以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
(エンジンの全体構成)
図1は、本発明に係るエンジン制御装置A(エンジンの吸排気制御装置)の全体構成を模式的に示し、符号1は、車両に搭載された多気筒ガソリンエンジンである。このエンジン1の本体は、複数の気筒2,2,…(1つのみ図示する)が設けられたシリンダブロック3上にシリンダヘッド4が配置されてなり、各気筒2内にはピストン5が嵌挿されて、その頂面とシリンダヘッド4の底面との間に燃焼室6が形成されている。ピストン5はコネクティングロッドによってクランク軸7に連結されており、クランク軸7の一端側にはその回転角(クランク角)を検出するためのクランク角センサ8が配設されている。
前記シリンダヘッド4には、各気筒2毎に燃焼室6の天井部に開口するように吸気ポート9及び排気ポート10が形成されている。吸気ポート9は燃焼室6の天井部から斜め上方に向かって延びて、シリンダヘッド4の一側面に開口しており、排気ポート10は反対側の他側面に開口している。吸気ポート9及び排気ポート10は、それぞれ吸気弁11及び排気弁12によって開閉されるようになっており、これら吸排気弁11,12は、シリンダヘッド4に配設された動弁系のカム軸(図1には示さず)によりクランク軸7の回転に同期して駆動されるようになっている。
同図に詳細は示さないが、この実施形態のエンジン1は、吸気弁11及び排気弁12を別々のカム軸によって駆動する所謂DOHCタイプの動弁系を備えており、これによる吸排気弁11,12の基本的な開閉作動タイミングは、複数の気筒2,2,…が所定の位相差をもって燃焼サイクルを行うように設定されている。また、この実施形態では動弁系にタイミングやリフトの可変機構が組み込まれており、それによって吸排気弁11,12のリフト特性を変更し、気筒2への吸気の充填量や残留既燃ガス(内部EGRガス)の量を調整できるようになっている。
すなわち、吸気側の動弁系には、吸気弁11の作動の位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な位相可変機構15(Variable Valve Timing 以下、VVT15と略称する)と、図2〜7を参照して後述するように、吸気弁11のリフト量を連続的に変更可能な公知のリフト可変機構40(Variable Valve Lift 以下、VVL40と略称する)と、が配設されている。尚、VVT15は、吸気側カム軸41(図2を参照)の前端部と、カムチェーンの巻き掛けられるスプロケット43との間に組み込まれており、詳しい説明は省略するが、油圧力を受けて作動しスプロケット43とカム軸41との間に位相差を生じさせる周知構造のものである。
一方、排気側の動弁系には前記吸気側と同じくVVT15が配設されているとともに、図8〜11を参照して後述するように、油圧力を受けて作動し排気側カム軸の一方のカム62(図9を参照)の作動状態をオン、オフ切り替えることにより、気筒2の排気行程における排気弁12の通常の開閉作動に加えて、それを吸気行程でも開かせる可変機構70(Variable Valve Motion 以下、VVM70と略称する)が設けられている。
また、各気筒2毎に燃焼室6の天井部に電極を臨ませて点火プラグ16が配設され、点火回路17によって所定の点火タイミングにて通電されるようになっている。一方、燃焼室6の吸気側の周縁部に先端を臨ませて気筒2内に燃料直接、噴射するインジェクタ18(燃料噴射弁)が配設されている。このインジェクタ18により気筒2の吸気行程において燃料が噴射されると、その燃料噴霧は吸気と混ざり合いながら、ピストン5の下降に伴い容積の拡大する気筒2内に広く分散して、概ね均一な予混合気を形成する。
尚、図示は省略するがインジェクタ18には、供給する燃料の圧力状態を変更可能な燃料供給ラインが接続されており、前記のように気筒2の吸気行程で燃料を噴射するときには相対的に低圧の燃料を供給し、後述の如くNVO期間に高温の内部EGRガス中に燃料を噴射するときには相対的に高圧の燃料を供給することができる。
図1においてエンジン1の右側に位置するシリンダヘッド4の一側には吸気系が配設され、各気筒2の吸気ポート9には吸気通路20が連通している。この吸気通路20は、エンジン1の各気筒2の燃焼室6に対して図外のエアクリーナにより濾過した空気を供給するためのものであり、サージタンク21の上流の共通通路には電気式スロットル弁22とが配設されている。サージタンク21の下流で吸気通路20は各気筒2毎に分岐して、それぞれ吸気ポート9に連通している。
一方、シリンダヘッド4の他側には排気系が配設され、各気筒2の排気ポート10にはそれぞれ各気筒2毎に分岐した排気通路25(排気マニホルド)が接続されている。この排気マニホルドの集合部には排気中の酸素濃度を検出するセンサ26が配設されている。また、排気マニホルドよりも下流側には、排気中の有害成分を浄化するための触媒27等が配設されている。
そして、前記の如きエンジン1の運転制御を行うために、パワートレインコントロールモジュール30(以下、PCMという)が設けられている。これは、周知の如くCPU、メモリ、I/Oインターフェース回路等を備えており、詳しくは後述するが、前記クランク角センサ8、排気酸素濃度センサ26等の他、エアフローセンサ31、アクセル開度センサ32、車速センサ33等からの信号を少なくとも受け入れ、これらに基づいてエンジン1の運転制御を行うようになっている。
(VVLの説明)
次に、図2〜7を参照して吸気弁11のリフト量を可変とするVVL40の構造、及びその作動について詳細に説明する。まず、図2に示すように吸気側のカム軸41には、シリンダ12A〜12D(同図には示さず)のそれぞれに対応して一対の揺動カム44,45が支持されている。これら一対の揺動カム44,45は、各気筒12毎の2つの吸気弁11,11をそれぞれリフトさせるように配置され、円筒状の連結部49によって互いに連結されて、カム軸41の周りに一体に揺動するようになっている。
また、カム軸41には、揺動カム44,45を動作させるために、軸心X(図3等参照)から偏心した円盤状の偏心カム46が一体に設けられている。各偏心カム46にはそれぞれ回転自在に外輪47が外嵌めされていて、この外輪47の外周に突出するように設けられた偏心凸部に、連結リンク48を介して一方の揺動カム45が連結されている。すなわち、外輪47は、一端側がカム軸41の偏心カム46に回転自在に嵌合され、他端部(偏心凸部)が連結リンク48によって揺動カム45に連結されたリンクであり、以下ではオフセットリンクと呼称する。
また、カム軸41の斜め上方には、これと平行にコントロールシャフト51が設けられている。このコントロールシャフト51には4つのコントロールアーム52がそれぞれ結合固定されており、該各コントロールアーム52の先端部と前記オフセットリンク47の他端部とが規制リンク53によって連結されている。この規制リンク53は、前記偏心カム46の回転に伴いオフセットリンク47の一端側がカム軸41の周りを公転するときに、このオフセットリンク47の変位を規制してその他端部を往復運動させるものであり、これにより、そのオフセットリンク47の他端部に連結された前記連結リンク48が揺動カム44,45を揺動させることになる。
さらに、前記コントロールシャフト51には、円周の一部のみに歯が形成されたウォーム歯車54が結合され、このウォーム歯車54の歯に、電動モータ55で回転駆動されるウォーム56が噛み合っている。そして、ECU2からの制御信号の入力に応じてモータ55が作動し、コントロールシャフト51が回動してコントロールアーム52の位置が変わることによって、オフセットリンク47の他端部の往復運動の軌跡、即ち前記連結リンク48の揺動軌跡が変更され、これにより揺動カム44,45の揺動角(揺動範囲)などが変化して、吸気弁11のリフト量や開閉時期などのリフト特性が変化するようになっている。
言い換えると、前記連結リンク48及び規制リンク53は、揺動カム45とオフセットリンク47とを連結するとともに、前記偏心カム46の回転に伴う該オフセットリンク47の動作を、揺動カム45(及び揺動カム44)が揺動するように規制するリンク機構である。このリンク機構を含めて、前記カム軸41の偏心カム46、オフセットリンク47、コントロールシャフト51、コントロールアーム52等により、吸気弁1,2のリフト量を連続的に変更可能なVVL40が構成されている。
VVL40の構造についてより詳しくは、まず、図3(b)に示すように、吸気弁11のステム上端には直動式タペット57が設けられ、このタペット57に揺動カム45が当接している。吸気弁11は、タペット57内部に設けられたリテーナ58とシリンダヘッド4に設けられたリテーナ59との間に配設されたバルブスプリング70によって、吸気ポート9を閉じる方向(吸気弁11のリフト方向とは反対方向)に付勢されている。
前記連結リンク48の一端部は、揺動カム45にピン61により回動自在に連結され、一方、規制リンク53の一端部は、コントロールアーム52の先端部にピン62により回動自在に連結されている。そうして、この連結リンク48と規制リンク53とは、オフセットリンク47の両側にそれぞれ配設されて、該オフセットリンク47を中間に挟んで連係している。すなわち、連結リンク48及び規制リンク53の各々の他端部は、オフセットリンク47の他端部に連結ピン63によって同軸に且つ回動自在に連結されている。尚、前記ピン61〜63はいずれもカム軸41と平行に延びている。
図示の如く、前記オフセットリンク47と連結リンク48との連結ピン63はカム軸41の上方に位置しており、その側方にはコントロールアーム52の回動中心(コントロールシャフト51の軸心)が位置している。コントロールアーム52の先端のピン62は規制リンク53の回動軸であり、そのピン62の位置を変更することによって規制リンク53及び連結ピン63の揺動軌跡を変化させ、これにより、吸気弁11のリフト量を変更することができる。
すなわち、各リンクやピンの具体的な動作については以下に述べるが、モータ55によりコントロールシャフト51及びコントロールアーム52を回動させて、図3に示すようにピン62をコントロールシャフト51の下方に位置づけると、揺動カム44,45の揺動角が大きくなり、リフトピークにおける吸気弁11のリフト量が最も大きな最大リフト状態になる。また、そこからコントロールアーム52などの回動によってピン62を上方へ移動させると、これに応じて揺動カム44,45の揺動角は小さくなり、図4に示すようにピン62がカム軸41の上方に位置するときに、吸気弁11のリフト量が最も小さな最小リフト状態になる。
図3の最大リフト状態において揺動カム45は、同図(b)に示すようにカムノーズの先端側で直動式タペット57を押圧し、該タペット57を介して吸気弁11を大きくリフトさせたリフトピークの状態(揺動カム44が直動式タペットを介して吸気弁11を大きくリフトさせた状態)と、同図(a)に示すように吸気弁11がリフトしないゼロリフトの状態との間で揺動する。最小リフト状態である図4の場合も同様にリフトピークの状態(カムノーズの基端側でタペット57を押圧)とゼロリフトの状態との間で揺動する(同図(a)及び(b)参照)。
−VVLの動作−
以下、そのようなリンクやカムの動作を、図5及び図6を参照して具体的に説明する。この両図では、コントロールアーム52、連結リンク48及び規制リンク53については簡略に直線で表しており、また、偏心カム46の中心(オフセットリンク47の外輪の中心)の回転軌跡を符号T0として示している。尚、上述の如く吸気弁11と揺動カム44との関係は吸気弁11と揺動カム45との関係と同じであって、揺動カム45は揺動カム44と同様に働くので、以下では吸気弁11と揺動カム45との関係について説明する。
まず、図5を参照して揺動カム45自体のプロファイルを説明すると、この揺動カム45の周面には、曲率半径が所定角度範囲一定の基円面(ベースサークル区間)θ1と、該θ1に続いて曲率半径が漸次大きくなっているカム面(リフト区間)θ2とが形成されている。同図は、前記図3の最大リフト状態を表しており、コントロールアーム52は最大リフト制御位置にある。
同図に実線で示すのは吸気弁11がリフトピーク近傍にある図3(b)の状態であり、このときには、連結リンク48によってピン61が最も上方に引き上げられ、揺動カム45は、カム面θ2のカムノーズ先端側がタペット57に当接した状態になっている。一方、仮想線で示すのはゼロリフトの状態(図3(a))であり、このときには揺動カム45の基円面θ1がタペット57に接していて、吸気弁11はリフトしていない(即ち、吸気弁11は閉じている)。
そして、カム軸41(偏心カム46)が図の時計回りに回転すると、これに伴いオフセットリンク47の一端側(図の下端側)は、図に矢印で示すようにカム軸41の軸心X周りを公転することになるが、このときにはオフセットリンク47の他端部の変位は、そこに連結されている規制リンク53によって規制される。すなわち、規制リンク53は、コントロールシャフト51の下方に位置付けられたピン62を中心に図の実線の位置と仮想線の位置との間を揺動し、これに伴い、オフセットリンク47の他端側(連結ピン63)は、偏心カム46が1回転する度に、ピン62を中心として往復円弧運動をすることになる(この連結ピン63の運動軌跡をT1として示す)。
前記連結ピン63の往復円弧運動T1に伴い、同じ連結ピン63によって一端部がオフセットリンク47に連結されている連結リンク48の他端部(ピン61)は、図にT2として示す軌跡で往復円弧運動し、そのピン61によって連結リンク48に連結されている揺動カム45が図の実線の位置と仮想線の位置との間で揺動運動をする。すなわち、前記連結ピン63が上方に移動するときには、連結リンク48によってピン61が上方に引き上げられて、揺動カム45のカムノーズがタペット57を押し下げ、これによりバルブスプリング70(図3参照)を押し縮めながら、吸気弁11をリフトさせる。
一方、連結ピン63が下方に移動するときには、連結リンク48によってピン61が下方に押し下げられて、揺動カム45のカムノーズが上昇することになるので、前記のようにして圧縮されたバルブスプリング70の反力によってタペット57が押し上げられて、前記カムノーズの上昇に追従するように上方に移動し、そのタペット57内のリテーナ58によって吸気弁11が引き上げられて、吸気ポート9が閉じられる。
つまり、最大リフト状態では、揺動カム45がその周面の基円面θ1及びカム面θ2の略全体によってタペット57を押圧するように大きく揺動し、このように大きな揺動角に対応して吸気弁11のリフト量が大きくなるのである。
次に、前記の最大リフト状態から、コントロールアーム52をコントロールシャフト51の軸心回りに上方へ略水平になるまで回動させると、図4や図6に示すように、規制リンク53の回動軸であるピン62が前記最大リフト状態よりもカム軸41の回転方向の手前側に位置して、リフト量の小さな最小リフト状態になる。図6においても前記図5と同様に吸気弁11がリフトピーク近傍にある状態を実線で示し、ゼロリフトの状態を仮想線で示している。
同図において、カム軸41(偏心カム46)が回転すると、前記最大リフト状態と同様にオフセットリンク47の連結ピン63は規制リンク53によって変位が規制され、コントロールシャフト51の側方に位置するピン62を中心として、往復円弧運動T3をする(規制リンク53は図の実線位置と仮想線位置との間で往復回動する)。そして、その連結ピン63の往復円弧運動T3に伴って連結リンク48のピン61が往復円弧運動T4をし、そのピン61によって連結リンク48に連結されている揺動カム45が、図の実線の位置と仮想線の位置との間で揺動運動をして、吸気弁11を開閉するようになる。
つまり、最小リフト状態では、前記最大リフト状態と比べて揺動カム45の揺動角が小さくなり、この揺動カム45が、その周面の基円面θ1及びこれに連続するカム面θ2の一部分のみによってタペット57を押圧するようになって、吸気弁11のリフト量が小さくなるのである。
−リフト特性の変化−
上述のようなVVL40の作動によって最大リフト状態から最小リフト状態まで連続的に変更される吸気弁11のリフトカーブを、図7に示す。同図においてリフトカーブL1は、揺動カム45が図5の実線位置(リフトピーク近傍)と仮想線位置(ゼロリフト)との間で揺動する最大リフト状態を示し、一方、L2は、揺動カム45が図6の実線位置と仮想線位置との間で揺動する最小リフト状態を示している。
図示の如く、この実施形態のリフト可変機構VVLによれば、吸気弁11のリフト量の増大とともに作用角(開時期から閉時期までのクランク角であって、緩衝区間を含まない)も広がって、当該吸気弁11の閉時期IVCが遅角するようになっている。これは、上述したように、揺動カム45の揺動角の変化に対応して、吸気弁11のリフト量が変更されるからである。
また、図の例では、吸気弁11のリフト量が小さいときほど、リフトピークの時期(クランク角)が進角している。これは、上述したように、最大リフト状態から最小リフト状態への移行にあたって、コントロールアーム52等の回動により規制リンク53の位置をカム軸41の回転方向手前側に移動させており、これにより、連結ピン63の往復円弧運動の軌跡が図5のT1の位置から図6のT3の位置へと、カム軸41の回転方向手前側に移動するからである。
すなわち、図5に示す最大リフト状態においては、吸気弁11がリフトピーク近傍にあるときの偏心カム46の中心は、その回転軌跡T0上の点Taに位置するが、図6に示す最小リフト状態においてはリフトピーク近傍での偏心カム46の中心位置は同図に示す点Tbに移動する。つまり、最大リフト状態から最小リフト状態に移行すると、吸気弁11のリフトピークは、図6に示すように前記回転軌跡T0上の点Ta、Tbの中心角θ3だけ進角するのである。
以上、要するに、この実施形態のVVL40によると、吸気弁11のリフト特性は、そのリフト量が小さなときほど作用角が狭くなり、且つその閉時期IVCが進角する一方、リフト量の連続的な増大とともに作用角が広がって、その閉時期IVCが遅角するようになっており、吸気弁11の閉時期IVCは、相対的に小リフト寄りではBDCりも進角側になり、相対的に大リフト寄りであればBDCよりも遅角側になる。
尚、吸気弁11の開閉作動タイミングは、前記のようなVVL40の特性による変化に加えて、吸気側のVVT15により吸気側カム軸41の回転位相が連続的に進角、遅角されることによって大きく変化し、後述のようにエンジン1の運転状態に応じて連続的に変更される。
(VVMの説明)
次に、図8〜11を参照して排気弁12の作動状態を切り替えるVVM70の構造、及びその作動について詳細に説明する。この実施形態では排気側の動弁系は、前記した吸気側とは異なり、タペットを介して排気弁12を直接駆動するものであり、そのタペットには図8及び図9に示すようにカムの切り替え機構が組み込まれている。すなわち、排気側のカム軸には、図9にのみ示すが第1,第2の2種類のカム61,62が設けられる一方、これらに接するタペットには第2排気カム62の作動をオン、オフ切り替えるロストモーション機構が組み込まれていて、これによりVVM70が構成されている。
前記第1排気カム61は、気筒2の排気行程において既燃ガスを排出する通常の開閉作動のためのものであり、一方、第2排気カム62は、以下に述べるように排気弁12を吸気行程でも開かせて、排気通路25から既燃ガスを吸い戻すためのものである。図の例では第1排気カム61は2つ一組の対をなし、以下に述べるVVM70のサイドタペット72にそれぞれ接合して常時、排気弁12を開閉動作させる。一方、第2排気カム62は、排気カム軸の軸方向(図9の左右方向)において2つの第1排気カム61,61の間に挟まれるように設けられてVVM70のセンタタペット73に接合し、後述する制御により排気弁12の二度開きを可能にする。
より詳しくは、図8に分解斜視図で示すように、VVM70は、矩形のハウジング71と、このハウジング71内に昇降可能に収容され、排気弁12の軸部12aの端部に固定されるサイドタペット72と、このサイドタペット72に相対変位可能に組み付けられて、第2排気カム62によって駆動されるセンタタペット73とを有している。ハウジング71は、シリンダヘッド4と一体化され、両タペット72、73の上死点位置およびサイドタペット73の下死点位置を規制するとともに、センタタペット73を第2排気カム62に対して臨ませる構造体である。
前記サイドタペット72は、略円筒形に形成されており、平面視で排気カム軸と直交する直径方向に収容凹部72aを有している。各壁部72bには排気カム軸と平行な挿通孔72cが形成されている。各挿通孔72cには有底のスリーブ状ホルダ75a、75bがそれぞれ開口部を対向させた姿勢で固定されている。各ホルダ75a、75bは、後述するように、センタタペット73のピン孔73aに収容されるピンユニット78を駆動するためのものである。一方のスリーブ状ホルダ75aの外側(他方のスリーブ状ホルダ75bの反対側)には軸受76が固定されており、その転動体76aが、ハウジング71の内壁に形成された縦溝71a(図9、図10参照)に転がり接触している。この結果、サイドタペット72は、周方向の回動が規制された状態で軸方向(排気弁12を開閉する方向)沿いに移動可能になっている。サイドタペット72の下部にはバルブスプリング60を受けるスプリングシート72dが固定されている。
また、センタタペット73は、平面視で前記サイドタペット72の収容凹部72aの輪郭に沿う「I」字形の構造体であり、前記収容凹部72aに組み付けられて、ハウジング71に設けられた係止部に規定されたストロークSにおいてサイドタペット72に対し昇降可能になっている。センタタペット73は、サイドタペット72の収容凹部72aの底部に配置された一対のコイルばね77によって常時、排気カム軸の方へ付勢されている。このコイルばね77の付勢力は、バルブスプリング60の付勢力よりも充分小さくなるように設定されており、自由状態ではサイドタペット72の壁部72bの上面とセンタタペット73の上面とが面一になっている(図9に示す)。この自由状態において前記挿通孔72cと同心に連通するように、センタタペット73にはピン孔73aが穿設されており、このピン孔73aにはピンユニット78が収容されている。
そのピンユニット78は、前記一方のスリーブ状ホルダ75a内に出没可能に設けられたロックプランジャ78aと、このロックプランジャ78a及びスリーブ状ホルダ75aの間に介装されるコイルばね78bと、ロックプランジャ78aのコイルばね78bと反対側に同心に配置されたロックピン78cと、ロックピン78cを前記ロックプランジャ78a側に駆動するために前記他方のスリーブ状ホルダ75b内に進退可能に収容されるロック解除プランジャ78dと、ロックピン78cを支持するためにピン孔73aの両開口端に固定される一対のブッシュ78e、78fと、ロックピン78cの略中央部に一体形成されたフランジ78gと軸受76の配置されている側のブッシュ78eとの間に介装されて、フランジ78gを介し、ロックピン78cをロック解除プランジャ78d側へ付勢するコイルばね78hとを有している。
そして、自由状態においてはロックプランジャ78a及びロックピン78cがそれぞれ壁部72bとセンタタペット73との間に介在しており、従って、この状態ではロックプランジャ78a、ロックピン78cがセンタタペット73をサイドタペット72にロックした状態になる。よって、センタタペット73が第2排気カム62に押圧されて駆動されると、サイドタペット72を介して排気弁12の軸部12aが押し下げられるようになり、第2排気カム62により規定されるタイミングで該排気弁12が開かれる。
一方、ロックピン78cのロックを解除するために、他方の壁部(軸受76が設けられた壁部72bと反対側の壁部)72bと、この壁部72bに固定されたスリーブ状ホルダ75bとには、図示しないが作動油回路が形成されている。後述するPCM30の制御によってその作動油回路に作動油が供給されると、ロック解除プランジャ78dが図9、10の左側に駆動されて、ロックピン78cを壁部72bからセンタタペット73へ押込み、これと同時にロックプランジャ78aも対応する壁部72b内に押込まれ、これらの部材によるロックが解除される。
こうしてロックが解除された状態でセンタタペット73が第2排気カム62に駆動されると、このセンタタペット73はサイドタペット72の収容凹部72a内で昇降するようになり、その力はコイルばね77に吸収されて排気弁12の軸部12aには伝達されない。こうしてピンユニット78によるロックを解除することによって所謂ロストモーションが実現し、第2排気カム62による排気弁12の開作動が停止される。
つまり、VVM70がロック状態とロック解除状態とに切り替えられることによって、排気弁12の作動状態が通常の排気行程における開閉作動のみと、これに加えて吸気行程でも開作動する二度開きとに切り替えられるようになる。図11に示す実線のリフトカーブLex1は、第1排気カム61によってVVM70のサイドタペット72が押圧されて、気筒2の排気行程において排気弁12が開かれる通常の開閉作動を示し、破線のリフトカーブLex2は、第2排気カム62によりVVM70のセンタタペット73が押圧されて、吸気行程でも排気弁12が開かれることを示している。
図示のように、二度開きの際の吸気行程における排気弁12のリフト量はかなり小さく、上述したVVL40の制御によって矢印のように変更される吸気弁11のリフトカーブLinに比べると、低中負荷で比較的吸気弁11のリフトが低いときであっても最小リフト状態を除いて、それよりも低くなっている。また、排気弁12のリフトカーブLex2は、後述するVVT15の制御によってリフトカーブLex1と共に進角、遅角されて、吸気弁11のリフトカーブLinに含まれるようになる。
尚、図示は省略するが、VVM70の作動油回路に接続された外部の作動油給排回路には、電磁弁が設けられており、この電磁弁がPCM30によって作動制御されることにより、全ての気筒2のVVM70に対する作動油の給排が同時に行われ、それらが一斉にロックされ、或いはロック解除されるようになっている。
(エンジン制御の概要)
上述の如き構成のエンジン1の運転制御を行うために、図12にも示すように、PCM30は、クランク角センサ8等の他、吸気通路20における空気の流量を計測するエアフローセンサ31からの信号と、図示しないアクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ32からの信号と、車両の走行速度を検出する車速センサ33からの信号と、を少なくとも入力する。
そして、PCM30は、前記各種センサからの信号等に基づいてエンジン1の運転状態(例えば負荷状態及びエンジン回転速度)を判定し、これに応じて吸排気のVVT15、点火回路17、インジェクタ18、スロットル弁22、VVL40、VVM70等を制御する。すなわち、PCM30は、主にVVL40によって吸気弁11のリフト量を調整し、気筒2への吸気(空気)の充填量を制御するとともに、主にVVT15によって吸排気弁11,12のオーバーラップ期間を調整する。
そうして主にVVL40の制御によって、前記図7のように吸気弁11のリフト量を最小リフトから最大リフトまでの間で連続的に変化させることができ、これにより気筒2への吸気の充填量を広い範囲で変更することができるので、エンジン1の負荷(目標トルク)や回転速度に応じて吸気弁11のリフト量を制御することにより、この実施形態のエンジン1ではスロットル弁22の制御によらず出力を制御することができる。よって、スロットル弁22は限られた運転状態でのみ使用し、通常はエンジン1の部分負荷域においても全開とされて、ポンピングロスの低減が図られる。
また、PCM30は、インジェクタ18を後述の如き所定のタイミングで作動させることにより、気筒2内の空燃比や混合気の形成状態を切換えるとともに、前記のように主にVVT15の作動によって気筒2の内部EGRガス量を制御し、さらに点火プラグ16の作動状態を切換えることで、エンジン1の燃焼状態を以下に述べるHCCI燃焼とSI燃焼とのいずれかに切換える。
具体的には図13に制御マップの一例を示すように、相対的に低負荷且つ低回転側の運転領域(H)においては、気筒2内に形成した予混合気に点火することなく、これをピストン5の上昇により圧縮して自己着火させるようにする。すなわち、前記図11や図14にも示すように、気筒2の排気行程ないし吸気行程において排気弁12が閉じてから吸気弁11が開くまでの期間、即ち吸排気弁11,12の双方が閉じる所謂負のオーバーラップ(Negative Valve Ovealap:NVO)期間を設け、多量の内部EGRガスによって気筒2内の温度を高めるとともに、図14にのみ示すが、気筒2の吸気行程においてインジェクタ18により燃料を噴射(メイン噴射)させて吸気や内部EGRガスと十分に混合し、概ね均一な予混合気を形成した上で燃焼させる。
そのような予混合気の圧縮による自己着火については従来よりHCCI(Homogenious Charge Compression Ignition)と呼ばれており、気筒2内の燃焼室6における多数の箇所で予混合気が略一斉に自己着火して燃焼を開始するものと考えられている。HCCI燃焼は、従来一般的な火炎伝播による燃焼(Spark Ignition:SI燃焼)に比べて燃焼期間が短くなり、熱効率が高くなる。また、HCCI燃焼は、前記のように多量の内部EGRガスによって希釈した予混合気の燃焼であるから、燃焼温度が低くなり窒素酸化物の生成は非常に少ない。
但し、そうして多量の内部EGRガスによって希釈した予混合気を燃焼させるものであるから、HCCI燃焼ではあまり高い出力は得られず、前記の制御マップ(図13)に示すように、相対的に高負荷側乃至高回転側の運転領域(S)においては従来同様、SI燃焼が行われるものである(以下、運転領域(H)をHCCI領域と呼び、運転領域(S)をSI領域と呼ぶ)。
また、HCCI燃焼による熱効率が最も高くなるのは、予混合気が気筒2の圧縮TDC近傍にて一斉に自己着火して、それによる熱発生のピークがTDCよりも少し遅角側になるときであり、こうした適切なタイミングで予混合気を安定的に自己着火させるために、この実施形態では、前記図14に示すように例えば気筒2の圧縮行程終盤に、即ち吸排気弁11,12のNVO期間中にインジェクタ18により少量の燃料を噴射(NVO噴射)させるようにしている。これにより、特許文献1にも記載されているように混合気の圧縮による自己着火を促進することができる。
−排気弁の二度開き−
ところで、前記のようにNVO期間を設定すると、前記図11、14から分かるように、吸気弁11の開く時期(IVO)が気筒2の吸気上死点(吸気TDC)よりも遅角することになり、その分は吸気弁11の開いている期間が短くなってしまう。しかも、NVO期間を設定する低負荷側の運転状態では吸気弁11のリフトも低くなることから、その傘部と吸気ポート9の開口端との間隙、即ち弁環部における吸気の絞り損失が大きくなりやすく、前記のように開期間が短くなることと相俟ってポンピングロスの増大を招くことは避けられない。
これに対し、この実施形態では本発明の特徴部分として、HCCI領域(H)においても比較的多くの内部EGRガス量を必要とし、NVO期間が長くなる低負荷側の第1運転領域(図13に斜めハッチを入れて示す領域h1)においては、VVM70の作動によって排気弁12を吸気行程でも開くことにより、排気通路25から気筒2内に既燃ガスを吸い戻して、吸気の絞り損失の増大を抑えるようにしている。
尚、図13の制御マップにおいてHCCI領域(H)は、排気弁12の二度開きを行う相対的に低負荷側の前記第1運転領域(h1)と、その高負荷側の第2運転領域(h2)とに分かれており、この第2運転領域(h2)ではNVO期間が比較的短いことから、前記のような排気弁12の二度開きは行わない。
以下にエンジン制御の具体的な手順を、図15及び図16のフローチャートに基づいて説明すると、まず、図15におけるスタート後のステップS1では、クランク角センサ8、エアフローセンサ31、アクセル開度センサ32、車速センサ33等からの信号を入力し、続くステップS2では、エンジン1がHCCI領域(H)にあるかどうか判定する。すなわち、クランク角センサ8からの信号によりエンジン回転速度を演算し、例えば車速及びアクセル開度に基づいて、或いはエアフローセンサ31からの信号とエンジン回転速度とに基づき内部EGR量を加味して、エンジン1への要求トルク(負荷)を演算する。そうして求めたエンジン回転速度と要求トルクとに基づき、図13の制御マップを参照してHCCI領域(H)にあるかどうか判定する。
その判定がNOであればエンジン1はSI領域(S)にあるので、後述のステップS14〜S18(図16参照)に進んでSI燃焼のための制御を実行する一方、ステップS2の判定がYESでHCCI領域(H)にあれば、ステップS3に進む。ここではHCCI領域において相対的に低負荷側の第1運転領域(h1)にあるかどうか判定し、この判定がNOであれば相対的に高負荷側の第2運転領域(h2)にあるので、後述するステップS9に進む一方、ステップS3の判定がYESで第1運転領域(h1)にあればステップS4に進む。
ステップS4では、VVT15及びVVL40の制御によってエンジン負荷に対応したNVO期間になるように吸排気弁11,12の作動タイミングを制御するとともに、VVM70をロック状態に制御して第2排気カム62の作動が排気弁12に伝わるようにし、これにより吸気行程でも排気弁12が開くように、即ち二度開きするようにする。すなわち、まず、例えば目標トルク及びエンジン回転速度に基づき、予め実験的に設定してあるマップを参照して所要の吸気充填量となるような吸気弁11のリフト量を決定し、そうなるようにVVL40を制御する。この吸気充填量は、気筒2への燃料供給量に対応して適切な空燃比となるように予め実験等により求めて、前記マップに設定するようにすればよい。
また、そうしてVVL40の制御による吸気弁11の作動タイミングの変化も考慮して、吸気及び排気のVVT15の制御によりNVO期間を調整する、これは前記VVL40の制御と同じく、予め実験的に設定してあるマップを参照して、所要の内部EGR量となるような吸排気弁11,12のNVO期間を決定し、そうなるようにVVT15を制御すればよい。また、VVT15の制御マップには、図11に示すように、NVO期間の中央が吸気TDCとなるように、即ち、排気行程で排気弁12が閉じて(EVC)から吸気TDCまでの間隔αと、それから吸気弁11の開く(IVO)までの間隔βとが同じになり、且つ、その吸気弁11の開期間内に排気弁12の二度目の開期間が含まれるように、吸気及び排気のそれぞれのVVT15の作動量が設定されている。
そうしてNVO期間の中央が吸気TDCになるようにすれば、ポンピングロスを小さくすることができる。すなわち、NVO期間を設けるために吸気TDC前で排気弁12を閉じると、その後、TDCまでは気筒2内の圧力が上昇して圧縮のための仕事量が多くなるが、TDCを超えて吸気弁11が開くまでの間は上昇した気筒内圧によってピストン5が押し下げられることにより、前記の圧縮仕事を回収できるからである。
また、二度開きによる吸気行程での排気弁12の開期間が吸気弁11の開期間内に含まれるようにすることで、その際に排気通路25から気筒2内に既燃ガスが吸い戻されるようになり、吸気弁11周りの吸気の絞り損失の増大を抑えることができる。特に、吸気弁11が開かれるときには既に気筒2内が負圧になっていて、吸気ポート9との間に大きな圧力差が生じるから、このときに排気弁12を開くようにするのが好ましい。
しかも、排気弁12を吸気弁11が開かれるのと同時、或いはそれよりも後に(つまり、それが開かれる以降に)開くようにすれば、前記した気筒2の圧縮仕事の回収が十分に行われることになる。また、排気弁12を吸気弁11の閉じられるのと同時、或いはそれよりも前に(つまり、それが閉じられる以前に)閉じるようにすれば、吸気弁11の閉じた後に未だ開いている排気弁12から気筒2内のガスの一部が排気通路25に流出することはなくなり、気筒2の有効圧縮比が低下することもない。
前記ステップS4に続いてステップS5では、予めNVO期間内に含まれるように設定されているNVO噴射のタイミング(図14を参照)になったかどうか判定する。この判定がNOの間は待機し、判定がYESになればステップS6に進んでインジェクタ18を作動させ、活性化混合気を形成するためのNVO噴射を実行する。すなわち、例えば目標トルク及びエンジン回転速度に基づき、予め実験的に設定してある噴射量マップを参照してNVO噴射量の目標値を決定し、それに対応するパルス幅の噴射制御信号をインジェクタ18に出力する。
前記噴射量マップは、目標トルク及びエンジン回転速度に対応してNVO噴射及びメイン噴射の各噴射量の最適値を予め実験等により設定したものであり、この実施形態では、例えばNVO噴射の量がエンジン負荷の上昇に連れて徐々に減少する一方、メイン噴射の量は負荷の増大に応じて徐々に増大するように設定されている。
前記ステップS6に続くステップS7では、予め吸気弁11の開期間内に含まれるように設定されているメイン噴射のタイミング(図14を参照)になったかどうか判定し、判定がNOの間は待機する一方、判定がYESになればステップS8に進んでインジェクタ18を作動させて、メイン噴射を実行した後にリターンする。尚、メイン噴射のタイミングは、一例として吸気弁11の開弁直後に設定されており、吸気弁11の傘部と吸気ポート9との隙間から気筒2内に流入する高速の吸気流によって、燃料噴霧の吸気との混合が促進されるようになる。
斯くして、HCCI領域(H)において相対的に低負荷側の第1運転領域(h1)では、多量の内部EGRのためにNVO期間を設けるとともに、これにより吸気弁11の開期間が短くなることに対応し、この開期間内においても排気弁12を開いて排気通路25から既燃ガスを吸い戻すようにしており、これにより吸気弁11周りの絞り損失の増大を抑えて、ポンピングロスの増大を抑制することができる。
しかも、そうして吸い戻される既燃ガスによっても内部EGRガス量を確保することができるから、その分はNVO期間を短めに設定すれば、このことによっても吸気の絞り損失の増大を抑えることができる。
これに対し、エンジン1がHCCI領域(H)において相対的に高負荷側の第2運転領域(h2)にあり、前記ステップS3でNOと判定して進んだステップS9では、前記ステップS4と同じくマップを参照してVVL14及びVVT15を制御し、所要のNVO期間となるように吸排気弁11,12の作動タイミングを制御する。また、VVM70はロック解除状態に制御してセンタタペット73においてロストモーションが生じるようにし、排気弁12が吸気行程では開かないようにする。
続いてステップS10では、前記ステップS5と同様にNVO噴射タイミングになったかどうか判定し、判定がNOの間は待機する一方、判定がYESになればステップS11に進んで、前記ステップS6と同様にインジェクタ18を作動させる。そして、ステップS12では、前記ステップS7と同様にメイン噴射タイミングになったかどうか判定し、判定がNOの間は待機する一方、判定がYESになればステップS13に進んで、前記ステップS8と同様にインジェクタ18を作動させた後にリターンする。
つまり、エンジン1がHCCI領域(H)において相対的に高負荷側の第2運転領域(h2)にあるときには、第1運転領域(h1)にあるときと同様にNVO噴射は行うものの、排気弁12の二度開きは行わない。これは、エンジン負荷が高いほど気筒内温度も高くなるので、着火性確保のために求められるNVO期間が短くなり、それを設けることに付随する吸気絞り損失の問題が実質、なくなるからである。
また、排気弁12の二度開きを行って、排気通路25から気筒2内に既燃ガスを吸い戻すようにした場合は、そうして吸い戻される既燃ガス量が排気脈動等による影響を受けて変動したり、気筒2毎のバラつきが大きくなったりする虞れもあるので、これらの不具合を排除し内部EGRガス量をより正確に制御するためにも、高負荷側では排気弁12の二度開きは行わない方がよいのである。尚、排気弁12の二度開きを行わなければ、機械的な駆動ロスが減ることは言うまでもない。
前記したHCCI領域(H)に対して、エンジン1がSI領域(S)にあれば、前記の如くステップS2でNOと判定されて図16のフローのステップS14に進み、従来一般的なSI燃焼となるようにエンジン1の運転制御が行われる。すなわち、ステップS14ではVVL40及びVVT15を制御して、エンジン1の負荷及び回転速度に対応した適切なバルブオーバーラップ状態(正のオーバーラップ)になるように吸排気弁11,12の作動タイミングを制御する。尚、VVM70はロック解除状態に制御する。
続いてステップS15、S16では主に吸気行程の所定のタイミングでインジェクタ18を作動させてメイン噴射を実行し、気筒2内に概ね均一な混合気が形成されるようにする。そして、ステップS17では例えば圧縮TDC前の所定の点火タイミングになったかどうか判定し、NOの間は待機する一方、YESになればステップS18に進んで点火回路17を作動させ、前記気筒2内の混合気に点火して、しかる後にリターンする。
前記図15のフローにおいてステップS4は、エンジンがHCCI領域(H)(所定運転領域)内で相対的に低負荷側の領域(h1)にあるときに、排気弁12を二度開きさせ、気筒2の吸気行程で吸気弁11の開かれる以降に排気弁12を開いて、それを吸気弁11の閉じられる以前に閉じる、吸気時排気弁開工程に対応している。この際、排気弁12のリフト量は吸気弁11よりも小さくされる。
また、前記図15、16のフローの制御は、PCM30のメモリに電子的に格納されている制御プログラムがCPUにより実行されることによって実現するものであり、その意味でPCM30は、前記のように排気弁12を二度開きさせるべくVVM70を制御する排気弁制御手段を構成している。
したがって、この実施形態に係るエンジン制御装置Aによると、エンジン1がHCCI領域(H)にあるとき、吸排気弁11,12の作動に所謂負のオーバーラップ(NVO)期間を設けて、多量の内部EGRガスにより気筒2内の温度を高めることにより、予混合気の圧縮自己着火を促進するとともに、NVO期間に気筒2内に存する高温の内部EGRガス中に燃料を噴射(NVO噴射)することで、予混合気の活性を高めて、その圧縮による自己着火を促進することができる。
また、HCCI領域(H)においても比較的NVO期間が長くなり、その分、吸気弁11の開期間が短くなる低負荷側の第1運転領域(h1)では、VVM70の作動により排気弁12の二度開き(動作)を実施して、吸気弁11の開期間内においても排気弁12を開くことにより、吸気の絞り損失の増大を抑えて、ポンピングロスの増大を抑制することができる。
そうして吸気弁11の開期間内において、即ち吸気弁11の閉じられる以前に排気弁12を閉じるようにすれば、その排気弁12の二度開きに起因して気筒2の有効圧縮比が低下することがなく、良好な着火性を確保することができる。
また、そうして吸気弁11の開期間内において開く排気弁12のリフト量が、図11、14に示されるように、アイドル時も含めて吸気弁11よりも小リフトとすることで、二度開きをしても気筒2への新気の充填量を確保することができる。尚、HCCI燃焼は空燃比のかなり希薄な状態で行われるので、既燃ガス中にも多量の空気が残存しており、従来一般的な理論空燃比での燃焼のように、内部EGRガス量の増大に連れて燃焼が悪化する虞れは殆どない。
(他の実施形態)
本発明の構成は、前記した実施形態のものに限定されることなく、それ以外の種々の構成を包含する。すなわち、前記の実施形態では、HCCI燃焼とする領域(H)のうち、相対的に低負荷側の第1運転領域(h1)でのみ排気弁12の二度開きを行うようにしているが、これに限らず、相対的に高負荷側の領域(h2)でも二度開きを行うことは可能である。また、二度開きの際の吸気行程における排気弁12のリフト量は、場合によっては吸気弁11のリフト量よりも大きくてもよい。
また、前記の実施形態では、HCCI領域(H)の全域に亘ってNVO噴射を行うようにしているが、これはHCCI領域(H)の内の一部、例えば相対的に低負荷側の第1運転領域(h1)でのみ行うようにしてもよい。或いはNVO期間を設定するが、NVO噴射は行わないエンジンにも本発明を適用することはできる。勿論、本発明に係るエンジンはガソリンエンジンに限らない。
さらに、前記の実施形態では、吸排気弁11,12のリフト特性をVVT15、VVL40及びVVM70の制御によって変更するようにしているが、これに限るものではなく、例えば、図17に模式的に示すような電磁アクチュエータを用いて、吸排気弁11,12を個別に開閉制御するようにしてもよい。
図示の電磁アクチュエータは周知構造の一例であり、これに限定されることはないが、例えば吸気弁11の軸端にアーマチャ81が固定され、上下のコイル82,83から吸引力を受けるようになっている。図示しない初期状態では上下のスプリング84,85の力の釣り合いによって、吸気弁11は上下ストロークの略中央に位置しており、通電された上側コイル82によってアーマチャ81が引き上げられると、同図(a)の全閉位置になる一方、下側コイル83によって引き下げられると同図(b)の全開位置になる。
また、図示しないセンサが、アーマチャ81の位置、速度或いは加速度を検出するように設けられており、このセンサーからの信号を受けたPCM30が上下のコイル82,83へ交互に通電制御することにより、吸気弁11が開閉作動されるようになる。こうした電磁制御による吸排気弁11,12の作動は前記実施形態のVVT15やVVL40に比べても自由度が高く、狙いのリフト特性となるように制御することができる。
このことから、前記電磁アクチュエータによる動弁系の場合は、図18に一例を示すように吸気行程において排気弁12を開くときには(点線のリフトカーブLex2)、これを吸気弁11の開くとき同時に開くとともに、吸気弁11が閉じるのと同時に閉じるようにするのがよい。こうして吸気弁11の開いている期間内で常に排気弁12も開いているようにすれば、吸気弁11周りの絞り損失を最も効果的に低減できる。