まず、本実施例に比較される比較例1について説明する。
(比較例1)
図1は、比較例としての回折光学素子(DOE)1の正面図及び側面図である。DOE1は平板又は曲面より成る基板レンズ2、3の光軸方向において互いに向かい合う面に回折格子部10を有する。回折格子部10は光軸Oを中心とした同心円状の回折格子形状からなり、レンズ作用を有している。
図2は、図1のA−A′線に沿った部分拡大断面図であり、便宜上、基板レンズ2、3の回折格子部10が形成される面を平面としている。回折格子部10は、材料11で構成される回折格子と材料12で構成される回折格子が密着されることによって形成されている。このように、2つの回折格子を密着配置し、各回折格子を構成する材料に低屈折率高分散材料と高屈折率低分散材料を用い、回折格子の高さを適切に設定したDOEを以下、「密着2層DOE」と呼ぶ。密着2層DOEは、一般に、特定の次数の回折光に対して広い波長帯域で高い回折効率を実現することができる。
DOE1の各回折格子は格子面と格子壁面から構成される同心円状のブレーズ構造を有する。光軸Oから外周部にいくに従って格子ピッチを徐々に変化させることによって、レンズ作用(光の収斂作用や発散作用)を奏することができる。格子面および格子壁面は互いに隙間なく接し、全体で1つのDOEとして作用する。ブレーズ構造にすることによってDOE1に入射した入射光は、回折格子部10で回折せずに透過する0次回折方向に対し、特定の回折次数(図では+1次)方向に集中して回折する。
DOE1の使用波長域(「設計波長域」とも呼ばれる)は可視波長域であり、可視波長域全体で+1次回折光の回折効率が高くなるように、互いに異なる材料11,12及び格子高さが選択されている。
図2に示す密着2層DOEにおいて、使用波長λにおいてある次数の回折光の回折効率を最大にするために、スカラー回折理論に従い、格子部の最大光路長差を回折格子全体に亘って加算した値が設計波長の整数倍になるように決定する。回折格子のベース面(回折面)に垂直に入射し、波長が設計波長λである光線に対して、回折次数mの回折光の回折効率が最大となる条件は次式で与えられる。
数式1において、n11は材料11の設計波長λでの屈折率、n12は材料12の設計波長λでの屈折率、d1は回折格子の格子高さ、mは回折次数である。ここで、図2に示す0次回折光よりも下向きに回折する光線の回折次数を正の回折次数とし、0次回折光よりも上向きに回折する光線の回折次数を負の回折次数とする。
数式1の格子高さの正負の符号は、n11<n12で、かつ、図2の下から上に向かって材料11の格子高さが増加する(材料12の格子高さが減少する)場合は正となる。また、n11>n12で、かつ、図2の下から上に向かって材料11の格子高さが減少する(材料12の格子高さが増加する)場合は負となる。
図2に示すDOEにおいて、使用波長λでの回折効率η(λ)は次式で与えられる。
数式2のφ0は次式で与えられる。
材料11に低屈折率高分散材料,材料12に高屈折率高分散材料を用い、格子高さを適切に設定することによって、使用波長域の全域で高い回折効率を得ることができる。
RCWAによってDOEを計算すると、格子壁面による振る舞いが回折次数に換算され、高次の回折光として計算することができる。なお、RCWA計算においての計算次数は不要回折光が無視できるほど十分に収束する次数以上とし、レベル数(回折格子分割段数)はレベル数に応じた回折光が計算誤差として発生してしまうため、計算次数以上としている。
材料11はITO微粒子を混合させたフッ素アクリル系紫外線硬化樹脂(nd=1.5045、νd=16.3、θgF=0.390、n550=1.5111)からなる。材料12はZrO2微粒子を混合させたアクリル系紫外線硬化樹脂(nd=1.5677、νd=47.0、θgF=0.569、n550=1.5704)からなる。θgFはg線とF線に対する部分分散比、n550は波長550nmにおける屈折率である。格子高さdは9.29μm、設計次数は+1次である。なお、設計次数は0ではない。
図3は、このDOEの設計入射角度である入射角度0度(図2のa)、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を示すグラフである。図3(a)は設計次数である+1次回折光付近での回折効率である。横軸は回折次数、縦軸は回折効率(%)である。図3(b)は図3(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。横軸は回折角(度)であり、縦軸は回折効率(%)である。回折角は図2の下向きを正としている。
図3(a)から設計次数である+1次回折光に回折効率が集中しているが、回折効率は98.76%(回折次数+1次、回折角0.20度)で100%になっていない。残りの光は、図3(b)に示すように、特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播している。
図4は、DOEの設計入射光束に対する不要光の伝播の様子を示す模式図である。図4に示すように、格子壁面付近に入射する入射光束の成分a1は格子壁面において高屈折率材料側(材料12側)に回り込み(回折現象)、これによって不要光が伝搬すると考えられる。しかし、この設計入射角度(撮影光入射角度)において日中の太陽等の高輝度光源を直接撮影することは稀であるため、この不要光はほとんど影響せず、問題とはならない。
図5は、このDOEの設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の下向きに入射する光束(図2のb)を想定して、入射角度+10度、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を示すグラフである。入射角は図2の下向きを正としている。
図5(a)は設計次数である+1次回折光付近での回折効率である。横軸は回折次数、縦軸は回折効率(%)である。図5(b)は図5(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。横軸は回折角(度)であり、縦軸は回折効率(%)である。回折角は図2の下向きを正としている。
図5(a)において、設計次数である+1次回折光に回折効率は集中しているが、回折効率は97.15%(回折次数+1次、回折角+9.94度)で設計入射角度0度より低下している。この+1次回折光は像面に到達することはないため影響は小さい。
残りの不要光は、図5(b)に示すように、特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播し、略−10度方向にピークを持つ。また、伝播方向は格子壁面に入射する画面外入射角度+9.94度光束の成分が全反射にして伝播する射出方向−9.94度方向と略等しい。
格子壁面に対しては高屈折率材料側から低屈折率材料側に臨界角74.2度以上の+80.06度で入射するため光束は全反射している。図6は、DOEの画面外入射+10度光束に対する不要光の伝播の様子を示す模式図である。不要光は略−10度方向のピークから高角度範囲に広がっている。これは、図6に示すように、入射光束のうち格子面で回折した後、格子壁面付近に入射する成分b1が格子壁面において全反射して−10度方向に伝播し、全反射射出方向中心に不要光が広がって伝播していると考えられるからである。
不要光は、回折角0度付近(図6のb2)まで広がっている。回折角0度(図6のb1)は設計入射角0度(図2のa)による+1次回折光の回折角0.20度(図2の+1次光)にほぼ等しい。このため、画面外光+10度入射の不要光のうち、回折角+0.20度付近に射出する不要光が像面に到達する。
DOEの後段の光学系によって画面外入射光の不要光が像面に到達する回折次数や回折角度は異なるが、いかなる光学系であっても少なくとも設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度に略一致する画面外光による不要光の回折光は像面に到達する。このため、像性能の低下を招くことになる。
図7は、このDOEの設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の上向きに入射する光束(図2のc)を想定して、入射角度−10度、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を示すグラフである。入射角は図2の下向きを正としている。
図7(a)は設計次数である+1次回折光付近での回折効率である。横軸は回折次数、縦軸は回折効率(%)である。図7(b)は図7(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。横軸は回折角(度)であり、縦軸は回折効率(%)である。回折角は図2の下向きを正としている。
図7(a)において、設計次数である+1次回折光に回折効率は集中しているが、回折効率は97.00%(回折次数+1次、回折角−9.42度)で設計入射角度0度より低下している。
残りの不要光は、図7(b)に示すように、特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播している。この不要光は略−17度方向、略+10度方向にピークを持ち、伝播方向は格子壁面に入射する画面外入射角度−10度光束の透過光の射出方向−18.6度と壁面による反射光の射出方向+9.5度に略等しい。また、格子壁面に対しては低屈折率材料側から高屈折率材料側に+80度で入射するため、透過光の透過率は91%、反射光の反射光は9%であり、略−17度方向のピークが大きく、略+10度方向のピークが小さいことと対応している。
図8は、このDOEの画面外入射−10度光束に対する不要光の伝播の様子を示す模式図である。不要光はピークから高角度範囲に広がっている。これは、図8に示すように、格子壁面付近に入射する入射光束の成分c1が格子壁面において透過光と反射光に別れて伝播し、さらに各ピークを中心に広がって伝播していると考えられるからである。不要光は、回折角0度付近まで広がっておらず、回折効率の数値も極小のため、画面外光−10度入射の不要光が像面に到達し像性能を低下させる影響は小さい。
従来の手法は格子壁面に入射する光束を幾何光学現象として扱い、その場合は格子壁面に入射する光はスネルの法則に従って特定の方向にのみ射出し伝播することになる。しかしながら、格子面と格子壁面を同時に厳密電磁場計算を行うと格子壁面に入射して射出する光はスネルの法則による射出方向と略一致するが、完全にはスネルの法則に従わず、射出光が広がりをもって射出することがわかった。
なお、ここでは一つの基準として格子ピッチ100μmの回折効率に着目している。さらに格子ピッチの広い輪帯においては壁面の寄与が小さくなるため、設計次数の回折効率は高く、不要光の回折効率は低くなる。また、図示していないが、この不要光の伝播方向については格子ピッチに依存せず、伝播方向は同じであった。
次に、実際の光学系へ、DOE1を適用した場合の画面外光が入射した際の不要光について説明する。図9はDOE1を用いた望遠タイプの撮影光学系の光路図であり、焦点距離f=392.00mm、fno=4.12、半画角3.16度であり、第2面に回折面が設けられている。図10は、図9の光学系におけるDOE1の不要光の模式図である。図11は、DOE1の部分拡大断面図である。
格子形状を分かりやすくするために、図11は格子深さ方向にかなりデフォルメされた図となっている。また、格子数も実際よりは少なく描かれている。図10、図11において、光軸Oに対して入射角ωで入射した画面外光束Bu,Bdは、DOE1の基板レンズ2を通過後、それぞれ光軸Oから図の上方向に数えてm番目の回折格子であるmu格子、図の下方向に数えてm番目の回折格子であるmd格子に入射する。画面外光束Bu,Bdのmu格子、md格子に対しての入射角度はそれぞれの格子に入射する撮影光束の角度中心方向に対して角度ωiu、ωidである。また、格子壁面方向はそれぞれの格子に入射する撮影光束の角度中心方向と等しいと仮定している。
ここでは画面外光束Bu,Bdの入射角は画面外+10度(光軸方向に対しては入射角ωは+13.16度)を想定している。この入射角度より小さい角度ではレンズ表面や結像面反射によるゴーストやレンズ内部、表面微小凹凸による散乱が多いため回折光学素子の不要光は比較的目立たない。また、この入射角度より大きい角度では、前側レンズ面の反射やレンズ鏡筒による遮光によりDOEの不要光の影響度は比較的小さいからである。
mu格子は図中下から上に材料11の格子高さが増加する(材料12の格子高さが減少する)格子形状で、入射した画面外入射光束Buは下向きに入射する光束である。格子に対する入射角度ωiuは略+10度となる。
このmu格子と画面外入射光束Buの関係は図5、図6の関係に相当し、格子壁面1buで全反射射出方向中心に不要光が広がって伝播することになる。不要光は、図6に示すように、設計入射角0度による+1次回折光の回折角にほぼ等しい回折角+0.21度付近まで広がっている。このため、画面外光10度入射の不要光のうち、回折角+0.21度付近に射出する不要光(図10のBum)が結像面41に到達する。
回折角0度付近の回折効率は図5から、回折次数−46次(回折角+0.34度)の回折効率が0.014%、回折次数−47次(回折角+0.14度)の回折効率が0.014%である。この回折効率の数値は低い値であるが、日中の太陽などの高輝度光源が撮影時に画面外にあった場合には影響は無視できなくなる。
画面外光+10度入射の不要光のうち、回折角0度より低い角度に射出する不要光(図10のBum−、不要光のピーク)は絞り40で遮光され、結像面41に到達しない。逆に、画面外光+10度入射の不要光のうち、回折角0度より高い角度に射出する不要光で、且つ結像面41の最大像高位置に到達する不要光(図10のBum+)までが結像面41に到達する。
なお、DOEの後の光学系、絞りの位置によって画面外入射光の不要光が像面に到達する回折次数や回折角度(図10のBum−〜Bum〜Bum+の関係)は異なる。しかしながら、いかなる光学系であっても少なくとも設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度に略一致する画面外光による不要光の回折光(図10のBum)は像面に到達するため、像性能の低下を招く。
md格子は図中下から上に材料11の格子高さが減少する(材料12の格子高さが増加する)格子形状で、入射した画面外入射光束Bdは下向きに入射する光束である。格子に対する入射角度ωidは略+10度となる。
このmd格子と画面外入射光束Bdの関係は図7、図8の上下を逆にした場合であるため、図7、図8の関係に相当し、格子壁面1bdで透過光射出方向中心と反射光射出方向中心に不要光が広がって伝播し、透過光射出方向の不要光が大きくなる。
不要光は、図7に示すように、設計入射角0度による+1次回折光の回折角にほぼ等しい回折角0度付近まで広がっていない。このため、画面外光10度入射の不要光のうち、回折角0度付近に射出する不要光(図10のBdm)が結像面41に到達するが、回折効率の数値は極小である。具体的には、図7から、回折次数+49次(回折角+0.26度)の回折効率が0.0021%、回折次数+48次(回折角+0.06度)の回折効率が0.0022%である。この回折効率の数値は日中の太陽などの高輝度光源があった場合においても影響は小さい。
画面外光+10度入射の不要光のうち、回折角0度より低い角度に射出する不要光(図10のBdm−、+1次回折光および不要光ピーク)は絞り40で遮光され、結像面41に到達しない。逆に、画面外光+10度入射の不要光のうち、回折角0度より高い角度に射出する不要光で、且つ結像面41の最大像高位置に到達する不要光(図10のBdm+)までが結像面41に到達する。
なお、DOEの後の光学系、絞りの位置によって画面外入射光の不要光が像面に到達する回折次数、回折角度(図10のBdm−〜Bdm〜Bdm+の関係)は異なる。しかし、いかなる光学系であっても少なくとも設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度に略一致する画面外光による不要光の回折光(図10のBdm)は像面に到達する。md格子では回折角0度付近に射出する不要光(図10のBdm)の広がりが小さく、回折効率の値は極小のため影響は小さい。
このように、DOE100を有する光学系に画面外入射角が略10度の光束が入射した場合、mu格子による回折角0度付近に射出する不要光が大きくmd格子による回折角0度付近に射出する不要光が小さい。このため、像性能の低下に対してはmu格子の寄与が大きくなる。実際にDOE100および光学系を作成し、実写したところ、像面に不要光が到達し、像性能の低下が確認できた。
従来の手法は格子壁面に入射する光束を幾何光学現象として扱っているが、その場合は格子壁面に入射する光はスネルの法則に従って特定の方向にのみ射出し伝播することになる。図9に示す光学系では、従来の手法ではmu格子では全反射のみ、md格子では91%の透過光および9%の反射光が発生するが、その場合はいずれも絞り40で遮光されるため結像面41へ到達しないことになる。以上のように、従来の手法では不要光の発生原因を十分に把握することができず、不要光の抑制に対しては不十分であった。
以下、本発明の実施例について説明する。
図12は、実施例1のDOE100の正面図及び側面図である。DOE100は平板又は曲面より成る基板レンズ120、130の光軸方向に互いに隣り合う面に回折格子部150を有する。本実施例では、回折格子部150が形成されている基板レンズ120、130の面は曲面となっている。回折格子部150は光軸Oを中心とした同心円状の回折格子形状からなり、レンズ作用を有している。
図13は、図12の回折格子部150の部分拡大斜視図である。便宜上、図13は格子深さ方向にデフォルメされ、格子数も実際よりは少なく描かれている。回折格子部150は、複数の回折格子を積層近接配置し、各回折格子を構成する材料や各回折格子の高さを適切に設定したDOEであり、このようなDOEを以下、「積層DOE」と呼ぶ。
具体的には、回折格子部150は、第1の回折格子と第2の回折格子が近接配置(積層)した積層DOEである。第1の回折格子は、材料(第1の材料)151で構成される回折格子の格子境界面と材料(第2の材料)152で構成される回折格子の格子境界面が密着されたDOEである。第2の回折格子は、材料152で構成される回折格子の格子境界面と材料(第3の材料)153で構成される回折格子が密着されたDOEである。
各回折格子は格子面と格子壁面から構成される同心円状のブレーズ構造を有する。光軸Oから外周部にいくに従って格子ピッチを徐々に変化させることによって、レンズ作用(光の収斂作用や発散作用)を奏することができる。
また、第1および第2の回折格子は格子面および格子壁面が互いに隙間なく接しており、全体で1つのDOEとして作用する。ブレーズ構造にすることによってDOE100に入射した入射光は、回折格子部150で透過する0次回折方向に対し、特定の回折次数(図では+1次)方向に集中して回折する。
図14は、DOE100の部分拡大断面図である。便宜上、図14は格子深さ方向にデフォルメされ、格子数も実際よりは少なく描かれている。図15は図14の拡大図であり、便宜上、基板レンズ120、130の回折格子部150が形成される面を平面としている。
DOE100の使用波長域は可視波長域であり、可視波長域全体で+1次回折光の回折効率が高くなるように、材料151,152、153及び格子高さd1、d2が選択されている。
図15に示す積層DOEにおいて、使用波長λにおいてある次数の回折光の回折効率を最大にするために、スカラー回折理論に従い、格子部の最大光路長差を回折格子全体に亘って加算した値が設計波長の整数倍になるように決定する。回折格子のベース面に垂直に入射し、波長が設計波長λである光線(図15のa)に対して、回折次数mの回折光の回折効率が最大となる条件は次式で与えられる。
数式4において、n151は材料151の設計波長λでの屈折率、n152は材料152の設計波長λでの屈折率、n153は材料153の設計波長λでの屈折率、d1、d2は第1、第2の回折格子の格子高さであり、mは回折次数である。
ここで、図15に示す0次回折光よりも下向きに回折する光線の回折次数を正の回折次数とし、0次回折光よりも上向きに回折する光線の回折次数を負の回折次数とする。屈折率n151,n152、n153がn151>n152、n152<n153を満足する。図15の下から上に向かって材料151の格子高さが減少する(材料152の格子高さが増加する)場合はd1、d2共に負になる。
図15に示す構造において、使用波長λでの回折効率η(λ)は次式で与えられる。
数式5中のm1、m2、φ1、φ2は、次式で表すことができる。
可視領域全体で設計次数の回折光の回折効率が高くなるように、材料151、152、153及び格子高さd1、d2を選択している。すなわち、複数の回折格子を通過する光の最大光路長差(回折部の山と谷の光学光路長差の最大値)が使用波長域内で、その波長の整数倍付近となるよう、各回折格子の材料及び格子高さが定められている。
このように回折格子の材料、形状を適切に設定することによって、使用波長全域で高い回折効率が得られる。なお、一般的に、回折格子の格子高さは、格子周期方向に垂直な方向(面法線方向)の格子先端と格子溝の高さで定義される。また、格子壁面が面法線方向からシフトしているときや格子先端が変形しているとき等の場合は、格子面の延長線と面法線との交点との距離で定義される。
材料151はZrO2微粒子を混合させたアクリル系紫外線硬化樹脂(nd=1.5677、νd=47.0、θgF=0.569、n550=1.5704)である。材料152はITO微粒子を混合させたフッ素アクリル系紫外線硬化樹脂(nd=1.5045、νd=16.3、θgF=0.390、n550=1.5111)である。材料153はZrO2微粒子を混合させたアクリル系紫外線硬化樹脂(nd=1.5677、νd=47.0、θgF=0.569、n550=1.5704)である。
格子高さd1は−13.00μm、d2は−3.71μm、数式6、7のm1は+1.40、m2は−0.40、設計次数は+1次である。また、第1の回折格子の格子壁面の延長上に第2の回折格子の格子壁面が配置され、格子壁面の位置ずれによる位相ずれが最小になっている。また、第1の回折格子と第2の回折格子の間隔d12は1.00μmである。
図16は、このDOEの設計入射角度である入射角度0度(図15のa)、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を示すグラフである。図16(a)は設計次数である+1次回折光付近での回折効率である。横軸は回折次数、縦軸は回折効率(%)である。図16(b)は図16(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。横軸は回折角(度)であり、縦軸は回折効率(%)である。回折角は図15の下向きを正としている。
図16(a)から設計次数である+1次回折光の回折効率は98.43%(回折角+0.20度)であり、密着2層回折格子の場合の+1次回折光の回折効率98.76%(回折角+0.20度)と同等であった。残りの光は不要光となり、図16(b)に示すように、伝播している。
図17に示すように、格子壁面付近に入射する入射光束の成分a1は、第1の回折格子の格子壁面において高屈折率材料側に回り込み、低屈折率材料側に入射する成分a2は第2の回折格子の格子壁面において高屈折率材料側に回り込むと考えられる。また、−10度方向については不要光が伝播しない領域となっている。このように、密着2層DOEと積層DOEでは不要光の振る舞いが異なる。
ここで想定している格子ピッチは一つの基準として100μmとしている。図12に示すように、光軸に近い輪帯ほど、格子ピッチは大きくなり、格子壁面による影響が小さくなるため、設計次数の回折効率は高く、不要光の回折効率は低くなる。
本実施例において、DOE全域を考慮した場合、格子ピッチ100μmの+1次光の回折効率0.33%の低減量は設計入射角度(撮影光入射角度)において日中の太陽等の高輝度光源を直接撮影することは稀であるため、ほとんど影響しない。同時に、不要光の影響も小さい。
次に、実際の光学系へ、DOE100を適用した場合の画面外光が入射した際の不要光について説明する。図18はDOE100を用いた望遠タイプの撮影光学系の光路図であり、焦点距離f=392.00mm、fno=4.12、半画角3.16度であり、第2面に回折面が設けられている。図19は、図18の光学系におけるDOE100の不要光の模式図を示す。
DOE100が適用可能な光学系は、図18に示す撮影光学系に限定されず、ビデオカメラの撮影レンズ、イメージスキャナーや、複写機のリーダーレンズなど広波長域で使用される結像光学系、望遠鏡などの観察光学系、光学式ファインダーであってもよい。また、DOE100を含む光学系が適用可能な装置も撮像装置に限定されず、広く光学機器であればよい。
図19、図14において、光軸Oに対して入射角ωで入射した画面外光束Bu,Bdは、基板レンズ120を通過後、それぞれ光軸Oから図の上方向に数えてm番目、図の下方向に数えてm番目の回折格子であるmu格子、md格子に入射する。画面外光束Bu,Bdのmu格子、md格子に対しての入射角度は主光線方向に対して角度ωiu、ωidである。また、格子壁面の方向は主光線方向と等しいと仮定している。
図20は、このDOEの設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の下向きに入射する光束(図15のb、図14のBu)を想定して、入射角度+10度、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を示すグラフである。入射角は図14の下向きを正としている。
図20(a)は設計次数である+1次回折光付近での回折効率である。横軸は回折次数、縦軸は回折効率(%)である。図20(b)は図20(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。横軸は回折角(度)であり、縦軸は回折効率(%)である。回折角は図15の下向きを正としている。
図20(a)において、設計次数である+1次回折光に回折効率は集中しているが、回折効率は93.16%(回折次数+1、回折角+10.20度)で設計入射角度0度から傾いているため低下している。この+1次回折光は像面に到達することはないため影響は小さい。
残りの不要光は、図20(b)に示すように、特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播し、略−10度方向にピークを持つ。また、伝播方向は第1の回折格子の格子壁面に入射する画面外入射角度+10度光束が第1の格子壁面で反射した反射光の射出方向−10度に略等しい。
この不要光のピーク角度は図5(b)とほぼ同じだが、角度の広がりは図20(b)と図5(b)では異なり、図20(b)の方が低回折角度(低次数)の回折効率が低い。図21は、DOE100の画面外入射+10度光束に対する不要光の伝播の様子を示す模式図である。
本実施例の積層DOEを用いることによって、低回折角度(低次数)の不要光(図21のb2)が少なくなる。また、図21(b)に示すように、第2の格子壁面に入射する光束の成分b3は第2の回折格子の格子壁面に対しては低屈折率材料側から高屈折率材料側に入射するため、透過光が伝播し、略+10〜+25度方向のピークに対応している。
実際の光学系へ、DOE100を適用した場合の画面外光が入射した際の不要光については、設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.20度に略一致する画面外光による不要光の回折光が少なくとも像面に到達する。
図20の回折角+0.20度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数−48次(回折角+0.32度)の回折効率が0.0028%、回折次数−49次(回折角+0.12度)の回折効率が0.0028%である。
密着2層DOEの場合は設計次数+1の場合は、回折次数−46次(回折角+0.34度)の回折効率が0.014%、回折次数−47次(回折角+0.14度)の回折効率が0.014%であるため、大幅に減少していることがわかる。
図22は、この回折光学素子の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の上向きに入射する光束(図15のc、図14のBd)を想定して、入射角度−10度、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を示すグラフである。入射角は図15の下向きを正としている(図14のmd格子では上向きが正となる)。
図22(a)は設計次数である+1次回折光付近での回折効率である。横軸は回折次数、縦軸は回折効率(%)である。図22(b)は図22(a)の縦軸の回折効率の低い部分を拡大し、横軸を回折次数から回折角にして高回折角度範囲について表示した結果である。横軸は回折角(度)であり、縦軸は回折効率(%)である。回折角は図15の下向きを正としている。
図22(a)において、設計次数である+1次回折光に回折効率は集中しているが、回折効率は94.67%(回折次数+1、回折角−9.80度)で設計入射角度0度から傾いているため低下している。この画面外光入射角度の+1次回折光は像面に到達することはないため影響は小さい。
残りの不要光は、図22(b)に示すように、特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播している。この不要光は略−17度方向、略+5〜+20度方向にもピークを持っている。
ここで、図23は、DOE100の画面外入射−10度光束に対する不要光の伝播の様子を示す模式図である。図23(a)は第1の回折格子の格子壁面に入射する光束の成分c1が第1の回折格子の格子壁面で反射する成分を示している。図23(b)は、第2の回折格子の格子壁面に入射する光束の成分c2が第2の回折格子の格子壁面に対して高屈折率材料側から低屈折率材料側に入射して全反射する成分を示している。
略−17度方向のピークは、図23(a)に示すように、第1の回折格子において、第1の回折格子の格子壁面に入射する光束の成分c1が第1の回折格子の格子壁面に対して低屈折率材料側から高屈折率材料側に入射する透過光のピークに対応している。
略+5〜+20度方向のピークは図23(a)の成分c1が第1の回折格子の格子壁面で反射する成分と図23(b)の成分c2が第2の回折格子の格子壁面で全反射する成分が干渉した結果生じると考えられる。
実際の光学系へ、DOE100を適用した場合の画面外光が入射した際の不要光については、設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.20度に略一致する画面外光による不要光の回折光が少なくとも像面に到達する。
図22の回折角+0.20度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数+48次(回折角+0.32度)の回折効率が0.0088%、回折次数+49次(回折角+0.12度)の回折効率が0.0086%である。密着2層DOEの場合は図7より回折次数+49次(回折角+0.26度)の回折効率が0.0021%、回折次数+48次(回折角+0.06度)の回折効率が0.0022%であり、これらより増加している。しかし、回折効率の数値が極めて小さいため、像性能の低下に対しての影響は小さい。
以上のように、積層DOEを適用した光学系に画面外光束が入射した場合、不要光の影響が小さいmd格子の不要光の増加を影響ない程度に抑制し、不要光の影響が大きいmu格子の不要光を大幅に減少させることができる。この結果、結像面に到達する不要光が小さくなるため、像性能の低下を抑制することができる。
実施例2は実施例1とDOEの材料が同じで格子高さd1、d2が異なる点で相違する。具体的には格子高さd1は−16.72μm、d2は−7.43μm、数式6、7のm1は+1.80、m2は−0.80、設計次数は+1次である。
図24は、このDOEの設計入射角度である入射角度0度、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算を行った結果を示すグラフである。横軸は回折角(度)であり、縦軸は回折効率(%)である。設計次数である+1次回折光の回折効率は97.79%であり、残りの光は不要光となり実施例1と同様に伝播している。
また、実施例1より格子高さが高いため、実施例1と比較して+1次回折光の回折効率が低くなっている。本実施例において、DOE全域を考慮した場合、この格子ピッチ100μmの回折効率の低減量は設計入射角度(撮影光入射角度)において日中の太陽等の高輝度光源を直接撮影することは稀であるため、ほとんど影響しない。
図25は、このDOEの設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の下向きに入射する光束を想定して、入射角度+10度、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を示すグラフである。横軸は回折角(度)であり、縦軸は回折効率(%)である。
図25において、設計次数である+1次回折光に回折効率が集中しているが、回折効率は88.47%で設計入射角度0度から傾いているため低下している。この画面外光入射角度の+1次回折光は像面に到達することはないため影響は小さい。
残りの不要光は、実施例1と同様に、特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播し、−10度方向の不要光のピーク角度は図5(b)とほぼ同じである。しかしながら、不要光の角度の広がりは図25と図5(b)では異なっており、図25の方が低回折角度(低次数)の回折効率が低いことがわかる。
設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.20度に略一致する画面外光による不要光の回折光が少なくとも像面に到達する。これより、図24の回折角+0.20度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数−48次の回折効率が0.0015%、回折次数−49次の回折効率が0.0015%である。密着2層DOEの場合と比較して、大幅に減少していることがわかる。
図26は、このDOEの設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の上向きに入射する光束を想定して、入射角度−10度、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を示すグラフである。横軸は回折角(度)であり、縦軸は回折効率(%)である。
設計次数である+1次回折光の回折効率が集中しており、回折効率は91.00%で設計入射角度である0度から傾いているため低下している。この画面外光入射角度の+1次回折光は像面に到達することはないため影響は小さい。残りの不要光は実施例1と同様に伝播していることがわかる。
設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.20度に略一致する画面外光による不要光の回折光が少なくとも像面に到達する。図26の回折角+0.20度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数+49次の回折効率が0.010%、回折次数+48次の回折効率が0.010%である。密着2層DOEの場合と比較して増加しているが、回折効率の数値が小さいため、像性能の低下に対しての影響は小さい。
以上のように、本実施例の積層DOEを適用した光学系は、画面外光束が入射した場合、不要光の影響が小さいmd格子の不要光の増加を影響ない程度に抑制し、不要光の影響が大きいmu格子の不要光を大幅に減少させることができる。この結果、結像面に到達する不要光が小さくなるため、像性能の低下を抑制することができる。
実施例1及び2において、上記効果を与える条件式は以下の通りである。
但し、mは設計次数、m1=(nd2−nd1)d1/λd、m2=(nd3−nd2)d2/λdである。nd1は材料151のd線に対する屈折率、nd2は材料152のd線に対する屈折率、nd3は材料153のd線に対する屈折率、λdはd線の波長(587.6nm)である。d1は第1の回折格子の格子高さであり、d2は第2の回折格子の格子高さである。
実施例1、2において、d1を−9.28μm、d2を0μmとすると、密着2層DOEとなり、不要光が発生してしまう。数式8、9の下限を満たすことによって不要光を減少させることができる。また、m1およびm2の数値が大きくなると設計入射光束における回折効率が低下し、密着2層DOEにおいて不要光の影響が小さいmd格子の不要光が増加する。数式8、9の上限を満たすことによって設計入射光束における回折効率を維持し、不要光を抑えることができる。また、数式10を満たすことによって積層DOEにおける2つの回折格子を合わせた設計次数の回折効率を高めることができる。
更に、第1の回折格子に対しては以下の条件式を満足することによって可視波長帯域全域に対して回折効率を高めることができる。
但し、vd1は材料151のアッベ数、vd2は材料152のアッベ数である。
数式11を満たすことによって可視波長帯域全域に対して回折効率を高く維持することができる。数式12の下限を満たすことによって格子高さを抑え、設計入射光束における回折効率を維持し、斜入射角度による回折効率を確保し、光学系の自由度を維持することができる。数式12の上限を満たすことによって、回折格子を構成する材料間の界面反射を小さくし、反射防止膜等の工程数の増加を抑えることができる。
第2の回折格子に対しても、以下の条件式を満足することによって可視波長帯域全域に対して回折効率を高めることができる。
以下の条件式を満たすことによって、設計入射光束における回折効率を維持し、斜入射角度による回折効率を確保し、光学系の自由度を維持することができる。
また、本実施例のDOEの回折格子材料や格子高さには実施例のものに限定されない。本実施例では密着2層DOEと比較説明するために、回折格子を構成する材料151と153が同じ材料としているが、異なってもよい。
また、本実施例では設計次数を+1次にしているが、設計次数を+1次以外であっても同様の効果が得られるため、設計次数に限定されない。
本実施例のDOEの製造方法は特に限定されない。一例として第1および第2の回折格子をそれぞれ金型等を用いて回折格子を構成する材料151および153で製造する。2つの回折格子を材料152を用いて接着することによって製造することができる。
また、他の例として第1の回折格子を金型等を用いて回折格子を構成する材料151で製造する。その後、第1の回折格子を型として第2の回折格子を回折格子を構成する材料152で製造する。その後、材料153を用いて基板レンズと接着することによって製造することができる。金型を用いずに切削加工、リソグラフィ及びエッチング等を用いてもよい。
また、本実施例はnd1>nd2、nd2<nd3としているが、図27を参照して、nd1<nd2、nd2>nd3となった場合について説明する。ここで、図27(a)はnd1>nd2、nd2<nd3の場合、図27(b)はnd1<nd2、nd2>nd3の場合のDOEの構造の模式的な断面図である。
図27に示すように、屈折率の関係が逆になることにより第1の回折格子の格子高さより第2の回折格子の格子高さが高くなる。第2の回折格子の影響が大きくなり、nd2>nd3であるため、同様の不要光が発生する。このように、格子壁面に対する屈折率の大小関係についてはnd1>nd2、nd2<nd3とnd1<nd2、nd2>nd3は同様となる。このような構成の違いに本発明は限定されない。
また、図19に示すように、不要光のピークが絞り40で遮光されているが、これは単なる一例であって、本発明はこの構成に限定されない。不要光のピークをレンズ鏡筒に導いて遮光したり、後側のレンズにより像面に到達しない角度に反射させること等によっても不要光の抑制が可能となる。
実施例3は、第1の回折格子と第2の回折格子の格子壁面の位置において実施例1および2と異なる。図28に示すように、材料151はZrO2微粒子を混合させたアクリル系紫外線硬化樹脂(nd=1.5677、νd=47.0、θgF=0.569、n550=1.5704)を使用する。材料152はITO微粒子を混合させたフッ素アクリル系紫外線硬化樹脂(nd=1.5045、νd=16.3、θgF=0.390、n550=1.5111)を使用する。材料153はZrO2微粒子を混合させたアクリル系紫外線硬化樹脂(nd=1.5677、νd=47.0、θgF=0.569、n550=1.5704)を使用する。
格子高さd1は−13.00μm、d2は−3.71μm、数式6、7のm1は+1.40、m2は−0.40、設計次数は+1次である。また、第1の回折格子の格子壁面を延長した面から第1の回折格子の低屈折率領域側に第2の回折格子の格子壁面が配置され、位置ずれ幅wが1.00μmである。第1の回折格子の低屈折率領域側とは格子壁面を境界に低屈折率材料の領域が大きい側(図27において第1回折格子の格子壁面の延長線よりも下側)のことである。また、第1の回折格子と第2の回折格子の間隔d12は1.00μmである。
図29は、このDOEの設計入射角度である入射角度0度、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を示すグラフである。横軸は回折角(度)であり、縦軸は回折効率(%)である。設計次数である+1次回折光の回折効率は97.28%であり、残りの光は不要光となり実施例1と同様に伝播していると考えられる。
また、実施例1と比較して+1次回折光の回折効率が低くなっている。これは第1の回折格子と第2の回折格子の格子壁面に位置ずれがあるために、位相ずれが発生しているためである。本実施例において、回折光学素子全域を考慮した場合、この格子ピッチ100μmの回折効率の低減量は設計入射角度(撮影光入射角度)において日中の太陽等の高輝度光源を直接撮影することは稀であるため、ほとんど影響しない。
図30は、この回折光学素子の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の下向きに入射する光束を想定して、入射角度+10度、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を示すグラフである。横軸は回折角(度)であり、縦軸は回折効率(%)である。設計次数である+1次回折光に回折効率が集中しており、回折効率は95.33%で設計入射角度である0度から傾いているため低下している。この画面外光入射角度の+1次回折光は像面に到達することはないため影響は小さい。
残りの不要光は、図31に示すように、特定角度方向にピークをもつ不要光となって伝播していると考えられる。この不要光は実施例1と同様に、略−10度方向にピークを持っている。図30に示すように、この略+10度方向のピークの伝播方向は第1の回折格子の格子壁面に入射する画面外入射角度−10度光束が第1の格子壁面で反射した反射光の射出方向+10度に略等しいことがわかる。
−10度方向の不要光のピーク角度は図5(b)とほぼ同じだが、不要光の角度の広がりが図30と図5(b)では異なり、図30の方が低回折角度(低次数)の回折効率が低いことがわかる。設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.20度に略一致する画面外光による不要光の回折光が少なくとも像面に到達する。
図29の回折角+0.20度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数−48次の回折効率が0.0081%、回折次数−49次の回折効率が0.0080%である。密着2層DOEの場合と比較して減少していることがわかる。
図32は、この回折光学素子の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の上向きに入射する光束を想定して、入射角度−10度、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を示すグラフである。横軸は回折角(度)であり、縦軸は回折効率(%)である。設計次数である+1次回折光の回折効率が集中しており、回折効率は91.61%で設計入射角度である0度から傾いているため低下している。この画面外光入射角度の+1次回折光は像面に到達することはないため影響は小さい。
残りの不要光は実施例1と同様に伝播していることがわかる。設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.20度に略一致する画面外光による不要光の回折光が少なくとも像面に到達する。
図26の回折角+0.20度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数+49次の回折効率が0.011%、回折次数+48次の回折効率が0.010%である。密着2層DOEの場合と比較して増加しているが、回折効率の数値が小さいため、像性能の低下に対しての影響は小さい。
以上のように、本実施例の積層DOEを適用した光学系に画面外光束が入射した場合、不要光の影響が小さいmd格子の不要光の増加を影響ない程度に抑制し、不要光の影響が大きいmu格子の不要光を大幅に減少させることができる。この結果、結像面に到達する不要光が小さくなるため、像性能の低下を抑制することができる。
(比較例2)
比較例2は第1の回折格子と第2の回折格子の格子壁面の位置において実施例3と異なるが、それ以外のDOEの構成は実施例3と同様である。格子壁面の位置関係は、図33に示すように、第1の回折格子の格子壁面の延長上より第1の回折格子の高屈折率領域側に第2の回折格子の格子壁面が配置され、位置ずれ幅wが1.00μmである。第1の回折格子の低屈折率領域側とは格子壁面を境界に高屈折率材料の領域が大きい側(図33において第1回折格子の格子壁面の延長線よりも上側)のことである。
図33では、材料151に対応する材料を材料51、材料152に対応する材料を材料52、材料153に対応する材料を材料53としている。
図34は、この回折光学素子の設計入射角度より斜入射角度(画面外光入射角度)の下向きに入射する光束を想定して、入射角度+10度、格子ピッチ100μm、波長550nmにおけるRCWA計算結果を示すグラフである。横軸は回折角(度)であり、縦軸は回折効率(%)である。不要光は、図35に示すように、複数のピークをもつ不要光となって伝播していると考えられる。
この不要光は設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.20度に略一致する付近にもピークを伝播している。これは、図35に示すように、第1の回折格子の格子壁面に入射する画面外入射角度+10度光束が第1の格子壁面で反射した反射光が第2の回折格子の格子壁面に入射して再反射して伝播していると考えられる。
実際の光学系へ、上記DOEを適用した場合の画面外光が入射した際の不要光については、設計入射角における設計回折次数が伝播する回折角度+0.20度に略一致する画面外光による不要光の回折光が少なくとも像面に到達する。
図34の回折角+0.20度付近の回折効率はRCWA計算結果から、回折次数−46次の回折効率が0.027%、回折次数−47次の回折効率が0.027%である。密着2層DOEの場合は、回折次数−46次の回折効率が0.014%、回折次数−47次の回折効率が0.014%であるため、これよりも大幅に増加しており、好ましくない。
本発明の積層DOEによれば、第1の回折格子の格子壁面の延長上より第1の回折格子の低屈折率領域側に第2の回折格子の格子壁面が配置されなければならない。位置ずれがないほうが設計入射角度における回折効率は高くなるので好ましいが、特に製造上の公差を考慮すると、第1の回折格子の低屈折率領域側に第2の回折格子の格子壁面を設けたほうがよいことがわかる。これにより、より安定に不要光を抑制した回折光学素子を製造することが可能になる。
格子壁面の位置ずれ幅が大きくなると像性能が無視できないほど設計入射角度における回折効率は低下してしまうため、位置ずれ幅は以下の条件式を満足すればよい。
ここで、Pは格子ピッチ、wは第1の回折格子と第2の回折格子の対応する格子壁面の回折光学素子の光軸と直交する方向の位置ずれ幅である。また、格子ピッチを基準として100μmとした回折格子を示したが、設計次数の回折効率に関しては位置ずれ幅と格子ピッチPの関係は線形関係になっている。位置ずれ幅wと格子ピッチPの回折格子の設計次数の回折効率と位置ずれ幅w×2と格子ピッチP×2の回折格子の設計次数の回折効率はほぼ同じである。
例えば、実施例3に示した格子ピッチ100μm、位置ずれ幅1.00μmの回折格子と格子ピッチ200μm、位置ずれ幅2.0μmの回折格子の設計次数の回折効率はほぼ同じである。このため、格子ピッチPと位置ずれ幅の数式16となる。数式16は、好ましくは数式17となる。数式17を満たすことによって、より像性能に影響ないDOEが得られる。
表1は、実施例1〜3について数式8〜17をまとめた結果を示している。
本実施例は回折格子部の材料として微粒子を分散させた樹脂材料を用いているが、これに限定されず、樹脂材料等の有機材料、ガラス材料、光学結晶材料、セラミックス材料等を用いてもよい。また、微粒子を分散させる微粒子材料としては、酸化物、金属、セラミックス、複合物、混合物のいずれかの無機微粒子材料を使用することができ、微粒子材料に限定されない。
微粒子材料の平均粒子径は、DOEへの入射光の波長(使用波長又は設計波長)の1/4以下であることが好ましい。これよりも粒子径が大きくなると、微粒子材料を樹脂材料に混合した際にレイリー散乱が大きくなるおそれがあるからである。微粒子材料を混合する樹脂材料としては、紫外線硬化樹脂であって、アクリル系、フッ素系、ビニル系、エポキシ系等の有機樹脂が挙げられ、これらの樹脂材料に限定されない。
例えば、材料151はアクリル系紫外線硬化樹脂(nd=1.5218、νd=51.27)、材料152はITO微粒子を混合させたフッ素アクリル系紫外線硬化樹脂(nd=1.4783、νd=21.00)を使用してもよい。また、材料153はアクリル系紫外線硬化樹脂(nd=1.5218、νd=51.27)を使用してもよい。実施例1と同様の構造において、格子高さd1=−20.26μm、d2=−6.75μmの場合に、m1=1.5、m2=−0.5、m1+m2=1、|vd2−vd1|=30.26、|nd2−nd1|=0.043であった。このため、数式8〜17を満足し、不要光を抑制して高い回折効率を得ることができた。
あるいは、材料151はITO微粒子を混合させたチオアクリル系紫外線硬化樹脂(nd=1.8100、νd=40.99)、材料152は低融点ガラス(nd=1.6811、νd=11.93)を使用してもよい。また、材料153はITO微粒子を混合させたチオアクリル系紫外線硬化樹脂(nd=1.8100、νd=40.99)を使用してもよい。実施例1と同様の構造において、格子高さd1=−6.83μm、d2=−2.27μmの場合に、m1=1.5、m2=−0.5、m1+m2=1、|vd2−vd1|=29.06、|nd2−nd1|=0.13であった。このため、数式8〜17を満足し、不要光を抑制して高い回折効率を得ることができた。
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。