本出願は、2005年11月18日提出の米国仮出願特許第60/738,303号(全文がこの参照により組み込まれる)の恩典を特許法§119(e)に従って主張するものである。
本発明は概して、α2β1インテグリンに対する抗体およびその使用に関し、ヒト化抗アルファ2(α2)インテグリン抗体および抗α2インテグリン抗体での治療方法を含む。
前記インテグリンα2β1(超遅発抗原2;VLA-2)は血小板、血管内皮細胞、上皮細胞、活性化単球/マクロファージ、線維芽細胞、白血球、リンパ球、活性化好中球、および肥満細胞を含む多様な細胞種に発現される(Hemler, Annu Rev Immunol 8:365:365-400 (1999); Wu and Santoro, Dev. Dyn. 206:169-171 (1994); Edelson et. al., Blood. 103(6):2214-20 (2004); Dickeson et al, Cell Adhesion and Communication. 5: 273-281 (1998))。最も代表的なα2β1のリガンドはコラーゲンとラミニンを含み、これらは共に、細胞外マトリックス内に存在する。通常α2β1インテグリンの1−ドメインは二価陽イオン依存的にコラーゲンに結合するが、同ドメインは二価陽イオン依存的、かつ非依存性メカニズムによってラミニンに結合する(Dickeson et al, Cell Adhesion and Communication. 5: 273-281 (1998)) 。α2β1インテグリンの特異性は、細胞種によって異なり、特定の細胞種に対してはコラーゲンとして、および/またはラミニン受容体として働き、例えば、α2β1インテグリンは、血小板に対するコラーゲン受容体として、および内皮細胞に対するラミニン受容体として周知である(Dickeson et al, J Biol. Chem. 272: 7661-7668 (1997))。エコー・ウィルス−1、デコリン、E-カドヘリン、マトリックスメタロプロティナーゼI(MMP−I)、エンドレペリン、および複数のコレクチンおよびC1q 補体蛋白質もまた、α2β1インテグリンのリガンドである(Edelson et al., Blood 107(1): 143-50 (2006))。前記α2β1インテグリンはいくつかの生物学的および病理学的プロセスに関与しており、これにはコラーゲン誘導性血小板凝集、コラーゲン上の細胞移動、コラーゲン繊維の細胞依存型再組織化、並びにサイトカインの発現の増加、増殖を生じるコラーゲン依存性細胞応答、(Gendron, J. Biol. Chem. 278:48633-48643 (2003); Andreasen et al., J. Immunol. 171:2804-2811 (2003); Rao et al., J. Immunol. 165(9):4935-40 (2000))、T−細胞の態様、肥満細胞および好中球機能(Chan et. al., J. Immunol. 147:398-404 (1991); Dustinおよびde Fougerolles, Curr Opin Immunol 13:286-290 (2001), Edelson et. al., Blood. 103(6):2214-20 (2004), Werr et al., Blood 95:1804-1809 (2000)、遅延型過敏性接触過敏症およびコラーゲン誘導性関節炎(de Fougerolles et. al., J. Clin. Invest. 105:721- 720 (2000); Kriegelstein et al., J. Clin. Invest. 110(12):1773-82 (2002))、 乳腺腺管形態形成(Keely et. al., J. Cell Sci. 108:595-607 (1995); Zutter et al., Am. J. Pathol. 155(3):927-940 (1995))、表皮性創傷治癒 (Pilcher et. al., J. Biol. Chem. 272:181457-54 (1997))の態様、およびVEGF誘導性新脈管形成関連性プロセス(Senger et al., Am. J. Pathol. 160(1):195-204 (2002))が含まれる。
インテグリンは1個のαと1個のβのサブユニットで構成されるヘテロ二量体で、細胞外マトリックス(ECM)および血漿蛋白への細胞接着を媒介する細胞表面蛋白の大きな1ファミリーを有し、また数種の細胞−細胞間相互反応の中心となっている。 インテグリンは、それらの細胞外ドメインによってECM構成成分と相互反応する(Pozzi & Zent, Exp Nephrol. 94:77-84 (2003))。インテグリンは、リガンドに結合する際に細胞内シグナルを細胞骨格に形質導入し、この細胞骨格はこれらの細胞接着に応答して細胞活性を修飾するが、これを outside-in signaling (外から内へのシグナル伝達)と呼ぶ。(Hemler, Annu Rev Immunol 8:365:365-400 (1999); Hynes, Cell. 110(6):673-87 (2002)参照)このようなシグナル伝達は、また、同じ細胞上に発現した他のインテグリンサブタイプをも活性化でき、これはinside-out signaling(内から外へのシグナル伝達)と呼ぶ。Inside-out signalingはさらに、αおよびβサブユニット間のクラスプ崩壊のような、細胞質内に起こり、次に受容体の細胞外リガンド結合ドメインに伝達される規則正しいシグナルを介して生じる。インテグリンは、発達、臓器形態形成、生理および病理並びに正常組織の恒常性、および免疫応答や血栓性応答を調節する細胞接着において重要な役割を果たすことができ、さらに、インテグリンは細胞の環境的センサーとしても働く。これらの蛋白質は、通常の状態では閉鎖立体配座となっており、活性化すると、急速な配座変化を生じ、リガンド結合部位を暴露することが特徴づけられている。X線結晶構造はインテグリンの構造および活性化機構の研究に用いられてきた最新のツールである。インテグリンの構造的特徴を理解することによって、結合部位、異なった段階、それらの活性体および不活性体をより理解することができる。一般に、すべてのインテグリンのリガンドおよびカウンター受容体の結合部位はαドメイン内にあり、金属イオン依存型結合部位からなっており、MIDASドメインと呼ばれる (Dembo et al, J Biol.Chem. 274, 32108-32111 (1988); Feuston et al., J. Med. Chem. 46:5316-5325 (2003); Gadek et al., Science 295(5557):1086-9 (2002)); Gurrath et al., Eur. J. Biochem. 210:911-921 (1992))。α1、α2、α10およびα11のインテグリンを含むコラーゲン結合インテグリンのαサブユニットにおいて、MIDAS部位は、N末端の追加挿入ドメイン(I、IAまたはIfAドメインとして知られている)内に存在し、機能はインテグリンの白血球β2ファミリーのαサブユニットと共有する(Randi and Hogg, J Biol Chem. 269: 12395-8 (1994), Larson et al J Cell Biol. 108(2):703-12 (1989), Lee et al., J Biol Chem. 269: 12395-8 (1995); Emsley et al, J. Biol. Chem. 272:28512-28517 (1997) および Cell 100:47-56 (2000))。Iドメインは7個のヘリックスに囲まれた6個のβシートストランドのRossmanフォールドトポロジーで、フォンビルブランド (von Willebrandt) 因子のA1ドメインに構造的に相同性である (Colombatti and Bonaldo, Blood 77(11):2305-15 (1991); Larson et al, J Cell Biol. 108(2):703-712 (1989); Emsley et al, J. Biol. Chem. 272:28512-28517 (1997); Nolte et al; FEBS Letters, 452(3):379-385 (1999))。コラーゲン結合インテグリンはさらに、αCヘリックスとして知られるαヘリックスを有する(Emsley et al, J. Biol. Chem. 272:28512-28517 (1997) および Cell 100:47-56 (2000); Nolte et al; FEBS Letters, 452(3):379-385 (1999))。
インテグリン/リガンド相互反応は、白血球が管外遊出して炎症組織に出るのを促進し(Jackson et al., J. Med. Chem. 40:3359-3368 (1997); Gadek et al., Science 295(5557):1086-9 (2002), Sircar et al., Bioorg. Med. Chem. 10:2051-2066 (2002))、また、炎症部位での炎症誘発細胞の遊走、補充現象、活性化を含む炎症性刺激に応答して血液循環から組織への白血球の初期の管外遊出後、下流のイベントにおいて役割を果たす(Eble J.A., Curr. Phar. Des. 11(7):867-880 (2005))。α2β1インテグリンを阻止するいくつかの抗体が遅延型過敏症応答に対する影響、およびハツカネズミのリュウマチ関節炎モデルや、炎症性腸疾患モデル(Kriegelstein et al., J. Clin. Invest. 110(12):1773-82 (2002); de Fougerolles et. al., J. Clin. Invest. 105:721- 720 (2000)に効果を示すことが報告されており、またin vitro で内皮細胞の増殖および遊走を弱めること(Senger et al., Am. J. Pathol. 160(1):195-204 (2002)が報告されており、α2β1インテグリンの阻止は様々な癌に見られる異常または、正常を越えた新脈管形成を防ぐ/抑制することを示唆するものである。
血小板は、通常血液中において不活性な休止状態で循環しているが、広く多様なアゴニストに対して損傷部位で迅速に応答する準備をしている。刺激時に、血小板は形態変化を生じ、フィブリノーゲンやフォンビルブラント因子(vWf)、その他の血小板および血管壁内皮層のような血漿蛋白質に極めて反応しやすくなる。これらの相互反応はすべてが協力して止血性フィブリン血小板栓の迅速な形成を促進する(Cramer, 2002 in Hemostasis and Thrombosis, 第4版)。リガンドの結合に際し、血小板受容体はoutside-in signal経路を伝達し、この経路は次には血小板凝集を生じる血小板フィブリノーゲン受容体であるαIIbβ3インテグリンのような二次受容体の活性化を生じるinside-out signalingを引き起こす。血小板受容体に結合する、または相互反応する抗体またはペプチドのリガンド模擬体は、血小板の活性化を生じる類似のシグナリングカスケードを誘発することが予想される。血小板が僅かに活性化しても、結果として血小板血栓性応答、血小板減少症および出血性合併症を生じ得る。
α2β1インテグリンは血小板に発現する唯一のコラーゲン結合インテグリンであり、コラーゲンへの血小板癒着および止血において役割を果たすことに関与している(Gruner et al., Blood 102:4021-4027 (2003); Nieswandt and Watson, Blood 102(2):449-461 (2003); Santoro et al., Thromb. Haemost. 74:813-821 (1995); Siljander et al., Blood 15:1333-1341 (2004); Vanhoorelbeke et al., Curr. Drug Targets Cardiovasc. Haematol. Disord. 3(2):125-40 (2003))。さらに、血小板α2β1は血小板凝集の大きさの調節に関与する (Siljander et al., Blood 103(4):1333-1341 (2004))。
α2β1インテグリンはまた、内皮細胞上に発現するラミニン結合インテグリンであることがわかっている(Languino et al., J Cell Bio. 109:2455-2462 (1989))。内皮細胞はインテグリン媒介機序によってラミニンに付着すると考えられているが、α2Iドメインが内皮細胞相互反応の媒介に関与するリガンド特異的配列として機能することが示唆されている(Bahou et al., Blood. 84(11):3734-3741(1994))。
血小板上のα2β1インテグリンを含むα2β1インテグリンに結合する治療的抗体が結果として出血性合併症を生じ得ることが予想される。例えば、GPIb (Vanhoorelbeke et al., Curr. Drug Targets Cardiovasc. Haematol. Disord. 3(2):125-40 (2003) または、 GP IIb/IIIa (Schell et al., Ann. Hematol. 81:76-79 (2002), Nieswandt および Watson, Blood 102(2):449-461 (2003), Merlini et al., Circulation 109:2203-2206 (2004))のような他の血小板受容体を標的にする抗体は、血小板減少症と関連している、ただし、この機序はよくわかっていない。血小板受容体に抗体が結合すると、その三次元構造を変えることができ、通常は暴露されないエピトープを暴露し、これが次に血小板除去につながると仮説が立てられた(Merlini et al., Circulation 109:2203-2206 (2004)。実際、GPIIa/IIIb拮抗薬の経口投与に関連する出血性合併症は、このクラスの化合物の「暗い面」として述べられている(Bhatt and Topol, Nat. Rev. Drug Discov. 2(1):15-28 (2003))。もし、α2β1インテグリンが炎症組織を通じて白血球の移動に重要な役割を果たしているならば、α2β1インテグリン関連疾患および/または、癌、炎症性疾患および自己免疫疾患を含む疾患に関連する細胞プロセスのためのα2β1を標的にし得る治療薬を、このような薬剤が血小板を活性化させないならば、開発することが望ましいであろう。したがって、白血球上のα2β1インテグリンのようなα2β1インテグリンを標的にできる、副作用として出血性合併症を伴わない化合物を開発する技術の必要がある。
抗体BHA2.1をブロックする抗ヒトα2β1は最初Hangan et al., (Cancer Res. 56:3142-3149 (1996))によって述べられた。他の抗α2β1インテグリン抗体、例えば、市販の抗体AK7(Mazurov et al., Thromb. Haemost. 66(4):494-9 (1991)、P1E6 (Wayner et al., J. Cell Biol. 107(5):1881-91 (1988))、 10G11 (Giltay et al., Blood 73(5):1235-41 (1989) および A2-11E10 (Bergelson et al., Cell Adhes. Commun. 2(5):455-64 (1994) は周知となっており、in vitroで用いられている。Hangan 等(Cancer Res. 56:3142-3149 (1996))はin vivoでBHA2.1抗体を用いて肝臓内でのヒト腫瘍細胞の管外遊出に関するα2β1インテグリン機能の阻止効果、および抗体治療下でのこれらの腫瘍細胞の転移性病巣を生じる能力を調べた。
ラットおよびマウスのα2β1インテグリンに特異的なHa1/29 抗体 (Mendrick and Kelly, Lab Invest. 69(6):690-702 (1993))はin vivoに用いられて、LCMV ウイルス活性化後のT細胞上でのα2β1インテグリンのアップレギュレーションの研究(Andreasen et al., J. Immunol. 171:2804-2811 (2003))、およびSRBC-誘導性遅延型過敏症およびIFITC-誘導性接触性過敏症応答およびコラーゲン誘導性関節炎の研究(de Fougerolles et. al., J. Clin. Invest. 105:721- 720 (2000))、VEGF調節性新脈管形成におけるα2β1インテグリンの役割の研究(Senger et al., Am. J. Pathol. 160(1):195-204 (2002); Senger et al., PNAS 94(25): 13612-7 (1997))、および血小板活性化因子(PAF)に応答したPMN移動運動におけるα2β1インテグリンの役割の研究(Werr et al., Blood 95:1804-1809 (2000))に用いられて来た。
前述のようなマウスのモノクローナル抗体の非易感染性患者でのヒト治療薬としての使用は、投与されたマウスの抗体、特に反復投与に対する強い免疫反応によって制限された。この反応は、血液循環中でのマウス抗体の実効半減期を短縮できるだけでなく、根深い注射部位をも生じ、および/またはアナフィラキシー反応を生じ得る(Shawler et al., J. Immunol. 135(2):1530 (1985))。さらに、定常領域Fc))に関連する齧歯動物作動体機能は、ヒトに投与した場合のヒトの同機能より効果がはるかに少なくなり、望ましい補体活性化の可能性が喪失し、抗体依存性、細胞媒介型細胞毒性(ADCC)活性を生じる結果となる。
したがって、α2β1インテグリン関連疾患の治療、および炎症性疾患や自己免疫疾患の機序および細胞プロセスを含む抗α2β1インテグリン抗体の開発の必要がある。さらに、患者の抗マウス抗体反応の発生を伴わない抗α2β1インテグリン抗体を開発するのが望ましい。
本発明は抗アルファ2(α2)インテグリン抗体およびその使用方法、特にヒト化抗アルファ2(α2)インテグリン抗体、およびその使用方法を提供するものである。
特定の実施態様において、抗α2インテグリン抗体には、1つ若しくはそれ以上のヒト定常領域(例えば、CL および/またはCH )および、SEQ ID NO:19のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、および/またはSEQ ID NO:21のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、またはそのアミノ酸配列変異体が含まれる。ここでは様々なかたちの抗体が考慮されている。例えば、抗α2インテグリン抗体は、全長抗体(例えば、ヒト免疫グロブリン定常領域を含む)または抗体断片(例えば、Fab またはF(ab')2 または Fab' または Fv またはscFv 断片)である。さらに、前記抗体は検出可能な標識で標識し、固体相に固定化するか、および/または異種化合物(細胞毒性物質のような)と結合し得る。
抗α2β1インテグリン抗体の診断的治療的使用を予防的使用同様考慮している。診断的な使用の場合、α2β1インテグリン蛋白を含むと推測されるサンプルを抗α2インテグリン抗体に暴露し、サンプルの抗体への結合を確認することからなるα2β1インテグリン蛋白の存在を確認する方法を提供する。この使用の場合、α2β1インテグリン蛋白の検出のために抗α2インテグリン抗体と、前記抗体を使用するための使用説明書を有するキットを提供する。治療的使用には、α2β1インテグリン関連疾患の治療、機序、および、炎症性疾患および自己免疫疾患、特に多発性硬化症を含む細胞プロセスが含まれるがこれらに限定されるものではない。
抗α2インテグリン抗体の遺伝子治療への適用も考慮している。抗α2β1重軽鎖遺伝子配列をコードする種々のベクター(例えば、レトロウィルスベクター、染色体)が細胞(例えば、繊維芽細胞、幹細胞)に導入されて抗α2β1MAbを分泌する細胞集団となる。これらの細胞は、異なった細胞種、組織および/または臓器に特異的な「自動誘導」特性を所有できる。これらの抗体産生細胞は次には、患者に導入されて、抗α2β1MAbは局在的に送達される。1つの例として、抗α2β1MAbベクターで修飾された間葉幹細胞を多発性硬化症に罹患した患者の脳に注射することができるであろう。前記幹細胞は神経細胞に分化され、抗α2β1MAbを分泌して多発性硬化症に伴う炎症を治療する。さらに、抗α2β1は治療的遺伝子(例えば、リシン)をコードするウイルスに結合される。前記の修飾されたウイルスは、細胞表面上にα2β1を発現する細胞に特異的に結合し、導入遺伝子の導入効率を増加することができるであろう。さらに、治療遺伝子をコードする核酸を封入している抗α2β1抗体−リポソーム複合体を構成する免疫複合体を患者の静脈内に導入することができる。抗α2β1免疫複合体はα2β1インテグリンを発現する細胞に結合され、治療遺伝子の効率的な摂取を促進するであろう。
さらに、抗α2インテグリン抗体をコードする単離核酸を提供し、ベクターで形質転換された宿主細胞により認識された制御配列に、選択的に可動的に連結したその核酸を有するベクター、そのベクターを有する宿主細胞、核酸が発現され、宿主細胞培養(例えば、宿主細胞培地から)から抗体を選択的に回収するように、前記宿主細胞を培養することからなる抗α2抗体を作製するためのプロセスを提供する。
また、ヒト化抗α2インテグリン抗体および薬学的に許容される担体または賦形剤からなる組成物を提供する。治療的使用のための組成物は滅菌性であり、凍結乾燥される。さらに、α2β1インテグリン関連疾患の治療方法を提供しており、これには哺乳動物へのヒト化抗α2インテグリン抗体のような抗α2インテグリン抗体の薬学的有効量の対象への投与が含まれる。このような治療的使用の場合、哺乳動物への前記の抗α2インテグリン抗体投与の前後、または同時に、他の薬剤(例えば、他のα2β1インテグリン拮抗薬)を共に投与することができる。
また、(a)HCDR2 (VIWARGFTNYNSALMS、 SEQ ID NO:2)、 (b) HCDR1 (GFSLTNYGIH、 SEQ ID NO:1)、 HCDR2 (VIWARGFTNYNSALMS、SEQ ID NO:2) およびHCDR3 (ANDGVYYAMDY、SEQ ID NO:3)または(c) SEQ ID NO:40のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含むヒト抗α2インテグリン抗体を提供する。
一実施態様において、前述の重鎖可変領域はSEQ ID NO:185のアミノ酸配列を有する。
さらなる実施態様において前述の重鎖可変領域は、 (a) 第 71位がLys、(b) 第 73位が Asn、(c) 第 78がVal、または(a)-(c)のあらゆる組合せであるSEQ ID NO:185 のアミノ酸配列を有する。
さらなる実施態様において、前述の重鎖可変領域は、SEQ ID NO:70-79 および SEQ ID NO:109-111から選択されたアミノ酸配列を有する。
一実施態様において、前述の抗α2インテグリン抗体は、さらにアミノ酸配列WGQGTLVTVSS (SEQ ID NO:13)を有するFW4領域を有する。
一実施態様において、前述の抗α2インテグリン抗体はHCDR1 (SEQ ID NO:1)、 HCDR2 (SEQ ID NO:2) および HCDR3 (SEQ ID NO:3)のアミノ酸配列を有する。
一実施態様において、前述の抗α2インテグリン抗体はさらに軽鎖を有する。
本発明はさらに(a)SANSSVNYIH (SEQ ID NO:4)またはSAQSSWNYIH (SEQ ID NO:112)から選択された LCDR1 、(b) LCDR2 (DTSKLAS; SEQ ID NO:5) および (c) LCDR3 (QQWTTNPLT、 SEQ ID NO:6) のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有するヒト化抗α2インテグリン抗体を提供するものである。
一実施態様において、前述の軽鎖可変領域はSEQ ID NO:186のアミノ酸配列を有する。
一実施態様において、前述の軽鎖可変領域は、(a) 第 2位が Phe、 (b) 第 45位が Lys, (c) 第 48位が Tyr、または (d) (a)-(c)のあらゆる組合せであるSEQ ID NO:186のアミノ酸配列を有する。
一実施態様において、前述の軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:41、SEQ ID NO:80-92 および SEQ ID NO:108から選択されたアミノ酸配列を有する。
一実施態様において、ヒト化抗α2インテグリン抗体はさらに、アミノ酸配列FGQGTKVEIK(SEQ ID NO:38)を有するFW4領域を有する。
一実施態様において、前述のヒト化抗α2インテグリン抗体は、LCDR1 (SEQ ID NO:4)、LCDR2 (SEQ ID NO:5) および LCDR3 (SEQ ID NO:6)のアミノ酸配列を有する。
一実施態様において、前述のヒト化抗α2インテグリン抗体はさらに重鎖を有する。
本発明はさらに、ヒト化抗α2インテグリン抗体であって、
(i)(a) HCDR2 (VIWARGFTNYNSALMS, SEQ ID NO:2), (b) HCDR1 (GFSLTNYGIH、 SEQ ID NO:1), HCDR2 (VIWARGFTNYNSALMS、 SEQ ID NO:2)およびHCDR3 (ANDGVYYAMDY、 SEQ ID NO:3)または(c) SEQ ID NO:40のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、
(ii)(a) SANSSVNYIH (SEQ ID NO:4) または SAQSSWNYIH (SEQ ID NO:112) から選択された LCDR1 、(b) LCDR2 (DTSKLAS; SEQ ID NO:5) および (c) LCDR3 (QQWTTNPLT、 SEQ ID NO:6)のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域と
を有するヒト化抗α2インテグリン抗体を提供する。
また、(a)重鎖可変領域は、SEQ ID NO:185のアミノ酸配列を有するか、(b)軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:186のアミノ酸配列を有するか、あるいは(c)(a)および(b)の両方を有する前述のヒト化抗α2インテグリン抗体を提供する。
また、 (i) 重鎖可変領域は、(a) 第 71 位はLys、(b) 第73位はAsn、 (c) 第 78位は Val、または (d) (a)-(c)のあらゆる組合せを有するSEQ ID NO:185のアミノ酸配列を有するか、 (ii) 軽鎖可変領域は(a) 第 2位がPhe、(b) 第45位がLys、(c) 第48位がTyr、または (d) (a)-(c)のあらゆる組合せを有するSEQ ID NO:186のアミノ酸配列を有するか、あるいは、(iii) (i)および(ii)の両方である前述のヒト化抗α2インテグリン抗体を提供する。
また、(a)重鎖可変領域はSEQ ID NO:70-79 および SEQ ID NO:109-111から選択されるアミノ酸配列を有するか、(b)軽鎖可変領域はSEQ ID NO:41、SEQ ID NO:80-92 および SEQ ID NO:108から選択されたアミノ酸配列を有するか、あるいは(c)(a)および(b)の両方である、前述のヒト化抗α2インテグリン抗体を提供する。
一実施態様において、前述のヒト化抗α2インテグリン抗体は、ヒトα2インテグリンのIドメインを認識する。
一実施態様において、前述のヒト化抗α2インテグリン抗体は、α2β1インテグリンに結合する。
一実施態様において、前述のヒト化抗α2インテグリン抗体は、α2インテグリンのエピトープに結合し、前記エピトープは、
(a) SEQ ID NO:8 に記載されたα2インテグリンアミノ酸配列の第192位のLys残基、またはSEQ ID NO:11に記載されたα2インテグリンIドメインのアミノ酸配列の第40位のLys残基、
(b) SEQ ID NO:8 に記載されたα2インテグリンアミノ酸配列の第225位のAsn残基、またはSEQ ID NO:11に記載されたα2インテグリンIドメインのアミノ酸配列の第73位のAsn残基、
(c) SEQ ID NO:8 に記載されたα2インテグリンアミノ酸配列の第241位のGln残基、またはSEQ ID NO:11に記載されたα2インテグリンIドメインのアミノ酸配列の第89位のGln残基、
(d) SEQ ID NO:8 に記載されたα2インテグリンアミノ酸配列の第245位のTyr残基、またはSEQ ID NO:11に記載されたα2インテグリンIドメインのアミノ酸配列の第93位のTyr残基、
(e) SEQ ID NO:8 に記載されたα2インテグリンアミノ酸配列の第317位のArg残基、またはSEQ ID NO:11に記載されたα2インテグリンIドメインのアミノ酸配列の第165位のArg残基、
(f) SEQ ID NO:8 に記載されたα2インテグリンアミノ酸配列の第318位のAsn残基、またはSEQ ID NO:11に記載されたα2インテグリンIドメインのアミノ酸配列の第166位のAsn残基、または、
(g) (a) 〜 (f)のあらゆる組合せ
を有するエピトープである。
また、抗α2インテグリン抗体を提供し、前記抗α2インテグリン抗体において、抗体がα2インテグリンのエピトープに結合し、前記エピトープは、
(a) SEQ ID NO:8 に記載されたα2インテグリンアミノ酸配列の第192位のLys残基、またはSEQ ID NO:11に記載されたα2インテグリンIドメインのアミノ酸配列の第40位のLys残基、
(b) SEQ ID NO:8 に記載されたα2インテグリンアミノ酸配列の第225位のAsn残基、またはSEQ ID NO:11に記載されたα2インテグリンIドメインのアミノ酸配列の第73位のAsn残基、
(c) SEQ ID NO:8 に記載されたα2インテグリンアミノ酸配列の第241位のGln残基、またはSEQ ID NO:11に記載されたα2インテグリンIドメインのアミノ酸配列の第89位のGln残基、
(d) SEQ ID NO:8 に記載されたα2インテグリンアミノ酸配列の第245位のTyr残基、またはSEQ ID NO:11に記載されたα2インテグリンIドメインのアミノ酸配列の第93位のTyr残基、
(e) SEQ ID NO:8 に記載されたα2インテグリンアミノ酸配列の第317位のArg残基、またはSEQ ID NO:11に記載されたα2インテグリンIドメインのアミノ酸配列の第165位のArg残基、
(f) SEQ ID NO:8 に記載されたα2インテグリンアミノ酸配列の第318位のAsn残基、またはSEQ ID NO:11に記載されたα2インテグリンIドメインのアミノ酸配列の第166位のAsn残基、または、
(g) (a) 〜 (f)のあらゆる組合せ、
を有するエピトープである。
一実施態様において、前記のヒト化抗α2インテグリン抗体は全長の抗体である。
一実施態様において、前記のヒト化抗α2インテグリン抗体は抗体断片である。
一実施態様において、前記のヒト化抗α2インテグリン抗体は検出可能な標識に結合される。
一実施態様において、前記のヒト化抗α2インテグリン抗体は固相上に固定化される。
一実施態様において、前記のヒト化抗α2インテグリン抗体は、α2またはα2β1インテグリンのα2β1インテグリンリガンドへの結合を阻害する。
一実施態様において、前記のα2β1インテグリンリガンドは、コラーゲン、ラミニン、エコー・ウィルス−1、デコリン、E-カドヘリン、マトリックスメタロプロティナーゼI(MMP−I)、エンドレペリン、コレクチンおよびC1q 補体蛋白から選択される。
本発明はさらに、サンプルがα2インテグリン、α2β1インテグリンまたはその両方を含むかどうかを測定する方法を提供し、前記方法は、前記ヒト化抗α2インテグリン抗体とサンプルを接触させて、前記抗体が前記サンプルに結合するかどうかを判定することからなり、前記結合した場合は、サンプルがα2インテグリン、α2β1インテグリンまたはその両方を含むことを示す。
本発明はさらに前記のヒト化抗α2インテグリン、選択的にさらに、α2またはα2β1インテグリン蛋白を検出するための使用説明書を有するキットを提供する。
本発明はさらに前に述べたヒト化抗α2β1インテグリン抗体をコードする単離核酸を提供するものである。
本発明はさらに前記核酸を有するベクターを提供する。
本発明はさらに前記核酸またはベクターを有する宿主細胞を提供する。
本発明はさらに前記抗体の発現を可能にする条件下で前記宿主細胞を培養することからなるヒト化抗α2インテグリン抗体を作製するプロセスを提供する。一実施態様において、前記方法はさらに、宿主細胞からヒト化抗α2インテグリン抗体を回収することからなる。他の実施態様において、前記方法はさらに、前記宿主細胞培地からヒト化抗α2インテグリン抗体を回収することからなる。
本発明はさらに、テスト抗体の存在下あるいは不在下におけるα2またはα2β1インテグリンの、SEQ ID NO:19のVL領域およびSEQ ID NO:21のVH領域を有する抗体への結合を検出することと、テスト抗体の存在がα2またはα2β1インテグリンのSEQ ID NO:19のVL領域およびSEQ ID NO:21のVH領域を有する抗体への結合の減少に関連する場合に、そのテスト抗体を選択すること、を有するスクリーニング方法を提供する。一実施態様において、α2またはα2β1インテグリンは固体支持体上に固定化される。
本発明は、さらに、スクリーニング方法を提供し、前記方法はテスト抗体の存在下、α2β1インテグリンのコラーゲンへの結合の検出(この場合、テスト抗体はα2Iドメインに結合する抗体を指す)と、Mg++イオンの存在下、テスト抗体のα2Iドメインへの結合の検出と、;Ca++イオンの存在下、テスト抗体のα2Iドメインへの結合の検出と、陽イオンの無い媒体の存在下、テスト抗体のα2Iドメインへの結合の検出と、Mg++イオン、Ca++イオンおよび陽イオンの無い媒体の存在下、テスト抗体がα2β1インテグリンのコラーゲンへの結合を阻害し、α2Iドメインと結合した場合に、そのテスト抗体を選択すること、とを有する。
本発明はさらに前記ヒト化抗α2インテグリン抗体と、薬学的に許容される担体とを有する組成物を提供する。
本発明はさらに対象におけるα2β1インテグリン関連疾患の治療方法であって、前記方法は前記の抗α2インテグリン抗体または組成物の治療有効量を前記対象に投与することからなる方法を提供する。
本発明はさらに白血球のコラーゲンへの結合を抑制するために前記の抗α2β1インテグリン抗体の有効量を対象に投与することを有する、白血球のコラーゲンへの結合を抑制するための方法を提供する。
本発明はさらに前記のヒト化抗α2インテグリン抗体の薬物としての使用を提供する。
本発明はさらにα2β1インテグリン関連疾患の治療のために前記のヒト化抗α2インテグリン抗体または組成物の使用を提供するものである。
本発明はさらにα2β1インテグリン関連疾患治療薬剤の製剤のために前記のヒト化抗α2インテグリン抗体または組成物の使用を提供する。
本発明はさらに、α2β1インテグリン関連疾患の治療のための組成物であって、前記組成物は前述のヒト化抗α2インテグリン抗体および薬学的に許容される担体または賦形剤を有する組成物を提供する。
本発明はさらに、α2β1インテグリン関連疾患の治療のための使用説明書とともに前記のヒト化α2インテグリン抗体または組成物を有するパッケージを提供する。
実施態様において、α2β1インテグリン関連疾患は炎症性疾患、自己免疫疾患、および新脈管形成の異常または増加を特徴とする疾患から選択される。
実施態様において、α2β1インテグリン関連疾患は炎症性腸疾患、クローン疾患、潰瘍性大腸炎、臓器移植に対する反応、視神経炎、脊髄損傷、慢性関節リューマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、糖尿病、多発性硬化症、レイノー症候群、実験的自己免疫脳脊髄炎、シェーグレン症候群、強皮症、若年型糖尿病、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、心血管系疾患、乾癬、癌、並びに、炎症反応を誘発する感染症から選択される。
実施態様において、α2β1インテグリン関連疾患は、多発性硬化症(例えば、再発、急性治療、遅延治療を特徴とする)、慢性関節リューマチ、視神経炎および脊髄損傷から選択される。
実施態様において、前述の方法は(a)血小板活性化、(b)血小板凝集、(c)循環血小板数の減少、(d)出血性合併症、または(e)(a)〜(d)のあらゆる組合せを伴わない。
一実施態様において、前記の抗α2インテグリン抗体は、SEQ ID NO:174またはSEQ ID NO:176を含む重鎖と、SEQ ID NO:178を含む軽鎖を有する。
一実施態様において、前記の抗α2インテグリン抗体は、SEQ ID NO:19のUL領域と、SEQ ID NO:21のVH領域とを有する抗体がヒトα2β1インテグリンまたはそのIドメインと結合するのを競合的に阻害する。
一実施態様において、前記の方法は発赤、または多発性硬化症に伴う神経性続発症を軽減することに関連する。
一実施態様において、前記の抗α2インテグリン抗体はα2β1インテグリンのコラーゲンへの結合を阻害し、リガンド模倣的ではない。
また、分子、蛋白、核酸、ベクター、組成物、複合体等のような部分分子に、α2β1インテグリンリガンドの存在を特徴とする部位を標的にさせる方法を提供し、前記方法は前記のヒト化抗α2インテグリン抗体に部分分子を付着または結合することからなる方法である。
また、抗α2インテグリン抗体に結合する抗α2インテグリンエピトープをも提供し、ここで、前記エピトープはα2インテグリンのリガンド結合部位を有していない。実施態様において、エピトープへの結合は(a)血小板活性化、(b)血小板凝集、(c)循環血小板数の減少、(d)出血性合併症、(e)α2インテグリンの活性化、または(f)(a)〜(e)のあらゆる組合せを伴わない。
好ましい抗体はヒト化抗α2インテグリンのIドメインに結合する。具体的には、前記好ましい抗体は、細胞外マトリックス(ECM)、特にコラーゲンおよびラミニンの少なくとも1つまたは両方への、細胞のα2依存性接着を阻害できる。本明細書においてTMC-2206と称する抗体に基づいた抗体を含むヒト化抗体を提供する。ヒトα2β1インテグリンに極めて特異的である抗α2インテグリン抗体を提供し、前記抗α2インテグリン抗体の投与は、出血性合併症または細胞活性による合併症のような好ましくない作用を伴わない。これらの抗体の結合特異性(例えば、エピトープ特異性)は、その予期しない非出血性の特徴に関連している。
前記ヒト化抗α2β1インテグリン抗体はHCDR1 (GFSLTNYGIH; SEQ ID NO:1)、および/または HCDR2 (VIWARGFTNYNSALMS; SEQ ID NO:2) および/または HCDR3 (ANDGVYYAMDY; SEQ ID NO:3)のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を有し得る。前記ヒト化抗α2β1インテグリン抗体は、LCDR1( SANSSVNYIH ;SEQ ID NO:4またはSAQSSWNYIH ;SEQ ID NO:112)および/または LCDR2 (DTSKLAS;SEQ ID NO:5) および/または LCDR3 (QQWTTNPLT; SEQ ID NO:6) のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有することができる。特定の実施態様では、前記ヒト化抗α2β1インテグリン抗体はHCDR1 (GFSLTNYGIH; SEQ ID NO:1)、および/または HCDR2 (VIWARGFTNYNSALMS; SEQ ID NO:2) および/または HCDR3 (ANDGVYYAMDY;SEQ ID NO:3)のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、LCDR1( SANSSVNYIH ;SEQ ID NO:4またはSAQSSWNYIH ;SEQ ID NO:112)および/または LCDR2 (DTSKLAS;SEQ ID NO:5) および/または LCDR3 (QQWTTNPLT; SEQ ID NO:6)のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を有する。
他の実施態様において、前記抗体はCDRのような1若しくはそれ以上のアミノ酸配列変異体を有し、前記変異体は、CDR残基内または隣接に1若しくはそれ以上のアミノ酸の挿入、および/または、CDR残基内または隣接に欠失、および/または、CDR残基の置換基(このような変異体生成のために好ましいタイプのアミノ酸改変となる置換基で)を有するものである。
本発明はヒト化抗体を含む、ヒトアルファ2(α2)インテグリンに特に反応性である抗体、およびその使用方法を提供する。前記ヒト化抗体はヒトフレームワ―ク領域(FWs)および非ヒト抗体、代表的には、特にヒトα2インテグリンに反応的なマウスからの相補性決定領域(CDR)を有し得る。重軽鎖抗体をコードするヌクレオチド配列および重軽鎖抗体を有するアミノ酸配列を提供する。好ましい実施態様において、CDR領域の1若しくはそれ以上がハイブリドーマクローンのBHA2.1[本明細書ではTMC-2206と称す]によって分泌されるマウスの抗体に由来、または基づいている。
さらに、類似の結合特性を有する抗体および、本明細書に開示する抗体と同様の機能を有する抗体(または他の拮抗物質)を提供する。好ましい抗α2インテグリン抗体には、(a) α2インテグリンのI ドメインに結合し、(b) α2インテグリンの機能(例えば、コラーゲンおよびラミニン結合)を阻害し、 (c) 血小板の活性化を誘発せずに血小板上に静止しているα2インテグリンに結合し (d) TMC-2206 の結合エピトープを認識する(例えば、α2インテグリンとの結合をTMC-2206 と競合する)ことが含まれる。このような抗体はリガンド結合部位の獲得のために競合するのではなく、標的のα2インテグリン分子の不活性な、または閉鎖立体配座に優先的に結合する。α2β1インテグリンの閉鎖立体配座に優先的に結合し、および/またはリガンド結合部位の獲得のために競合せずに(例えば、リガンド模倣的でない)α2β1インテグリンに結合するという、本明細書に記載する抗α2インテグリン抗体の予期しない利点は、治療される対象における血小板活性化、血小板凝集、循環血小板数の減少、および/または出血性合併症の可能性を防ぐことが含まれる。
本明細書で用いる「出血性合併症」は、抗α2インテグリン抗体の治療的使用を制限する血小板血栓性応答、血小板減少症、血液凝固時間の増加、出血時間の増加および血液喪失を含む血液レベルおよび生理的なあらゆる副作用を意味する。
α2β1インテグリンは、アルファインテグリンのファミリーからのα2インテグリンサブユニット ( 例えば、DNA配列は SEQ ID NO:7および、ヒトα2の蛋白質配列は SEQ ID NO:8を参照)と、ベータインテグリンのファミリーからのβ1インテグリンサブユニット(例えば、DNA 配列は SEQ ID NO:9 およびヒトβ1の蛋白質配列はSEQ ID NO:10を参照 )で構成される分子であり、 哺乳動物を含むあらゆる対象の、好ましくはヒトの分子である。前記α2β1は 自然源から精製され、または、合成的に(例えば、組み換えDNA技術の使用)製造され得る。α2インテグリンおよびβ1インテグリンの核酸コーディング配列 は、 Takada およびHemler J. Cell Biol. 109(1):397-407(1989; GenBank submission X17033; 後にNM 002203に更新された)並びに Argraves, W.S, J. Cell. Biol. Sep 105(3):1183-90 (1987; Genbank submission X07979.1およびスプライスされた変異体を代わりに示す関連配列)にそれぞれ説明されている。
α2β1インテグリン分子の‘I’ドメインは、α2サブユニット内のこのα2β1インテグリン分子の領域を指し、例えば、Kamataら、J Biol. Chem. 269:9659-9663(1994); Emsley et al., J. Biol. Chem. 272:28512(1997)および Cell 101:47(2000)に記載されている。α2インテグリンのヒトIドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:11(例えば、SEQ ID NO:107もまた参照)として示される。前記α2インテグリンのヒトIドメインはMIDAS(金属イオン依存型接着部位(Metal Ion Dependent Adhesion Site) タイプのリガンド結合部位を含んでおり、これはリガンド結合をサポートするための任意の二価の陽イオンに対して特異性があり、必要でもある。SEQ ID NO:93(例えば、SEQ ID NO:113も参照)として示されているラットのα2インテグリンのIドメインのアミノ酸配列、およびSEQ ID NO:94 (例えば、 SEQ ID NO:114も参照のこと)として示されているマウスのα2インテグリンのIドメインのアミノ酸配列を表28に示す。カニクイザルおよび赤毛ザルのI ドメイン配列は、全血由来の白血球分画からクローニングされており、それぞれ、カニクイザルはSEQ ID NO:103 (DNA)、 SEQ ID NO:171 (アミノ酸)、赤毛ザルは SEQ ID NO:104 (DNA)、 SEQ ID NO:172 (アミノ酸)となっている。
TMC-2206 (BHA2.1) エピトープは、TMC-2206抗体が結合するヒトα2インテグリンのIドメインの領域を称す。このエピトープはアミノ酸残基、TK40、 N73、 Q89、 Y93、 R165および N166 および選択的に、α2インテグリンIドメインの他のアミノ酸残基を含む領域にわたる。
α2 インテグリン関連疾患は、標的組織内で異常細胞反応を媒介するα2 インテグリン依存性プロセス/または機能(例えば、結合、活性化)が関与する障害、疾患または病状を指す。疾患に関与するα2インテグリン依存性プロセスの例には、コラーゲン依存性細胞応答、例えば、サイトカインの発現および増殖の亢進に関連する応答、T細胞および肥満細胞および好中球の機能の態様、炎症性疾患、乳腺腺管形態形成、上皮性創傷治癒および新脈管形成が含まれる。α2インテグリン関連疾患の例には、これらに限定されるものではないが、炎症性疾患または障害があり、これには、これらに限定されるものではないが、炎症性腸疾患(クローン疾患および潰瘍性大腸炎等)、臓器移植反応(移植拒絶反応を含む)、視神経炎、脊髄損傷、慢性関節リューマチ、多発性硬化症(それに合併する神経的後遺症、並びに再発を特徴とする多発性硬化症)、自己免疫疾患または障害(全身性エリテマトーデス(SLE)、真性糖尿病、レイノー症候群、実験的自己免疫脳脊髄炎、シェーグレン症候群、強皮症)、若年型糖尿病および、異常血管形成または正常より高度な血管形成に関連する障害(糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、心血管系疾患、慢性関節リューマチおよび癌など)並びに炎症反応を誘発する感染症が含まれる。
α2β1インテグリン関連疾患の治療は、本明細書に述べる抗α2インテグリン抗体の治療的使用および予防的使用の両方を意味する。治療を必要とする人には、疾患をすでに診断された患者、および疾患の発症を予防または遅延するための人が含まれる。
哺乳動物とは、治療目的を含み、人、犬、馬、猫、牛などのような家畜、および動物園、スポーツ用またはペット用動物を含んで哺乳動物と分類されるすべての動物を意味する。理想的には哺乳動物は人間とする。
間欠的投与または定期的投与とは、特定期間の持続的投与または、好ましくは1日以上間隔を置く規則的な間隔で投与することである。
抗体または免疫グロブリンの用語はもっとも広い意味で用いられ、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体、およびそれらが好ましい生物活性を示す限りは、抗体断片が含まれる。抗体断片は全長抗体の一部を有し、一般に、抗体結合、またはその多様な領域を有する。抗体断片の例には、Fab、 Fab'、 F(ab')2およびFv 断片、二重特異性抗体、 線状抗体、単鎖抗体分子、単一ドメイン抗体(例えば、キャメリッドからの)、サメNAR 単一ドメイン抗体、および抗体断片から形成された多重特異性抗体がある。抗体断片はまた、CDRを有する結合部分、あるいは、これらに限定されるものではないが、VH領域(VH, VH-VH)、anticalins、 PepBodiesTM、抗体-T-細胞エピトープ融合体 (Troybodies) またはPeptibodiesを意味し得る。
モノクローナル抗体は、実質的に同質(ホモジーニアス)の抗体を指し、例えば、集団を有する個々の抗体は、少量で存在する自然発生的突然変異の可能性を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して指向的(特異的)である。さらに、一般的に1つの抗原上の異なった決定因(例えば、エピトープ)に対して指向的な(特異的)異なった抗体を含む従来の(例えば、ポリクローナル)抗体製法とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の少なくとも1つの決定因に対して指向的(特異的)である。モディファイア「モノクローナル」は、実質的に抗体の同質の集団から得られる抗体の特徴を示しており、特定の方法によって抗体を作製する必要があるとみなされない。例えば、モノクローナル抗体は、最初にKohlerら, Nature 256:495 (1975)により述べられたハイブリドーマ法によって作製されるか、または、組み換えDNA法(例えば、米国特許第 4,816,567号参照)によって作られる。モノクローナル抗体はまた、例えば、Clackson et al., Nature 352:624-628 (1991)およびMarks et al., J. Mol. Biol. 222:581-597 (1991)に記載の方法を用いてファージ抗体ライブラリから単離することもできる。モノクローナル抗体はまた、米国特許第6,025,155および6,077,677 並びに 米国特許出願公報第2002/0160970号 および第2003/0083293号 (例えば、Lindenbaum, et al., Nucleic Acids Research 32 (21):0177 (2004)も参照のこと)に記載の方法を用いて単離できる。
モノクローナル抗体には、重鎖および/または軽鎖が特定の種由来、または特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または同質であるキメラ抗体を含めることができるが、一方、その鎖の残りの部分は、他の種由来の、または、他の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体、並びにこのような抗体の断片(これらが好ましい生物活性を示す限り)の対応する配列に同一、または同質である(例えば、米国特許第 4,816,567号、および Morrison et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA 81: 6851-6855 (1984) for mouse-human chimeric antibodies)。
超可変領域とは、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を指す。前記の超可変領域は、相補性決定領域またはCDR(例えば、軽鎖可変ドメインの残基 24-34 (L1)、50-56 (L2) および 89-97 (L3)と、重鎖可変ドメインの残基31-35 (H1)、50-65 (H2) および 95-102 (H3); Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))および/または超可変ループのこれらの残基(例えば、軽鎖可変ドメインの残基26-32 (L1)、50-52 (L2)、および91-96 (L3)と、重鎖可変ドメインの残基26-32 (H1)、53-55 (H2)および96-101 (H3) ; Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196: 901-917 (1987))が含まれる。フレームワークまたはFR残基は、超可変領域の残基以外のこれらの可変ドメインの残基である。本明細書に述べる抗体の場合、前記CDRおよびフレームワーク領域は、残基26ないし35にわたる重鎖のCDR1がOxford Molecular's AbM定義によって定義されることを除いては、Kabat番号方式に基づいて同定される。前記Oxford Molecular's AbM抗体モデリングソフトウェア(http://people.cryst.cck.ac.uk/-ubc07s/) (Martin et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 86, 9268-9272 (1989); Martin et al., Methods Enzymol., 203, 121-153 (1991); Pedersen et al., Immunomethods, 1, 126 (1992); および Rees et al., In Sternberg M.J.E. (ed.), Protein Structure Prediction. Oxford University Press, Oxford, 141-172. (1996))は、前記Kabat CDR とChothia超可変領域番号方式を組み合わせてCDRを定義する。
非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト化形態は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含むキメラ抗体であり得る。大抵の場合、ヒト化抗体は、非ドナーの超可変領域の残基が、好ましい特異性、親和性および素質を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域によって置き換えられるヒト免疫グロブリン(レシピエントまたは受容体抗体)である。さらに、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基の個々またはグループが対応する非ヒト残基によって置換され得る。しかも、ヒト化抗体は非ドナー抗体またはドナー抗体中に存在しない残基を有する。抗体の性能をさらに高めるためにこれらの修飾が行われる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1個、代表的には2個の可変領域またはドメインの実質的にすべてを有し、ここで超可変ループのすべて、または実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンの超可変ループと一致し、FR領域のすべて、または実質的にすべてがヒト免疫グロブリン配列のFR領域である。前記ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(例えば、Fc)の選択的に少なくとも一部を有し、代表的にはヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域を有する(例えば、Queen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:10029 (1989), and Foote and Winter, J. Mol. Biol. 224: 487 (1992)参照)。
単一鎖 Fv またはscFv抗体断片は、抗体のVH およびVL領域またはドメインを有し、これらのドメインは1つのポリペプチド鎖中に存在する。一般に、前記Fvポリペプチドはさらに、 VH および VLドメイン間にポリペプチドリンカーを有し、これによってscFvが抗原結合のために好ましい構造を形成できる((総説については、例えば、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, RosenburgおよびMoore eds. Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)を参照)。
二重特異性抗体とは、2個の抗原結合部位を有する小さな抗体断片を称し、前記断片は同じポリペプチド鎖(VH - VL)内に軽鎖の可変ドメイン(VL)に結合した重鎖の可変ドメイン(VH)を有する。同じ鎖上の2つのドメイン間でペアリングさせるには短すぎるリンカーを使って、前記ドメインを他の鎖の相補ドメインでペア化させ、2つの抗原結合部位を作成する。二重特異性抗体は、例えば、EP 404,097; WO 93/11161; およびHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993)に詳細な記載がある。
線状抗体はZapata et al., Protein Eng. 8(10): 1057-1062 (1995)に記載されているような抗体を指す。簡単に言えば、これらの抗体は一対の抗原結合領域を形成する一対の直列のFdセグメント(VH -CH1- VH -CH1)を有する。線状抗体は二重特異性か、または単一特異性であり得る。
単離抗体は、自然環境の成分から同定、分離、および/または回収されたものを指す。その自然環境の汚染成分は、抗体の診断的または治療的使用を干渉するであろう物質であり、酵素、ホルモンおよびその他の蛋白質様または非蛋白質様溶質を含まれる。好ましい実施態様において、前記抗体は、(1)抗体重量で95%より多く(Lowry法により測定)、および、最も好ましくは重量で99%を越えた、(2)スピニングカップ 配列決定装置を用いて、N末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15残基が得られる程度、または(3)クーマシブルまたは、好ましくは銀染色を用いて還元条件または非還元条件下でSDS-PAGEによって均質性に精製される。抗体の自然環境の成分の少なくとも1種は存在しないので、単離抗体は、組換え型細胞内に本来の抗体を含む。しかし、一般的には単離抗体は少なくとも一精製段階によって作製される。
エピトープ標識化抗体とは、本発明の抗体がエピトープタグに融合されているものを指す。前記エピトープタグポリペプチドは、それに対して抗体ができるエピトープを提供するのに十分であるが、抗α2β1インテグリン抗体の活性を干渉しないほどの残基を有する。前記エピトープタグは好ましくは、それに反して抗体が実質的に他のエピトープと交差反応しないように十分にユニークである。適切なタグポリペプチドは一般に、少なくとも6個のアミノ酸残基を有し、通常およそ8〜50のアミノ酸残基(好ましくは約9〜30の残基の間)にある。実施例として、流感HAタグポリペプチドおよびその抗体12CA5 (Field et al., Mol. Cell. Biol. 8: 2159-2165 (1988)); c-myc タグおよび 8F9、3C7、6E10、G4、B7および、それに対する9E10 抗体(Evan et al., Mol. Cell. Biol. 5(12):3610-3616 (1985));および単純疱疹ウィルス糖蛋白質 D (gD)タグおよび、その抗体(Paborsky et al., Protein Engineering 3(6): 547-553 (1990))が含まれる。特定の実施態様において、エピトープタグは、IgGモジュールのFc領域のエピトープ(例えば、 IgG1、 IgG2、 IgG3またはIgG4)である回収受容体結合エピトープであり、IgG分子の生体内血清中半減期の増加に関与する。
細胞毒性物質とは、細胞の機能を阻害または妨げる、および/または細胞の破壊を引き起こす物質を指す。これには放射性同位元素(例えば、131I, 125I, 90Y および 186Re)、化学療法薬、および細菌性、真菌性、植物または動物原因またはその断片の酵素的活性毒素のような毒素が含まれる。非細胞毒性物質とは、細胞の機能を阻害または妨げない、および/または細胞の破壊を引き起こさない物質を指す。非細胞毒性物質には、活性化されて細胞毒性になり得る物質が含まれる。非細胞毒性物質には、ビード、リポソーム、マトリックスまたは粒子(例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許公報 2003/0028071および2003/0032995を参照のこと)。このような物質は本明細書に記載する抗α2β1インテグリン抗体と結合(共役結合、コンジュゲート)、カップリング、連結、または会合することができる。
化学療法薬とは、癌の治療に有用な化合物を指す。化学療法薬の例としては、これらに限定されるものではないが、アドリアマイシン、 ドキソルビシン、5-フルオロウラシル、シトシン・アラビノシド ("Ara-C")、シクロホスファミド、チオテパ、 タキソテール (ドセタキセル)、ブスルファン、サイトキシン(Cytoxin)、 タキソール、メトトレキサート、 シスプラチン、メルファラン、ビンブラスチン、ブレオマイシン、エトポシド、イフォスファミド、マイトマイシンC、ミトキサントロン、ビンクリスチン、 ビノレルビン、 カルボプラチン、テニポシド、ダウノマイシン、カルミノマイシン, アミノプテリン、ダクチノマイシン、マイトマイシン類、エスペラミシン類 (米国特許第4,675,187号参照)、メルファランおよび他の関連ナイトロジェン・マスタード が含まれる。
プロドラッグとは、親薬物にくらべて腫瘍細胞に対する細胞毒性がより少なく、酵素的に活性化されて、より活性な原型に変換できる、薬学的活性物質の前駆体または誘導体である(例えば、 Wilman, "Prodrugs in Cancer Chemotherapy" Biochemical Society Transactions, 14, pp. 375-382, 615th Meeting Belfast (1986) and Stella et al., "Prodrugs: A Chemical Approach to Targeted Drug Delivery," Directed Drug Delivery, Borchardt et al., (ed.), pp. 247-267, Humana Press (1985)を参照)。プロドラッグには、これらに限定されるものではないが、リン酸塩含有プロドラッグ、チオリン酸塩含有プロドラッグ、硫酸塩含有プロドラッグ、ペプチド-含有プロドラッグ、Dアミノ酸修飾化プロドラッグ、 グリコシル化 プロドラッグ、ベータ-ラクタム-含有プロドラッグ、選択的置換型フェノキシアセトアミド含有プロドラッグ、または選択的置換型フェニルアセトアミド含有プロドラッグ、5-フルオロシトシンおよびその他の5-フルオロウリジンプロドラッグが含まれ、これらはより活性な、細胞毒性の無い薬物に変換され得る。前述のプロドラッグ形態に誘導体化できる細胞毒性の薬物の例は、前述のこれらの化学療法薬となり得る。
標識とは、抗体に直接または間接的にコンジュゲートまたは結合される検出可能な化合物である。この標識はそれ自体、単独で検出可能(例えば、放射性元素標識または蛍光標識)または、酵素的標識の場合は、検出可能な基質化合物または組成物の化学変換を触媒する。
固相とは、本発明の抗体が接着できる非水溶性マトリックスを称する。本明細書に含まれる固相の例には、ガラス(例えば、制御孔ガラス製品)、多糖類 (例えば、アガロース)、ポリアクリルアミド、 ポリスチレン、ポリビニルアルコール、およびシリコンの部分的、または全体的形成されたものが含まれる。特定の実施態様において、固相は、場合によっては、アッセイプレートのウェルであり、他の場合は、精製カラム(例えば、アフィニティクロマトグラフィカラム)となる。本用語は、また米国特許第4,275,149号に記載されるようにバラバラの粒子の不連続の固相をも含む。
リポソームとは、(本発明の抗体および選択的に化学療法薬のような)薬物の哺乳動物への送達に有用な各種の脂質、リン脂質および/または界面活性剤から構成される小胞を称す。リポソームの構成成分は、通常二層になっており、生体膜の脂質配置と似ている。
単離核酸分子とは、自然源の抗体核酸に通常付随する少なくとも1つの汚染物質核酸分子から同定または単離された核酸分子を指す。単離核酸分子は自然に存在する形態または設定ではない。したがって、単離核酸分子は自然細胞に存在する核酸分子から区別される。しかし、単離核酸分子は、例えば、核酸分子が自然細胞の核酸分子と異なった染色***置にある場合、通常抗体を発現する細胞に含まれる核酸を含んでいる。
ウイルスベクターは、ウイルス感染または形質導入によって核酸(例えば、DNAまたはRNA)が細胞へ転移するための媒体(伝達手段)を指す。ウイルスベクターの例には、レトロウイルス、アデノウイルス、ポックス・ウイルスおよびバキュロウイルスが含まれる。
非ウイルスベクターは、CAN、プラスミドまたは染色体のような核酸媒体を指し、これはエレクトロポレーション(電気穿孔法)、注射およびカチオン試薬媒介トランスフェクションなどの非ウイルス法によって細胞に伝達される。
発現制御配列とは、特定の宿主生物において可動的に結合したコード化配列の発現に必要なDNA配列を意味する。例えば、原核生物に好適な制御配列には、プロモータ、選択的にオペレータ配列、およびリボソーム結合部位が含まれる。真核細胞はプロモータ、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを利用することが公知である。
核酸は、それが他の核酸配列と機能的な関係に置かれた場合、可動的に結合する。例えば、プレ配列または分泌リーダーのためのDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与するプレ蛋白として発現される場合は、前記ポリペプチドの DNAと可動的に結合しており、;プロモータまたはエンハンサーは、コード化配列の転写に影響する場合は、その配列と可動的に結合している;または、リボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するような位置にある場合は、コード化配列と可動的に結合している。一般に、可動的に結合したDNA配列は隣接的であり、分泌リーダーの場合、隣接的で、リーディング相にある。しかし、エンハンサーは隣接している必要はない。結合は好都合な制限部位での連結によって達成される。このような部位が存在しない場合は、従来のやり方に従って合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが用いられる。
本発明のさらなる態様は、本発明の抗α2インテグリン抗体をコードする核酸分子を対象に投与することによるα2β1インテグリン関連疾患の治療である。好適な投与方法には、遺伝子治療がある(以下参照)。
本発明の核酸は、DNAの直接注入、受容体媒介DNA摂取、ウイルス媒介トランスフェクションまたは非ウイルストランスフェクションおよび脂質ベースのトランスフェクションのような方法を用いて、生体内の細胞に送達されるが、前記方法のすべてが遺伝子治療ベクターの使用に関与する。直接注入は生体内の細胞に裸DNAを導入するために用いられる(例えば、 Acsadi et al. (1991) Nature 332:815-818; Wolff et al. (1990) Science 247:1465-1468参照)。生体内の細胞へのDNA注入用送達装置(例えば、「遺伝子銃」)が用いられる。このような装置は市販されている(例えば、BioRadから)。裸DNAはまた、DNAを細胞表面受容体リガンドに結合するポリリシンのような陽イオンとの複合体として細胞に導入することができる (例えば、 Wu, G. and Wu, C. H. (1988) J. Biol. Chem. 263:14621; Wilson el al. (1992) J. Biol. Chem. 267:963-967; and U.S. Pat. No. 5,166,320を参照)。DNAリガンド複合体が受容体に結合することによって、受容体媒介エンドサイトーシスによるDNAの摂取が促進される。エンドソームを破壊することによって物質を細胞質内に放出するアデノウイルスカプシドに結合したDNAリガンド複合体は、細胞内リソソームによる複合体の分解を避けるために使用され得る。(例えば、Curiel el al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8850; Cristiano et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2122-2126参照)。
欠陥レトロウイルスは遺伝子治療ベクター用として、よく特性化されている(総説はMiller, A. D. (1990) Blood 76:271参照)。このようなウイルスを用いて組換えレトロウイルスを作製するためのプロトコール、およびin vitroまたは生体内(in vivo)の細胞に感染させるためのプロトコールは、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel, F. M. et al. (eds.) Greene Publishing Associates, (1989), Sections 9.10-9.14およびその他の標準の実験室マニュアルに記載されている。適切なレトロウイルスの例としては、当業者に周知のpLJ、pZIP、pWEおよびpEMがある。適切なパケージングウイルス株の例としては、psi.Crip、.psi.Cre、.psi.2 および .psi.Amがある。レトロウイルスはin vitroおよび/またはin vivoにおける多種の異なる細胞タイプ(上皮細胞、内皮細胞、リンパ球、筋芽細胞、肝細胞、骨髄細胞など)への多様な遺伝子導入に使用されて来た(例えば、 Eglitis, et al. (1985) Science 230:1395-1398; Danos and Mulligan (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:6460-6464; Wilson et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:3014-3018; Armentano et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6141-6145; Huber et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8039-8043; Ferry et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8377-8381; Chowdhury et al. (1991) Science 254:1802-1805; van Beusechem et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:7640-7644; Kay et al. (1992) Human Gene Therapy 3:641-647; Dai et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10892-10895; Hwu et al. (1993) J. Immunol. 150:4104-4115; 米国特許第4,868,116号; 米国特許第4,980,286号; PCT出願WO 89/07136号; PCT 出願 WO 89/02468号; PCT 出願 WO 89/05345号; および PCT出願WO 92/07573号参照)。
遺伝子治療ベクターとして用いる場合、アデノウイルスのゲノムは、本発明の核酸化合物をコードし、発現するが、正常な溶解性ウイルス生活環での複製能力という点で不活性化されるように操作することができる。例えば、 Berkner et al. (1988) BioTechniques 6:616; Rosenfeld et al. (1991) Science 252:431-434; およびRosenfeld et al. (1992) Cell 68:143-155を参照のこと。アデノウイルス株Ad 5型dl324またはアデノウイルス(例えば、Ad2、Ad3、Ad7等)の他の株から由来する適切なアデノウイルスベクターは、当業者には周知である。組換えアデノウイルスは、有効な遺伝子送達の媒体である***細胞を必要とせず、気道上皮細胞(先に引用したRosenfeld et al. (1992) )、内皮細胞(Lemarchand et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:6482-6486)、肝細胞(Herz and Gerard (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2812-2816)、および筋肉細胞(Quantin el al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:2581-2584)を含む多様な細胞種を感染させるために使用できる点で有利である。
アデノ関連ウイルス(AAV)は、DNA送達のための遺伝子治療ベクターとして遺伝子治療目的に用いられる。AAVは自然発生の欠陥ウイルスであり、効率的な複製および生産的生活環のためのヘルパーウイルスとして、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスのような他のウイルスを必要とする(Muzyczka et al. Curr Topics in Micro. and Immunol. (1992) 158:97-129)。AAVは非***細胞内にDNAを組み込むために用いられ得る(例えば、Flotte et al. (1992) Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol. 7:349-356; Samulski et al. (1989) J. Virol. 63:3822-3828; and McLaughlin et al. (1989) J. Virol. 62:1963-1973参照)。Tratschin et al. (1985) Mol. Cell. Biol. 5:3251-3260に記載のベクターのようなAAVベクターは、DNAを細胞に導入するために用いられる(例えば、Hermonat et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6466-6470; Tratschin et al. (1985) Mol. Cell. Biol. 4:2072-2081; Wondisford et al. (1988) Mol. Endocrinol. 2:32-39; Tratschin et al. (1984) J. Virol. 51:611-619; and Flotte et al. (1993) J. Biol. Chem. 268:3781-3790を参照)。レンチウイルス遺伝子治療ベクターもまた、本発明での使用に採用し得る。
遺伝子治療の一般的な方法は当業者に公知となっている。例えば、Andersonらによる米国特許第5,399,346号を参照されたい。遺伝物質を送達するための生物学的適合性カプセルは、BaetgeらによるPCT 出願 WO 95/05452号に記載されている。造血細胞への遺伝子導入方法もまた、以前に報告されている(Clapp, D. W., et al., Blood 78: 1132-1139 (1991); Anderson, Science 288:627-9 (2000); and Cavazzana-Calvo et al., Science 288:669-72 (2000)参照)。
細胞、細胞系および細胞培養の用語は、しばしば互換的に使われており、すべてのこのような名称には子孫が含まれる。形質転換細胞および形質転換された細胞(例えば、核酸、ベクター、ウイルスなどのトランスフェクション、形質転換または形質導入によって得られる)は、導入の数と関係なく、由来する対象の初代細胞および培養を含む。すべての子孫は、意図的または偶発的突然変異によるため、DNA内容において厳密には同一でない場合があることも理解される。初めに形質転換細胞で検査した同じ機能または生物学的活性を有する変異子孫も含まれる。別の名称を意図する場合は、状況から明らかと成る。
本明細書で述べるヒト化抗体には、ヒト受容体抗体分子由来の可変領域フレームワーク、ドナーマウス抗体由来の超可変配列またはCDR配列および、存在する場合は、ヒト配列由来の定常領域を有する抗体が含まれる。
本発明の抗体は、マウスモノクローナル抗体クローンBHA2.1 (Hangan et al., Cancer Res. 56:3142-3149 (1996))の重鎖可変領域と、軽鎖可変領域の両方からのCDRを有して作成されている。抗体を作成するための好ましい開始物質は、BHA2.1 ハイブリドーマ (例えば、 TMC-2206)によって分泌される抗体のような抗α2インテグリン抗体であり、前記抗体はヒトα2インテグリンに対して機能阻止性抗体であり、および、結合および活性が標的α2インテグリン抗体内の完全I−ドメインの存在に依存している。好ましくは、α2インテグリン分子の不活性配座に結合し、および/またはリガンド模擬体として作用しない抗体を含むTMC-2206 (or BHA2.1)のエピトープ特異性を有する抗体である。好ましくは、白血球および血小板の両方に存在するα2β1インテグリンと相互反応するが、血小板の活性化を生じず、コラーゲン上の活性化された血小板の凝集を弱化し、出血への作用は最小または全くない、および/または生体内の治療用量を含む投与濃度において、出血性合併症を伴わないTMC−2206(またはBHA2.1)のエピトープ特異性を有する抗体である。
抗体作製において、軽鎖可変領域のヒト受容体分子は、可能性のある受容体分子可変領域とマウス抗体の軽鎖可変領域間の相同性考察に基づいて選択する。好ましくは、生殖細胞系列候補ヒト受容体分子では、抗原性の可能性を減少する。生殖細胞系データベースは、重鎖FW3領域の最後およびCDR3配列の一部まで読み取る抗体配列で構成されている。FW4領域を選択する場合は、好ましくは、選択された生殖細胞系列分子から由来する成熟抗体配列のデータベースを検索し、組換え型抗体分子での使用に妥当な相同性FW4領域を選択する。好ましくは、ヒト受容体分子は、マウスドナー分子と同じ軽鎖クラスから、およびマウスドナー分子の同じカノニカル構造を持つ可変領域クラスから選択する。軽鎖可変領域のヒト受容体分子を選択するための二次的考察として、マウスドナー分子およびヒト受容体分子間のCDR長での相同性がある。ヒト受容体抗体分子は、好ましくはV-BASEデータベースでの相同性検索によって選択し、またKabatのような他のデータベースおよび公共のNCBIデータベースも同様に使用され得る。TMC-2206と同じまたは同様のエピトープ特異性および/または機能的特性を有するヒト化抗α2インテグリン抗体の場合、好ましい軽鎖ヒト受容体分子は、FW 1-3領域には生殖細胞系列抗体配列A14を有するSEQ ID NO:37、 およびFW4 (SEQ ID NO:38)には、成熟kappa1軽鎖(例えば、軽鎖配列AAB24132 (NCBIエントリ gi/259596/gb/AAB24132)の共通のFW-4を示す配列FGQGTKVEIK である。
抗体作製において、重鎖可変領域のヒト受容体分子は、可能性のある受容体分子可変領域とマウス抗体の重鎖可変領域間の相同性考察に基づいて選択する。好ましくは、生殖細胞系列候補ヒト受容体分子では抗原性の可能性を減少する。生殖細胞系データベースは重鎖FW3領域の最後およびCDR3配列の一部まで読み取る抗体配列で構成されている。FW4領域を選択する場合は、好ましくは、選択された生殖細胞系列分子から由来する成熟抗体配列のデータベースを検索し、また組換え型抗体分子での使用に妥当な相同性FW4領域を選択する。ヒト受容体分子は好ましくは、マウスドナー分子と同じ重鎖クラスから、およびマウスドナー分子の同じ局限構造を持つ可変領域クラスから選択する。重鎖可変領域のヒト受容体分子を選択する二次的考察として、マウスドナー分子およびヒト受容体分子間のCDR長の相同性がある。ヒト受容体抗体分子は、好ましくはV-BASEデータベースでの相同性検索によって選択し、またKabatのような他のデータベースおよび公共のNCBIデータベースも同様に使用され得る。TMC-2206と同じまたは同様のエピトープ特異性および/または機能的特性を有するヒト化抗α2インテグリン抗体の場合、好ましい重鎖ヒト受容体分子は、FW 1-3領域(SEQ ID NO:12)には、生殖細胞系列抗体配列4-59を有するSEQ ID NO:39および、FW 4領域(SEQ ID NO:13) には、4-59の生殖細胞系列配列由来の成熟抗体である抗体CAA48104.1(NCBI エントリ、gi/33583/emb/CAA48104.1)である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
非ヒト化α2インテグリン抗体をヒト化する方法を、以下の実施態様に含めて本明細書に記載する。抗α2インテグリン抗体のヒト化は、免疫からの作成または市販の抗体の購入などにより非ヒト抗体開始物質を得る。抗体作成の代表的技法を本明細書に述べる。
抗体産生に用いられるα2β1インテグリン抗原は、例えば、α2β1インテグリン、またはα2β1インテグリンの他の断片(例えば、ヒトα2インテグリンIドメイン(SEQ ID NO:11)を有するα2β1インテグリン断片; 例えば、SEQ ID NO:107をも参照)の可溶性形態であり得る。抗体作成に有用なα2インテグリンの他の形態は、α2インテグリン(例えば、SEQ ID NO:8のヒトα2インテグリン)の配列に基づいて当業者に明らかとなるであろう。
好ましくは、ポリクローナル抗体は、関連抗原をアジュバントと共に、または、アジュバントを使用せずに複数回の皮下注射(sc)、筋肉内注射(iv)または腹腔内注入(ip) によって動物において惹起する。関連抗原を、免疫される種において免疫原性である蛋白質と結合させることは有用であり、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリンまたは大豆トリプシン阻害剤に、二官能性薬剤または誘導化剤、例えば、マレイミドベンゾイルスルフォサクシンイミドエステル(システイン残基による共役)、N-ヒドロキシサクシンイミド (リジン残基による)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl2または R1N=C=NR( R と R1 は異なったアルキル基である)を用いる。
動物は、抗原または結合体(コンジュゲート)(例えば、ウサギ用100μg、またはマウス用5μg)を3倍の完全フロインドアジュバンドと混合し、前記溶液を皮内的に複数部位に注射して、抗原、免疫原性結合体(コンジュゲート)または誘導体に対して免疫化される。一ヶ月後、前記動物を完全フロインドアジュバンドに入れた抗原または結合体(コンジュゲート)(例えば、免疫化に用いた初期量の1/5 〜1/10で)を複数部位に皮下注射して追加免疫する。7ないし14日後、前記動物から採血し、その血清の抗体力価を測定する。力価がプラトーに達するまで動物に追加免疫をする。好ましくは、結合体による免疫の場合は、同じ抗原の結合体であるが、異なる蛋白質および/または異なった架橋剤によって結合された結合体で動物を追加免疫する。結合体はまた、蛋白融合体として組換え細胞培養内でも作成できる。また、ミョウバンのような凝集剤も免疫反応を亢進するために適切に用いられる。
モノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256: 495 (1975)が最初に記載したハイブリドーマ法を用いて、または、組換えDNA法(例えば、米国特許第6,204,023号)によって作成することができる。モノクローナル抗体はまた、米国特許第 6,025,155 号、および第 6,077,677 号、並びに米国特許出願公開第2002/0160970 号および第 2003/0083293号(例えば、Lindenbaum, et al., Nucleic Acids Research 32(21):0177(2004)もまた参照)に記載されるテクニックを用いて作成することができる。
ハイブリドーマ法では、マウスまたは、他の適切な動物、例えば、ラット、ハムスターまたはサルの宿主動物を(例えば、前文に記載したように)免疫化して、免疫に用いる抗原に特異的に結合する抗体を産生するか、または産生できるリンパ球を導き出す。あるいは、リンパ球をin vitroで免疫化する。次に、ポリエチレングリコールのような適切な融合剤を用いて骨髄腫細胞にリンパ球を融合させてハイブリドーマ細胞を形成する(例えば、Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59-103(Academic Press, 1986を参照))。
このようにして作成された前記ハイブリドーマ細胞は、シ―ドし、好ましくは、非融合親骨髄腫細胞の成長または生存を阻害する1若しくはそれ以上の物質を含む適切な培地で育てる。例えば、親骨髄腫細胞に酵素、ヒポキサンチングアニンホスホリボシル転移酵素(HGPRT または HPRT)が欠けている場合、ハイブリドーマ用培地には、代表的にはヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジン(HAT培地)が含まれ、前記物質はHGPRT欠失細胞の成長を妨げる。
好ましい骨髄腫細胞は、効率的に融合され、前記選択した抗体産生細胞によって抗体産生を安定かつ高度にした、HAT培地のような媒体に感作性のある骨髄腫細胞である。これらの中でも、好ましい骨髄腫細胞系は、Salk Institute Cell Distribution Center(米国カルファオルニア州サンディエゴ市)から入手可能なMOP-21 および M.C.-11マウス腫瘍由来、および、American Type Culture Collection( 米国メリーランド州ロックビル市)から入手可能なSP-2またはX63-Ag8-653細胞由来の骨髄腫細胞のようなマウス骨髄腫系である。ヒト骨髄腫細胞系およびマウス−ヒトヘテロミエローマ細胞系もまた、ヒトモノクローナル抗体の産生について記載されている(例えば、 Kozbor, J. Immunol., 133: 3001 (1984); Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
ハイブリドーマ細胞が成長する培地は、抗原に対するモノクローナル抗体の産生について検定する。ハイブリドーマ細胞が産生するモノクローナル抗体の結合特異性は、好ましくは免疫沈降によるか、または放射免疫測定(RIA)または酵素結合体免疫アッセイ(ELISA)のようなin vitro結合アッセイによって測定される。
モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、Munson et al., Anal. Biochem., 107: 220 (1980)のScatchard分析によって決定できる。
望ましい特異性、親和性および/または活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定した後に、希釈度を制限してサブクローニングし、標準の方法によって増殖させる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59-103 (Academic Press, 1986))。この目的に適切な培地には、例えば、D-MEM または RPMI-1640培地が含まれる。さらに、ハイブリドーマ細胞は動物の腹水腫瘍としてin vivoで増殖させ得る。
サブクローンによって分泌された前記モノクローナル抗体は、例えば、蛋白質Aクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析法、および/またはアフィニティークロマトグラフィーを含む従来の免疫グロブリン精製方法によって培地、腹水液または血清から適切に分離される。
モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順(例えば、モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いて)を用いて容易に単離され、配列決定される。ハイブリドーマ細胞はこのようなDNAの好ましいソースとして働く。DNAは一旦単離したら、発現ベクターに入れ、次に前記発現ベクターを、免疫グロブリン蛋白を産生しない細胞を含むE. coli細胞、 シミアン COS細胞、チャイニーズハムスターの卵巣細胞(CHO)、または骨髄腫細胞のような宿主細胞に、トランスフェクトして、組換え宿主細胞においてモノクローナル抗体の合成を得る。抗体の組換え体作製については、以下にさらに詳細に述べる。
本明細書に記載する実施例では、代表的な抗α2インテグリン抗体のヒト化方法について述べる。特定の実施態様において、好ましくは、ヒト化抗体のアミノ酸配列変異体を作製し、特にこれらではヒト化抗体の結合親和性または他の生物学的特性を改善する。
ヒト化抗α2β1インテグリン抗体のアミノ酸配列変異体は、ヒト化抗α2β1インテグリン抗体DNAに適切なヌクレオチドの改変を導入して、またはペプチド合成によって作製される。このような変異体には、例えば、抗α2インテグリン抗体TMC-2206に示すアミノ酸配列内の残基(例えば、SEQ ID NO:19および21に示される可変領域配列に由来する、または基づく)の欠失、および/または挿入および/または置換が含まれる。最終構築物が目的の特性を所有することを条件として、アミノ酸の欠失、挿入および置換のあらゆる組合せを行って最終構成に到達する。アミノ酸の改変によってもまた、グリコシル化部位の数または位置を変えるなど、ヒト化抗α2インテグリン抗体の翻訳後プロセスが変更される。
抗体をヒトまたはヒト様(例えば、「ヒト化」)にするために使われる多数の方法がある。抗体をヒト化するためのアプローチは、長年にわたって変化してきた。1つのアプローチはマウス可変領域をヒト定常領域に融合して、いわゆるマウス−ヒトFcキメラを生成することである(例えば、Morrison et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855 (1984); 米国特許第 5,807,715号参照)。他のアプローチでは、CDRがその超可変的性質((Kabat et al, J. Biol. Chem. 252:6609-6616 (1977)), Kabat, Adv. Protein Chem. 32:1-75 (1978)) and canonical structure (Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196(4):901-17 (1987); Lazakani et al., J. Mol. Biol. 272:929 (1997)に基づいて容易に同定され、非ヒトCDR領域(ドナーCDRと呼ぶ)のみをヒトフレームワーク(受容体フレームワークと呼ぶ)に移植することによってヒト化される事実を利用している(例えば、Jones et al., Nature 321(6069):522-5 (1986); (例、米国特許第 5,225,539号;米国特許第6,548,640号参照)に示されているように)。1つのクラスターに6個のCDRループが提示され、結晶学的分析に基づいて、CDRにフランキングするいわゆる「ベルニエ(Vernier)」ゾーン内の、または重−軽鎖インターフェース内の重要なフレームワーク残基が容易に同定できる(例えば、 Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196(4):901-17 (1987); Chothia et al., J. Mol. Biol. 186(3):651-63 (1985); Chothia et al., Nature 342(6252):877-83 (1989)参照).これらの残基は、マウス残基に復帰突然変異して6個のCDRの正しい相対配向を復元できる(例えば、Verhoyen et al., Science 239(4847):1534-6 (1988); Reichman et al., Nature 332(6162):323-7 (1988); Tempest et al., Biotechnology (NY) 9(3):266-71 (1991)参照)。可変領域は、マウスおよびヒト(例えば、Pascual and Capra Adv. Immunol. 49:1-74 (1991)にて検討した)間で比較的高度な相同性があるファミリーに分類することができるため、これらの初期の研究もまた、ヒト受容体分子としての使用が目的であるマウス抗体に相同性が最も高いヒト生殖細胞系配列を選択することによって、移植された抗体での親和性喪失の可能性が最小限に抑えられることを示唆している(例えば、米国特許第 5,225,539号; Verhoyen et al., Science 239(4847):1534-6 (1988)参照)。
ファミリー相同性と、所定のタイプのCDRの局限構造の正確な提示に影響を与えるフレームワーク間の構造的関係が報告されている(例えば、 Al-Lazakani et al., J. Mol. Biol. 273(4):927-48 (1997)および、その中の参考文献を参照 )。好ましくは、最良適合のヒトまたは生殖細胞系列配列を選択する。使用できる抗体生殖細胞系列配列のデータベースを用いて、所定のマウス重軽鎖のファミリーサブタイプを決定し、前記サブファミリー内でヒト受容体フレームワークとして有用な最良適合配列を同定する。好ましくは、ドナーのリニアアミノ酸相同性および受容体フレームワークを共に、またCDRカノニカル構造をも考慮する。
ヒト化抗α2インテグリン抗体の置換される、代表的な重鎖残基には、H37、H48、H67、H71、H73、 H78 および H91 (Kabat番号方式)のフレームワーク残基の何れか1つ、若しくはそれ以上が含まれる。好ましくは、これらのフレームワーク残基の少なくとも4個を置換する。本明細書に例示するヒト化抗α2インテグリン抗体の重鎖置換基の特に好ましいセットは、H37、 H71、H73 および H78である。同様に、軽鎖内の残基もまた置換できる。置換の代表的な軽鎖残基には、L1, L2, L4, L6, L46, L47, L49 および L71の残基番号の何れか1つ若しくはそれ以上が含まれる。好ましくはこれらのフレームワーク残基の少なくとも3個を置換する。本明細書に例示するヒト化抗α2インテグリン抗体の軽鎖の置換基の特に好ましいセットは、L2, L46 および L49である。
変異誘発の好ましい位置である、ヒト化抗α2インテグリン抗体の特定の残基または領域を同定するために有用な方法は「アラニンスキャニング突然変異誘発法」と呼ばれる(例えば、 Cunningham and Wells Science, 244: 1081-1085 (1989)参照)。ここでは、1つの残基または、1群の標的残基 (例えば、arg、 asp、 his、 lys および gluのような荷電残基)が同定され、ニュートラル、または負に荷電したアミノ酸(好ましくはアラニンまたはポリアラニン)によって置換されてアミノ酸とα2β1インテグリン抗原との相互反応に作用する。次に、前記置換基に機能的感受性を示すこれらのアミノ酸の位置を、置換部位にさらに、他の変異体を導入することによって純化する。このようにして、アミノ酸配列改変を導入する部位は、事前決定するが、変異の性質自体は事前決定する必要はない。例えば、所定部位の突然変異の働きを分析するために、標的コドンまたは領域でアラニンスキャニングまたはランダム変異誘発を行って、発現されたヒト化抗α2インテグリン抗体変異体を目的の活性についてスクリーニングする。
アミノ酸配列挿入には、長さが、1残基から100若しくはそれ以上にわたる残基を有するポリペプチドのアミノ−および/またはカルボキシル末端融合、並びに1若しくは複数のアミノ酸残基の配列内挿入がある。末端挿入の例としては、N末端メチオニル残基を有するヒト化抗α2インテグリン抗体、またはエピトープタグに融合した抗体が含まれる。ヒト化抗α2インテグリン抗体分子の他の挿入変異体には、酵素またはポリペプチドのヒト化抗α2インテグリン抗体のNまたはC末端への融合があり、これは抗体の血清中半減期を増加する(以下参照)。
他のタイプの変異体はアミノ酸置換変異体である。これらの変異体はヒト化抗α2インテグリン抗体分子の少なくとも1アミノ酸残基が外され、その代わりに異なった残基が挿入されている。最も置換性変異誘発を目的とする部位は、超可変ループであるが、フレームワークの改変もまた考慮する。抗原結合に関与する超可変領域残基またはフレームワーク残基は、一般に比較的保存的に置換される。このような保存的置換は以下に「好ましい置換」の項に示す。このような置換によって生物活性が生じた場合は、「代表的置換」と呼ぶ、またはアミノ酸クラスに関連して以下にさらに記載するより実質的な改変を導入し、製品をスクリーニングした。
前記抗体の生物学的特性における実質的な修飾は、(a) 例えば、シートまたはヘリックス立体配座としての置換部分のポリペプチド骨格の構造、 (b)標的部位の分子の荷電または疎水性度、または (c) 大部分の側鎖、の維持が大きく異なる置換を選択することによって達成される。自然発生の残基は、共通の側鎖特性に基づいて (1) 疎水性: ノルロイシン、 met、 ala、 val、 leu、 ile、(2) 中性親水性: cys、 ser、 thr、 (3) 酸性: asp、 glu、(4) 塩基性: asn、 gln、 his、 lys、 arg、(5) 鎖配向に影響する残基: gly、 pro; および(6) 芳香性: trp、 tyr、 pheのグループに分けられる。
非保存的置換ではこれらのクラスの1メンバーの他のクラスへの交換を伴う。ヒト化抗α2インテグリン抗体の適切な配座の維持に関与しないシステイン残基もまた、分子の酸化的安定性を改善し、異常な架橋を防ぐために通常セリンとともに置換される。逆に、システイン結合を抗体の安定性改善のために前記抗体に付加する(特に抗体がFv断片のような抗体断片である場合)。
抗体の他のタイプのアミノ酸変異体は、抗体の元のグルコシル化パターンを変える。改変とは、抗体中に存在する1若しくはそれ以上の炭水化物部分を削除すること、および/または抗体中に存在しない1若しくはそれ以上のグリコシル化部位を追加することを意味する。
抗体のグリコシル化は、代表的にはN−結合またはO−結合である。N-結合とは、アスパラギン残基の側鎖に炭水化物部分を結合することを意味する。トリペプチド配列アスパラギン-X-セリンおよびアスパラギン-X-スレオニン[ここでXは、プロリン以外の任意のアミノ酸である]は、アスパラギン側鎖へ炭水化物部分が酵素的結合するための認識配列である。従って、ポリペプチド内にこれらのトリペプチド配列のいずれかが存在すると、グリコシル化部位の可能性が生じる。O−結合グリコシル化とは、糖N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースのうちの一つが、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリンまた はスレオニンに結合することを指すが、5-ヒドロキシプロリンまたは5-ヒドロキシリジンが使われることもある。
グリコシル化部位の抗体への付加または欠失は、1若しくはそれ以上の前記トリペプチド配列を含むかまたは欠けるようにアミノ酸配列を変えることによって都合良く達成される(N−結合グリコシル化部位の場合)。前記改変もまた、元の抗体の配列に1若しくはそれ以上のセリンまたはスレオニン残基を付加、置換または欠失させることによって行える(O−結合グリコシル化部位の場合)。ヒト化抗α2インテグリン抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当業者に周知の多様な方法によって作製される。これらの方法には、自然源(天然のアミノ酸配列変異体の場合)からの単離または、オリゴヌクレオチド媒介(または部位特異的)変異誘発、PCR変異誘発または早期作製変異体のカセット式変異誘発、あるいはヒト化抗α2インテグリン抗体の非変異体による作製が含まれるが、これらに限定されるものではない。
通常、ヒト化抗α2インテグリン抗体のアミノ酸配列変異体は、元のヒト化抗体アミノ酸配列の重鎖か、または軽鎖の何れか(例えば、SEQ ID NO:21 か、または SEQ ID NO:19の各々の可変領域配列)と少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、より好ましくは、少なくとも80%、さらに好ましくは、少なくとも85%、なおより好ましくは、少なくとも90%、および最も好ましくは、少なくとも95%(例えば、80%、 81%、 82%、 83%、 84%、 85%、 86%、 87%、 88%、 89%、 90%、 91%、 92%、 93%、 94%、 95%、 96%、 97%、 98%、 99% および100%を含む)のアミノ酸配列同一性を有する。本明細書におけるこの配列に関する同一性または相同性は、配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入して配列同一性の最大パーセントを得て、かつあらゆる保存的置換(前記のように)も配列同一性の一部としてみなさずに、ヒト化抗α2インテグリン残基と同等な候補配列のアミノ酸残基の百分率として定義する。前記抗体配列へのN末端、C末端または内部伸長、欠失または挿入の何れの場合も、配列同一性または相同性に影響しないものと見なす。したがって、配列同一性は、2つのポリペプチドのアミノ酸位置における類似性の比較に通常用いられる標準の方法により決定できる。BLAST または FASTAのようなコンピュータプログラムを用いて、2つのポリペプチドを配列させて、それらの各々のアミノ酸(1つの配列または両方の配列の全長に沿って、あるいは、1つまたは両方の配列の事前決定の部分に沿って)の最適なマッチングを見る。前記プログラムではデフォルトのオープニングペナルティおよびデフォルトのギャップペナルティが提供され、PAM250 (標準のスコアリングマトリックス; Dayhoff et al ., Atlas of Protein Sequence and Structure, vol 5, supp. 3 (1978)を参照)のようなスコアリングマトリックスをコンピュータプログラムと共に使用することができる。例えば、同一性のパーセントは、同一マッチの合計数に100を掛けて、次にマッチした範囲内の長い方の配列の長さと2つの配列を整列させるために長い方の配列に導入されたギャップの数の合計で割って計算できる。
本明細書において、ヒト化抗α2インテグリン抗体の望ましい特性として同定された特性を有する抗体は、本明細書に記載する方法によってスクリーニングされる。例えば、好ましい特性および機能性のための候補抗α2インテグリン抗体のスクリーニング方法であって、目的の抗体(例えば、TMC-2206抗体のα2β1インテグリンへの結合と競合、阻害、または阻止する抗体)によって結合されるα2β1インテグリン上のエピトープに結合する抗体のスクリーニングを含む方法を提供する。代表的な方法および材料は、実施例13に記載する。クロスブロッキングアッセイを実施することができ、例えば、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane (1988)に記載がある。さらに、または、あるいは、Champe et al., J. Biol. Chem. 270:1388-1394 (1995)に記載のエピトープのマッピングを行って、抗体が目的のエピトープに結合するかどうかを決定することができる(例えば、TMC-2206のエピトープマッピング研究についての実施例12参照)。
固定化されたα2β1インテグリンを同様に用いて競合アッセイでKi値を測定して相対的結合能を測定できる(例えば、実施例2参照)。例えば、異なる濃度の非標識候補抗体の存在下、例えば、前記と同様の方法を用いて、蛍光標識化Eu-TMC-2206を使用する。指定された培養時間後、結合Eu-TMC-2206の量を測定する。阻害曲線はPrism ソフトウェア (GraphPad, Inc. CA)を用いて「一部位競合」モデルに当てはめてIC50値を得て、ChengおよびPrusoffの式を用いて計算する(Biochem, Pharmacol. 22(23):3099-108(1973))。
例えば、実施例2に記載する条件下で有利な結合特性を有するヒト化抗α2インテグリン抗体を作製、同定および/または選択することは望ましく、前記実施例2において、候補抗体は、α2β1インテグリン媒介細胞接着阻止能力をTMC-2206および実施例2に記載のTMC-2206由来のマウス−ヒトキメラ抗体と比較して試験される。例えば、ヒト化抗α2インテグリンを発現するCHO細胞および内因性ハムスターβ1(Symington et al., J. Cell Biol. 120(2):523-35 (1993))を作製し、CFSE (Molecule Probes, OR)で標識する。標識細胞を作製し、細胞濃度を調整し、細胞は使用するまで暗所に保存する。コラーゲン被覆プレート(ラット尾部コラーゲンタイプ1; BD Biosciences)を調整し、各々の連続希釈した抗体溶液を前記コラーゲンプレートに加える。次に、標識細胞をウェルに入れて、プレートをインキュベートする。洗浄後細胞を溶解し、蛍光強度(励起、485nm;エミッション、535nm)を読み取る。各々の抗体の阻害作用を計算する。
さらに、固定化α2β1インテグリンリガンドに対する候補抗体の結合定数は実施例2に記載するように計算できる。96ウェル微量滴定プレートのウェルを血小板α2β1インテグリンで被覆し(ヒト血小板α2β1(GTI Inc., WI)でカスタム被覆した)、次にブロックした。例えば、そのα2インテグリン抗原に対するTMC-2206の親和性を測定するために、蛍光標識TMC-2206または、同位元素コントロールIgG抗体を用いた(例えば以下の実施例を参照)。Eu-TMC-2206またはEu-同位元素コントロールIgGを含む前記蛍光標識抗体を、ブロックされたα2β1インテグリン微量滴定プレートに適用する。密封したプレートをインキュベートして抗体抗原相互反応が平衡に到達させた後、各ウェルのサンプルを促進溶液を含む新しいウェルに移して非(未結合)標識の測定を行う。促進溶液をまた、空のウェルに加えて結合標識の測定を行う。抗α2インテグリン抗体のKd値はスキャチャード解析によって計算される。TMC-2206誘導体(TMC-2206由来ヒト化抗体またはTMC-2206に基づくヒト化抗体を含む)の相対的親和性は、競合アッセイでのKi値を測定して決定できる。例えば、競合アッセイの場合、TMC-2206、またはTMC-2206由来またはTMC-2206に基づくキメラ抗体、または同位元素コントロールIgG抗体を含む非標識抗α2インテグリン抗体の異なる濃度の存在下、α2β1被覆のウェルにEu-標識TMC-2206を加える。反応平衡に達するためのインキュベーション期間の後、前記ウェルを洗浄し、結合標識抗体の濃度を各々のウェルに保持されたEU標識として測定する。Ki 値は前述の直接結合の試験によってEu-TMC-2206抗体用に得たEu-TMC-2206値を用いてEC50 値から引き出すことができる。
特定の実施態様において、ヒト化抗α2インテグリン抗体は抗体断片である。種々の技法が抗体断片作製のために開発されてきた。従来、これらの断片は完全抗体の蛋白分解的消化によって得られた(例えば、 Morimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24: 107-117 (1992) and Brennan et al., Science 229: 81 (1985)参照)。しかし、これらの断片は細菌のような組換え宿主細胞によって直接産生され得る(例えば、 Better et al., Science 240(4855):1041-1043 (1988); 米国特許第6,204,023号参照)。例えば、Fab'-SH 断片はE. coli から回収することができ、化学的に結合させてF(ab')2 断片を形成することができる (Carter et al., Bio/Technology 10: 163-167 (1992))。他のアプローチによると、F(ab')2断片は組換え宿主細胞から直接単離できる。抗体断片作製の他の方法は当業者にとって明白となるであろう。
いくつかの実施態様において、少なくも2つの異なるエピトープに結合特異性を有する多重特異性ヒト化抗α2インテグリン抗体(例えば、二重特異性)を作製することが好ましい。代表的な二重特異性抗体(2つの異なる結合アーム)は、α2β1インテグリン蛋白の2つの異なるエピトープに結合する。あるいは、抗α2インテグリンのアームは、表面に結合α2β1インテグリンを有する細胞に細胞性防衛機構を集中するように白血球上のトリガー分子(例えば、T-細胞受容体分子 (例えば、CD2 または CD3)、またはFcgR1 (CD64)、FcgRII (CD32)および FcgRIII (CD16)のようなIgG (FcgR)のFc受容体)に結合する1ア―ムと結合される。二重特異性抗体を用いて、細胞表面に結合α2β1インテグリンを有する細胞に細胞毒性物質を限局化することができる。これらの抗体は、α2β1インテグリン結合アームと、細胞毒性物質(例えば、ゲロニン、サポリン、抗インターフェロンアルファ、ビンカ・アルカロイド、リシンA鎖、または放射性同位元素ハプテン)に結合する1アームを所有する。二重特異性抗体は、全長抗体または抗体断片(例えば、F(ab')、二重特異性抗体)として作製できる。
二重特異性抗体作製の他のアプローチによると、一対の抗体分子間のインターフェースを操作して組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体の回収率を最大にすることができる。好ましいインターフェースは、抗体定常ドメインの、CH3ドメインの少なくとも一部を有する。この方法では、小アミノ酸の1若しくはそれ以上の側鎖が、より大きい側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)と置換される。アミノ酸の大側鎖を小側鎖(例えば、アラニンまたはスレオニン)で置換することによって、大側鎖と同じサイズまたはより小さいサイズの代償性空洞が二番目の抗体のインターフェース上にできる。これによって、ホモ二量体(例えば、 WO96/27011参照)のような望まない他の最終産物よりヘテロ二量体の産出の方を増加するメカニズムが得られる。
二重特異性抗体には架橋結合またはヘテロ結合抗体が含まれる。例えば、ヘテロ結合の抗体の1つはアビジンに結合し、他はビオチンに結合できる。ヘテロ結合抗体は便利な架橋法を用いて作成される。適切な架橋剤は当業者には周知であり、例えば、米国特許第4,676,980号において多くの架橋法と共に開示されている。
抗体断片からの二重特異性抗体の作成方法もまた、前記文献に記載されている。二重特異性抗体は化学結合によって作製できる。例えば、Brennan et al., (Science 229:81 (1985))によって完全抗体を蛋白質分解的に分割してF(ab')2断片を作成する方法が記載されている。これらの断片はジチオール錯化剤ヒ酸ソーダの存在下で還元されて、ビンカルジチオール(vincal dithiols)を安定化し、分子間ジスルフィド形成を防ぐ。生成されたF(ab')2断片を次に、チオニトロベンゾエート(TNB)誘導体に変換する。次に、Fab'-TNB誘導体の1つをメルカプトエチルアミンで還元してFab'-チオールに再度変換し、他のFab'-TNB誘導体の等モル量と混合して二重特異性抗体を形成する。作製された前記二重特異性抗体は酵素の選択的固定化のための物質として使用できる。
E. coliから回収したFab'-SH断片は化学的に結合して二重特異性抗体を形成できる。例えば、Shalaby et al., (J. Exp. Med. 175:217-225 (1992))は完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab')2分子の作製について記載している。この場合、各々のFab'断片はE. coliから別々に分泌され、in vitroで方向づけて化学結合(カップリング)させて二重特異性抗体を形成する。このようにして、形成された二重特異性抗体は、HER2受容体を過剰発現している細胞および正常ヒトT細胞に結合し、ヒト***腫瘍標的に対してヒト細胞毒性リンパ球の溶解活性を誘発することができた。
組換え細胞培養から直接二重特異性抗体を作成および単離する種々の方法もまた記載している。例えば、ロイシンジッパー(例えば、 Kostgelny et al., J. Immunol. 148(5):1547-1553 (1992)参照)を用いて二重特異性抗体を作成した。Fos および Jun蛋白からの前記ロイシンジッパーペプチドは遺伝子融合によって2つの異なる抗体のFab'部分に結合された。前記抗体のホモ二量体はヒンジ領域で還元されて単量体になり、次に再酸化されて抗体ヘテロ二量体を形成した。この方法もまた、抗体ヘテロ二量体の作成に利用することができる。二重特異性抗体技術(例えば、 Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448 (1993参照)は、二重特異性抗体断片作製の他のメカニズムを提供している。前記断片は、同じ鎖上で2ドメイン間ペアリングをするには短すぎるリンカーによって軽鎖可変領域(VL)に結合した重鎖可変領域(VH)を有する。したがって、1断片のVHおよびVLドメインが他の断片の相補的VHおよびVLドメインと組合せになることを余儀なくされており、これによって、2つの抗原結合部位が形成される。単一鎖Fv(sFv or scFv)二量体の使用による二重特異性抗体断片の他の作製方法もまた報告されている(例えば、 Gruber et al., J. Immunol. 152:5368 (1994)参照)。あるいは、二重特異性抗体は線状抗体であり得、例えば、Zapata et al., Protein Eng. 8(10):1057-1062 (1995)に記載されているように作製できる。
二価以上を有する抗体が考慮される。例えば、三重特異性抗体を作製することができる(例えば、Tutt et al., J. Immunol. 147:60 (1991)参照)。
ヒト化抗α2インテグリン抗体の他の修飾も考慮される。例えば、癌の治療において抗体の有効性を強化または低下するように抗体のエフェクター機能を修飾することが望ましい。Fc領域にシステイン残基を導入することによって、前記領域に鎖間ジスルフィド結合形成を可能にする。したがって、生成されたホモ二量体抗体は、内在化機能が改善され、および/または補体媒介性細胞破壊(CMC)、および/または抗体依存性細胞毒性(ADCC)(例えば、 Caron et al., J. Exp. Med. 176:1191-1195 (1992)およびShopes, B.J. Immunol. 148:2918-2922 (1992)参照)が増加され得る。抗体腫瘍活性を向上させたホモ二量体抗体もまた、ヘテロ二機能性架橋剤(例えば、 Wolff et al., Cancer Research 53:2560-2565 (1993)に記載の前記架橋剤を参照)を用いて作製される。あるいは、2つのFc領域を有する抗体も作製でき、それによって、CMCおよび/またはADCC機能 (例えば、Stevenson et al., Anti-Cancer Drug Design 3:219-230 (1989)参照)を向上し得る。
ヒト化抗α2インテグリン抗体を有する免疫複合体は、抗α2インテグリン発現細胞、組織または臓器を標的とするために、一部分、例えば、分子、組成物、複合体、または、作用物質(例えば、化学療法薬、毒素(例えば、細菌、真菌、植物、または動物起源、またはその断片の酵素的活性毒素)のような細胞毒性物質)、または放射性同位元素(例えば、放射性物質抱合体)に結合させた 。このような免疫複合体は、一部分または作用物質にα2またはα2β1インテグリンの存在を特徴とする特定作用部位を標的にさせる方法において使用される。
このような免疫複合体の作製に有用な化学療法薬は前述した。使用できる酵素的に活性な毒素およびその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(Pseudomonas aeruginosaの)、リシンA鎖、アルビン A 鎖、モデシンA 鎖,アルファサルシン、アレウリテス・フォルディ(Aleurites fordii) 蛋白質 、ジアンチン蛋白質、フィトラカ・アメリカナ(Phytolaca americana) 蛋白質 (PAPI、 PAPII、および PAP-S)、モモルディカ・カランティア(momordica charantia)インヒビター、クルシン(curcin)、クロチン、サパオナリア・オフィシナリス(sapaonaria officinalis)インヒビター、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン (restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)またはトリコテセン (tricothecenes)が含まれる。放射性物質抱合体抗α2インテグリン抗体を作製するために多様な放射性核種が使用できる。例として212 Bi、 131In、 90Y または 186Reが挙げられる。
抗体と細胞毒性薬剤の結合体(コンジュゲート)は、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオール) プロピオネート (SPDP)、イミノチオラン(IT)、イミドエステル類(ジメチルアジピミデート塩酸等) のような二官能性誘導体、活性エステル類(ジスクシンイミジルスベレート等)、 アルデヒド類 (グルタルアルデヒド等)、ビス−アジド化合物 (ビス(p-アジドベンゾイル) ヘキサンジアミン等)、ビス−ジアゾニウム誘導体 (ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン等)、ジイソシアネート類 (トルエン−2,6-ジイソシアネート等)、または、ビス−活性フッソ化合物 ( 1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン等)のような種々の二官能性蛋白カップリング剤を用いて作成する。例えば、リシン免疫毒素はVitetta et al., Science 238:1098 (1987)の記載にしたがって作製できる。放射性炭素標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミン五酢酸 (MX-DTPA)は、放射性核種の抗体への抱合の代表的なキレート剤である。
他の実施態様において、前記の抗体は、α2インテグリン発現細胞、組織または臓器の事前標的化に使用する受容体(ストレプトアビジン等)に結合され、抗体−受容体ー結合体を患者に投与し、その後、清浄剤を用いて血液循環から未結合の結合体(コンジュゲート)を除去し、次に、例えば、細胞毒性物質(例えば、放射性核種)である物質に結合するリガンド(例えば、アビジン)が投与される。
本明細書に開示した抗α2インテグリン抗体はまた、免疫リポソームとして製剤化され得る。抗体を含むリポソームは、Epstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 3688 (1985); Hwang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 4030 (1980); および 米国特許第 4,485,045号および第4,544,545号に記載のように当業者に周知の方法によって作製される。循環時間が促進されたリポソームは米国特許第 5,013,556号に開示されている。
特に、有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびPEG−誘導化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を有する脂質組成物で逆相蒸発法によって生成できる。リポソームは定義された孔径のフィルターから押し出して目的の直径のリポソームを産出し得る。抗α2インテグリン抗体のFab'断片はMartin et al., J. Biol. Chem. 257: 286-288 (1982)に記載されるようにジスルフィド相互交換反応を介して リポソームに結合できる。選択的にリポソーム内に化学療法薬(例、ドキソルビジン)を含有させる(例えば、 Gabizon et al., J. National Cancer Inst. 81(19): 1484 (1989)参照)。
ヒト化抗α2インテグリン抗体はまた、プロドラッグ(例えば、ペプチジル化学療法薬、例えば、 WO81/01145参照)を活性薬物に変換するプロドラッグ賦活酵素に前記抗体を結合させて抗体指向(特異)酵素プロドラッグ治療(Antibody Directed Enzyme Prodrug Therapy (ADEPT))で使用される(例えば、 WO88/07378 および米国特許第 4,975,278号参照)。ADEPTに有用な免疫複合体の酵素成分には、プロドラッグをより活性な形態に変換するような方法でプロドラグに作用できる酵素が含まれる。有用な酵素には、アルカリホスファターゼ(リン酸塩含有プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用)、アリールスルファターゼ(硫酸塩含有プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用)、シトシン・デアミナーゼ(非毒性の5-フルオロシトシンを抗癌薬の5-フルオロウラシルに変換するのに有用)、プロテアーゼ、例えば、セラチア・プロテアーゼ、 サーモリシン、スブチリシン、カルボキシペプチダーゼおよびカテプシン(カテプシン B および L等)(ペプチド含有プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用)、 D-アラニルカルボキシペプチダーゼ(D−アミノ酸置換基を含有するプロドラッグを変換するのに有用)、;糖鎖開裂酵素( β-ガラクトシダーゼおよびノイラミニダーゼ等)(グリコシル化プロドラッグを遊離薬物に変換するのに有用); β-ラクタマーゼ(β-ラクタムで誘導化された薬剤を遊離薬物に変換するのに有用)、ペニシリンアミダーゼ(ペニシリンVアミダーゼまたはペニシリンGアミダーゼ等)(アミン窒素基をフェノキシアセチル基か、またはフェニルアセチル基で各々誘導化された薬物を遊離薬物に変換するのに有用)が含まれるが、これらに限定されるものではない。あるいは、アブザイムとしても公知の、酵素活性を有する抗体を用いて、本発明のプロドラッグを遊離活性薬物に変換することが出来る(例えば、 Massey, Nature 328: 457-458 (1987)参照)。抗体アブザイム結合体(コンジュゲート)は、α2インテグリン抗体発現細胞、組織または臓器へのアブザイムの送達を含む本明細書の記載にしたがって作製できる。
前述のヘテロ二官能性架橋試薬の使用を含む、当業者に周知の技術によって、酵素は抗α2インテグリン抗体に共有結合され得る。あるいは、酵素の少なくとも機能的活性部分に結合した抗α2インテグリン抗体の、少なくとも抗原結合領域を有する融合蛋白は、当業者に周知の組換えDNA技術を用いて作成することができる(例えば、Neuberger et al., Nature 312: 604-608 (1984)参照)。
本発明の特定の実施態様において、例えば、組織または腫瘍浸透を増加するために、完全抗体ではなく、抗体断片を使用することが望ましい。また、その血清中半減期を増加するために抗体断片を修飾することが望ましい。これは、サルベージ受容体結合エピトープを抗体断片内に組み込むことによって、例えば、前記抗体断片の適切な領域の変異によって、またはエピトープをペプチドタグに組み込み、次にそれを、例えば、DNAまたはペプチド合成(例えば、 WO96/32478参照)によって末端または中央で抗体断片に融合させることによって達成できる。
ヒト化抗α2インテグリン抗体の共有結合による修飾は、例えば、前記抗体の化学合成、または酵素的または化学的開裂によって行える。選択した側鎖あるいは、N-末端またはC-末端残基と反応できる有機誘導化剤と前記抗体の標的アミノ酸残基を反応させることによって、抗体の他のタイプの共有結合による修飾が分子に導入される。例えば、システイニル残基は、最も一般的には、クロロ酢酸またはクロロアセタミドのようなα−ハロアセテート(および対応するアミン類)と反応してカルボキシメチル誘導体またはカルボキシアミドメチル誘導体を生じる。システイニル残基の誘導体化は、また、ブロモトリフルオロアセトン、α-ブロモ-β-(5-イミドゾイル)プロピオン酸、クロロアセチルリン酸、N-アルキルマレイミド、3-ニトロ-2-ピリジルジスルフィド、メチル2-ピリジルジスルフィド、p-クロロメルクリベンゾエート、2-クロロメルクリ-4-ニトロフェノール又はクロロ-7-ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾールとの反応によっても行われる。例えば、ヒスチジル残基は、ピロ炭酸ジエチルがヒスチジル側鎖に相対的に特異的であるため、pH5.5〜7.0で前記物質と反応させることによって誘導体が得られる。パラ−ブロモフェナシルブロミドもまた有用であり、前記反応は好ましくはpH6.0で、0.1Mカコジル酸ナトリウム中で実施する。リジニル残基またはアミノ末端残基は、例えば、無水コハク酸または他の無水カルボン酸と反応する。これらの物質を用いた誘導化は、リジニル残基の荷電を逆にする作用を有する。α-アミノ含有残基を誘導体化するために好適な他の試薬として、ピコリンイミド酸メチルのようなイミドエステル類、リン酸ピリドキサール、ピリドキサール、 クロロボロヒドリド、トリニトロベンゼンスルホン酸、O-メチルイソ尿素、2,4-ペンタンジオン、およびグリオキシル酸とのトランスアミナーゼ触媒反応を挙げることができる。例えば、アルギニル残基は、1つまたはいくつかの従来の試薬、中でも、フェニルグリオキサール、2,3-ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオンおよびニンヒドリンとの反応によって修飾される。アルギニン残基の誘導体化には、グアニジン官能基のpKaが高いためアルカリ条件において反応させる必要がある。その上、これら試薬はリジンの基ならびにアルギニンのイプシロン-アミノ基と反応する。例えば、チロシル残基は、芳香族ジアゾニウム化合物またはテトラニトロメタンとの反応によりチロシル残基へ分光標識を導入する上で特定の目的で特に修飾される。最も一般的には、N-アセチルイミジゾール およびテトラニトロメタンがO-アセチルチロシル種および3-ニトロ誘導体をそれぞれ形成するために使われる。チロシル残基は125I または131Iを用いてヨード化してラジオイムノアッセイに使用する標識蛋白を作製する。カルボキシル側鎖基、例えば、アスパルチル基またはグルタミル基は、カルボジイミド(R-N=C=N-R')(R および R'は異なったアルキル基)、例えば1-シクロヘキシル-3-(2-モルフォリニル-4-エチル) カルボジイミドまたは1-エチル-3-(4-アゾニア-4,4-ジメチルペンチル)カルボジイミドと反応して選択的に修飾される。さらに、アスパルチルおよびグルタミル残基は、アンモニウムイオンと反応してアスパラギニルおよびグルタミニル残基に変換される。グルタミニルおよびアスパラギニル残基は、対応するグルタミル残基およびアスパルチル残基にそれぞれ脱アミド化されることがよくある。これらの残基は中性または塩基性条件下で脱アミド化される。これらの残基の脱アミド化形態は本発明の範囲内に入る。他の修飾には、プロリンおよびリジンの水酸化、セリル残基またはスレオニル残基のヒドロキシル基のホスホリル化、リジン、アルギニンおよびヒスチジン側鎖のα−アミノ基のメチル化 (T. E. Creighton, Proteins: Structure and Molecular Properties, W.H. Freeman & Co., San Francisco, pp. 79-86 (1983))、N末端アミンのアセチル化、およびあらゆるC末端カルボキシル基のアミド化が含まれる。
他のタイプの共有結合による修飾には、グリコシド(配糖体)の抗体への化学的または酵素的カップリングが関与する。これらの方法は、N-またはO-結合グリコシル化のためのグリコシル化機能を有する宿主細胞内での抗体産生を必要としない点で有利である。使用するカップリング様式によって、糖は(a) アルギニンおよびヒスチジン、 (b)遊離カルボキシル基、 (c)システイン等の遊離スルフヒドリル基 、(d) セリン、スレオニン、またはヒドロキシプロリン等の遊離ヒドキシル基 (e) 芳香族残基( フェニルアラニン、チロシンまたはトリプトファン) または、 (f) グルタミンのアミド基 (例えば、WO87/05330; Aplin および Wriston, CRC Crit. Rev. Biochem., pp. 259-306 (1981)参照)に結合され得る。
抗体に存在するすべての炭水化物部分の除去は、例えば、化学的または酵素的に達成される。化学的脱グリコシル化では、抗体を化合物のトリフルオロメタンスルホン酸または同等の化合物に暴露する必要がある。この処理は結果として結合糖質((N-アセチルグルコサミン or N-アセチルガラクトサミン)を除く、大部分またはすべての糖質を開裂することになるが、一方、抗体は完全な(無傷の)ままに残る(see, e.g., Hakimuddin, et al., Arch. Biochem. Biophys. 259: 52 (1987); Edge et al., Anal. Biochem., 118: 131 (1981))。抗体上の炭水化物部分の酵素的切断は、エンドグリコシダーゼおよびエキソグリコシダーゼの使用によって達成できる(例えば、Thotakura et al., Meth. Enzymol. 138: 350 (1987)参照)。
他のタイプの抗体共有結合修飾には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはポリオキシアルキレンのような種々の非蛋白様ポリマーの1つに抗体を結合させることが含まれる(例えば、米国特許第4,640,835号; 第4,496,689号; 第4,301,144号; 第 4,670,417号; 第4,791,192号または第4,179,337号参照)。
ヒト化抗α2インテグリン抗体をコードする単離核酸、並びに、ベクターおよび宿主細胞および抗体作製のための組換え技術を本明細書に記載する。抗体の組換え体作製のために、抗体をコードする核酸を単離し、さらにクローニングするか(DNAの増幅)、または発現させるために複製可能なベクターに挿入する。抗体をコードするDNAは容易に単離され、従来の方法を用いて配列決定される(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いて)。多くのベクターが使用可能である。前記ベクターの構成成分には一般に、シグナル配列、複製の起源、1若しくはそれ以上のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモータ、および転写終結配列の1若しくはそれ以上が含まれ、また、これらに限定されるものではない。
抗α2インテグリン抗体は、異種ポリペプチドとの融合ポリペプチドを含む組換え体として作製され、前記異種ポリペプチドは、好ましくは、シグナル配列、または成熟蛋白またはポリペプチドのN−末端に特異的切断部位を有する他のポリペプチドである。選択された異種シグナル配列は、好ましくは、宿主細胞によって認識され、プロセスされる(例えば、シグナルペプチドによって切断される)配列である。真核シグナル配列(例えば、免疫グロブリンシグナル配列)を認識せず、プロセスしない原核宿主細胞の場合、前記シグナル配列は、例えば、ペクチン酸リアーゼ (pelB等)、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp、または、 熱安定性エンテロトキシンIIリーダーなどの原核シグナル配列で置換する。酵母分泌の場合、例えば、酵母転化酵素リーダー、員子リーダー( サッカロミセスおよびクルイベロミセスa-員子リーダー)、または、酸ホスファターゼリーダー、C. アルビカンスグルコアミラーゼリーダー、 WO90/13646に記載のシグナルを含む酵母シグナル配列が利用される。哺乳動物細胞発現において、哺乳動物シグナル配列および、ウイルス分泌リーダー、例えば、単純ヘルペスgDシグナルが使用でき、利用できる。このような前駆体領域(例えば、前記シグナル配列)のDNAは、抗α2インテグリン抗体をコードするDNAに読み取りフレーム内でライゲーションされる。
発現ベクターおよびクローニングベクターは共に、1若しくはそれ以上の選択した宿主細胞内で前記ベクターが複製できる核酸配列を含む。一般的にベクターのクローニングにおいて、この配列は、ベクターが宿主の染色体DNAを独立的に複製するのを可能にし、および複製の起源または自己複製配列を含む配列である。このような配列は、種々の細菌、酵母、およびウイルスについて周知となっている。例えば、プラスミドpBR322からの複製の起源は、大部分のグラム陰性細菌に好適であり、2μプラスミド起源は、酵母に好適であり、種々のウイルス起源((SV40、 ポリオーマ、アデノウイルス、 VSV または BPV)は、哺乳動物細胞でのベクターのクローニングに好適である。一般に、複製構成成分の起源は哺乳動物発現ベクターには必要でない(例えば、SV40起源は一般的にそれが初期プロモータを含むという理由でのみ使用される。)。
発現ベクターおよびクローニングベクターは、選択マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含み得る。代表的な選択遺伝子は (a)アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートまたは、テトラサイクリンのような抗生物質あるいは他の毒素に耐性を与え、 (b)栄養要求性欠陥を補い、(c)複合培地(例えば、枯草菌類のD-アラニンラセマーゼをコードする遺伝子)から得られない重要栄養素を供給する、 蛋白質をコードする。
選択スキームの一例では、宿主細胞の生育を阻止する薬剤を使用する。異種遺伝子で首尾良く形質転換されたこれらの細胞は、薬剤耐性を与える蛋白質を産生し、これによって、選択肢の療法から生き残る。このような優性選択の例では、薬剤、メトトレキサート、ネオマイシン、ヒスチジノール、ピューロマイシン、ミコフェノール酸およびヒグロマイシンが使用される。
哺乳動物細胞に好適な選択マーカーは、抗α2インテグリン抗体核酸、例えば、DHFR、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン−Iおよび−II、好ましくは、霊長類のメタロチオネイン遺伝子 アデノシン・デアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ等を結合する能力のある細胞の同定を可能にするマーカーである。
例えば、DHFR選択遺伝子形質転換細胞は、最初に形質転換細胞のすべてを、DHFRの競合拮抗薬であるメトトレキサート(Mtx)を含む培地で培養して同定する。野生型DHFRを使用した場合、適切な宿主細胞は、DHFR活性欠損のチャイニーズハムスターの卵巣(CHO)細胞である。
あるいは、抗α2インテグリン抗体、野生型DHFR蛋白および他の選択可能なマーカー(アミノグリコシド3'-ホスホトランスフェラーゼ(APH)等)をコードするDNA配列で、形質転換または同時形質転換された宿主細胞(特にDHFRを含む野生型宿主)は、アミノグリコシド系抗生物質、例えば、カナマイシン、ネオマイシンまたはG418 (例えば、米国特許第4,965,199号参照)を含む選択可能なマーカーの選択物質を含む媒体での細胞増殖によって選択できる。
1つの好適な酵母用選択遺伝子は、酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcomb et al., Nature, 282: 39 (1979))。前記trp1遺伝子は、トリプトファン増殖能力欠損酵母の突然変異株、例えば、ATCC No. 44076 またはPEP4-1 (例えば、Jones, Genetics, 85: 12 (1977)参照)の選択マーカーを提供する。酵母宿主細胞ゲノムのtrp1病変の存在によって、トリプトファンの不在下での増殖による形質転換を検出する有効な環境が提供される。同様に、公知のLeu2遺伝子を有するプラスミドによるLeu2-欠損酵母株(ATCC 20,622 または 38,626)が考慮される。
さらに、1.6μ環状プラスミドpKD1由来のベクターは、クルイベロミセス酵母の形質転換に使用できる。あるいは、 K. lactisの組換え子牛キモシンの大規模産出の発現方法は、Van den Berg, Bio/Technology, 8:135 (1990)によって報告されている。クルイベロミセスの産業株による成熟組換えヒト血清アルブミンの分泌のための安定な複数コピー発現ベクターもまた開示されている(例えば、Fleer et al., Bio/Technology, 9: 968-975 (1991)参照)。
発現およびクローニングベクターは、宿主生物によって通常認識され、抗α2インテグリン抗体核酸に可動的に結合するプロモータを含む。原核宿主との使用に好適なプロモータには、アラビノース・プロモータ (例えば、araB)、phoA プロモータ、β-ラクタマーゼ・プロモータおよびラクトース・プロモータ系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモータ系およびtacプロモータのような ハイブリッドプロモータが含まれる。しかし、他の公知の細菌プロモータが適応する。細菌系用プロモータはまた、抗α2インテグリン抗体をコードするDNAに可動的に結合するShine-Dalgamo(S.D.)配列を含む。
真核細胞のプロモータ配列は公知である。大抵の真核性遺伝子は、転写開始部位から約25〜30塩基上流のATリッチ領域を有する。多くの遺伝子の転写開始部位から70〜80上流にある他の配列は、CNCAAT(SEQ ID NO:115)領域で、Nはヌクレオチドである。大部分の真核遺伝子の3'末端には、コード配列の3'末端にポリA尾部を付加するためのシグナルであるAATAAA(SEQ ID NO:116)配列がある。このような配列は真核発現ベクターに好適に挿入される。
酵母宿主用として好適なプロモータ配列の例には、3-ホスホグリゼリン酸キナーゼ又は、エノラーゼのような他の解糖系の酵素、グリセルアルデヒド3‐リン酸デヒト゛ロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、 ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼ、および グルコキナーゼが含まれるが、これらに限定されるものではない。増殖条件により制御される転写の利点をさらに有する誘発性プロモータである他の酵母プロモータは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロムC、酸性ホスファターゼ、 窒素代謝関連分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド3‐リン酸デヒト゛ロゲナーゼおよび、マルトースおよびガラクトースの利用に関与する酵素のためのプロモータ領域である。酵母の発現に使用するための好適なベクターおよびプロモータはさらに、欧州特許第73,657号に記載されている。酵母エンハンサーもまた、酵母プロモータと共に用いると有利である。
哺乳動物宿主細胞のベクターからの抗α2インテグリン抗体転写は、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(アデノウイルス2)、ウシ乳頭腫ウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、またはシミアンウイルス40 (SV40)のようなウイルスのゲノムから得られたプロモータ、異種哺乳動物プロモータ(アクチンプロモータまたは免疫グロブリンプロモータ等)から得られたプロモータ、熱ショックプロモータから得られたプロモータによって制御されるが、ただし、このようなプロモータが宿主細胞システムと適合性があることを条件とする。SV40ウイルスの初期および後期プロモータは、SV40ウイルス起源の複製をも含むSV40制限断片として簡便に得られる。ヒトサイトメガロウイルスの即時初期プロモータは、HindIII E制限断片として簡便に得られる。ベクターとしてウシ乳頭腫ウイルスを用いた哺乳動物宿主におけるDNAを発現する方法は、米国特許第4,419,446号に開示されており、また、これの変法は米国特許第4,601,978号に記載されている(また、マウスにおいてチミジンキナーゼの制御下で単純疱疹ウイルスからのヒトβ−インターフェロンの発現については、Reyes et al., Nature 297: 598-601(1982)を参照)。あるいは、Rous肉腫ウイルスの長い末端反復をプロモータとして使用することができる。
より高度な真核生物によって抗α2インテグリン抗体をコードするDNAの転写は、ベクターにエンハンサー配列を挿入することによってしばしば増加する。現在、哺乳動物遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトプロテイン、およびインスリン)からの多くのエンハンサー配列が周知である。しかし、真核細胞ウイルスからのエンハンサーがよく用いられる。例として、複製開始点の後期側(bp100-270)にあるSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモータエンハンサー、複製開始点の後期側にあるポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサー(また、真核性プロモータの活性化のための要素の強化については、例えば、 Yaniv, Nature 297: 17-18(1982)参照)が含められる。前記エンハンサーは、抗α2インテグリン抗体コード配列に対して5’位置か、3’位置でベクターにスプライスされ、好ましくはプロモータから5’位置に位置づけられる。当業者に周知の他の遺伝子調節方法(例えば、テトラサイクリン誘導方法およびGeneSwitch(商標)のような誘導方法)を用いて、抗α2インテグリンをコードするDNAの転写を制御することができる。
真核性宿主細胞(酵母、菌類、昆虫、植物、動物、ヒト、または他の多細胞生物からの有核細胞)は、またmRNAの転写の終了および安定化に必要な配列を含む。このような配列は、一般に真核性またはウイルスのDNAまたはcDNAの5'および、たまには3'の非翻訳領域から使用できる。これらの領域は抗α2インテグリン抗体をコードするmRNAの非翻訳部分のポリアデニル化断片として転写されたヌクレオチドセグメントを含む。1つの有用な転写終了成分は、ウシ成長ホルモンポリアデニル化領域(例えば、 WO94/11026 およびそこに開示されている発現ベクター参照)である。
本明細書において、ベクター内でのDNAのクローニングまたは発現に、好適な宿主細胞は前述したように原核生物、酵母または高度な真核細胞である。この目的に好適な原核生物には、グラム陰性または陽性菌を含む真正細菌、例えば、エシェリキア属のような 腸内細菌(大腸菌 エンテロバクター属、エルウイニア属、 クレブシエラ属、プロテウス属、サルモネラ属(ネズミチブス菌等)、セラシア属(セラチアマルセッセンス(Serratia marcescans))および赤痢菌並びに、枯草菌類(枯草菌およびバシラス・リセニフォルミス(B. licheniformis)等)、シュードモナス属(緑膿菌等)およびストレプトミセス属が含まれる。好適な大腸菌クローニング宿主細胞には、大腸菌294(ATCC 31,446)、大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC 31,537)および大腸菌 W3110(ATCC 27,325)が含まれる。
原核生物に加えて、糸状菌または酵母のような真核性細菌が、抗α2インテグリン抗体コード化ベクターの好適なクローニングまたは発現宿主である。出芽酵母、または一般のパン酵母が下等な真核宿主細菌の中で最も一般的に用いられる。しかし、多くの他の属、種および株は一般に使用可能であり、例えば、シゾサッカロミセスポンベ(Schizosaccharomyces pombe); K.ラクティス(K. lactis)、K. フラジリス(K. fragilis )(ATCC 12,424)、K.ブルガリカス(K. bulgaricus )(ATCC 16,045)、K. ウィッケラミ (K. wickeramii)(ATCC 24,178)、K.ウオルティ(K. waltii)(ATCC 56,500)、K.ドロソフィラルム(K. drosophilarum )(ATCC 36,906)、K.サーモトレランス(K. thermotolerans)、またはK.マルキシアヌス(K. marxianus )を含むクルイベロミセス属(Kluyveromyces)宿主細胞; yarrowia (欧州特許第402,226号); フィチア・パストリス(Pichia pastoris )(欧州特許第183,070号); カンジダ属; トリコデルマ・リーシア(Trichoderma reesia)(欧州特許第244,234号); ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa); シュワニオマイセス(Schwanniomyces)属(シュワニオマイセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis));および糸状菌(ニューロスポラ( Neurospora)、ペニシリウム属、トリポクラジウム属(Tolypocladium))、または、アスペルギルス属宿主(A.ニヂュランス(A. nidulans)またはA.ニジェール(A. niger)等)が有用である。
グリコシル化抗α2インテグリン抗体の発現に好適な宿主細胞は、多細胞生物から由来する。無脊椎動物細胞の例には、植物および昆虫細胞が含まれる。Spodoptera frugiperda (芋虫)、Aedes aegypti(蚊)、Aedes albopictus (蚊)、Drosophila melanogaster (ショウジョウバエ)およびボンビクス・モリ(Bombyx mori)のような宿主から多数のバキュロウイルス株および変異株および対応する許容性昆虫宿主細胞が同定されている。トランスフェクションのための様々なウイルス株、例えば、オートグラファ・カルフォルニア(Autographa californica)NPVのL-1 変異体および ボンビクス・モリNPVのBm-5株が広く入手可能であり、このようなウイルスは、具体的にはスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションに用いることができる。
綿、トウモロコシ、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、タバコの植物細胞の培養もまた宿主として利用できる。
しかし、脊椎動物細胞に最も大きい関心が持たれており、また多様な哺乳動物細胞を含む脊椎動物細胞の増殖が日常的方法となって来ている。有用な哺乳動物宿主細胞の例には、SV40によって形質転換されたサル腎臓のCV1系(例えば、COS-7, ATCC CRL 1651);増殖させるために浮遊培養中でサブクローンされたヒト胎児腎臓系293または293 細胞 (例えば、Graham et al., J. Gen Virol. 36: 59(1977)参照);ベイビーハムスター腎臓細胞(例えば、BHK, ATCC CCL 10); チャイニーズハムスター卵胞(CHO)細胞(DHFR 欠損のCHO細胞等(例えば、DHFR Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 4216 (1980)参照); マウスセルトリ(sertoli)細胞(例えば、 TM4, Mather, Biol. Reprod. 23: 243-251 (1980)); サル腎臓細胞(例えば、 CV1 ATCC CCL 70); アフリカミドリザル腎細胞(例えば、 VERO-76, ATCC CRL-1587); ヒト頸癌細胞(例えば、 HELA, ATCC CCL 2); 犬腎細胞(例えば、 MDCK, ATCC CCL 34); バッファローラット(buffalo rat)肝細胞(例えば、BRL 3A, ATCC CRL 1442); ヒト肺細胞(例えば、 W138, ATCC CCL 75); ヒト肝細胞 (例えば、 Hep G2, HB 8065); マウス乳癌(例えば、 MMT 060562, ATCC CCL51); TRI 細胞(例えば、 Mather et al., Annals N.Y Acad. Sci. 383: 44-68 (1982)参照); MRC 5細胞; FS4細胞;またはヒト肝臓癌系(例えば、Hep G2)がある。
宿主細胞は、抗α2インテグリン抗体作製用に前述の発現またはクローニングベクターで形質転換され、プロモータを誘導し、形質転換体を選択し、および/または目的の配列をコードする遺伝子を増幅するために適切に修飾された従来の栄養培養液内で培養される。
抗α2インテグリン抗体の作製に使われる宿主細胞は、種々の媒体内で培養される。市販の媒体、例えば、Ham's F10(Sigma)、最小必須培地(Minimal Essential Medium)((MEM)(Sigma)、RPMI-1640(Sigma),およびダルベッコー修飾イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle's Medium )((DMEM), Sigma)は宿主細胞の培養に適している。さらに、Ham et al., Meth. Enz. 58: 44 (1979)、Barnes et al., Anal. Biochem. 102: 255 (1980)、米国特許第4,767,704号; 第4,657,866号; 第4,927,762号; 第4,560,655号;または第5,122,469号; WO90103430; WO 87/00195;または米国特許再第30,985号に記載されているすべての媒体を宿主細胞用培地として使うことが出来る。これらの媒体はすべて、必要に応じてホルモン、および/または他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、または上皮成長因子等)、塩類(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩等)、バッファー(HEPES等)、ヌクレオチド(アデノシンおよびチミジン等)、抗生物質(GENTAMYCINTM薬剤等)、痕跡元素(ミクロモル範囲の最終濃度に通常存在する無機化合物として定義される)、およびグルコースまたは同等のエネルギー源)が補充される。他の必要な補充物質もまた、当業者に周知の適切な濃度で含めることができる。培養条件、例えば、温度、pH、および類似事項は、発現のために選択された宿主細胞で以前に用いられた培養条件を含めて、当業者によって選択される。
抗α2インテグリン抗体は、例えば、プロテインAクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析法、および/または、アフィニティークロマトグラフィーを使用して、微生物細胞、または哺乳動物細胞を含む細胞から精製することができる。プロテインAのアフィニティリガンドとしての適合性は、その抗体に存在する免疫グロブリンFcドメインのアイソタイプおよび種に依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2またはγ4重鎖に基づく抗体の精製に使用できる(例えば、 Lindmark et al., J. Immunol. Meth. 62:1-13(1983) 参照)。プロテインGはマウスのアイソタイプおよびヒトγ3に有用である(例えば、Guss et al, EMBO J. 5:1516-1517 (1986)参照)。アフィニティリガンドが結合するマトリックスは、ほとんどの場合、アガロースであるが、他のマトリックスも使用できる。孔制御ガラスやポリ(スチレンジビニル)ベンゼンのような機構的に安定なマトリックスでは、アガロースで得られるよりも、より速い流速およびより短時間の処理時間が可能となる。抗体がCH3ドメインを有する場合は、Bakerbond ABXTM (J.T. Baker, Phillipsburg, N.J.)が精製に有用である。蛋白質の精製には、以下の技術、例えば、イオン交換カラム、エタノール沈降、シリカでの逆相HPLCクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSETMでのクロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオン交換樹脂(例えば、ポリアスパラギン酸)、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、硫安塩析、および/または疎水性相互作用クロマトグラフィー等による分画化の技術のうち、1若しくはそれ以上を含むことができる。例えば、精製段階後に、pH約2.5〜pH4.5間のpHで、好ましくは低塩濃度(例えば、約0〜0.25M塩)の溶出バッファーを用いて、目的の抗体と、不純物を有する混合液をpHの低い疎水性相互作用クロマトグラフィーにかけることは有用である。
治療投与用の製剤を含む抗α2インテグリン抗体製剤は、目的の精度を有する抗体を選択的に生理学的に許容される担体、賦形剤、添加剤、または安定化剤(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed.(1980))と混合して、凍結乾燥製剤または水溶液の形態に調製して保存される。許容される担体、賦形剤、添加剤または安定化剤は、用量および使用濃度において服用者に無毒であり、リン酸、クエン酸および他の有機酸等の緩衝液; 酸化防止剤(アスコルビン酸およびメチオニン等); 保存料 (オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等); 塩化ヘキサメトニウム; 塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム; フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール; アルキルパラベン(メチルまたはプロピルパラベン等); カテコール; レゾルシノール; シクロヘキサノール; 3-ペンタノール; および m-クレゾール); 低分子量(約10残基未満)のポリペプチド; 蛋白質(血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン等); 親水性ポリマー(ポリビニールピロリドン等); アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジン等); 単糖類、二糖類、または他の糖質(炭水化物)(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む); EDTAのようなキレート剤; 糖類(例えば、蔗糖、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール); ナトリウムのような塩形成カウンターイオン ; 錯塩類 (例えば、Zn-蛋白複合体); および/またはTWEENTM, PLURONICSTM または、ポリエチレングリコール(PEG)のような非イオン性界面活性剤が含まれる。
抗体製剤はまた、治療する特定の適応症について2種以上の活性化合物、好ましくは相互に有害な作用を及ぼさず相補的に活性な化合物を含む。該当疾患の予防または治療に現在使用されている1若しくはそれ以上の薬剤に加えて抗α2インテグリン抗体を使用することが望ましい。その上、免疫抑制薬をさらに与えることが望ましい。このような分子は、意図した目的に有効な量の組み合わせで好適に存在している。
前記活性成分はまた、例えば、コアセルベーション技術によって、あるいは界面重合によって作製されたマイクロカプセル、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、またはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセル、コロイド性薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子またはナノカプセル)またはマクロエマルション内に封じ込めることができる。このような技術は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に開示されている。
生体内投与に用いられる製剤は、好ましくは滅菌性である。これは、例えば、滅菌濾過膜による濾過により容易に実施できる。
徐放性製剤を作製し得る。徐放性製剤の好適な例は、基材がフィルム、またはマイクロカプセル等の造形物の形態の、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透過性基材である。徐放性基材の例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール)、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタミン酸の共重合体、非分解性エチレン酢酸ビニル、Lupron DepotTM (乳酸-グリコール酸共重合体と酢酸ロイプロリドで構成ミクロスフェア注射剤)のような分解性の乳酸-グリコール酸共重合体、およびポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸がある。エチレン酢酸ビニルおよび乳酸-グリコール酸共重合体のようなポリマーは100日間以上に渡る分子の遊離を可能にするが、特定のヒドロゲルはより短期間に蛋白質を遊離する。カプセル型抗体が体内に長期間残存する場合、37℃で湿度に暴露した結果として変性または凝集し、その結果、生物活性の喪失および免疫原性における変化の可能性が生じる。理論的対策として、関連する機構に応じて安定化を工夫することができる。例えば、凝集の機序がチオ−ジスルフィド相互交換による分子間のS-S結合形成であることがわかった場合、スルフヒドリル残基の修飾、酸性溶液からの凍結乾燥、および適切な添加剤を用いた含水量の調節および特定のポリマー基材の組成物の開発によって安定化が達成される。
前記抗α2インテグリン抗体はアフィニティ精製剤として使用される。このプロセスにおいて、前記抗体は、当業者に周知の方法を用いてSephadex樹脂または濾過紙のような固相に固定化する。α2β1インテグリン蛋白質(またはその断片)を含有するサンプルに、固定化された抗体を接触させて精製し、その後、支持体を適切な溶媒で洗浄し、これによってサンプル内の固定化された抗体に結合しているα2β1インテグリン以外のすべての物質が除去される。最後に、前記支持体を他の好適な溶媒、例えば、グリシンバッファでpH5.0にて洗浄し、これによって、α2β1インテグリン蛋白質が抗体から遊離される。
抗α2インテグリン抗体はまた、α2β1インテグリン蛋白の診断的アッセイ、例えば、特定の細胞、組織、または血清中における発現での検出としても有用である。診断的使用の場合、前記抗体は一般的には、検出可能な部分で標識される。一般的に放射性同位元素、蛍光標識および酵素基質標識のカテゴリーにグループ分けされる多数の標識が使用できる。放射性同位元素、例えば、35 S、14C、125I、3Hおよび131Iは、有用な標識である。前記の抗体は、例えば、Current Protocols in Immunology, Volumes 1 および 2, Coligen et al., Ed. Wiley-Interscience, New York, N.Y., Pubs. (1991)に記載の技法を用いて放射性同位元素で標識でき、放射活性は、例えば、シンチレーションカウントを用いて測定できる。希土類キレート(ユーロピウムキレート)のような蛍光標識、またはフルオレセインおよびその誘導体類、ローダミンおよびその誘導体類、ダンシル、リサミン(Lissamine)、フィコエリスリンおよびテキサスレッドも有用である。前記蛍光標識は、例えば、前記のCurrent Protocols in Immunologyに開示されている技法を用いて抗体と結合することができる。蛍光性は、例えば、蛍光光度計を用いて定量できる。種々の酵素−基質標識もまた、有用である(例えば、総説については、米国特許第4,275,149号参照)。酵素は一般的に種々の技法を用いて測定できる色原性基質の化学的変換を触媒する。例えば、前記酵素は基質での色の変化を触媒し、これを分光光度計で測定できる。あるいは、酵素は基質の蛍光性または化学発光を変える。蛍光性における変化を定量する技術は前述した。化学発光性基質は化学反応によって電子的に励起し、次に、測定できる(例えば、ケミルミノメータを用いて)光を放射するか、または蛍光受容体にエネルギーを提供する。酵素標識の例には、ルシフェラーゼ (例えば、蛍ルシフェラーゼ および細菌ルシフェラーゼ; 米国特許第4,737,456号)、 ルシフェリン、 2,3-ジヒドロフタラジンジオン、リンゴ酸脱水素酵素、ウレアーゼ、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRPO)のようなペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、 リゾチーム、 糖質酸化酵素 (例えば、ブドウ糖酸化酵素、ガラクトース酸化酵素、および ブドウ糖-6-リン酸脱水素酵素)、複素環酸化酵素 (ウリカーゼおよびキサンチン酸化酵素等)、 ラクトペルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼ、および類似物が含まれる。抗体に酵素を結合させる方法は、例えば、O'Sullivan et al., Methods for the Preparation of Enzyme-Antibody Conjugates for use in Enzyme Immunoassay, in Methods in Enzym. (ed J. Langone & H. Van Vunakis), Academic press, N.Y., 73: 147-166 (1981)に記載されている。酵素−基質の組合せの例には、(i) ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRPO) と基質としての水素ペルオキシダーゼ(hydrogen peroxidase)、この場合、水素ペルオキシダーゼは色素前駆体を酸化する(例えば、 オルトフェニレンジアミン (OPD) または 3,3', 5,5'-テトラメチルベンジジンハイドロクロライド (TMB)); (ii)アルカリホスファターゼ(AP)と色原性基質としてのパラ-ニトロフェニルホスフェート; および(iii) β-D-ガラクトシダーゼ(β-D-Gal)と色原性基質(例えば、p-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシダーゼ)または色原性基質4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトシダーゼがある。多くの他の酵素・基質の組合せを、当業者は使用できる(例えば、全般的総説については、米国特許第 4,275,149号および第4,318,980号参照)。
標識は直接抗体と結合される場合もある。当業者はこれを行う種々の技法を承知しているであろう。例えば、抗体はビオチンと結合し、前述した3つの大きいカテゴリーの標識の何れかがアビジンと結合するか、またはその逆の場合も同様である。ビオチンは選択的にアビジンに結合し、従って標識はこの間接的な様式で抗体と結合できる。あるいは、標識と抗体を間接的に結合させるには、抗体を小ハプテン(例えば、ジコキシン)および前述の異なったタイプの標識の1つが抗ハプテン抗体 (例えば、抗ジコキシン抗体) に結合できる。このようにして、標識の抗体への間接的結合は達成できる。
抗α2インテグリン抗体は、標識する必要はなく、抗α2インテグリン抗体に結合する標識化抗体を用いてその存在を検出できる。抗α2インテグリン抗体には、あらゆる公知の検定方法、例えば競合結合アッセイ、直接および間接サンドイッチアッセイ、および免疫沈降アッセイ(例えば、 Zola, Monoclonal Antibodies: A Manual of Techniques, pp.147-158 (CRC Press, Inc. 1987)参照)を用いることができる。競合結合アッセイは、試験サンプル検体と限られた量の抗体で競合する標識標準の能力に依存している。例えば、試験サンプルのα2β1インテグリン蛋白量は、抗体に結合される標準量に反比例する。結合標準量の測定を容易にするために、抗体に結合されている標準、および検体が都合良く、分離されて非結合標準および検体になるように抗体を競合の前か、後に通常不溶化する。サンドイッチアッセイでは、各々が、検出される蛋白質の異なった免疫原性部分またはエピトープに結合できる2つの抗体を使用する。サンドイッチアッセイにおいて、試験サンプル検体は固体支持体に固定化された第1の抗体に結合され、その後、第2の抗体が前記検体に結合することによって、不溶性の三部分複合体を形成する(例えば、米国特許第 4,376,110号参照)。第2の抗体はそれ自体が検出可能部分(例えば、直接サンドイッチアッセイ)で標識されているか、または、検出可能部分(例えば、間接サンドイッチアッセイ)で標識された抗免疫グロブリン抗体を用いて測定される。例えば、サンドイッチアッセイの1タイプはELISAアッセイであり、この場合、検出可能部分は酵素である。
免疫組織化学に関しては、腫瘍サンプルを含む組織サンプルを新鮮なまま、または凍結し、あるいは、パラフィンに包埋して、フォルマリンのような防腐剤で固定化する。
抗α2インテグリン抗体はまた、in vivo診断アッセイにも使用される。一般に、前記抗体は例えば、免疫シンチグラフィーを用いて、組織、例えば、腫瘍を限局化できるように放射性核種(111In, 99Tc, 14C, 131I, 125I, 3H, 32P or 35S)で標識される。
便宜上、抗α2インテグリン抗体は、診断的アッセイの実施用を含む説明書とともに事前決定された量の試薬の組み合わせのパッケージ等のキットとして提供できる。前記抗体を酵素で標識している場合は、キットには、酵素に必要な基質と補因子(例えば、検出可能な発色団または発蛍光団を出す基質前駆体)が含まれる。他の添加剤、例えば、安定化剤、バッファー(例えば、ブロックバッファーまたは溶解緩衝液)および類似物がキットに含められ得る。例えば、キットに提供される種々の試薬の相対量は、大きく異なっており、アッセイの感度を実質的に最適化する試薬溶液濃度を提供する。前記試薬は、例えば、溶解すると、試薬溶液が適切な濃度になる添加剤を含む、通常凍結乾燥された乾燥粉末として提供され得る。
抗α2インテグリン抗体は、本明細書に記載するように、種々のα2β1インテグリン関連疾患の治療に用いられる。抗α2インテグリン抗体は、非経口的、皮下的、腹腔内、肺内または鼻腔内を含むあらゆる好適な手段によって投与される。局所的免疫抑制療法が必要な場合は、前記抗体の病巣内投与(移植前の灌流または抗体を有するグラフトと接触させることを含む)が行われる。非経口的投与には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、または皮下投与が含まれる。さらに、抗α2インテグリン抗体は、例えば抗体の用量を漸減するパルス注入によって適切に投与される。好ましくはこの投与は注射で、最も好ましくは、静注または皮下注射によって行う。これは、投与が短期間か、長期間かによってある程度異なる。
疾患の予防または治療に関しては、抗体の適切な投与量は、前記に定義しているように治療する疾患の種類、疾患の重症度および経過、抗α2インテグリン抗体が予防目的または治療目的で投与されるか、過去の療法、患者の病歴および抗体への応答、および主治医の裁量によって異なる。前記抗体は一回投与にも適し、または一連の治療にわたっての投与にも適する。
疾患の種類および重症度に応じて、[約1 μg/kg 〜約15 mg/kg または約0.05 μg/kg 〜約20 mg/kg]の抗体が対象への候補初期投与量であり、例えば、1回若しくはそれ以上の回数に分けて投与、または連続的注入する。代表的な1日投与量は、前述のファクターに応じて[約1 μg/kg 〜約100 mg/kg]の範囲またはそれ以上となる。数日間または長期反復投与の場合は、病状に応じて目的とする疾患の症状の抑制が得られるまで治療を維持する。しかし、他の投与方法も有用である。この療法の進行は、当業者によって容易にモニターされる。
抗α2インテグリン抗体組成物は、医療基準に従った方法で製剤化され、分量され、投与される。これに関連して、考慮されるファクターには、治療する特定疾患、治療する特定哺乳動物、個々の患者の臨床状態、疾患の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与計画、薬理試験および毒性試験の結果、および医師に公知となっている他のファクターが含まれる。投与する抗体の治療有効量は、このようなことを考察して決定され、α2β1インテグリン関連疾患の予防、改善または治療のための最小必要量である。このような量は、宿主に毒性となる、または宿主が感染症に著しく罹患しやすくなる量より少ないことが好ましい。
抗α2インテグリン抗体は、補助療法として該当疾患の予防、治療に現在使用されている1若しくはそれ以上の薬剤と共に製剤化しなくてもよいが、選択的に前記薬剤と共に製剤化し、同時投与し、使用できる。例えば、慢性関節リューマチにおいて、前記抗体はグルココルチコステロイド、Remicaid(登録商標)または承認済みのあらゆる慢性関節リューマチ治療薬と共に投与され得る。多発性硬化症の場合は、前記抗体は、インターフェロンβ、アボネックス(Avonex)、コパキソン(Copaxon)または、多発性硬化症の徴候および症状の治療に承認された他の療法と併せて投与され得る。移植の場合は、前記抗体は免疫抑制効果を調節するために、前記に定義した免疫抑制剤、例えば、サイクロスポリンAと同時に、あるいは、別々に投与し得る。あるいは、さらに、α2β1インテグリン拮抗薬をα2β1インテグリン関連疾患罹患哺乳動物に投与し得る。このような他剤の有効量は、製剤に存在する抗α2インテグリン抗体の量、疾患または治療タイプ、および前述の他のファクターによって異なる。一般には、これらは同じ投与量で、および上文で用いた投与経路で、または従来の投与量の約1〜99%で用いられる。
前述の疾患の治療に有用な、抗α2インテグリン抗体を含む物質を含有する製品を提供する。製品は容器およびラベルを有する。好適な容器には、例えば、瓶、バイアル、シリンジ、および試験管が含まれる。容器はガラスまたはプラスチックのような多様な素材から形成される。容器には病状の治療に有効な組成物が含まれ、滅菌性アクセスポート(例えば、前記容器は静注液用バッグまたは皮下注射針で穿孔可能な栓の付いたバイアル)を有する。組成物内の活性物質は抗α2インテグリン抗体である。容器に付けた、または添付のラベルには、前記組成物は最も適応する病状の治療に用いることを表示する。前記製品は、さらに、薬学的に許容される緩衝液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、またはブドウ糖溶液を有する第2の容器を有する。これにはさらに、他の緩衝液、賦形剤、フィルター、針、シリンジ、および使用説明書を伴った添付文書を含む商業的、および使用者見地から望ましい他の材料が含まれる。
前述の原理は、例えば、BHA2.1 ハイブリドーマ (Hangan et al., Cancer Res., 56(13): 3142-9 (1996))によって分泌された抗α2インテグリン抗体に適用される。この抗体はヒトおよびラットα2β1インテグリンに結合するが、マウスの同等物に結合しない。このようにしてBHA2.1ハイブリドーマによって作製された前記抗体は、本明細書においてTMC-2206と称し、Chemicon(現在はMilliporeの一部、カタログ番号MAB1998)から市販されている。TMC-2206のヒト化、異性体を含むキメラを作製し、in vitro分析を行った。TMC-2206抗体か、あるいは、マウスα2β1インテグリンを認識できる抗体を含む類似の抗体を用いて、in vivo試験も実施した。以下の実施例は、例示であって、それらに限定されるものではない。明細書におけるすべての引用の開示は、この参照により明示的に組み込まれる。
<実施例1>
α2β1インテグリンに特異性を有する抗体を設計し作製した。ハイブリドーマBHA2.1により分泌されるTMC-2206と命名されたマウス抗体の可変領域の、未知であった配列が本明細書に記載の通り決定された。VHおよびVL cDNA は、BHA2.1ハイブリドーマ細胞から得られたmRNAから、RT-PCR法によりマウス抗体可変領域の重鎖(VH)または軽鎖(VL)可変領域のN末端のアミノ酸に対応する1セット目のプライマー、およびγ1重鎖定常領域およびκ軽鎖定常領域にそれぞれ対応する2セット目のプライマーを用いてクローニングした。その配列は、本明細書に記載の標準方法に従って単離したmRNAから合成されたcDNA から決定した。
細胞質mRNAは、TMC-2206を発現している約100万(1 x 106)個のBHA2.1ハイブリドーマ細胞から公知の標準的な分子学的技法を用いて単離した。ポリA mRNAを単離するため、細胞を5Mグアニジニウムチオシアネート中で溶解し、オリゴ(dT)セルロース(Ambion, TX)を混合し、室温にて静かに撹拌しながら60分間インキュベートした。オリゴ(dT)セルロース結合ポリ(A)RNA を沈殿して洗浄し、洗浄スピンカラム(Ambion、テキサス州)に詰めた。このカラムを3000xg で1分間遠心し、次にRNA を10mMトリス(Tris)200μL、pH8.0、1mM EDTA (TE)バッファーで溶出し、0.1容量の5M 酢酸アンモニウム(NH4Ac)および2.5容量の100% エタノールで-20℃で沈殿させた。RNA は遠心してペレット化し、乾燥し、DEPC処理水に溶解した。
cDNAは、マウス抗体重鎖(VH)可変領域または軽鎖(VL)可変領域のいずれかのN末端に基づくプライマーと、マウス抗体のγ1重鎖またはκ軽鎖の定常領域に対応する第2セットのプライマーとで開始した逆転写によって単離BHA2.1mRNA から合成した。BHA2.1抗体の配列は未知であったため、表1に示すように、マウス軽鎖および重鎖可変領域のN末端用の市販縮重抗体プライマー(Amersham Biosciences製軽鎖プライマーミックス27-1583-01番および重鎖プライマーミックス27-1586-01番)を使用した。これらのプライマーは、それぞれマウス軽鎖および重鎖のN末端における異なったアミノ酸組成を有することが報告されている。RT-PCR 反応(Qiagen RTキット)は以下の通り設定した:mRNA 0.5μg、5× RTバッファー10μL、10mM dNTPミックス2μL、10mMプライマー溶液各5μL および酵素ミックス2μL を総容量50μL の溶液とした。その反応は50℃で30 分間にわたる逆転写から開始され、95℃、15分間のPCR活性化段階の後、軽鎖および重鎖の両可変領域を増幅するために用いた縮重プライマーの混液に適したPCRプログラムを行って終了した:94℃で30秒間、56℃で30秒間、および72℃で1分間、これを28サイクル行い最終の延長運転を72℃で10分間。これに続くPCR反応では表2に列挙するRetrogen(San Diego、カリフォルニア州)が合成したプライマー対を用いた。すべてのプライマーを5'から3'の配列として列挙する。
長さ約350 bpのPCR生成物がVHおよびVLの両者について得られた。これらのPCR生成物は1%アガロースゲルから回収され、pCR2.1-TOPOクローニングベクター (Invitrogen、カリフォルニア州)にクローニングし、配列が決定された。
配列決定はCEQ DNAシーケンサーでM13順方向および逆方向プライマー(Invitrogen、カリフォルニア州)を用いて行った。Qiagenキットを製造業者の使用法に従って用い、プラスミドDNAを細菌培養液1.5mLから作製した。各PCR配列決定反応に約300ngのDNAを通常10μLの容量で使用した。DNAを96℃で2分間変性させ、次に配列決定用プライマーを混和し、最終濃度0.3μMとなるようにした。DTCS Quick Start Master Mix (Beckman Coulter, Fullerton, カリフォルニア州)4μLをこの混合液に加え、96℃で20分間、50℃で20秒間、60℃で2分間シークエンシングを30サイクル行った。シークエンシング反応は酢酸ナトリウム(NaAc)、EDTA およびグリコーゲンの存在下、エタノールで沈殿させた。沈殿を70%エタノールで2回洗浄、空気乾燥し、Sample Loading Solution(キットに含まれる)20 μLに再懸濁した。8つの個別のVH および VL クローンについて標準法にて配列決定を行い、VH(SEQ ID NO:21)およびVL(SEQ ID NO:19)の推定アミノ酸配列をそれぞれ表3および表4に示す。全8個のクローンから得られた配列は、最初の1個または2個のアミノ酸を除いて同一であった。VLクローンにおいて、Glu-AsnまたはGln-Pheは同等の頻度で発現した。VHクローンにおいて、GlnまたはGluは同等の頻度で発現した。その配列をNCBI蛋白質BLASTデータベース(http://www.ncbi.nih.gov/BLAST/, Ye et al., Nucleic acids Res., Jul 1: 34 (Web Server Issue): W6-9)に照合して確認した。クエリーを用いた全ての配列は(例えば TMC-2206のVHまたはVL)クラスタルダブル(CLUSTALW)(多重シーケンスアラインメント)ツール http://clustalw.genome.jp/ (Aiyar, Methods Mol Biol., 132:221-41 (2000))によりアラインメントを作製した。クローニング挿入物はマウス重(IgG1)鎖および軽(κ)鎖と最適のマッチを示し、予期されたアイソタイプであった。クローニングしたVHおよびVL領域の配列は、リーダー配列、フランキング配列の定常領域配列である可能性が高いことが示唆されたが、これらはハイブリドーマmRNAから得られるTMC-2206の重鎖および軽鎖可変領域全体をクローンするためのより正確なプライマーの設計に使用された。全てのプライマーはRetrogen(San Diego, カリフォルニア州)が合成したものであった。プライマー対VHL-for CCATGGCTGTCTTGGGGCTGCTCTTCT (SEQ ID NO:14)およびHe-rev GGGGCCAGTGGATAGAC (SEQ ID NO:15; マウスFcγ CH1由来)を重鎖可変領域の再クローニングに用い、プライマー対VLL-for CCATGGATTTTCAAGTGCAGATTTTCAG(SEQ ID NO:16)およびLCκ-rev GTTGGTGCAGCATCAGC(SEQ ID NO:17)をハイブリドーマmRNAから得た軽鎖可変領域の再クローニングに用い、上記と同様のPCR条件を用いた。生成物の配列決定により、TMC-2206 VL中の最初の2個の残基がL1-QおよびL2-Fと同定され、重鎖中の最初の2個の残基がH1-QおよびH2-Vと同定された。残りのヌクレオチド配列は、縮重プライマーミックスを用いてクローニングしたものと同一であった。
クローニングしたVL領域はアミノ酸106個分、またVH 領域はアミノ酸119個分の長さであった。表3および4に示すように、3個の CDR (CDR1-3) および4個のフレームワーク(FW1-4)がクローニングした重鎖(VH)または軽鎖(VL)可変領域の両方に見られた。フレームワークおよびCDR はKabatの番号付けシステム(Kabat et al., 1983)に基づき同定されたが、重鎖のCDR1だけはOxford Molecular's AbMの定義によりスパニング残基26〜35と定義された。Oxford Molecular's AbM 抗体モデリングソフトウェア (http://people.cryst.bbk.ac.uk/~ubcg07s/, Martin et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 86, 9268-9272 (1989); Martin et al., Methods Enzymol., 203, 121-153 (1991); Pedersen et al., Immunomethods, 1, 126 (1992); およびRees et al., In Sternberg M.J.E. (ed.), Protein Structure Prediction. Oxford University Press, Oxford, 141-172. (1996))は、Kabat CDRとChothiaの超可変領域番号付けシステムを組み合せてCDRを定義する。番号付けの一貫性を保つため、フレームワーク領域とCDR両方への挿入を標準と比べ、残基位置の後にアルファベットを順に付け(例えば表3に示すように、残基 82A、82B、82Cが重鎖の残基82と83の間に挿入される)。VHおよびVL配列は、両者とも比較的短いCDR3を有する。クローン化した軽鎖のCDR1内にグリコシル化部位(Asp-Ser-Ser, NSS)が存在する可能性がある。これはTMC-2206軽鎖がSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で29 kDの分子量を示しそれがエンドグリコシダーゼ処理により25 kD(抗体の軽鎖に典型的な分子量)に変化するという観察と一致する。
クローニングした配列がTMC-2206抗体の生物活性VHおよびVLに相当することを確認するため、ハイブリドーマ培地から精製した抗体にEdman分解N末端ペプチド配列決定法を行った。VHおよびVLクローン両者の推定アミノ酸配列は、各々にN末端 グルタミンが存在する可能性を示し、それはピログルタミン酸(pGlu)を生成するN末端グルタミン残基の環化により起こるN末端のブロックの可能性を示唆した。従って、存在し得る環化された末端グルタミンを除去するため、重鎖および軽鎖をN末端ペプチド配列決定に供する前に、好熱性パイロコッカスフリオサス(Pyrococcus furiosus)由来の耐熱性酵素を用いて蛋白をピログルタミン酸アミノペプチダーゼで分解した。Pyrococcus furiosus (Sigma、St. Louis、ミズーリ州)由来の精製ピログルタミン酸アミノペプチダーゼ(0.01U)を分解バッファー50μL(pH7.0の50mMリン酸ナトリウム、1mM EDTA、および10mMジチオスレイトール(DTT))中で再構成した。TMC-2206調製液をモル比1:100のピログルタミン酸アミノペプチダーゼ:蛋白を用いて95℃で1時間分解した。分解された蛋白をメルカプト酢酸ナトリウム(泳動バッファー150mL中に0.1g)を上部リザーバーに加えて標準10% SDS-PAGEゲル(Tris-glycine, BioRad Laboratories, Hercules, カリフォルニア州)を用いて分離した。次にこのゲルをTransfer Buffer(10mM CAPS, pH10.5, 0.5g/L DTT および15%メタノール)中のImmobilon P PVDF膜(Millipore, Billerica, マサチューセッツ州)上に250 mAmpで1時間ブロットした。本ブロットを1%酢酸および新鮮0.1% ポンソー(Ponceau)Sを用いて1分間染色した後、1%酢酸で脱色した。ブロットをペプチド配列決定に供し、軽鎖のN末端アミノ酸の最初の21個のうち20個の配列決定に成功し、クローニングで得られた推定ペプチド配列と全くの同一性を示した。これでクローニングしたVLの最初のアミノ酸がGluであることが確認された。ピログルタミン酸アミノペプチダーゼで分解したVHからは、ペ
プチド配列データは得られなかった。
<実施例2>
マウス-ヒトキメラ抗体を含むα2β1 インテグリンに対する特異性を有するキメラ抗体を設計して作製した。実施例1に記述したクローン化TMC-2206のVHおよびVL領域を用いて、それぞれ標準分子クローニング法(例えばMolecular Biology Manual by Sambrook and Russell, 2001参照)を使用してキメラ重鎖および軽鎖を設計および作製した。
重鎖および軽鎖は、以下のように制限部位を導入しクローニングした。プライマーTMC-2206-r5' CCCGAATTCACAGGTGCAGTTGAAGGAGTCA SEQ ID NO:22)およびTMC-2206-r3' CGGGATCCTTAGGATCATTTACCAGGAGAG TGGGA(SEQ ID NO:23)を使用してRT-PCR法によりBHA2.1ハイブリドーマmRNAからTMC-2206重鎖をクローニングし、またプライマーTMC-2206-k5'CCCGAATTCACAATTTGTTCTCACCCAGTCT(SEQ ID NO:24)およびTMC-2206-k 3' CGGGATCCTTATCTCTAACACTCATTCCTGTTGAA(SEQ ID NO:25)を使用してTMC-2206軽鎖をクローニングした。これらのプライマーは、それぞれ5'および 3'末端にEcoRIおよび BamHI 部位を導入し、クローン化した重鎖および軽鎖をそれぞれpIRES2-GFPおよびpIRES2-Ds Red哺乳類発現ベクター(Clontech、カタログ番号632306および632420)に挿入してクローニングを可能にした。両ベクター共にIgκリ一ダー配列METDTLLLWVLLLWVPGGSTGD(SEQ ID NO:26)を持つように操作した。
mRNAを単離するため、TMC-2206を発現しているハイブリドーマ細胞約100万個を低速(800rpmで10分間)で沈殿し、PBSで洗浄し、Trizol(Invitrogen、カリフォルニア州)1mLで溶解した。激しく渦撹拌した後、細胞懸濁液をクロロホルム0.2mLで抽出して遠心(14,000rpm、4℃で5分間)してから、上清液を新しい試験管に移し、そこでRNAをイソプロパノール0.5mLで沈殿させた後、遠心(4℃、14,000rpmで10分間)した。RNA沈殿を75%エタノール1mLで洗浄し、DEPC処理水50μL に溶解した。
RNA 0.5μg、5x RTバッファー10μL、10mM dNTPミックス2μL、10mM プライマー溶液各5μL、および酵素ミックス2 μL を総容量50μLの溶液としたものを用いてRT-PCR反応(Qiagen RT キット)を上述の通り実施した。PCR生成物を制限酵素EcoRIおよびBamHIにより分解し、次に1%アガロースゲルから精製した断片をpIRES2-GFP(重鎖)およびpIRES2-Ds Red(軽鎖)ベクターのEcoRI/BamHI 部位にライゲーションした。続いて行った可変領域の配列決定により、RT-PCRが変異を誘導しなかったことが確認された。
以下に示すように、pCI-neo(Promega、カタログ番号E1841)をTMC-2206に由来するまたはそれを基にしたヒト化抗体分子を含むキメラ型のクローニングの発現ベクターとして選択した。PCRにより定常領域に変異を導入する可能性を低下させるため、VH およびVLの両方についてクローニングカセットを作製した。まず、Igκリーダー(SEQ ID NO:26) をコードするDNA を、表2に挙げたオリゴヌクレオチド Igκ-S (SEQ ID NO:27) および Igκ-AS (SEQ ID NO:28)を用いてpCI-neoのXhoIおよびEcoRI クローニング部位にクローニングし、互いにアニールさせた後XhoI-EcoRIで分解したpCI-neoにT4リガーゼで直接ライゲーションさせた。これは以後のクローニング手順の全てにおいて親型のベクターを提供した。これから2個の発現カセットが作製され、1つはヒトIgG1 Fc(hFc)に隣接するVH領域でのクローニング用であり、2つ目はヒトカッパ鎖(hKc)の定常領域の上流のVL領域のクローニング用であった。
ヒトIgG1 Fc (hFc)の定常領域の配列にも、ヒトカッパ鎖(hκc)の定常領域の配列にもEcoRI、XbaI、HindIII、またはSalI部位が存在しない。よって、これらの制限部位のうちどれか1つを定常領域の5'末端に導入してクローニングを促進できる。SalIをクローニング部位として選択したのは、アミノ酸の可変領域と定常領域の接合部における変化の数を最小化するためである。重鎖キメラにおいて、SalI部位をマウスVH-ヒトFc 接合部へ導入することが、アミノ酸配列に変化を生じずに達成された。まず、EcoRI-SalI VH断片を、表2に示すプライマー対TMC-2206-r5'(SEQ ID NO:22)とTMC2206VH-hIgG1/4Fc-SalI (SEQ ID NO:29)を用いてPCR法により作製して、pIRES-GFP ベクターのクローニング重鎖をテンプレートとして用いて、SaIl制限部位をマウスVH配列の3'末端に導入した。ヒトIgG1 Fc は、表2に示したプライマーhIgG1/4Fc-SalI-F(SEQ ID NO:30)およびhIgG1/4Fc-NotI-R(SEQ ID NO:31)を用いてIMAGEクローン 20688(Invitrogen、カタログ番号 4764519)DNAを増幅して得た。2つのPCR 生成物をそれぞれEcoRI/SalIおよびSalI/NotIで消化し精製し、EcoRI/NotIで消化したpCI-neo-Igκベクターでライゲーションした。その結果得られたベクターをpCI-neo-Igκ-TMCVH-hFcと命名した。
軽鎖キメラについては、VL-κC接合部の2個のアミノ酸E105DおよびL106Iを改変することなくSalI 領域を設計することができなかった。これは表2に示すプライマーTMC-2206-k5'(SEQ ID NO:24)およびTMC2206VL-hΚc-SalI(SEQ ID NO:32)を用いて2206VL領域をプラスミドpIRES-DsRed2-TMC-2206LCから増幅し、PCR生成物を作製することで達成された。このPCR生成物をEcoRI/SalI で消化し、1%アガロースゲルで分離し、Gel Extraction Kit(Qiagen)で精製し、プライマーhΚc-SalI-F(SEQ ID NO:33)およびhΚc-NotI-R(SEQ ID NO:34)並びに上述のベクターpCL-neo-Igκを用いてIMAGEクローン#4704496(ATCC)から増幅したヒトIgκ軽鎖定常領域をライゲーションした。その結果得られたプラスミドをpCI-neo-IgΚ-TMC2206VL-hΚcと命名した。
このVL-ΚC接合部の2個のアミノ酸の変更が、抗体活性に影響を与えるかどうかを評価するため、親型アミノ酸配列の軽鎖キメラのプラスミドをコードする2個目の軽鎖キメラを構築した。まず、上記のpIRES2-DsRed2-Igk-TMC2206LCをテンプレートとして用い、プライマー対TMC-2206VLwt-hΚc-RとTMC-2206-k5'(SEQ ID NOS: 36 and 24)およびプライマー対TMC-2206VLwt-hKc-FとhKc-NotI-R(SEQ ID NOS: 35 and 34)で、それぞれVLおよびヒトカッパ定常領域を増幅した。次に、プライマーTMC-2206-k5'(SEQ ID NO:24)および hKc-NotI-R(SEQ ID NO:34)を使用したオーバーラップ伸張PCR法(Horton et al., Gene 77(1):61-8 (1989))によるスプライシングを行い2つの生成物を連結し、最終PCR生成物を消化してpCI-neo-Igκにクローニングした。
クローニングしたマウス-ヒトキメラ抗体が、BHA2.1ハイブリドーマが分泌する元のモノクローナルTMC-2206抗体と同一の特異性を有することを確認するため、DNA/OptiMEM および293fectin/OptiMEM(Invitrogen)等量からなるトランスフェクション混合液を用いた一過性トランスフェクション手法を用いて、そのマウス-ヒトキメラ抗体を293F細胞に発現させた。各溶液は事前に室温まで加温したOptiMEMで作製した。DNA/OptiMEM 混合液は、重鎖(HC)発現プラスミド20μg、軽鎖(LC)発現プラスミド20μgにOptiMEMを加え総容量1.3mLとした。293fectin OptiMEM 混合液は293fectin 53μLおよびOptiMEM を含み、総容量1.3mLとした。293fectin混合液をDNA 混合液に加えて混合し、室温で20 分間インキュベートした。106細胞/mLの293F細胞培養液40mLを含むフラスコにトランスフェクション混合液2.6mLを加えた。このフラスコを8% CO2中37℃で120rpmで震盪しながらインキュベートした。3日後、細胞懸濁液を遠心し、直ちにプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにかけ抗体を精製した。最終産物を濃縮してSDS-PAGEで分析し、ロウリー(Lowry)法にて蛋白濃度を測定した。
精製マウス-ヒトキメラ抗体が親型TMC-2206抗体と同様の結合活性を有することを確認するため、精製マウス-ヒトキメラ抗体がα2β1-インテグリンを介する細胞接着を阻害する能力についてテストした。ヒトα2インテグリン(SEQ ID NO:8)を発現しているCHO細胞および内因性ハムスターβ1(Symington et al., J Cell Biol. 120(2):523-35. (1993)) をEDTA 5mM含有のCa++/Mg++を含まないPBS 中でインキュベートすることにより培養フラスコから剥離した。次に細胞を遠心(Beckman GH 38ローター内で1200rpmで8分間)し、ペレットをRPMI-1640 10mLで再懸濁した。その細胞懸濁液に17mM CFSE (Molecular Probes, オレゴン州)30μLを加え、その混合液を37℃で15分間インキュベートした。標識細胞を低速でペレット化し、0.1% BSAを加えたRPMI-1640 10mLで再懸濁してカウントした。細胞濃度を8×105 細胞/mLに調整し使用時まで暗所に保管した。コラーゲン・コーティング・プレート(ラット尾コラーゲンI型、BD Biosciences)を、0.1% BSAを100μL/ウェルに加えたPBSでブロックし、室温で30分間インキュベートした。蛋白質試料を無血清培地で連続希釈し、各連続希釈蛋白溶液50μLをコラーゲンプレートに添加した。次に標識細胞50μL/ウェルをウェルに加え、プレートを37℃で1.5時間インキュベートした。洗浄後、細胞を0.1% Triton X-100に溶解し、Victor2 1420マルチラベルカウンター(Perkin-Elmer)を用いて蛍光強度(励起 485nm、放射 535nm)を測定した。クローン化TMC-2206キメラはα2β1を介するコラーゲンI型への細胞接着の強力な阻害剤であり、TMC-2206と同等の効力を示し、50%有効濃度(EC50値)はそれぞれ1.8nMと1.2nMであった。これらの実験中、10-11〜10-6モル濃度の範囲でテストしたとき、マウスTMC-2206またはキメラ抗体が結合阻害を示したのに対し、対照Igの使用では結合の阻害が見られなかった。
マウス-ヒトキメラ抗体の固定化α2β1インテグリンに対する親和性も、Eu標識TMC-2206のα2β1コーティングプレートへの結合に競合する能力について、例えばKi 値を測定して、親型抗体TMC-2206と比較した。まず、親型抗体TMC-2206の固定化α2β1インテグリンに対する親和性を平衡結合により測定した。96ウエルマイクロタイタープレートのウェルを血小板のα2β1インテグリン(ウィスコンシン州、GTI Inc.によりヒト血小板α2β1でカスタムコーティング)でコーティングし、次に脱脂乳でブロックした。結合および競合アッセイについては、蛍光標識したTMC-2206またはアイソタイプ対照IgG抗体を使用した。Eu-N1-ITC試薬で抗体を標識するために、TMC-2206またはアイソタイプ対照MOPC-21(Invitrogen)のいずれか約2 mgをリン酸緩衝生理食塩水(PBS; 1.47mM KH2PO4, 8.1mM Na2HPO4; pH7.4, 138mM NaClおよび2.67mM KCI)に懸濁し、透析した。洗浄済みのMicroSep濃縮器で濃縮した((Pall Life Sciences; 30-kDaカットオフ、9500rpm (7000xg)、JA-20ローター(Beckman Instruments, Inc.) 内で4℃、20分間))後、pH9.3の最終濃度100mMのNaHCO3を含むPBS で抗体を4.0mg/mLとなるよう調製した。このモノクローナル抗体(mAb)/重炭酸混合液(0.250mL)を静かに混和しながらEu3+(Eu-N1-ITC; Perkin Elmer Life Sciences)でキレートした0.2mg N1-(p-イソチオシアナトベンジル)-ジエチレントリアミン-N1,N2,N3,N3-四酢酸を含む試験管に加え、4℃で一晩撹拌せずに反応させた。各標識抗体混合液を、泳動バッファー(50mM Tris, pH7.4 および138mM NaCl)で予備平衡にした個別のPD-10カラム(GE Biosciences, Piscataway, ニュージャージー州)にかけた。分画(0.5mL)を回収し、SpectraMax 384吸光プレートリーダーを用いて総蛋白アッセイ(Bradford試薬; Bio-Rad Laboratories, Hercules, カリフォルニア州)を行い、DELFIAエンハンスメント溶液(Perkin-Elmer)で1:10,000に希釈後、Victor2マルチラベル・プレート・リーダー(Perkin-Elmer)を用いて時間分解蛍光(TRF)アッセイによりユーロピウム(Eu)を測定した。蛋白と Eu標識の両方が陽性であった分画をプールして新しいPD-10カラムにかけ、試料を回収し総蛋白およびユーロピウム含量をユーロピウム標準液(Perkin-Elmer)に対して較正したTRFにより測定し、Fluor対蛋白の比率を算出した。次に、蛍光標識抗体Eu-TMC-2206またはEu-アイソタイプ対照IgGのいずれかをブロックしたα2β1インテグリン・マイクロタイター・プレートに10μL/ウェルにアプライした。密封プレートを37℃で結合が平衡に達するまで1時間インキュベートした後、試料2 μLを各ウェルからDELFIAエンハンスメント溶液(100μL/ウェル; Perkin-Elmer)を含む新しいウェルに移し、遊離(非結合)標識を測定した。空ウェルにエンハンスメント溶液(100μL/ウェル)を加え、結合標識を測定した。プレートを震盪し(Titer Plate Shakerで速度設定を5として室温で5分間)、Victor2マルチラベル・プレート・リーダー(Perkin-Elmer Wallac, Boston, マサチューセッツ州)を用いて時間分解蛍光(TRF)強度を測定した。スキャッチャード(Scatchard)分析によりTMC-2206についてのKd値は0.374nMと算出された。
異なる濃度の非標識TMC-2206抗体または競合物質としてのキメラ抗体の存在下、蛍光標識Eu-TMC-2206、100 pMを用いた競合アッセイでKi 値を測定することにより、前述と同様のアッセイ方法を用いて固定化α2β1インテグリンに対する相対的結合能を分析した。次に被験抗体の組合せを、α2β1インテグリンをコーティングしたウェルにアプライし、10-11から10-7M の濃度範囲にわたり、および指定時間後テストし、結合Eu-TMC-2206の量を測定した。阻害曲線をPrismソフトウェア(GraphPad, Inc.)を用いて“one site competition”(一部位競合)モデルに当てはめてIC50(50%阻害)値を求め、またチェングおよびプルソフ(Cheng and Prusoff)(1973)の式および上記からのKd (解離定数)値0.374 nMを用いてKi(阻害係数)を算出した。親型TMC-2206抗体は0.22±0.04nM (n=10)のKiを示し、これに対し野生型 (wt) キメラは0.27±0.07nM (n=5)を示した。wtキメラの活性は、SalI部位の操作により導入された2個のLC変異を有するキメラ型のそれと同等であり( Kiも0.27 nM)、これらの変異が活性に影響しないことが確認された。これらの実験において、BSAをコーティングした対照ウェルで対照IgGまたはTMC-2206で試験を行ったが抗体の結合は見られなかった。
<実施例3>
α2β1インテグリンに対し特異性を有するヒト化抗体を設計し作製した。重鎖および軽鎖のCDR領域からなるクローン化TMC-2206抗体の残基を決定し、ヒト化変異体を以下の通り作製した。重鎖および軽鎖可変領域の両方において、より可変性の低いフレームワーク領域内に3個の超可変性領域が発見された。ほとんどの場合、これらの超可変領域はCDRに一致するが、CDRを超えて伸長する場合もある。TMC-2206 重鎖および軽鎖可変領域のアミノ酸配列を、それぞれ上記の表3および4に示した。Kabatの方法に従い他のVHおよびVL領域とアラインメントし、NCBI蛋白BLASTデータベース(http://www.ncbi.nih.gov/ BLAST/, Ye et al., Nucleic acids Res., Jul 1: 34 (Web Server Issue): W6-9))を用いて一般相同性の検索を行い、HCDR1以外は概してCDRおよびフレームワーク領域が解明された。AbM 定義によりHCDRI をスパニング残基26から35と定義付けた。Oxford Molecular's AbM 抗体モデリングソフトウェア(http://people.cryst.bbk.ac.uk/-ubcg07s/, Martin et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 86, 9268-9272 (1989); Martin et al., Methods Enzymol., 203, 121-153 (1991); Pedersen et al., Immunomethods, 1, 126 (1992); および Rees et al., In Sternberg M.J.E. (ed.), Protein Structure Prediction. Oxford University Press, Oxford, 141-172. (1996))は、CDRの定義付けにKabatおよびChothiaの番号付けシステムを組み合せたものである。よって、重鎖CDR領域は以下のごとく定義付けされた:
HCDR1 aa26- aa35
HCDR2 aa50- aa65
HCDR3 aa95- aa102
同様に、軽鎖CDR領域も以下のように定義付けされた:
LCDR1 aa24- aa34
LCDR2 aa50- aa56
LCDR3 aa89- aa97
マウス抗体の結合親和性をヒト化対応抗体において維持することが望ましい。マウス抗体と相同性を共有するヒト受容体分子を選択することが望ましいかもしれない。体細胞変異がないことにより免疫原性が低下する可能性があることから、好ましくは、ヒト受容体はヒト生殖細胞系列のフレームワークである、しかし、個々の成熟抗体フレームワークを受容体分子として使用することもできる。V-BASEデータベース (http://base.mrc-cpe.cam.ac.uk) はヒト重鎖および軽鎖生殖細胞系列の配列の包括的リストを提供するが、TMC-2206のVHおよびVLと比較するために、これをヒト生殖細胞系列の配列のソースとして用い、Kabatデータベースも使用した (http://kabatdatabase.com/, Johnson, G. and Wu,T.T.(2001), Nucleic Acids Res., 29, 205-206)。
TMC-2206 VH は、V-BASE中のヒト生殖細胞系列の配列51個中の3個、4-59、4-61、および4-30.4とよくアラインメントし、フレームワーク3には良くマッチする配列はなかった。4-59の中のCDR H1およびH2の長さはTMC-2206 VHのそれらと同一であり、4-59(SEQ ID NO:39)を受容体フレームワークとして選択した。それはCDR H1およびCDR H2に、TMC-2206 CDR H1およびCDR H2と同じカノニカル構造クラス1を有した。CDR3およびフレームワーク4領域の一部が各抗体の成熟中に変化する異なる非隣接遺伝子に由来するという理由により、VHのCDR3およびFW4各領域は、VBASE生殖細胞系列には含まれていない。この抗体CAA48104(NCBI登録:gi/33583/emb/CAA48104; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)の配列を使用して、アラインメント用のCDR3およびFW4配列、およびFW4受容体分子の配列を提供した。TMC-2206 VHを4-59、およびCAA48104抗体配列のCDR3とFW4領域と比較したものを表 5に示す。
生殖細胞系列の配列 A14(SEQ ID NO:37)は、V-BASEデータベース内の38個のヒトVL抗体配列の1つであり、受容体VLフレームワークとして選択した。A14はVΚ VIファミリーに属し、そのLCDR1およびLCDR2はカノニカルクラス2 および1にそれぞれ属する。TMC-2206 LCDR1はカノニカルクラス1構造に類似して同一ではないが、TMC-2206 LCDR2もクラス1に属する。生殖細胞系列VL配列はCDR-L3まで伸張しているため、ヒトVLのFW4に追加の配列を選択した。選択した配列は、通常使用されている成熟ヒト抗体のカッパ軽鎖のフレームワーク4遺伝子(例えば、AAB24132, NCBI entry登録 gi/259596/gb/AAB24132; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)に相当するものである。SalI部位の導入により、軽鎖キメラの構築中にアミノ酸の2つの変化が配列に起こったが(E105DおよびL106Iで、抗体結合には影響を及ぼさなかった(上記参照))、ヒト軽鎖受容体FW-4は、既にイソロイシンを第106位に有しているので、この変化は単一の保存性アミノ酸変異(E105D)をヒト化変異体に導入しただけであった。TMC-2206 VLをA14、AAB24132抗体配列のFW4領域と比較したものを表6に示す。
TMC-2206 VHおよびVL配列から得たCDR配列および上記の通り選択したヒトフレームワークを用いてTMC-2206のヒト化変異体を作製した。正しいCDRの提示を維持するため、受容体フレームワーク(例えばChothia et al, 1985, 1992; Queen et al., 1989; Foote and Winter, 1992; http://people.cryst.bbk.ac.uk/-ubcg07s参照)のカノニカルな残基のいくつかを対応するドナーマウスのカノニカル残基と交換する(このプロセスを復帰変異と呼ぶ)こともできる。表7および表8にCDR立体配座および鎖間パッキングに影響を与え得る残基をそれぞれ列挙し、TMC-2206ドナーVHおよびVL残基および対応するヒト受容体フレームワーク残基(太字斜体でハイライトしてある)の差異を示す。表8に星印で示したL46残基はCDRのカノニカル構造の提示および鎖間パッキングの両方に関与する可能性がある。
表7および8に示すように、CDRのカノニカル構造提示に影響を及ぼす11個のフレームワーク残基と鎖間パッキングに影響を及ぼす2個の残基は、TMC-2206ドナーとA14および4-59ヒト受容体生殖細胞系列配列の間で異なり、残基L46 はその両方のカテゴリーに入る。具体的には、これらの差異は可変フレームワーク領域重鎖ではH37、H48、H67、H71、H73、H78、およびH91位に、軽鎖ではL2、L4、L46、L47、L49、およびL71位にある。これらの残基を同定し、復帰変異の候補として選択した。
特定された復帰突然変異の13個の候補は、11個が 正しいカノニカル構造の提示に関与し、2個は鎖間パッキングに関与しており、TMC-2206の第一番目のヒト化変異体に含めた。またアミノ末端Qはヒト化VL内に保持されていた。この位置としては異常なアミノ酸である、L2のアミノ酸のPheに隣接しているため、マウスの特性を有するこの位置は保持された。これらのヒト化軽鎖および重鎖変異体をTMC-2206VH1.0およびTMC-2206VL1.0と命名した。この他にもマウス残基をヒトフレームワーク残基に戻して復帰突然変異が少ないヒト化変異体を作製した。この方法によって、ヒト残基への復帰に対し感度が高い(抗体の効力を維持する点で)フレームワーク残基が同定された。ヒト対応物に復帰させる候補残基の選択を補助するためコンピューターモデリングを並行して実施した。
実施例1で記述した軽鎖および重鎖キメラ発現ベクター pCI-neoを全てのヒト化変異体の発現に用いた。上記に定義した14個の復帰突然変異を組み込んだヒト化TMC-2206 VH (hVH1.0, SEQ ID NO:40)のバージョン1.0およびヒト化VL(hVL1.0, SEQ ID NO:41)のバージョン1.0をVector NTIソフトウェアを用いて哺乳類細胞の発現用に至適化されたヌクレオチド配列に翻訳した。これらの配列はRetrogen(San Diego, カリフォルニア州)が構築した単一プラスミドコンストラクト内で並行してカスタム合成され、親型TMC-2206 LCおよびHC 発現ベクターのEcoRIおよびSalI部位にクローニングし、マウスVHおよびVL領域と置換した。具体的には、プラスミドDNAのEcoRI-SalIを消化した結果、大きい方がhVH1.0で小さい方がhVL1.0というサイズの異なる断片が2個得られた。これらの2個の断片をそれぞれ親型pCI-TMC-2206キメラLCおよびHC発現ベクターのEcoRIおよびSalI部位にクローニングし、マウスVHおよびVL領域とそれぞれ置換し、その後、EcoRIおよびSalIを消化し、pCI-neoIgk-TMC2206VG-hFcおよびpCI-neoIgK-TMC-2206VLhκcから得た大型断片の各々ゲル精製を行った。以降の変異体の作製はこの方法を用いて行った。その結果得られたプラスミドには、Igκリーダー、最適化したKozak翻訳開始配列、可変領域、およびヒト定常領域が含まれていた。
上述のヒト化TMC-2206 VH(SEQ ID NO:40)バージョン1.0およびヒト化VL(SEQ ID NO:41)バージョン1.0を有する変異体は、実施例2に記載したキメラおよび元のTMC-2206抗体と共にα2β1インテグリン媒介細胞接着アッセイで活性を調べ、固定化α2β1インテグリンへの結合について競合アッセイでテストした。ヒト化プロトタイプのKi値は0.32 nMで、親型抗体TMC-2206(0.21nM)およびキメラにおける測定値(0.27nM)と同等であり、この第一番目のヒト化バージョンが結合親和性を維持していることが示された。同様に、この最初のヒト化プロトタイプはα2β1を介するコラーゲンへの細胞接着においてTMC-2206親型抗体と同等の阻害活性を示した(例えば両者のEC50(50%有効濃度)は1.5nM)。
バージョン1.0変異体により生じたデータを用いて、PCR法によりヒトVHまたはVLフレームワーク残基への一連の復帰変異体を作製し、元のTMC-2206 mAbの特異性および親和性を損なわない復帰変異(マウス残基)の最小数を決定した。望ましいヒト化変異体には、親型マウス抗体の生物活性を維持しかつ免疫原性の可能性を低減するためより少数のマウス残基を有するヒト化変異体が含まれる。
個々のプライマー配列はSigma-Genosysにより合成されており、その配列を表9に列挙する。変異体の創製に用いたプライマー対およびテンプレートを表10および11に示す。PCR反応は次の条件で行った: プライマー1および2 (最終濃度0.6μM)、dNTP(最終濃度1 mM)、DNAテンプレート(1〜10ng)、およびPfx DNA ポリメラーゼ1単位(Invitrogen、カリフォルニア州)最終量は通常50μL。PCRプログラムは、95℃で2分間の初期変性、それに続く95℃ 30秒間、56℃ 45秒間、および68℃ 1.5分間を1サイクルとした30サイクルからなった。最終工程は68℃で10分間であった。
表12にVH変異体を、表13にVL変異体を列挙し、選択したヒト受容体フレームワークを初期の(1.0)VHおよびVL 変異体と比較した。表12に列挙したVH変異体には次が含まれる: hVH1.0(SEQ ID NO:21); hVH2.0(SEQ ID NO:70); hVH3.0(SEQ ID NO:71); hVH4.0(SEQ ID NO:72); hVH5.0(SEQ ID NO:73); hVH6.0(SEQ ID NO:74); hVH7.0(SEQ ID NO:75); hVH8.0(SEQ ID NO:76); hVH9.0(SEQ ID NO:77); hVH10.0(SEQ ID NO:78); hVH11.0(SEQ ID NO:79); hVH12.0(SEQ ID NO:109); hVH13.0(SEQ ID NO:110); hVH14.0(SEQ ID NO:111)。表13に列挙したVL変異体には次が含まれる: hVL1.0(SEQ ID NO:41); hVL2.0(SEQ ID NO:80); hVL3.0(SEQ ID NO:81); hVL4.0(SEQ ID NO:82); hVL5.0(SEQ ID NO:83); hVL6.0(SEQ ID NO:84); hVL7.0(SEQ ID NO:85); hVL8.0(SEQ ID NO:86); hVL9.0(SEQ ID NO:87); hVL10.0(SEQ ID NO:88); hVL11.0(SEQ ID NO:89); hVL12.0(SEQ ID NO:108)。保持されたマウス残基を太字で示す。それ以外に構築した変異体(以下参照)もそれぞれ示す。表 12のVH1.0以下に示す各変異体は、保持されたマウス残基をヒトフレームワーク対応残基に変える特定のアミノ酸の置換が見られない限り、VH1.0(ダッシュ[-]で表す)と同一の配列を有した。同様に表 13に示す各VL 変異体は、表示した特定のアミノ酸の置換以外はVH1.0変異体と同一の配列を有した。
TMC-2206のアミノ酸配列の生殖細胞系列配列とのアラインメントは、初期ヒト化TMC-2206変異体(TMC-2356)の相当するマウス遺伝子に復帰突然変異させたフレームワーク残基のクラスター化を示した。アラインメントに示されるように、重鎖内のFW2およびFW3に含まれる2個のクラスターが存在し、同様に軽鎖にもFW1に1個、FW2に1個と2個のクラスターが存在した。目的部位にヒト残基への復帰突然変異を含む2個のhVHおよびhVL変異体は3.0および4.0変異体であり、目的の残基が存在し得る領域を特定するのに役立つ突然変異クラスターを持つように設計されていた(表12および13)。表7および8にハイライトしたVL領域の残基の差異の他に、L1位置をVL4.0のヒトAspに改変した、これはヒトκ軽鎖に一般的に見られる残基だからである。hVH3.0および hVH4.0重鎖はhVL3.0およびhVL4.0軽鎖に種々のVH/VLの組み合せで同時トランスフェクションし、その結果、得られた抗体を上記のhVH1.0/hVL1.0抗体と比較し、リガンドの親和性を非標識TMC-2206モノクローナル抗体との直接比較により調べた。表14で、ヒト残基に復帰させたヒト化VHまたは VLのバージョン1.0中の残基を斜体太字で示す。表14の括弧内の数字は、hVH1.0、hVL1.0変異体と比較したときの効力の倍率変化を表す。
VH 3.0変異体の改変(H67、H71、H73、およびH78に挿入されたヒト残基がFW-3クラスターを指定した)が抗体を含むhVH3.0の効力の大幅な減少を誘起したことは、Ki値から明らかであった。同様にhVL4.0変異体(L1、L2、およびL4に挿入されたヒト残基がFW-1クラスターを指定した)にも減少が見られた。hVH1.0/hVL1.0抗体と比較したときにそれぞれ1.9および1.3倍の効力の変化を示したhVH1.0/hVL3.0およびhVH4.0/hVL1.0の抗体の組合せを除き、残りの全ての組合せは、効力が4倍より大きい低下を示した(表14)。これらのデータから、H37(VからI)およびH48 (LからI)の復帰突然変異(いずれも保存的アミノ酸変異)の許容性が高いことが示された。マウス残基をL46(KからL)およびL47(WからL)ヒト残基に置換した復帰変異はhVH1.0の組合せでは比較的良く許容されたが、hVH3.0変異体と組み合せた場合には抗体への著しい相乗有害作用を示した。
ヒトとマウスのVHおよびVL フレームワーク間の残基の違いを調べた結果、そのいくつかは保存的な変化であることが示された。さらに、マウスTMC-2206 VHとVL、ヒト受容体分子、およびhVH 1.0とhVL 1.0の構造の3次元コンピューターモデリングを実施した。コンピューターモデリングの手引きとしてBLAST検索を行いTMC-2206 VLおよびVHに厳密に適合するデータベースの構造を特定した。TMC-2206 VLには構造ISY6.pdb(解像度2.0Å)を選択し、TMC-2206 VHにはIGIG.pdb(解像度2.3Å)を選択した。ヒト軽鎖受容体分子A14には、構造ICE1.pdb(解像度1.9Å)を、ヒトVH重鎖受容体分子4-59にはIDN0(解像度2.3Å)を選択した。
モデリングにより、ヒト化VL10中に保持されたマウス残基が2個(L1およびL4)を除き抗原と接触する可能性が高いことが予測された。このモデルにより、保持されたマウスフレームワーク残基は一般にCDR周囲にクラスターを形成するのに対し、保持されたヒト生殖細胞系列フレームワーク残基がCDRに接触しないことも示された。
重鎖の可変領域においては、モデル化したマウスとヒトの各VH領域に3つの異なる部分が特定された。第一の部分は残基H27〜H33で、抗原およびCDR H1に接触する可能性が高いと予測された。これらの残基はVL/VHインターフェースの角度に影響を与える可能性もあり、抗原結合性にさらなる間接的な影響を与える。第二の部分はFW残基H71を必要とし得るCDR H2の第一番目のループであった。第三の部分はCDR H3であった。
軽鎖の領域においても、モデル化したマウスとヒトのVL構造の間に3つの異なる領域が認められた。第一の構造はマウスTMC-2206 VL内の残基1個分長いCDR1であった。マウスL71のY(A14のF)はこの差異を調整するのに有用であった。第二の部分は溶媒中にヒトに比べより深く露出されたL40〜L43のマウスループで、このことは、最初のヒト化プロトタイプの活性によりこれらの復帰突然変異がhVL1.0で許容されたことが実証されたにもかかわらず、ヒトL40〜43が問題となる可能性を示していた。第三の部分はマウス構造に対し置換されたヒトフレームワーク残基L55〜L59であった。復帰突然変異がhVL1.0で許容されたものの、フレームワーク残基L73(マウスではL、ヒトではF)がこの差異の原因となることが予測された。
コンピューター分析を用いて目的の特定の重鎖残基における結果を予測し、以下の表15にまとめた。目的の軽鎖残基についての同様の結果を表16に挙げる。
コンピューター分析を用いて位置を評価し、ヒト残基の置換が抗体の性能に影響を及ぼす可能性の高さで順位付けをするとH48、H67 < H37、H91 < H73 < H78、H71となった。この順位ではH48位のヒト復帰変異が許容される可能性が最も高いと予測され、H78またはH71位の復帰変異が最も許容性が低いと予測された。同様に、軽鎖領域内の目的の位置の順位付けは次のように予測された:L1 < L4 < L71 < L2 < L47 < L46 < L49。一般に、これらの順位はhVH3.0、hVH4.0、およびhVL4.0各変異体で得られたKi値と一致した。しかしhVL3.0変異体の活性については、コンピューターモデリングにより予測された置換の影響と構築した変異体に観察された影響に差が見られた。例えば、上記のコンピューターデータがhVL3.0変異体は活性が大幅に減少するであろうと予測したにもかかわらず、VH1.0/VL3.0の組合せからなる抗体変異体は十分な活性を示した。保持されたマウス配列から相当するヒト配列への単一変異を有する8個のVHおよび6個のVL変異体をそれぞれ含む追加のヒト化変異体を構築し、保持されたマウスフレームワーク残基の影響をさらに評価した。その変化が活性に与える相対的効果を測定した。表12にVH変異体を、表13にVL変異体を列挙する。
これらの変異体について得られたKi値は、H71、H78、L2、およびL46位のマウス残基が適切に保持されて活性を最大化していることを示し、H37、H48、H67、H91、L1、L4、およびL71が活性の重大な喪失を起こさずにヒトの対応残基に置換できることを示した。コンピューターモデリングにより、マウス残基L47(ヒト抗体のこの位置には希な残基トリプトファン)およびH73を改変すると抗原結合に影響を与えると予測された。しかしヒトVal-L47の改変は抗原の結合に重大な影響を与えず、またThr-H73の改変はKi値で測定された軽度の変化(1.6倍の減少)を起こしたのみであった。L49(チロシン)は抗原と結合することがコンピューターモデリングにより予測され、またヒトリジンの改変は効力に大きな変化を起こすことが予測された。しかしこの位置のヒトリジンの改変は、Ki値で測定した効力を3.3倍低下させただけであった。
H78 位でマウスバリンからヒトフェニルアラニンへの置換を行うと、hVH11.0、 hVL1.0変異体においてhVH1.0、hVL1.0変異体と比べKi値で測定した活性を70倍低下させた顕著な変化がVHに観察された。モデリングはこの残基がHCDR1のカノニカル構造において何らかの役割を果たすことを示していた。これらの結果、HCDR1が抗原結合に重要な役割を果たすことが示唆される。活性を最大化するために、H71も保持された。この残基をLysからValに改変した結果、hVH9.0、hVL1.0抗体変異体において6.4倍の低下が観察された。さらに、軽鎖のカノニカル残基の中でL2位のフェニルアラニンが変化に感受性を有することが、hVL5.0、hVL6.0、およびhVL7.0変異体と比較してhVL4.0変異体で結合親和性の顕著な低下が観察されたことにより裏付られた。コンピューターモデリングにより、このPhe-L2がLCDR3と広範囲な接触を行う可能性が示された。ヒトおよびマウス抗体のデータベース検索により、L2位のこのPheが希であることも示され、それが抗原結合に影響する体細胞突然変異を意味することが示唆された。
分析後に選択した復帰変異に許容性があると上述されたこれらの残基は、hVH変異体12.0から14.0まで、およびVL変異体VL10.0から12までと組合わされ、これらの変異体の活性を元のTMC-2206モノクローナル抗体およびマウス-ヒトキメラTMC-2206抗体と比較した。その結果、変異体の活性を失わせることなくhVL中のマウス残基の数が3個(例えばL2 [Phe]、L46 [Lys]、およびL49 [Tyr])まで減らせる可能性が示された。同様に、親和性および効力に統計学的に有意な変化を起こさせることなくhVH 中のマウス残基の数を7個から3個(例えばH71 [Lys]、H73 [Asn]、およびH78 [Val])まで減らせる可能性が示された。これらの結果を表17にまとめて示す。
同時に、LCDRI中のグリコシレーションコンセンサス配列を改変したこれらの変異体の相同体を構築した。グリコシル化部位(NSSからQSSまで)を除去することが下流の製造および工程開発に有用である可能性がある。hVL1.0、hVL10.0、およびhVL12.0変異体(hVL1.0Q [SEQ ID NO:90]、hVL10.0Q [SEQ ID NO:91]、およびhVL12.0Q [SEQ ID NO:92]で示す)中のN26Q の改変を、表18に示したプライマー対(その配列を表9に記載する)を用いて該当する変異体VL内に導入した。表17に示すように、その結果得られた抗体のいずれに対してもN26Qの改変は統計学的に有意な効果を有しなかった。このグリコシル化部位は野生型TMC-2206抗体の軽鎖CDR1に発現するものの、これらのデータからそれはTMC-2206 抗体の機能ブロック活性の親和性に何の役割も果たしていないように見えることが示された。
<実施例4>
γ1クラスのヒト抗体は、補体およびFc受容体を介した機能に関連するエフェクター機能を有する。抗体依存性細胞媒介性の細胞毒性(ADCC)および補体の応答を回避するために、ヒトγ4定常領域などのこの機能を有しないγ鎖の使用が望ましいことは、当業者によく認識されている。VH12.0、VL10.0Qのγ4バージョン、VH14.0およびVL10.0Q抗体を作製するため、以下のようにVH12.0およびVH14.0重鎖のγ4定常領域の配列でγ1定常領域の配列を置換した。γ4定常領域の配列はGenbank登録配列KO1316から得た。本明細書に記述したhVHおよびhVL領域を有するIgG1抗体の無傷の重鎖の作製に使用したIMAGEクローン20688由来のγ1 Fc配列、およびKO1316配列由来のγ4 Fcは、両方とも天然のApa1制限部位を可変および定常領域の接合部付近に有している。この部位はγ1 定常領域を置換するγ4定常領域をクローン化するために使用した。BamH1および Not1制限部位を配列の3'末端に付加しpCI-neo 発現ベクターへのサブクローニングを促した。次にγ4の配列(SEQ ID NOS: 105および106)がBlue Heron Biotechnology (Bothell, ワシントン州)により新規の合成遺伝子として合成された。Blue Heron Biotechnologyから得た新規に合成されたIgG4 定常領域を含むプラスミドをApaIおよびNotIで消化し、1kb-γ4定常領域断片をゲルで精製し、ApaI/NotIで分解したpCI-VH12.0およびpCI-VH14.0各プラスミドにライゲーションし、VH12.0-γ4およびVH14.0-γ4をコード化するプラスミドを作成した。これらは個々にpCI-VL10.0Qプラスミドと組合せ、CHO細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの4日後に、培養上清液を回収しVH12.0、VL10.0QのIgG4アイソタイプおよびVH14.0、VL10.0Q抗体をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーで精製した。これらの変異体から構築されたγ1の新しい一過性トランスフェクションを並行して実施した。
酸による溶出と中和の後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析サイズ排除クロマトグラフィーにより、プロテインAで精製したIgG4調整液中に高次のオリゴマー形の存在が示された。従って、Sephacryl S-300 26/60のサイズ排除クロマトグラフィーによる第二の精製工程を行い、モノマー分画を得た。これを行うためSephacryl S-300 26/60カラムをSEC 泳動バッファー(40mM HEPES、pH6.5、20mM L-ヒスチジン、100mM NaCl、および0.02% Tween-80)660mlで事前に平衡化した。プロテインAカラムから溶出した蛋白質を含むプールした分画をSuperloop(Amersham Biosciences)を通してロード(12.5ml 試料注入)した。SEC分画(各5ml)を流速2.0ml/分で回収した。モノマー形に該当する分画(溶出ピーク168.4 ml)をプールし、Lowryアッセイで蛋白質含量を測定した。
代表的IgG1抗体はhVH14.0γ重鎖(SEQ ID NO:181)またはhVH12.0 γ1重鎖(SEQ ID NO:182)およびhVL10.0Q軽鎖(SEQ ID NO:178)を有する。代表的IgG4 抗体はhVH14.0 γ4重鎖(SEQ ID NO:174)または hVH12.0γ4 重鎖(SEQ ID NO:176)および hVL 10.0Q 軽鎖(SEQ ID NO:178)を有する。精製した抗体を競合アッセイでテストしてKi 値で表される効力を比較し、また細胞-コラーゲン接着アッセイでテストして効力をEC50 値で測定した。表19に示すように、いずれのアッセイについても、各種の変異体のアイソタイプの間に有意差は見られず、元のTMC-2206モノクローナル抗体(mAb)との有意差もなかった。
<実施例5>
抗α2の好中球の血管外遊出に対する効果を、腹腔内投与マウスおよびラットの炎症腹膜炎モデルにおいて調べた。カゼイン、カラギーナン、またはチオグリコレートなどの特定の抗原腹腔内投与は、急性腹膜炎の応答を開始させる急速な肥満細胞の応答を誘発する(Edelson et al., Blood 103(6):2214-2220 (2004))。この腹膜炎は急速な好中球の浸潤(数時間内)とそれに続くゆっくりした浸潤およびマクロファージの増殖(3〜5日間)を特徴とした。このようにこのモデルは、抗α2インテグリン抗体の使用が好中球の応答を機能的に予防または低減することを初めて評価するために用いられた。
この急性腹膜炎モデルはラットおよびマウスにおいて実施した。TMC-2206抗体はラットα2β1インテグリンを認識するが、対応するマウスα2β1インテグリンは認識しない。ただし、多数の炎症のin vivo モデルをマウスで実施し、マウス急性腹膜炎モデルにおいてはサロゲート抗α2抗体Ha 1/29(Pharmingen, Becton Dickenson、カリフォルニア州、カタログ番号559987)を用いた。
動物に抗α2インテグリン抗体またはアイソタイプ対照抗体を0.1から10mg/kgの用量範囲で抗原投与の15分間前に静脈内または腹腔内注射した。インテグリン9%カゼイン(マウス)またはカラギーナン(ラット)のいずれかを1mL腹腔内注射し、動物を規定した時間そのケージに戻した:3時間(マウス)または5時間(ラット)(各群n=4)。次に動物をハロタンで安楽死させ腹腔を5 mM EDTAを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)5mL (マウス)または10mL(ラット)で洗浄した。細胞を低速遠心にて採取し、PBS/EDTA 5mLに再懸濁し、100μLを分取して鏡検し、細胞の大部分が好中球と一致する多形核の形態を有することが観察された。残りの懸濁液中の細胞を低速で遠心し洗浄細胞ペレットを得た。
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性レベルのアッセイにより(例えば、Speyer et al., Am J Pathol. 163(6):2319-28 (2003))好中球含有量を定量した。洗浄液から回収した細胞ペレットをヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(HTAB; Sigma-Aldrich, ミシガン州)を0.5%含有する50mM KH2PO4緩衝液(pH 6.0)500μLに再懸濁した。その試料を60〜90秒間音波処理し、4℃で5分間14,000 rpmで遠心した。50μLの試料をマイクロタイタープレートのウェル内のHTAB緩衝液50μLに移し、取り除いた上清液を2:1に階段希釈した。次にウェル中のこの溶液50μLを別の緩衝液50μLに移すことを繰り返していき、希釈系列を作製した。基質緩衝液(o-ジアニシジン0.168mg/mLおよび0.0005% H2O2を含有する50mM KH2PO4緩衝液(pH6.0))200μLを各試料に加えて発色反応を開始させ、Molecular Devicesプレートリーダーセットで460nmの波長でモニターを行った。次に元の細胞懸濁液(各動物につき洗浄細胞懸濁液500μL)中の酵素活性のユニット数を算出した。MPO活性に対して好中球数/mLを滴定する(好中球数の直接計数にて評価する)よう設定した検量線により、測定範囲内でU/mLと好中球数/mLの間に強い直線的相関が示された。
表 20に示すように、抗マウスα2β1インテグリン抗体Ha1/29およびTMC-2206は両者とも、マウスにおいては9%カゼインまたはラットでは1%カラギーナンによる抗原負荷後に起こる腹腔内への好中球の浸潤に顕著な効果を有した。この効果は腹腔内洗浄液から回収した総MPOの活性で測定した。Ha1/29投与のマウスで得られたED50値は-0.07mg/kg、TMC-2206投与のラットのED50値は-5mg/kgであった。この差は、マウスα2β1インテグリンへのHa1/29 抗体の親和性と比較した抗ヒトα2β1インテグリンのラットα2β1インテグリンへの相対的親和性と一部相関し、またラットおよびマウスモデルで使用した抗原(それぞれカラギーナンおよびカゼイン)の差とも一部相関する。
<実施例6>
炎症性腸疾患マウスモデル(硫酸デキストラン誘発大腸炎)における抗αインテグリン抗体の効果を調べた。このモデルではマウスにデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)5%を含む飲料水を投与して大腸炎を誘発した(Elson et al., Gastroenterology 109(4):1344-67(1995); Egger B., et al., Digestion 62(4):240-8 (2000))。抗マウスα2β1インテグリン抗体による治療の臨床徴候および症状の進行に対する効果と、大腸への炎症誘発性白血球の浸潤に対する効果を評価した。
体重16〜21グラムのBalb/Cマウス (Harlan, インディアナ州)をつがいで飼育した。動物は蒸留水またはデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)(ICN, Irvine, カリフォルニア州)を5%含む水のいずれかを自由に7日間与えた。この段階でマウスは下痢および顕著な体重減少を示した。実験のデザインは4群で各群にマウス6匹、1群は未処置対照として、1群はDSS対照とし、他の2群は0、2、4、および6日目に抗α2インテグリン抗体PS/2を2または5mg/kgのいずれかの用量で腹腔内注射により投与される群に割付けた。7日目(DSS給餌開始から168時間後)にマウスを安楽死させた。マウスを計量し実験開始時からの変化を観察し、結腸の長さを測定し、以下の通り、下痢、結腸出血、および直腸出血は2を最も重度とする0から2の段階で採点した。
直腸出血: 0点 = 血液の視認なし; 2 = 血液視認
便軟度: 0点 = 正常; 1 = 軟便; 2 = 水様便
結腸出血: 0点 = 血液の視認なし; 2 = 血液視認
次に結腸を免疫組織化学的検査のために処理した。盲腸から直腸までの結腸を慎重に切除して4%パラホルムアルデヒドで4℃で2時間固定し、20%スクロース中に一晩放置した後、OCT冷凍用化合物(Tissue Tek)中で急速冷凍した。Leicaクリオスタットを用いて薄い(10μM厚さ)連続切片を作製し、自然乾燥し、3%ヤギ血清を含むPBS中で2時間ブロックし、一次抗体中に室温で一晩インキュベートした。用いた一次抗体は、ラット抗マウスCD11b/mac-1(マクロファージおよび活性好中球用マーカー、クローン M1/70, BD-Pharmingen)、ハムスター抗マウスCD3(T細胞マーカー、BD-Pharmingen)、およびクローンF4/80(マクロファージ用マーカー、Research Diagnostics, Inc)であった。次にスライドを洗浄し、対応するAlexa 488またはTRITCで標識した二次抗体(Molecular Probes、オレゴン州)中で2時間インキュベートし、PBSで3回5分間洗浄し、DAPI(Vector Labs、カリフォルニア州)含有封入剤Vectashieldでマウントした。切片をSpot RTカメラ(Research Diagnostics)に接続したLeicaエピ蛍光顕微鏡で観察した。固有層と絨毛先端部の間の領域で漿膜表面(高度の自己蛍光)と腸管内腔を除く選択目的領域(ROI)内の蛍光強度および蛍光染色した細胞数を、各動物においてImageProソフトウェア(Media Cybernectics、メリーランド州)を用いて5個の別々の切片から計5視野について定量した。
表21に示すように、抗マウスα2 インテグリンの投与は、DSS給餌に伴う体重減少および便軟度の回復において統計学的に有意な用量効果を示した。両投与群(2mg/kgおよび5mg/kg)とも直腸出血および結腸出血において有意な効果を示したが、大腸炎の発症に伴う結腸短縮に対する有意な効果は見られなかった。投与はまた浸潤白血球数の減少とも相関していた(データ図示なし)。
もう1件の実験において、抗α4 インテグリン(クローンPS/2; Southern Biotech, アラバマ州)、抗α2 インテグリン(クローンHa1/29, BD Pharmingen, カリフォルニア州)および抗α1 インテグリン(クローンHa8/31; Invitrogen, カリフォルニア州)の効果をDSSのみ投与のマウス(各群n=8)と比較して調べたものがある。抗体の投与量は5 mg/kgであった。これらの抗インテグリン機能ブロック抗体は実験的大腸炎を調節することが報告されている(Kriegelstein et al., J Clin Invest. 110(12):1773-82 (2002); Watanabe et al, Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol.283(6):G1379-87 (2002))。表 22に示すように、3つの抗インテグリン抗体は結腸短縮の回復に関連したが、抗α2投与のみが便軟度(下痢)の有意な改善に関連していた。抗α2、抗α4投与はともに結腸出血の有意な改善に至った。この実験では、いずれの抗体投与も体重減少に有意な効果を誘発しなかった。抗CD3、F4/80、および抗Mac1を用いた間接免疫蛍光法により抵抗性T細胞、マクロファージ、および好中球の数を評価した(前述のように)とき、表 23に示す通り、抗インテグリン投与の3群は生理食塩水投与対照群に比べ有意な低下を示した。これらのデータは、DSSへの応答で炎症を起こした結腸に蓄積するこれら免疫エフェクター細胞の定常状態レベルに対し、拮抗性のα2の機能が大きな影響を与えるという結論と、これらの変化が大腸炎に伴う臨床尺度の改善と同時に相関することを裏付けた。
<実施例7>
抗α2インテグリンの効果を、多発性硬化症の実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)モデルにおける実験的臨床徴候および症状について調べた。合成脳細胞形成性ペプチドPLP139-151をフロインド(Freund)のアジュバントと共にSJLマウスに注射することにより誘発した多発性硬化症のEAEモデルは再発寛解型の多発性硬化症の予測モデルと考えられる(Encinas et al., J Neurosci Res.45(6):655-69 (1996))。
マウス4群(8匹/群、図1参照)における実験で、2群に疾患の症状発現から20日目までの初回急性発作時において10、11、12、14、15、18および20日目にアイソトープ対照または抗マウスα2インテグリン抗体Ha1/29のいずれかを5mg/kg投与を行った。これは急性投与レジメンであった。0日目は合成ペプチドPLP139-151およびフロインドのアジュバントによるプライミングの開始で定義した。疾患発症は連続体重減少の2日目と定義した。他の2群は、2回目発作/初回再発に一致する18日目から36日目まで抗マウスα2インテグリン抗体または生理食塩水を週に3回投与される遅延投与レジメンに割り付けした。臨床徴候および症状について以下のようにマウスを評点した:
0.5点 = 2日連続の体重減少
1点 = 尾の弱化
2点 = 運動失調
3点 = 後肢麻痺
4点 = 瀕死状態
5点 = 死亡
表24に示すように、初回発作の発症から抗マウスα2抗体を5mg/kg投与(急性投与)は初回発作の程度を軽減し、また二回目の発作の程度も制限した。初回発作終了後の18日目に投与を開始した場合(遅延投与、図1参照)、抗マウスα2インテグリン抗体5 mg/kgを投与したマウスは初回再発から32日目までの期間中臨床スコアが低く、32日目の時点では2群は表 24に示すように同様の疾患スコアを示した。図2に示すようにマウスに導入期中のみ投与した場合は、抗α2インテグリンmAbは、EAEモデルの初回発作またはそれ以降の段階でほとんどまたは全く効果がなく、アイソタイプ対照を投与された動物と実質的に同等の疾患を発現した。これらの結果はEAEモデルで抗α4抗体、PS/2を用いて過去に得られ(Yednock et al., Nature 356(6364):63-6 (1992); Theien et al., J. Clin. Invest. 107(8):995-1006 (2001))で抗α4抗体ナタリズマブによる再発性多発性硬化症の治療の裏付に用いられた結果(Miller et al., N. Engl. J. Med. 348(1):15-23 (2003))と対照的である。これらの結果から、α4インテグリンがこの受容体の拮抗作用により多発性硬化症に伴う発作の再発を遅延させるという神経炎症性疾患に果たす役割と対照的に、拮抗性のα2インテグリンが再発が起きた時点での軽減および治療に有益な治療形態であることを示している。
瀕死状態(第4期)または実験終了時のいずれかにマウスから得た脳および脊髄について組織学的分析を行った。マウスは瀕死状態(臨床スコア4点)のとき、または55〜60日間の観察期間後にハロタンで安楽死させた。動物はPBS、次に4%パラホルムアルデヒドで灌流した。脳は5個の冠状厚切りスライスに分け、脊髄は10〜12個の横断厚切りスライスに分け、組織はパラフィン包埋し4μ厚の切片をミエリン形成を可視化するためルクソールブルー(Luxol Blue)で染色した。ミエリン形成、浸潤(脳膜炎)、および血管周囲カフィングの程度について組織を盲検的方法で評点した。脊髄切片の評点では、各脊髄切片を前索、後策、各側索の四半部に区分した。脳膜炎、血管周囲カフィング、または脱ミエリン化を有する四半部にはその病態クラスに1点を与えた。各病態クラスの陽性四半部の総数を計数し、スライド上に存在する四半部の総数で除し、100を乗じて各病態クラスの百分率を算出した。その四半部にどんな病巣でもあれば陽性スコアを付けることで総合病態スコアも算出した。
脱ミエリン化している顕著な炎症病巣が骨髄に観察され、後索の薄束および前外側索の腹根神経の出る部分(root exit zone)に最も高頻度で見られた。軽度の血管周囲カフィングのみ観察された。脳膜炎および脱ミエリン化は臨床徴候と強い相関(それぞれr=0.84および0.79)を示し、抗α2投与群で有意に低いスコアを示した(両パラメーターとも抗α2群と対照IgG投与群間でP<0.01)。これらのデータから、抗α2インテグリン抗体の投与が発作に伴う脳膜炎および脱ミエリン化を阻害した、または再ミエリン化と修復を促した、あるいはその両方を行ったことが示された。総合的な結果は臨床アウトカムの改善であった。
もう1つの実験を行い(各群につきn=17〜20)、抗α2インテグリンと抗α4インテグリン抗体、PS/2(Southern Biotechより入手)による初回急性発作中から寛解の発現まで(10日目から20日目まで)の治療と比較した。追加の2群を対照IgGまたは抗α2インテグリンのいずれかで寛解開始(18日目)から初回再発(36日目)まで、および疾患の慢性期の開始時に投与を行った。抗α2インテグリン療法が神経学的後遺症(麻痺)の発現率において再び顕著な効果を示し、初回EAE発作時のみならずそれに続く再発期(EAEの慢性期、表24)の最大平均臨床スコアに統計学的に有意な低下を示した。遅延抗α2療法は、疾患の慢性期における臨床スコアに対しわずかな軽減効果を有した。初回発作中の疾患発現率(抗α2で61%、対照IgGで85%)および慢性期の発現率(抗α2で77%、対照IgGで100%)は、抗α2投与マウス群で対照群に比べて低かった。抗α4を投与した群では、初回発作中の疾患発現率は(抗α4投与群で94%、対照で82%)および再発中の発現率(抗α4投与群で89%、対照で92%)は、抗α4抗体投与群と対照群間で同様であった。しかしそれに続く再発の程度は顕著に軽減された。抗α4抗体に関するこれらのデータはEAEにおける臨床アウトカムに対する抗α4抗体療法の効果に関する過去の報告(Theien et al., J. Clin. Invest. 107(8):995-1006(2001))と同等である。
<実施例8>
血小板α2β1インテグリン(α2β1は血小板表面に発現している)に結合する効果を血小板の機能への効果も含めて調べた。これらの効果を調べるため異なるアッセイの組合せを実施した。
第一番目の研究ではTMC-2206の結合が血小板の活性化(Pセレクチンの上方制御またはαIIbβ3活性化に特異的なPAC-1などの抗体を用いて測定される血小板αIIbβ3インテグリンの活性化で測定される)につながるかどうかを評価した。最低10日間薬剤服用を控えた健常ドナーの肘静脈から21G針を用いてヒト静脈血を採取し、洗浄血小板の作製に使用する場合はプロスタグランジンI2(PGI2 , Sigma-Aldrich)を500ng/mL含む1/10容量の酸性クエン酸ブドウ糖緩衝液(ACD: 85mMクエン酸ナトリウム、111mMブドウ糖、および71mMクエン酸、pH調節なし)に入れた。全血を室温において160×gで20分間遠心し、バフィーコートを乱さずに多血小板血漿(PRP)を除去した。PRPをクエン酸ブドウ糖生理食塩水緩衝液(CGS、13mMクエン酸三ナトリウム, 120mM塩化ナトリウム、および30mMブドウ糖、pH7.0)およびPGI2(500ng/ml)で2.5倍に希釈し、室温で160×gで20分間遠心にかけて不純物である白血球を除去し、洗浄血小板を調整した。上清液を回収し1100×g で10分間遠心し、得られた血小板を静かにCGS緩衝液に再懸濁し、洗浄後正常Tyrodes-Hepes緩衝液(12mM NaHCO3, 138mM NaCl, 5.5mM ブドウ糖, 2.9mM KCl, 10mM HEPES, 1mM CaCl2, 1mM MgCl2, pH7.4)に再懸濁した。この血小板を37℃で30分まで回復させた。洗浄血小板を計数し、次にCaCl2およびMgCl2を1 mMになるよう加えた。ラットの洗浄血小板を同様の方法で調整したが、採血時の血小板の活性化を最小限にするため血液は大静脈から採取した。
新たに調整したPRP 50μLをTMC-2206 5 μg/mLまたはマウスIgG対照抗体とともに30分間インキュベートし、洗浄し、次にAlexa 488標識Pセレクチン抗体(BD Pharmingen, カタログ番号555523)、Alexa-488標識PAC-1抗体(BD Pharmingen, カタログ番号 340507)、または150ng Alexa-488標識フィブリノーゲン(Molecular Probes)の存在下または非存在下でAlexa-594で標識したヤギ抗マウス抗体とともに室温で40分間インキュベートした。P-セレクチンおよびPAC-1は血小板活性化のマーカーであり、活性化した血小板はフィブリノーゲンに結合することができる。インキュベート時間終了時に血小板を1/10容量の4%パラホルムアルデヒドで固定し、FACScalibur(商標)フローサイトメーターを用いて分析した。これらの実験の結果は、TMC-2206処理した血小板で観察され対照IgG処理した血小板では見られなかった蛍光強度の増強におけるログシフトで示されるように、血小板が明らかにTMC-2206を結合したにもかかわらず、P-セレクチンまたはPAC-1染色に随伴する増加が見られないことを予想外に実証し、TMC-2206結合が血小板を活性化しなかったことが示された。
次に行った実験では、TMC-2206を結合することが血小板の活性化につながるかどうかをコラーゲンが誘発する血小板凝集に対する効果によって評価した。可溶性コラーゲンは血小板凝集の強力なアゴニストであり、血小板の応答能の日常的尺度として使用される(一例としてHemostasis and Thrombosis;(2001), ed. Colman et alを参照)。α2-ノックアウトマウスを使った実験から、これらのマウスから得た血小板がコラーゲンに対し阻害された軽微な応答を示すことが示唆されている(Holtkotter et al, J. Biol. Chem. 277(13):10789-94 (2002)E. pub Jan, 11, 2002; Chen et al., Am. J. Pathol. 161(1):337-344(2002))。血小板のコラーゲンに対する応答に対しTMC-2206が有害作用を有するかどうかをテストするため、Bio-data PAR4 血小板凝集計を用いた従来の光透過法凝集測定によりヒトおよびラットの血小板凝集アッセイを行った。上述の方法でPRPを調整し、血小板数を3×108/mLに調整した。PRP 450μLまたは洗浄血小板をTMC-2206 5μg/mL の存在下で磁気ビーズで37℃で1分間撹拌してから、コウシ皮膚I型コラーゲン(Biodata Corp)を加えて凝集を開始した。洗浄血小板凝集用にTyrodes緩衝液で最終容量500μLとし、血小板欠乏血漿(PPP)で多血小板血漿アッセイ用とした。Tyrodes緩衝液またはPPP 500μLをアッセイのブランクとして用いた。血小板を微量遠心機で3000rpmで5分間遠心しPRP中でペレット化しPPPを調整した。可溶性コラーゲン添加後の血小板の凝集率および程度をTMC-2206の存在下と非存在下とで比較したところ同等であった。これらの実験の結果から、in vitroにおいて試験した濃度ではTMC-2206の血小板への結合がコラーゲン誘発血小板凝集に対し予想外に何の効果もなかったことが実証された。
次に行った実験ではTMC-2206の結合が、in vivoで抗体が血小板に結合する結果起こり得る血小板減少症に繋がるかどうかを評価した(Hansen and Balthasar, J Pharmacol Exp Ther. 298(1):165-71 (2001))。TMC-2206投与後に血小板減少症が起こるかどうかテストするため、ラットにTMC-2206を10mg/kgの用量で投与し、対照としてマウスIgGを腹腔内投与した。注射の前に尾から採血しベースラインの血球計数を行った。薬剤の腹腔内投与後に規定の時点(10, 30, 60 分後および4, 24、72 時間後)に非麻酔ラットの後眼窩部より毛管ウノピペット(Unopipet)を用いて血液試料を採取した。約40μL の血液をACD 5μLを含む試験管に移し、直ちにHemavet血球カウンター(Drew Scientific)で計数した。この実験の結果から、5mg/kgまたは10 mg/kgのTMC-2206投与量で予想外にベースラインの血小板数からの有意な変化がないことが示された。これと対照的に、0.1mg/kgの抗体を別の血小板受容体(αIIb,抗CD41抗体(BD Pharmingen, カリフォルニア))に注入すると血小板減少症が誘発され、抗体投与から15分以内に血小板数がほぼ80%減少した。
<実施例9>
種々のサブタイプを含むコラーゲンへの血小板の接着に対する抗α2インテグリン抗体の効果を調べた。α2β1インテグリンは、唯一のコラーゲン受容体ではないが血小板が発現する唯一のコラーゲン結合性インテグリンである。しかしながら上述したように、特に血小板活性化においてはコラーゲンマトリックスへの強固な接着を促す他のメカニズムが存在する。この実施例では、I型、II型、III型、IV型、およびVI型コラーゲンへの血小板接着を阻害するTMC-2206抗体の能力を、休止血小板および中等度の血小板アゴニストであるアデノシン2リン酸(ADP)により活性化された血小板について評価した。
Immulon II 血小板を、5mM酢酸で泡立てないよう可溶化したI型、II型、III型、およびVI型コラーゲン(Rockland Immunochemical)およびIV型(Sigma, St. Louis,ミズーリ州)でコーティングし、最終濃度1 mg/mLとした。Ca++またはBSAを除き2 mM/Mg++を加えた修正タイロード-ヘペス(Tyrode's-HEPES)緩衝液を用いてウェルを2回洗浄し、Ca++を除き2mM/Mg++および0.35% BSAを含有する100 μL/ウェル Tyrode's-HEPES緩衝液でブロックした。
上記実施例8に記述したように、PRPを含めた血小板の調整にはヒト静脈血を用いた。PRPを室温で1100×gで10分間遠心し、血小板欠乏血漿(PPP)を作製した。その結果得られた血小板ペレットを標識するため、CGS (13mM クエン酸三ナトリウム、120mM 塩化ナトリウム、および30mMブドウ糖、pH7.0)1.0mL 中に静かに再懸濁し、5mL丸底試験管に移し、3μLのCFSEストック溶液 (最終濃度53.7μM)を加えて正確に20分間静かに震盪した。標識した血小板をCGS緩衝液で希釈し、洗浄した。血小板ペレットをCMFTH 緩衝液1mL (5mM HEPES, pH7.3, 12mM 重炭酸ナトリウム, 137mM NaCl, 3mM KCl, 0.3mM NaH2PO4, 5mM ブドウ糖、および0.35% BSA)中に再懸濁し、可能な限り暗所に保存した。洗浄ラット血小板を同様の方法で調整したが、採血時の血小板の活性化を最小限にするため血液は大静脈からPGE1を500ng/mL 含むACDを加えたシリンジに採取した。
CFSE標識血小板を0.35% BSAを含むTyrode's-HEPES緩衝液で2.0×105/μLに希釈した。0.35% BSAを含むTyrode's-HEPES 緩衝液中の20μM ADPに被験阻害物質を様々な濃度で加えたウェルに標識血小板(1.0×107 ウェル)をアプライした。血小板混和液マイクロタイタープレートを室温で550×gで10分間遠心した後暗所で10分間インキュベートした。ウェルをTyrode's-HEPES 緩衝液で洗浄した。Victor2蛍光プレートリーダーを用いて蛍光を測定した。蛍光強度と血小板数の関連を調べるため、標識血小板を0.35% BSAを含むTyrode's-HEPES 緩衝液(Ca++またはADPを含まない)で種々の濃度に希釈し、コラーゲンI型またはIV型でコーティングしたウェルにアプライし、遠心し、CFSE蛍光測定を行った。表25に示すように、TMC-2206はこれらの静置条件下でコラーゲンへの結合を阻害し、EC50は 1.7 nMであった。TMC-2206を用いた同様な実験をラットにおいて行った。ラット血小板のラットコラーゲンI型への結合阻害のEC50値は6.3 nMで、ヒトα2β1の血小板に対する効果と比べ、ラットで約5倍の変化があったことが示唆された。
表25に示すとおり、TMC-2206は筋原繊維性コラーゲンへの血小板接着の強力な阻害剤であるが、筋原繊維以外のコラーゲンIV型への阻害の効力は低い(1-2nMに対し10nM )。ADPの存在下で、筋原繊維性コラーゲンへの結合を阻害する効力に予想外の約10〜20倍の低下が見られ、コラーゲンIV型への接着の防止に当該抗体はもはや有効ではなかった。これらの予期しない観察結果により、TMC-2206およびTMC-2206のエピトープ結合特異性を有する抗体が活性化血小板と筋原繊維性コラーゲンとの相互作用を阻害する活性が低いこと、および血管壁内皮の大部分を占めるコラーゲンのサブタイプであるコラーゲンIV型への結合にほとんどまたは全く作用しない[治療用量の範囲において]ことが示唆された。
<実施例10>
抗α2インテグリン抗体の出血時間に対する効果を調べた。技術分野における当業者には、急性傷害後に血小板インテグリンに対する抗体を投与すると、投与を受けた被験者に出血性障害を起こし凝血までの時間延長につながることが予想された。α2インテグリンに対する抗体がin vivoにおいて出血傾向を増加するかどうかを評価するため、ラットにおいてTMC-2206の出血時間に対する効果を調べた。
出血時間をテストする15分前にラットにTMC-2206を腹腔内または静脈内注射で投与した。非麻酔ラットを拘束器具で固定し、尾の先端から0.8cmの部分をすばやく切り出血させた。その尾を37℃に保ったPBS 30mL を含むビーカーに直ちに挿入した。尾が止血するまでに要した時間を出血時間として記録した。表26に示すように、このデータからTMC-2206の用量10 mg/kgまでの投与が出血時間に対し有意な効果を有しなかったことが実証された。
<実施例11>
抗α2インテグリン抗体の効果を動脈血栓症のモデルにおいて調べた。血小板のα2β1に対し反応性を有する抗体の投与から発現し得るもう1つの出血性障害として、血小板の機能の望ましくない作用に起因して急性動脈損傷後に傷血栓性閉塞が起こるまでの時間が延長するということがある。よって、TMC-2206のような抗α2インテグリン抗体をラットの塩化第二鉄誘発動脈血栓症モデルでテストした。これは抗血栓薬の開発に使用されてきた標準的モデルであり、活性はFeCl3溶液に血管内膜が曝露してから閉塞までの時間の遅延として現れる(Kurz et al., Thromb Res. 60(4):269-80. (1990); Hoekstra et al., J Med Chem. 42(25):5254-65 (1999))。
TMC-2206抗体を1mg/kgから15mg/kgの用量範囲で動脈損傷を誘発する約30分前にラットに尾静脈注射にて投与した。静脈注射用として、高用量に必要な注入量を減らすためほとんどの抗体を4-5mg/mLに濃縮した。投与群は、TMC-2206 1.0、2.5、5.0、10.0、および15mg/kg、対照マウスIgGI(κ)(クローン MOPC21)5.0mg/kg、ウサギポリクローンナル抗vWF抗体(DAKO)または生理食塩水とし、各群動物数は3〜4とした。
体重220〜270グラムのSprague-Dawleyラット(Harlan)をペントバルビタールナトリウム60 mg/kgで麻酔した。ラットが十分な麻酔レベルに達したら、頚動脈を露出し、頚動脈を包み塩化第二鉄溶液(35%)に頚動脈が浸るように4mmの辺に沿って折ったフィルター紙(4mm x 5mm)の上に置いた。35% FeCl3 12μLを5分間アプライし、次にフィルター紙を除去してTransonic Systems Inc.製フローシステム(Ithaca、ニューヨーク州)のフロープローブを頚動脈の周囲に置いた。フローを最大45分間まで測定した。
各群数匹の動物について塩化第二鉄投与後の特定の時点で流量の平均値および標準偏差(SEM)を記録した。TMC-2206のどの投与量においても、15mg/kgの高用量においてさえ、生食対照に比較して閉塞までの時間に差異は見られなかったが、このことからTMC-2206投与による血栓形成への有害作用はないようであることが示された。開始時の流量値は動物間でかなり異なり得るが、閉塞までの時間はTMC-2206投与群においては一貫して塩化第二鉄投与後10〜16分間で、閉塞までの平均時間がそれぞれ12分、14分であった生食群および対照IgG投与群と非常に類似していた。閉塞の予防に関連してテストした唯一の投与は陽性対照のポリクローンナル抗vWF抗体であり、FeCl3を加えてから45分間もの時間、流量のパラメーターの減少が見られないという結果が得られた。
<実施例12>
α2インテグリンサブユニット上のTMC-2206結合部位の性質の特性を決定するエピトープマッピング実験を含め、抗α2インテグリン抗体の結合特性を調べた。標的の結合部位に直接結合し、リガンド結合の直接競合物質として働く抗α2インテグリン抗体は、α2β1インテグリンに結合すると同時に血小板活性化を起こす可能性が予測された。反対に、不活性状態のα2β1インテグリンに結合しインテグリンの活性化を起こさない抗α2インテグリン抗体は、TMC-2206について予期せずに発見された血小板非活性化の性質を有する可能性が考えられた。TMC-2206と同一または類似の結合エピトープを有する抗体は白血球のコラーゲンへの細胞接着を阻害する可能性を有し、そのため有意な療法的有用性を持ち得るが、α2β1インテグリンに結合し活性化させる抗体のように出血性合併症を伴わない可能性がある。
TMC-2206により認識されるエピトープが、リガンド結合性のα2インテグリンサブユニットのIドメイン内に存在するかどうか、あるいはそれが単に無傷のIドメインの存在に依存するのかどうかを検討する実験を行った(Hangan et al., Cancer Res. 56:3142-3149 (1996))。これらの実験用として、Tuckwell et al., J. Cell Sci. 108 (Pt 4):1629-37 (1995)に記載されたプロトコールの修正版を用いてGST-α2 Iドメインの融合蛋白質を作製した。このヒトα2のIドメインは、ヒトα2インテグリンを発現している約106 個のCHO 細胞から単離したmRNAからクローニングした(Symington et al., J Cell Biol. 120(2):523-35.(1993)。細胞をTrizol試薬(Gibco)で溶解しクロロホルムを加えて水性相を抽出してから0.2容量のイソプロパノールを加えてRNAを沈殿させ、それを遠心してリボヌクレアーゼを含まない水に再懸濁した。
ヒトα2のIドメインに隣接するプライマーはSigma-Genosysが合成したものである。そのプライマーはpGEX-2TKベクター(GE Biosciences)にクローニングするためにBamHIおよびEcoRI部位をそれぞれ5'および3'末端に組入れ操作をしてあった。標準Qiagenキットを使用して単一工程の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応にhalphaI F (5'GGGGATCCAGTCCTGATTTTCAGCTCTCAG; SEQ ID NO:117)およびhalphaI R (5'GGGAATTCAACAGTACCTTCAATGCTG; SEQ ID NO:118) プライマー(表 27参照) を用い、成熟α2インテグリンサブユニットのアミノ酸123から346までを増幅し、またBamHI部位をアミノ末端(GSをIドメインの124残基の上流に付加する)に組み込みかつ追加のEFIVTD ヘキサペプチド1個をEcoRI クローニング部位として停止コドンまでに組み込んだ。 アガロースゲル電気泳動により単一のバンドが検出された。Qiagen PCR迅速キットを用いてPCR反応産物を精製した。産物を制限酵素で分解し、標準的分子生物学的手法を用いてpGEX-2TKベクター(Amersham, GE)にクローニングした。形質転換した細菌を挿入片についてスクリーンし、Beckman-Coulter製のCEQシステムを用いて数個のクローンの配列を決定した。クローンの推定アミノ酸配列は閲覧可能なヒトα2のIドメイン(SEQ ID NO:11、表28に記載)と同一であった。正しいDNA挿入片を含む単一のクローンをDH5α細胞(Invitrogen)中で増幅し、BL21エレクトロコンピテント細菌(Invitrogen)に再度形質転換した。
イソプロピルチオ−β−D−ガラクトシド(IPTG)を誘発剤として用い、ヒトα2のIドメインを有するGST融合蛋白質を対数増殖期のBL21細菌に発現させた。誘発から約4時間後に細菌を採取し、50mL円錐形遠心管中で3000RPM でペレット化した。このペレットを1% Triton X-100およびプロテアーゼ阻害剤を含むPBS中に再懸濁した。 このホモジネートを1分間ソニケートして3000 RPM で遠心し、溶菌液から細胞片を除去した。製造元の使用方法に従い遊離グルタチオン20mMを含むTBS (pH8.0)中に溶出したグルタチオン-セファローズビーズ(GE-Amersham)を用い、溶菌液からGST融合蛋白質を精製した。精製したGSTのα2 Iドメインは、過去に報告された(Tuckwell et al., J Cell Sci. 108 (Pt 4):1629-37(1995))ものと同じ特異性でコラーゲンを結合し、特にIV型と比べI型 のコラーゲンに対しより高い親和性を有した。このドメインはELISA法により0.31nMと測定されたKd 値で固定化TMC-2206に結合し、実施例2に記述した直接結合実験から得られた無傷のα2β1インテグリンに結合したTMC-2206で観察された親和性(0.37nM)と同等であった。実施例2に記述したように、可溶性GSTα2 Iドメインの融合蛋白質を、α2β1コーティングプレートへの結合においてEu標識TMC-2206と競合する能力について評価した。可溶性GSTα2 IドメインのKi 値は、同様であることが分かり(0.18nM、これに対し無標識TMC-2206について得られた値は0.28nM)、TMC-2206の結合部位がα2 Iドメイン内に存在し、β1サブユニットの存在を必要としないことが示された。
TMC-2206による結合のカチオン依存性を調べる実験を行った。カチオン依存性により、結合部(binding moiety)がインテグリンの二価のカチオン結合部位(MIDAS)を標的とし、そのためにリガンドの類似物質(mimetic)として作用することが示された。α2へのコラーゲン結合は正常な生理学的状態下ではMg++依存性であるが、Mg++をCa++に置換すると結合は起こらない(Staatz et al., Cell Biol. 108(5):1917-24 (1989); Emsley et al., Cell 101(1):47-56 (2000))。これらの実験用として、GSTのα2 Iドメイン融合蛋白質をReacti-Bind グルタチオン・コーティング・マイクロタイター・プレート(Pierce Biotechnology, Inc. Rockford, イリノイ州)上に固定化し、Eu標識TMC-2206の異なるカチオン条件下(CaおよびMgを含まず、Ca++またはMg++を0.1 μM から3 mMの濃度範囲で含む)で結合する能力を測定した。100μL/ウェルのGSTα2 Iドメイン融合蛋白質(2.0μg/mLの二価のカチオンを含まない結合バッファー: 50mM HEPES, pH7.4, 150mM NaClおよび0.5% Tween-20)を室温で1時間インキュベートしてプレートをコーティングし、カチオンを含まない二価の洗浄バッファーでウェルを4回洗浄した。ブロッキングバッファー(IgGを含まないBSA [Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc., West Grove, ペンシルバニア州]3.0 mg/mLを含有する洗浄バッファー)100μL/ウェルを用い、室温で1時間ウェルをブロックし、二価のカチオンを含まない洗浄バッファーで4回洗浄した後、二価のカチオンを含まない洗浄バッファー(300μL/ウェル)に室温で45分間浸漬した。所望の濃度の二価のカチオンを含む洗浄バッファー(300μL/ウェル)中で30分間ウェルをさらに平衡化し、次に41pM、199pM、345pM または1nM のEu標識TMC-2206または対照抗体の存在下で37℃で1時間インキュベートした。マウスTMC-2206抗体は、全ての条件下で同様の効力で濃度依存的に結合するが、これは そのα2 Iドメインへの結合がカチオン非依存的であり、従ってMIDAS部位が関与しなかったことを示す。Eu標識対照IgG はα2β1インテグリンコーティングのウェルに結合せず、その結合が特異的であることが確認された。
TMC-2206の結合部位を調べる実験をさらに行った。インテグリンリガンドは、二価の金属イオンと最終的なキレート結合を形成する重要な酸を有するのが典型的である(Haas and Plow, Curr. Opin. Cell. Bio. 1994; Lee et al., Structure 1955)が、これは抗α1インテグリン mAb、AQC2(Karpusas et al., J. Mol. Biol. 2003)を含む多くのインテグリン拮抗物質が共通に有する性質で、その酸はCDR-H3中の残基D101から供給される。類推すると、TMC-2206 CDR-H3のD100がそのようなα2 MIDASとの相互作用を提供する可能性がある。従って、1個はD100Aの突然変異、もう1個はD100R の突然変異を有する2個の変異体マウスVHを含む抗体が産生された。次に、それらのEu-TMC-2206結合における競合能力をTMC-2206マウス-ヒトキメラ抗体と比較してKi アッセイにおいて評価した。D100A変異体は0.9μMの濃度まで完全に不活性であり、これはマウス-ヒトキメラTMC-2206抗体のそれと比べ1600倍を超える効力のシフトを意味した。反対に、復帰変異体D100Rは 同様のKi 値(0.41nM compared to 0.52nM)で実証されるようにマウス-ヒトキメラTMC-2206抗体とほぼ同等の効力を示した。これは、MIDASリガンド部位を形成する金属キレート錯体(metal chelation complex)への連結においてTMC-2206のD100残基が果たす役割を否定する根拠を提供するものである。
このヒトα2β1インテグリンIドメインに対するマウスモノクローナル抗体においてTMC-2206の結合特異性を調べるために、エピトープマッピング実験を含むさらなる実験を行った。TMC-2206 はラットα2β1インテグリンと交差反応を起こすが、マウスα2β1インテグリンとは交差反応を起こさない。α2β1インテグリン蛋白質は種の壁を超えて高い相同性を共有するため、抗体結合にとって重要なα2β1中の残基は、当該抗体に交差反応を示す種と示さない種とを比較してその間に存在する差異を特定しうる方法によって特定された(e.g., Champe et al., J. Biol. Chem. 270(3):1388-94 (1995); Karpusas et al., J. Mol. Biol. 327(5):1031-41 (2003); Bonnefoy et al., Blood 101(4):1375-83)。α2インテグリン単独の場合、およびその標的リガンドのコラーゲンと複合体を形成した場合のドメインI の結晶構造が解析されてきた(Emsley et al., J. Biol. Chem. 272(45):28512-7 (1997); Emsley et al., Cell 101(1):47-56 (2000))。Genbankに提供されたヒトα2のI(SEQ ID NO:11)、ラットα2 I (SEQ ID NO:93)、およびマウスα2 I (SEQ ID NO:94)ドメインの配列比較を表 28に示す。この解析から、マウスIドメインがラットおよびヒト両方のα2のIドメインと異なる14個の残基を含むことが分かる(表28に太字下線で示す)。これらの残基はTMC-2206結合エピトープをさらに研究するために使用された。
実施例3に記述したようなPCR法により適切な交差反応性が保持されたことを確認するため、マウスおよびラット両方のGST-α2 I ドメインをGST融合蛋白質としてクローニングした。マウスα2 IドメインをBalb/Cマウス腎から単離したmRNAから、malphaI F (SEQ ID NO:121)およびmalphaI R (SEQ ID NO:122)のプライマーを用いてRT-PCR法でクローニングし、ラットα2 I ドメインをSprague Dawleyラット腎からralphaI F(SEQ ID NO:123)およびralphaI R(SEQ ID NO:124)のプライマーを用いてRT-PCR法でクローニングした。さらに、非ヒト霊長類のα2 Iドメインをアカゲザルおよびカニクイザルから別々に採取した新鮮血を低速遠心して得られた白血球ペレットからクローニングした。次に白血球を液体窒素中で急速凍結した。合計5×106(アカゲザル)および2×106(カニクイザル)個の細胞をTrizol(Invitrogen, Cat#15596-026)1mL中に溶解し、上述のように全RNAを調整した。最終RNAペレットをDEPC処理水50μLで再懸濁した。これは最初の逆転写酵素(RT)の工程のテンプレートの役目を果たした。RT反応は8μL(アカゲザルmRNA用に2.24μg、カニクイザルmRNA用に1.44μg)の細胞性RNA、DNTP 1μL(10mM)、およびヒトIドメイン1μL(2μM)の順方向プライマー(GGGGATCCAGTCCTGATTT; SEQ ID NO:119)からなった。この混合液を65℃で5分間インキュベートし氷で冷却した。次にこのcDNA 5μLをヒト順方向および逆方向プライマー(順方向: GGGGATCCAGTCCTGATTT, SEQ ID NO:119; 逆方向: GGAATTCAACAGTACCTT, SEQ ID NO:120)を用いたPCR増幅反応のテンプレートとして使用した。サイクル時間は、94℃で30秒間、94℃で30秒間、55℃で30秒間を1サイクル、68℃で1分間を40サイクル、68℃で5分間を1サイクル行った。PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動で分離し、バンド(予期したサイズ)をアガロースゲルから直接精製してBamHIおよびEcoRIで分解し、pGEX-2TKベクター内の同一部位にクローニングし、細菌BL21株に導入して形質転換させた。
単一コロニーを分離し、Beckman CEQ 8000 DNAアナライザーを用いて挿入片の配列を決定し、マウスおよびラットα2 Iドメインの同定を検証し、サル2種のヒトに対する配列の相同性を測定した。クローン化したマウス配列は寄託された配列NM_008396.1のIドメイン領域と完全な同一性を示した。同様に、クローン化したラットの配列は、クローン配列が寄託配列よりも残基を6個多く含むことによりラットドメインの残基16〜21間(無傷のα2インテグリンの残基139から144)の領域が正確に翻訳されること以外はGenbank登録のラットインテグリンXM_34156.1と同一であった。このアミノ酸配列ACPSLVはこれらの位置におけるマウス残基と同一であった。
ヌクレオチドのレベルでは2種の霊長類の配列はヒトα2のIドメイン配列に非常に高い相同性を示した。アカゲザルのヌクレオチド配列(SEQ ID NO:104)のα2 Iドメインは、ヒトのヌクレオチド配列と1個のヌクレオチドのみ異なりコドン50内のCTTがCTGに変わっていることを示しているが、両者ともロイシンをコード化するため推定蛋白質配列はヒトと同一であった。カニクイザルのα2 のIドメインヌクレオチド配列(SEQ ID NO:103)は、ヒトAAGがGACに置換されたコドン40以外はヒトと同一であった。この結果この位置でのリジンからアスパラギン酸残基への置換が起こった。しかしさらなる研究の結果、他のカニクイザルがヒトα2のIドメインに100%の相同性を示した事から、このヌクレオチド置換が全部の動物では維持されない多型性によるものであることが判明した(実施例18参照)。
ヒトGST-α2 I ドメインの融合蛋白質について、上述のように融合蛋白質を発現させ精製した。グルタチオン-セファロースカラムから溶出した物質の分析結果から、げっ歯類の融合蛋白質が凝集型を含むことが示された。従って、これらおよび霊長類の融合蛋白質をAkta-Basic FPLCシステム(GE-Amersham)に Sephadex 75 10/30(GE-Amersham)カラム(霊長類用)を使用したFPLC(fast protein liquid chromatography)のサイズ排除クロマトグラフィーでさらに精製し、モノマー分画を得た。次にGST融合蛋白質を、固定化TMC-2206 を結合する能力および固定化ヒトα2β1インテグリンへの固定においてEu標識TMC-2206と競合する能力についてテストした。上記実施例2に記述したようにKi アッセイを行った。TMC-2206への直接結合性を評価するため、TMC-2206を5μg/mL含む重炭酸ナトリウム溶液(pH 9.0)50μLを用いてImmulon 4プレートをコーティングした。プレートを密封し4℃で一晩コーティングを行った。翌朝プレートをTBS溶液で2回洗浄した後、上述のブロッキング溶液200μLで室温で震盪しながら1時間ブロックした。ブロック後、ブロッキング溶液を除去するがウェルは洗浄しなかった。その代わりGST融合蛋白質の連続希釈溶液を作製してウェルに添加し、室温で震盪しながら2時間インキュベートした。次にそのウェルを吸引しTBS洗浄バッファーを室温で5分間アプライした。洗浄手順をさらに2回繰り返してから二次抗体をアプライした。二次抗体の手順はブロッキング緩衝液で1:2000に希釈したAmersham製HRP結合ウサギ抗GST抗体からなった。二次抗体100μLを各ウェルに加え、室温で震盪しながら1.5時間インキュベートした。再びウェルを吸引し洗浄バッファーで3回洗浄してから基質反応液を加えた。基質反応液100μL(TMBキットの1:1希釈液)を各ウェルに加え6分間置いた。反応を0.1M H2SO4 100μLを加えて停止させた。ウェル内の反応を測定し、Molecular Dynamicsプレートリーダーと関連するSoftmaxソフトウェアをそれぞれ使用し吸光分光光度法により定量した。次にPrismソフトウェア(Graphpad, カリフォルニア州)を用いてEC50 値からKd値を推定した。
ラットα2 I のTMC-2206への結合のKd 値に、ヒトα2に比べ3倍の変化が見られた。その一方、マウスα2 I GST融合蛋白質は最高濃度においてもわずかの特異的結合しか示さず、これは親和性の1500倍の変化を意味した(表29参照)。アカゲザルGST-α2 Iはヒトと同等の親和性を示したが、カニクイザルの GST-α2 Iは予想外に1μMaの濃度までTMC-2206に対し検出可能な親和性を示さなかった。このような相対的順位がKi アッセイでも観察された。カニクイザル IドメインGST融合蛋白質にTMC-2206に対する交差反応性がないことから、K40残基がエピトープの決定因子である可能性が示された。GST-ヒトα2 I融合蛋白質(Kd値0.18nMおよびKi値 0.33nM)とクローン化ラットのGST-α2 I(Kd値0.54nMおよびKi値 3.8nM)の親和性の違いは、実施例 9に記述した、ラット新鮮血小板およびヒト血小板のコラーゲンI型への接着に対するTMC-2206の拮抗性を比較したアッセイから得られたEC50値のシフトと整合していた。同様に、カニクイザル I ドメインGSTマウスα2 I融合蛋白質にTMC-2206に対する交差反応性がないことは、この抗体が無傷のマウスα2β1インテグリンに対する交差反応性がないことと一致していた。
さらなる実験において、ヒトおよびラットα2 Iドメインと比較したときのマウスα2 Iドメインのユニークな差異に対応する14個の残基を、標準的な分子生物学的方法を用いたPCRによりクローン化ヒトα2 Iドメイン融合蛋白質中で個別に変異させた(プライマー配列を表30に示す)。個々の細菌のクローンの配列を決定し、正しい変異がIドメインに組み込まれていることを確認した。1個の意図した変異体G101R 変異体は正しいクローンが得られず、それ以上研究は行わなかった。Y93H 変異を作り出すよう設計されたプライマーからは、代りにY93D変異を有するクローンが1セット得られた。両方のY93変異体の評価を行った。残りはすべて正しい配列であった。結果として得られた蛋白質変異体を発現させ、上述したヒトα2 Iドメイン-GST融合蛋白質で用いた方法で精製した。次にこれら変異体の活性について3種類の方法でテストを行った:第一に、突然変異によりリガンド結合を阻害する立体配座の大きな摂動が導入されなかったことを確認するための、種々のコラーゲンへの相対的結合能力のテスト;第二にTMC-2206への見かけの親和力(ELISAで測定される固定化TMC-2206への直接結合);そして第三にKi アッセイで競合リガンドとして作用する能力。Ki および見かけの Kdのデータも表30にまとめて示す。
評価した13個の残基のうち12個が、親和性に軽度に影響を与えてマウス対応残基に変換されていたが、Y93の変化は表31に示すように親和性を顕著に低下させた。このY93Dの変異は、wt IドメインGST融合蛋白質のκd値を3ロッグ上回る濃度においてさえ抗体への結合能を消失させた。マウスヒスチジン(Y93H)のこの変異はTMC-2206抗体に対する見かけの親和性を1/23に低下させた。変異は両方ともGST-IドメインがEu標識抗体とその抗原への結合を拮抗する能力を消失させた。表 31に示すように、マウスH93のYへの変換は、wt ヒトα2 Iドメインに比べて効力が1/200に低下するものの、マウスα2 I ドメインがTMC-2206を結合する能力を付与した。
ヒトα2 Iドメインの閉じた状態(NCBI PDB entry 1AOX)と開いたリガンド結合状態(PDB entry 1DZI)の結晶構造の立体配座の比較から、リガンド結合とともに大きく下降動向することが示された(Emsley et al., J. Biol. Chem. 272:28512(1997)およびCell 100:47(2000)、α7螺旋後方のIドメインの表面にY93が位置することが判明した。従来はリガンド結合に伴う立体配座の変化とは特定されていなかったが、結晶構造を調べた結果、閉じた状態の立体配座でY93の芳香環が蛋白表面から突出するが横に反転して下向きになり開いたリガンド結合状態のIドメインの表面に沿って並ぶことが示された。TMC-2206のα2β1インテグリンへの結合が立体配座の状態に依存するかどうかを調べるため、Iドメインに変異を誘導し、Iドメインの開いた状態に有利になるようにした。E195Wの変異(無処置のα2インテグリンのE318)が開いた立体配座のヒトα2 Iドメインをロックすることが報告されており(Aquilina et al., Eur. J. Biochem. 269(4):1136-44 (2002))、それを利用すると、抗体が活性化に依存する立体配座を認識するかどうかの識別が可能になる。また、結晶学的研究により、E195がαCループに位置する残基R165と埋没した塩橋を形成し、リガンド結合部位を保護する立体配座の中にαCループを維持する役目をすることが示されている(Emsley et al., Cell 100:47 (2000))。このαCループは開いた状態で延長した立体配座をとり、R165および隣接するR166残基が両方ともコラーゲン結合に関与することが仮定されている(Emsley et al., J Biol Chem 272:28512 (1997) and Cell 100:47 (2000); Kapyla et al., J Biol Chem 275:3348 (2000))。従って、E195W、変異を復帰させ閉じた立体配座中にE195Wと形成する塩橋を乱すR165D変異体、再度αC螺旋内の変異を復帰させるN166D変異体、という4個の変異体が構築された。E195W変異体が表31に示すようにKi 値を45倍の低下を生じた。これは、TMC-2206抗体が閉じた立体配座により高い親和性を見せたことを示す。R165DおよびN166Dの変異体は両方とも1 μMの高濃度においてさえIドメインのTMC-2206エピトープへの結合能を消失させており、TMC-2206抗体が閉じた立体配座を認識することが再び示唆された。
突然変異誘発および立体配座に関する研究から、閉じた立体配座のY93がTMC-2206結合に影響を与える可能性、および結合の種特異性に1個の決定基を提供する可能性があると考えられる。多型性のカニクイザル Iドメインで得られた予想外の結果から、K40残基も抗原-TMC-2206相互反応に何らかの役割を果たす可能性が示された。TMC-2206抗体のコンピューターモデリングにより、相補性決定部(CDR)が比較的平坦な結合部位を形成することが示され、この抗体が複数の接点で抗原と接触することが示唆された。CDR中の数個の残基が荷電しているため、閉じた立体配座のY93を囲む荷電残基は開いた立体配座の顕著な位置変化も示し、蛋白質構造データバンク(PDB)に登録された2個の開いた配座異性体および閉じた配座異性体(コンフォーマー)構造からK40、R69、N73、およびQ89と同定された。表31に示すように、これらの残基のうちの3個の残基の荷電をK40D, R69D, およびN73D変異体を作製して復帰させ、4個目をQ89H変異体を作製して改変した。さらに、残基93の3個目の変異体をトリプシンをフェニルアラニンに置換して作製し、チロシンの芳香族としての特性が重要な構造特性であるのかどうか、あるいは活性がチロシンの特性である芳香族ヒドロキシル特性に依存するのかどうかを検討した。この変異のセットの場合、全部を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)精製に供し、グルタチオン-セファロース・アフイニティー・カラムから得た蛋白質調製液のモノマー分画を濃縮した。まずコラーゲン結合を評価することにより各変異体の機能性をテストした。R69D変異体以外は全て、wt ヒトα2 Iドメインに対するのと同様のEC50値でコラーゲンを結合した。その結果R69D についてはこれ以上の研究はしなかった。残りの変異体においては、K40D変異体の導入がTMC-2206エピトープへの結合を競合する能力を消失させた。これはクローン化カニクイザルのIドメインから得られた結果でこの残基(リジンからアスパラギン酸への置換)に多形成が見られたことと一致した。同様に、Y93F変異もEU標識TMC-2206の結合に対する競合能を消失させた。N73DおよびQ89Hは、Ki 値にそれぞれ7.8および15.9倍の低下を示した(表 30)。 変異のデータをまとめると、K40、Y93、R165、およびN166残基がTMC-2206のそのエピトープへの結合の決定基である可能性が示され、またN73および Q89も結合のエネルギーに寄与することが示されている。
これらのデータから、TMC-2206抗体、その誘導体、およびTMC-2206と同じまたは類似のエピトープを認識するTMC-2206のような抗体 (例えば AK7)(例えば実施例13参照)が、α2β1-コラーゲン相互作用の非定型的非リガンド性ミメティック拮抗物質であることを示している。この結論は、i)α2β1インテグリンを介するコラーゲンへの接着を二価カチオン非依存的に阻害する能力、ii)この阻害が決定的な酸性基(MIDASにおけるH-CDR3内のD100など)の相互作用を伴わないこと、iii)この抗体が直接リガンド結合部位から遠位にあるIドメイン表面に結合すること、iv)TMC-2206結合部位は受容体の閉じた立体配座を優先し、アミノ酸残基K40、N73、Q89、Y93、R165、およびN166を包含すること、から裏付られる。以上の結果から、TMC-2206およびTMC-2206に類似した抗体(例えばTMC-2206と同じまたは類似のエピトープを認識する抗体)の結合は、通常同種のコラーゲンリガンドの結合と同時に起こるインテグリンを介する外側から内側への(アウトサイド-イン)シグナル伝達をサポートしない、またこの抗体およびTMC-2206類似抗体の非出血特性に寄与する可能性があるのがこの様態の結合であるといえる。
<実施例13>
他の機能阻害性抗α2インテグリン抗体のTMC-2206との結合を比較するための実験を行った。実施例 12に記述したマッピング研究において得られた結果から、TMC-2206抗体がα2インテグリンのIドメインの閉じた立体配座に結合すると考えられた、および/またはリガンドのミメティックとして作用しなかったことが示された。このような予想外の結果は、実施例 8、9、10、および11に記述した血小板に関する実験の予想外の結果と共に、TMC-2206 エピトープが特に有利であること、およびその機能的特性においてTMC-2206 に類似している抗体が特に有用であることを実証した。本明細書に記述したようにそのような類似抗体を特定するスクリーニング方法を開発し、またそのような方法により抗体を特定した。
抗α2インテグリン抗体を阻害するどの機能が同じような様式で、TMC-2206に結合するかを調べるために、連続した交差競合実験を行った。市販の抗ヒトα2インテグリン抗体を調べるため、上述のようにヒトGST-α2 I融合蛋白質をマイクロタイタープレートに固定化した。テストした抗体は、AK7 (Mazurov et al., Thromb. Haemost. 66(4):494-9 (1991))、P1E6 (Wayner et al., J. Cell Biol. 107(5):1881-91 (1988))、10G11 (Giltay et al., Blood 73(5):1235-41 (1989))、およびA2-11E10 (Bergelson et al., Cell Adhes. Commun. 2(5):455-64 (1994))[Chemicon, (Temecula, カリフォルニア州; カタログ番号CBL477 (AK7); MAB1950 (P1E6); MAB1988 (10G11) および Upstate (Waltham, マサチューセッツ州; A2-IIE10, カタログ番号 05-227)からそれぞれ市販]であった。抗体は、エピトープマッピング実験に使用した同ロットの血小板α2β1コーティング・マイクロタイター・プレートと共に、そのEu-標識TMC-2206の結合を拮抗する能力についてテストした。実験のもう1つのセットにおいて、抗体が新しく単離した休止血小板のコラーゲンI型への結合を拮抗する能力を調べた。このように、ヒトα2インテグリンに対する各種の抗体が、Eu-標識TMC-2206抗体の血小板α2β1コーティング・マイクロタイター・プレートへの結合を拮抗する能力をKi 値として測定し、静的条件下における休止血小板のコラーゲンI型への結合を拮抗する能力をEC50 値として測定した。表32に示した結果から、AK7 抗体がTMC-2206の有効な競合物質であることが実証された。クローン化10G11はTMC-2206に明らかな二相性の競合を示し、それが単なる競合的拮抗物質として作用したのではないことを示唆した。A2-IIE10は血小板接着の阻害においてTMC-2206と比べ10倍の変化を示したが、Eu-標識TMC-2206と競合する能力では約350倍の変化を示し、この2種の抗体間に直接のコンコーダンスがないことが再び示された。P1E6 はいずれのアッセイでも全く効果を示さず、それが活性化された立体配座を認識することが示された。
これらのデータから、全ての機能阻害性抗体が同じ形式でα2インテグリンに結合するのではないことが初めて実証され、さらにエピトープ特異性においてTMC-2206に類似し同様の機能阻害活性を有する抗体の新規のサブグループを同定する方法が実証された。これらのデータから、TMC-2206およびエピトープ特異性がTMC-2206に類似した抗体を含む、抗α2抗体のこの新規のサブグループが、in vivoにおける出血性合併症の予想外の欠如、および/または血小板α2β1インテグリンの活性化の欠如という特性を示すことも実証された。エピトープ特異性、機能阻害活性、および有利な点(例えば血小板を活性化しないこと)は、全ての抗ヒトα2β1機能阻害性抗体の特性とは言えず、むしろTMC-2206およびTMC-2206誘導体および/または変異体など本明細書に記述の方法で特定および/または選択される類似抗体を含む新規の抗体のサブグループの新規の特性と言える。
α2 Iドメインに結合するすべての機能阻害性抗体が同一または類似(例えばオーバーラップ)の方法でTMC-2206 エピトープに結合するのではないことが実証されたため、マウスの有効性試験で使用したサロゲート抗体がTMC-2206に類似した性質を有しているかどうかを調べる実験を行った。Ha1/29 抗体がラットおよびマウスα2インテグリンに交差反応を起こし、TMC-2206 抗体がヒトおよびラットα2インテグリンの両方に結合するため、ラットGST融合蛋白質を用いてその2種の抗体がオーバーラップ部位(例えばエピトープ特異性の共有)に結合するかどうかを調べた。この目的でラットGST-α2 Iドメイン融合蛋白質をReacti-Bind グルタチオン・コーティング・マイクロタイター・プレート(Pierce Biotechnology, Inc. Rockford, イリノイ州)に固定化した。まず始めに、ヒトおよびラット由来固定化GST-α2 Iドメインに対するEu-TMC-2206の37℃における結合のKd 値を、実施例2に記述した方法で測定した。結合および非結合Eu-TMC-2206を比較したスキャッチャード(Scatchard)分析から、Kd 値がヒトα2 Iドメインでは0.2 nM、ラットα2 Iドメインでは1.3 nM(1/6に低下)であることが示された。次に、様々な濃度の競合抗体の存在下でEu-標識TMC-2206がラットα2 Iドメインに結合する能力を実施例 2に記述したように1.3 nMのKd.値を用いて観察されたEC50値から Ki 値を導いて評価した。HMα2抗体(Miyake et al., Eur. J. Immunol. 24:2000-2005 (1994))ではなく、Ha1/29(Mendrick and Kelly, Lab Invest. 69(6):690-702 (1993))がEu-TMC-2206結合の有効な拮抗物質であり、Ha1/29抗体がTMC-2206結合部位と類似(例えばオーバーラップ)の部位に結合することが示された。
<実施例14>
hVH14.0γ4重鎖(SEQ ID NO:174)またはhVH12.0 γ4 重鎖(SEQ ID NO:176)およびhVL 10.0Q軽鎖(SEQ ID NO:178)を有する代表的なIgG4抗体において別の実験を行った。この実験では、これらのIgG4 抗体の結合が血小板の活性化につながるかどうかをコラーゲン誘発血小板凝集に対する効果として測定し評価した。最初の自由に流れる血液を3.0mL捨てた後、静脈穿刺により肘前静脈から血液試料を3.8%クエン酸ナトリウムを含む真空管に採取した。全ての抗体を生理食塩水で希釈し最終濃度140μg/mlとした。各使い捨てキュベット(使い捨て電極アセンブリを含む)に分取しクエン酸全血0.5ml および生理食塩水または抗体溶液0.5ml を加えアリコートを作製した。各キュベットを血小板凝集計(Model 591A, Chrono-Log, Havertown, ペンシルバニア州)の加温ウェル内で37℃まで5分間事前加温し、次に反応ウェルに入れ、ベースラインをセットし、生理食塩水またはコラーゲン(1 mg/ml; ウマI型, Chrono-Log)20μLを加えて凝集反応を開始させた。凝集中、電極の露出表面に血小板の集積が形成されるためインピーダンスが増加した。6分間にわたりデータ収集を行いインピーダンスの変化(ΔΩ, オーム)をチャート記録計(Model 707, Chrono-Log)で記録した。
そのデータ(表 33) をクラスカル・ワリス(Kruskal-Wallis)検定で解析し、4群のそれぞれ(生理食塩水またはコラーゲン)の細胞数中央値が同等であるという仮説を検定し、P-値が0.05以下の場合仮説を棄却(信頼度95%)することとした。生理食塩水群(P-値=0.148)では、アイソタイプ対照、2種のヒト化抗体のいずれも、生理食塩水陰性対照に比べてヒト血小板凝集を誘発しなかった。コラーゲン群(P-値=0.201)では、アイソタイプ対照、2種のヒト化抗体のどちらも、生理食塩水陰性対照に比べてコラーゲン誘発血小板凝集を阻害しなかった。この実験および実施例8の結果から、in vitroのテストでは全てのテスト濃度においてTMC-2206および両方のヒト化IgG4変異抗体の結合がコラーゲン誘発血小板凝集に対し何の効果も及ぼさないことが示された。
<実施例15>
実施例2に概要を記述した手順に従い、CHO-α2細胞、HT1080(ヒト線維肉腫)細胞、およびヒト血小板を用いて、ヒト化TMC-2206 (hIgG4/κVH12.0/VL10.0Q)をα2β1インテグリンを介するコラーゲンI型への細胞接着におけるその阻害能力においてテストした。ヒト化TMC-2206は、TMC-2206と同等のEC50値を示し(表 34)コラーゲンへの細胞結合の強力な阻害剤であった。
<実施例16>
ヒト化TMC-2206をその固定化ヒトα1β1を結合する能力についてELISA形式アッセイで評価した。ヒトα1β1インテグリン(Chemicon International)をコーティングバッファー(25mM Tris, pH7.5, 150mM NaCl, 1mM MgCl2)で最終濃度0.5μg/mlに希釈した。96穴イムノプレートをα1β1 50ng/wellでコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。そのプレートを洗浄バッファー(Wash Buffer)(50mM Tris, pH7.5, 150mM NaCl, 2mM MgCl2, 0.5% Tween-20)で3回洗浄し、5% w/v/ 脱脂乳を含む洗浄バッファー中で室温で1時間ブロックした。ヒト化TMC-2206、ヒトIgG4/κ (アイソタイプ対照)、マウス抗ヒトアルファ1(FB-12, Chemicon International)抗体を結合バッファー(Binding Buffer)(0.1mg/ml BSA, IgG を含まない洗浄バッファー)で連続希釈した。50μL/ウェルの希釈抗体溶液をα1β1コーティングプレートに加え、室温で1時間インキュベートした後3回洗浄した。ヤギ抗ヒトIgGアルカリホスファターゼ複合体(二次抗体; Jackson ImmunoResearch Laboratories, West Grove, ペンシルバニア州)をアイソタイプ対照およびヒト化TMC-2206を含むウェルに加え、ヤギ抗マウスIgGアルカリホスファターゼ複合体(Sigma)をFB-12を含むウェルに加えた。室温における1時間のインキュベート後、プレートを3回洗浄し、基質溶液(1mg/ml 4-ニトロフェニルホスフェート, 0.1M ジエタノールアミン, 5mM MgCl2, pH9.8)中で20分間インキュベートし、NaOHで反応を停止した。Softmax Proソフトウェア使用のSpectramax Plusプレートリーダーを用いて吸光度(405nm)を測定した。TMC-2206と同様に、ヒト化TMC-2206およびIgG4/κ抗体はα1β1に結合しなかった。対照抗α1β1抗体(FB-12)はα1β1に結合し、EC50値は0.79±0.15nMであった。
<実施例17>
TMC-2206およびヒト化TMC-2206モノクローナル抗体(MAb)の固定化α2β1への結合のKDおよびKi 値を競合結合アッセイを用いて測定した。96穴マイクロタイタープレートのウェルを血小板α2β1インテグリン (ヒト血小板α2β1でカスタムコーティング、GTI Inc., ウィスコンシン州)でコーティングしてから、脱脂乳でブロックした。ヒト化TMC-2206抗体をEu-N1-ITC試薬で標識し、約2mgをリン酸緩衝生理食塩水(PBS; 1.47mM KH2PO4, 8.1mM Na2HPO4; pH7.4, 138mM NaClおよび2.67mM KCI)で懸濁し、それに対して透析した。洗浄済みのMicroSep濃縮器[30-kDa カットオフ; Pall Life Sciences、JA-20ローター(Beckman Instruments, Inc.]内で9500rpm (7000xg)、4℃で20分間濃縮した後、抗体をPBS、100mM NaHCO3, pH9.3で4.0mg/mLに調整した。MAb/重炭酸ナトリウム混合液(0.250mL)をEu3+ (Eu-N1-ITC; Perkin Elmer Life Sciences)でキレートしたN1-(p-イソチオシアナトベンジル)-ジエチレントリアミン-N1,N2,N3,N3-四酢酸を0.2mg 含むバイアルに加え静かに混合し、撹拌せずに4℃で一晩インキュベートした。 泳動バッファー(50mM Tris, pH7.4および138mM NaCl)で事前に平衡化したPD-10カラム(GE Biosciences, Piscataway, ニュージャージー州)に標識抗体混合液をアプライした。分画(0.5mL) を採取し、SpectraMax 384 吸光プレートリーダーを用いて総蛋白(Bradford試薬; Bio-Rad Laboratories, Hercules, カリフォルニア州)についてアッセイを行い、DELFIA エンハンスメント溶液 (Perkin-Elmer)で1:10.000 に希釈後、Victor2マルチラベル・プレート・リーダー(Perkin Elmer)を用いて時間分解蛍光 (TRF) アッセイによりユーロピウム(Eu)を測定した。蛋白およびユーロピウムの両者に陽性を示した分画をプールして新しいPD-10カラムにアプライし、試料を回収し総蛋白およびユーロピウム含量をユーロピウム標準液(Perkin-Elmer)に対して較正したTRFにより測定し、Fluorと蛋白の比率を求めた。次に、Eu-ヒト化-2206を10μL/ウェルの容量でブロックしたα2β1-インテグリン・マイクロタイター・プレートにアプライした。密封したプレートを37℃で結合が平衡に達するまで1時間インキュベートした後、試料2 μL を各ウェルからDELFIA エンハンスメント溶液(100μL/ウェル)を含む新しいウェルに移し、遊離(非結合)標識を測定した。空にしたウェルにエンハンスメント溶液 (100μL/ウェル)を加え、結合標識を測定した。プレートを震盪し(Titer Plate Shaker で速度設定を5として室温で5分間)、Victor2マルチラベル・プレート・リーダーを用いて時間分解蛍光 (TRF) 強度を測定した。Scatchard分析によりKd値を算出した。
異なる濃度の非標識TMC-2206抗体または競合物質としてのキメラ抗体の存在下で蛍光標識Eu-TMC-2206100 100 pMを用いた競合アッセイでKi 値を測定することにより、前述と同様のアッセイ系を用いて固定化α2β1インテグリンに対する相対的結合効力を分析した。次に被験抗体の組合せをα2β1インテグリン・コーティング・ウェルにアプライし、10-11から10-7M の濃度範囲にわたり規定の時点においてテストし、結合Eu-TMC-2206を測定した。阻害曲線をPrism ソフトウェア(GraphPad, Inc.)を用いて“one site competition”(一部位競合)モデルに当てはめてIC50(50%阻害)値を求め、Cheng およびPrusoff(1973)の等式を用いてをKi(阻害係数)を算出し、上記からKd (解離定数)値を求めた。
TMC-2206およびヒト化TMC-2206のKDおよびKi 値は互いの数値の2倍の範囲内にあった(表35)。従って、TMC-2206およびヒト化TMC-2206の固定化 α2β1に対する結合親和性は同等であった。
α2 Iドメインへの解離速度定数および結合速度定数(それぞれkdおよび ka(koff および konとしても知られる))を測定するため、TMC-2206およびヒト化TMC-2206を表面プラズモン共鳴(SPR)分析法に供した。高分子の相互作用の特性を調べる方法であるSPRは、過渡波現象を利用してセンサー表面に非常に近い屈折率の微妙な変化を精密に測定する光学的方法である。溶液中の抗原(例えば融合蛋白質)とそのMAb 受容体(センサーチップの表面に固定化)の結合は屈折率を変化させる。この相互作用をリアルタイムでモニターし、結合抗原の量および結合速度定数、解離速度定数を高精度で測定する事が可能である。平衡解離定数はKD = kd/ka = koff/konから容易に算出することができる。ヒトα2 I ドメインのクローニングおよび発現されたGST-ヒトα2 I ドメイン融合蛋白質の精製は実施例 12に記述した。研究グレードのCM5センサーチップ付きBiacore 2000 光学センサー(Biacore Life Sciences, Uppsala, スウェーデン)を用い20℃で分析を行い、泳動バッファー(50mM HEPES, 150mM NaCl, 0.25mM MgCl2, 0.25mM CaCl2, 0.5% Tween-20, 0.1mg/ml BSA, pH7.4)で平衡化した。TMC-2206をセンサーチップで捕捉するためチップの2個のフローセル表面を抗マウスIgGでコーティングし、他のフローセル2個をヒト化TMC-2206を捕捉するためにプロテインAでコーティングした。抗原(GST-ヒト-α2 Iドメイン融合蛋白質)の表面連結抗マウスIgGへの結合の各サイクルは3段階で行われた。第一段階では、TMC-2206が抗マウス表面のうち1個に捕捉され、ヒト化TMC-2206がプロテインA表面のうち1個に捕捉される。[他の2個の表面は(1個は抗マウス、もう1個はプロテインA)は分析の比較用標準の役目を果たした。] 第二段階では、GST-ヒト-α2 Iドメイン融合蛋白質を4個の表面全域にわたって注入した。比較用標準表面から得られた反応の数値(抗原と泳動バッファーとで屈折率が不一致のため)を反応表面から得られた反応の数値から減じた。第三段階においては、別の結合サイクルに使
用できるように表面から抗原/抗体複合体(コンジュゲート)を剥離した。GST-ヒト-α2 Iドメイン融合蛋白質の最高濃度は41 nMであった。抗原溶液を50μl/分で5分間表面に流し、表面から抗原が解離するのを6分間モニターした。GST-ヒト-α2 Iドメイン融合蛋白質のTMC-2206およびヒト化TMC-2206への結合の速度定数は、測定の結果同等であることが分かった(表37)。
競合結合アッセイおよびSPR分析の両方により、ヒト化のプロセスがヒト化TMC-2206のヒトα2 Iドメインへの結合の親和性に影響を与えなかったことが確認された。
<実施例18>
ヒト化TMC-2206 に対する種間の交差反応を生物化学的分析手法により評価した。第1番目の実験では、異なる種由来のTMC-2206、ヒト化TMC-2206、およびGST-α2- I-ドメイン融合蛋白質の結合親和性(Ki値)を、Eu標識ヒト化TMC-2206のα2β1-コーティングプレートに対する抗体競合結合により測定した(実施例17)。ヒト、アカゲザル、ラット、およびマウスα2 Iドメインのクローン化については実施例 12に記述した。カニクイザルおよび追加のアカゲザルのα2 Iドメインを、皮膚組織(MediCorp, Inc., Montreal, ケベック州)から抽出した全RNA由来のcDNAからクローン化した。ラットα2 I のヒト化TMC-2206への結合のKi 値は、ヒトα2 I ドメインと比べ1/9に低下した。これに比べ、マウスα2 I-GST融合蛋白質では最高濃度(4μM; 表 36)においてわずかな特異的結合が見られたのみであった。[GST融合蛋白質陰性対照、IgG4/k アイソタイプ陰性対照のいずれも4 μM濃度においては競合結合効果を示さなかった。] アカゲザル、カニクイザルおよびヒトα2 I-GST融合蛋白質は、同等の結合を示した。従って、これら4種が全てヒト化TMC-2206への交差反応性を有することが実証された。
第二の実験においては、TMC-2206ならびにヒト化TMC-2206、および特定のα2 I-GST融合蛋白質の平衡結合の速度および定数を表面プラズモン共鳴(SPR)分析により評価した(表37)。親型およびヒト化TMC-2206のヒトおよびラットα2 Iドメインについて得られた結合速度定数および平衡定数は同等であった。また、ヒト化TMC-2206のヒトおよびカニクイザルα2 I ドメインに対する速度定数は同等であった。ヒト化TMC-2206はα2 I-GST融合蛋白質の濃度4.0μMにおいてはマウスα2 I ドメインには結合しなかった。GST-カニクイザル-α2-Iドメイン融合蛋白質がヒト化TMC-2206に同等に結合することは、1 μMまでの濃度では競合結合が見られなかったという実施例12の結果(表 29)とは一致しなかった(表29)。しかしサルより抽出したmRNA(Medicorp Inc.)由来の相補的DNA(cDNA)集団において実施したDNA配列の解析により、ヒトα2 I ドメインとの比較で単一のアミノ酸(40位)における多型が判明した。この多型は全部の動物で維持されるのではなく、カニクイザル1頭およびアカゲザル 1頭が異型性を示したが、他の動物はヒトα2 Iドメインに対し100%の相同性を示した。本実施例において競合結合および SPR分析により調べたGST-カニクイザル-α2-I-ドメインは、ヒトα2 Iドメインと同一の配列をコード化した。これらの生化学的実験により、ヒト化TMC-2206がヒト、アカゲザル、カニクイザル、およびラット由来のα2 Iドメインと交差反応を起こすが、マウスα2 Iドメインとは起こさないことが示された。ヒト化TMC-2206が異種の血液細胞と交差反応を起こすことを確認するために、in vitro 細胞交差反応性実験(実施例20)を行った。
<実施例19>
ヒト化TMC-2206を異なる種から得た血液細胞と結合させ、フローサイトメトリーにより交差反応性の種による差異をさらに評価した。第一回目の実験では、ヒト化TMC-2206 の異種の血小板に対する交差反応性を評価した。ヒトドナー、ラット、アカゲザル、およびカニクイザルから静脈穿刺により血液を得た。ヒト血液を3.8%クエン酸ナトリウム中に採取し、アカゲザルおよびカニクイザルの血液は10 mM EDTA中に、そしてラットの血液はヘパリン中に採取した。霊長類全血(ヒト、アカゲザル、カニクイザル)をヒト化TMC-2206と共に最終濃度140 μg/mlとして室温で10分間インキュベートし、次にマウス抗ヒトIgG4-FITCP結合モノクローナル抗体(Clone HP6023; Southern Biotech)と共に10分間インキュベートした後、蛍光分子と結合させた種特異的な血小板マーカー抗体と共にインキュベートした。ヒト血小板はPE結合マウス抗ヒトCD42b (BD Biosciences)を用いて同定し、アカゲザル/カニクイザル血小板はPE結合マウス抗ヒトCD41a(BD Biosciences)で同定した。ラット全血をAlexa-488(Alexa Fluor 488 プロテイン標識キット, A10235, 分子プローブ)と結合させたヒト化TMC-2206 500 μg/mlと共に室温で10分間インキュベートした後、PE-結合-ハムスター-抗マウス-CD61 (ラット血小板マーカー、BD Biosciences)と共にインキュベートした。全ての試料を1回洗浄し、燐酸緩衝生理食塩水に懸濁し、次にフローサイトメトリー分析に供した。[血小板をそれより大きい赤血球および白血球からさらに識別するため前方散乱及び側方散乱ゲート両方とも対数目盛にセットした。] ヒト化TMC-2206 は4種全部の血小板と結合した(表 38)。
第二回目の実験では、ヒト化TMC-2206の異種の白血球に対する交差反応性を評価した。同じ4種の動物から血液を採取したが、ヒト血液は10 mM EDTA中に採血した。Alexa 488に結合したヒト化TMC-2206を全血に加えて(最終濃度225-400μg/mL)から10分後に、室温でマーカー抗体と共に30分間インキュベートした。抗CD45抗体を使用して全ての白血球を染色した[ヒト白血球用にPE-Cy5-結合-マウス-抗-ヒト(クローンH130, BD Biosciences); アカゲザルおよびカニクイザル白血球用に PE-Cy5-結合マウス抗-ヒト (クローンTu116, BD Biosciences); およびラット白血球用にPE-Cy5-結合-マウス-抗-ラット(BD Biosciences)]。マーカー抗体を使用して血小板を染色した: ヒト血小板用に PE-Cy5-結合-マウス-抗-ヒト-CD42b (BD Biosciences); アカゲザルおよびカニクイザル血小板用にR-PE-結合-マウス-抗-ヒト-CD41a(BD Biosciences); およびラット血小板用にR-PE-結合-ハムスター-抗-マウス-CD61(BD Biosciences]。水1ミリリットルを反応液(約250 μl)に加え、室温で5分間インキュベートし赤血球を溶血した後、PBSを2 mL加え(浸透圧を白血球溶血を防止するレベルまで上げるため)、遠心した。細胞ペレットをPBS 0.5 mlに再懸濁し、フローサイトメトリーに供した。[顆粒球、単球、およびリンパ球を識別するため、側方散乱チャネルを線形目盛にセットし、CD45 チャネルを対数目盛にセットした。程度の異なる内因性の血小板活性化により血小板-白血球の微小凝集体が形成されるため、血小板に結合していない白血球(α2β1インテグリンを構成的に発現する)を同定することが重要であった。従って、ヒト化TMC-2206との結合についてはCD45+/CD41a-、CD45+/CD42b-、またはCD45+/CD61-である細胞のみを評価した。ヒト化TMC-2206は、4種の動物すべてから得たリンパ球、単球、および顆粒球に結合した(表38)。
これらの結果は、ヒト化TMC-2206 がヒト、アカゲザル、カニクイザル、およびラットのGST-α2-Iドメイン融合蛋白質交差反応を起こした (KiおよびSPR分析による)という実施例19で得られた結果と一致した。ヒト化TMC-2206に結合するラット血液細胞の割合は霊長類の血液細胞と比べ比較的低かった。先に行った3件の実験(実施例9、19、および12)において、親型およびヒト化TMC-2206抗体のラットα2インテグリンサブユニットに対する結合親和性が、ヒトα21サブユニットに対する結合親和性より1オーダー分低いことが示された。最初の実験の実施例9において、ラット血小板およびヒト血小板のラットI型コラーゲンへの結合を阻害するTMC-2206の結合のEC50値はそれぞれ6.3nMおよび1.7nMであった。2回目の実験の実施例19(表38)において、ヒト化TMC-2206の固定化α2β1 に対する結合を阻害する競合物質GST-ヒト-α2-I ドメインおよびGST-ラット-α2-I ドメイン融合蛋白質のKi値は、それぞれ0.57nMおよび5.23nMであった。同様に、3回目の実験の実施例12 (表29)において、α2β1に対するTMC-2206の結合のGST-ヒト-α2-I ドメインおよびGST-ラット-α2-Iドメイン融合蛋白質による阻害のKi値は、それぞれ0.33 nMおよび3.8 nMであった。さらに、血小板および白血球の実験の両方において、フローサイトメトリー分析に供する前に全ての細胞試料を洗浄したが、親和性の低いラットα2サブユニットから洗い流されたヒト化TMC-2206が霊長類α2サブユニットと比べて多かった。これまでの結果と合わせると、このことは「陽性」と数えられるラット血液細胞の割合が霊長類血液細胞よりも比較的低いという結果が導かれた(α2β1受容体密度を同等と仮定する)。要約すると、テストした全ての動物種(ヒト、アカゲザル、カニクイザル、およびラット)の血小板、リンパ球、単球、および顆粒球は、全てヒト化TMC-2206に結合した。
<実施例20>
別の実験により、ヒト化TMC-2206のα2β1への結合が血小板の活性化を起こすかどうかをフローサイトメトリーで測定し評価した。血小板の活性化は、P-セレクチンの上方制御またはGPIIbIIIa(αIIbβ3)インテグリンの活性化のいずれかで測定した。最初の自由に流れる血液を3.0 mL捨てた後、静脈穿刺により肘前静脈から血液試料を3.8%クエン酸ナトリウムを含む真空管に採取した。全血をTBS(pH7.4)で1:10に希釈し、生理食塩水、IgG4/κアイソタイプ対照(最終濃度132 μg/ml)、またはヒト化TMC-2206 (最終濃度144μg/ml)のいずれかと共に室温で10分間インキュベートした。血小板活性化を測定するため、トロンビン受容体活性化-ペプチド-6(TRAP-6, 最終濃度10μM; AnaSpec Inc., San Jose, カリフォルニア州)またはアデノシン二リン酸(ADP, 最終濃度20μM; Sigma)のいずれかを試料に加え、室温で5分間インキュベートした。フローサイトメトリー用の処理として、細胞を以下のマーカー抗体とインキュベートした: 血小板染色用のPE-Cy5-結合マウス抗ヒトCD42b(BD Biosciences)、Pセレクチン染色用のPE-結合マウス抗ヒトCD62P (BD Biosciences)、および活性化GPIIbIIIa (GPIIbIIIaインテグリンの活性立体配座に結合するPAC-1)染色用FITC-結合PAC-1(BD Biosciences)。各試料の抽出誤差は5%未満(95%信頼水準)であった。
最初の実験ではヒト化TMC-2206の結合が血小板活性化をもたらすかどうかをP-セレクチンの上方制御の測定で評価した。活性化をP-セレクチンマーカー(CD62P)で染色された血小板(CD42b+)のパーセント値で採点した(表39)。分散分析(ANOVA)(一元配置、95%信頼区間)により、生理食塩水、IgG4/κ、またはヒト化TMC-2206のいずれかでインキュベートした血小板のP-セレクチンの発現に統計学的差がないことが分かった。従ってヒト化TMC-2206の血小板への結合は血小板の活性化を誘発しなかった。並列して行った実験において、TRAP-6はP-セレクチンの発現を有意に増加をさせた。ヒト化TMC-2206の添加はTRAP-6誘発P-セレクチン発現に対し、生理食塩水またはアイソタイプ対照と比較して統計学的に有意な影響を与えなかった(P-0.96; 一元配置ANOVA, 95%信頼区間)。従って、ヒト化TMC-2206の結合はTRAP-6が誘発する血小板の活性化を阻害しなかった。
次に行った実験では、アゴニストADPの存在下または非存在下でインキュベートした後のP-セレクチンの上方制御を評価した(P-セレクチンを発現する血小板のパーセント値、表40)。前回同様に、ヒト化TMC-2206、IgG4/k、および生理食塩水とインキュベートした血小板上のP-セレクチンの発現は同等であった―従ってヒト化TMC-2206は血小板活性化を誘発しなかった。ADP誘発P-セレクチン発現は、TRAP-6による誘発と同等であった。これらはADPでインキュベート後にIgG4/κまたはヒト化TMC-2206とインキュベートした血小板がP-セレクチン発現をさらに増加させたと思われる。しかしP-セレクチンの上方制御の増加がアイソタイプ対照およびヒト化TMC-2206の両方で同等であることから、ヒト化TMC-2206の血小板への結合が血小板活性化を誘発しないことが再び示された。同時に、IgG4/κまたはヒト化TMC-2206とインキュベートしたADP誘発血小板のP-セレクチン発現は低下しなかった。従って、ヒト化TMC-2206の結合がADP誘発血小板活性化を阻害しないことが分かった。
次に行った実験で、アゴニストTRAP-6またはADPの存在下または非存在下でインキュベートした後のGPIIbIIIa活性化を、PAC-1マーカー抗体(GPIIbIIIaの活性立体配座に結合する; 表41)に結合した血小板のパーセント値で評価した。ヒト化TMC-2206、IgG4/k、および生理食塩水とインキュベートした血小板上の活性化GPIIbIIIaの発現レベルは同等であった―ヒト化TMC-2206は血小板活性化を誘発しなかった。IgG4/kおよびヒト化TMC-2206は両方とも、TRAP-6誘発の活性化もADP誘発の活性化も阻害しなかった。
要約すると、ヒト化TMC-2206は血小板活性化を誘発せず(P-セレクチンの上方制御もGPIIbIIIaの活性化も増加せず)、アゴニスト(TRAP-6、ADP)誘発血小板活性化の阻害もしなかった。このデータは、ヒト化TMC-2206が血小板凝集の誘発もコラーゲン誘発凝集の阻害もしなかったことを示した血小板凝集実験(実施例15、表34)を補足するものである。
<実施例21>
プロトロンビン時間(PT)および活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を測定することにより、ヒト化TMC-2206 を内因性および外因性血液凝固経路における効果について評価した。PTおよびaPTTAの測定には認定された凍結乾燥ヒト血漿調製品(Citrex I, Bio/Data Corporation, Horsham, ペンシルバニア州)を使用した。ヒト化TMC-2206 をその血漿に加え、最終濃度179、214、および286μg/mL(それぞれ抗体単回投与量12.5、15.0、および20.0mg/kgの最大血中濃度(Cmax)に対応) としてから試料を凝集試験に供した。PTおよび aPTTA共に測定の標準的手法に従い、BBLフィブロメーター (BD, Franklin Lakes, ニュージャージー州)で凝集時間を測定した。表42 に6回(PT 3回およびaPTT 3回)行った一連の実験データをまとめた。各実験に生理食塩水対照群を設定した。スチューデントt検定による各ペア組合せ(ヒト化TMC-2206および生理食塩水)の統計解析の結果、各実験の平均凝集時間についてヒト化TMC-2206と生理食塩水の間に統計学的有意差がないことが示された。(個別に算出されるP値が0.05未満の場合、凝集時間が異なるという仮説は信頼水準95%で棄却される)よってヒト化TMC-2206はPTおよび aPTTで測定される凝集に影響を与えなかった。
<実施例22>
ヒト化TMC-2206のラット出血時間への効果を評価した。Sprague-Dawleyラット (190-200 g)に生理食塩水、ヘパリン(0.6mg/kg、陽性対象)、またはヒト化TMC-2206を5および15mg/kgの用量で静脈注射(尾静脈)で投与し、1時間後に標準化した尾先端(0.5mm)の切断を各尾について行った。出血時間観察中、ラットは無麻酔覚醒状態であった。各ラットの切断した尾先端を直ちに37℃の生理食塩水を含む試験管に2 cm深さに浸漬した。15秒間止血が持続する期間が開始するまでに要した時間を出血時間とした。最大カットオフ時間として20分間を採用した。出血量は試験管に回収された血液の溶血後に放出されたヘモグロビン量(分光光度測定法による)として記録した。ヒト化TMC-2206はテストした両用量とも、出血時間に対し未処置および生理食塩水対照群に比べ統計学的に有意な効果を示さなかった(表43; P = 0.08, 一元配置ANOVA分析)。ヒト化TMC-2206はテストした両用量とも、出血量に対し未処置対照および生理食塩水対照群に比べ統計学的に有意な効果を示さなかった(P = 0.22, 一元配置ANOVA分析)。従って、ヒト化TMC-2206は in vivo において出血時間にも出血量にも影響を与えない。
<実施例23>
ヒト化TMC-2206がin vivoにおいて検出可能な白血球の活性化を起こすかどうかを調べる手段として、ヒト化TMC-2206の単回投与がラットの循環サイトカイン濃度に与える効果を調べる実験を行った。生理食塩水(陰性対照)、ヒトIgG4/κアイソタイプ対照(15mg/kg)、ヒト化TMC-2206(15mg/kg)またはリポポリサッカライド(LPS、炎症の陽性対照; 0.75mg/kg)をラットに静脈内投与した。非投与ラットを未処置対照として使用した。注射後2、4、6、および8時間後に伏在静脈から血液試料を採取して処理し、血漿を得た。血漿試料をビーズ結合マルチプレックス免疫アッセイ(MIA; Linco Diagnostics, St. Charles, ミズーリ州)に供し、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-12、GM-CSF、IFN-γ、およびTNF-α濃度を測定した(表 44; pg/mL, 平均値±SEM)。MIA は数個の個別抗原/抗体結合反応を分光的に明確に識別されるマイクロスフェアのセット上に組み合わせることにより、同一試料容量(25μl)中の被検物質(100まで)の同時検出を行うものである。抗原により異なるがMIAの検出感度は1.5-50pg/mlである。各サイトカインのデータセットを二元配置ANOVA分析(信頼区間95%)に供し、個々のサイトカイン濃度が4つの測定時点の全ておよび4つの条件下(未処置、担体、IgG4/k、およびヒト化TMC-2206)全てにおいて同等であるという仮説の検定を行った。P-値が0.05未満の場合この仮説は棄却されることになっていた。担体、IgG4/k、ヒト化TMC-2206、注射ラットまたは非注射(未処置)ラットで観察されたサイトカイン濃度の10セット(P-値はすべて0.18から1.0、表44)のそれぞれに統計学的な有意差は見られなかった。従って、ヒト化TMC-2206の静脈注射による単回投与(15mg/kg)は、炎症に関わるサイトカインの発現の増加を誘発しなかった。
本発明は、本明細書の特定の実施態様に関連して述べてきたが、これらの実施態様は、本発明の種々の態様の単なる例示であることを理解すべきである。したがって、例示的態様において多くの変更を行うことができ、また他の構成も、本発明の精神および範囲から逸脱することなく考え出すことができることを理解すべきである。
マウス麻痺疾患のEAEモデルについて、疾患の初期徴候における抗α2インテグリン抗体投与時の抗α2インテグリン抗体の効果に関する試験結果(実施例7参照)
麻痺疾患の誘導期時に投与された抗α2インテグリンの効果の試験結果(実施例7参照)