食用を目的としたブタ(swine)(豚または食用豚(hogs)とも呼ばれる)の生産は重要な産業であり、たとえば米国では毎年100万頭以上の豚が生産されている。利幅が低いので、生産者の間では、屠体あたりの食肉の割合を増加させること、ロース芯面積を増加させること、背脂の量を低下させることなどによって生産性を向上させる、または肉の色調測定値を改善するなどのその他の好ましい特性を提供する薬剤に対する需要がある。
そこで本発明は、Phaffia rhodozyma酵母などの好ましくは天然の供給源に由来するアスタキサンチンより構成されるこうした薬剤を提供する。
アスタキサンチン(3,3’−ジヒドロキシ−β,β−カロテン−4,4’ジオン)は、エビ、サケおよびマスの卵、肉、フィレおよび皮膚を淡紅色から橙色から赤色に着色させるカロテノイドである。アスタキサンチンは、抗酸化性を示すカロテノイドとして知られる色素群に属する。アスタキサンチンを合成する動物は少なく、大半はアスタキサンチンの供給源として食物摂取に依存する。カニ、ロブスター、ザリガニおよびエビなどの甲殻類は、養殖されたものであれ、野生で採取されたものであれ、環境中の食物より得たアスタキサンチンから甲皮および肉の特徴的な色調を得る。アスタキサンチンはサケおよびマスに色調をもたらすことが知られているものの、この化合物はそれらの食餌の通常の一部であるので、アスタキサンチンが本明細書に記載するような食用豚/ブタ/豚の色調特性に影響する能力を有することはこれまで知られていなかった。
アスタキサンチンは合成するか、または上述のPhaffia rhodozyma(Xantophyllomyces dendrorhous)などの酵母などの天然の供給源から、Hematococcus pluvialisなどのある種の藻類、またはある種のパラコックス属などのある種の細菌から入手することができる。
Johnsenらは、破砕したPhaffia rhodozyma酵母に由来するアスタキサンチンが、16日間の投与期間に渡って給餌された鶏の卵黄に蓄積したと報告した(1980年.Poultry.Sci.59:1777−1782)。複数の研究は、ニワトリの飼料におけるアスタキサンチンの存在によって妊孕性、体重増加、および摂飼量が増加したとも報告している(Yang他2006年.Asian−Aust.J.Anim.Sci.19(7):1−7)。さらに、Phaffia rhodozymaは養殖サケ類の着色を目的としたアスタキサンチンの供給源として一般的に用いられ、且つ市販されている(JohnsonとAn,1991年.Crit.Rev.Biotechnology.11(4):297〜326)。
ある種のPhaffia株はアスタキサンチンの含有および生成レベルが上昇するように操作される(たとえば米国特許第5,182,208号および第5,356,809号を参照されたい)。したがって、ある種のPhaffia株は酵母の乾燥重量1gあたり500百万分率(ppm)超のアスタキサンチン、酵母の乾燥重量1gあたり1000ppm超、1500ppm超、2000ppm超、2500ppm超、3000ppm超、3500ppm超、4000ppm超、4500ppm超、5000ppm超、5500ppm超、6000ppm超、6500ppm超、7000ppm超、7500ppm超、8000ppm超、9000ppm超、10,000ppm超、11,000ppm超、12,000ppm超、13,000ppm超、14,000ppm超、15,000ppm超のアスタキサンチンを含有する。より多くの量のアスタキサンチンを提供する供給源は、経済的な利点を提供する。
アスタキサンチンを含む食用カロテノイド類は、ニュートラシューティカル・サプリメントとして用いられる。食用カロテノイドは感染症を予防すると主張されている。非プロビタミンα−カルテノイドであるアスタキサンチンは、動物およびヒトにおける免疫応答の促進においてβ−カロテンと同様の、時により高い活性を示す(ChewとPark、2004年.J.Nutr.134:257S−261S)。アスタキサンチンは、外傷による、およびストレスによる炎症状態の治癒において、予防的および/または治療的用途のための長鎖ポリ不飽和脂肪酸およびカロテノイドの供給源を含む組成物においても記載される(国際公開番号第WO2004/112776号)。
アスタキサンチンは、動物向け用途を目的として、動物向け抗ストレス組成物としてL−アスコルビン酸誘導体と組み合わせた飼料成分として使用された(米国特許第5,937,790号)。他の明細書においては、薬剤であるアスタキサンチンは、高脂肪食の一部として高用量のアスタキサンチンを給餌されたマウスにおいて実施された研究に基づき、哺乳類がヒトである場合に、哺乳類の体脂肪増加を抑制すると主張される(米国公開特許第2007129439号)。
豚生産業界においては、アスタキサンチンに富む藻類食品に由来するアスタキサンチンは、通常の食餌に組み込んだ成分として添加し、分娩前、授乳中および離乳後に用いるとき、繁殖豚と同腹仔の成績を改善すると主張されている(Inborr他、1997年.Proceedings of the 7th International Symposium on Digestive Physiology in Pigs,5月26〜28日)。改善のメカニズムは、アスタキサンチンを給餌された動物の免疫応答における改善の結果と考えられている。米国特許第6,054,491号は、飼料にアスタキサンチン5ppmを添加すると、同腹仔の死産数が減少し、出産回数が増加することにより、繁殖豚の成績が向上することを教示する。Yangらは、仕上期豚の飼料に組み込まれた成分としてアスタキサンチン0、1.5および3.0ppmを添加しても、生産成績には大きく影響しなかったものの、食餌中のアスタキサンチンレベルの上昇に伴い、枝肉の割合、背脂の厚みおよびロース筋に対する線形効果が見られることを示した(Yangら、2006年.Asian−Aust.J.Anim.Sci.19(7):1−7)。
本明細書に記載する発明においては、対照的に、アスタキサンチン濃度の増加は屠体の形質および肉の品質の線形的改善をもたらさなかったことが示される。驚くべきことに、たとえば、食餌中にアスタキサンチン20ppmを混入してもそれ以上の利益を示さない、5から10ppmの範囲内で最高となる有効性の至適範囲がある。したがって、目的の組成物はアスタキサンチンを3.5ppm、4ppm、5ppm、6ppm、7ppm、8ppm、9ppm、10ppm、11ppm、12ppm、13ppm、14ppm、15ppm、16ppm、17ppm、18ppmまたは19ppm含有する。本発明によるアスタキサンチン強化飼料を用いた場合に屠体の形質および食肉の品質が向上する理由は不明である。
農業技術においては、仕上期豚または食用豚は一般的に屠畜を目的として飼育している発育中の雌(未経産雌豚)および発育中の去勢された雄(去勢豚)を含む。典型的には、豚は体重および/または日齢によって分類されている。したがって、子豚は通常は日齢14から35日の、出生から離乳までの動物であり;授乳豚は離乳から日齢約70日までの動物であり;発育豚は日齢約70日から日齢約125日であり、動物の体重は通常約160ポンドであり;且つ仕上期豚は日齢約125日から日齢約190日であり、食用豚の出荷体重は通常約270ポンドである。これはほぼ豚が性的成熟に達する時期である。
目的の食用組成物は、本発明の目的のために、一般的に屠畜を予定している豚、仕上期食用豚に提供される。しかし、目的の食用組成物はあらゆる日齢、あらゆる発育段階、またあらゆる体重の豚に対して用いることができる。
本発明において使用されるアスタキサンチンの適切な供給源は、酵母Phaffia rhodozymaである。アスタキサンチンは酵母菌体より分離、または酵母が乾燥される場合はその中に保持することができる。アスタキサンチンは、最低でも製品中10,000ppmに相当するアスタキサンチン1%を含有する乾燥酵母組成物商品名アクアスタ(登録商標)(アスタキサンチン・パートナーズ株式会社、イリノイ州ディケーター)として市販されている。酵母の生成物は米国特許第5,356,809号および第5,182,208号に記載されている。
薬剤は、本発明の実践における使用に適した量のアスタキサンチンを含有するあらゆる組成物とすることができる。したがって、薬剤は純粋なアスタキサンチン、純粋なアスタキサンチンと不活性成分の組成物、細菌または酵母などのアスタキサンチンを生成する細胞の乾燥物、アスタキサンチンを含有する乾燥細胞と不活性成分の組成物などとすることができる。組成物は固形または液状とすることができる。
本発明は、さらに豚の無脂肪赤身肉の割合を増加させると同時に背脂を減少させ、且つ食肉の色調を変化させる方法をさらに提供する。本発明による前記方法の好ましい実施形態においては、Phaffia rhodozymaより入手されるアスタキサンチンは、理想的には約3.5から約10mg/kg飼料の範囲で豚の食餌に投与される。
アスタキサンチンは食用豚による摂取のための多様な方法において用いることができる。したがって、アスタキサンチン剤は混合物の1成分とすることもでき、飼料の一部とすることも、飼料に添加することも、サプリメントの1成分とすることも、食品の一部とすることも、食品に添加することも、ビタミン溶液、サプリメント、塩溶液、糖溶液、水などの液状物に溶解することなどもできる。目標の薬剤を添加することができる適切な組成物は、少なくとも1つのタンパク質、炭水化物、繊維素、無機質、ビタミンまたはその他の栄養素を含有することができる。組成物は液状または乾燥物とすることができる。適切なタンパク質源は食用豚によって摂取されるのに適したあらゆるものとすることができるので、植物、酵母または動物由来とすることができる。
したがって、1つの実施形態においては、目的の化合物は食品または仕上期豚用飼料に混合することができる。したがって、目的の化合物は飼料を形成するために混合することも、または飼料に混合することもできる。一部の例では、目的の組成物は残飯、残り物、販売に適さない食品の一部、食品調製業務において通常廃棄される部分などの、植物、酵母または動物材料などの食品に添加することができる。目的の薬剤は比較的不活性であるので、目的の薬剤は食用豚によって摂取されるのに適した食品源などのあらゆる多様な食用組成物と混合することができる。
食用豚用の代替的な食品または飼料は、調製された乾燥ペレット化製品などの、調製された食品である。このような製品は技術上既知であり、時にダイエット食品または動物用飼料として知られ、且つそれぞれの組成は設計によって選択される。目的の薬剤は、製造および処理の間に飼料に組み入れることができる。
代替的に、目的の薬剤は動物用飼料に添加またはこれと混合することができる。たとえば、それは乾燥アスタキサンチンまたはアスタキサンチンを含有する乾燥粉末を飼料調製物と混合することによって発生させることができる。代替的に、アスタキサンチンはビタミン、無機質またその両者を含有するサプリメントなどの液状物に懸濁し且つ食用豚に投与することもできるか、または食品または飼料に混合することもできる。
そこで本発明は、以下の非限定的な実施例によって例示することができる。
(アスタキサンチン給餌レベルが増加した豚の発育成績および屠体特性)
実験に用いた方法は、カンザス州立大学(KSU)動物飼育および使用委員会によって承認された。プロジェクトはKSU豚実習および研究農場において実施した。豚は、豚1頭あたり約8平方フィートが提供された、すべてスレート葺きされた床の上に畜舎を有する環境制御された仕上期棟に収容された。各畜舎には乾燥セルフフィーダー1台およびニップル給水器1台が設置され、これらによって飼料および水の自由な摂取を提供した。施設は、プル−プラグ肥料貯蔵ピット(pull-plug manure storage pit)を有する機械換気室であった。
平均体重215ポンドの去勢豚48頭(PIC、TR4×C22交配)を試験に用いた。豚は体重によりブロック化し、各畜舎2頭、各投与6畜舎からなる4種類の食餌投与のうち1つに割り付けた。実験用食餌は飼料の形態で提供し、食餌投与を遂行するためにコーンスターチの代わりにアスタキサンチン(0,5,10および20pPM)を対照食餌に添加した(表1)。表1においては、CPは粗たんぱく質、Pはリン酸、MEは代謝可能なエネルギー、さらにTIDは真の回腸可消化物である。0、7、14、21および26日目(d)に豚およびフィーダーを秤量して平均1日体重増加(ADG)、平均1日摂飼量(ADFI)および飼料要求率(F/G)の発育成績基準を決定した。
27日目に、各畜舎につき豚1頭をKSU食肉研究室に移送して人道的に屠殺し、屠体データを収集した。内臓を除去した直後に温屠体重量を測定した。屠殺の24時間後に、各屠体の右半身より第1肋骨、第10肋骨、最終肋骨および最終腰椎の背脂の厚み、さらには第10肋骨におけるロース面積を測定した。さらに各屠体は、技術上既知であるように、明度、赤〜緑の色調および黄色〜青の色調に関する既知の色彩パラメータであるCIE L*、a*およびb*を測定するハンター・ミニスキャン機器を用いて、第10肋骨におけるロース筋の色調を評価した。これは、各腰筋の表面についてミオグロビンが酸化されることにより淡紅色または赤の呈色が最大となる時間であるブルーム時間(bloom time)の30分後に実施した。
農業技術においては、飼料要求率の観点からのみならず、消費者の嗜好および訴求のために、経済上の利益を目的として、一定の屠体および食肉パラメータまたは特性をモニタリングする。食用豚生産者にとって関心のある特性の中には、ADG、AUFI、脂肪量、食肉の色調などが含まれる。そのような屠体および食肉特性は、正味の利益/豚の改善に至る。米国農務省は、豚枝肉の等級区分を提供している。BuhrとDiPietre(1977年)Front end guidance for value−added networks.National Pork Producers Council(アイオワ州デモイン);およびBerg編National Pork Board(2000年)Pork composition and quality assessment procedures(アイオワ州デモイン)も参照されたい。
データは、SASのPROC MIXED処理を用いて、畜舎を実験単位とする無作為化完全乱塊化デザインとして分析した。線形および二次多項式比較を用いて、アスタキサンチンの増加の影響を判定した。
実施例で用いた天然アスタキサンチンの供給源は、重量で10,000ppmのアスタキサンチンを含有する、商品名Aquasta(登録商標)で市販されているPhaffia rhedozymaである。
データより見て取れるように、平均摂飼量はアスタキサンチンレベルの上昇と共に減少する傾向にあったが、ADGまたはF/Gは対照豚に対して有意差を示さなかった。アスタキサンチンを給餌された豚は、第1肋骨(PRBF)、第10肋骨(TRBF)および最終肋骨(LRBF)で測定した背脂の厚みが有意に減少した(p<0.01)。5または10ppmのアスタキサンチンを給餌された豚は無脂肪赤身肉(PFFL)の割合が最も高く(p<0.01)、0または20ppmアスタキサンチン混合量では無脂肪赤身肉の割合の減少が認められた。ロース芯の色調については、CIE L*およびCIE値に有意な変化(p<0.10)が認められた。アスタキサンチン5または10ppmを給餌された豚について認められた特性の改善によって、正味の利益/豚が向上した。
本明細書に引用するすべての参照文献は、その全文を本明細書に援用する。