以下、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
[排ガス浄化触媒及び排ガス浄化触媒構造体]
<第一実施形態>
図1では、本実施形態に係る排ガス浄化触媒及び排ガス浄化触媒構造体を示す。なお、本明細書において、排ガス浄化触媒を単に「触媒」といい、排ガス浄化触媒構造体を単に「触媒構造体」という場合がある。
触媒構造体1は、図1(a)に示すように、複数のセル2aを有するハニカム担体(耐火性無機担体)2を備えている。排気ガスは、排気ガス流通方向Fに沿って各セル2a内を流通し、そこで触媒層と接触することにより浄化される。
触媒構造体1では、担体2の内表面に触媒層が形成されている。具体的には、図1(b)に示すように、担体2の内表面上に触媒層3が形成されている。そして、触媒層3は、図1(c)に示すように、複数の触媒粒子(排ガス浄化触媒)5により形成されている。
触媒層3を構成する触媒粒子5は、貴金属粒子6と、アンカー粒子7とを含有している。アンカー粒子7は、貴金属粒子6のアンカー材として貴金属粒子6を表面に担持している。さらに触媒粒子5は、貴金属粒子6とアンカー粒子7との複合粒子8を包接し、隣接する複合粒子8の間を互いに隔てる包接材9を含有する。
触媒粒子5では、貴金属粒子6がアンカー粒子7上に接触して担持することにより、アンカー粒子7が化学的結合によるアンカー材として作用し、貴金属粒子6の移動を抑制する。また、貴金属粒子6が担持されたアンカー粒子7を包接材9で覆い、内包する形態とすることにより、貴金属粒子6が包接材9により隔てられた区画を越えて移動することを物理的に抑制する。さらに、包接材9により隔てられた区画内にアンカー粒子7を含むことにより、包接材9により隔てられた区画を越えてアンカー粒子7同士が接触し凝集することを抑制する。これによって、アンカー粒子7が凝集することを防止するだけでなく、アンカー粒子7に担持された貴金属粒子6同士が凝集することも防止できる。その結果、触媒粒子5は、製造コストや環境負荷を大きくすることなく、貴金属粒子6の凝集による触媒活性の低下を抑制することができる。また、アンカー粒子7による貴金属粒子6の活性向上効果を維持することができる。
ここで、図1(c)に示した触媒粒子5において、包接材9により隔てられた領域内では、貴金属粒子6とアンカー粒子7の一次粒子が凝集した二次粒子とを含有した触媒ユニット10が包接されている。しかし、アンカー粒子7は、包接材9により隔てられた領域内において一次粒子として存在してもよい。つまり、触媒ユニット10は、貴金属粒子6とアンカー粒子7の一次粒子とを含有したものであってもよい。
このように、貴金属粒子6及びアンカー粒子7の両方が包接材9で内包されることにより、貴金属粒子6の凝集を抑制することが可能となる。ただ、触媒の使用温度が高温化し、900℃を超える場合には、貴金属粒子の凝集が発生する場合がある。つまり、上述のように、マニホールド触媒では多量のパラジウムを使用するため、パラジウムの凝集が発生しやすくなる。
そのため、本発明の発明者は、より少ないパラジウム使用量で高い触媒性能を得るための検討を鋭意繰り返した。その結果、パラジウムを担持するアンカー材中にネオジム及びイットリウムの少なくともいずれか一方を含有させ、さらにネオジム及びイットリウムの含有量と、パラジウムの担持量を調整することで、より高い触媒性能が得られることを見出した。具体的には、本実施形態の排ガス浄化触媒において、貴金属粒子6はパラジウム(Pd)を含有し、アンカー粒子7はネオジム(Nd)及びイットリウム(Y)の少なくとも一方を含有する。そして、アンカー粒子7におけるネオジム及びイットリウムの合計の含有量に対する、貴金属粒子6におけるパラジウムの含有量のモル比([Pdの含有量]/[Nd及びYの合計含有量])を、0.15〜0.5の範囲内に設定したことを特徴とする。パラジウムとネオジム及びイットリウムとの間には化学的相互作用が強く働く。そのため、アンカー粒子7にネオジム及びイットリウムの少なくともいずれか一方を含有させることにより、パラジウムを含有した貴金属粒子6の移動を抑制することができる。
より詳細に説明すると、貴金属粒子6の熱凝集は、次の工程により発生すると推測される。まず、アンカー粒子7の熱凝集及び結晶成長により、アンカー粒子7の表面で貴金属粒子6同士が接触する確率が増加し、貴金属粒子6がアンカー粒子7上で粒成長する。次に、粒成長し、アンカー粒子7の周縁部に移動した貴金属粒子6が、アンカー粒子7と包接材9との界面から包接材9上に移動する。そして、包接材9上に移動した貴金属粒子6同士が包接材9の結晶成長に伴い移動し、さらに粒成長する。そこで、本実施形態では、貴金属粒子6にパラジウムを含有させ、アンカー粒子7にネオジム及びイットリウムの少なくとも一方を含有させている。これにより、貴金属粒子6とアンカー粒子7との間の化学的結合力を増大させ、貴金属粒子6がアンカー粒子7と包接材9との界面から包接材9上に移動することを抑制している。その結果、包接材9上に移動することによる貴金属粒子6同士の粒成長を抑えることが可能となる。
さらに、本実施形態では、アンカー粒子7におけるネオジム及びイットリウムの合計の含有量に対する、貴金属粒子6におけるパラジウムの含有量のモル比([Pdの含有量]/[Nd及びYの合計含有量])を0.15〜0.5の範囲に調整している。この最適値は、Pd−Nd間又はPd−Y間の化学的相互作用が最も働く領域にある。ここで、上記モル比が0.5を超える場合には、Pd−Nd間又はPd−Y間の化学的相互作用が及ばないパラジウム同士が互いに凝集し、表面積が低下することで触媒性能が低下する虞がある。また、モル比が0.15未満の場合には、パラジウムの含有量が減少し、排気ガスとパラジウムの接触確率が著しく低下するため、浄化率が低下する。さらに、モル比が0.15未満の場合には、アンカー粒子7におけるネオジム及びイットリウムの存在比が相対的に増加することに伴い、アンカー粒子7の耐熱性が低下する。そのため、永年使用後にアンカー粒子7の表面積が減少し、それに伴いパラジウムの表面積も減少することから、触媒性能が低下する虞がある。そのため、アンカー粒子7におけるネオジム及びイットリウムの合計の含有量に対する、貴金属粒子6におけるパラジウムの含有量のモル比は、0.15〜0.5の範囲に設定することが好ましい。なお、上記モル比は、0.15〜0.35の範囲がより好ましく、0.18〜0.3の範囲が最も好ましい。後述するように、モル比をこの範囲とすることにより、排気ガス中のNOx残存率を極めて減少させることが可能となる。
なお、ネオジム及びイットリウムは、アンカー粒子7中に含有されていれば貴金属粒子6中のパラジウムの凝集を抑制することが可能となる。つまり、ネオジム及びイットリウムがアンカー粒子7の表面に担持されていてもよく、アンカー粒子7の内部に混合物として存在していてもよい。また、アンカー粒子7を構成する元素とネオジム及びイットリウムとが固溶し、固溶体を形成していてもよい。つまり、アンカー粒子7中にネオジム及びイットリウムを含有することによって貴金属粒子6との間の化学的相互作用が増加するため、ネオジム及びイットリウムの混合状態は如何なるものであっても構わない。
貴金属粒子6は、上述のように、少なくともパラジウムを含有している必要がある。つまり、貴金属粒子6は、パラジウムのみから成っていてもよい。また、貴金属粒子6は、パラジウムと他の貴金属との合金から成っていてもよい。他の貴金属としては、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)及びルテニウム(Ru)の中から選ばれる少なくとも一つを使用することができる。この中でも特に白金(Pt)及びロジウム(Rh)が高い浄化性能を発揮することができる。
また、アンカー粒子7は、上述のように、ネオジム及びイットリウムの少なくともいずれか一方を含有している必要がある。そして、アンカー粒子7はネオジム及び/又はイットリウムのみから形成されていてもよいが、この場合は、アンカー粒子7の耐熱性が低下し、凝集が進行しやすくなる虞がある。そのため、アンカー粒子7は、ネオジム及びイットリウムの他に、ジルコニウム(Zr)及びセリウム(Ce)の少なくともいずれか一方を含有することが好ましい。これらの元素を含有することにより、貴金属粒子に対するアンカー機能がより向上し、耐久性能が向上する。なお、アンカー粒子7は金属元素の酸化物からなることが好ましいため、ジルコニウム及びセリウムは酸化ジルコニウム(ZrO2)及び酸化セリウム(CeO2)、もしくは両者の複合酸化物の状態で含有していることが好ましい。また、アンカー粒子7は、ネオジム及びイットリウムの他に、酸化アルミニウム(Al2O3)や酸化チタン(TiO2)などの無機酸化物を含有してもよい。このような耐熱性の無機酸化物を含有することにより、高温条件下でのアンカー粒子7の凝集を抑制することが可能となる。
さらに、アンカー粒子7は、酸化ジルコニウム(ZrO2)及び酸化セリウム(CeO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)などの無機酸化物を主成分とすることが好ましい。特にZrO2は高温耐熱性に優れ、高い比表面積を維持できるため、アンカー粒子7はZrO2を主成分とすることが好ましい。なお、本明細書において、主成分とは粒子中の含有量が50mol%以上の成分のことをいう。
また、アンカー粒子7において、ネオジム及びイットリウムは、酸化ネオジム(Nd2O3)及び酸化イットリウム(Y2O3)の状態、もしくは複合酸化物として含有されていることが好ましい。そして、アンカー粒子7において、酸化ネオジム(Nd2O3)及び酸化イットリウム(Y2O3)の酸化物換算での合計含有量は、1〜10mol%の範囲内であることが好ましい。酸化物換算で酸化ネオジム(Nd2O3)及び酸化イットリウム(Y2O3)の含有量がこの範囲内であることにより、上記無機酸化物の結晶構造を維持できるため、耐熱性に優れたアンカー粒子を得ることができる。
包接材9は、アルミニウム(Al)及びケイ素(Si)の少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。包接材9としては、アンカー粒子を包接でき、かつ、ガス透過性を確保できる材料が好ましい。Al及びSiの少なくとも一つを含む化合物、例えばアルミナ(Al2O3)及びシリカ(SiO2)などは細孔容積が大きく、高いガス拡散性を確保することができる。そのため、包接材9は、Al2O3及びSiO2を主成分とすることが好ましい。なお、包接材は、Al及びSiの複合酸化物であってもよい。
ここで、触媒粒子5における、アンカー粒子7の質量比が30〜70質量%であり、包接材9の質量比が70〜30質量%であることが好ましい。アンカー粒子7の質量比が30質量%以上であることにより、アンカー粒子上に担持される貴金属の密度が低下する。つまり、1つのアンカー粒子に担持される貴金属量が減少するため、永年使用後にアンカー粒子上で貴金属粒子が凝集したとしても、貴金属粒子が大幅に肥大化しない。その結果、貴金属粒子の表面積の低下を抑制することができる。また、アンカー粒子の質量比が70質量%以下であることにより、包接材量が低下することを抑制できる。そのため、永年使用後であってもアンカー粒子同士の凝集及びこれに伴う貴金属粒子同士の凝集を抑制することができる。
ここで、触媒粒子5で使用される包接材9は、触媒ユニット10の周囲を完全に包囲するわけではない。つまり、包接材9は、触媒ユニット10の物理的移動を抑制する程度に覆いつつも、排気ガスや活性酸素が透過できる程度の細孔を有している。具体的には、図1(c)に示すように、包接材9は、触媒ユニット10を適度に包接し、触媒ユニット同士の凝集を抑制している。さらに、包接材9は、複数の細孔9aを有しているため、排気ガスや活性酸素が通過することができる。この細孔9aの細孔径は、30nm以下が好ましく、10nm〜30nmがより好ましい。なお、この細孔径は、ガス吸着法により求めることができる。
上述のように、このような包接材9としては、アルミナやシリカを使用することができる。包接材がアルミナを主成分とする場合、前駆体としてベーマイト(AlOOH)を使用することが好ましい。つまり、貴金属粒子6を担持したアンカー粒子7を、ベーマイトを水等の溶媒に分散させたスラリーに投入し、攪拌する。これにより、アンカー粒子7の周囲にベーマイトが付着する。そして、この混合スラリーを乾燥及び焼成することにより、アンカー粒子7の周囲でベーマイトが脱水縮合し、ベーマイト由来のγアルミナからなる包接材が形成される。このようなベーマイト由来のアルミナからなる包接材は、アンカー粒子7を覆いつつも、30nm以下の細孔を多く有しているため、ガス透過性にも優れている。
同様に、包接材がシリカを主成分とする場合には、前駆体としてシリカゾル及びゼオライトを使用することが好ましい。つまり、貴金属粒子6を担持したアンカー粒子7を、シリカゾル及びゼオライトを溶媒に分散させたスラリーに投入し、攪拌し、乾燥及び焼成することにより、シリカからなる包接材が形成される。このようなシリカゾル及びゼオライト由来のシリカからなる包接材も、アンカー粒子7を覆いつつも30nm以下の細孔を多く有しているため、ガス透過性に優れている。
なお、包接材9により隔てられた区画内に含まれる触媒ユニット10の平均粒子径は300nm以下であることが好ましい。そのため、触媒ユニット10に含まれるアンカー粒子7の平均二次粒子径も300nm以下であることが好ましい。この場合には、貴金属を微粒子状態に維持することができる。より好ましい触媒ユニット10の平均粒子径及びアンカー粒子の平均二次粒子径は200nm以下である。これにより、アンカー粒子の二次粒子上に担持される貴金属量がさらに減るため、貴金属の凝集を抑制することができる。なお、触媒ユニット10の平均粒子径及びアンカー粒子7の平均二次粒子径の下限は特に限定されないが、例えば5nmとすることができる。ただ、後述するように、触媒ユニット10の平均粒子径が包接材9に形成されている細孔9aの平均細孔径より大きいことが好ましい。そのため、触媒ユニット10の平均粒子径及びアンカー粒子7の平均二次粒子径は、30nmを超えることがより好ましい。
アンカー粒子の平均二次粒子径は、触媒粒子の製造過程における、この粒子を含有するスラリーを、レーザー回折式粒度分布測定装置にかけることにより求めることができる。なお、この場合の平均二次粒子径とは、メジアン径(D50)をいう。また、得られた触媒粉末の透過型電子顕微鏡(TEM)の写真より、アンカー粒子の平均二次粒子径や後述する貴金属粒子の粒子径を測定することもできる。さらに、触媒ユニット10の平均粒子径もTEM写真より測定することができる。
また、貴金属粒子6の平均粒子径は2nm以上10nm以下の範囲内にあることが望ましい。貴金属粒子6の平均粒子径が2nm以上である場合には、貴金属粒子6自身の移動によるシンタリングを低減することができる。また、貴金属粒子6の平均粒子径が10nm以下である場合には、排気ガスとの反応性の低下を抑えることができる。
ここで、貴金属粒子6とアンカー粒子7とを含有した触媒ユニット10に関し、その触媒ユニット10の平均粒子径Daと、触媒ユニット10を内包する包接材9に形成されている細孔9aの平均細孔径Dbとが、Db<Daの関係を満たすことが好ましい。つまり、図1(c)に示すように、Db<Daは、触媒ユニット10の平均粒子径Daが、包接材9の細孔9aの平均径Dbよりも大きいことを意味している。Db<Daであることにより、貴金属粒子6とアンカー粒子7との複合粒子8が、包接材9に形成されている細孔9aを通して移動することが抑制される。したがって、他の区画に包接される複合粒子8との凝集を低減することができる。
なお、上記不等式Db<Daの効果は、本発明者らの実験により確認されている。図2は、排気耐久試験前の複合粒子8の平均粒子径Daと包接材の平均細孔径Dbの比(Da/Db)を横軸に、排気耐久試験後のアンカー粒子7としてのセリア(CeO2)の結晶成長比及び貴金属粒子6としての白金(Pt)の表面積を縦軸にして、これらの関係を示すグラフである。図2から、Da/Dbが1を超える場合にはセリアの結晶成長比が顕著に低下し、セリアの焼結が少ないことが分かる。また、耐久試験後でも白金の表面積が高い状態で維持され、白金の凝集が抑制されていることが分かる。
さらに、貴金属粒子6の80%以上はアンカー粒子7に接触していることが望ましい。アンカー粒子7と接触している貴金属粒子6の割合が80%未満であると、アンカー粒子7上に存在しない貴金属粒子6が増加するため、貴金属粒子6の移動によってシンタリングが進むことがある。
また、アンカー粒子7は、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)から選ばれる少なくとも一つをさらに含有していることが好ましい。つまり、上述のように、アンカー粒子7はジルコニアやアルミナを主成分とし、さらにネオジム及びイットリウムの少なくとも一方を含有している。そして、アンカー粒子は、上記遷移金属を添加物として含有することが望ましい。これらの遷移金属を少なくとも一つを含有することで、遷移金属が有する活性酸素により触媒性能、特にCO及びNOx浄化率を向上させることができる。
また、包接材9により隔てられた区画内には、貴金属粒子6を合計で8×10−20モル以下の量で含有することが好ましい。つまり、一つの触媒ユニット10内において、貴金属粒子6のモル数は8×10−20モル以下であることが好ましい。包接材9により隔てられた区画内では、高温状態において複数個の貴金属粒子6が移動し、互いに凝集する場合がある。この場合、アンカー粒子7の表面で一つ又は複数個の貴金属粒に凝集する。
ここで、一つの触媒ユニット10内で貴金属粒子6が凝集した場合に、凝集した貴金属粒子6の粒径が10nm以下であれば、充分な触媒活性を示し、凝集による劣化を抑制することができる。図3は、貴金属としての白金やパラジウムに関し、粒子径と表面積との関係を示すグラフである。なお、図3では白金とパラジウムの場合でほぼ同じ曲線を示すので、一つの曲線として示している。図3から明らかなように、貴金属の粒子径が10nm以下であれば表面積が大きいため、凝集による触媒活性の劣化を抑制することができる。
そして、図4は、貴金属としての白金やパラジウムに関し、粒子径と原子数との関係を示すグラフである。なお、図4では白金とパラジウムの場合でほぼ同じ曲線を示すので、一つの曲線として示している。図4から明らかなように、粒子径が10nmであるとき、貴金属の原子数は約48000であり、この値をモル数に換算すると約8×10−20モルとなる。これらの観点から、触媒ユニット10内の貴金属量を制限し、8×10−20モル以下とすることで、たとえ触媒ユニット10内で貴金属が1個に凝集しても、触媒活性の劣化を抑制することができる。なお、触媒ユニット10内に含まれる貴金属量を8×10−20モル以下にする方法としては、貴金属粒子6を担持するアンカー粒子7の粒径を小さくすることが挙げられる。
さらに、図1(c)に示す触媒粒子5において、貴金属粒子6のアンカー粒子7への吸着安定化エネルギーがEaであり、貴金属粒子6の包接材9への吸着安定化エネルギーがEbであるとき、EaがEbよりも小さい値であること(Ea<Eb)が好ましい。貴金属粒子6のアンカー粒子7への吸着安定化エネルギーEaが、貴金属粒子6の包接材9への吸着安定化エネルギーEbよりも小さいことにより、貴金属粒子6が包接材9に移動することを抑制できる。その結果、貴金属粒子6の凝集をさらに低減することができる。
また、貴金属粒子6のアンカー粒子7への吸着安定化エネルギーEaと、貴金属粒子6の包接材9への吸着安定化エネルギーEbとの差(Eb−Ea)が、10.0cal/molを超えることがより好ましい。吸着安定化エネルギー差が10.0cal/molを超えることにより、貴金属粒子6が包接材9に移動することをより確実に抑制することができる。
なお、貴金属粒子6のアンカー粒子7への吸着安定化エネルギーEaや、貴金属粒子6の包接材9への吸着安定化エネルギーEbは、いずれも密度汎関数法を用いたシミュレーションにより算出することができる。この密度汎関数法は、多電子間の相関効果を取り入れたハミルトニアンを導入して、結晶の電子状態を予測する方法である。その原理は、系の基底状態の全エネルギーを電子密度汎関数法で表すことができるという数学的定理に基づいている。そして、密度汎関数法は、結晶の電子状態を計算する手法として信頼性が高い。
このような密度汎関数法は、貴金属粒子6とアンカー粒子7及び包接材9との界面における電子状態を予測するのに適している。そして、実際のシミュレーション値を基に選択した貴金属粒子、アンカー粒子及び包接材の組み合わせを基に設計した本実施形態の触媒は、貴金属粒子の粗大化が生じにくく、永年使用後も高い浄化性能を維持することが確認されている。このような密度汎関数法を用いたシミュレーションのための解析ソフトウェアは市販されており、解析ソフトの計算条件の一例としては、以下のものが挙げられる。
プリ/ポスト:Materials studio 3.2 (Accelrys社製)、ソルバ:DMol3 (Accelrys社製)、温度:絶対零度、近似:GGA近似
このように、本実施形態の排ガス浄化触媒5は、貴金属粒子6と、貴金属粒子6のアンカー材として貴金属粒子6を担持するアンカー粒子7とを含む複数の触媒ユニット10を備える。さらに触媒5は、複数の触媒ユニット10を内包し、かつ、触媒ユニット10同士を互いに隔てる包接材9を備える。そして、貴金属粒子6はパラジウムを含有し、アンカー粒子7はネオジム及びイットリウムの少なくとも一方を含有する。さらに、アンカー粒子7におけるネオジム及びイットリウムの合計の含有量に対する、貴金属粒子6におけるパラジウムの含有量のモル比([Pdの含有量]/[Nd及びYの合計含有量])は、0.15〜0.5の範囲内である。これにより、アンカー粒子7のアンカー効果により、貴金属粒子6の移動及び凝集を抑制することができる。その結果、触媒温度が900℃を超える高温状態になったとしても、貴金属粒子6を微細状態に維持し、高い浄化性能を発揮することができる。
さらに、本実施形態の排ガス浄化触媒構造体1は、排ガス浄化触媒5を含有した触媒層3と、触媒層3を担持する耐火性無機担体2とを備える。上述のように、本実施形態の排ガス浄化触媒5は、900℃以上でも貴金属粒子の微細状態を維持することができる。そして、このような触媒5を耐火性無機担体2に塗布して触媒層3を形成することにより、触媒層3の圧力損失が低減され、熱安定性、耐熱衝撃性及び機械的強度を高くすることができる。
耐火性無機担体2としては、コーディエライト製ハニカム担体を用いることができる。コージェライト製ハニカム担体は、耐熱性、耐衝撃性及び製造コストに優れ、自動車用排ガス浄化触媒の担体として一般的に用いられる。流路(セル2a)の断面形状は四角形や六角形などがあるが、本実施形態ではいずれの形状でも使用することができる。また、耐火性無機担体2としては、ステンレス製のメタル担体も用いることができる。メタル担体は、壁厚を薄く加工できることから、圧力損失の低減が要求される高出力車を中心に採用される。メタル担体は、波状に加工されたステンレス箔を同心円状に巻き取る加工するため、流路形状は主として3箇所に隅部をもつ不定形な形状となる。本実施形態ではこの形状の担体にも使用することができる。
なお、本実施形態の触媒構造体1は、図1(b)のように、触媒5を含有する単層の触媒層3を耐火性無機担体2に担持してもよい。しかし、図5のように、触媒5を含有する触媒層3の内層に、他の触媒層4を設けることができる。そして、表層側の触媒層3は貴金属粒子としてパラジウムを含有させ、内層側の触媒層4に白金及びロジウムの少なくとも一方を含有させることが好ましい。つまり、パラジウムを含有する触媒層3は、白金及びロジウムの少なくとも一方を含有する触媒層4よりも表層側に配置されていることが好ましい。触媒層を複数設けることで、触媒性能を向上させることが可能となる。特にパラジウムに対し比較的価格の高い白金やロジウムを内層側に配置することで、高温の排気ガスに対する耐熱性の緩和及び微小な粒子(スス、オイル中の灰分、未燃燃料)からの物理的な保護を行うことができる。
さらに、上述のように、パラジウムを含有する貴金属粒子6は、Nd及び/又はYを含有するアンカー粒子7上に担持され、高温条件下における凝集が抑制されている。そのため、たとえ触媒層3を表層側に配置しても貴金属粒子6の表面積を高い状態に維持することができる。また、パラジウムを表層側に配置することにより、早期に活性化することが可能となる。
なお、触媒層4中に含有される触媒粉末は、図1に示す触媒粒子5と同様に、白金及びロジウムをアンカー粒子に担持し、さらにこの白金及びロジウムを担持したアンカー粒子を包接材により覆うことが好ましい。ただ、触媒層4では、必ずしも包接材で覆う必要はなく、白金及びロジウムを担持したアンカー粒子を触媒層4に含有させてもよい。
<第二実施形態>
以下、図面を用いて第二実施形態の触媒について詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、繰り返しの説明は省略する。
本実施形態の排ガス浄化触媒(触媒粒子)15は、図6に示すように、貴金属粒子6と、アンカー粒子7と、第一助触媒粒子11とを含有している。アンカー粒子7は、貴金属粒子6のアンカー材として貴金属粒子6を表面に担持している。また、第一助触媒粒子11は、貴金属粒子6と非接触に配設され、酸素吸蔵放出能を有している。さらに触媒粒子15は、貴金属粒子6とアンカー粒子7との複合粒子8及び第一助触媒粒子11を共に包接し、複合粒子8と第一助触媒粒子11を互いに隔てる包接材9を含有する。
触媒粒子15では、第一実施形態の触媒粒子5と同様に、貴金属粒子6とアンカー粒子7とが接触して担持することにより、貴金属粒子6の移動を抑制する。また、貴金属粒子6が担持されたアンカー粒子7を包接材9で覆い、内包する形態とすることにより、貴金属粒子6が包接材9により隔てられた区画を越えて移動することを物理的に抑制する。さらに、包接材9により隔てられた区画内にアンカー粒子7を含むことにより、包接材9により隔てられた区画を越えてアンカー粒子7同士が接触し凝集することを抑制する。
さらに、触媒粒子15では、酸素吸蔵放出能を有する第一助触媒粒子11も包接材9で覆い、内包する形態とすることにより、第一助触媒粒子11の物理的移動をも抑制する。つまり、包接材9により隔てられた区画内に第一助触媒粒子11を含むことにより、包接材9により隔てられた区画を越えて第一助触媒粒子11同士が接触し凝集することを抑制する。その結果、耐熱性が比較的低い第一助触媒粒子11が900℃を超える高温状態に曝されたとしても、第一助触媒粒子11が凝集し、比表面積が低下することを抑制することができる。
そして、第一実施形態と同様に、アンカー粒子7に、上記ネオジム及びイットリウムの少なくともいずれか一方を含有させる。これにより、アンカー粒子7のアンカー効果が増大し、貴金属粒子6がアンカー粒子7から包接材9に移動し凝集することを抑制する。その結果、触媒温度が900℃を超える状態になったとしても、貴金属粒子6を微細状態に維持し、高い浄化性能を維持することができる。
第一助触媒粒子11は、酸素吸蔵放出能を有するセリウム(Ce)及びプラセオジム(Pr)のうちの少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。特に第一助触媒粒子としては、酸化セリウム(CeO2)や酸化プラセオジム(Pr6O11)のような酸素吸蔵放出能が高い化合物を主成分とすることが好ましい。Ce及びPrはいずれも複数の価数を取り、排ガス雰囲気変動により酸化数が変化するため、活性酸素の吸蔵及び放出が可能な材料である。
また、包接材9により隔てられた区画内に含まれる助触媒ユニット12の平均粒子径は1000nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。そのため、助触媒ユニット12に含まれる第一助触媒粒子11の平均二次粒子径も1000nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。これによって第一助触媒粒子11の表面積が大きく向上するため、活性酸素の供給速度が向上し、触媒性能を高めることができる。なお、助触媒ユニット12の平均粒子径及び第一助触媒粒子11の平均二次粒子径の下限は、特に限定されない。ただ、後述するように、助触媒ユニット12の平均粒子径が包接材9に形成されている細孔9aの平均細孔径より大きいことが好ましい。そのため、助触媒ユニット12の平均粒子径及び第一助触媒粒子11の平均二次粒子径は、30nmを超えることが好ましい。なお、第一助触媒粒子の平均二次粒子径は、触媒粒子の製造過程における、この粒子を含有するスラリーを、レーザー回折式粒度分布測定装置にかけることにより求めることができる。なお、この場合の平均二次粒子径とは、メジアン径(D50)をいう。
ここで、上述のように、貴金属粒子6とアンカー粒子7を含有した触媒ユニット10に関し、触媒ユニット10の平均粒子径Daと、触媒ユニット10を内包する包接材9に形成されている細孔9aの平均細孔径Dbとが、Db<Daの関係を満たすことが好ましい。さらに、触媒ユニット10と同様に、助触媒ユニット12の平均粒子径Dcと、助触媒ユニット12を内包する包接材9に形成されている細孔9aの平均細孔径Dbとが、Db<Dcの関係を満たすことが好ましい。つまり、図6に示すように、Db<Dcは、助触媒ユニット12の平均粒子径Dcが、包接材9の細孔9aの平均径Dbよりも大きいことを意味している。Db<Dcであることにより、第一助触媒粒子11が、包接材9に形成されている細孔9aを通して移動することが抑制される。したがって、他の区画に包接される第一助触媒粒子との凝集を低減することができる。その結果、第一助触媒粒子の表面積が高い状態で維持されるため、粒子表面における活性酸素の吸蔵及び放出を効率的に行うことができる。
<第三実施形態>
以下、図面を用いて第三実施形態の触媒について詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、繰り返しの説明は省略する。
本実施形態の排ガス浄化触媒25は、図7(a)に示すように、排ガス浄化触媒構造体1の触媒層3Aを構成している。そして、触媒層3Aは、図7(b)及び(c)に示すように、複数の第二実施形態の触媒粒子15と、複数の第二助触媒粒子16とを含有した触媒粉末25により形成されている。
上記第二実施形態の排ガス浄化触媒(触媒粒子)15では、第一助触媒粒子11が包接材9で覆われているため、第一助触媒粒子11の凝集及び比表面積の低下が抑制され、高い耐久性を発揮することができる。
ここで、第二実施形態の排ガス浄化触媒(触媒粒子)15をハニカム担体の内部にコーティングし、触媒層を形成した際、触媒層内における触媒粒子の間の細孔径は、第一助触媒粒子11を覆う包接材9の細孔9aの平均径Dbよりもはるかに大きい。そのため、ハニカム担体の入口から触媒層内に流入する排気ガスは、包接材9の細孔9aよりも触媒粒子間の細孔を通過しやすい。したがって、例えば排気ガスが酸素過剰時の場合、包接材9により包接された第一助触媒粒子11が酸素を吸収しきるより先に触媒層の深部まで酸素が到達する。そのため、触媒層の深部における触媒粒子の周囲には酸素が過剰に存在することから、窒素酸化物の還元が行われにくい場合があった。また、排気ガスの空燃比(A/F)が変動する場合において、触媒層上部のみではA/F変動を吸収しきれず、排気ガスの浄化率が低下する場合があった。
そこで、本実施形態の排ガス浄化触媒(触媒粉末)25では、図7(b)に示すように、第二助触媒粒子16が触媒粒子15と共に触媒層3A内に分散されている。そして、第二助触媒粒子16は、複数の触媒粒子15の間に形成される細孔15aの中に配置されているため、この細孔内を通過する排気ガス中の酸素を効率的に吸蔵することができる。このため、触媒層の深部まで酸素が到達しにくくなることから、触媒粉末の周囲には酸素が過剰に存在し難くなり、窒素酸化物の還元が効率的に行われるようになる。また、リーン雰囲気からストイキあるいはリッチ雰囲気へと大きく変動する際には、第一助触媒粒子11及び第二助触媒粒子16が吸蔵した活性酸素を放出するため、HC、COの酸化も効率的に行うことができる。
第二助触媒粒子16としては、第一助触媒粒子11と同様に、酸素吸蔵放出能を有するセリウム(Ce)及びプラセオジム(Pr)のうちの少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。特に第二助触媒粒子16としては、酸化セリウム(CeO2)や酸化プラセオジム(Pr6O11)のような酸素吸蔵放出能が高い化合物を主成分とすることが好ましい。
なお、触媒粒子15及び第二助触媒粒子16の平均粒子径(D50)は、特に限定されないが、6μm以下であることが好ましい。この平均粒子径は、図7(b)に示すように、触媒層3内における、触媒粒子15及び第二助触媒粒子16の平均粒子径のことである。これらの平均粒子径が6μmを超える場合、触媒粒子15及び第二助触媒粒子16の外周部からの粒子の中心部までの距離が大きくなり、粒子中心部へのガス拡散性が著しく低下するため、浄化性能が低下する虞がある。また、6μmを超える場合、ハニカム担体へのコート時に剥離や偏りなどが起き易くなる。触媒粒子15及び第二助触媒粒子16の平均粒子径は、適切な粒子間空隙が形成でき、さらに剥離を抑制できる1μm〜4μmの範囲であることがより好ましい。なお、触媒粒子15及び第二助触媒粒子16の平均粒子径は、これらの粒子を含有するスラリーをレーザー回折式粒度分布測定装置にかけることにより求めることができる。
本実施形態の排ガス浄化触媒は、第二実施形態の触媒粒子15により形成される細孔間に酸素吸蔵放出能を有する助触媒粒子を配設する。そのため、排気ガスの空燃比が変動する場合においても過剰な酸素を吸蔵でき、触媒層の内部においても高いNOx浄化性能を発揮することができる。
ここで、本発明の排ガス浄化触媒は、酸化セリウム(CeO2)をさらに含有し、酸化セリウムの含有量は、耐火性無機担体の容量1Lあたり15〜25g/Lの割合であることが好ましい。酸化セリウムの含有量が15g/L以上であることにより、排気ガス中の雰囲気変動に対し充分な量の活性酸素の供給及び吸収を行うことができ、触媒性能を向上させることが可能となる。また、酸化セリウムの含有量が25g/L以下であることにより、過剰な量の活性酸素の供給による触媒性能の低下を抑制することができる。特にNOx浄化では還元反応を起こす必要があるため、酸化セリウムの含有量をこの範囲に規定することにより、過剰な活性酸素の供給を抑制することが可能となる。また、近年、高騰を続けるレアアースの一つであるセリアの使用量を低減し、排ガス浄化触媒を安価にすることが可能となる。なお、上記酸化セリウムは、アンカー粒子7、第一助触媒粒子11、第二助触媒粒子16のいずれかに含有していることが好ましい。
[排ガス浄化触媒の製造方法]
<第一実施形態の排ガス浄化触媒の製造方法>
次に、第一実施形態の排ガス浄化触媒の製造方法について説明する。本製造方法は、貴金属粒子6とアンカー粒子7との複合粒子8を粉砕する工程と、粉砕された複合粒子8を、包接材9の前駆体を含有したスラリーに混合し、乾燥する工程とを有する。
具体的には、まず、ネオジム及びイットリウムの少なくともいずれか一方を含有したアンカー粒子7を準備する。このようなアンカー粒子7は、公知の共沈法を用いることにより調製することができる。
次に、アンカー粒子7に貴金属粒子6を担持する。このとき、貴金属粒子6は含浸法により担持することができる。そして、貴金属粒子6を表面に担持したアンカー粒子7をビーズミル等を用いて粉砕し、所望の粒子径とする。アンカー粒子7の粒子径としては、上述のように、例えば300nmとすることができる。なお、アンカー粒子7の原料として、酸化物コロイド等の微細な原料を用いることにより、破砕工程を省略することができる。
その後、包接材9の前駆体を含有した包接材スラリーを調製する。包接材9の前駆体としては、上述のように、包接材がアルミナを主成分とする場合、ベーマイト(AlOOH)を使用することが好ましく、シリカを主成分とする場合には、シリカゾルとゼオライトを使用することが好ましい。そして、上記包接材スラリーは、包接材9の前駆体を水等の溶媒に混合した後、攪拌することにより調製することができる。
次に、上記包接材スラリーに、貴金属粒子6を担持したアンカー粒子7を粉砕したものを投入し、攪拌する。上記スラリーを攪拌することにより、アンカー粒子7の周囲に包接材9の前駆体が付着する。その後、このスラリーを乾燥及び焼成することにより、貴金属を担持したアンカー粒子7の周囲に包接材9が形成された触媒粒子(排ガス浄化触媒)5を得ることができる。
<第二実施形態の排ガス浄化触媒の製造方法>
次に、第二実施形態の排ガス浄化触媒の製造方法について説明する。本製造方法は、まず、第一実施形態の触媒の製造方法と同様に、ネオジム及びイットリウムの少なくともいずれか一方を含有したアンカー粒子7を準備する。次に、アンカー粒子7に貴金属粒子6を担持する。貴金属の担持も上述のように含浸法を使用ことができる。そして、貴金属粒子6を表面に担持したアンカー粒子7を上述のように粉砕し、所望の粒子径とする。さらに第一助触媒粒子11もビーズミル等を用いて粉砕し、所望の粒子径とする。この際、アンカー粒子7と第一助触媒粒子11は混合した状態で粉砕してもよいし、個別に粉砕してもよい。
次に、上記粉砕後、複合粒子8と第一助触媒粒子11を包接材9で包接するに際しては、複合粒子8を包接したものと第一助触媒粒子11を包接したものとを混合するのではなく、複合粒子8と第一助触媒粒子11とを同時に包接材9で包接することが好ましい。これにより、複合粒子8と第一助触媒粒子11とを均一にかつ偏りなく分散させることができる。
具体的には、複合粒子8と第一助触媒粒子11とを、包接材9の前駆体を分散させた包接材スラリーに投入し、攪拌する。そして、このスラリーを攪拌することにより、複合粒子8と第一助触媒粒子11の周囲に包接材9の前駆体が付着する。その後、この混合スラリーを乾燥及び焼成することにより、複合粒子8と第一助触媒粒子11の周囲に、包接材9が形成された触媒粒子15(排ガス浄化触媒15)を得ることができる。
<第三実施形態の排ガス浄化触媒の製造方法>
次に、第三実施形態の排ガス浄化触媒の製造方法について説明する。本製造方法は、まず、第二実施形態の触媒の製造方法と同様に、複合粒子8と第一助触媒粒子11の周囲に包接材9が形成された触媒粒子15を調製する。次に、触媒粒子15と、第二助触媒粒子16とを混合することにより、触媒粉末25(排ガス浄化触媒25)を得ることができる。
[排ガス浄化触媒構造体の製造方法]
次に、本発明の排ガス浄化触媒構造体の製造方法について説明する。本製造方法は、まず上述のように調製した排ガス浄化触媒5,15,25を粉砕する。この粉砕は湿式でも乾式でもよいが、通常は排ガス浄化触媒5,15,25をイオン交換水等の溶媒に混合し攪拌した後、ボールミル等を用いて粉砕する。これにより、排ガス浄化触媒5,15,25が溶媒中で分散した触媒スラリーを得る。この際、必要に応じて触媒スラリーにバインダを添加する。なお、触媒スラリーにおける排ガス浄化触媒5,15,25の平均粒子径(D50)は、6μm以下であることが好ましい。
その後、上記触媒スラリーを耐火性無機担体(ハニカム担体)の内面に塗布し、乾燥及び焼成することにより、排ガス浄化触媒構造体を得ることができる。
[排ガス浄化システム]
本実施形態の排ガス浄化システム30は、図8に示すように、内燃機関31の排気ガス流路32に、排ガス浄化触媒構造体33A,33Bを配置した構成とすることができる。そして、排ガス浄化触媒構造体33A,33Bの少なくともいずれか一方に排ガス浄化触媒5,15,25を有した触媒構造体を使用することが好ましい。
本実施形態の排ガス浄化システム30をこのような構成とすることにより、排ガス浄化触媒構造体33A,33Bを早期に活性化させ、低温域においても排ガスを浄化することができる。特に、本発明の排ガス浄化触媒構造体は、極めて高温状態でも貴金属粒子の凝集を抑制することができるため、排気マニホールド34の直下に近接して配置することも可能である。そして、排気マニホールド34の直下に設けることにより触媒構造体を早期に活性化することができるため、排気ガスを低温から効率的に浄化することが可能となる。なお、本実施形態の排ガス浄化システムは、図8に示す構成に限られない。例えば、排ガス浄化触媒構造体33A,33Bの前後にさらに三元触媒やNOx吸着触媒を設けてもよい。また、本実施形態の排ガス浄化システム30は、ガソリンエンジン、リーンバーンエンジン、直噴エンジン及びディーゼルエンジンなどを様々な内燃機関に用いることができる。
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(Pd粉末の調製)
まず、比表面積が約70m2/gの活性ジルコニウム−セリウム−ネオジム複合酸化物粉末(Zr−Ce−Nd−Ox粉末)に硝酸パラジウム溶液を担持した。この溶液を150℃で一昼夜乾燥後、400℃で1時間焼成して、Pd担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末を得た。なお、Pd担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末中におけるパラジウムの担持量は3.0質量%とした。次に、Pd担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末を粉砕し、平均粒子径(D50)を150nmとした。なお、本実施例及び比較例での平均粒子径の測定には、株式会社堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いた。
次に、ベーマイト(包接材前駆体)と、10%硝酸と、水とを混合し、1時間攪拌して、ベーマイト水溶液を調製した。そして、ベーマイト水溶液中に粉砕したPd担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末をゆっくりと投入し、高速攪拌機を用いて2時間攪拌した。さらに、このベーマイトとPd担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末の混合物に、別途粉砕した消失材を投入し、高速攪拌機を用いてさらに2時間攪拌した。当該消失材としては、カーボン粒子を用いた。そして、得られたスラリーを急速乾燥し、150℃で一昼夜さらに乾燥させて水分を除去した。その後、550℃で3時間、空気中で焼成し、消失材を消失させることにより、実施例1のPd粉末を得た。なお、このPd粉末は、図1(c)に示すように、Pd担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末をアルミナからなる包接材で包接したものである。
(Pt/Rh粉末の調製)
まず、比表面積が約70m2/gの活性ジルコニウム−セリウム−ネオジム複合酸化物粉末(Zr−Ce−Nd−Ox粉末)に、ジニトロジアミン白金溶液を担持した。この溶液を150℃で一昼夜乾燥後、400℃で1時間焼成して、Pt担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末を得た。なお、Pt担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末中における白金の担持量は2.0質量%とした。
次に、比表面積が約70m2/gの活性ジルコニウム−セリウム−ランタン複合酸化物粉末(Zr−Ce−La−Ox粉末)に、硝酸ロジウム溶液を担持した。この溶液を150℃で一昼夜乾燥後、400℃で1時間焼成して、Rh担持Zr−Ce−La−Ox粉末を得た。なお、Rh担持Zr−Ce−La−Ox粉末中におけるロジウムの担持量は1.5質量%とした。
そして、Pt担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末とRh担持Zr−Ce−La−Ox粉末を混合し、粉砕することにより、平均粒子径(D50)を150nmとした。
次に、ベーマイトと、硝酸と、水とを混合し、1時間攪拌した。そして、この溶液中に、粉砕したPt担持Zr−Ce−Nd−Ox粉末とRh担持Zr−Ce−La−Ox粉末の混合物をゆっくりと投入し、高速攪拌機を用いてさらに2時間攪拌した。得られたスラリーを急速乾燥し、150℃で一昼夜さらに乾燥させて水分を除去した。その後、550℃、3時間空気中で焼成し、実施例1のPt/Rh粉末を得た。なお、このPt/Rh粉末は、Pt担持Zr−Ce−Nd−Ox及びRh担持Zr−Ce−La−Oxをアルミナからなる包接材で包接したものである。
(触媒層の調製)
上記Pd粉末225g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合した後、粉砕した。その後、粉砕したスラリーに、消失材としてカーボン粒子を混合することにより、Pd触媒スラリーを調製した。
次に、上記Pt/Rh粉末225g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合した後、粉砕した。その後、粉砕したスラリーに、消失材としてカーボン粒子を混合することにより、Pt/Rh触媒スラリーを調製した。
そして、Pt/Rh触媒スラリーをコーディエライト質モノリス担体(0.9L,600セル)に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。その後、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、500℃で1時間焼成して、Pt/Rh触媒層を作成した。さらに、Pd触媒スラリーをPt/Rh触媒層が担持されたモノリス担体に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。そして、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、500℃で1時間焼成して、Pd触媒層を調製した。このようにして、表層としてPd触媒層を設け、内層としてPt/Rh触媒層を設けた実施例1の触媒構造体を調製した。なお、モノリス担体に対するPd触媒スラリー及びPt/Rh触媒スラリーのコート量は、パラジウムが1.0g/L、白金が0.2g/L、ロジウムが0.2g/Lとなるように調整した。
[実施例2〜6]
アンカー材種と、Pd触媒スラリー及びPt/Rh触媒スラリーのコート量を表1に示す値になるように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例2〜6の触媒構造体を調製した。
[実施例7]
(Pd粉末の調製)
まず、比表面積が約70m2/gの活性ジルコニウム−セリウム−ネオジム−イットリウム複合酸化物粉末(Zr−Ce−Nd−Y−Ox粉末)に硝酸パラジウム溶液を担持した。この溶液を150℃で一昼夜乾燥後、400℃で1時間焼成して、Pd担持Zr−Ce−Nd−Y−Ox粉末を得た。なお、Pd担持Zr−Ce−Nd−Y−Ox粉末中におけるパラジウムの担持量は3.0質量%とした。次に、Pd担持Zr−Ce−Nd−Y−Ox粉末を粉砕し、平均粒子径(D50)を150nmとした。
さらに、比表面積が約70m2/gの活性ジルコニウム−セリウム−ネオジム複合酸化物粉末(Zr−Ce−Nd−Ox粉末)を粉砕し、平均粒子径(D50)を150nmとした。
次に、ベーマイト(包接材前駆体)と、10%硝酸と、水とを混合し、1時間攪拌して、ベーマイト水溶液を調製した。そして、ベーマイト水溶液中に粉砕したPd担持Zr−Ce−Nd−Y−Ox粉末及びZr−Ce−Nd−Ox粉末をゆっくりと投入し、高速攪拌機を用いて2時間攪拌した。さらに、このベーマイト、Pd担持Zr−Ce−Nd−Y−Ox粉末及びZr−Ce−Nd−Ox粉末の混合物に、別途粉砕した消失材を投入し、高速攪拌機を用いてさらに2時間攪拌した。当該消失材としては、カーボン粒子を用いた。そして、得られたスラリーを急速乾燥し、150℃で一昼夜さらに乾燥させて水分を除去した。その後、550℃で3時間、空気中で焼成し、消失材を消失させることにより、実施例7のPd粉末を得た。
(Pt/Rh粉末の調製)
実施例1と同様にして、Pt/Rh粉末を調製した
(触媒層の調製)
上記Pd粉末225g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合した後、粉砕した。その後、粉砕したスラリーに、消失材としてカーボン粒子を混合することにより、Pd触媒スラリーを調製した。
次に、上記Pt/Rh粉末225g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合した後、粉砕した。その後、粉砕したスラリーに、消失材としてカーボン粒子を混合することにより、Pt/Rh触媒スラリーを調製した。
そして、Pt/Rh触媒スラリーをコーディエライト質モノリス担体(0.9L,600セル)に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。その後、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、500℃で1時間焼成して、Pt/Rh触媒層を作成した。さらに、Pd触媒スラリーをPt/Rh触媒層が担持されたモノリス担体に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。そして、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、500℃で1時間焼成して、Pd触媒層を調製した。このようにして、表層としてPd触媒層を設け、内層としてPt/Rh触媒層を設けた実施例1の触媒構造体を調製した。なお、モノリス担体に対するPd触媒スラリー及びPt/Rh触媒スラリーのコート量は、パラジウムが1.0g/L、白金が0.2g/L、ロジウムが0.2g/Lとなるように調整した。
[比較例1]
Pd触媒層におけるアンカー材を、比表面積が約70m2/gの活性ジルコニウム−セリウム−イットリウム複合酸化物粉末(Zr−Ce−Y−Ox粉末)に変更したこと以外は、実施例1と同様にPd触媒層を調製した。さらに、Pt/Rh触媒層におけるアンカー材を、比表面積が約70m2/gの活性ジルコニウム粉末(ZrO2粉末)に変更したこと以外は、実施例1と同様にPt/Rh触媒層を調製した。そして、実施例1と同様に、表層としてPd触媒層を設け、内層としてPt/Rh触媒層を設けることにより、比較例1の触媒構造体を調製した。
[比較例2]
(Pd粉末の調製)
実施例1と同様にしてPd粉末を調整した。
(Rh粉末の調製)
比表面積が約70m2/gの活性ジルコニア粉末(ZrO2粉末)に、硝酸ロジウム溶液を担持した。この溶液を150℃で一昼夜乾燥後、400℃で1時間焼成して、Rh担持ZrO2粉末を得た。なお、Rh担持ZrO2粉末中におけるロジウムの担持量は1.5質量%とした。そして、Rh担持ZrO2粉末を混合し、粉砕することにより、平均粒子径(D50)を150nmとした。
次に、ベーマイトと、硝酸と、水とを混合し、1時間攪拌した。そして、この溶液中に、粉砕したRh担持ZrO2粉末をゆっくりと投入し、高速攪拌機を用いてさらに2時間攪拌した。得られたスラリーを急速乾燥し、150℃で一昼夜さらに乾燥させて水分を除去した。その後、550℃、3時間空気中で焼成し、比較例2のRh粉末を得た。なお、このRh粉末は、Rh担持ZrO2をアルミナからなる包接材で包接したものである。
(触媒層の調製)
上記Pd粉末225g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合した後、粉砕した。その後、粉砕したスラリーに、消失材としてカーボン粒子を混合することにより、Pd触媒スラリーを調製した。
次に、上記Rh粉末225g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合した後、粉砕した。その後、粉砕したスラリーに、消失材としてカーボン粒子を混合することにより、Rh触媒スラリーを調製した。
そして、Rh触媒スラリーをコーディエライト質モノリス担体(0.9L,600セル)に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。その後、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、500℃で1時間焼成して、Rh触媒層を作成した。さらに、Pd触媒スラリーをRh触媒層が担持されたモノリス担体に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。そして、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、400℃で1時間焼成して、Pd触媒層を調製した。このようにして、表層としてPd触媒層を設け、内層としてRh触媒層を設けた実施例1の触媒構造体を調製した。なお、モノリス担体に対するPd触媒スラリー及びRh触媒スラリーのコート量は、パラジウムが1.2g/L、ロジウムが0.2g/Lとなるように調整した。
[耐久試験方法]
排気量3500ccのガソリンエンジンの排気系に上記実施例1〜7並びに比較例1及び2の各触媒を装着し、触媒入口の排気ガス温度を900℃として、100時間運転し、各触媒を劣化させた。その後、排気量2000ccのガソリンエンジンの排気系に劣化後の各触媒を装着し、JC−08モード(コールドスタート)で走行し、次式1より窒素酸化物の残存率(NOx残存率)を測定した。
実施例1〜7並びに比較例1及び2の貴金属種、貴金属担持基材種、ネオジム及びイットリウムの合計に対するパラジウムのモル比、セリア量及び耐久試験後のNOx残存率を表1に示す。また、貴金属担持基材における各金属元素のモル比も表1の括弧内に記載した。なお、表1の貴金属担持基材における「Zr−Ce−Nd−Ox/Al2O3」は、アンカー粒子としてZr−Ce−Nd−Oxを用い、包接材としてAl2O3を用いたことを表す。同様に「ZrO2/Al2O3」は、アンカー粒子としてZrO2を用い、包接材としてAl2O3を用いたことを表す。
図9では、実施例1〜7並びに比較例1及び2における、ネオジム及びイットリウムの合計の含有量に対するパラジウムの含有量のモル比と耐久試験後のNOx残存率との関係を示す。図9に示すように、[Pdの含有量(mol)]/[Nd及びYの合計含有量(mol)]
が0.15〜0.5の範囲内では、900℃の耐久試験後における排気ガス中のNOx残存率を2%以下に低下させることが可能となる。特に、0.18〜0.3の範囲内では、排気ガス中のNOx残存率を1.5%以下に低下させることが可能となる。
以上、本発明を実施例及び比較例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。