以下、図面を参照して本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という。)について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る制動制御装置100の構造を模式的に示す図である。以下、図1を参照して、本実施形態に係る制動制御装置100の構成について説明する。ここでは右前輪−左後輪、左前輪−右後輪の各配管系統を備えるX配管の液圧回路を構成する車両に本実施形態の制動制御装置100を適用した例について説明する。
制動制御装置100は、ブレーキペダル1、ストロークセンサ2、マスタシリンダ3、ストローク制御弁SCSS、ストロークシミュレータ4、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ5、ホイールシリンダ6FL、6FR、6RL、6RRを備える。また、制動制御装置100は、制動制御装置100の各部の動作を制御する制御部としてのブレーキECU200を備えている。
ドライバによってブレーキペダル1が踏み込まれると、ブレーキペダル1の操作量としてのペダルストロークがストロークセンサ2に入力され、ペダルストロークに応じた検出信号がストロークセンサ2から出力される。この検出信号はブレーキECU200に入力され、ブレーキECU200でブレーキペダル1のペダルストロークが検出される。なお、ここではブレーキ操作部材の操作量を検出するための操作量センサとしてストロークセンサ2を例に挙げているが、ブレーキペダル1に加えられる踏力を検知する踏力センサや、ペダル操作による配管内の圧力変化を検出する液圧センサ等であってもよい。
ブレーキペダル1には、ペダルストロークをマスタシリンダ3に伝達するプッシュロッド等が接続されており、このプッシュロッド等が押されることでマスタシリンダ3に備えられているプライマリ室3aおよびセカンダリ室3bにマスタシリンダ圧が発生させられるようになっている。
マスタシリンダ3には、プライマリ室3aとセカンダリ室3bを構成するプライマリピストン3cおよびセカンダリピストン3dが備えられている。プライマリピストン3cおよびセカンダリピストン3dは、スプリング3eの弾性力を受けることで、ブレーキペダル1が踏み込まれていないときには各ピストン3c、3dが押圧されてブレーキペダル1を初期位置側に戻るように構成されている。
マスタシリンダ3のプライマリ室3aとセカンダリ室3bには、それぞれブレーキ液圧制御用アクチュエータ5に向けて延びる管路B、管路Aが連結されている。
また、マスタシリンダ3には、リザーバタンク3fが備えられている。リザーバタンク3fは、ブレーキペダル1が初期位置のときに、プライマリ室3aおよびセカンダリ室3bのそれぞれと図示しない通路を介して接続されるもので、マスタシリンダ3内に作動液としてのブレーキフルードを供給したり、マスタシリンダ3内の余剰作動液を貯留する。リザーバタンク3fには、液圧アクチュエータ5に向けて延びる管路C、管路Dが連結されている。
ストロークシミュレータ4は、管路Aにつながる管路Eに接続されており、セカンダリ室3b内の作動液を収容する役割を果たす。管路Eには、管路Eの連通・遮断状態を制御できる常閉型の二位置弁により構成されたストローク制御弁SCSSが備えられ、ストローク制御弁SCSSにより、ストロークシミュレータ4への作動液の流動が制御できるように構成されている。なお、ストローク制御弁SCSSは削除されてもよく、また、ストロークシミュレータ4は管路Bに接続されていてもよい。
液圧アクチュエータ5には、マスタシリンダ3のセカンダリ室3bと右前輪FRに対応するホイールシリンダ6FRを接続するように、管路Aに連結された管路Fが備えられている。管路Fには、遮断弁SMC1が備えられている。遮断弁SMC1は、非通電時には開状態(連通状態)、通電時には閉状態(遮断状態)となる二位置弁であり、遮断弁SMC1によって管路Fの連通・遮断状態が制御され、これにより管路A、Fを介したホイールシリンダ6FRへの作動液の供給が制御される。
また、液圧アクチュエータ5には、マスタシリンダ3のプライマリ室3aと左前輪FLに対応するホイールシリンダ6FLを接続するように、管路Bに連結された管路Gが備えられている。管路Gには、遮断弁SMC2が備えられている。遮断弁SMC2は、非通電時には開状態、通電時には閉状態となる二位置弁であり、遮断弁SMC2によって管路Gの連通・遮断状態が制御され、これにより管路B、Gを介したホイールシリンダ6FLへの作動液の供給が制御される。
また、液圧アクチュエータ5には、リザーバタンク3fから延設された管路Cに接続された管路Hと、管路Dに接続された管路Iが設けられている。管路Hは、管路H1、H2という2本の管路に分岐して、それぞれホイールシリンダ6FR、6RLに接続されている。また、管路Iは、管路I3、I4という2本の管路に分岐して、それぞれホイールシリンダ6FL、6RRに接続されている。ホイールシリンダ6RLおよびホイールシリンダ6RRは、それぞれ左後輪RL、右後輪RRに対応している。
各管路H1、H2、I3、I4には、それぞれ1つずつポンプ7、8、9、10が備えられている。各ポンプ7〜10は、例えば静寂性に優れたトロコイドポンプにより構成されている。ポンプ7〜10のうち、ポンプ7、8は、第1モータ11によって駆動され、ポンプ9、10は、第2モータ12によって駆動される。本実施形態では、ポンプ7、8、9、10、および第1モータ11、第2モータ12によって液圧源が構成されている。
また、ポンプ7〜10のそれぞれに、並列的に管路J1、J2、J3、J4が備えられている。ポンプ7に対して並列的に接続された管路J1には、直列的に接続された連通弁SRC1と液圧調整弁SLFRが備えられている。連通弁SRC1および液圧調整弁SLFRは、連通弁SRC1がポンプ7の吸入ポート側(管路J1における作動液流動方向の下流側)に、液圧調整弁SLFRがポンプ7の吐出ポート側(管路J1における作動液流動方向の上流側)にそれぞれ位置するように配置されている。つまり、連通弁SRC1によってリザーバタンク3fと液圧調整弁SLFRとの間の連通・遮断を制御できる構成とされている。連通弁SRC1は、非通電時には閉状態、通電時には開状態となる二位置弁であり、液圧調整弁SLFRは、非通電時には開状態、通電時には閉状態で、通電制御により弁の開度が調整されるリニア弁である。なお、連通弁SRC1は、リニア弁であってもよく、また、通電後に電流を下げてデューティー制御することが可能な二位置弁であってもよい。
ポンプ8に対して並列的に接続された管路J2には、液圧調整弁SLRLが備えられている。液圧調整弁SLRLは、液圧調整弁SLFRと同様にリニア弁である。
ポンプ9に対して並列的に接続された管路J3には、直列的に接続された連通弁SRC2と液圧調整弁SLFLが備えられている。連通弁SRC2および液圧調整弁SLFLは、連通弁SRC2がポンプ9の吸入ポート側(管路J3における作動液流動方向の下流側)に、液圧調整弁SLFLがポンプ9の吐出ポート側(管路J3における作動液流動方向の上流側)にそれぞれ位置するように配置されるている。つまり、連通弁SRC2によってリザーバタンク3fと液圧調整弁SLFLとの間の連通・遮断を制御できる構成とされている。連通弁SRC2は、非通電時には閉状態、通電時には開状態となる二位置弁であり、液圧調整弁SLFLは、非通電時には開状態、通電時には閉状態で、通電制御により弁の開度が調整されるリニア弁である。なお、連通弁SRC2は、リニア弁であってもよく、また、通電後に電流を下げてデューティー制御することが可能な二位置弁であってもよい。
ポンプ10に対して並列的に接続された管路J4には、液圧調整弁SLRRが備えられている。液圧調整弁SLRRは、液圧調整弁SLFLと同様にリニア弁である。
そして、管路J1〜J4における各ポンプ7〜10と各ホイールシリンダ6FR、6FL、6RR、6RLとの間には、液圧センサ13、14、15、16が配置されており、各ホイールシリンダ6FR、6FL、6RR、6RLにおける液圧を検出できるように構成されている。また、管路F、Gにおける遮断弁SMC1、SMC2よりも上流側(マスタシリンダ3側)にも液圧センサ17、18が配置されており、マスタシリンダ3のプライマリ室3aとセカンダリ室3bに発生しているマスタシリンダ圧を検出できるように構成されている。
さらに、ホイールシリンダ6FRを加圧するためのポンプ7の吐出ポートおよびホイールシリンダ6FLを加圧するためのポンプ9の吐出ポートには、それぞれ、逆止弁20、21が備えられている。逆止弁20、21は、それぞれホイールシリンダ6FR、6FL側からポンプ7、9側への作動液の流動を禁止するために備えられている。このような構造により、液圧アクチュエータ5が構成されている。
上述の構成を備えた制動制御装置100では、管路C、管路H、管路H1、管路H2を通じてリザーバタンク3fとホイールシリンダ6FR、6RLをつなぐ回路と、ポンプ7、8に並列的に接続された管路J1、J2の回路とを含む液圧回路と、管路A、管路Fを通じてセカンダリ室3bとホイールシリンダ6FRをつなぐ液圧回路(他の液圧回路)と、が第1配管系統を構成している。
また、管路D、管路I、管路I3、管路I4を通じてリザーバタンク3fとホイールシリンダ6FL、6RRをつなぐ回路と、ポンプ9、10に並列的に接続された管路J3、J4の回路とを含む液圧回路と、管路B、管路Gを通じてプライマリ室3aとホイールシリンダ6FLをつなぐ液圧回路(他の液圧回路)と、が第2配管系統を構成している。
そして、ストロークセンサ2や各液圧センサ13〜18の検出信号がブレーキECU200に入力され、これら各検出信号から求められるペダルストロークやホイールシリンダの液圧およびマスタシリンダ圧に基づいて、ストローク制御弁SCSS、遮断弁SMC1、SMC2、連通弁SRC1、SRC2、および液圧調整弁SLFR、SLFL、SLRR、SLRLや、第1モータ11、第2モータ12を駆動するための制御信号がブレーキECU200から出力されるようになっている。
本実施形態に係る制動制御装置100では、ホイールシリンダ6FR、6RLと、ホイールシリンダ6FL、6RRとが、それぞれ別々の管路C、H、もしくは管路D、Iで接続されている。そのため、ホイールシリンダ6FR、6RL、6FL、6RRとリザーバタンク3fとが一本の管路で接続されている場合と比べて、より多くの作動液を各ホイールシリンダ6FR、6RL、6FL、6RRに供給することが可能となる。また、一方の管路が故障しても、他方の管路を介して当該他方の管路に連結されたホイールシリンダに作動液を供給できるため、全てのホイールシリンダが加圧不可能となってしまう状況を回避できる。その結果、制動制御装置100の信頼性が向上する。
続いて、本実施形態に係る制動制御装置100の作動について、通常ブレーキ時と制動制御装置100に異常が発生した場合(以下、異常時という)に分けて説明する。なお、異常が発生したか否かについては、従来行われているイニシャルチェック等に基づいてブレーキECU200で判定される。
(通常時のブレーキ動作)
通常時には、ブレーキペダル1が踏み込まれ、ストロークセンサ2の検出信号がブレーキECU200に入力されると、ブレーキECU200は各種弁SCSS、SMC1、SMC2、SRC1、SRC2、SLFR、SLFL、SLRR、SLRLや、第1モータ11、第2モータ12を制御して、次のような状態にする。すなわち、遮断弁SMC1、SMC2への通電は共にONされ、連通弁SRC1、SRC2への通電も共にONされる。これにより、遮断弁SMC1、SMC2は遮断状態、連通弁SRC1、SRC2は連通状態とされる。
また、液圧調整弁SLFR、SLFL、SLRR、SLRLは、通電量が制御されることで、その開度が調整される。ストローク制御弁SCSSは、通電がONされる。このため、管路A、Eを通じて、ストロークシミュレータ4がセカンダリ室3bと連通状態となり、ブレーキペダル1が踏み込まれたときに、各ピストン3c、3dが移動しても、セカンダリ室3b内の作動液がストロークシミュレータ4に移動することになる。したがって、マスタシリンダ圧が高圧になることでブレーキペダル1に対して硬い板を踏み込むような感覚(板感)が発生することなく、ブレーキペダル1を踏み込めるようになっている。
さらに、第1モータ11および第2モータ12への通電が共にONされ、ポンプ7〜10による作動液の吸入・吐出が行われる。ポンプ7〜10によるポンプ動作が行われると、各ホイールシリンダ6FR、6FL、6RR、6RLに対して作動液が供給される。このとき、遮断弁SMC1、SMC2が遮断状態とされているため、ポンプ7〜10の下流側の液圧、つまり各ホイールシリンダ6FR、6FL、6RR、6RLの液圧が増加する。そして、連通弁SRC1、SRC2が連通状態とされ、かつ、液圧調整弁SLFR、SLFL、SLRR、SLRLの開度がそれぞれ制御されているため、開度に応じて各ホイールシリンダ6FR、6FL、6RR、6RLの液圧が調整される。
そして、ブレーキECU200は、各液圧センサ13〜16の検出信号に基づいて各ホイールシリンダ6FR、6FL、6RR、6RLに供給されている液圧をモニタリングし、第1モータ11、第2モータ12の通電量を調整することで第1モータ11、第2モータ12の回転数を制御する。また、それと共にブレーキECU200は、液圧調整弁SLFR、SLFL、SLRR、SLRLへの通電量を制御することで、各ホイールシリンダ6FR、6FL、6RR、6RLの液圧が所望の値となるようにする。
これにより、ブレーキペダル1のペダルストロークに応じた制動力が発生させられることになる。
(異常時のブレーキ動作)
異常時には、ブレーキECU200から制御信号が出力できなくなるか、もしくは、各種弁SCSS、SMC1、SMC2、SRC1、SRC2、SLFR、SLFL、SLRR、SLRLや、第1モータ11、第2モータ12が正常に駆動されない可能性がある。このため、所定の異常条件を満たしたと判定されたときは、各種弁SCSS、SMC1、SMC2、SRC1、SRC2、SLFR、SLFL、SLRR、SLRLや、第1モータ11、第2モータ12の全てについて、通電がOFFにされる。
すなわち、遮断弁SMC1、SMC2への通電がOFFとなるため、遮断弁SMC1、SMC2は連通状態となる。また、連通弁SRC1、SRC2への通電もOFFとなるため、連通弁SRC1、SRC2は遮断状態となる。さらに、液圧調整弁SLFR、SLFL、SLRR、SLRLも、通電がOFFとなるため、連通状態となる。ストローク制御弁SCSSも通電がOFFとなるため、ストロークシミュレータ4とセカンダリ室3bの間が遮断状態となる。また、第1モータ11、第2モータ12への通電が共にOFFとなり、ポンプ7〜10による作動液の吸入・吐出も停止される。
このような状態になると、マスタシリンダ3におけるプライマリ室3aは、管路B、G、I3を介してホイールシリンダ6FLとつながった状態となり、セカンダリ室3bは、管路A、F、H1を通じてホイールシリンダ6FRとつながった状態となる。このため、ブレーキペダル1が踏み込まれ、ペダルストロークに応じてプッシュロッド等が押されることで、マスタシリンダ3におけるプライマリ室3aおよびセカンダリ室3bにマスタシリンダ圧が発生させられると、それがホイールシリンダ6FR、6FLに伝えられる。これにより、右前輪FR、左前輪FLに対して制動力が発生させられることになる。
ここで、制動制御装置100では、連通弁SRC1が管路Fと管路Hとの間に配置され、連通弁SRC2が管路Gと管路Iとの間に配置されている。そのため、異常時には連通弁SRC1、SRC2によってマスタシリンダ3とリザーバタンク3fとの間が遮断されるようになっている。これにより、ブレーキペダル1が踏み込まれたときに、マスタシリンダ3内の作動液が管路H、もしくは管路Iを通じてリザーバタンク3f側に流動してしまい、ホイールシリンダ6FR、6FLを加圧できなくなる状態を防ぐことができる。
なお、このような異常時の作動において、ホイールシリンダ6FR、6FLの液圧が管路H1、I3に発生することになる。しかしながら、管路H1、I3には逆止弁20、21が設けられているため、ホイールシリンダ6FR、6FLの液圧がポンプ7、9にかかりポンプ7、9において作動液漏れが発生し、液圧が低下してしまうことを防ぐことができる。
このように本実施形態の制動制御装置100は、ブレーキペダル1のペダルストロークの入力とマスタシリンダ3からの作動液の供給が切り離されていない関係とされている。このため、制動制御装置100は、制動制御装置100に何らかの異常が発生した場合でも、ブレーキECU200による制御に依存することなく、確実に車輪に制動力を発生させることが可能である。
以上のように、ポンプ7およびポンプ8は、共通の第1モータ11により各々が駆動される。管路H1は、右前輪に制動力を発生させるホイールシリンダ6FRと、ポンプ7とを接続する。液圧調整弁SLFRは、リザーバタンク3fと管路H1とを接続する管路J1に設けられる。連通弁SRC1は、管路J1において液圧調整弁SLFRとリザーバタンク3fとの間に設けられる。管路H2は、左後輪に制動力を発生させるホイールシリンダ6RLと、ポンプ8とを接続する。液圧調整弁SLRLは、リザーバタンク3fと管路H2とを接続する管路J2に設けられる。このため、第1モータ11の作動中においても、液圧調整弁SLFRおよび液圧調整弁SLRLの各々の開度を制御することにより、ホイールシリンダ6FRの液圧とホイールシリンダ6RLの液圧とを独立して調整することが可能となる。
また、ポンプ9およびポンプ10は、共通の第2モータ12により各々が駆動される。管路I3は、左前輪に制動力を発生させるホイールシリンダ6FLと、ポンプ9とを接続する。液圧調整弁SLFLは、リザーバタンク3fと管路I3とを接続する管路J3に設けられる。連通弁SRC2は、管路J3において液圧調整弁SLFLとリザーバタンク3fとの間に設けられる。管路I4は、右後輪に制動力を発生させるホイールシリンダ6RRと、ポンプ10とを接続する。液圧調整弁SLRRは、リザーバタンク3fと管路I4とを接続する管路J4に設けられる。このため、第2モータ12の作動中においても、液圧調整弁SLFLおよび液圧調整弁SLRRの各々の開度を制御することにより、ホイールシリンダ6FLの液圧とホイールシリンダ6RRの液圧とを独立して調整することが可能となる。
具体的には、ブレーキECU200は、ホイールシリンダ6FRの目標液圧である右前輪目標液圧、およびホイールシリンダ6RLの目標液圧である左後輪目標液圧の各々を算出する。また、ブレーキECU200は、ホイールシリンダ6FLの目標液圧である左前輪目標液圧、およびホイールシリンダ6RRの目標液圧である右後輪目標液圧の各々を算出する。したがってブレーキECU200は、各輪のホイールシリンダの目標液圧を算出する目標液圧算出手段として機能する。
各々のホイールシリンダ圧を算出した目標液圧に近づけるため、ブレーキECU200は、まず第1モータ11を作動させ、ポンプ7を駆動することにより管路H1に作動液を供給させると共に、ポンプ8を駆動することにより管路H2に作動液を供給させる。また、ブレーキECU200は、第2モータ12を作動させ、ポンプ9を駆動することにより管路I3に作動液を供給させると共に、ポンプ10を駆動することにより管路I4に作動液を供給させる。
ブレーキECU200は、ホイールシリンダ6FRの液圧を右前輪目標液圧に近づけるよう液圧調整弁SLFRの開閉を制御し、ホイールシリンダ6RLの液圧を左後輪目標液圧に近づけるよう液圧調整弁SLRLの開閉を制御する。また、ブレーキECU200は、ホイールシリンダ6FLの液圧を左前輪目標液圧に近づけるよう液圧調整弁SLFLの開閉を制御し、ホイールシリンダ6RRの液圧を右後輪目標液圧に近づけるよう液圧調整弁SLRRの開閉を制御する。したがってブレーキECU200は、ホイールシリンダ6FL、6FR、6RL、6RRの各々のホイールシリンダ圧を制御するホイールシリンダ圧制御手段として機能する。
なお、ブレーキECU200は、第1モータ11を作動させているときは、液圧調整弁SLFRの開度を調節することによりホイールシリンダ6FRの液圧を調圧、すなわち増圧、減圧、および保持し、液圧調整弁SLRLの開度を調整することによりホイールシリンダ6RLの液圧を調圧する。また、ブレーキECU200は、第2モータ12を作動させているときは、液圧調整弁SLFLの開度を調節することによりホイールシリンダ6FLの液圧を調圧し、液圧調整弁SLRRの開度を調整することによりホイールシリンダ6RRの液圧を調圧する。
ここで、第1モータ11および第2モータ12のうち一方の昇圧性能が低下した場合、右前輪FRと左前輪FLとの間で与えられる制動力にばらつきが生じ得る。運転者のブレーキフィーリングへの影響を抑制すべく、本実施形態では、このような場合に、右前輪FRと左前輪FLとの間で与えられる制動力のばらつきを是正するための前輪左右差補正制御を実行する。前輪左右差補正については後述する。
また、第1モータ11および第2モータ12のうち一方の昇圧性能が低下した場合、前輪に充分な制動力が与えられず、後輪に与えられる制動力の方が大きくなる可能性がある。このように後輪に与えられる制動力が大きくなると、後輪がロックする可能性が高まる。このため本実施形態では、このような場合に、前輪よりも後輪の方が制動力が大きくなることを回避するための後輪先行昇圧補正を実行する。後輪先行昇圧補正については後述する。
図2は、本実施形態に係る制動制御装置100の機能ブロック図である。図2においてECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAMなどのハードウェア、およびソフトウェアの連携によって実現される機能ブロックが描かれている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェアおよびソフトウェアの組合せによって様々な形で実現することができる。
ブレーキECU200は、目標液圧決定部202、ホイールシリンダ圧制御部204、および液圧系異常判定部206を有する。目標液圧決定部202は、例えば運転者によってブレーキペダル1が踏み込まれたときに、各車輪の制動力の発生を要求する制動要求を取得する。制動要求の取得方法は公知であるため説明を省略する。目標液圧決定部202は、制動要求を取得したとき、右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR、および左後輪RLの各々のホイールシリンダ圧の目標液圧である右前輪目標液圧、左前輪目標液圧、右後輪目標液圧、および左後輪目標液圧を決定する。これらの目標液圧の決定方法は公知であるため説明を省略する。
ホイールシリンダ圧制御部204は、決定された右前輪目標液圧および左後輪目標液圧の各々に右前輪ホイールシリンダ圧および左後輪ホイールシリンダ圧の各々を近づけるよう、第1モータ11の作動を制御する。具体的には、ポンプ7は、ホイールシリンダ6FRに作動液を供給することによりホイールシリンダ6FRの液圧である右前輪ホイールシリンダ圧を増圧させて右前輪FRに制動力を与える。また、ポンプ8は、ホイールシリンダ6RLに作動液を供給することによりホイールシリンダ6RLの液圧である左後輪ホイールシリンダ圧を増圧させて左後輪RLに制動力を与える。ホイールシリンダ圧制御部204は、右前輪目標液圧および左後輪目標液圧のうち高い方以上の液圧を実現するよう第1モータ11を作動させて、ポンプ7、8を駆動させる。同時にホイールシリンダ圧制御部204は、決定された右前輪目標液圧および左後輪目標液圧の各々に右前輪ホイールシリンダ圧および左後輪ホイールシリンダ圧の各々を近づけるよう、液圧調整弁SLFRおよび液圧調整弁SLRLの各々の開度を調整する。
また、ホイールシリンダ圧制御部204は、決定された右前輪目標液圧および左後輪目標液圧の各々に右前輪ホイールシリンダ圧および左後輪ホイールシリンダ圧の各々を近づけるよう、第2モータ12の作動を制御する。具体的には、ポンプ9は、ホイールシリンダ6FLに作動液を供給することによりホイールシリンダ6FLの液圧である左前輪ホイールシリンダ圧を増圧させて右前輪FRに制動力を与える。ポンプ10は、ホイールシリンダ6RRに作動液を供給することによりホイールシリンダ6RRの液圧である右後輪ホイールシリンダ圧を増圧させて右後輪RRに制動力を与える。ホイールシリンダ圧制御部204は、左前輪目標液圧および右後輪目標液圧のうち高い方以上の液圧を実現するよう第2モータ12を作動させて、ポンプ9、10を駆動させる。同時にホイールシリンダ圧制御部204は、決定された左前輪目標液圧および右後輪目標液圧の各々に左前輪ホイールシリンダ圧および右後輪ホイールシリンダ圧の各々を近づけるよう、液圧調整弁SLFLおよび液圧調整弁SLRRの各々の開度を調整する。
液圧センサ13、14、15、および16は、それぞれ右前輪ホイールシリンダ圧、左後輪ホイールシリンダ圧、右後輪ホイールシリンダ圧、および左前輪ホイールシリンダ圧を検出する。制動制御装置100が設けられた車両には、各ホイールシリンダに供給すべき作動液が蓄積されるリザーバタンク3fの作動液量が所定の液量閾値より少なくなったときにオンとなる液量センサであるリザーバスイッチ210が設けられている。リザーバスイッチ210はブレーキECU200に接続されており、ブレーキECU200は、リザーバスイッチ210のオン、オフを検出する。
図3は、本実施形態に係る制動制御装置100の前輪左右差補正制御の実行手順を示すフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、車両のイグニッションスイッチがオンにされたときに開始し、その後イグニッションスイッチがオフにされるまで所定時間毎に繰り返し実行される。
目標液圧決定部202は、前輪左右差補正を許可するか否かを決定するための前輪左右差補正の許可判定を実行する(S10)。前輪左右差補正の許可判定を実行すると、目標液圧決定部202は、前輪左右差補正の実行判定を実施する(S12)。
図4は、図3におけるS10の前輪左右差補正の許可判定の手順を示すフローチャートである。目標液圧決定部202は、ストロークセンサ2によって検出されたブレーキペダル1の踏み込み量などを利用して、各ホイールシリンダの目標液圧および目標液圧勾配を算出する。この目標液圧および目標液圧勾配の算出方法は公知であるため説明を省略する。目標液圧決定部202は、目標液圧勾配が所定値α1より大きいか否かを判定することにより、急制動の制動要求を取得したか否かを判定する(S20)。目標液圧勾配が所定値α1以下と判定された場合(S20のN)、目標液圧決定部202は、急制動要求を取得していないと判定し、前輪左右差補正制御を不許可とする(S30)。
目標液圧勾配が所定値α1より大きいと判定された場合(S20のY)、目標液圧決定部202は、急制動の制動要求を取得したと判定する。この場合、目標液圧決定部202は、右前輪FRまたは左前輪FLで目標液圧に対する実液圧の乖離が所定値γ1より大きいか否かを判定する(S22)。なお、実液圧とは、液圧センサ13、14、15、16によって検出された右前輪ホイールシリンダ圧、左後輪ホイールシリンダ圧、左後輪ホイールシリンダ圧、および左前輪ホイールシリンダ圧をいう。右前輪FRまたは左前輪FLで目標液圧に対する実液圧の乖離が所定値γ1以下と判定された場合(S22のN)、目標液圧決定部202は、右前輪FRと左前輪FLとで制動力のばらつきが生じていないと判定し、前輪左右差補正制御を不許可とする(S30)。
右前輪FRまたは左前輪FLで目標液圧に対する実液圧の乖離が所定値γ1より大きいと判定された場合(S22のY)、目標液圧決定部202は、右前輪FRと左前輪FLとで制動力のばらつきが生じていると判定する。このとき目標液圧決定部202は、例えばABS(Antilock Brake System)など状況に応じ異なる制動力を各車輪に与える4輪独立制御を実施中か否かを判定する(S24)。4輪独立制御を実施中の場合(S24のN)、目標液圧決定部202は、右前輪FRと左前輪FLとの間の制動力のばらつきを無視し、前輪左右差補正制御を不許可とする(S30)。4輪独立制御が非実施の場合(S24のY)、液圧系異常判定部206は、第1モータ11や第2モータ12に異常が生じているか否かを判定するための異常判定制御を実行する(S200)。
図5は、図4におけるS200の異常判定制御の手順を示すフローチャートである。液圧系異常判定部206は、リザーバスイッチ210はオンか否かを判定する(S220)。リザーバスイッチ210がオフの場合(S220のN)、液圧系異常判定部206は、作動液の液圧系は正常と判定し、基準時間T1refをT2に設定する(S224)。一方、リザーバスイッチ210がオンの場合(S220のY)、液圧系異常判定部206は、作動液の液圧系に異常があると判定し、基準時間T1refをT2よりも短いT1に設定する(S222)。このように液圧系異常判定部206は、液圧系に異常があると判定された場合、正常と判定された場合に比べ、異常判定条件を満たしやすくするよう異常判定条件を変更する。
基準時間T1refが設定されると、目標液圧決定部202は、右前輪FRおよび左前輪FLの各々において、目標液圧がP1より大きく、且つ実液圧が目標液圧/2より低くなっている状態が基準時間T1ref以上継続したか否かを判定する(S226)。目標液圧決定部202は、右前輪FRおよび左前輪FLの各々において、目標液圧がP1より大きく、且つ実液圧が目標液圧/2より低くなったときに暫定フラグをオンに設定し、この暫定フラグが連続してオンになっている回数が所定回数に達したときに、基準時間T1ref以上その状態が継続したと判定する。
このような状態が基準時間T1ref以上継続した場合(S226のY)、目標液圧決定部202は、実液圧が異常判定条件を満たすため第1モータ11または第2モータ12に異常が発生したと判定し(S228)、異常判定フラグをオンに設定する。このように目標液圧決定部202は、実液圧が目標液圧の所定割合より低くなった場合に、実液圧の目標液圧に対する未達度合いが異常判定条件を満たすと判定する。このような状態が基準時間T1refまで継続しなかった場合(S226のN)、目標液圧決定部202は、実液圧が異常判定条件を満たしておらず第1モータ11または第2モータ12に異常が発生していない判定し、異常判定フラグをオフに設定する(S230)。
図6は、正常時における目標液圧Ptに対する実液圧Pdとの関係を示す標準ラインLsと、異常が生じたと判定するときの目標液圧Ptに対する実液圧Pdとの関係を示す異常判定ラインLrefとを示す図である。標準ラインLsは、実液圧Pd=目標液圧Ptの直線となる。異常判定条件を満たす領域Raは、目標液圧Pt=P1の直線と、実液圧Pd=目標液圧Pt/2の異常判定ラインLrefと、実液圧Pd=ゼロの直線によって囲われる領域となる。
図4に戻る。異常判定制御の実行終了後、目標液圧決定部202は、異常判定フラグを参照して第1モータ11や第2モータ12に異常があるか否かを判定する(S26)。異常があると判定した場合(S26のN)、目標液圧決定部202は、許可フラグをオフに設定して前輪左右差補正制御を不許可とする(S30)。異常はないと判定した場合(S26のY)、目標液圧決定部202は、許可フラグをオンに設定して前輪左右差補正制御を許可する(S28)。
図7は、図3におけるS12の前輪左右差補正の実行判定の手順を示すフローチャートである。目標液圧決定部202は、前輪左右差補正の実行を開始するときに実行フラグをオンに設定する。目標液圧決定部202は、この実行フラグを参照して前輪左右差補正制御が未実行かを判定する(S50)。
前輪左右差補正制御が未実行の場合(S50のY)、目標液圧決定部202は、許可フラグを参照して前輪左右差補正制御が許可されている否かを判定する(S52)。前輪左右差補正制御が許可されている場合(S52のY)、目標液圧決定部202は、検出された右前輪ホイールシリンダ圧および左前輪ホイールシリンダ圧を利用して、右前輪FRに与えられる制動力および左前輪FLの制動力の一方が他方よりもばらつき条件を満たすほど小さいかを判定する。具体的には、目標液圧決定部202は、検出された右前輪ホイールシリンダ圧を右前輪目標液圧から引いた右前輪未達圧ΔPfrと、検出された第2ホイールシリンダ圧を第2目標液圧から引いた左前輪未達圧ΔPflとの差が、ばらつき閾値x1より大きいか否かを判定する(S54)。
右前輪未達圧ΔPfrと左前輪未達圧ΔPflとの差がばらつき閾値x1より大きい場合(S54のY)、右前輪FRに与えられる制動力および左前輪FLの制動力の一方が他方よりもばらつき条件を満たすほど小さいと判定する。このとき目標液圧決定部202は、前回補正制御終了から基準時間T2ref以上経過か否かを判定し(S56)、前回補正制御終了から基準時間T2ref以上経過と判定された場合(S56のY)、制御開始条件を満たしたと判定し、前輪左右差補正制御を実行する(S58)。このとき目標液圧決定部202は、実行フラグをオンに設定する。
前輪左右差補正制御では、目標液圧決定部202は、右前輪FRの制動力の方が左前輪FLの制動力よりばらつき条件を満たすほど小さいと判定した場合には、大きい方の左前輪FLの制動力を小さい方の右前輪FRの制動力に近づけるよう左前輪目標液圧を低減させる補正を実行する。このとき目標液圧決定部202は、検出された右前輪ホイールシリンダ圧を、左前輪目標液圧として決定してもよい。
また、目標液圧決定部202は、左前輪FLの制動力の方が右前輪FRの制動力よりばらつき条件を満たすほど小さいと判定した場合、大きい方の右前輪FRの制動力を小さい方の左前輪FLの制動力に近づけるよう左前輪目標液圧を低減させる補正を実行する。このとき目標液圧決定部202は、検出された左前輪ホイールシリンダ圧を、右前輪目標液圧として決定してもよい。前輪左右差補正制御は公知であるため、詳細な制御方法の説明は省略する。
こうして目標液圧が決定されると、ホイールシリンダ圧制御部204は、決定された目標液圧に実液圧を近づけるよう、第1モータ11または第2モータ12の作動を制御し、または液圧調整弁SLFR、液圧調整弁SLRL、液圧調整弁SLRR、および液圧調整弁SLFLの開弁を調整する。これにより、前輪の左右の制動力のばらつきを是正することができ、運転者のブレーキフィーリングへの影響を抑制することができる。
前輪左右差補正制御が許可されていない場合(S52のN)、第1モータ11または第2モータ12に異常が生じている可能性があることから、目標液圧決定部202は、他の条件を満たすか否かを判定することなく前輪左右差補正の未実行状態を維持する。
右前輪未達圧ΔPfrと左前輪未達圧ΔPflとの差がばらつき閾値x1以下の場合(S54のN)、目標液圧決定部202は、右前輪FRに与えられる制動力と左前輪FLに与えられる制動力との間にばらつき条件を満たすほどの差がないと判定し、前輪左右差補正の未実行状態を維持する。右前輪未達圧ΔPfrと左前輪未達圧ΔPflとの差がばらつき閾値x1より大きい場合であっても、前回補正制御終了から基準時間T2ref経過していない場合(S56のN)、目標液圧決定部202は、前輪左右差補正の未実行状態を維持する。
前輪左右差補正制御を実行中の場合(S50のN)、目標液圧決定部202は、許可フラグを参照して前輪左右差補正制御が許可されている否かを判定する(S60)。前輪左右差補正が実行中にもかかわらず前輪左右差補正制御が許可されていない場合(S60のN)、目標液圧決定部202は、第1モータ11または第2モータ12に異常が生じたと判定し、前輪左右差補正制御の実行を停止する(S64)。このとき目標液圧決定部202は、実行フラグをオフに設定する。
このように目標液圧決定部202は、第1モータ11や第2モータ12に異常があると判定した場合に、前輪左右差補正を回避する。なお目標液圧決定部202は、第1モータ11や第2モータ12に異常があると判定した場合に、正常と判定した場合に比べて、前輪左右差補正における補正量を低減させてもよい。具体的には、前輪左右差補正において、大きい方の制動力を小さい方の制動力に近づけるよう右前輪目標液圧または左前輪目標液圧を低減させるときの低減量を、正常と判定した場合に比べて小さくしてもよい。
前輪左右差補正制御が許可されている場合(S60のY)、検出された右前輪ホイールシリンダ圧および左前輪ホイールシリンダ圧を利用して、右前輪FRに与えられる制動力および左前輪FLの制動力の一方が他方よりもばらつき条件を満たすほど依然として小さいかを判定する。具体的には、目標液圧決定部202は、右前輪未達圧ΔPfrと左前輪未達圧ΔPflとの差が均衡閾値x2以上か否かを判定する(S62)。均衡閾値x2は、上述のばらつき閾値x1よりも小さい値とされている。これにより、前輪左右差補正制御の実行と実行停止が頻繁に繰り返されるハンチングを抑制することができる。なお、均衡閾値x2をばらつき閾値x1と同じ値に設定してもよい。
右前輪未達圧ΔPfrと左前輪未達圧ΔPflとの差がx2以上の場合(S62のY)、目標液圧決定部202は、前輪左右差補正の実行状態を維持する。右前輪未達圧ΔPfrと左前輪未達圧ΔPflとの差がx2より小さいと判定された場合(S62のN)、目標液圧決定部202は、前輪左右差補正制御の実行を停止する(S64)。このとき目標液圧決定部202は、実行フラグをオフに設定する。
図8は、本実施形態に係る制動制御装置100の後輪先行昇圧補正制御の実行手順を示すフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、車両のイグニッションスイッチがオンにされたときに開始し、その後イグニッションスイッチがオフにされるまで所定時間毎に繰り返し実行される。
目標液圧決定部202は、後輪先行昇圧補正を許可するか否かを決定するための後輪先行昇圧補正の許可判定を実行する(S80)。後輪先行昇圧補正の許可判定を実行すると、目標液圧決定部202は、後輪先行昇圧補正の実行判定を実施する(S82)。
図9は、図8におけるS80の後輪先行昇圧補正の許可判定の手順を示すフローチャートである。目標液圧決定部202は、目標液圧勾配が所定値α2より大きいか否かを判定することにより、急制動の制動要求を取得したか否かを判定する(S90)。この所定値α2は、上述の所定値α1と同じ値であってもよい。目標液圧勾配が所定値α2以下と判定された場合(S90のN)、目標液圧決定部202は、急制動要求を取得していないと判定し、許可フラグをオフに設定して後輪先行昇圧補正制御を不許可とする(S98)。
目標液圧勾配が所定値α2より大きいと判定された場合(S90のY)、目標液圧決定部202は、4輪独立制御を実行中か否かを判定する(S92)。4輪独立制御を実行中の場合(S92のN)、目標液圧決定部202は、後輪と前輪との間の制動力の差を無視し、許可フラグをオフに設定して後輪先行昇圧補正制御を不許可とする(S98)。
4輪独立制御は非実施の場合(S92のY)、目標液圧決定部202は、異常判定制御を実行する(S200)。異常判定制御の実行手順は、上述と同様である。異常判定制御の実行終了後、目標液圧決定部202は、異常判定フラグを参照して第1モータ11または第2モータ12に異常が生じたか否かを判定する(S94)。異常はないと判定された場合(S94のY)、目標液圧決定部202は、許可フラグをオンに設定して後輪先行昇圧補正制御を許可する(S96)。異常があると判定された場合(S94のN)、目標液圧決定部202は、許可フラグをオフに設定して後輪先行昇圧補正制御を不許可とする(S98)。
図10は、図8におけるS82の後輪先行昇圧補正の実行判定の手順を示すフローチャートである。目標液圧決定部202は、後輪先行昇圧補正の実行を開始するときに実行フラグをオンに設定する。目標液圧決定部202は、この実行フラグを参照して後輪先行昇圧補正制御が未実行かを判定する(S120)。
後輪先行昇圧補正制御が未実行の場合(S120のY)、目標液圧決定部202は、許可フラグを参照して後輪先行昇圧補正制御が許可されているか否かを判定する(S122)。後輪先行昇圧補正制御が許可されている場合(S122のY)、目標液圧決定部202は、後輪の目標液圧が、前輪の目標液圧と実液圧のうち小さい方以上か否かを判定することにより、前輪の制動力が後輪の制動力よりもばらつき条件を満たすほど小さいか否かを判定する(S124)。具体的には、目標液圧決定部202は、右後輪目標液圧および左後輪目標液圧のいずれかが、右前輪FRまたは左前輪FLの目標液圧と実液圧のうち小さい方以上か否かを判定する。
後輪の目標液圧が、前輪の目標液圧と実液圧のうち小さい方以上と判定された場合(S124のY)、目標液圧決定部202は、制御開始条件を満たしたと判定し、前輪より後輪の方が高い制動力が与えられている可能性があるとして、後輪先行昇圧補正制御を実行する(S126)。このとき目標液圧決定部202は、実行フラグをオンに設定する。
後輪先行昇圧補正制御では、目標液圧決定部202は、右前輪FRの制動力の方が右後輪RRの制動力よりばらつき条件を満たすほど小さいと判定した場合には、大きい方の右後輪RRの制動力を小さい方の右前輪FRの制動力に近づけるよう右後輪目標液圧を低減させる補正を実行する。このとき目標液圧決定部202は、右前輪FRの目標液圧と実液圧のうち小さい方を、右後輪目標液圧として決定してもよい。
また、目標液圧決定部202は、左前輪FLの制動力の方が左後輪RLの制動力よりばらつき条件を満たすほど小さいと判定した場合、目標液圧決定部202は、大きい方の左後輪RLの制動力を小さい方の左前輪FLの制動力に近づけるよう左後輪目標液圧を低減させる補正を実行する。このとき目標液圧決定部202は、左前輪FLの目標液圧と実液圧のうち小さい方を、左後輪目標液圧として決定してもよい。後輪先行昇圧補正制御は公知であるため、詳細な制御方法の説明は省略する。
こうして目標液圧が決定されると、ホイールシリンダ圧制御部204は、決定された目標液圧に実液圧を近づけるよう、第1モータ11または第2モータ12の作動を制御し、または液圧調整弁SLFR、液圧調整弁SLRL、液圧調整弁SLRR、および液圧調整弁SLFLの開弁を調整する。これにより、後輪の制動力が前輪の制動力を超える事態を回避でき、より安全な車両の走行を実現することができる。
後輪先行昇圧補正制御が許可されていない場合(S122のN)、第1モータ11または第2モータ12に異常が生じている可能性があることから、目標液圧決定部202は、他の条件を満たすか否かを判定することなく後輪先行昇圧補正の未実行状態を維持する。
後輪の目標液圧が、前輪の目標液圧と実液圧のうち小さい方未満と判定された場合(S124のN)、目標液圧決定部202は、後輪のロックの可能性は低いと判定し、後輪先行昇圧補正の未実行状態を維持する。
後輪先行昇圧補正制御が実行中の場合(S120のN)、目標液圧決定部202は、後輪先行昇圧補正制御が許可されているか否かを判定する(S128)。後輪先行昇圧補正制御が許可されている場合(S128のY)、目標液圧決定部202は、後輪の目標液圧が、前輪の目標液圧と実液圧のうち小さい方以上か否かを判定することにより、前輪の制動力が後輪の制動力よりもばらつき条件を満たすほど小さいか否かを判定する(S130)。このときの判定方法はS124と同様である。
後輪の目標液圧が、前輪の目標液圧と実液圧のうち小さい方以上と判定された場合(S130のY)、まだ後輪の制動力の方が前輪の制動力よりも高い可能性があると判定し、後輪先行昇圧補正制御の実行状態を維持する。
後輪先行昇圧補正制御が許可されていない場合(S128のN)、第1モータ11または第2モータ12に異常が生じている可能性があることから、目標液圧決定部202は、後輪先行昇圧補正制御の実行を停止する(S132)。後輪の目標液圧が、前輪の目標液圧と実液圧のうち小さい方未満と判定された場合(S130のN)、目標液圧決定部202は、後輪のロックの可能性は低いと判定し、後輪先行昇圧補正制御の実行を停止する(S132)。後輪先行昇圧補正制御の実行を停止すると、目標液圧決定部202は、実行フラグをオフに設定する。
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を本実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。