JP2013158333A - 飽和脂肪酸ステロールエステルを含有する油脂物性改良剤 - Google Patents

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Yuji Shimada
裕司 島田
Naoki Nishimori
直樹 西森
Shoji Nakagawa
将司 中川
Shun Yatoda
俊 矢戸田
Yuko Takizawa
優子 瀧澤
Yoshihiko Yoshioka
佳彦 吉岡
Yoko Yamamura
陽子 山村
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Abstract

【課題】食品用油脂および化粧品用油剤に用いて、これらの油脂の融点、凝固点、硬度などの物性を改良する油脂物性改良剤を提供する。
【解決手段】飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂を、常温で固体状の極度硬化脂または常温で液体状の植物サラダ油に添加すると、いずれの油脂に対しても融点、凝固点および硬度を高くすることができるため、飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂を、食品用油脂および化粧品用油剤に用いる油脂物性改良剤として利用できる。
【選択図】なし

Description

本発明は、飽和脂肪酸ステロールエステルを含有する油脂物性改良剤ならびにこれを含有する食品用油脂および化粧品用油剤に関する。
ステロールおよびその脂肪酸とのエステルは血中コレステロール値を下げる機能を持つ。また、ステロールは油脂に解けにくいが、脂肪酸ステロールエステルは油脂と相溶する。この保健機能および物性が注目を集め、脂肪酸ステロールエステルを添加したサラダ油、マヨネーズ、マーガリンなどが商品化されている。しかし、食品素材として使用されているのは、融点の低い不飽和脂肪酸とのエステル、あるいは不飽和脂肪酸および飽和脂肪酸の混合物とのエステルであり、飽和脂肪酸のみとのエステルおよびこれを含有する加工油脂は実用化されていない。また、極度硬化脂よりも高い融点および凝固点を有する飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂も開発されていない。
すでに商品化されている融点の低い不飽和脂肪酸ステロールエステルを常温で固体状の油脂(綿実ステアリン、パームステアリン、植物油極度硬化脂、エステル交換油脂、部分水素添加油脂、牛脂、豚脂など)に添加すると、固体脂の融点、凝固点が下がり、硬度も低下(軟化)し、固体脂としての物性が維持できなくなってしまう。
一方、適度な融点、凝固点を示す油脂、適度な硬度を示す油脂は、マーガリン、ショートニング、チョコレートなどの素材として重宝されている。これらの物性に特徴のある油脂は、液体状の油脂に部分水素添加して製造されている。しかし、部分水素添加法を採用して製造した油脂には副生物として多くのトランス酸が含まれる。トランス酸は多量に摂取するとLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増加させ、心臓疾患のリスクを高めることが懸念されている。したがって、液状油に混合するだけで融点、凝固点および硬度を高くすることのできる新しい油脂物性改良剤が求められている。また、固体状の油脂の融点、凝固点および硬度を自在に制御できる新しい油脂物性改良剤も求められている。
本発明は、食品用油脂および化粧品用油剤に用いて、これらの油脂の融点、凝固点、硬度などの物性を改良する油脂物性改良剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂を、常温で固体状の極度硬化脂または常温で液体状の植物サラダ油に添加すると、いずれの油脂に対しても融点、凝固点および硬度を高くできること、すなわち飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂を食品用油脂および化粧品用油剤に用いる油脂物性改良剤として提供できることを見出し、本発明に至った。
本発明は、油脂物性改良剤を提供し、該油脂物性改良剤は、飽和脂肪酸ステロールエステルを含有する。
1つの実施態様では、上記飽和脂肪酸ステロールエステルは、(1)飽和脂肪酸とステロールとをエステル化する方法、(2)不飽和脂肪酸ステロールエステルに水素添加する方法、(3)極度硬化脂とステロールとをエステル交換する方法、(4)食用油脂とステロールとをエステル交換して得られた油脂に水素添加する方法、または(5)極度硬化脂と飽和もしくは不飽和脂肪酸ステロールエステルとをエステル交換する方法のいずれかの方法により製造される。
本発明はまた、上記油脂物性改良剤を含有する食品用油脂を提供する。
本発明はさらに、上記油脂物性改良剤を含有する化粧品用油剤を提供する。
本発明によれば、食品用油脂および化粧品用油剤に用いて、これらの油脂の融点、凝固点、硬度などの物性を改良する油脂物性改良剤を提供することができる。
本発明の油脂物性改良剤は、飽和脂肪酸ステロールエステルを含有する。
(飽和脂肪酸ステロールエステル)
本発明でいう飽和脂肪酸ステロールエステルとは、ステロールと飽和脂肪酸とのエステルをいう。また、本発明でいう飽和/不飽和脂肪酸ステロールエステルとは、ステロールと食用油脂由来の脂肪酸とのエステルをいう。
ステロールとしては、特に限定されないが、好ましくは植物由来である。植物ステロールとしては、特に限定されず、例えば、β−シトステロール、カンペステロール、スティグマステロール、ブラシカステロール、スタノールが挙げられる。これらの純品または混合物であってもよい。
飽和脂肪酸としては、特に限定されず、例えば、炭素数6〜24の飽和脂肪酸が挙げられる。これらの純品または混合物であってもよい。飽和脂肪酸ステロールエステルの融点、凝固点および硬度は、炭素数の少ない飽和脂肪酸の方が、炭素数の多い飽和脂肪酸よりも低いことから、好ましくは炭素数18のステアリン酸を主成分とする植物油由来の飽和脂肪酸混合物、より好ましくは炭素数18のステアリン酸と炭素数16のパルミチン酸とで構成され、パルミチン酸含量の多い綿実油やパーム油などに由来する飽和脂肪酸混合物である。
食用油脂としては、特に限定されず、例えば、菜種油、大豆油、綿実油、パーム油、紅花油、ヒマワリ油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、米糠油、魚油、牛脂、豚脂、微生物が生産する油脂(シングル・セル・オイル)が挙げられる。これらの純品または混合物であってもよい。
食用油脂由来の脂肪酸としては、特に限定されず、例えば、炭素数6〜24で0〜6個の二重結合を含む飽和または不飽和脂肪酸が挙げられる。これらの純品または混合物であってもよい。これらの脂肪酸は、上記の食用油脂を酵素法、高温高圧法、アルカリ法などにより分解し、ヘキサン抽出法、蒸留法などにより精製・製造することができる。
上記飽和脂肪酸ステロールエステルまたはこれを含有する加工油脂は、油脂加工で一般的に採用されている方法により製造することができる。例えば、(1)飽和脂肪酸とステロールとをエステル化する方法、(2)不飽和脂肪酸ステロールエステルに水素添加する方法、(3)極度硬化脂とステロールとをエステル交換する方法、(4)食用油脂とステロールとをエステル交換して得られた油脂に水素添加する方法、(5)極度硬化脂と飽和もしくは不飽和脂肪酸ステロールエステルとをエステル交換する方法により製造される。
(飽和脂肪酸ステロールエステルまたはこれを含有する加工油脂の製造方法)
(1)飽和脂肪酸とステロールとをエステル化する方法
飽和脂肪酸とステロールとの割合は、特に限定されないが、ステロール1モルに対して飽和脂肪酸1〜10モルが好ましい。
エステル化法としては、特に限定されず、例えば、酵素法、高温無触媒法が挙げられる。酵素法に用いる酵素としては、特に限定されないが、好ましくはリパーゼである。高温無触媒法の温度としては、特に限定されないが、好ましくは180〜250℃である。未反応の脂肪酸はアルカリ脱酸法、蒸留法などにより除去することができる。
飽和脂肪酸メチル(エチル)エステルとステロールとをエステル交換してもよい。飽和脂肪酸とステロールとの割合は、特に限定されないが、ステロール1モルに対して飽和脂肪酸1〜10モルが好ましい。
エステル交換法としては、特に限定されず、例えば、酵素法、アルカリ触媒法が挙げられる。酵素法に用いる酵素としては、特に限定されないが、好ましくはリパーゼである。アルカリ触媒法に用いるアルカリ触媒としては、特に限定されないが、好ましくはナトリウムメトキシドである。リパーゼを用いるエステル交換では、有機溶媒が存在してもよいし、存在していなくてもよい。
(2)不飽和脂肪酸ステロールエステルに水素添加する方法
不飽和脂肪酸ステロールエステルは飽和脂肪酸ステロールエステルを含んでいてもよい。飽和/不飽和脂肪酸ステロールエステルとしては、特に限定されず、例えば、植物油の製造における脱臭工程で得られる脱臭留出物から分画・精製して得られるもの、食用油脂由来の脂肪酸とステロールとを酵素法または化学法によりエステル化して得られるものが挙げられる。
植物油の脱臭留出物から飽和/不飽和脂肪酸ステロールエステルを精製する場合、脱臭留出物としては、特に限定されず、菜種油、大豆油、綿実油、パーム油、紅花油、ヒマワリ油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、米糠油などに由来する脱臭留出物が挙げられる。また、精製方法も、特に限定されず、例えば、脂肪酸のメチルエステル化法、カラム分画法、溶媒分画法、蒸留法、これらを組み合わせた方法、これらと酵素法との併用法が挙げられる(特開2000−302777号公報、J.Mol.Catal.B:Enzym., 2005, 37,56-62)。
食用油脂由来の脂肪酸とステロールとのエステル化において、食用油を原料とする場合は酵素法が好ましい。酵素法に用いる酵素としては、特に限定されないが、好ましくはリパーゼである。この場合、例えば、第1工程で食用油をリパーゼにより加水分解し、反応後、反応液を静置して水層を除去する。第2工程では、この反応液にステロールを添加し、脱水しながら反応させることによって、ステロールを収率よくステロールエステルに変換する。これらの反応物からステロールエステルを精製する方法としては、特に限定されず、例えば、アルカリ脱酸法、蒸留法、カラム分画法が挙げられる。
水素添加法としては、特に限定されないが、好ましくは油脂加工で一般的に採用されているニッケル触媒法である。ニッケル触媒法の反応条件は、特に限定されない。この方法では、飽和/不飽和脂肪酸ステロールエステルの脂肪酸部の二重結合は全て水素添加されるが、ステロール部の二重結合は水素添加されない。したがって、飽和/不飽和脂肪酸ステロールエステルは飽和脂肪酸ステロールエステルに変換される。
水素添加後、油脂加工で一般的に採用されている活性白土を用いる脱色工程、脱臭工程などを経て高純度飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂を得ることができる。
(3)極度硬化脂とステロールとをエステル交換する方法
極度硬化脂としては、特に限定されず、例えば、上記食用油脂にニッケル触媒法により完全水素添加して得られる油脂が挙げられる。
極度硬化脂とステロールとの割合は、特に限定されないが、ステロールのステロールエステルへの変換率を高めるためには、ステロール3モルに対して極度硬化脂1モル以上(脂肪酸換算で等モル以上)が好ましい。極度硬化脂の割合を多くすると、ステロールのステロールエステルへの変換率は上昇するが、得られた加工油脂中の飽和脂肪酸グリセリド含量が高くなり、飽和脂肪酸ステロールエステル含量が低くなる。一方、極度硬化脂の割合を少なくすると(脂肪酸換算で等モルに近づけると)、飽和脂肪酸ステロールエステルの含量が高くなり、飽和脂肪酸グリセリド含量が低くなる。しかし、ステロールのステロールエステルへの変換率が低下するため、未反応のステロール含量が増加する。したがって、極度硬化脂とステロールとの割合は、ステロール3モルに対して極度硬化脂1〜10モル(ステロール1モルに対して脂肪酸1〜10モル)が好ましい。
エステル交換法としては、特に限定されず、例えば、酵素法、アルカリ触媒法が挙げられる。酵素法に用いる酵素としては、特に限定されないが、好ましくはリパーゼである。アルカリ触媒法に用いるアルカリ触媒としては、特に限定されないが、好ましくはナトリウムメトキシドである。
エステル交換後、反応液を水洗して残存する酵素、触媒などを除去し、さらに油脂加工で一般的に採用されている活性白土を用いる脱色工程、脱臭工程などを経て高純度飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂を得ることができる。
(4)食用油脂とステロールとをエステル交換して得られた油脂に水素添加する方法
食用油脂とステロールとの割合は、特に限定されないが、ステロールのステロールエステルへの変換率を高めるためには、ステロール3モルに対して食用油脂1〜10モル(ステロール1モルに対して脂肪酸1〜10モル)が好ましい。
エステル交換法としては、特に限定されず、例えば、酵素法、アルカリ触媒法が挙げられる。酵素法に用いる酵素としては、特に限定されないが、好ましくはリパーゼである。アルカリ触媒法に用いるアルカリ触媒としては、特に限定されないが、好ましくはナトリウムメトキシドである。
エステル交換後、反応液を水洗して残存する酵素、触媒などを除去し、水素添加する。水素添加法としては、特に限定されないが、好ましくは油脂加工で一般的に採用されているニッケル触媒法である。ニッケル触媒法の条件は、特に限定されない。
水素添加後、油脂加工で一般的に採用されている活性白土を用いる脱色工程、脱臭工程などを経て高純度飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂を得ることができる。
(5)極度硬化脂と飽和もしくは不飽和脂肪酸ステロールエステルとをエステル交換する方法
極度硬化脂については、上記(3)と同様である。飽和/不飽和脂肪酸ステロールエステルについては、上記(2)と同様である。
極度硬化脂と飽和/不飽和脂肪酸ステロールエステルの割合としては、特に限定されないが、極度硬化脂よりも高い融点および凝固点を有し、かつ飽和脂肪酸ステロールエステルの特性が認められるような加工油脂を得るためには、ステロールエステル3モルに対して極度硬化脂1〜9モル(ステロールエステル1モルに対して脂肪酸1〜9モル)が好ましく、極度硬化脂3〜9モル(ステロールエステル1モルに対して脂肪酸3〜9モル)がより好ましい。極度硬化脂の割合を多くすると、ステロールエステルを構成している全脂肪酸に対する飽和脂肪酸の比率が高くなるが、極度硬化脂の割合が多すぎると、得られた加工油脂の物性において、極度硬化脂の物性が優先され、飽和脂肪酸ステロールエステルの効果が認められなくなる。
エステル交換法としては、特に限定されないが、例えば、酵素法、アルカリ触媒法が挙げられる。酵素法に用いる酵素としては、特に限定されないが、好ましくはリパーゼである。アルカリ触媒法に用いるアルカリ触媒としては、特に限定されないが、好ましくはナトリウムメトキシドである。
エステル交換後、反応液を水洗して残存する酵素、触媒などを除去し、さらに油脂加工で一般的に採用されている活性白土を用いる脱色工程、脱臭工程などを経て高純度飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂を得ることができる。
(飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂の組成)
上記(3)および(4)の方法で得られた加工油脂は飽和脂肪酸ステロールエステル、飽和脂肪酸トリグリセリド、飽和脂肪酸部分グリセリドおよびステロールで構成される。反応に用いるトリグリセリド(脂肪酸)量を多くすると、ステロールエステル含量および未反応のステロール含量が減少し、トリグリセリドおよびジグリセリドの含量が増加する。
上記(5)の方法で得られた加工油脂の主成分はステロールエステルおよびトリグリセリドであり、部分グリセリドおよびステロールの副生はほとんどない。
(飽和脂肪酸ステロールエステルまたはこれを含有する加工油脂の物性)
飽和脂肪酸ステロールエステルの上昇融点および凝固点は、極度硬化脂の上昇融点および凝固点よりも高い。例えば、綿実油由来の飽和脂肪酸ステロールエステルの上昇融点および凝固点はそれぞれ86℃および68℃であるのに対し、綿実極度硬化脂の上昇融点および凝固点はそれぞれ60℃および43℃である。上記(3)および(4)の方法で得られた加工油脂は、上述したように飽和脂肪酸ステロールエステル、飽和脂肪酸グリセリド、およびステロールで構成され、各成分の含量に依存した固有の物性(上昇融点、凝固点および硬度)を示す。
加工油脂中の飽和脂肪酸ステロールエステルの含量が多く、飽和脂肪酸グリセリドの含量が少ないと、加工油脂の上昇融点および凝固点は飽和脂肪酸ステロールエステルの値に近づく。また、ステロールは上昇融点および凝固点を高める役割を果たす。一方、加工油脂中の飽和脂肪酸ステロールエステルの含量が約25質量%以下になると、加工油脂の上昇融点および凝固点は、飽和脂肪酸トリグリセリド(極度硬化脂)の値に近づく。
上記(5)の方法で得られた加工油脂の融点、凝固点、硬度は、加工油脂中の飽和/不飽和脂肪酸ステロールエステルの含量と飽和/不飽和脂肪酸トリグリセリドの含量の影響を受ける。これらの含量を調整することによって、極度硬化脂よりも高い融点および凝固点を有し、極度硬化脂よりも軟らかい加工油脂を製造することができる。
(飽和脂肪酸ステロールエステルまたはこれを含有する加工油脂を含む組成物)
本発明の飽和脂肪酸ステロールエステルまたはこれを含有する加工油脂は、食品用油脂や化粧品用油剤と相溶する性質を有しているため、これらを食品用油脂または化粧品用油剤に添加した組成物を調製することができる。例えば、本発明の飽和脂肪酸ステロールエステルまたはこれを含有する加工油脂は、常温で液体状の食品用油脂や化粧品用油剤に対しては、ゲル化剤、物性(融点、凝固点、硬度など)改良剤として利用することができる。また、常温で軟らかい固体状の食品用油脂や化粧品用油剤に対しても、物性(融点、凝固点、硬度など)改良剤として利用することができる。さらに、常温で硬い固体状の食品用油脂や化粧品用脂剤に対しては、固体状の物性を維持したまま、優れた保健機能を付与することもできる。これらの組成物は、ほかにトコフェロールやβ−カロテンなどの抗酸化剤、乳化剤、色素など、通常の食品用油脂や化粧品油剤に添加される化合物を含有していてもよい。
飽和脂肪酸ステロールエステルまたはこれを含有する加工油脂と食品用油脂または化粧品用油剤とからなる組成物を調製する方法としては、特に限定されないが、例えば、両者を所定の割合に混合し、混合物が完全に透明になるまで加熱・融解する方法が挙げられる。組成物の酸化による変性が想定される場合には、窒素ガスなどの不活性ガスを充填した容器内で撹拌・混合し、加熱してもよい。
(A)飽和脂肪酸ステロールエステルと常温で固体状の油脂とを含む組成物
常温で固体状の油脂としては、特に限定されないが、例えば、極度硬化脂、綿実ステアリン、パームステアリン、マーガリン用油脂、ショートニング用油脂、チョコレート用油脂が挙げられる。
飽和脂肪酸ステロールエステルまたはこれを含有する加工油脂と常温で固体状の油脂との混合割合は、特に限定されない。例えば、ヨウ素価が35〜100g−I/100gのステアリンに対して、飽和脂肪酸ステロールエステルを1質量%以上の割合で添加すると、得られる組成物の融点および凝固点は上昇し、硬度も高くなる。飽和脂肪酸ステロールエステルの添加量が多いほど組成物の融点、凝固点は上昇し、硬くなる。常温で固体状の油脂の中で最も融点および凝固点が高く、かつ硬い極度硬化脂に対して、飽和脂肪酸ステロールエステルを30質量%以上の割合で添加すると、得られる組成物の融点および凝固点を極度硬化脂の値よりも高くすることができる。したがって、本発明の飽和脂肪酸ステロールエステルまたはこれを含有する加工油脂は、常温で固体状の油脂に対して、物性(融点、凝固点、硬度など)改良剤として適している。
(B)飽和脂肪酸ステロールエステルと常温で液体状の油脂とを含む組成物
常温で液体状の油脂としては、特に限定されないが、例えば、菜種油、大豆油、綿実油、パーム油、紅花油、ヒマワリ油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、米糠油、魚油、微生物が生産する油脂(シングル・セル・オイル)などの食用油が挙げられる。
飽和脂肪酸ステロールエステルまたはこれを含有する加工油脂と常温で液体状の油脂との混合割合は、特に限定されない。例えば、常温で液体状の植物油に対して、飽和脂肪酸ステロールエステルを1質量%以上の割合で添加すると、得られる組成物はゲル化して融点、凝固点は上昇する。この性質は極度硬化脂にも認められるが、両者の物性には以下のような差が認められる。飽和脂肪酸ステロールエステルまたは極度硬化脂の含量が10質量%以下になるようにこれらをサラダ油と混合すると、飽和脂肪酸ステロールエステルを混合した油脂の方が、解けやすく固まりやすい。一方、15質量%以上になるようにこれらをサラダ油と混合すると、飽和脂肪酸ステロールエステルを混合した油脂の方が、解けにくく固まりやすい。したがって、本発明の飽和脂肪酸ステロールエステルまたはこれを含有する加工油脂は、常温で液体状の油脂に対して、極度硬化脂とは異なる物性(融点、凝固点、硬度など)改良剤として適している。
(C)飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂と油脂との組成物
上記(3)および(4)の方法で得られた加工油脂は、飽和脂肪酸ステロールエステル、飽和脂肪酸グリセリドを主成分とし、ステロールを少量含むこともある。これらの加工油脂を極度硬化脂のように高い融点および凝固点を有する油脂に添加すると、少量添加の場合には、極度硬化脂とほぼ同じ物性を有する混合油脂を調製することができる一方、多量添加の場合には、極度硬化脂よりも高い融点および凝固点を有する混合油脂を調製することができる。
これらの加工油脂を綿実ステアリン、パームステアリン、エステル交換油脂、部分水素添加油脂などのこれらの加工油脂よりも低い融点および凝固点を有する油脂に添加すると、混合油脂の融点および凝固点はこれらの加工油脂の添加量に応じて上昇し、硬度も増す。
これらの加工油脂を常温で液体状の油脂と混合すると、得られる組成物は1質量%の添加のみでゲル化し、融点および凝固点が高くなる。また、多量に(例えば30質量%以上)添加することによって、極度硬化脂よりも高い融点および凝固点を有し、極度硬化脂よりも軟らかい組成物を調製することもできる。
したがって、これらの加工油脂は、極度硬化脂および飽和脂肪酸ステロールエステルとは異なった物性を示し、各種の食品用油脂および化粧品用油剤と混合することによって、融点、凝固点、硬度などの物性に特徴のある組成物を提供することができる。
上記(5)の方法で得られた加工油脂は、飽和脂肪酸のみでなく不飽和脂肪酸も含んでいるが、極度硬化脂と同等の融点および凝固点または極度硬化脂よりも高い融点および凝固点を有する。また、極度硬化脂と同等の物性または極度硬化脂よりも軟らかい物性を有する。したがって、この加工油脂は、各種の食品用油脂および化粧品用油剤と混合することによって、融点、凝固点、硬度などの物性に特徴のある組成物を提供することができる。
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明が実施例に限定されないことはいうまでもない。
(原材料)
綿実サラダ油としては、岡村製油株式会社製を用いた。ケン化価は193mgKOH/gであり、主な脂肪酸の組成は、パルミチン酸:22.5質量%、オレイン酸:17.0質量%、リノール酸:55.6質量%であった。ステロールとしては、タマ生化学株式会社製Phytosterol−FKPを用いた。主なステロールの組成は、カンペステロール:27.3質量%、スティグマステロール:20.4質量%、β−シトステロール:47.8質量%、ブラシカステロール:4.5質量%であった。ニッケル触媒としては、堺化学工業株式会社製SO−850を用いた。リパーゼとしては、名糖産業株式会社製リパーゼOFを用いた。リパーゼ1単位(U)は、オリーブ油の加水分解において1分間に1μmolの脂肪酸を遊離させる酵素量と定義した。
(分析方法)
ステロール、ステロールエステル、グリセリド、脂肪酸は、キャピラリーカラムDB−1ht(0.25mm×5m;J&W Scientific社製)を装着したGC2010ガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所製)を用いて定量した。ステロールのエステル化率は、ステロールおよびステロールエステルの合計モル量に対するステロールエステルのモル量から算出した。脂肪酸は、キャピラリーカラムTC70(0.25mm×60m;GC Sciences社製)を装着したGC2014ガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所製)を用いて定量した。ステロールの構造決定は、キャピラリーカラムDB−1ms(0.25mm×30m;J&W Scientific社製)を装着したGCMS−QP5050A(株式会社島津製作所製)を用いたガスクロマトグラフィー質量分析法により行った。
上昇融点は、「基準油脂分析試験法:日本油化学会制定」、日本油化学会、1996年の「3.2.2.2」に従って測定した。凝固点は、示差走査熱量測定装置(株式会社島津製作所製DSC−60)を用いて測定した凝固熱曲線の最も高温側に位置するピークの頂点の温度とした。なお、示差走査熱量を測定する温度条件としては、室温から10℃/分で100℃まで昇温し、100℃にて2分間保持した後、5℃/分で−50℃まで降温し、さらに−50℃にて5分間保持した後、2℃/分で100℃まで昇温し、100℃にて5分間保持した。
針入度は、溶解した試料を55mmφ×35mmの容器に入れ、20℃にて2時間放置した後、自動針入度測定装置(第一理化株式会社、EX−210ED)を用いて測定した。
(調製例1:綿実極度硬化脂の調製)
綿実サラダ油700gにニッケル触媒0.5質量%を添加し、水素ガスを吹き込みながら180℃にて水素の消費がなくなるまで反応させた。反応後、反応液を濾過してニッケル触媒を除去した後、濾液に活性白土7gを添加し、濾液を減圧下(5kPa)、120℃にて10分間攪拌して脱色した。次いで、脱色標品450gに2%(9g)の水蒸気を吹き込みながら0.2kPa、230℃にて60分間維持して脱臭した(脱色・脱臭工程での回収率:約95%)。
(実施例1:脂肪酸ステロールエステルの合成および水素添加)
(ステロールエステルの合成および精製)
綿実サラダ油600gに水400gおよびリパーゼ30U/gを添加し、この混合物を攪拌しながら40℃にて16時間反応させた(加水分解率:94%)。反応後、静置して水層を除去し、さらに油層を温水200mLで2回洗浄した。得られた油層にステロール560gおよび水277g(20質量%)を添加し、さらにリパーゼ800U/gを添加した。この混合物を脱水しながら5kPa、40℃にて24時間攪拌した(ステロールのエステル化率:98%)。
反応液にヘキサン800mLおよび3.5N NaOH溶液250mLを添加し、攪拌した。ヘキサン層を回収し、水250mLで2回洗浄した後、溶媒を除去して反応産物を回収した(813g;ステロールエステルの純度:96.4%)。
(反応産物に水素添加)
得られた反応産物500gにニッケル触媒0.5質量%を添加し、水素ガスを吹き込みながら180℃にて水素の消費がなくなるまで反応させた。反応後、反応液を濾過してニッケル触媒を除去した後、濾液に活性白土5gを添加し、濾液を減圧下(5kPa)、120℃にて10分間攪拌して脱色した(457g;飽和脂肪酸ステロールエステルの純度:95.8%)。次いで、脱色標品40gにエタノール500mLを添加し、加温して標品を完全に溶解させた後、徐冷して析出した結晶を濾過により回収し、減圧乾燥した(36.6g;飽和脂肪酸ステロールエステルの純度:99.4%)。
(水素添加して得られたステロールエステルの構造決定)
得られた高純度(99.4%)のステロールエステル80mgに4質量%ナトリウムメトキシド−メタノール溶液3mLを添加し、還流しながら20分間反応させた。反応液にヘキサン3mLおよび水3mLを添加し、反応産物をヘキサン層に回収した。このヘキサン層をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、ステロールと脂肪酸メチルエステルは等モル検出され、脂肪酸メチルの全量に対するパルミチン酸メチルおよびステアリン酸メチルの含量はそれぞれ23.1質量%および76.9質量%であった。なお、原料として用いた綿実サラダ油中のC16脂肪酸量およびC18脂肪酸量はそれぞれ23.6質量%および76.4質量%であった。これより、ステロールエステルを構成している脂肪酸は、水素添加により完全に飽和脂肪酸に変換されていることがわかった。
ガスクロマトグラフィー質量分析法によりステロール類の構造決定を行った。β−シトステロール(分子量414)はステロール骨格内に1つの二重結合を持つ。しかし、水素添加後、β−シトステロール以外にマスフラグメントm/z=416のピークは検出できなかった。同じように、カンペステロール(分子量400)もステロール骨格内に1つの二重結合を持つが、水素添加後、カンペステロール以外にマスフラグメントm/z=416のピークは検出できなかった。また、スティグマステロール(分子量412)は、ステロール骨格内に1つ、側鎖に1つの二重結合を有しているが、水素添加後、m/z=414にスティグマステロール以外のピークは認められず、m/z=416にもスティグマステロールに由来するピークは認められなかった。ブラシカステロール(分子量398)も、ステロール骨格内に1つ、側鎖に1つの二重結合を有しているが、水素添加後、m/z=400にブラシカステロール以外のピークは認められず、m/z=402にもブラシカステロールに由来するピークは認められなかった。さらに、原料中のβ−シトステロール、スティグマステロール、カンペステロール、ブラシカステロールの構成比率と水素添加されたステロールエステルに含まれる4種類のステロールの構成比率にも差は認められなかった。
これらの結果より、ステロール骨格内および側鎖に存在する二重結合は、油脂加工で一般的に採用されているニッケル触媒法により水素添加されないことがわかった。したがって、不飽和脂肪酸ステロールエステルに、油脂加工で一般的に採用されているニッケル触媒法により水素添加することによって、飽和脂肪酸ステロールエステルに変換できることがわかった。
(実施例2:極度硬化脂とステロールとのエステル交換)
極度硬化脂(調製例1)とステロールとの混合物(400g;極度硬化脂/ステロール=1:3、2:3、4:3、10:3(モル比))に、ナトリウムメトキシド0.5質量%を添加し、130℃にて60分間反応させた。反応後、反応液に等量のヘキサンと1/2量の水を添加し、十分攪拌してからヘキサン層を回収し、このヘキサン層を1/2量の水で2回洗浄した後、ヘキサンを留去して反応物を得た(回収率:90〜95%)。
得られた反応産物500gに活性白土5gを添加し、減圧下(5kPa)、120℃にて10分間攪拌して脱色した。次いで、脱色標品450gに2%(9g)の水蒸気を吹き込みながら減圧下(0.2kPa)、230℃にて60分間維持して脱臭した(脱色・脱臭工程での回収率:約95%)。得られた加工油脂の組成を表1に示す。
Figure 2013158333
表1より明らかなように、ステロールに対する極度硬化脂の割合が大きい原料を用いると、得られた加工油脂中のグリセリド含量が増え、ステロール含量が減少した。また、ステロールに対する油脂の割合を減らし、脂肪酸換算で等モルに近づけると、加工油脂中のステロールエステル含量が増加した。極度硬化脂/ステロールの割合が10:3(モル比)の原料を用いると、得られた加工油脂中のステロール含量は1質量%で、極度硬化脂/ステロールの割合が1:3(モル比)の原料を用いると、得られた加工油脂中の未反応ステロール含量は18質量%まで増加した。
(実施例3:綿実サラダ油とステロールとのエステル交換および水素添加)
綿実サラダ油とステロールとの混合物(400g;サラダ油/ステロール=1:3、2:3、4:3、10:3(モル比))に、ナトリウムメトキシド0.5質量%を添加し、130℃にて60分間反応させた。反応後、反応液に等量のヘキサンと1/2量の水を添加し、十分攪拌してからヘキサン層を回収し、このヘキサン層を1/2量の水で2回洗浄した後、ヘキサンを留去して反応物を得た(回収率:90〜95%)。
得られた反応産物500gにニッケル触媒0.5質量%を添加し、水素ガスを吹き込みながら180℃にて水素の消費がなくなるまで反応させた。反応後、反応液を濾過してニッケル触媒を除去した後、濾液に活性白土5gを添加し、濾液を減圧下(5kPa)、120℃にて10分間攪拌して脱色した。次いで、脱色標品450gに2%(9g)の水蒸気を吹き込みながら減圧下(0.2kPa)、230℃にて60分間維持して脱臭した(脱色・脱臭工程での回収率:約95%)。得られた加工油脂の組成を表2に示す。
Figure 2013158333
表2より明らかなように、ステロールに対するサラダ油の割合が大きい原料を用いると、得られた加工油脂中のグリセリド含量が増え、ステロールエステル含量が減少し、ステロール含量も減少した。また、ステロールに対するサラダ油の割合を減らし、脂肪酸換算で等モルに近づけると、加工油脂中のステロールエステル含量が増加した。サラダ油/ステロールとの割合が10:3(モル比)の原料を用いると、得られた加工油脂中のステロール含量は2質量%で、サラダ油/ステロールの割合が1:3(モル比)の原料を用いると、得られた加工油脂中の未反応ステロール含量は15質量%まで増加した。
表1および表2より明らかなように、極度硬化脂とステロールとをエステル交換する製造方法を採用しても、サラダ油とステロールとのエステル交換反応物に水素添加する製造方法を採用しても、得られた加工油脂中の飽和脂肪酸ステロールエステル含量、飽和脂肪酸グリセリド含量、およびステロール含量はほぼ同じであった。
(実施例4:飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂の融点、凝固点および針入度)
調製例1で調製した綿実極度硬化脂、実施例1で得られた飽和脂肪酸ステロールエステル、および実施例2および3で得られた各種の飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂の上昇融点、凝固点および針入度を測定した。結果を表1および表2に示す。
極度硬化脂の上昇融点は60℃であり、飽和脂肪酸ステロールエステルの上昇融点は86℃であった。また、極度硬化脂の凝固点は43℃であり、飽和脂肪酸ステロールエステルの凝固点は68℃であった。
極度硬化脂とステロールとをエステル交換して得られた加工油脂も、サラダ油とステロールとのエステル交換反応物に水素添加して得られた加工油脂も、それぞれの物性(上昇融点、凝固点および硬度)はほとんど同じ値を示した。
飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂は、飽和脂肪酸ステロールエステル、飽和脂肪酸グリセリド、およびステロールで構成され、上昇融点は飽和脂肪酸ステロールエステルの含量が多いほど、またステロールの含量が多いほど高くなり、飽和脂肪酸ステロールエステルの上昇融点に近づいた。油脂とステロールとを10:3(モル比)に混合した原料を用いると、得られた飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂は、飽和脂肪酸ステロールエステル26〜27質量%、ステロール1〜2質量%を含んでいたが、上昇融点は極度硬化脂の値とほぼ同じであった。
各種の飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂の凝固点も上昇融点とよく相関し、飽和脂肪酸ステロールエステル26〜27質量%、ステロール1〜2質量%を含む10:3(モル比)加工油脂の凝固点は45℃であり、極度硬化脂の凝固点とほぼ同じであった。針入度については、極度硬化脂が0.2mmであり、各種の飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂の値もほぼ同じであった。なお、針入度0.2mm以下の値は、本発明で採用した針入度測定装置による測定限界を超えており、硬度の比較はできない。一方、各種の加工油脂の試料片を手で割った感触から、融点および凝固点が高いほど硬度が増しているように感じられた。
以上の結果より、油脂とステロールとの割合を変えて混合した原料をエステル交換することによって、上昇融点、凝固点および硬度において固有の特性を持つ加工油脂を製造できることが示された。
(実施例5:脂肪酸ステロールエステルと極度硬化脂とのエステル交換)
綿実極度硬化脂(調製例1)と綿実脂肪酸ステロールエステル(実施例1、純度:96.4%)との混合物(400g;極度硬化脂/ステロールエステル=1:3、1:1、3:1(モル比))にナトリウムメトキシド0.5質量%を添加し、130℃にて60分間反応させた。なお、綿実脂肪酸ステロールエステルを構成している不飽和脂肪酸(パルミチン酸およびステアリン酸)と飽和脂肪酸(オレイン酸およびリノール酸)の割合は23:77(質量%)であった。したがって、3種類の原料に含まれる全脂肪酸に対する飽和脂肪酸の割合は、それぞれ62、81、92質量%となる。反応後、反応液に等量のヘキサンと1/2量の水を添加し、十分攪拌してからヘキサン層を回収し、このヘキサン層を1/2量の水で2回洗浄した後、ヘキサンを留去して反応物を得た(回収率:92〜94%)。
得られた反応産物350gに活性白土3.5gを添加し、減圧下(5kPa)、120℃にて10分間攪拌して脱色した。次いで、脱色標品に2%(7g)の水蒸気を吹き込みながら減圧下(0.2kPa)、230℃にて60分間維持して脱臭した(脱色・脱臭工程での回収率:約95%)。得られた加工油脂の組成、上昇融点および凝固点を表3に示す。なお、表3中の( )内に示した飽和脂肪酸ステロールエステルおよび不飽和脂肪酸ステロールエステルの含量は、加工油脂中の飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸の含量から計算により推定した値である。
Figure 2013158333
加工油脂の上昇融点および凝固点は、加工油脂中の飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸との割合および飽和脂肪酸ステロールエステルの含量により影響され、飽和脂肪酸ステロールエステルの含量が多く、不飽和脂肪酸ステロールエステルの含量が少ない加工油脂の融点および凝固点は高くなると予想される。また、表1および表2より、飽和脂肪酸ステロールエステル含量が25質量%以下で、飽和脂肪酸グリセリド含量が70質量%以上の加工油脂(10:3(モル比)加工油脂)の融点および凝固点は極度硬化脂の値とほぼ一致することが示されている。
表3の結果は、これらの予想および結果とよく一致した。すなわち、極度硬化脂/ステロールエステルの割合が1:3または1:1(モル比)の原料を用いると、得られた加工油脂は飽和脂肪酸ステロールエステルを多く含んでおり、上昇融点および凝固点は極度硬化脂の値よりも高かった。また、3:1(モル比)の原料を用いると、得られた加工油脂は飽和脂肪酸ステロールエステル含量が18質量%であり、トリグリセリド(飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸=92:8質量%)含量が78質量%であった。この加工油脂の上昇融点および凝固点は極度硬化脂の値とほぼ同じであった。なお、加工油脂の針入度は、不飽和脂肪酸ステロールエステルの混在、または不飽和脂肪酸グリセリドの混在により極度硬化脂よりも大きな値を示した。
以上の結果より、不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸ステロールエステルと極度硬化脂とをエステル交換すると、極度硬化脂よりも高い融点および凝固点を有する軟らかい加工油脂を製造できることが示された。
(実施例6:飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂と極度硬化脂とを混合した組成物の融点、凝固点および針入度)
飽和脂肪酸ステロールエステル(実施例1)と極度硬化脂(調製例1)とを混合した油脂の上昇融点、凝固点および針入度を測定した。結果を表4に示す。
Figure 2013158333
表4より明らかなように、飽和脂肪酸ステロールエステルと極度硬化脂とを混合した油脂は、飽和脂肪酸ステロールエステルの含量が20質量%以下で、上昇融点は極度硬化脂の値とほぼ一致した。また、飽和脂肪酸ステロールエステルの含量が25質量%以上では、上昇融点および凝固点は高くなり、飽和脂肪酸ステロールエステルの値(融点:86℃;凝固点:67℃)に近づいた。
極度硬化脂とステロールとをエステル交換して得られた加工油脂(実施例2)、およびサラダ油とステロールとのエステル交換反応物に水素添加して得られた加工油脂(実施例3)はほぼ同じ組成および物性を示した(表1および表2)。したがって、これらの加工油脂と極度硬化脂とを混合した油脂の物性もほぼ同じあった。そこで、サラダ油とステロールとのエステル交換反応物に水素添加して得られた加工油脂(実施例3)と極度硬化脂とを混合した油脂の上昇融点、凝固点および針入度を測定した。結果を表5に示す。
Figure 2013158333
表5より明らかなように、混合油脂の上昇融点および凝固点は、極度硬化脂の値と同じかまたは極度硬化脂の値よりも高くなり、極度硬化脂よりも解けにくく固まりやすい油脂を製造することができた。
飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂は、飽和脂肪酸ステロールエステル、飽和脂肪酸グリセリド、およびステロールで構成されている(表2参照)。飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂と極度硬化脂とを混合した油脂の物性(上昇融点および凝固点)の概略は、飽和脂肪酸ステロールエステルと極度硬化脂とを混合したときの結果から説明することができた。すなわち、ステロールエステル含量が少ない場合(20質量%以下)、上昇融点は極度硬化脂の値とほぼ一致し、凝固点はステロールエステル含量の増加とともに上昇した。また、ステロールエステル含量が増えると、飽和脂肪酸ステロールエステルの値に近づいた。なお、加工油脂中に混在しているステロールは上昇融点および凝固点を上昇させた。
各種の加工油脂と極度硬化脂とを混合した油脂は非常に硬く(針入度:0.1〜0.2mm)、本発明で採用した針入度測定装置による測定限界を超えており、評価できなかった。しかし、加工油脂の試料片を手で割った感触から、飽和脂肪酸ステロールエステル含量が多いほど硬度が増しているように感じられた。
以上の結果より、飽和脂肪酸ステロールエステルまたはこれを含有する加工油脂は、極度硬化脂の上昇融点、凝固点および硬度を変えることができ、極度硬化脂の物性改良剤として利用できることが示された。
(実施例7:飽和脂肪酸ステロールエステルまたは極度硬化脂とサラダ油とを混合した組成物の融点、凝固点および針入度)
極度硬化脂(調製例1)とサラダ油とを混合した油脂、飽和脂肪酸ステロールエステル(実施例1)とサラダ油とを混合した油脂の上昇融点、凝固点および針入度を測定した。結果を表6に示す。
Figure 2013158333
表6より明らかなように、極度硬化脂をサラダ油に10質量%添加すると、混合油脂の上昇融点および凝固点とも大きく上昇した(融点:46℃;凝固点:32℃)。一方、飽和脂肪酸ステロールエステルをサラダ油に10質量%添加すると、混合油脂の凝固点は大きく上昇した(48℃)が上昇融点は5℃以下であった。なお、飽和脂肪酸ステロールエステルをサラダ油に15質量%添加すると、上昇融点は65℃まで上昇した。
極度硬化脂のサラダ油への添加量を50質量%まで増やしても混合油脂の融点は57℃、凝固点は42℃までしか上昇しなかったのに対し、飽和脂肪酸ステロールエステルをサラダ油に50質量%添加すると混合油脂の融点は77℃、凝固点は65℃まで上昇した。
極度硬化脂とサラダ油との混合油脂の針入度および飽和脂肪酸ステロールエステルとサラダ油との混合油脂の針入度もそれぞれの融点および凝固点に相関した。しかし、極度硬化脂よりも飽和脂肪酸ステロールエステルを添加した方が高い凝固点を示し(高い温度で硬化し)、針入度の大きい(軟らかい)混合油脂を製造できることが示された。
飽和脂肪酸ステロールエステルとサラダ油とを混合した油脂、または極度硬化脂とサラダ油とを混合した油脂の物性の違いを表7に整理した。サラダ油との混合において、飽和脂肪酸ステロールエステルは極度硬化脂に比べ、少量(10質量%以下)添加すると固まりやすくて解けやすく、多量(15質量%以上)添加すると固まりやすく解けにくくなる。また、混合割合にかかわらず、飽和脂肪酸ステロールエステルの添加の方が、混合油脂は軟らかくなることが示された。
Figure 2013158333
(実施例8:飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂とサラダ油とを混合した組成物の融点、凝固点および針入度)
極度硬化脂とステロールをエステル交換して得られた加工油脂(実施例2)、およびサラダ油とステロールとのエステル交換反応物に水素添加して得られた加工油脂(実施例3)はほぼ同じ組成および物性を示した(表1および表2)。また、これらの加工油脂とサラダ油とを混合した油脂の物性もほぼ同じあった。そこで、極度硬化脂とステロールとをエステル交換して得られた加工油脂(実施例2)とサラダ油とを混合した油脂の上昇融点、凝固点および針入度を測定した。結果を表8に示す。
Figure 2013158333
表8より明らかなように、混合油脂の上昇融点および凝固点はサラダ油の値よりも大きく上昇し、加工油脂を少量添加するだけでもサラダ油をゲル化または硬化させることができた。なお、加工油脂の種類と量を選択することにより、極度硬化脂よりも高い融点および凝固点を有しながら、極度硬化脂よりも軟らかい混合油脂を製造できることが示された。
各種の飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂の構成成分は、飽和脂肪酸ステロールエステル、飽和脂肪酸グリセリド、およびステロールである(表1)。したがって、飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂とサラダ油とを混合した油脂の物性の概略は、表7にまとめた飽和脂肪酸ステロールエステルおよび極度硬化脂の物性で説明することができた。なお、1:3(モル比)加工油脂中および2:3(モル比)加工油脂中のステロール含量は、それぞれ18質量%および7質量%であったことから、ステロールはサラダ油との混合において上昇融点および凝固点を高め、針入度をやや大きく(軟らかく)する効果を有していることがわかった。
以上、実施例7および8の結果より、飽和脂肪酸ステロールエステル含有加工油脂は、サラダ油に添加することによって、融点、凝固点および硬度を変えることができ、サラダ油の物性改良剤として、極度硬化脂と異なった性質を持つ新しい素材であることが示された。
(実施例9:飽和脂肪酸ステロールエステルまたは極度硬化脂と綿実ステアリンとを混合した組成物の融点、凝固点および針入度)
極度硬化脂(調製例1)と綿実ステアリン(ヨウ素価:94.0g−I/100g)とを混合した油脂、飽和脂肪酸ステロールエステル(実施例1)と綿実ステアリンとを混合した油脂の上昇融点、凝固点および針入度を測定した。結果を表9に示す。
Figure 2013158333
表9より明らかなように、調製例1の極度硬化脂を綿実ステアリンに10質量%添加するだけで混合油脂の上昇融点、凝固点とも大きく上昇した(融点:46℃;凝固点:29℃)。一方、飽和脂肪酸ステロールエステルを綿実ステアリンに10質量%添加すると、混合油脂の凝固点は大きく上昇したが(42℃)、上昇融点はあまり変化しなかった(26℃)。なお、飽和脂肪酸ステロールエステルを綿実ステアリンに15質量%添加すると、上昇融点は64℃まで上昇した。
極度硬化脂の綿実ステアリンへの添加量を50質量%まで増やしても混合油脂の融点は57℃、凝固点は41℃までしか上昇しなかったのに対し、飽和脂肪酸ステロールエステルは、綿実ステアリンに50質量%添加すると混合油脂の融点を77℃、凝固点を66℃まで高めることができた。以上の結果より、極度硬化脂、あるいは飽和脂肪酸ステロールエステルを綿実ステアリンに添加したときの効果は、これらを綿実油に添加したときの効果と同じような傾向を示した(実施例7、表6)。
本発明によれば、食品用油脂および化粧品用油剤に用いて、これらの油脂の融点、凝固点、硬度などの物性を改良する油脂物性改良剤を提供することができる。

Claims (4)

  1. 飽和脂肪酸ステロールエステルを含有する油脂物性改良剤。
  2. 前記飽和脂肪酸ステロールエステルが、
    (1)飽和脂肪酸とステロールとをエステル化する方法、
    (2)不飽和脂肪酸ステロールエステルに水素添加する方法、
    (3)極度硬化脂とステロールとをエステル交換する方法、
    (4)食用油脂とステロールとをエステル交換して得られた油脂に水素添加する方法、または
    (5)極度硬化脂と飽和もしくは不飽和脂肪酸ステロールエステルとをエステル交換する方法
    のいずれかの方法により製造される、請求項1に記載の油脂物性改良剤。
  3. 請求項1または2に記載の油脂物性改良剤を含有する食品用油脂。
  4. 請求項1または2に記載の油脂物性改良剤を含有する化粧品用油剤。
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