JP2009035658A - 湿式摩擦係合装置用摺動部材 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、従来の湿式摩擦係合装置用摺動部材と比較して、プレートが充分な摩擦係数を有しながらもプレートの相手材であるペーパ系摩擦材に対する攻撃性を顕著に低減した湿式摩擦係合装置用摺動部材を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、摺動面に非晶質炭素膜を施したプレートと、前記摺動面に接するように配置されるペーパ系摩擦材との組み合わせからなる湿式摩擦係合装置用摺動部材であって、前記非晶質炭素膜は、ラマン分光分析法で測定されたGバンドシフトが1534cm−1以上、1560cm−1以下であり、かつGバンド半値幅が157cm−1以上、186cm−1以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【解決手段】本発明は、摺動面に非晶質炭素膜を施したプレートと、前記摺動面に接するように配置されるペーパ系摩擦材との組み合わせからなる湿式摩擦係合装置用摺動部材であって、前記非晶質炭素膜は、ラマン分光分析法で測定されたGバンドシフトが1534cm−1以上、1560cm−1以下であり、かつGバンド半値幅が157cm−1以上、186cm−1以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
Description
本発明は、例えば、自動車用変速機の変速クラッチや、ブレーキクラッチ、ロックアップクラッチ等の湿式摩擦係合装置に使用される湿式摩擦係合装置用摺動部材に関する。
自動車用変速機の変速クラッチに代表される湿式摩擦係合装置は、一般に、鉄系材料で形成されたプレートと、鋼板にペーパ系摩擦材を貼り付けたディスクとの組からなる摺動部材を備えている。このような湿式摩擦係合装置では、その軽量化およびコンパクト化を図るためにトルク容量の向上が望まれている。
従来、湿式摩擦係合装置のプレートとしては、ペーパ系摩擦材(ディスク)との摺動面に、熱処理、浸炭窒化処理等を施したものや、摺動面に、カニゼンめっき、CrN膜、TiC膜、TiN膜、SiCセラミック膜、非晶質炭素(DLC)膜等を形成したものが知られている。このように摺動面に表面加工が施されたプレートは、湿式条件下でペーパ系摩擦材に対する摩擦係数を増大させることから湿式摩擦係合装置のトルク容量を向上させることができる。中でも、非晶質炭素膜を形成したプレートは、ペーパ系摩擦材に対する摩擦係数が大きく、しかもプレート自体の耐摩耗性も向上することが知られている(例えば、特許文献1参照)。ちなみに、特許文献1には、非晶質炭素膜として、水素含有率が0.1〜50原子%であって、ビッカース硬度(HV)が800以上、表面粗度(Rz)が0.3〜10μmのものが記載されている。そして、一般には、プレートの硬度や表面粗度が増大すると、相手材であるペーパ系摩擦材の摩耗量も増大すると考えられるところ、特許文献1には、前記した範囲の硬度および表面粗度を有する非晶質炭素膜がペーパ系摩擦材の摩耗量を低減するとも記載されている。
特開2004−225762号公報
ところで、非晶質炭素膜は、周知のとおり、原料の炭化水素に由来する水素を含んでおり、水素含有率が小さくなるほど硬度が高く、摩擦係数も大きくなる傾向にある。その一方で、非晶質炭素は、アモルファス構造を有しているために、炭素原子同士の結合状態(例えば、sp2、sp3結合の存在比)等の化学構造を特定することが困難となっている。そのために、非晶質炭素膜においては、摩擦係数を増大させ、かつ相手材であるペーパ系摩擦材の摩耗量を低減可能なものの範囲の特定が困難かつ不明確となっている。つまり、非晶質炭素膜においては、硬度や表面粗度のそれぞれのみでは、前記範囲を明確に特定できないのが現状であって、たとえ硬度や表面粗度が所定範囲内となる非晶質炭素膜であっても、常に摩擦係数とペーパ系摩擦材の摩耗量との両方を最適範囲に制御することができるとは言い難い。現に、本発明者らは、後記する特定のパラメータの所定値を超える非晶質炭素膜では、硬度(摩擦係数)が好適ではあるものの、ペーパ系摩擦材に対する攻撃性が急激に高まる(ペーパ系摩擦材の摩耗量が急激に大きくなる)変曲点を見出している。
本発明は、従来の湿式摩擦係合装置用摺動部材と比較して、プレートが充分に大きな摩擦係数を有しながらもこのプレートの相手材であるペーパ系摩擦材に対する攻撃性を顕著に低減した湿式摩擦係合装置用摺動部材を提供することを課題とする。
前記課題を解決するための発明は、摺動面に非晶質炭素膜を施したプレートと、前記摺動面に接するように配置されるペーパ系摩擦材との組み合わせからなる湿式摩擦係合装置用摺動部材であって、前記非晶質炭素膜は、ラマン分光分析法で測定されたGバンドシフトが1534cm−1以上、1560cm−1以下であり、かつGバンド半値幅が157cm−1以上、186cm−1以下であることを特徴とする。
また、このような湿式摩擦係合装置用摺動部材においては、前記非晶質炭素膜の表面粗度Raとマルテンス硬度HMとの積(Ra×HM)で示される数値が、247以上、797以下となるように構成することができる。
本発明の湿式摩擦係合装置用摺動部材によれば、従来の湿式摩擦係合装置用摺動部材と比較して、プレートが充分に大きな摩擦係数を有しながらもこのプレートの相手材であるペーパ系摩擦材に対する攻撃性を顕著に低減することができる。
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、実施形態に係る湿式摩擦係合装置用摺動部材が組み込まれた湿式多板クラッチの断面図である。図2は、湿式摩擦係合装置用摺動部材の斜視図である。
本実施形態に係る湿式摩擦係合装置用摺動部材(以下、単に「摺動部材」ということがある)を説明するに先立って、まず、この摺動部材が組み込まれた湿式摩擦係合装置としての湿式多板クラッチについて説明する。
(湿式多板クラッチ)
図1に示すように、本実施形態での湿式多板クラッチ1は、プレート4とディスク5とをそれぞれ複数備えた公知の構造を有するものである。なお、プレート4とディスク5とは、後記する摺動部材10を構成している。
図1に示すように、本実施形態での湿式多板クラッチ1は、プレート4とディスク5とをそれぞれ複数備えた公知の構造を有するものである。なお、プレート4とディスク5とは、後記する摺動部材10を構成している。
この湿式多板クラッチ1では、シャフト30が回転することによってクラッチドラム2が中心軸周りに回転すると、クラッチドラム2の内周面にスプライン嵌合しているプレート4とリテーニングプレート4aとが回転する。その一方で、シャフト30に形成された流路31を介して作動油(ATF:オートマティックトランスミッションフルード)が油圧室9b内に輸送されると、その油圧によってクラッチピストン9は、スプリング9aの付勢力に抗してハブ3側に向かって移動する。そして、クラッチピストン9が、クラッチドラム2の受け止め部6との間にプレート4、ディスク5及びリテーニングプレート4aを挟み込む。その結果、ディスク5は、回転するプレート4と接触して、ディスク5とスプライン嵌合しているハブ3をクラッチドラム2の中心軸周りに回転させる。つまり、この湿式多板クラッチ1では、シャフト30の回転力がハブ3側に伝達される際に、プレート4は、ディスク5に対して摺動することとなる。
(摺動部材)
本実施形態での摺動部材10は、前記したように、ディスク5とプレート4とで構成されている。
図2に示すように、ディスク5は、環状の板部材であって、ハブ3(図1参照)の外周面にスプライン嵌合可能なように、その内周面に歯T1(内歯)が形成されている。このディスク5は、環状のペーパ系摩擦材5aを基板5bに貼付したものである。なお、ペーパ系摩擦材5aは、プレート4と接触する側の面(ここでは両面)に貼付されている。
本実施形態での摺動部材10は、前記したように、ディスク5とプレート4とで構成されている。
図2に示すように、ディスク5は、環状の板部材であって、ハブ3(図1参照)の外周面にスプライン嵌合可能なように、その内周面に歯T1(内歯)が形成されている。このディスク5は、環状のペーパ系摩擦材5aを基板5bに貼付したものである。なお、ペーパ系摩擦材5aは、プレート4と接触する側の面(ここでは両面)に貼付されている。
このペーパ系摩擦材5aとしては、公知の繊維成分を含むものでよく、例えば、セルロース繊維、アラミド樹脂繊維等の繊維成分と、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂(バインダ)と、珪藻土、ガラス等のセラミック粉末(摩擦調整材)とを含むものを挙げることができ、上市品を使用することもできる。
基板5bとしては、公知のものを使用することができ、例えば、金属系、およびセラミック系のものが挙げられる。金属系の基板5bとしては、例えば、鉄、SUS440C、S45C等の鉄系合金、A2000等のアルミニウム合金が挙げられる。セラミック系の基板5bとしては、窒化ケイ素、アルミナ等が挙げられる。
図2に示すように、プレート4は、環状の板部材であって、クラッチドラム2(図1参照)の内周面にスプライン嵌合可能なように、その外周面に歯T2(外歯)が形成されている。このプレート4は、後記する非晶質炭素膜Dを基板4bに形成したものである。なお、非晶質炭素膜Dは、ディスク5と接触する側の面(ここでは両面)に形成されている。
基板4bとしては、ディスク5に使用した基板5bと同様のものを使用することができる。中でも、冷間圧延鋼板が好ましい。
基板4bとしては、ディスク5に使用した基板5bと同様のものを使用することができる。中でも、冷間圧延鋼板が好ましい。
次に、非晶質炭素膜Dについて説明する。本実施形態での非晶質炭素膜Dは、ラマン分光分析法で測定されたGバンドシフトが1534cm−1以上、1560cm−1以下、好ましくは1558cm−1以下であり、かつGバンド半値幅が157cm−1以上、186cm−1以下である。
この非晶質炭素膜Dは、その表面粗度(Ra:算術平均粗さ)が0.048μm以上のものが好ましい。また、非晶質炭素膜Dは、そのマルテンス硬度が5000N/mm2以上のものが好ましく、さらに好ましくは5137N/mm2以上である。
ちなみに、GバンドシフトおよびGバンド半値幅が前記範囲内となる非晶質炭素膜Dは、後記する実施例で明らかにしたように、その表面粗度Ra(μm)と、マルテンス硬度HM(N/mm2)との積(Ra×HM)で示される数値で247以上、797以下となるものに対応している。
ちなみに、GバンドシフトおよびGバンド半値幅が前記範囲内となる非晶質炭素膜Dは、後記する実施例で明らかにしたように、その表面粗度Ra(μm)と、マルテンス硬度HM(N/mm2)との積(Ra×HM)で示される数値で247以上、797以下となるものに対応している。
このような非晶質炭素膜Dは、基板4bを配置した反応室内に炭素原料を導入するとともに、この炭素原料を励起させることによって基板4bに蒸着させることができる。蒸着方法としては、例えば、プラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオン化蒸着法等が挙げられる。
炭素原料としては、例えば、メタン、エチレン、ベンゼン等が挙げられる。
ちなみに、基板4bに形成する非晶質炭素膜Dの厚さは、3μm程度でよい。
炭素原料としては、例えば、メタン、エチレン、ベンゼン等が挙げられる。
ちなみに、基板4bに形成する非晶質炭素膜Dの厚さは、3μm程度でよい。
以上のような摺動部材10は、プレート4が充分に大きい摩擦係数を有しながらもプレート4の相手材であるペーパ系摩擦材5aに対する攻撃性を顕著に低減することができる。つまり、摺動部材10によれば、ペーパ系摩擦材5aの摩耗量を少なくすることができる。その結果、摺動部材10は、湿式多板クラッチ1の耐用年数を延ばすことができる。
また、この摺動部材10では、プレート4が大きい摩擦係数を有することとなるので、湿式多板クラッチ1のトルク容量の向上を図ることができる。その結果、湿式多板クラッチ1を構成するプレート4およびディスク5の枚数を削減することができるので、この摺動部材10は、湿式多板クラッチ1の軽量化およびコンパクト化を図ることができる。
また、摺動部材10では、使用するプレート4を選択する際に、プレート4の非晶質炭素膜Dのラマンパラメータ(Gバンドシフト、Gバンド半値幅)を測定してプレート4の適否が決定される。つまり、摺動部材10は、従来の摺動部材のように、破壊検査である硬度測定で適否が決定されるものとは異なって、非破壊検査であるラマン分光分析法によって適否が決定されるので、これを製造する際の歩留まりを向上させることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態には限定されない。例えば、本実施形態では、摺動部材10が自動車用変速機の湿式多板クラッチ1に適用される例を示したが、本発明の摺動部材10は、ブレーキクラッチ、ロックアップクラッチ、発進クラッチ、シンクロナイザー、ディファレンシャル用クラッチ等の他の湿式摩擦係合装置に使用されてもよい。
次に、本発明の摺動部材10の効果を確認した実施例について説明する。
(実施例1)
本実施例では、非晶質炭素膜の蒸着方法として、ICP(Inductively Coupled Plasma)型高周波プラズマCVD法を使用してプレートを製造した。
まず、このプレート4の製造工程では、図2に示す基板4b(冷間圧延鋼板製)を準備した。そして、反応容器内に配置された基板4bにイオンボンバートメント処理を施して基板4bを洗浄した。イオンボンバートメント処理は、反応容器内にアルゴンガス(Ar)を流量40sccmで供給するとともに、高周波(周波数13.56MHz)の出力を100Wに設定し、基板4bのバイアス電圧を2kVに設定することによって行われた。なお、イオンボンバートメント処理は、10分間行われた。
(実施例1)
本実施例では、非晶質炭素膜の蒸着方法として、ICP(Inductively Coupled Plasma)型高周波プラズマCVD法を使用してプレートを製造した。
まず、このプレート4の製造工程では、図2に示す基板4b(冷間圧延鋼板製)を準備した。そして、反応容器内に配置された基板4bにイオンボンバートメント処理を施して基板4bを洗浄した。イオンボンバートメント処理は、反応容器内にアルゴンガス(Ar)を流量40sccmで供給するとともに、高周波(周波数13.56MHz)の出力を100Wに設定し、基板4bのバイアス電圧を2kVに設定することによって行われた。なお、イオンボンバートメント処理は、10分間行われた。
次に、このプレート4の製造工程では、基板4bに中間層(下地層)を形成した。中間層は、反応容器内にテトラメチルシランガス(以下、単に「TMS」という)を流量5sccmで供給するとともに、高周波(周波数13.56MHz)の出力を100Wに設定し、基板4bのバイアス電圧を2kVに設定することによって行われた。なお、この中間層の形成工程は、5分間行われた。ちなみに、中間層は炭化ケイ素を含む膜である。
次に、このプレート4の製造工程では、中間層上に非晶質炭素膜D(図2参照)を形成した。非晶質炭素膜Dは、反応容器内に、表1に示す炭素原料としてのエチレンガスを流量100sccmで供給するとともに、高周波(周波数13.56MHz)の出力を200Wに設定し、基板4bのバイアス電圧0.5kVに設定することによって行われた。ちなみに、バイアス形式は、DC(直流)で実施した。なお、この非晶質炭素膜Dの形成工程は、60分間行われた。その結果、基板4b上には、中間層を介して厚さが3μmの非晶質炭素膜Dが形成された。
その一方で、図2に示すディスク5が準備された。ディスク5は、図2に示すように、冷間圧延鋼板製の基板5bに環状のペーパ系摩擦材5aが貼付されて製造された。なお、ペーパ系摩擦材5aには、FCC3551(エフ・シー・シー社製)が使用された。
そして、製造されたプレート4とディスク5とを組み合わせることで摺動部材10(図2参照)が構成された。
そして、製造されたプレート4とディスク5とを組み合わせることで摺動部材10(図2参照)が構成された。
<非晶質炭素膜のラマン分光分析>
プレート4に形成した非晶質炭素膜Dについて、ラマン分光分析を行った。この分析には、アルゴンレーザ発振機を装備した日立分光株式会社製のレーザラマン分光分析装置(NRS−2100)が使用された。なお、アルゴンレーザの波長は488nmであり、出力は45〜55mWに設定された。そして、得られたラマンスペクトルついては、フォークト関数を用いてカーブフィッティングすることでピーク分離が行われた。得られたGバンドシフト、Gバンド半値幅、Dバンドシフト、およびDバンド半値幅を表2に示す。なお、表2に、Gバンドピークに対するDバンドピークの高さ比、およびGバンドピークに対するDバンドピークの面積比を併記する。
プレート4に形成した非晶質炭素膜Dについて、ラマン分光分析を行った。この分析には、アルゴンレーザ発振機を装備した日立分光株式会社製のレーザラマン分光分析装置(NRS−2100)が使用された。なお、アルゴンレーザの波長は488nmであり、出力は45〜55mWに設定された。そして、得られたラマンスペクトルついては、フォークト関数を用いてカーブフィッティングすることでピーク分離が行われた。得られたGバンドシフト、Gバンド半値幅、Dバンドシフト、およびDバンド半値幅を表2に示す。なお、表2に、Gバンドピークに対するDバンドピークの高さ比、およびGバンドピークに対するDバンドピークの面積比を併記する。
<非晶質炭素膜の硬度および表面粗度の測定>
プレート4に形成した非晶質炭素膜Dについて、マルテンス硬度HMおよび表面粗度Raを測定した。その結果を表2に示す。
マルテンス硬度HM(N/mm2)は、ISO14577に準拠して測定した。この測定には、超微小硬さ試験機(株式会社フィッシャーインストルメンツ製、PICODENTOR(登録商標)HM500)が使用された。なお、この試験機の微小ビッカース型ダイヤモンド圧子の荷重は2.45mNに設定された。
表面粗度Ra(μm)は、JIS B 0601に準拠して測定された。この測定には、表面粗さ評価装置(ミツトヨ製)が使用された。
そして、表2には、マルテンス硬度HMと表面粗度Raとの積(HM×Ra)を併記する。
プレート4に形成した非晶質炭素膜Dについて、マルテンス硬度HMおよび表面粗度Raを測定した。その結果を表2に示す。
マルテンス硬度HM(N/mm2)は、ISO14577に準拠して測定した。この測定には、超微小硬さ試験機(株式会社フィッシャーインストルメンツ製、PICODENTOR(登録商標)HM500)が使用された。なお、この試験機の微小ビッカース型ダイヤモンド圧子の荷重は2.45mNに設定された。
表面粗度Ra(μm)は、JIS B 0601に準拠して測定された。この測定には、表面粗さ評価装置(ミツトヨ製)が使用された。
そして、表2には、マルテンス硬度HMと表面粗度Raとの積(HM×Ra)を併記する。
<非晶質炭素膜の静止摩擦係数の測定>
プレート4に形成した非晶質炭素膜Dについて、ディスク5のペーパ系摩擦材5aに対する静止摩擦係数μS(以下、単に「摩擦係数」という)を測定した。その結果を表2に示す。
プレート4に形成した非晶質炭素膜Dについて、ディスク5のペーパ系摩擦材5aに対する静止摩擦係数μS(以下、単に「摩擦係数」という)を測定した。その結果を表2に示す。
摩擦係数の測定には、SAE No.2試験機が使用された。図3は、摩擦係数の測定に使用された試験機におけるトルク波形図である。
この測定試験では、まず、ディスク5を、図1に示すプレート4と同様の2つのプレート4で挟み、これらをSAE No.2試験機に組み込んだ。そして、面圧0.95MPa、回転速度0.7rpm(一定)、試験油温100℃、および試験サイクル数500サイクルの条件で摩擦係数の測定が行われた。ちなみに摩擦係数は、クラッチが係合するときの面圧でトルクを除した値であり、回転マスを止めるブレーキングテストで求められた。
この測定試験では、まず、ディスク5を、図1に示すプレート4と同様の2つのプレート4で挟み、これらをSAE No.2試験機に組み込んだ。そして、面圧0.95MPa、回転速度0.7rpm(一定)、試験油温100℃、および試験サイクル数500サイクルの条件で摩擦係数の測定が行われた。ちなみに摩擦係数は、クラッチが係合するときの面圧でトルクを除した値であり、回転マスを止めるブレーキングテストで求められた。
<相手材であるペーパ系摩擦材の摩耗量の測定>
SAE No.2試験機を使用してディスク5のペーパ系摩擦材5aの摩耗量(μm)が測定された。その結果を表2に示す。
SAE No.2試験機を使用してディスク5のペーパ系摩擦材5aの摩耗量(μm)が測定された。その結果を表2に示す。
この測定試験では、ディスク5を2940rpmで回転させておき、このディスク5のペーパ系摩擦材5aにプレート4が押し当てられて、ペーパ系摩擦材5aの摩耗量(μm)が測定された。この際、ディスク5にプレート4が押し当てられてからディスク5の回転速度が0rpmとなって停止するまでの慣性吸収動作が1000サイクル繰り返された。その後、ペーパ系摩擦材5aの摩り減った厚み(μm)で摩耗量が測定された。なお、潤滑油としては、市販のATFが使用された。
(実施例2)
本実施例では、TMSの流量を実施例1の5sccmから10sccmに変更したこと、および基板4bのバイアス電圧を実施例1の0.5kVから2.0kVに変更したこと以外は、実施例1と同様にして非晶質炭素膜Dを有するプレート4を製造した。
そして、実施例1と同様にして、非晶質炭素膜Dのラマン分光分析、硬度および表面粗度の測定、摩擦係数の測定、ならびに相手材の摩耗量の測定を行った。その結果を表1および表2に示す。
本実施例では、TMSの流量を実施例1の5sccmから10sccmに変更したこと、および基板4bのバイアス電圧を実施例1の0.5kVから2.0kVに変更したこと以外は、実施例1と同様にして非晶質炭素膜Dを有するプレート4を製造した。
そして、実施例1と同様にして、非晶質炭素膜Dのラマン分光分析、硬度および表面粗度の測定、摩擦係数の測定、ならびに相手材の摩耗量の測定を行った。その結果を表1および表2に示す。
(実施例3)
本実施例では、中間層を形成しなかったこと、および高周波(RF)の出力を実施例2の200Wから100Wに変更したこと以外は、実施例2と同様にして非晶質炭素膜Dを有するプレート4を製造した。
そして、実施例1と同様にして、非晶質炭素膜Dのラマン分光分析、硬度および表面粗度の測定、摩擦係数の測定、ならびに相手材の摩耗量の測定を行った。その結果を表1および表2に示す。
本実施例では、中間層を形成しなかったこと、および高周波(RF)の出力を実施例2の200Wから100Wに変更したこと以外は、実施例2と同様にして非晶質炭素膜Dを有するプレート4を製造した。
そして、実施例1と同様にして、非晶質炭素膜Dのラマン分光分析、硬度および表面粗度の測定、摩擦係数の測定、ならびに相手材の摩耗量の測定を行った。その結果を表1および表2に示す。
(実施例4)
本実施例では、炭素原料を実施例3のエチレンからベンゼンに変更したこと、炭素原料の流量を実施例3の100sccmから20sccmに変更したこと、高周波(RF)の出力を実施例3の100Wから200Wに変更したこと、およびバイアス形式を直流(DC)パルス形式(デューティー比45%)に変更した以外は、実施例3と同様にして非晶質炭素膜を有するプレート4を製造した。
そして、実施例1と同様にして、非晶質炭素膜Dのラマン分光分析、硬度および表面粗度の測定、摩擦係数の測定、ならびに相手材の摩耗量の測定を行った。その結果を表1および表2に示す。
本実施例では、炭素原料を実施例3のエチレンからベンゼンに変更したこと、炭素原料の流量を実施例3の100sccmから20sccmに変更したこと、高周波(RF)の出力を実施例3の100Wから200Wに変更したこと、およびバイアス形式を直流(DC)パルス形式(デューティー比45%)に変更した以外は、実施例3と同様にして非晶質炭素膜を有するプレート4を製造した。
そして、実施例1と同様にして、非晶質炭素膜Dのラマン分光分析、硬度および表面粗度の測定、摩擦係数の測定、ならびに相手材の摩耗量の測定を行った。その結果を表1および表2に示す。
(実施例5から実施例8、ならびに比較例1および比較例2)
実施例5から実施例8、ならびに比較例1および比較例2では、実施例1のICP型高周波プラズマCVD法から表1に示すそれぞれの蒸着方法を使用したこと、および表1に示すそれぞれの炭素原料を使用したこと以外は、実施例1と同様にして非晶質炭素膜を有するプレート4を製造した。
そして、実施例1と同様にして、非晶質炭素膜Dのラマン分光分析、硬度および表面粗度の測定、摩擦係数の測定、ならびに相手材の摩耗量の測定を行った。その結果を表1および表2に示す。
実施例5から実施例8、ならびに比較例1および比較例2では、実施例1のICP型高周波プラズマCVD法から表1に示すそれぞれの蒸着方法を使用したこと、および表1に示すそれぞれの炭素原料を使用したこと以外は、実施例1と同様にして非晶質炭素膜を有するプレート4を製造した。
そして、実施例1と同様にして、非晶質炭素膜Dのラマン分光分析、硬度および表面粗度の測定、摩擦係数の測定、ならびに相手材の摩耗量の測定を行った。その結果を表1および表2に示す。
(比較例3)
比較例3では、非晶質炭素膜Dを形成しない基板4b(冷間圧延鋼板製)のみからなるプレートと、実施例1のディスク5とを組み合わせることで摺動部材が構成された。
そして、この摺動部材を使用した以外は、実施例1と同様にして、このプレートの摩擦係数の測定、および相手材の摩耗量の測定を行った。その結果を表2に示す。
比較例3では、非晶質炭素膜Dを形成しない基板4b(冷間圧延鋼板製)のみからなるプレートと、実施例1のディスク5とを組み合わせることで摺動部材が構成された。
そして、この摺動部材を使用した以外は、実施例1と同様にして、このプレートの摩擦係数の測定、および相手材の摩耗量の測定を行った。その結果を表2に示す。
<摺動部材の評価結果>
ここで参照する図4は、実施例1から実施例8、および比較例1から比較例3におけるプレートの摩擦係数を表すグラフである。図5は、実施例1から実施例8、ならびに比較例1および比較例2における非晶質炭素膜のGバンドシフトと、相手材(ペーパ系摩擦材5a)の摩耗量との関係を表すグラフである。図6は、実施例1から実施例8、ならびに比較例1および比較例2における非晶質炭素膜のGバンドシフトと、Gバンド半値幅との関係を表すグラフである。なお、図5および図6中、実施例は「実」と略記し、比較例は「比」と略記している。
ここで参照する図4は、実施例1から実施例8、および比較例1から比較例3におけるプレートの摩擦係数を表すグラフである。図5は、実施例1から実施例8、ならびに比較例1および比較例2における非晶質炭素膜のGバンドシフトと、相手材(ペーパ系摩擦材5a)の摩耗量との関係を表すグラフである。図6は、実施例1から実施例8、ならびに比較例1および比較例2における非晶質炭素膜のGバンドシフトと、Gバンド半値幅との関係を表すグラフである。なお、図5および図6中、実施例は「実」と略記し、比較例は「比」と略記している。
図4に示すように、実施例1から実施例8、ならびに比較例1および比較例2での非晶質炭素膜Dを有するプレート4は、非晶質炭素膜Dを有しない比較例3でのプレートと比較していずれも高い摩擦係数を有していた。ちなみに、実施例1から実施例8、ならびに比較例1および比較例2におけるプレート4の摩擦係数は、比較例3におけるプレートの摩擦係数と比較して、約32〜68%増加していた。
このことから、非晶質炭素膜Dを有するプレート4は、非晶質炭素膜Dを有しないプレートと比較して摩擦係数が著しく高いことが確認された。
このことから、非晶質炭素膜Dを有するプレート4は、非晶質炭素膜Dを有しないプレートと比較して摩擦係数が著しく高いことが確認された。
図5に示すように、Gバンドシフトが1560cm−1以下の実施例1から実施例8での非晶質炭素膜Dを有するプレート4は、相手材であるペーパ系摩擦材5aに対する攻撃性が低く、ペーパ系摩擦材5aの摩耗量が22〜212μmとなっている。これに対して、Gバンドシフトが1560cm−1を超える比較例1および比較例2での非晶質炭素膜Dを有するプレート4は、ペーパ系摩擦材5aの摩耗量が急激に大きくなっている。そして、図5に示すように、摩耗量が急激に大きくなる変曲点は、1560cm−1のシフト位置に認められ、さらに顕著な変化を見せる変曲点は、1558cm−1のシフト位置に認められる。
そして、図6に示すように、Gバンドシフトが1534cm−1以上、1560cm−1以下の非晶質炭素膜Dは、そのGバンド半値幅が157cm−1以上、186cm−1以下であることが確認された。
つまり、図4から図6から明らかなように、Gバンドシフトが1534cm−1以上、1560cm−1以下であり、かつGバンド半値幅が157cm−1以上、186cm−1以下である非晶質炭素膜Dを有する実施例1から実施例8でのプレート4は、摩擦係数が大きく、しかも相手材であるペーパ系摩擦材5aの摩耗量を著しく低減できることが判明した。
つまり、図4から図6から明らかなように、Gバンドシフトが1534cm−1以上、1560cm−1以下であり、かつGバンド半値幅が157cm−1以上、186cm−1以下である非晶質炭素膜Dを有する実施例1から実施例8でのプレート4は、摩擦係数が大きく、しかも相手材であるペーパ系摩擦材5aの摩耗量を著しく低減できることが判明した。
また、非晶質炭素膜DのGバンドシフトおよびGバンド半値幅が前記範囲内となる非晶質炭素膜Dは、そのマルテンス硬度HM(N/mm2)と表面粗度Ra(μm)との積(Ra×HM)で示される数値で247以上、797以下となるものに対応していることが判明した。ここで参照する図7は、実施例1から実施例8、ならびに比較例1および比較例2における非晶質炭素膜のマルテンス硬度HM(N/mm2)と表面粗度Ra(μm)との積(Ra×HM)と、相手材(ペーパ系摩擦材5a)の摩耗量との関係を表すグラフである。図8は、実施例1から実施例8、ならびに比較例1および比較例2における非晶質炭素膜のマルテンス硬度HM(N/mm2)と表面粗度Ra(μm)との関係を示すグラフである。なお、図7および図8中、実施例は「実」と略記し、比較例は「比」と略記している。
図7に示すように、積(Ra×HM)が247以上、797以下の実施例1から実施例8での非晶質炭素膜Dを有するプレート4は、相手材であるペーパ系摩擦材5aに対する攻撃性が低く、ペーパ系摩擦材5aの摩耗量が22〜212μmとなっている。これに対して、積(Ra×HM)が797Gを超える比較例1および比較例2での非晶質炭素膜Dを有するプレート4は、ペーパ系摩擦材5aの摩耗量が急激に大きくなっている。そして、図7に示すように、摩耗量が急激に大きくなる変曲点は、積の値が797の位置に認められ、さらに顕著な変化を見せる変曲点は、積の値が748の位置に認められる。
そして、図8に示すように、積(Ra×HM)が247以上、797以下の非晶質炭素膜Dは、その表面粗度Raが0.048μm以上であり、そのマルテンス硬度HMが5137N/mm2以上であることが確認された。
1 湿式多板クラッチ(湿式摩擦係合装置)
4 プレート
5 ディスク
10 摺動部材(湿式摩擦係合装置用摺動部材)
5a ペーパ系摩擦材
D 非晶質炭素膜
4 プレート
5 ディスク
10 摺動部材(湿式摩擦係合装置用摺動部材)
5a ペーパ系摩擦材
D 非晶質炭素膜
Claims (2)
- 摺動面に非晶質炭素膜を施したプレートと、前記摺動面に接するように配置されるペーパ系摩擦材との組み合わせからなる湿式摩擦係合装置用摺動部材であって、
前記非晶質炭素膜は、ラマン分光分析法で測定されたGバンドシフトが1534cm−1以上、1560cm−1以下であり、かつGバンド半値幅が157cm−1以上、186cm−1以下であることを特徴とする湿式摩擦係合装置用摺動部材。 - 前記非晶質炭素膜の表面粗度Raとマルテンス硬度HMとの積(Ra×HM)で示される数値が、247以上、797以下であることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦係合装置用摺動部材。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2007202463A JP2009035658A (ja) | 2007-08-03 | 2007-08-03 | 湿式摩擦係合装置用摺動部材 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2007202463A JP2009035658A (ja) | 2007-08-03 | 2007-08-03 | 湿式摩擦係合装置用摺動部材 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2009035658A true JP2009035658A (ja) | 2009-02-19 |
Family
ID=40437858
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2007202463A Pending JP2009035658A (ja) | 2007-08-03 | 2007-08-03 | 湿式摩擦係合装置用摺動部材 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2009035658A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN111065757A (zh) * | 2017-10-20 | 2020-04-24 | 株式会社理研 | 滑动构件和活塞环 |
-
2007
- 2007-08-03 JP JP2007202463A patent/JP2009035658A/ja active Pending
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