以下、実施形態を図面に基づいて説明する。以下の実施形態の説明は、例示である。図1,2は、エンジン1の概略構成を示す。このエンジン1は、車両に搭載されると共に、少なくともガソリンを含有する燃料(具体的には、ガソリン、又は、ガソリン及びアルコールの混合燃料(E25等))が供給される火花点火式4サイクルエンジンである。エンジン1は、複数の気筒18(一つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯留されたオイルパン13とを有している。この例のエンジン1においては、図示を省略するが、4つの気筒18が一列に配置されている。各気筒18内には、コンロッド142を介してクランクシャフト15と連結されているピストン14が往復動可能に嵌挿されている。ピストン14の頂面には、ディーゼルエンジンでのリエントラント型のようなキャビティ141が形成されている。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するときには、後述するインジェクタ80に相対する。
シリンダヘッド12と、気筒18と、キャビティ141を有するピストン14とは、燃焼室を区画する。尚、燃焼室の形状は、図示する形状に限定されるものではない。例えばキャビティ141の形状、ピストン14の頂面形状、及び、燃焼室の天井部の形状等は、適宜変更することが可能である。
このエンジン1は、理論熱効率の向上や、後述する圧縮着火燃焼の安定化等を目的として、15以上の比較的高い幾何学的圧縮比に設定されている。尚、幾何学的圧縮比は15以上20以下程度の範囲で、適宜設定すればよい。
シリンダヘッド12には、気筒18毎に、吸気ポート16及び排気ポート17が形成されていると共に、これら吸気ポート16及び排気ポート17には、燃焼室側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
吸気弁21及び排気弁22をそれぞれ駆動する動弁系の内、排気側には、排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える、例えば油圧作動式の可変機構(図2参照。以下、VVL(Variable Valve Lift)と称する)71が設けられている。VVL71は、その構成の詳細な図示は省略するが、カム山を一つ有する第1カムとカム山を2つ有する第2カムとの、カムプロファイルの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁に伝達するロストモーション機構を含んで構成されている。第1カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22は、排気行程中において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22が、排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行う特殊モードで作動する。VVL71の通常モードと特殊モードとは、エンジンの運転状態に応じて切り替えられる。具体的に、特殊モードは、内部EGRに係る制御の際に利用される。尚、こうした通常モードと特殊モードとの切り替えを可能にする上で、排気弁22を電磁アクチュエータによって駆動する電磁駆動式の動弁系を採用してもよい。
排気側の動弁系にはまた、クランクシャフト15に対する排気カムシャフトの回転位相を変更することが可能な位相可変機構(以下、VVT(Variable Valve Timing)と称する)74が設けられている。VVT74は、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、その詳細な構造についての図示は省略する。
VVL71及びVVT74を備えた排気側の動弁系に対し、吸気側には、図2に示すように、VVT72と、吸気弁21のリフト量を連続的に変更することが可能なリフト量可変機構(以下、CVVL(Continuously Variable Valve Lift)と称する)73とが設けられている。CVVL73は、公知の種々の構造を適宜採用することが可能であり、その詳細な構造についての図示は省略する。VVT72及びCVVL73によって、吸気弁21はその開弁タイミング及び閉弁タイミング、並びに、リフト量をそれぞれ変更することが可能である。
シリンダヘッド12にはまた、気筒18毎に、気筒18内に燃料を直接噴射するインジェクタ80が取り付けられている。インジェクタ80は、その噴口が燃焼室の天井面の中央部分から、その燃焼室内に臨むように配設されている。インジェクタ80は、エンジン1の運転状態に応じた噴射タイミングでかつ、エンジン1の運転状態に応じた量の燃料を、燃焼室内に直接噴射する。この例において、インジェクタ80は、複数の噴口を有する多噴口型のインジェクタである。これによって、インジェクタ80は、燃料噴霧が放射状に広がるように、燃料を噴射する。インジェクタ80の構成の詳細は、後述する。
図外の燃料タンクとインジェクタ80との間は、燃料供給経路によって互いに連結されている。この燃料供給経路上には、高圧燃料ポンプ90とフューエルレール64とを含みかつ、インジェクタ80に、比較的高い燃料圧力で燃料を供給することが可能な燃料供給システム62が介設されている。高圧燃料ポンプ90は、燃料タンクからフューエルレール64に燃料を圧送し、フューエルレール64は圧送された燃料を、比較的高い燃料圧力で蓄えることが可能である。インジェクタ80が開弁することによって、フューエルレール64に蓄えられている燃料がインジェクタ80の噴口から噴射される。高圧燃料ポンプ90は、詳細は後述するが、プランジャ式のポンプであり、エンジン1によって駆動される。燃料供給システム62は、40MPa以上の高い燃料圧力の燃料を、インジェクタ80に供給可能に構成されている。インジェクタ80に供給される燃料の圧力は、後述するように、エンジン1の運転状態に応じて変更される。尚、燃料供給システム62は、この構成に限定されるものではない。
シリンダヘッド12にはまた、燃焼室内の混合気に点火する点火プラグ25、26が取り付けられている(図2参照。尚、図1では、点火プラグの図示を省略している)。このエンジン1は、点火プラグとして、第1点火プラグ25及び第2点火プラグ26の2つの点火プラグを備えている。2つの点火プラグ25、26は、各気筒18について2つずつ設けられた吸気弁21と排気弁22との間の位置のそれぞれにおいて、互いに相対するように配置され、それぞれ気筒18の中心軸に向かって斜め下向きに延びるように、シリンダヘッド12内を貫通して取り付けられている。こうして、各点火プラグ25、26の先端は、燃焼室の中央部分に配置されたインジェクタ80の先端近傍で、燃焼室内に臨んで配置される。
エンジン1の一側面には、図1に示すように、各気筒18の吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、エンジン1の他側面には、各気筒18の燃焼室からの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。また、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、気筒18毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒18の吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、空気を冷却又は加熱する、水冷式のインタークーラ/ウォーマ34と、各気筒18への吸入空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。吸気通路30にはまた、インタークーラ/ウォーマ34をバイパスするインタークーラバイパス通路35が接続されており、このインタークーラバイパス通路35には、当該通路35を通過する空気流量を調整するためのインタークーラバイパス弁351が配設されている。インタークーラバイパス弁351の開度調整を通じて、インタークーラバイパス通路35の通過流量とインタークーラ/ウォーマ34の通過流量との割合を調整することにより、気筒18に導入する新気の温度を調整する。
排気通路40の上流側の部分は、気筒18毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置として、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42とがそれぞれ接続されている。直キャタリスト41及びアンダーフットキャタリスト42はそれぞれ、筒状ケースと、そのケース内の流路に配置した、例えば三元触媒とを備えて構成されている。
吸気通路30におけるサージタンク33とスロットル弁36との間の部分と、排気通路40における直キャタリスト41よりも上流側の部分とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR通路50を介して接続されている。このEGR通路50は、排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52が配設された主通路51と、EGRクーラ52をバイパスするためのEGRクーラバイパス通路53と、を含んで構成されている。主通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するためのEGR弁511が配設され、EGRクーラバイパス通路53には、EGRクーラバイパス通路53を流通する排気ガスの流量を調整するためのEGRクーラバイパス弁531が配設されている。
このように構成されたエンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御器を構成する。
PCM10には、図1,2に示すように、各種のセンサSW1〜SW16の検出信号が入力される。この各種のセンサには、次のセンサが含まれる。すなわち、エアクリーナ31の下流側で、新気の流量を検出するエアフローセンサSW1及び新気の温度を検出する吸気温度センサSW2、インタークーラ/ウォーマ34の下流側に配置されかつ、インタークーラ/ウォーマ34を通過した後の新気の温度を検出する、第2吸気温度センサSW3、EGR通路50における吸気通路30との接続部近傍に配置されかつ、外部EGRガスの温度を検出するEGRガス温センサSW4、吸気ポート16に取り付けられかつ、気筒18内に流入する直前の吸気の温度を検出する吸気ポート温度センサSW5、シリンダヘッド12に取り付けられかつ、気筒18内の圧力を検出する筒内圧センサSW6、排気通路40におけるEGR通路50の接続部近傍に配置されかつ、それぞれ排気温度及び排気圧力を検出する排気温センサSW7及び排気圧センサSW8、直キャタリスト41の上流側に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサSW9、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42との間に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するラムダO2センサSW10、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW11、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW12、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW13、吸気側及び排気側のカム角センサSW14,SW15、及び、燃料供給システム62のフューエルレール64に取り付けられかつ、インジェクタ80に供給する燃料圧力を検出する燃圧センサSW16である。
PCM10は、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じてインジェクタ80、第1及び第2点火プラグ25、26、吸気弁側のVVT72及びCVVL73、排気弁側のVVL71及びVVT74、燃料供給システム62、並びに、各種の弁(スロットル弁36、インタークーラバイパス弁351、EGR弁511、及びEGRクーラバイパス弁531)のアクチュエータへ制御信号を出力する。こうしてPCM10は、エンジン1を運転する。
図3は、エンジン1の運転領域の一例を示している。このエンジン1は、燃費の向上や排気エミッションの向上を目的として、エンジン負荷が相対的に低い低負荷域では、点火プラグ25、26による点火を行わずに、圧縮自己着火によって燃焼を行う圧縮着火燃焼を行う。しかしながら、エンジン1の負荷が高くなるに従って、圧縮着火燃焼では、燃焼が急峻になりすぎてしまい、例えば燃焼騒音等の問題を引き起こすことになる。そのため、このエンジン1では、エンジン負荷が相対的に高い高負荷域では、圧縮着火燃焼を止めて、点火プラグ25、26を利用した火花点火燃焼に切り替える。このように、このエンジン1は、エンジン1の運転状態、特にエンジン1の負荷に応じて、圧縮着火燃焼を行うCI(Compression Ignition)モードと、火花点火燃焼を行うSI(Spark Ignition)モードとを切り替えるように構成されている。但し、モード切り替えの境界線は、図例に限定されるものではない。
CIモードでは基本的に、例えば吸気行程乃至圧縮行程中の、比較的早いタイミングで、インジェクタ80が気筒18内に燃料を噴射することにより、比較的均質なリーン混合気(空気過剰率λ≧1、例えばλ≧2.5)を形成すると共に、その混合気を圧縮上死点付近において圧縮自己着火させる。尚、燃料噴射量は、エンジン1の負荷に応じて設定される。
また、CIモードでは、VVL71の制御によって、排気弁22を吸気行程中に開弁する排気の二度開きを行い、そのことによって内部EGRガスを気筒18内に導入する。内部EGRガスの導入は圧縮端温度を高め、圧縮着火燃焼を安定化させる。
エンジン負荷の上昇に伴い気筒18内の温度が自然と高まることから、過早着火を回避する観点から、内部EGR量は低下させる。例えばCVVL73の制御によって、吸気弁21のリフト量を調整することにより、内部EGR量を調整してもよい。また、スロットル弁36の開度調整によって、内部EGR量を調整してもよい。
エンジン負荷がさらに高まり、例えば図3に示す運転領域において、CIモードとSIモードとの切り替え境界線付近においては、筒内温度が高くなりすぎて、圧縮着火をコントロールすることが困難になる場合がある。そこで、CIモードの運転領域において負荷の高い領域では、気筒18内に導入される内部EGRの割合を少なくし、その代わりにEGR弁511の開度を大きくして、EGRクーラ52によって冷却された外部EGRガスを、気筒18内に多く導入するようにしてもよい。このことにより、筒内温度を低く抑えることが可能になり、圧縮着火のコントロールが可能になる。
これに対し、SIモードでは基本的に、詳しくは後述するが、吸気行程から膨張行程初期までの間で、インジェクタ80が気筒18内に燃料を噴射することにより、均質乃至成層化した混合気を形成すると共に、圧縮上死点付近において点火を実行することによってその混合気に着火する。SIモードではまた、理論空燃比(λ=1)でエンジン1を運転する。これは、三元触媒の利用を可能にするから、エミッション性能の向上に有利になる。
SIモードでは、スロットル弁36を全開にする一方で、EGR弁511の開度調整により、気筒18内に導入する新気量と外部EGRガス量とを調整することで、充填量を調整する。これは、ポンプ損失の低減と共に、冷却損失の低減にも有効である。また、冷却した外部EGRガスを導入することによって、異常燃焼の回避に寄与すると共に、Raw NOxの生成を抑制するという利点もある。尚、全開負荷域では、EGR弁511を閉弁することにより、外部EGRを中止する。
このエンジン1の幾何学的圧縮比は、前述の通り、15以上(例えば18)に設定されている。高い圧縮比は、圧縮端温度及び圧縮端圧力を高くするため、CIモードでは、圧縮着火燃焼の安定化に有利になる。一方で、この高圧縮比エンジン1は、高負荷域においてはSIモードに切り替えるため、過早着火やノッキングといった異常燃焼が生じやすくなってしまうという不都合がある。
そこでこのエンジン1では、先ず、エンジンの運転状態が、最大負荷を含む高負荷の低速域(図3の(1)(2)参照。尚、ここでいう「低速域」は、エンジン1の運転領域を低、中、高速の3つに区分したときの低速域に相当する。)にあるときには、燃料の噴射形態を従来とは大きく異ならせたSI燃焼を実行することによって、異常燃焼を回避するようにしている。具体的に、この燃料の噴射形態は、従来と比較して大幅に高圧化した燃料圧力でもって、圧縮行程後期から膨張行程初期にかけての大幅に遅角した期間(以下、この期間をリタード期間と呼ぶ)内で、インジェクタ80によって、気筒18内に燃料噴射を実行するものである(図4(a)参照)。この特徴的な燃料噴射形態を、以下においては「高圧リタード噴射」又は単に「リタード噴射」と呼ぶ。高圧リタード噴射は、燃料の噴射期間、混合気形成期間及び燃焼期間をそれぞれ短くし、燃料の噴射開始から燃焼の終了までの未燃混合気の反応時間を短くする。その結果、エンジンの負荷が高くかつ低速の、異常燃焼が生じやすい領域において、異常燃焼を回避することが可能になる。燃料圧力は40MPa以上に設定すればよい。燃料圧力は、ガソリンを含有する、使用燃料の性状に応じて適宜設定すればよく、その上限は120MPa程度としてもよい。
高圧リタード噴射は、燃料の噴射形態の工夫によって異常燃焼を回避するため、点火タイミングを進角させることができる。点火タイミングは、図4(a)に示すように、圧縮上死点近傍に設定され、点火は、第1点火プラグ25又は第2点火プラグ26のいずれか一方を駆動させることにより行う。点火タイミングの進角化は、熱効率の向上及びトルクの向上に有利になる。尚、図4(a)に示す噴射タイミングや点火タイミングは例示であり、これに限定されない。
この高圧リタード噴射を行う運転領域のうち、最大負荷域(図3の(1)参照)よりも低負荷側の領域(図3の(2)参照)においては、異常燃焼の発生が、前記(1)の領域よりも抑制されることから、燃料圧力の上限を下げ(例えば80MPa程度)、燃料噴射タイミングを、圧縮行程後期の範囲内で進角させてもよい。
尚、圧縮着火をコントロールすることが困難になり易い、CIモードの運転領域における負荷が高い領域においては、前述の通り、内部EGRの導入割合を減らすことに加えて、高負荷側のSIモードの運転領域(図2の(2)参照)のように、高圧リタード噴射を行ってもよい。こうすることで、CIモードにおける燃焼圧力の急峻な立ち上がりが抑制されるため、エンジンの騒音増大を抑制することが可能になる。
一方、エンジンの運転状態が高負荷の高速域(図3の(3)参照。尚、ここでいう「高速域」は、エンジン1の運転領域を低、中、高速の3つに区分したときの中速及び高速域に相当する。)にあるときには、図4(b)に示すように、燃料の噴射を、リタード期間ではなく、吸気弁21が開弁している吸気行程期間内に行う。以下においては、この燃料噴射形態を「吸気行程噴射」と呼ぶ。吸気行程噴射では、高い燃料圧力が不要になるから、高圧リタード噴射時よりも燃料圧力を低下させる(例えば40MPa未満)。それにより、高圧燃料ポンプ90の駆動に起因するエンジン1の機械抵抗損失の低減が図られ、燃費の向上に有利になる。
高圧リタード噴射は、燃料噴射をリタード期間内に行うことによって未燃混合気の反応可能時間を短縮させるものの、この反応可能時間の短縮は、エンジン1の回転数が比較的低い低速域においては、クランク角変化に対する実時間が長いため、有効であるのに対し、エンジン1の回転数が比較的高い高速域においては、クランク角変化に対する実時間が短いため、それほど有効でない。逆に、リタード噴射では、燃料噴射時期を圧縮上死点付近に設定するため、圧縮行程においては、燃料を含まない、言い換えると比熱比の高い空気が圧縮されることになる。その結果、高速域においては、圧縮上死点における気筒18内の温度(つまり、圧縮端温度)が高くなり、この高い圧縮端温度がノッキングを招くようになる。そのため、高速時にリタード噴射行うときには、点火タイミングを遅角化して、ノッキングを回避しなければならなくなる。
そこで、このエンジン1では、高負荷の高速域である(3)の領域においては、リタード噴射ではなく、吸気行程噴射を行う。
吸気行程噴射では、圧縮行程中の筒内ガス(つまり、燃料を含む混合気)の比熱比を下げ、それによって圧縮端温度を低く抑えることが可能である。こうして圧縮端温度が低くなることで、ノッキングを抑制することが可能になるから、点火タイミングを進角させることが可能になる。そこで、(3)の領域においては、高圧リタード噴射と同様に、圧縮上死点付近において点火を行う。但し、(3)の領域においては、燃焼期間を短縮させる観点から、その点火は、第1及び第2点火プラグ25、26を共に駆動させる二点点火とする。第1及び第2点火プラグ25、26は同時に点火を行えばよい。第1及び第2点火プラグ25、26を時間差をおいて駆動してもよい。
従って、このエンジン1では、図3に示す(1)(2)の領域、すなわち高負荷の低回転域では、高圧リタード噴射とすることで異常燃焼を回避しつつ熱効率を向上させる。
さらに、このエンジンでは、高負荷の高回転域(図3に示す(3)の領域)では、吸気行程噴射とすることで、異常燃焼を回避しつつ熱効率を向上させる。また、高負荷の高回転域では、二点点火を行うことによって、燃焼室内の複数の火種のそれぞれから火炎が広がるため、火炎の広がりが早くて燃焼期間が短くなる。二点点火は、点火タイミングは圧縮上死点以降になったとしても、燃焼重心位置はできるだけ進角側に位置するようになり、熱効率及びトルクの向上、ひいては燃費の向上に有利になる。尚、点火プラグの数は、2個に限定されるものではない。点火プラグは、3個以上でもよいし、また1個にしてもよい。高圧リタード噴射時に、多点点火を行ってもよい。高圧リタード噴射は、必要に応じて分割噴射にしてもよく、同様に、吸気行程噴射もまた、必要に応じて分割噴射にしてもよい。その結果、少なくとも1回の噴射が吸気行程において行われると共に、圧縮行程においても、燃料噴射が行われる場合もあり得る。
(インジェクタの基本構成)
図5は、インジェクタ80の構成を示しており、このインジェクタ80は、ソレノイドコイルに通電することにより形成される磁気回路によって、燃料通路内に配設したニードル83を直接的に吸引してストロークさせることで、先端面804に形成した複数の噴口84(図11も参照)を開弁させるソレノイド駆動式に構成されている。このインジェクタ80は特に、第1ソレノイドコイル81と、第2ソレノイドコイル82との2つのソレノイドコイルを有しており、ニードル83のストローク量を、相対的に小さいストローク量である第1ストローク量S1と、相対的に大きいストローク量である第2ストローク量S2とに切り替え可能に構成している。これによって、図6に例示するように、小噴射量から大噴射量まで、高い燃料噴***度を確保するように構成されている。こうしたインジェクタ80は、前述したように、エンジン1の運転状態が低負荷領域にあって、圧縮着火燃焼を行うときの小噴射量から、エンジン1の運転状態が高負荷領域であるときの大噴射量までの広い範囲に亘って、高い燃料噴***度が要求されるエンジン1に適している。特にエンジン1は、ガソリン含有の燃料を使用しており、燃料の噴射量のばらつきが排気エミッションの悪化に対する感度が高く、また、燃料の噴射量のばらつきが燃焼安定性の悪化に対する感度も高いため、特に高い燃料の噴***度が要求される。
このインジェクタ80の本体は、大径筒状の第1バルブボディ841と、この第1バルブボディ841の一端から延び、先端が閉じられた小径筒状の第2バルブボディ842とを結合部材843で連結して構成されている。
前記第1バルブボディ841内には、円筒状のケース85が収容されており、このケース85の内周面によって燃料通路800が区画形成されている。ケース85は、その上端部が、インジェクタ80の基端(図5における上端)において開口すると共に、その下端部が、第2バルブボディ842の基端開口に連通するように開口しており、これによって、インジェクタ80の基端においてフューエルレール64に連通する燃料流入口844から、インジェクタ80の先端において開口する各噴口84にまで燃料を供給するための燃料通路800が、インジェクタ80の内部に形成されることになる。
円筒状のケース85は、後述するように、第1及び第2ソレノイドコイル81、82の通電時には磁気回路の一部を構成するように、基本的には磁性体によって構成されている。具体的にケース85は、例えばフェライト鋼等のフェライト系金属によって形成されている。
各噴口84を開閉するニードル83は、ケース85内に、このケース85と同軸となるように配設されている。ニードル83は、ケース85の軸方向中央部付近からインジェクタ80の先端に向かって延びて、その先端部は、第2バルブボディ842の先端部に位置している。ニードル83には、その基端面に開口すると共に、先端部に向かって延びる孔831がその中心軸に沿って延びて形成されており、孔831は、ニードル83における軸方向の中央部付近で、その周面に開口している。この孔831は、後述する第2可動コア872の上側と第1可動コア871の下側とを繋ぐ燃料通路の一部として機能する。
第1ソレノイドコイル81及び第2ソレノイドコイル82はそれぞれ、第1バルブボディ841とケース85との間において、第1ソレノイドコイル81が下側、第2ソレノイドコイル82が上側となるように、インジェクタ80の軸方向に、所定間隔を空けて配置されている。
ケース85内において、当該ケース85を挟んで第1ソレノイドコイル81に相対する位置には、筒状の第1固定コア861が固定されていると共に、第2ソレノイドコイル82に相対する位置には、同じく筒状の第2固定コア862が固定されている。これらの第1及び第2固定コア861、862は磁性体によって構成されており、第1及び第2ソレノイドコイル81、82の通電時には、それぞれ個別に磁気回路の一部を構成する。
第1固定コア861の下側には、この第1固定コア861の下端面に対し所定の大きさの間隙S1を設けて、リング状の第1可動コア871が、ニードル83に外挿された状態で配設されている一方、第2固定コア862の下側には、この第2固定コア862の下端面に対し所定の大きさの間隙S2を設けて、リンク状の第2可動コア872が、ニードル83に外挿された状態で配設されている。間隙S1と間隙S2とは、S1<S2となるように設定されている。
ニードル83に外挿されている第1可動コア871は、そのニードル83の中央部に形成された段部に対して係合している一方、同じくニードル83に外挿されている第2可動コア872は、ニードル83の上端部に形成された段部に対して係合している。第1及び第2可動コア871、872はそれぞれ、ケース85内を軸方向に往復移動可能に配置されており、第1可動コア871が上方に移動するときには、第1可動コア871と段部との係合によりニードル83が上方に移動する。また、第2可動コア872が上方に移動するときにも、第2可動コア872と段部との係合によりニードル83が上方に移動する。従って、第1可動コア871及び第2可動コア872を選択的に移動させることにより、ニードル83をストロークさせることが可能である。
ニードル83は、その基端側に配設されたスプリング881によって下方に付勢されており、これによって、通常時には各噴口84を閉じるように構成されている。一方、第1及び第2可動コア871、872はそれぞれ、スプリング882、883によって上方に付勢されており、これにより、通常時は、第1及び第2可動コア871、872は、ニードル83の各段部に係合した状態を維持するように構成されている。
第1及び第2可動コア871、872はそれぞれ、磁性体によって構成されており、図7に拡大して示すように、第1ソレノイドコイル81に通電をしたときには、第1バルブボディ841、ケース85、第1可動コア871、及び第1固定コア861(及び後述する第1種の補強部材891)を通過する磁気回路(同図における太実線の矢印を参照)が形成され、これにより、ケース85内において軸方向に往復動可能な第1可動コア871が、上向きに吸引されるようになる。第1可動コア871の吸引に伴い、その段部において第1可動コア871に係合するニードル83もまた、スプリング881の付勢力(及び後述の通り、燃料圧力に起因してニードル83に作用する背圧)に抗して、上方に移動をする。第1可動コア871及びニードル83はそれぞれ、第1可動コア871が第1固定コア861に当接するまで上方に移動する。つまり、間隙S1に対応する第1ストローク量S1だけ、ニードル83がストロークすることになる。
同様に、第2ソレノイドコイル82に通電をしたときには、詳細な図示は省略するが、第1バルブボディ841、ケース85、第2可動コア872、及び第2固定コア862(及び後述する第1種の補強部材891)を通過する磁気回路が形成され、これにより、第2可動コア872が上向きに吸引されるようになる。第2可動コア872の吸引に伴い、その段部において第2可動コア872に係合するニードル83が、スプリング881の付勢力(及びニードル83に作用する背圧)に抗して上方に移動をする。第2可動コア872及びニードル83はそれぞれ、第2可動コア872が第2固定コア862に当接するまでの、間隙S2に対応する第2ストローク量S2だけストロークすることになる。
ここで、ケース85において、第1固定コア861と第1可動コア871との間に相当する箇所、及び、第2固定コア862と第2可動コア872との間に相当する箇所の合計2箇所にはそれぞれ、磁気回路のショートカットを防止するための、非磁性体部分851が介在している。こうした非磁性体部分851は、複数個に分割したケースに対し摩擦接合によって接合することで、軸方向に延びる円筒状のケース85の途中部分に設けるようにすればよい。摩擦結合は、ケース85及び非磁性体部分851の肉厚を薄くすることなく、両者を強固に結合することを可能にし、後述の通り、高い燃料圧力に起因する内圧を受けるケース85の強度を高める上で有利である。
(インジェクタの高燃圧化を可能にする補強構造)
前述の通り、燃料圧力は、40MPa以上、例えば最大で120MPa程度の高燃圧に設定される場合があり、それによってケース85の内圧が高くなる。この高い内圧に対抗するには、ケース85の肉厚を分厚くしなければならない。しかしながら、ケース85は、磁気回路の一部を構成するため、前述の通り、例えばフェライト系金属によって構成され、強度は比較的低い。そのため、ケース85が単独で高い内圧に対応しようとすれば、その肉厚が大幅に分厚くなってしまう。このような厚肉のケース85では、ケース85の内外を跨るような磁気回路を構成することは、最早できなくなる。
そこでこのインジェクタ80においては、ケース85に対して補強部材を外側から嵌合させることにより、燃料通路800を区画するケース85を実質的に二重管構造となるように構成している。具体的にインジェクタ80には、補強部材として、第1及び第2ソレノイドコイル81、82に対して、軸方向に隣接して配置した第1種の補強部材891と、第1及び第2ソレノイドコイル81、82それぞれについて、ケース85との間に介設される第2種の補強部材892とを設けている。
第1種の補強部材891は、図例のインジェクタ80においては、第1ソレノイドコイル81と第2ソレノイドコイル82との間の位置、及び、第1ソレノイドコイル81よりも下側の位置のそれぞれにおいて、第1バルブボディ841とケース85との間に配設されている。第1又は第2ソレノイドコイル81、82に対し軸方向に隣接する第1種の補強部材891は、図7に拡大して示すように、ソレノイドコイルの通電時には磁気回路の一部を構成するように、磁性体によって構成される。第1種の補強部材891を構成する磁性体は、磁気回路の効率を高める観点から、前述のケース85等と同様に、例えばフェライト鋼等のフェライト系金属により構成すればよい。第1種の補強部材891は、ケース85に対して外嵌合となるように取り付けられており、これによって、ケース85には、径方向の外側から内側に向かう方向の荷重が作用する。この荷重は、ケース85の内周面に、径方向の内側から外側に向かう方向に作用する燃料圧力に起因する内圧に対抗する。第1種の補強部材891は、例えば圧入や焼き嵌め等の適宜の手法を採用することによって、ケース85に対して外嵌合となるように取り付ければよい。
これに対し、第2種の補強部材892は、前述の通り、第1ソレノイドコイル81とケースと85の間、及び、第2ソレノイドコイル82とケース85との間のそれぞれに介在している。第2種の補強部材892の軸方向の長さは、第1ソレノイドコイル81及び第2ソレノイドコイル82の軸方向長さに対応している。第2種の補強部材892は、第1又は第2ソレノイドコイル81、82の通電時に、磁気回路がショートカットしないように、第1種の補強部材891とは異なり、非磁性体によって構成される。第2種の補強部材892を構成する非磁性体は、例えばオーステナイト鋼によって構成してもよい。この第2種の補強部材892も、第1種の補強部材891と同様に、ケース85に対して外嵌合となるように取り付けられており、これによって、ケース85に径方向の外側から内側に向かう方向の、内圧に対抗する荷重が作用する。第2種の補強部材892もまた、例えば圧入や焼き嵌め等の適宜の手法を採用することによって、ケース85に対して外嵌合となるように取り付ければよい。
このようにケース85に対して第1種の補強部材891及び第2種の補強部材892をそれぞれ外嵌合となるように取り付けることによって、燃料通路800内の高い燃料圧力に起因して高い内圧が作用するケース85には、径方向の外方から内方への対抗力が作用する。また、ケースと補強部材との二重管構造は、図7に示すように、内側と外側との2つの管に応力を分散させることを可能にする。その結果、ケース85の肉厚を分厚くしなくても、必要強度を確保することが可能になる。このことは、ケース85の内外を跨るように磁気回路を形成する上で有利になる。
また、第1種の補強部材891は、第1又は第2ソレノイドコイル81、82に対し筒軸方向に隣接して配置されており、磁気回路の一部を構成する磁性体を含んで構成されており、ケース85の補強による高燃圧化と、磁気回路の形成との両立に寄与する。この第1種の補強部材891を、透磁性が高くかつ、残留磁気が少ないフェライト鋼によって構成することで、インジェクタ80の高性能化に有利になる。
一方、第2種の補強部材892は、第1又は第2ソレノイドコイル81、82とケース85との間に介設されており、非磁性体を含んで構成することで、磁気回路のショートカットを防止して、ケース85の補強による高燃圧化と、磁気回路の形成との両立に寄与する。第2種の補強部材892をオーステナイト鋼によって構成することは、その高い強度によって、第2種の補強部材892の薄肉化を可能にし、第1及び第2ソレノイドコイル81、82とケース85との間隔を狭くして、高効率の磁気回路の形成に有利になると共に、インジェクタ80の小径化にも有利になる。
(第1及び第2可動コアの支持構造)
ここで、図5に示すインジェクタ80では、第1可動コア及び第2可動コア871、872の下側にスプリング882、883を配置し、それによって第1及び第2可動コア871、872をそれぞれ上向きに付勢するようにしている。このような支持構成では、図8(a)に示すように、第2ソレノイドコイル82に通電をしたときには、同図(a)において実線で示すように、第2可動コア872が、所定のストローク量S2だけ移動をし、それに伴いニードル83が上向きにストロークすることに伴い、第1可動コア871とニードル83の段部との係合が解除されるから、破線で示すように、第1可動コア871は、スプリング882の付勢力で上方に移動をするようになる。
その後、第2ソレノイドコイル82の通電が終了し、スプリング881の下向き付勢力とスプリング883の上向き付勢力との差に応じて、第2可動コア872及びニードル83が共に下降している最中に、ニードル83の段部と第1可動コア871とが再び係合するようになり(同図(a)における「接触」を参照)、その後はスプリング882の上向き付勢力が加わって、スプリング881の下向き付勢力とスプリング882及びスプリング883の上向き付勢力との差に応じて、第1及び第2可動コア871、872及びニードル83が一体となって下降するようになる。つまり、ニードル83の下降速度がその途中で低下し、ニードル83の先端部が、後述するシート部801に着座する際の衝撃が和らぐ。これは、衝突音の抑制に有利になる。
一方、第1ソレノイドコイル81に通電をしたときには、図8(b)に破線で示すように第1可動コア871が移動するに伴い、同図に実線で示すようにニードル83及び第2可動コア872がそれぞれ、所定のストローク量S1だけ上向きにストロークする。
また、第1ソレノイドコイル81の通電が終了したときには、スプリング881の下向き付勢力とスプリング882及びスプリング883の上向き付勢力との差に応じて、第1及び第2可動コア871、872及びニードル83が一体となって下降するようになり、この場合も、下降速度が比較的小さくなる。従って、前記と同様に、ニードル83の先端部がシート部801に着座する際の衝撃が低減し、衝突音の抑制に有利になる。
図9は、第1可動コア871の上側にスプリング882を配置することによって、この第1可動コア871に下向きの付勢力を付与するように構成した変形例を示している。尚、図9において、図5に示すインジェクタ80と同じ構成については、同じ符号を付している。図9に示すインジェクタ80においては、第1可動コア871の下側にスペーサ884が配設されており、これにより、第1可動コア871と第1固定コア861との間隙S1を規定している。
図9に示すようなインジェクタ80において、前記と同様に、第2ソレノイドコイル82に通電をしたときには、図10(a)において実線で示すように、第2可動コア872及びニードル83が、所定のストローク量S2だけ上向きに移動をするものの、第1可動コア871は下向きに付勢されているため、同図に破線で示すように、移動をせずに止まったままである。
第2ソレノイドコイル82の通電が終了したときには、スプリング881の下向き付勢力とスプリング883の上向き付勢力との差に応じて、第2可動コア872及びニードル83が共に下降する。前述の通り、第1可動コア871は上向きに移動をしていないため、図8(a)とは異なり、下降の最中に、第1可動コア871がニードル83の段部に係合することはない。その結果、ニードル83の下降速度が途中で変化することなく、ニードル83はシート部801に着座するようになる。
一方、第1ソレノイドコイル81に通電をしたときには、図10(b)に破線で示すように第1可動コア871が移動するに伴い、同図に実線で示すようにニードル83及び第2可動コア872もまた、所定のストローク量S1だけ上向きにストロークする。このときに、第1可動コア871には、スプリング882による下向きの付勢力が作用しているため、ニードル83等の上昇速度は、図8(b)と比較して小さくなる。また、第1ソレノイドコイル81の通電が終了したときには、スプリング881及びスプリング882の下向き付勢力とスプリング883の上向き付勢力との差に応じて、第1及び第2可動コア871、872及びニードル83が一体的に下降するようになるため、図8(b)の例と比較して、下降速度が大きくなる。
尚、図示は省略するが、図5及び図9の各例について、第2可動コア872の上側にスプリング883を配置することで、第2可動コア872に対し下向きに付勢力を付与するように構成してもよい。
また、図5及び図9に示すインジェクタ80では、ストローク量が相対的に大きいソレノイドコイル、つまり第2ソレノイドコイル82を上側に配置し、ストローク量が相対的に小さいソレノイドコイル、つまり、第1ソレノイドコイル81を下側に配置しているが、ストローク量が相対的に大きいソレノイドコイルが下側に、ストローク量が相対的に小さいソレノイドコイルが上側となるように、前記とは逆に配置してもよい。
(インジェクタの高燃圧化に伴い高くなる吸引力を低減するための構造)
燃料通路800内にニードルが配設されている構造のインジェクタ80で、閉弁状態のニードル83には、燃料圧力に起因する背圧が作用する。つまり、ニードル83に対して閉弁方向に作用する荷重が作用する。背圧は、燃料圧力の大きさに比例し、ここに開示するインジェクタ80のように、燃料圧力が高く設定されるときには、ニードル83に作用する背圧も高くなる。背圧は、ニードル83を開弁する際のソレノイドコイル81、82の吸引力に関係し、背圧が高いほど必要な吸引力は大きくなる。そこで、このインジェクタ80においては、ニードル83の開弁に必要な吸引力が小さくなるように、ニードル83の先端部が着座するシート部801の径を小さくしている。
図11は、インジェクタ80の先端部の構成を拡大して示している。ニードル83の先端部は先細となるように形成されており、シート部801は、図11(a)に二点鎖線で示すように、ニードル83における先細の先端部の途中部分が、着座及び離座するように構成されている。これにより、シート部801の径φ1は、ニードル83の先端部の基本円筒部の径φ2よりも小径になっている。ニードル83がシート部801に着座した状態において、燃料圧力に起因してこのニードル83に作用する背圧は、シート部801の径に比例することになるが、前述の通り、シート部801の径を小さく設定し、面積を小さくしていることで、ニードル83に作用する背圧をその分、低下させることが可能になる。尚、ニードル83がシート部801に着座した状態では、ニードル83の先端部において、その軸方向に対し傾斜した面に燃圧が作用し、この燃圧がニードル83の軸方向(開弁方向)に作用する力は、cos(コサイン)成分となるものの、傾斜している分だけ受圧面積は大きくなるから、ニードル83の軸方向に作用する力がcos成分によって減少することが相殺される。
ニードル83に作用する背圧の低下は、開弁に必要な吸引力を低下させる。このことは、第1及び第2ソレノイドコイル81、82の小型化に有利になる。第1及び第2ソレノイドコイル81、82の小型化は、インジェクタ80の小径化を可能にするから、エンジン1のシリンダヘッド12に対し、図1に示すように、気筒18の軸線に沿うように取り付けられるインジェクタ80の取り付けスペースの確保に有利になる。吸引力の低下はまた、消費電力の節約にも有利である。尚、ニードル83の先端が先細となっていることで、ニードル83が離座する際に、シート部801を流れる燃料がニードル83の先端の傾斜した面によってガイドされ、流通抵抗が低下するから、絞り部802側の燃圧が上昇し易くなる。このことは、ニードル83に対し開弁方向に作用する力を増やすことになるため、開弁に必要な吸引力の低下に有利になる。
このようにして小径化されたシート部801に対して連続するように、絞り部802が設けられている。絞り部802は、シート部801の径よりもさらに小径となるように構成されている。また、この絞り部802に連続して、径が拡大した拡大部803が設けられている。絞り部802から拡大部803にかけての部分は、その内壁が滑らかな曲面状となるように構成されており、これによって、シート部801から絞り部802を経て拡大部803へと至る燃料の流れをスムースにしている。そうして、この拡大部803に対して、複数個の、図例では10個の噴口84が連通しており、10個の噴口84は、図11(b)に示すように、高い燃料圧力に対抗するように球面状に凹陥したインジェクタ80の先端面804に、互いに等間隔を空けて円周状に配置されている。
こうして、10個の噴口84を、径が拡大した拡大部803に連通させることで、インジェクタ80の先端面804において、噴口84同士の間隔を十分に確保することが可能になる。このことにより、高い燃料圧力で、各噴口84を通じて噴射される燃料の微粒化が良好になる。噴射燃料を良好に微粒化することは、特に圧縮着火燃焼を行う低負荷の領域において、均質なリーン混合気の形成に有利になり、圧縮着火燃焼を安定化させることが可能になる。
尚、噴口の配置は図11(b)のような円周状の配置に限定されず、例えば図12に示すように、径方向の内外で二重の円となるように、複数の(図例では10個の)噴口84を配置してもよい。また、噴口の数は、適宜の数に設定すればよい。
(2段ソレノイドインジェクタの駆動とエンジンの運転領域との対応)
この構成のインジェクタ80においては、前述の通り、第1ソレノイドコイル81に通電をしたときには、ニードル83を第1ストローク量S1だけストロークさせることが可能になり、第2ソレノイドコイル82に通電をしたときには、ニードル83を第2ストローク量S2だけストロークさせることが可能になる。ここで、第1ストローク量S1と第2ストローク量S2とは、S1<S2となるように設定されており、これにより、インジェクタ80は、異なるストローク量でニードル83をストロークさせて、燃料を噴射させることが可能に構成されている。
PCM10は、図2に示すように、エンジン1の運転状態に応じて要求される噴射量となるように、インジェクタ80の第1ソレノイドコイル81及び/又は第2ソレノイドコイル82に制御電流を出力し、それによって必要量の燃料を気筒18内に噴射させる。つまり、要求噴射量が少ないとき、具体的に図3に示す運転領域において圧縮着火燃焼を行うCIモードでは、第1ソレノイドコイル81に通電する。これにより、第1可動コア871を介してニードル83を開弁させ、ニードル83をストローク量S1(つまり、小ストローク)で維持した後に、通電を終了させる。そうして、ニードル83を閉弁させる。これによって、図6に示すように、時間に対する瞬間噴射率の波形が所定の台形状となるようにし、このことで、比較的少ない噴射量での噴***度を高めるようにする。CIモードでは、吸気行程期間内において燃料噴射を行うことで、均質なリーン混合気を形成するから、燃料噴射量に多少のばらつきが生じたとしても、圧縮着火燃焼の安定性は十分に確保される。
一方、要求噴射量が多いとき、具体的に、図3に示す運転領域において火花点火燃焼を行うSIモードでは、少なくとも第2ソレノイドコイル82に通電し、第2可動コア872を介してニードル83を開弁させる。その後、ニードル83をストローク量S2(大ストローク)で維持した後に、通電を終了させ、ニードル83を閉弁させる。これによって、図6に示すように、時間に対する所定の瞬間噴射率の波形が、小ストローク時の波形と相似形の台形状となるようにし、このことで、比較的多い噴射量での噴***度もまた、高めることが可能になる。特に、図3に示す運転領域において、(1)(2)の領域では、高圧リタード噴射を行うため、高い噴射率が要求されるが、高燃圧でかつ、比較的大きい第2ストローク量S2でニードル83をストロークさせることにより、それが実現し、必要量の燃料を、高燃圧かつ短時間で、圧縮上死点付近の気筒18内に噴射することが可能になる。
ここで、ニードル83を第2ストローク量S2でストロークさせる際には、第2ソレノイドコイル82のみに通電するようにしてもよい。また、第1ソレノイドコイル81と第2ソレノイドコイル82との双方に通電してもよい。第1及び第2ソレノイドコイル81、82の双方に通電する場合は、第1ソレノイドコイル81を、少なくともニードル83の開弁動作の開始時に通電することが好ましい。つまり、ニードル83の開弁動作の開始時には、燃料圧力に起因してニードル83に作用する背圧及びスプリング881による付勢力に対抗する吸引力を発生させる必要があるところ、第1ソレノイドコイル81に対応する第1可動コア871と第1固定コア861との間隙S1は、第2ソレノイドコイル82に対応する第2可動コア872と第2固定コア862との間隙S2よりも小さいため、吸引力の発生に必要な電流値が低くなる。また、ニードル83がシート部801から離座した後は、燃料圧力に起因する背圧が消滅するから、ニードル83のストロークに必要な吸引力は、その分小さくなる。従って、第2ソレノイドコイル82への通電量も少なくて済む。つまり、ニードル83を第2ストローク量S2でストロークさせるときに、ニードル83の開弁動作の開始時に第1ソレノイドコイル81に通電することは、トータルとしての消費電力を抑制することを可能にする。尚、第2ソレノイドコイル82は、第1ソレノイドコイル81の通電開始後、所定時間を空けて通電をするようにしてもよいし、第1ソレノイドコイル81の通電開始と共に、第2ソレノイドコイル82の通電を開始してもよい。
このように、第1及び第2の2種類のソレノイドコイル81、82を有しかつ、それによってニードル83のストローク量を、第1ストローク量S1と第2ストローク量S2とに変更することが可能なインジェクタ80を用いることにより、噴射量が相対的に少ない低負荷領域では、第1ソレノイドコイル81のみを駆動させることで、少ない噴射量を精度よく噴射することが可能になり、圧縮着火燃焼の安定性が確保される。一方で、噴射量が相対的に多い高負荷領域、特に高圧リタード噴射を行う領域では、少なくとも第2ソレノイドコイル82を駆動させることで、高燃圧と相俟って高噴射率が実現し、必要量の燃料を、高燃圧かつ短期間で圧縮上死点付近の気筒内に噴射することが可能になり、異常燃焼の回避に有利になる。こうして、エンジン1の広い運転領域に亘って燃費を向上させることが実現する。
(高圧燃料ポンプの構成)
図13〜15は、高圧燃料ポンプ90の構成を示している。前述の通り、このエンジン1においては、40MPa以上、最大で120MPa程度の高燃圧で、ガソリンを含有する燃料を噴射するようにしており、そのために、この高圧燃料ポンプ90は、従来の、プランジャ式燃料ポンプとは異なる構成を有している。
つまり、高圧燃料ポンプ90は、図14(a)〜(c)に示すように、上下方向に延びるように配設されたシリンダ91と、シリンダ91に内挿されたプランジャ94と、プランジャ94をシリンダ91内で上下方向にストロークさせる駆動機構93とを備えている。
図15にも示すように、シリンダ91は、第1ケーシング901内に形成されており、シリンダ91の上端部には、燃料をシリンダ91内に流入させるための流入口911が設けられている。第1ケーシング901内にはまた、詳細な図示は省略するが、燃料タンクから送られた燃料が溜まる供給室912が形成されている(図14の太実線の矢印参照)。シリンダ91の上端部に形成された流入口911は、この供給室912に連通している。供給室912は、シリンダ91の径と同じか、又は、それより大きな径を有しており、流入口911に向かうに従って、次第に縮小するように構成されている。
流入口911には吸入弁92が取り付けられており、この吸入弁92が流入口911を開くことで、供給室912からシリンダ91内に燃料が流入するようになる。吸入弁92は、流入口911に着座するように上向きに付勢された弁体921を有しており、弁体921は、通常時には流入口911を閉じている一方、後述の通り、弁体921が下向きの押し下げられたときには流入口911を開けて、流入口911からシリンダ91内に燃料が流入することを許容する(図15を参照)。
吸入弁92はまた、弁体921の上側において上下方向に延びるように配置されたロッド922を有しており、このロッド922の下端は弁体921の上端面に当接している一方、その上端は供給室912内を通過して、その上側に到達している。ロッド922は、第1ケーシング901の上側に取り付けられたソレノイドコイル923によって、上下方向に往復動するように構成されている。つまり、高圧燃料ポンプ90の上端に設けられたカプラ924を介してソレノイドコイル923に通電されたときには、ロッド922が下方に移動することで、上向きに付勢された弁体921を押し下げ、それによって、弁体921を流入口911から離座させて流入口911を開く。こうして、シリンダ91内に燃料が流入する。一方、ソレノイドコイル923への通電を停止したときには、上向きの付勢力によって弁体921が持ち上がり、それによって弁体921が流入口911に着座して、流入口911が閉じられる。このように吸入弁92は、PCM10により開閉制御される電磁弁として構成されている。
シリンダ91から高圧燃料を排出する吐出口913は、図14(a)(b)に示すように、シリンダ91上端部付近の側方に設けられている。尚、符号914は、高圧燃料ポンプ90の流入側に配設されかつ、インジェクタ80の燃料噴射に伴う脈動を抑制するためのパルセーションダンバ914である。
プランジャ94は、前述したようにシリンダ91に内挿されかつ、後述する駆動機構93によって上下方向にストロークをする。プランジャ94が、図14(a)に示す上死点の状態から下降する際に、そのタイミングに合わせて開けられた流入口911を通じて、供給室912内の燃料がシリンダ91内に流入すると共に、流入口911が閉じられた状態で、プランジャ94が、図14(b)に示す下死点の状態から上昇することで、シリンダ91内の燃料の圧力が高まり、昇圧された燃料が吐出口913を通じて高圧燃料ポンプ90からフューエルレール64に向かって吐出されるようになる。
駆動機構93は、プランジャ94の下端が固定されると共に、上下方向に往復動可能に構成されたピストン931と、ピストン931を下向きに付勢するスプリング932と、ピストン931に対して取り付けられたローラー933と、ローラー933及びピストン931を介してプランジャ94を上下方向にストロークさせるカム934と、を備えて構成されている。
ピストン931は、第1ケーシング901の下側に取り付けられる第2ケーシング902内に形成された断面円形のピストン収容部903内に内挿され、このピストン収容部903内を上下方向に往復動するように構成されている。
ローラー933は、詳細な図示は省略するが、転がり軸受け又はすべり軸受けを介して、プランジャ94のストローク方向(つまり、図14における紙面上下方向)に直交する軸に対し回動自在となるようにピストン931に取り付けられている(図14(c)参照)。ローラー933は、カム934との間の摩擦抵抗を低減し、高圧燃料ポンプ90の駆動トルクの低減、ひいてはエンジン1の機械抵抗損失の低減に有利になる。
第2ケーシング902内にはまた、ピストン収容部903の下端に連続するようにカム収容部904が形成されており、カム934は、このカム収容部904内で、カム軸935に支持されることで、プランジャ94のストローク方向に直交する軸に対し回転可能となるように配設されている。このカム934は、図14(a)(b)に端的に示すように、2山カムに構成されており、その山(カムノーズ)は、回転中心軸を挟んだ両側それぞれに設けられている。カム軸935は、その先端部に固定されたスプロケット936及びスプロケット936に巻き掛けられたチェーン937を介して、図13に概念的に示すように、エンジン1のクランクシャフト15に駆動連結されている。駆動機構93のカム軸935は、エンジン1のクランクシャフト15に対し1:1の減速比で回転駆動するように構成されている。
ここで、高圧燃料ポンプ90の駆動機構93は、クランクシャフト15に対し駆動連結されるため、図13に示すように、エンジン1のカムシャフト210、220よりもクランクシャフト15に近い高さ位置に配置されることになる。また、この高圧燃料ポンプ90は、前述の通り、上下方向に延びるシリンダ91の上端に流入口911を設け、その流入口をシリンダ91の上方に設けた供給室912に連通させていると共に、供給室912よりもさらに上方に、吸入弁92を駆動するためのソレノイドコイル923を配設している。このことで、高圧燃料ポンプ90の全高は比較的高く設定されているものの、前述の通り、嵩高の高圧燃料ポンプ90を、エンジン1の側方における比較的低い高さ位置に配置することは、エンジン1の全高を超えることなく高圧燃料ポンプ90を配置することを可能にし、エンジンルーム内のレイアウト性に有利になる。
前記の構成の高圧燃料ポンプ90は、40MPa以上の高い燃料圧力を達成するため、プランジャ94が上死点にあるときのシリンダ91の容積を大幅に小さく設定している。つまり、燃料圧力が高くなれば燃料の圧縮性を無視することができなくなるため、上死点時のシリンダ容積を小さくすることにより、高燃圧と吐出流量の確保との両立が可能になる。
しかしながら、上死点時のシリンダ容積を小さくすることによって、プランジャ94を下降させてシリンダ91内に燃料を流入させようとしたときには、シリンダ91内の圧力降下が大きくなる。このことは、ガソリン含有の燃料においては、流入口911付近におけるキャビテーションの発生を招き、燃料がシリンダ91内へ流入し難くなる虞がある。
そこで、前記構成の高圧燃料ポンプ90では、流入口911を介してシリンダ91の上方に、比較的容積の大きい供給室912を設けることで、吸入弁92を開いたときには、図15に矢印で示すように、供給室912からシリンダ91の軸方向に、言い換えるとプランジャ94のストローク方向に燃料が流れて、流入口911を通じてシリンダ91内に燃料が流入するようにしている。このような構成は、シリンダ91内への燃料の流入をスムースにし、プランジャ94の下降時の圧力降下に起因するキャビテーションの発生を抑制する。ここで、供給室912は、燃料の流れ方向に次第に縮小するように形成されているため、燃料の流入をよりスムースにし得る。その結果、シリンダ91内に燃料を確実に流入させることができ、高圧燃料ポンプ90において、40MPa以上の高燃圧化と、必要な燃料吐出量の確保とが両立する。
また、このような高燃圧化された高圧燃料ポンプ90においては、プランジャ94が上死点に至ったときの反力によって、駆動機構93に作用する荷重が大きくなる。このため、この大きな荷重に対抗しようとすれば、駆動機構93が大型化する虞がある。特に駆動機構93のローラー933を、転がり軸受けを介してピストン931に支持しようとすれば、ローラー及び転がり軸受けが大幅に大型化してしまう。そこで、前記構成の高圧燃料ポンプ90では、シリンダ径及びプランジャ径を小さくすることによって、駆動機構93に作用する荷重を小さくしている。一方で、高燃圧を達成するために、プランジャ94のストローク量を比較的大きく設定している(図14(a)(b)参照)。その結果、この高圧燃料ポンプ90は、プランジャ94のストローク量がシリンダ径よりも大きいロングストロークに構成されている。このことは、高圧燃料ポンプ90の小型化と高燃圧化とを両立させる。
また、駆動機構93のカム934を2山カムに構成することは、各山(カムノーズ)のリフト量を比較的大きくすることで、前述したプランジャ94のロングストロークに対応しつつも、カムの大型化を回避することが可能である。なぜなら、2山カムにおいては、カムノーズが、カム934の中心軸を挟んだ両側のそれぞれに配置されるため、各山を高くしても、他方の山には影響が及ばないからである。従って、駆動機構93のカム934を2山カムに構成することもまた、高圧燃料ポンプ90の小型化と高燃圧化との両立に寄与する。
この2山カムに構成された駆動機構93のカム934は、クランクシャフト15に対して等速回転するように構成されているため、クランクシャフト15が2回転する間に、高圧燃料ポンプ90は、4回の燃料吐出を行うことになる。これは、4気筒4サイクルエンジン1において、4つの気筒18のそれぞれが、1回の燃料噴射を行うことに対応して、燃料の吐出を行うことを可能にする。このように、2山カムの採用は、前述したように、駆動機構93をクランクシャフト15に駆動連結する上でも有利な構成となる。
高燃圧の燃料を吐出可能に構成された高圧燃料ポンプ90は、その駆動トルクも、従来の高圧燃料ポンプに比べて大幅に大きくなってしまう。このような高い駆動トルクの高圧燃料ポンプ90を、従来と同様に、吸気又は排気カムシャフト210又は220の端部に取り付けたのではVVT72又は74を作動させようとしても作動させることができなくなる(つまり、カムシャフト210又は220が回転しない)。しかしながら、前述の通り、この高圧燃料ポンプ90は、図13に示すように、クランクシャフト15に駆動連結するため、吸気及び排気カムシャフト210、220に取り付けられたVVT72、74の作動に影響を及ぼさない。このように、高燃圧化を実現する高圧燃料ポンプ90を、クランクシャフト15に駆動連結することは、カムシャフトに取り付けられるVVT72、74の作動を保証する上でも有利な構成である。
尚、図3に示す運転領域(マップ)は例示であり、ここに開示する技術は図3に示されるマップが設定されたエンジンへの適用には限定されない。マップは適宜変更可能である。
また、ここに開示する技術は、前述したような自然吸気エンジンに限らず、過給機付きエンジンに適用することも可能である。過給機付きエンジンでは、CIモードの領域を高負荷側に拡大させることが可能になる。