以下、図面を参照して本発明の無線通信システムを適用した場合における実施形態について説明する。なお、本実施形態において説明した事項は、発明を理解するための一態様であり、実施形態に限定して発明の内容が解釈されるものではない。
以下では、ATは行列Aの転置行列、AHは行列Aの随伴(エルミート転置)行列、A−1は行列Aの逆行列、A+は行列Aの疑似(もしくは一般)逆行列、diag(A)は行列Aの対角成分のみを抽出した対角行列、floor(c)は実部と虚部がそれぞれ複素数cの実部と虚部の値を超えない最大のガウス整数を返す床関数、E[x]はランダム変数xのアンサンブル平均、abs(c)は複素数cの振幅を返す関数、angle(c)は複素数cの偏角を返す関数、||a||はベクトルaのノルム、x%yは整数xを整数yで除算したときの余りをそれぞれ表すものとする。また、[A;B]は二つの行列AおよびBを行方向に結合した行列、[A,B]は行列AおよびBを列方向に結合した行列を、それぞれ表すものとする。
[1.第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る無線通信システムの概略を示す図である。第1の実施形態においては、Nt本の送信アンテナを有し、非線形プリコーディングが可能な基地局装置(無線送信装置とも呼ぶ)1に対して、1本の受信アンテナを有する端末装置(無線受信装置とも呼ぶ)3(端末装置3−1、3−2、・・・、3−u、・・・、3−Uを合わせて端末装置3とも表す)がU個接続しているMU−MIMO伝送を対象とし、Nt=Uであるものとするが、NtとUは異なっていても構わないが、Nt>Uであることが望ましい。伝送方式としては、Nc個の副搬送波(サブキャリア)を有する直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency Division Multiplexing(OFDM))を仮定する。基地局装置1は各端末装置3より通知される制御情報により各端末装置3までの伝搬路情報を取得し、その伝搬路情報に基づき、送信データに対してサブキャリア毎にプリコーディングを行なうものとする。なお、端末装置3の受信アンテナ数は1に限定されるものではない。また、本実施形態においては、各端末装置3に送信されるデータストリーム数(ランク数とも呼ぶ)は1としているが、ランク数が2より大きい場合も本実施形態には含まれる。
はじめに基地局装置1と端末装置3の間の伝搬路状態情報について定義する。本実施形態においては、準静的周波数選択性フェージングチャネルを仮定する。第n送信アンテナ(n=1〜Nt)と第u端末装置3−uの間(u=1〜U)の第kサブキャリアの複素チャネル利得をhu,n(k)としたとき、伝搬路行列H(k)を式(1)のように定義する。
なお、hu(k)=[hu,1(k),…,hu,Nt(k)]は第u端末装置3−uで観測される複素チャネル利得により構成される伝搬路行ベクトルを表す。
[1.1 基地局装置1]
図2は、本発明の第1の実施形態に係る基地局装置1の構成を示すブロック図である。図2に示すように、基地局装置1は、チャネル符号化部101と、データ変調部103と、マッピング部105と、プリコーディング部107と、アンテナ部109と、制御情報取得部111と、CSI取得部113とを含んで構成されている。プリコーディング部107はサブキャリア数Nc、アンテナ部109は送信アンテナ数Ntだけそれぞれ存在する。各端末装置3宛ての送信データ系列はチャネル符号化部101において、チャネル符号化が行なわれたのち、データ変調部103において、QPSK、16QAM等のディジタルデータ変調が施される。データ変調部103からの出力はマッピング部105に入力される。
マッピング部105では、各データを指定された無線リソース(リソースエレメント、もしくは単にリソースとも呼ぶ)に配置するマッピング(スケジューリングもしくはリソースアロケーションとも呼ぶ)が行なわれる。ここでの無線リソースとは、周波数、時間、符号および空間を主に指す。使用される無線リソースは、端末装置3で観測される受信品質や、空間多重される端末同士の伝搬路の直交性等に基づいて決定される。本実施形態においては、使用される無線リソースは予め定められているものとし、基地局装置1と各端末装置3の双方で把握できているものとする。なお、マッピング部105では、各端末装置3において伝搬路推定を行なうための既知参照信号系列も多重される。
各端末装置3宛ての参照信号については、受信した端末装置3において分離可能なように、それぞれが直交するように多重されるものとする。また、参照信号には、伝搬路推定用の参照信号であるCell−specific reference signal(CRS)と復調用の固有参照信号であるDemodulation reference signal(DMRS)の二つの参照信号が多重されるものとするが、別の参照信号を更に多重する構成としても構わない。CRSは、式(1)で表されている伝搬路行列を推定するためのものであり、DMRSは後述するプリコーディングの結果が反映された伝搬路情報を推定するためのものである。本発明において、CRSについては、データ信号およびDMRSとは完全に直交しているものとし、また各送信アンテナから送信されるCRSも、お互いに直交するように無線リソースに配置されているものとする。データ信号とDMRSの多重方法については、後述するプリコーディング部107における信号処理について説明してから詳細を記載することとする。
マッピング部105の出力は、それぞれ対応するサブキャリアのプリコーディング部107に入力される。プリコーディング部107における信号処理の説明は後述するものとし、以下では、プリコーディング部107の出力に対する信号処理について先に説明する。各サブキャリアのプリコーディング部107の出力は、それぞれ対応する送信アンテナのアンテナ部109に入力される。
図3は、本発明の第1の実施形態に係るアンテナ部109の装置構成を示すブロック図である。図3に示すように、アンテナ部109は、IFFT部201と、GI挿入部203と、無線送信部205と、無線受信部207と、アンテナ209とを含んで構成されている。各アンテナ部109では、対応するプリコーディング部107の出力がIFFT部201に入力され、Ncポイントの逆高速フーリエ変換(IFFT)、もしくは逆離散フーリエ変換(IDFT)が適用されて、Ncサブキャリアを有するOFDM信号が生成され、IFFT部201より出力される。ここでは、サブキャリア数とIFFTのポイント数は同じものとして説明しているが、周波数領域にガードバンドを設定する場合、ポイント数はサブキャリア数よりも大きくなる。IFFT部201の出力はGI挿入部203に入力され、ガードインターバルが付与されたのち、無線送信部205に入力される。無線送信部205において、ベースバンド帯の送信信号が無線周波数(RF)帯の送信信号に変換される。無線送信部205の出力信号は、アンテナ209よりそれぞれ送信される。
無線受信部207には、端末装置3にて推定される伝搬路状態情報に関連付けられた情報が受信され、制御情報取得部111に向けて出力される事になる。
[1.2 プリコーディング部107]
プリコーディング部107において行なわれる信号処理について説明する。以下では、第kサブキャリアのプリコーディング部107について説明するものとし、はじめにマッピング部105出力のうち、データ信号成分が入力された場合について説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態に係るプリコーディング部107の装置構成を示すブロック図である。図4に示すように、プリコーディング部107は、線形フィルタ生成部301と、摂動ベクトル探査部303と、送信信号生成部305とを含んで構成されている。プリコーディング部107には、各端末装置3宛ての送信データを含むマッピング部105の出力の第kサブキャリア成分{du(k);u=1〜U}と、CSI取得部113の出力の第kサブキャリアの伝搬路行列H(k)が入力される。H(k)は上述したCRSに基づき、端末装置3にて推定され、基地局装置1に通知される。以下の説明では、H(k)は理想的にCSI取得部113にて取得されるものとし、簡単のため、インデックスkは省略して記述する。
はじめに線形フィルタ生成部301において、IUI抑圧のための線形フィルタWを生成する。以下では、THPに基づく方法を対象として説明する。
THPでははじめに、取得された伝搬路行列Hに対して、LQ分解を適用し、H=LQのように下三角行列Lとユニタリ行列Qとに分解する(なお、HHにQR分解を適用することで同様の計算結果を得ることも可能である)。このとき、線形フィルタWはW=QH{diag(L)}−1で表すことができる。なお、このようにして算出された線形フィルタを用いるTHPは、Zero−forcing(ZF)規範に基づく。ZF規範ではなく、送信信号と受信信号との平均二乗誤差(Meam square error(MSE))を最小とする最小平均二乗誤差(Minimum MSE(MMSE))規範に基づいたTHPも可能であり、この場合、[H;γI]を伝搬路行列と見なして、LQ分解を行なえば良い。ここで、γは残留干渉を制御するパラメータである。通常、1端末装置当たりの送信信号電力対雑音電力比の平方根の逆数が入力されるが、プリコーディング部107で取得されるCSIの種類によって値は異なる。例えば、CSIに受信電力も含まれている場合、γは端末装置3で印加される熱雑音の標準偏差となる。生成された線形フィルタWは摂動ベクトル探査部303および送信信号生成部305に入力される。
摂動ベクトル探査部303における信号処理について説明する。送信データベクトルd=[d1,・・・,dU]Tに線形フィルタWが乗算された送信信号ベクトルs=[s1,・・・,sNt]T=Wdを基地局装置1より送信した場合、各端末装置3で観測される受信信号で構成される受信信号ベクトルr=[r1,・・・,rU]Tは式(2)で与えられる。
ここで、η=[η1,・・・,ηNr]Tは各端末装置3で受信信号に印加される雑音により構成される雑音ベクトルである。また、Li,jは行列L{diag(L)}−1の第i行j列成分を表す。式(2)より、第1端末装置3−1については、IUIの無い伝送が実現できている一方で、第2端末装置3−2以降については、IUIの影響を受けていることが分かる。
そこで、線形フィルタの乗算に加えて、IUIの抑圧のための信号処理が基地局装置1のプリコーディング部107において行なわれる。具体的には、第u端末装置3−u宛ての送信信号を、duではなく、式(3)で与えられる送信符号xuとする処理が行なわれる。
式(3)で与えられる送信符号xuから構成される送信符号ベクトルx=[x1,・・・,xU]Tをdの代わりに送信すれば、IUIの無い伝送を実現できる。しかし、xuの電力は伝搬路行列Hに依存するため、Hの状態によってはduよりも遥かに大きな電力となる場合がある。そのため、THPでは、{xu; u=2〜U}に対して、逐次的にmodulo演算を施す。入力された複素数xuについて、その実部と虚部がそれぞれ−δからδに収まるような出力を返すmodulo演算moduloδ(xu)は式(4)で与えられる。
ここで、zt,u=−floor(xu/2δ+(1+j)/2)を摂動項と呼ぶこととする。摂動項は実部と虚部がそれぞれ整数となる複素数(ガウス整数とも呼ばれる)となる。modulo演算を施すことにより、xuの電力は伝搬路行列Hには依存せず、δをパラメータとして与えられることになる。δの値はデータ変調方式によって、最適な値が計算されており、QPSKであれば21/2、16QAMであれば4/101/2となるが、基地局装置1と端末装置3との間で共有されているのであれば、この値に設定せずとも構わない。摂動項で構成される摂動ベクトルzt=[zt,1,・・・,zt,U]Tを用いると、送信符号ベクトルはx=(HW)−1(d+2δzt)で与えられる。摂動ベクトル探査部303で行なわれる信号処理は送信符号ベクトルxを算出するものとなる。摂動ベクトル探査部303より出力された送信符号ベクトルxは送信信号生成部305に入力される。
送信信号生成部305では、送信信号ベクトルs=(2P)1/2βWxを算出し、プリコーディング部107の出力として出力する。ここで、Pは1端末装置当たりの平均送信電力を表す。βは電力正規化項であり、E[|du|2]=1とした場合、式(5)で与えられる。
ここで、C
vは送信符号ベクトルxの共分散行列であり、式(6)で与えられる。
以上がデータ信号のみがプリコーディング部107に入力された場合の信号処理に関する説明である。CRSが入力された場合、これまで説明してきた信号処理は基本的に行なわれず、電力調整のみが行なわれる事になる。
DMRSが入力される場合について説明する。DMRSは端末装置3が受信信号処理より所望の信号を復調するのに必要となる伝搬路情報を推定するための信号である。詳細は後述するが、THPによる非線形プリコーディングが行なわれている場合、端末装置3は(2P)1/2βを把握する必要がある。
ここで、線形MU−MIMOと同様に既知の信号から構成されているパイロット信号ベクトルp=[p1,・・・,pU]Tにデータ信号と同様のプリコーディングを行なうことを考える。このとき、受信信号は式(7)で与えられることになる。
式(7)より、第1端末装置3−1については、受信信号対雑音電力比(Signal-to-Noise power Ratio(SNR))が十分に大きければ、受信された信号よりp1を除算することで所望の情報を取得できることが分かる。一方、第2端末装置3−2においては、既知信号であるp2で受信信号を除算したとしても、摂動項zt,2が未知であるために、所望の情報を取得することが出来ない。第3端末装置3−3以降においても同様である。そこで、DMRSについては、空間多重を行なわない手法が従来検討されている。
図5は、DMRSの空間多重を行なわない場合のフレームフォーマットの一例を示したものである。図5では、空間多重端末数をU=4としている。puは第u端末装置3−uに送信されるDMRSである。またdu(i)は第u端末装置3−uに送信される第i送信シンボルを表す。{E[|pu|2]=1,u=1〜U}および{E[|du(i)|2]=1,u=1〜U}として説明していくが、両者の平均電力は異なっていても構わず、また端末装置3毎に異なる電力でも構わない。なお、以下では空間リソースの位置をアンテナポート番号と呼ばれる番号で呼ぶ場合もある。
各端末装置3に対して、異なる時間にDMRSを送信し、ある端末装置3宛てにDMRSが送信されている間は、他の端末装置3には如何なるデータも送信しない。この場合、受信されたDMRS信号には抑圧すべきIUIは存在しない。よって、modulo演算による摂動項の加算を行なう必要もないから、適切な送信電力制御さえ行なわれれば、各端末装置3は所望の情報を取得することができる。しかし、この場合、DMRSの送信に多くの無線リソースが消費されてしまうため、周波数利用効率を大幅に低下させてしまう。図5を例にとれば、DMRS挿入により伝送レートは2分の1となってしまう。本実施形態では、DMRSと一部データ信号を空間多重させることにより、周波数利用効率の向上を実現する。
図6は、本発明の第1の実施形態におけるフレームフォーマットの一例を示したものである。図6では、空間多重端末数をU=4としているが、多重端末数に制限は無い。図6に示すように、本実施形態においては、ある端末装置3宛てのDMRSとともに、他端末装置3宛てのデータ信号を送信している。この場合、DMRS挿入によって伝送レートは8分の7であり、従来方式と比較して、およそ1.75倍となる。時刻t=1から時刻t=4までは、DMRSとデータ信号が混在された送信データベクトルdp(1)、dp(2)、dp(3)、およびdp(4)を連続して送るものとし、時刻t=5以降は、全てデータ信号で構成されている送信データベクトルd(t)を送るものとする。dp(1)、dp(2)、dp(3)、およびdp(4)は式(8)で与えられるものとする。
以下では、DMRSとデータ信号とが混在された送信データベクトルのことをDMRSベクトルと呼ぶこととし、データ信号のみで構成されるベクトルのことを送信データベクトルと呼ぶこととする。はじめに、dp(1)がプリコーディング部107に入力された場合について説明する。既に説明してきたデータ信号に対するプリコーディングと同様の信号処理をした場合、受信信号ベクトルは式(9)で与えられることになる。
第1端末装置3−1は受信された信号からp1を除算することで、所望の情報を取得できる。第2端末装置3−2以降の装置については、この段階においては、信号の復調を行なうことは出来ないため、受信信号を記憶するに留めておくことになる。
続いて、dp(2)がプリコーディング部107に入力された場合について説明する。既に説明してきたデータ信号に対するプリコーディングと同様の信号処理をした場合、受信信号ベクトルは式(10)で与えられることになる。なお、説明を簡単にするため、伝搬路の時間選択性は十分に弱いものとする。
第1端末装置3−1は、r(1)に対する信号処理により信号復調に必要な情報が得られているため、d1(1)を復調することができる。一方、第2端末装置3−2については、既知信号に摂動項が付与されているため、所望の情報を取得することが出来ない。
そこで、第1の実施形態の摂動ベクトル探査部303では、DMRSベクトルが入力された場合、DMRSには摂動項の付与を行なわないようにする。つまり、dp(2)が入力されたとき、摂動ベクトル探査部303の出力xp(2)=[xp,1(2),xp,2(2),xp,3(2),xp,4(2)]Tは式(11)で与えられることになる。
式(11)で与えられる送信符号ベクトルを送信信号生成部305に入力することで送信信号が生成される。ただし、送信符号ベクトルの共分散行列は式(6)とは異なり、式(12)で与えられることになるから、電力正規化項βも若干異なる値となる。
以下では、dp(t)を送信する際の電力正規化項をβ(t)で表すこととする。なお、β(1)=βとなる。
このようにして得られた送信信号ベクトルが基地局装置1より送信された場合、受信信号は式(13)で与えられることになるから、第2端末装置3−2は受信信号より(2P)1/2β(2)を把握することができる。
この情報を用いることで、一旦記憶しておいたr(1)より、データ信号d2(1)を復調することができる。また、第1端末装置3−1については、r(1)により得られた情報より、d1(1)を復調することが可能となる。以下、dp(3)およびdp(4)についてもdp(2)と同様の信号処理を摂動ベクトル探査部303および送信信号生成部305で行なえば良い。ただし、伝搬路の状態によっては、β(2)〜β(4)とβとが大幅に異なる値となる場合がある。その差が無視できないほど大きい場合(例えば、予め与えられた閾値Γよりも差が大きい場合等)以下に説明する方法により、その差分を通知するように制御しても良い。
方法1として、送信電力制御方法がある。これは、β(1)〜β(4)のうち、最も値の小さい値を全てのリソース(送信データベクトルも含む)における電力正規化項とするものである。このように制御することで、電力正規化項の誤差に依存する誤りは発生しなくなるものの、受信電力が若干低下することになる。方法2としては、位相による差分通知方法がある。これは、各端末装置3宛てのDMRSの位相に、電力正規化項に関する差分情報を与えるものである。
図7は、本発明の第1の実施形態において、電力正規化項の補正を行なう場合も含めた摂動ベクトル探査部303および送信信号生成部305におけるDMRSベクトルに対する信号処理について説明するフローチャートである。はじめに、入力された線形フィルタWに基づいて、β(1)〜β(4)を計算する(ステップS101)。なお、β=β(1)となる。続いて、β(2)〜β(4)とβとの誤差が閾値Γを超えているか否かの判定が行なわれる(ステップS102)。なお、Γの値は計算機シミュレーション等により適切な値を事前に把握しておけば良い。β(2)〜β(4)とβとの誤差が小さい場合(ステップS102:YES)、電力正規化項に対する補正は何ら行なわれないため、前述してきたように、dp(1)〜dp(4)に対して、THPが施され、送信符号ベクトルxp(1)〜xp(4)を算出する(ステップS103)。そして、算出された送信符号ベクトルと線形フィルタWに基づいて、送信信号ベクトルが算出される(ステップS104)。
一方、β(2)〜β(4)とβとの誤差が大きい場合(ステップS102:NO)、電力正規化項の誤差を補正するための信号処理が施される。方法1で補正する場合(ステップS105:N=1)、β(1)〜β(4)の中で、最小の値となるものを探索し、それをβminとする(ステップS106)。そして、ステップS103と同様の信号処理が行なわれた後(ステップS107)、送信信号ベクトルが生成されるが、この場合、電力正規化項は常にβminが用いられることになる(ステップS108)。なお、方法1が用いられた場合、送信データべクトルに対しても、電力正規化項はβminが用いられることになる。
方法2で補正する場合(ステップS105:N=2)、α(1)=β(1)/β(4)および{α(t)=β(t)/β(1);t=2〜4}を算出する(ステップS109)。続いて、算出されたα(t)に基づいて、各端末装置3宛てのDMRSをptexp(jα(t))とする(ステップS110)。その後、ステップS103およびステップS104と同じ信号処理が行なわれることになる(ステップS111、ステップS112)。なお、詳細は後述するが、全てのDMRSベクトルについて、方法2で補正を行なった場合、正しく信号復調を行なうことが出来ない場合がある。そのため、少なくとも一つのDMRSベクトルについては、方法1で補正を行なうか、従来技術のように直交リソースで送信する必要がある。
方法1と方法2のいずれを用いるかは、所望の受信品質等に応じて、予め決定しておいても良いし、瞬時の受信品質に応じて、適応的に変更するように制御しても良い。適応的に変更する場合、用いられている補正方法に関連付けられた制御情報が各端末装置3宛てに通知される事になる。
以上の説明では、DMRSベクトルdp(1)、dp(2)、dp(3)、およびdp(4)については、時間分割多重するものとしているが、時間分割多重ではなく、周波数分割多重や符号分割多重により多重しても良いし、時間と周波数の2次元で多重するようにしても良い。dp(1)、dp(2)、dp(3)、およびdp(4)の多重方法に応じて、マッピング部105では、データ信号、DMRSおよびCRSを多重させることになる。
図8は、本発明の第1の実施形態において、U=4およびNt=4の場合におけるリソースアロケーションの一例を示した図である。#nは第n送信アンテナより送信されるCRSを表しており、該当無線リソースでは、第n送信アンテナからのみ信号が送信される。空白部分にはデータ信号もしくは制御信号が多重されており、それぞれ複数の端末装置3宛ての信号が空間多重されて送信されることになる。なお、どの無線リソースにおいてDMRSが送信されているかは、基地局装置1より予め通知されるものとしている。
また、これまでの説明では、DMRSベクトルに含まれるDMRSは一つであるものとしているが、含まれるDMRSの数は1に限られるものではない。複数のDMRSを空間多重する場合、いずれのDMRSについても摂動項の加算を行なわないように制御しても良いが、一部DMRSについては、摂動項の加算を行なっても良い。ただし、例えば時刻t=1において、第1端末装置3−1と第2端末装置3−2宛てのDMRSを空間多重するものとし、第2端末装置3−2宛てのDMRSには摂動項を加算する場合、異なる時刻(例えば時刻t=2)においては、第2端末装置3−2宛てに摂動項の加算を行なっていないDMRSを送信する必要がある。摂動項の加算を行なっていないDMRSによって推定された情報を用いることで、摂動項が加算されたDMRSも伝搬路推定に用いることが可能となる。
[1.3 端末装置3]
図9は、本発明の第1の実施形態に係る端末装置3の構成を示すブロック図である。図9に示すように、端末装置3はアンテナ401と、無線受信部403と、GI除去部405と、FFT部407と、参照信号分離部409と、伝搬路推定部411と、フィードバック情報生成部413と、無線送信部415と、伝搬路補償部417と、デマッピング部419とデータ復調部421と、チャネル復号部423とを含んで構成されている。
端末装置3においては、アンテナ401で受信された信号が、無線受信部403に入力され、ベースバンド帯の信号に変換される。ベースバンド帯に変換された信号は、GI除去部405に入力され、ガードインターバルが取り除かれた後、FFT部407に入力される。FFT部407では、入力された信号に対して、Ncポイントの高速フーリエ変換(FFT)もしくは離散フーリエ変換(DFT)が適用され、Nc個のサブキャリア成分に変換される。FFT部407の出力は参照信号分離部409に入力される。参照信号分離部409では入力された信号を、データ信号成分とCRS成分と、DMRS成分とに分離する。そして、データ信号成分については、伝搬路補償部417に向けて出力され、CRSとDMRSについては、伝搬路推定部411に向けて出力される。以下で説明する信号処理は基本的にはサブキャリア毎に行なわれることになる。
伝搬路推定部411では、入力された既知参照信号であるCRSおよびDMRSに基づいて伝搬路推定が行なわれる。はじめにCRSを用いた伝搬路推定について説明する。CRSは、プリコーディングを適用されずに送信されているため、式(1)で表されている伝搬路行列H(k)のうち、各端末装置3に対応する成分(例えば第u端末装置3−uであればH(k)のうちの第u行成分)を推定することが可能である。通常、CRSは無線リソースに対して周期的に多重されるため、全てのサブキャリアの伝搬路情報を直接推定することは出来ないが、標本化定理を満たすような時間間隔、および周波数間隔でCRSを送信することで、適切な補間による全サブキャリアの伝搬路情報の推定が可能となる。具体的な伝搬路推定方法については、特に限定しないが、例えば二次元MMSE伝搬路推定を用いることが考えられる。
CRSにより推定された伝搬路情報はフィードバック情報生成部413に入力される。フィードバック情報生成部413では、各端末装置3がフィードバックする伝搬路情報形式に応じて、基地局装置1にフィードバックする情報を生成する。本発明においては、伝搬路情報形式については何かに限定されるものではない。例えば、推定された伝搬路情報について、有限ビット数にて量子化を行ない、その量子化情報をフィードバックする方法が考えられる。また、基地局装置1との間で予め取り決めておいたコードブックに基づいてフィードバックを行なっても良い。フィードバック情報生成部413で生成された情報は、無線送信部415に入力され、基地局装置1に向けて通知される。以下では、この伝搬路情報を第一の伝搬路情報とも呼び、第一の伝搬路情報に関連付けられた制御情報を第一の制御情報とも呼ぶこととする。
次いで、DMRSを用いた伝搬路推定について説明する。以下では、基地局装置1において説明したように、空間多重端末数がUの場合、時刻t=1から時刻t=Uまで、DMRSベクトルが送信されているものとし、第u端末装置3−u宛てのDMRSは時刻t=uに送信されているものとする。この場合、伝搬路推定部411に入力される信号は時刻t=uに送信されたものだけであり、その他の時刻に送信された信号については、伝搬路補償部417に出力される事になる。
DMRSに対する信号処理は、プリコーディング部107で行なわれている電力正規化項に対して行なわれている補正処理に応じて異なる。どの補正処理が行なわれているかは、基地局装置1より通知される制御情報により把握することが可能である。なお、予め決められた一つの補正処理を行なうように制御しても良い。
図10は、本発明の第1の実施形態に係る伝搬路推定部411において、DMRSに対して行なわれる信号処理を説明するフローチャートである。はじめに、第u端末装置3−uでは、時刻t=uに送信された信号から、既知信号puを除算することで、データ信号の復調に必要となる(2P)1/2β(u)を算出する(ステップS201)。電力正規化項の補正が行なわれていない、もしくは方法1で補正が行なわれている場合(ステップS202:NO)、ここで算出され取得された情報が伝搬路補償部417に向けて出力される。この場合、送信データベクトルに含まれるデータ信号の復調に加えて、DMRSベクトルに含まれている自端末装置3宛てのデータ信号の復調についても、ここで推定された値が用いられることになる。
方法2が行なわれている場合(ステップS202:YES)について説明する。この場合、第u端末装置3−uにおいて、時刻t=uに送信されている信号の受信信号は式(14)で与えられることになる。
ここで、exp(jφ)は、基地局装置1の発振器と、端末装置3の発振器との周波数オフセット等から生ずる位相ずれを表している(通常、この位相ずれは伝搬路情報に含まれて推定されるため、明細書中の他の受信信号表記においては、記載は省略している)。方法2においては、端末装置3はexp(jφ)の値を把握しておく必要がある。exp(jφ)は、一部のDMRSベクトルについて電力正規化項の補正を行なうことなく送信したり、従来方式と同様に、DMRSを直交リソースによって送信する等によって、把握することが可能である。例えば、電力正規化項の補正を行なわない場合、式(14)で与えられている受信信号はru(u)=(2P)1/2β(u)exp(jφ)pu+ηu(u)で与えられるから、angle(ru(u))を計算することで、φの値を推定できる。発振器同士で周波数にオフセットが存在する場合、exp(jφ)は時間変動することになるから、補正を行なわないDMRSは、補正を行なうDMRSの近傍の無線リソースで送信することが望ましい。以下では、exp(jφ)は推定可能であるものとし、記載を省略して説明を行なう。
続いて、伝搬路推定部411は、abs(ru(u)/pu)およびangle(ru(u)/pu)を計算する(ステップS203)。アンテナポート2番以降でDMRSが送信されている端末装置3(つまりu>1)について(ステップS204:Yes)、DMRSの送信電力が、雑音電力より十分に高い場合、abs(ru(u)/pu)≒(2P)1/2β(u)であり、angle(ru(u)/pu)≒α(u)となる。α(u)=β(1)/β(u)であるから、abs(ru(u)/pu)にangle(ru(u)/pu)を乗算することで、(2P)1/2β(1)(=(2P)1/2β)を推定することができる(ステップS205)。この値は、送信データベクトルに含まれる送信データの復調のために、伝搬路補償部417に出力される事になる。
続いて、DMRSベクトルに含まれるデータ信号復調用の情報を推定する方法を説明する。第u端末装置3−uでは、上記方法によりβ(1)およびβ(u)が得られているが、データ信号を復調するためには、β(2)〜β(4)の全ての情報を知る必要がある。第1の実施形態では、β(1)およびβ(u)を用いた線形補間により、β(2)〜β(4)を推定する(ステップS206)。なお、補間の方法は線形補間に限らない。
アンテナポート1でDMRSが送られている第1端末装置3−1については(ステップS204:No)、abs(r1(1)/p1)≒(2P)1/2β(1)を送信データベクトル復調用の情報として出力する(ステップS207)。その後、abs(r1(1)/p1)にangle(r1(1)/p1)を乗算することで、(2P)1/2β(4)を推定し、ステップS206において、第u端末装置3−uが行なった信号処理と同じ信号処理により、DMRSベクトルに含まれるデータ信号の復調用の情報を算出する(ステップS208)。
なお、これまでの説明では、各端末装置3宛てのDMRSは1無線リソースでのみ送信されているものとしているが、図8で示したように、DMRSは、複数の無線リソースによって、周期的に送信しても良い。この場合、複数の伝搬路推定結果を用いて、適切な補間等を行なうことで、伝搬路推定精度を向上させることが可能である。なお、電力正規化項を方法2によって補正する場合、一部のDMRSベクトルについては、方法2による補正を行なうことなく送信する必要があるが、この場合、方法2による補正を行なっているDMRSベクトルと、補正を行なっていないDMRSベクトルは、同一OFDMシンボル内に両方存在していることが望ましい。
図9に戻り、参照信号分離部409の出力のうち、データ信号成分と、伝搬路推定部411の出力のうち、DMRSによって得られた伝搬路情報(すなわち、(2P)1/2β)は伝搬路補償部417に入力される。伝搬路補償部417ではデータ信号成分に対してチャネル等化処理が行なわれる。第u端末装置3−uのデータ信号部分における受信信号は式(15)で与えられる。
なお、時間および周波数を表すインデックスについては記載を省略している。伝搬路補償部417でははじめに、ruをDMRSによって推定された情報である(2P)1/2βで除算する。すなわち、ru/(2P)1/2β=(du+2δzt,u)+ηu/(2P)1/2βである。受信SNRが十分に高く、ηu/(2P)1/2β≒0であるとすると、ru/(2P)1/2β=du+2δzt,uとなるから、ru/(2P)1/2βに対して、式(4)と同様のmodulo演算を施すことで、duを復調することができる。
伝搬路補償部417の出力はその後デマッピング部419に入力され、各端末装置3は、自装置宛ての送信データの送信に使われている無線リソースより、自装置宛ての送信データを抽出する。デマッピング部419の出力は、その後、データ復調部421およびチャネル復号部423に入力され、データ復調とチャネル復号が行なわれる。なお、参照信号分離部409の出力を、先にデマッピング部419に入力し、自装置に該当する無線リソース成分のみを伝搬路補償部417に入力し、伝搬路補償部417出力をデータ復調部421に入力するような構成としても良い。
図11は、本発明の第1の実施形態におけるビット誤り率(BER)特性の一例を示した図である。変調方式はQPSKで、送信アンテナ数Ntと多重端末数Uはともに4としている。誤り訂正は行なっておらず、伝搬路の時間変動は無いものとしている。フレームフォーマットは図6と同様のフレームが繰り返し送信されるものとしているが、送信データベクトル数は12としている。また、2つのDMRSを用いた線形補間を仮定している。なお、端末装置3から基地局装置1への伝搬路情報のフィードバックは理想的であるものとしている。比較のため、理想チャネル推定を仮定した場合と、従来方式である、DMRSを直交リソースで送信した場合(すなわち、図5のフレームフォーマットで送信した場合)を併せて示している。各時刻における全送信電力が一定となるものとし、送信データベクトル部分のみの全端末装置3の誤り率の平均値を示している。参考として、方法2で補正し、DMRSの送信電力を4倍としたものも併せて示している。
図11から分かるように、DMRSとデータ信号とを空間多重させる場合、方法2で補正したとしても、従来方式に対して、およそ3dBだけ所要SNRが大きくなる。これは、DMRSの送信電力が、従来方式と比較して4分の1となるためである。仮に、DMRSの送信電力を同じとした場合、方法2で補正する本実施形態の方法と、直交リソースでDMRSを送信する方法とで、BER特性はほぼ同等となる。なお、直交リソースでDMRSを送信した場合の、パイロット信号挿入損(データ信号数/(全リソース数))は、0.75であるのに対して、DMRSとデータ信号とを空間多重させる場合、挿入損は0.9375であるから、伝送効率はおよそ1.25倍となる。
ところで、ru/(2P)1/2βの信号候補点は、元々の変調信号の信号候補点が、信号点空間において周期的に繰り返されている信号点のうちのいずれかとなる。modulo演算は、その中で、ru/(2P)1/2βに最も近い信号点を検出していることになる。modulo演算を行なわずに、周期的に繰り返されている信号点と、ru/(2P)1/2βとの距離(尤度)に基づいて、対数尤度比を算出することができる。この対数尤度比に基づいて、データ復調や、チャネル復号を行なう場合、伝搬路補償部417ではmodulo演算を行なわなくても良い。
本実施形態においては、OFDM信号伝送を仮定し、プリコーディングはサブキャリア毎に行なうことを仮定したが、伝送方式(もしくはアクセス方式)やプリコーディングの適用単位に制限は無い。例えば、複数サブキャリアを一纏めとしたリソースブロック毎にプリコーディングが行なわれた場合も本実施形態は適用可能であり、同様に、シングルキャリアベースのアクセス方式(例えばシングルキャリア周波数分割多重アクセス(SC-FDMA)方式など)にも適用することが可能である。
以上、説明してきた方法により、非線形プリコーディングを用いる下りリンクMU−MIMO伝送において、DMRS挿入に係るオーバーヘッドの増大を抑圧することが可能となる。
[2. 第2の実施形態]
第1の実施形態においては、DMRSとデータ信号とを空間多重させることで、DMRS挿入に係るオーバーヘッドの増大を抑圧する方法を対象とした。ただし、第1の実施形態の方法は、従来のTHPとほぼ同様の装置構成で実現可能である一方で、DMRSによる伝搬路推定精度を若干低下させてしまう。第2の実施形態では、DMRSによる伝搬路推定精度を向上させる方法を対象とする。
[2.1 基地局装置1]
第2の実施形態に係る基地局装置1の構成は、図2と同じとなる。ただし、マッピング部105およびプリコーディング部107における信号処理については、第1の実施形態と異なるため、以下では、マッピング部105とプリコーディング部107の信号処理について説明する。
[2.2 プリコーディング部107およびマッピング部105]
はじめにプリコーディング部107における信号処理について説明する。第1の実施形態においては、摂動ベクトル探査部303において、DMRSには摂動項を加算しないことにより、DMRSとデータ信号との空間多重を可能としていた。ところで、THPによる非線形プリコーディングは、一番はじめに送信符号が生成される端末装置3宛ての送信符号には摂動項は加算されない。そこで、第2の実施形態では、送信符号を生成する順番を変更するオーダリングを適切に設定することでDMRSに対する摂動項の加算を回避する。
図12は、本発明の第2の実施形態に係るDMRSのフレームフォーマットの一例を示す図である。図6と同様に、U=4とし、時刻t=1から4まではDMRSとデータが混在された信号を送信するものとし、以降の時刻では、データ信号のみが空間多重された信号を送信するものとする。なお、オーダリングの位置をアンテナポート番号で表すものとする。
図13は、本発明の第2の実施形態に係るDMRSベクトルと送信データベクトルに対するプリコーディング部107の信号処理のフローチャートである。はじめに、図12に示すように、各端末装置3宛てのDMRSが順番にアンテナポート1、すなわち、はじめに送信符号化が行なわれる位置にオーダリングされるようにDMRSを配置する(ステップS301)。このようにオーダリングすることで、各端末装置3宛てのDMRSには摂動ベクトルを加算する必要が無くなる。オーダリングはプリコーディング部107において行なっても良いが、マッピング部105において、予めDMRSおよびデータ信号を送信するアンテナポートを適切に設定することにより行なっても良い。このとき、第2の実施形態におけるDMRSベクトルd’p(1)、d’p(2)、d’p(3)、およびd’p(4)は第1の実施形態で用いたdp(1)、dp(2)、dp(3)、およびdp(4)を使って式(16)で与えられる。
ここで、Πuは行列の行を入れ替える順列行列を表し、式(16)に現れる順列行列はそれぞれ式(17)で与えられる。
続いて、線形フィルタ生成部301において、線形フィルタWが生成されるが、第2の実施形態では、伝搬路行列Hに順列行列Πuが乗算された行列ΠuHを伝搬路行列と見なして、第1の実施形態と同様に線形フィルタWを算出する(ステップS302)。例えば、d’p(1)に対してはΠ1Hを伝搬路行列と見なして線形フィルタWを生成すれば良い。以下ではこの線形フィルタをW1で表すものとする。
続いて、摂動ベクトル探査部303において、送信符号ベクトルが生成されるが、d’p(1)を送信シンボルベクトルとみなして、第1の実施形態におけるデータ信号と同様に送信符号ベクトルを生成すれば良い(ステップS303)。例えば、d’p(1)より生成される送信符号ベクトルはxp(1)=((Π1H)W1)−1(Π1dp(1)+2δzt(1))で与えられることになる。以降、d’p(2)、d’p(3)、およびd’p(4)についても同様に送信符号ベクトルを生成していけば良い。
続いて、送信信号生成部305において電力正規化項βを算出する(ステップS304)。電力正規化を第1の実施形態と同様に行なった場合、式(5)で与えられる電力正規化項は送信信号ベクトル毎に異なった値となってしまう。なぜならば、各送信信号ベクトルに用いられている線形フィルタの値が異なっているためである(なお、送信符号ベクトルxの共分散行列は変化しない)。そのため、第2の実施形態においては、電力正規化は複数の送信信号ベクトルの合計送信電力が一定となるように行なうものとする。例えば、時刻t=1〜4で送信される送信信号ベクトルで電力正規化を行なう場合、電力正規化項βは式(18)で与えられることになる。
続いて、送信信号生成部305において送信信号ベクトルsp(t)=βWtxp(t)が生成される(ステップS305)。ここまでが、DMRSベクトルに対するプリコーディング部107における信号処理となる。
続いて、時刻t=5以降、すなわち、送信データベクトルに対してプリコーディングを行なっていく。第2の実施形態においては、データ信号についても、図12に示すように、連続する4つの送信データベクトルに対して、DMRS部分と同様のオーダリングを施す。つまり、時刻tにおける送信データベクトルをd(t)とした場合、Π((t―1)%4+1)d(t)を送信データベクトルとするようなオーダリングを施していく(ステップS306)。そして、線形フィルタW((t―1)%4+1)を用いて、第1の実施形態においてデータ信号部分に行なったようなプリコーディングを施す(ステップS307)。続いて、送信信号生成部305において、送信信号ベクトルが施されるが、電力正規化項はステップS304で生成されたものを用いる(ステップS308)。
このようにすることで、DMRS部分とデータ信号部分とで電力正規化項を共通にすることが可能となる。つまり、第2の実施形態では、複数のDMRSベクトルから構成されるリソースブロックと、複数の送信データベクトルから構成されるリソースブロックに適用されるオーダリングとを、共通化させることで、DMRSへの摂動項の加算を行なわずに、データ信号とDMRSとの空間多重を実現させている。第2の実施形態では、第1の実施形態で行なったような電力正規化項に対する補正は必要ない。
マッピング部105では、これまで説明してきたようにDMRSとデータ信号とを適切にオーダリングさせて、データ信号、DMRSおよびCRSを多重させれば良い。
図14は、本発明の第2の実施形態に係るリソースアロケーションの一例を示した図である。基本的には図8と同様であるが、太実線で四角に囲んだ4つのデータ信号部分から構成されるリソースブロックについては、これまで説明してきたように、複数のDMRSベクトルから構成されるリソースブロックに行なったオーダリングと同じオーダリングを施すとともに、電力正規化についても、四角で囲んだ部分を1単位として行なうことになる。ここで、同じオーダリングを行なうということは、リソースブロック内で、Π1〜Π4をそれぞれ一回使ってオーダリングを行うことを意味している。例えば、iで示したリソースにはΠ1、iiで示したリソースにはΠ2、iiiで示したリソースにはΠ3、ivで示したリソースにはΠ4を使ってオーダリングを行なえば良い。また、リソースブロック内でDMRSベクトルとデータベクトルが混在している場合も同様であり、例えば、d’p(1)とd’p(2)が配置されているリソースブロックにおいては、残りの2つのデータベクトルについては、Π3とΠ4を使ってオーダリングを行なえば良い。なお、点線で囲んだ部分については、他の点線で囲んだ部分と併せて、4つのデータ信号グループを形成して、オーダリングおよび電力正規化を行なえば良い。
図14に示したリソースブロックの構成は、あくまで一例にすぎず、図14と異なるリソースの組み合わせによりリソースブロックを構成しても構わない。
なお、電力正規化を行なう送信信号ベクトル数を変更することで、データ信号部分に対するオーダリングに自由度を与えることも可能である。例えば、式(18)とは異なり、電力正規化をデータ信号部分まで含めて行なうのであれば、データ信号部分に対するオーダリングは自由に行なって良い。
図15は、本発明の第2の実施形態において、DMRSベクトルと送信データベクトルとでオーダリング方法を変える場合のフレームフォーマットの一例を示す図である。この場合、線形フィルタ生成部301および摂動ベクトル探査部303における信号処理は、オーダリングの方法を除き、これまで説明してきた方法と同様となるが、送信信号生成部305において行なわれる電力正規化は、DMRSベクトルと送信データベクトルの併せて8つの送信信号ベクトルの合計送信電力が一定となるように行なわれることになる。
図16は、本発明の第2の実施形態において、DMRSベクトルと送信データベクトルとでオーダリング方法を変える場合におけるリソースアロケーションの一例を示した図である。四角で囲んだ8つのリソースについては、それぞれ同じオーダリングおよび電力正規化が行なわれる事になる。先ほどと同様で、同じオーダリングとは、図15のフレームフォーマットを実現するための8つの順列行列を、それぞれ一回使ってオーダリングを行なうということである。なお、点線で囲んだ部分については、他の点線で囲んだ部分と併せて、8つのリソースから構成されるリソースブロックを形成して、オーダリングおよび電力正規化を行なえば良い。グループ化の方法はこれに限らず、1リソースブロックの数も任意に定めて構わない。
[2.3 端末装置3]
端末装置3の構成は図9と同じであり、各装置で行なわれる信号処理も伝搬路推定部411において行なわれた、電力正規化項βに対する補正は行なわれないことを除き、第1の実施形態と同じとなるため、説明は省略する。
なお、第1の実施形態で述べたように、DMRSが周期的に送信されている場合、適切な補間を行なうことで、伝搬路推定精度を向上させることができるが、このときに、電力正規化がどのリソースブロック単位で行なわれているかを知る必要がある場合がある。電力正規化が行なわれるリソースブロックの単位については、基地局装置1と端末装置3との間で予め定めておいても良く、伝搬路の状態や、受信品質に応じて適応的に変更させる場合、リソースブロックの単位に関連付けられた制御情報を基地局装置1が通知するようにしても良い。
第2の実施形態では、複数のリソースから構成されるリソースブロック毎にオーダリング方法および電力正規化項を共通化させることで、DMRSに摂動項を加算させることなくDMRSとデータ信号との空間多重を実現させる場合を対象とした。第2の実施形態の方法によれば、第1の実施形態とは異なり、DMRSによって推定される電力正規化項と、データ信号部分に適用されている電力正規化項との誤差を小さくすることができる。
[3. 第3の実施形態]
第1および第2の実施形態では、プリコーディングの手法としてTHPを用いる場合を対象としてきた。ところで、第1の実施形態における送信信号ベクトルsは式(19)のように変形できる
式(19)において、摂動ベクトルztを取り除けば、良く知られているZF規範に基づく線形プリコーディングを用いるMU−MIMOの送信信号ベクトルとなることが分かる。つまり、非線形プリコーディングとは、線形プリコーディングに基づく線形MU−MIMOの送信シンボルに対して、摂動項を加算しているに過ぎず、加算される摂動項に応じて、伝送品質が大幅に変化する。第1および第2の実施形態において対象としたTHPは、式(19)で与えられる送信信号ベクトルの送信電力を小さくできる摂動項を探査するものである。そのような摂動項の探査方法として、他に、オーダリングや格子基底縮小(Lattice reduction(LR))を用いるTHPやVector perturbation(VP)等が知られており、いずれの方式でも、送信信号ベクトルは式(19)の形で表現できる。第3の実施形態では、THP以外の非線形プリコーディングを用いる下りリンクMU−MIMO伝送を対象とする。
[3.1 基地局装置1]
基地局装置1の構成は、第1および第2の実施形態と同様であり、異なるのは、プリコーディング部107における信号処理のみであるから、以下では、第3の実施形態に係るプリコーディング部107における信号処理について説明する。
[3.2 プリコーディング部107]
プリコーディング部107の装置構成は、図4と同様であるが、各構成装置それぞれにおける信号処理は異なる。以下の説明では、送信信号のフレームフォーマットとして、図6で示したフレームフォーマットを仮定するが、フレームフォーマットはこれに限るわけではない。
図17は、本発明の第3の実施形態に係るプリコーディング部107の信号処理について説明するフローチャートである。プリコーディング部107では、はじめに線形フィルタ生成部301において、線形フィルタWが算出される(ステップS401)。線形フィルタWとしては、W=H−1(もしくはH+)で表されるZFフィルタや、W=HH(HHH+γI)−1で表されるMMSEフィルタ等が考えられる。
続いて、摂動ベクトル探査部303において、摂動項の探査が行なわれる。摂動項の探査方法は、所望の伝送品質や、基地局装置1が有する演算装置が実現可能な演算量に応じて決定される。例えば、最も高い受信品質が達成できるVPを用いる場合、摂動項は式(20)で表される最小化問題を解くことで得ることができる。
ここで、ZU GはU次元のガウス整数ベクトルの集合を表す。式(20)の解法、すなわち、摂動ベクトルの探査方法については特定の方法に限定されるものではなく、Sphere encoding(SE)やMアルゴリズムとQR分解に基づくQRM−VP等の方法で実現しても良い。また、VPではなく、格子基底縮小によって摂動項の探査を行なっても良い。また、第1および第2の実施形態で対象としたTHPの高度化技術であるLRA−THP(LR aided-THP)や、オーダリングを用いるオーダリングTHPによって摂動項の探査を行なっても良い。なお、ここでいうオーダリングとは、第2の実施形態でDMRSベクトルに適用したものに加えて、受信品質の向上を目的とするBLAST法などのオーダリングも含まれる。
摂動ベクトル探査部303にDMRSベクトルが入力された場合、摂動ベクトル探査部303では、式(21)で表される最小化問題を解くことで、摂動項の探査を行なう(ステップS402)。
つまり、従来のVPと同様に摂動項の探査は行なうものの、DMRSベクトルに含まれるDMRSには摂動項を加算しないことになる。VP以外の方法による摂動項の探査を行なう場合も同様である。空間多重端末数が大きい場合、VPやオーダリングTHP等の高精度の非線形プリコーディングでは、大きな空間ダイバーシチ効果を得ることが可能である。よって、式(20)に基づく摂動項の探査を行なった場合と、式(21)に基づく摂動項の探査を行なった場合とで、送信電力に大きな差は生じないから、DMRSに対する摂動項の加算を行なわなくとも大きな受信品質の低下は発生しない。
摂動ベクトルzt(t)が探査されたのち、送信信号生成部305において、DMRSベクトルに対する送信信号ベクトルsp(t)=W(dp(t)+2δzt(t))が一旦生成される(ステップS403)。
続いて、摂動ベクトル探査部303において、送信データベクトル{d(t);t>4}に対する摂動項{zt(t);t>4}の探査が行なわれる(ステップS404)。DMRSベクトルとは異なり一部の信号に摂動項の加算を行なわない等の制限を与える必要はない。その後、送信信号生成部305において、送信データベクトルに対する送信信号ベクトルs(t)=W(d(t)+2δzt(t))が一旦生成される(ステップS405)。
プリコーディング部107では、最後に、生成された送信信号ベクトルに対する電力正規化が行なわれる(ステップS406)。第1や第2の実施形態で対象としたTHPとは異なり、VP等の非線形プリコーディングを施した場合、各送信信号ベクトルの電力は、伝搬路の状態だけではなく、各端末装置3宛ての送信シンボルに依存しても変化してしまうため、リソース毎に電力正規化を行なった場合、受信信号の復調に必要な情報は、DMRSを周期的に送信するだけでは推定することが出来ない。
そのため、第3の実施形態では、電力正規化は複数のリソースから構成されるリソースブロック毎に電力正規化を行なう。例えば、式(22)のように電力正規化項βを求めれば良い。
ここで、Ndは電力正規化を同時に行なっているリソースブロックに含まれるリソース数であり、適宜適切な値とすれば良いが、DMRSによる電力正規化項の推定精度を高めるためにも、正規化を行なうリソースブロックにはDMRSベクトルが含まれていることが望ましい。なお、リソースブロックに含まれるリソース数を増やすことは、平均受信電力が一定となる送信信号ベクトルが多くなることを意味している。そのため、チャネル符号化部101で適用されているチャネル符号化の符号化率によっては、あまり大きなリソースブロックでの電力正規化は好ましくない場合がある。よって、符号化率に応じて、リソースブロックの大きさを変更するように制御しても良い。例えば、符号化率が高い場合は、電力正規化を行なうリソース数を大きくとり、符号化率が低い場合には、リソース数を小さくするような制御を行なうことが考えられる。
以上が、第3の実施形態に係るプリコーディング部107における信号処理となる。他の各部の信号処理については、第1および第2の実施形態と同様であるから説明は省略する。
[3.3 端末装置3]
端末装置3の構成は図9と同じであり、各装置で行なわれる信号処理も伝搬路推定部411において行なわれた、電力正規化項βに対する補正は行なわれないことを除き、第1の実施形態と同じとなるため、説明は省略する。
第3の実施形態では、THP以外の非線形プリコーディングを対象とした。第3の実施形態によれば、より高精度な非線形プリコーディングに基づくMU−MIMOを実現することが可能となる。
[4. 第4の実施形態]
第3の実施形態では、任意の非線形プリコーディングを対象としてDMRSとデータ信号との空間多重を実現する方法を対象とした。第3の実施形態においては、摂動項の加算を行なわないのはDMRSベクトルに含まれるDMRSのみである。第4の実施形態では、送信データベクトルに含まれる一部データ信号についても摂動項の加算を行なわないことにより、伝送特性を改善させる方法を対象とする。以下では、摂動項を加算しないデータ信号のことを線形データ信号(第1のデータ信号)、摂動項を加算するデータ信号のことを非線形データ信号(第2のデータ信号)と呼ぶこととする。第1および第2の実施形態を例にとれば、アンテナポート1で送信されていた信号は線形データ信号であり、それ以外のアンテナポートで送信されていた信号は非線形データ信号ということになる。
[4.1 基地局装置1]
基地局装置1の構成は、第3の実施形態と同様であり、異なるのは、プリコーディング部107における信号処理のみであるから、以下では、第4の実施形態に係るプリコーディング部107における信号処理について説明する。
[4.2 プリコーディング部107]
プリコーディング部107の装置構成は、図4と同様であるが、各構成装置それぞれにおける信号処理は異なる。以下の説明では、送信信号のフレームフォーマットとして、図6で示したフレームフォーマットを仮定するが、フレームフォーマットはこれに限るわけではない。
図18は、本発明の第4の実施形態に係るプリコーディング部107の信号処理について説明するフローチャートである。DMRSベクトルに対する信号処理、すなわちステップS501〜ステップS503までは、図17におけるステップS401〜S403と同一であるから説明は省略する。続いて、送信データベクトルに加算する摂動項の探査が摂動ベクトル探査部303で行なわれるが、第4の実施形態では、第3の実施形態とは異なり、送信データベクトルについても、DMRSベクトルのように、一部データ信号に対して、摂動項の加算を行なわないようにして摂動項を探査する(ステップS504)。送信データに摂動項の加算を行なわない端末装置3の決定方法については、任意に定めて良い。
図19は、本発明の第4の実施形態における、送信データの一部に摂動項の加算を行なわない場合の送信フレームフォーマットの一例を示す図である。ここでは、黒の塗りつぶしで示したデータ信号が線形データ信号であり、それ以外が非線形データ信号となる。
線形データ信号と非線形データ信号とがどのように多重されているかを示すマッピング情報については、端末装置3も把握しておく必要がある。マッピング情報の通知の方法としては、別に制御情報により通知しても良いし、図19の示すような周期的な多重方法を用いるのであれば、基地局装置1と端末装置3とで、線形データ信号が多重される間隔を予め決定しておいても良い。なお、線形データ信号の多重間隔とDMRSが送信されているアンテナポートとを関連付けておき、DMRSが送信されているアンテナポートを各端末装置3に通知することにより、線形データ信号の多重位置を通知するように制御しても良い。
非線形データの多重方法については、特定の方法に限定されるものではない。図19で示したように周期的に多重しても良いし、極端な場合においては、ある特定の端末装置3宛ての信号は線形データ信号とし、それ以外の端末装置3宛ての信号は非線形データ信号とするように制御しても良い。ただし、非線形データ信号の位置をDMRSが送信されているアンテナポートより推定できるように、特定の規則性に基づいて多重することが望ましい。
図18に戻り、摂動ベクトル探査部303における摂動項の探査が終了した後、送信信号生成部305において送信データベクトルに対する送信信号ベクトルを生成する(ステップS505)。その後、生成された送信信号ベクトルに対する電力正規化を行なうことで、プリコーディング部107の出力となる送信信号ベクトルを算出する(ステップS506)。電力正規化の方法としては、第3の実施形態と同様に、複数のリソースから構成されるリソースブロック毎に正規化を行なっても良いが、第4の実施形態では、DMRSベクトル部分と、送信データベクトル部分とで、摂動項が加算されている信号の割合が同一となる。よって、第1および第2の実施形態と同様に、リソース毎に電力正規化を行なっても構わない。
[4.3 端末装置3]
端末装置3の構成は図9と同じであり、各装置で行なわれる信号処理も第3の実施形態とほぼ同様であるが、伝搬路補償部417およびチャネル復号部423における信号処理が異なる。
伝搬路補償部417においては、データ信号に対して、DMRSによって推定された伝搬路推定値に基づいたチャネル等化が行なわれる事は、第3の実施形態と同様であるが、第4の実施形態においては、その後で行なわれていたmodulo演算については、伝搬路補償部417では行なわない。
続いて、チャネル復号部423における信号処理について説明する。以下では、データ信号に対して適用されているチャネル符号について、その復号に、受信された信号の対数尤度比(Log Likelihood Ratio(LLR))が必要となる復号(例えば、Log-MAP復号等)が適用されているものとする。以下では、第4の実施形態におけるチャネル復号部423におけるLLRの算出方法について説明する。
プリコーディング部107の説明でも述べたように、第4の実施形態で、各端末装置3に受信されているデータ信号には、線形データ信号と非線形データ信号とが混在して受信されている。各端末装置3は、基地局装置1から別に通知されている制御情報や、DMRSが送信されているアンテナポートを通知するための制御情報等により、受信されたデータ信号が線形データ信号と非線形データ信号のいずれであるかを把握出来ているものとする。チャネル復号部423では、受信されているデータ信号の種類に応じて、LLRの算出方法を変更する。
今、基地局装置1のプリコーディングおよび端末装置3のチャネル等化が理想的に行なわれたものとし、線形データ信号と非線形データ信号の受信信号をそれぞれrLおよびrNで表すものとする。それぞれは式(23)で与えられる。なお、簡単のため、リソース等を示すインデックスは全て省略して記載している。
ここで、n’は、チャネル等化後の等価雑音を表す。また送信シンボルdは簡単のため、BPSK変調信号であるものとする。
はじめに、線形データ信号が受信された場合のLLRの算出方法について説明する。LLRは送信シンボルがd=+1、つまり送信ビットとして‘1’が送信された場合の受信信号rLの条件付き確率p(rL|d=+1)と、送信シンボルがd=−1、つまり送信ビットとして‘0’が送信された場合の受信信号rLの条件付き確率p(rL|d=−1)との比の対数をとることで算出される。
一方、非線形データ信号が受信された場合のLLRの算出方法では、線形データ信号と同様に、送信シンボルがd=+1、つまり送信ビットとして‘1’が送信された場合の受信信号rNの条件付き確率を求めるが、データ信号に加算されている摂動項を考慮した条件付き確率を求める必要がある。つまり、d=+1のみではなく、d=+1±2δ、+1±4δ、・・・である場合の条件付き確率を求め、それぞれを全て足し合わせたものが、送信ビットが‘1’である場合の条件付き確率となる。しかし、全ての摂動項を考慮するのは困難であるから、d=+1±2δ、+1±4δ、・・・のうち、受信信号に最も近い点のみを考慮すれば良い。送信ビットが0である場合の条件付き確率についても同様に求め、二つの確率の比の対数を取ることで、非線形データ信号のLLRが算出できる。
通常、受信電力が同一であった場合、線形データ信号のLLRと非線形データ信号のLLRでは、線形データ信号のLLRの方が精度の高い値を取ることができる。よって、第4の実施形態のように、線形データ信号と非線形データ信号とを混在させて送信することで、全て非線形データ信号としてチャネル復号を行なう場合と比較して、高い誤り訂正能力を得ることが可能である。
第4の実施形態では、DMRSとデータ信号とを空間多重する場合と同様に、送信データベクトルに含まれる一部のデータ信号についても、摂動項の加算を行なわない方法を対象とした。この方法によれば、チャネル符号化による符号化利得を向上させることが可能となる。
[5.全実施形態共通]
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も特許請求の範囲に含まれる。
本発明に関わる移動局装置および基地局装置1で動作するプログラムは、本発明に関わる上記実施形態の機能を実現するように、CPU等を制御するプログラム(コンピュータを機能させるプログラム)である。そして、これら装置で取り扱われる情報は、その処理時に一時的にRAMに蓄積され、その後、各種ROMやHDDに格納され、必要に応じてCPUによって読み出し、修正・書き込みが行なわれる。プログラムを格納する記録媒体としては、半導体媒体(例えば、ROM、不揮発性メモリカード等)、光記録媒体(例えば、DVD、MO、MD、CD、BD等)、磁気記録媒体(例えば、磁気テープ、フレキシブルディスク等)等のいずれであってもよい。また、ロードしたプログラムを実行することにより、上述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムの指示に基づき、オペレーティングシステムあるいは他のアプリケーションプログラム等と共同して処理することにより、本発明の機能が実現される場合もある。
また市場に流通させる場合には、可搬型の記録媒体にプログラムを格納して流通させたり、インターネット等のネットワークを介して接続されたサーバコンピュータに転送したりすることができる。この場合、サーバコンピュータの記憶装置も本発明に含まれる。また、上述した実施形態における移動局装置および基地局装置1の一部、または全部を典型的には集積回路であるLSIとして実現してもよい。移動局装置および基地局装置1の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現しても良い。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いることも可能である。