JP2011241448A - 耐アルカリ性に優れたアルミニウム合金クラッド材 - Google Patents
耐アルカリ性に優れたアルミニウム合金クラッド材 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】高温のアルカリ環境下であっても十分な防食効果が得られ、早期に貫通孔食を発生させることがないアルミニウム合金クラッド材を提供する。
【解決手段】芯材の一方の面にろう材を、もう一方の面に犠牲材をクラッドしたアルミニウム合金クラッド材であって、前記犠牲材がZn:1.0〜8.0mass%を含有し、Fe:0.85〜1.5mass%、Ni:0.85〜1.5mass%、Si:0.85〜2.0mass%、Cu:0.2〜0.5mass%及びTi:0.01〜0.05mass%の1種又は2種以上を更に含み、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、pH9〜11で温度80〜100℃の腐食液中で示す犠牲材の自然電位におけるろう材のカソード電流密度が20μA/cm2以下であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材。
【選択図】図1
【解決手段】芯材の一方の面にろう材を、もう一方の面に犠牲材をクラッドしたアルミニウム合金クラッド材であって、前記犠牲材がZn:1.0〜8.0mass%を含有し、Fe:0.85〜1.5mass%、Ni:0.85〜1.5mass%、Si:0.85〜2.0mass%、Cu:0.2〜0.5mass%及びTi:0.01〜0.05mass%の1種又は2種以上を更に含み、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、pH9〜11で温度80〜100℃の腐食液中で示す犠牲材の自然電位におけるろう材のカソード電流密度が20μA/cm2以下であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材。
【選択図】図1
Description
本発明は、自動車用ラジエターのチューブ内部等の高温、高アルカリ性環境において優れた耐食性を示すアルミニウム合金クラッド材に関する。
従来の自動車用アルミニウム製熱交換器の一つであるラジエターを図3(a)、(b)に示す。図3の自動車用熱交換器は、冷却水を通すチューブ(8)にフィン(9)を配置し、チューブ(8)の両端にヘッダープレート(10)を取り付けて、コア(11)を組み立てる。該コアにろう付け処理を施した後、ヘッダープレート(10)にバッキング(13)を介して樹脂タンク(12A)、(12B)を取り付けてラジエターとする。ラジエターの冷却水としては不凍液を含有する弱アルカリ性の水溶液、所謂ロングライフクーラント(LLC)等が利用されている。
その材料としてフィン(9)にはJIS3003合金にZnを1.50mass%添加した厚さ0.1mm前後の板材が用いられる。また、チューブ(8)には冷却水からの貫通孔食の発生を防止するために、JIS3003合金を芯材とし、冷却水側にJIS7072合金を犠牲陽極材としてクラッドし、外気側にJIS4343合金をろう材としてクラッドした厚さ0.2〜0.4mm程度のアルミニウム合金クラッド材が用いられる。また、ヘッダープレート(10)には、1.0〜1.3mm程度の厚さで、チューブ(8)と同様の構成のアルミニウム合金クラッド材が用いられる。
チューブ(8)、ヘッダープレート(10)に用いられているアルミニウム合金クラッド材は、ろう付け加熱時に600℃程度の雰囲気に曝される。このため、犠牲陽極材に添加されているZnが、芯材中にZnの拡散層を形成する。このZn拡散層が存在することで、犠牲陽極材に発生した腐食は芯材に達した後も横広がりに進行するため、長期に渡って貫通孔を生じないことが知られている。
このような犠牲陽極材にはJIS7072合金の他に、Al−Zn−Mg系合金、Al−Zn−In系合金が知られている。これらの合金もJIS7072合金と同様、アルミニウム合金クラッド複合材に用いた場合、犠牲陽極材の腐食は横広がりになることが知られている。
ところで、熱交換器のラジエターの冷却水としては、前述のように不凍液を含有する弱アルカリ性の水溶液、所謂LLCが利用されている。アルミニウム合金クラッド材を用いたチューブでは、このような環境では十分な防食効果が得られず、早期に貫通孔食が発生してしまう問題があった。
これに対し、特許文献1及び2には、芯材の一方の面にろう材、他方の面に犠牲陽極材をクラッドしたアルミニウム合金クラッド材において、犠牲陽極材が、Alと結合して犠牲陽極材のマトリックスより貴な化合物を形成する元素を含有し、残部Al及び不純物からなるアルミニウム合金から構成されていることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材が提案されている。
これらアルミニウム合金クラッド材は、犠牲陽極材表面の前記化合物が存在する個所で、皮膜成分である水酸化アルミニウムの沈着が妨げられて皮膜の生成が抑制され、小さな皮膜欠陥が多くなり孔食発生が分散するとしている。そのため、皮膜欠陥が少ない場合のように局在化した孔食の深さ方向への進行が抑制され、アルカリ腐食環境においても貫通孔食の発生が防止できるとしている。
しかし、これらは本質的に腐食を防ぐものではないという問題があった。
しかし、これらは本質的に腐食を防ぐものではないという問題があった。
本発明は以上の従来技術における問題に鑑み、LLCのような弱アルカリ性腐食環境であっても十分な防食効果が得られ、早期に貫通腐食を発生させることがないアルミニウム合金クラッド材を提供することを目的とする。
本発明者らは、LLC環境におけるアルミニウム合金クラッド材を用いたチューブの腐食発生状況を詳細に調べた結果、より高温において腐食発生が顕著であることを見出した。
上記の原因を明らかにすべく、高温のアルカリ腐食液を用いて分極曲線を測定した。その結果、この腐食環境では、犠牲材の自然電位においてろう材のカソード電流が著しく大きくなっていることを見出した。図4に例示するように、ろう材としてJISBA4343P、犠牲材としてJIS7072合金を用い、アルカリ腐食液として、NaCl:0.226g/L,Na2SO4:0.089g/Lを含有し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを11に調整した90℃の水溶液を用いて、それぞれ分極曲線を測定した。この場合、犠牲材の自然電位−約1100mV(vs.Ag/AgCl(飽和KCl))におけるろう材のカソード電流密度が約50μA/cm2もの大きな電流密度となった。
このカソード電流は水の還元反応(2H2O+2e→H2+2OH−)に基づくもので、水酸化物イオンを発生させる。すなわち、高温でかつアルカリ性腐食環境において、犠牲陽極材の溶解により発生した電子は、よりカソード反応が進行しやすいろう材に集中し易く、ろう材の周囲の高pH化、すなわち強アルカリ化を招く。アルミニウムは両性金属であるから、アルカリにより溶解し極端な腐食が進行する。したがって、犠牲材の自然電位におけるろう材のカソード電流密度を小さくして、上記水の還元反応をろう材と犠牲材とに分散することにより、高温のアルカリ性腐食環境下におけるろう材周囲の極端な腐食を抑制できることになる。
本発明者は上記知見に基づき、高温のアルカリ腐食液中で良好な耐食性を示すアルミニウム合金クラッド材たる要件を明確にすべく検討を進めた。その結果、犠牲材に特定の元素を所定量添加することにより、犠牲材とろう材のカソード分極曲線の差を小さくすることで、つまり同じ電極電位における犠牲材とろう材との電流密度の差を小さくすることでろう材のカソード電流密度を小さくし、クラッド材の腐食環境の強アルカリ化を防ぎ、これにより、高温のアルカリ腐食液中で貫通腐食のような極端な腐食を抑制できることを見出した。
本発明のアルミニウム合金クラッド材は係る知見に基づきなされたものである。すなわち、本発明は請求項1において、芯材の一方の面にろう材を、もう一方の面に犠牲材をクラッドしたアルミニウム合金クラッド材であって、前記犠牲材がZn:1.0〜8.0mass%を含有し、Fe:0.85〜1.5mass%、Ni:0.85〜1.5mass%、Si:0.85〜2.0mass%、Cu:0.2〜0.5mass%及びTi:0.01〜0.05mass%の1種又は2種以上を更に含み、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、pH9〜11で温度80〜100℃の腐食液中で示す犠牲材の自然電位におけるろう材のカソード電流密度が20μA/cm2以下であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材とした。
本発明は請求項2において、前記芯材をJIS3003合金とし、前記ろう材をJISBA4343P、BA4045P及びBA4047Pのいずれかとした。
本発明によれば、例えば自動車用熱交換器のアルミニウム合金チューブ材として、内部の優れた高温アルカリ耐食性を有するアルミニウム合金クラッド材が提供される。
本発明に係るアルミニウム合金クラッド材は、アルミニウム合金からなる芯材の一方の面にろう材をクラッドし、他方の面に犠牲材をクラッドした構成を成す。以下に、本発明を構成する材料成分の限定理由について説明する。なお、このような3層クラッド材の厚さは、0.2〜0.4mmとするのが好ましい。
A.犠牲材
Zn:Znはアルミニウム合金に固溶し、pHが7前後の中性腐食環境においては、犠牲材の自然電位を卑にして芯材を防食し、チューブの耐食性を向上させる。Znは犠牲材の必須成分である。1.0mass%(以下、単に「%」と記す)未満では自然電位を卑化する効果が不十分である。8.0%を超えると過剰に溶解し、チューブの貫通寿命を短くする。従ってZnの添加量を1.0〜8.0%と規定した。更に好ましくは、2.0〜6.0%である。
Zn:Znはアルミニウム合金に固溶し、pHが7前後の中性腐食環境においては、犠牲材の自然電位を卑にして芯材を防食し、チューブの耐食性を向上させる。Znは犠牲材の必須成分である。1.0mass%(以下、単に「%」と記す)未満では自然電位を卑化する効果が不十分である。8.0%を超えると過剰に溶解し、チューブの貫通寿命を短くする。従ってZnの添加量を1.0〜8.0%と規定した。更に好ましくは、2.0〜6.0%である。
Fe:Feはアルミニウム合金中において固溶又はAl−Fe系の化合物を形成する。アルカリ腐食環境においては、この化合物の表面上でカソード反応(2H2O+2e→H2+2OH−)の進行が促進され、合金のカソード電流を増大させる。0.85%未満ではカソード電流が十分でなく、1.5%を超えると製造時の圧延加工で材料が割れてしまう。従ってFeの添加量を0.85〜1.5%と規定した。更に好ましくは、1.0〜1.3%である。
Ni:Niはアルミニウム合金中において固溶又はAl−Ni系の化合物を形成する。アルカリ腐食環境においては、Feの場合と同様に、この化合物の表面上でカソード反応の進行が促進され、合金のカソード電流を増大させる。0.85%未満ではカソード電流が十分でなく、1.5%を超えると製造時の圧延加工で材料が割れてしまう。従ってNiの添加量を0.85〜1.5%と規定した。更に好ましくは、1.0〜1.3%である。
Si:Siはアルミニウム合金中において固溶又はAl−Si−Fe系の化合物を形成する。アルカリ腐食環境においては、FeやNiと同様に、この化合物の表面上でカソード反応の進行が促進され、合金のカソード電流を増大させる。0.85%未満ではカソード電流が十分でなく、2.0%を超えるとろう付け加熱時に材料が溶融してしまう。従ってSiの添加量を0.85〜2.0%と規定した。更に好ましくは、1.0〜1.5%である。
Cu:Cuはアルミニウム合金中において固溶又はAl−Cu系の化合物を形成する。アルカリ腐食環境においては、Fe、Ni、Siと同様に、この化合物の表面上でカソード反応の進行が促進され、合金のカソード電流を増大させる。0.2%未満ではカソード電流が十分でなく、0.5%を超えるとろう付け加熱時に材料が溶融してしまう。従ってCuの添加量を0.2〜0.5%と規定した。更に好ましくは、0.3〜0.4%である。
Ti:Tiはアルミニウム合金中において固溶又はAl−Ti系の化合物を形成する。アルカリ腐食環境においては、Fe、Ni、Si、Cuと同様に、この化合物の表面上でカソード反応の進行が促進され、合金のカソード電流を増大させる。0.01%未満ではカソード電流が十分でなく、0.05%を越えると自己腐食を促す。従ってTiの添加量を0.01〜0.05%と規定した。更に好ましくは、0.02〜0.03%である。
Fe、Ni、Si、Cu及びTiは、1種又は2種以上添加される。1種添加する場合には、その成分について規定された前記範囲内で添加する必要がある。2種以上添加する場合には、複数の成分について規定された前記範囲内であってもよく、結果として犠牲材の自然電位におけるろう材のカソード電流密度が20μA/cm2以下となればよい。
また、犠牲材を構成するアルミニウム合金には、不可避的不純物として、Mn、Mg
、Cr等が個々の成分含有量として0.05%以下含まれていてもよい。なお、犠牲材のクラッド率は、5〜15%の範囲が好ましい。
、Cr等が個々の成分含有量として0.05%以下含まれていてもよい。なお、犠牲材のクラッド率は、5〜15%の範囲が好ましい。
B.心材
本発明においてクラッド材を形成する場合に、芯材としてはJIS3003合金が好適に用いられるが、特に限定されるものではなく、熱交換器の形状及び熱交換器を作製する際の加熱条件によって種々選択が可能である。
本発明においてクラッド材を形成する場合に、芯材としてはJIS3003合金が好適に用いられるが、特に限定されるものではなく、熱交換器の形状及び熱交換器を作製する際の加熱条件によって種々選択が可能である。
C.ろう材
本発明においてクラッド材を形成する場合に、ろう材として使用される合金はJISに規定されているBA4343P、BA4045P、BA4047Pが好適に用いられるが、特に限定されるものではなく、熱交換器の形状及び熱交換器を作製する際の加熱条件によって種々選択が可能である。なお、ろう材のクラッド率は、2〜12%の範囲が好ましい。
本発明においてクラッド材を形成する場合に、ろう材として使用される合金はJISに規定されているBA4343P、BA4045P、BA4047Pが好適に用いられるが、特に限定されるものではなく、熱交換器の形状及び熱交換器を作製する際の加熱条件によって種々選択が可能である。なお、ろう材のクラッド率は、2〜12%の範囲が好ましい。
芯材やろう材にも、Cr、Ti等の不可避的不純物が、個々の成分含有量として0.05%以下含まれていてもよい。
以下に、本発明例、比較例及び参考例により本発明の実施の形態を具体的に説明する。
本発明例1〜35、比較例36〜61及び参考例62〜65
表1、2に記載の組成を有するAl合金を鋳造してインゴットを製造し、560℃×3時間の均質化処理を施した後、熱間圧延を行い、厚さ20mmの熱延板からなる犠牲材を作製した。同様に、厚さ170mmのJIS3003合金からなる芯材と、厚さ10mmのBA4343P合金からなるろう材の熱延板を用意した。
芯材の一方の面に犠牲材を他方の面にろう材を合わせて熱間圧延にてクラッドし、その後冷間圧延を施した。冷間圧延の途中において400℃で1時間の中間焼鈍を行い、最終冷間圧延率30%とし、0.20mmの3層のアルミニウム合金クラッド材を作製した。犠牲材のクラッド率は10%、ろう材のクラッド率は5%とした。
表1、2に記載の組成を有するAl合金を鋳造してインゴットを製造し、560℃×3時間の均質化処理を施した後、熱間圧延を行い、厚さ20mmの熱延板からなる犠牲材を作製した。同様に、厚さ170mmのJIS3003合金からなる芯材と、厚さ10mmのBA4343P合金からなるろう材の熱延板を用意した。
芯材の一方の面に犠牲材を他方の面にろう材を合わせて熱間圧延にてクラッドし、その後冷間圧延を施した。冷間圧延の途中において400℃で1時間の中間焼鈍を行い、最終冷間圧延率30%とし、0.20mmの3層のアルミニウム合金クラッド材を作製した。犠牲材のクラッド率は10%、ろう材のクラッド率は5%とした。
(1)分極曲線の測定
上記のようにして作製した犠牲材、ならびに、ろう材(BA4343P合金)について、カソード分極曲線をそれぞれ測定した。犠牲材及びろう材を15×40mm2に切り出し、測定面10×10mm2を残して裏面と端部をマスキングして測定に供した。0.226gのNaClと0.089gのNa2SO4を蒸留水1Lに溶解して、Cl−=195ppm、SO4 2−=60ppmとした水溶液にNaOH水溶液を加えてpHを8、9、11及び12に調整した溶液をアルカリ腐食液に用いた。測定温度は70、80、90及び100℃とした。得られたカソード分極曲線より、犠牲材の自然電位におけるろう材のカソード電流密度を求めた。測定結果の一例として本発明例4における測定結果を、図1に示す。図1では、犠牲材とろう材の自然電位近傍のカソード分極曲線が重なって両自然電位が等しくなっており、ろう材のカソード電流密度は0とした。
上記のようにして作製した犠牲材、ならびに、ろう材(BA4343P合金)について、カソード分極曲線をそれぞれ測定した。犠牲材及びろう材を15×40mm2に切り出し、測定面10×10mm2を残して裏面と端部をマスキングして測定に供した。0.226gのNaClと0.089gのNa2SO4を蒸留水1Lに溶解して、Cl−=195ppm、SO4 2−=60ppmとした水溶液にNaOH水溶液を加えてpHを8、9、11及び12に調整した溶液をアルカリ腐食液に用いた。測定温度は70、80、90及び100℃とした。得られたカソード分極曲線より、犠牲材の自然電位におけるろう材のカソード電流密度を求めた。測定結果の一例として本発明例4における測定結果を、図1に示す。図1では、犠牲材とろう材の自然電位近傍のカソード分極曲線が重なって両自然電位が等しくなっており、ろう材のカソード電流密度は0とした。
(2)アルカリ腐食試験
上記のようにして作製した3層のアルミニウム合金クラッド材を、幅30mm、長さ50mmに切り出したものを2枚用意した。図2に示すように、アルミニウム合金クラッド材1の各々は、芯材2の一方の面に犠牲材3が、他方の面にろう材4がクラッドされている。一方のアルミニウム合金クラッド材1のろう材4面と他方のアルミニウム合金クラッド材1の犠牲材3面を、約10mmずらして長さ方向に重ねた。これを窒素雰囲気下で加熱し、600℃で3分間ろう付けを行った。次いで、両方のアルミニウム合金クラッド材1の犠牲材3面と、一方のアルミニウム合金クラッド材1のろう付け側の側部のみ露出するよう、露出部分を樹脂テープ5でマスキングして試験片とした。
上記のようにして作製した3層のアルミニウム合金クラッド材を、幅30mm、長さ50mmに切り出したものを2枚用意した。図2に示すように、アルミニウム合金クラッド材1の各々は、芯材2の一方の面に犠牲材3が、他方の面にろう材4がクラッドされている。一方のアルミニウム合金クラッド材1のろう材4面と他方のアルミニウム合金クラッド材1の犠牲材3面を、約10mmずらして長さ方向に重ねた。これを窒素雰囲気下で加熱し、600℃で3分間ろう付けを行った。次いで、両方のアルミニウム合金クラッド材1の犠牲材3面と、一方のアルミニウム合金クラッド材1のろう付け側の側部のみ露出するよう、露出部分を樹脂テープ5でマスキングして試験片とした。
このようにして調製した試験片を、上記カソード分極曲線を測定したのと同じアルカリ腐食液(Cl−=195ppm、SO4 2−=60ppm、pH11、温度90℃)に、マスキングしていない露出面に対して比液量が6mL/cm2となるように浸漬した。1回の浸漬時間を8時間とし、次いで大気中で16時間放置するサイクル試験を3ヶ月間実施した。試験後、試験片のろう付け部6の近傍の断面を観察し、腐食部7における最大腐食深さを測定した。
分極曲線の測定によって得られたろう材のカソード電流密度と、アルカリ腐食試験によって得られた最大腐食深さを表3、4に示す。なお、最大腐食深さについては、10μm未満を合格とし、それ以上を不合格とした。
(3)圧延加工性
圧延板の割れの有無を目視で観察し、割れが発生していた場合は圧延加工性不良と判断した。
圧延板の割れの有無を目視で観察し、割れが発生していた場合は圧延加工性不良と判断した。
(4)ろう付け性
ろう付け加熱時の材料の溶融状態を目視で観察し、溶融が発生していた場合はろう付け性不良と判断した。
ろう付け加熱時の材料の溶融状態を目視で観察し、溶融が発生していた場合はろう付け性不良と判断した。
(5)自己腐食性
試片断面に残存する犠牲材の有無を光学顕微鏡で観察し、残存が認められない程に自己腐蝕が過大な場合は自己腐食性不良と判断した。一方、Zn添加量が少な過ぎて自然電位の卑化が不十分であり、犠牲材としての機能を果たしえないほど自己腐食が過小な場合も、自己腐食性不良と判断した。
圧延加工性、ろう付け性及び自己腐食性が不良な比較例についても、表4に示した。
試片断面に残存する犠牲材の有無を光学顕微鏡で観察し、残存が認められない程に自己腐蝕が過大な場合は自己腐食性不良と判断した。一方、Zn添加量が少な過ぎて自然電位の卑化が不十分であり、犠牲材としての機能を果たしえないほど自己腐食が過小な場合も、自己腐食性不良と判断した。
圧延加工性、ろう付け性及び自己腐食性が不良な比較例についても、表4に示した。
本発明例1〜32においては、犠牲材においてNi、Cu、Ti、Fe及びSiを規定量含有しているので、pHが11、温度が90℃のアルカリ腐食液中で、犠牲材の自然電位におけるろう材の電流密度が20μA/cm2以下の範囲内にあった。その結果、腐食深さが最大でも8μmであり良好な高温のアルカリ耐食性を示し、圧延加工性、ろう付け性及び自己腐食性も良好であった。
本発明例33〜35においては、犠牲材においてNi、Cu、Ti、Fe及びSiを規定量含有し、本発明の規定する範囲内でアルカリ腐食液のpHと温度とを変化させた例である。いずれも、犠牲材の自然電位におけるろう材の電流密度が20μA/cm2以下の範囲内にあった。その結果、腐食深さがいずれも0μmであり良好な高温アルカリ耐食性を示し、圧延加工性、ろう付け性及び自己腐食性も良好であった。
比較例36、37では、犠牲材において、Ni、Cu、Tiを含有せず、FeとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例39、40では、犠牲材において、Cu、Tiを含有せず、FeとNiとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例42、43では、犠牲材において、Ni、Cu、Tiを含有せず、FeとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例45、46では、犠牲材において、Ni、Tiを含有せず、FeとSiとCuとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例48では、犠牲材において、Cu、Tiを含有せず、FeとNiとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例52、53では、犠牲材において、Ni、Cu、Tiを含有せず、FeとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例54、55では、犠牲材において、Cu、Tiを含有せず、FeとNiとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例56では、犠牲材において、Ni、Cu、Tiを含有せず、FeとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例39、40では、犠牲材において、Cu、Tiを含有せず、FeとNiとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例42、43では、犠牲材において、Ni、Cu、Tiを含有せず、FeとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例45、46では、犠牲材において、Ni、Tiを含有せず、FeとSiとCuとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例48では、犠牲材において、Cu、Tiを含有せず、FeとNiとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例52、53では、犠牲材において、Ni、Cu、Tiを含有せず、FeとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例54、55では、犠牲材において、Cu、Tiを含有せず、FeとNiとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例56では、犠牲材において、Ni、Cu、Tiを含有せず、FeとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例38では、犠牲材において、Ni、Cu、Tiを含有せず、FeとSiとを含有するものの、Fe含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったが圧延加工性に劣っていた。
比較例41では、犠牲材において、Cu、Tiを含有せず、FeとNiとSiとを含有するものの、Ni含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったが圧延加工性に劣っていた。
比較例44では、犠牲材において、Ni、Cu、Tiを含有せず、FeとSiとを含有するもののSi含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったがろう付け性に劣っていた。
比較例47では、犠牲材において、Ni、Tiを含有せず、FeとSiとCuとを含有するものの、Cu含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったがろう付け性に劣っていた。
比較例49では、犠牲材において、Cuを含有せず、FeとNiとSiとTiとを含有するものの、Ti含有量が多過ぎたため、見かけ上は局所腐食が認められないほど自己腐食が過大であった。
比較例50では、犠牲材の必須成分であるZn含有量が少な過ぎたため、自然電位が十分卑化せず犠牲材としての機能が不十分であった。
比較例51では、犠牲材の必須成分であるZn含有量が多過ぎたため、見かけ上は局所腐食が認められないほど自己腐食が過大であった。
比較例41では、犠牲材において、Cu、Tiを含有せず、FeとNiとSiとを含有するものの、Ni含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったが圧延加工性に劣っていた。
比較例44では、犠牲材において、Ni、Cu、Tiを含有せず、FeとSiとを含有するもののSi含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったがろう付け性に劣っていた。
比較例47では、犠牲材において、Ni、Tiを含有せず、FeとSiとCuとを含有するものの、Cu含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったがろう付け性に劣っていた。
比較例49では、犠牲材において、Cuを含有せず、FeとNiとSiとTiとを含有するものの、Ti含有量が多過ぎたため、見かけ上は局所腐食が認められないほど自己腐食が過大であった。
比較例50では、犠牲材の必須成分であるZn含有量が少な過ぎたため、自然電位が十分卑化せず犠牲材としての機能が不十分であった。
比較例51では、犠牲材の必須成分であるZn含有量が多過ぎたため、見かけ上は局所腐食が認められないほど自己腐食が過大であった。
比較例57〜59は、犠牲材において、Ni、Cu、Tiを含有せず、FeとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎる合金(比較例36)において、本発明の規定する範囲内でアルカリ腐食液のpHと温度とを変化させた例である。いずれも、犠牲材の自然電位におけるろう材の電流密度が20μA/cm2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
比較例60は、犠牲材において、Ni、Cu、Tiを含有せず、FeとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎる合金(比較例36)において、本発明の規定する範囲外までアルカリ腐食液のpHを上げた例である。見かけ上は局所腐食が認められないほど自己腐食が過大であった。
比較例61は、犠牲材において、Ni、Cu、Ti、Fe及びSiを規定量含有する合金(本発明例2)において、本発明の規定する範囲外までアルカリ腐食液のpHを上げた例である。見かけ上は局所腐食が認められないほど自己腐食が過大であった。
なお、比較例38、41、44、47、49、51以外の比較例においては、圧延加工性、ろう付け性及び自己腐食性は良好であった。
参考例62、63は、犠牲材において、Ni、Cu、Tiを含有せず、FeとSiとを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎる合金(比較例36)において、本発明の規定する範囲外までアルカリ腐食液のpHあるいは温度を低下させた例である。いずれも、腐食環境がよりマイルドとなり、犠牲材の自然電位におけるろう材の電流密度が20μA/cm2以下の範囲内になった。その結果、腐食深さが0μmであり良好な高温のアルカリ耐食性を示した。
参考例64、65は、犠牲材において、Ni、Cu、Ti、Fe及びSiを規定量含有する合金(本発明例2)において、本発明の規定する範囲外までアルカリ腐食液のpHあるいは温度を低下させた例である。いずれも、腐食環境がよりマイルドとなり、犠牲材の自然電位におけるろう材の電流密度が20μA/cm2以下の範囲内になった。その結果、腐食深さが0μmとなり良好な高温のアルカリ耐食性を示した。
本発明によれば、例えば自動車用熱交換器のアルミニウム合金配管材として、内部における優れたアルカリ耐食性を有するアルミニウム合金クラッド材が得られ、熱交換器の耐久性を著しく向上させるものであり、工業上顕著な効果を奏する。
1・・・アルミニウム合金クラッド材
2・・・芯材
3・・・犠牲材
4・・・ろう材
5・・・樹脂テープ
6・・・ろう付け部
7・・・腐食部
8・・・チューブ
9・・・フィン
10・・・ヘッダープレート
11・・・コア
12A、12B・・・樹脂タンク
13・・・バッキング
2・・・芯材
3・・・犠牲材
4・・・ろう材
5・・・樹脂テープ
6・・・ろう付け部
7・・・腐食部
8・・・チューブ
9・・・フィン
10・・・ヘッダープレート
11・・・コア
12A、12B・・・樹脂タンク
13・・・バッキング
Claims (2)
- 芯材の一方の面にろう材を、もう一方の面に犠牲材をクラッドしたアルミニウム合金クラッド材であって、前記犠牲材がZn:1.0〜8.0mass%を含有し、Fe:0.85〜1.5mass%、Ni:0.85〜1.5mass%、Si:0.85〜2.0mass%、Cu:0.2〜0.5mass%及びTi:0.01〜0.05mass%の1種又は2種以上を更に含み、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、pH9〜11で温度80〜100℃の腐食液中で示す犠牲材の自然電位におけるろう材のカソード電流密度が20μA/cm2以下であることを特徴とするアルミニウム合金クラッド材。
- 前記芯材がJIS3003合金であり、前記ろう材がJISBA4343P、BA4045P及びBA4047Pのいずれかである、請求項1に記載のアルミニウム合金クラッド材。
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