以下添付図面を参照して本発明の好適な実施例について、さらに具体的かつ詳細に説明する。
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみを表すものではない。これに加えて、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。即ち、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録ヘッドを用いて記録を行なう記録装置の概観斜視図である。
図2は図1に示した記録装置から外装ケースを取り外した状態で記録装置の内部構造を示した概観斜視図である。記録装置の動作として、例えば、記録媒体の一定量の搬送と記録ヘッドを搭載したキャリッジの走査を繰り返して記録媒体に対して画像を形成する。
図3は図2に示した記録装置の内部構造の内、記録媒体の搬送機構を示す側断面図である。
図4は記録媒体の搬送機構を構成する搬送ローラと排紙ローラ夫々に2つのエンコーダが設けられた様子を示す側断面図である。
以下、図1〜図4を参照して記録装置の構成を説明する。
図1〜図4に示す記録装置1は、給紙部、搬送部、キャリッジ部、排紙部から構成されている。以下、これらの概略を項目別に順次説明する。
(A)給紙部
図1に示す給紙部2は、図3に示されているように、カット記録紙などのシート状の記録媒体(不図示)を圧板21に積載する構成となっている。給紙部2には、圧板21、記録媒体を給紙する給紙ローラ28、記録媒体を一枚ずつ分離する分離ローラ241等がベース20に取り付けられている。
積載された記録媒体を保持する為の給紙トレイ26が、ベース20または外装に取り付けられている。給紙トレイ26は多段式で使用時は引出して用いる。
給紙ローラ28は断面が円弧の円柱状をしている。給紙ローラ28の駆動力は、給紙部2に設けられたクリーニング部と共用のモータから駆動伝達ギア(不図示)、遊星ギア(不図示)によって伝達される。
圧板21には可動サイドガイド23が移動可能に設けられて、記録媒体の積載位置を規制している。圧板21はベース20に結合された回転軸を中心に回転可能で、圧板バネ212により給紙ローラ28に付勢される。給紙ローラ28と対向する圧板21の部位には、積載された記録媒体の最終枚近くで記録媒体の重送を防止する人工皮等の摩擦係数の大きい材質からなる分離シート(不図示)が設けられている。圧板21は圧板カム241によって、給紙ローラ28に、当接、離間できるように構成されている。
さらに、分離ローラ241は、クラッチバネ(不図示)が取り付けられ、所定以上の負荷がかかると分離ローラ241が取り付けられた部分が、回転できる構成になっている。
通常の待機状態では、積載された記録媒体が記録装置の内部に入らないように、積載口を塞ぐようになっている。この状態から、給紙が始まると、モータ駆動によって、まず、分離ローラ241が給紙ローラ28に当接する。そして、圧板21が給紙ローラ28に当接する。この状態で、記録媒体の給紙が開始され、所定枚数の記録媒体のみが給紙ローラ28と分離ローラ241から構成されるニップ部に送られる。送られた記録媒体はニップ部で分離され、最上部にある記録媒体のみが記録装置内に給紙される。
記録媒体が、搬送ローラ36、ピンチローラ37まで到達すると、圧板21は圧板カム(不図示)によって元の位置に戻る。この時、給紙ローラ28と分離ローラ241から構成されるニップ部に到達していた記録媒体を積載位置まで戻すことができる。
(B)搬送部
曲げ起こした板金からなるシャーシ11に搬送部が取り付けられている。搬送部は記録媒体を搬送する搬送ローラ36とPEセンサ32を有している。搬送ローラ36は金属軸の表面にセラミックの微小粒をコーティングした構成となっており、両軸の金属部分を軸受けで受け、シャーシ11に取り付けられている。搬送ローラ36には回転時の負荷を与え安定した搬送が行えるために軸受けと搬送ローラ36の間に搬送ローラテンションバネ(不図示)が設けられて、搬送ローラ36を付勢して所定の負荷を与えている。
搬送ローラ36には従動する複数のピンチローラ37が当接して設けられている。ピンチローラ37はピンチローラホルダ(不図示)に保持され、ピンチロラーバネ(不図示)で付勢することで、ピンチローラ37が搬送ローラ36に圧接し、記録媒体の搬送力を生み出している。この時、ピンチローラホルダの回転軸がシャーシ11の軸受けに取り付けられ、そこを中心に回転する。さらに、記録媒体が搬送されてくる搬送部の入口にはプラテン34が配設されている。プラテン34はシャーシ11に取り付けられ、位置決めされる。
上記構成において、搬送部に送られた記録媒体はピンチローラホルダ(不図示)とペーパーガイドフラッパに案内されて、搬送ローラ36とピンチローラ37とのローラ対に送られる。この時、PEセンサ32により搬送されてきた記録媒体の先端を検知して、これにより記録媒体の記録位置を求めている。また、記録媒体は搬送モータ(不図示)によりローラ対36、37が回転することでプラテン34上を搬送される。プラテン34上には、搬送基準面になるリブが形成されており、記録ヘッドとのギャップを管理しているのと、後述の排紙部と合わせて、記録媒体のなみうちが大きくならないよう制御している。
搬送ローラ36は、図4に示すように、DCモータからなる搬送モータ35の回転力をタイミングベルト39を介して搬送ローラ36の軸上に設けたプーリ361に伝達することで駆動される。また、搬送ローラ36の軸上には、搬送ローラ36による搬送量を検出する為の150〜300lpiのピッチでマーキングを形成したコードホイール362が設けられる。そして、そのマーキングを読み取るエンコーダセンサ363がコードホイール362の隣接する位置のシャーシ11に取り付けられている。
このように同じ搬送系に複数のコードホイールとエンコーダセンサを備え、一つの駆動源である搬送モータを複数のエンコーダセンサからの出力に基づいて記録媒体Pの搬送領域に応じて制御対象を変更し、記録媒体Pを搬送することがこの実施例の特徴である。
このような構成の利点としては、駆動源が一つであり、低コストであることが挙げられる。また、高精度な制御が必要な領域で必要な制御対象を直に制御でき、駆動列がつながっているため、制御対象の切り替え時の挙動が安定し、複数の駆動源を有した構成で必要になる複数ローラの高度な同期制御を必要としないことも利点である。
また、搬送ローラ36の記録媒体搬送方向における下流側には、画像情報に基づいて画像を形成する記録ヘッド7が設けられている。
記録ヘッド7としては各色インクタンク別体の交換可能なインクタンク71が搭載されたインクジェット記録ヘッドが用いられている。記録ヘッド7は、ヒータ等によりインクに熱を与えることでインクを膜沸騰させて生じる気泡の成長または収縮によって生じる圧力変化によってノズルからインクを吐出し、記録媒体上に画像を形成する。この際に、記録媒体は、プラテン34によって保持され、ノズルから記録媒体の記録面までの距離が所定量に保たれるように構成されている。
さらに、全面印刷(ふちなし印刷)を行なった場合に、記録媒体の端部からはみ出したインクを吸収するプラテン吸収体344がプラテン34には設けられている。記録媒体の4辺端部からはみ出した全てのインクがここに吸収される。
(C)キャリッジ部
キャリッジ部5は、記録ヘッド7を取り付けるキャリッジ50を有している。キャリッジ50は、記録媒体の搬送方向に対して直角方向(異なる方向)に往復走査させるためのガイドシャフト52とキャリッジ50の後端を保持して記録ヘッド7と記録媒体との隙間を維持するガイドレール(不図示)によって支持されている。ガイドシャフト52はシャーシ11に取り付けられている。ガイドレールはシャーシ11に一体に形成されている。
また、キャリッジ50はシャーシ11に取り付けられたキャリッジモータ54によりタイミングベルト541を介して駆動される。タイミングベルト541はキャリッジ50とゴム等からなるダンパーを介して結合されており、キャリッジモータ54等の振動を減衰することで、画像ムラ等を低減している。そして、キャリッジ50の位置を検出する為の150〜300lpiのピッチでマーキングを形成したコードストリップ561がタイミングベルト541と平行に設けられている。さらに、それを読み取るエンコーダセンサ(不図示)がキャリッジ50に搭載したキャリッジ基板(不図示)に設けられている。また、キャリッジ50には、制御回路(後述)から記録ヘッド7に種々の制御信号や記録信号を伝えるためのフレキシブル基板57を備えている。
記録ヘッド7をキャリッジ50に固定する為に、ヘッドセットレバー51が設けられ、ヘッドセットレバー51を回転支点中心に回して、記録ヘッド7をキャリッジ50に固定する。
記録媒体への画像形成時は、記録ヘッド7による記録媒体搬送方向に関するインク吐出位置までローラ対36、37が記録媒体を搬送する。これと共にキャリッジモータ54によりキャリッジ50をキャリッジ移動方向に関するインク吐出位置に移動させる。その後、制御回路からの信号により記録ヘッド7が記録媒体に向けてインクを吐出し、画像が形成される。
(D)排紙部
排紙部は、2本の排紙ローラ40、41、排紙ローラ40、41に所定圧で当設、従動して回転可能に構成された拍車(不図示)、搬送ローラの駆動を排紙ローラ40、41伝達する為のギア列などから構成される。排紙ローラ40、41はプラテン34に取り付けられている。また、排紙ローラ40は金属軸に、複数のゴム部を設けている。
図4に示されているように、搬送ローラ36からの駆動がアイドラギア45を介し、排紙ローラ40に直結された排紙ローラギア404に作用する事で、排紙ローラ40が駆動される。また、記録媒体の搬送方向に関し、排紙ローラ40の下流側に設けた排紙ローラ41は樹脂で構成されている。排紙ローラ41への駆動は、排紙ローラ40から別のアイドラギアを介して伝達される。また、排紙ローラ40の軸上には、排紙ローラ40による搬送量を検出する為の150〜300lpiのピッチでマーキングを形成したコードホイール402が設けられている。そのマーキングを読み取るエンコーダセンサ403はコードホイール402の隣接する位置のシャーシ11に取り付けられている。
拍車は、拍車ホルダ43に取り付けられている。
以上の構成によって、記録ヘッド7により記録がなされた記録媒体は、排紙ローラ41と拍車とのニップに挟まれ、搬送されて排紙トレイ46に排出される。排紙トレイ46は、フロントカバー95に収納できる構成になっている。排紙トレイ46は使用時は、引出して使用する。排紙トレイ46は先端に向けて高さが上がり、更にその両端は高さが高く構成され、排出された記録媒体の積載性向上、記録面の擦れ防止を可能としている。
図5は図1〜図4に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
図5に示すように、コントローラ600は、MPU601、ROM602、特殊用途集積回路(ASIC)603、RAM604、A/D変換器606を備えている。ROM602は、後述する制御シーケンスに対応したプログラム、所要のテーブル、その他の固定データを格納する。ASIC603は、キャリッジモータ54の制御、搬送モータ35の制御、及び、記録ヘッド7の制御のための制御信号を生成する。RAM604には画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等が設けられている。また、MPU601、ASIC603、RAM604はシステムバス605により相互に接続されてデータの授受を行う。A/D変換器606は、以下に説明するセンサ群からのアナログ信号を入力してA/D変換し、デジタル信号をMPU601に供給する。
また、図5において、610は画像データの供給源となるコンピュータ(或いは、画像読取り用のリーダやデジタルカメラなど)でありホスト装置と総称される。ホスト装置610と記録装置1との間ではインタフェース(I/F)611を介して画像データ、コマンド、ステータス信号等を送受信する。
さらに、スイッチ群620は、電源スイッチ621、プリント開始を指令するためのプリントスイッチ622、及び記録ヘッド7のインク吐出性能を良好な状態に維持するための処理(回復処理)の起動を指示するための回復スイッチ623などを含む。これらのスイッチにより、記録装置は、操作者による指令入力を受け付ける。センサ群630はホームポジションhを検出するためのフォトカプラなどの位置センサ631、環境温度を検出するために記録装置の適宜の箇所に設けられた温度センサ632等から構成される。
エンコーダセンサ363、403は、搬送ローラ36と排紙ローラ40とに夫々に設けられたコードホイール362、402のマーキングを読取って、夫々がエンコーダ信号(アナログ信号)を発生する。そして、エンコーダセンサ363、403の内部において、発生したエンコーダ信号からその信号エッジを検出して、エッジ信号を生成し、さらに、そのエッジ信号をA/D変換して、デジタルのパルス信号を生成する。コードホイール362、402のマーキングは一定間隔で設けられているので、搬送ローラ36と40とが正常に一定の回転速度で回転する限り、そのパルス信号の発生周期は一定となる。
従って、エンコーダセンサ363、403からはこのようなパルス信号が出力され、ASIC651に入力される。ASIC651では、MPU601の制御の下、エンコーダセンサ363、403からのパルス信号のパルス数をカウントしたり、これらのパルス信号の位相差を検出したり、夫々のパルス信号の周期を計測する。これらの計測、検出結果はMPU601に出力される。
さらに、640はキャリッジ50を往復走査させるためのキャリッジモータ54を駆動させるキャリッジモータドライバ、642は記録媒体を搬送するための搬送モータ35を駆動させる搬送モータドライバである。
ASIC603は、記録ヘッド7による記録走査の際に、RAM602の記憶領域に直接アクセスしながら記録ヘッドに対して記録素子(吐出ヒータ)の駆動データ(DATA)を転送する。
なお、図1〜図4に示す構成は、インクカートリッジ71と記録ヘッド7とが分離可能な構成であるが、これらが一体的に形成されて交換可能なヘッドカートリッジを構成しても良い。また、ASIC651を省き、ASIC603がASIC651の代わりに、エンコーダセンサ363、403からのパルス信号の処理を行う構成でも構わない。
次に、記録装置の搬送機構に設けられた複数のエンコーダセンサから出力に基づく記録媒体の搬送制御を行なういくつかの実施例について詳細に説明する。
図6は複数エンコーダの制御領域を説明する図である。
図6に示すように、この実施例では、記録媒体Pの後端位置に従って、エンコーダセンサ363、403の制御を切り替えるか、或は協働して記録媒体Pの搬送制御を行なう。
この実施例では、PEセンサ32で記録媒体Pの後端位置を検知する。実際には、ピンチローラ37を保持するピンチローラホルダに設けられたPEセンサレバー321に記録媒体Pの先端が接触するか、その後端が非接触になるかで検知がなされる。
図6に示すように、この実施例では記録媒体Pの後端位置によって、2つのエンコーダセンサ363、403からの出力信号のいずれかを選択し、その選択した信号に基づいて記録媒体Pの搬送制御を行なう。記録媒体Pが搬送されると、その搬送に従って、PEセンサレバー321とPEセンサ32で記録媒体Pの後端位置を検知し、この検知情報から上流側にある搬送ローラ36のニップ位置が推定可能となる。基本的には、搬送ローラ36により記録媒体Pを搬送している領域では、エンコーダセンサ363から得られる情報に基づいて搬送モータ35を制御し改行動作を行う。その後、記録媒体Pが搬送ローラ36のニップを抜けた後、即ち、下流側の排紙ローラ40で記録媒体Pを搬送する領域ではエンコーダセンサ403から得られる情報に基づいて搬送モータ35を制御して改行動作を行う。
この搬送制御をさらに図面を用いて説明する。
図7は記録媒体の搬送制御を説明する図である。
図7(a)は、記録媒体Pをエンコーダセンサ363から得られる情報に基づいて搬送モータを制御する様子を示したものである。この状態では、搬送ローラ36の送り精度に影響を及ぼす因子は、搬送ローラ36の摩擦スリップを除くと、搬送ローラ36の偏芯と搬送コードホイール362の偏芯および、双方の偏芯位相差である。
図7(b)と図7(c)は、記録媒体Pをエンコーダセンサ403からの情報に基づいて搬送モータ35を制御する状態を示している。この状態では、排紙ローラ40の送り精度に影響を及ぼす因子は、排紙ローラ40の摩擦スリップを除くと、排紙ローラ40の偏芯とコードホイール402の偏芯および、双方の偏芯位相差である。
搬送制御では、図7(b)に示す状態でエンコーダセンサ363から得られる情報に基づいた制御からエンコーダセンサ403から得られる情報に基づいた制御に切り替えることが望ましい。しかしながら、このような制御は後述するように欠点もある。このため、この実施例では、図7(b)に示す状態が発生する直前の改行動作において、搬送制御に使用する情報をエンコーダセンサ363から得られる情報からエンコーダセンサ403から得られる情報に切り替える。以後の搬送制御は、その頁の記録が終了するまでエンコーダセンサ403から得られる情報に基づいて行う。
なお、図7(b)に示す状態の時に、画像記録が連続しない空欄の改行動作である場合には、図7(b)に示す状態を過ぎた後でエンコーダセンサ403から得られる情報に基づく搬送制御に切り替えても良い。
下流側の搬送ローラ40にエンコーダセンサが備えられていない従来の構成の場合、図7(c)に示す状態では、排紙ローラ40の送り精度に影響を及ぼす因子は、排紙ローラ40の摩擦スリップを除くと、次の通りである。即ち、コードホイール402の偏芯と、プーリ361のギア送り誤差(偏芯と類似)と、アイドルギア45送り誤差(偏芯と類似)、ローラギア404の送り誤差(偏芯と類似)、排紙ローラ40の偏芯と、各々の偏芯位相差である。従って、この実施例の構成で、ギア3枚分の偏芯誤差を改善することができる。現実には、搬送誤差をシミュレーションと実験からも約半分にまで抑えることに成功している。
次に、簡単にエンコーダセンサから得られる情報に基づいてDCモータ(搬送モータ)をサーボ制御して記録媒体を間欠搬送する制御について説明する。
サーボ制御では予め指定された停止目標位置に向けて、記録媒体の搬送速度の加速、減速を行い、停止目標位置近傍では、停止寸前の極低速で一定速度に制御される。その後、停止目標位置に到達した瞬間にDCモータへの駆動電力の供給を切断し、その先は惰性でメカの慣性と摩擦抵抗の釣り合いの結果、記録媒体は停止する。
以下に述べる例は、搬送制御のために上述の2つのエンコーダセンサから得られる情報を切り替える時に実行する改行動作の内、記録媒体の搬送が停止寸前の極低速に制御された領域を対象としている。
まず、エンコーダセンサからのパルス信号の切り替えに関して述べる。
この実施例では、MPU601とASIC651とが協働して搬送制御に用いるエンコーダセンサからのパルス信号を切り替える。
図8はエンコーダセンサ363からのパルス信号とエンコーダセンサ403からのパルス信号との時間的推移を示す図である。
図8に示すように、パルス信号EA0を搬送ローラの停止目標タイミングとして、ASIC651はパルス信号EA−3、EA−2、EA−1、EA0を検出していく。一方、エンコーダセンサ403からのパルス信号EB−2、EB−1、EB0を同様に検出していく。なお、パルス信号EA+1とEB+1は未来に検知されるパルス信号として便宜上記載している。
前述のように、ASIC651ではエンコーダセンサ363からのパルス信号を計数するカウンタとエンコーダセンサ403からのパルス信号を計数するカウンタの2つのカウンタを備える。そして、パルス信号の検出が搬送ローラの停止目標タイミングに到達した時点で、エンコーダセンサ363からのパルス信号を計数するカウンタの計数値をエンコーダセンサ403からのパルス信号を計数するカウンタの計数値に上書きする。これと同時にASIC651はMPU601の制御の下にエンコーダセンサ403からのパルス信号を入力するように切り替え、以後はエンコーダセンサ403からのパルス信号に基づいて搬送制御を行う。
このような制御を行なえば、エンコーダセンサ363からのパルス信号EA0がエンコーダセンサ403からのパルス信号EB0と等しいと認識され、以後はエンコーダセンサ403からのパルス信号の計数値に基づき搬送制御が行われる。
なお、この実施例では、パルス信号EB0の計数値にパルス信号EA0までの計数値を上書きした。しかしながら、パルス信号EB0の計数値はそのままとし、パルス信号の入力先切り替え以後の記録媒体の停止目標値をエンコーダセンサ403からのパルス信号の計数値を基準とするように変更してもかまわない。
ここで、必要とあれば制御対象を変更すると同時に、制御パラメータも同時に変更することも可能である。このような変更は、例えば、エンコーダセンサ363の記録媒体P上の解像度とエンコーダセンサ403の記録媒体P上の解像度とが異なる場合等に有効である。具体的には、単位時間当たりの情報量が異なるため、搬送モータを停止寸前の低速制御領域の指令速度を変更したり、利得を変更することで、安定した停止前速度を得ることができるし、停止時間の最適化(短縮化)に対応することもできる。
パルス信号をエンコーダセンサ363からエンコーダセンサ403からのものに引き継ぐタイミングに関しては、記録媒体Pが搬送ローラ36のニップを通過する瞬間が、下流につながる駆動列の偏芯誤差を最小にできるため理想的である。しかしながら、現実にはニップ通過時に、搬送ローラ対36、37がピンチローラ37のばね力により機構的に記録媒体Pを前進させる力が働いてしまう。この外乱を排除する目的で、この引き継ぎは記録媒体Pが搬送ローラのニップ通過より手前で行うのか好ましい。さらには、搬送速度が高速な状態での引き継ぎは、駆動列のメカ弾性や、慣性モーメント、カウンタ時間解像度、制御追随性による外乱が多く寄与するため、搬送速度が低速もしくは停止時がさらに好ましい。その中でも、停止時のバックラッシュの影響や、停止動作から停止に至る間の不確定動作を排除するためには、停止動作開始時もしくは場合によっては停止動作寸前にその引き継ぎを行なうことでさらに好ましい。
従って以上説明した実施例によれば、記録媒体が搬送ローラを抜けた後の搬送精度を飛躍的に向上することが可能となる。これにより、より高品位な画像記録が可能になる。加えて、従来は必要であった記録ヘッドの使用ノズルの制限を緩和して改行の搬送量を増やすことでより高速な記録も可能となる。
実施例1では2つのエンコーダセンサから出力されるパルス信号の例について説明したが、この実施例では、2つのパルス信号の位相差を考慮した搬送制御について説明する。
もし、2つのエンコーダセンサによる記録媒体の搬送についての位置検出解像度が等しい、例えば、双方とも1800dpiの4逓(両相両エッジ)の解像度を有する場合、7200dpiピッチ=約3.5μmでパルス信号が検知される。これは、エンコーダセンサ363からエンコーダセンサ403に入力するパルス信号の引き継ぎをする時にパルス信号の位相差によっては最大3.5μmのずれが発生する可能性があることを意味する。
この実施例ではこのずれを半減するために、ASIC651で2つのパルス信号の位相差を検出し、パルス信号の計数値を引き継ぐタイミング時により近傍のパルス信号を判断し選択する。
図9はエンコーダセンサ363からのパルス信号とエンコーダセンサ403からのパルス信号との時間的推移を示す図である。
図9に示すように、パルス信号EA0を搬送ローラ36の停止タイミングとして、エンコーダセンサ363からのパルス信号が、EA−3、EA−2、EA−1、EA0と検出される。一方、エンコーダセンサ403からのパルス信号がEB−2、EB−1、EB0と検出されてる。なお、図9において、パルス信号EA+1、EB+1は未来に検知される信号として便宜上表現している。
ここで、パルス信号EB−1とEA−2との時間差TB1、パルス信号EA−1とEB0との時間差TB2を計測する。これら2つの値からパルス信号EA−1に対してパルス信号EB−1とEB0の内、どちらのパルス信号が近いかを判断する。
この例では、TB1>TB2なので、パルス信号EA−1はEB0に近いと判断し、EA−1=EB0として処理する。即ち、パルス信号EB0の計測値にパルス信号EA−1までの計測値を上書きする。これに対して、TB1<TB2であった場合には、EA−1=EB−1として同様に処理をすればよい。
この結果、パルス信号の計測値を引き継ぐ時の2つのエンコーダセンサからのパルス信号の位相差により生じる誤差はエンコーダセンサ403の解像度の1/2以内に抑えることができる。上述ように、2つのエンコーダセンサが同じ解像度である場合、位相差による誤差は7200dpiピッチ×1/2=約1.8μmに抑えることができ、より高精度な搬送を実現できる。
この実施例では、近傍のパルス信号がどれかを判断するために、パルス信号の時間差のみを判断材料としている。これは、サーボ制御により記録媒体の搬送を停止させる場合、一般的に停止寸前の速度を極低速の一定速度に制御することを裏付けとしているが、もし意図的に加速度を含む制御を行なう場合には、その加速度を加味してパルス信号の比較をする。即ち、速度情報(及び推定値)を考慮し、距離(時間×速度)を比較の指標とすることで双方のエンコーダセンサからのパルス信号の位相差を求めることができる。
また、少しでもローラの偏芯誤差を防ぐために、エンコーダセンサからのパルス信号の計測値の引き継ぎ位置を搬送ローラの停止目標位置に近づけて、搬送ローラの停止目標位置と同一もしくは寸前に近傍のパルス信号がどれかを判断することが望ましい。
図10はエンコーダセンサ363からのパルス信号とエンコーダセンサ403からのパルス信号との時間的推移を示す別の図である。
図10に示すように、パルス信号EB−1とEB0の時間差PBと、パルス信号EB0とEA0の時間差TB3を計測し、TB3とPB−TB3を比較する。ここで、PB−TB3はパルス信号EA0と将来検出するであろうパルス信号EB+1との時間差と考えられるものである。後は、この比較結果に基づいて、上述のように、搬送ローラの停止目標位置と同一もしくは寸前に近傍のパルス信号がどれかを判断する。
図11はエンコーダセンサ363からのパルス信号とエンコーダセンサ403からのパルス信号との時間的推移を示すさらに別の図である。
図11に示すように、時間カウントの基点を変えて、近傍のパルス信号がどれかを判断しても良い。即ち、パルス信号EA−1を基点にパルス信号EB0との時間差TA1とパルス信号EB0とパルス信号EA−1の次の周期のパルス信号EA0との時間差TA2とから、より近いパルス信号同士であるパルス信号EA−1とEB0の計数値を合わすこともできる。この場合、エンコーダセンサ403からのパルス信号に対して、近傍のエンコーダセンサ363からのパルス信号を判断、選択する。このため、位相差による誤差を搬送ローラ36のエンコーダセンサ363の解像度の1/2以内に抑えることができる。
また、位相差を求めるタイミングとパルス信号の計数値を引き継ぐタイミングとは必ずしも同じである必要はないが、高精度な搬送を達成するためには、これらのタイミングは同じであることが好ましい。
さらに、この実施例に従う制御は、サーボ制御や記録媒体の停止制御自体に与える影響は少なく、比較的容易に実現可能であるという利点がある。
なお、この実施例に従う制御は、2つのエンコーダセンサからのパルス信号の位相差を検知、そして近傍のパルス信号を選択判定できれば、その位相差検知方法や近傍パルスの選択方法は上記の方法に限定されるものではなく、他の方法でも良い。
この実施例では、実施例2と比較して、エンコーダセンサからのパルス信号の計数値を引き継ぎをより高精度に実行し、さらに高精度に記録媒体の搬送を停止させる方法について説明する。
図12はエンコーダセンサ363からのパルス信号とエンコーダセンサ403からのパルス信号と記録媒体の搬送量との関係を示す図である。図12において、横軸は記録媒体Pの搬送量(X)であり、横線の破線は、エンコーダセンサからの膨大なパルス信号出力を模式的に示したものる。この図に示す例は、エンコーダセンサ363とエンコーダセンサ403による記録媒体の搬送位置検出解像度が等しく、かつ均等な送り量Pで搬送がなされる場合を示している。
図12に従えば、エンコーダ切り替えポイント前(図面では左側)では、エンコーダセンサ363からのパルス信号に基づいて、位置X−1、位置X0と均一な送り量Pで停止目標位置を設定し、この停止目標位置に到達した時点で記録媒体の搬送を停止させる。
ここで、切り替えポイントで2つのエンコーダセンサからのパルス信号が搬送量に換算してΔXだけずれている場合を考える。この場合、切り替えポイント後(図面では右側)、エンコーダセンサ430からのパルス信号に基づいて記録媒体の停止目標位置を決定すると、その目標に対して、図12に示すようにずれが発生する。即ち、位置X+1、X+2に対して夫々、ΔX+1、ΔX+2なるずれが発生する。ここでの条件では、ほぼΔX=ΔX+1=ΔX+2になる。
このずれを解消するため、この実施例でも実施例2と同様に、エンコーダセンサ403からのパルス信号を基点としたエンコーダセンサ363からのパルス信号との位相差(TB)を計測する。そして、図12に示した切り替えポイント以降、エンコーダセンサ403からのパルス信号に基づいて制御される排紙ローラの停止目標位置にこの情報を反映させる。
具体的には、実施例2で説明したように、2つのエンコーダセンサからのパルス信号の位相差を検出する。例えば、図9に示したように、位相差TB1とTB2から、エンコーダセンサ363からのパルス信号EA−1がエンコーダセンサ403からのパルス信号EB−1とEB0の間のどこに位置するのかを把握できる。例えば、エンコーダセンサ403からパルス信号の計測単位を細かく設定し、パルス信号の存在しない場所(時間でもよい)も仮想的にパルス信号の計測できるようにしておく。このことで、パルス信号EA−1がパルス信号EB−1とEB0に対してTB1:TB2の割合に対応する位置に存在することがパルス信号の計測値として定義できる。
言い換えると、図13に示すように、エンコーダセンサ403からの2つのパルス信号の間に仮想的な搬送ローラ用のエンコーダセンサからのパルス信号を識別することができる。この計測値は、エンコーダセンサ403からのパルス信号の計測そのものではなく、記録媒体Pの位置を想定する仮想的計測値として良い。
同様に、実施例2の図10〜図11で示した位相差検知の結果を反映することも容易に実現できることは言うまでもない。
図13は仮想的な搬送ローラ用エンコーダセンサからのパルス信号とエンコーダセンサ403からのパルス信号との時間的推移を示す図である。
この計測値を使用して、図13に示すように、排紙ローラの停止目標位置(タイミング)を決定すると、エンコーダセンサ403からのパルス信号からの遅延距離ΔX+1、ΔX+2が確定できる。位置X+1での停止に関し、図13に示すようにエンコーダセンサ403からのパルス信号に基づく搬送停止寸前の速度情報VBと遅延距離ΔX+1から排紙ローラの停止目標タイミングの一つ手前のパルス信号EB1−0を基点とした時間遅延TDが求められる。この時間遅延を基に、パルス信号EB1−0から時間TDが経過後に停止動作を行う。
このことにより、パルス信号が存在していない場所が理想の送りピッチPとなるような停止目標位置X+1での記録媒体の搬送停止が可能となる。同様に、位置X+2に対しても時間遅延TD=VB/(ΔX+2)だけ遅らせて停止動作を行う。
なお、エンコーダセンサ363と403の位置検出解像度が等しい場合には、これら2つのパルス信号の時間位相差の値をそのまま切り替えポイント後のエンコーダセンサ403からのパルス信号を用いた搬送停止の遅延値としても、ほぼ同等の精度が得られる。
また、エンコーダセンサからのパルス信号に対して時間遅延を加えることで、パルス信号位置以外の目標位置で停止動作を行う技術は特開2005−132028公報に既に開示されている。従って、この実施例での特徴は、2つのエンコーダセンサからのパルス信号の位相誤差を、それ以降の搬送制御に用いるエンコーダセンサ403からのパルス信号に基づいて検出し、これを搬送制御に反映させてその位相誤差を修正するところにある。
従って以上説明した実施例によれば、パルス信号の計測値を引き継ぐ時に2つのエンコーダセンサからのパルス信号の位相差を検知し、その位相差をそれ以降の排紙ローラによる記録媒体の搬送停止目標位置(及びタイミング)に反映させることができる。これにより、理想的な搬送停止を実現することが可能となる。
実施例1〜3では、説明の簡略化のため、エンコーダセンサ363とエンコーダセンサ403の記録媒体の搬送位置検出解像度が等しいとしてきたが、本発明はこれによって限定されるものではない。例えば、記録装置の筐体サイズの制限から排紙コードホイール402の直径を小さくしてエンコーダセンサ403の解像度をエンコーダセンサ363よりも低くしても良い。逆に、排紙ローラ40の偏芯精度が相対的に十分に確保できていない場合などには、排紙コードホイール402の直径を大きくして偏芯を抑えエンコーダセンサ403の解像度をエンコーダセンサ363よりも高くして、制御安定性を向上させるようにしても良い。
図14〜図15は夫々、位置検出解像度が高いエンコーダセンサ363からのパルス信号と位置検出解像度が低いエンコーダセンサ403からのパルス信号との時間的推移を示す図である。
図16は、位置検出解像度の低いエンコーダセンサ363からのパルス信号と位置検出解像度が高いエンコーダセンサ403からのパルス信号との時間的推移を示す図である。
これらの図において、2つのエンコーダセンサの位置検出解像度は互いに対して2倍異なるものとしている。
まず、図14に示す例について説明する。
この例では、エンコーダセンサ363からのパルス信号を基点に、次のエンコーダセンサ403からのパルス信号までの時間を計測し、さらにこのパルス信号から次のエンコーダセンサ363からのパルス信号までの時間を計測する。ただし、エンコーダセンサ363からのパルス信号が2つ続けて検出された場合(例えば、パルス信号EA−2とEA−1)を検出する場合)には、その間の時間計測はキャンセルする。
このようにして、図14の例では、パルス信号EA−3とEB−1の間(TAA−3)、EB−1とEA−2の間(TAB−2)、EA−1とEB0の間(TAA−1)、EB0とEA0との間(TAB0)の時間を夫々を検知することができる。そして、これらの時間を前述した実施例2、3に適用することができる。
次に、図15に示す例について説明する。
この例では、エンコーダセンサ403からのパルス信号を基点にする。
まず、エンコーダセンサ403からのパルス信号を基点に次のエンコーダセンサ403からのパルス信号までの時間を計測し、さらにそのパルス信号から次のパルス信号までも時間を計測する。ここで、次に検出されたパルス信号がエンコーダセンサ403からの信号であれば、計測処理は終了する。これに対して、次に検出されたパルス信号がエンコーダセンサ363からの信号であれば(例えば、EA−2の次はEA−1)、このパルス信号から次のパルス信号までの時間を計測する(例えば、EA−1の次はEB0)。
このようにして、パルス信号EB−1とEA−2の間(TBA−1)、EA−2とEA−1の間(TB−1_0)、EA−1とEB0との間(TBB0)の時間を検知することができる。同様に、パルス信号EB0とEA0の間の時間も検知することができる。
また、上記のような時間計測とは別の計測方法を用いることもできる。
即ち、エンコーダセンサ403からのパルス信号を基点にエンコーダセンサ363からのパルス信号までの時間を計測し、そのパルス信号を基点にエンコーダセンサ403からの次のパルス信号までの時間(例えば、EA−2からEB0の間)を計測する。この方法によれば、前述の方法とは異なり、パルス信号EA−1を検知したときの計測値を記憶しておかなくとも良い。
さらに、別の方法として、例えば、図15のパルス信号EA−2、EA−1、EB0までの時間を計数するカウンタを用意してもよい。
最後に、図16に示す例について説明する。
この例では、図14に示した例の逆の操作を行えば良い。即ち、エンコーダセンサ403からのパルス信号を基点に、パルス信号EB−2とEA−1の間(TBA−2)、EA−1とEB−1の間(TBB−1)、及び、EB0とEA0の間(TBA0)の時間を検知することができる。
同様に、エンコーダセンサ363からのパルス信号を基点とする時間計測でも、図15に示した例の逆の操作を行うことで所望の時間を検知することができる。
なお、パルス信号間の時間計測の方法は上述の方法に限定されるものではなく、解像度の異なるエンコーダの位相差を検出可能な構成であればどんな方法でもかまわない。
以上説明した実施例に従えば、2つのエンコーダセンサの位置検出解像度が異なっていても、パルス信号間の時間計測を行なうことができ、得られた時間を実施例2、3に適用することで正確な搬送制御を実行することが可能になる。これにより、記録装置の筐体サイズや構造上の都合上、スペース効率の向上のためエンコーダセンサの解像度が異なっていても、このような状況に柔軟に対応しつつ、高精度の搬送制御が実現される。
ここでは、より高精度で位相差ずれ量を得る例について説明する。
上述の実施例では、位相ずれ量検知タイミングを、搬送動作停止時、或は、停止動作直前とする例について説明したが、位相ずれ量の検出精度を高めるために、ここでは、搬送停止近傍の位相ずれ量を複数回検知し、それを平均化した値を位相ずれ量とする。
図17は位相ずれ量を複数回検知して平均化する様子を説明する図である。
まず、図17に示すように、搬送方向に関し上流側のエンコーダセンサ363からのパルス信号と下流側のエンコーダセンサ403からのパルス信号とのずれ量(距離)をΔBA0、ΔBA1、……、ΔBB0、ΔBB1、……とする。なお、この例では、ずれ量を距離としたが、その距離に対応する時間であってもかまわない。
さて、下流側のエンコーダセンサ403からのパルス信号の4逓倍の理想ピッチをPBとすると、エンコーダセンサ403からのパルス信号に対するエンコーダセンサ363からのパルス信号の位相ずれ量(ΔB)は、次のようになる。
即ち、
ΔB=PB×Σ(ΔBAx)/Σ( ΔBAx+ ΔBBx)、(x=0〜N)
である。
なお、ここでは、そのずれ量を距離として求めたが、これを時間で求めても良い。
このように、複数のパルス信号にわたって得られる位相ずれ量を平均化することで、機構的な挙動ばらつきや、速度制御のばらつきを軽減することができる。さらには、少なくとも4回の隣接した位相ずれ量を平均化することで、エンコーダセンサの特性ばらつきをも軽減することができる。エンコーダセンサは通常、A相、B相の2相及び立ち上がりエッジ、立ち下がりエッジの計4つを一周期とした出力が得られるので、4回の隣接した位相づれ量を平均化するのには意味がある。
このようにして得られた平均位相差づれ量は実施例3に適用したり、また、Σ(ΔBAx)とΣ(ΔBBx)の値の比較を実施例2での判断に適用することができる。このようにすることで、安定した改行搬送精度を得ることに貢献する。
もちろん、エンコーダセンサ363とエンコーダセンサ403の位置検出解像度が同じであれば、上述のように位相ずれ量を単純に平均化すればよいが、解像度が異なる場合には、各パルス信号から得られた位相ずれ量を正規化して平均化すれば良い。そして、エンコーダセンサ363からのパルス信号の計数値をエンコーダセンサ403からのパルス信号の計数に引き継ぐ時にその平均化した位相ずれ量を用いる解像度に換算して引き継げばよい。
エンコーダセンサ363の解像度の4逓倍ピッチをRP1、エンコーダセンサ403の解像度の4逓倍ピッチがRP2だとすると、検出されるパルス信号が一つずれるたびに(RP1−RP2)のずれ量が位相ずれとは別に加算(もしくは減算)する。そして、この量を正規化した位相ずれ量として扱えばよいだけである。なお、双方の解像度が2倍程度以上違う場合は、位相ずれ検知を行なう相手側のパルス信号が隣のパルス信号を飛び越えていないかも加味する必要があることは言うまでもない。
また、この実施例で言及した平均化の方法は、上述の例に限定されるものではなく、搬送停止寸前の情報を加えるために搬送ローラの停止目標タイミングでのパルス信号の情報を含めたりすることもできる。或は、エンコーダセンサの相の特性をキャンセルするために同相のパルス信号の情報のみを使用しても良い。このように、複数の位相差情報からある代表的な位相差を求めるものであれば本発明の趣旨を逸脱するものではない。
このように多くの位相差情報から代表的な位相差を導出することで、エンコーダセンサの特性や、機構部の挙動、制御の不安定要素を平滑化し、より精確な位相差を求めることができ、これを実施例2、3に適用することで、より高精度な搬送制御を実現できる。