以下、実施の形態を図に基づいて詳説する。
(第1の実施の形態)
以下、システムキッチンに組み込まれる誘導加熱調理器に適用した第1の実施の形態について、図1〜図7を参照しながら説明する。図3は、キッチンキャビネット1に、加熱調理器2が組み込まれた状態の外観斜視図であり、図4は、トッププレートを外した状態で示す調理器本体3の平面図である。加熱調理器2の調理器本体3は、キャビネット1に設けられた開口4に落とし込み状態に組み込まれている。この調理器本体3の下部には、図3に示すロースタ部5が設けられている。
調理器本体3は、図4に示すように、上面が開口しており、内部の手前側に加熱手段としての二つの誘導加熱コイル8、9が設けられ、また中央奥部に別の加熱手段として例えばラジエントヒータからなるヒータ10が設けられている。また、この調理器本体3内には、表示回路基板11が配設されており、この表示回路基板11には、多数の加熱強度表示用の発光ダイオードからなる表示器群12A、12Bが実装されていると共に、例えば蛍光表示管からなる表示器15A、15Bが実装されている。
さらに、図3、図5に示すように、調理器本体3の上面には、誘導加熱コイル8、9及びヒータ10を上方から覆うように、耐熱ガラス製の透視可能なトッププレート16が配置される。このトッププレート16において、左右の誘導加熱コイル8、9及びヒータ10の上方に対応する部位はそれぞれ円形模様の調理器載置表示部17、18、19が設けられている。
図5は、以下に述べる表示部から光が放出されて、トッププレート16上の各表示部が浮かび上がったように光表示されている状態を示している。トッププレート16の裏面において、調理器載置表示部17、18の前側には、前記表示器群12A、12Bの上方に位置して調理条件表示部12AH、12BHが塗装膜に形成された抜き孔により設けられ、表示器15A、15Bの上方に位置して調理条件表示部15AH、15BHが同様に抜き孔により設けられている。なお、これらの各調理条件表示部12AH、12BH、15AH、15BHは、それぞれ対応する表示器によって下方から照明表示されることで、透視可能なトッププレート16を介してその上面から図5に示すように目視できる。
また、トッププレート16の前縁部(調理器本体3より前方へ張り出した部分)の下面には、入力案内用表示部20AH〜27AH、20BH〜27BHが同様に抜き孔により設けられている。これら入力案内用表示部20AH〜27AH、20BH〜27BHは、本体3の内部に配置される図示しない発光体からの発光により浮かび上がるように光表示される。なお、発光体が消灯しているときには、トッププレート16上面から内部はほぼ見えない状態(いわゆるブラックアウト状態)となる。
前記右側の入力案内用表示部20AH〜27AHと、左側の入力案内用表示部20BH〜27BHとは、それぞれ基本的に同じ構成であり、また、右側の入力案内用表示部20AH〜27AH下方部、及び左側の入力案内用表示部20BH〜27BH下方部に設けられた操作部などの構成についても、基本的に同じであるので、右側の入力案内用表示部20AH〜27AH下方部の操作部などについて以下説明する。
入力案内用表示部20AHは加熱調理のスタート/切り用、入力案内用表示部21AHはメニュー選択用、入力案内用表示部22AHは加熱強度や加熱時間のアップ設定用、入力案内用表示部23AHは同ダウン設定用、入力案内用表示部24AH〜27AHは加熱強度設定用である。また、これら入力案内用表示部20AH〜27AHの下方には、ユーザが手指により接触操作したことを静電容量の変化により検出する操作部20AT〜27ATが設けられている(図7参照)。
図6は、加熱調理器2の縦断側面図である。冷却ダクト30の内部には、シールドケース31が配置されている。このシールドケース31は、誘導加熱コイル8の中心部から下方に延びると、吹出口30aの直下位置にて水平方向(図6では左方)に折れ曲がった断面ほぼL字状の容器となっている。シールドケース31の奥部には、赤外線センサ32が受光部(赤外線フィルタ32a)を水平方向(図6では右方)に向けた状態で配置されている。赤外線センサ32は、前記赤外線フィルタ32a、赤外線検出部32b、図示しない信号処理回路を一体的に備えたユニットで構成されている。また、シールドケース31の内部で吹出口30aの直下位置に対応する部分には、集光反射部33が配置されている。集光反射部33は、赤外線センサ32と一体となったユニットを構成して、シールドケース31の内部に配置されている。
シールドケース31のうち、集光反射部33の上方に位置する部分には開口部34が形成されており、例えばフライパンなどの調理器具35から放射された赤外線が、開口部34を通って集光反射部33に向かうようになっている。
トッププレート16の下面には、例えばシリコンなどの金属系あるいは窒化ケイ素などの窒化金属材料等をスパッタ法により成膜してなる薄膜36が設けられており、赤外線や可視光が半透過するように構成されている。そして、トッププレート16の下面で、開口部34が密着した部分の内部、すなわち、赤外線センサ32の視野面には、薄膜36が成膜されておらず、透明な赤外線透過窓37となっている。これにより、調理器具35から放射された赤外線が効率良く赤外線透過窓37を透過するようになっている。
このような構成において、集光反射部33は、トッププレート16(赤外線透過窓37)を介して調理器具35から放射された赤外線をほぼ水平方向に反射して赤外線センサ32に集光させる(図6中、破線で示す光路参照)。
ところで、このように透明な赤外線透過窓37を設けると、当該赤外線透過窓37を通して誘導加熱調理器2の内部が見えてしまう。そこで、開口部34内部において赤外線透過窓37に対向する部分に、赤外線透過フィルタ38が設けられている。赤外線透過フィルタ38は、赤外線フィルタ32aより広い範囲の波長透過領域(図13の帯域Wよりも広い範囲の波長領域)を有し、かつ、可視光を透過させない特性を有する部材で構成されている。すなわち、調理器具35から集光反射部33を介して赤外線センサ32に至る赤外線の光路の途中に赤外線フィルタが二重に配置された構成となっている。尚、赤外線透過フィルタ38は、帯域Vと帯域Wの両方の帯域を含む波長透過領域を有するように構成してもよい。
また、トッププレート16の下面において、誘導加熱コイル8の内周側と、誘導加熱コイル8が巻回されている部分の上方に位置する部位とには、例えばサーミスタなどで構成される温度センサ39a、39bが配置されている。これらの温度センサ39a、39bは、トッププレート16下面の温度を検知する。
図7は、制御系の構成を示す機能ブロック図である。火力制御装置(制御部)41は、調理器本体3の内部に設けられており、マイクロコンピュータによって構成されている。火力制御装置41には、トッププレート16の下方に配置されている操作部(操作手段)20T〜27Tから操作信号が入力されると共に、赤外線センサ32、温度センサ39からの温度検知信号が各センサに対応する検知部32c、39cを介して入力されている。
そして、火力制御装置41は、これらの入力並びに予め記憶された制御プログラムに基づいて、表示部12H、15H、20H〜27Hの作動を制御すると共にインバータ(高周波電流供給手段)42を制御し、誘導加熱コイル8(及び9)にインバータ42を介して高周波電流を供給して制御する。例えば、ユーザが操作部20T〜27Tを操作することで、調理メニューを選択し、調理条件を設定すると、対応する表示部12H、15H、20H〜27Hの表示を制御すると共に対応する加熱制御を行う。
誘導加熱コイル8には、共振コンデンサ43が直列に接続されている。これらのコイル8又はコンデンサ43は、調理器具35の材質に応じて出力調整を行なうため、コイル8の巻数が可変となるように(例えば、多段コイル構成)、又はコンデンサ43の容量が可変となるように構成してもよい。インバータ42には、商用交流電源44を、整流回路45を介して直流に変換したものが駆動用電源として供給されている。また、商用交流電源44は、図7では図示を省略しているヒータ10にも、図示しない通電制御部を介して供給されている。
また、整流回路45の入力側と、インバータ42の出力側とには、夫々電流トランス46、47が配置されており、それらの検知信号は火力制御装置41に与えられている。そして、火力制御装置41は、加熱調理器2への入力電流ipとインバータ42の出力電流(コイル電流)icとを検出するようになっている。尚、以上において、誘導加熱コイル8及び9、インバータ42、共振コンデンサ43は、加熱手段48を構成している。
次に、実施の形態の誘導加熱調理器の温度測定原理について説明する。図12に示すVpu、Vpt、Vbは、それぞれトッププレート16の上面、下面近傍、フライパン下面からの赤外線輻射エネルギーを示し、赤外線センサ32に入力されるエネルギーVtoは(=Vpu+Vpt+Vb)となる。図12において、エネルギーVpt、Vbは、トッププレート16を透過して赤外線センサ32に入射するため、トップフレート下面からの赤外線輻射エネルギーVpuより小さい値となる。尚、Vpt>Vbとなるのは、ステンレス(SUS)製であるフライパンの輻射率が小さいことによる。
図14(a)は、鍋底の板厚が厚い(熱容量大)フライパンと、鍋底の板厚が薄い(熱容量小)フライパンとを加熱した場合の電力変化をP1、P2で示している。また、図14(b)には、同様に鍋底の板厚が厚いものと薄いものとをそれぞれ加熱した場合の、鍋底(Tb1、Tb2)及びトッププレート下面(Tpu1、Tpu2)の温度変化を示す。そして、図14(c)は、同様の加熱ケースについて、赤外線センサの検知出力の変化をVto1、Vto2として示す。
フライパン調理時に予熱を行う場合などのように鍋底の温度が急上昇する場合、図12(a)に示すようにトッププレート上面の温度は急上昇するが、下面の温度は上昇しない。これは上述のように、トッププレートがガラス製で熱伝導率が悪く、熱容量も大きいことに起因する。一方、フライパンは輻射率が小さいため温度が上昇しても輻射される赤外線は少ないが、トッププレートの上面は鍋底に近接しているので熱伝導により温度が上昇し、上面から輻射される赤外線も急激に増加する。そこで、トッププレートを介した赤外線の輻射エネルギーを考慮していない場合には、温度検知精度が悪くなる。
より詳細に説明すると、図12(b)、(c)は、図12(a)におけるケース(2)、(5)にそれぞれ対応し、図14の時刻t1、t5におけるフライパンの鍋底温度Tb、トッププレートの上面温度Tpt及び下面温度Tpu、これらの温度に対応する赤外線センサの検出値Vb、Vpt、Vpuを示す。鍋底温度Tbは、何れも250℃とする。トッププレートの温度が低い図12(b)の場合、赤外線センサの総検出値Vtoは(20mV+4mV+10mV=)34mVとなるはずだが、従来方式ではVpu=10mVを差し引いているため検出値Vo2=24mVとなり、これが検出温度250℃に相当する。
一方、トッププレートの温度が高い図12(c)の場合、赤外線センサの総検出値Vtoは(20mV+50mV+300mV=)370mVとなるはずだが、従来のようにVpu=300mVを差し引くと、検出値Vo5=70mVとなり、これは検出温度310℃に相当する。したがって、60℃の誤差を生じることになる。
また、赤外線センサの総検出値Vtoは、トッププレート下面からの輻射エネルギーに対応するVpuが占める割合が非常に大きい。このVpuに相当する値をサーミスタで検知した温度から推定すれば、その推定自体が不正確になる。すなわち、誘導加熱では、図15に示すように、鍋底における誘導電流の分布状態にバラツキがあるため、温度分布のバラツキも大きくなる。すると、トッププレートの温度分布のバラツキも大きくなるから、赤外線センサの検知結果とサーミスタが検知するトッププレート下面の温度とが異なる。更に、トッププレートの下面側では冷却風が循環しているので、トッププレート下面の温度とサーミスタが検知する温度との間にも差が生じる。
そして、検出値Vptはトッププレート上面温度Tptにより変化し、検出値Vbは鍋の輻射率により変化する。そのため、双方とも誤差が大きい(Vto−Vpu)に基づいて鍋底温度を検出すれば、検出誤差が非常に大きくなってしまう。以下に具体例で説明する。
図16は、フライパンを空焚き状態にした場合のトッププレート下面温度Tpuと赤外線センサの検出値Vとの関係を示している。検出値Vpuは、下面温度Tpuに基づいて指数関数的に上昇する。検出値Vgo(=Vpu+Vpt)は、検出値Vptが温度Tptの上昇に伴い増加するので、それが検出値Vpuに上乗せされた特性となる。また、総検出値Vtoは、鍋底温度Tbが加熱開始初期段階でトッププレートの温度が低い場合でも高温になるから、温度Tbに基づいた略一定の検出値Vbが検出値Vgoに上乗せされた特性となる。
加熱を開始すると、鍋底温度Tb、トッププレート上面温度Tpt、同下面温度Tpuの順に上昇するので、加熱初期には、総検出値VtoにVbが占める割合が大きくなるが、時間が経過してトッププレートの温度が上昇すると、Vgoが占める割合が大きくなる。図12(c)のケースでは、総検出値Vtoは370mVであり、従来方式では、Tpu=220℃に対応して出力されるVpu=300mVを減じてVo5=70mVとなる。この場合に、Tpu=210℃と温度を10℃低く検出したとすると、Vpu=260mVとなって、Vo5=110mVとなる。この値は、検出温度300℃に相当する。すなわち、従来方式では、トッププレート下面の温度に10℃の検出誤差があると、鍋底温度の検出誤差が50℃となる。
また、フライパンの鍋底が塗装されている場合は、鍋底からの輻射熱が増加するため、光沢があるSUS製の場合に比較すると、Vbは約3倍の60mV程度になる。すると、図12(c)のケースでは、総検出値Vtoは410mVとなり、従来方式でVpu=300mVを減じるとVo5=110mVとなる。すなわち、検出温度300℃に相当するから、やはり鍋底温度の検出誤差が50℃となる。
これに対して実施の形態の誘導加熱調理器では、加熱が開始されて温度が上昇する期間では、被加熱物の温度に近い温度センサの検知出力に応じて温度上昇制御データ系列を選択設定し、トッププレート下面からの輻射エネルギーに対応する赤外線センサの検知出力に応じて設定した温度上昇制御データ系列に従う設定値を決定することにより、被加熱物の熱容量が小さい場合でも、温度の上昇度合いを高精度に制御し、被加熱物が過昇温度状態になることを確実に防止する。
次に、実施の形態の動作について図1及び図2を参照して説明する。図2は、火力制御装置41が内部のメモリにデータテーブルとして記憶保持している、温度上昇制御データ系列(但し、データ系列(10’)を除く)の一例を示すものである。図2の横軸は、データ系列(10’)に利用するトッププレート16の下面温度Tpuの目盛り(上軸)と共に、データ系列(1)〜(9)に利用する赤外線センサ32の出力電圧Vto[mV]の目盛り(下軸)を示しており、縦軸は、誘導加熱の火力出力P[kW]である。そして、データ系列(1)〜(9)は、25℃から25℃刻みで上昇する下面温度Tpuをパラメータとする温度上昇制御データの系列を示している。
この場合、データ系列(1)〜(9)の火力減衰率(直線の傾き)は、光沢があるSUS製鍋の底の温度が、例えば250℃に到達した場合に輻射される赤外線エネルギーに応じて、赤外線センサ32が出力する電圧Vb=20mVに相当するように設定されている。尚、データ系列(1)〜(9)は、下面温度Tpuについて、大まかな値を離散的に示しているが、実際に使用するデータは、下面温度Tpuをより詳細に切り分けたものとなる。
例えば、データ系列(1)では、下面温度Tpu=25℃の場合、出力電圧Vto=10mVに達すると火力Pを初期値3kWから低下させ、出力電圧Vto=30mVに達すると、火力Pを最低出力である200Wに設定するようになっている。また、データ系列(6)では、下面温度Tpu=150℃の場合、出力電圧Vto=140mVに達すると火力Pを初期値3kWから低下させ、出力電圧Vtoが160mVに達すると、火力Pを最低出力200Wに設定する。そして、下面温度Tpuが変化する場合は、それに応じて使用するデータ系列をダイナミックに変更する。
これらのデータ系列の内、データ系列(9)が上限として設定されている。すなわち、出力電圧Vtoがデータ系列(9)より大きくなると、データ系列(9)の傾きに従って火力Pが減少し、出力電圧Vtoが360mVになると火力P(出力)は0kWになる。よって、鍋底温度はそれ以上に上昇することがないのでデータ系列(9)が上限となる。
尚、この上限値の設定方法としては、その他例えば、データ系列(9)よりも右側に位置する図示しないデータ系列をさらに設定し、下面温度Tpuが、上述したSUS製鍋の底の温度が250℃になっている場合に対応する温度で傾きが垂直となるデータ系列を設定すれば、そのデータ系列が上限となる。この上限は任意に設定可能であり、例えば下面温度Tpu=150℃に対応するデータ系列(6)の傾きを垂直に設定すれば、当該データ系列(6)が上限になる。
また、これらのデータ系列(1)〜(9)については、通常の調理手順に従う場合は、フライパン等の調理器具35の温度を上昇させる期間に使用される。この「温度を上昇させる期間」とは、赤外線センサ32の検出値が温度上昇データ系列の上限値(データ系列(9))に到達するまでの期間を意味し、例えばデータ系列(1)〜(9)については、フライパン等の調理器具35の予熱、揚げ物調理における油が適温となるまでの加熱、あるいは、揚げ物調理において調理物を投入した際に低下した油の温度の回復など、温度を上昇させる必要がある場合に火力を上昇させて、調理器具35の温度を素早く短時間で目標温度に到達させる期間である。そして、データ系列(1)〜(9)は、赤外線センサ32の検知出力に応じて火力Pを比例制御するためのデータ系列となっている。
また、データ系列(10’)[温度制御データ]は、温度センサ39が検知する温度Tpuに応じて加熱調理を行う場合に使用する火力データであり、上記検知出力に応じて火力Pを比例制御するためのデータ系列となっている。このデータ系列(10’)は、調理器具35の温度が過剰に上昇することを防止するため、火力の上限値を制御するデータであり、データ系列(9)より右側に位置させることで、例えば透明な赤外線透過窓37が汚れた場合に赤外線がうまく検出できなかった場合などに過剰な温度上昇を防止する機能(過昇温防止機能)をなす。すなわち、データ系列(10’)の火力上限値を、データ系列(9)の火力上限値よりも高く設定することで、安全な調理が可能となる。
図1は、火力制御装置41が行う誘導加熱制御を示すフローチャートである。先ず、温度センサ39の出力電圧に基づきトッププレート16の下面温度Tpuを検出し(ステップS1)、続いて、赤外線センサ32の出力電圧Vto(図2の下側横軸)を検出する(ステップS2)。そして、温度上昇火力設定値PS1を、上記温度Tpu及び出力電圧Vtoに応じて、図2に示すデータ系列に基づき設定する(ステップS3)。すなわち、温度Tpuに応じてデータ系列(1)〜(9)の何れかを選択し、選択したデータ系列上で、出力電圧Vtoに応じて加熱火力PS1を設定する。
例えば、温度Tpuを100℃として検出した場合は、図2中のデータ系列(4)が選択される。そして、赤外線センサ32の出力電圧Vtoが80mVから85mVに変化すると、その変化に応じて、データ系列(4)に基づく火力設定値PS1が1.5kWから0.8kWに変更される。すなわち、ステップS6に示すように、現状の火力Pが、ステップS3で目標値として設定された火力PS1に対して差がある場合は、現状の火力PをPS1に一致させるように制御する。
尚、上述した例は、赤外線センサ32の出力電圧Vtoが変化しても温度Tpuが変化しない場合を想定したが、実際には、出力電圧Vtoが上昇すれば同時に温度Tpuも上昇する。したがって、実際の火力PS1は、データ系列(4)において火力1.5kWに相当するデータから若干斜め右下にずれて、出力電圧Vto(85mV)の延長線上に位置する1.5kW〜0.8kWの間に設定されることになる。
すなわち、調理器具35を徐々に加熱して行く通常の調理では、初期段階で調理器具35の温度が上昇すると、温度Tpu及び赤外線センサ32の出力電圧Vtoが上昇する。図2を参照して説明すると、火力設定値PS1は、温度Tpuが低いデータ系列の火力が大きい位置から、火力が小さい位置、すなわち右斜め下に向かって緩やかに移動する。そして、温度Tpuが220℃に到達すると、調理器具35の温度がそれ以上に上昇しないように、火力設定値PS1は、上限値として設定されたデータ系列(9)に沿って下降して行く。
一方、調理器具35を加熱している最中に調理器具35内に調理物が投入されると、調理器具35の温度が一気に低下する。この時、トッププレート16の下面温度Tpuはあまり変化しないが、赤外線センサ32の出力電圧Vtoは一気に減少するから、温度Tpuに基づくデータ系列に沿って火力設定値が一気に上昇するように制御される。この制御は後述する。
続いて、温度Tpu(図2の上側横軸)が、データ系列(9)に対応する220℃以上か否かを判断し(ステップS4)、温度Tpuが220℃以上であれば、調理器具35の過昇温防止機能として作用するデータ系列(10’)に従って制御される。これは、温度Tpuが高くなればデータ系列(10’)に基づき火力設定値を低下させることで、ステップS5に示すg(Tpu)を関数とするもので比例制御することに対応する。
この動作は、赤外線センサ32の検出出力に基づきデータ系列(9)において過昇温防止を図る上限値を超えて、トッププレート16の下面温度Tpuがより高く上昇することで、赤外線検出が適切に機能しないケースに対応する。この場合は、温度Tpuだけをパラメータとするデータ系列(10’)により火力を制御する。
本実施の形態の誘導加熱調理器では、昇温加熱時に次の加熱制御も行う。赤外線センサ32の上限温度をサーミスタ温度センサ39の検出温度に応じて補正する制御をする。すなわち、図20のグラフにおいて、加熱開始時には、上限温度データの設定値を破線のAD1(図20では、赤外線AD値として300)に設定する。そして、トッププレート16と調理器(鍋)の温度上昇にともなって温度センサ39の検出温度の精度が高まるに連れ、赤外線温度センサ32の上限温度設定値を高温側の破線AD2(赤外線AD値として490)、破線AD3(同620)に順次にシフトさせる。そして、最終的には通常加熱目標値AD4(同650)に設定する。例えば、温度センサ39によるトッププレート温度Tpuが200℃に到達するまでは、上限温度AD1にて制御する。そして、続いてトッププレート温度Tpuが250℃に到達するまでは、上限温度AD2にて制御し、Tpuが280℃に到達するまでは、上限温度AD3にて制御し、このTpuが280℃を超えると、通常の加熱目標上限値AD4にて制御する。このように昇温加熱制御することにより、過昇温加熱を確実に防ぐことができる。
一般に鍋の材質により、赤外線センサ32による目標温度に対する検出出力は同じでも、温度センサ39による検出温度は大きく異なることがある。同じ積算電力量を加えると、材質が異なる鍋であっても、実際の鍋の温度上昇はほぼ同じである。ところが、赤外線センサ32による温度計測値に対して温度センサ39による温度検出値は低く出る傾向になる。そこで、同じ積算電力量を加えた場合には、温度センサ39による温度上昇が赤外線温度検出値にほぼ一致するように赤外線温度検出値を補正する。
そのためには次の処理を行う。加熱開始初期の段階で、一定温度幅だけ鍋温度を上昇させるのに必要とした積算電力量を測定し、その積算電力量の大小に応じて鍋の材質を判断し、加熱昇温制御時に用いる制御データテーブルを変え、目標温度到達時の温度センサ39による検出温度を赤外線センサ32による温度計測値に一致させる処理をする。この昇温加熱制御について図19のフローチャートを用いて説明する。最初に赤外線目標温度が今回の昇温加熱制御中にすでに補正済みか否かを判断する(ステップS111)。そして補正済みであれば、補正後の赤外線目標温度に対して昇温加熱を継続する。
赤外線目標温度が補正済みでなければ、次に、標準鍋に対する赤外線目標温度(上限値)を選択する(ステップS112)。そして、加熱開始温度から温度センサ39の検出温度が30℃上昇したか否かを判定する。そして加熱開始温度から30℃上昇していれば、電力積算を開始し、かつ、電力積算開始温度Tstからさらに40℃上昇(Tde=Tst+40℃)したか否かを判断する(ステップS113)。40℃上昇していなければ、加熱を継続する。
温度センサ39の検出温度が電力積算開始温度Tstより40℃上昇したと判断すれば、次に、Tst温度から40℃上昇するまでの積算電力量(W・秒)を算出する(ステップS114)。続いて、鍋の材質に応じた赤外線目標温度の補正のために、次の演算式により目標温度を求め、これを赤外線目標温度に設定し直す(ステップS115)。
目標温度=(標準鍋の該当積算電力量/当該鍋の積算電力量)
×標準鍋の赤外線目標温度
つまり、サーミスタ温度センサ39による検出温度が現実の調理器具35の温度よりも低めに出やすい調理器具35の加熱開始直後には赤外線目標温度の上限温度設定値を低めに変更することにより、温度センサ39と赤外線センサ32との温度検出値が早期に一致するように制御する。これにより、調理器具35としての鍋の鍋底のそりや鍋の材質、表面状態に依存する赤外線輻射率の差異による温度検出誤差を少なくできる。したがって、材質や形状の異なる調理器具を使用しても所望の加熱制御ができ、誘導加熱調理器としての調理性能の向上が図れる。
図21のグラフは、標準鍋としての鉄鍋では、1kW・s当たりの温度上昇値は0.6℃であるのに対して、SUS鍋の場合、温度上昇がしやすく、例えば、SUS鍋1では0.2℃の温度上昇が見られ、SUS鍋4では約0.4℃の温度上昇が見られる。そこで、例えば、温度上昇率の差異に応じて赤外線目標温度の上限値を可変に設定する。鉄鍋(標準鍋として設定)に対する赤外線目標温度の上限値を200℃に設定してあれば、SUS鍋1の場合には170℃に変更し、SUS鍋4の場合には180℃に変更し、SUS鍋7の場合には195℃に変更するのである。
続いて、鍋が小鍋であるか否かを判定する(ステップS116)。小鍋であれば、加熱電力のMax電力を1kWに絞る(ステップS117)。しかしながら、小鍋判定が出なければ、補正後の赤外線目標温度に到達するように加熱制御を継続する。この小鍋の判定は、ステップS114における積算電力量が所定の基準値よりも極端に小さい場合、つまり、調理器具35の熱容量が小さい場合に小鍋であると判定する。
この小鍋の判定によって加熱電力のMaxを1kWに絞ることにより、熱容量の小さい小鍋やSUS製のフライパンの空焚きによる急激な温度上昇を防止することができる。
上記の調理器具35を加熱している最中に調理器具35内に調理物が投入され、調理器具35の温度が一気に低下した時、温度Tpuに基づくデータ系列に沿って火力設定値を一気に上昇するように制御する。この場合の適温検知について、図17のフローチャートを参照して説明する。図17にフローチャートは、例えば1秒間に1回のルーチンとして繰り返えされる。最初に赤外線目標温度を赤外線目標AD値に変換する(ステップS101)。この赤外線による温度と赤外線の出力AD値とは、例えば、図2に示したTpuの温度℃とVtoの出力電圧mVとの対応関係に基づき換算される。ただし、機器の特性に応じて変化するものであるので、機器ごとに火力制御装置41に換算データを登録しておくことになる。
次に、今回のルーチンでの赤外線計測AD値が赤外線目標AD値に対して一定範囲内、±5以内に達したか否かを判定する(ステップS102)。この範囲内に達していなければ適温報知カウンタのカウント値Cnt=0にリセットする(ステップS103)。
このステップS102の判定において、±5の範囲内に達していれば、次に、今回のルーチンでの赤外線計測AD値が前回の赤外線計測AD値が±1以内しか変化していないか否かを判定する(ステップS104)。ここでも、赤外線計測AD値の変化が±1の範囲内でなければ、カウント値Cnt=0にリセットする(ステップS103)。
この変化が±1以内であれば、続いて、適温報知カウンタのカウント値Cntを1インクリメントし、Cnt←Cnt+1とする(ステップS105)。そして、カウント値Cnt≧25になったか否か判定する(ステップS106)。つまり、赤外線計測AD値が25秒間継続して赤外線目標AD値に対して±5以内に達し、かつ、赤外線計測AD値の時間変化が±1/sec以内に落ち着いたか否かを判定する。
このステップS106の判定において、赤外線計測AD値が未だ25秒間継続して安定した状態に到達していなければ、適温報知カウンタのカウント値Cntを保持したまま、次回のルーチンに移行する(ステップS106にてNOに分岐して終了)。
他方、ステップS106の判定において、Cnt≧25になっていれば、YESに分岐して、適温到達検知を報知する(ステップS107)。適温報知は表示部にて表示し、あるいはブザーで知らせるものとする。
また、適温検知の結果に応じて、図18に示すように、赤外線センサ32の検知出力に応じた温度上昇制御テーブルに従う火力設定値を変更する設定にすることができる。すなわち、適温検知前の赤外線比例制御データの傾きが30と緩やかで鈍感な設定にし、適温検知後には赤外線比例制御データの傾きを20と急峻にして敏感な設定に変更することができる。これにより、適温到達前の昇温制御中は火力を強めにし、適温到達後は設定温度を正確に維持する制御ができることになる。
以上のように本実施の形態によれば、火力制御装置41は、調理器具35の温度が上昇する期間に、温度センサ39の検知出力に応じて加熱手段48による火力を制御するためのデータ系列(1)〜(9)を設定すると共に、赤外線センサ32の検知出力(トッププレート16の下面からの輻射エネルギーに対応する赤外線センサ32の検出出力Vpuを排除しない、全体の検出出力Vto)に応じて、データ系列(1)〜(9)の内から前記設定されたデータ系列に従う火力設定値を決定するようにした。したがって、赤外線センサ32の検知出力を減じて当該検知出力に含まれている情報を利用せずに排除することなく、上記検知出力に応じて設定したデータ系列(1)〜(9)の設定値を変化させるので、調理器具35の熱容量が小さい場合でも、温度の上昇度合いを高精度に制御でき、過昇温度状態になることを確実に防止できる。
また、火力制御装置41は、温度センサ39の検知出力に応じて加熱手段48による火力を制御するためのデータ系列(10’)も併せて設定するので、調理器具35の状況並びに温度センサ39の検知出力に応じて比例制御を行うことで、制御及び調理性能の信頼性を向上させることができる。
また、火力制御装置41は、データ系列(9)と、データ系列(10’)とをそれぞれ上限値に設定したので、赤外線センサ32の検出出力、及び温度センサ39の検出出力の双方により過昇温防止機能を作用させることができ、温度監視を2重に行うことができる。特に、温度センサ39により検知される温度がデータ系列(9)に対応する温度Tpu(220℃)よりも高い場合はデータ系列(10’)に移行できるように、前者の火力出力上限値よりも後者の火力出力上限値を高く設定した。これにより、赤外線センサ32により赤外線が適切に検出できなかった場合でも、次善の過昇温防止機能として温度センサ39に基づき制御できるから、さらに安全な調理が可能となる。
そして、データ系列(1)〜(9)を、それぞれ赤外線センサ32の検知出力に応じて火力Pを比例制御するデータとして設定したので、例えばフライパン調理の際に調理器具35の温度が急上昇することが想定される場合でも、過昇温防止機能を高い精度で実現できる。
また、フライパンでの油をひいた予熱やカツレツ等の少量の油での揚げ物調理の場合でも、油温度の急上昇を抑えることができ、過昇温防止が確実に行える。同時に、鍋底のソリや赤外線輻射率の異なる鍋を用いても、精度良く天ぷら調理開始可能な適温報知やフライパン炒め物調理の予熱完了報知が行えるようになる。
さらに、材質や形状の異なる調理器具を使用しても所望の加熱制御ができ、誘導加熱調理器としての調理性能の向上が図れる。また、熱容量の小さい鍋や小鍋を判定することによって加熱電力のMaxを絞ることにより、熱容量の小さい小鍋やSUS製のフライパンの空焚きによる急激な温度上昇を防止することができる。
加えて、適温報知制御において、赤外線センサ32の検知出力に応じて温度上昇制御テーブルの設定値を変更することにより、フライパンでの油をひいた予熱やカツレツ等の少量の油での揚げ物調理の場合でも、油温度の急上昇によるオーバーシュートが防止でき、同時に、フライパン調理や天ぷら調理具材投入時の温度低下に対してすばやく火力を回復でき、調理性能の向上が図れる。
[湯沸し制御例1]
続いて、本実施の形態の誘導加熱調理器2による湯沸し制御について説明する。特許文献3(特許第4321278号公報)に開示されている従来技術は、ガラス製のトッププレート1の輻射を検出しないことを目的として、赤外線センサとしてフォトダイオードを用いている。フォトダイオードの光の検出波長は1μm以下であるため、ガラスの輻射はほとんど検出しない。ところが、沸騰検知しようとすれば、鍋底の温度が略沸騰温度と等しく、100℃程度である。この100℃の温度状態では、1μm以下の波長の光の輻射は非常に少なく、ほとんど無いのに等しい。すなわち、100℃の黒体の最大輻射波長λmは、7.8μmでこの最大輻射波長λmでの分光輻射エネルギーEbλmは、93W/μ・m2である。しかし、100℃の黒体の1μmの分光輻射エネルギーEbλは、0.67×10−8W/μ・m2でEbλmの100億分の1以下である。一方、ガラスの分光透過率が大きく変化する2.7μmの分光輻射エネルギーEbλは、1.5W/μ・m2でEbλmの1.6%である。1μmのEbλは、2.7μmのEbλに比べても1億分の1以下で極めて小さい。(分光輻射エネルギーの単位W/μ・m2のμはμmである)。
一方、太陽光や白熱電球の光は数千度相当の分光輻射のために1μm以下の波長を多く含む。そのため、これらが外乱光となってフォトダイオードが検出してしまう。そのため、水等の沸騰検知を温度検出によって行おうとしても、精度の良い温度検出はできない。また、ホーロー鍋はガラスと略同じ分光輻射特性を有するので、1μm付近の分光輻射率は非常に小さく、フォトダイオードによるホーロー鍋の輻射検知は困難で検知精度が悪くなる。
本実施の形態によれば、赤外線センサ32として2.7μm以上の長波長の赤外線を含む広範囲の赤外線を検出することができるサーモパイルなどの赤外線センサを用いることにより、ガラス製のトッププレート16の輻射も検出する。
トッププレート16の温度検出に寄与する輻射エネルギーは、太陽光や白熱電球の光による外乱光エネルギーよりエネルギー量が多い。このため、太陽光や電球の光による外乱光エネルギーによる影響は小さくなる。また、SUS製など光沢のある金属は輻射率が小さく、そのため輻射エネルギーも小さい。
しかしながら、本実施の形態では、赤外線センサ32がトッププレート16の上面からの輻射も検知し、この輻射エネルギーも温度検出のために活用するので50〜100℃程度の輻射エネルギーも検出でき、精度の良い沸騰検知が可能である。
一方、ガラス製のトッププレート16の下面からの輻射や鍋の輻射率の違いが誤差要因となる。そこで、本実施の形態による湯沸し制御では、これらの誤差要因による検出誤差をなくし、精度の良い沸騰検知を行えるような温度検出処理をする。
赤外線センサ32は、ガラス製トッププレート16の下部に配設され、ガラス製トッププレート16及び被加熱物35より輻射される赤外線量を検知して火力制御装置41に出力する。火力制御装置41は、赤外線センサ32の検出値とその変化率を検出して加熱手段48の火力を制御する。
この場合、火力制御装置41は、赤外線センサ32の分光輻射検出特性を赤外線領域で輻射率略100%の鍋底を有する鍋の輻射エネルギーと比較し、ガラスの輻射エネルギーをより多く検出する特性とし、赤外線センサ32の検出値により沸騰検出すると共に、沸騰検出時の赤外線センサ32の検出値と沸騰検出時以前の赤外線センサ32の検出値の変化率とによって鍋の負荷量を検出し、この負荷量に応じて加熱手段48の火力を制御する。
図22、図23は、本実施の形態における赤外線センサ32による温度検出結果を示す。図22(a)、(b)はそれぞれ、水量0.5Lの湯沸し時の制御結果と赤外線センサ32の検出結果、赤外線検出値変化率の推移を示し、図23(a)、(b)はそれぞれ、水量1.5Lの湯沸し時の制御結果と赤外線センサ32の検出結果、赤外線検出値変化率の推移を示している。また、Ttod、ΔTtod/Δtはホーロー鍋のもの、Ttos、ΔTtos/ΔtはSUS鍋のものである。尚、サフィックスのうちの「d」はホーロー鍋、「s」はSUS鍋を表している。
入力1.5kWで加熱を開始すると、受光する赤外線量の増加に伴い、漸次検出値変化率が上昇し、その後略一定の変化率で上昇する。そして沸点近くまで上昇すれば、赤外線検出値の変化が緩やかになって変化率は低下し、それぞれ、時刻tba1、tbb1で、赤外線センサ32の検出値Ttod、Ttosの変化率が予め設定した変化率所定値Ts2以下となると沸騰検知し、所定時間後の時刻tba2、tbb2で入力を200Wに低下させ保温する。
図22、図23のグラフに示すように、鍋底の形状や輻射率により、赤外線センサ32の検出値は異なる。すなわち、ホーロー鍋の場合は、赤外線センサ32の検出値Ttodの換算値95℃が沸騰温度の100℃に相当し、SUS鍋の場合は、検出値Ttosの換算値65℃が沸騰温度の100℃に相当する。そこで、例えば、麺類をゆでるなど吹き零れのない程度で中火で加熱を継続する場合は、沸騰検知後の制御温度Tskを沸騰温度検知時刻の赤外線センサ32の温度検出値Tbの95%、すなわち、Tsk=0.95×Tbを設定温度とする。また、80℃で保温する場合は、同様にTsk=0.80×Tbを設定温度とする。
このように、沸騰検知時刻tba1、tbb1での赤外線センサ32の温度検出値は、100℃に相当するので、検出値の所定の割合で沸騰検知後の温度設定を行えば、鍋底の凹みや材質など、形状や輻射の異なる鍋でも精度良い温度制御が可能となり、吹き零れの恐れのない煮込み調理や精度良い保温制御などが可能となる。
図24は、上記の湯沸し制御のフローチャートである。尚、以下の各フローチャートの説明、各制御例の説明では、Ttodで代表させて説明するが、Ttosも同様である。ステップS201にて、加熱開始により誘導加熱を開始する。そして、ステップS203にて、赤外線センサ32の検出値Ttodがあらかじめ設定した所定値Ts1を超えたか否か判定する。超えていなければNOに移行して加熱を継続する。そして、超えていれば、YESに移行して赤外線センサ32の検出値Ttodが温度上昇制御データ系列の上限値を超えていないか否か判定する(ステップS205)。超えていれば、温度上昇制御データ系列を切り換えて誘導加熱を継続する。
ステップS205で、赤外線センサ32の検出値Ttodが温度上昇制御データ系列の上限値を超えていなければYESに分岐し、Ttodの変化率ΔTtod/Δtが所定値Ts2以下になったか否かを判定する(ステップS207)。
このステップS207における判定により、一定上昇率による温度上昇の後に上昇率が鈍って変化率ΔTtod/Δtが0に近づき、沸騰温度に近づいたことを判定できる。ここでの判定がNOであれば、誘導加熱を継続する。
ステップS207でYESであれば沸騰検知とし、一定時間後に出力を所定値、例えば200Wまで絞って保温する。
この後、ステップS209へ移行し、沸騰判定時の赤外線センサ32の検出値Ttodを100℃対応値と見なし、Tbとして記憶する。さらに、沸騰後の制御温度Tskを、100℃対応の検出値Tbに対して、Tsk=k・Tbにて求める。ただし、k=目標設定温度/100である。そしてこの制御温度TskになるようにTtodを制御する(ステップS211〜S217)。この温度制御は加熱終了の入力があるまで継続する(ステップS219、S221)。
このようにして、単なる湯沸しの場合、いわゆるカルキ飛ばしのために、沸騰検知後、火力を絞って例えば5分間沸騰温度を維持する制御をし、以後に沸騰アラームを発する制御ができる。また、煮込み調理の場合には、設定された煮込み維持時間の間だけ火力を絞って沸騰温度を継続し、以後に煮込み完了アラームを発する制御ができる。例えば95℃に維持する場合には、Tsk=(95/100)×TbとなるTtodにして火力制御する。
この湯沸し制御1によれば、赤外線センサ32の分光検出特性をガラスの分光輻射の一部を検出するような特性とし、鍋の輻射及びトッププレート16の上面からの輻射を検出することにより赤外線センサ32の受光エネルギーが大きくなり、100℃程度の低い温度の検出が容易に行えるようになる。
尚、制御の単純化のためには、Ttodが検出値所定値Ts1≧であることは判定せずに、赤外線センサ32の検出値が温度上昇制御データ系列(1)〜(10)の上限値以下で、かつ、赤外線センサ32の検出値変化率が変化率所定値Ts2以下であることを検出し沸騰検知するものとしてもよい。
[湯沸し制御例2]
図22、図23のグラフ、図25のフローチャートを用いて制御例2の湯沸し制御について説明する。本制御例2では、赤外線センサによる検出値の変化率ΔTtod/Δtが継続して所定時間Hr、例えば2分以上(この時間は適宜に設定される)変化率第1所定値Ts2′(本例ではTs2′=制御例1で用いた変化率所定値Ts2としている。この値はTs2とは異なる値に設定することもできる。)を超えた後に、変化率第2所定値Ts2(制御例1における変化率所定値)以下になった時に沸騰検知する制御を特徴とする。
1回目の調理直後、鍋を外し、別の2回目の調理のため冷たい水の入った鍋をセットし加熱を開始すると、鍋の温度は上昇するがトッププレート16の温度は低下する。このため加熱開始直後、赤外線センサ32の検出値が一旦低下しその後上昇する。この検出値が低下する間、検出値変化率ΔTtod/Δtが小さくなる場合があり、単純な沸騰検知を行う制御例1によれば正確に沸騰検知できない場合があり得る。また、調理途中でトッププレート16が熱くなった状態で冷たい被調理物や水を入れたりするなど、調理条件が変化した場合も同様に、赤外線センサ32の検出値が一旦低下しその後に上昇するので、この間、変化率が小さくなる場合があり、誤って沸騰検知する恐れがあり得る。このように加熱条件が変化しても精度良く沸騰検出するのが、この制御例2である。
ステップS251にて、加熱開始により誘導加熱を開始する。そして、ステップS253にて、赤外線センサ32の検出値Ttodがあらかじめ設定した所定値Ts1を超えたか否か判定する。超えていなければNOに移行して加熱を継続する。そして、超えていれば、YESに移行して赤外線センサ32の検出値Ttodが温度上昇制御データ系列の上限値を超えていないか否か判定する(ステップS255)。超えていれば、温度上昇制御データ系列を切り換えて誘導加熱を継続する。
ステップS255で、赤外線センサ32の検出値Ttodが温度上昇制御データ系列の上限値を超えていなければYESに分岐し、Ttodの変化率ΔTtod/Δtが変化率第1所定値Ts2′以上か否かを判定する(ステップS257)。
このステップS257でNOであれば、水温twが十分に加熱上昇していないと見なすことができ、加熱を継続する。他方、ステップS257でYESであれば、水温twは上昇中と見なすことができるので、検出値変化率が第1所定値Ts2′を超えている継続時間Htを計測し、かつ、加熱を継続する(ステップS259)。
この加熱の継続により水温twが沸騰温度近くまで上昇すればその上昇率は鈍る。そして検出値変化率ΔTtod/Δtは低下する。この変化率が低下した時には、ステップS257の判定はNOに分岐し、続くステップS261において、検出値変化率ΔTtod/Δtが検出変化率の第2所定値Ts2(制御例1における変化率所定値と同じ値)よりも小さくなったか否かを判定する。
このステップS261における判定により、水温上昇の後に上昇率が鈍って変化率ΔTtod/Δtが0に近づき、沸騰温度に近づいたことを判定できる。ここでの判定がNOであれば、誘導加熱を継続する。
ステップS261での判定がYESであれば、変化率の第1所定値Ts2′以上であった継続時間Htが比較設定時間Hrを超えているか否かを判定する(ステップS263)。継続時間Htが所定時間Hrを超えていれば、十分の加熱上昇の後に上昇率が鈍ったものと判断し、沸騰検知する(ステップS263でYESに分岐する)。
ステップS263で沸騰検知すれば、ステップS265へ移行し、沸騰判定時の赤外線センサ32の検出値Ttodを100℃対応値と見なし、Tbとして記憶する。さらに、沸騰後の制御温度Tskを100℃対応の検出値Tbに対して、Tsk=k・Tbにて求める(ステップS267)。ただし、k=目標設定温度/100である。そしてこの制御温度TskになるようにTtodを制御する(ステップS269〜S273)。この温度制御は加熱終了の入力があるまで継続する(ステップS275、S277)。ステップS265〜S277の制御は、制御例1のステップS209〜S221と同様である。
この湯沸し制御例2によれば、制御例1の効果に加えて、上述したように、1回目の調理直後、鍋を外し、別の2回目の調理のため冷たい水の入った鍋をセットし加熱を開始し、鍋の温度は上昇するがトッププレート16の温度が低下するような場合や、調理途中でトッププレート16が熱くなった状態で冷たい被調理物や水を入れたりするなど、調理条件が変化した場合のように、赤外線センサ32の検出値が一旦低下しその後に上昇する加熱条件の下でも精度良く沸騰検出できる。
[湯沸し制御例3]
図26、図27のグラフ、図28のフローチャートを用いて制御例3の湯沸し制御について説明する。制御例3は、赤外線センサ32の分光輻射検出特性を赤外線領域で輻射率略100%の鍋底を有する鍋の輻射エネルギーと比較し、ガラスの輻射エネルギーをより多く検出する特性のものであるサーモパイルセンサを用い、赤外線センサ32の検出値Ttodが所定値Ts1以上であり、かつ、赤外線センサ32の検出値変化率変化Δ2Ttod/Δt2が負の変化率変化所定値Ts3以下であることを検出し沸騰検知することを特徴とする。尚、制御をシンプルにするために、検出値所定値Ts1以上か否かのステップS253の判定は省略することも可能である。
赤外線センサ32は、鍋35とトッププレート16の赤外線を合計した赤外線エネルギーを検出するが、トッププレート16の温度上昇は鍋35のものより遅れる。一方、鍋35の温度上昇は、鍋35の水量や鍋底形状等により変化するので、所定の変化率で沸騰検知すると、誤差が生じ得る。すなわち、水量が多く、鍋底が凹であれば沸騰検知が遅れる傾向となり、水量が少なく、鍋底が平坦であれば沸騰検知が早くなる傾向となる。そこで、本制御例3は、赤外線センサ32の検出値変化率変化Δ2Ttod/Δt2が負の所定値Ts3以下になったことにより沸騰検知することにより、鍋の水量や鍋底形状等による沸騰検知誤差を少なくし、精度の良い沸騰検知を行う。
また、1回目の調理直後、鍋を外し、別の2回目の調理のために冷たい水の入った鍋をセットし加熱を開始したとする。この場合、鍋の温度は上昇するが、トッププレートの温度は低下する。そのため、加熱開始直後、赤外線センサ32の検出値が一旦低下し、その後に上昇する。このような再加熱の場合でも、変化率変化は負にならないので、制御例1のように誤って沸騰検知することはない。
図26(a)、(b)、(c)はそれぞれ、水量0.5Lの湯沸し時の制御結果と赤外線センサ32の検出結果を示し、図27(a)、(b)、(c)はそれぞれ、水量1.5Lの湯沸し時の制御結果と赤外線センサ32の検出結果を示示している。Ttodはホーロー鍋での検出結果、TtosはSUS鍋での検出結果である。また、ΔTtod/ΔtはTtodの変化率、Δ2Ttod/Δt2はTtodの変化率変化、ΔTtos/ΔtはTtosの変化率、Δ2Ttos/Δt2はTtosの変化率変化である。
入力1.5kWで加熱を開始すると水温twが上昇し、それぞれ時刻tbc0、tbd0で検出所定値Ts1以上となる。その後も継続して加熱することにより、時刻tbc1、tbd1で赤外線センサ32の検出値Ttod、Ttosの変化率変化Δ2Ttod/Δt2、Δ2Ttos/Δt2が0から負に変化して変化率変化の所定値Ts2に達するので、この時刻で沸騰検知する。所定時間後の時刻tba2、tbb2で、入力を200Wに低下させ保温する制御をしている。
制御例3を図28のフローチャートにより説明する。ここでもTtodにて代表させて説明する。他の制御例でも同様である。ステップS301にて、加熱開始により誘導加熱を開始する。そして、ステップS303にて、赤外線センサ32の検出値Ttodがあらかじめ設定した所定値Ts1を超えたか否か判定する。超えていなければNOに移行して加熱を継続する。そして、超えていれば、YESに移行して赤外線センサ32の検出値Ttodが温度上昇制御データ系列の上限値を超えていないか否か判定する(ステップS305)。超えていれば、温度上昇制御データ系列を切り換えて誘導加熱を継続する。
ステップS305で、赤外線センサ32の検出値Ttodが温度上昇制御データ系列の上限値を超えていなければYESに分岐し、Ttodの変化率ΔTtod/Δtの変化、すなわちΔ2Ttod/Δt2が変化率変化の所定値Ts3(負値)以下になっていないか否かを判定する(ステップS307)。
このステップS307でNOであれば、水温twが十分に加熱上昇されていないと見なすことができ、加熱を継続する。他方、ステップS307でYESであれば沸騰検知とする。すなわち、加熱の継続により水温twが沸騰温度近くまで上昇すればその上昇率は鈍る。そして検出値変化率ΔTtod/Δtは低下する。この変化率が低下すれば、変化率変化は負値となる。そこで、沸騰温度近くまで上昇したことをこの変化率変化Δ2Ttod/Δt2が所定値Ts3以下になったことによって判定する。
ステップS307で沸騰検知すれば、ステップS309へ移行し、沸騰判定時の赤外線センサ32の検出値Ttodを100℃対応値と見なし、Tbとして記憶する。さらに、沸騰後の制御温度Tskを100℃対応の検出値Tbに対して、Tsk=k・Tbにて求める(ステップS311)。ただし、k=目標設定温度/100である。そしてこの制御温度TskになるようにTtodを制御する(ステップS313〜S317)。この温度制御は加熱終了の入力があるまで継続する(ステップS319、S321)。ステップS309〜S321の制御は、制御例1のステップS209〜S221と同様である。尚、制御をシンプルにするために、ステップS303の検出値所定値Ts1以上の判定は省略することも可能である。
沸騰すると鍋底の温度は略一定の温度になるが、トッププレート16の上面の温度は、鍋底からの輻射と熱伝導により上昇し、かつ、トッププレート16の熱容量やトッププレート裏面への熱伝導があるため、トッププレート16の温度上昇は鍋より遅れ、沸騰により鍋が一定の温度になった後でも温度上昇を継続する。しかし、この時刻では、鍋の温度が略一定で上昇しないので、トッププレート16の温度上昇のカーブは鈍る。
以上のように、沸騰すると鍋の温度上昇が一定となり、トッププレート16の温度上昇カーブは鈍るので、結局、沸騰時刻で赤外線センサ32の温度検出値Ttodの温度上昇カーブは緩やかになり、変化率が変化する。一方、鍋の温度上昇は、鍋の水量や鍋底形状等により変化するので、所定の変化率で沸騰検知すると、誤差が生じる。すなわち、水量が多い場合や、鍋底が凹で鍋底がトッププレートより離れている場合、沸騰検知が遅れる。一方、水量が少なく、鍋底が平坦であれば、沸騰検知が早くなる。
本制御例3では、沸騰時刻で赤外線センサ32の温度検出値の温度上昇カーブが緩やかになり、変化率が変化する時刻、すなわち、赤外線センサ32の検出値TtodのΔ2Ttod/Δt2が負の所定値Ts3になったことにより沸騰検知するので、鍋の水量や鍋底形状等による沸騰検知誤差が少なく、精度良い沸騰検知ができる。
また、制御例3によれば、再加熱の場合も精度良い沸騰検知ができる。すなわち、図29(a)、(b)、(c)の再加熱制御時の検出結果について、1回目の調理直後、鍋を外し、別の2回目の調理のため冷たい水の入った鍋をセットし加熱を開始すると、鍋の温度は上昇するが、トッププレート16の温度は低下するので、加熱開始直後、赤外線センサ32の検出値Ttodが一旦検出値所定値Ts1よりも低下し、その後に上昇する。この水温低下時には変化率ΔTtod/Δtは再加熱の初期に変化率所定値Ts2以下になる。しかしながら、変化率変化Δ2Ttod/Δt2は負にならない。このため、沸騰検知を検出所定値Ts1を検出した後、変化率変化Δ2Ttod/Δt2が負の所定値Ts3以下になった時に沸騰検知するとした本制御例3によれば、沸騰を誤検知することはなく、沸騰を精度良く検出できる。
[湯沸し制御例4]
制御例4は、温度検出値変化率変化が一旦0又は負の値になった後に正の値になった場合は、その後、負の所定値Ts3以下になったことを検出して沸騰検出することを特徴とする。
図30に鍋を他の熱源、例えば右側の誘導加熱部で沸騰前の70℃まで加熱し、その後、その鍋を左側の誘導加熱部に移し、しばらくした後、再加熱した場合の検出例を示す。この場合、左側の誘導加熱部にて加熱開始した後しばらくは、トッププレート16の裏面の温度は低下する。したがって、加熱開始時刻tstの直後、赤外線センサ32の検出値の変化率変化Δ2Ttod/Δt2が負となり、制御例3による湯沸し制御の場合には沸騰を誤検知する恐れがある。このような誤検知は、これ以外の加熱条件でも生じる可能性がある。すなわち、加熱中に火力を低下させたり、加熱途中に冷水を追加したりすると変化率変化Δ2Ttod/Δt2が一旦負の値になる。一方、このように実際に沸騰していない場合、変化率変化Δ2Ttod/Δt2が負値になった直後に検出値Ttodが上昇し、変化率変化Δ2Ttod/Δt2は正の値となる。
そこで、本制御例4では、温度検出値Ttodの変化率変化Δ2Ttod/Δt2が0又は負の値になった後、正の値になった場合は、沸騰検知と見なさず、その後に負の所定値Ts3以下になったときに沸騰検知することにより、このような加熱条件下でも正確に沸騰検知する。
図31のフローチャートにより制御例4について説明する。ステップS351にて、加熱開始により誘導加熱を開始する。そして、ステップS353にて、赤外線センサ32の検出値Ttodがあらかじめ設定した所定値Ts1を超えたか否か判定する。超えていなければNOに移行して加熱を継続する。そして、超えていれば、YESに移行して赤外線センサ32の検出値Ttodが温度上昇制御データ系列の上限値を超えていないか否か判定する(ステップS355)。超えていれば、温度上昇制御データ系列を切り換えて誘導加熱を継続する。
ステップS355で、赤外線センサ32の検出値Ttodが温度上昇制御データ系列の上限値を超えていなければYESに分岐し、Ttodの変化率ΔTtod/Δtの変化、すなわちΔ2Ttod/Δt2が0又は負の値になった後に正の値になったか否かを判定する(ステップS357)。
このステップS357でYESであれば、加熱を継続する。他方、変化率変化が正の値を継続していればNOに分岐し、ステップS359に進む。
ステップS359では、沸騰温度近くまで上昇して検出値変化率ΔTtod/Δtが低下し、変化率変化Δ2Ttod/Δt2が所定値Ts3以下になっていれば沸騰検知する。所定値よりも高ければ加熱を継続する。
ステップS359で沸騰検知すれば、ステップS361へ移行し、沸騰判定時の赤外線センサ32の検出値Ttodを100℃対応値と見なし、Tbとして記憶する。さらに、沸騰後の制御温度Tskを100℃対応の検出値Tbに対して、Tsk=k・Tbにて求める(ステップS363)。ただし、k=目標設定温度/100である。そしてこの制御温度TskになるようにTtodを制御する(ステップS365〜S369)。この温度制御は加熱終了の入力があるまで継続する(ステップS371、S373)。ステップS361〜S373の制御は、制御例1のステップS209〜S221と同様である。尚、制御をシンプルにするために、ステップS353の検出値所定値Ts1以上の判定は省略することも可能である。
この湯沸し制御例4では、制御例3の効果に加えて、加熱開始時、加熱再開時、火力設定可変時、加熱途中の冷水注水時、等で温度変化率変化が一旦負の値になる場合があっても沸騰を誤検知することがなく、精度の良い沸騰検出が可能である。
[湯沸し制御例5]
湯沸し制御例5を図32のフローチャートを用いて説明する。この制御例5は、図30のグラフにおいて、赤外線センサ32による検出値Ttodの変化率変化Δ2Ttod/Δt2が負の第1の所定値Ts3であることを検出し、その後に第2の所定値Ts4以下が所定時間Ht以上継続したことを検出して時刻tbd3にて沸騰検出することを特徴とする。
制御例5では、ステップS401にて、加熱開始により誘導加熱を開始する。そして、ステップS403にて、赤外線センサ32の検出値Ttodあらかじめ設定した所定値Ts1を超えたか否か判定する。超えていなければNOに移行して加熱を継続する。そして、超えていれば、YESに移行して赤外線センサ32の検出値Ttodが温度上昇制御データ系列の上限値を超えていないか否か判定する(ステップS405)。超えていれば、温度上昇制御データ系列を切り換えて誘導加熱を継続する。
ステップS405で、赤外線センサ32の検出値Ttodが温度上昇制御データ系列の上限値を超えていなければYESに分岐し、Ttodの変化率ΔTtod/Δtの変化、すなわちΔ2Ttod/Δt2が0又は負の値になった後に正の値になったか否かを判定する(ステップS407)。負の値の後に正の値になっていればYESに分岐して加熱を継続する。他方、負の値が継続していたり、正の値が継続していればNOに分岐してステップS409に進む。
ステップ409では、変化率変化Δ2Ttod/Δt2が所定値Ts3以下になっているか否か判定する。沸騰温度近くまで上昇すれば温度上昇率は鈍り、検出値変化率ΔTtod/Δtが低下するので、変化率変化は負の値となる。ここでも第1の所定値Ts3よりも大きければNOに分岐して加熱を継続する。他方、変化率変化が負の第1所定値Ts3以下になっていれば、YESに分岐して沸騰検知判定のステップS411に進む。
水温twの温度上昇が順調であれば、温度上昇率が鈍り、変化率変化の値が負になる時刻の前後では変化率変化は大きく変動することはない。そこで、変化率変化が負の第1所定値Ts3以下になれば、ステップS411では、変化率変化が第2の所定値以下である継続期間が所定時間Htになっているか否かを判定し、YESであれば沸騰検知する。
ステップS411で沸騰検知すれば、ステップS413へ移行し、沸騰判定時の赤外線センサ32の検出値Ttodを100℃対応値と見なし、Tbとして記憶する。さらに、沸騰後の制御温度Tskを100℃対応の検出値Tbに対して、Tsk=k・Tbにて求める(ステップS415)。ただし、k=目標設定温度/100である。そしてこの制御温度TskになるようにTtodを制御する(ステップS417〜S421)。この温度制御は加熱終了の入力があるまで継続する(ステップS423、S425)。ステップS413〜S425の制御は、制御例1のステップS209〜S221と同様である。尚、制御をシンプルにするために、ステップS403の検出値所定値Ts1以上の判定は省略することも可能である。
この湯沸し制御例5では、制御例3の効果に加えて、加熱開始時、加熱再開時、火力設定可変時、加熱途中の冷水注水時等で温度変化率変化が一旦負の値になる場合があっても、沸騰を誤検知することがなく、精度の良い沸騰検出が可能である。
[湯沸し制御例6]
図33に鍋底温度Tpbと水温tw、赤外線センサ検出値Ttodの時系列な変化、及び、赤外線センサ検出値Ttodの温度変化率を示す。
IH加熱は、鍋底に誘導電流が流れるため、鍋底だけが加熱される。一方、味噌やスープ等の汁物は、粘度が高いため対流が生じにくく、鍋底の熱が汁物に奪われにくい。そのため、図33(a)に示す様に、鍋底温度Tpbの上昇は早く速いが、鍋内の汁物の水面と鍋底の中間付近の水温twの上昇は遅い。赤外線センサの検出値Ttodは、鍋底温度Tpb及び鍋底と接しているトッププレート16が放射する赤外線を検出するので、鍋底温度Tpbの上昇と同様に、水温twよりも速く上昇する。よって、赤外線センサ検出値Ttodが沸騰温度であっても、鍋の中身は沸騰温度に到達していない場合がある。
そこで、制御例6では、制御例1におけるTtodの変化率ΔTtod/Δtが変化率所定値Ts2以下になったか否かの判定(図24におけるステップS207)において、Ts2以下であったとき、火力Pを1.5kWから0.5kW(=Pl)に低下させ、鍋底温度Tpbの低下速度を見て実際の水温twを算定し、沸騰検出する。
さらに詳しく述べると、検出値Ttodの変化率ΔTtod/Δtが所定値Ts2以下になると、時刻tf1〜to2の所定期間δt1の間、火力Pを1.5kWから0.5kW(=Pl)に低下させる。
このδt1の所定期間、鍋底の発熱量が低下し、対流による放熱量は変わらないので、鍋底温度Tpbは低下する。鍋底温度Tpbの低下の速さは、水温twと相関があり、水温twが高ければ遅く、水温twが低ければ速いので、δt1の期間の赤外線センサの検出値Ttodの変化速度により、水温twを算定する。火力PをいったんPlに下げた状態での赤外線センサ検出値Ttodの変化(低下)δTtが大きく、所定値以上の場合は水温twが未だ沸騰温度に到達していないとみなし、再び、火力Pを1.5kWに上げて加熱を継続する。そして、火力低下時の水温低下速度が所定値よりも大きい間は、この制御を繰り返す。
水温twが100℃に達すると、時刻tf5以降、所定期間δt5経過した時刻to6で、Ttodの変化δTt5が所定値以下になる。これを検出することで沸騰を検出し、以降、保温制御を行う。
図34のフローチャートにより湯沸し制御例6について説明する。ステップS501にて、加熱開始により誘導加熱を開始する。そして、ステップS503にて、赤外線センサ32の検出値Ttodがあらかじめ設定した所定値Ts1を超えたか否か判定する。超えていなければNOに移行して加熱を継続する。そして、超えていれば、YESに移行して赤外線センサ32の検出値Ttodが温度上昇制御データ系列の上限値を超えていないか否か判定する(ステップS505)。超えていれば、温度上昇制御データ系列を切り換えて誘導加熱を継続する。
ステップS505で、赤外線センサ32の検出値Ttodが温度上昇制御データ系列の上限値を超えていなければYESに分岐し、Ttodの変化率ΔTtod/Δtが所定値Ts2以下になったか否かを判定する(ステップS507)。なお、Ts1及びTs2の値は、図22におけるTs1及びTs2と同一であるため図33では省略している。
このステップS507でNOであれば誘導加熱を継続する。ステップS507でYESの場合、火力Pを加熱時の火力1.5kWから0.5kW(=Pl)に低下させる(ステップS511)。そして、火力を0.5kWとしてからの時間δtが所定時間δts経過したかを判定する(ステップS513)。ステップS513において経過時間δtがδts未満の場合は、δtがδtsになるまで待機する。
ステップS513において、火力低下後の経過時間δtが所定時間δtsになった場合、該δt期間の赤外線センサによる検出値Ttodの変化δTti(iは変数1,2,3,…)を、火力を落とす前の赤外線センサによる検出値Tti(iは変数1,2,3,…)で除算した絶対値が変化の所定値ktsよりも小さいか否かを判定する。すなわち、|δTti/Tti|≦ktsか否かを判定する(ステップS515)。なお、Tt=Ttodである。
ステップS515においてNOの場合は火力低下中の水温低下速度、あるいは低下度合いが大きく、沸騰未到達であるとみなし、火力をP=1.5kWに上げて加熱を再開する。ステップS515においてYESの場合には沸騰検知とし、一定時間後に出力を所定値、例えば200Wまで絞って保温する。
この後、ステップS521へ移行し、沸騰判定時の赤外線センサ32の検出値Ttodを100℃対応値と見なし、Tbとして記憶する。さらに、沸騰後の制御温度Tskを、100℃対応の検出値Tbに対して、Tsk=k・Tbにて求める。ただし、k=目標設定温度/100である。そしてこの制御温度TskになるようにTtodを制御する(ステップS523〜S531)。この温度制御は加熱終了の入力があるまで継続する(ステップS533、S535)。
この湯沸し制御例6では、沸騰検知した時点で、加熱出力を低下し、赤外線センサの出力変化を検出することにより、液体温度の温度を推定するので、粘度の高い液体でも精度の良い沸騰検知が可能となる。
[湯沸し制御例7]
図33のグラフ、図35のフローチャートを用いて制御例7の湯沸し制御について説明する。制御例7では、制御例5におけるΔ2Ttod/Δt2が第2の所定値Ts4以下となる時間が所定時間Ht以上継続したことを検出した後(図32のフローチャートにおけるステップS411)、火力Pを1.5kWから0.5kW(=Pl)に低減し、かつ、時刻tf(i)からto(i+1)までの経過時間δt(i)(i=1,2,3,…)をカウントする。次に、Ttodが低下し、δTt/Ttodの絶対値が所定値ktsより大きくなっているか否かを判定し、|δTt/Ttod|≧ktsになった時点の経過時間δtが所定時間δtsより長い場合に沸騰検知することを特徴とする。なお、所定値Ts3、Ts4は、図30と同様であるため図33では省略する。
次に、湯沸し制御例7を図35のフローチャートを用いて説明する。制御例7では、ステップS551にて、加熱開始により誘導加熱を開始する。そして、ステップS553にて、赤外線センサ32の検出値Ttodがあらかじめ設定した所定値Ts1を超えたか否か判定する。超えていなければNOに移行して加熱を継続する。そして、超えていれば、YESに移行して赤外線センサ32の検出値Ttodが温度上昇制御データ系列の上限値を超えていないか否か判定する(ステップS555)。超えていれば、温度上昇制御データ系列を切り換えて誘導加熱を継続する。
ステップS555で、赤外線センサ32の検出値Ttodが温度上昇制御データ系列の上限値を超えていなければYESに分岐し、Ttodの変化率ΔTtod/Δtの変化、すなわちΔ2Ttod/Δt2が0又は負の値になった後に正の値になったか否かを判定する(ステップS557)。負の値の後に正の値になっていればYESに分岐して誘導加熱を継続する。他方、負の値が継続していたり、正の値が継続していればNOに分岐してステップS559に進む。
ステップS559では、変化率変化Δ2Ttod/Δt2が所定値Ts3以下になっているか否か判定する。沸騰温度近くまで上昇すれば温度上昇率は鈍り、検出値変化率ΔTtod/Δtが低下するので、変化率変化は負の値となる。ここでも第1の所定値Ts3よりも大きければNOに分岐して誘導加熱を継続する。他方、変化率変化が負の第1所定値Ts3以下になっていれば、YESに分岐して沸騰検知判定のステップS561に進む。
水温twの温度上昇が順調であれば、温度上昇率が鈍り、変化率変化の値が負になる時刻の前後では変化率変化は大きく変動することはない。そこで、変化率変化が負の第1所定値Ts3以下になれば、ステップS561では、変化率変化が第2の所定値Ts4以下である継続期間が所定時間Htになっているか否かを判定する。ステップS561でNOの場合には誘導加熱を継続する。
ステップS561でYESの場合、火力Pを0.5kW(Pl)に設定し、tf(i)(i=1,2,3,…)以降の経過時間δtをカウントする(ステップS563)。そして、δt間の赤外線センサによる検出値Ttodの変化δTt(i)を、火力を落とす前の赤外線センサによる検出値Tt(i)で除算した絶対値が変化の所定値ktsよりも大きいか否かを判定する。すなわち、|δTt(i)/Tt(i)|≧ktsか否かを判定する(ステップS565)。なお、Tt(i)はTtodと同じものである。
ステップS565においてNOの場合には誘導加熱を継続する。ステップS565においてYESの場合、経過時間δtが所定時間δtsより長いか否かを判定し(ステップS567)、長い場合に沸騰検知する。
ステップS567で沸騰検知すれば、ステップS569へ移行し、沸騰判定時の赤外線センサ32の検出値Ttodを100℃対応値と見なし、Tbとして記憶する。さらに、沸騰後の制御温度Tskを100℃対応の検出値Tbに対して、Tsk=k・Tbにて求める(ステップS571)。ただし、k=目標設定温度/100である。そしてこの制御温度TskになるようにTtodを制御する(ステップS573〜S577)。この温度制御は加熱終了の入力があるまで継続する(ステップS579、S581)。ステップS569〜S581の制御は、図24に示した制御例1のステップS209〜S221と同様である。
この湯沸し制御例7では、制御例5の効果に加えて、制御例6と同様に、粘度の高い液体でも精度の良い沸騰検知が可能となる。
[第2の実施の形態]
図8〜図11は第2の実施の形態を示すものであり、第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分について説明する。図9は、火力制御装置41が内部のメモリにデータテーブルとして記憶保持している、予熱制御データ系列(但し、データ系列(10)を除く)の一例を示すものである。図9の横軸は、トッププレート16の下面温度Tpuと共に、赤外線センサ32の出力電圧Vto[mV]の目盛を示しており、縦軸は、誘導加熱の火力出力P[kW]である。そして、データ系列(1)〜(9)は、25℃から25℃刻みで上昇する下面温度Tpuをパラメータとする予熱制御データ[温度上昇制御データ]の系列を示している。
この場合、データ系列(1)〜(9)の火力減衰率(直線の傾き)は、光沢があるSUS製鍋の底の温度が、例えば250℃に到達した場合に輻射される赤外線エネルギーに応じて、赤外線センサ32が出力する電圧Vb=20mVに相当するように設定されている。尚、データ系列(1)〜(9)は、下面温度Tpuについて、大まかな値を離散的に示しているが、実際に使用するデータは、下面温度Tpuをより詳細に切り分けたものとなる。
例えば、データ系列(1)では、下面温度Tpu=25℃の場合、出力電圧Vto=10mVに達すると火力Pを初期値3kWから低下させ、出力電圧Vto=30mVに達すると、火力Pを最低出力である200Wに設定するようになっている。また、データ系列(6)では、下面温度Tpu=150℃の場合、出力電圧Vto=140mVに達すると火力Pを初期値3kWから低下させ、出力電圧Vtoが160mVに達すると、火力Pを最低出力200Wに設定する。そして、予熱中に、下面温度Tpuが変化する場合は、それに応じて使用するデータ系列をダイナミックに変更する。
データ系列(9)よりも右側に位置する図示しないデータ系列については、下面温度Tpuが、上述したSUS製鍋の底の温度が250℃になっている場合に対応する温度で傾きが垂直に設定されていると、そのデータ系列が上限として設定されることになる。この上限は任意に設定可能であり、例えば下面温度Tpu=150℃に対応するデータ系列(6)の傾きを「0」に設定すれば、当該データ系列(6)が上限になる。これらのデータ系列(1)〜(9)については、通常の調理手順に従う場合は、フライパン等の調理器具35を予熱するため温度を上昇させる期間に使用される。そして、データ系列(1)〜(9)は、赤外線センサ32の検知出力に応じて火力Pを比例制御するためのデータ系列となっている。
また、データ系列(10)[温度制御データ系列]は、温度センサ39が検知する温度Tpuに応じて加熱調理を行う場合に使用する火力データであり、上記検知出力に応じて火力Pを比例制御するためのデータ系列となっている。そして図9は、データ系列(10)を、ユーザによる調理設定に応じて変化させる場合のバリエーションを示している。すなわち、図9に示すデータ系列(10)は一例であり、実際にはユーザによる調理メニューの設定に応じて、図10に示すデータ系列の何れか1つが選択される。この図9のデータ系列(10)は、図10中のデータ系列(11a)に対応している。
これらは、およそ4つの群に分けられており、データ系列(1〜3)の第1群は、例えば加熱温度が140℃〜160℃程度となる「とろとろオムレツ」や「ホットケーキ」などの調理に対応する。データ系列(4〜6)の第2群は、例えば加熱温度が170℃〜190℃程度となる「ハンバーグ」などの調理に対応し、データ系列(7〜14)の第3群は、例えば加熱温度が200℃〜220℃程度となる「ステーキ」などの調理に対応する。そして、データ系列(12a〜14a)の第4群は、例えば加熱温度が220℃〜270℃程度となる「野菜炒め」などの調理に対応する。また、「揚げ物」調理の場合は、加熱温度が140℃〜200℃程度となるので、第1群、第2群の双方に跨ることになる。
つまり、予熱が完了して調理器具35の温度が安定した後に加熱調理を行う場合は、主にデータ系列(10)等を使用することになるが、加熱調理の途中に具材等が追加投入されて調理器具35の温度が一時的に低下すると、データ系列(1)〜(9)を用いた制御に戻る場合がある。尚、これらのデータ系列(1)〜(10)等は、データテーブルとして予め記憶保持するものに限らず、演算式(関数)を用いて算出してもよい。
また、この第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に図17、図18に示した適温報知制御機能を備え、フライパンの温度低下時の再加熱時に適用する。
図8は、火力制御装置41が行う誘導加熱制御を示すフローチャートである。先ず、温度センサ39の出力電圧に基づきトッププレート16の下面温度Tpuを検出し(ステップS11)、続いて、赤外線センサ32の出力電圧Vto(図9の下側横軸)を検出する(ステップS12)。そして、予熱火力PS1を、上記温度Tpu及び出力電圧Vtoに応じて、図9に示すデータ系列に基づき設定する(ステップS13)。すなわち、温度Tpuに応じてデータ系列(1)〜(9)の何れかを選択し、選択したデータ系列上で、出力電圧Vtoに応じて加熱火力PS1を設定する。
続いて、温度Tpuに応じて、図9に示すデータ系列(10)に基づき、加熱調理を行うための火力PS2を設定する(ステップS14)。それから、実際に出力されている火力Pに相当する電力値を検出する(ステップS15)。以降のステップS16〜S18は、予熱時並びに加熱時に共通の制御となる。すなわち、ステップS15で検出した火力Pと、予熱火力PS1又は加熱火力PS2との大小を比較し(ステップS16)、[P<PS1:PS2]であれば火力Pを増加させ(ステップS17)、[P>PS1:PS2]であれば火力Pを減少させる(ステップS18)。そして、[P=PS1:PS2]であれば、そのままステップS1に戻る。以上のようにして、図9に示す制御データ系列に応じて予熱制御並びにその後の加熱制御を行うことができる(上述のように、加熱制御から予熱制御に移行する場合がある)。
上述した作用について、図9に示す負荷線Ls2、Ls4を参照して説明する。これらの負荷線Ls2、Ls4は、調理器具35の温度が上昇するのにともない調理器具35からの放熱量が増加するので、右上がりの傾きを有している。この場合の「放熱」は、主に例えば野菜などの被調理物に熱を奪われたり、調理器具35自体の加熱(温度上昇)や、調理器具35からの放熱等により、調理器具35の底から熱が奪われたりすることで生じる。したがって、実際の負荷線は2次曲線的に変化するが、図9では近似的に直線で示している。
例えば「野菜炒め」調理を行うことを想定すると、調理の初期段階において野菜に水分が多く含まれている状態では、負荷線の傾きは急峻に立っているが、調理が進むと野菜に含まれる水分が減少し、調理器具35の底から熱が奪われ難くなる。すると、負荷線はLs2のようになり、さらに調理が進めば負荷線はLs4のように変化する。そして、火力Pは、負荷線とデータ系列(1)〜(10)との交点で決まる。
負荷線がLs2の状態では、データ系列(10)との交点であるPs2に到達する以前に、下面温度Tpu=125℃であればデータ系列(5)とPs2’で交差するので、赤外線センサ32の出力電圧Vtoの上昇に応じて火力Pを低下させる。
一方、負荷線がLs2の状態において下面温度Tpu=150℃である場合でも、データ系列(6)には移行しない。これは、負荷線がLs2の延長線とデータ系列(6)との交点である火力設定値PAが、上限値となるデータ系列(10)を超えているため、火力設定値がデータ系列(10)に従う比例制御データに移行されるからである。つまり、図9の横軸(上側)で、温度Tpu=150℃に対応したデータ系列(10)の火力設定値PBが動作点となる。
そして、負荷線がLs2の状態においてデータ系列(10)との交点であるPs2に到達すれば、データ系列(10)は上限値であるから、火力制御はデータ系列(10)に移行され、図9の横軸(上側)の下面温度Tpuに基づいて、データ系列(10)に従う比例制御が実行される。
負荷線がLs4に移行し、下面温度Tpu=150℃に上昇すると、データ系列(6)とPs4で交差する。この状態からさらに調理が進めば、負荷線の傾きはLs4より小さくなる。一方、調理器具35に新たに野菜が追加投入されると、負荷線の傾きは立つように変化する。
以上のように調理の進行状況に応じて負荷線の傾きが変化する過程で、下面温度Tpuとの関係により負荷線がデータ系列(10)と交差する状態になると、加熱制御は、温度センサ39の検知出力である下面温度Tpuのみに応じてデータ系列(10)に基づき行われるようになる。すなわち、図9中において、データ系列(10)を境界として右上部の領域となるデータ系列は火力制御に利用されることはなく、全ての制御はデータ系列(10)を境界とする左下の領域に亘るデータに基づいて行われる。
また、図11は、ステップS1で下面温度Tpuを取得する場合に、2つの温度センサ39a、39bより得られる検知出力をどのように取り扱うかを一覧で示している。すなわち、ユーザが選択した調理メニューの種類や調理の進行状況に応じて、それらの処理を変化させる。
例えば調理メニューが「フライパン調理」である場合、予熱を行っている期間は、温度センサ39a、39bの検知出力のうち検知温度が低い方を採用する。そして、予熱後は、サブメニューが例えば「ステーキ」であれば検知温度が低い方を採用し、サブメニューが例えば「カツレツ」であれば検知温度が高い方を採用する。また、調理メニューが「野菜炒め」であれば一貫して検知温度が高い方を採用し、「玉子焼き」であれば一貫して検知温度が低い方を採用する。
すなわち、「フライパン調理:ステーキ」の場合は、一般にフライパンに引く油の量が少なくフライパンの温度が上昇し易いので、予熱時には検知温度が低い方に従ってデータ系列(1)〜(9)を選択設定する。そして、予熱が完了して調理を行う場合には、逆に検知温度が高い方に従ってデータ系列(10)に基づく制御データを設定する。また、「フライパン調理:カツレツ」の場合は、一般にフライパンに引く油の量が多くフライパンの温度が上昇し難い。故に、予熱時並びに予熱後に調理を行う場合の何れも、検知温度が低い方に従ってデータ系列(1)〜(9)を選択設定し、またデータ系列(10)に基づく制御データを設定する。
また、「野菜炒め」の場合は、調理が高温で行われるので、予熱時並びに予熱後に調理を行う場合の何れも、検知温度が高い方に従ってデータ系列(1)〜(10)を選択設定等する。「玉子焼き」の場合は、調理が比較的低温で行われ、かつ調理器具35の底面全体が均一に加熱される状態が望ましいため、2つの温度センサ39a、39bの検知出力を平均した値を採用する。
以上のように第2の実施の形態によれば、火力制御装置41は、予熱時のように調理器具35の温度が上昇する期間に、温度センサ39の検知出力に応じて加熱手段48による火力を制御するためのデータ系列(1)〜(9)を設定すると共に、赤外線センサ32の検知出力(トッププレート16下面からの輻射エネルギーに対応する赤外線センサ32の検知出力を減じて排除しない全体の赤外線出力)に応じて、データ系列(1)〜(9)のうち、前記設定されたデータ系列に従う火力設定値を決定するようにした。したがって、特許文献1のように赤外線センサ32の検知出力を減じて当該検知出力に含まれている情報を利用せずに排除することなく、上記検知出力に応じて設定したデータ系列(1)〜(9)の設定値を変化させるので、調理器具35の熱容量が小さい場合でも、温度の上昇度合いを高精度に制御でき、過昇温度状態になることを確実に防止できる。
また、火力制御装置41は、温度センサ39の検知出力に応じて加熱手段48による火力を制御するためのデータ系列(10)も併せて設定するので、予熱が終了し、トッププレート16の上面、下面の温度が比較的安定した状態で調理を行う場合は、温度センサ39の検知出力に応じて比例制御を行うことで、制御精度、調理性能を向上させることができる。
また、火力制御装置41は、データ系列(1)〜(9)と、データ系列(10)とにそれぞれ上限値を設定する場合に、前者の火力出力Pの上限値を後者の上限値以上に設定するので、調理器具35が例えば光沢のあるSUS製である場合でも、過昇温防止機能を高い精度で実現できる。
そして、データ系列(1)〜(9)と、データ系列(10)とを、それぞれ赤外線センサ32の検知出力、温度センサ39の検知出力に応じて火力Pを比例制御するデータとして設定したので、例えばフライパン調理の予熱時に調理器具35の温度が急上昇することが想定される場合でも、過昇温防止機能を高い精度で実現できる。また、予熱の終了後、トッププレート16の上面、下面の温度が比較的安定した状態で調理を行う場合も、温度センサ39の検知出力に応じて比例制御により制御精度、調理性能を向上させることができる。
さらに、火力制御装置41は、データ系列(10)を調理条件に対応させて複数用意し、操作部20AT〜27ATを介して設定された調理条件に応じて何れか1つを選択するので、フライパン調理や揚げ物調理などが選択された場合に、それぞれの調理の形態に応じて最適な比例制御を行うためのデータ系列を設定できる。
加えて、火力制御装置41は、温度センサ39a、39bより出力される検知結果の平均値を採用するか、又は前記検知結果の何れかを選択したものに応じて、データ系列(1)〜(9)を設定し、また、上記検知結果について温度が最低を示すもの、温度が最高を示すもの、あるいは前記検知結果の平均値の何れかに基づいてデータ系列(10)に従う制御データを決定する。
すなわち、誘導加熱では、図15に示したように、調理器具35の鍋底に流れる誘導電流の分布にむらがあるため、鍋底の温度分布にもむらが生じる。また、鍋底の形状に凹凸がある場合には、温度センサ39の検知結果がばらつくことがある。そこで、温度センサ39a、39bより出力される検知結果について温度が最高を示すものを採用すれば、過昇温を防止する観点では、安全側に制御できる。また、上記検知結果について温度が最高を示すものを採用すれば、データ系列に基づく制御データの変化速度を速くすることができる。例えば「野菜炒め」のように高火力で調理する場合は、より高い火力を設定することができる。また、上記検知結果について平均値を採用すれば、「玉子焼き」のように加熱温度に精度が必要とされる制御に好適である。
本実施の形態にあっても、図17、図18に示した適温報知機能により、フライパンでの油をひいた予熱やカツレツ等の少量の油での揚げ物調理の場合でも、油温度の急上昇を抑えることができ、過昇温防止が確実に行える。同時に、鍋底のソリや赤外線輻射率の異なる鍋を用いても、精度良く天ぷら調理開始可能な適温報知やフライパン炒め物調理の予熱完了報知が行えるようになる。
また、適温報知制御において、赤外線センサ32の検知出力に応じて温度上昇制御テーブルの設定値を変更することにより、フライパンでの油をひいた予熱やカツレツ等の少量の油での揚げ物調理の場合でも、油温度の急上昇によるオーバーシュートが防止でき、同時に、フライパン調理や天ぷら調理具材投入時の温度低下に対してすばやく火力を回復でき、調理性能の向上が図れる。
また、本実施の形態においても、図20に示した昇温加熱時にTpuの温度上昇に応じて赤外線温度上限値を高温側に順次にシフトさせながら昇温加熱する制御を採用することができる。また、図19、図21に示した鍋のそりや材質の差異により、赤外線温度目標値の補正を行う制御を採用することができる。
さらに、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、制御部41が、温度上昇制御データ系列(1)〜(7)に上限値(7)を設定すると共に、温度センサ39の温度が上限値に相当する温度よりも一定値だけ低い所定値を超えた時に、温度センサ39の検知出力によらずに赤外線センサ32の温度上昇制御データ系列(7)の上限値に従う火力設定値にして火力制御するものとすることができる。
この第2の実施の形態の誘導加熱調理器においても、第1の実施の形態と同様の沸騰制御機能、湯沸し制御例1〜7のいずれをも火力制御装置41に組み込むことができ、それによって第1の実施の形態と同様に精度の良い沸騰制御ができることになる。
[他の実施の形態]
本発明は上記し又は図面に記載した実施の形態にのみ限定されるものではなく、以下のような変形又は拡張が可能である。例えば、複数の温度センサの検知出力の取り扱いは、図11に示すものに限らず、個別の設計に応じて適宜変更して良い。温度センサは、1つのみでも、若しくは3つ以上設けても良い。誘導加熱コイルについても、1つだけ、若しくは3つ以上設けても良い。データ系列(10)について、調理メニューごとにバリエーションを設けることは、必要に応じて行えばよい。また、各データ系列は、必ずしも比例制御を行うデータに限ることはなく、適宜変更して良い。さらに、調理器具35はフライパンに限ることなく、その他の鍋などである場合も同様に適用できる。