以下に、本願の開示する増幅器、送信装置およびゲート電圧決定方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
まず、実施例の説明を行う前に、増幅器に含まれるGaN−FETデバイスのIdqドリフトについて説明する。Idqドリフトとは、例えば、GaN−FETデバイスにおける初期設定のアイドル電流(Idq)が各種の条件下で変動する現象である。なお、アイドル電流は、GaN−FETデバイスに信号が印加されていない状態でのドレイン電流である。
Idqドリフトが発生する条件としては、増幅器の定格出力電力を高出力から低出力に下げた場合に発生する。特に、かかるIdqドリフトは、GaN−FETデバイスが低温の場合に顕著に発生し、高温の場合には発生しない。
図1は、Idqドリフトが発生した場合におけるGaN−FETデバイスの特性を示す図である。図1に示すように、GaN−FETデバイスが25℃以上の高温である場合には、Idqの設定値は初期設定値500mAから変動しない。一方、GaN−FETデバイスの温度低下にともなって、Idqは、大幅に低下する。例えば、−40℃の低温になると、GaN−FETデバイスのIdqは、0.5mAとなる。
図2は、Idqドリフトが発生した場合におけるGaN−FETの出力電力と利得との関係を示す図である。図2に示すように、飽和時の出力電力P1に対するGaN−FETデバイスの利得はG1である。しかし、温度低下にともなってIdqが下がり、Idqが低い状態で、出力電力を飽和時の高出力側から低出力側に下げると、GaN−FETデバイスの利得が大幅に低下する。例えば、図2の例では、Idqが低い状態で、出力電力を飽和時のP1から低出力側のP2に下げると、GaN−FETデバイスの利得がG1からG2に低下してしまう。
このように、GaN−FETデバイスを利用した増幅器では、低温時に出力電力を高出力から低出力に制御した場合に、Idqが規定値以下となるIdqドリフトが発生し、IdqドリフトによりGaN−FETデバイスの利得が変動する。したがって、温度や電力が閾値以下となりGaN−FETデバイスが低温の状態や低出力の状態となった場合には、IdqドリフトによりGaN−FETデバイスの利得が低下していることが考えられる。
そこで、以下の実施例では、温度や電力などの所定値をモニタする。そして、モニタした所定値に基づいてGaN−FETデバイスのゲート電圧を増加させるか否かを判定し、増加させると判定した場合に、所定値に応じてGaN−FETデバイスのゲート電圧を増加させる。このように、低温時や低出力時にGaN−FETデバイスのゲート電圧を増加させれば、Idqが上昇しGaN−FETデバイスの発熱量が増加するので、IdqドリフトによるGaN−FETデバイスの利得の変動を解消できる。
次に、実施例1に係る送信装置を説明する。実施例1に係る送信装置は、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として温度を検出し、検出した温度の値が閾値以下となるか否かを判定する。そして、送信装置は、温度の値が閾値以下となる場合に、IdqドリフトによるGaN−FETデバイスの利得の変動が発生したと判定し、GaN−FETデバイスのゲート電圧を増加させる。
図3は、実施例1に係る送信装置100の構成を示す図である。図3に示すように、送信装置100は、歪補償処理回路110、D/A(Digital/Analog)変換器120、変調器130、増幅器140、カプラ150、アンテナ160、周波数変換器170およびA/D(Analog/Digital)変換器180を有する。
歪補償処理回路110は、ベースバンド(BB(BaseBand))信号に対して歪補償処理を行い、歪補償処理後の信号をD/A変換器120へ出力する。具体的には、歪補償処理回路110は、歪補償部111、歪補償係数記憶部112および歪補償係数更新部113を有する。
歪補償部111は、BB信号に対して歪補償処理(プリディストーション)を行う。具体的には、歪補償部111は、BB信号の電力に対応する歪補償係数を歪補償係数記憶部112から取得し、取得した歪補償係数を用いてBB信号に対して歪補償処理を行う。
歪補償係数記憶部112は、BB信号の電力に対応する歪補償係数を記憶する。歪補償係数は、増幅器140に含まれる後述のGaN−FETデバイス141の利得の線形性を維持するための補正値であり、GaN−FETデバイス141の利得を反転した値となる。なお、歪補償係数記憶部112は、例えば、LUT(LookUp Table)に相当する。
歪補償係数更新部113は、BB信号と、カプラ150、周波数変換器170およびA/D変換器180を介して増幅器140からフィードバックされるフィードバック信号とに基づいて歪補償係数を演算する。例えば、歪補償係数更新部113は、LMS(Least Mean Square)アルゴリズムを用いた適用信号処理により、BB信号とフィードバック信号とを比較し、双方の信号の差が零になるように歪補償係数を演算する。また、歪補償係数更新部113は、演算後の歪補償係数により、歪補償係数記憶部112に記憶された対応する歪補償係数を更新する。
D/A変換器120は、歪補償処理回路110から入力されるデジタルの信号をアナログの信号に変換し、変換後の信号を変調器130に出力する。変調器130は、D/A変換器120から入力される信号を変調し、変調後の信号を増幅器140に出力する。
増幅器140は、変調器130から入力される信号をGaN−FETデバイスを利用して増幅し、増幅後の信号をカプラ150に出力する。また、増幅器140は、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために温度を検出し、検出した温度に基づいてGaN−FETデバイスのゲート電圧を増加させ、Idqを上昇させる。なお、増幅器140の具体的な構成については後述する。
カプラ150は、増幅器140から入力される信号を分岐してアンテナ160および周波数変換器170に出力する。カプラ150から周波数変換器170へ出力される信号は、増幅器140からフィードバックされるフィードバック信号に相当する。周波数変換器170は、カプラ150から入力されるフィードバック信号の周波数を変換し、変換後のフィードバック信号をA/D変換器180に出力する。A/D変換器180は、周波数変換器170から入力されるアナログのフィードバック信号をデジタルのフィードバック信号に変換し、変換後のフィードバック信号を歪補償処理回路110に出力する。アンテナ160は、カプラ150から入力される信号を空間に放射する。
ここで、増幅器140の具体的な構成について説明する。増幅器140は、図3に示すように、GaN−FETデバイス141、温度検出部142、ゲート電圧増加判定部143、最適値記憶部144、ゲート電圧決定部145およびゲート電圧調整部146を有する。
GaN−FETデバイス141は、ゲート端子に印加されるゲート電圧に応じて信号を増幅する増幅素子である。具体的には、GaN−FETデバイス141は、ゲート電圧調整部146によりゲート端子に印加されるゲート電圧に応じて、変調器130から入力される信号を増幅する。また、GaN−FETデバイス141の利得は、図1および図2で既に説明したように、Idqドリフトの発生により変動する。
温度検出部142は、GaN−FETデバイス141の利得の変動を監視するために用いられる所定値の一つとして送信装置100の温度を検出し、検出した送信装置100の温度の値をゲート電圧増加判定部143およびゲート電圧決定部145に出力する。なお、ここでは、温度検出部142が送信装置100の温度を検出することとしたが、これに限られず、GaN−FETデバイス141の温度を検出することとしてもよい。この場合には、温度検出部142がGaN−FETデバイス141に設置されるのがよい。
ゲート電圧増加判定部143は、温度検出部142から温度の値を取得し、取得した温度の値に基づいて、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させるか否かを判定する。具体的には、ゲート電圧増加判定部143は、取得した温度の値が閾値以下である場合には、GaN−FETデバイス141が低温の状態となっているため、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させると判定する。一方、ゲート電圧増加判定部143は、取得した温度の値が閾値を超える場合に、GaN−FETデバイス141が低温の状態となっていないため、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させないと判定する。また、ゲート電圧増加判定部143は、判定結果をゲート電圧決定部145に出力する。
最適値記憶部144は、送信装置100の温度の値とGaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値とを対応付けて記憶する。以下では、GaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値を、単に「最適値」と表記することがあるものとする。
図4は、最適値記憶部144の一例を示す図である。図4に示すように、最適値記憶部144は、送信装置100の温度の値である「温度」と、GaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値である「ゲート電圧」とを対応付けて記憶する。例えば、図4に示す1段目は、送信装置100の温度の値が「0℃」である場合に、GaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値が「−1.2V」であることを示す。また、例えば、図4に示す2段目は、送信装置100の温度の値が「−5℃」である場合に、GaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値が「−1.1875V」であることを示す。なお、図4に示す1段目は、ゲート電圧増加判定部143がGaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させるか否かを判定する際に用いる閾値が「0℃」であることを示す。
また、最適値記憶部144に記憶された最適値は、送信装置100の温度の値が低下するに連れて増加する。つまり、GaN−FETデバイス141のゲート電圧は、送信装置100が低温になるほど増加する。図4に示した例では、最適値である「ゲート電圧」は、「温度」が「0℃」、「−5℃」、…、「−40℃」のように低下するに連れて、「−1.2V」、「−1.1875V」、…、「−1.1V」のように増加する。
なお、最適値は、送信装置100の温度の値の低下に応じて線形的に増加したり、2次関数的に増加したり、指数関数的に増加してもよい。かかる最適値の増加勾配は、設計者により適宜調整される。
図3に戻り、ゲート電圧決定部145は、ゲート電圧増加判定部143から判定結果を取得し、温度検出部142から温度の値を取得する。ゲート電圧決定部145は、判定結果に応じてGaN−FETデバイス141の増加後のゲート電圧の値をゲート電圧調整部146に出力する。具体的には、ゲート電圧決定部145は、ゲート電圧を増加させる旨の判定結果を取得した場合に、最適値記憶部144を参照して温度の値に対応する最適値を取得し、取得した最適値を増加後のゲート電圧として決定する。そして、ゲート電圧決定部145は、決定した増加後のゲート電圧の値をゲート電圧調整部146に出力する。一方、ゲート電圧決定部145は、ゲート電圧を増加させない旨の判定結果を取得した場合に、ゲート電圧の値をゲート電圧調整部146に出力しない。
ゲート電圧調整部146は、ゲート電圧決定部145から増加後のゲート電圧の値を取得した場合に、取得した増加後のゲート電圧の値となるようにGaN−FETデバイス141のゲート電圧をポテンショメータにより調整する。
ここで、図2に示した例を用いて、ゲート電圧を増加させる旨の判定結果を取得した場合のゲート電圧決定部145による処理の具体例を説明する。まず、ゲート電圧決定部145が温度検出部142から温度の値「−5℃」を取得した場合を説明する。この場合、ゲート電圧決定部145は、最適値記憶部144を参照して温度の値「−5℃」に対応する最適値「−1.1875V」を取得する。そして、ゲート電圧決定部145は、取得した最適値「−1.1875V」を増幅後のゲート電圧として決定し、決定した増幅後のゲート電圧の値「−1.1875V」をゲート電圧調整部146に出力する。これにより、GaN−FETデバイス141のゲート電圧が、前回の値から「−1.1875V」に増加する。
次いで、ゲート電圧決定部145が温度検出部142から温度の値「−20℃」を取得した場合を説明する。この場合、ゲート電圧決定部145は、最適値記憶部144を参照して温度の値「−20℃」に対応する最適値「−1.15V」を取得する。そして、ゲート電圧決定部145は、取得した最適値「−1.15V」を増幅後のゲート電圧として決定し、決定した増幅後のゲート電圧「−1.15V」をゲート電圧調整部146に出力する。これにより、GaN−FETデバイス141のゲート電圧が、「−1.1875V」から「−1.15V」に増加する。
このようにして、ゲート電圧決定部145は、送信装置100の温度の値が低下するほど、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させる。すると、Idqが上昇しGaN−FETデバイス141の発熱量が増加するので、IdqドリフトによるGaN−FETデバイスの利得の変動を解消することが可能となる。
次に、実施例1に係る増幅器140によるゲート電圧決定処理の処理手順について説明する。図5は、実施例1に係る増幅器140によるゲート電圧決定処理の処理手順を示すフローチャートである。図5に示すように、増幅器140の温度検出部142は、送信装置100の温度を検出する(ステップS101)。
ゲート電圧増加判定部143は、温度検出部142により検出された温度に基づいて、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させるか否かを判定する(ステップS102)。具体的には、ゲート電圧増加判定部143は、温度の値が閾値以下である場合には、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させると判定する。一方、ゲート電圧増加判定部143は、温度の値が閾値を超える場合には、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させないと判定する。
ゲート電圧決定部145は、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させない場合には(ステップS103否定)、処理をステップS101に戻す。一方、ゲート電圧決定部145が、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させると判定した場合には(ステップS103肯定)、ゲート電圧決定部145は、最適値記憶部144を参照する。そして、ゲート電圧決定部145は、温度検出部142により検出された温度の値に対応する最適値を最適値記憶部144から取得し(ステップS104)、取得した最適値を増加後のゲート電圧として決定し(ステップS105)、処理をステップS101に戻す。
上述してきたように、実施例1に係る送信装置100は、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として温度を検出し、検出した温度の値が閾値以下となるか否かを判定する。そして、送信装置100は、温度の値が閾値以下となる場合に、温度の値に応じてGaN−FETデバイスの増幅後のゲート電圧を決定する。このため、送信装置100は、Idqが顕著に発生する低温時のGaN−FETデバイスのゲート電圧を増加させることができ、Idqを上昇させてGaN−FETデバイスの発熱量を増加させることができる。その結果、送信装置100は、Idqドリフトにより発生するGaN−FETデバイスの利得の変動を解消することができる。
また、実施例1に係る送信装置100は、温度の値とゲート電圧の最適値とを対応付けて記憶する最適値記憶部144を参照することにより、温度の値に対応する最適値をGaN−FETデバイスの増幅後のゲート電圧として決定する。このため、送信装置100は、温度の値に応じてゲート電圧を動的に調整する手法と比較すると、ゲート電圧の最適値を探索する時間を短縮することができるので、低温時のGaN−FETデバイスのゲート電圧を迅速に増加させることができる。その結果、送信装置100は、Idqドリフトにより発生するGaN−FETデバイスの利得の変動を効率よく解消することができる。
上記実施例1では、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として温度を検出する構成について説明した。しかし、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として入力電力を検出することもできる。そこで、実施例3では、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として入力電力を検出する例について説明する。
図6は、実施例2に係る送信装置200の構成を示す図である。なお、以下では、図3において前述した実施例1と同様の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。図6に示すように、送信装置200は、歪補償処理回路110、D/A変換器120、変調器130、増幅器240、カプラ150、アンテナ160、周波数変換器170およびA/D変換器180を有する。
増幅器240は、変調器130から入力される信号をGaN−FETデバイスを利用して増幅し、増幅後の信号をカプラ150に出力する。また、増幅器240は、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために入力電力を検出し、検出した入力電力に基づいてGaN−FETデバイスのゲート電圧を増加させ、Idqを上昇させる。
具体的には、増幅器240は、GaN−FETデバイス141、入力電力検出部242、ゲート電圧増加判定部243、最適値記憶部244、ゲート電圧決定部245およびゲート電圧調整部146を有する。
入力電力検出部242は、GaN−FETデバイス141の利得の変動を監視するために用いられる所定値の一つとして送信装置200の入力電力を検出し、検出した入力電力の値をゲート電圧増加判定部243およびゲート電圧決定部245に出力する。なお、ここでは、入力電力検出部242が送信装置100の入力電力を検出することとしたが、これに限られず、GaN−FETデバイス141の入力電力を検出することとしてもよい。この場合には、入力電力検出部242がGaN−FETデバイス141に設置されるのがよい。
ゲート電圧増加判定部243は、入力電力検出部242から入力電力の値を取得し、取得した入力電力の値に基づいて、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させるか否かを判定する。具体的には、ゲート電圧増加判定部243は、取得した入力電力の値が閾値以下である場合には、GaN−FETデバイス141が低出力の状態となっているため、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させると判定する。一方、ゲート電圧増加判定部243は、取得した入力電力の値が閾値を超える場合に、GaN−FETデバイス141が低出力の状態となっていないため、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させないと判定する。また、ゲート電圧増加判定部243は、判定結果をゲート電圧決定部245に出力する。
最適値記憶部244は、送信装置200の入力電力の値とGaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値とを対応付けて記憶する。以下では、GaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値を、単に「最適値」と表記することがあるものとする。
図7は、最適値記憶部244の一例を示す図である。図7に示すように、最適値記憶部244は、送信装置200の入力電力の値である「入力電力」と、GaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値である「ゲート電圧」とを対応付けて記憶する。例えば、図7に示す1段目は、送信装置200の入力電力の値が「30dBm」である場合に、GaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値が「−1.2V」であることを示す。また、例えば、図7に示す2段目は、送信装置200の温度の値が「28dBm」である場合に、GaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値が「−1.1875V」であることを示す。なお、図7に示す1段目は、ゲート電圧増加判定部243がGaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させるか否かを判定する際に用いる閾値が「30dBm」であることを示す。
また、最適値記憶部244に記憶された最適値は、送信装置200の入力電力の値が低下するに連れて増加する。つまり、GaN−FETデバイス141のゲート電圧は、送信装置200が低出力になるほど増加する。図7に示した例では、最適値である「ゲート電圧」は、「入力電力」が「30dBm」、「28dBm」、…、「14dBm」のように低下するに連れて、「−1.2V」、「−1.1875V」、…、「−1.1V」のように増加する。
なお、最適値は、送信装置200の入力電力の値の低下に応じて線形的に増加したり、2次関数的に増加したり、指数関数的に増加してもよい。かかる最適値の増加勾配は、設計者により適宜調整される。
図6に戻り、ゲート電圧決定部245は、ゲート電圧増加判定部243から判定結果を取得し、入力電力検出部242から入力電力の値を取得する。ゲート電圧決定部245は、判定結果に応じてGaN−FETデバイス141の増加後のゲート電圧の値をゲート電圧調整部146に出力する。具体的には、ゲート電圧決定部245は、ゲート電圧を増加させる旨の判定結果を取得した場合に、最適値記憶部244を参照して入力電力の値に対応する最適値を取得し、取得した最適値を増加後のゲート電圧として決定する。そして、ゲート電圧決定部245は、決定した増加後のゲート電圧の値をゲート電圧調整部146に出力する。一方、ゲート電圧決定部245は、ゲート電圧を増加させない旨の判定結果を取得した場合に、ゲート電圧の値をゲート電圧調整部146に出力しない。
ここで、図7に示した例を用いて、ゲート電圧を増加させる旨の判定結果を取得した場合のゲート電圧決定部245による処理の具体例を説明する。まず、ゲート電圧決定部245が入力電力検出部242から入力電力の値「28dBm」を取得した場合を説明する。この場合、ゲート電圧決定部245は、最適値記憶部244を参照して入力電力の値「28dBm」に対応する最適値「−1.1875V」を取得する。そして、ゲート電圧決定部245は、取得した最適値「−1.1875V」を増幅後のゲート電圧として決定し、決定した増幅後のゲート電圧の値「−1.1875V」をゲート電圧調整部146に出力する。これにより、GaN−FETデバイス141のゲート電圧が、前回の値から「−1.1875V」に増加する。
次いで、ゲート電圧決定部245が入力電力検出部242から入力電力の値「22dBm」を取得した場合を説明する。この場合、ゲート電圧決定部245は、最適値記憶部244を参照して入力電力の値「22dBm」に対応する最適値「−1.15V」を取得する。そして、ゲート電圧決定部245は、取得した最適値「−1.15V」を増幅後のゲート電圧として決定し、決定した増幅後のゲート電圧「−1.15V」をゲート電圧調整部146に出力する。これにより、GaN−FETデバイス141のゲート電圧が、「−1.1875V」から「−1.15V」に増加する。
このようにして、ゲート電圧決定部245は、送信装置200の入力電力の値が低下するほど、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させる。すると、Idqが上昇しGaN−FETデバイス141の発熱量が増加するので、IdqドリフトによるGaN−FETデバイス141の利得の変動を解消することが可能となる。
次に、実施例2に係る増幅器240によるゲート電圧決定処理の処理手順について説明する。図8は、実施例2に係る増幅器240によるゲート電圧決定処理の処理手順を示すフローチャートである。図8に示すように、増幅器240の入力電力検出部242は、送信装置200の入力電力を検出する(ステップS201)。
ゲート電圧増加判定部243は、入力電力検出部242により検出された入力電力に基づいて、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させるか否かを判定する(ステップS202)。具体的には、ゲート電圧増加判定部243は、入力電力の値が閾値以下である場合には、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させると判定する。一方、ゲート電圧増加判定部243は、入力電力の値が閾値を超える場合には、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させないと判定する。
ゲート電圧増加判定部243は、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させない場合には(ステップS203否定)、処理をステップS201に戻す。一方、ゲート電圧増加判定部243が、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させると判定した場合には(ステップS203肯定)、ゲート電圧決定部245は、最適値記憶部244を参照する。そして、ゲート電圧決定部245は、入力電力検出部242により検出された入力電力の値に対応する最適値を最適値記憶部244から取得し(ステップS204)、取得した最適値を増加後のゲート電圧として決定し(ステップS205)、処理をステップS201に戻す。
上述してきたように、実施例2に係る送信装置200は、GaN−FETデバイス141の利得の変動を監視するために用いられる所定値として入力電力を検出し、検出した入力電力の値が閾値以下となるか否かを判定する。そして、送信装置200は、入力電力の値が閾値以下となる場合に、入力電力の値に応じてGaN−FETデバイス141の増幅後のゲート電圧を決定する。このため、送信装置200は、Idqが顕著に発生する低出力時のGaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させることができ、Idqを上昇させてGaN−FETデバイス141の発熱量を増加させることができる。その結果、送信装置200は、Idqドリフトにより発生するGaN−FETデバイス141の利得の変動を解消することができる。
また、実施例2に係る送信装置200は、入力電力の値とゲート電圧の最適値とを対応付けて記憶する最適値記憶部244を参照することにより、入力電力の値に対応する最適値をGaN−FETデバイス141の増幅後のゲート電圧として決定する。このため、送信装置200は、入力電力の値に応じてゲート電圧を動的に調整する手法と比較すると、ゲート電圧の最適値を探索する時間を短縮することができるので、低出力時のGaN−FETデバイス141のゲート電圧を迅速に増加させることができる。その結果、送信装置200は、Idqドリフトにより発生するGaN−FETデバイス141の利得の変動を効率よく解消することができる。
上記実施例1および2では、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として温度または入力電力を検出する構成について説明した。しかし、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として歪補償係数を検出することもできる。そこで、実施例3では、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として歪補償係数を検出する例について説明する。
まず、本実施例においてGaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として歪補償係数を検出する理由について説明する。送信装置に含まれる歪補償処理回路は、通信品質の劣化を防止するために、増幅器で発生する非線形歪を補償する。すなわち、歪補償処理回路は、所定の記憶部に記憶されている歪補償係数を用いて増幅器への入力信号に対して歪補償処理を行う。ここで、歪補償係数は、増幅器に含まれるGaN−FETデバイスの利得の線形性を維持するための補正値であり、GaN−FETデバイスの利得を反転した値となる。すなわち、GaN−FETデバイスの利得が低下すると、反対に、歪補償係数は増加する。
図9は、Idqドリフトが発生した場合におけるGaN−FETの出力電力と歪補償係数との関係を示す図である。なお、図9に示す歪補償係数は、図1に示したGaN−FETデバイスの利得を反転した値である。図9に示すように、飽和時の出力電力P1に対する歪補償係数はA1である。しかし、温度低下にともなってIdqが下がり、Idqが低い状態で、出力電力を飽和時の高出力側から低出力側に下げると、GaN−FETデバイスの利得が大幅に低下する一方、歪補償係数が大幅に増加する。例えば、図9の例では、Idqが低い状態で、出力電力を飽和時のP1から低出力側のP2に下げると、歪補償係数がA1からA2に増加してしまう。
このように、GaN−FETデバイスを利用した増幅器では、低温時に出力電力を高出力から低出力に制御した場合に、Idqが規定値以下となるIdqドリフトが発生し、Idqドリフトにより利得および歪補償係数が変動する。したがって、温度や出力電力が閾値以下となりGaN−FETデバイスが低温の状態や低出力の状態となった場合には、Idqドリフトにより利得が低下する一方、歪補償係数が増加していることが考えられる。すなわち、歪補償係数を検出すれば、かかる歪補償係数の増加に基づいてIdqドリフトによるGaN−FETデバイスの利得の変動が発生したことを判定することができる。例えば、図9の例では、増加後の歪補償係数A2が閾値以上となっているため、IdqドリフトによるGaN−FETデバイスの利得の変動が発生したと判定することができる。
そこで、本実施例の送信装置では、温度や電力に代えて歪補償係数をモニタする。そして、モニタした歪補償係数に基づいてGaN−FETデバイスのゲート電圧を増加させるか否かを判定し、増加させると判定した場合に、歪補償係数に応じてGaN−FETデバイスのゲート電圧を増加させる。このように、歪補償係数が顕著に変動する低温時や低出力時にGaN−FETデバイスのゲート電圧を増加させれば、Idqが上昇しGaN−FETデバイスの発熱量が増加するので、IdqドリフトによるGaN−FETデバイスの利得の変動を解消できる。
図10は、実施例3に係る送信装置300の構成を示す図である。なお、以下では、図3において前述した実施例1と同様の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。図10に示すように、送信装置300は、歪補償処理回路110、D/A変換器120、変調器130、増幅器340、カプラ150、アンテナ160、周波数変換器170およびA/D変換器180を有する。
増幅器340は、変調器130から入力される信号をGaN−FETデバイスを利用して増幅し、増幅後の信号をカプラ150に出力する。また、増幅器340は、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために歪補償係数を検出し、検出した歪補償係数に基づいてGaN−FETデバイスのゲート電圧を増加させ、Idqを上昇させる。
具体的には、増幅器340は、GaN−FETデバイス141、歪補償係数検出部342、ゲート電圧増加判定部343、最適値記憶部344、ゲート電圧決定部345およびゲート電圧調整部146を有する。
歪補償係数検出部342は、GaN−FETデバイス141の利得の変動を監視するために用いられる所定値の一つとして歪補償係数を検出し、検出した歪補償係数の値をゲート電圧増加判定部343およびゲート電圧決定部345に出力する。具体的には、歪補償係数検出部342は、歪補償処理回路110の歪補償係数記憶部112から対応する歪補償係数を取得することにより、歪補償係数を検出する。歪補償係数は、GaN−FETデバイス141の利得の線形性を維持するための補正値であり、GaN−FETデバイス141の利得を反転した値となる。すなわち、GaN−FETデバイス141の利得が低下すると、反対に、歪補償係数は増加する。
ゲート電圧増加判定部343は、歪補償係数検出部342から歪補償係数の値を取得し、取得した歪補償係数の値に基づいて、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させるか否かを判定する。具体的には、ゲート電圧増加判定部343は、歪補償係数の値が閾値以上である場合には、GaN−FETデバイス141が低出力の状態となっているため、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させると判定する。一方、ゲート電圧増加判定部343は、歪補償係数の値が閾値未満である場合に、GaN−FETデバイス141が低出力の状態となっていないため、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させないと判定する。また、ゲート電圧増加判定部343は、判定結果をゲート電圧決定部345に出力する。
最適値記憶部344は、歪補償係数の値とGaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値とを対応付けて記憶する。以下では、GaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値を、単に「最適値」と表記することがあるものとする。
図11は、最適値記憶部344の一例を示す図である。図11に示すように、最適値記憶部344は、歪補償係数の値である「歪補償係数」と、GaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値である「ゲート電圧」とを対応付けて記憶する。例えば、図11に示す1段目は、歪補償係数の値が「1」である場合に、GaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値が「−1.2V」であることを示す。また、例えば、図11に示す2段目は、歪補償係数の値が「1.1」である場合に、GaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値が「−1.1875V」であることを示す。なお、図11に示す1段目は、ゲート電圧増加判定部343がGaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させるか否かを判定する際に用いる閾値が「1」であることを示す。
また、最適値記憶部344に記憶された最適値は、歪補償係数の値が増加するに連れて増加する。つまり、GaN−FETデバイス141のゲート電圧は、送信装置300が低温または低出力になるほど増加する。図11に示した例では、最適値である「ゲート電圧」は、「歪補償係数」が「1」、「1.1」、…、「1.8」のように増加するに連れて、「−1.2V」、「−1.1875V」、…、「−1.1V」のように増加する。
なお、最適値は、歪補償係数の値の増加に応じて線形的に増加したり、2次関数的に増加したり、指数関数的に増加してもよい。かかる最適値の増加勾配は、設計者により適宜調整される。
図10に戻り、ゲート電圧決定部345は、ゲート電圧増加判定部343から判定結果を取得し、歪補償係数検出部342から歪補償係数の値を取得する。ゲート電圧決定部345は、判定結果に応じてGaN−FETデバイス141の増加後のゲート電圧の値をゲート電圧調整部146に出力する。具体的には、ゲート電圧決定部345は、ゲート電圧を増加させる旨の判定結果を取得した場合に、最適値記憶部344を参照して歪補償係数の値に対応する最適値を取得し、取得した最適値を増加後のゲート電圧として決定する。そして、ゲート電圧決定部345は、決定した増加後のゲート電圧の値をゲート電圧調整部146に出力する。一方、ゲート電圧決定部345は、ゲート電圧を増加させない旨の判定結果を取得した場合に、ゲート電圧の値をゲート電圧調整部146に出力しない。
ここで、図11に示した例を用いて、ゲート電圧を増加させる旨の判定結果を取得した場合のゲート電圧決定部345による処理の具体例を説明する。まず、ゲート電圧決定部345が歪補償係数検出部342から歪補償係数の値「1.1」を取得した場合を説明する。この場合、ゲート電圧決定部345は、最適値記憶部344を参照して歪補償係数の値「1.1」に対応する最適値「−1.1875V」を取得する。そして、ゲート電圧決定部345は、取得した最適値「−1.1875V」を増幅後のゲート電圧として決定し、決定した増幅後のゲート電圧の値「−1.1875V」をゲート電圧調整部146に出力する。これにより、GaN−FETデバイス141のゲート電圧が、前回の値から「−1.1875V」に増加する。
次いで、ゲート電圧決定部345が歪補償係数検出部342から歪補償係数の値「1.4」を取得した場合を説明する。この場合、ゲート電圧決定部345は、最適値記憶部344を参照して歪補償係数の値「1.4」に対応する最適値「−1.15V」を取得する。そして、ゲート電圧決定部345は、取得した最適値「−1.15V」を増幅後のゲート電圧として決定し、決定した増幅後のゲート電圧「−1.15V」をゲート電圧調整部146に出力する。これにより、GaN−FETデバイス141のゲート電圧が、「−1.1875V」から「−1.15V」に増加する。
このようにして、ゲート電圧決定部345は、歪補償係数の値が増加するほど、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させる。すると、Idqが上昇しGaN−FETデバイス141の発熱量が増加するので、IdqドリフトによるGaN−FETデバイス141の利得の変動を解消することが可能となる。
次に、実施例3に係る増幅器340によるゲート電圧決定処理の処理手順について説明する。図12は、実施例3に係る増幅器340によるゲート電圧決定処理の処理手順を示すフローチャートである。図12に示すように、増幅器340の歪補償係数検出部342は、歪補償係数を検出する(ステップS301)。
ゲート電圧増加判定部343は、歪補償係数検出部342により検出された歪補償係数に基づいて、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させるか否かを判定する(ステップS302)。具体的には、ゲート電圧増加判定部343は、歪補償係数の値が閾値以上である場合には、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させると判定する。一方、ゲート電圧増加判定部343は、歪補償係数の値が閾値未満である場合には、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させないと判定する。
ゲート電圧増加判定部343は、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させない場合には(ステップS303否定)、処理をステップS301に戻す。一方、ゲート電圧増加判定部343が、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させると判定した場合には(ステップS303肯定)、ゲート電圧決定部345は、最適値記憶部344を参照する。そして、ゲート電圧決定部345は、歪補償係数検出部342により検出された歪補償係数の値に対応する最適値を最適値記憶部344から取得し(ステップS304)、取得した最適値を増加後のゲート電圧として決定し(ステップS305)、処理をステップS301に戻す。
上述してきたように、実施例3に係る送信装置300は、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として歪補償係数を検出し、検出した歪補償係数の値が閾値以上となるか否かを判定する。そして、送信装置300は、歪補償係数の値が閾値以上となる場合に、歪補償係数の値に応じてGaN−FETデバイスの増幅後のゲート電圧を決定する。このため、送信装置300は、Idqが顕著に発生する低温時または低出力時のGaN−FETデバイスのゲート電圧を増加させることができ、Idqを上昇させてGaN−FETデバイスの発熱量を増加させることができる。その結果、送信装置300は、Idqドリフトにより発生するGaN−FETデバイスの利得の変動を解消することができる。
また、実施例3に係る送信装置300は、歪補償係数の値とゲート電圧の最適値とを対応付けて記憶する最適値記憶部344を参照することにより、歪補償係数の値に対応する最適値をGaN−FETデバイスの増幅後のゲート電圧として決定する。このため、送信装置300は、歪補償係数の値に応じてゲート電圧を動的に調整する手法と比較すると、ゲート電圧の最適値を探索する時間を短縮することができるので、低温時または低出力時のGaN−FETデバイスのゲート電圧を迅速に増加させることができる。その結果、送信装置300は、Idqドリフトにより発生するGaN−FETデバイスの利得の変動を効率よく解消することができる。
上記実施例1〜3では、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として温度、入力電力または歪補償係数のいずれか一つを検出する構成について説明した。しかし、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として、温度、入力電力および歪補償係数の全てを検出することもできる。そこで、実施例4では、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として、温度、入力電力および歪補償係数の全てを検出する例について説明する。
図13は、実施例4に係る送信装置400の構成を示す図である。なお、以下では、図3において前述した実施例1と同様の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。図13に示すように、送信装置400は、歪補償処理回路110、D/A変換器120、変調器130、増幅器440、カプラ150、アンテナ160、周波数変換器170およびA/D変換器180を有する。
増幅器440は、変調器130から入力される信号をGaN−FETデバイスを利用して増幅し、増幅後の信号をカプラ150に出力する。また、増幅器440は、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために温度、入力電力および歪補償係数を検出し、検出した温度、入力電力および歪補償係数に基づいてGaN−FETデバイスのゲート電圧を増加させ、Idqを上昇させる。
具体的には、増幅器440は、GaN−FETデバイス141、温度検出部442a、入力電力検出部442b、歪補償係数検出部442c、ゲート電圧増加判定部443、最適値記憶部444、ゲート電圧決定部445およびゲート電圧調整部146を有する。
温度検出部442aは、GaN−FETデバイス141の利得の変動を監視するために用いられる所定値の一つとして送信装置400の温度を検出し、検出した温度の値をゲート電圧増加判定部443およびゲート電圧決定部445に出力する。
入力電力検出部442bは、GaN−FETデバイス141の利得の変動を監視するために用いられる所定値の一つとして送信装置400の入力電力を検出し、検出した入力電力の値をゲート電圧増加判定部443およびゲート電圧決定部445に出力する。
歪補償係数検出部442cは、GaN−FETデバイス141の利得の変動を監視するために用いられる所定値の一つとして歪補償係数を検出し、検出した歪補償係数の値をゲート電圧増加判定部443およびゲート電圧決定部445に出力する。具体的には、歪補償係数検出部442cは、歪補償処理回路110の歪補償係数記憶部112から対応する歪補償係数を取得することにより、歪補償係数を検出する。歪補償係数は、GaN−FETデバイス141の利得の線形性を維持するための補正値であり、GaN−FETデバイス141の利得を反転した値となる。すなわち、GaN−FETデバイス141の利得が低下すると、反対に、歪補償係数は増加する。なお、以下では、温度検出部442a、入力電力検出部442bおよび歪補償係数検出部442cを纏めて「検出部442」と呼ぶことがあるものとする。
ゲート電圧増加判定部443は、検出部442から温度、入力電力および歪補償係数の値を取得し、取得した温度、入力電力および歪補償係数の値に基づいて、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させるか否かを判定する。具体的には、ゲート電圧増加判定部443は、温度または入力電力のいずれかの値が閾値以下である場合、あるいは、歪補償係数の値が閾値以上である場合には、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させると判定する。一方、ゲート電圧増加判定部443は、温度または入力電力のいずれかの値が閾値を超える場合、あるいは、歪補償係数の値が閾値未満である場合には、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させないと判定する。また、ゲート電圧増加判定部443は、判定結果をゲート電圧決定部445に出力する。
最適値記憶部444は、温度、入力電力および歪補償係数の値とGaN−FETデバイス141のゲート電圧の最適値とをそれぞれ対応付けて記憶する。例えば、最適値記憶部444は、図4に示した最適値記憶部144、図7に示した最適値記憶部244および図11に示した最適値記憶部344の全てを有する。
ゲート電圧決定部445は、ゲート電圧増加判定部443から判定結果を取得し、検出部442から温度、入力電力および歪補償係数の値を取得する。ゲート電圧決定部445は、判定結果に応じてGaN−FETデバイス141の増加後のゲート電圧の値をゲート電圧調整部146に出力する。
具体的には、ゲート電圧決定部445は、温度の値が閾値以下でありゲート電圧を増加させる旨の判定結果を取得した場合に、最適値記憶部444を参照して温度の値に対応する最適値を取得し、取得した最適値を増加後のゲート電圧として決定する。また、ゲート電圧決定部445は、入力電力の値が閾値以下でありゲート電圧を増加させる旨の判定結果を取得した場合に、最適値記憶部444を参照して入力電力の値に対応する最適値を取得し、取得した最適値を増加後のゲート電圧として決定する。また、ゲート電圧決定部445は、歪補償係数の値が閾値以上でありゲート電圧を増加させる旨の判定結果を取得した場合に、最適値記憶部444を参照して歪補償係数の値に対応する最適値を取得し、取得した最適値を増加後のゲート電圧として決定する。そして、ゲート電圧決定部445は、決定した増加後のゲート電圧の値をゲート電圧調整部146に出力する。一方、ゲート電圧決定部445は、ゲート電圧を増加させない旨の判定結果を取得した場合に、ゲート電圧の値をゲート電圧調整部146に出力しない。
次に、実施例4に係る増幅器440によるゲート電圧決定処理の処理手順について説明する。図14は、実施例4に係る増幅器440によるゲート電圧決定処理の処理手順を示すフローチャートである。図14に示すように、増幅器440の検出部442は、温度、入力電力および歪補償係数を検出する(ステップS401)。
ゲート電圧増加判定部443は、検出部442により検出された温度、入力電力および歪補償係数に基づいて、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させるか否かを判定する(ステップS402)。具体的には、ゲート電圧増加判定部443は、温度または入力電力のいずれかの値が閾値以下である場合、あるいは、歪補償係数の値が閾値以上である場合には、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させると判定する。一方、ゲート電圧増加判定部443は、温度または入力電力のいずれかの値が閾値を超える場合、あるいは、歪補償係数の値が閾値未満である場合には、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させないと判定する。
ゲート電圧増加判定部443は、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させない場合には(ステップS403否定)、処理をステップS401に戻す。一方、ゲート電圧増加判定部443が、GaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させると判定した場合には(ステップS403肯定)、ゲート電圧決定部445は、最適値記憶部444を参照する。そして、ゲート電圧決定部445は、検出部442により検出された温度、入力電力または歪補償係数の値に対応する最適値を最適値記憶部444から取得し(ステップS404)、取得した最適値を増加後のゲート電圧として決定し(ステップS405)、処理をステップS401に戻す。
上述してきたように、実施例4に係る送信装置400は、GaN−FETデバイス141の利得の変動を監視するために用いられる所定値として温度、入力電力および歪補償係数を検出する。そして、送信装置400は、温度または入力電力のいずれかの値が閾値以下であるか否か、あるいは、歪補償係数の値が閾値以上であるか否かを判定する。そして、送信装置400は、温度または入力電力のいずれかの値が閾値以下である場合、あるいは、歪補償係数の値が閾値以上である場合に、温度、入力電力または歪補償係数の値に応じてGaN−FETデバイス141の増幅後のゲート電圧を決定する。このため、送信装置400は、Idqが顕著に発生する低温時または低出力時のGaN−FETデバイス141のゲート電圧を増加させることができ、Idqを上昇させてGaN−FETデバイス141の発熱量を増加させることができる。その結果、送信装置400は、Idqドリフトにより発生するGaN−FETデバイス141の利得の変動を解消することができる。
また、実施例4に係る送信装置400は、温度、入力電力および歪補償係数の値とゲート電圧の最適値とをそれぞれ対応付けて記憶する最適値記憶部444を参照することにより、歪補償係数の値に対応する最適値をGaN−FETデバイス141の増幅後のゲート電圧として決定する。このため、送信装置400は、温度、入力電力または歪補償係数の値に応じてゲート電圧を動的に調整する手法と比較すると、ゲート電圧の最適値を探索する時間を短縮することができるので、低温時または低出力時のGaN−FETデバイス141のゲート電圧を迅速に増加させることができる。その結果、送信装置400は、Idqドリフトにより発生するGaN−FETデバイス141の利得の変動を効率よく解消することができる。
なお、本実施例4では、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として、温度、入力電力および歪補償係数の全てを検出する例について説明したが、開示の技術はこれに限られるものではない。例えば、GaN−FETデバイスの利得の変動を監視するために用いられる所定値として、温度および入力電力、入力電力および歪補償係数、または、歪補償係数および温度を検出するようにしてもよい。