以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るブレーキ装置が適用された車両を示す概略構成図である。車両1は、いわゆるハイブリッド車両として構成されており、エンジン2と、エンジン2の出力軸であるクランクシャフトに接続された3軸式の動力分割機構3と、動力分割機構3に接続された発電可能なモータジェネレータ4と、変速機5を介して動力分割機構3に接続された電動モータ6と、ドライブシャフト8を介して変速機5に連結された車両1の駆動輪たる右前輪9FRおよび左前輪9FLと、各アクチュエータを制御する電子制御ユニット(以下「ECU」という)とを備える。
ECUは、車両1の制御手段として、その駆動系全体を制御するハイブリッドECU7、エンジンを制御するエンジンECU13、各モータを制御するモータECU14、ブレーキを制御するブレーキECU70等から構成されている。
各ECUは、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、エンジン停止時にも記憶内容を保持できるバックアップRAM等の不揮発性メモリ、入出力インターフェース、各種センサ等から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して取り込むためのA/Dコンバータ、計時用のタイマ等を備えるものである。
エンジン2は、たとえばガソリンや軽油等の炭化水素系燃料を用いて運転される内燃機関であり、エンジンECU13により制御される。エンジンECU13は、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、エンジン2の作動状態を検出する各種センサからの信号に基づいてエンジン2の燃料噴射制御や点火制御、吸気制御等を実行する。また、エンジンECU13は、必要に応じてエンジン2の作動状態に関する情報をハイブリッドECU7に与える。
動力分割機構3は、図示しないが、遊星歯車装置を含むものであり、サンギヤにモータジェネレータ4が連結され、リングギヤに変速機5を介して電動モータ6が連結され、キャリヤにエンジン2のクランクシャフトが連結される。動力分割機構3は、変速機5を介して電動モータ6の出力を左右の前輪9FR、9FLに伝達する役割と、エンジン2の出力をモータジェネレータ4と変速機5とに振り分ける役割と、電動モータ6やエンジン2の回転速度を減速あるいは増速する役割とを果たす。
モータジェネレータ4と電動モータ6とは、それぞれインバータを含む電力変換装置11を介してバッテリ12に接続されており、電力変換装置11には、モータECU14が接続されている。バッテリ12としては、たとえばニッケル水素蓄電池などの蓄電池を用いることができる。モータECU14も、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号等に基づいて電力変換装置11を介してモータジェネレータ4および電動モータ6を制御する。
ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、電力変換装置11を介してバッテリ12から電力を電動モータ6に供給することにより、電動モータ6の出力により左右の前輪9FR,9FLを駆動することができる。また、エンジン効率のよい運転領域では、車両1はエンジン2によって駆動される。この際、動力分割機構3を介してエンジン2の出力の一部をモータジェネレータ4に伝えることにより、モータジェネレータ4が発生する電力を用いて、電動モータ6を駆動したり、電力変換装置11を介してバッテリ12を充電したりすることが可能となる。
また、車両1には車両の走行速度を検出するための車速センサ75が設けられている。車速センサ75は、車両の走行速度を検出してハイブリッドECU7やブレーキECU70などに与える。車速センサ75の検出値は、所定時間おきにハイブリッドECU7及びブレーキECU70等に与えられる。車速センサ75としては、典型的には各車輪に対応して設けられている車輪速度センサなどを用いることができる。
また、車両1を制動する際には、ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、前輪9FR,9FLから伝わる動力によって電動モータ6が回転させられ、電動モータ6が発電機として作動させられる。すなわち、電動モータ6、電力変換装置11、ハイブリッドECU7およびモータECU14等は、車両1の運動エネルギーを電気エネルギーに回生することによって左右の前輪9FR,9FLに制動力を付与する回生ブレーキユニット10として機能する。車両1は、このような回生ブレーキユニット10に加えて液圧ブレーキユニット20を備える。液圧ブレーキユニット20は、動力液圧源30と液圧アクチュエータ40とを含んで構成される。
図2は、液圧ブレーキユニットを中心としたブレーキ装置の系統図である。液圧ブレーキユニット20は、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR、21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40と、それらをつなぐ液圧回路とを含む。
ディスクブレーキユニット21FR、21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪9FR、左前輪9FL、図示しない右後輪および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。
マニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧された作動液としてのブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。
動力液圧源30は、動力の供給により加圧されたブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出可能である。
液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施の形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、たとえばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
マスタシリンダユニット27は、本実施の形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。ブレーキペダル24への運転者による入力が機械的に伝達されてマスタシリンダ32のブレーキフルードが加圧される。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、たとえばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギとしてたとえば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まってたとえば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
上述のように、液圧ブレーキユニット20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42、43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL、21RR、21RLのホイールシリンダ23FR、23FL、23RR、23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
また、個別流路41、42、43および44の中途には、ABS保持弁51、52、53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
さらに、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46、47、48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46、47、48および49の中途には、ABS減圧弁56、57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型の切替弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型の切替弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、切替弁としてのシミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型の切替弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型の切替弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧用制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧用制御弁として設けられている。つまり、本実施の形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66等を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて安価とすることができる。
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。
また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
液圧ブレーキユニット20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、ブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU7などと通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54、56〜59、60、64〜68を制御する。
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。さらに、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の操作を検出するブレーキ操作検出手段として機能する。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作検出手段としては、たとえば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサなどがある。
上述のように構成された液圧ブレーキユニット20は、回生ブレーキユニット10と協働してブレーキ回生協調制御(以下、単に「回生協調制御」という)を実行する。この回生協調制御は、液圧ブレーキユニット20による液圧制動制御(以下、「液圧制御」ともいう)と、回生ブレーキユニット10による回生制動制御(以下、「回生制御」ともいう)とを協調させて行うものである。なお、本実施の形態に係るブレーキ装置の制御手段として機能するブレーキ制御装置は、ハイブリッドECU7、ブレーキECU70、モータECU14等を含んで構成される。
本実施の形態に係るブレーキ装置は、運転者によるブレーキペダル24の操作を受けて制動を開始する。ブレーキECU70は、ストロークセンサ25からの信号に基づいて、ブレーキ装置が発生すべき制動力である要求制動力を演算する。
ここで、ブレーキECU70は、液圧ブレーキユニット20と回生ブレーキユニット10の応答に大きな差が出ないように、回生制動力の時間変化率の上限値である回生勾配MAXガードを有している。回生勾配MAXガードは、実験やシミュレーションにより適宜定められる定数である。ブレーキECU70は、回生勾配MAXガードを超えない範囲で要求回生制動力を決定し、ハイブリッドECU7に対して回生要求を送信する。
ハイブリッドECU7は、ブレーキECU70から送られた要求回生制動力をモータECU14に出力する。モータECU14は、電動モータ6によって左右の前輪9FR、9FLに付与される制動力が要求回生制動力となるように電力変換装置11に制御指令を出力する。電力変換装置11は、モータECU14からの指令に基づいて電動モータ6を制御する。これにより車両1の運動エネルギーは電気エネルギーに変換されて、電動モータ6から電力変換装置11を介してバッテリ12に蓄積される。蓄積された電気エネルギーは以降の車輪の駆動等に用いられ、車両の燃費向上に寄与する。
モータECU14は、電動モータ6の回転数など、回生ブレーキユニット10の実際の作動状態を示す情報を取得してハイブリッドECU7に送信する。ハイブリッドECU7は、回生ブレーキユニット10の実際の作動状態に基づいて、車輪に実際に付与されている制動力である回生実行値としての実回生制動力を演算し、その実回生制動力をブレーキECU70に送信する。
ブレーキECU70は、要求制動力から実回生制動力を減じることにより、液圧ブレーキユニット20に発生させるべき液圧制動力である要求液圧制動力を演算する。そして、ブレーキECU70は、演算した要求液圧制動力に基づいて、各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を演算する。ブレーキECU70は、各ホイールシリンダ23のホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
その結果、液圧ブレーキユニット20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に液圧制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される液圧制動力が調整される。
本実施の形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤ方式の液圧制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。このとき、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64を閉状態とし、レギュレータ33及びマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。
次に、本実施の形態に係る回生協調制御の方法について説明する。本実施の形態に係る回生協調制御は、運転者によりブレーキペダル24が操作された直後の回生協調制御(「初期回生協調制御」という)に関するものである。
図3は、従来の初期回生協調制御を説明するための図である。同図は、運転者によりブレーキペダルが操作されたときの、ブレーキECUの動作の様子を表している。同図の上段には、ブレーキECUが演算した液圧制御における作動液の目標液圧(破線)と、実際の液圧である実液圧(実線)が示されている。下段には、ブレーキECUが演算した要求回生制動力(破線)と、ブレーキECUがハイブリッドECUから受信した実回生制動力(実線)が示されている。同図の横軸は時間の経過を表している。
図3に示すように、従来の初期回生協調制御では、ブレーキペダルが操作された際には、ブレーキECUは、ハイブリッドECUに対して回生要求を送信するとともに、一旦回生要求相当に目標液圧を立ち上げる。この際、実液圧も追従する。そして、回生制動力が実行されたのを確認した後、目標液圧を低下させる。図示の例では、ブレーキECUは、時刻t1にハイブリッドECUに対して回生要求およびその要求値(要求回生制動力)を出力するとともに、目標液圧を上昇させている。そして、ブレーキECUは、ハイブリッドECUから回生実行値としての実回生制動力を受信し始めた時刻t2から目標液圧を低下させ、時刻t3にて実回生制動力のみで運転者が要求する制動力に達したと判断し、目標液圧をゼロに設定する。
しかしながら、回生ブレーキユニットが発生する回生制動力は、実際にはブレーキECUからハイブリッドECUに対して回生要求が送信された時刻t1の直後に発生しており、時刻t1から時刻t2の間の時間は、主にブレーキECUとハイブリッドECUとの間の通信時間および実回生制動力の演算に要する時間などである。従って、時刻t1から時刻t2までの間は、液圧制動力と回生制動力の二重の制動力がかかっていることになるため、運転者の意図しない大きな減速度が発生し、ブレーキフィーリングが悪化する可能性がある。
また、液圧制御においては一般に、液圧のハンチング防止等のためにその目標液圧に対して所定幅(例えば0.13Mpa程度)の不感帯領域が設定されている。図3においては、二点鎖線にて囲まれる範囲が目標液圧:ゼロに対する不感帯領域を示している。そして、実液圧がその不感帯領域に入ると、制御上目標液圧が達成されたと判定される。したがって、目標液圧をゼロに設定しても実液圧がゼロに収束しない。つまり、ホイールシリンダ圧が残り、ブレーキの引きずりが生じるといった問題がある。
そこで、本実施の形態に係るブレーキ装置では、初期回生協調制御において、液圧制動力と回生制動力の二重の制動力が発生しないようにする。
図4は、第1の実施の形態に係るブレーキ装置における回生協調制御を説明するための図である。図3と同様に、図4は、運転者によりブレーキペダルが操作されたときの、ブレーキECUの動作の様子を表している。図4の上段には、ブレーキECUが演算した液圧制御における作動液の目標液圧(破線)と、実際の液圧である実液圧(実線)が示されている。下段には、ブレーキECUが演算した要求回生制動力(破線)と、ブレーキECUがハイブリッドECUから受信した実回生制動力(実線)が示されている。図4の横軸は時間の経過を表している。
第1の実施の形態に係るブレーキ装置では、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7から回生実行値としての実回生制動力を入手した後に、液圧ブレーキユニット20に駆動を指示する。すなわち、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7から実回生制動力を入手するまでは、目標液圧を設定しない。
図示の例では、ブレーキECU70は、時刻t21にハイブリッドECU7に対して回生要求および要求回生制動力を出力する。ブレーキECU70から要求回生制動力を受け取ったハイブリッドECU7は、要求回生制動力をモータECU14に出力し、モータECU14は、電動モータ6によって左右の前輪9FR、9FLに付与される制動力が要求回生制動力となるように電動モータ6を制御する。これにより、時刻t21の直後に回生ブレーキユニット10は回生制動力を発生する。このとき、ブレーキECU70は、従来の回生協調制御と異なり、液圧ブレーキユニット20に駆動を指示しない、すなわち、目標液圧を立ち上げない。
そして、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7から実回生制動力を入手した時刻t22より後の必要なときに、液圧ブレーキユニット20に駆動指示を出す、すなわち目標液圧を立ち上げる。ブレーキECUが受信した実回生制動力は、時刻t23において要求回生制動力に達している。図示の例では、実回生制動力のみで要求制動力を満たすことができているので、ブレーキECU70は、車両停止時の回生制動力から液圧制動力への「すり替え」を開始する時刻t24において目標液圧を立ち上げている。その後、時刻t25において、要求回生制動力がゼロとなり、要求液圧制動力が要求制動力に達している。回生制動力は、原理的に車両の走行中にのみ発生させることが可能であり、車両が停車しているときにはゼロとなる。このため、回生協調制御中に車両が停車するときには、回生制動力と液圧制動力とを併用して要求制動力を発生させる制御状態から液圧制動力を増加させ、その液圧制動力のみにより要求制動力を発生させる制御状態へと移行することになる。車両の停車に際しては、回生制動力から液圧制動力への「すり替え」が行われる。この「すり替え制御」においては、たとえば、回生制動力と液圧制動力との合計を要求制動力に一致させるようにしながら液圧制動力を要求制動力に向けて増加させるとともに回生制動力を減少させていく。
このように、本実施の形態に係るブレーキ装置においては、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7から回生実行値としての実回生制動力を入手した後に、液圧ブレーキユニット20に駆動を指示するよう構成した。従って、初期回生協調制御においては回生制動力のみしか発生せず、液圧制動力と回生制動力とが二重に発生する事態を防ぐことができる。これにより、運転者の意図しない大きな減速度が発生することが回避され、ブレーキフィーリングを向上できる。
また、本実施形態に係るブレーキ装置によれば、初期回生協調制御において、液圧制御から回生制御への切り替えが行われる場合が少なくなるので、不感帯領域を設定することによるブレーキの引きずりの発生を減らすことができる。これにより、車両の燃費を向上できる。
ここで、本実施の形態において、ブレーキECU70は、要求制動力に対して回生制動力が不足するか否かを判定し、回生制動力が不足すると判定した場合には、上述のような初期回生協調制御は行わず、回生実行値としての実回生制動力の入手にかかわらず回生ブレーキユニット10に駆動を指示する。
たとえば、ブレーキECU70は、ストロークセンサ25からの情報に基づいてブレーキペダル24の踏み込み速度を演算し、その踏み込み速度が所定値以上の場合に、要求制動力に対して回生制動力が不足すると判定し、実回生制動力の入手にかかわらず液圧ブレーキユニット20に駆動を指示する。ブレーキペダル24の踏み込み速度が速い、すなわち「早踏み」されたときは、緊急性が高く、また、回生制動力だけでは要求制動力を満たすことができない場合が多い。従って、ブレーキペダル24が早踏みされた場合には、実回生制動力の入手にかかわらず液圧ブレーキユニット20に駆動を指示する制御を行うことにより、必要とされる制動力を迅速に発生させることができる。
また、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7から回生制御による回生制動力の発生が妨げられる情報を入手した場合に、要求制動力に対して回生制動力が不足すると判定し、実回生制動力の入手にかかわらず液圧ブレーキユニット20に駆動を指示する。回生制御による回生制動力の発生が妨げられる情報とは、たとえば「回生制御により充電できる電池充電許容量に余裕がない」という情報である。ブレーキECU70は、電池充電許容量を予め入手しておき、電池充電許容量が所定値以下の場合に、要求制動力に対して回生制動力が不足すると判定し、実回生制動力の入手にかかわらず液圧ブレーキユニット20に駆動を指示する。バッテリ12が十分に充電されている場合には、発生する回生制動力が小さくなって、回生制動力だけでは要求制動力を満たすことができない可能性がある。従って、バッテリ12が十分に充電されていると判断される場合には、実回生制動力の入手にかかわらず液圧ブレーキユニット20に駆動を指示する制御を行うことにより、必要とされる制動力を迅速に発生させることができる。
他の回生制御による回生制動力の発生が妨げられる情報としては、「電動機の回転速度の上限値に対して余裕がない」という情報がある。ブレーキECU70は、電動モータ6の回転速度の上限値を予め入手しておき、電動モータ6の回転速度が該上限値に近い場合に、要求制動力に対して回生制動力が不足すると判定し、実回生制動力の入手にかかわらず液圧ブレーキユニット20に駆動を指示する。電動モータ6の回転速度が該上限値を超えてしまった場合には、発生する回生制動力が小さくなって、回生制動力だけでは要求制動力を満たすことができない可能性がある。従って、電動モータ6の回転速度が、その上限値に対して設けられた所定の閾値内にある場合には、実回生制動力の入手にかかわらず液圧ブレーキユニット20に駆動を指示する制御を行うことにより、必要とされる制動力を迅速に発生させることができる。
図5は、第1の実施の形態に係る回生協調制御処理のフローチャートである。この処理は、図示しないイグニッションスイッチがオンにされてから繰り返し実行される。
ブレーキECU70は、まず、車速センサ75などの検出情報に基づいて車両1が走行中であるか否かを判定し、回生協調制御実行の可否を判断する(S10)。回生協調制御が許可されない場合(S10のN)、処理を終了する。回生協調制御が許可される場合(S10のY)、ブレーキECU70は、予め設定された回生協調制御の開始条件(「回生条件」という)が成立したか否かを判定することにより、回生協調制御を開始するか否かを判断する(S12)。回生条件が成立していない場合(S12のN)、処理を終了する。
回生条件が成立しており回生協調を開始する場合(S12のY)、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7から電池充電許容量を受信する(S14)。その後、ブレーキECU70は、ブレーキペダル24の踏み込み速度が所定値以上であるか否かを判定することにより、ブレーキペダル24が早踏みされたか否かを判断する(S16)。
ペダル踏み込み速度が所定値未満の場合、ブレーキECU70は、ブレーキペダル24が早踏みされていないと判断し(S16のN)、ハイブリッドECU7から受信した電池充電許容量が所定値以下であるか否かを判断する(S18)。たとえば、ブレーキECU70は、現在の電池充電許容量がバッテリ12の充電できる最大電池充電許容量の所定の割合以下である場合、電池充電許容量が所定値以下であると判断する。
電池充電許容量が所定値より大きい場合(S18のN)、ブレーキECU70は、上述のように要求回生制動力を決定する。そして、ハイブリッドECU7に対して要求回生制動力を出力するとともに(S20)、ホイールシリンダ23の目標液圧をゼロに設定する(S22)。その後、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7から実回生制動力を受信し(S24)、要求制動力から実回生制動力を引いた値がゼロより大きいか否かを判定する(S26)。要求制動力から実回生制動力を引いた値がゼロより大きい場合(S26のY)、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66に対してホイールシリンダ23を増圧するための制御信号を出力する(S28)。要求制動力から実回生制動力を引いた値がゼロ以下である場合(S26のN)、ブレーキECU70は、ホイールシリンダ23の目標液圧をゼロのままにする(S30)。このようにして、ハイブリッドECU7から実回生制動力を受信した後に、液圧ブレーキユニット20に駆動を指示することにより、回生協調制御初期においては回生制動力のみしか発生せず、液圧制動力と回生制動力とが二重に発生する事態を防ぐことができる。これにより、運転者の意図しない大きな減速度が発生することが回避され、ブレーキフィーリングが向上する。
一方、ペダル踏み込み速度が所定値以上であってブレーキペダル24が早踏みされたと判断した場合(S16のY)、または、電池充電許容量が所定値以下であると判断した場合(S18のY)、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7に対して要求回生制動力を出力するとともに(S32)、図3に示すように一端液圧が立ち上がるように目標液圧を設定することにより増圧リニア制御弁66に対して増圧指示を行う(S34)。これにより、必要とされる制動力を迅速に発生させることができる。その後、ブレーキECU70は、ハイブリッドECUから回生実行値としての実回生制動力を受信し(S36)、液圧制御から回生制御への切り替えが行われるように減圧リニア制御弁67に対して減圧指示を行う(S38)。
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、図1および図2に示す第1の実施の形態に係るブレーキ装置とほぼ同様の構成部分については、必要に応じて同一の符号を付す等して適宜その説明を省略する。
図6は、第2の実施の形態に係るブレーキ装置における回生協調制御を説明するための図である。図4と同様に、図6は、運転者によりブレーキペダルが操作されたときの、ブレーキECUの動作の様子を表している。図6の上段には、ブレーキECUが演算した液圧制御における作動液の目標液圧(破線)と、実際の液圧である実液圧(実線)が示されている。下段には、ブレーキECUが演算した要求回生制動力(破線)と、ブレーキECUがハイブリッドECUから受信した実回生制動力(実線)が示されている。また、図6下段の一点鎖線の傾きθ2は、回生勾配MAXガードを表しており、図6の横軸は、時間の経過を表している。
本実施の形態では、ブレーキECU70は、ブレーキペダル24が早踏みされており、且つ要求回生制動力の勾配(回生要求勾配ともいう)が上述した回生勾配MAXガードよりも大きい場合、または、ブレーキペダル24が早踏みされていないが、バッテリ12が十分に充電されている場合には、実回生制動力の入手にかかわらず液圧ブレーキユニット20に駆動を指示する。
図6に示す例では、ブレーキペダル24が早踏みされており、且つ回生要求勾配θ1が回生勾配MAXガードθ2よりも大きい場合の動作について示している。ブレーキECU70は、時刻t31にハイブリッドECU7に対して回生要求および要求回生制動力を出力する。ブレーキECU70は、ブレーキペダル24が早踏みされたか否かを判断し、早踏みされた場合には、回生要求勾配θ1が、回生勾配MAXガードθ2よりも大きいか否かを判断する。図示の例のように、回生要求勾配θ1が回生勾配MAXガードθ2よりも大きい場合、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7からの実回生制動力の入手にかかわらず、液圧ブレーキユニット20に駆動を指示する。図示の例では、ブレーキECU70は、ホイールシリンダ23の目標液圧を所定のレベルまで立ち上げている。そして、時刻t32において、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7から実回生制動力を受信する。時刻t32においてハイブリッドECU7から実回生制動力を受信した後、ブレーキECU70は、目標液圧を低下させ、時刻t33において回生制動力と液圧制動力の和が要求制動力となった後は、目標液圧を一定に設定している。
図示の例では、ブレーキペダル24が早踏みされており、且つ回生要求勾配が回生勾配MAXガードよりも大きい場合の動作について説明したが、ブレーキペダル24が早踏みされていないが、バッテリ12が十分に充電されている場合も同様に、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7からの実回生制動力の入手にかかわらず、液圧ブレーキユニット20に駆動を指示する。なお、ブレーキペダル24が早踏みされておらず、且つ電池充電許容量の余裕がある場合、または、ブレーキペダル24が早踏みされているが、回生要求勾配θ1が回生勾配MAXガードθ2以下である場合には、ブレーキECU70は、第1の実施形態の図4で説明した、ハイブリッドECU7から回生実行値としての実回生制動力を入手した後に液圧ブレーキユニット20に駆動を指示する制御を行う。
このように、第2の実施の形態に係るブレーキ装置では、ブレーキペダル24が早踏みされており、且つ回生要求勾配θ1が回生勾配MAXガードθ2よりも大きい場合、または、ブレーキペダル24が早踏みされていないが、バッテリ12が十分に充電されている場合には、実回生制動力の入手にかかわらず液圧ブレーキユニット20に駆動を指示するよう構成した。この実回生制動力の入手にかかわらず液圧ブレーキユニット20に駆動を指示する制御は、上述したように液圧制動力と回生制動力が二重にかかる制御であるので、本当に必要な場合だけこの制御を行うことがペダルフィーリングの観点から望ましい。第2の実施の形態によれば、回生要求勾配θ1を回生勾配MAXガードθ2と比較することにより、要求制動力に対して回生制動力が不足するか否かを判定する精度を、単にブレーキペダル24の踏み込み速度に基づいて判定した場合よりも上げることができるので、ペダルフィーリングを向上できる。
図7は、第2の実施の形態に係る回生協調制御処理のフローチャートである。この処理は、図示しないイグニッションスイッチがオンにされてから繰り返し実行される。
ブレーキECU70は、まず、車速センサ75などの検出情報に基づいて車両1が走行中であるか否かを判定し、回生協調制御実行の可否を判断する(S40)。回生協調制御が許可されない場合(S40のN)、処理を終了する。回生協調制御が許可される場合(S40のY)、ブレーキECU70は、予め設定された回生協調制御の開始条件が成立したか否かを判定することにより、回生協調制御を開始するか否かを判断する(S42)。回生条件が成立していない場合(S42のN)、処理を終了する。
回生条件が成立しており回生協調を開始する場合(S42のY)、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7から電池充電許容量を受信する(S44)。その後、ブレーキECU70は、ブレーキペダル24の踏み込み速度が所定値以上であるか否かを判定することにより、ブレーキペダル24が早踏みされたか否かを判断する(S46)。
ペダル踏み込み速度が所定値未満の場合、ブレーキECU70は、ブレーキペダル24が早踏みされていないと判断し(S46のN)、ハイブリッドECU7から受信した電池充電許容量が所定値以下であるか否かを判断する(S52)。たとえば、ブレーキECU70は、現在の電池充電許容量がバッテリ12の充電できる最大電池充電許容量の所定の割合以下である場合、電池充電許容量が所定値以下であると判断する。
電池充電許容量が所定値より大きい場合(S52のN)、ブレーキECU70は、上述のように要求回生制動力を決定する。そして、ハイブリッドECU7に対して要求回生制動力を出力するとともに(S62)、ホイールシリンダ23の目標液圧をゼロに設定する(S64)。その後、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7から実回生制動力を受信し(S66)、要求制動力から実回生制動力を引いた値がゼロより大きいか否かを判定する(S68)。要求制動力から実回生制動力を引いた値がゼロより大きい場合(S68のY)、ブレーキECU70は、増圧リニア制御弁66に対してホイールシリンダ23を増圧するための制御信号を出力する(S70)。要求制動力から実回生制動力を引いた値がゼロ以下である場合(S68のN)、ブレーキECU70は、ホイールシリンダ23の目標油圧をゼロのままにする(S72)。このようにして、ハイブリッドECU7から実回生制動力を受信した後に、液圧ブレーキユニット20に駆動を指示することにより、回生協調制御初期においては回生制動力のみしか発生せず、液圧制動力と回生制動力とが二重に発生する事態を防ぐことができる。これにより、運転者の意図しない大きな減速度が発生することが回避され、ブレーキフィーリングが向上する。
S46においてペダル踏み込み速度が所定値以上であってブレーキペダル24が早踏みされたと判断した場合(S46のY)、ブレーキECU70は、回生要求勾配θ1が回生勾配MAXガードθ2よりも大きいか否かを判断する(S48)。回生要求勾配θ1が回生勾配MAXガードθ2以下である場合(S48のN)、S62に進み、ハイブリッドECU7から回生実行値としての実回生制動力を入手した後に液圧ブレーキユニット20に駆動を指示する制御を行う。
一方、S48において回生要求勾配θ1が回生勾配MAXガードθ2よりも大きいと判断された場合(S48のY)、または、S52において電池充電許容量が所定値以下であると判断した場合(S52のY)、ブレーキECU70は、回生協調制御の初期段階に液圧を導入する制御を許可し(S50)、ハイブリッドECU7に対して要求回生制動力を出力するとともに(S54)、目標液圧を設定することにより増圧リニア制御弁66に対して増圧指示を行う(S56)。これにより、必要とされる制動力を迅速に発生させることができる。その後、ブレーキECU70は、ハイブリッドECUから回生実行値としての実回生制動力を受信し(S58)、液圧制御から回生制御への切り替えが行われるように減圧リニア制御弁67に対して減圧指示を行う(S60)。本実施の形態では、このように回生要求勾配θ1を回生勾配MAXガードθ2と比較することにより、要求制動力に対して回生制動力が不足するか否かを判定する精度を上げることができるので、ペダルフィーリングを向上できる。
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
1 車両、 2 エンジン、 3 動力分割機構、 4 モータジェネレータ、 5 変速機、 6 電動モータ、 7 ハイブリッドECU、 8 ドライブシャフト、 10 回生ブレーキユニット、 11 電力変換装置、 12 バッテリ、 13 エンジンECU、 14 モータECU、 20 液圧ブレーキユニット、 21 ディスクブレーキユニット、 22 ブレーキディスク、 23 ホイールシリンダ、 24 ブレーキペダル、 25 ストロークセンサ、 27 マスタシリンダユニット、 30 動力液圧源、 32 マスタシリンダ、 33 レギュレータ、 51 ABS保持弁、 56 ABS減圧弁、 60 分離弁、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 73 制御圧センサ、 75 車速センサ。