エレクトロウェッティングは、流体及び固体の間の接点角度の静電制御である。導電性流体及び導電基板の間に印可される電圧差は、界面エネルギーを減らす。このことは、流体によって基板が濡らされる程度を増加させる。エレクトロウェッティングは、流体のボリュームを移動させる及び形づくるために適用されることができる。例えば、水滴が疎水的な表面上に存在するとき、2つの間の接点領域が最小化される。しかしながら、疎水的な表面の下に存在する第1の電極と水滴内に配置される第2の電極との間に適切な電圧差が印加されるとき、水滴は、疎水的な表面にわたり拡散する(言い換えると、表面の疎水性は、減少するように見える)。電圧差が除去されるとき、水滴はその最初の状態に戻る。
エレクトロウェッティングデバイスは、動作において、エレクトロウェッティング効果を利用するデバイスである。エレクトロウェッティングデバイスは広範な用途において用いられる。この用途は、可変焦点レンズ(例えば可変焦点接点レンズ)、電子ディスプレイ、光学ファイバーに関するスイッチ及び微小電気機械システム(例えばマイクロ流体デバイス及びラボ・オン・ア・チップ・デバイス)を含む。
エレクトロウェッティングデバイスは通常、セルを有し、この場合、エレクトロウェッティング組成物が、2つの不混和性の流体を含む。このうち極性のある及び/又は電気的に伝導性がある方は、2つの電極の間に電圧差を印加することにより操作されることができる。
エレクトロウェッティング組成物の電気分解を防止するため、電極の1つは、誘電媒体(以下本書において単に誘電体と呼ばれる)により、エレクトロウェッティング組成物から分離されることができる。斯かるエレクトロウェッティングデバイスは通常、エレクトロウェッティング・オン・ディエレクトリック(EWOD)デバイスと呼ばれる。他の電極が、極性のある及び/又は電気導電的流体と直接接触することができるか、又はこの電極は、この流体に容量結合されることができる。
EWODデバイスは通常、アモルファスフルオロポリマー(例えば、テフロン(登録商標)AF)、二酸化ケイ素(SiO2)、又は、パリレン(化学蒸着により堆積されることができるポリ(p−キシリレン)ポリマー)、又はこれらの層のスタックを有する誘電体を持つ。これらは、マイクロメートルのオーダーの厚みを持ち、その結果、相対的に高い電圧差(100Vのオーダー)が、これらのデバイスを作動させるのに必要とされる。
デバイスのサイズ及び/又はパワー消費を減らすため、及び標準的な電子部品を用いることが可能であるようにするため、より低い電圧で作動されることができるEWODデバイスの必要性が存在する。
EWODデバイスの必要な作動電圧は、誘電率を上昇させることにより、及び/又は誘電体の厚みを減少させ、従って誘電体の静電容量を増加させることにより減らされることができる。
誘電体の厚みを減らすことは、より低い作動電圧をもたらすだけではなく、誘電体内部におけるより大きな電場、及び誘電体におけるピンホールの発生に関するより高い確率も生じさせる。特定の最小層厚以下で、所望のエレクトロウェッティング効果が得られる前に、誘電体の電気的な故障(誘電破壊とも呼ばれる)が発生する。
減らされた電圧で作動されることができるEWODデバイスは、米国特許出願公開第2006/0221458号及び米国特許出願公開第2008/0100905号において開示される。これらの既知のEWODデバイスは、導電性又は極性の流体物質を持つコンテナ及び誘電体を通り導電性又は極性の流体物質に電圧を印加する第1の電極を有する。誘電体は、第1の電極を陽極処理することにより形成される金属酸化物層である。誘電体の厚みは、陽極化処理の間に印加される電圧を調整することにより、容易かつ正確に調整されることができる。更に、比較的高い誘電率の金属酸化物は、アルミニウム及びタンタルを陽極処理することにより形成されることができる。更に、斯かる金属酸化物は、ピンホールフリーな(pinhole-free:ピンホールのない)層に作られることができる。
既知のEWODデバイスの欠点は、時間にわたり、誘電破壊がまだ発生する場合がある点にある。これは例えば、機械的なストレス、誘電疲労又はデバイスの寿命の間の流体からのイオン注入の結果として発生するものである。
本発明の目的は、低い電圧で作動されることができる、及び改良された信頼性を持つエレクトロウェッティングデバイスを提供することである。
本発明の別の目的は、斯かるエレクトロウェッティングデバイスを製造する方法を提供することである。
本発明の追加的な目的は、斯かるエレクトロウェッティングデバイスを作動させる方法を提供することである。
本発明の第1の側面によれば、上記目的は、冒頭に述べたエレクトロウェッティングデバイスにより実現され、そこでは、上記第1の電極が、弁金属を有し、上記電解液は、上記作動電圧差で金属酸化物を形成するため上記弁金属を陽極処理することができる。
基本的に、本発明によるエレクトロウェッティングデバイスは、電解コンデンサを有する。コンデンサは、誘電媒体により分離される2つの導電性プレートを有する。電解コンデンサにおいて、「プレート」の1つは金属陽極であり、他方は電解液である。電解液は、溶媒における電解質の溶液である。電解質は、溶媒において溶かされるとき帯電しているイオンへと分離する化合物(例えば塩、酸又は基剤)である。電解液(電解液、イオン溶液又は単に電解質と呼ばれる)は、電気のイオン導電体である。
電解コンデンサにおいて、電解液は、金属陽極を陽極処理することができる。通常、電解コンデンサの誘電媒体は、陽極化処理において金属陽極から生成される金属酸化物である。この陽極化処理の間、電流は、金属陽極から電解陽極処理溶液を含む浴槽を通り浴槽陰極へと流れる。電流の流れは、絶縁の金属酸化物が金属陽極の表面から及び表面へと成長することをもたらす。この絶縁の金属酸化物層の厚み、構造及び組成は、その絶縁耐力を決定する。この目的のため、陽極は、弁金属を有しなければならない。弁金属は、ある金属であり、この金属から、酸化物が電解セルにおいて陽極条件の下で形成される。弁金属は、マグネシウム、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロミウム、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、アンチモン、ハフニウム、タンタル、タングステン及びビスマスを含む。
本発明によるエレクトロウェッティングデバイスにおいて、電解コンデンサは、第1の電極、及び誘電体により分離される電解液により形成される。この場合、電解液(エレクトロウェッティング組成物の第1の流体)は、電解陽極処理溶液である。
電解コンデンサにおいて、電解陽極処理溶液は、必要に応じて局所的に誘電媒体を修理する及び厚くすることができる。これは、コンデンサの漏れ電流により駆動される処理が動作中にもたらされる。同様な自己修復(又は治癒)機構が、本発明によるエレクトロウェッティングデバイスにあてはまる。これは、デバイスの改良された信頼性を生じさせる。
本発明によるエレクトロウェッティングデバイスにおいて、誘電体は、単一層又は多層構造(スタック)とすることができる。誘電体は、陽極化処理において金属陽極から生み出される金属酸化物とすることができる。しかし、これは必ずしもそうでなければならないものではない。基本的に、第1の電極及びエレクトロウェッティング組成物の組合せが、上記自己修復機能を備えるエレクトロウェッティングデバイスを提供する限り、任意の誘電体が用いられることができる。これは、第1の電極の陽極処理によっては得られない誘電体、例えば、パリレン又は例えばポリエチレンテレフタル酸塩(PET)といったポリエステルを有する誘電体が用いられるときでさえ、本発明によるエレクトロウェッティングデバイスが、改良された信頼性を持つことを意味する。例えばPETといったポリエステルを用いる利点は、それがエキシマレーザで容易に構造化されることができる安価な物質である点にある。結果的に、例えばラボ・オン・ア・チップ用途といった低コストの使い捨て用途に非常に適している。
本発明によるエレクトロウェッティングデバイスにおいて、エレクトロウェッティング組成物の第1の流体は、作動電圧差で金属酸化物を形成するため第1の電極の弁金属を陽極処理することができる電解陽極処理溶液である。言い換えると、第1の流体は、電場に影響されやすい。第1の流体と不混和であるエレクトロウェッティングデバイスの第2の流体は、第1の流体よりそれほど電場に影響されない。第2の流体は、例えばシリコーンオイルといった油又は空気とすることができる。
電解陽極処理溶液は、電解コンデンサにて用いられる任意の溶液とすることができる。なぜなら、これらの溶液は、誘電体の完全性を維持しつつ、上述したような自己修復(又は、治癒)機構を提供するからである。更に、相対的に高い電気伝導性が必要とされないという点で、本発明によるエレクトロウェッティングデバイスにおける使用のため、電解陽極処理溶液が、電解コンデンサに関するのと同じ伝導性要件を持つ必要はない。一般に、電解陽極処理溶液におけるイオン濃度が下がれば、誘電破壊確率が下がり、エレクトロウェッティングデバイスの信頼性が高まる。
電解陽極処理溶液は好ましくは、例えば水のような極性の溶媒を有する。水の他に、いくつかの他の極性の溶媒が用いられることもできる。例えば、多価アルコール類、γ−ブチロラクトン(GBL)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル・ピロリジノン(NMP)、アミド、ポリピロール、融解した塩類及びこれらの任意の組合せである。
特に好ましい電解陽極処理溶液は、実質的に無孔の(又は、ピンホールフリーな)陽極処理された金属酸化物層を生じさせるものである。斯かる溶液の例は、クエン酸、酒石酸、及びホウ酸の溶液、並びにホウ酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、及びリン酸アンモニウムの溶液である。
本発明によるエレクトロウェッティングデバイスにおいて、電源により第1の電極及び電解液(エレクトロウェッティング組成物の第1の流体)の間に電圧差が印加される。明らかに、これは、電源の1つの端子を第1の電極に接続し、他の端子を第2の電極に接続することにより実行されることができる。第2の電極は、電解液に直接結合されるか、又は中間的な絶縁層を介して容量結合される。
第2の電極は好ましくは、電解陽極処理溶液(エレクトロウェッティング組成物の第1の流体)に対して不活性である。例えば、第2の電極は、ステンレス鋼電極とすることができる。
化学安定性及び内部電気抵抗の間の適切なバランスを得るため、第1の流体(電解陽極処理溶液)は、例えば糖及び/又はエチレングリコールといった添加物を有することができる。
本発明によるエレクトロウェッティングデバイスにおいて、誘電体は、層のスタックとすることができる。この場合、スタックは、エレクトロウェッティング組成物と接触する疎水性層を有する。好ましくは、疎水的な層は、例えばテフロン(登録商標)のようなアモルファスフルオロポリマーを有する。
誘電体は、第1の電極の弁金属を陽極処理することにより形成される金属酸化物層を有することができる。
電解陽極処理溶液は、酸性溶液又はアルカリ性溶液とすることができる。エレクトロウェッティングデバイスがテフロン(登録商標)層を有するとき、酸性溶液の使用が好まれる。なぜなら、実験によって、ヒドロニウムイオン(H3O+)にわたる水酸基イオン(OH−)の好ましい吸着により、アルカリ性溶液がテフロン(登録商標)層の表面を負に帯電させることをもたらすことがわかったからである。酸性溶液は、アルカリ性溶液より非常に少ない水酸基イオンを含む。こうして、水酸基イオンの吸着確率が減らされる。
電解陽極処理溶液が酸性溶液であるとき、これは有機酸を有することができる。有機酸は、脂肪族又は芳香族の有機酸とすることができる。脂肪族有機酸は、直鎖、枝分かれ鎖又は非芳香環を持つ。
適切な脂肪族有機酸の例は、単カルボン酸有機酸酢酸、プロピオン酸、アクリル酸及び酪酸である。斯かる有機酸は、単独で使用されることができるか、又は例えばアンモニウム酸ホウ酸塩(ammonium acid borate)、ホウ酸ナトリウム、酒石酸カリウムナトリウム、リン酸アンモニウム、酢酸ナトリウム又は酢酸アンモニウムといった塩類と結合して用いられることができる。
単カルボン酸有機酸の派生物が用いられることもできる。例えば、乳酸、ヒドロキシアクリル酸、クロトン酸、エチレン乳酸、ジヒドロキシプロピオン酸、イソ酪酸、酢酸ジエチル、酢酸イソアミル及び酢酸イソブチルである。
単カルボン酸有機酸の他に、マルチカルボン酸が用いられることもできる。例えば、ジカルボキシル有機酸酒石酸及びトリカルボキシルクエン酸である。
適切な芳香族の有機酸の例は、クレゾール酸(クレゾール)及び石炭酸(フェノール)である。
有機酸の他に、単独で又は有機酸と組み合わせて、無機酸が用いられることもできる。適切な無機酸の例は、ホウ酸である。
好ましい酸は、クエン酸、酒石酸及びホウ酸からなるグループから選択される酸である。なぜなら、斯かる酸を有する電解陽極処理溶液は、実質的に無孔(又は、ピンホールフリーな)陽極処理された金属酸化物層を生じさせるからである。
本発明によるエレクトロウェッティングデバイスにおいて、エレクトロウェッティング組成物の第1の流体は、塩を有することができる。好ましくは、この塩は、ホウ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩からなるグループから選択される。なぜなら、それらが実質的に無孔(又は、ピンホールフリーの)陽極処理された金属酸化物層を生じさせるからである。
本発明によるエレクトロウェッティングデバイスにおいて、第1の電極の弁金属は、マグネシウム、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロミウム、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、アンチモン、ハフニウム、タンタル、タングステン及びビスマスからなるグループから選択されることができる。
誘電体におけるピンホールの場合、自己修復機構が始まることになる。この処理の間、水素ガスが陽極(第1の電極)上に作成される。このガスは小さな量であれば溶解することができる。しかし、大量になると圧力を生み出すことになり、エレクトロウェッティングデバイスの機能を乱す場合がある。特に、デバイスがレンズ機能を持つときに顕著である。この問題は、圧力解法弁を作ることにより、又は電解液に水素ゲッターを加えることにより解決されることができる。適切な水素ゲッターの例は、通常は1%の濃度の芳香族ニトロ化合物及びアミン塩類である。
本発明の第2の側面によれば、上記目的は、上記のエレクトロウェッティングデバイスを製造する方法により実現される。この方法は、第1の電極の弁金属を陽極処理することにより誘電体を形成するステップを有する。
本発明の第3の側面によれば、上記目的は、上記のエレクトロウェッティングデバイスを作動させる方法により実現される。この方法は、時間平均された正味の正電圧が第1の電極に印加されるよう、第1の電極及び第2の電極の間に電圧差を印加するステップを有する。好ましくは作動させる方法は、陽極処理を可能にするよう正極性を持つ第1の電極を用いて、DC電圧を用いる。更に、誘電体が金属酸化物を有する場合、DC電圧の使用は、金属酸化物の溶解を防止する。しかしながら、誘電体の帯電を防止するため、AC電圧が用いられることもできる。平均して正味の正電圧が第1の電極に印加されるよう、AC駆動が実行される場合、誘電体に含まれる金属酸化物は溶けるべきでない。
本発明によるエレクトロウェッティングデバイスにAC電圧を印加する代替的な方法は、いわゆる「背中合わせの」構成が作成されるという態様で、デバイスと直列にコンデンサを用いることである。言い換えると、電源に加えて、電極及びエレクトロウェッティング組成物の間にコンデンサが挿入される。この方法は、AC電圧を用いて電解コンデンサを駆動するために知られる。
図1及び図2は、本発明によるエレクトロウェッティングデバイスに含まれることができる複数のセルの断面を示す。
図1において、セル100は、第1の流体110及び第2の流体120のエレクトロウェッティング組成物を有する。第1の流体110は、第2の流体120との不混和性を持つ。更に、第1の流体110は、電解液である。セル100は、アルミニウム層130の形で第1の電極を更に有する。アルミニウムは、弁金属である。電極は、パリレン層140及び疎水性被覆150を有するスタックの形で、誘電体によりエレクトロウェッティング組成物から分離される。ここで、疎水性被覆は、エレクトロウェッティング組成物と接触している。
セル100は、バッテリー160の形でDC電源も有する。ここで、電源の正極は、アルミニウム層130に接続され、負極は第1の流体110に接続される。図1aでは、電圧は印加されない。一方、図1bでは、作動電圧差が、アルミニウム層130及び第1の流体110の間に印加される。結果的に、エレクトロウェッティング効果は第1の流体110及び第2の流体120の間のインタフェースにおける変化によって示されるものとして得られる。この変化は、電気機械力によりもたらされる。これは、疎水性被覆150の疎水性において見かけの変化をもたらす。この作動電圧差において、電解液である第1の流体110が、酸化アルミニウムを形成するよう、アルミニウム層130のアルミニウムを陽極処理することができる。
代替的に、図1に示されるようなセルは、パリレン層140の代わりに、金属酸化物層、好ましくはアルミニウム層130の陽極処理により得られる酸化アルミニウム層、又はポリエチレンテレフタル酸塩(PET)層を有する誘電体を持つことができる。更に、アルミニウム層130は、例えばガラス担体又はシリコン担体といった担体上に提供されることができる。
図2は、本発明によるエレクトロウェッティングデバイスの例である可変焦点レンズ200の断面を示す。
可変焦点レンズ200は、第1の透過的基板210、第2の透過的基板220、及び第1の透過的基板210及び第2の透過的基板220から間隔を置いて配置される金属スペーサ230を有する。第1の透過的基板210、第2の透過的基板220及び金属スペーサ230は、共に異なる光学特性を持つ水性の電解液240及び油250を備えるエレクトロウェッティング組成物を含むセルを構成する。
金属スペーサ230は、可変焦点レンズ200の第1の電極である。これは、弁金属を有し、金属スペーサ230をエレクトロウェッティング組成物から分離する金属酸化物層231の形で誘電体を用いて被覆される。第1の透過的基板210は、親水性透過的導電性被覆211の形で、追加的な電極を用いて被覆される。
エレクトロウェッティング組成物に対して露出される第2の透過的基板220の領域及び金属酸化物層231の領域は、疎水性透過的被覆221を用いて被覆される。任意の導電性流体が第2の基板220上で凝縮するのを防止するため、疎水性透過的被覆221が、第2の基板220上にも適用される。
可変焦点レンズ200も、バッテリー260の形でDC電源を有する。この正極は、金属スペーサ230に接続され、負極は、親水性導電性被覆211に接続される。周囲と同じ電位に電解液240を保つため、負極は好ましくは接地される。こうして、電解液240と周囲の電位差が流体−流体インタフェースを歪めることが防止される。図2aでは、電圧は印加されない。一方、図2bでは、作動電圧差が、金属スペーサ230及び親水性導電性被覆211の間に印加される。結果的に、エレクトロウェッティング効果は、水性の電解液240及び油250の間のインタフェースにおける変化によって示されるものとして得られる。これは、疎水性被覆221の疎水性における変化によりもたらされる。この作動電圧差において、エレクトロウェッティング組成物の水性の電解液240は、金属酸化物を形成するよう、金属スペーサ230の弁金属を陽極処理することができる。
本発明によるエレクトロウェッティングデバイスは、以下のように製造されることができる。
アルミニウム基板が、8%のクエン酸及び0.5%のリン酸の水溶液に配置される。アルミニウム基板の陽極処理は、水溶液及びアルミニウム基板の間に電圧差を印加することにより実行される。ここで、アルミニウム基板が陽極を形成し、陰極は、ステンレス鋼のプレートから成る。電流密度は、約10mA/cm2である、陽極処理開始電圧は、150Vより低く、陽極処理終了電圧は150Vである。数時間後、210nmの厚さを持つ酸化アルミニウムの層が、アルミニウム基板上に成長した。
好ましくは、クエン酸の水溶液のpHは、電圧がデバイスに印加されないとき、アルミニウム及び酸化アルミニウムのエッチングを防止するため、増加される。一方、陽極処理能力及び良好なエレクトロウェッティング性能は維持される。クエン酸の水溶液のpHは、水酸化アンモニウムの溶液を加えることにより増加されることができる。例えば、1リットルの8%のクエン酸の水溶液のpHは、0.18リットルの5Mの水酸化アンモニウム溶液を加えることにより増加されることができ、6.68のpHを得る。
陽極処理により得られる誘電層は、多孔性とすることができるので、陽極処理後、誘電層をピンホールフリーにするため、封止処理が実行されることができる。
酸化アルミニウム層は、FC−75(テトラヒドロフランのフルオロカーボン派生物であり、化学式C8F16O)における1%のテフロン(登録商標)AF−1600溶液においてディップコーティングすることにより、アモルファスフルオロポリマーテフロン(登録商標)AF−1600の10nm層を用いて被覆される。アモルファスフルオロポリマー被覆は、任意の残りの溶媒を蒸発させるため、10分間200°でアニーリングされる。被覆の堆積は、酸素プラズマを用いるガスの陽極処理によって、又は原子層堆積によって実行されることもできる。
次に、シリコーンオイルにより囲まれる8%のクエン酸の水溶液のしずくが、アモルファスフルオロポリマー被覆上に提供される。
上記は、本発明によるエレクトロウェッティングデバイスを生じさせる。ここで、エレクトロウェッティング組成物の第1の流体は、8%のクエン酸の水溶液の形の電解液であり、エレクトロウェッティング組成物の第2の流体は、シリコーンオイルである。両者の流体は、不混和性である。第1の電極は、アルミニウム基板である。これは、厚さ210nm酸化アルミニウム層及び厚さ10nmテフロン(登録商標)AF−1600層のスタックの形で誘電体によりエレクトロウェッティング組成物から分離される。
アルミニウム基板が、電源の正極に接続され、シリコーンオイルにより囲まれる8%のクエン酸の水溶液のしずくが、電源の負極に接続されるとき、0Vから20Vの間の作動電圧が得られる。これらの電圧差は、しずくが、電圧差の増加に応じて更に広がる点でエレクトロウェッティング効果を明確に示す。全体のスタックを通り貫通する層のスタックにおいてスクラッチを故意に作った後でさえ、エレクトロウェッティング効果は、誘電破壊なしに続く。
同様なデバイスは、マグネシウム、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロミウム、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、アンチモン、ハフニウム、タンタル、タングステン及びビスマスを有する基板から製造されることもできる。この基板において、対応する金属酸化物層が、陽極処理により成長されることができる。
誘電体は、スパッタリング、蒸発、ペーストのアニーリング、ガス状の前駆体からの原子層堆積、化学蒸着、熱酸化、エロキサチン又は陽極処理により提供されることができる。
陽極化処理において、印加電圧差は、誘電体の厚みを決定する。例えば、酸化アルミニウム層に関して、達成できる厚みは、1.4nm/Vであり、酸化タンタル層に関して、2nm/Vである。
発明者らは、誘電体の特定の厚みに関して、エレクトロウェッティングデバイスを作動させるのに使用される電圧が、第1の電極の陽極処理により誘電体を成長させるのに必要な電圧よりかなり低いことに気づいた。これは、誘電体が、エレクトロウェッティングデバイスの処理の間、成長しないことを意味する。誘電体における故障の場合にのみ、成長処理が開始することになる。しかし、誘電体は、最初の設計より決して厚くならない。例えば、100nmタンタル酸化物層の形の誘電体を有するエレクトロウェッティングデバイスは、10Vの作動電圧で通常は作動される。一方、タンタル酸化物層は、50Vで成長する。より厚い誘電体に対しては、この差は、陽極処理電圧に関する誘電体の厚みの線形依存性と比較すると、誘電体の厚みに関するエレクトロウェッティング駆動電圧の平方根依存性が原因で一層大きくなる。
特に誘電体が金属酸化物層を有するとき、本発明によるエレクトロウェッティングデバイスは好ましくは、金属酸化物層の溶解を防止するため陽極処理を可能にするよう、正極性を持つ第1の電極を用いてDC電圧で作動される。
しかしながら、誘電体の帯電を防止するため、AC電圧を用いることが有利である。誘電体が溶解することを防止するため、平均して正味の正電圧が第1の電極に印加されるよう、AC駆動は好ましくは実行される。電荷蓄積は、高い正値(ワークポイント)及び低い値(デチャージポイント)、例えば0Vの間の電圧をスイープすることにより、すでに防止されることができる。
平均して正味の正電圧が第1の電極に印加されるよう、AC駆動を用いる第1の態様は、AC駆動電圧に正電圧オフセットを加えることである。
AC電圧に陽オフセットを加えることにより、平均電圧は正でありえる。一方、蓄積電荷が、負電圧で除去される。正電圧の印加の間の陽極化処理と、負電圧の印加の間の溶解処理との間に競争が存在する。これらの処理は、印加電圧の持続時間及び大きさに依存する。陽オフセットがあまりに低いとき、溶解処理が勝つことができ、陽極処理された層は破壊される可能性がある。又は、陽極処理された層がまだない場合(例えば、アルミニウムに堆積される穿孔されたパリレンの場合)、陽極処理された層は形成されないであろう。陽オフセットがあまりに高いとき、陽極化処理が勝つことができるが、負電圧を印加することによる電荷除去も実効的でなくなる。
実験によれば、陽極化処理がちょうど溶解処理を打ち負かすオフセットは、周波数依存であることが分かった。溶解及び陽極化処理の強さが均衡するポイントに達するのに、より低い周波数では、より高いDCオフセットを必要とする。
例えば、実験は、アルミニウム上に堆積される300nmの厚さの穿孔されたパリレン−C被覆上で、シリコーンオイルにより囲まれる水性の8%のクエン酸溶液を用いて実行された。表1は、AC駆動周波数の関数として、溶解及び陽極化処理の強さが均衡するDCオフセット(DCオフセット閾値)を与える。表1において、DCオフセットは、最大電圧振幅のパーセンテージとして与えられる。最大電圧は、この実験において7Vである。
表1:アルミニウムに堆積される300nmの厚さの穿孔されたパリレン−C被覆上で、シリコーンオイルにより囲まれる水性の8%のクエン酸溶液を用いるデバイスに対する、AC駆動周波数の関数としてのDCオフセット閾値。
より高い周波数は、相対的に小さなオフセットのみを必要とし、又は全くオフセットを必要としない。例えば、上述したデバイスが約1000HzのAC周波数で駆動されるとき、何らオフセットは必要とされない。理論的には、陽極化処理が溶解処理より実効的である場合、相対的に小さな負オフセットのAC駆動でさえ、陽極処理をまだ可能にすることは起こりうる。
平均して正味の正電圧が第1の電極に印加されるようAC駆動を用いる第2の態様は、修正されたデューティサイクルを用いてAC駆動を実行することである。既に上述した様に、競合する陽極処理及び溶解処理は、印加電圧の持続時間及び大きさに依存する。正電圧が印加される期間の持続時間が、負電圧が印加される期間の持続時間と比べて短いとき、溶解処理が勝つことができ、陽極処理された層が破壊される可能性がある。又は、陽極処理された層がまだない場合(例えば、アルミニウムに堆積される穿孔されたパリレンの場合)、陽極処理された層は形成されないであろう。正電圧が印加される期間の持続時間が、相対的に長いとき、陽極処理が勝つことができるが、負電圧が印加される(相対的に短い)期間の間の電荷除去が、実効的でなくなる。
例えば、アルミニウムに堆積される300nmの厚さの穿孔されたパリレン−C被覆上で、シリコーンオイルにより囲まれる水性の8%のクエン酸溶液を用いて、実験が実行された。表2は、AC駆動周波数の関数として、溶解及び陽極化処理の強さが均衡するデューティサイクル(正電圧が印加される時間の割合)(デューティサイクル閾値)を与える。
表2:アルミニウムに堆積される300nmの厚さの穿孔されたパリレン−C被覆上で、シリコーンオイルにより囲まれる水性の8%のクエン酸溶液を用いるデバイスに対する、AC駆動周波数の関数としてのデューティサイクル閾値。
物質及び条件の選択に基づき、AC駆動は、帯電を防止するために効果的に用いられることができる。上述したデバイスに対して、約250Hz以下のAC駆動周波数が用いられるとき、正電圧が印加される時間の割合は好ましくは、50%以上である。より高いAC駆動周波数に対して、正電圧が印加される時間の割合は、50%未満とすることができる。
理論的には、正電圧が印加される期間の持続時間が、負電圧が印加される期間の持続時間より短いデューティサイクルが、陽極化処理が溶解処理より有効なときでも、なお陽極処理を可能にする。
更に、明細書及び請求項における第1、第2、第3等の用語は、同様な要素間を識別するのに使用され、必ずしも順次的な順序又は実際の順序を表すものではない。そのように使用されるこれらの用語は、適切な環境下において互いに交換可能であり、本書に述べられる本発明の実施形態は、本書に説明又は図示される順序以外の他の順番で動作することができる点を理解されたい。
上述された実施形態は本発明を限定するものではなく説明するものであり、当業者であれば、添付された請求項の範囲から逸脱することなく、多くの代替的な実施形態をデザインすることができることになることに留意されたい。請求項において、括弧内に配置されるいかなる参照符号も請求項を限定するものとして解釈されるべきではない。動詞「有する」及びその活用形の使用は、請求項に記載される以外の要素又はステップの存在を除外するものではないし、動詞が「から成る」を意味する実施形態を除外するものでもない。ある要素に先行する「a」又は「an」という語は、斯かる要素が複数存在することを除外するものではない。特定の手段が相互に異なる従属項に記載されるという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用されることができないことを示すものではない。