JP2012190892A - 磁性体及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】磁気特性に優れる磁石に利用できる磁性体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】磁性体4は、磁性相13と、磁性相13間に磁気相互作用が生じないように介在される無機相12とにより実質的に構成される。磁性相13は、α”Fe16N2相を80体積%以上含有する。無機相12は、例えば、AlNi成分により構成される。素材としてFeAlNi系合金からなる粉末を成形した粉末成形体2を準備し、粉末成形体2に熱処理を施して、Fe相11と、AlNi成分を主体とする無機相12とに分離する。相分離処理材3に加圧状態で窒素雰囲気中で熱処理を施して、Fe相11中のFeを窒化してα”Fe16N2相を生成することで磁性体4が得られる。磁性相の主成分が磁気特性に優れるα”Fe16N2相であるため、磁性体4は、磁気特性に優れる。磁性体4は、Coを実質的に含有しないことで、製造コストを低減できる。
【選択図】図1

Description

本発明は、永久磁石に好適に利用できる磁性体、及びその製造方法に関する。特に、磁気特性に優れる磁石への利用に適した磁性体に関するものである。
モータや発電機などに利用される永久磁石として、Al-Ni-Co-Fe系合金やFe-Cr-Co系合金などの金属材料からなる金属系磁石、代表的には、特許文献1に記載されるようなアルニコ磁石と呼ばれるものや、酸化鉄を主成分とするフェライトからなるフェライト磁石が広く利用されている。また、磁気特性に特に優れる永久磁石として、Nd(ネオジム)やSm(サマリウム)といった希土類元素を含む希土類磁石が利用されている。
アルニコ磁石などの金属系磁石は、代表的には鋳造材に、相分離のための熱処理を施して製造される。代表的な製造工程を図2に示す。Al-Ni-Co-Fe系合金といった合金溶湯を作製して鋳造し、得られたインゴット100に熱処理を施す。この熱処理により、FeCo相といった強磁性体を主体とする磁性相130と、AlNi相といった弱磁性体(或いは非磁性体)を主体とする無機相120との2相分離(スピノーダル分解)を行って、磁石400が得られる。無機相120は、隣り合う磁性相130間に磁気相互作用が生じないように介在される。上記熱処理は、代表的には、溶体化処理→磁場印加処理(溶体化処理からの冷却工程における所定の温度での処理を含む)→時効処理が挙げられる。磁場印加処理により、上記磁性相130を形状異方性の大きい細長い棒状の単磁区粒子、より具体的には、その幅が数nm〜数十nm程度のナノオーダー、その長さが数μm〜十数μm程度のマイクロオーダーといった、アスペクト比が非常に大きいナノサイズの形状にする。このような細長い棒状の磁性相130を有することで、金属系磁石は高い保磁力を発現し、磁気特性に優れる。
特開平10-223420号公報
希土類磁石は、磁気特性に優れるものの、温度に対する磁気特性の変化が大きい。また、昨今、希土類元素は、資源調達の安定性に劣る点や価格変動の不安定さを考慮すると、使用量の低減が望まれている。
フェライト磁石は、希土類磁石よりも磁気特性がかなり低いため、高性能用途に対応できない。
これに対し、アルニコ磁石などの金属系磁石は、フェライト磁石よりも磁気特性に優れる上に、温度に対する安定性にも非常に優れる。しかし、金属系磁石は、希土類磁石やフェライト磁石に比較すると、コストパフォーマンスに劣ることから、希土類磁石の出現以降、性能向上の取り組みがあまり行われていなかった。金属系磁石の性能を向上するには、上述のナノサイズの磁性相130の飽和磁化をいかに高くできるかという点が重要となる。
例えば、磁性相をFe相とする場合、Feの飽和磁化は2T程度であり、上述したナノサイズのFeCoの飽和磁化:2.3T〜2.4T程度よりも低く、磁性相の飽和磁化の更なる向上が望まれる。また、磁性相をFe相とする場合、スピノーダル分解が比較的生じ難く、磁性相と無機相との分離性が相対的に低い。そこで、従来の金属系磁石では、FeCo相を存在させるために、一般に、20原子%以上Coを含有している。しかし、Coも、近年、使用量の低減が望まれており、Coの含有量が5原子%未満、好ましくはCoを含有しないことが望まれる。従って、Coを実質的に含有しない材質であって、磁気特性に更に優れる材質の開発が望まれる。
そこで、本発明の目的の一つは、磁気特性に優れる磁石が得られる磁性体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記磁性体の製造方法を提供することにある。
本発明者は、磁気特性の向上を図ると共に、Coを実質的に含まない材質の金属系磁石とするために、磁性相の組成を検討した。上述のようにFeは飽和磁化が低く、磁気特性に劣る。一方、鉄窒化物のうち、窒素侵入型の鉄窒化物であるα”Fe16N2(正方晶、a=5.72Å、c=6.29Å、結晶記号:I4/mmm)は、飽和磁化が2.8T程度と磁気特性に非常に優れることが原理計算や薄膜での実験などで実証されている。そこで、このα”Fe16N2相を磁性相の主成分とする磁性体の製造方法を検討した結果、Coを実質的に含まない鉄合金を用意し、相分離熱処理によりナノオーダーのFe相を出現させた後、特定の条件で窒化処理を施してFeを窒化することで、α”Fe16N2相を主体とする磁性相を有する磁性体が得られる、との知見を得た。本発明は、上記知見に基づくものである。
本発明の磁性体は、鉄窒化物を主体とする磁性相と、上記磁性相間に磁気相互作用が生じないように介在される無機相とにより実質的に構成され、Coを実質的に含有せず、上記磁性相がα”Fe16N2相を80体積%以上含有する。
上記本発明磁性体は、例えば、以下の本発明磁性体の製造方法により製造することができる。本発明の磁性体の製造方法は、鉄合金に熱処理を施して、Fe元素を含む磁性相と、上記磁性相間に磁気相互作用が生じないように介在される無機相とにより実質的に構成される磁性体を製造する方法に係るものであり、以下の準備工程と、分離工程と、窒化工程とを具える。
準備工程:Feを75原子%以上含有し、かつFe以外の金属元素を含有し、Coを実質的に含有しない鉄合金からなる素材を準備する工程。
分離工程:上記素材に相分離熱処理を施して、Fe相と、上記金属元素を含む無機材料から構成され、上記Fe相間に介在される無機相とに分離する工程。
窒化工程:上記分離工程により得られた相分離処理材に、以下の条件の窒化熱処理を施して、上記Fe相中のFeを窒化してα”Fe16N2相を生成し、磁性相中のα”Fe16N2相の含有量が80体積%以上である磁性体を製造する工程。
窒化熱処理条件:大気圧超の加圧状態とする。かつ、窒素元素含有ガス雰囲気下で200℃以上400℃以下の温度で加熱する。
鉄合金からFe相を分離した後、大気圧下といった非加圧状態で窒化する場合、窒素の反応性を高めるために熱処理時の温度を比較的高温にする必要がある。すると、N原子がc軸方向のFe格子間に方向性を有して侵入する正方晶の鉄窒化物ではなく、N原子が複数方向のFe格子間に侵入して生成される立方晶や六方晶の鉄窒化物:Fe4NやFe3Nが生成される。上記立方晶や六方晶の鉄窒化物は、その磁気特性がFe単体の状態よりも劣る。これに対し、詳細なメカニズムは定かではないが、上述のように加圧状態で窒化すると、相分離処理材中の特定方向のFeの格子に歪みが生じて窒素の侵入路が形成され、Fe格子間にN原子が侵入し難い低温域であっても、N原子がFe格子中に取り込まれ易くなってα”Fe16N2が形成され易くなる、と考えられる。また、α”Fe16N2が形成され易いことで、結果としてFe4Nなどの生成が抑制され、α”Fe16N2を十分に形成できる、と考えられる。
上記本発明製造方法では、磁性相の主成分(80体積%以上)がα”Fe16N2相である磁性体(代表的には上記本発明磁性体)が得られる。磁性相の主成分がα”Fe16N2相であることから、本発明磁性体は、磁性相の主成分がFe相である場合に比較して1.4倍、FeCo相である場合に比較して1.2倍も飽和磁化が大きい。従って、本発明磁性体は、磁性相をFe相とする場合や、磁性相がFeCo相である従来の金属系磁石よりも磁気特性に優れる。かつ、本発明磁性体は、磁性相の主成分をα”Fe16N2相とすることで、FeCo相を実質的に生成しないことから、好ましくはCoを不要にできる。このように本発明磁性体は、希土類元素やCoなどのいわゆるレアメタルを多量に使用しなくても磁気特性に優れ、永久磁石に好適に利用できると期待される。その他、本発明製造方法は、金属材料を出発材料にして、代表的には粉末冶金法により磁性体を製造することで、任意の形状の磁性体を容易に製造することができ、磁性体の生産性に優れる。
本発明磁性体の一形態として、上記無機相がAlNiを主体(80原子%以上)とするAlNi成分を80体積%以上含有する形態が挙げられる。
本発明磁性体を構成する金属種として、代表的には、FeAlNi系合金が挙げられる。本発明磁性体の構成金属がFeAlNi系合金である場合、無機相は、主としてA1Niにより構成され、その含有量が高く不純物が少ないことで、磁性相同士が磁性相互作用を及ぼし合うことを抑制できる。また、構成金属がFeAlNi系合金である形態では、Coを実質的に含有しないことから、Coの使用量を効果的に低減できる。更に、FeAlNi系合金では、相分離温度域が比較的高温であることから、所望の組成の純度が高い相、具体的には、Fe相とAlNi相とに分離し易く、Fe相が十分存在することで、結果としてα”Fe16N2相を生成し易くなる。相分離温度域は後述するように高温であるものの、冷却時の降温速度を調整する(大きくする)ことで、磁性相の前駆体となるFe相の成長(代表的にはFe相の幅の増大)を抑制して、上述のように幅がナノオーダーといったナノサイズのFe相を析出できる。このように上記形態は、磁性相において磁気特性に優れる鉄窒化物:α”Fe16N2相の含有量を高められる上に、分離工程でのFe相の成長が抑制され、ひいては磁性相も上述のようなナノサイズの形状にできることから、磁気特性に優れる。
本発明磁性体の一形態として、上記磁性相間の距離が5nm以上である形態が挙げられる。
本発明において「磁性相間に磁気相互作用(磁気交換相互作用)が生じない」状態として、代表的には、磁性相同士がある程度離れて存在することが挙げられる。上記形態では、磁性相間に磁気相互作用が生じない距離が確保されているため、例えば、磁性相のアスペクト比が大きいことによる高い保磁力が磁気相互作用により低下したり失われたりすることを回避できる。従って、上記形態は、当該磁性相の磁気特性を十分に活用することができる。
本発明磁性体の一形態として、上記磁性相の幅が100nm以下である形態が挙げられる。
上述した金属系磁石では、磁性相の幅がナノオーダーといった非常に微細であると(薄いと)、磁気特性に優れる。従って、上記形態は、磁気特性に優れる。
本発明製造方法の一形態として、上記鉄合金がFeAlNi系合金であり、上記分離工程では、上記素材を1000℃以上に加熱した後、900℃〜700℃の温度範囲において当該素材の相分離温度域における降温速度を0.05℃/sec以上5℃/sec以下とする形態が挙げられる。
相分離温度域及び降温速度の好ましい範囲は、素材の組成により決定される。素材がFeAlNi系合金からなる上記形態は、相分離温度域が比較的高いことから、上述のようにFe相とAlNi相との分離を良好に行うことができる。
本発明製造方法の一形態として、上記準備工程で準備する上記素材を上記鉄合金からなる粉末を成形した粉末成形体とする形態が挙げられる。
粉末成形体では、原料粉末を構成する各粒子の粒界が存在し、この粒界は、分離工程後にも存在し得る。そして、加圧によりこの粒界間を広げて微細な隙間を形成し、この隙間を窒化工程において窒素の侵入路に利用すると、作製する磁性体が大型であっても、即ち、粉末成形体が大型であっても、当該成形体はその表層部から内部に至る全域に亘って良好にα”Fe16N2相を生成することができ、α”Fe16N2相の割合が高く、かつα”Fe16N2相が斑なく存在する磁性体を得易い。また、粉末成形体は、相対密度の調整が容易に行えることから、上記形態は、分離工程後や窒化工程後に得ようとする相分離処理材や磁性体の相対密度に応じて、所望の相対密度の素材を容易に用意できる。更に、粉末成形体は、複雑な立体形状でも、特別な加工を行うことなく容易に形成できる。従って、上記形態は、(1)磁気特性に優れる磁性体が得られる、(2)原料の歩留りが高い、(3)形状の自由度が高い、(4)磁性体の相対密度の調整が容易である、という優れた効果を奏する。なお、相対密度とは、真密度に対する実際の密度(百分率)をいう。
本発明製造方法の一形態として、上述した粉末成形体を素材に利用する場合に、上記準備工程では、上記相分離処理材の相対密度が94%以下となるように上記素材を準備する形態が挙げられる。
上記相分離処理材の相対密度が94%以下であれば、開気孔を十分に確保できるため、窒化工程において、上述した窒素の侵入路を十分に確保でき、α”Fe16N2相を生成し易い。従って、上記形態は、α”Fe16N2相が高割合な磁性相を有する磁性体を効率よく製造でき、磁気特性に優れる磁性体が得られる。この形態では、上記相分離処理材の相対密度が94%以下となるように粉末成形体の相対密度を調整するとよい。なお、粉末成形体の相対密度と、相分離処理材の相対密度とは、相分離処理時に若干変化するもの、実質的に同程度になる傾向にある。
本発明製造方法の一形態として、上記窒化工程における加圧を70MPa以上300MPa以下とする形態が挙げられる。
上記形態は、70MPa〜300MPaの範囲で加圧することで、相分離処理材を十分に歪ませて、窒素の侵入路を十分に確保できる。従って、上記形態は、窒化工程において効率よく、かつ確実にα”Fe16N2相を生成して、磁気特性に優れる磁性体を製造できる。
本発明製造方法の一形態として、上述した粉末成形体を素材に利用し、相対密度が94%以下の相分離処理材を製造する場合に、上記窒化工程を経て製造された上記磁性体に300MPa以上の加圧を行って、相対密度が94%超の高密度磁性体にする加圧工程を具える形態が挙げられる。
上記形態は、窒化工程後において低密度な磁性体を緻密化して、最終的に高密度な磁性体とすることができ、磁気特性により優れる磁性体が得られる。
本発明磁性体は、従来の金属系磁石と比較して、磁気特性に優れる。本発明磁性体の製造方法は、上記本発明磁性体を良好に製造することができる。
図1は、試験例で作製した本発明磁性体を製造する工程を模式的に示す工程説明図である。 図2は、従来の金属系磁石を製造する工程の一例を模式的に示す工程説明図である。
以下、本発明をより詳細に説明する。
[磁性体]
(成分)
本発明磁性体は、Fe元素を75原子%以上含有し、かつFe以外の金属元素を含有し、Coを実質的に含有しない鉄合金から構成される。本発明において「Coを実質的に含有しない」とは、Coの含有量が5原子%未満(0原子%を含む)をいう。Coを実質的に含有しないことで、好ましくはCoを不要にでき、経済性に優れる。不可避不純物として、粉末成形体の成形や鋳造金型などに利用した潤滑剤に由来する化合物(BN(窒化ほう素)、MoS(硫化モリブデン)など)、製造時に形成されたFe4N,Fe3N,AlNなどの窒化物、原料中の不可避不純物元素の窒化物などを含有することを許容する。本発明磁性体の全体質量に対して、α”Fe16N2以外の窒化鉄、及び窒素化コバルトを除く不可避不純物の含有量は1質量%以下が好ましい。
上記Feは主として磁性相に含有され、上記Fe以外の金属元素は主として無機相に含有される。上記Fe以外の金属元素は、例えば、Al,Ni,Ba,Sr,Pt,希土類元素(Nd,Sm,Ce,Pr,Dy,Tb,Yなど)が挙げられる。Al及びNiを含有する形態では、無機相がAlNi成分を主体とする。Al,Ni以外の上記金属元素を含有すると、後述するように高い結晶磁気異方性を有する無機相となる可能性がある。Fe以外の金属元素の含有量は合計で25原子%以下が好ましい。例えば、Al及びNiを含有する形態では、Al:15原子%〜20原子%、Ni:5原子%〜10原子%が挙げられる。後述するように無機相の組成によっては、上記金属元素以外に酸素、窒素、ホウ素及び炭素から選択される1種以上の元素を含有する形態とすることができる。上記酸素などの元素の含有量は合計で5原子%〜15原子%が好ましい。
本発明磁性体を構成する各元素の含有量は、本発明磁性体の原料に用いる鉄合金の組成を適宜変更することで調整できる。
(組織)
≪各相の存在形態≫
本発明磁性体は、磁性相と、この磁性相の主成分とは異なる組成からなる無機相とにより実質的に構成され、複数の磁性相間に無機相が介在された組織により構成される。磁性相の含有量は、60体積%〜70体積%程度、無機相の含有量は、30体積%〜40体積%程度が代表的である。そして、磁性相同士が、相互に磁気作用が影響し合わないように無機相が介在されることで、磁気特性に優れる磁性体となる。磁気相互作用が生じないようにするには、上述のように磁性相同士がある程度離れている、代表的には、磁性相間の距離が5nm以上であることが好ましい。上記距離が長いほど、磁気相互作用が生じ難く、10nm以上がより好ましい。しかし、上記距離の増大は、主たる磁性相として機能しない無機相の増大を招き、磁気特性が低下する上に、無機相の増大による磁性体の大型化を招く。従って、上記磁性相間の距離は、磁性相の最大幅以下、代表的には30nm以下が好ましい。
≪磁性相の形状≫
上記磁性相の形状は、代表的には、棒状、粒状、膜状が挙げられ、製造条件により変化させられる。磁性相の幅とは、棒状の場合:短辺の長さ、粒状の場合:最大径、膜状の場合:厚さをいう。磁性相の幅が100nm以下、好ましくは50nm以下といったナノオーダーであると、単磁区構造を安定化できて磁性相を十分に活用することができる。また、磁性相の幅が10nm以上、更に20nm以上であると、熱による電子運動の揺らぎを受けて自発磁化が消失する現象(超常磁性)の発生に起因する強磁性の低下を防止できる上に、無機相に対する磁性相の相対割合が低下し難い、即ち、磁性相が相対的に十分に存在し易いため、磁気特性が低下し難い、或いは実質的に低下しない。磁性相が棒状であり、その幅に対して長さが大きい、つまりアスペクト比が大きい形態、より具体的には、上記幅が上述のようにナノオーダーで、長さが数μm〜十数μmといったマイクロオーダーである場合(アスペクト比が10以上の場合)、磁気特性に非常に優れて好ましい。膜状の場合も厚さに対して成膜領域(面積)が大きいほど、磁気特性に優れて好ましい。
なお、上記磁性相間の距離とは、磁性相が棒状の場合、磁性相の幅方向に隣接する磁性相間の距離、粒状の場合、隣接する磁性相において最も近接する点間の距離、膜状の場合、磁性相からなる層間に介在する無機相の平均厚さをいう。
≪磁性相の組成≫
磁性相は、鉄窒化物の中でも鉄よりも大きな飽和磁化を有し、強磁性体であるα”Fe16N2相を主体とする、具体的には、磁性相を100体積%としてα”Fe16N2相を80体積%以上含有する。磁性相中のα”Fe16N2相の割合が高いほど、磁気特性に優れる磁性体となることから、実質的にα”Fe16N2相のみで構成されることが好ましい。磁性相に含まれる不可避不純物としては、Fe,Fe4N,Fe3Nなどが挙げられる。Feは磁性を有するが、α”Fe16N2よりも磁気特性に劣るため、Feの含有量は少ない方が好ましい。また、Fe4N,Fe3Nなどの磁気特性に劣る化合物はできる限り含まないことが好ましい。
上記磁性相の組成及び後述する無機相の組成や磁性相の形状の確認、磁性相間の距離の測定には、例えば、磁性体の断面をとり、後述するように透過型電子顕微鏡(TEM)の像やX線回折のピーク強度(ピーク面積)を利用することができる。その他、組成の分析には、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を利用することができる。なお、素材に粉末成形体を利用した場合、粉末成形体の相対密度や熱処理条件にもよるが、光学顕微鏡観察により、原料粉末を構成していた各粒子の粒界を確認できる場合がある。従って、磁性体を観察した場合に粉末粒子の粒界を確認できることが、粉末成形体を用いたことを示す指標の一つとなり得る。
≪無機相≫
無機相は、上記Fe以外の金属元素を含有する相であり、上記磁性相間に介在されて、代表的には、上記磁性相同士が相互に磁気的に作用し合って連動することを防止する相、即ち、磁気相互作用を分断するための相である。代表的には、無機相は、非磁性体である形態が挙げられる。非磁性体は、例えば、弱磁性体(或いは非磁性体)であるAlNi合金を含む合金成分を主成分とする(無機相を100体積%として70体積%以上含有する)形態が挙げられる。また、無機相中のFeの残存の割合が低いほど磁性相間に磁気相互作用が生じないようにし易い。無機相中の上記合金成分が高いほどFeの残存割合が相対的に低くなる形態になり易いことから、無機相中の上記合金成分は、80体積%以上、更に90体積%以上がより好ましく、実質的にAlNi成分のみで構成されることが好ましい。無機相に含まれる不可避不純物としては、上述した潤滑剤などの残滓が挙げられる。また、AlNi成分は、AlNi合金の割合が高いことが好ましく、80原子%以上、特に90原子%以上が好ましい。AlNi成分に含まれる不可避不純物としては、上述したAlNなどの窒化物、出発原料に含まれる不可避不純物の窒化物や酸化物などが挙げられる。
その他、無機相がα”Fe16N2以外の磁性体である形態、即ち、主成分がα”Fe16N2相である第一の磁性相と、主成分がα”Fe16N2以外の磁性体であって無機相である第二の磁性相とを有する形態も有り得る。この形態は、第二の磁性相である無機相の構成材質が、主成分をα”Fe16N2相とする第一の磁性相よりも強力な結晶磁気異方性を有し、磁気相互作用の発生距離が第一の磁性相よりも長いような結晶磁気異方性を有する形態である。ここで、第一の磁性相の主成分であるα”Fe16N2相は、硬磁性体及び軟磁性体の双方になり得る。無機相が上述した形態のように非磁性体から構成される場合、α”Fe16N2相は、硬磁性体として機能し、α”Fe16N2相の長手方向に磁区の向きが揃い易い。一方、無機相が磁性体である形態は、第二の磁性相である無機相が硬磁性体として機能し、主成分がα”Fe16N2相である第一の磁性相が、いわゆるナノコンポジットマグネット(交換スプリングマグネット)の軟磁性体として機能することで、非常に強力な磁石となりうる。このような無機相の構成材質は、例えば、希土類磁石(Sm-Co化合物、Nd-Fe-B化合物、Sm-Fe-N化合物など)、フェライト磁石(Ba-Fe-O化合物、Sr-Fe-O化合物など)、Pt-Fe合金磁石、Pt-Co合金磁石などが挙げられる。スピノーダル分解の進行を制御することで、Fe原子の一部を無機相に積極的に残存させて、この残存するFeを利用して上記構成材質や上記構成材質に準ずる材質を生成して第二の磁性相の無機相を構成すると、製造性に優れて好ましい。無機相の構成材質となる元素のうち、Fe以外の元素は、例えば、原料に含有させたり、スピノーダル分解後窒化処理前、又は窒化処理後に、相分離処理材などを構成する粒子間の空隙を利用して所望の元素や化合物を拡散させることで存在させることができる。また、相分離処理材などに適当な熱処理を施したり、化学反応させたりすることで、無機相に所望の元素や化合物を優先的に侵入させてもよい。なお、無機相が硬磁性体、第一の磁性相が軟磁性体として機能する形態では、第一の磁性相が棒状であると、形状に起因する硬磁性の発揮による不具合が危惧されるため、第一の磁性相は、球状又は膜状が好ましいと考えられる。
[製造方法]
(準備工程)
本発明製造方法では、原料として、所望の磁性相及び無機相を生成可能な組成の鉄合金からなる素材を用意する。特に、本発明製造方法では、Feを75原子%以上含有する鉄合金(例えば、FeAlNi系合金(Fe:75原子%〜80原子%)など)を利用することで、磁性相が60体積%〜70体積%の磁性体を製造できる。また、本発明製造方法では、上記鉄合金がCoを実質的に含有しないもの(Coの含有量が5原子%未満)とする。素材の形態は、例えば、従来のアルニコ磁石などの金属系磁石の製造で利用されていたような鋳造材を利用することができる。しかし、形状の自由度を高める観点や開気孔を存在させて後述する窒化工程で対象を効率よく窒化するには、素材は、粉末の形態、代表的には所望の組成の鉄合金からなる粉末を成形した粉末成形体を利用することが好ましい。
素材を粉末成形体とする場合、利用する粉末は、例えば、所望の鉄合金からなる溶解鋳造インゴットや急冷凝固法で得られる箔状体をジョークラッシャー、ジェットミルやボールミルなどの粉砕装置により粉砕したり、ガスアトマイズ法といったアトマイズ法を利用することで製造できる。特に、アトマイズ法を利用すると、平均粒径10μm〜500μmといった粉末を生産性良く製造できて好ましい。アトマイズ法により製造した粉末を所望の大きさとなるように更に粉砕してもよい。粉砕条件や製造条件を適宜変更することで、粉末の粒度分布や粒子の形状を調整することができる。平均粒径が10μm〜500μm、特に50μm〜200μmの粉末は、流動性に優れて金型に充填し易い上に成形し易く、大量生産に利用し易い。
上記粉末は、各粒子の外周に絶縁材料からなる絶縁被覆を具える形態とすると、電気抵抗が高い磁石が得られ、例えば、この磁石をモータに利用した場合、渦電流損を低減できる。絶縁被覆は、例えば、Si,Al,Tiなどの酸化物の結晶性被膜や非晶質のガラス被膜、Me-Fe-O(Me=Ba,Sr,Ni,Mnなどの金属元素)といったフェライトやマグネタイト(Fe3O4)といった金属酸化物、シリコーン樹脂といった樹脂、シルセスキオキサン化合物などといった有機無機ハイブリッド化合物からなる被膜が挙げられる。熱伝導性を向上する目的で、Si-N、Si-C系のセラミックス被覆を施してもよい。上記結晶性被膜やガラス被膜、酸化物被膜、セラミックス被膜などは、酸化防止機能を有する場合があり、この場合、成形時などで粒子の酸化を防止できる。上記絶縁被覆とセラミックス被覆との双方を具える形態では、上記粒子の表面に接するように絶縁被覆を具え、その上にセラミックス被覆を具えることが好ましい。絶縁被覆などの被覆を具えた粉末とする場合、圧縮成形時の被覆の破損を抑制するために、当該粉末を構成する各粒子は球形に近いものが望ましい。
上記粉末に、粉末成形体の成形後の工程で加熱したり気化させたりすることで除去可能なワックスや樹脂などの成分を混合させた混合粉末を粉末成形体の原料に利用することができる。混合粉末を用いるとワックス等により金型と粉末との間の摩擦を低減したり、樹脂により上記絶縁被覆の破損を防ぐことができると共に、高密度の粉末成形体を成形した場合でも、成形後上記ワックスなどを除去してから相分離処理を施すことで、開気孔が十分に存在する相分離処理材を得ることができる。
上記粉末(上記混合粉末でもよい)を所望の形状の金型に充填して、上記粉末及び金型を実質的に加熱しない場合(連続成形によって金型が自己発熱したときの到達温度(一般に80℃程度)以下の場合)には、適宜な圧力(例えば、0.5GPa〜2.0GPa)で加圧成形することで、所望の形状の粉末成形体が得られる。圧力を高めるほど、相対密度が高い粉末成形体が得られる傾向にある。しかし、相対密度が高過ぎると、窒化工程で窒素の侵入路を十分に確保することが難しくなってα”Fe16N2相の生成を十分に行えない恐れがある。従って、粉末成形体を利用する場合は、上述のように分離工程で得られる相分離処理材の相対密度が94%以下となるように粉末成形体の相対密度を調整することが好ましい。上記相分離処理材の相対密度は低過ぎると磁性相の比率の低下を招くことから、90%以上が好ましい。その他、成形時、成形用金型を適宜加熱することで粉末の変形を促進できるため、圧力を上記範囲に高めることなく成形できる。粉末成形体の形成は、大気雰囲気で行うことができる。但し、非酸化性雰囲気(例えば、Arなどの粉末成形体の構成元素と反応しない不活性雰囲気)、或いは低酸素雰囲気(酸素:100体積ppm以下)で成形すると、粉末成形体の酸化を防止できる。ここで、原料粉末に含まれるFeやAlなどの構成元素が酸化するとスピノーダル分解が阻害される傾向にある。従って、粉末成形体の酸化を防止することで、酸化による磁気特性の低下を抑制できて好ましい。
素材に鋳造材(インゴット)を用いる場合、上記混合粉末を用いる場合よりも開気孔を形成し難いものの、例えば、素材の製造にあたり、原料溶湯よりも高融点な材質からなる部材(発泡金属など)を原料溶湯に混合し、適宜な化学的方法により当該部材を除去することで、開気孔を有する相分離処理材が得られると考えられる。或いは、開気孔を形成することに代えて、窒素透過性材料からなる部材を原料溶湯に混合した素材を利用することが考えられる。
(分離工程)
分離工程は、基本的には従来の金属系磁石の製造方法における相分離のための熱処理と同様に行うことができる。代表的には、素材の組成に応じた温度に加熱して組成の均質化を図る溶体化工程(溶体化処理を行う工程)と、上記溶体化温度からの冷却過程で、素材の組成に応じた相分離温度域に保持する(或いは冷却する)相分離工程(相分離処理を行う工程)とを具える形態が挙げられる。上記相分離温度域における熱処理工程で適宜、磁場を印加してもよい。相分離工程の後、更に時効工程を行ってもよい。
上記溶体化は、素材を構成する各元素の濃度勾配(偏析)を無くすことを目的とし、スピノーダル分解が生じる温度以上で行う。加熱温度が高いほど、偏析を低減できるため、1000℃以上が好ましい。上記鉄合金の組成に応じて、溶体化の加熱温度、及び加熱時間を選択するとよい。上記鉄合金が例えば、Fe-17原子%Al-5.5原子%Niである場合、加熱温度:850℃〜1300℃、加熱時間:10分〜10時間が挙げられる。
上記溶体化工程後、素材の組成に応じた相分離温度域(例えば、900℃〜700℃の温度範囲に含まれる温度域)において、降温速度を制御することが好ましい。相分離温度域は、代表的には平衡状態図や示差熱分析曲線(DTA曲線)から決定される相分離温度の中心温度±50℃の温度域が挙げられる。例えば、Fe-17.0原子%Al-5.5原子%Ni合金では、相分離温度の中心温度が800℃程度であり、相分離温度域は850℃〜750℃ぐらいであるため、この温度域の降温速度を制御するとよい。
降温速度を0.05℃/sec以上とすると、相分離を良好に行える上に、分離されて形成されたFe相の成長を抑制して、上述のようにナノオーダーといった微細な形状にすることができ、磁気特性に優れる磁性相を形成できる。降温速度を大きくするほど、上記成長を抑え易く、0.1℃/sec以上、特に0.2℃/sec以上が好ましいが、大き過ぎると相分離が十分に行えなくなることから、降温速度は5℃/sec以下が好ましく、1℃/sec以下、特に0.5℃/sec以下がより好ましい。ここで、溶体化処理を加熱炉で行うにあたり、800℃程度から当該炉内で自然放冷すると、当該炉の大きさにもよるが、相分離温度域における降温速度が大きくなり易い。そこで、本発明製造方法では、降温速度(徐冷条件)を上記特定の範囲に積極的に制御することを提案する。降温速度を例えば、1℃/sec以下とするには、ヒータの出力を調整するなどして上記炉内の温度を調整することが挙げられる。降温速度を例えば1℃/sec超とするには、ファンなどを用いたり(空冷)、冷却ガスを導入したり、炉の加熱ゾーンから素材を移動させて水冷銅板や水冷ジャケットなどの冷却部に素材を配置させたりすることが挙げられる。ファンの出力、冷却ガスの流量、水冷ジャケットなどの冷却部の温度や距離などを調整することで降温速度を調整できる。この相分離により、Fe相が主としてFeで構成され(好ましくは実質的にFeのみ)、無機相が主としてAlNi成分などにより構成された相分離処理材を形成できる。
特に、上記相分離温度域での降温中、上述のように磁場を印加すると、Fe相を、上述した幅がナノオーダー、長さがマイクロオーダーといったアスペクト比が非常に大きなナノサイズの棒状とすることができ、磁場を印加しないと粒状とすることができる。後述する窒化工程では、分離工程で形成されたFe相の形状が実質的に維持されて磁性相の形状になる。従って、分離工程では、所望の形状の磁性相が得られるように分離工程の条件を選択して、所望の形状のFe相を形成するとよい。Fe相の幅や長さは、印加する磁場の大きさにより調整することができる。また、素材の組成に応じて印加する磁場の大きさを選択することができる。このナノサイズの棒状のFe相を後述するように窒化することで、磁気特性に優れるナノサイズの棒状の磁性相を具える磁性体を製造することができる。
上記分離工程は、不活性雰囲気(例えば、Arなどの不活性ガス雰囲気)、減圧雰囲気(標準の大気圧よりも圧力が低い真空雰囲気)で実施することができる。最終真空度は、例えば、10Pa以下が挙げられる。なお、1000℃超といった高温域での溶体化処理と、相分離処理とを独立して行う場合には、相分離処理のみを大気中で行うことができる。
上記分離工程では、所定の加熱時間(相分離反応が進行し、未反応相が十分に低減される時間)を終了した後、できるだけ速やかに200℃以下に冷却することが好ましい。こうすることで、分離工程を経た素材(相分離処理材)内に冷却斑が生じ難く、冷却斑によって局部的にナノサイズの磁性相が粗大化して磁気特性が低下するという不具合を防止できる。従って、上述のように相分離温度域の降温速度を制御することに加えて、相分離温度域を通過後には、冷却速度を速めることを提案する。例えば、加熱した素材を油や水などの液状冷却媒体に浸漬する、といった強制冷却手段を利用したクエンチを行うことが挙げられる。
上記分離工程を経て得られた分解相のサイズを実質的に変化させないように更に時効処理を行うと、Fe相と無機相(代表的にはAlNi)との分離を完全に進行できて好ましい。後述する窒化工程が上記時効処理の作用を兼ねていてもよい。また、上述のように無機相にFeを残存させたい場合、時効条件を調整することによりFeの残存量を調整することもできる。
(窒化工程)
窒化工程において窒素元素を含む雰囲気は、窒素(N2)のみの単一雰囲気、或いはアンモニア(NH3)雰囲気、或いは窒素(N2)やアンモニアといった窒素を含むガスと、Arといった不活性ガスや水素(H2)といった窒素を含まないガスとの混合ガスの雰囲気が挙げられる。水素を含む雰囲気とすると、窒化工程で上記相分離処理材の酸化防止に効果がある。窒化工程における加熱温度を200℃〜400℃とすることで、上記相分離処理材と窒素元素とが反応し易く、上記相分離処理材中のFe相がα”Fe16N2を生成し易い上に、ナノサイズの磁性相が粗大化することを防止できる。保持時間は0.5時間〜100時間が挙げられる。
特に、本発明製造方法では、上記窒化処理を大気圧超の加圧状態で行うことを最大の特徴とする。上述のように加圧することで、相分離処理材中のナノサイズのFe相の結晶格子が歪み、一定方向の格子間隔が広がる。この広がった格子間にN原子が規則的な方向性を持って優先的に侵入する。この結果、400℃以下の低温域であっても、所望の磁性相:α”Fe16N2という結晶構造を安定的に形成できる。このように分離工程で形成したFe相を十分に窒化でき、α”Fe16N2相を効率よく生成できると共に、Feの過剰窒化(N原子によるFe原子の置換)を抑制して磁気特性に劣るFe4NやFe3Nなどの化合物の形成を抑制できる。圧力は、上述のように70MPa〜300MPaが好ましく、70MPa〜150MPaが利用し易い。加圧の方法は、粉末成形時と同様の一軸プレス加圧、適宜な圧力媒体を利用した等方加圧のいずれも利用できる。また、加圧は、Fe相の一方向の格子間を拡大するように行うことが好ましい。具体的には素材の圧縮方向に直交する1軸方向に素材が膨張可能となるように、即ち、この1軸方向が膨張方向(非拘束方向)となるように行うことが好ましい。圧力を150MPa以下とすると、原子が移動する塑性変形が実質的に生じず、格子が膨張する弾性変形が生じるだけであるため、格子間を良好に拡大できる上に、素材の崩壊を防止できる。なお、素材に引張り応力を印加する処理を施しても、格子間を拡大できると期待される。
なお、窒化処理を大気圧で行った場合にも鉄窒化物を生成できる。しかし、反応温度を高くする必要があるため、N原子が過剰にFe格子中に取り込まれる確率が大きくなってFe4Nといった磁気特性に劣る化合物が形成され易くなり、磁気特性に劣る磁性体が得られ易い。
(加圧工程)
上記窒化工程を経た磁性体を上述のように緻密化するために加圧すると、磁気特性により優れる磁性体(高密度磁性体)とすることができる。圧力は、300MPa〜1GPaが利用し易い。この加圧は、上述の窒化工程と異なり、弾性変形しないように、金型を拘束した状態でプレス成形したり、静水圧型の加圧方式を利用したりすることが好ましい。
(その他の製造方法)
α”Fe16N2相が膜状である磁性相を有する磁性体を製造するには、無機材料(無機相の欄で述べたように、非磁性でも磁性を有するものでもよい)からなる基板にα”Fe16N2を成膜したり、Fe成膜した後上述した窒化工程を行ったりすることが挙げられる。特に、α”Fe16N2の成膜→無機材料の成膜、Feの成膜→窒化→無機材料の成膜を繰り返し行うことで、磁気特性に優れる磁性体が得られる。α”Fe16N2やFeの成膜、無機材料の成膜には、公知の成膜方法が利用できる。上記Feの成膜→窒化の工程は、窒素混入雰囲気下でのプラズマによるスパッタ法のような成膜方法を利用して、一工程としてもよい。基板は、α”Fe16N2結晶の格子面との整合性が高い結晶構造を有する材質からなるものを用いることが好ましい。このような基板として、例えば、Si,Ti,Al,Mgなどの酸化物からなるものが挙げられる。成膜する無機材料の材質は、例えば、Si,Ti,Al,Mgなどの酸化物、希土類磁石(Sm-Co化合物、Nd-Fe-B化合物、Sm-Fe-N化合物など)、フェライト磁石(Ba-Fe-O化合物、Sr-Fe-O化合物など)、Pt-Fe合金磁石、Pt-Co合金磁石などが挙げられる。α”Fe16N2相の膜厚は、上述のように30nm以下が好ましく、無機相の膜厚は、上述のように5nm以上α”Fe16N2相の膜厚以下が好ましい。但し、磁性体の生産性を考慮すると、上述した粉末成形体などを素材に用いることが好ましい。
以下、試験例を挙げて、本発明のより具体的な実施形態を説明する。
[試験例]
FeAlNi合金からなる磁性体を作製し、磁気特性を調べた。ここでは、FeAlNi合金からなる粉末成形体を素材に利用して、準備工程→分離工程→窒化工程という手順で作製した。
Fe元素を75原子%以上含有し、Coを含有しない鉄合金:Fe-17原子%Al-5.5原子%Niの溶湯を作製し(図1(I))、平均粒径が80μmの鉄合金粉末をガスアトマイズ法(Ar雰囲気)により作製する。上記平均粒径は、レーザ回折式粒度分布装置により、積算重量が50%となる粒径(50%粒径)とする。得られた合金粉末を構成する各粒子1は(図1(II))、上記組成からなる単相組織から構成される。
上記FeAlNi合金粉末を圧縮成形し(成形圧力:1GPa)、直径:φ10mm×高さ:10mmの円柱形状の粉末成形体2を作製した(図1(III))。得られた粉末成形体2の相対密度を求めたところ、92%である。相対密度は、市販の密度測定装置を利用して実際の密度を測定すると共に、Fe-17原子%Al-5.5原子%Niからなる溶湯を用いた鋳造材の真密度を演算し、実際の密度/真密度を算出することで求められる。
得られた粉末成形体2を酸素濃度:10体積ppm以下の高純度Arガス(Ar:99.9999%以上(体積割合))中で1150℃まで昇温し、1150℃×1時間の加熱を行い(溶体化処理)、上記加熱温度からの冷却工程において、850℃〜750℃の温度域(Fe-17原子%Al-5.5原子%Niの相分離温度域)を降温速度:0.2℃/秒に制御しながら磁界印加中で降温する(16MA/m(20kOe))。降温速度は、溶体化処理に用いた加熱炉内の温度を制御することで調整した。この分離工程により、Feを含むFe相11と、AlNi成分を含む無機相12という2相を有する相分離処理材3(低密度焼結体)を得る。
得られた相分離処理材3の断面をとり、この断面を光学顕微鏡(100倍)で観察したところ、原料に用いた粉末を構成する各粒子の粒界10が認められ、粒子間の三重点部分(図示せず)に隙間20が観察された。また、相分離処理材3において、上記降温時の磁界の印加方向と垂直方向の断面をとり、イオンミリングにより薄片化した後、透過型電子顕微鏡:TEM(50000倍程度)により観察したところ、各粒内には、図1(IV)に概念的に示すように棒状のFe相11間に無機相12が介在されていることが確認できた。なお、図1の粒界10の形状は模式であり、実際の形状とは異なる。また、相分離処理材3の断面のX線回折結果とTEM観察時の電子線回折のスポット解析とから上記各相の組成を同定したところ、Fe相11はFeを含有しており、無機相12は、AlNiを含有している(無機相100体積%に対して85体積%)ことが確認された。更に、得られた相分離処理材3の相対密度が粉末成形体2と実質的に同様であることが確認された。
得られた相分離処理材3を1軸加圧のホットプレス炉に挿入し、窒素雰囲気中、100MPaの加圧下で350℃×5時間の熱処理を施して、磁性体4を得た(図1(V))。
得られた磁性体4の断面をとり、この断面を光学顕微鏡(100倍)で観察したところ、原料に用いた粉末を構成する各粒子の粒界10が認められ、上記の相分離処理材3で確認された三重点部分の隙間20が維持された状態であることが確認された。また、磁性体4に対して、相分離処理材3の観察と同様に上記降温時の磁界の印加方向と垂直方向の断面をとり、TEMでの分析及びX線回折を行った結果、磁性相13は、α”Fe16N2相を主体とする相(磁性相100体積%に対して93体積%(≧80体積%以上)であり、無機相12は、AlNi成分を主体とする相を維持していること(無機相100体積%に対して85体積%)が確認された。なお、磁性相13の粉末材料中の含有量は70体積%、無機相12の含有量は30体積%である。
上記断面TEM観察像を利用して、磁性相13の幅及び長さ、磁性相13間の距離を測定したところ、磁性相13の幅は、観察像中の磁性相全体の平均で25nm(100nm以下)のナノオーダーであり、長さは、0.3μm〜3μmのマイクロオーダーであり、アスペクト比が非常に大きなナノサイズの棒状である。上記磁性相間の距離は、観察像中の磁性相全体の平均で11nm(5nm以上)であり、磁性相13間に磁気相互作用が生じないように無機相12が介在されていることが確認できた。
得られた磁性体4の磁気特性を、BHトレーサ(理研電子株式会社製DCBHトレーサ)を用いて調べたところ、固有保磁力iHc:1.2kOe(95.5kA/m)、残留磁化Br(T):1.32Tであった。
更に、得られた磁性体4に対して、静水圧プレスで500MPaの圧力で加圧して、緻密化を行った。加圧後に得られた磁性体(高密度磁性体)を上述と同様にして光学顕微鏡により組織観察を行ったところ、三重点部分の空隙が低減していることが確認された。また、得られた磁性体(高密度磁性体)の相対密度を上述と同様にして測定したところ、相対密度が97%に向上していた。
得られた磁性体(高密度磁性体)の磁気特性を、BHトレーサ(理研電子株式会社製DCBHトレーサ)を用いて調べたところ、固有保磁力iHc:1.25kOe(99.5kA/m)、残留磁化Br(T):1.39Tと磁気特性が向上していた。
上述のように、Coを実質的に含有しない鉄合金に対して、スピノーダル分離処理を施した後、加圧状態で窒化処理を施すことで、α”Fe16N2相を主たる磁性相とする磁性体が得られることが分かる。また、この磁性体は、磁気特性に優れることが分かる。更に、この磁性体を緻密化することで、磁気特性をより向上できることが分かる。
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、磁性相におけるα”Fe16N2相の含有量、無機相の組成、磁性相間の距離、磁性相の大きさ・形状、素材を構成する鉄合金の組成、製造条件(加熱温度、加熱時間、降温速度など)などを適宜変更することができる。
本発明磁性体は、永久磁石、例えば、各種のモータ、特に、ハイブリッド車(HEV)やハードディスクドライブ(HDD)などに具備される高速モータに用いられる永久磁石に好適に利用することができる。その他、本発明磁性体は、磁性相の表皮深さが磁性相の幅に近くなる周波数領域(テラヘルツ領域)までの電磁波干渉・吸収材にも使用できると期待される。本発明磁性体の製造方法は、上記本発明磁性体の製造に好適に利用することができる。
1 粒子 2 粉末成形体 3 相分離処理材 4 磁性体
10 粒界 11 Fe相 12 無機相 13 磁性相 20 隙間
100 インゴット 120 無機相 130 磁性相 400 磁石

Claims (10)

  1. 鉄窒化物を主体とする磁性相と、前記磁性相間に磁気相互作用が生じないように介在される無機相とにより実質的に構成され、
    Coを実質的に含有せず、
    前記磁性相は、α”Fe16N2相を80体積%以上含有することを特徴とする磁性体。
  2. 前記無機相は、AlNiを主体とするAlNi成分を80体積%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の磁性体。
  3. 前記磁性相間の距離が5nm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性体。
  4. 前記磁性相の幅が100nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁性体。
  5. 鉄合金に熱処理を施して、Fe元素を含む磁性相と、前記磁性相間に磁気相互作用が生じないように介在される無機相とにより実質的に構成される磁性体を製造する磁性体の製造方法であって、
    Fe元素を75原子%以上含有し、かつFe以外の金属元素を含有し、Coを実質的に含有しない鉄合金からなる素材を準備する準備工程と、
    前記素材に相分離熱処理を施して、Fe相と、前記金属元素を含む無機材料から構成され、前記Fe相間に介在される無機相とに分離する分離工程と、
    前記分離工程により得られた相分離処理材に、大気圧超の加圧状態で、かつ窒素元素含有ガス雰囲気下で200℃以上400℃以下の温度で窒化熱処理を施して、前記Fe相中のFeを窒化してα”Fe16N2相を生成し、磁性相中のα”Fe16N2相の含有量が80体積%以上である磁性体を製造する窒化工程とを具えることを特徴とする磁性体の製造方法。
  6. 前記鉄合金は、FeAlNi系合金であり、
    前記分離工程では、前記素材を1000℃以上に加熱した後、900℃〜700℃の温度範囲において当該素材の相分離温度域における降温速度を0.05℃/sec以上5℃/sec以下とすることを特徴とする請求項5に記載の磁性体の製造方法。
  7. 前記準備工程で準備する前記素材は、前記鉄合金からなる粉末を成形した粉末成形体であることを特徴とする請求項5又は6に記載の磁性体の製造方法。
  8. 前記準備工程では、前記相分離処理材の相対密度が94%以下となるように前記素材を準備することを特徴とする請求項7に記載の磁性体の製造方法。
  9. 前記窒化工程における加圧は、70MPa以上300MPa以下とすることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の磁性体の製造方法。
  10. 前記窒化工程を経て製造された前記磁性体に300MPa以上の加圧を行って、相対密度が94%超の高密度磁性体にする加圧工程を具えることを特徴とする請求項8に記載の磁性体の製造方法。
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