JP2012072472A - 高靱性かつ高変形性高強度鋼管用鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.04〜0.08%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.8〜3.0%、P:0.008%以下、S:0.0006%以下、O:0.003%以下、N:0.006%以下、Al:0.003〜0.05%、Ni:0.1〜1.0%、Cr:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜0.05%、Ti:0.005〜0.020%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、金属組織がベイナイトを主体とし、前記ベイナイト中に第2相として島状マルテンサイトが面積率5〜15%で均一分散し、粒界フェライトの面積率が全金属組織の5%以下であって、シャルピー衝撃試験片の破面におけるセパレーション発生挙動を規定したことを特徴とする、高靱性かつ高変形性高強度鋼管用鋼板。
【選択図】図3
Description
そこで、本発明は、生産性の低下や製造コストの上昇を伴わず、高強度、低YR、および高シャルピー吸収エネルギーを兼ね備えた厚鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
次に、ベイナイトを主体とする母相と、前記母相中に分散して存在する第2相として島状マルテンサイトを有する二相組織鋼板を製造するにあたり、特に、圧延終了温度をAr3変態点を超える高い温度としても、シャルピー衝撃試験片にセパレーションが発生してしまう原因について鋭意研究を行った。
(1)その結果、延性-脆性遷移挙動を向上させるために実施する950℃以下のオーステナイト未再結晶温度域での強圧下により、オーステナイト組織に形成された集合組織が、その後の加速冷却の際に変態して生成するベイナイトに受け継がれること、
(2)および、この強圧下により、オーステナイト粒界での拡散変態が促進され、加速冷却を開始する温度がAr3変態点以上であっても一部のオーステナイト粒界で初析フェライトが生成し、この粒界上のフェライトもまたセパレーション発生の原因となること、
(3)さらに、鋼中に存在するMnSが、前記オーステナイト粒界からの初析フェライト生成を促進すること、ただしCa添加による硫化物形態制御によりMnSをCaSのようなCa系介在物とすることで無害化できること、
を見出した。
第四の発明は、さらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.0040%を含有しかつ、CaとOとSが下記式(3)を満足することを特徴とする第一乃至第三の発明の何れかに記載の高靱性かつ高変形性高強度鋼管用鋼板である。
第五の発明は、第一乃至第四の発明の何れかに記載の組成を有する鋼を、連続鋳造して鋼片を製造し、該鋼片をAc3変態点以上1100℃以下に加熱後、熱間圧延を開始し、950℃以下の温度域における累積圧下率を40〜66%とする熱間圧延を行った後、Ar3変態点以上の温度から冷却速度10〜80℃/sで加速冷却を開始し、400〜600℃の温度域で加速冷却を停止した後、ただちに、600〜680℃の温度範囲に再加熱し、以後、空冷することを特徴とする高靱性かつ高変形性高強度鋼管用鋼板の製造方法である。
本発明の鋼の成分組成を規定した理由を説明する。なお、成分%は全て質量%を意味する。
Cは本発明においては、鋼のベイナイト組織中に島状マルテンサイトを分散させ、低YRを得るために重要な元素である。すなわち、ベイナイト組織より硬質な島状マルテンサイト中にCを濃化させて生成させる必要があり、かつ、低YRとするために十分な島状マルテンサイトの面積率を得るためには0.04%以上の含有が必要であるが、0.08%を超えて含有すると、板厚中央偏析部の島状マルテンサイトが増加し、シャルピー吸収エネルギーの低下を引き起こすため、C量は0.04〜0.08%の範囲とする。
Siは固溶強化能を有する元素であり、0.05%以上含有すると母材およびHAZの強度を上昇させるので有効である。しかし、0.5%を超えて含有すると母材およびHAZにおいて島状マルテンサイトが生成しやすくなる。特に、板厚中央偏析部のような、Mn、Pが濃化した領域でこの効果は顕著であり、母材シャルピー吸収エネルギーの低下を引き起こすため、Si量は0.05〜0.5%の範囲とする。
Mnは焼入性向上元素として作用する。さらに、多量に添加することで、フェライトに固溶できるC量を低減する効果があり、鋼のオーステナイト域から加速冷却でベイナイト変態させる際、未変態オーステナイト領域へのC濃化を大きくするので、島状マルテンサイトの生成量を増加させることができる。
後述のように、島状マルテンサイトの面積率を5%以上とするためには、少なくとも1.8%のMn含有が必要である。一方、連続鋳造プロセスでは中心偏析部の濃度上昇が著しく、3.0%を超えて含有すると、多量な島状マルテンサイトの生成により母材吸収エネルギーの低下を招くため、Mn量は1.8〜3.0%の範囲とする。
Pは鋼中に不可避不純物として存在する。特に板厚中心部での偏析が著しい元素であり、島状マルテンサイトの増加を引き起こし、母材のシャルピー吸収エネルギーを低下させるため、P量の上限は0.008%とする。好ましくは、0.006%以下である。
Sもまた鋼中に不可避不純物として存在する。特に介在物として存在し、鋼の清浄度を低下させ、母材シャルピー吸収エネルギーに悪影響を及ぼすため、S量の上限は0.0006%とする。好ましくは、0.0004%以下である。
Oは、通常、鋼中の不可避不純物として存在し、酸化物系介在物の生成の原因となる。特に、0.003%以上存在すると、粗大な介在物が生成し、母材のシャルピー吸収エネルギー低下を低下させるため、O量の上限は0.003%とする。
Nは、通常、鋼中の不可避不純物として存在するが、後述の通りTi添加を行うことで、TiNを形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制する。ただし、N量が0.006%を超える場合、溶接部、特に溶融線近傍の1450℃以上に加熱された領域でTiNが分解すると固溶Nが鋼の靱性を著しく低下させるため、N量の上限は0.006%とする。
Alは脱酸元素として作用する。0.003%以上の含有で十分な脱酸効果が得られるが、0.05%超えて含有すると偏析部も含めて鋼の清浄度が低下し、靭性低下の原因となるため、Al量は0.003〜0.05%の範囲とする。
Niは、焼入性向上元素として作用するほか、多量に添加しても靱性劣化を起こさないため、有用な元素である。この効果を得るために、0.1%以上の含有が必要であるが、高価な元素であるため、Ni量の上限は1.0%とする。
Crもまた0.01%以上の含有によって焼入性向上元素として作用し、多量のMn添加の代替とすることができる。しかし、0.5%を超えて含有するとHAZ靱性が著しく劣化するため、Cr量は0.01〜0.5%の範囲とする。
Nbは炭化物を形成することで、特に2回以上の溶接熱サイクルを受ける溶接熱影響部(HAZ)の焼戻し軟化を防止して、引張強度600MPaを超える高強度ラインパイプ用鋼板として必要なHAZ強度を得るために必要な元素である。
Tiは窒化物を形成し、鋼中の固溶N量低減に有効であるほか、析出したTiNがピンニング効果でオーステナイト粒の粗大化を抑制することで、母材およびHAZの靱性向上に寄与する。必要なピンニング効果を得るためには0.005%以上の含有が必要であるが、0.020%を超えて含有すると炭化物を形成するようになり、その析出硬化で靱性が著しく劣化するため、Ti量は0.005〜0.020%の範囲とする。
Cuは0.1%以上の含有によって焼入性向上元素として作用し、多量のMn添加の代替とすることができる。しかし、1.0%を超えて含有すると、過飽和に固溶したCuが加速冷却後の再加熱時に析出し、特に鋼の降伏強度が析出硬化によって上昇する結果、低YRとすることが困難となるため、Cuを含有する場合は、0.1〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
Moは0.01%以上の含有によって焼入性向上元素として作用し、多量のMn添加の代替とすることができる。しかし、高価な元素であり、かつ0.5%を超えて含有しても強度上昇は飽和するため、Moを添加する場合は、0.01〜0.5%の範囲とすることが好ましい。
VはNbとの複合添加により、多重溶接熱サイクル時に析出硬化するので、このような多層溶接時のHAZ軟化防止に寄与する。0.01%以上含有することで、軟化防止効果が発現するが、0.08%を超えて含有すると析出硬化が著しくHAZ靱性を劣化させるため、Vを含有する場合は、0.01〜0.08%の範囲とすることが好ましい。
Bはオーステナイト粒界に偏析し、フェライト変態を抑制することで、粒界フェライト生成に起因した母材シャルピー吸収エネルギーの低下を抑制できる。この効果は、0.0005%以上の含有により発揮されるが、0.0030%を超えて含有してもその効果は飽和するため、Bを添加する場合は、0.0005〜0.0030%の範囲とすることが好ましい。
製鋼プロセスにおいて、Ca含有量が0.0005%未満の場合、脱酸反応支配でCaSの確保が難しく靱性改善効果が得られず、一方、Ca含有量が0.0040%を超えた場合、粗大CaOが生成しやすくなり、取鍋のノズル閉塞の原因となり、生産性を阻害する。このため、Ca含有量を含有する場合には0.0005〜0.0040%の範囲とすることが好ましい。
金属組織はベイナイトを主体とし、この母相(第1相)であるベイナイト中に、第2相として、島状マルテンサイトが面積率で5〜15%均一分散し、旧オーステナイト粒界に存在するフェライト相の面積率が全金属組織の5%以下とする。
低降伏比を達成するため、ベイナイト中に母相となるベイナイトより硬い第2相として、島状マルテンサイトを均一に分散生成させる。島状マルテンサイトの面積率が5%未満では、降伏比が十分に低くならないため、島状マルテンサイトの面積率の下限を5%とする。
さらに、旧オーステナイト粒界から生成したフェライト(以下、粒界フェライトとも記す)の面積率が5%を超えると、シャルピー吸収エネルギーが著しく低下する。これは、未再結晶温度域圧延等、低温域での圧延によって、オーステナイト粒が圧延方向に伸長し、オーステナイト粒界が圧延面(鋼板面)に平行に並ぶようになり、これらのオーステナイト粒界からフェライト変態が生じると、圧延面(鋼板面)に平行にフェライト粒が並び、シャルピー衝撃試験時に延性破壊する際、主亀裂の進行に先立ち、鋼板面に平行な方向でへき開破壊を生じるため、延性亀裂伝播時のエネルギーが低下するからである。逆に、これらの鋼板面に平行に並ぶ粒界フェライトがなければ、鋼板面に平行な方向のへき開破壊が抑制されて、高い吸収エネルギーを得ることができる。従って、粒界フェライトの面積率は5%以下とする。
さらに、シャルピー衝撃試験片の破面上におけるセパレーションの指標として、本発明においては、セパレーションインデックス(SI)を用いる。その定義を図2に示す。そして、式(1)で計算されるセパレーションインデックスを0.05(mm−1)以下とする。セパレーションの発生により、シャルピー吸収エネルギーの低下が生じるが、図3に示すシャルピー吸収エネルギーとセパレーションインデックスとの相関関係より、セパレーションインデックスが0.05(mm−1)以下であれば、試験温度:−30℃のシャルピー衝撃試験において、目標とする200J以上の高い吸収エネルギーを得ることができることが判る。
[製造方法]
本発明の鋼管用鋼板は、以下の製造方法により製造することができる。
ラインパイプ用鋼管素材としての経済性、生産性の観点から鋼管用鋼板の素材用である鋼片の製造は連続鋳造法とすることが好ましい。なお、鋼の製鋼方法については特に限定しないが、ラインパイプ用鋼としての経済性を確保するため、転炉法による製鋼プロセスが望ましい。
熱間圧延を行う際、鋼片をオーステナイト化するため、鋼のオーステナイト化温度であるAc3変態点以上に加熱する。なお、Ac3変態点は鋼の成分組成の値を用いて、例えば下記式(4)を用いて計算することができる。一方、1100℃を超えて加熱を行うと、結晶粒粗大化が著しく、母材DWTT性能の劣化が生じるため鋼片加熱温度は、Ac3変態点以上1100℃以下の範囲とする。
本発明において、オーステナイト再結晶温度域での熱間圧延は実施してもよいし、しなくてもよい。しかし、オーステナイト未再結晶温度域における熱間圧延は必須である。すなわち、オーステナイト未再結晶温度域である950℃以下で、熱間圧延を行い、オーステナイト粒を伸展させ、その後の加速冷却で変態生成するベイナイトを微細化する。ただし、本発明においては、シャルピー衝撃試験時の破面上へのセパレーション発生を抑制するため、950℃以下での累積圧下率の上限を66%とする。950℃以下での66%を超えるような累積圧下率で熱間圧延を施した場合、セパレーションインデックスが0.05を超え、シャルピー吸収エネルギーが著しく低下する。なお、低温で所望のDWTT性能を達成するため、950℃以下での累積圧下率を40%以上とすることが必要であり、50%以上とすることが好ましい。
上記オーステナイト未再結晶温度域における熱間圧延において,シャルピー衝撃試験時の破面上へのセパレーションを抑制するため、累積圧下率の上限を制限する必要があるが、さらに、各圧延パスの圧下率を低減することで、さらにセパレーションの発生を抑制する上で有効である。すなわち、各圧延パス圧下率を10%以下にすると、セパレーションの発生やこれに伴うシャルピー吸収エネルギーの低下を抑制することができるので好ましい。
引張強度600MPa超の高強度を達成するため、金属組織をベイナイト主体の組織にする必要がある。このため、熱間圧延後加速冷却を実施する。熱間圧延をAr3変態点温度以上で終了させた上で、Ar3変態点温度以上の温度から加速冷却を開始する。冷却開始温度がフェライト変態開始温度であるAr3変態点を下回ると、熱間圧延後、冷却開始までの空冷過程においてオーステナイト粒界から初析フェライトが生成し、母材強度が低下するため、加速冷却を開始する温度をAr3変態点以上とする。なお、Ar3変態点は鋼の成分組成の値を用いて式(5)により計算することができる。
冷却速度が10℃/s未満の場合、比較的高温で変態が進行するので、十分な強度を得ることができない。一方、80℃/sを超えた冷却速度の場合、後述の冷却停止温度に制御することが難しく、特に表面近傍でマルテンサイト変態が生じ、母材靱性が著しく低下する。このため、冷却速度は10〜80℃/sの範囲とする。
本発明において、加速冷却の冷却停止温度の規定は、所望の金属組織(ミクロ組織)を得るために重要である。加速冷却の停止後に行う後述の再加熱処理によりCの濃縮した未変態オーステナイトを生成させ、この未変態オーステナイトをその後の空冷時に島状マルテンサイトへと変態させるため、ベイナイト変態途中で未変態オーステナイトが存在する温度域で冷却を停止する必要がある。
冷却停止温度が400℃未満では、ベイナイト変態が完了するため、後述の再加熱後の空冷時に島状マルテンサイトが生成せず低降伏比化が達成できない。一方、冷却停止温度が600℃を超えると冷却中に析出するパーライトにCが消費され、その後に再加熱してから冷却しても島状マルテンサイトが生成しない。このため、冷却停止温度は400〜600℃の範囲とする。
加速冷却後ただちに再加熱することで、未変態オーステナイトにCを濃縮させその後の空冷過程で島状マルテンサイトを生成させることができる。加速冷却停止後、再加熱開始までの時間が長い場合、その間の温度低下によって未変態オーステナイトが減少し、加熱後の空冷過程で生成する島状マルテンサイト量が少なくなるため、加速冷却停止から300秒以内で再加熱を開始することが望ましい。好ましくは100秒以内である。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.04〜0.08%、Si:0.05〜0.5%、Mn:1.8〜3.0%、P:0.008%以下、S:0.0006%以下、O:0.003%以下、N:0.006%以下、Al:0.003〜0.05%、Ni:0.1〜1.0%、Cr:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜0.05%、Ti:0.005〜0.020%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、金属組織がベイナイトを主体とし、前記ベイナイト中に第2相として島状マルテンサイトが面積率5〜15%で均一分散し、旧オーステナイト粒界に存在するフェライトの面積率が全金属組織の5%以下であって、−30℃の試験温度でシャルピー衝撃試験を行った際の、シャルピー衝撃試験片の破面に存在するセパレーションが下記式(1)で定義されるセパレーションインデックスが0.05(mm−1)以下であることを特徴とする、高靱性かつ高変形性高強度鋼管用鋼板。
- さらに、質量%で、Cu:0.10〜1.0%、Mo:0.01〜0.5%、V:0.003〜0.08%の中から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高靱性かつ高変形性高強度鋼管用鋼板。
- さらに、質量%で、B:0.0005〜0.0030%を含有し、かつ、BとTiとNが下記式(2)を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の高靱性かつ高変形性高強度鋼管用鋼板。
- さらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.0040%を含有し、かつ、CaとOとSが下記式(3)を満足することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の高靱性かつ高変形性高強度鋼管用鋼板。
- 請求項1乃至4の何れかに記載の組成を有する鋼を、連続鋳造して鋼片を製造し、該鋼片をAc3変態点以上1100℃以下に加熱後、熱間圧延を開始し、950℃以下の温度域における累積圧下率を40〜66%とする熱間圧延を行った後、Ar3変態点以上の温度から冷却速度10〜80℃/sで加速冷却を開始し、400〜600℃の温度域で加速冷却を停止した後、ただちに、600〜680℃の温度範囲に再加熱し、以後、空冷することを特徴とする高靱性かつ高変形性高強度鋼管用鋼板の製造方法。
- さらに、950℃以下の温度域での熱間圧延における各圧延パス1回当りの圧下率の平均が10%以下であることを特徴とする請求項5に記載の高靱性かつ高変形性高強度鋼管用鋼板の製造方法。
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