフタレン類、置換ビニルナフタレン類、アリルナフタレン類、置換アリルナフタレン類等の芳香族ビニル化合物;ビニルシクロペンタン、置換ビニルシクロペンタン類、ビニルシクロヘキサン、置換ビニルシクロヘキサン類、ビニルシクロヘプタン、置換ビニルシクロヘプタン類、アリルノルボルナン等の脂環族ビニル化合物;シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン等の環状オレフィン;アリルトリメチルシラン、アリルトリエチルシラン、4−トリメチルシリル−1−ブテン、6−トリメチルシリル−1−ヘキセン、8−トリメチルシリル−1−オクテン、10−トリメチルシリル−1−デセン等のシラン系不飽和化合物;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン等の非共役ポリエン類;アセチレン、メチルアセチレン等のアセチレン類;ホルムアルデヒド等のアルデヒド類;等が挙げられる。
そして、合成品のうち、ポリオレフィンワックスであることがより好ましい。また、ポリオレフィンワックスはα−オレフィンの重合物であることがさらに好ましく、また、ポリエチレンワックスやポリプロピレンワックス等の、炭素数2〜20のオレフィンの重合物であることがさらに好ましい。また、ワックスは、一種類のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
ワックスとして用いることができる市販品としては、例えば、α−オレフィンである出光興産株式会社製の「エルクリスタCPAO」、三井化学株式会社製の「ハイワックス」等が挙げられる(何れも商品名)。
本発明に係る接着剤組成物に含まれるワックスの含有量は、上記エラストマー100重量部に対して、1〜50重量部の範囲内が好ましく、1〜20重量部の範囲内がより好ましく、1〜10重量部の範囲内がさらに好ましい。これにより、粘弾性パラメータと密着性とを維持したままで、接着剤組成物により形成された接着層の表面の疎水性を高くすることができる。エラストマーとワックスとを混合する方法は、特に限定されるものではないが、両者を溶解する溶剤に溶解させて混合する方法が簡便である。
〔溶剤〕
本発明に係る接着剤組成物に含まれる溶剤(主溶剤)は、エラストマーを溶解する機能を有していればよく、例えば、非極性の炭化水素系溶剤、並びに、極性および無極性の石油系溶剤等を用いることができる。また、上記溶剤は、縮合多環式炭化水素を含んでいることがより好ましい。溶剤が縮合多環式炭化水素を含むことにより、接着剤組成物を液体状態で(特に低温にて)保存したときに生じ得る白濁化を防止することができ、製品安定性を向上させることができる。
炭化水素系溶剤としては、直鎖状、分岐状または環状の炭化水素が挙げられる。当該炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の炭素数3から15の直鎖状の炭化水素;メチルオクタン等の炭素数4から15の分岐状の炭化水素;p−メンタン、o−メンタン、m−メンタン、ジフェニルメンタン、1,4−テルピン、1,8−テルピン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、ツジャン、カラン、ロンギホレン、α−テルピネン、β−テルピネン、γ−テルピネン、α−ピネン、β−ピネン、α−ツジョン、β−ツジョン等の環状の炭化水素が挙げられる。
石油系溶剤としては、例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ナフタレン、デカヒドロナフタレン(デカリン)、テトラヒドロナフタレン(テトラリン)等が挙げられる。
縮合多環式炭化水素とは、二つ以上の単環がそれぞれの環の辺を互いに一つだけ供給してできる縮合環の炭化水素であり、二つの単環が縮合されてなる炭化水素を用いることが好ましい。そのような縮合多環式炭化水素としては、5員環および6員環の組み合わせ、または二つの6員環の組み合わせが挙げられる。5員環および6員環を組み合わせた縮合多環式炭化水素としては、例えば、インデン、ペンタレン、インダン、テトラヒドロインデン等が挙げられ、二つの6員環を組み合わせた縮合多環式炭化水素としては、例えば、ナフタレン、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン等が挙げられる。
これら溶剤は、一種類のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。また、溶剤が上記縮合多環式炭化水素を含む場合には、溶剤に含まれる成分は上記縮合多環式炭化水素のみであってもよいし、例えば、炭化水素系溶剤等の他の成分を含有していてもよい。溶剤が上記縮合多環式炭化水素を含む場合には、縮合多環式炭化水素の含有量は、溶剤全体の40重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましい。縮合多環式炭化水素の含有量が溶剤全体の40重量%以上である場合には、当該溶剤は上記エラストマーに対して高い溶解性を発揮する。また、縮合多環式炭化水素と炭化水素系溶剤等の他の成分との混合比が上記範囲内であれば、縮合多環式炭化水素の臭気を緩和することができる。
尚、本発明に係る接着剤組成物に含まれる溶剤の含有量は、当該接着剤組成物を用いて形成する接着層の厚さに応じて適宜調整すればよいが、例えば、接着剤組成物の全量を100重量部としたとき、50重量部以上、90重量部以下であることが好ましく、70重量部以上、80重量部以下であることがより好ましい。溶剤の含有量が上記範囲内であれば、接着剤組成物の粘度調整が容易となる。
〔熱重合禁止剤〕
本発明に係る接着剤組成物は、必要に応じて熱重合禁止剤を含有していてもよい。熱重合禁止剤は、熱によるラジカル重合反応を防止する機能を有する。具体的には、熱重合禁止剤は、ラジカルに対して高い反応性を示すため、モノマーよりも優先的に反応してモノマーの重合を禁止する。接着剤組成物は、熱重合禁止剤を含むことにより、高温環境下(特に、250℃〜350℃)において重合反応が抑制される。
例えば、半導体製造工程においては、サポートプレート(支持体)が貼り付けられたウエハ(基板)を250℃で1時間加熱する高温プロセスがある。このとき、高温により接着剤組成物の重合が起こると、高温プロセス後にウエハからサポートプレートを剥離する剥離液への接着剤組成物の溶解性が低下し、ウエハからサポートプレートを良好に剥離することができなくなる。ところが、接着剤組成物が熱重合禁止剤を含むことにより、熱による酸化およびそれに伴う重合反応が抑制されるため、高温プロセスを経たとしてもウエハからサポートプレートを容易に剥離することができ、残渣の発生を抑えることができる。
熱重合禁止剤は、熱によるラジカル重合反応を防止する機能を有していればよく、特に限定されるものではないが、フェノール構造を有する熱重合禁止剤が好ましい。これにより、接着剤組成物は大気下での高温処理後にも良好な溶解性を確保することができる。フェノール構造を有する熱重合禁止剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤を用いることが可能であり、例えば、ピロガロール、ベンゾキノン、ヒドロキノン、メチレンブルー、tert−ブチルカテコール、モノベンジルエーテル、メチルヒドロキノン、アミルキノン、アミロキシヒドロキノン、n−ブチルフェノール、フェノール、ヒドロキノンモノプロピルエーテル、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−[1−〔4−(1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル)フェニル〕エチリデン]ビスフェノール、4,4’,4”−エチリデントリス(2−メチルフェノール)、4,4’,4”−エチリデントリスフェノール、1,1,3−トリス(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルプロパン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−(3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、n−オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリルテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX1010、BASF社製)、トリス(3,5−ジ−tert−ブチルヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。これら熱重合禁止剤は、一種類のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
本発明に係る接着剤組成物に含まれる熱重合禁止剤の含有量は、当該接着剤組成物に含まれるエラストマーの種類や使用環境等に応じて適宜調整すればよいが、例えば、接着剤組成物の全量を100重量部としたとき、0.5重量部以上、10重量部以下であることが好ましく、1重量部以上、5重量部以下であることがより好ましい。熱重合禁止剤の含有量が上記範囲内であれば、熱によるラジカル重合反応を防止する効果が良好に発揮され、高温プロセス後における接着剤組成物の剥離液に対する溶解性の低下をさらに抑えることができる。
〔添加溶剤〕
本発明に係る接着剤組成物は、必要に応じて、エラストマーを溶解するための溶剤(主溶剤)とは異なる組成からなり、熱重合禁止剤を溶解する添加溶剤をさらに含有していてもよい。添加溶剤としては、特に限定されるものではないが、接着剤組成物に含まれる各成分を溶解する有機溶剤を用いることができる。
上記有機溶剤としては、接着剤組成物に含まれる各成分を溶解して均一な溶液にすることができる溶剤であればよい。当該有機溶剤としては、例えば、極性基として酸素原子、カルボニル基またはアセトキシ基等を有するテルペン溶剤が挙げられ、具体的には、例えば、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトラール、シトロネロール、メントール、イソメントール、ネオメントール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、テルピネン−1−オール、テルピネン−4−オール、ジヒドロターピニルアセテート、1,4−シネオール、1,8−シネオール、ボルネオール、カルボン、ヨノン、ツヨン、カンファーが挙げられる。また、γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン(CH)、メチルイソアミルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物;上記多価アルコール類または上記エステル結合を有する化合物の、モノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテルまたはモノフェニルエーテル等の、エーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体(これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい);ジオキサン等の環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル等の芳香族系の有機溶剤、等も挙げることができる。これら有機溶剤(添加溶剤)は、一種類のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
本発明に係る接着剤組成物に含まれる添加溶剤の含有量は、当該接着剤組成物に含まれる熱重合禁止剤の種類等に応じて適宜調整すればよいが、例えば、溶剤(主溶剤)と添加溶剤との合計を100重量部としたとき、5重量部以上、30重量部以下であることが好ましく、5重量部以上、25重量部以下であることがより好ましい。添加溶剤の含有量が上記範囲内であれば、熱重合禁止剤を十分に溶解することができる。
〔その他の成分〕
本発明に係る接着剤組成物は、本発明における接着剤組成物の本質的な特性を損なわない範囲において、混和性を有する他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、接着剤組成物の性能を改良するための炭化水素樹脂等の付加的樹脂、可塑剤、接着補助剤、安定剤、着色剤および界面活性剤等の、慣用されている各種添加剤が挙げられる。
上記炭化水素樹脂は、炭化水素骨格を有する樹脂であり、例えば、シクロオレフィン系ポリマーが挙げられる。単量体成分を重合して得られる上記シクロオレフィン系ポリマーとしては、具体的には、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分の開環(共)重合体、シクロオレフィン系モノマーを含む単量体成分を付加(共)重合させた樹脂等が挙げられる。上記単量体成分を重合する重合方法や重合条件等については、特に制限はなく、常法に従い適宜、設定すればよい。
上記シクロオレフィン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエン等の三環体、テトラシクロドデセン等の四環体、シクロペンタジエン三量体等の五環体、テトラシクロペンタジエン等の七環体、またはこれら多環体のアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル等)置換体、アルケニル(ビニル等)置換体、アルキリデン(エチリデン等)置換体、アリール(フェニル、トリル、ナフチル等)置換体等が挙げられる。このうち、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、またはこれらのアルキル置換体からなる群より選ばれるノルボルネン系モノマーが特に好ましい。
炭化水素樹脂を構成する単量体成分は、シクロオレフィン系モノマーを含有することが、高耐熱性(低い熱分解性および熱重量減少性)の観点から好ましい。炭化水素樹脂を構成する単量体成分全体に占めるシクロオレフィン系モノマーの割合は、下限値が5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることがさらに好ましい。また、上限値は、特に限定されるものではないが、溶解性および溶液での経時安定性の観点から、80モル%以下であることが好ましく、70モル%以下であることがより好ましい。
炭化水素樹脂を構成する単量体成分は、上述したシクロオレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマーを含有していてもよく、例えば、直鎖状または分岐鎖状のアルケンモノマーを含有することが好ましい。アルケンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン、α−オレフィン等が挙げられる。炭化水素樹脂を構成する単量体成分全体に占めるアルケンモノマーの割合は、溶解性および柔軟性の観点から、10〜90モル%であることが好ましく、20〜85モル%であることがより好ましく、30〜80モル%であることがさらに好ましい。
炭化水素樹脂は、例えば、シクロオレフィン系モノマーとアルケンモノマーとからなる単量体成分を重合させてなる樹脂等の、極性基を有していない樹脂であることが、高温下でのガスの発生が抑制されるので好ましい。炭化水素樹脂のガラス転移点(Tg)は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることが特に好ましい。炭化水素樹脂のガラス転移点が60℃以上であると、積層体が高温環境に曝されたときに接着層の軟化を抑制することができる。
炭化水素樹脂として用いることができる市販品としては、例えば、ポリプラスチックス株式会社製の「TOPAS」、三井化学株式会社製の「APEL」、日本ゼオン株式会社製の「ZEONOR」および「ZEONEX」、JSR株式会社製の「ARTON」等が挙げられる(何れも商品名)。
〔接着剤組成物の調製方法〕
本発明に係る接着剤組成物の調製方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、既存の攪拌装置を用いて、エラストマーを主溶剤に溶解させた後、さらにワックス等の各成分を添加攪拌することにより、本発明に係る接着剤組成物を調製することができる。
また、本発明に係る接着剤組成物が熱重合禁止剤を含有する場合には、熱重合禁止剤を添加溶剤に予め溶解させた後、エラストマーを主溶剤に溶解させた溶液に添加することが好ましい。
〔接着剤組成物の用途〕
本発明に係る接着剤組成物は、接着層を形成することにより、ウエハ等の基板とサポートプレート等の支持体とを接着する用途に用いられ、特に、各種薬液を用いた処理工程を含むプロセスに供されるウエハとサポートプレートとを貼り合わせる用途に好適に用いられる。また、本発明に係る接着剤組成物は、支持体と貼り合せた後に薄化工程に供されるウエハと当該支持体との接着に好適に用いられる。また、本発明に係る接着剤組成物は、優れた耐熱性を有しているので、支持体と貼り合せた後に220℃以上の環境下に曝されるウエハと当該支持体との接着に好適に用いられる。
本発明に係る接着剤組成物は、用途に応じて様々な利用形態を採用することができる。例えば、接着剤組成物を液体状態のまま、所望する接着層の膜厚に応じて適宜、公知の方法を用いて、被加工体であるウエハ等の基板上やサポートプレート等の支持体上に塗布し、乾燥させて接着層を形成する方法を採用してもよく、或いは、可撓性フィルム等のフィルム上に接着剤組成物を塗布し、乾燥させて接着層を形成することにより接着フィルムとした後、当該接着フィルム上の接着層を、被加工体であるウエハ等の基板やサポートプレート等の支持体に貼り付ける方法を採用してもよい。
本発明に係る接着剤組成物によって形成される接着層は、高温でも低動粘度であり、高温プロセスに長時間供しても流動しない。このため、ウエハとサポートプレートとの貼り合わせが容易となる上に、貼り付け不良が生じない。また、ウエハの薄化工程ではウエハのエッジ部分においても接着層の柔軟性が高くならない。それゆえ、ウエハの破損が生じたり、サポートプレートからのウエハの剥離が生じたりするおそれは生じない。
尚、本発明に係る接着剤組成物を用いて基板と支持体とを接着する積層体の製造方法、基板がウエハである場合には、当該積層体のウエハを薄化するウエハの薄化方法、当該積層体を220℃以上の温度で加熱する方法も本発明の範疇に含まれる。
〔接着フィルム〕
本発明に係る接着フィルムは、フィルム上に、接着剤組成物を含有する接着層が形成されている構成である。上記フィルムは、当該フィルム上に形成された接着層を剥離してウエハ等の基板やサポートプレート等の支持体に貼り付ける(転写する)ことができるように離型性を備えていればよく、特に限定されるものではないが、可撓性フィルムであることがより好ましい。可撓性フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル等の、膜厚15〜125μmの合成樹脂フィルムが挙げられる。上記フィルムには、必要に応じて、接着層の転写が容易となるように離型処理が施されていることが好ましい。
上記接着フィルムを形成する方法としては、接着層の乾燥後の膜厚が例えば10〜1000μmとなるように、所望する接着層の膜厚に応じて適宜、公知の方法を用いて、フィルム上に、本発明に係る接着剤組成物を塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。従って、この接着フィルムを用いれば、被加工体であるウエハ等の基板やサポートプレート等の支持体に直接、接着剤組成物を塗布して接着層を形成する場合と比較して、膜厚がより均一でかつ表面平滑性の良好な接着層を形成することができる。
接着フィルムは、接着層が保護フィルムによって被覆されていてもよい。この場合には、接着層上の保護フィルムを剥離し、被加工体の上に露出した接着層を重ねた後、接着層から上記フィルムを剥離することによって当該被加工体上に接着層を容易に設けることができる。
上記保護フィルムは、接着層から容易に剥離することができるフィルムであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、およびポリエチレンフィルムが好適である。また、保護フィルムの表面(接着層に接する面)には、シリコンがコーティングまたは焼き付けされていることが好ましい。これにより、接着層からの保護フィルムの剥離がより容易となる。保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、15〜125μmの範囲内が好ましい。これにより、保護フィルムを備えた接着フィルムの柔軟性を確保することができる。
接着フィルムの使用方法、つまり、接着フィルムを用いて被加工体に接着層を貼り付ける(転写する)方法は、特に限定されるものではないが、例えば、保護フィルムを用いている場合には、当該保護フィルムを剥離した後、露出した接着層を被加工体の上に重ね、フィルムにおける接着層が形成された面の裏面に加熱ローラを当接させながら移動させることによって、接着層を被加工体上に熱圧着させる方法が挙げられる。このとき、接着フィルムから剥離した保護フィルムや、接着層を剥離したフィルムは、巻き取りローラ等のローラでロール状に巻き取れば、保存して再利用することが可能である。
〔支持体〕
本発明に係る接着剤組成物によって基板に接着される支持体は、例えば、基板がウエハである場合には、当該ウエハを薄化する工程で支持してその強度を保持する役割を果たす部材である。一実施形態において、支持体は、例えば、その膜厚が500〜1000μmであるガラスまたはシリコンで形成されている。
尚、一実施形態において、支持体には、支持体を厚さ方向に貫通する複数の穴が設けられている。この穴を介して接着剤組成物を溶解する溶剤を支持体とウエハとの間に流し込むことによって、支持体と基板とを容易に分離することができる。
〔反応層〕
他の実施形態において、例えば、基板がウエハである場合には、ウエハと支持体との間に、接着層の他に反応層が介在していてもよい。上記反応層は、支持体を介して照射される光を吸収することによって変質する性質を有している。それゆえ、反応層に光を照射して当該反応層を変質させることによって、支持体とウエハとを容易に分離することができる。この場合には、支持体は厚さ方向に貫通する穴が設けられていないことが好ましい。
反応層に照射する光としては、反応層が吸収可能な波長に応じて、例えば、YAGレーザ、リビーレーザ、ガラスレーザ、YVO4レーザ、LDレーザ、ファイバーレーザ等の固体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、CO2レーザ、エキシマレーザ、Arレーザ、He−Neレーザ等の気体レーザ、半導体レーザ、自由電子レーザ等のレーザ光、または、非レーザ光を適宜用いればよい。反応層に吸収されるべき光の波長としては、これに限定されるものではないが、例えば、600nm以下の波長の光であればよい。
反応層は、例えば光によって分解される光吸収剤を含んでいてもよい。光吸収剤としては、例えば、グラファイト粉、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、亜鉛、テルル等の微粒子金属粉末、黒色酸化チタン等の金属酸化物粉末、カーボンブラック、または芳香族ジアミノ系金属錯体、脂肪族ジアミン系金属錯体、芳香族ジチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、スクアリリウム系化合物、シアニン系色素、メチン系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素等の染料若しくは顔料を用いることができる。反応層は、例えば、光吸収剤をバインダー樹脂と混合して、支持体上に塗布することによって形成することができる。また、光吸収基を有する樹脂を用いて反応層を形成することもできる。
また、反応層として、プラズマCVD法により形成した無機膜または有機膜を用いてもよい。無機膜としては、例えば、金属膜を用いることができる。また、有機膜としては、例えば、フルオロカーボン膜を用いることができる。当該反応膜は、例えば、支持体上にプラズマCVD法によって形成することができる。
〔接着方法〕
本発明に係る接着方法は、接着剤組成物を用いて、基板と当該基板の支持体とを接着する接着工程を包含する方法である。以下の説明においては、基板と支持体とを接着する接着工程の具体例として、本発明に係る接着剤組成物を用いてウエハとサポートプレート等の支持体とを貼り合わせる貼付工程を例に挙げることとする。
貼付工程においては、本発明に係る接着剤組成物を用いて予め形成した接着層を介して、ウエハに支持体を貼り合わせる。接着層は、例えば、ウエハ上または支持体上、好ましくはウエハ上に接着剤組成物を塗布して焼成することによって形成することができる。接着剤組成物の焼成温度、焼成時間等は、使用する接着剤組成物等に応じて適宜、選択すればよい。或いは、接着層は、例えば、ウエハ上または支持体上、好ましくはウエハ上に、接着フィルムに形成された接着層を剥離して貼り付ける(転写する)ことによって、形成することができる。従って、貼付工程は、接着層を形成する接着層形成工程の後に行われる。
上記貼付工程においては、加圧することによってウエハに支持体を貼り合わせてもよく、加熱および加圧することによってウエハに支持体を貼り合わせてもよい。ウエハに支持体を貼り合わせるときの温度、時間および圧力は、使用する接着剤組成物等に応じて適宜、選択することができる。例えば、貼り合わせ温度は、50〜250℃が好ましく、100℃〜250℃がより好ましい。貼り合わせ時間は、10秒〜15分が好ましく、30秒〜10分がより好ましい。貼り合わせ圧力は、100kg〜10,000kgが好ましく、1,000kg〜10,000kgがより好ましい。また、貼付工程においては、減圧環境下(例えば、1Pa以下)でウエハと支持体とを貼り合わせてもよい。
本発明に係る接着剤組成物を用いてウエハと支持体とを貼り合わせる貼付工程を行うことによって形成される積層体は、加熱処理時における反りが抑制される。
〔接着層の除去〕
ウエハ等の基板は、薄化工程や各種薬液を用いた処理工程を含むプロセスが行われた後、接着層を除去することによって支持体から剥離される。
接着層を溶解する剥離液は、特に限定されるものではなく、接着層を形成する接着剤組成物の組成に応じて、種々の有機溶剤を用いることができる。上記有機溶剤は、接着層への浸透および接着層の溶解を促進するために、加温等の温度調節が適宜なされていてもよい。
上記有機溶剤としては、具体的には、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソアミルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールまたはジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテルまたはモノフェニルエーテル等の多価アルコール類およびその誘導体;ジオキサン等の環式エーテル類;乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;炭化水素系溶剤;および縮合多環式炭化水素等が挙げられる。これら有機溶剤は単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
上記炭化水素系溶剤としては、具体的には、例えば、α−ピネン、カンフェン、ピナン、ミルセン、ジヒドロミルセン、p−メンタン、3−カレン、p−メンタジエン、α−テルピネン、β−テルピネン、α−フェランドレン、オシメン、リモネン、p−サイメン、γ−テルピネン、テルピノーレン、1,4−シネオール、1,8−シネオール、ローズオキサイド、リナロールオキサイド、フェンコン、α−シクロシトラール、オシメノール、テトラヒドロリナロール、リナロール、テトラヒドロムゴール、イソプレゴール、ジヒドロリナロール、イソジヒドロラバンジュロール、β−シクロシトラール、シトロネラール、L−メントン、ギ酸リナリル、ジヒドロテルピネオール、β−テルピネオール、メントール、ミルセノール、L−メントール、ピノカルベオール、α−テルピネオール、γ−テルピネオール、ノポール、ミルテノール、ジヒドロカルベオール、シトロネロール、ミルテナール、ジヒドロカルボン、d−プレゴン、ゲラニルエチルエーテル、ギ酸ゲラニル、ギ酸ネリル、ギ酸テルピニル、酢酸イソジヒドロラバンジュリル、酢酸テルピニル、酢酸リナリル、酢酸ミルセニル、酢酸ボルニル、プロピオン酸メンチル、プロピオン酸リナリル、ネロール、カルベオール、ペリラアルコール、ゲラニオール、サフラナール、シトラール、ペリラアルデヒド、シトロネリルオキシアセトアルデヒド、ヒドロキシシトロネラール、ベルベノン、d−カルボン、L−カルボン、ピペリトン、ピペリテノン、ギ酸シトロネリル、酢酸イソボルニル、酢酸メンチル、酢酸シトロネリル、酢酸カルビル、酢酸ジメチルオクタニル、酢酸ネリル、酢酸イソプレゴール、酢酸ジヒドロカルビル、酢酸ノピル、酢酸ゲラニル、プロピオン酸ボルニル、プロピオン酸ネリル、プロピオン酸カルビル、プロピオン酸テルピニル、プロピオン酸シトロネリル、プロピオン酸イソボルニル、イソ酪酸リナリル、イソ酪酸ネリル、酪酸リナリル、酪酸ネリル、イソ酪酸テルピニル、酪酸テルピニル、イソ酪酸ゲラニル、酪酸シトロネリル、ヘキサン酸シトロネリル、イソ吉草酸メンチル、β−カリオフィレン、セドレン、ビサボレン、ヒドロキシシトロネロール、ファルネソールおよびイソ酪酸ロジニル等が挙げられる。これら炭化水素系溶剤のなかでも、溶解性の観点から、リモネンおよびp−メンタンがより好ましく、p−メンタンが特に好ましい。
剥離液を用いて接着層を溶解する溶解方法や溶解条件等については、特に制限はなく、常法に従い適宜、設定すればよい。本発明に係る接着剤組成物を用いて形成された接着層は、ワックスを含むことにより、各種薬液に対して耐薬液性を示す一方、当該ワックスは剥離液に溶解する。それゆえ、剥離液を用いて接着層を溶解することにより、ウエハ等の基板を支持体から容易に剥離することができる。
実施例を以下に示して、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
(実施例1)
エラストマーである株式会社クラレ製の「Septon2004」(SEP:ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロックコポリマー;スチレン含有量18重量%、重量平均分子量95000)100重量部と、ワックスである出光興産株式会社製の「エルクリスタCPAO40」(α−オレフィン;分子量15,000)5重量部とを、主溶剤であるデカヒドロナフタレン300重量部に溶解した。
次に、熱重合禁止剤であるBASF社製の「IRGANOX1010」(商品名)を添加溶剤である酢酸ブチルに10重量%溶解させた溶液を、エラストマー100重量部に対して、熱重合禁止剤が1重量部となるように添加した。その後、ウエハに塗布するためにデカヒドロナフタレンを用いて粘度調節を行い、固形分(エラストマー+ワックス)25重量%の接着剤組成物を調製した。
調製した接着剤組成物を基板であるシリコンウエハ(12インチ)上にスピン塗布し、大気圧下のホットプレートにおいて、90℃,160℃,200℃で各4分間、ステップベークすることにより溶剤(主溶剤+添加溶剤)を除去して接着層を形成した(厚さ50μm)。
そして、上記接着層が形成されたウエハを、各種薬液として想定したアセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、またはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に室温(23℃)で5分間、浸漬した。その後、ウエハを取り出して、接着層のウエハに対する密着性を目視にて評価(密着している場合を「○」、密着していない場合を「×」として評価)すると共に、膨潤度合いを目視にて確認し、膨潤していない場合を「○」、表面にシワが生じる等して若干、膨潤している場合を「△」、膨潤している(体積変化が生じている)場合を「×」として、耐薬液性を評価した。結果を表1に示す。
(実施例2)
「Septon2004」の替わりに、エラストマーである株式会社クラレ製の「セプトンHG252」(SEEPS−OH:ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン・末端水酸基変性;スチレン含有量28重量%、重量平均分子量67000)を用いた以外は、実施例1と同様にして接着剤組成物を調製して、接着層の耐薬液性を評価した。結果を表1に示す。
(実施例3)
「Septon2004」の替わりに、エラストマーである旭化成ケミカルズ株式会社製の「タフテックH1051」(SEBS:スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンのトリブロック共重合体;スチレン含有量42重量%、重量平均分子量78800)を用いた以外は、実施例1と同様にして接着剤組成物を調製して、接着層の耐薬液性を評価した。結果を表1に示す。
(実施例4)
「エルクリスタCPAO40」の替わりに、ワックスである三井化学株式会社製の「ハイワックスNP805」(低密度ポリエチレン;分子量20,000)を用いた以外は、実施例2と同様にして接着剤組成物を調製して、接着層の耐薬液性を評価した。結果を表1に示す。
(実施例5)
「エルクリスタCPAO40」の替わりに、ワックスである三井化学株式会社製の「ハイワックス800P」(高密度ポリエチレン;分子量6,000)を用いた以外は、実施例2と同様にして接着剤組成物を調製して、接着層の耐薬液性を評価した。結果を表1に示す。
(比較例1〜3)
ワックスを用いない以外は、実施例1〜3と同様にして比較用の接着剤組成物を調製した(固形分(エラストマー)25重量%)。そして、比較用の接着剤組成物を用いて形成した接着層の耐薬液性を評価した。結果を表1に示す。
表1の結果から明らかなように、ワックスを用いた実施例1〜5の接着剤組成物を用いて形成した接着層は、耐薬液性に優れているのに対して、ワックスを用いない比較例1〜3の比較用の接着剤組成物を用いて形成した接着層は、耐薬液性に劣っているのが判った。