(発明の詳細な説明)
A.定義
特に定義しない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。Singleton 等, Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2版, J. Wiley & Sons (New York, N.Y. 1994)、及びMarch, Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure 4版, John Wiley & Sons (New York, N.Y. 1992)により当業者は本出願に使用した多くの用語の一般的な理解が得られる。
当業者は、本発明の実施に使用することができるであろう、ここに記載のものと同様もしくは等価な多くの方法及び材料が分かるであろう。実際、本発明は記載された方法及び材料に決して限定されるものではない。本発明の目的のために、次の用語を以下に定義する。
「炎症性腸疾患」又は「IBD」なる用語は、潰瘍性大腸炎及びクローン病に対する集合的な用語として使用される。該二種の疾患は一般には二つの異なった実体と考えられているが、表面上皮の斑状壊死、腺性陰窩に隣接した白血球の局所性蓄積、及び増加した数の上皮内リンパ球(IEL)及びある種のマクロファージサブセットのようなその共通する特性は単一の疾患群としてのその治療を正当なものにする。
「クローン病」又は「CD」なる用語は、ここでは胃腸管の慢性的な炎症を含む症状を意味するために使用される。クローン関連炎症は通常は腸管を冒すが口から肛門までの至る所で発生し得る。CDは、腸管壁の全層にわたって広がり、腸間膜並びにリンパ節を含む点でUCとは異なる。該疾病はしばしば非連続的であり、つまり、腸の重篤に罹患しているセグメントが明らかに疾患がない領域から分離している。CDでは、腸壁がまた厚くなり、これが閉塞を生じ得、瘻孔及び裂溝の発生が珍しくはない。ここで使用される場合、CDは、限定するものではないが、(回腸及び大腸を冒す)回結腸炎;(回腸を冒す)回腸炎;胃十二指腸CD(胃及び十二指腸の炎症);空回腸炎(空腸における炎症の斑状パッチ);及びクローン(肉芽腫性)大腸炎(大腸のみを冒す)を含むCDの幾つかのタイプの一又は複数でありうる。
「潰瘍性大腸炎」又は「UC」なる用語は、ここでは大腸及び直腸の炎症を含む症状を意味するために使用される。UCの患者では、結腸粘膜を主として含む炎症反応がある。炎症は典型的には一様で連続的であり、正常な粘膜が介在する領域はない。表面粘膜細胞並びに陰窩上皮及び粘膜下層が好中球浸潤を伴う炎症反応に関与する。最終的には、この反応は典型的には上皮損傷及び上皮細胞の消失まで進行し、多発性潰瘍、線維症、異形成及び結腸の縦方向の退縮を生じる。
「非活動的」IBDなる用語は、ここでは、個体において過去に診断されたが現在は寛解しているIBDを意味するために使用される。これは、個体が診断されたが治療を受けていない活動的IBDと対照的なものである。加えて、活動的IBDは、 寛解(つまり、不活動的IBDになる)になった過去に診断され治療されたIBDの再発であり得る。かかる再発はここではIBDの「突然の再発」とも称され得る。IBDのような活動的な自己免疫疾患を有する哺乳動物被験体は、高まった疾患活動の期間又は対応する徴候の戻りである突然の再発を被りうる。突然の再発は、深刻な感染、アレルギー反応、肉体的ストレス、情動性トラウマ、手術、又は環境因子に応答して生じ得る。
「調節する」なる用語は、ここでは、遺伝子の発現、又は一又は複数のタンパク質又はタンパク質サブユニットをコードするRNA分子又は等価なRNA分子のレベル、又は一又は複数のタンパク質又はタンパク質サブユニットの活性が、発現、レベル又は活性がモジュレータの不存在下で観察されたものより大きいか又は少ないように、上方制御され又は下方制御されることを意味するために使用される。
「阻害する」、「下方制御する」、「低発現する」及び「減少する」なる用語は、交換可能に使用され、遺伝子の発現、又は一又は複数のタンパク質又はタンパク質サブユニットをコードするRNA分子又は等価なRNA分子のレベル、又は一又は複数のタンパク質又はタンパク質サブユニットの活性が、一又は複数のコントロール、例えば一又は複数の正及び/又は負の制御に対して低減されることを意味する。
「上方制御する」又は「過剰発現する」なる用語は、遺伝子の発現、又は一又は複数のタンパク質又はタンパク質サブユニットをコードするRNA分子又は等価なRNA分子のレベル、又は一又は複数のタンパク質又はタンパク質サブユニットの活性が、一又は複数のコントロール、例えば一又は複数の正及び/又は負の制御に対して上昇されることを意味する。
「診断」なる用語は、ここでは、分子的又は病理学的状態、疾患又は状態の同定を意味し、例えばIBDの同定等である。
「予後」なる用語は、ここでは、自己免疫の突然の再発及び手術後の再発を含むIBDの発生又は進行の可能性の予測を意味する。予後因子は、IBDをひとたび発症したら患者の再発率及び結果に影響を及ぼすIBDの自然経過に関連した変量である。悪い予後に関連しうる臨床的パラメータは、例えば、腹部腫瘤又は圧痛、皮疹、関節腫脹、 口腔内潰瘍、及び腹鳴(腸にわたる腹鳴又は振とう音)を含む。予後因子は、異なったベースライン再発リスクを持つサブグループに患者を分類するために使用することができる。
IBDの「病理」は、患者の良好な状態を危うくさせる全ての現象を含む。IBDの病理は、主として、任意の既知の外来抗原の不在下での慢性又は急性炎症と続いての潰瘍を生じうる腸内の免疫系の異常な活性化に起因する。臨床的には、IBDは、しばしば慢性的な予測できない経過を生じる多様な徴候によって特徴付けられる。血性下痢及び腹痛はしばしば発熱及び体重減少を伴う。貧血は重度の疲労のように、希ではない。関節痛から急性関節炎にわたる関節の症状並びに肝機能の異常が通常IBDに伴う。IBDの急性の「攻撃」の間、仕事や他の通常の活動が普通不可能であり、しばしば患者は入院する。
これらの疾患の病因論は知られておらず、初期の病変ははっきりとは定まっていない;しかし、表面上皮の斑状壊死、腺性陰窩に隣接する白血球の局所性蓄積、及び増加した数の上皮内リンパ球及びある種のマクロファージサブセットが、特にクローン病における推定される初期の変化として記述されている。
「処置(治療)」なる用語は、IBDに対する、治療的処置及び予防的又は防止的手段の双方を意味し、目的は標的の病理症状又は疾患を防止し又は遅延させ(低減させ)ることである。治療を必要とする者は、既にIBDである者並びにIBDになる傾向がある者又はIBDが防止されなければならない者を含む。IBDの診断がここに開示された方法によってひとたびなされたら、治療の目標は寛解を誘導し維持することである。
「IBD治療剤」としての使用に適した様々な薬剤は当業者に知られている。ここに記載しているように、かかる薬剤には、限定なしに、アミノサリチル酸類、副腎皮質ステロイド、及び免疫抑制剤が含まれる。
「試験試料」なる用語は、IBDになっていることが疑われ、IBDであることが知られ、又はIBDからの寛解にあることが知られている哺乳動物被験体からの試料を意味する。試験試料は、限定しないが、血液、***、血清、尿、糞便、骨髄、粘膜、組織等を含む哺乳動物被験体における様々な供給源に由来し得る。試験試料は、限定するものではないが、上行結腸組織、下行結腸組織、S状結腸組織、回腸コロン及び終端の回腸組織を含む胃腸管の組織生検から得られ得る。
「コントロール」又は「コントロール試料」なる用語は、ネガティブな結果が試験試料におけるポジティブな結果を相関付けるのに役立つことが期待されるネガティブコントロールを意味する。本発明に適したコントロールには、限定しないが、正常なレベルの遺伝子発現を有していることが知られている試料、IBDとなっていないことが知られている哺乳動物被験体から得られた試料、及び正常であることが知られている哺乳動物被験体から得られた試料が含まれる。コントロールはまた過去にIBDと診断され治療され現在は寛解にある被験体から得られた試料であり得;かかるコントロールは寛解にある被験体におけるIBDの再発を決定するのに有用である。また、コントロールは、試験試料に含まれる細胞と同じ由来の正常細胞を含む試料でありうる。当業者であれば本発明での使用に適した他のコントロールが分かるであろう。
「マイクロアレイ」なる用語は、基質上の、ハイブリダイズ可能なアレイ要素、好ましくはポリヌクレオチドプローブの秩序だった配置を意味する。
単数又は複数で使用される場合、「ポリヌクレオチド」なる用語は、一般に任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを意味し、これは未修飾RNA又はDNA又は修飾RNA又はDNAであり得る。よって、例えば、ここで定義されるポリヌクレオチドには、限定するものではないが、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖及び二本鎖領域を含むDNA、一本鎖及び二本鎖RNA、及び一本鎖及び二本鎖領域を含むRNA、一本鎖であってもよく、又はより典型的には二本鎖であっても又は一本鎖又は二本鎖領域を含んでもよいDNA及びRNAを含む混成分子が含まれる。また「ポリヌクレオチド」なる用語は、ここで使用される場合RNA又はDNA又はRNAとDNAの双方を含む三本鎖領域を意味する。そのような領域のストランドは同じ分子由来でも又は異なった分子由来でもよい。その領域は一又は複数の分子の全てを含みうるが、より典型的には幾らかの分子の領域のみを含む。三本ヘリックス領域の分子の一つがしばしばオリゴヌクレオチドである。「ポリヌクレオチド」なる用語は特にcDNAsを含む。その用語には、一又は複数の修飾塩基を含むDNA(cDNAを含む)及びRNAが含まれる。よって、安定性又は他の理由のために修飾された骨格を持つDNA又はRNAは、その用語がここで意図するところの「ポリヌクレオチド」である。更に、イノシンのような希な塩基又はトリチウム化塩基のような修飾された塩基を含むDNA又はRNAはここで定義される「ポリヌクレオチド」という用語内に含まれる。一般に、「ポリヌクレオチド」という用語は未修飾のポリヌクレオチドの全ての化学的、酵素的及び/又は代謝的に修飾された形態並びに単純細胞及び複雑細胞を含む細胞及びウイルスに特徴的なDNA及びRNAの化学的形態を包含する。
「オリゴヌクレオチド」という用語は、限定するものではないが、一本鎖デオキシリボヌクレオチド、一本鎖又は二本鎖リボヌクレオチド、RNA:DNAハイブリッド及び二本鎖DNAを含む比較的短いポリヌクレオチドを意味する。一本鎖DNAプローブオリゴヌクレオチドのようなオリゴヌクレオチドは、例えば市販されている自動オリゴヌクレオチド合成機を使用して、化学的方法によってしばしば合成される。しかしながら、オリゴヌクレオチドは、インビトロ組換えDNA媒介法を含む様々な他の方法によって、及び細胞及び生物中でのDNAの発現によって、作製することができる。
「異なって(差次的に)発現された遺伝子」、「異なる(差次的)遺伝子発現」という用語及びその同義語は、交換可能に使用され、正常な又はコントロール患者でのその発現と比較して、疾患、特にUC又はCDのようなIBDに罹患している患者においてより高いか又はより低いレベルまで発現が活性化される遺伝子を意味する。その用語はまた発現が同じ疾患の異なった段階でより高いか又はより低いレベルまで活性化される遺伝子を含む。異なって発現された遺伝子は核酸レベル又はタンパク質レベルで活性化されるか又は阻害されうるか、あるいは選択的スプライシングを受けて異なったポリペプチド産物になりうることがまた理解される。そのような差異は、例えばmRNAレベル、ポリペプチドの表面発現、分泌又は他の分割の変化によって裏付けられうる。異なる遺伝子発現は、正常な被験者と疾患、特にIBDに罹患している患者との間で、あるいは同じ疾患の様々な段階の間で異なる、二又はそれ以上の遺伝子又はその遺伝子産物間での発現の比較、又は二又はそれ以上の遺伝子又はその遺伝子産物間での発現の比の比較、又は更には同じ遺伝子の二つの異なってプロセシングされた産物の比較を含む。異なる発現は、例えば正常細胞及び疾患細胞の間、又は異なった疾患事象又は疾患段階を被った細胞間で、遺伝子又はその発現産物における時間的又は細胞性発現パターンの定量的な差異並びに定性的な差異の双方を含む。本発明の目的に対して、「異なる遺伝子発現」は、正常な被験者と疾患の患者における、又は疾患の患者の疾患の進行の様々な段階における所与の遺伝子の発現において少なくとも約1倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約3倍、少なくとも約3.5倍、少なくとも約4倍、少なくとも約4.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約5.5倍、少なくとも約6倍、少なくとも約7倍、少なくとも約8倍、少なくとも約9倍、少なくとも約10倍の差があるときに、存在すると考えられる。
RNA転写物に関する「過剰発現」なる用語は、検体において検出される全ての又はmRNAの参照セットであり得る、参照mRNAのレベルに対する正規化によって決定される転写物のレベルを意味するために使用される。
「遺伝子増幅」なる語句は、遺伝子又は遺伝子断片の複数コピーが特定の細胞又は細胞株中で形成される過程を意味する。複製領域(増幅DNAの伸展)はしばしば「アンプリコン(増幅産物)」と称される。通常、生産されたメッセンジャーRNA(mRNA)の量、つまり遺伝子発現のレベルは、発現した特定の遺伝子から作製されたコピー数の割合でまた増加する。
一般に、「マーカー」又は「バイオマーカー」なる用語は、その遺伝がモニタできる制限酵素認識部位又は遺伝子のような染色体上の同定可能な物理的位置を意味する。マーカーは「遺伝子発現マーカー」と称される遺伝子の発現領域、又は既知のコードディング機能のないDNAのあるセグメントでありうる。ここで使用される「IBDマーカー」は表1に挙げられた遺伝子を意味する。
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は、当業者によって容易に決定され、一般的にプローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に依存する経験的な計算である。一般に、プローブが長くなると適切なアニーリングのための温度が高くなり、プローブが短くなると温度は低くなる。ハイブリダイゼーションは、一般的に相補鎖がその融点より低い環境で存在する場合における変性DNAの再アニールする能力に依存する。プローブとハイブリダイズ可能な配列との間の所望のホモロジーの度合いが高くなると、使用できる相対温度が高くなる。その結果、より高い相対温度は、反応条件をよりストリンジェントにするが、低い温度はストリンジェンシーを低下させる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーの更なる詳細及び説明は、Ausubel等, Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers, (1995)を参照のこと。
ここに定義される「ストリンジェントな条件」又は「高いストリンジェントな条件」は、(1)洗浄のために低イオン強度及び高温度、例えば、50℃で0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウムを用いる;(2)ハイブリダイゼーションの間にホルムアミド等の変性剤、例えば、42℃で750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウムを含むpH6.5の0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%ポリビニルピロリドン/50mMのリン酸ナトリウムバッファーによる50%(v/v)ホルムアミドを用いる;又は(3)0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)、50%ホルムアミド中での42℃での洗浄とその後の55℃でのEDTAを含む0.1×SSCからなる高いストリンジェンシーの洗浄を伴う、42℃での50%ホルムアミド、5×SSC(0.75MのNaCl、0.075Mのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%のピロリン酸ナトリウム、5×デンハード液、超音波処理サケ***DNA(50μg/ml)、0.1%SDS、及び10%のデキストラン硫酸を用いる。
「中程度のストリンジェントな条件」は、Sambrook等, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (New York: Cold Spring Harbor Press, 1989に記載されているようにして同定され、上述のものよりストリンジェンシーが低い洗浄溶液及びハイブリダイゼーション条件(例えば、温度、イオン強度及び%SDS)の使用を含む。中程度のストリンジェントな条件の一例は、37℃で、20%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%デキストラン硫酸、及び20mg/mLの変性剪断サケ***DNAを含む溶液での終夜にわたるインキュベーションと、それに続く37−50℃で1×SSCでのフィルターの洗浄である。当業者であれば、プローブ長などの因子に適合させる必要に応じて、どのようにして温度、イオン強度等を調節するかが分かるであろう。
本発明の文脈において、任意の特定の遺伝子セットに列挙された遺伝子の「少なくとも1つ」、「少なくとも2つ」、「少なくとも5つ」等の標記は、列挙された遺伝子の何れか一つ又は任意のかつ全ての組合せを意味する。
「スプライシング」及び「RNAスプライシング」なる用語は交換可能に使用され、イントロンを除去し、エキソンを結合させて、真核生物細胞の細胞質中に移動する連続したコード化配列を有する成熟mRNAを生産するRNAプロセシングを意味する。
理論的には、「エキソン」なる用語は、成熟RNA産物に提示される介在遺伝子の任意のセグメントを意味する(B. Lewin. Genes IV Cell Press, Cambridge Mass. 1990)。理論的には、「イントロン」なる用語は、転写されているがその何れかの側のエキソンを共にスプライシングすることによって転写物内から除去されるDNAの任意のセグメントを意味する。作用的には、エキソン配列は参照配列番号によって定義される遺伝子のmRNA配列で生じる。作用的には、イントロン配列は、エキソン配列によって一括されその5’及び3’境界にGT及びAGスプライスコンセンサス配列を有する遺伝子のゲノムDNA内の介在配列である。
「干渉RNA」又は「低分子干渉RNA(siRNA)」は、標的遺伝子の発現を低減させる通常は約30ヌクレオチド長未満の二本鎖RNA分子である。干渉RNAは既知の方法を使用して同定し合成することができ(Shi Y., Trends in Genetics 19(1):9-12 (2003)、国際公開第2003056012号及び国際公開第2003064621号)、siRNAライブラリは例えば Dharmacon, Lafayette, Coloradoから商業的に入手できる。
「天然配列」ポリペプチドは、天然に生じる又は対立遺伝子変異体を含む天然由来のポリペプチドと同じアミノ酸配列を有するものである。かかる天然配列ポリペプチドは天然から単離することができ、又は組換え又は合成手段によって生産されうる。よって、天然配列ポリペプチドは、天然に生じるヒトポリペプチド、マウスポリペプチド、又は任意の他の哺乳動物種由来のポリペプチドのアミノ酸配列を有しうる。
ここでの「抗体」なる用語は最も広義に使用され、特にモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びそれらが所望の生物活性を示す限り抗体断片を包含する。本発明はここに開示されたIBDマーカーの一又は複数に対する抗体を特に考慮する。かかる抗体は「抗IBDマーカー抗体」と称されうる。
ここで使用される「モノクローナル抗体」なる用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指す、すなわち、その集団を構成する個々の抗体が、モノクローナル抗体の生産中に生じ得、一般には少量で存在しうる可能な変異体を除いて、同一であり、及び/又は同じエピトープに結合する。かかるモノクローナル抗体には典型的には標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体が含まれ、ここで、標的結合ポリペプチド配列は複数のポリペプチド配列から単一の標的結合ポリペプチド配列を選択することを含む方法によって得られた。
ここに記載のモノクローナル抗体は、特に、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種から由来するか、特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一か相同である一方、鎖の残りが、他の種から由来するか、他の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一か相同である「キメラ」抗体、並びにそれらが所望の生物活性を示す限りはその抗体の断片を含む(米国特許第4816567号;及びMorrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855 (1984))。ここで興味のあるキメラ抗体は、非ヒト霊長類(例えば旧世界ザル、類人猿等)由来の可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「プリマタイズ」抗体、並びに「ヒト化」抗体を含む。
非ヒト(例えば齧歯類)抗体の「ヒト化」型とは、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小配列を含むキメラ抗体である。大部分では、ヒト化抗体はレシピエントの高頻度可変領域由来の残基が、マウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類のような所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)の高頻度可変領域由来の残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。
ここでの「インタクトな抗体」は二つの抗原結合領域とFc領域を含むものである。好ましくは、インタクトな抗体は機能性Fc領域を有する。
「抗体断片」は、好ましくはその抗原結合領域を含む、インタクトな抗体の一部を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')2及びFv断片;ダイアボディ;直鎖状抗体;単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。
「天然抗体」は、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなる約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は一つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合しており、ジスルフィド結合の数は、異なった免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で変化する。また各重鎖と軽鎖は、規則的に離間した鎖間ジスルフィド架橋を有している。各重鎖は、多くの定常ドメインが続く可変ドメイン(VH)を一端に有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(VL)を、他端に定常ドメインを有する。軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖及び重鎖可変ドメイン間の界面を形成すると考えられている。
「可変」なる用語は、可変ドメインのある部位が、抗体の中で配列が広範囲に異なっており、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合性及び特異性に使用されているという事実を意味する。しかしながら、可変性は抗体の可変ドメインにわたって一様には分布していない。軽鎖及び重鎖の可変ドメインの両方の高頻度可変領域と呼ばれる3つのセグメントに濃縮される。可変ドメインのより高度に保持された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、βシート構造を結合し、ある場合にはその一部を形成するループ結合を形成する、3つの高頻度可変領域により連結されたβシート配置を主にとる4つのFRをそれぞれ含んでいる。各鎖の高頻度可変領域は、FR領域に近接して結合され、他の鎖の高頻度可変領域と共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabat等, Sequence of Proteins ofImmunological Interest, 5版 Public Health Service, National Institutes of Health, BEthesda, MD(1991)を参照)。
ここで使用される場合の「高頻度可変領域」、「HVR」又は「HV」なる用語は、配列において高頻度可変であり、及び/又は構造的に定まったループを形成する抗体可変ドメインの領域を意味する。一般に、抗体は6つのHVRを含む;つまり、VHに3つ(H1、H2、H3)、VLに3つ(L1、L2、L3)である。天然の抗体では、H3及びL3は6つのHVRの最大の多様性を示し、特にH3は抗体に微細な特異性を付与するのに独特の役割を果たすと考えられている。例えばXu等, Immunity 13:37-45 (2000);Johnson及びWu, Methods in Molecular Biology 248:1-25 (Lo編, Human Press, Totowa, NJ, 2003)を参照。確かに、重鎖のみからなる天然に生じるラクダ抗体は軽鎖の不存在下で機能的で安定である。例えば、Hamers-Casterman等, Nature 363:446-448 (1993)及びSheriff等, Nature Struct. Biol. 3:733-736 (1996)を参照。
多数の高頻度可変領域の描写が使用され、ここに包含される。カバット相補性決定領域(CDR)は配列変化に基づいており、最も一般的に使用されている(Kabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5版 Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))。Chothiaは、代わりに構造的ループの位置に言及している(Chothia及びLesk J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))。AbM高頻度可変領域は、カバット高頻度可変領域とChothia構造的ループの間の妥協を表し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアにより使用される。「接触」高頻度可変領域は、利用できる複合体結晶構造の分析に基づく。これらの高頻度可変領域のそれぞれからの残基を以下に示す。
高頻度可変領域は次の通り「伸展高頻度可変領域」を含みうる:VL中に24−36又は24−34(L1)、46−56又は50−56(L2)及び89−97又は89−96(L3)と、VH中の26−35(H1)、50−65又は49−65(H2)及び93−102、94−102、又は95−102(H3)。これらの定義の各々に対して上掲のKabat等に従って、可変ドメイン残基を番号付けした。
「カバットに記載の可変ドメイン残基番号付け」又は「カバットに記載のアミノ酸位置番号付け」なる表現、及びそれらの変異形は、上掲のカバット等における、抗体の収集の重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインに使用される番号付けシステムを意味する。この番号付けシステムを用いると、実際の線状アミノ酸配列は、可変ドメインのFR又はHVRの短縮又はFR又はHVRへの挿入に対応するより少ない又は更なるアミノ酸を含有しうる。例えば、重鎖可変ドメインは、H2の残基52の後に単一アミノ酸挿入(カバットによる残基52a)、及び重鎖FR残基82の後に挿入残基(例えばカバットによる残基82a、82b及び82c等)を含みうる。残基のカバット番号付けは、「標準の」カバット番号配列を有する抗体の配列の相同領域でのアラインメントにより、任意の抗体に対して決定され得る。
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗体結合断片を生成し、各々が単一の抗原結合部位と、名前が容易に結晶化するその能力を反映する残留「Fc」断片を有する。ペプシン処理は、2つの抗原結合部位を持ち、抗原になお架橋できるF(ab')2断片を生じる。
「Fv」は、完全な抗原認識及び抗原結合部位を含む最小抗体断片である。この領域は、強固な非共有結合の一つの重鎖と一つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。各可変ドメインの3つの高頻度可変領域が相互作用してVH-VL二量体の表面に抗原結合部位を形成するのはこの構造においてである。集団的には、6つの高頻度可変領域が抗体に抗原結合特異性を付与する。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つの高頻度可変領域だけを含んでなるFvの半分)でさえ、結合部位全体よりは低い親和性でではあるが、抗原を認識しそれに結合する能力を有している。
Fab断片は軽鎖の定常ドメインと重鎖の第一定常ドメイン(CH1)をまた含んでいる。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域からの一又は複数のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に2,3の残基が付加される点でFab断片とは異なる。Fab’-SHは、ここでは、定常ドメインのシステイン残基が少なくとも一つの遊離チオール基を担持しているFab’についての標記である。F(ab’)2抗体断片は、その間にヒンジシステインを有するFab’断片対として元々は生産された。抗体断片の他の化学的カップリングもまた知られている。
任意の脊椎動物種由来の抗体の「軽鎖」には、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる二つの明確に区別される型の一つに割り当てられることができる。
ここでの「Fc領域」なる用語は、天然配列Fc領域及び変異体Fc領域を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変化するかも知れないが、通常、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226の位置又はPro230からそのカルボキシル末端までの位置のアミノ酸残基から伸長すると定義される。Fc領域のC末端リジン(EU番号付けシステムによれば残基447)は、例えば抗体の産生又は精製中に、又は抗体の重鎖をコードする核酸を組換え的に操作することによって、取り除かれてもよい。従って、インタクトな抗体の組成物は、全てのK447残基が除去された抗体群、K447残基が除去されていない抗体群、及びK447残基を有する抗体と有さない抗体の混合を含む抗体群を含みうる。
別の定義が示されていないならば、ここでは、免疫グロブリン重鎖における残基の番号付けは、出典明示によりここに明示的に援用されるKabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5版 Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)におけるようなEUインデクスのものである。「カバットにおけるようなEUインデクス」はヒトIgG1 EU抗体の残基番号付けを意味する。
「天然配列Fc領域」は、天然に見出されるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。天然配列のヒトFc領域には、天然配列のヒトIgG1Fc領域(非A-及びA-アロタイプ);天然配列のヒトIgG2 Fc領域;天然配列のヒトIgG3 Fc領域;及び天然配列のヒトIgG4 Fc領域;並びにその自然に生じる変異体が含まれる。
「変異体Fc領域」は、少なくとも一のアミノ酸修飾、好ましくは一又は複数のアミノ酸置換により、天然配列のFc領域とは異なるアミノ酸配列を含む。好ましくは、変異体Fc領域は、天然配列のFc領域もしくは親ポリペプチドのFc領域と比較した場合、少なくとも一のアミノ酸置換、例えば、天然配列のFc領域又は親のポリペプチドのFC領域に約1から約10のアミノ酸置換、好ましくは約1から約5のアミノ酸置換を有する。ここでの変異体Fc領域は、天然配列のFc領域及び/又は親ポリペプチドのFc領域と好ましくは少なくとも約80%の相同性を有し、最も好ましくは少なくとも約90%の相同性を、より好ましくは少なくとも約95%の相同性を有するであろう。
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に依存して、インタクトな抗体は異なる「クラス」に分類できる。インタクトな抗体の五つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、それらの幾つかは更に「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3,IgG4、IgA及びIgA2に分類される。抗体の異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれα、δ、ε、γ及びμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び3次元構造はよく知られている。
「一本鎖Fv」又は「sFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。好ましくは、Fvポリペプチドは、scFvが抗原結合に望まれる構造を形成するのを可能にするポリペプチドリンカーをVH及びVLドメイン間に更に含む。scFvの概説については、Pluckthun, The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg及びMoore編, Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)を参照のこと。
「ダイアボディ」なる用語は、二つの抗原結合部位を持ち、その断片が同一のポリペプチド鎖(VH-VL)内で軽鎖可変ドメイン(VL)に結合した重鎖可変ドメイン(VH)を含む抗体断片を指す。非常に短いために同一鎖上で二つのドメイン間での対形成を可能にするリンカーを使用して、ドメインを他の鎖の相補ドメインと強制的に対形成させ、二つの抗原結合部位を創製する。ダイアボディは、例えば欧州特許出願公開第404097号;国際公開第93/11161号;及びHudson等, Nat. Med. 9:129-134 (2003);及びHollinger等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993)に更に十分に記載されている。
「ネイキッド抗体」は、小分子又は放射標識等の異種分子にコンジュゲートされていない抗体である。
「単離された」抗体は、その自然環境の成分から同定され分離され及び/又は回収されたものである。その自然環境の汚染成分とは、その抗体の研究、診断又は治療への使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれうる。好ましい実施態様では、抗体は、(1)ローリー法で測定して95重量%抗体を越えるまで、最も好ましくは99重量%を越えるまで、(2)スピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15残基のN末端又は内部アミノ酸配列を得るのに充分なほど、あるいは、(3)クーマシーブルー又は好ましくは銀染色を用いた還元又は非還元条件下でのSDS-PAGEにより均一になるまで、精製される。単離された抗体には、抗体の自然環境の少なくとも一つの成分が存在しないため、組換え細胞内のインサイツの抗体が含まれる。しかしながら、通常は、単離された抗体は少なくとも一つの精製工程により調製される。
「親和性成熟」抗体とは、その変更を有しない親抗体と比較し、抗原に対する抗体の親和性に改善を生じせしめる抗体の一又は複数の高頻度可変領域における一又は複数の変更を伴っている抗体である。好ましい親和性成熟抗体は、標的抗原に対してナノモル又はピコモルさえの親和性を有する。親和性成熟抗体は、当該分野において知られている手順を使用して生産される。Marks等 Bio/Technology, 10:779-783(1992)は、VH及びVLドメインシャッフリングによる親和性成熟について記載している。HVR及び/又はフレームワーク残基のランダム突然変異誘発は、Barbas等, Proc Nat Acad. Sci, USA 91: 3809-3813(1994);Schier 等, Gene, 169:147-155(1995);Yelton等, J. Immunol., 155:1994-2004(1995);Jackson等, J. Immunol., 154(7):3310-9(1995);及びHawkins等, J. Mol. Biol., 226:889-896(1992)に記載されている。
ここでの「アミノ酸配列変異体」抗体は、主な種抗体と異なるアミノ酸配列を有する抗体である。通常、アミノ酸配列変異体は、主な種抗体と少なくとも約70%の相同性を有し、好ましくは、それらは主な種抗体と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%の相同性である。アミノ酸配列変異体は、主な種抗体のアミノ酸配列内の、又は主な種抗体のアミノ酸配列に隣接した、所定の位置で置換、欠失及び/又は付加を有する。ここでのアミノ酸配列変異体の例には、酸性変異体(例えば脱アミド化された抗体変異体)、塩基性変異体、抗体の一又は二の軽鎖上にアミノ末端リーダー伸展(例えばVHS-)を有する抗体、抗体の一又は二の重鎖上にC末端リジン残基を有する抗体などが含まれ、重鎖及び/又は軽鎖のアミノ酸配列に対する変異体の組合せが含まれる。ここで特に興味のある抗体変異体は、抗体の一又は二の軽鎖上にアミノ末端リーダー伸展を含み、場合によっては主な種抗体に対して他のアミノ酸配列及び/又はグリコシル化の相違を更に含んでなる抗体である。
ここでの「グリコシル化変異体」抗体は、主な種抗体に結合した一又は複数の炭水化物部分と異なる一又は複数のそれに結合した炭水化物部分を有する抗体である。ここでのグリコシル化変異体の例には、そのFc領域に接着した、G0オリゴ糖構造の代わりにG1又はG2オリゴ糖構造を有する抗体、その一又は二の軽鎖に結合した一又は二の炭水化物部分を有する抗体、抗体の一又は二の重鎖に結合した炭水化物がない抗体等、及びグリコシル化変異の組合せを有する抗体が含まれる。
抗体がFc領域を有する場合、オリゴ糖構造は、例えば残基299(残基のEu番号付けでは298)で、抗体の一又は二の重鎖に結合していてもよい。パーツズマブでは、G0が主要なオリゴ糖構造で、例えばG0-F、G-1、Man5、Man6、G1-1、G1(1-6)、G1(1-3)及びG2のような他のオリゴ糖構造はパーツズマブ組成物中により少量で見出される。特に明記しない限り、ここでの「G1オリゴ糖構造」は、G-1、G1-1、G1(1-6)及びG1(1-3)構造を含む。
ここでの「アミノ末端リーダー伸展」は、抗体の何れか一又は複数の重鎖又は軽鎖のアミノ末端に存在するアミノ末端リーダー配列の一又は複数のアミノ酸残基を指す。例示的なアミノ末端リーダー伸展は、抗体変異体の一方又は両方の軽鎖に存在する3つのアミノ酸残基、VHSを含むか又はこれらからなる。
「脱アミド化」抗体は、その一又は複数のアスパラギン残基が、例えばアスパラギン酸、スクシンイミド又はイソ-アスパラギン酸に誘導体化されているものである。
B.1 本発明の一般的説明
本発明の実施には、別段の記載がない限り、当業者の技量の範囲内にある分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、及び生化学の一般的な技術を使用する。かかる技術は、例えば“Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, 2版 (Sambrook等, 1989);“Oligonucleotide Synthesis” (M. J. Gait編, 1984);“Animal Cell Culture” (R. I. Freshney編, 1987);“Methods in Enzymology” (Academic Press, Inc.);“Handbook of Experimental Immunology”, 4版(D.M. Weir及びC.C. Blackwell編, Blackwell Science Inc., 1987);“Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells”(J.M. Miller及びM.P. Calos編, 1987);“Current Protocols in Molecular Biology”(F. M. Ausubel等編, 1987);及び“PCR: The Polymerase Chain Reaction”, (Mullis等編, 1994)のような文献に十分に説明されている。
上で検討されたように、IBDの検出又は診断は、患者に観察される多くの変量に依存する様々な分類システムによって現在は達成されている。本発明は、IBDに関連する遺伝子の同定に基づく。従って、かかる遺伝子の発現レベルは、IBDの患者を同定するための診断マーカーとなりうる。実施例に記載されているように、IBD患者における多くの遺伝子の発現差異が観察されている。よって、本発明によれば、表1に列挙された遺伝子はIBDで異なって発現されるものとして同定されている。
a.本発明のバイオマーカー
本発明は表1に列挙されたIBDに対する数多くの遺伝子発現マーカー又はバイオマーカーを提供する。本発明の一実施態様では、バイオマーカーは(ここに記載の)マーカーパネルでの使用に適している。かかるパネルは、表1からの一又は複数のマーカーからの一又は複数のマーカーを含みうる。当業者であれば、ここに記載のパネルで使用するのに適した表1からのバイオマーカーの様々な組合せが分かるであろう。
表1の遺伝子は、正常及び病気の被験体における任意の遺伝子の発現間に、又は病気の被験体における病気の進行の様々な段階において、少なくとも約1倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約3倍、少なくとも約3.5倍、少なくとも約4倍、少なくとも約4.5倍、少なくとも約5倍、少なくとも約5.5倍、少なくとも約6倍、少なくとも約7倍、少なくとも約8倍、少なくとも約9倍、又は少なくとも約10倍の違いがある時に異なって発現されると考えられる。
本発明の一実施態様では、マイクロアレイ分析によって同定されるIBDマーカーの好ましい一組は、IBDにおいて上方制御されるマーカーを含む。好ましくは、上方制御されるマーカーの該一組は、ATG12、ATG16L2及びLC3B(オートファジー経路の調節因子)を含む。
下方制御されるマーカーの好ましい一組は、免疫関連遺伝子IRTA1-新規の表面B細胞受容体、CCL23、CXCL13、及びATG16L1、ATG4D;及びATG3を含むオートファジー経路の調整因子を含む。IRTA1は、FCRH4;IGFP2;IRTA1;MGC150522; MGC150523;dJ801G22.1;FCRL4としても知られる。CCL23は、CKb8;MIP3;Ckb-8;MIP-3;MPIF-1;SCYA23;Ckb-8-1;CK-BETA-8;CCL23としても知られる。CXCL13は、BLC;BCA1;ANGIE;BCA-1;BLR1L;ANGIE2;SCYB13;CXCL13としても知られる。ATG16L1は、IBD10;WDR30;APG16L;ATG16L;FLJ00045;FLJ10035;FLJ10828;FLJ22677;ATG16L1としても知られる。ATG4Dは、APG4D;AUTL4;APG4-D;ATG4Dとしても知られる。ATG3は、APG3;APG3L;PC3-96;FLJ22125;MGC15201;APG3-LIKE;DKFZp564M1178;ATG3としても知られる。ATG12は、APG12;FBR93;APG12L;HAPG12;ATG12としても知られる。ATG16L2は、WDR80;FLJ00012;ATG16L2としても知られる。LC3Bは、LC3B;MAP1A/1BLC3;MAP1LC3Bとしても知られる。ここで記載されるバイオマーカーのパネルは、これらのマーカーの一つ、一以上、又は全てを含み得る。パネルはCCL23を含み得る。または、パネルはオートファジー経路の調整因子に該当する少なくとも一つのマーカーを含み得る。パネルは、一又は複数のIRTA1、CCL23及びCXCL13を更に含み得る。
バイオマーカーのパネルは、表1のマーカーの一又は複数又は全てに加えて図24、25、26又は27から少なくとも一つのマーカーを含みうる。パネルは、全て図24、25、26又は27から少なくとも一つのマーカーを含みうる。
上に提供された一覧表のメンバーは、単一のマーカーとして又は任意の組合せで、本発明の予後及び診断アッセイに使用するのに好ましい。本発明のIBDマーカーは異なるように発現された遺伝子又は遺伝子の領域である。哺乳動物被験体からの試験試料中のコントロールに対する一又は複数のマーカーの発現のレベル差は、以下に更に詳細に記載する方法の一又は複数によって検出されるRNA転写物又は発現産物のレベルから決定することができる。
正常細胞及びIBDの哺乳動物被験体からの細胞におけるRNA転写物の発現差異のエビデンスに基づいて、本発明はIBDのための遺伝子マーカーを提供する。本発明によってもたらされるIBDマーカーと関連した情報によって、医師はより賢明な処置の決定をなし、個々の患者の必要性に対してIBDの治療をあつらえ、それによって治療の恩恵を最大にし、有意な恩恵を提供せず毒性の副作用による深刻な危険性をしばしばもたらす不要な治療に患者を暴露することを最小にする。
多重分析物遺伝子発現試験は、幾つかの関連する生理プロセス又は成分細胞性特性の各々に関与する一又は複数の遺伝子の発現レベルを測定することができる。ある例では、試験の予測力と従ってその有用性は、個々の遺伝子の発現値よりも結果に高度に相関するスコアを計算するために個々の遺伝子に対して得られた発現値を使用することによって改善できる。例えば、エストロゲン受容体陽性でリンパ節陰性の乳癌の再発の可能性を予測する定量スコア(再発スコア)の計算は米国特許出願公開第20050048542号に記載されている。そのような再発スコアを計算するために使用される等式は再発スコアの予測値を最大にするために遺伝子をグループ化する場合がある。遺伝子のグループ化は、上で検討されたような生理機能又は成分細胞性特性へのその寄与の知識に少なくとも部分的に基づいて実施されうる。グループの形成はまた様々な発現値の再発スコアに対する寄与の数学的重み付けを容易にしうる。生理学的プロセス又は成分細胞性特性を表す遺伝子群の重み付けは、IBDの病理及び臨床的結果に対するそのプロセス又は特性の寄与を反映しうる。従って、重要な態様では、本発明はまた併せて個々の遺伝子又は同定された遺伝子のランダムな組合せよりも更に信頼性があり強力な結果の予測指標であるここで同定される遺伝子の特定の群を提供する。
また、再発スコアの決定に基づいて、再発スコアの特定の値で患者をサブグループに分割するよう選択することができ、ここで、与えられた範囲に値を有する全ての患者を特定のリスクグループに属するものとして分類できる。よって、選択される値がそれぞれより大なる又は小なるリスクを持つ患者のサブグループを定めるであろう。
IBDの発症又は進行の予測における遺伝子マーカーの有用性はそのマーカーに独特なものでなくともよい。特定の試験マーカーと非常に類似した発現パターンを有する代替マーカーを試験マーカーに置換するか又は試験マーカーに加えて使用することができ、試験の全体的な予測上の有用性に影響は殆どない。二つの遺伝子の非常に類似した発現パターンは、特定のプロセスにあり、及び/又は共通の調節コントロール下にある双方の遺伝子の関連から生じうる。本発明は、本発明の方法でのそのような代替遺伝子又は遺伝子セットの使用を含み、また考える。
IBDの発症及び/又は進行を予測する本発明によって提供されるマーカー及び関連情報はまたIBDの患者の治療のための薬剤化合物の効能を試験する臨床治験に含める患者をスクリーニングする際に有用性を有している。
IBDの存在、発症及び/又は進行を予測する本発明によって提供されるマーカー及び関連情報は、IBD治療が適切かどうかを決定するための基準として有用である。例えば、試験の結果が、IBDマーカーがコントロール試料に対して個体からの試験試料で異なって発現されることを示している場合、IBD治療が適切でありうる。個体は、IBDであることが知られていない個体、IBDであることが知られている個体、IBDであると過去に診断されIBDの治療を受けている個体、又はIBDであると過去に診断されIBDに立ち向かうために手術をした個体でありうる。また、本発明はIBDを治療する方法を考える。以下に記載のように、本発明の診断方法は、一又は複数のIBDマーカーの発現差異がコントロールに対して観察された試験試料を提供した哺乳動物被験体にIBD治療剤を投与する工程を更に含みうる。かかる治療方法はよって(a)哺乳動物被験体におけるIBDの存在を決定し、(b)哺乳動物被験体にIBD治療剤を投与することを含む。
他の実施態様では、IBDマーカー及び関連する情報は、遺伝子の転写物又はその発現産物のレベル又は活性を調節する試薬を設計し又は製造するために使用される。上記試薬には、限定しないが、アンチセンスRNA、低分子阻害性RNA(siRNA)、リボザイム、モノクローナル又はポリクローナル抗体が含まれうる。更なる実施態様では、上記遺伝子又はその転写物、又はより特定的には上記転写物の発現産物は薬剤化合物を同定する(スクリーニング)アッセイにおいて使用され、ここで、上記薬剤化合物はIBDを治療するための薬剤の開発において使用される。
本発明の様々な実施態様では、以下に記載される様々な技術的アプローチ法が、開示された遺伝子の発現レベルの決定に利用できる。特定の実施態様では、各遺伝子の発現レベルは、エキソン、イントロン、タンパク質エピトープ及びタンパク質活性を含む遺伝子の発現産物の様々な特徴に関して決定されうる。他の実施態様では、遺伝子の発現レベルは、遺伝子の構造の解析から、例えば遺伝子のプロモーターのメチル化パターンの解析から推量されうる。
b.発明の診断方法
本発明はIBDマーカーの発現差異に基づき哺乳動物被験体におけるIBDを検出又は診断する方法を提供する。一実施態様では、該方法は上で検討されたIBDマーカーのパネルの使用を含む。パネルは表1から選択される一又は複数のIBDマーカーを含みうる。他の一実施態様では、パネルは、ATG16L1及び表1から選択された更なる1つのIBDマーカーを含む。
ある実施態様では、IBDマーカーのパネルは、少なくとも1のIBDマーカー、少なくとも2のIBDマーカー、少なくとも3のIBDマーカー、少なくとも4のIBDマーカー、少なくとも5のIBDマーカー、少なくとも6のIBDマーカー、少なくとも7のIBDマーカー、少なくとも8のIBDマーカー、少なくとも9のIBDマーカーを含む。一実施態様では、パネルは5の増分でマーカーを含む。別の実施態様では、パネルは10の増分でマーカーを含む。該パネルは、コントロールに対してIBDにおいて過剰発現されるIBDマーカー、コントロールに対してIBDにおいて過少発現されるIBDマーカー、又はコントロールに対してIBDにおいて過剰発現及び過少発現の双方が生じるIBDマーカーを含みうる。好ましい実施態様では、該パネルは、CDにおいて上方制御された一又は複数のマーカーと、CDにおいて下方制御された一又は複数のマーカーを含む。
他の実施態様では、本発明のパネルは、コントロールに対して活動的IBDにおいて過剰発現されるIBDマーカー、コントロールに対して活動的IBDにおいて過少発現されるIBDマーカー、又はコントロールに対して活動的IBDにおいて過剰発現及び過少発現の双方が生じるIBDマーカーを含みうる。他の実施態様では、本発明のパネルは、コントロールに対して非活動的IBDにおいて過剰発現されるIBDマーカー、コントロールに対して非活動的IBDにおいて過少発現されるIBDマーカー、又はコントロールに対して非活動的IBDにおいて過剰発現及び過少発現の双方が生じるIBDマーカーを含みうる。好ましい実施態様では、活動的IBDはCDである。他の好ましい実施態様では、非活動的IBDはCDである。
好ましい実施態様では、哺乳動物被験体においてIBDの存在を診断又は検出する方法は、被験体から得られた試験試料中のIBDマーカーのパネルからのRNA転写物又はその発現産物の、コントロールにおける発現レベルに対する発現レベル差を決定することを含み、ここで、発現レベルの差が、試験試料が得られた被験体におけるIBDの存在を示している。試験試料中の発現差異は、ここで検討されたようにコントロールに対して高い及び/又は低いものでありうる。
コントロールに対して、患者から得られた生物学的試料中における、上記リストに提供された遺伝子、又は対応するRNA分子又はコード化タンパク質の一又は複数の発現又は活性の差が患者におけるIBDの存在を示している。コントロールは、例えば、IBD患者において上方制御(又は下方制御)されることが知られている同じ細胞中に存在する遺伝子(ポジティブコントロール)でありうる。あるいは、又は加えて、コントロールは、同じ細胞型の正常細胞中の同じ遺伝子(ネガティブコントロール)の発現レベルでありうる。発現レベルは、例えばグリセルアルデヒド-3-ホスフェート-デヒドロゲナーゼ(GAPDH)及び/又はβ-アクチンのようなハウスキーピング遺伝子の発現レベルに、あるいは試験された試料中の全ての遺伝子の発現レベルに正規化することがまたできる。一実施態様では、上述の遺伝子の一又は複数の発現は、それが例えば同じ型の他の試料と比較して中央値以上ならばポジティブな発現と見なされる。中央値発現レベルは遺伝子発現の測定と本質的に同時に決定することができるか、又は予め決定されうる。これら及び他の方法は当該分野でよく知られており、当業者には明らかである。
IBD患者を同定するための方法がここに提供される。この患者集団のうち、IBDの患者は、患者から得られた細胞を含む生物学的試料中における遺伝子、対応するRNA分子又はコード化タンパク質の一又は複数の発現レベルを決定することによって同定することができる。生物学的試料は、例えばここに記載された組織生検でありうる。
本発明の方法は、IBD診断アッセイ及びイメージング方法に関する。一実施態様では、アッセイは、ここに記載された抗体を使用して実施される。本発明はまたタンパク質の検出及び定量のために有用な様々な免疫学的アッセイを提供する。これらのアッセイは、限定しないが、様々なタイプのラジオイムノアッセイ、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、酵素結合免疫蛍光アッセイ(ELIFA)等を含む当該分野でよく知られた様々な免疫学的アッセイ様式で実施される。また、限定しないが、標識された抗体を使用する放射シンチグラフィーイメージング法を含むここに記載された分子の発現によって特徴付けられるIBDを検出可能な免疫学的なイメージング法がまた本発明によって提供される。かかるアッセイは、ここに記載された一又は複数の分子の発現によって特徴付けられるIBDの検出、モニター、診断及び予後に臨床的に有用である。
本発明の他の態様は、ここに記載された分子を発現する細胞を同定するための方法に関する。ここに記載の分子の発現プロファイルは、それをIBDに対する診断マーカーにする。従って、分子の発現の状態は、疾患の進行段階の罹患率、進行速度、及び/又は活動的IBD又は非活動的IBDにおける徴候の突然且つ深刻な発症、つまり突然の再発を含む様々な因子を予測するのに有用な情報を提供する。
一実施態様では、本発明はIBDを検出する方法を提供する。哺乳動物被験体からの試験試料と既知の正常な哺乳動物からのコントロール試料がそれぞれ抗IBDマーカー抗体又はその断片に接触させられる。IBDマーカーの発現レベルが測定され、コントロール試料に対する試験試料中の発現レベルの差が、試験試料が得られた哺乳動物被験体におけるIBDを示すものである。ある実施態様では、試験試料中におけるIBDマーカー発現のレベルは、コントロールにおける発現のレベルよりも高いことが決定され、高い発現レベルが、試験試料が得られた被験体におけるIBDの存在を示す。他の実施態様では、試験試料中におけるIBDマーカー発現のレベルは、コントロールにおける発現のレベルよりも低いことが決定され、低い発現レベルが、試験試料が得られた被験体におけるIBDの存在を示す。
他の実施態様では、本発明の方法によって検出されるIBDは、哺乳動物被験体におけるIBDの再発又は突然の再発である。
好ましい実施態様では、該方法は、薬剤療法又は外科手術ようなIBDの治療を受けたIBDと過去に決定された哺乳動物被験体においてIBDの突然の再発又はIBDの再発を検出するために用いられる。IBDの最初の検出後に、更なる試験試料を、IBDとなっていることが見出された哺乳動物被験体から得てもよい。更なる試料は、最初の試料が取られた後、数時間後、数日後、数週間後、又は数ヶ月後に得ることができる。当業者であれば、第二、第三、第四、第五、第六等の試験試料を含みうるかかる更なる試料を得るために適切なスケジュールは分かるであろう。最初の試験試料と更なる試料(及び代わりにここに記載されたコントロール試料)が抗IBDマーカー抗体と接触させられる。IBDマーカーの発現レベルを測定し、最初の試験試料と比較した更なる試験試料中の発現レベルの差が、試験試料が得られた哺乳動物被験体におけるIBDの突然の再発又は再発を示すものである。
一態様では、本発明の方法は決定工程に関する。一実施態様では、決定工程は、コントロールに対しての試験試料中の一又は複数のIBDマーカーの発現レベルを測定することを含む。典型的には、ここに記載されたように、IBDマーカーの発現レベルの測定は、ここに記載された技術の一又は複数を実施することにより、コントロールに対してIBDマーカーの発現差異について試験試料を分析することを含む。試験試料とコントロールから得られた発現レベルデータを、発現レベル差について比較する。他の実施態様では、決定工程は、試験試料が得られた被験体にIBDが存在しているかどうかを評価するための試験試料及びコントロール発現データの検査を更に含む。
本発明の方法は、IBDマーカーを検出するための有益な手段である。バイオマーカー発現又はタンパク質レベルの測定は、適切なプロセッサにより実行されるソフトウエアプログラムを用いて実行され得る。適切なソフトウェア及びプロセッサは、公知技術であり市販されている。プログラムは、プロセッサに関連付けられたCD-ROM、フロッピーディスク、ハードディスク、DVD又はメモリのような有形媒体に格納されるソフトウェアにおいて具体化され得るが、当業者は、全プログラム又はそれらの一部があるいは、プロセッサ以外の装置によって実行、及び/又はファームウェア及び/又は専用ハードウエアにおいて周知の方法で具体化されることを容易に理解するだろう。
一又は複数のIBDマーカーの測定の後、アッセイの結果、所見、診断、予測及び/又は治療推奨が、典型的には記録され、例えば技術者、医師及び/又は患者に伝えられる。ある実施態様では、例えば患者及び/又は主治医等の関係者にかかる情報を伝えるために、コンピュータが使用される。幾つかの実施態様では、結果又は診断が伝えられる国又は管轄区域とは異なる国又は管轄区域で、アッセイが実施され又はアッセイ結果が解析される。
診断を容易にするために、一又は複数のIBDマーカーのレベルは表示装置に表示されることが出来、電気的に、又は限定するものではないが中でもVCR、CD-ROM、DVD-ROM、USBフラッシュメディアによって読取り可能なもの等のアナログテープ等の機械が読取り可能な媒体に収められる。このような機械読取り可能媒体はまた、例えば制限するものではないが、臨床パラメータ及び一般的な実験リスクファクタ等の更なる試験結果を含むことが出来る。あるいは又は加えて、機械読取り可能媒体は、病歴及び何れかの関連家族歴等の被験体情報を含んでもよい。
本発明の方法は、商業的な診断目的のために実践される時は一般的に、ここに記載される一又は複数のバイオマーカーの正規化レベルのレポート又はまとめを作成する。本発明の方法は、患者及びIBDに関する一又は複数の予測を含んで成るレポートを作成する。
本発明の方法及び報告は、レポートをデータベースに格納することを更に含むことができる。あるいは、方法は更に、被験体についてデータベースに記録を作り、データを追加することが出来る。一実施態様では、レポートは紙のレポートであり、別の実施態様では、レポートは聴覚性レポートであり、別の実施態様では、レポートは電子記録である。レポートが医師及び/又は患者に提供されることが考えられる。レポートの受領は、データ及び報告を含むサーバコンピュータへのネットワーク接続の樹立、及びサーバコンピュータからデータ及びレポートを要求することを更に含むことができる。本発明によって提供される方法は、また、全てにおいて又は部分的に自動化され得る。
幾つかの実施態様では、決定工程は、(i)試験試料及びコントロールにおけるIBDマーカー発現の異なるレベルを測定する;及び/又は(ii)試験試料及びコントロールにおけるIBDマーカー発現の異なるレベルの測定から得られたデータを分析する目的のために適切なプロセッサによって実行されるソフトウエアプログラムの使用を含む。適切なソフトウェア及びプロセッサは、公知技術であり市販されている。プログラムは、プロセッサに関連付けられたCD-ROM、フロッピーディスク、ハードディスク、DVD又はメモリのような有形媒体に格納されるソフトウェアにおいて具体化され得るが、当業者は、全プログラム又はそれらの一部があるいは、プロセッサ以外の装置によって実行、及び/又はファームウェア及び/又は専用ハードウエアにおいて周知の方法で具体化されることを容易に理解するだろう。
決定工程後、測定結果、所見、診断、予想及び/又は推奨治療が典型的には記録され、例えば技師、医師及び/又は患者に伝えられる。ある実施態様では、コンピュータを使用して、患者及び/又は担当医師のような関係者にそのような情報を伝える。ある実施態様では、結果又は診断が伝えられる国又は管轄区域とは異なる国又は管轄区域で、アッセイが実施され又はアッセイ結果が解析される。
好ましい実施態様では、ここでのIBDマーカーの一又は複数を有する被験体において測定されたここに開示された一又は複数のIBDマーカーの発現レベルに基づく診断、予測及び/又は推奨治療は、アッセイが完了し、診断及び/又は予測が作成された後に出来るだけ早く被験体に伝えられうる。結果及び/又は関連情報は、被験体を治療する医師によって被験体に伝えられうる。あるいは、結果は、書面、伝達の電子形態、例えば電子メール、又は電話を含む任意の伝達手段によって被験体に直接伝えることができる。伝達は、電子メール通信の場合におけるように、コンピュータの使用により容易にすることができる。ある実施態様では、診断試験の結果及び/又は導かれた結論及び/又は試験に基づく治療の推奨を含む伝達が作成され、テレコミュニケーションの熟練した技術者にはよく知られているコンピュータハードウェア及びソフトウェアの組合せを使用して被験体に自動的に配信されうる。ヘルスケア向けのコミュニケーションシステムの一例は米国特許第6283761号に記載されている;しかしながら、本発明はこの特定のコミュニケーションシステムを利用する方法に限られるものではない。本発明の方法のある実施態様では、試料のアッセイ、疾患の診断、及びアッセイ結果又は診断の伝達を含む方法工程の全て又は一部が異なった(例えば外国の)管轄区域で実施されうる。
本発明は、限定しないが、上行結腸組織、下行結腸組織、S状結腸組織、及び回腸末端組織を含む胃腸管に関連した組織におけるIBDマーカーの発現差異と血清、***、骨、前立腺、尿、細胞調製物等のような他の生物学的試料における発現も検出するためのアッセイを提供する。IBDマーカーの発現差異を検出するための方法はまたよく知られており、例えば免疫沈降、免疫組織化学分析、ウェスタンブロット分析、分子結合アッセイ、ELISA、ELIFA等を含む。例えば、生物学的試料中のIBDマーカーの発現差異を検出する方法は、最初に試料を抗IBDマーカー抗体、そのIBDマーカー反応性断片、又は抗IBDマーカー抗体の抗原結合領域を含む組換えタンパク質に接触させ;ついで試料中のIBDマーカータンパク質の結合を検出することを含む。
本発明の様々な実施態様では、限定しないが、RT-PCR、マイクロアレイ、遺伝子発現の連続解析(SAGE)及びMassively Parallel Signature Sequencing(MPSS)による遺伝子発現解析(以下に詳細に検討する)を含む様々な技術的アプローチ法が、開示された遺伝子の発現レベルの決定に利用できる。特定の実施態様では、各遺伝子の発現レベルは、エキソン、イントロン、タンパク質エピトープ及びタンパク質活性を含む遺伝子の発現産物の様々な特徴に関連して決定れうる。他の実施態様では、遺伝子の発現レベルは、遺伝子の構造解析から、例えば遺伝子プロモータのメチル化パターンの解析から推定されうる。
一実施態様では、本発明は、被験体から得られた試験試料において、表1のポリペプチドをコードする核酸の発現のレベルが、コントロールにおける発現のレベルに対して異なることを決定することによって哺乳類動物被験体におけるIBDの存在を診断する方法を提供し、異なる発現のレベルは、試験試料が得られた被験体におけるIBDの存在を示す。
ここに記載される方法において、決定工程は、哺乳類動物被験体から試験試料を得る工程によって先行されうる。決定工程は、また、哺乳類動物被験体からの試験試料を、異なる発現のレベルの検出のための薬剤と接触させる工程によって先行されうる。
別の実施態様では、本発明は、被験体から得られた試験試料において、表1のポリペプチドをコードする核酸の発現のレベルが、コントロールにおける発現のレベルに対して異なることを決定することによって、哺乳類動物被験体のIBD関連炎症の度合いを診断する方法を提供し、異なる発現のレベルは試験試料が得られた被験体におけるIBD関連炎症の度合いを示す。別の実施態様では、決定工程は、哺乳類動物被験体から試験試料を得る工程によって先行されうる。一他の実施態様では、決定工程は、また、哺乳類動物被験体からの試験試料を、異なる発現のレベルの検出のための薬剤と接触させる工程によって先行されうる。
c.本発明の治療方法
本発明は、ここに記載の診断方法によって哺乳動物被験体におけるIBDの存在を検出し、ついで該哺乳動物被験体にIBD治療剤を投与することを含む治療を必要とする被験体においてIBDを治療する方法を提供する。当業者であれば、本発明での使用に適しているであろう様々なIBD治療剤を把握できる(その全体を出典明示によりここに援用するSt Clair Jones, Hospital Pharmacist, May 2006, Vol. 13; pages 161-166を参照)。本発明は治療を必要とする被験体に一又は複数のIBD治療剤が投与されるIBDの治療方法を考慮する。一実施態様では、IBD治療剤は、アミノサリチル酸、副腎皮質ステロイド、及び免疫抑制剤の一又は複数である。好ましい実施態様では、アミノサリチル酸は、スルファサラジン、オルサラジン、メサラミン、バルサラジド、及びアサコールの一つである。他の好ましい実施態様では、例えばスルファサラジンとオルサラジンの組合せのような複数のアミノサリチル酸類が同時投与される。他の好ましい実施態様では、副腎皮質ステロイドは、ブデソニド、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、6-メルカプトプリン(6-MP)、アザチオプリン、メトトレキセート、及びシクロスポリンでありうる。他の好ましい実施態様では、IBD治療剤は抗生物質、例えばシプロフロキサシン及び/又はメトロニダゾール;又は抗体ベースの薬剤、例えばインフリキシマブ (レミケード(登録商標))でありうる。
患者が典型的に治療される毒性が最小のIBD治療剤はアミノサリチル酸類である。典型的には一日4回投与されるスルファサラジン(アザルフィジン)は、スルファピリジンにアゾ結合によって結合されるアミノサリチル酸(5-ASA)の活性分子からなる。結腸中の嫌気性菌がアゾ結合を***させて活性な5-ASAを放出する。しかしながら、少なくとも20%の患者は、可逆性***異常、胃腸障害又はスルファ成分に対するアレルギー反応のような顕著な副作用が伴うため、スルファピリジンに耐えることができない。これらの副作用はオルサラジンを摂る患者では低減される。しかしながら、スルファサラジンもオルサラジンも何れも小腸炎症の治療に効果的ではない。小腸に放出される5-ASAの他の製剤(例えばメサラミン及びアサコール)が開発されている。通常は、5-ASA治療法が十分な効能を示すのに6−8週かかる。5-ASA治療法に応答しない患者又はより重篤な疾患を持つ患者には、副腎皮質ステロイド類が処方される。しかしながら、これは、短期の治療法であり、維持療法として使用することはできない。臨床的寛解が副腎皮質ステロイドを用いて2−4週内で達成されるが、副作用が顕著であり、クッシングゴールドフェース(Cushing goldface)、顔ひげ、深刻な気分変動及び不眠を含む。スルファサラジン及び5-アミノサリチル酸調製物への応答はCDでは乏しく、初期の潰瘍性大腸炎ではまずまずから中程度で、重篤なUCでは乏しい。これらの薬剤が失敗した場合、強力な免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、プレドニゾン、6-メルカプトプリン又はアザチオプリン(肝臓において6-メルカプトプリンに転換)が典型的には試される。CDの患者に対しては、副腎皮質ステロイド類及び他の免疫抑制剤の使用は、この疾患にありふれた瘻孔及び膿瘍に由来する腹部内敗血症の高いリスクのため、注意深くモニターされなければならない。およそ25%のIBD患者が疾患の過程で手術(結腸切除術)を必要とする。
IBDの治療は、限定しないが、腸切除術、吻合術、結腸切除術、直腸結腸切除術、及び造瘻術、又はその任意の組合せを含む外科手技を含みうる。
薬学的医薬及び手術に加えて、栄養療法のようなIBDに対する非常套的な治療法もまた試みられている。例えば、Flexical(登録商標)という半成分的処方物が、ステロイドのプレドニゾロンと同じ効果を有することが示されている。Sanderson等、Arch. Dis. Child. 51:123-7 (1987)。しかしながら、半成分的処方物は比較的高価であり、通常は好まれず、その使用は制限されている。タンパク質全体を導入する栄養療法はまたIBDの症状を軽減するために試みられてきた。Giafer等、Lancet 335:816-9 (1990)。米国特許第5461033号には、牛乳から単離された酸性カゼイン及びTGF-2の使用が開示されている。Beattie等, Aliment. Pharmacol. Ther. 8:1-6 (1994)には、IBDの子供の幼児期の処方にカゼインを使用する方法が開示されている。米国特許第5952295号には、IBDの治療用の腸溶性製剤にカゼインを使用する方法が開示されている。しかしながら、栄養療法は、非毒性ではあるが対症療法に過ぎず、疾病の根源にある原因を治療することはできない。
本発明は、例えばインビトロ、エキソビボ及びインビボ治療法を含むIBD治療方法を考慮している。本発明は、増加した及び/又は減少したIBDマーカーの発現のようなここに開示された一又は複数のIBDマーカーの発現を伴う被験体においてIBD疾患状態を検出した際に、治療を必要とする被験体におけるIBDを治療するための有用な方法を提供する。好ましい一実施態様では、該方法は、(a)該被験体から得られた試験試料において、(i)表1から選択された一又は複数のポリペプチドをコードする一又は複数の核酸;又は(ii)表1に列挙された一又は複数の遺伝子のRNA転写物又はその発現産物の、発現レベルが、コントロールにおける発現レベルに対して高い、及び/又は低いことを決定し、上記発現の高い及び/又は低いレベルが、試験試料が得られた被験体におけるIBDの存在を示しており;(b)上記被験体に有効量のIBD治療剤を投与することを含む。決定工程(a)は多重IBDマーカーの発現の測定を含みうる。
該治療方法はIBDを検出し、かかる治療を必要とする被験体に有効量のIBD治療剤を投与することを含む。ある実施態様では、IBD疾患状態には、一又は複数のIBDマーカーの発現の増加及び/又は減少が伴う。
一態様では、本発明は、IBDを治療又は予防するための方法を提供し、該方法は、被験体におけるIBDの存在を検出し、被験体に有効量のIBD治療剤を投与することを含む。ここで検討されるようにアミノサリチル酸類、副腎皮質ステロイド類、及び免疫抑制剤を含む任意の適切なIBD治療剤を治療方法において使用することができる。
ここでの方法の何れにおいても、ここで検討された単一のIBD治療剤と共に、被験体又は患者に、治療を必要とする被験体の症状を治療することができる他の活性剤である有効量の第二の医薬(ここでの単一のIBD治療剤が第一の医薬である)を投与することができる。例えば、アミノサリチル酸は、副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、又は他のアミノサリチル酸と同時投与されうる。かかる第二医薬のタイプは、IBDのタイプ、その重篤度、患者の状態及び年齢、用いた第一医薬のタイプと用量等を含む様々な因子に依存する。
第一医薬と第二医薬を使用するかかる治療は、併用投与(二以上の薬剤が同じ又は別個の製剤に含まれる)、及び第一医薬の投与が第二医薬の投与の前、及び/又は次に生じうる別個の投与を含む。一般に、かかる第二医薬は、第一医薬が投与された後、48時間以内に、又は24時間以内に、又は12時間以内に、又は第一医薬後3−12時間以内に投与され得、あるいは、好ましくは約1から2日、約2から3日、約3から4日、約4から5日、約5から6日、又は6から7日である予め選択された時間にわたって投与されうる。
第一及び第二医薬は、同時に、連続的に、又は第一及び第二医薬を交互に、又は他の治療法で応答性がない場合に投与することができる。よって、第二医薬の併用投与は、別個の製剤又は単一の薬学的製剤を使用する同時投与(同時的投与)と、好ましくは双方の(又は全ての)医薬が同時にその生物学的活性を作用させる間には時間間隔がある何れかの順の連続投与を含む。これらの第二医薬は全て第一医薬と互いに又はそれら自体と併用されて使用され得、よって、ここで使用される「第二医薬」という表現はそれが第一医薬とは別の唯一の医薬であることは意味していない。従って、第二医薬は一つの医薬である必要はなく、一を越えるかかる医薬を構成し又は含みうる。ここで記載するこれら第二医薬は、一般に第一医薬と同じ投薬量及び投与経路で、又は第一医薬の投薬量のおよそ1から99%で使用される。かかる第二医薬が仮に使用される場合、好ましくは、それらは、それらによって引き起こされる副作用を除去し又は減少させるため、第一医薬が存在していない場合よりも低い量で、特に第一医薬での初期投薬量を越えた続く投薬量で使用される。
本発明の方法がIBDを治療又は予防するために一又は複数のIBD治療剤を投与することを含む場合、IBDを治療又は予防するためにまた実施される外科手技と投与工程を結合することが特に望ましい場合がある。本発明によって考えられるIBD外科手技は、限定しないが、腸切除術, 吻合術、結腸切除術、直腸結腸切除術、及び造瘻術、又はその任意の組合せを含む。例えば、ここに記載されたIBD治療剤は、例えばIBDの治療における治療スキームにおいて結腸切除術と組み合わせることができる。かかる併用療法は、IBD治療剤の投与が外科手技の前、及び/又は後に生じうる別個の投与を含む。
一又は複数のIBD治療剤の組合せ、又は一又は複数の治療剤とここに記載の外科手技の組合せでの治療は、好ましくはIBDの徴候又は症状の改善を生じる。例えば、かかる治療法は、IBDの病理の重篤性の減少によって裏付けられるように、IBD治療剤治療計画と外科手技を受ける被験体に改善を生じうる。
IBD治療剤は、非経口、皮下、 腹腔内、肺内、及び鼻腔内を含む任意の適切な手段によって投与され、局所治療が望まれるならば、病巣内投与される。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、又は皮下投与を含む。投薬は、投与が短期か慢性的かどうかに部分的に依存して、任意の適した経路、例えば静脈内又は皮下注射のような注射によってなされうる。
本発明の方法に従って投与されるIBD治療剤は、良好な医療実務に一致した態様で製剤され、用量決定され、投与される。この点において考慮される因子には、治療されている特定の疾患、個々の患者の臨床状態、疾患の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、及び医療実務者に知られている他の因子が含まれる。第一医薬はその必要はないが、場合によってはここに記載された一又は複数の更なる医薬(例えば第二、第三、第四等の医薬)と共に製剤化される。かかる更なる医薬の有効量は、製剤中に存在する第一医薬の量、疾患又は治療のタイプ、及び上で検討した他の因子に依存する。これらは一般にこれまで使用したものと同じ投薬量及び投薬経路で使用され、又はこれまで用いられた投薬量のおよそ1から99%で用いられる。
IBDの予防又は治療のために、(単独で又は他の薬剤との併用で使用される場合)IBD治療剤の適切な投薬量は、治療される疾患のタイプ、IBD治療剤のタイプ、疾患の重篤度及び経過、IBD治療剤が予防目的で投与されるか治療目的で投与されるか、患者の臨床病歴及びIBD治療剤に対する応答性、及び担当医師の裁量に依存する。IBD治療剤は一度に又は一連の治療にわたって適切に患者に投与される。疾患のタイプ及び重症度に応じて、約1μg/kg〜15mg/kg(例えば0.1mg/kg〜10mg/kg)のIBD治療剤が、例えば一又は複数の分割投与でも又は連続注入でも、患者投与の初期候補用量である。ある典型的な1日投薬量は、上記の要因に応じて、約1μg/kg〜約100mg/kg以上の範囲であるかもしれない。症状に応じて、数日間以上にわたる繰り返し投与は、疾患症状の所望の抑制が得られるまで持続される。IBD治療剤の例示的な一投薬量は、約0.05mg/kgから約10mg/kgの範囲であろう。よって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg又は10mg/kg(又は任意のその組合せ)を患者に投与することができる。このような用量は、間欠的、例えば毎週又は3週ごとに投与されうる(例えば患者に約2から約20、例えば約6用量のIBD治療剤が投与されるように)。初期のより高い負荷投与量の後、一又は複数のより低い用量が投与されうる。例示的用量療法は、約4mg/kgの初期負荷投与量の後、約2mg/kgのIBD治療剤の毎週の維持用量を投与することを含む。しかしながら、他の投与計画も有用であり得る。この治療法の進行は、常套的な技術及びアッセイによって容易にモニターされる。
B.2. 遺伝子発現プロファイリング
一般に、遺伝子発現プロファイリングの方法は、二つの大きなグループに分けることができる:ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーション解析に基づく方法と、生化学的検出又はポリヌクレオチドの配列決定に基づく他の方法である。試料中のmRNA発現を定量化するために当該分野で最も広く用いられている方法には、ノーザンブロット及びインサイツハイブリダイゼーション(Parker及びBarnes, Methods in Molecular Biology 106: 247-283(1999);RNAse保護アッセイ(Hod, Biotechniques 13: 852-854(1992);及び逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)(Weis等, Trends in Genetics 8: 263-264(1992))が含まれる。あるいは、DNA二重鎖、RNA二重鎖、及びDNA-RNAハイブリッド二重鎖又はDNA-タンパク質二重鎖を含む特定の二重鎖を認識できる抗体を用いてもよい。mRNA又はタンパク質の発現を決定するための様々な方法には、限定されないが、遺伝子発現プロファイリング、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)を含むポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、例えばアフィメトリックス・ジーンチップ技術を用いるなど、製造者のプロトコルに従って市販の装置によって実施することができるマイクロアレイ解析、連続遺伝子発現解析(SAGE)(Velculescu等, Science 270:484-487 (1995);及びVelculescu等, Cell 88:243-51 (1997))、MassARRAY,Massively Parallel Signature Sequencing (MPSS)による遺伝子発現解析(Brenner等, Nature Biotechnology 18:630-634 (2000))、プロテオミクス、免疫組織化学的検査(IHC)等が含まれる。好ましくは、mRNAが定量される。かかるmRNA解析は、好ましくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の技術を使用して、又はマイクロアレイ解析によって実施される。PCRが用いられる場合、PCRの好ましい形態は定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)である。
a.逆転写PCR(RT-PCR)
上に列挙した技術のうち、最も感度が良く最も柔軟性がある定量法はRT-PCRであり、これは、正常及び試験試料中の異なった試料集団におけるmRNAレベルを比較し、遺伝子発現のパターンを特徴付けし、密接に関連したmRNA間を識別し、RNA構造を解析するために使用することができる。
第一工程は標的試料からのmRNAの単離である。出発材料は典型的には結腸組織生検から単離された全RNAである。よって、RNAは、限定されないが、回腸末端、上行結腸、下行結腸、及びS状結腸を含む様々な組織から単離することができる。また、生検が得られる結腸組織は、炎症及び/又は非炎症結腸領域由来でありうる。
一実施態様では、mRNAは、左結腸又は右結腸から得られた生検である上で定義された生検から得られる。ここで使用される場合、「左結腸」はS状結腸及び直腸S状結腸を意味し、「右結腸」は盲腸を意味する。
mRNA抽出に関する一般的方法は当該分野で良く知られており、Ausubel等, Current Protocols of Molecular Biology, John Wiley and Sons (1997)を含む分子生物学の標準的教科書に開示されている。特に、RNAの単離は、Qiagen等の商業的製造者の精製キット、バッファーセット及びプロテアーゼを、製造者の指示書に従って使用することで実施することができる。組織試料からの全RNAは、RNA Stat-60(Tel-Test)を使用して単離できる。生検から調製したRNAは、例えば、塩化セシウム密度勾配遠心分離によって単離できる。
RNAはPCRのテンプレートとならないので、RT-PCRによる遺伝子発現プロファイリングの最初のステップはRNAテンプレートのcDNAへの逆転写と、それに続くPCR反応でのそれの指数関数的な増幅である。2つの最も広く用いられている逆転写酵素はトリ骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素(AMV-RT)及びモロニーマウス白血球ウイルス逆転写酵素(MMLV-RT)である。逆転写段階は、典型的には、発現プロファイリングの環境及び目的に依存し、特異的プライマー、ランダムヘキサマー、又はオリゴ-dTプライマーを使用してプライムされる。例えば、製造者指示書に従い、GeneAmp RNA PCRキット(Perkin Elmer, CA, USA)を使用して抽出RNAを逆転写することができる。誘導したcDNAは、ついで、後のPCR反応のテンプレートとして使用できる。
PCR工程では、様々な熱安定性DNA依存性DNAポリメラーゼを使用することができるが、典型的には、5’-3’ヌクレアーゼ活性を有するが3’-5’プルーフリーディングエンドヌクレアーゼ活性を欠くTaq DNAポリメラーゼを用いる。よって、TaqMan(登録商標)PCRでは、典型的には、Taq又はTthポリメラーゼの5’-ヌクレアーゼ活性を用いて、その標的アンプリコンに結合したハイブリダイゼーションプローブを加水分解するが、5’ヌクレアーゼ活性と同等の任意の酵素を用いることができる。PCR反応にとって典型的なアンプリコンを生成するために2つのオリゴヌクレオチドプライマーを使用する。三番目のオリゴヌクレオチド、又はプローブを、2つのPCRプライマーの間に位置するヌクレオチド配列を検出するために設計する。該プローブは、Taq DNAポリメラーゼ酵素によって伸長せず、レポーター蛍光色素及び消光蛍光色素で標識される。このレポーター色素のどんなレーザー誘導放射も、プローブ上でこの2つの色素が近接して位置している場合には、消光色素によって消光する。増幅反応の間、Taq DNAポリメラーゼ酵素は、テンプレートに依存する形でプローブを切断する。生じたプローブ断片は溶液中で解離し、放出されたレポーター色素からのシグナルは、二番目のフルオロフォアの消光効果とは無関係である。新しい分子が合成される度にレポーター色素の1分子が遊離させられ、消光しないレポーター色素の検出がデータの定量的な解釈の基礎を提供する。
TaqMan(登録商標)RT-PCRは、例えば、ABI PRIZM 7700(商品名)Sequence Detection System(商品名)(Perkin-Elmer-Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)、又はLightcycler(Roche Molecular Biochemicals, Mannheim, Germany)等の商業的に入手可能な装置を使用しておこなうことができる。好ましい実施態様では、5' ヌクレアーゼ手法は、ABI PRIZM 7700(商品名)Sequence Detection System(商品名)等のリアルタイム定量PCR装置ですすめられる。該システムは、サーモサイクラー、レーザー、電荷結合素子(CCD)、カメラ及びコンピューターからなる。該システムでは、サーモサイクラー上の96-ウェルフォーマットで試料を増幅する。増幅の間、96ウェル全てに関する光ファイバーケーブルを通してレーザー励起した蛍光シグナルがリアルタイムで収集され、CCDカメラで検出される。該システムは、装置を作動し、データを分析するソフトウェアを含む。
5'-ヌクレアーゼアッセイのデータは、Ct又は閾値サイクルとして最初に表される。上で検討したように、蛍光値は毎サイクルの間に記録され、増幅反応においてそのポイントまでに増幅した産物の量を表す。蛍光シグナルが統計的に有意であるとして最初に記録されたポイントが閾値サイクル(Ct)である。
エラー及び試料と試料間の変化による効果を最小限にするために、通常は内部標準を使用してRT-PCRを実施する。理想的な内部標準は、異なる組織間では一定のレベルで発現し、実験上の処理によって影響を受けない。遺伝子発現のパターンを正規化するために最も頻繁に使用されているRNAは、ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド-3-リン酸-デヒドロゲナーゼ(GAPDH)及びβ-アクチンのmRNAである。
RT-PCR技術のより最近の変形例は、二重標識蛍光発生プローブ(つまり、TaqMan(登録商標)プローブ)によってPCR産物の蓄積を測定するリアルタイム定量的PCRである。リアルタイムPCRは、各標的配列に対する内部競合体が正規化のために使用される定量的競合PCRと、試料内に含まれる正規化遺伝子、又はRT-PCRのためのハウスキーピング遺伝子を使用する定量的比較PCRの双方に匹敵する。更なる詳細については、例えばHeld等, Genome Research 6:986-994 (1996)を参照のこと。
本発明の一態様によれば、増幅される遺伝子中に存在するイントロン配列に基づいてPCRプライマー及びプローブが設計される。この実施態様では、プライマー/プローブ設計の第一工程は遺伝子内のイントロン配列の 描写である。これは、公に入手可能なソフトウェア、例えばKent, W.J., Genome Res. 12(4):656-64 (2002)によって開発されたDNA BLATソフトウェア、あるいはその変形形を含むBLASTソフトウェアによって行うことができる。PCRプライマー及びプローブ設計の十分に確立された方法が次の工程として続く。
非特異的シグナルを避けるために、プライマーとプローブを設計する場合、イントロン内において反復配列をマスクすることが重要である。これは、反復エレメントのライブラリに対してDNA配列をスクリーニングし、反復エレメントがマスクされる問い合わせ配列を返すベイラー医科大学からオンラインで入手可能なRepeat Maskerプログラムを使用して容易に達成することができる。ついで、マスクされたイントロン配列を使用し、例えばPrimer Express(Applied Biosystems);MGBアッセイ-バイ-デザイン(Applied Biosystems);プライマー3(Steve Rozen及びHelen J. Skaletsky (2000) Primer3 on the WWW for general users and for biologist programmers. In: Krawetz S, Misener S編 Bioinformatics Methods and Protocols: Methods in Molecular Biology. Humana Press, Totowa, NJ, pp 365-386)のような任意の商業的に又は他の好適に入手できるプライマー/プローブ設計パッケージを使用して、プライマー及びプローブ配列を設計することができる。
PCRプライマー設計で考慮される最も重要な因子は、プライマー長、融解温度(Tm)、及びG/C含有量、特異性、相補的プライマー配列、及び3’末端配列を含む。一般に、最適なPCRプライマーは、一般に17−30塩基長であり、約20−80%、例えば約50−60%のG+C塩基を含む。50から80℃の間、例えば約50から70℃のTmが典型的には好ましい。
PCRプライマー及びプローブ設計のための更なる指針については、その開示全体が出典明示によりここに明示的に援用される例えばDieffenbach, C.W.等, “General Concepts for PCR Primer Design” in: PCR Primer, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1995, pp. 133-155;Innis 及びGelfand, “Optimization of PCRs” in: PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications, CRC Press, London, 1994, pp. 5-11;及びPlasterer, T.N. Primerselect: Primer and probe design. Methods Mol. Biol. 70:520-527 (1997)を参照のこと。
更なるPCRベース技術は、例えば、ディファレンシャルディスプレイ(Liang及びPardee, Science 257:967-971 (1992));増幅断片長多型(iAFLP)(Kawamoto 等, Genome Res. 12:1305-1312 (1999));BeadArray(登録商標)技術 (Illumina, San Diego, CA; Oliphant 等, Discovery of Markers for Disease (Supplement to Biotechniques), June 2002;Ferguson等, Analytical Chemistry 72:5618 (2000));遺伝子発現のための迅速なアッセイで市販のLuminex100 LabMAPシステム及び多重カラーコードミクロスフィアを使用する遺伝子発現の検出のためのBeadsArray(BADGE)(Luminex Corp., Austin, TX)(Yang等, Genome Res. 11:1888-1898 (2001));及び高適用範囲の発現プロファイリング(HiCEP)解析(Fukumura等, Nucl. Acids. Res. 31(16) e94 (2003))を含む。
b.マイクロアレイ
ディファレンシャル遺伝子発現も、マイクロアレイ技術を用いて同定し、又は確かめることができる。よって、IBD関連遺伝子の発現プロファイルを、マイクロアレイ技術を使用して新鮮組織又はパラフィン包埋組織の何れかで測定することができる。この方法では、興味あるポリヌクレオチド配列(cDNA及びオリゴヌクレオチドを含む)をマイクロチップ基板上にプレートし、整列させる。ついで、この整列させた配列を、興味ある細胞又は組織からの特異的DNAプローブでハイブリダイズする。丁度RT-PCR法のように、mRNAのソースは、典型的にはIBDの患者から得られた細胞由来の生検組織又は細胞株、及び対応する正常な組織又は細胞株からの全RNAである。よって、様々な結腸組織又は結腸組織由来細胞株からRNAを単離することができる。
マイクロアレイ技術の特定の実施態様では、cDNAクローンのPCR増幅挿入部分を高密度アレイの基板へ塗布する。好ましくは、少なくとも10000のヌクレオチド配列を基板へ塗布する。それぞれ10000エレメントがマイクロチップ上に固定化された、マイクロアレイ遺伝子は、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションに適している。蛍光標識cDNAプローブは、興味ある組織から抽出したRNAの逆転写によって蛍光ヌクレオチドを取り込むことで作製できる。チップへ塗布した標識cDNAプローブは、アレイ上の各スポットのDNAと特異性をもってハイブリダイズする。非特異的に結合したプローブを除くためにストリンジェントに洗浄した後、チップを共焦点レーザー顕微鏡によって又はCCDカメラのような他の検出法によってスキャンする。各整列したエレメントのハイブリダイゼーションの定量化によって、対応するmRNA発生量の評価が可能となる。二色蛍光によって、2つのソースのRNAから作製した別々の標識cDNAプローブを2つ1組でアレイへハイブリダイズする。従って、各特定の遺伝子に対応する2つのソースからの転写物の相対発生量が、同時に決定される。小型化したハイブリダイゼーションのスケールによって、非常に多くの遺伝子に関する発現パターンの簡便で迅速な評価が可能となる。このような方法が、細胞当たり少しのコピーが発現する希な転写物の検出するため、また発現レベルにおける少なくともおよそ2倍の違いを再現可能に検出するために必要とされる感度を有していることが示されている(Schena等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93(20): 106-49(1996))。マイクロアレイ解析は、製造者のプロトコルに従って、例えばAffymetrix GenChip技術、又はIncyteのマイクロアレイ技術、又はAgilentの全ヒトゲノムマイクロアレイ技術を使用することによって、市販の装置によって実施することができる。
c.遺伝子発現連続解析(SAGE)
遺伝子発現連続解析(SAGE)は、各転写物に対して個々のハイブリダイゼーションプローブを提供することを要せず、多数の遺伝子転写物の同時の定量解析を可能にせしめる方法である。先ず、タグが各転写物内の独特の位置から得られるとの前提で、転写物をユニークに同定するのに十分な情報を含む短い配列タグ(約10−14bp)が生成される。ついで、多くの転写物を互いに結合させて長い連続の分子を形成し、これを配列決定して、複数タグの同一性を同時に明らかにすることができる。転写物の任意の集団の発現パターンは、個々のタグの存在量を決定し、各タグに対応する遺伝子を同定することによって定量的に評価することができる。更なる詳細については、例えばVelculescu等, Science 270:484-487 (1995);及びVelculescu等, Cell 88:243-51 (1997)を参照のこと。
d.MassARRAY技術
RNAの単離及び逆転写の後に、Sequenom社(San Diego, CA)によって開発されたMassARRAYベースの遺伝子発現プロファイリング法では、得られたcDNAに、単一の塩基を除く全ての位置で標的cDNA領域に一致し内部標準となる合成DNA分子(競合体)が添加される。cDNA/競合体混合物をPCR増幅し、これにPCR後エビアルカリホスファターゼ(SAP)酵素処理を施し、残りのヌクレオチドの脱リン酸化を生じせしめる。アルカリホスファターゼの不活化後、競合体及びcDNAからのPCR産物にプライマー伸長を施し、これが競合体及びcDNA駆動PCR産物の区別される質量シグナルを生成する。精製後、これらの産物をチップアレイ上に分配し、これを、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)での解析に必要なコンポーネントと共に前負荷する。ついで、反応物中に存在するcDNAを、生成された質量スペクトルにおけるピーク面積の比を解析することによって定量する。更なる詳細については、例えばDing及びCantor, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:3059-3064 (2003)を参照のこと。
e.Massively Parallel Signature Sequencing(MPSS)による遺伝子発現解析
Brenner 等, Nature Biotechnology 18:630-634 (2000)によって記載されたこの方法は、非ゲルベースのサイン配列決定を、別個の5mm径のマイクロビーズでの何百万のテンプレートのインビトロクローニングと組み合わせる配列決定アプローチである。先ず、DNAテンプレートのマイクロビーズライブラリがインビトロクローニングによって構築される。これに、高密度(典型的には3×106マイクロビーズ/cm2より多い)でのフローセル中のテンプレート含有マイクロビーズの平面状アレイのアセンブリが続く。各マイクロビーズ上のクローン化テンプレートの遊離端を、DNA断片分離を必要としない蛍光ベースのサイン配列決定法を使用して、同時に分析する。この方法は、酵母cDNAライブラリから何十万ものサイン配列を単一の操作で同時にかつ精確に提供することが示されている。
mRNA単離、精製、プライマー伸長及び増幅を含むRNA源として固定したパラフィン包埋組織を使用する遺伝子発現をプロファイリングするための代表的なプロトコルの工程は、様々な刊行されたジャーナル記事(例えば、Godfrey等 J. Molec. Diagnostics 2: 84-91 (2000);Specht等, Am. J. Pathol. 158: 419-29 (2001))に与えられている。簡単に述べると、代表的な方法は、パラフィン包埋組織試料の約10ミリグラム厚の切片を切り取ることで始まる。ついで、mRNAが抽出され、タンパク質とDNAが取り除かれる。mRNA抽出に関する一般的方法は当該分野でよく知られており、Ausubel等, Current Protocols of Molecular Biology, John Wiley and Sons (1997)を含む分子生物学の標準的な教科書に開示されている。パラフィン包埋組織からのRNA抽出法は、例えば、Rupp及びLocker, Lab Invest. 56:A67 (1987)、及びDe Andres等, BioTechniques 18:42044 (1995)に開示されている。特に、RNAの単離は、Qiagen等の商業的製造者の精製キット、バッファーセット及びプロテアーゼを、製造者の指示書に従って使用することで実施することができる。例えば、培養している細胞からの全RNAは、Qiagen RNeasyミニカラムを使用して単離することができる。他の市販のRNA単離キットは、MasterPurea Complete DNA及びRNA精製キット(EPICENTREO, Madison, WI)、及びパラフィンブロックRNA単離キット(Ambion, Inc.)を含む。組織試料からの全RNAは、RNA Stat-60(Tel-Test)を使用して単離できる。組織から調製したRNAは、例えば、塩化セシウム密度勾配遠心分離によって単離できる。RNA濃度の分析後、必要ならば、RNA修復及び/又は増幅工程を含めることができ、RNAは、PCRの前に、遺伝子特異的プロモーターを使用して逆転写される。好ましくは、各標的配列に対する内部競合体が正規化のために使用される定量的競合PCRと、試料内に含まれる正規化遺伝子、又はRT-PCRのためのハウスキーピング遺伝子を使用する定量的比較PCRの双方に匹敵するリアルタイムPCRが使用される。 更なる詳細については、例えば“PCR: The Polymerase Chain Reaction”, Mullis等編, 1994;及びHeld等, Genome Research 6:986-994 (1996)を参照のこと。最後に、データを解析して、検査した試料中に同定された特徴的な遺伝子発現パターンに基づいて患者が利用できる最善の治療選択肢を同定する。
f.免疫組織化学
免疫組織化学法はまた本発明のIBDマーカーの発現レベルを検出するのに適している。よって、抗体又は抗血清、好ましくはポリクローナル抗血清、最も好ましくは各マーカーに特異的なモノクローナル抗体が発現の検出に使用される。抗体は、例えば、放射標識、蛍光標識、例えばビオチン等のハプテン標識、又は西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼのような酵素によって、検出することができる。あるいは、未標識一次抗体が、抗血清、ポリクローナル抗血清又は一次抗体に特異的なモノクローナル抗体を含む、標識二次抗体との関連で使用される。免疫組織化学プロトコル及びキットは当該分野でよく知られており、商業的に入手可能である。
発現レベルはまた例えば様々なタイプのイムノアッセイ又はプロテオミクス技術を使用して、タンパク質レベルで決定することができる。
イムノアッセイでは、標的診断タンパク質マーカーは、マーカーに特異的に結合する抗体を使用して検出される。抗体は典型的には検出可能な部分で標識される。一般に次の範疇に分類できる数多くの標識が利用できる:
放射性同位体、例えば、35S、14C、125I、3H及び131I。抗体は、例えばCurrent Protocols in Immunology, 1及び2巻, Coligen等編, (1991) Wiley-Interscience, New York, Pubs.に記載された技術を用いて放射性同位体で標識され、放射能はシンチレーションカウンターを使用して測定できる。
蛍光標識、例えば希土類キレート(ユーロピウムキレート)又はフルオレセインとその誘導体、ローダミンとその誘導体、ダンシル、リサミン(Lissamine)、フィコエリトリン及びテキサスレッドが利用できる。蛍光標識は、例えば上掲のCurrent Protocols in Immunologyに開示された技術を用いて抗体にコンジュゲートさせることができる。蛍光は蛍光光度計によって定量できる。
様々な酵素-基質標識が利用でき、米国特許第4275149号は、これらの幾つかの概説を提供している。酵素は一般に様々な技術を用いて測定可能な色素原基質の化学変換を触媒する。例えば、酵素は基質における色変化を触媒し、それは分光学的に測定可能である。あるいは、酵素は基質の蛍光又は化学発光を変化させうる。蛍光変化を定量する技術は上述した。化学発光基質は化学反応によって電子的に励起され、ついで(例えば化学発光計を用いて)測定されうる光を放出するか、又は蛍光受容体にエネルギーを供与する。酵素標識の例には、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ;米国特許第4737456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、リンゴ酸塩デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRPO)等のペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リソザイム、糖類オキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、ヘテロ環オキシダーゼ(ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ等)、ラクトペルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼ等が含まれる。酵素を抗体に結合させる技術は、O'Sullivan等 (1981) Methods for Preparation of Enzyme-Antibody Conjugates for use in Enzyme Immunoassay, in Methods in Enzym. (J. Langone及びH. Van Vunakis編), Academic press, New York, 73: 147-166に記載されている。
酵素-基質の組み合わせの例は、例えば以下を含む:西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRPO)と基質としての過酸化水素で、過酸化水素が染料前駆物質(例えば、オルトフェニレンジアミン(OPD)又は3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン塩酸塩(TMB))を酸化する;アルカリホスファターゼ(AP)と色素原基質としてのパラ-ニトロフェニルホスフェート;及びβ-D-ガラクトシダーゼ(β-D-Gal)と色素原基質(例えば、p-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシダーゼ)又は蛍光原基質4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトシダーゼ。
数多くの他の酵素-基質の組み合わせが当業者には利用可能である。これらの一般的な概説は、米国特許第4275149号及び第4318980号を参照のこと。
標識は抗体に間接的に結合される場合もある。当業者であれば、これを達成するための様々な技術を知っているであろう。例えば、抗体をビオチンに結合させ、上述した3つの広い範疇の標識の何れかをアビジンに結合させるか、又はその逆が可能である。ビオチンはアビジンに選択的に結合し、よってこの間接的な方式で抗体に標識をコンジュゲートさせることができる。あるいは、抗体との標識の間接的な結合を達成するために、抗体に小さなハプテン(例えばジゴキシン)をコンジュゲートさせ、上述の異なるタイプの標識を抗ハプテン抗体(例えば抗ジゴキシン抗体)にコンジュゲートさせる。よって、抗体との標識の間接的なコンジュゲートを達成できる。イムノアッセイ技術の他の型では、抗体は標識される必要はなく、その存在が、抗体に結合する標識抗体を用いて検出されうる。
よって、ここでの診断イムノアッセイは、例えば競合結合アッセイ、直接及び間接サンドウィッチアッセイ、及び免疫沈降アッセイを含む任意のアッセイ形式でありうる。Zola, Monoclonal Antibodies: A Manual of Techniques, pp. 147-158 (CRC Press, Inc. 1987)。
競合結合アッセイは、限られた量の抗体との結合について試験試料分析物と競合する標識標準物質の能力に依存する。試験試料中の抗原の量は抗体に結合するようになる標準物質の量に反比例する。結合するようになる標準物質の量の決定を容易にするために、抗体は一般に競合の前又は後に不溶化され、抗体に結合する標準物質と分析物が未結合のままの標準物質と分析物から簡便に分離されうる。
サンドウィッチアッセイは、それぞれが検出されるタンパク質の異なった免疫原性部分又はエピトープに結合可能である二つの抗体の使用を含む。サンドウィッチアッセイでは、試験試料分析物に、固形担体に固定された第一抗体が結合し、その後、第二抗体が分析物に結合し、よって不溶性の3部分複合体を形成する。例えば米国特許第4376110号を参照のこと。第二抗体自体は検出可能な部分で標識され(直接的サンドウィッチアッセイ)、又は検出可能な部分で標識される抗免疫グロブリン抗体を使用して測定されうる(間接的サンドウィッチアッセイ)。例えば、サンドウィッチアッセイの一つのタイプは、検出可能な部分が酵素であるELISAアッセイである。
g.プロテオミクス
「プロテオーム」なる用語は、ある時点での試料(例えば組織、生物、又は細胞培養物)中に存在するタンパク質の全体として定義される。 プロテオミクスは、とりわけ、試料中のタンパク質発現の網羅的変化の研究を含む(「発現プロテオミクス」とも称される)。プロテオミクスは典型的には次の工程を含む:(1)2-Dゲル電気泳動(2-D PAGE)による試料中の個々のタンパク質の分離;(2)例えば質量スペクトル又はN末端配列決定によるゲルから回収された個々のタンパク質の同定、及び(3)バイオインフォマティクスを使用するデータ解析。プロテオミクス法は、遺伝子発現プロファイリングの他の方法に対する貴重な補充手段であり、単独で又は他の方法と組み合わせて、本発明のマーカーの産物を検出するために使用することができる。
h.逆転写の5’-マルチプレックス遺伝子特異的プライミング
RT-PCRは第一工程として試験RNA集団の逆転写を必要とする。逆転写のために最も一般的に使用されるプライマーはオリゴ-dTであり、これはRNAがインタクトな場合に良好に機能する。しかしながら、このプライマーは、RNAが高度に断片化されている場合は効果的ではないであろう。
本発明は、58℃と60℃の間に最適なTmを有し大ざっぱに20塩基長である遺伝子特異的プライマーの使用を含む。これらのプライマーはまたPCR DNA増幅を駆動する逆方向プライマーとなる。
代替アプローチ法は、cDNA合成のためのプライマーとしてランダムヘキサマーを使用することに基づいている。しかしながら、我々は、多重の遺伝子特異的プライマーの使用方法がランダムヘキサマーを使用する既知のアプローチ法よりも優れていることを実験的に証明した。
i.プロモーターメチル化分析
RNA転写物(遺伝子発現解析)又はそのタンパク質翻訳産物の多くの定量方法をここで検討する。遺伝子の発現レベルは、例えば遺伝子プロモーター及び他の調節エレメントのメチル化状態及びヒストンのアセチル化状態のようなクロマチン構造に関する情報から推測することもできる。
特に、プロモーターのメチル化状態はそのプロモーターによって調節される遺伝子の発現レベルに影響を及ぼす。特定の遺伝子プロモーターの異常なメチル化は、例えば腫瘍抑制因子遺伝子のサイレンシングのような発現調節に関係していた。よって、遺伝子のプロモーターのメチル化状態の検査はRNAレベルの直接の定量の代替として利用することができる。
メチル化特異的PCR(Herman J.G.等(1996) Methylation-specific PCR: a novel PCR assay for methylation status of CpG islands. Proc. Natl Acad. Sci. USA. 93, 9821-9826.)及び亜硫酸水素DNA配列決定(Frommer M.等(1992) A genomic sequencing protocol that yields a positive display of 5-methylcytosine residues in individual DNA strands. Proc. Natl Acad. Sci. USA. 89, 1827-1831.)を含む特定のDNAエレメントのメチル化状態を測定するための幾つかのアプローチ法が案出されている。更に最近では、マイクロアレイベースの技術がプロモーターメチル化状態を特徴付けるために使用されている(Chen C.M. (2003) Methylation target array for rapid analysis of CpG island hypermethylation in multiple tissue genomes. Am. J. Pathol. 163, 37-45.)。
j.遺伝子の同時発現
本発明の更なる態様は遺伝子発現クラスターの同定である。遺伝子発現クラスターは、ピアソン相関係数に基づく相関の対解析(Pearson K.及びLee A. (1902) Biometrika 2, 357)を含む当該分野で知られている統計解析法を使用する発現データの解析によって同定することができる。
一実施態様では、ここで同定される発現クラスターは左結腸で上方制御される遺伝子を含む(図1)。
他の実施態様では、ここで同定される発現クラスターは右結腸で上方制御される遺伝子を含む。
他の一実施態様では、ここで同定される発現クラスターは回腸末端で上方制御される遺伝子を含む。
他の実施態様では、ここで同定される発現クラスターは、における遺伝子を含む。
ある実施態様では、ここで同定される発現クラスターは免疫応答下で分類される遺伝子を含む。
他の実施態様では、ここで同定される発現クラスターは創傷への応答下で分類される遺伝子を含む。
k.イントロンベースのPCRプライマー及びプローブの設計
本発明の一態様によれば、増幅される遺伝子中に存在するイントロン配列に基づいてPCRプライマー及びプローブが設計される。従って、プライマー/プローブ設計の第一工程は遺伝子内のイントロン配列の 描写である。これは、公に入手可能なソフトウェア、例えばKent, W.J., Genome Res. 12(4):656-64 (2002)によって開発されたDNA BLATソフトウェア、あるいはその変形形を含むBLASTソフトウェアによって行うことができる。PCRプライマー及びプローブ設計の十分に確立された方法が次の工程として続く。
非特異的シグナルを避けるために、プライマーとプローブを設計する場合、イントロン内において反復配列をマスクすることが重要である。これは、反復エレメントのライブラリに対してDNA配列をスクリーニングし、反復エレメントがマスクされる問い合わせ配列を返すベイラー医科大学からオンラインで入手可能なRepeat Maskerプログラムを使用して容易に達成することができる。ついで、マスクされたイントロン配列を使用し、例えばPrimer Express(Applied Biosystems);MGBアッセイ-バイ-デザイン(Applied Biosystems);プライマー3(Steve Rozen及びHelen J. Skaletsky (2000) Primer3 on the WWW for general users and for biologist programmers. In: Krawetz S, Misener S編 Bioinformatics Methods and Protocols: Methods in Molecular Biology. Humana Press, Totowa, NJ, pp 365-386)のような任意の商業的に又は他の好適に入手できるプライマー/プローブ設計パッケージを使用して、プライマー及びプローブ配列を設計することができる。
PCRプライマー設計で考慮される最も重要な因子は、プライマー長、融解温度(Tm)、及びG/C含有量、特異性、相補的プライマー配列、及び3’末端配列を含む。一般に、最適なPCRプライマーは、一般に17-30塩基長であり、約20−80%、例えば約50−60%のG+C塩基を含む。50から80℃の間、例えば約50から70℃のTmが典型的には好ましい。
PCRプライマー及びプローブ設計のための更なる指針については、その開示全体が出典明示によりここに明示的に援用される例えばDieffenbach, C.W.等, “General Concepts for PCR Primer Design” in: PCR Primer, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1995, pp. 133-155;Innis 及びGelfand, “Optimization of PCRs” in: PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications, CRC Press, London, 1994, pp. 5-11;及びPlasterer, T.N. Primerselect: Primer and probe design. Methods Mol. Biol. 70:520-527 (1997)を参照のこと。
l.IBD遺伝子セット、アッセイした遺伝子サブ配列、及び遺伝子発現データの臨床的利用
本発明の重要な態様は、結腸組織によるある種の遺伝子の測定した発現を使用して、診断情報を提供することである。この目的のために、アッセイされたRNAの量の差と使用されたRNAの質の変動の双方について修正する(標準化する)ことが必要である。従って、該アッセイは、よく知られたハウスキーピング遺伝子、例えばGAPFDH及びCyp1を含むある種の基準化遺伝子の発現を典型的には測定し取り込む。あるいは、基準化はアッセイされた遺伝子の全て又はその大きなサブセットの平均又は中央値シグナル(Ct)に基づくことができる(包括的正規化アプローチ)。遺伝子毎のベースで、患者の結腸組織mRNAの測定された基準化量が、適切な組織参照セットに見出される量と比較される。この参照セット中の組織の数(N)は、異なった参照セットが(全体として)本質的に同じように挙動するようにするためには十分に多くしなければならない。この条件が満たされる場合、特定のセットに存在する個々の結腸組織の同一性はアッセイされる遺伝子の相対量に有意な影響は持たないであろう。通常、組織参照セットは少なくとも約30,好ましくは少なくとも約40の異なったIBD組織検体からなる。別の記載がなされない限り、各mRNA/試験組織/患者の正規化発現レベルは、参照セットにおいて測定された発現レベルの割合として表される。より詳細には、IBD試料の十分に多い数(例えば40)の参照セットが、各mRNA種の正規化レベルの分布を生じる。分析される特定の試料において測定されるレベルはこの範囲内のあるパーセンタイルになり、これは当該分野でよく知られた方法によって決定することができる。以下、別段の記載がない場合は、遺伝子の発現レベルに対する参照は、これは常に明示的に述べるとは限らないが、参照セットに対して正規化された発現を想定する。
m.抗体の産生
本発明は抗IBDマーカー抗体を更に提供する。例示的な抗体には、ポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、二重特異性、及びヘテロコンジュゲート抗体が含まれる。ここで検討したように、抗体はIBDの診断方法において、ある場合にはIBDの治療方法において使用されうる。
(1)ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは、関連する抗原とアジュバントを複数回皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射することにより動物に産生されうる。免疫化される種において免疫原性であるタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、又は大豆トリプシンインヒビターに関連抗原を、二官能性又は誘導体形成剤、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基によるコンジュゲーション)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基による)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl2、又はRとR1が異なったアルキル基であるR1N=C=NRによりコンジュゲートさせることが有用でありうる。
動物を、例えばタンパク質又はコンジュゲート100μg又は5μg(それぞれウサギ又はマウスの場合)を完全フロイントアジュバント3容量と併せ、この溶液を複数部位に皮内注射することによって、抗原、免疫原性コンジュゲート、又は誘導体に対して免疫化する。1か月後、該動物を、完全フロイントアジュバントに入れた初回量の1/5ないし1/10のペプチド又はコンジュゲートを用いて複数部位に皮下注射することにより、追加免疫する。7ないし14日後に動物を採血し、抗体価について血清を検定する。動物は、力価がプラトーに達するまで追加免疫する。好ましくは、動物は、同じ抗原のコンジュゲートであるが、異なったタンパク質にコンジュゲートさせた、及び/又は異なった架橋剤によってコンジュゲートさせたコンジュゲートで追加免疫する。コンジュゲートはまたタンパク融合として組換え細胞培養中で調製することもできる。また、ミョウバンのような凝集化剤が、免疫反応の増強のために好適に使用される。
(2)モノクローナル抗体
ここでのモノクローナル抗体を作製するための様々な方法が当該分野で利用できる。例えば、モノクローナル抗体は、Kohler等, Nature, 256:495 (1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて作製でき、又は組換えDNA法(米国特許第4816567号)によって作製することができる。
ハイブリドーマ法においては、マウス又はその他の適当な宿主動物、例えばハムスターを上記したようにして免疫し、免疫化に用いられるタンパク質と特異的に結合する抗体を生産するか又は生産することのできるリンパ球を導き出す。別法として、リンパ球をインビトロで免疫することもできる。次に、リンパ球を、ポリエチレングリコールのような適当な融剤を用いてミエローマ細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,59-103頁(Academic Press, 1986))。
このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、融合していない親のミエローマ細胞の増殖又は生存を阻害する一又は複数の物質を含みうる適当な培地に蒔き、増殖させる。例えば、親のミエローマ細胞が酵素ヒポキサンチングアニジンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠失しているならば、ハイブリドーマのための培地は、典型的には、HGPRT欠損細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含むであろう(HAT培地)。
好ましい骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベルの生産を支援し、HAT培地のような培地に対して感受性である細胞である。これらの中でも、好ましい骨髄腫細胞株には、マウス骨髄腫系、例えば、ソーク・インスティテュート・セル・ディストリビューション・センター、San Diego, California USAから入手し得るMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍、及びアメリカン・タイプ・カルチュア・コレクション、Rockville, Maryland USAから入手し得るSP-2又はX63-Ag8-653細胞から誘導されたものが含まれる。ヒト骨髄腫及びマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株もまたヒトモノクローナル抗体の産生のために記載されている(Kozbor, J.Immunol., 133:3001 (1984);及びBrodeur等, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,51-63頁(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
ハイブリドーマ細胞が生育している培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の産生についてアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降又はインビトロ結合検定、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着検定(ELISA)によって測定する。
モノクローナル抗体の結合親和性は、例えばMunson等, Anal. Biochem., 107:220 (1980)のスキャッチャード分析法によって測定することができる。
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が確定された後、該クローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 59-103頁(Academic Press, 1986))。この目的に対して好適な培地には、例えば、D-MEM又はRPMI-1640培地が包含される。加えて、該ハイブリドーマ細胞は、動物において腹水腫瘍としてインビボで増殖させることができる。
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィーのような常套的な免疫グロブリン精製法により、培地、腹水、又は血清から好適に分離される。
モノクローナル抗体をコードしているDNAは、常法を用いて(例えば、マウスの重鎖及び軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)即座に単離され配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましい供給源となる。ひとたび単離されたならば、DNAを発現ベクター中に入れ、ついでこれを、そうしないと抗体タンパク質を産生しない大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又はミエローマ細胞のような宿主細胞中にトランスフェクトし、組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体の合成を達成することができる。抗体をコードするDNAの細菌中での組換え発現に関する概説論文には、Skerra等, Curr. Opinion in Immunol., 5:256-262(1993)及びPlueckthum, Immunol. Revs., 130:151-188(1992)がある。
更なる実施態様では、モノクローナル抗体又は抗体断片は、McCafferty等, Nature, 348:552-554 (1990)に記載された技術を使用して産生される抗体ファージライブラリから単離することができる。Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991)及び Marks等, J.Mol.Biol., 222:581-597 (1991)は、ファージライブラリを使用したマウス及びヒト抗体の単離を記述している。続く刊行物は、鎖混合による高親和性(nM範囲)のヒト抗体の生産(Marks等, Bio/Technology, 10:779-783(1992))、並びに非常に大きなファージライブラリを構築するための方策としてコンビナトリアル感染とインビボ組換え(Waterhouse等, Nuc.Acids.Res., 21:2265-2266(1993))を記述している。従って、これらの技術はモノクローナル抗体の分離に対する伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ法に対する実行可能な別法である。
DNAはまた、例えばヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード化配列を、相同的マウス配列に代えて置換することにより(米国特許第4816567号;Morrison等, Proc.Nat.Acad.Sci.,USA,81:6851(1984))、又は免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部又は一部を共有結合させることで修飾できる。
典型的には、このような非免疫グロブリンポリペプチドは、抗体の定常ドメインに置換され、又は抗体の一つの抗原結合部位の可変ドメインに置換されて、抗原に対する特異性を有する1つの抗原結合部位と異なる抗原に対する特異性を有するもう一つの抗原結合部位とを含むキメラ二価抗体を作り出す。
(3)ヒト化抗体
非ヒト抗体をヒト化する方法の例は当該分野で記載されている。好ましくは、ヒト化抗体は非ヒト由来のものに導入した一又は複数のアミノ酸残基を有する。これら非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、典型的には「移入」可変ドメインから得られる「移入」残基と呼ばれる(Jones等, Nature, 321:522-525 (1986)、Riechmann等, Nature, 332:323-327 (1988)、Verhoeyen等, Science, 239:1534-1536(1988))。ヒト化は、本質的には、ウィンター及び共同研究者(Jones等, Nature, 321:522-525 (1986)、Riechmann等, Nature, 332:323-327 (1988)、Verhoeyen等, Science, 239:1534-1536 (1988))の方法に従って、高頻度可変領域配列をヒト抗体の対応する配列に置換することにより実施されうる。従って、このような「ヒト化」抗体は、無傷のヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の対応する配列で置換されたキメラ抗体である(米国特許第4816567号)。実際には、ヒト化抗体は典型的には幾つかの高頻度可変領域残基及び場合によっては幾つかのFR残基が齧歯類抗体の類似部位からの残基によって置換されたヒト抗体である。IBDを治療するために使用されるヒト化抗体の例は、操作されたマウス-ヒトキメラモノクローナル抗体であるインフリキシマブ(レミケード(登録商標))である。抗体はサイトカインTNF-αに結合し、そのレセプターへの結合を防止して炎症反応を惹起し維持する。インフリキシマブはCDとUCの双方を治療するために使用される。
抗原性を低減するには、ヒト化抗体を生成する際に使用するヒトの軽重両方の可変ドメインの選択が非常に重要である。いわゆる「ベストフィット法」では、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリ全体に対してスクリーニングする。次に齧歯動物のものと最も近いヒト配列をヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として受け入れる(Sims等, J. Immunol., 151:2296 (1993);Chothia等, J. Mol. Biol., 196:901(1987))。他の方法では、軽鎖又は重鎖の特定のサブグループのヒト抗体全てのコンセンサス配列から誘導される特定のフレームワーク領域を使用する。同じフレームワークを幾つかの異なるヒト化抗体に使用できる(Carter等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);Presta等, J. Immunol., 151:2623(1993))。
抗体を、抗原に対する高親和性や他の好ましい生物学的性質を保持してヒト化することが更に重要である。この目標を達成するべく、好ましい方法では、親及びヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列及び様々な概念的ヒト化産物の分析工程を経てヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般的に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推測三次元立体配座構造を図解し、表示するコンピュータプログラムは入手可能である。これら表示を見ることで、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の役割の分析、すなわち候補免疫グログリンの抗原と結合する能力に影響を及ぼす残基の分析が可能となる。このようにして、例えば標的抗原に対する親和性を高めるといった、望ましい抗体特徴が得られるように、FR残基をレシピエント及び移入配列から選択し、組み合わせることができる。一般的に、高頻度可変領域残基は、直接かつ最も実質的に抗原結合性に影響を及ぼしている。
ヒト化抗体の様々な形態が考えられる。例えば、ヒト化抗体は、抗体断片、例えばFab、場合によっては免疫コンジュゲートを作成するために一又は複数の細胞傷害剤とコンジュゲートされたものであってもよい。あるいは、ヒト化抗体又は、親和性成熟抗体は、インタクトな抗体、例えばインタクトなIgG1抗体であってもよい。
(4)ヒト抗体
ヒト化の代わりにヒト抗体を産生することができる。例えば、内在性の免疫グロブリン産生がない状態で、ヒト抗体の全レパートリーを免疫化することで産生することのできるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作ることが現在では可能である。例えば、キメラ及び生殖系列突然変異体マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子の同型接合欠損が内因性抗体産生を完全に阻害することが記載されている。このような生殖系列突然変異体マウスにおけるヒト生殖系列イムノグロブリン遺伝子列の移入は、抗原チャレンジ時にヒト抗体の産生をもたらす。例としてJakobovits等, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90:2551 (1993);Jakobovits等, Nature 362:255-258 (1993);Bruggermann等, Year in Immuno., 7:33 (1993);米国特許第5591669号、第5589369号及び第5545807号を参照。あるいは、ファージディスプレイ技術(McCafferty等, Nature 348:552-553(1990))を、非免疫化ドナーからの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから、インビトロでヒト抗体及び抗体断片を産出させるために使用することができる。この技術によれば、抗体Vドメイン遺伝子は、繊維状バクテリオファージ、例えばM13又はfdの大きい又は小さいコートタンパク質遺伝子の何れかにインフレームでクローニングし、ファージ粒子の表面上に機能的抗体断片としてディスプレイさせる。繊維状粒子がファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含むので、抗体の機能特性に基づいた選択により、これらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択がなされる。よって、ファージはB細胞の特性の幾つかを模倣している。ファージディスプレイは多様な形式で行うことができる;例えばJohnson, Kevin S. 及びChiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3:564-571(1993)を参照のこと。V-遺伝子セグメントの幾つかの供給源がファージディスプレイのために使用可能である。Clackson等, Nature, 352:624-628(1991)は、免疫化されたマウス脾臓から得られたV遺伝子の小ランダムコンビナトリアルライブラリからの抗オキサゾロン抗体の異なった配列を単離した。非免疫化ヒトドナーからのV遺伝子のレパートリーを構成可能で、抗原(自己抗原を含む)とは異なる配列の抗体を、Marks等, J. Mol. Biol. 222:581-597(1991)、又はGriffith等, EMBO J. 12:725-734(1993)に記載の技術に従って単離することができる。また、米国特許第5565332号及び同5573905号を参照のこと。
上で検討したように、ヒト抗体はまたインビトロ活性化B細胞により産生されうる(米国特許第5567610号及び同第5229275号を参照)。
(5)抗体断片
一又は複数の抗原結合領域を含む抗体断片を生産するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、インタクトな抗体のタンパク分解性消化を介して誘導されていた(例えば、Morimoto等, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennan等, Science, 229:81(1985)を参照されたい)。しかし、これらの断片は現在は組換え宿主細胞により直接生産することができる。例えば、抗体断片は上記した抗体ファージライブラリから単離することができる。あるいは、Fab'-SH断片は大腸菌から直接回収することができ、化学的に結合してF(ab')2断片を形成することができる(Carter等, Bio/Technology 10:163-167(1992))。他のアプローチ法では、F(ab')2断片を組換え宿主細胞培養から直接分離することができる。抗体断片の産生のための他の技術は熟練した実務者に明らかであろう。他の実施態様では、選択抗体は一本鎖Fv断片(scFV)である。国際公開第93/16185号;米国特許第5571894号;及び米国特許第5587458号を参照のこと。また、抗体断片は、例えば米国特許第5641870号に記載されているような直鎖状抗体であってもよい。このような直鎖状抗体断片は単一特異性又は二重特異性であってもよい。
(6)二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する抗体である。例示的二重特異性抗体はIBDマーカータンパク質の2つの異なるエピトープに結合しうる。二重特異性抗体はIBDマーカータンパク質を発現する細胞に薬剤を局在化させるために使用することもできる。
これらの抗体はIBDマーカー結合アームと薬剤(例えば、アミノサリチル酸)に結合するアームを有している。二重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体断片(例えばF(ab’)2二重特異性抗体)として調製することができる。
二重特異性抗体を作製する方法は当該分野において知られている。完全長二重特異性抗体の伝統的な産生は二つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づき、ここで二つの鎖は異なる特異性を持っている(Millstein等, Nature, 305:537-539(1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖が無作為に取り揃えられているため、これらのハイブリドーマ(四部雑種)は10個の異なる抗体分子の可能性ある混合物を産生し、そのうちただ一つが正しい二重特異性構造を有する。通常、アフィニティークロマトグラフィー工程により行われる正しい分子の精製は、かなり煩わしく、生成物収率は低い。同様の方法が国際公開第93/08829号及びTraunecker等, EMBO J. 10:3655-3659(1991)に開示されている。
異なったアプローチ法では、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗原-抗体結合部位)を免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。該融合は好ましくは、少なくともヒンジの一部、CH2及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとの融合である。軽鎖の結合に必要な部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)を、融合の少なくとも一つに存在させることが好ましい。免疫グロブリン重鎖の融合体と、望まれるならば免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAを、別個の発現ベクター中に挿入し、適当な宿主生物に同時形質移入する。これにより、コンストラクトに使用される三つのポリペプチド鎖の等しくない比率が最適な収率をもたらす態様において、三つのポリペプチド断片の相互の割合の調節に大きな融通性が与えられる。しかし、少なくとも二つのポリペプチド鎖の等しい比率での発現が高収率をもたらすとき、又はその比率が特に重要性を持たないときは、2又は3個全てのポリペプチド鎖のためのコード化配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
このアプローチ法の一実施態様では、二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有する一方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖と他方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)とからなる。二重特異性分子の半分にしか免疫グロブリン軽鎖がないと容易な分離法が提供されるため、この非対称的構造は、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを容易にすることが分かった。このアプローチ法は、国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を産生する更なる詳細については、例えばSuresh等, Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照されたい。
米国特許第5731168号に開示された他のアプローチ法によれば、一対の抗体分子間の界面を操作して組換え細胞培養から回収されるヘテロダイマーの割合を最大にすることができる。好適な界面は抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第1抗体分子の界面からの一又は複数の小さいアミノ酸側鎖がより大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換えられる。大きな側鎖と同じ又は類似のサイズの相補的「キャビティ」を、大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることにより第2の抗体分子の界面に作り出す。これにより、ホモダイマーのような不要の他の最終産物に対してヘテロダイマーの収量を増大させるメカニズムが提供される。
二特異性抗体は架橋又は「ヘテロコンジュゲート」抗体を含む。例えば、ヘテロコンジュゲートの一方の抗体がアビジンと結合し、他方はビオチンと結合しうる。このような抗体は、例えば、免疫系細胞を不要な細胞に対してターゲティングさせること(米国特許第4676980号)及びHIV感染の治療(国際公開第91/00360号、国際公開第92/00373号及び欧州特許出願公開第03089号)への用途が提案されている。ヘテロコンジュゲート抗体は任意の簡便な架橋方法によって作製できる。適切な架橋剤は当該分野において周知であり、多くの架橋法と共に米国特許第4676980号に記されている。
抗体断片から二重特異性抗体を産生する技術もまた文献に記載されている。例えば、化学結合を使用して二重特異性抗体を調製することができる。Brennan等, Science, 229:81 (1985) はインタクトな抗体をタンパク分解性に切断してF(ab')2断片を産生する手順を記述している。これらの断片は、ジチオール錯体形成剤亜砒酸ナトリウムの存在下で還元して近接ジチオールを安定化させ、分子間ジスルヒド形成を防止する。産生されたFab'断片はついでチオニトロベンゾアート(TNB)誘導体に転換される。Fab'-TNB誘導体の一つをついでメルカプトエチルアミンでの還元によりFab'-チオールに再転換し、他のFab'-TNB誘導体の等モル量と混合して二重特異性抗体を形成する。生産された二重特異性抗体は酵素の選択的固定化のための薬剤として使用することができる。
組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を作成し分離する様々な方法もまた記述されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを使用して生産されている。Kostelny等, J.Immunol., 148(5):1547-1553 (1992)。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドを遺伝子融合により二つの異なった抗体のFab'部分に結合させた。抗体ホモダイマーはヒンジ領域で還元されてモノマーを形成し、ついで再酸化させて抗体ヘテロダイマーを形成する。この方法はまた抗体ホモダイマーの生産に対して使用することができる。Hollinger等, Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)により記述された「ダイアボディ」技術は二重特異性抗体断片を作製する別のメカニズムを提供した。断片は、同一鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能にするのに十分に短いリンカーにより軽鎖可変ドメイン(VL)に重鎖可変ドメイン(VH)を結合してなる。従って、一つの断片のVH及びVLドメインは他の断片の相補的VL及びVHドメインと強制的に対形成させられ、2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)ダイマーを使用する他の二重特異性抗体断片の製造方策もまた報告されている。Gruber等, J.Immunol., 152:5368 (1994)を参照のこと。
二価より多い抗体も考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tutt等 J.Immunol. 147:60(1991)。
(7)他のアミノ酸配列の修飾
ここに記載された抗体のアミノ酸配列の修飾を考える。例えば、抗体の結合親和性及び/又は生物学的特性を向上することができれば望ましい。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体の核酸に適切なヌクレオチド変化を導入して、又はペプチド合成により調製されうる。そのような修飾は、抗体のアミノ酸配列内の残基の、例えば、欠失型、及び/又は挿入及び/又は置換を含む。最終構成物が所望する特徴を有していれば、欠失、挿入及び置換をどのように組合せてもよい。アミノ酸変化は、またグリコシル化部位の数又は位置を変化させるなど、抗体の翻訳後プロセスを変更してもよい。
突然変異誘発に好ましい位置である抗体のある種の残基又は領域の同定に有益な方法は、Cunningham及びWells Science, 244:1081-1085 (1989)に記載されているように「アラニンスキャニング突然変異誘発」と呼ばれる。ここで、標的残基又は残基の組が同定され(例えば、arg、asp、his、lys、及びgluなどの荷電した残基)、中性の又は負に荷電したアミノ酸(最も好ましくはアラニン又はポリアラニン)で置換され、アミノ酸の抗原との相互作用に影響を与える。ついで、置換に対する機能的感受性を示しているそれらアミノ酸位置を、置換の部位において、又は置換の部位のために、更なる又は他の変異体を導入することにより精製する。このように、アミノ酸配列変異体を導入する部位は予め決定されるが、突然変異自体の性質は予め決定される必要はない。例えば、与えられた部位における突然変異のパーフォーマンスを分析するために、標的コドン又は領域においてalaスキャンニング又はランダム突然変異誘発を実施し、発現した免疫グロブリンを所望の活性についてスクリーニングする。
アミノ酸配列挿入には、1残基から100以上の残基を有するポリペプチドまでの長さに亘るアミノ末端融合及び/又はカルボキシ末端融合、並びに単一又は複数アミノ酸残基の配列内挿入を含む。端末挿入の例には、N末端メチオニル残基を持つ抗体又は細胞傷害性ポリペプチドに融合させた抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入変異体には、抗体の血清半減期を増加させるポリペプチド又は(例えばADEPTのための)酵素への抗体のN末端又はC末端の融合が含まれる。
他の型の変異体はアミノ酸置換変異体である。これらの変異体は、異なる残基によって置換された抗体分子に少なくとも一つのアミノ酸残基を有する。置換突然変異について最も興味ある部位は高度可変領域を含むが、FR改変も考慮される。保存的置換は、「好ましい置換」と題して表1に示す。これらの置換により生物学的活性に変化が生じる場合、次表に「例示的置換」と題した又はアミノ酸の分類を参照して以下に更に記載するような、より実質的な変化を導入し、生成物をスクリーニングしてもよい。
抗体の生物学的性質における実質的な修飾は、(a)置換領域のポリペプチド骨格の構造、例えばシート又は螺旋配置、(b)標的部位の分子の電荷又は疎水性、又は(c)側鎖の嵩に影響を及ぼす置換を選択することにより達成される。アミノ酸は、その側鎖の特性の類似性に従ってグループ化することができる(A. L. Lehninger, in Biochemistry, 2版, pp. 73-75, Worth Publishers, New York (1975)):無極性:Ala(A)、Val(V)、Leu(L)、Ile(I)、Pro(P)、Phe(F),Trp(W),Met(M);無電荷極性:Gly(G)、Ser(S)、Thr(T)、Cys(C)、Tyr(Y)、Asn(N)、Gln(Q);酸性:Asp(D)、Glu(E);及び塩基性:Lys(K)、Arg(R)、His(H)。
別法では、天然に生じる残基は共通の側鎖特性に基づいて群に分けることができる:疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;中性の親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;酸性:Asp、Glu;塩基性:His、Lys、Arg;鎖配向に影響する残基:Gly、Pro;及び芳香族:Trp、Tyr、Phe。
非保存的置換は、これらの分類の一つのメンバーを他の分類に交換することを必要とするであろう。
抗体の適切な高次構造を維持するために関与しない任意のシステイン残基も、一般的には、セリンと置換して、分子の酸化的安定性を改善して、異常な架橋を防いでもよい。逆に、システイン結合を抗体に付加して、その安定性を改善してもよい(特に抗体がFv断片などの抗体断片である場合)。
ある好ましい型の置換変異体は、親抗体(例えばヒト化又はヒト抗体)の一又は複数の高頻度可変領域残基の置換を含む。一般的に、更なる発展のために選択され、得られた変異体は、それらが作製された親抗体と比較して向上した生物学的特性を有している。そのような置換変異体を作製する簡便な方法は、ファージディスプレイを使用する親和性突然変異である。簡潔に言えば、幾つかの高頻度可変領域部位(例えば6−7部位)を突然変異させて各部位における全ての可能なアミノ酸置換を生成させる。このように生成された多価抗体は、繊維状ファージ粒子から、各粒子内に充填されたM13の遺伝子III産物への融合物としてディスプレイされる。ファージディスプレイ変異体は、ついで、ここに開示されるようなそれらの生物学的活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされる。修飾のための候補となる高頻度可変領域部位を同定するために、アラニンスキャンニング突然変異誘発を実施し、抗原結合に有意に寄与する高頻度可変領域残基を同定することができる。別法として、又はそれに加えて、抗原-抗体複合体の結晶構造を分析して抗体と抗原の接点を特定するのが有利である場合もある。このような接触残基及び隣接残基は、ここに述べた技術に従う置換の候補である。そのような変異体が生成されると、変異体のパネルにここに記載するようなスクリーニングを施し、一又は複数の関連アッセイにおいて優れた特性を持つ抗体を更なる開発のために選択することができる。
三以上(好ましくは4の)機能的抗原結合部位を有する操作された抗体もまた考えられる(Miller等の米国特許出願公開第2002/0004587A1号)。
抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は当該分野で知られている様々な方法により調製される。これらの方法は、天然源からの単離(天然に生じるアミノ酸配列変異体の場合)又はオリゴヌクレオチド媒介性(又は部位特異的)突然変異による調製、PCR突然変異誘発、及び前もって調製された変異体又は抗体の非変異型のカセット変異導入法を含むが、これらに限定されない。
B.3 炎症の決定
一態様では、本願明細書において記載される差別的に発現されたバイオマーカーの被験体における同定は、被験体における炎症の決定と相関し得る。一実施態様では、バイオマーカーの発現が炎症の代用として使用され得る(Sands等. (2005) Inflamm Bowel Dis. 11(1):S22-S28)。別の実施態様では、バイオマーカーの発現は他の技術による炎症の決定に対して確証される。他の一実施態様では、本発明の診断及び/又は治療の方法は、被験体において炎症を決定する工程を含む。別の実施態様では、決定工程は、炎症細胞浸潤に対して、被験体から得られた試験試料の組織学的評価を含む。一実施態様では、試験試料は、被験体から得られた組織生検である。
別の実施態様では、決定工程は、被験体からの試験試料として非組織生検の評価を含む。一実施態様では、試験試料は被験体の糞便物質から得られる生検である。別の実施態様では、試験試料は血液である。他の一実施態様では、決定工程は糞便中カルプロテクチン又は糞便中ラクトフェリン試験(Joishy等. (2008) J Pediatr Gastroenterol Nutr. 48(1):48-54)又はC反応性タンパク質(CRP)血液検査(Henriksen等. (2008) Gut. 57:1518-1523)を含む。
B.4 発明のキット
本発明の方法で使用するための材料は、良く知られた手順に従って生産されるキットの調製に適している。よって、本発明は、IBDに対する開示された遺伝子の発現を定量するための遺伝子特異的又は遺伝子選択的プローブ及び/又はプライマーを含みうる薬剤を含むキットを提供する。このようなキットは、場合によっては、試料、特にパラフィン包埋組織試料からRNAを抽出するための試薬、及び/又はRNA増幅のための試薬を含みうる。加えて、キットは、本発明の方法での使用に関する記載又はラベル又は指示書と共に試薬を含んでいてもよい。該キットは、例えば、それぞれ、前もって製造されたマイクロアレイ、バッファー、適切なヌクレオチド三リン酸(例えばdATP、dCTP、dGTP及びdTTP;又はrATP、rCTP、rGTP及びUTP)、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、及び本発明の一又は複数のプローブ及びプライマー(例えばRMAポリメラーゼと反応性のプロモーターに結合した適切な長さのポリ(T)又はランダムプライマー)を含む該方法で利用される(典型的には濃縮形態の)様々な試薬の一又は複数と共に、(方法の自動化された実施に使用するのに適したマイクロタイタープレートを含む)容器を含みうる。
B.5 発明のレポート
この発明の方法は、商業的な診断目的に対して実施される場合、選択された遺伝子の一又は複数の正規化された発現レベルのレポート又はまとめを一般に作成する。この発明の方法及びレポートは、IBDを治療するための何れかの外科的手順の前後に、IBDであると診断された被験体の臨床転帰の予測を含んでなるレポートを作成する。該方法及びレポートは、データベース中にレポートを保存することを更に含みうる。あるいは、該方法は、被験体のためにデータベース中に記録を更に作成し、記録にデータを追加することができる。 一実施態様では、レポートは紙のレポートであり、他の実施態様では、レポートは聴覚性レポートであり、他の実施態様では、レポートは電子的レポートである。レポートは医師及び/又は患者に提供されることが考えられる。レポートの受領は、データ及びレポートを含むサーバーコンピュータにネットワーク接続を樹立し、サーバーコンピュータからデータ及びレポートを要求することを更に含みうる。
本発明によって提供される方法はまた全体を又は部分的に自動化することもできる。
本発明の全ての態様は、開示された遺伝子に加えて、及び/又はその代わりに、例えば高いピアソン相関係数によって裏付けられているように、開示された遺伝子と同時発現される限られた数の更なる遺伝子が予後又は予想試験に含められるようにまた実施することができる。
本発明を記載したが、本発明は、例示のために提供され、発明を限定するものでは決してない次の実施例を参照すると、より容易に理解されるであろう。
実施例
実施例1-全ゲノムマイクロアレイ解析によるクローン病の腸遺伝子発現プロファイルの特徴付け
全ゲノムマイクロアレイ発現解析は、細胞レベルでの遺伝子発現の包括的描写を作成する。この研究の目的は、クローン病(CD)患者及びコントロールにおける異なる腸遺伝子発現を調査することであり、確認されたCD感受性遺伝子、関連経路及び細胞系譜のサブ解析を伴った。
53人のCD及び31人のコントロール被験者-23人の正常及び8人の炎症性の非炎症性腸疾患患者を研究した。RNA抽出及び組織学のために、対内視鏡生検を5つの特定の解剖学的部位から採取した。41058の発現遺伝子配列タグを、アジレント(Agilent)のプラットフォームを使用して解析した。
クラスタ解析は、CD及びコントロール回腸末端(TI)生検を、結腸生検及びCD及びコントロールTI生検から分けた。CD TI生検では、ジユビキチン(FC+11.3, p<1x10-45)、MMP3(FC+7.4, p=1.3x10-11)、IRTA1(FC-11.4, p=4.7x10-12)及びCCL23(FC-7.1, p=1.6x10-10)が、コントロールと比較して異なって発現された。結腸において、非炎症性CD及びコントロール生検と比較するとSAA1(FC+6.3、p=5.3x10-8)は上方制御され、TSLP(FC-2.3、p=2.7x10-6)は下方制御され、結腸炎症性CD特性は、下方制御された有機溶質担体-SLC38A4、SLC26A2及びOSTアルファによって特徴付けられた。IL-23経路の分析は、コントロールと比較したCDグループ及び非炎症性CD生検と比較した炎症性において、IL-23A、JAK2及びSTAT3が上方制御されたことを示した。異なる発現は、また多くのオートファジー遺伝子、特にATG16L1において観察された。
方法
患者の動員
大腸内視鏡検査を受けていたCD患者53人(表2)及びコントロール患者31人が集められた。全てのCD患者は、エディンバラのWestern General Hospitalに通院し、CDの診断はレナード-ジョーンズの基準に準拠した(Lennard-Jones JE. Scand J Gastroenterol Suppl 1989;170:2-6)。休止期のCDは、腸管前処置の前にHarvey-Bradshawスコア<3、及び正常の組織学又は軽度の慢性炎症のみを示す組織学として分類された。活動性CDは、腸管前処置の前に4以上のHarvey-Bradshawスコア、及び慢性活動性炎症又は急性の慢性炎症を示す組織学として分類された。
表現型データを、問診及び症例記録により収集した。コントロールの内11人が男性、20人が女性であり、彼らは内視鏡検査時に年齢中央値が43であった。(Noble等. Gut 2008, Oct;57(10):1398-405)。コントロールの内6人が、結腸癌スクリーニングに対して正常の大腸内視鏡検査を有し、10人のコントロールが過敏性腸症候群と整合した症状を有し正常の大腸鏡検査を有し、7人の患者が他の徴候に対して大腸内視鏡検査を受け、組織学的に正常の生検が得られた。8人のコントロール患者が異常炎症性結腸生検を有した(偽膜性大腸炎1人、憩室炎1人、アメーバ症1人、顕微鏡的大腸炎2人、好酸球浸潤が1人、散乱リンパ球凝集及び胃腸炎歴2人)。女性のTIクラスタ解析には、非炎症性回腸末端を有する1人の女性UC患者を含んだ。表現型データを、問診及び症例記録により収集した。Lothian Local Research Ethics Committeeが研究プロトコルを承認した:REC04/S1103/22。
生検収集
対生検を、回腸末端部(TI)及び結腸において4部位から得た(表3)。一生検を組織検査に送り、他はRNA抽出のために液体窒素において瞬間冷凍した。各生検は、炎症性のエビデンス無しのもの、慢性炎症及び慢性炎症性細胞浸潤のエビデンス有りの生検、及び急性炎症及び急性炎症性細胞浸潤を有するものに組織学的にグレード化した。
マイクロアレイ分析
幾千もの遺伝子配列を殆ど場合において含む核酸マイクロアレイは、組織の正常な対応物と比較して、疾患組織において異なって発現している遺伝子を同定するために有用である。核酸マイクロアッセイを用いると、試験及びコントロール組織試料からの試験及びコントロールmRNA試料が逆転写され、cDNAプローブを生成するために標識される。次いで、このcDNAプローブは、固体支持体上に固定化さた多くの核酸とハイブリダイズされる。このアレイは、アレイの各メンバーの配列と位置がわかるように構成されている。例えば、ある疾患段階で発現することが知られている遺伝子から選ばれたものを固体支持体上に整列してもよい。標識プローブとある特定のアレイのメンバーとのハイブリダイゼーションは、プローブが誘導された試料がその遺伝子を発現していることを示す。試験(疾患組織)からのプローブのハイブリダイゼーションシグナルが、コントロール(正常組織)試料からのプローブのハイブリダイゼーションシグナルより大きい場合は、疾患組織において過剰発現している遺伝子又は複数遺伝子が同定される。この結果の意味は、疾患組織で過剰発現しているタンパク質は、疾患症状の存在のための診断的マーカーとしてだけではなく、疾患症状の治療のための治療上の標的としても有用であるということである。
核酸のハイブリダイゼーション及びマイクロアレイ技術の方法論は、当業者には良く知られている。一実施例では、ハイブリダイゼーション及びプローブ、スライドのための核酸の特別な調製、並びにハイブリダイゼーションの条件は、2000年3月31日に出願されたPCT特許出願公開第PCT/US01/10482号に詳細に記載され、その内容は出典明記により本明細書中に援用される。詳細なマイクロアレイ方法論は、また、Noble等により以前に報告された(Gut 2008, Oct;57(10):1398-405)。
動物組織からのマイクロ全RNA単離プロトコル(Qiagen, Valencia, CA)を使用して、全RNAを各生検から抽出した。1μgの全RNAを、低RNAインプット蛍光線形増幅(Low RNA Input Fluorescent Linear Amplification)プロトコル(Agilent Technologies, Palo Alto, CA)を使用して増幅した。T7 RNAポリメラーゼの単回線形増幅を実施し、cRNAにシアニン-3及びシアニン-5標識を導入した。cRNAをRNeasy Miniキット (Qiagen)を使用して精製した。1μlの全RNAを、NanoDrop ND-1000分光光度計(NanoDrop Technologies, Delaware)を使用して定量化した。シアニン-3で標識された750ngのUniversal Human Reference (Stratagene, La Jolla, CA)cRNA及び シアニン-5で標識された試験試料cRNAを、33296の遺伝子を表すとされるAgilent Whole Human Genome マイクロアレイ (Agilent Technologies, Palo Alto, CA)に投入する前に、60°Cで30分間断片化した。試料を、一定の回転で60°Cで18時間ハイブリダイズした。マイクロアレイを洗い、乾燥させ、製造者のプロトコルに従いアジレントのスキャナでスキャンした。マイクロアレイ画像ファイルを、アジレントのFeature Extraction software 7.5.版を使用して分析した。遺伝子を、Stratagene Universal Human Referenceを使用して正規化した。各サンプルのログ強度の分布を、プロットし異常値サンプル(すなわち平均から2標準偏差を超えるもの)を解析から除外した。全データセットは、National Center for Biotechnology InformationウェブサイトのGene Expression Omnibusにてオンラインで利用可能である。
リアルタイムPCR
リアルタイムPCR解析を、15人のCD及び6人のコントロールTI生検からのRNAの5遺伝子IL-8、SAA1、DEFA5及び6及びMMP3において実施した。IL-8及びSAA1を上皮性炎症の頑強マーカーとして選択し、DEFA5及び6をTI CDにおけるそれらの発現への高い関心のため選択した。リアルタイムPCR分析の前に一RNA増幅サイクルを、MessageAmp
TM II aRNA Amplification Kitプロコトル(Applied Biosystems, Foster City, CA)を使用して実行した。次に、逆転写PCRを、Stratagene model MX4000を使用して50ngのRNAについて実施した。TaqManプライマー及びプローブは社内で製造した(表4)。PCR条件は、30分間48°C、10分間95°Cを保持、続いて95°C30秒の溶融及び1分60°Cのアニール/伸長の40サイクルであった。産物の絶対定量を、RPL19に対して正規化することによって算出した。
データ分析
マイクロアレイデータを、Rosetta Resolver(登録商標)ソフトウェア (Rosetta Inpharmatics, Seattle)を使用して解析した。マイクロアレイデータの統計的有意性を、スチューデントの独立t検定によって決定した。p<0.01。倍率変化データをRosetta Resolverソフトウェアを使用して算出した。多重仮説検定を補正するために、各試験特性に対してq値を計算し、偽陽性率ではなく偽発見率(FDR)に関して有意性を推定した。各異なる発現分析についてq値を算出し、FDRをStorey等により提案された方法を使用して算出した(Proc Natl Acad Sci U S A 2003;100:9440-9445)。5%未満のFDRを、各々の提示分析に対して算出した。階層的クラスタリング分析をピアソン相関法を使用して行った。遺伝子オントロジー(Gene ontology)を、Ingenuityソフトウェア(Ingenuity Systems, Mountain View, CA)を使用して分析した。マン・ホイットニーのU検定を使用してリアルタイムPCRデータを解析した。p<0.05を有意とした。
遺伝子オントロジーを、Ingenuityソフトウェア(Ingenuity Systems, Mountain View, CA)を使用して分析した。6つの免疫細胞型の集合からのインシリコ免疫反応遺伝子のコレクションを使用して階層的クラスタリング分析を行った(Abbas等. Genes Immun 2005;6(4):319-31)。また、階層的クラスタリング分析を14の上皮細胞サイトカイン群-CXCL1、CXCL2 CXCL5、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CCL2、CCL4、CCL7、CCL20、IL-8、IL-12A、IL-23A及びMDKを使用して行った(Dwinell等. Gastroenterology 2001;120(1):49-59; Lee等. J Immunol 2008;181(9):6536-45; Yang等. Gastroenterology 1997;113(4):1214-23)。
結果
本研究の目的は、マイクロアレイ発現解析を使用して、CD患者及びコントロールにおいて結腸及び回腸末端における転写プロファイルを記述することであった。この無仮説スキャニングに加えて、GWAS及び細胞特異系譜解析により同定された生殖系多様体の発現も調査した。
教師なし階層的クラスタリング分析
全てのCD(n=99)及びコントロール生検(n=73)を、教師なし階層的クラスタリング解析を使用して共にクラスタ化した時に、疾病状態又は炎症の度合いによる生検の分離は観察されなかった。生検が採られた解剖学的部位を考慮した時、18のTI生検が共にクラスタ化された(6コントロール及び12CD)(p<0.001)。
図23はTI生検の教師なし階層的クラスタリング解析を示し、最初は患者の性別により交絡したが、ある程度の監視(supervision)を導入し女性患者及びコントロールからのTI生検のみをクラスタ化した時、疾病状態によるクラスタリングが観察された。
生物学的プロセスによりグループ化した593の下方制御された配列の遺伝子オントロジーは、カルボン酸代謝プロセス(全464遺伝子の内39遺伝子がオントロジーソフトウェアによりこの生物学的グループに分類された:OR 3.4, p=7x10-13)、有機酸代謝プロセス(38/464; OR 3.1 p=1x10-12)及び脂質代謝プロセス(46/620; OR 3.0, p=6.6x10-12)に関連する遺伝子の優勢を示した。下方制御された配列を生物学的機能によりグループ化した時、溶質/カチオン輸送体活性(23/188; OR 5.16, p=2.7x10-14)、電気化学ポテンシャル駆動輸送体活性(23/188; OR 5.16, p=2.7x10-14)及び溶質/ナトリウム輸送体活性(10/46; OR 10.1, p=2.4x10-13)の下グループ化された遺伝子は不釣合いに下方制御された。輸送体活性に関与する全遺伝子を包含するためにこれらの遺伝子のグループを組合せた時、下方制御された遺伝子におけるこのグループの著しい過剰提示が見られた(64/1138; OR 2.3, p=3.6x10-
367配列が、コントロールと比較してCD試料のサブセットで上方制御された。生物学的プロセスによりグループ化したこれらの遺伝子のオントロジーは、構造分子活性(22/603; OR 2.62, p=4.5x10-5)及び細胞外マトリックス構造成分(6/87; OR 5.5, p=0.0003)にグループ化した遺伝子が過剰発現されるのを示した。生物学的機能によりグループ化した時、上方制御された遺伝子は配列特異的DNA結合(11/430; OR 2.28, p=0.007)及び転写因子活性(20/810; OR 1.7, p=0.043)にグループ化された。
クローン病及びコントロールにおける遺伝子発現
99のCD生検が73のコントロール生検と比較した時、259配列が上方制御され87配列が下方制御された(図24)。CD生検において特に上方制御された遺伝子は、急性期タンパク質血清アミロイドA1(SAA1; FC +7.5, p=1.47x10-41)、再生C型レクチンファミリーメンバー(REGL; FC +7.3, p=2.3x10-16)、急性期タンパク質(S100A9; FC +4.4, p=2.4x10-22)及び(S100A8; FC +4.0, p= 3.5x10-18)を含んだ。粘膜炎症の頑強マーカーIL-8は6番目に最も上方制御された遺伝子であった(FC +3.6, p=5.6x10-19)。最も下方制御された遺伝子では、細胞解毒に関与する遺伝子-(SLC14A2; FC -2.49, p=0.00002)、(炭酸脱水酵素2; FC -2.4, p=8.4x10-10)及び(炭酸脱水酵素1; FC -2.3, p=7.5x10-6)があった。
回腸末端における遺伝子発現
6の非炎症性生検、7の慢性炎症性生検及び3の急性炎症性生検から成る、CD患者16人からのTI生検を、6の健康なコントロールTI生検と比較した。全てのCD回腸末端(TI)生検をコントロールTI生検と比較した時、1045配列が1.5より大きい倍率変化であり、1044配列は-1.5未満の倍率変化であった(p<0.01)(図25)。CD生検における興味深い上方制御された遺伝子は、シナプス伝達に関与するジユビキチン(UBD);FC +11.3, p<1x10
-45 、(MMP3; FC +7.4, p=1.3x10
-11)、(IL-8; FC +4.9, p=2.3x10
-8)、(粘膜表面バリヤを維持するために胃腸管において作用するトレフォイル因子1(TFF1); FC +4.3, p=1.3x10
-7)及びサイトカイン (ケラチン5β; FC +4.2, p=0.005) を含んだ(表5)。下方制御された遺伝子は、免疫関連遺伝子(IRTA1-新規表面B細胞受容体; FC -11.1, p=4.7x10
-12)、(CCL23; FC -7.1, p=1.6x10
-10)、(CXCR4; FC -6.0, p=8.2x10
-18)、及びコレステロール代謝に関与する遺伝子(APOC3; FC -8.2, p=7.0x10
-8)及び(APOA1; FC -6.9, p=0.0031)を含んだ。
結腸遺伝子発現分析
生検の解剖学的位置に関連する異なる遺伝子発現の影響を最小化するために、S状結腸生検を解析のために使用した(Noble等. Gut 2008, Oct;57(10):1398-405)。また、急性炎症性発現特性を排除するために、非炎症性CD生検(n=17)を非炎症性コントロール生検(n=18)と比較した(図26)。SAA1が依然最も上方制御された遺伝子であり;FC +6.3, p=5.3x10-8 全体で279配列が上方制御された。349配列が下方制御され、最も下方制御された遺伝子は(MMP1; FC -3.6, p=2.4x10-15)、(CXCL13; FC ?2.7, p=0.005)及びTSLP-胸腺間質性リンパタンパク質; FC -2.3, p=2.7x10-6(表6)を含んだ。
S状結腸において急性炎症シグナルを調査し、16の炎症性CD生検を17の非炎症性CD生検と比較した時、279配列は上方制御され、148配列は下方制御された(図27)。炎症性生検において最も上方制御された遺伝子は、OLFM4-抗アポトーシス分子でありカスパーゼカスケードを阻害し、またGRIM19に結合する; FC +6.2, p=2.9x10-14。下方制御された遺伝子は、有機溶質担体(SLC38A4; FC -2.7, p=0.005)、(SLC26A2; FC -2.5, p=0.00001)及び(OSTアルファ; FC -2.5, p=0.008)を含んだ。
GWASメタアナリシスによる遺伝子の発現
Barrett等によりGWASメタアナリシスで同定された感受性遺伝子の発現(Nat Genet 2008, Aug;40(8):955-62)を、IL-23及びオートファジー経路の更なる詳細な分析と共に調査した(表7)。コントロールと比較してCD生検において上方制御された遺伝子は、(NOD2/CARD15; FC +1.23, p=0.000243) (PTGER4-プロスタグランジンE受容体4; FC +1.1, p=0.00010)及びNKX2.3、3エクソンホメオボックス遺伝子; FC +1.37, p=0.001を含んだ。細胞周期調節遺伝子(CDKAL1; FC -1.1, p=0.0096)は、コントロールと比較してCD生検において下方制御された。IGRMに対するアジレントチップにおいて何の発現データも示されず、TNFSF15、PTPN22、ICOSLG、ITLN1、ZNF365、LRRK2及びPTPN2の発現を調査した時、疾病グループ間で何の差異も観察されなかった。
炎症性及び非炎症性CDのS状結腸生検を比較した時、MST1-マクロファージ刺激タンパク質; FC -1.58, p=0.0037及び(C11orf30; FC -1.22, p=0.0078)が炎症性生検において下方制御された。
IL-23経路
図28はコントロールと比較したCDを示し(IL-23A/p19; FC +2.32, p=0.000099), (TYK2; FC +1.18, p=0.0052)及び(JAK2; FC +1.90, p=9.4x10-7)、(STAT3; FC +2.23, p=0.0004)、(INFγ; FC +2.31, p=0.0019)及び(IL17F; FC +1.11, p<0.0001)がCD生検において著しく上方制御された。炎症性CD生検を非炎症性CD生検と比較した時(IL-23A/p19; FC +2.11, p=0.000031)、(TYK2; FC +1.14, p=0.0052)、(JAK2; FC +1.90, p=0.00003)、(STAT3; FC +1.66, p=0.0002)及び(INFγ; FC +2.33, p<0.0001)が炎症性生検において発現が増加された。IL-23R発現においては有意な変化は観察されなかった。
オートファジー経路
図29は、ATG16LI及びオートファジー経路の19の他の遺伝子及び主要調整因子に対する分析を示す。ATG16LIは、(ATG4D; FC -1.14, p=0.0007)及び(ATG3; FC -1.06, p=0.0052)と同様にコントロールと比較して炎症状態にかかわらずCD生検において下方制御された;FC -1.16, p=1.96x10-5。(ATG12; FC +1.1, p=0.041)、(ATG16L2; FC +1.1, p=0.045)及び(LC3B; FC +1.18, p=0.0003)は、コントロールと比較してCD生検においてわずかに上方制御された。
特定のプローブサブセットによる階層的クラスタ解析:インシリコ免疫反応(IRIS)プローブ
異なる発現を検出するために所定のIRISを使用して、上行及び下行結腸からのCD及びコントロール生検を比較した(Abbas等. Genes Immun 2005;6(4):319-31)。B細胞、単球及びT細胞プローブを用い、我々は、教師なしクラスタリングによる生検のCD及びコントロール生検への分離を観察することをができた-カイ二乗検定を用いB細胞プローブ(p=0.0006, OR 2.74)、単球プローブ(p<0.0001 OR 5.22)及びT細胞プローブ(p=0.0047 OR 2.4) 。単球クラスタでは遺伝子CXCL1及びMMP1が、CD生検及びコントロールで顕著に異なって調節された。検査された何れのプローブに対しても、TIクラスタ化は観察されなかった。
上皮性細胞マーカーによる階層的クラスタ解析
図30は、14の上皮性細胞サイトカインのパネル、CXCL1、CXCL2 CXCL5、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CCL2、CCL4、IL-8、CCL7(CCL20)IL-12A、IL-23A、及びMDKを使用した教師なしクラスタ解析を示し(Dwinell等, Gastroenterology 2001; 120(1):49-59; Lee等, J. Immunol. 2008; 181(9):6536-45; Yang等, Gastroenteroloty 1997;113 (4):1214-23)、CD患者及びコントロールからの結腸生検間に明らかな分離を示した(p<0.00001)。TI生検を考慮した時、この分離は観察されなかった(p=0.052)。
マイクロアレイ結果のリアルタイムPCR確認
生検の組織学的分類、及びマイクロアレイ結果と一致して、コントロールTI生検と比較したCD TI生検において(p=0.0045)及び非炎症性CD TI生検と比較した炎症性CD TI生検において(p=0.0046)著しく高いIL-8レベルが観察された(表8)。傾向はSAA1にも観察され、コントロールと比較したCD生検において、及び非炎症性CD TI生検と比較した炎症性においてより高く発現された。CD TI生検のコントロールTI生検との比較おいてDEFA5及び6発現の差は観察されず(それぞれp=0.73及びp=0.97)、炎症性CD TI生検とが非炎症性CD TI生検を比較した場合も観察されなかった(それぞれp=0.39及びp=0.69)。
考察
この正確に表現型化されたデータセットにおいて、CD患者及びコントロールの全ゲノム発現プロファイルを調べるためにクラスタ解析を使用した。現在ほとんどデータが入手できないGWASからの多数の新規なCD感受性遺伝子に対して、我々はヒト結腸及びTIにおける発現プロファイルを調査することができた。
マイクロアレイ発現データの再現性に対する現在の懸念においては、我々の結果が、S100及びREG遺伝子ファミリーの増加された発現が観察されたCD患者における過去のマイクロアレイ研究の知見と一致することはまず安心させることである。(Lawrance等. Hum Mol Genet 2001;10(5):445-56)。更に、Costello等の結果と平行して我々は異なって発現される新規なタンパク質を表す多くの配列を観察し、またオントロジー及びインシリコ分析を用いて我々は遺伝子をCD病変形成に関連した機能に特徴付けることができた。(Costello等. PLoS Med 2005;2(8):e199)
これは、全ゲノム発現がCD患者及びコントロールからの非プールTI内視鏡生検において調査された最初の研究である。クラスタ解析は、CD患者及びコントロールからの生検を区別することを我々に可能にし、観察された分離は、TIの正常のホメオスタシス-有機酸及び脂質代謝プロセス、及び溶質/カチオン輸送体活性に関与する下方制御された遺伝子クラスタ、及び構造分子活性にグループ化される上方制御された遺伝子クラスタによって推進された。コントロールTI生検と比較したCDにおいて最も上方制御された遺伝子は、ジユビキチン又はユビキチン様タンパク質FAT10であった。ユビキチン様タンパク質のファミリーは、真核生物細胞におけるタンパク質分解の重要な経路であるユビキチン・プロテアソーム系の一部として機能する(Madsen等, BMC.Biochem. 2007;8 Suppl 1:S1)。該遺伝子は、第6染色体上の主要組織適合遺伝子複合体遺伝子座に位置し(Fan等, Immunogenetics 1996;44(2):97-103)、確立されたCD感受性遺伝子座及びその発現は、90%の肝細胞癌及び80%の結腸癌において増加されることが観察された(Lee等,ジユビキチンはp53の下流の標的であり、p53欠損細胞においてその発現は増加され染色体不安定性を導く(Ren等, J.Biol.Chem. 21-4-2006;281(16):11413-21; Zhang等., Oncogene 2006;25(16):2318-27)。全CD生検がコントロールと比較された時、このデータセット全体で、1.5の倍率変化でジユビキチンは上方制御された。更に、肝細胞性癌及び結腸癌におけるジユビキチン発現は、IFN-γ及びTNFαの発現増加と相関し、この炎症促進性環境における発癌機構を示唆する(Lukasiak等, Oncogene 9-10-2008;27(46):6068-74)。
TI生検にて観察された異なる発現特性は、疾患特異的よりむしろ主に炎症性駆動と考えられ、なぜなら、炎症性及び非炎症性CD生検が比較された時より非炎症性分析において変化が不明瞭だったからである。これらの調節不全のプローブは、回腸CDを診断してその重症度をグレード化することを助けるための診断用発現チップの基礎を形成することを可能にした。
TI分析における別の注目すべき観察は、生検における炎症の程度にかかわらず、CD患者及びコントロールのαデフェンシン5及び6(DEFA5&6)の発現にデータが何の違いも示さないことである。これらの結果は、リアルタイムPCRによって確認され、炎症の程度にかかわらずCD患者のTIにおいて低減されたDEFA5及び6発現が観察された過去のデータと反対である(Wehkamp等. Proc Natl Acad Sci U S A 2005;102(50):18129-34)。
最近では、Simms等もまた、DEFA5及び6の発現がTI CD生検で下方調整されることを示した(Simms等. Gut 2008;57(7):903-10)。しかしながら、この下方制御は、炎症特異性であり、おそらく持続的炎症の結果としての上皮層の損失及び上皮及びパネート細胞の減少を反映する。我々のデータセットにおいて、CD患者のS状結腸生検にてDEFA5及び6の発現増加が観察され、これは生検の炎症の程度と相関した。以前に我々は、UC患者のDEFA5及び6の結腸発現における増加は、パネート細胞化生により主に媒介され、また、結腸において上方制御されたパネート細胞分化及びDEFA5&6発現に伴う増加は粘膜炎症を永続させ得ることを示した(Noble等. Gut 2008, Oct;57(10):1398-405)。
結腸分析をUCにおける我々の過去の発現研究と比較した時、コントロールと比較したそれぞれのCD及びUC分析における異なって調節された遺伝子間に23%の相同性があった(Noble等. Gut 2008, Oct;57(10):1398-405)。CD生検で観察された結腸炎症性発現特性はまた、UC生検で観察されたものと類似し、双方のデータセットにおいて最も異なって調節された遺伝子の一つは血清アミロイドA1(SAA1)であった。
SAA1はHLA-関連アポリポ蛋白急性期反応物質であり、炎症、外傷及び異常増殖においてレベルは上昇する。その転写は、炎症促進性サイトカインIL-2、IL-6、TNFα及び細菌LPSにより誘導され、関節リウマチ又はCD等の慢性免疫介在疾患における二次性AAアミロイドーシスの進行に対する主要要因である。(Gutfeld等. J Histochem Cytochem 2006;54(1):63-73)。CDにおいて反応性AAアミロイドーシスは希であり、SAA1のより魅力的な役割は、そのTNFαによる誘導のため、疾病活性、重症度、及び潜在性のマーカーとしての抗TNF療法に対する応答の予測因子だろう。
CDでの一般的なTh1及び新規Th17パラダイムを反映する結腸CD生検における発現の更なる興味深い変化は、非炎症性コントロールと比較した非炎症性結腸CDサンプルにおける胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)のダウンレギュレーションであった。TSLPは、CD4+T細胞のTh2分化を促進するその作用を樹状細胞を通して媒介するサイトカインである(Al Shami等 J Exp Med 2005;202(6):829-39)。更には、内因性IκBキナーゼ欠失腸上皮性細胞(IEC)のマウスは、低減されたTSLP発現を有し、結果として乏しいTh2免疫反応を持ち感染を根絶することが不可能となる(Zaph 等. Nature 2007;446(7135):552-6)。これらのマウスは、樹状細胞誘導Th1及びTh17経路活性化の結果として高度の腸炎も発生し、非炎症性ヒトCD結腸において、TSLPのレベルがその後の持続的で過剰な炎症を永続化し得ると推測することは興味深い。
CD感受性遺伝子としてのIL-23Rの同定は、研究を異なるTh17系譜へ集中させた(Cho等. Gastroenterology 2007;133(4):1327-39)。我々はこの炎症促進性の多くの構成要素-IL-23A、TYK2、STAT3、JAK2、IFNγ及びIL-17の発現が、コントロールと比較してCDにおいて増加されること、及びこの変化が休止期疾患ではなく活動性疾患により推進されることを観察した。これらの説得力のある遺伝子及び発現データは、CDの病変形成における炎症促進性経路の重要性を強調する。多数の治療標的がこの経路において同定され、IL-23のp40サブユニットに対するモノクローナル抗体の臨床試験は有望な早期臨床データを生じた(Sandborn等. Gastroenterology 2008;135(4):1130-41)。
CD特異的な感受性遺伝子としてのATG16L1の発見は、オートファジー経路をCDの病変形成に強く関係付けた。オートファジーは高く保存された細胞プロセスであり、細胞は自身の細胞形質の一部を消化し、細胞から毒性物質又は細胞内細菌を取除く通常の生理応答として機能する。経路はアルツハイマー病及びパーキンソン病などの神経変性疾患の病変形成にも関係した。
我々のデータセットでは、我々が調査した20のオートファジー遺伝子の内6が調節不全であり、CDにおけるこの経路の重要性を強調する。最近のデータは、自然免疫反応及びオートファジーをToll-様レセプター(TLR)を介して連結させた(Sanjuan等. Nature 2007;450(7173):1253-7)。マクロファージ内でのTLR誘導ファゴソームは、ATG5及びATG7媒介の酸性化を誘発し、摂取生物の殺害を強化した。自然免疫系及びオートファジー経路間のこれらの相互作用は、研究者にNOD2/CARD15及びオートファジー間の特異的相互作用について推測させ、そしてこれは活発な研究分野である。例えば、NOD1及びNOD2は、細胞への細菌侵入部位での原形質膜にATG16L1を動員することが示され、NOD2変異細胞ではこの反応は損なわれている(Travassos等, Nat.Immunol. 8-11-2009)。
全ゲノム発現を解釈する別の方法は、細胞系譜に関係した遺伝子のサブセットを用いてサンプルをクラスタ化する(Abbas等. Genes Immun 2005;6(4):319-31)。我々は、我々のサンプルにおいて主要免疫細胞タイプからの遺伝子によって分離することでこの分析を試み、結腸生検のクラスタリングを観察した。これにより、我々は生検における免疫細胞浸潤を明瞭に同定し最も異なって発現される遺伝子を特徴付けることが出来る。これらの発現特性はまた、未知の機能の遺伝子への洞察を取得するために及び健常及び異なる免疫介在疾患において免疫細胞分化を調べるための資源を提供するために使用されることができる。
最終的な関心領域は、炎症プロセスにおける腸上皮性細胞(IEC)の役割であった。我々が調査した14のIECマーカーは、CD患者とコントロールを分離する優れた能力をクラスタ解析により示し、大部分のケモカインは慢性CD生検において炎症依存的に上方制御された。これらの結果は、調整されたIEC炎症性反応において、ケモカインのサブセットCXCLs 1-3及びCCL20がそれらの受容体と共に慢性IBDにおいて上方制御されることを観察したPulestonと同僚からの過去のデータと一致した(Puleston等. Aliment Pharmacol Ther 2005;21(2):109-20)。これらのケモカインの上方制御は、既知の白血球ケモカインより著しく高く、結腸炎症におけるIECの中心的役割を強調する。
ヒト結腸IBD生検、ヒト結腸細胞株及びヒト胎児腸異種移植片で実施された更なる研究は全て、CD及びUC双方の結腸にて観察される病原性炎症反応を媒介、調整、及び持続させることにおけるIECの中心的役割を確認した(Dwinell等. Gastroenterology 2001;120(1):49-59; Banks等. J Pathol 2003;199(1):28-35; Kwon等. Gut 2002;51(6):818-26)。
このデータの強みは、我々が解析した生検の数、サンプルの貯蔵の欠乏、及び生検の炎症状態、及びそれらの解剖学的位置への厳密な注意であった。我々のデータは、また、炎症性腸疾患の過去の発現研究と一致し、IL-23及びオートファジー経路の詳細分析と共に優れたヒト結腸及び回腸発現データを提供することにおいて最近の全ゲノム相関解析に多くを加える。
最後に、この有益なデータセットは、粘膜レベルでのCDの病変形成の新規な洞察を得ることを可能にした。データは、IL-23及びオートファジー経路の詳細分析と共に優れたヒト結腸及び回腸発現データを提供することにおいて最近の全ゲノム相関解析にかなりを加える。これらの興味深い新しい候補遺伝子並びにIEC特異的分析の徹底した分析は、更なる調査に値する多くの潜在的治療薬を生成した。