以下に図面を用いて本発明の回折光学素子の実施形態について説明する。本発明の回折光学素子は、回折光学素子をレンズ面に設けた光学系において、2つの異なる材料より成る。そして格子部の格子高さが6μm以上の第1、第2の回折格子を互いの格子部の格子面が密着するように積層した構造より成る回折格子部をレンズ作用をする基板に挟んだ構成より成っている。そしてg線からC線までを含む可視波長帯域で設計次数(特定次数)が2以上で回折光の回折効率が高くなるように回折格子部を構成する各要素を適切に設定している。
mを設計次数で2以上の整数、Pを格子部の格子ピッチ、n0(λ)は第1の回折格子と第2の回折格子のうちの入射側の回折格子の材料の波長λにおける屈折率とする。λを可視波長帯域の任意の波長とする。設計入射角θ1に対する斜入射角θ1’で光が入射したとする。そして、
m’=m+P×n0(λ)×(sinθ1−sinθ1’)/λ
なる式を満足するm’に隣合う整数をnm1次およびnm2(ただし、nm1>nm2)次とする。このとき、設計次数mの回折格子のnm1次およびnm2次の回折光の回折効率がともに設計次数1の回折格子部のn11次およびn12次の回折光の回折効率のいずれよりも低くなるように回折格子部の各要素を設定している。
次に、従来の回折光学素子の格子壁面の振る舞いについての課題について説明する。図1は回折光学素子の正面図及び側面図である。回折光学素子1は平板又はレンズより成る基板2、3の面に回折格子部10を設けて形成されている。そして、回折格子部10が形成されている基板2、3の面は、曲面となっている。回折格子部10は光軸Oを中心とした同心円状の回折格子形状からなり、レンズ作用を有している。図2は図1の回折光学素子1を図中A−A′断面で切断した断面形状の一部の拡大図である。説明をわかりやすくするために、図3に示すように、基板2、3の回折格子部10が形成される面を平面とする。このとき、回折格子部10の格子先端部を連ねた包絡面は光軸Oに垂直な平面となる。さらに、前述の格子先端部との交点での包絡面の面法線は、全て、光軸Oと平行な方向になる。
従来の回折光学素子は一般的にスカラー回折理論を用いて回折効率を計算し、設計評価を行っている。まず、従来のスカラー回折理論計算を用いた回折効率について説明する。2つの回折格子を密着した密着2層DOEにおいて、設計波長λ0である次数の回折光の回折効率が最大となる条件は次のとおりである。格子部の山と谷の光学光路長差(つまり山の頂点と谷底のそれぞれを通過する光線間の光路長の差)を全回折格子に亘って加え合わせたものが波長の整数倍になるように決定することである。従って、図2、図3に示した本実施例の回折格子部10において、回折格子11、12のベース面2a、3aに対する垂直入射、設計波長λ0で、回折次数mの回折光の回折効率が最大となる条件式は
±(n1−n2)×d=m×λ0 ‥‥‥(1)
となる。
(1)式で、n1は第1の回折格子11を形成する材料の波長λ0での屈折率、n2は第2の回折格子12を形成する材料の波長λ0での屈折率、dは第1の回折格子11および第2の回折格子12の格子部11c、12cの格子高さ、mは回折次数である。ここで、図2、図3中の0次回折光から下向きに回折する光線を正の回折次数、図2、図3中の0次回折光から上向きの方向に回折する光線を負の回折次数とする。
(1)式での格子高さの加減の符号は、回折格子11、12を形成する格子部11c、12cの格子形成材料の屈折率n1、n2の大小関係がn1<n2であって、図中下から上に回折格子11の格子部11cの格子高さが増加する格子形状のとき負となる。また回折格子12の格子部12cの格子高さが減少する格子形状の場合、負となる。逆にn1>n2であって、図中下から上に回折格子11の格子部11cの格子高さが減少する格子形状のとき正となる。また回折格子12の格子部12cの格子高さが増加する格子形状の場合が正となる。
つまり図2、図3の構成であって屈折率n1、n2の大小関係がn1<n2の場合、(1)式は、
(n2−n1)×d=m×λ0 ‥‥‥(2)
と書き換えられる。図2、図3の構成において、設計波長λ0での回折効率η(λ)は、
η(λ)=sinc2〔π{m−(n2−n1)d/λ}〕
=sinc2〔π{m−φ0/λ0}〕 ‥‥‥(3)
で表わすことができる。(3)式中のφ0は、
φ0=(n2−n1)×d ‥‥‥(4)
であり、dは回折格子11および12の格子部11c、12cの格子高さである。なお、一般的に、回折格子の格子高さは、格子周期方向に垂直な方向(面法線方向)の格子先端と格子溝の高さで定義される。また、格子壁面11b、12bが面法線方向からシフトしているときや格子先端が変形しているとき等の場合は、格子面の延長線と面法線との交点との距離で定義される。
特許文献1、2に開示されている回折光学素子はスカラー回折理論を用いて回折効率を計算し、設計評価を行っている。スカラー回折理論は回折格子の格子ピッチが波長と比べて十分大きい場合に精度高く計算できることが知られている。しかしながら、回折格子の格子面による回折現象の振る舞いを記述しているのみであり、回折格子の格子壁面の振る舞いについては考慮されていない。実際の回折光学素子には格子面のみではなく格子壁面も設けられているため、壁面部も考慮する必要がある。
特許文献2に開示されている従来の格子壁面の計算手法は、回折光学素子に主光束入射角度(図3のa)より斜入射角度(画面外光入射角度)入射する光束(図3のbおよびc)のうち、格子壁面に入射する光束を幾何光学現象として捉えている。ここで主光線入射光束は設計入射角度、撮影光入射角度に相当する。そして、格子壁面の角度を最適化させ、格子壁面で発生する不要光が像面に到達することを抑制している。しかしながら、格子面と格子壁面を分離して扱うことは困難である。
回折光学素子の壁面部も考慮して計算できる手法として厳密電磁場計算が挙げられる。厳密電磁場計算はMaxwell方程式を数値的に解くことにより、任意形状の構造物に対する各次数の透過回折光、反射回折光の回折効率を厳密に計算することができる。従来、厳密電磁場計算はスカラー理論の精度が悪くなる格子ピッチが波長と比べて小さい場合によく用いられているが、格子ピッチが波長と比べて十分大きい場合に対しても厳密な回折効率を求めることが可能である。また、任意形状に対して計算可能であるため回折格子のスカラー回折理論計算では考慮されていなかった格子壁面の振る舞いを考慮した計算が可能である。我々は厳密電磁場計算のうち厳密結合波解析(以下、RCWA:Regorous Coupled Wave Analysis)を用いて回折光学素子の計算を行った。RCWA計算を用いることによって、格子壁面による振る舞いが回折次数に換算され、高次の回折光として計算することができる。尚、RCWA計算においての計算パラメータである計算次数は不要回折光が無視できるほど十分に収束する次数以上とし、レベル数(回折格子分割段数)はレベル数に応じた回折光が計算誤差として発生してしまうため、計算次数以上としている。
回折格子部10の具体的な構成は回折格子11を形成する格子形成材料に微粒子を混合させた紫外線硬化樹脂(nd=1.479、νd=20.7、θgF=0.404、n550=1.483)を用いている。更に回折格子12を形成する格子形成材料に紫外線硬化樹脂(nd=1.524、νd=51.3、θgF=0.539、n550=1.524)を用いている。
図4にこの回折格子部10の設計入射角度である入射角度0度(図3の光線a)、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を示す。図4(a)は設計次数である+1次回折光付近での回折効率である。横軸は回折次数、縦軸は回折効率である。図4(b)は図4(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。回折角は図3の下向きを正の方向としている。図4(a)から設計次数である+1次回折光に回折効率がおよそ集中していることがわかるが、回折効率は98.49%(回折次数+1次、回折角0.21度)で100%になっていない。残りの光は不要光となって、図4(b)のように特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播していることがわかる。この不要光は図5のように入射光束のうち格子壁面付近に入射する成分a’が格子壁面において高屈折率材料側に回り込む回折現象によると考えられる。しかし、この設計入射角度(撮影光入射角度)において日中の太陽等の高輝度光源を直接撮影することは稀であるため、この不要光はほとんど影響せず、結果としては問題とはならない。
次に、この回折格子部10の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の下向きに入射する光束(図3の光線b)を想定して、入射角度+10度、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を図6に示す。入射角は図3の下向きを正の方向としている。図6(a)は設計次数である+1次回折光付近での回折効率である。横軸は回折次数、縦軸は回折効率である。図6(b)は図6(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。回折角は図3の下向きを正の方向としている。図6(a)から設計次数である+1次回折光の回折効率が集中していることがわかるが、回折効率は95.62%(回折次数+1次、回折角+9.94度)で設計入射角度である0度から傾いているため低下している。この画面外光入射角度(画面外入射角度)の+1次回折光は像面に到達することはないため影響は小さい。残りの不要光は図6(b)のように特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播していることがわかる。この不要光は略−10度方向にピークを持っており、この伝播方向は格子面で+1次光に回折した後、格子壁面に入射する画面外入射角度+9.94度光束の成分が全反射にして伝播する射出方向−9.94度方向と略等しいことがわかる。格子壁面に対しては高屈折率材料側から低屈折率材料側に臨界角76.7度以上の+80.6度で入射するため全反射が発生している。また、この不要光は略−10度方向のピークから高角度範囲に広がっており、図7に示すように入射光束のうち格子面で回折した後、格子壁面付近に入射する成分(光線)b’が格子壁面において全反射して−10度方向に伝播している。さらに全反射射出方向中心に不要光が広がって伝播していると考えられる。この不要光の広がりが回折角0度付近(図7の光線b’’)まで広がっている。回折角0度(図7の光線b’’)は設計入射角0度(図3のa)による+1次回折光の回折角0.20度(図2の+1次光)にほぼ等しい。このため、画面外光+10度入射の不要光のうち、回折角+0.20度付近に射出する不要光が像面に到達することを示している。なお、回折光学素子の後の光学系によって画面外入射光の不要光が像面に到達する回折次数、回折角度が異なる。しかしながら、いかなる光学系であっても少なくとも設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度に略一致する画面外光による不要光の回折光は像面に到達するため、像性能の低下を招くことになる。
次に、この回折格子部10の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の上向きに入射する光束(図3の光線c)を想定して、入射角度−10度、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を図8に示す。入射角は図3の下向きを正の方向としている。図8(a)は設計次数である+1次回折光付近での回折効率である。横軸は回折次数、縦軸は回折効率である。図8(b)は図8(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。回折角は図3の下向きを正の方向としている。図8(a)から設計次数である+1次回折光の回折効率が集中していることがわかるが、回折効率は95.48%(回折次数+1次、回折角−9.52度)で設計入射角度である0度から傾いているため低下している。この画面外光入射角度の+1次回折光は像面に到達することはないため影響は小さい。残りの不要光は図8(b)のように特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播していることがわかる。この不要光は略−15度方向にピークを持っている。また略+10度方向にも小さなピークを持っている。この伝播方向は格子壁面に入射する画面外入射角度−10度光束の透過光の射出方向−16.6度と反射光の射出方向+9.5度に略等しいことがわかる。また、格子壁面に対しては低屈折率材料側から高屈折率材料側に+80度で入射するため、透過光の透過率は94%、反射光の反射光は6%であり、略−15度方向のピークが大きく、略+10度方向のピークが小さいことと対応している。また、この不要光はピークから高角度範囲に広がっており、図9に示すように入射光束のうち格子壁面付近に入射する成分(光線)c’が格子壁面において透過光と反射光に別れて伝播しており、さらに各ピークを中心に広がって伝播していると考えられる。この不要光の広がりが回折角0度付近まで広がってなく、回折効率の数値も極小のため、画面外光−10度入射の不要光が像面に到達し像性能を低下させる影響は小さいことを示している。
また、ここでの不要光の透過光は幾何光学的に計算される透過光の射出方向をピークに持ち、射出角に広がりをもって伝播する光束領域としている。また、ここでの不要光の反射光は幾何光学的に計算される反射光の射出方向をピークに持ち、射出角に広がりをもって伝播する光束領域としている。
従来の手法では格子壁面11bに入射する光束を幾何光学現象として扱っているが、その場合は格子壁面11bに入射する光はスネルの法則に従って特定の方向にのみ射出し伝播することになる。しかしながら、格子面11a(12a)と格子壁面11b(12b)を同時に厳密波動計算を行うと格子壁面11bに入射して射出する光はスネルの法則による射出方向を略一致する。しかしながら、完全にはスネルの法則に従わず、射出光が広がりをもって射出することがわかった。このため、従来の手法では不要光の抑制に対しては不十分であり、抑制すべき不要光が十分考慮されていないといえる。また、実際に回折格子部を作成したところ、RCWA計算結果の通りに不要光が広がりをもって伝播していることが確認できた。
なお、ここでは格子ピッチ100μmの回折効率を対象としている。さらに格子ピッチの広い輪帯においては格子壁面の寄与が小さくなるため、設計次数の回折効率は高く、不要光の回折効率は低くなる。また、図示してはいないが、不要光の伝播方向については格子ピッチに依存しないことを確認している。このため、ひとつの基準として格子ピッチ100μmの回折効率を示している。これについては以下の実施例でも同様である。
次に、実際の光学系へ、上記回折光学素子を適用した場合の画面外光が入射した際の不要光について説明する。図24は回折光学素子を用いた望遠タイプの撮影光学系でf=392.00mm、fno=4.12、半画角3.16度であり、第2面に回折面が設けられている。図10は図24の光学系における回折光学素子の不要光の模式図、図11に回折光学素子1を切断した断面形状の拡大図を示す。格子形状を分かりやすくするために、図11は格子深さ方向にかなりデフォルメされた図となっている。また、格子数も実際よりは少なく描かれている。図10、図11において、光軸Oに対して入射角ωで入射した画面外光束B,B’は、第1の回折光学素子11の基板2を通過する。その後、それぞれ光軸Oから図の上方向に数えてm番目、図の下方向に数えてm番目の回折格子であるm格子(格子部)、m’格子(格子部)に入射する。画面外光束B,B’のm格子、m’格子に対しての入射角度は主光線方向に対して角度ωi、ωi’である。また、格子壁面1b、1b’方向は主光線方向と等しい場合としている。
ここでは画面外光束B,B’の入射角ωは略+10度(光軸方向に対しては入射角ωは+13.16度)を想定する。この入射角度より小さい角度ではレンズ表面や結像面反射によるゴーストやレンズ内部、表面微小凹凸による散乱の影響が多いため回折光学素子の不要光は比較的目立たない。また、この入射角度より大きい角度では、前側に配置されたレンズ面による反射やレンズ鏡筒によって画面外光束が回折光学素子1に入射しにくいため、回折光学素子1の不要光の影響度は比較的小さい。このため、入射角ωは+10度付近が回折光学素子1の不要光に対して最も影響が大きく、ここでは画面外光束の入射角ωは略+10度を想定する。
m格子は図中下から上に回折格子11の格子部11cの格子高さが増加する(回折格子12の格子部12cの格子高さが減少する)格子形状で、入射した画面外光束Bは下向きに入射する光束である。格子部11cに対する入射角度ωiは+10度となる。このm格子と画面外入射光束Bの関係は図6、図7の関係に相当する。このため、格子壁面11bで全反射射出方向中心に不要光が広がって伝播することになる。この不要光の広がりが図6のように設計入射角0度による+1次回折光の回折角にほぼ等しい回折角+0.21度付近まで広がっている。このため、画面外光10度入射の不要光のうち、回折角+0.21度付近に射出する不要光(図10の光線Bm)が結像面41に到達することを示している。図6の回折角0度付近の回折効率は図6のRCWA計算結果から、回折次数−45(回折角+0.38度)の回折効率が0.021%、回折次数−46(回折角+0.17度)の回折効率が0.021%である。この回折効率の数値は低い値であるが、日中の太陽などの高輝度光源が撮影時に画面外にあった場合には影響は無視できなくなる。画面外光+10度入射の不要光のうち、回折角0度より低い角度に射出する不要光(図10のBm−、不要光のピーク)は絞り40で遮光され、結像面41に到達しない。なお、回折光学素子の後の光学系、絞りの位置によって画面外入射光の不要光が像面に到達する回折次数、回折角度(図10のBm−〜Bm〜Bm+の関係)が異なる。しかしながら、いかなる光学系であっても少なくとも設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度に略一致する画面外光による不要光の回折光(図10のBm)は像面に到達するため、像性能の低下を招くことになる。
m’格子は図中下から上に回折格子11の格子高さが減少する(回折格子12の格子高さが増加する)格子形状で、入射した画面外入射光束B’は下向きに入射する光束である。格子部に対する入射角度ωi’は10度となる。このm’格子と画面外光束B’の関係は図8、図9の上下を逆にした場合であるため、図8、図9の関係に相当する。このため、格子壁面11bで透過光射出方向中心と反射光射出方向中心に不要光が広がって伝播し、透過光射出方向の不要光が大幅に大きいことになる。この不要光の広がりが図8のように設計入射角0度による+1次回折光の回折角にほぼ等しい回折角0度付近まで広がっていない。このため、画面外光束の入射角度10度の不要光のうち、回折角0度付近に射出する不要光(図10の光線B’m)が結像面41に到達するが、回折効率の数値は極小である。より具体的な数値は図8のRCWA計算結果から、回折次数+48(回折角+0.24度)の回折効率が0.0015%、回折次数+47(回折角+0.03度)の回折効率が0.0015%である。この回折効率の数値は日中の太陽などの高輝度光源があった場合においても影響は小さい。画面外光束の入射角度−10度の不要光のうち、回折角0度より低い角度に射出する不要光(図10の光線B’m−、+1次回折光および不要光ピーク)は絞り40で遮光され、結像面41に到達しない。逆に、画面外光+10度入射の不要光のうち、回折角0度より高い角度に射出する不要光で、且つ結像面41の最大像高位置に到達する不要光(図10のB’m+)までが結像面41に到達することになる。なお、回折光学素子1の後側(像側)の光学系、絞り40の位置によって画面外光束の不要光が像面41に到達する回折次数、回折角度(図10の光線B’m−〜光線B’m〜光線B’m+の関係)が異なる。しかしながら、いかなる光学系であっても少なくとも設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度に略一致する画面外光束による不要光の回折光(図10の光線B’m)は像面に到達する。m’格子では回折角0度付近に射出する不要光(図10の光線B’m)の広がりが小さく、回折効率の値は極小のため影響は小さい。
以上のように、回折光学素子1を適用した光学系において、画面外光線が入射角略10度で入射した場合、図10、図11に示すm格子による回折角0度付近に射出する不要光が大きく、m’格子による回折角0度付近に射出する不要光が小さい。このため、像性能の低下に対してはm格子の寄与が大きいことになる。実際に回折光学素子1および光学系を作成し、実写したところ、像面に不要光が到達し、像性能の低下が確認できた。
従来の手法では格子壁面に入射する光束を幾何光学現象として扱っているが、その場合は格子壁面に入射する光はスネルの法則に従って特定の方向にのみ射出し伝播することになる。図10、図11のように光学系に回折光学素子1を適用し、画面外光束が入射角略10度で入射した場合、m格子では全反射のみ、m’格子では94%の透過光および6%の反射光が発生する。その場合はいずれも絞り40で遮光されるため結像面41へ到達しないことになる。以上のように、従来の手法では不要光の抑制に対しては不十分であり、抑制すべき不要光が十分考慮されていなかったといえる。
[実施例1]
続いて、本発明の回折光学素子の素子構成および不要光について説明する。図1は本発明の実施例1の回折光学素子の正面図及び側面図である。回折光学素子1は平板又はレンズより成る(レンズ作用をする)基板2、3で挟まれる空間内に複数の回折格子より成る回折格子部10を設けて形成されている。そして、本実施例では、回折格子部10が形成されている基板2、3の面は、曲面形状よりなっている。回折格子部10は光軸Oを中心とした同心円状の複数の格子部より成る回折格子からなり、レンズ作用を有している。
図2は図1の回折光学素子1を図中A−A′断面で切断した断面形状の一部の拡大図である。第1、第2の回折格子11、12の格子部11c、12cの格子形状を分かりやすくするために、図2は格子深さ方向にかなりデフォルメされた図となっている。また、格子数も実際よりは少なく描かれている。図1、図2において、回折光学素子1の回折格子部10は、第1の回折格子11と第2の回折格子12とが密着した構成となっている。各回折格子11、12はそれぞれ格子面11a、12aと格子壁面11b、12bから構成される同心円状のブレーズ構造の格子部11c、12cからなっている。
そして光軸(中心領域)Oから外周部(周辺領域)にいくに従って格子部11c、12cの格子ピッチを徐々に変化させることで、レンズ作用(光の収斂作用や発散作用)を有するようにしている。また、各回折格子11、12は格子面11a、12aおよび格子壁面11b、12bは互いに隙間なく接しており、第1及び第2の回折格子11、12は、全体で1つの回折格子部10として作用する。また、ブレーズ構造にすることで、回折光学素子1に入射した入射光は、回折格子部10で回折せずに透過する0次回折方向に対し、特定の回折次数(図では1次)方向に集中して回折する。
説明をわかりやすくするために、図3に示すように、基板2、3の間に設けた回折格子部10が形成される面2a、3aを平面としている。このとき、回折格子部10の格子部の格子先端部を連ねた包絡面11d、12dは光軸Oに垂直な平面となる。さらに、前述の格子先端部との交点での包絡面の面法線は、全て、光軸Oと平行な方向になる。また、本実施例の回折光学素子の使用波長領域はg線からC線の帯域を含む可視域(波長400nm〜波長700nm)である。このため、可視領域全体で設計次数(特定次数)の回折光の回折効率が高くなるように、第1の回折格子11及び第2の回折格子12を構成する材料及び格子高さを選択している。すなわち、複数の回折格子(回折格子11,12)を通過する光の最大光路長差(回折部の山と谷の光学光路長差の最大値)が使用波長域内で、その波長の整数倍付近となるよう、各回折格子の材料及び格子高さが定められている。このように回折格子11、12の材料、形状を適切に設定することによって、使用波長全域で高い回折効率を得ている。
続いて、本発明の回折光学素子の回折格子部10の構成および不要光について説明する。回折格子部10の具体的な構成は第1の回折格子11を形成する格子形成材料に微粒子を混合させた紫外線硬化樹脂はnd=1.481、νd=20.7、θgF=0.404、n550=1.483である。第2の回折格子12を形成する格子形成材料に紫外線硬化樹脂はnd=1.524、νd=51.6、θgF=0.539、n550=1.524の材料を用いている。
格子部の格子高さdは6μm以上あれば良く、本実施例では27.02μmである。設計次数は2以上であれば良く、本実施例では+2次とする。設計次数+1次の場合と比較して、設計次数+2次(m次)の場合は位相関数を1/2(1/m)、格子ピッチを2倍(m倍)格子高さを2倍(m倍)としている。これより、設計次数+2次の+2次回折光の射出角度と設計次数の+1次の+1次回折光角の射出角度が等しくなり、回折格子部の設計次数の光学特性は同等となる。また、格子数(輪帯数)についても1/2(1/m)となる。ここで回折格子による波面の位相変換作用としての設計次数mにおける回折格子の位相関数をφm(r)は
φm(r)={φ1(m)}/m
となる。
この回折格子部の設計入射角度は入射角度0度(図3の光線a)、格子ピッチ200μm、波長550nmにおけるRCWA計算を行った結果を図12に示す。図12(a)は設計次数である+2次回折光付近での回折効率を示している。横軸は回折次数、縦軸は回折効率である。図12(b)は図12(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。回折角は図3の下向きを正の方向としている。図12(a)から設計次数である+2次回折光の回折効率は98.85%(回折角+0.21度)であり、設計次数が+1次の場合の+1次回折光の回折効率は98.49%(回折角+0.21度)と同等以上であった。残りの光は不要光となって、図12(b)のように特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播していることがわかる。この不要光の振る舞いは設計次数が+1次と+2次では異なっている。
この不要光は図5と同様に入射光束のうち格子壁面付近に入射する成分a’が格子壁面において高屈折率材料側に反射しているように回り込み、設計次数+1よりも射出角度が高角度側にシフトしていると考えられる。また、−10度方向については所謂シャドウとなっており、不要光が伝播しない領域となっていると考えられる。このように、設計次数が+1次と+2次では不要光の振る舞いが異なることがわかる。ここで想定している格子ピッチはひとつの基準として200μm(設計次数+1次で100μm)としている。図1に示すように光軸に近い輪帯ほど、格子ピッチは大きくなり、格子壁面による悪影響が小さくなるため、設計次数の回折効率は高く、不要光の回折効率は低くなる。本実施例において、回折光学素子全域を考慮した場合、この格子ピッチ200μm(設計次数+1次で100μm)の回折効率の差は設計入射角度(撮影光入射角度)において日中の太陽等の高輝度光源を直接撮影することは稀である。このため、ほとんど影響せず、結果として問題とはならない。
次に、実際の光学系へ、上記回折光学素子を適用した場合の画面外光が入射した際の不要光について説明する。図24は回折光学素子を用いた望遠タイプの撮影光学系でf=392.00mm、fno=4.12、半画角3.16度であり、第2面に回折面が設けられている。図10は図24の光学系における回折光学素子の不要光の模式図、図11に回折光学素子1を切断した断面形状の拡大図を示す。図10、図11において、光軸Oに対して入射角ωで入射した画面外光束B,B’は、第1の回折光学素子11の基板2を通過する。その後、それぞれ光軸Oから図の上方向に数えてm番目、図の下方向に数えてm番目の回折格子であるm格子(格子部)、m’格子(格子部)に入射する。画面外光束B,B’のm格子、m’格子に対しての入射角度は主光線方向に対して角度ωi、ωi’である。また、格子壁面1b、1b’方向は主光線方向と等しい場合としている。
この回折格子部の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の下向きに入射する光束(図3の光線b、図11の光線B)を想定して、入射角度+10度、格子ピッチ200μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を図13に示す。入射角は図3の下向きを正の方向としている。図13(a)は設計次数である+2次回折光付近での回折効率である。横軸は回折次数、縦軸は回折効率である。図13(b)は図13(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。回折角は図3の下向きを正の方向としている。図13(a)から設計次数である+2次回折光の回折効率が集中していることがわかるが、回折効率は95.41%(回折次数+2、回折角+9.94度)で設計入射角度である0度から傾いているため低下している。
この画面外光束の+2次回折光は像面に到達することはないため影響は小さい。残りの不要光は図13(b)のように特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播していることがわかる。この不要光は略−10度方向にピークを持っており、この伝播方向は、格子面で+2次光に回折した後、格子壁面に入射する画面外光束の入射角度+9.94度の成分が全反射にして伝播する射出方向−9.94度方向と略等しいことがわかる。格子壁面に対しては高屈折率材料側から低屈折率材料側に臨界角76.7度以上の+80.6度で入射するため全反射が発生している。この−10度方向の不要光ピーク角度は図6(b)とほぼ同じだが、不要光の角度の広がりが図13(b)と図6(b)では異なっており、図13(b)のほうがピークが鋭く、不要光がピークに集中していることがわかる。つまり、設計次数が+1次と+2次では不要光の振る舞いが異なり、設計次数+2次のほうが幾何光学現象に近いことを意味している。
図24、図10、図11に示すように、実際の光学系へ、回折光学素子を適用した場合の画面外光束が入射した際の不要光は、設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.21度に略一致する画面外光束による不要光の回折光が像面に到達する。これより、図13の回折角+0.21度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数−91(回折角+0.27度)の回折効率が0.0017%、回折次数−92(回折角+0.17度)の回折効率が0.0017%である。設計次数+1の場合は、図6から回折次数−45(回折角+0.38度)の回折効率が0.021%、回折次数−46(回折角+0.17度)の回折効率が0.021%であるため、設計次数+1次よりも大幅に減少していることがわかる。
設計次数を+2次とすることにより、設計次数+1と比較して、隣合う次数の回折光の回折角の差が1/2となる。図15(a)、(b)に簡単な例として、設計入射角度0度で入射した光束に対して、設計次数が+1と+2の場合の+1次周辺次数の回折光の結像位置を示す。図15(a)に示すように設計次数+1次の場合は結像面41に+1次回折光が結像する。また図15(b)に示すように、設計次数+2次の場合は結像面41に+2次回折光が結像する。図15(a)のように設計次数+1次のときは、0次回折光は結像面41より後側に結像し、+2次回折光は結像面41より前側に結像する。また図15(b)のように設計次数+2次の場合は、+1次光、0次回折光は結像面41より後側に結像する。このとき0次回折光の結像位置は設計次数+1次のときの0次回折光の結像位置と等しく、+1次回折光の結像位置は+2次と0次の間の位置に結像する。また、設計次数+2次の+3次光、+4次回折光は結像面41より前側に結像するが、+4次回折光の結像位置は設計次数+1次のときの+2次回折光の結像位置と等しく、+3次回折光の結像位置は+2次と+4次の間の位置に結像する。
この関係は画面外光束が入射した場合にも同様で、結像面に到達する不要光の数は設計次数+2次のときは設計次数+1次のときと比較すると2倍になる。このため、設計次数+2の回折角+0.21度付近の回折効率は2倍された0.0034%に換算されるが、設計次数+1の回折効率0.021%と比較するとやはり大幅に減少していることがわかる。
次に、この回折格子部の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の上向きに入射する光束(図3の光線c、図11の光線B’)を想定して、入射角度−10度、格子ピッチ200μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を図14に示す。入射角は図3の下向きを正の方向としている(図11のm’格子では上向きが正の方向となる)。図14(a)は設計次数である+2次回折光付近での回折効率である。横軸は回折次数、縦軸は回折効率である。図14(b)は図14(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。回折角は図3の下向きを正の方向としている(図11のm’格子では上向きが正の方向となる)。
図14(a)から設計次数である+2次回折光の回折効率が集中していることがわかるが、回折効率は93.92%(回折次数+2、回折角−9.52度)で設計入射角度である0度から傾いているため低下している。この画面外光束の+2次回折光は像面41に到達することはないため影響は小さい。残りの不要光は図14(b)のように特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播していることがわかる。この不要光は略−16度方向、−11度方向にピークを持っている。また略+10度方向にも小さなピークを持っている。この略−16度方向と略+10度方向のピークの伝播方向は格子壁面に入射する画面外光束の入射角度−10度の透過光の射出方向−16.6度と反射光の射出方向+9.5度に略等しいことがわかる。また、格子壁面に対しては低屈折率材料側から高屈折率材料側に+80度で入射するため、透過光の透過率は94%、反射光の反射光は6%であり、略−16度方向のピークが大きく、略+10度方向のピークが小さいことと対応している。−11度方向のピークについては壁面による透過光の略−16度の不要光ピークと+2次回折光の干渉によるピークと思われる。また、これらの各不要光はピークから高角度範囲に広がっている。これら不要光ピーク角度は図8(b)とほぼ同じだが、不要光の角度の広がりが図14(b)と図8(b)では異なっており、図14(b)のほうがピークが鋭く、不要光がピークに集中していることがわかる。つまり、設計次数が+1次と+2次では不要光の振る舞いが異なり、設計次数+2次のほうが幾何光学現象に近いことを意味している。また、−11度方向のピークについては壁面による透過光の略−16度の不要光ピークと+2次回折光の干渉によるピークと思われる。
図24、図10、図11に示すように、実際の光学系へ、上記回折光学素子を適用した場合の画面外光束が入射した際の不要光は次のとおりである。設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.21度に略一致する画面外光束による不要光の回折光が像面に到達する。図14の回折角+0.21度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数+96(回折角+0.24度)の回折効率が0.0014%、回折次数+95(回折角+0.14度)の回折効率が0.0014%である。設計次数+1の場合は、回折次数+48(回折角+0.24度)の回折効率が0.0015%、回折次数+47(回折角+0.03度)の回折効率が0.0015%であるため、設計次数+1次とほぼ同等であることがわかる。結像面に到達する不要光の数は設計次数+2次のときは設計次数+1次のときと比較すると2倍になる。このため、設計次数+2の回折角+0.21度付近の回折効率は2倍された0.0028%に換算される。設計次数+1の回折効率0.015%と比較する増加しているが、回折効率の数値が極めて小さいため、像性能の低下に対しての影響は小さい。
以上のように、本発明の回折光学素子を適用した光学系では、画面外光束が入射した場合、設計次数を+1次から+2次にしている。これにより、図24、図10、図11に示す不要光の影響が大きいm格子の不要光を大幅に減少させ、不要光の影響が小さいm’格子の不要光を同等にすることができる。この結果、結像面に到達する不要光が小さくなるため、像性能の低下を抑制することができる。実際に、回折光学素子および光学系を作成し、実写したところ、像性能の低下を抑制することが確認できた。また、以下については実施例2以降についても同様である。
また、本実施例においては図10、図11に示したように、不要光のピークが絞り40で遮光されている(図10の光線Bm−および光線B’m−)が、これは一例であって、これに限定されない。不要光のピークをレンズ鏡筒に導いて遮光したり、後側のレンズにより像面に到達しない角度に反射させること等によっても不要光のピークの抑制が可能となる。また、設計次数を+2次とすることにより、不要光が幾何学的現象に近づく。このため、回折格子の格子壁面の角度を主光線方向からシフトさせる、格子壁面の角度を徐々に変化させる、格子壁面の形状を階段状にさせる、等により不要光を制御することが設計次数+1と比較してより可能となる。そして、輪帯毎に格子壁面の形状を変えることによって輪帯毎に制御することも可能である。この結果、結像面に到達する不要光を抑制することができる。また、上記では回折光学素子1の回折格子11と回折格子12の材料の屈折率の関係が、n1<n2として不要光の説明としている。
次に回折格子11と回折格子12の材料の屈折率の関係が、n1>n2となった場合について説明する。図16は回折格子11と回折格子12の材料の屈折率の関係がn1>n2の場合の回折光学素子1を切断した断面形状の拡大図である。図11と図16を比較すると、屈折率の関係が逆になることにより回折格子の格子部の格子形状の向きも逆になる。図16におけるm格子の格子壁面11bに入射する画面外入射角度10度の光束の成分は高屈折率材料側から低屈折率材料側に臨界角76.7度以上の+80度で入射する。このため全反射が発生し、格子壁面11bで全反射射出方向中心に不要光が広がって伝播することになる。このため、図6、図13の関係とほぼ同じとなる。図16におけるm’格子の格子壁面11b’に入射する画面外入射角度10度の光束の成分は、格子面で+2次光に回折した後、低屈折率材料から高屈折率材料界面側に入射する。このため、格子壁面11b’で透過光射出方向中心と反射光射出方向中心に不要光が広がって伝播し、透過光射出方向の不要光が大幅に大きいことになる。このように、図8と図13の関係とほぼ同じとなる。これより、格子壁面による不要光に関しては回折格子11と回折格子12の屈折率が、n1<n2でもn1>n2でも同様となる。
また、光学系に回折光学素子を適用した場合の設計入射角における設計回折光が伝播する回折角に一致する画面外光束による不要光の回折光の次数は以下のように記述できる。設計入射角θ1と設計回折光の回折角θ2の関係は
P×(n2×sinθ2−n1×sinθ1)=m×λ0 ‥‥‥(5)
となる。n1は第1の回折格子11を形成する材料の波長λ0での屈折率、n2は第2の回折格子12を形成する材料の波長λ0での屈折率である。Pは第1の回折格子11および第2の回折格子12の格子ピッチ、mは設計回折次数である。これより、設計回折光の回折角θ2は
θ2=sin−1{(m×λ0/P+n1×sinθ1)/n2} ‥‥‥(6)
となる。
一方、画面外光束が入射角θ1’で入射する場合の画面外入射角度θ1’と回折次数m’と回折角θ2’の関係は
P×(n2×sinθ2’−n1×sinθ1’)=m’×λ0 ‥‥‥(7)
となるため、回折角θ2’は
θ2’=sin−1{(m’×λ0/P+n1×sinθ1’)/n2}‥‥(8)
となる。ここで、設計入射角θ1における設計回折光が伝播する回折角θ2と入射角θ1’の画面外光束における不要光の回折光の回折角θ2’が一致する。このため、
θ2=θ2’ ‥‥‥(9)
となる。(9)式に(6)式および(7)式を代入して整理すると、設計入射角θ1における設計回折光が伝播する回折角θ2に一致する入射角θ1’の画面外光による不要光の回折光の次数m’は
m’=m+P×n1×(sinθ1−sinθ1’)/λ ‥‥‥(10)
となる。
実施例1において、設計回折光回折角θ2は(6)式より+0.21度となる(設計入射角θ1=0度)。画面外入射角(θ1’)+10度、設計次数(m)+2、格子ピッチ(P)200μm、波長550nmで(10)式を計算すると、回折次数m’=−91.7となり、整数とならない。この回折次数−91.7の値に隣合う整数−91次と−92次の回折角を(8)式から計算すると、−91次は+0.27度、−92次は+0.17度となる。これより、設計回折光の回折角θ1と画面外入射角θ1’の不要光の回折光は完全に一致しなく、(10)式で計算できる次数に隣合う2つの整数の次数の回折角の間に設計回折光回折角と一致する角度があることになる。
そして、それぞれの次数の回折効率はRCWA計算より−91次(n21次)は0.0017%、−92次(n22次)は0.0017%であった。また、画面外入射角+10度、設計次数+1、格子ピッチ100μm、波長550nmも同様に(10)式を計算すると、回折次数m’=−45.8となり、整数とならない。この回折次数m’=−45.8に隣合う整数−45次(n11次)と−46次(n12次)の回折角を(8)式から計算すると、−45次は+0.38度、−46次は+0.17度となる。そして、それぞれの次数の回折効率はRCWA計算より−45次は0.0021%、−46次は0.0021%であった。
(10)式を満足する次数m’の数値の隣合う整数をnm1およびnm2(nm2<nm1)としたとき、設計回折次数+2(m=2)の回折格子のn21次およびn22次はそれぞれ−91次、−92次で、回折効率はいずれも0.0017%である。また設計次数+1(m=1)の回折格子のn11次およびn12次はそれぞれ−45次、−46次で、いずれも回折効率は0.0021%である。
さらに、結像面に到達する不要光の数は設計次数+2次のときは設計次数+1次のときと比較すると2倍になる。このため、不要光の結像面到達する回折光の効率×設計次数を換算回折効率とすると、設計次数+2(m=2)のn21次およびn22次はそれぞれ−91次、−92次で、回折効率はいずれも0.0034%である。また設計次数+1(m=1)の回折格子のn11次およびn12次はそれぞれ−45次、−46次で、いずれも回折効率は0.0021%である。
(10)式の数値の隣合うnm1次およびnm2次の次数の回折効率と設計次数との積はいずれも設計次数+2次のほうが設計次数+1次よりも小さいため,画面外光が結像面に到達する不要光が小さくなり、像性能の低下を抑制することが可能となる。
[実施例2]
実施例1は設計次数を+2次としたが、実施例3は設計次数を+3次にした場合である。本発明の回折格子部の具体的な構成は回折格子11を形成する格子形成材料に微粒子を混合させた紫外線硬化樹脂はnd=1.479、νd=20.7、θgF=0.404、n550=1.483である。そして、回折格子12を形成する格子形成材料に紫外線硬化樹脂はnd=1.522、νd=51.3、θgF=0.539、n550=1.524の材料を用いている。そして双方の格子部の格子高さdは40.53μm、設計次数は2次以上の+3次とする。
使用している回折格子の材料は実施例1と同じである。設計次数+1次の場合と比較して、設計次数+3次の場合は位相関数を1/3、格子ピッチを3倍としている。これより、設計次数+3次の+3次回折光の射出角度と設計次数の+1次の+1次回折光角の射出角度が等しくなり、回折格子部の設計次数の光学特性は同等となる。また、格子数についても1/3となる。この回折格子部の設計入射角度0度(図3の光線a)、格子ピッチ300μm、波長550nmにおけるRCWA計算を行った結果を図17に示す。
図17(a)は設計次数である+3次回折光付近での回折効率である。横軸は回折次数、縦軸は回折効率である。図17(b)は図17(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。回折角は図3の下向きを正の方向としている。図17(a)から設計次数である+3次回折光の回折効率は99.20%(回折角+0.21度)であり、設計次数が+1次の場合の+1次回折光の回折効率は98.49%(回折角+0.21度)と同等以上であった。残りの光は不要光となって、図17(b)のように特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播していることがわかる。
この不要光の振る舞いは設計次数が+1次と+3次では異なっている。しかしながら、図5と同様に入射光束のうち格子壁面11b付近に入射する成分(光線)a’が格子壁面11bにおいて高屈折率材料側に反射しているように回り込み、設計次数+1よりも射出角度が高角度側にシフトしていると考えられる。このように、設計次数が+1次と+3次では不要光の振る舞いが異なることがわかる。ここで想定している格子ピッチはひとつの基準として300μm(設計次数+1次で100μm)としている。図1に示すように光軸に近い輪帯ほど、格子ピッチは大きくなり、格子壁面による悪影響が小さくなるため、設計次数の回折効率は高く、不要光の回折効率は低くなる。本実施例において、回折光学素子全域を考慮した場合、この格子ピッチ300μm(設計次数+1次で100μm)の回折効率の差は設計入射角度(撮影光入射角度)において日中の太陽等の高輝度光源を直接撮影することは稀である。このため、ほとんど影響せず、結果として問題とはならない。
この回折格子部の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の下向きに入射する光束(図3の光線b、図11の光線B)を想定して、入射角度+10度、格子ピッチ300μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を図18に示す。図18(a)は設計次数である+3次回折光付近での回折効率である。図18(b)は図18(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。
図18(a)から設計次数である+3次回折光の回折効率は95.26%(回折次数+3、回折角+9.94度)で設計入射角度である0度から傾いているため低下している。この画面外入射角度の+3次回折光は像面に到達することはないため影響は小さい。残りの不要光は図16(b)のように特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播していることがわかる。この不要光は実施例1の設計次数+2次の場合と同様に、略−10度方向にピークを持っている。この伝播方向は、格子面で+3次光に回折した後、格子壁面に入射する画面外入射角度+9.94度光束の成分が全反射にして伝播する射出方向−9.94度方向と略等しいことがわかる。
格子壁面に対しては高屈折率材料側から低屈折率材料側に臨界角76.7度以上の+80.6度で入射するため全反射が発生している。この−10度方向の不要光ピーク角度は図6(b)、図13(b)、とほぼ同じだが、不要光の角度の広がりが図13(b)よりもさらにピークが鋭く、不要光がピークに集中していることがわかる。つまり、設計次数が+1次と+2次と+3次では不要光の振る舞いが異なり、+2次と+3次は比較的傾向が似ているが、設計次数+3次のほうがさらに幾何光学現象に近いことを意味している。
図24、図10、図11に示すように、実際の光学系へ、上記回折格子部を適用した場合の画面外光束が入射した際の不要光は次のとおりである。設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.21度に略一致する画面外光による不要光の回折光が像面に到達する。これより、図13の回折角+0.21度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数−137(回折角+0.24度)の回折効率が0.0014%である。また回折次数−138(回折角+0.17度)の回折効率が0.0014%である。設計次数+1の場合は、回折次数−45(回折角+0.38度)の回折効率が0.021%、回折次数−46(回折角+0.17度)の回折効率が0.021%である。このため、設計次数+1次よりも大幅に減少していることがわかる。結像面に到達する不要光の数は設計次数+3次のときは設計次数+1次のときと比較すると3倍になる。このため、設計次数+3の回折角+0.21度付近の回折効率は3倍された0.0042%に換算されるが、設計次数+1の回折効率0.021%と比較するとやはり大幅に減少していることがわかる。
次に、この回折格子部の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の上向きに入射する光束(図3の光線c、図11の光線B’)を想定して、入射角度−10度、格子ピッチ300μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を図19に示す。図19(a)は設計次数である+3次回折光付近での回折効率である。横軸は回折次数、縦軸は回折効率である。図19(b)は図19(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。図19(a)から設計次数である+3次回折光の回折効率は91.68%(回折角−9.52度)で設計入射角度である0度から傾いているため低下している。
この画面外入射角度の+3次回折光は像面に到達することはないため影響は小さい。残りの不要光は図19(b)のように特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播していることがわかる。この不要光は略−16.5度方向、−14度方向、−11度方向、+10度方向にピークを持っている。この略−16.5度方向と+10度方向のピークの伝播方向は格子壁面に入射する画面外入射角度−10度光束の透過光の射出方向−16.6度と反射光の射出方向+9.5度に略等しいことがわかる。また、格子壁面に対しては低屈折率材料側から高屈折率材料側に+80度で入射するため、透過光の透過率は94%、反射光の反射光は6%であり、略−16.5度方向のピークが大きく、略+10度方向のピークが小さいことと対応している。−14度方向、−11度方向のピークについては壁面による透過光の略−16.5度の不要光ピークと+3次回折光の干渉によるピークと思われる。また、これらの各不要光はピークから高角度範囲に広がっている。これらの不要光ピーク角度は図8(b)、図14(b)とほぼ同じだが、不要光の角度の広がりが図14(b)よりもさらにピークが鋭く、不要光がピークに集中していることがわかる。つまり、設計次数が+1次と+2次と+3次では不要光の振る舞いが異なり、+2次と+3次は比較的傾向が似ているが、設計次数+3次のほうがさらに幾何光学現象に近いことを意味している。また、−14度方向と−11度方向のピークについては壁面による透過光の−16.5度の不要光ピークと+3次回折光の干渉によるピークと思われる。
図24、図10、図11に示すように、実際の光学系へ、上記回折格子部を適用した場合の画面外光束が入射した際の不要光は次のとおりである。設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.21度に略一致する画面外光束による不要光の回折光が像面に到達する。図19の回折角+0.21度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数+144(回折角+0.24度)の回折効率が0.00091%、回折次数+143(回折角+0.17度)の回折効率が0.00092%である。設計次数+1の場合は、回折次数+48(回折角+0.24度)の回折効率が0.0015%、回折次数+47(回折角+0.03度)の回折効率が0.0015%である。このため、設計次数+1次に対してさらに減少していることがわかる。結像面に到達する不要光の数は設計次数+3次のときは設計次数+1次のときと比較すると3倍になる。このため、設計次数+2の回折角+0.21度付近の回折効率は2倍された0.0027%に換算される。設計次数+1の回折効率0.015%と比較してやはり減少していることがわかる。
以上のように、本発明の回折格子部を適用した光学系において、画面外光束が入射した場合、設計次数を+1次から+3次にすることにより、図24、図10、図11に示す不要光の影響が大きいm格子の不要光を大幅に減少させることができる。更に不要光の影響が小さいm’格子の不要光についても減少させることができる。この結果、結像面に到達する不要光が小さくなるため、像性能の低下を抑制することができる。実際に、回折光学素子および光学系を作成し、実写したところ、像性能の低下を抑制することが確認できた。実施例1および実施例2に示したように本発明の回折格子部は設計次数を+2次以上とすることで、画面外入射光によって格子壁面に入射し、透過および反射して射出する光がより幾何学的現象に近づく。このため、不要光が像面に到達することが抑制され、像性能の低下を抑制することが可能となる。
[実施例3]
実施例3は回折格子の材料および格子部の格子高さが実施例1と異なった場合を用いた実施例である。本発明の回折格子部の具体的な構成は回折格子11を形成する格子形成材料に微粒子を混合させた紫外線硬化樹脂(nd=1.504、νd=16.3、θgF=0.390、n550=1.511)を用いている。また回折格子12を形成する格子形成材料に格子形成材料に微粒子を混合させた紫外線硬化樹脂(nd=1.567、νd=47.0、θgF=0.569、n550=1.570)を用いている。そして双方の格子部の格子高さdは18.57μm、設計次数は+2次とする。設計次数+1次の場合(格子高さが1/2)と比較して、設計次数+2次の場合は位相関数を1/2、格子ピッチを2倍としている。これより、設計次数+2次の+2次回折光の射出角度と設計次数の+1次の+1次回折光角の射出角度が等しくなり、回折格子部の設計次数の光学特性は同等となる。また、格子数についても1/2となる。
この回折格子部の設計入射角度である入射角度0度(図3の光線a)、格子ピッチ200μm、波長550nmにおけるRCWA計算を行った結果、設計次数である+2次回折光の回折効率は99.05%(回折角+0.20度)である。また、設計次数が+1次の場合(各回折格子材料が同じで格子高さが9.29μm、格子ピッチ100μm)の+1次回折光の回折効率は98.76%(回折角+0.20度)と同等以上であった。ただし、設計入射角度においては、日中の太陽等の高輝度光源を直接撮影することは稀であるため、設計次数+1次と+2次の不要光の差はほとんど影響しない。
この回折格子部の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の下向きに入射する光束(図3の光線b、図11の光線B)を想定して、入射角度+10度、格子ピッチ200μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を図20(A)に示す。また、設計次数が+1次の場合のRCWA計算結果を図20(B)に示す。図20(A)、図20(B)の縦軸は回折効率の低い部分を拡大し、横軸は回折角として高回折角度範囲について表示した結果である。不要光は図20(A)、図20(B)とも特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播していることがわかる。この不要光は略−10度方向にピークを持っており、この伝播方向は、格子面で+2次光に回折した後、格子壁面に入射する画面外入射角度+9.94度光束の成分が全反射にして伝播する射出方向−9.94度方向と略等しいことがわかる。格子壁面に対しては高屈折率材料側から低屈折率材料側に臨界角74.2度以上の+80.6度で入射するため全反射が発生している。この−10度方向の不要光ピーク角度について図20(A)と図20(B)はほぼ同じだが、不要光の角度の広がりが図20(A)のほうがピークが鋭く、不要光がピークに集中していることがわかる。つまり、設計次数が+1次と+2次では不要光の振る舞いが異なり、設計次数+2次のほうが幾何光学現象に近いことを意味している。この関係は実施例1の関係と同じである。図24、図10、図11に示すように、実際の光学系へ、上記回折格子部を適用した場合の画面外光束が入射した際の不要光は、設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.20度に略一致する画面外光束による不要光の回折光が像面に到達する。これより、図20(A)の回折角+0.20度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数−93(回折角+0.24度)の回折効率が0.0015%、回折次数−94(回折角+0.14度)の回折効率が0.0015%である。設計次数+1の場合は、回折次数−46(回折角+0.34度)の回折効率が0.014%、回折次数−44(回折角+0.14度)の回折効率が0.014%である。このため、設計次数+1次よりも大幅に減少していることがわかる。結像面に到達する不要光の数は設計次数+2次のときは設計次数+1次のときと比較すると2倍になる。このため、設計次数+2の回折角+0.21度付近の回折効率は3倍された0.0030%に換算されるが、設計次数+1の回折効率0.014%と比較するとやはり大幅に減少していることがわかる。
この回折格子部の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の上向きに入射する光束(図3の光線c、図11の光線B’)についてもRCWA計算を行った。設計次数の回折角0.20度にほぼ等しい回折角に射出する不要光の回折効率は回折次数+98(回折角+0.26度)の回折効率が0.0017%、回折次数+97(回折角+0.16度)の回折効率が0.0017%である。設計次数+1の場合は、回折次数+49(回折角+0.26度)の回折効率が0.0021%、回折次数+48(回折角+0.058度)の回折効率が0.0022%であるため、設計次数+1次よりも若干減少していることがわかる。結像面に到達する不要光の数は設計次数+2次のときは設計次数+1次のときと比較すると2倍になる。このため、設計次数+2の回折角+0.21度付近の回折効率は2倍された0.0034%に換算される。設計次数+1の回折効率0.0021%と比較する増加しているが、回折効率の数値が極めて小さいため、像性能の低下に対しての影響は小さい。
以上のように、本発明の回折格子部を適用した光学系において、画面外光束が入射した場合、設計次数を+1次から+2次にすることにより、図24、図10、図11に示す不要光の影響が大きいm格子の不要光を大幅に減少させることができる。更に不要光の影響が小さいm’格子の不要光を若干減少させることができる。この結果、結像面に到達する不要光が小さくなるため、像性能の低下を抑制することができる。実際に、回折光学素子および光学系を作成し、実写したところ、像性能の低下を抑制することが確認できた。
実施例3によって本発明の回折光学素子の回折格子材料や格子高さには限定されないことがわかる。微粒子材料としては、酸化物、金属、セラミックス、複合物、混合物のいずれかの無機微粒子材料が挙げられ、微粒子材料に限定されない。また、微粒子材料の平均粒子径は、回折格子部への入射光の波長(使用波長又は設計波長)の1/4以下であることが好ましい。これよりも粒子径が大きくなると、微粒子材料を樹脂材料に混合した際に、レイリー散乱が大きくなる可能性が生じる。また、上記微粒子材料を混合する樹脂材料としては、紫外線硬化樹脂であって、アクリル系、フッ素系、ビニル系、エポキシ系のいずれかの有機樹脂が挙げられ、これらの樹脂材料に限定されない。
[実施例4]
実施例4は回折格子の材料および格子部の格子高さが実施例1〜3と異なった場合を用いた実施例である。本発明の回折格子部の具体的な構成は回折格子11を形成する格子形成材料に微粒子を混合させた紫外線硬化樹脂(nd=1.682、νd=13.4、θgF=0.480、n550=1.694)を用いている。また回折格子12を形成する格子形成材料にガラスK−VC89(nd=1.810、νd=41.0、θgF=0.567、n550=1.814)を用いている。そして双方の格子部の格子高さdは18.57μm、設計次数は+2次とする。
設計次数+1次の場合(格子高さが1/2)と比較して、設計次数+2次の場合は位相関数を1/2、格子ピッチを2倍としている。これより、設計次数+2次の+2次回折光の射出角度と設計次数の+1次の+1次回折光角の射出角度が等しくなり、回折格子部の設計次数の光学特性は同等となる。また、格子数についても1/2となる。
この回折格子部の設計入射角度である入射角度0度(図3の光線a)、格子ピッチ200μm、波長550nmにおけるRCWA計算を行った結果、設計次数である+2次回折光の回折効率は99.37%(回折角+0.17度)である。また設計次数が+1次の場合(各回折格子材料が同じで格子高さが4.56μm、格子ピッチ100μm)の+1次回折光の回折効率は99.18%(回折角+0.17度)と同等以上であった。
この回折格子部の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の下向きに入射する光束(図3の光線b、図11の光線B)を想定して、入射角度+10度、格子ピッチ200μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を図20(C)に示す。また、設計次数が+1次の場合のRCWA計算結果を図20(D)に示す。図20(C)、図20(D)の縦軸は回折効率の低い部分を拡大し、横軸は回折角として高回折角度範囲について表示した結果である。不要光は図20(C)、図20(D)とも特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播していることがわかる。この不要光は略−10度方向にピークを持っており、この伝播方向は、格子面で+2次光に回折した後、格子壁面に入射する画面外入射角度+9.94度光束の成分が全反射にして伝播する射出方向−9.94度方向と略等しいことがわかる。
格子壁面に対しては高屈折率材料側から低屈折率材料側に臨界角69.0度以上の+80.6度で入射するため全反射が発生している。この−10度方向の不要光ピーク角度について図20(C)と図20(D)はほぼ同じだが、不要光の角度の広がりが図20(C)のほうがピークが鋭く、不要光がピークに集中していることがわかる。つまり、設計次数が+1次と+2次では不要光の振る舞いが異なり、設計次数+2次のほうが幾何光学現象に近いことを意味している。この関係は実施例1、3の関係と同じである。図24、図10、図11に示すように、実際の光学系へ、上記回折格子部を適用した場合の画面外光束が入射した際の不要光は次のとおりである。設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.17度に略一致する画面外光束による不要光の回折光が像面に到達する。
これより、図20(C)の回折角+0.17度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数−104(回折角+0.25度)の回折効率が0.0020%、回折次数−105(回折角+0.17度)の回折効率が0.0020%である。設計次数+1の場合は、回折次数−52(回折角+0.25度)の回折効率が0.0056%、回折次数−53(回折角+0.081度)の回折効率が0.0056%であるため、設計次数+1次よりも大幅に減少していることがわかる。結像面に到達する不要光の数は設計次数+2次のときは設計次数+1次のときと比較すると2倍になる。このため、設計次数+2の回折角+0.21度付近の回折効率は3倍された0.0040%に換算されるが、設計次数+1の回折効率0.0056%と比較するとやはり減少していることがわかる。
この回折格子部の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の上向きに入射する光束(図3の光線c、図11の光線B’)についてもRCWA計算を行った。設計次数の回折角0.17度にほぼ等しい回折角に射出する不要光の回折効率は回折次数+109(回折角+0.18度)の回折効率が0.00060%、回折次数+108(回折角+0.092度)の回折効率が0.00061%である。設計次数+1の場合は、回折次数+55(回折角+0.27度)の回折効率が0.0017%、回折次数+54(回折角+0.092度)の回折効率が0.0017%であるため、設計次数+1次よりも減少していることがわかる。結像面に到達する不要光の数は設計次数+2次のときは設計次数+1次のときと比較すると2倍になる。このため、設計次数+2の回折角+0.21度付近の回折効率は2倍された0.0012%に換算される。設計次数+1の回折効率0.0017%と比較してやはり減少していることがわかる。
以上のように、本発明の回折格子部を適用した光学系において、画面外光束が入射した場合、設計次数を+1次から+2次にすることにより、図24、図10、図11に示す不要光の影響が大きいm格子の不要光を大幅に減少させることができる。また、不要光の影響が小さいm’格子の不要光を減少させることができる。この結果、結像面に到達する不要光が小さくなるため、像性能の低下を抑制することができる。実際に、回折光学素子および光学系を作成し、実写したところ、像性能の低下を抑制することが確認できた。実施例4によって本発明の回折光学素子の回折格子材料や格子高さには依存しないことがわかり、これに限定されないことがわかる。
[実施例5]
実施例5は回折格子の材料および格子部の格子高さが実施例1〜4と異なった場合を用いた実施例である。本発明の回折格子部の具体的な構成は回折格子11を形成する格子形成材料に微粒子を混合させた紫外線硬化樹脂(nd=1.653、νd=9.6、θgF=0.37、n550=1.667)を用いている。また回折格子12を形成する格子形成材料に透明セラミックス(nd=1.83、νd=52、θgF=0.55、n550=1.836)を用いている。そして双方の格子部の格子高さdは6.51μm、設計次数は+2次とする。設計次数+1次の場合(格子高さが1/2)と比較して、設計次数+2次の場合は位相関数を1/2、格子ピッチを2倍としている。これより、設計次数+2次の+2次回折光の射出角度と設計次数の+1次の+1次回折光角の射出角度が等しくなり、回折格子部の設計次数の光学特性は同等となる。また、格子数についても1/2となる。
この回折格子部の設計入射角度である入射角度0度(図3の光線a)、格子ピッチ200μm、波長550nmにおけるRCWA計算を行った結果、設計次数である+2次回折光の回折効率は99.47%(回折角+0.17度)である。また設計次数が+1次の場合(各回折格子材料が同じで格子高さが3.26μm、格子ピッチ100μm)の+1次回折光の回折効率は99.30%(回折角+0.17度)と同等以上であった。
この回折格子部の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の下向きに入射する光束(図3の光線b、図11の光線B)を想定して、入射角度+10度、格子ピッチ200μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を図21(A)に示す。また、設計次数が+1次の場合のRCWA計算結果を図21(B)に示す。図21(A)、図21(B)の縦軸は回折効率の低い部分を拡大し、横軸は回折角として高回折角度範囲について表示した結果である。不要光は図21(A)、図21(B)とも特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播していることがわかる。
この不要光は略−10度方向にピークを持っており、この伝播方向は、格子面で+2次光に回折した後、格子壁面に入射する画面外入射角度+9.94度光束の成分が全反射にして伝播する射出方向−9.94度方向と略等しいことがわかる。格子壁面に対しては高屈折率材料側から低屈折率材料側に臨界角65.2度以上の+80.6度で入射するため全反射が発生している。この−10度方向の不要光ピーク角度について図21(A)と図21(B)はほぼ同じだが、不要光の角度の広がりが図24のほうがピークが鋭く、不要光がピークに集中していることがわかる。
つまり、設計次数が+1次と+2次では不要光の振る舞いが異なり、設計次数+2次のほうが幾何光学現象に近いことを意味している。この関係は実施例1、3、4の関係と同じである。図24、図10、図11に示すように、実際の光学系へ、上記回折格子部を適用した場合の画面外光束が入射した際の不要光は次のとおりである。設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.17度に略一致する画面外光束による不要光の回折光が像面に到達する。これより、図21(A)の回折角+0.17度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数−103(回折角+0.20度)の回折効率が0.0017%、回折次数−104(回折角+0.11度)の回折効率が0.0017%である。設計次数+1の場合は、回折次数−51(回折角+0.28度)の回折効率が0.0036%、回折次数−52(回折角+0.11度)の回折効率が0.0037%であるため、設計次数+1次よりも減少していることがわかる。結像面に到達する不要光の数は設計次数+2次のときは設計次数+1次のときと比較すると2倍になる。このため、設計次数+2の回折角+0.21度付近の回折効率は3倍された0.0034%に換算されるが、設計次数+1の回折効率0.0037%と比較するとやはり減少していることがわかる。
この回折格子部の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の上向きに入射する光束(図3の光線c、図11の光線B’)についてもRCWA計算を行った。設計次数の回折角0.17度にほぼ等しい回折角に射出する不要光の回折効率は回折次数+108(回折角+0.23度)の回折効率が0.00067%、回折次数+107(回折角+0.15度)の回折効率が0.00068%である。設計次数+1の場合は、回折次数+54(回折角+0.23度)の回折効率が0.0014%、回折次数+53(回折角+0.062度)の回折効率が0.0014%であるため、設計次数+1次よりも減少していることがわかる。結像面に到達する不要光の数は設計次数+2次のときは設計次数+1次のときと比較すると2倍になる。このため、設計次数+2の回折角+0.21度付近の回折効率は2倍された0.0014%に換算される。設計次数+1の回折効率0.0014%と比較してほぼ同等となっていることがわかる。
以上のように、本発明の回折格子部を適用した光学系において、画面外光束が入射した場合、設計次数を+1次から+2次にすることにより、図24、図10、図11に示す不要光の影響が大きいm格子の不要光を減少させることができる。また、不要光の影響が小さいm’格子の不要光を減少させることができる。この結果、結像面に到達する不要光が小さくなるため、像性能の低下を抑制することができる。実施例5によって本発明の回折光学素子の回折格子材料や格子高さには依存しないことがわかり、これに限定されないことがわかる。
[実施例6]
実施例6は回折格子の材料および格子部の格子高さが実施例1〜5と異なった場合を用いた実施例である。本発明の回折格子部の具体的な構成は回折格子11を形成する格子形成材料に微粒子を混合させた紫外線硬化樹脂(nd=1.685、νd=7.1、θgF=0.30、n550=1.709)を用いている。また回折格子12を形成する格子形成材料に透明セラミックス(nd=1.92、νd=36、θgF=0.57、n550=1.922)を用いている。
そして双方の格子部の格子高さdは7.76μm、設計次数は+3次とする。設計次数が+1次の場合(格子高さが1/3)と比較して、設計次数+3次の場合は位相関数を1/3、格子ピッチを2倍としている。これより、設計次数+3次の+3次回折光の射出角度と設計次数の+1次の+1次回折光角の射出角度が等しくなり、回折格子部の設計次数の光学特性は同等となる。また、格子数についても1/2となる。また、設計次数+2次についても同様である。
この回折格子部の設計入射角度である入射角度0度(図3の光線a)、格子ピッチ300μm、波長550nmにおけるRCWA計算を行った結果、設計次数である+3次回折光の回折効率は99.60%(回折角+0.16度)である。また、設計次数が+2次の場合(各回折格子材料が同じで格子高さが5.18μm、格子ピッチ200μm)の+2次回折光の回折効率は99.53%(回折角+0.16度)であった。また設計次数が+1次の場合(各回折格子材料が同じで格子高さが2.59μm、格子ピッチ100μm)の+1次回折光の回折効率は99.38%(回折角+0.17度)と同等以上であった。
この回折格子部の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の下向きに入射する光束(図3の光線b、図11の光線B)を想定して、入射角度+10度、格子ピッチ300μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を図21(C)に示す。また、設計次数が+2次、+1次の場合のRCWA計算結果をそれぞれ図22(A)、図22(B)に示す。図21(C)〜図22(B)の縦軸は回折効率の低い部分を拡大し、横軸は回折角として高回折角度範囲について表示した結果である。不要光は図21(C)〜図22(B)とも特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播していることがわかる。
この不要光は略−10度方向にピークを持っており、この伝播方向は、格子面で+3次光に回折した後、格子壁面に入射する画面外入射角度+9.94度光束の成分が全反射にして伝播する射出方向−9.94度方向と略等しいことがわかる。格子壁面に対しては高屈折率材料側から低屈折率材料側に臨界角62.8度以上の+80.6度で入射するため全反射が発生している。この−10度方向の不要光ピーク角度について図21(C)〜図22(B)はほぼ同じだが、不要光の角度の広がりが設計次数が大きいほうがピークが鋭く、不要光がピークに集中していることがわかる。つまり、設計次数が異なると不要光の振る舞いが異なり、設計次数が大きいほうが幾何光学現象に近いことを意味している。この関係は実施例1〜5の関係と同じである。
図24、図10、図11に示すように、実際の光学系へ、上記回折格子部を適用した場合の画面外光束が入射した際の不要光は次のとおりである。設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.16度に略一致する画面外光束による不要光の回折光が像面に到達する。これより、図21(C)〜図22(B)の回折角+0.16度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数−158(回折角+0.21度)の回折効率が0.00074%である。また回折次数−159(回折角+0.16度)の回折効率が0.00074%である。設計次数+2の場合は、回折次数−105(回折角+0.24度)の回折効率が0.0013%である。また回折次数−106(回折角+0.16度)の回折効率が0.0013%である。また設計次数+1の場合は、回折次数−52(回折角+0.32度)の回折効率が0.0027%である。また回折次数−53(回折角+0.16度)の回折効率が0.0027%である。以上より、設計次数+2次、+1次よりも減少していることがわかる。結像面に到達する不要光の数は設計次数+3次のときは設計次数+1次のときと比較すると3倍になる。このため、設計次数+3の回折角+0.21度付近の回折効率は3倍された0.0022%に換算されるが、設計次数+1の回折効率0.0027%と比較するとやはり減少していることがわかる。設計次数+2の回折角+0.21度付近の回折効率は2倍された0.0027%に換算され、設計次数+1の回折効率0.0027%と比較するとほぼ同等になっていることがわかる。
この回折格子部の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の上向きに入射する光束(図3の光線c、図11の光線B’)についてもRCWA計算を行った。設計次数の回折角0.17度にほぼ等しい回折角に射出する不要光の回折効率は回折次数+165(回折角+0.17度)の回折効率が0.00034%、回折次数+164(回折角+0.11度)の回折効率が0.00035%である。設計次数+2の場合は、回折次数+110(回折角+0.17度)の回折効率が0.00061%、回折次数+109(回折角+0.088度)の回折効率が0.00061%である。また設計次数+1の場合は、回折次数+55(回折角+0.17度)の回折効率が0.0012%である。回折次数+54(回折角+0.056度)の回折効率が0.0012%である。以上より、設計次数+2次、+1次よりも減少していることがわかる。結像面に到達する不要光の数は設計次数+3次のときは設計次数+1次のときと比較すると3倍になる。このため、設計次数+3の回折角+0.21度付近の回折効率は3倍された0.0010%に換算される。そして設計次数+2の回折角+0.21度付近の回折効率は2倍された0.0012%に換算され、設計次数+1の回折効率0.0012%と比較するとほぼ同等になっていることがわかる。
以上のように、本発明の回折格子部を適用した光学系において、画面外光束が入射した場合、設計次数を大きくすることにより、図24、図10、図11に示す不要光の影響が大きいm格子の不要光を減少させることができる。また、不要光の影響が小さいm’格子の不要光を減少させることができる。この結果、結像面に到達する不要光が小さくなるため、像性能の低下を抑制することができる。
実施例6において、格子厚が低い場合には設計次数+2でも結像面に到達する画面外光による不要光の換算回折効率(結像面到達する回折光の効率×設計次数)が設計次数+1に対して低くならず不要光を低減する効果が得られないことがわかる。このため、本発明の回折格子部は設計次数が+2次以上であって、且つ格子高さは6μm以上であることが好ましいことになる。
また、実施例1〜6において設計次数+2次の回折格子部における入射角度+10度入射する画面外光束のRCWA計算結果の図13、図20(A)、図20(C)、図21(A)、図22(A)をみると、次のことがわかる。格子部の格子高さが低くなっていくにつれて設計次数が+2次であっても不要光のピークが集中しなくなってゆくことがわかる。本発明の重要な点は不要光がピークに集中することを用いて、結像面に到達する不要光を低減させることである。実施例6においては設計次数が大きくなるほど設計回折光が伝播する回折角度に略一致する画面外光による不要光の回折効率は減少している。
しかし、回折格子部の後の光学系、絞りの位置によって画面外入射光の不要光が像面に到達する回折次数、回折角度が異なる。このため、より多くの光学系への応用に対しては、不要光のピークを集中させ、幾何光学的現象に近づかせることにより、不要光を制御できる構成のほうがより好ましい。不要光の制御に関しては回折格子の格子壁面の角度を主光線方向からシフトさせる、格子壁面の角度を徐々に変化させる、格子壁面の形状を階段状にさせる、等により、不要光を制御することが可能となる。例えば格子壁面の形状が中心領域から周辺領域で変化するようにしている。
この結果、より多くの光学系に対して、結像面に到達する不要光を抑制することができる。以上のために、不要光のピークの集中を考慮した場合、RCWA計算結果において設計次数の回折角(+10度)と不要光ピーク角度(−10度)が分離し、その間に極小点を有することが好ましい。この点からも、図21(A)と図22(A)を比較し、本発明の回折格子部は設計次数が+2次以上であって、且つ格子高さは6μm以上であることが好ましいことになる。
一方、可視波長帯域全域で、設計入射角度光束に対する設計次数であるm次の回折光の回折効率を高くすることが必要である。そのためには回折格子の光学光路長の差を波長の積で割った式(11)
{n2(λ)−n1(λ)}×d/λ ‥‥‥(11)
の値が以下の式を満たすことが好ましい。
n1(λ)<n2(λ)
−6.667E−04×m4+1.000E−02×m3−5.667E−04×m2+1.500E−01×m+0.8173≦{n2(λ)−n1(λ)}×d/λ≦+6.667E−04×m4−1.000E−02×m3+5.667E−04×m2−1.500E−01×m+1.183 ‥‥‥(12)
ただし、mは設計次数で2以上の整数、dは格子高さ、n1(λ)は前記回折格子部の第1の回折格子を構成する材料の波長λにおける屈折率である。n2(λ)は前記回折光学素子の第2の回折格子を構成する材料の波長λにおける屈折率、λは可視波長帯域の任意の波長である。この範囲であれば、設計次数+1、格子ピッチ100μmの場合の厳密波動計算では回折効率が97%以上となる。これは設計次数mが大きいほど(11)式のパラメータ(屈折率、格子厚、波長)が変化した場合の回折効率の低下が大きいため、(12)式は設計次数mに依存した式となる。ここで、格子ピッチの広い輪帯においては壁面の寄与が小さくなるため、設計次数の回折効率は高く、不要光の回折効率は低くなる。このため、ひとつの基準として設計次数+1、格子ピッチ100μmの回折効率を示しており、格子ピッチ100μmの場合の厳密電磁場計算では回折効率が97%以上であれば設計入射角度における不要光の低減については像性能に問題はない。この(12)式の範囲を超えると設計次数の回折効率が低下し、不要回折効率が増加してしまうため、好ましくない。さらに、前記回折光学素子が以下の式を満足することがより好ましい。
−5.000E−04×m4+7.500E−02×m3−4.250E−04×m2+1.125E−01×m+0.863≦{n2(λ)−n1(λ)}×d/λ≦+5.000E−04×m4−7.500E−02×m3+4.250E−04×m2−1.125E−01×m+1.137 ‥‥‥(13)
この範囲であれば、設計次数+1、格子ピッチ100μmの場合の厳密電磁場計算では回折効率が98%以上となるため、より好ましい。
また、必ずしも全ての輪帯を設計次数+2以上にする必要はなく、輪帯の一部としても良い。この際、図25のように最小格子ピッチを含む一部の設計次数を+2以上にすることが有効である。これは格子ピッチが小さい回折格子は不要光の回折効率が大きいため、回折光学素子全体で発生する不要光の寄与が大きいためである。
以上述べた実施例1〜6の実施例について、表1〜3を用いて説明する。表1〜3に記載したのは、実施例1〜6の回折格子部に用いられる第1の回折格子の材料およびその材料のd線での屈折率nd1およびアッベ数νd1およびg線とF線に対する部分分散比θgF1および波長550nmの屈折率n1_550である。また第2の回折格子の材料およびその材料のd線での屈折率nd2およびアッベ数νd2および波長550nmの屈折率n2_550である。また、実施例1〜6の回折格子部の格子高さd、波長550nmにおける、設計入射角0度の光束の設計次数、設計回折角、RCWA計算によるピッチ100μmにおける回折効率である。画面+10度入射光束に対する結像面到達回折光の回折次数、回折角、RCWA計算による回折効率、結像面に到達する画面外光による不要光の換算回折効率(結像面到達する回折光の効率×設計次数)、条件式(11)の値である。表1は実施例1〜3、表2は実施例4〜5、表3は実施例6の表である。
実施例1〜6に示したように、画面外+10度入射光束によって不要光が発生し、結像面に到達する次数の回折効率が+2次以上且つ格子高さが6μm以上においての換算回折効率小さいことがわかる。一方、可視波長帯域全域で、設計入射角度光束に対する設計次数であるm次の回折光の回折効率を高くするための(11)式の数値範囲が(12)式の範囲内であることがわかる。また、この回折格子部の材料は、第1の回折格子11を形成する材料のアッベ数νd1と、第2の回折格子12を形成する材料のアッベ数νd2を
νd1≦25
30≦νd2
とすることが好ましい。この範囲を超えてしまうと、可視域全域において高回折効率が得られなくなるため好ましくない。さらに、第1の回折格子11の部分分散比θgF1は以下の式を満足していることが好ましい。
θgF1≦(−1.665E−07×νd13+5.213E−05×νd12−5.656E−03×νd1+0.675) ‥‥‥(14)
部分分散比θgF1がこの(14)式の範囲を超えると可視域全域に対して+1次光の回折効率は劣化するため、この(14)式を満足することが好ましい。
[実施例7]
本発明の回折光学素子を用いた光学系の実施例7の概略図23(A)に示す。図23(A)はカメラ等の撮影光学系(撮影レンズ)の断面を示したものである。同図中、101は撮影レンズで、内部に絞り40と本発明の前述した各実施例の回折光学素子1と屈折光学部を有している。絞り40は回折光学素子1の像側に配置されている。41は結像面であるフィルムまたはCCDが配置されている。回折光学素子1の回折格子部に入射する光束の入射角の分布の重心(図形の重心と同じ)が包絡面の回折格子の中心での面法線に対し、回折格子部の中心よりに分布するようにしている。
本発明の回折格子部を適用すれば、格子壁面に光束が入射した場合でも、不要光の発生が大幅に改善されているので、フレアが少なく解像力も高い高性能な撮影レンズが得られる。また本発明の回折光学素子は、簡単な製法で作成できるので、撮影光学系としては量産性に優れた光学系が提供できる。図23(A)では前玉のレンズの貼り合せ面に回折光学素子1を設けたが、これに限定するものではなく、レンズ表面に設けても良いし、撮影レンズ内に複数、回折光学素子を使用しても良い。また本実施例では、カメラの撮影レンズの場合を示したが、これに限定するものではなくビデオカメラの撮影レンズ、事務機のイメージスキャナーやデジタル複写機のリーダーレンズなど広波長域で使用される光学機器の結像光学系に使用しても同様の効果が得られる。
[実施例8]
本発明の回折光学素子を用いた光学系の実施例8を概略を図23(B)に示す。図23(B)は、双眼鏡等の観察光学系の断面を示したものである。同図中1は回折光学素子より成る対物レンズ、104は像を正立させるための像反転手段としてのプリズム、105は接眼レンズ、106は評価面(瞳面)である。回折光学素子1は結像面41での色収差等を補正する目的で使用されている。本発明の回折光学素子を適用すれば、格子壁面に光束が入射した場合でも、不要光の発生が大幅に改善されているので、フレアが少なく解像力も高い高性能な対物レンズが得られる。また本発明の回折光学素子は、簡単な製法で作成できるので、観察光学系としては量産性に優れた光学系が提供できる。
本実施例では、対物レンズ1として回折光学素子を用いた場合を示したが、これに限定するものではなく、プリズム表面や接眼レンズ内の位置に用いても同様の効果が得られる。結像面より物体側に設けると、対物レンズのみでの色収差低減の効果があるため、肉眼の観察系の場合には少なくとも対物レンズ側に設けることが望ましい。また本実施例では、双眼鏡の場合を示したが、これに限定するものではなく地上望遠鏡や天体観測用望遠鏡などであってもよく、またレンズシャッターカメラやビデオカメラなどの光学式のファインダーであっても同様の効果が得られる。