従来、この種のインバータ制御装置は、通電角を電気角120度以上に広げる広角制御を行うことにより、インバータの運転範囲を拡大し、インバータ制御装置の出力を増大するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
一般にこれまでインバータの波形制御として、制御の容易さの観点から120度通電波形が採用されてきた。ブラシレスDCモータを駆動するシステムにおいては、正負それぞれの電気角が180度あるにもかかわらず、電気角120度分だけしかインバータの各相のスイッチを導通させておらず、残りの電気角60度の区間が無制御となっていた。
従って、無制御期間においては、インバータが望みの電圧を出力することができず、インバータの直流電圧利用率が低い。そして直流電圧利用率が低いことに起因してブラシレスDCモータの端子電圧が小さくなり、運転範囲が狭くなってしまう、すなわち最高回転速度が低くなっていた。
そこで、この特許文献1では、電圧形インバータの通電幅を電気角で120度より大きく、180度以下の所定の幅に設定しており、無制御区間を電気角で60度未満にしている。その結果、モータ端子電圧を大きくし、運転範囲を広くしている。
また近年、モータの高効率化を図るためにロータ内部に永久磁石を埋め込み、磁石に起因するトルクのみならず、リラクタンスに起因するトルクを発生させることにより、モータ電流を増加させることなく、全体として発生トルクを大きくすることができる埋込磁石構造のブラシレスDCモータが用いられてきている。
このリラクタンストルクを有効に活用するために、モータ誘起電圧の位相に対してインバータの電圧位相を進める進角制御が行われている。さらに進角制御は、弱め磁束効果を有効に活用でき、出力トルクを増大できる。
ホール素子等のセンサを用いたモータでは、センサによりロータ磁極位置を正確に認識することができるため、間接的な誘起電圧によるロータ磁極位置を検知などの必要がなく、センサから直接ロータ磁極位置が判断できるので、容易にモータ制御を行なうことができる。
しかしながら、密閉型圧縮機においては、ホール素子等のセンサを埋め込むこと自体が、使用環境によるセンサ故障、冷媒漏れなどの信頼性、センサ一体型による故障時のモータのメンテナンスの観点から採用が容易ではなく、一般的にはホール素子等のセンサを用いずにステータ巻線に生じる誘起電圧により、ロータ磁極位置を検知するセンサレス方式のインバータ制御装置が用いられている。
この場合、無制御期間中の電気角60度を用い、上下アームのスイッチのオフ期間中にモータ端子に現れる誘起電圧を観測することにより、ロータ磁極位置を得ているものが多
い。
以下、図面を参照しながら上記従来のインバータ制御装置を説明する。
図8は、特許文献1に記載された従来のインバータ制御装置の構成を示す図である。また図9は、従来のインバータ制御装置の各部の信号波形および処理内容を示す図であり、広角度150度時の特性を示している。
図10は、従来のインバータ制御装置の負荷トルクと回転速度特性を示す図であり、広角通電制御を行った時の特性を示している。
図8において、直流電源001の端子間に3対のスイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzをそれぞれ直列接続してインバータ回路部002を構成している。
ブラシレスDCモータ003は、4極の分布巻き構造のステータ003aと、ロータ003bで構成されている。ロータ003bは内部に永久磁石003α、永久磁石003βを埋め込んだ磁石埋込型構造である。
各対のスイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzどうしの接続点は、ブラシレスDCモータ003のY接続された各相のステータ巻線003u、ステータ巻線003v、ステータ巻線003wの端子にそれぞれ接続されている。
そして、各対のスイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzどうしの接続点は、Y接続された抵抗004u、004v、004wにもそれぞれ接続されている。
なお、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzのコレクターエミッタ端子間に、それぞれ保護用の還流ダイオードDu、Dx、Dv、Dy、Dw、Dzが接続されている。
磁極位置検出回路010は、差動増幅器011と積分器012とゼロクロスコンパレータ013により構成されている。そして、上記Y接続されたステータ巻線003u、ステータ巻線003v、ステータ巻線003wの中性点003dの電圧は、抵抗011aを介して増幅器011bの反転入力端子に供給され、Y接続された抵抗004u、004v、004wの中性点004dの電圧は、そのまま増幅器011bの非反転入力端子に供給されている。
そして、増幅器011bの出力端子と反転入力端子との間に抵抗011cを接続することにより、差動増幅器011として動作させるようにしている。
また、差動増幅器011の出力端子から出力される出力信号は、抵抗012aとコンデンサ012bとを直列接続してなる積分器012に供給されている。
積分器012からの出力信号(抵抗012aとコンデンサ012bとの接続点電圧)は、ゼロクロスコンパレータ013の非反転入力端子に供給されており、ゼロクロスコンパレータ013の反転入力端子には、中性点003dの電圧が供給されている。
そして、ゼロクロスコンパレータ013の出力端子から磁極位置検出信号が出力される。
上記差動増幅器011、積分器012およびゼロクロスコンパレータ013で、ブラシレスDCモータ003のロータ003bの磁極位置を検出する磁極位置検出回路010が構成される。
マイクロプロセッサ020では、磁極位置検出回路010から出力される磁極位置検出信号に基づいて、周期測定、進角や通電角の設定のための位相補正などを行い、電気角1周期当りのタイマ値を算出し、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzの転流信号を決定する。
また、マイクロプロセッサ020は、回転速度指令に基づいて電圧指令を出力し、電圧指令をPWM(パルス幅変調)変調するとともに、回転速度指令と実回転速度の偏差に基づき、PWM変調信号のON/OFF比であるデューティ量を制御し、3相分のPWM変調信号を出力する。
そして、回転速度指令に対し、実回転速度が低いとデューティを大きくし、逆に実回転速度が高いとデューティを小さくする。
このPWM変調信号は、ドライブ回路030に供給され、ドライブ回路030が、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzのそれぞれのベース端子に供給すべきドライブ信号を出力する。
以上のように構成されたインバータ制御装置について、以下その通電における動作を説明する。
図9において、(A)、(B)、(C)は、ブラシレスDCモータ003のU相、V相、W相の誘起電圧Eu、Ev、Ewであり、位相がそれぞれ120度ずつずれた状態で変化する。
(D)は、差動増幅器011から出力される信号であり、(E)は、積分器012による積分波形である。この積分波形がゼロクロスコンパレータ013に供給されることにより、積分波形のゼロクロス点において立ち上り、立ち下りの励磁切替信号が磁極位置検出信号として(F)のように出力される。
この励磁信号の立ち上り、立ち下りによってスタートする位相補正タイマ(G1)と、この位相補正タイマによってスタートする第2位相補正タイマ(G2)により、転流パターンであるインバータモード(N)を1ステップ進める。
ここで、W相の誘起電圧Ewの波形からU相の通電タイミングを算出しており、位相補正タイマ(G1)により、インバータ回路部002の位相進み量を制御できる。図9においては、通電角150度で進角60度の設定である。従って、位相補正タイマ(G1)の値は45度相当、第2位相補正タイマ(G2)の値は30度相当の値となっている。
その結果、各インバータモード(N)に対応して、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、TrzのON/OFF状態が、それぞれ(H)、(I)、(J)、(K)、(L)、(M)に示すように制御される。
以上のように、通電期間を120度から180度に設定した状態でのブラシレスDCモータ003の駆動を達成することができ、インバータ電圧の位相をモータ誘起電圧よりも進めた状態にすることができる。
また、広角通電制御を行うことにより、図10に示すように負荷トルクの大きいところでの運転領域を拡大することができる。
しかしながら、前記従来の構成では、ロータ003bの回転に基づいてステータ巻線003u、ステータ巻線003v、ステータ巻線003wに生じる誘起電圧を検出し、この誘起電圧を、90度の遅れを有する積分器012によって移相することにより、ロータ003bの磁極に対応する位置検出信号を得ており、この位置検出信号に基づいてステータ巻線003u、ステータ巻線003v、ステータ巻線003wへの通電タイミングを決定する構成となっている。
その結果、90度遅れ位相の積分器012を用いているので、急激な加減速に対する応答性が悪いという不具合がある。
そこで、このような応答性を改善した位置検出回路が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
以下、図面を参照しながら、特許文献2に記載された他の従来のインバータ制御装置について説明する。
図11は、他の従来のインバータ制御装置の構成を示す図、図12は、他の従来例のインバータ制御装置の各部の信号波形および処理内容を示す図である。
図11において、抵抗101、102は、母線103、104間に直列に接続されており、その共通接続点たる検出端子ONは、ブラシレスDCモータ105のステータ巻線105u、ステータ巻線105v、ステータ巻線105wの中性点の電圧に相当する直流電源001の電圧の1/2たる仮想中性点の電圧VNを出力するようになっている。
コンパレータ106a、106b、106cは、これらの各非反転入力端子(+)が、抵抗107、108、109を介して出力端子OU、OV、OWにそれぞれ接続され、各反転入力端子(−)が、検出端子ONに接続されている。
そして、これらのコンパレータ106a、106b、106cの出力端子OU、OV、OWは、論理手段たるマイクロプロセッサ110の入力端子I1、I2、I3にそれぞれ接続されている。また、その出力端子O1からO6は、ドライブ回路120を介してスイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzを駆動する。
また、コンパレータ106a、106b、106cの出力信号に基づき、誘起電圧の変化時間を測定する第1タイマ122を設け、この第1タイマ122で測定した変化時間に基づいて遅延時間を得る第2タイマ123を設けている。
コンパレータ106a、106b、106cの出力信号に基づく誘起電圧の正、負状態と第2タイマ123のタイミングから、各相のステータ巻線105u、ステータ巻線105v、ステータ巻線105wに通電するための駆動信号を出力する。
ブラシレスDCモータ105は、4極分布巻き構造で、ロータ105aは、表面に永久磁石105α、永久磁石105βを配置した表面磁石構造である。従って、通電角120度、進角0度の設定となっている。
以上のように構成されたインバータ制御装置について、以下その動作を説明する。
図12において、(A)、(B)、(C)は、定常動作時におけるステータ巻線105u、ステータ巻線105v、ステータ巻線105wの端子電圧Vu、Vv、Vwを示すものである。
これらの端子電圧Vu、Vv、Vwは、インバータ回路部140による供給電圧Vua、Vva、Vwaと、ステータ巻線105u、ステータ巻線105v、ステータ巻線105wに発生する誘起電圧Vub、Vvb、Vwbと、転流切り換え時にインバータ回路部140の還流ダイオードDu、Dx、Dv、Dy、Dw、Dzの内のいずれかが導通することにより生じるパルス状のスパイク電圧Vuc、Vvc、Vwcとの合成波形となる。
そして、これらの端子電圧Vu、Vv、Vwと、直流電源001の電圧の1/2の電圧たる仮想中性点の電圧VNと、コンパレータ106a、106b、106cにより比較した出力信号PSu、PSv、PSwが、(D)、(E)、(F)に示されている。
この場合、コンパレータ106a、106b、106cの出力信号PSu、PSv、PSwは、前述の誘起電圧Vub、Vvb、Vwbの正および負ならびに位相を表わす信号PSua、PSva、PSwaと、前述のパルス状電圧のスパイク電圧Vuc、Vvc、Vwcに対応する信号PSub、PSvb、PSwbとからなる。
また、パルス状電圧のスパイク電圧Vuc、Vvc、Vwcは、ウェイトタイマにより無視しているので、コンパレータ106a、106b、106cの出力信号PSu、PSv、PSwは、結果として誘起電圧Vub、Vvb、Vwbの正、および負、ならびに位相を示すものとなる。
マイクロプロセッサ110は、各コンパレータ106a、106b、106cの出力信号PSu、PSv、PSwの状態に基づいて、(G)に示す如き6つのモードAからFを認識する。そして、出力信号PSu、PSv、PSwのレベルが変化した時点から電気角で30度だけ遅らせて、ドライブ信号DSu、DSv、DSw、DSx、DSy、DSzを出力した状態が、それぞれ(J)から(O)である。
モードAからFの各時間T(H)は、電気角60度を示すものであり、AからFの1/2の時間(I)すなわちT/2は、電気角で30度に相当する遅延時間を示すものである。
このように、ブラシレスDCモータ105のロータ105aの回転に応じて、ステータ巻線105u、ステータ巻線105v、ステータ巻線105wに生ずる誘起電圧Vub、Vvb、Vwbからロータ105aの位置状態を検出するとともに、その誘起電圧Vub、Vvb、Vwbの変化時間(T)を検出してステータ巻線105u、ステータ巻線105v、ステータ巻線105wへの通電モードおよびタイミングにより各相のステータ巻線105u、ステータ巻線105v、ステータ巻線105wの通電のための駆動信号を決定して実行させるようにしている。
そのため、特許文献1に記載された従来のインバータ制御装置とは異なり、フィルタ回路を必要としないことから誘起電圧Vub、Vvb、Vwbの検出感度が高くなって始動特性の向上を図ることができ、低速駆動を可能としている。
さらに、90度遅れ特性のフィルタ回路を用いておらず、第1タイマ122および第2タイマ123の組合せにより、30度遅れをもって制御できるので、急激な加減速に対する応答性を改善している。
第1の発明は、ロータに永久磁石を設けたブラシレスDCモータを駆動するインバータ回路部と、前記ブラシレスDCモータのステータに誘起される誘起電圧に基づいて前記ロータの前記ステータに対する相対位置を検出する位置検出手段と、前記インバータ回路部の通電角制御を行なう通電角制御手段とを備え、前記通電角制御手段は、前記位置検出手段の検出値に基づき、前記インバータ回路部における通電角を誘起電圧のゼロクロス点よりも前に転流する制御を行ない、前記インバータ回路部には、ホール素子等のセンサを用いないものである。
これによって、通電角180度未満の区間において、誘起電圧の位置検出可能な通電角の通常の最大角150度を150度以上にすることができ、無通電角をより少なくすることにより、インバータのトルクアップが図れ、より広い運転範囲で制御することができる。
第2の発明は、特に、第1の発明において、前記通電角制御手段の出力を、前記ブラシレスDCモータの機械角1周期中に少なくとも1回は位置検出手段により検出した誘起電圧のゼロクロス点を使用せずに、過去に取得した検出値から演算し、前記インバータ回路部における通電角を誘起電圧のゼロクロス点よりも前に転流するようにしたものである。
これによって、位置検出手段により検出した誘起電圧による制御と同時に、通電角制御手段の出力を演算により行なった通電角を150度以上にすることができ、無通電角をより少なくすることにより、インバータのトルクアップが図れ、より広い運転範囲で制御することができる。
第3の発明は、特に、第1または第2の発明において、デューティ設定手段を有し、前記通電角制御手段を、前記ブラシレスDCモータへの通電率が所定のデューティ以上となった場合、前記位置検出手段の検出値に基づき、前記インバータ回路部における通電角を誘起電圧のゼロクロス点よりも前に転流する制御を行なうようにしたものである。
これによって、従来の広角制御では駆動不可能な制御範囲である場合のみ、付与トルクを大きくでき、実用性を増したモータ制御を行なうことができる。
第4の発明は、特に、第1から3のいずれか1つの発明において、前記通電角制御手段を、前記位置検出手段が検出する誘起電圧のゼロクロス点の時間間隔により演算した前記ブラシレスDCモータの回転数が所定の回転数以上となった場合、前記位置検出手段の検出値に基づき、前記インバータ回路部における通電角を誘起電圧のゼロクロス点よりも前に転流する制御を行なうようにしたものである。
これによって、駆動トルクが大きくなった場合のみ、付与トルクを大きくでき、実用性を増したモータ制御を行なうことができる。
第5の発明は、特に、第1から4のいずれか1つの発明の前記ブラシレスDCモータのロータを、内部に永久磁石が埋め込まれ、突極性を有する構成としたものである。
これによって、150度以上の通電角での広角制御を行なうことで、ブラシレスDCモータの誘起電圧のゼロクロス点より進角した制御を行う事ができ、リラクタンストルクをより有効に活用したインバータ制御装置を提供することができる。
第6の発明は、特に、第1から5のいずれか1つの発明のインバータ制御装置を用いた電動圧縮機とするもので、電動圧縮機に適用した場合においても、より高負荷のモータ制御を行なうことができ、より広い運転範囲で制御できる電動圧縮機を提供することができる。
第7の発明は、特に、第1から5のいずれか1つの発明のインバータ制御装置を用いた家庭用電気機器とするもので、冷蔵庫等の家庭用電気機器に適用した場合において、より広い運転範囲のモータ制御を行なうことができ、使い勝手の良い冷蔵庫等の家庭用電気機器を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるインバータ制御装置のブロック図、図2は、同実施の形態におけるインバータ制御装置の通電角150度以下の信号波形図であり、各部の信号波形と処理内容を示している。図3は、同実施の形態1におけるインバータ制御装置のインバータ制御のフローチャートである。
図1において、インバータ制御装置200は、商用交流電源201と電動圧縮機(図示せず)に接続されており、商用交流電源201を直流電源に変換する整流部202と、電動圧縮機のブラシレスDCモータ203を駆動するインバータ回路部204を備えている。
さらに、インバータ回路部204を駆動するドライブ回路205と、ブラシレスDCモータ203の端子電圧を検出する位置検出回路部206と、インバータ回路部204を制御するマイクロプロセッサ207を備えている。
マイクロプロセッサ207は、位置検出手段208と、通電角を決定する通電角制御手段209、転流信号を生成する転流制御手段210を備えている。
ここで、位置検出手段208は、位置検出回路部206からの出力信号に対してブラシレスDCモータ203の磁極位置を検出する位置検出判定手段208aと、磁極位置検出のサンプリング開始を決定する位置検出待機手段208bにより構成されている。
さらに、マイクロプロセッサ207は、位置検出判定手段208aからの出力に対して回転速度を算出する回転速度検出手段211と、回転速度に応じて転流信号に対しPWM変調を行なうためのデューティ設定手段212と、キャリア出力手段213と、PWM制御手段214と、そして、転流制御手段210とPWM制御手段214の出力によりドライブ回路205を駆動するためのドライブ制御手段215を備えている。
ブラシレスDCモータ203は、6極の突極集中巻モータであり、3相巻線のステータ203aとロータ203bとで構成されている。
ステータ203aは、6極9スロットの構造であり、各相のステータ巻線203u、ステータ巻線203v、ステータ巻線203wの巻数は、それぞれ189ターンである。ロータ203bは、内部に永久磁石203α、永久磁石203β、永久磁石203γ、永久磁石203δ、永久磁石203ε、永久磁石203ζを配置し、リラクタンストルクを発生する磁石埋込型構造である。
インバータ回路部204は、6つの三相ブリッジ接続されたスイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzと、それぞれに並列に接続された環流ダイオードDu、Dx、Dv、Dy、Dw、Dzより構成されている。
位置検出回路部206は、コンパレータ(図示せず)などから構成されており、ブラシレスDCモータ203の誘起電圧に基づく端子電圧信号と基準電圧とを、コンパレータにより比較して位置検出信号を得ている。
位置検出待機手段208bは、位置検出回路部206の出力信号からスパイク電圧信号を分離し、位置検出信号のみを抽出するために、スパイク電圧信号を無視するためのウェイト時間を設定する。
位置検出判定手段208aは、位置検出回路部206の出力信号からロータ203bの位置信号を得て、位置検出信号を生成する。
通電角制御手段209は、位置検出判定手段208aで得た位置検出情報に基づいて、転流制御手段210における通電角を制御する。通電角更新タイマ209aは、通電角制御手段209による通電角の更新周期を設定する。
転流制御手段210は、位置検出判定手段208aの位置信号と通電角制御手段209の通電角により、転流のタイミングを計算し、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzの転流信号を生成する。
回転速度検出手段211は、位置検出判定手段208aからの位置信号を一定期間カウントしたり、パルス間隔を測定したりすることにより、ブラシレスDCモータ203の回転速度を算出する。
デューティ設定手段212は、回転速度検出手段211から得られた回転速度と、指令回転速度との偏差からデューティの加減演算を行い、デューティ値をPWM制御手段214へ出力する。回転速度指令に対し、実回転速度が低いとデューティを大きくし、逆に実回転速度が高いとデューティを小さくする。
キャリア出力手段213では、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzをスイッチングするキャリア周波数を設定する。この場合、キャリア周波数は、3kHzから10kHzの間で設定している。
PWM制御手段214では、デューティ設定手段212で設定されたデューティ値と、キャリア出力手段213で設定されたキャリア周波数から、PWM変調信号を出力する。
ドライブ制御手段215では、転流信号とPWM変調信号と通電角、および進角を合成し、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、TrzをON/OFFするドライブ信号を生成し、ドライブ回路205へ出力する。
ドライブ回路205では、ドライブ信号に基づき、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、TrzのON/OFFスイッチングを行い、ブラシレスDCモータ203を駆動する。
次に、図2に示すインバータ制御装置の各種波形について説明する。
ここで、インバータ制御装置200は、通電角を150度、進角15度でブラシレスDCモータ203を制御している状態を示している。
(A)、(B)、(C)は、ブラシレスDCモータ203のU相、V相、W相の端子電圧Vu、Vv、Vwであり、それぞれの位相が120度ずつずれた状態で変化する。
これらの端子電圧は、インバータ回路部204による供給電圧Vua、Vva、Vwaと、ステータ巻線203u、ステータ巻線203v、ステータ巻線203wに発生する誘起電圧Vub、Vvb、Vwbと、転流切り換え時にインバータ回路部204の還流ダイオードDu、Dx、Dv、Dy、Dw、Dzの内のいずれかが導通することにより生じるパルス状のスパイク電圧Vuc、Vvc、Vwcとの合成波形となる。
そして、これらの端子電圧Vu、Vv、Vwと直流電源電圧1の1/2の電圧たる仮想中性点電圧VNとを比較し、コンパレータより出力する出力信号PSu、PSv、PSwを(D)、(E)、(F)に示している。
この出力信号は、供給電圧Vua、Vva、Vwaに対応するPSua、PSva、PSwaと、スパイク電圧Vuc、Vvc、Vwcに対応するPSuc、PSvc、PSwcと、誘起電圧Vub、Vvb、Vwbと仮想中性点電圧VN比較中の期間に相当するPSub、PSvb、PSwbとの合成信号となる。
ここで、パルス状のスパイク電圧Vuc、Vvc、Vwcは、位置検出待機手段208bにより設定するウェイト時間(G)によって無視するため、コンパレータの出力信号PSu、PSv、PSwは、結果として誘起電圧Vub、Vvb、Vwbの正、および負、ならびに位相を示すものとなる。
マイクロプロセッサ207は、各コンパレータの出力信号PSu、PSv、PSwの状態に基づいて(H)に示す如き6つのモードA〜Fを認識し、出力信号PSu、PSv、PSwの状態に応じて、ドライブ信号DSu(I)からDSz(N)を出力する。
つまり、(H)に示すA〜Fの各モードにおける経過時間は、マイクロプロセッサ207が認識する位置検出信号の状態変化の発生間隔、即ち位置検出間隔(O)を示している。
続いて、図3のフローチャートにより詳細な動作を説明する。
図3において、位置検出待機手段208bは、ステップ103の後からステップ202までとなる。また、位置検出判定手段208aは、ステップ202からステップ305までとなる。
まず、ステップ101でタイマのカウント動作を開始し、ステップ102で転流時間が経過するまで待機する。転流時間が経過した後は、ステップ103でドライブ回路205へのドライブ信号DSu、DSv、DSw、DSx、DSy、DSzを出力し、転流動作を行なう。転流動作についての詳細は、後ほど図4、図5にて説明する。
ここで、位置検出手段208を構成する位置検出判定手段208a、位置検出待機手段208bについて説明する。
まず、位置検出待機手段208bについて説明する。
転流動作を行なった際、インバータ回路部204のスイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzの内のいずれかの状態が、ONからOFFへの切り換わった直後に、直前に導通していたステータ巻線203u、ステータ巻線203v、ステータ巻線203wに蓄えられたエネルギーが、還流ダイオードDu、Dx、Dv、Dy、Dw、Dzの内のいずれかの導通によって放出されるまでの期間、パルス状のスパイク電圧Vuc、Vvc、Vwcが発生する。
このスパイク電圧Vuc、Vvc、Vvwを無視した後、誘起電圧Vub、Vvb、Vwbが、仮想中性点電圧VNを通過するクロスポイントにより位置検出を行なう。すなわち、ステップ104でタイマがウェイト時間を経過するまで待機し、ウェイト時間が経過した後、ステップ105で位置検出を開始する。
すなわち、位置検出待機手段208bにおいて、ウェイト時間が経過するまで位置検出の開始を待機させて、スパイク電圧Vuc、Vvc、Vvwを無視した後に位置検出を行うものである。
次に、位置検出判定手段208aについて説明する。
ステップ106において、位置検出回路部206からの出力信号PSu、PSv、PSwの状態の検出を行ない、続いてステップ107において、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzの出力状態、すなわち、図2における動作モードの状態に応じた出力信号PSu、PSv、PSwの状態によって位置検出判定を行なう。
一例として、図2における動作モードがAの場合、PSuがHレベル、PSvがLレベル、PSwがHレベルを検出することによって、U相端子電圧の立上り検出となる。同様に、他の動作モード状態においても、PSu、PSv、PSwの状態を調べることにより、仮想中性点電圧VNに対する各端子電圧の立上りまたは立下り検出を行なう。
位置検出の判定が行なわれた場合は、ステップ108に移行する。
ステップ108は、タイマの読取りを行ない、前回の位置検出からの経過時間を測定する。ここで、各端子電圧の立上り、または立下り検出による位置検出は、端子電圧1周期中に6回発生するため、位置検出間隔を測定することにより、電気角で60度に相当する経過時間を得ることができる。
通常、スパイク電圧Vuc、Vvc、Vwcは、誘起電圧Vub、Vvb、Vwbが仮想中性点電圧VNを通過するクロスポイントの手前で終了する。
ステップ109は、ステップ108で得られた直前の60度毎の位置検出間隔であるタイマ値とステップ104におけるウェイト時間との時間差を、判定時間として算出する。
すなわち、位置検出判定手段208aにおいて、位置検出判定手段208aにおける位置検出間隔と、位置検出待機手段208bにおけるウェイト時間との時間差を算出するも
のである。
次に、ステップ110において、得られた位置検出間隔に応じて、次回の転流時間とウェイト時間を設定する。
一例として、図2においては通電角150度、進角15度の動作を図示しており、転流タイミングは、位置検出間隔で得た60度を基準として、ドライブ信号DSu、DSv、DSw、DSx、DSy、DSzのONタイミングを、位置検出後の0度、OFFタイミングを、位置検出後の30度としている。また、次回の位置検出を開始するまでのウェイト時間は、位置検出後の45度としている。
次に、転流動作の詳細について図4、図5のフローチャート、及び図6のタイミング波形にて説明する。
図4は、上述した通常制御、つまり通電角150度以下で行なう広角制御に対するフローチャートであり、図5は、通電角150度より上で行う広角制御に対するフローチャートである。
また、図6は、通電角150度より上の信号波形図であり、図5のフローチャートに対するタイミング波形である。図4のフローチャートに対するタイミング波形は図2となる。
まず、図4の通電角150度以下で行なう広角制御に対するフローチャートから説明する。
ステップ201は、位置検出手段208により位置検出を行なう検出相を判断する。U相であればステップ202、ステップ203へと移行し、V相、もしくはW相であれば、ステップ204へ移行する。
ステップ202、ステップ203は、位置検出手段208により位置検出を行なう検出相がU相であった場合である。ステップ202では、位置検出回路部206から出力される出力信号を入力してU相の転流のタイミングを決定し、ステップ203にてU相を転流させる。これは、図2の(H)の動作モードA、Dに対する端子電圧Vuに基づいたコンパレータ出力信号PSuを受けて、ドライブ信号DSu、DSxへ出力する動作である。
同様にV相、W相について説明する。
ステップ204は、位置検出手段208により位置検出を行なう検出相がV相、W相のいずれであるかを判断する。V相であれば、ステップ205、ステップ206へ移行し、W相であればステップ207、ステップ208へ移行する。
ステップ205、ステップ206は、位置検出手段208により位置検出を行なう検出相がV相であった場合である。ステップ205では、位置検出回路部206から出力される出力信号を入力してU相の転流のタイミングを決定し、ステップ206にてV相を転流させる。これは、図2の(H)の動作モードC、Fに対する端子電圧Vvに基づいたコンパレータ出力信号PSvを受けて、ドライブ信号DSv、DSyへ出力する動作である。
ステップ207、ステップ208は、位置検出手段208により位置検出を行なう検出相がW相であった場合である。ステップ207では、位置検出回路部206から出力される出力信号を入力してU相の転流のタイミングを決定し、ステップ208にてW相を転流
させる。これは、図2の(H)の動作モードB、Eに対する端子電圧Vwに基づいたコンパレータ出力信号PSwを受けて、ドライブ信号DSw、DSzへ出力する動作である。
次に、通電角150度より上で行う広角制御に対する説明を図5、図6にて説明する。
ステップ301は、位置検出回路部206の出力信号を、位置検出手段208が立上りによる検出か、立下りによる検出かについて判断し、立下りによる検出であった場合、ステップ302へ移行し、立上りによる検出であった場合は、ステップ310へ移行する。
ステップ302以降の立下りによる検出における転流動作は、図4の通電角150度以下で行なう広角制御に対するフローチャート内のステップ201〜208と同様である。
ステップ302では、ステップ201に相当し、位置検出手段208により位置検出を行なう検出相を判断する。U相であればステップ303、ステップ304へと移行し、V相、もしくはW相であれば、ステップ305へ移行する。
ステップ303、ステップ304は、位置検出手段208により位置検出を行なう検出相がU相であった場合で、ステップ202、ステップ203に相当する。ステップ303において、位置検出回路部206から出力される出力信号を入力してU相の転流のタイミングを決定し、ステップ204にてU相を転流させる。これは、図6の(H)の動作モードAに対する端子電圧Vuに基づいたコンパレータ出力信号PSuを受けて、ドライブ信号DSu、DSxへ出力する動作である。
同様にV相、W相について説明する。
ステップ305は、ステップ204に相当し、位置検出手段208により位置検出を行なう検出相がV相、W相のいずれであるかを判断する。V相であれば、ステップ306、ステップ307へ移行し、W相であればステップ308、ステップ309へ移行する。
ステップ306、ステップ307は、位置検出手段208により位置検出を行なう検出相がV相であった場合で、ステップ205、ステップ206に相当する。ステップ306では、位置検出回路部206から出力される出力信号を入力してV相の転流のタイミングを決定し、ステップ307にてV相を転流させる。これは、図6の(H)の動作モードDに対する端子電圧Vvに基づいたコンパレータ出力信号PSvを受けて、ドライブ信号DSv、DSyへ出力する動作である。
ステップ308、ステップ309は、位置検出手段208により位置検出を行なう検出相がW相であった場合で、ステップ207、ステップ208に相当する。ステップ308では、位置検出回路部206から出力される出力信号を入力してW相の転流のタイミングを決定し、ステップ309にてW相を転流させる。これは、図6の(H)の動作モードGに対する端子電圧Vwに基づいたコンパレータ出力信号PSwを受けて、ドライブ信号DSw、DSzへ出力する動作である。
次に、ステップ301において位置検出回路部206の出力信号が位置検出手段208の立上りによる検出である場合について、ステップ310〜ステップ314で説明を行なう。
ステップ310では、立下りによる検出時に転流を行なった転流相を判断する。U相であればステップ311へ移行し、V相、もしくはW相であれば、ステップ312へ移行する。
ステップ311は、立下りによる検出時に転流を行なった転流相がU相であった場合に行なう処理であり、別相であるW相を転流させる。これは、図6の(H)の動作モードAに対する端子電圧Vuに基づいたコンパレータ出力信号PSuを受けて、動作モードCでドライブ信号DSw、DSzへ出力する動作である。(H)の動作モードA〜Cを見たときに、U相の立下りから、次に位置検出回路部206の出力信号を位置検出手段208が入力するのは、W相の立上りであり、U相の立下りを基準に、W相の立上りを出力する。
つまり、通電角を最大限広げるために、位置検出手段208は、立上りに対する位置検出回路部206の出力信号を無視し、転流相の直前の別相の立下り検出位置から転流相の通電角を決定して制御を行ない、通電する間隔は、転流相の立下り検出の時間間隔から検出を行なう。
基準点は別相で行ない、入れるタイミングは対象の転流相で行なうことで、一般の広角制御の通電角150度から、立下りの位置検出回路部206の出力信号を位置検出手段208で行なえる最大通電角として、165度まで拡げる制御を行なう。
以下、立上り検出した場合のV相、W相について、同様に説明する。
ステップ312では、立下りによる検出時に転流を行なった転流相がV相であるか、W相であるかを判断する。V相であればステップ313へ移行し、W相であればステップ314へ移行する。
ステップ313は、立下りによる検出時に転流を行なった転流相がV相であった場合に行なう処理であり、別相であるU相を転流させる。これは、図6の(H)の動作モードDに対する端子電圧Vvに基づいたコンパレータ出力信号PSvを受けて、動作モードFでドライブ信号DSu、DSxへ出力する動作である。(H)の動作モードD〜Fを見たときに、V相の立下りから、次に位置検出回路部206の出力信号を位置検出手段208が入力するのは、U相の立上りであり、V相の立下りを基準にU相の立上りを出力する。
ステップ314は、立下りによる検出時に転流を行なった転流相がW相であった場合に行なう処理であり、別相であるV相を転流させる。これは、図6の(H)の動作モードGに対する端子電圧Vwに基づいたコンパレータ出力信号PSwを受けて、動作モードIでドライブ信号DSv、DSyへ出力する動作である。(H)の動作モードG〜Iを見たときに、W相の立下りから、次に位置検出回路部206の出力信号を位置検出手段208が入力するのは、V相の立上りであり、W相の立下りを基準にV相の立上りを出力する。
一例として、図6においては、通電角165度の動作を図示しており、立下りの転流タイミングは、図2と同様に、位置検出間隔で得た検出値を基準として、また、立上りの転流タイミングは、各転流相の直前の立下がり位置検出を基準に、転流相の立下がり位置検出間隔で得た時間を元にして、ドライブ信号DSu、DSv、DSw、DSx、DSy、DSzのONタイミング、OFFタイミングを設定する。
なお、本実施の形態は、立下りの転流タイミングを一般の広角制御のままとし、立上りの転流タイミングを、各転流相の直前の立下がり位置検出を基準として行なっているものであるが、立上りの転流タイミングは、一般の広角制御のままで、立下りの転流タイミングを、各転流相の直前の立上り位置検出を基準として行なうことに対しても、同様の制御が行なえるものであり、本実施の形態に限定されるものではない。
ここで、マイクロプロセッサ207が行なう広角制御について、図7を参照しながら説
明する。
図7は、マイクロプロセッサ207が制御する広角制御のフローチャートである。
広角制御は、デューティ、回転数の設定値により、通電角を150度より上で制御するか、150度以下で制御するかどうかを決定する。
ステップ401では、デューティが設定値以上であるかどうかを判断し、デューティが設定値以上であればステップ402へ移行し、デューティが設定値未満であればステップ403へ移行する。
ステップ402では、デューティが設定値以上であり、通電角150度より上で行う広角制御を行なう。フローチャート内の別相検知制御は、通電角150度より上で行う広角制御を示す。
ステップ403では、回転数が設定値以上であるかどうかを判断し、回転数が設定値以上であればステップ402へ移行し、回転数が設定値未満であればステップ404へ移行する。
ステップ404では、デューティ、回転数共に設定値未満であった場合において、通常制御、つまり通電角150度以下の広角制御を行なう。
つまり、負荷の重さにより通電角を150度より上とするのかどうかを判断する。そうすることにより、より細かな通電設定で負荷動作を行なうことができる。