JP2008218006A - 無機el素子およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】硫化ストロンチウムを含む材料よりなる発光母材に銅を含む材料よりなる発光中心が添加された発光層を成膜した後に、発光層に熱処理を行って発光層を活性化させてなる無機EL素子において、発光層の活性化のための熱処理温度の低温化を図る。
【解決手段】発光母材に発光中心が添加された発光層14を有し、発光中心はCuとAgよりなり、発光母材は硫化ストロンチウムよりなり、さらに、発光層14はその形成後に熱処理を行うことにより活性化するものである無機EL素子1の製造方法において、発光層14を形成し、発光層14自身の表面を酸化することにより、この発光層14の直上に硫酸ストロンチウムあるいは亜硫酸ストロンチウムよりなるバッファ層17を形成した後、発光層14を活性化するための熱処理を行う。
【選択図】図1
【解決手段】発光母材に発光中心が添加された発光層14を有し、発光中心はCuとAgよりなり、発光母材は硫化ストロンチウムよりなり、さらに、発光層14はその形成後に熱処理を行うことにより活性化するものである無機EL素子1の製造方法において、発光層14を形成し、発光層14自身の表面を酸化することにより、この発光層14の直上に硫酸ストロンチウムあるいは亜硫酸ストロンチウムよりなるバッファ層17を形成した後、発光層14を活性化するための熱処理を行う。
【選択図】図1
Description
本発明は、少なくとも発光母材の一部が硫化ストロンチウムであり、発光中心として銅、好ましくは銅と銀を添加した無機EL(エレクトロルミネッセンス)素子、および、そのような無機EL素子の製造方法に関する。
無機EL素子は、薄型で自発光型のフラットパネルディスプレイである。このディスプレイの特長としては、自発光素子であるために視野角が広い、使用可能な温度範囲が広い、完全な透明ディスプレイを製作可能であることがあげられる。ただし、現在実用化されているEL素子は、発光層として硫化亜鉛を用いたものだけであるため、青色系の発光を得ることが困難であり、鋭意研究が進められている。
従来では、この青色系の発光層材料として、硫化ストロンチウムに発光中心として微量の銅と銀を添加したもの(以下、「SrS:Cu、Ag」と記すことにする)が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
特開2000−104060号公報
しかしながら、一般に、SrS:Cu、Agよりなる発光層については、当該発光層を成膜した後に熱処理を実施しないと、当該発光層が活性化しないことが知られている。ここで、当該発光層が活性化しないとは、発光層が発光しない、もしくは、発光強度が非常に低いことである。
たとえば、上記特許文献1では、SrS:Cu、Agよりなる発光層を成膜した後に、当該発光層を活性化するための熱処理として、当該発光層を550℃−850℃でポストアニールすることが挙げられている。
本発明者が、この発光層を用いてEL素子の試作を試みたところ、ポストアニールを750℃以上としなければ、十分な青色EL発光を得ることができなかった。具体的には、ポストアニールの温度が低い場合には、輝度が低い、もしくは、EL発光スペクトルが長波長側にシフトしてしまい、発光が緑色を帯びてしまうという問題が発生した。
ところが、750℃のポストアニールを施した場合、通常ディスプレイ用に使用される安価なガラス基板では、当該ガラス基板が熱により変形してしまうという問題が発生する。具体的には、耐熱温度が高い無アルカリガラス基板でも歪点は650℃前後であるため、それ以上の温度でポストアニールを実施すると、基板が熱変形してしまう。
このポストアニールでの基板変形を防ぐ方法としては、たとえばセラミックのようなより耐熱性の高い基板を用いる方法や、ポストアニールの温度を下げるといった方法が考えられる。しかしながら、前者はコストアップや基板の大型化に問題があり、後者は先に述べたように青色ELとしての発光特性が低下する問題がある。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、硫化ストロンチウムを含む材料よりなる発光母材に銅を含む材料よりなる発光中心が添加された発光層を成膜した後に、発光層に熱処理を行って発光層を活性化させてなる無機EL素子において、発光層の活性化のための熱処理温度の低温化を図ることを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明者は鋭意検討を行った。その結果、この種の無機EL素子において、発光層の直上に硫酸ストロンチウムあるいは亜硫酸ストロンチウムよりなる層を形成すれば、後述する図2、図3に示されるように、従来よりも低い温度で熱処理を行っても適切に発光層の活性化を実現し、基板の熱変形を防止できることを、実験的に見出した。
すなわち、本発明は、硫化ストロンチウムを含む材料よりなる発光母材に銅を含む材料よりなる発光中心が添加された発光層(14)を成膜した後に、発光層(14)に熱処理を行って発光層(14)を活性化させてなる無機EL素子において、発光層(14)の直上に、硫酸ストロンチウムあるいは亜硫酸ストロンチウムよりなる層(17)を形成したことを、第1の特徴とする。
ここで、発光層(14)の直上に形成されているとは、その文言通り、当該層(17)が発光層(14)の上に直接、接触して設けられていることである。そして、発光層(14)の直上に、硫酸ストロンチウムあるいは亜硫酸ストロンチウムよりなる層(17)が設けられているため、発光層(14)の活性化のための熱処理温度の低温化を図ることができる。
また、硫酸ストロンチウムあるいは亜硫酸ストロンチウムよりなる層(17)は、発光層(14)自身の表面を酸化することにより形成されたものにできる。
また、発光中心としての銅を含む材料としては、銅と銀を採用することができ、また、発光母材としての硫化ストロンチウムを含む材料としては、硫化ストロンチウム−ガリウムを採用することができる。
また、本発明は、発光母材に発光中心が添加された発光層(14)を有し、発光中心は銅を含む材料よりなり、発光母材は硫化ストロンチウムを含む材料よりなり、さらに、発光層(14)は当該発光層の形成後に熱処理を行うことにより活性化するものである無機EL素子の製造方法において、発光層(14)を形成し、この発光層(14)の直上に、硫酸ストロンチウムあるいは亜硫酸ストロンチウムよりなる層(17)を形成した後、発光層(14)を活性化するための熱処理を行うことを、第2の特徴とする。
それによれば、発光層(14)の活性化のための熱処理温度の低温化を図りつつ、上記第1の特徴を有する無機EL素子を適切に製造することができる。
また、この製造方法においては、硫酸ストロンチウムあるいは亜硫酸ストロンチウムよりなる層(17)を、発光層(14)自身の表面を酸化することにより形成するものとでき、さらに、この場合、発光層(14)自身の表面を酸化することは、加湿雰囲気での加熱によってなされることが好ましい。
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。図1(a)は、本発明の実施形態に係る無機EL素子1の概略平面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A断面を模式的に示す概略断面図である。
EL素子1は、大きくは、電気絶縁性を有する絶縁性基板であるガラス基板11の一面上に、走査電極としての第1電極12、第1絶縁膜13、硫化ストロンチウムを発光母材とする発光層14、第2絶縁膜15、データ電極としての第2電極16を、順次積層して構成されたものである。
ここで、第1電極12、第1絶縁膜13、第2絶縁膜15、第2電極16のうち少なくとも光取り出し側、つまりEL素子1における表示側に位置する部分が透光性を有する材料によって構成されている。
たとえば、第1電極12は、ITO(Indium Tin Oxide)膜、第1絶縁層13および第2絶縁層15は、Al2O3層とTiO2層とを交互に積層したAl2O3/TiO2積層構造膜(以下、ATO膜と称する)、第2電極16は、Alよりなる膜よりなる。
そして、発光層14は、硫化ストロンチウムに発光中心として銅と銀とを微量添加したSrS:Cu、Agからなっている。また発光層14と第2絶縁層15の間には、硫酸ストロンチウムあるいは亜硫酸ストロンチウムよりなる層(以下、SrSOx層と称する)としてのバッファ層17が形成されている。
ここでは、バッファ層17は、発光層14の表面の一部が酸化してできた膜、すなわち、バッファ層17は、発光層14の表面を構成する硫化ストロンチウムが酸化されてSrSOxとなった膜である。このSrSOxにおけるxはたとえば3〜4である。つまり、バッファ層17は、硫酸ストロンチウムのみよりなる膜でもよいし、亜硫酸ストロンチウムのみよりなる膜でもよいし、硫酸ストロンチウムと亜硫酸ストロンチウムとが共存する材料よりなる膜でもよい。
また、本EL素子1では、第1電極12は、図1中の左右方向に延びるストライプ状に多数形成され、第2電極16は、第1電極12とは直交する方向に延びるストライプ状に多数形成されている。
そして、これら両電極12、16が交差したところの部分が、EL素子1として構成されるが、ここでは、上記したようなストライプ状の両電極12、16によって、EL素子1はマトリクス状に配置されている。つまり、この図1においては、EL素子1によってマトリクス状の表示画素が構成されたディスプレイが構成されている。
本実施形態では、図示しないが、このEL素子1を駆動させるためのEL駆動回路が設けられており、このEL駆動回路により、第1電極12と第2電極16との間に交流電圧が印加され、EL素子1が発光するようになっている。
本例の透明EL素子10の製造プロセスについて、以下に説明する。ガラス基板11上に、第1電極12として光学的に透明であるITO膜をスパッタ法により形成する。ITO膜の透過率は70%以上とし、シート抵抗は10Ω/□以下となるように膜厚を250nm以上に設定する。
さらにこのITO膜について、フォトリソグラフ工程などによりストライプ状に加工する。こうしてできた第1電極12の上に、第1絶縁膜13としてのATO膜をALE(AtomicLayer Epitaxy)法により形成する。
すなわち、第1のステップで、アルミニウム(Al)の原料ガスとして三塩化アルミニウム(AlCl3)、酸素(O)の原料ガスとして水(H2O)を用いてAl2O3層を形成する。ALE法では1原子層ずつ膜を形成して行くため、原料ガスを交互に供給する。従って、この場合はAlCl3をアルゴン(Ar)のキャリアガスで反応炉に所定の時間導入した後に、反応炉内のAlCl3ガスを排気するのに十分なパージを行う。
次に、H2Oを同様にArキャリアガスで反応炉に所定の時間導入した後に、反応炉内のH2Oガスを排気するのに十分なパージを行う。このサイクルを繰り返すことにより所定の膜厚を有するAl2O3層を形成する。
続く第2のステップで、Tiの原料ガスとして四塩化チタン(TiCl4)、酸素の原料ガスとして水(H2O)を用いて酸化チタン層を形成する。すなわち、第1のステップと同様にTiCl4をArキャリアガスで反応炉に所定の時間導入した後に、反応炉内のTiCl4ガスを排気するのに十分なパージを行う。
次に、H2Oを同様にArキャリアガスで反応炉に所定の時間導入した後に、反応炉内のH2Oガスを排気するのに十分なパージを行う。このサイクルを繰り返すことにより所定の膜厚を有する酸化チタン層を形成する。
そして、上述した第1及び第2のステップを繰り返すことで所定膜厚のATO膜が形成され、これが第1絶縁膜13として形成される。ここで、たとえば、Al2O3層、TiO2層それぞれ1層当たりの膜厚を5nmとして、それぞれ30層ずつ積層する。なお、ATO膜の最上層および最下層は、Al2O3層とすることが好ましい。
ALE法により原子層オーダで膜を形成する場合、1層当たりの膜厚が0.5nm未満では絶縁体として機能せず、1層当たりの膜厚が100nmを超える場合は積層構造による耐電圧向上効果が低下してしまう。したがって、1層当たりの膜厚は0.5nm〜100nmの範囲に設定することがよく、好ましくは1nm〜10nmの範囲に設定することが望ましい。
次に、第1絶縁膜13の上に、SrS(硫化ストロンチウム)を母体材料とし、発光中心としてCu(銅)およびAg(銀)を添加したSrS:Cu、Agよりなる発光層14を形成する。
すなわち、SrS粉末中に0.1〜2.0重量%のCu2S粉末および0.1〜2.0重量%のAg2S粉末を混合し、この混合物を所定の形状に成形した後、800〜1000℃程度の温度で焼結することによりターゲットを形成する。そして、このターゲットを用いて、RFマグネトロンスパッタリング法により、SrS:Cu、Agよりなる発光層14を形成する。
具体的には、真空槽内にて、ガラス基板11を上記ターゲットと対向するようにセットし、このガラス基板11の温度が150〜300℃、より好ましくは200〜250℃となるように加熱を行う。ガラス基板11を所定の温度まで加熱した後、当該真空槽中にArガスを導入し、当該真空槽の圧力が1×10-3〜3×10-3Torr程度となるようにガス流量等を調整する。
この後、上記ターゲットに高周波電力を印加し、スパッタリングを実施する。この際、発光層14の膜厚の膜厚が1〜2μm程度となるように、上記ターゲットへの投入電力やスパッタリング時間を調整する。こうして、スパッタによりSrS:Cu、Agよりなる発光層14が成膜される。
次に、この発光層14の直上にSrSOx層としての上記バッファ層17を形成する。本実施形態では、上述したように、このSrSOxからなるバッファ層17は、発光層14自身の表面を酸化することによって、発光層14の一部を酸化膜に変化させたものとして形成する。
具体的には、発光層14を形成した後のガラス基板11を、熱処理中の雰囲気制御が可能なオーブン等を用いて加熱処理する。この加熱処理の加熱温度は500〜600℃で、その保持時間は30分〜2時間程度となるように調整する。この際、当該オーブン中に水分を導入し、加湿雰囲気での加熱処理となるようにする。
この水分の具体的な導入方法としては、たとえば当該オーブンに加湿した窒素ガスを一定量導入して流し、当該オーブン中を加湿雰囲気とする方法が挙げられる。この加湿雰囲気は、具体的には、次のようにする。水分の導入には、窒素ガスを純水中に通すことにより生成した加湿窒素ガスを用いた。流量は5〜50リットル/分で、純水の温度を30〜60℃で一定に保持することで、水の供給量を一定とした。
また、より簡易的な方法としては、加熱処理前の当該オーブン中に、ガラス基板11とともに水を一定量入れておき、その水の蒸発により当該オーブン内を加湿雰囲気にする方法などが挙げられる。
この加湿雰囲気での熱処理により、発光層14の表面を構成する硫化ストロンチウムが酸化され、発光層14の表面にSrSOxからなるバッファ層17が形成される。このバッファ層17の存在は、たとえば、断面TEM分析やXPS分析などにより確認することが可能である。
このバッファ層17を形成した後、発光層14を活性化するための熱処理、すなわちポストアニールを実施する。具体的には、ランプ加熱を用いた高速熱処理装置を用いて、加熱温度650℃〜700℃、加熱時間10分程度の加熱処理を行う。
また、ポストアニールとしては、ホットウォール方式の熱処理装置を用いて、加熱温度650℃〜700℃、加熱時間10分〜4時間程度の加熱処理を行ってもよい。これらポストアニールの雰囲気は、真空中や不活性ガス中、あるいは大気中など、任意の雰囲気とすればよい。
また、このポストアニールの際には、熱処理の温度が高すぎたり時間が長すぎたりすると、熱によりガラス基板11が変形する可能性があるため、使用するガラス基板11や熱処理装置に合わせて温度や時間を調整する必要がある。
こうして、バッファ層17を形成した後、その上に、第2絶縁層15を第1絶縁層13と同様にALE法で形成する。そして最後に、第2電極16として、Al膜をスパッタ法にて成膜したのち、フォトリソグラフ工程などにより第1電極12と交差するように、ストライプ状に加工する。
このようにして、上記図1に示される本実施形態のEL素子1ができあがる。このEL素子1を、上記EL駆動回路に接続し、第1電極12と第2電極16に交流電圧を印加すると、EL素子1が発光する。
このようにして作成したEL素子1の発光スペクトルを図2に示す。図2は、本実施形態のEL素子1における発光スペクトル、および、上記図1においてバッファ層17を設けない従来構造を持つ比較例としてのEL素子におけるEL発光スペクトルを、それぞれ示す図である。
これら本実施形態および比較例のEL素子については、ともにホットウォール方式の熱処理炉を用いて温度650℃、時間10分、大気雰囲気のポストアニールを実施している。この条件では、どちらのEL素子についても、ガラス基板11に目立った変形は発生していない。
この図2に示される結果からわかるように、本実施形態のようにバッファ層17を形成した後にポストアニールを実施したEL素子1では、青色のEL発光が観察されたのに対し、発光層14の上にバッファ層を設けない比較例のEL素子では、青色EL発光を得ることができなかった。
また、図3は、本実施形態のEL素子1および上記比較例としてのバッファ層を設けない構造のEL素子について、ポストアニールの温度を変化させた場合の輝度変化を示している。ただし、ここでは、印加電圧はEL素子が1cd/m2の発光となった電圧+40Vと規定している。なお、この図3におけるポストアニール温度:650℃の結果は、上記図2のものに相当する。
この図3に示される結果からわかるように、本実施形態のEL素子1は、比較例としてバッファ層を設けない従来構造のEL素子に比べて、同程度の青色発光輝度を得るためのポストアニールの温度を、100℃以上低くすることが可能となる。そして、本実施形態のEL素子1では、ガラス基板11を熱変形させない程度の低温でポストアニールを行うことが可能になる。
このバッファ層17による作用効果については、次のように考察される。上記図2、図3に示した本実施形態のEL素子および比較例のEL素子について、断面TEMを用いて発光層14の結晶性を観察した。
その結果、たとえば、バッファ層有りの650℃の熱処理品やバッファ層無しの750℃の熱処理品などのような青色EL発光が確認できたEL素子については、一つの結晶が100nm〜1μm以上の大きな結晶粒を、観察することができた。
それに対し、たとえば、熱処理未実施の場合や、あるいはバッファ層無しの650℃の熱処理品などのような青色EL発光が確認できなかったEL素子については、結晶粒のサイズが数nm程度と推定される微結晶からなっていることがわかった。
このことから、ポストアニールによってSrS:Cu系の発光層が活性化するためには、大きな結晶粒の成長が必要であると推定され、バッファ層17により、この大きな結晶粒が成長するための熱処理温度が低下しているものと考えられる。
このバッファ層17の存在によって、熱処理温度もしくは結晶粒が成長する温度が低下するメカニズムについては明らかになっていない。しかし、たとえば、「ZnSeバルク単結晶の固相成長」、応用物理、1992年、第61巻、第8号、P821−825、によれば、II−VI族化合物半導体膜を多結晶体から固相成長させる際、成長雰囲気がその結晶サイズ等に大きく関与することが報告されており、本実施形態におけるバッファ層17は、発光層14の結晶粒成長を助ける何らかの雰囲気作りに寄与しているのではないかと考えている。
また、バッファ層17として、たとえばSiON層のようなSrSOx層以外の材料でも同様の効果が期待できるが、本発明者の検討によれば、この場合はSrSOx層と同様に熱処理温度の低下効果があったものの、ポストアニールによりSiON層が剥離するという問題が発生した。
これは、ポストアニールにより発光層14が大きく粒成長する際、この粒成長に伴う応力が発光層14とバッファ層17との間の密着力を上回ってしまっているためである。SrSOx層では、このような剥離が見られないのは、発光層14との間に極めて高い密着力を持っているからであると推測される。
以上述べてきたように、本実施形態では、発光中心が銅と銀、発光母材が硫化ストロンチウムであるSrS:Cu、Agよりなる発光層14を形成した後に、当該発光層14をポストアニールするEL素子1において、発光層14の直上にSrSOx層としてのバッファ層17を形成している。
そして、このようなEL素子1を製造するにあたって、SrS:Cu、Agよりなる発光層14を形成し、発光層14の表面酸化によって当該発光層14の表面にバッファ層17を形成した後、ポストアニールを行っている。
それにより、本実施形態では、上記図2、図3に示されるように、従来よりも低い温度でポストアニールを行っても、発光層14の活性化すなわち十分な青色輝度の実現がなされ、ガラス基板11の熱変形が防止される。
(他の実施形態)
なお、上記実施形態では、発光層14の発光母材をSrSとしたが、当該発光母材としてはSrSを含む材料であればよい。この場合、SrSのみでも、SrSに他の物質が添加されていてもよい。本発明者の検討によれば、SrSに微量のGaを添加した発光母材すなわち硫化ストロンチウム−ガリウムを発光母材とした場合でも同様の効果が得られる。この場合、Gaは直接発光に寄与しないものの、Gaを添加しない場合と比較して輝度が向上することが確認されている。
なお、上記実施形態では、発光層14の発光母材をSrSとしたが、当該発光母材としてはSrSを含む材料であればよい。この場合、SrSのみでも、SrSに他の物質が添加されていてもよい。本発明者の検討によれば、SrSに微量のGaを添加した発光母材すなわち硫化ストロンチウム−ガリウムを発光母材とした場合でも同様の効果が得られる。この場合、Gaは直接発光に寄与しないものの、Gaを添加しない場合と比較して輝度が向上することが確認されている。
また、上記実施形態では、発光層14の発光中心を銅と銀にしたが、当該発光中心としては銅を含むものであればよく、銅のみでも、銅に銀以外の物質が添加されたものでもよい。たとえば、本発明者の検討によれば、発光層14の発光中心をCuのみとした場合でも、上記バッファ層の効果はあり、この場合は青緑色のEL発光が得られる。
また、SrSOx層を形成するための発光層14の表面の酸化手法としては、上記したオーブン等による加熱処理の他に、たとえばプラズマ酸化のような他の表面処理手法を用いてもよい。さらには、SrSOxよりなるバッファ層17としては、発光層14の直上に、蒸着やスパッタなどにより成膜されたものでもよい。
また、上記実施形態では、SrSOxよりなるバッファ層17を形成するための発光層14の表面酸化と、熱処理による発光層14の活性化とを異なる装置で行っていたが、同一の装置、たとえば同一のオーブンにて連続的に熱処理を行ってもよい。
また、EL素子としては、上記したSrSを含む発光母材にCuを含む発光中心が添加された発光層であって、成膜後に熱処理を行うことにより活性化する発光層を有する無機EL素子であればよく、その積層構成は上記図1に限定されるものではない。
1…無機EL素子、14…発光層、17…硫酸ストロンチウムあるいは亜硫酸ストロンチウムよりなる層としてのバッファ層。
Claims (7)
- 発光母材に発光中心が添加された発光層(14)を有し、前記発光中心は銅を含む材料よりなり、前記発光母材は硫化ストロンチウムを含む材料よりなり、さらに、前記発光層(14)は当該発光層の形成後に熱処理を行うことにより活性化するものである無機EL素子において、
前記発光層(14)の直上には、硫酸ストロンチウムあるいは亜硫酸ストロンチウムよりなる層(17)が形成されていることを特徴とする無機EL素子。 - 前記硫酸ストロンチウムあるいは亜硫酸ストロンチウムよりなる層(17)は、前記発光層(14)自身の表面を酸化することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の無機EL素子。
- 前記発光中心としての銅を含む材料は、銅と銀であることを特徴とすることを特徴とする請求項1または2に記載の無機EL素子。
- 前記発光母材としての硫化ストロンチウムを含む材料は、硫化ストロンチウム−ガリウムであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の無機EL素子。
- 発光母材に発光中心が添加された発光層(14)を有し、前記発光中心は銅を含む材料よりなり、前記発光母材は硫化ストロンチウムを含む材料よりなり、さらに、前記発光層(14)は当該発光層の形成後に熱処理を行うことにより活性化するものである無機EL素子の製造方法において、
前記発光層(14)を形成し、この発光層(14)の直上に、硫酸ストロンチウムあるいは亜硫酸ストロンチウムよりなる層(17)を形成した後、前記発光層(14)を活性化するための前記熱処理を行うことを特徴とする無機EL素子の製造方法。 - 前記硫酸ストロンチウムあるいは亜硫酸ストロンチウムよりなる層(17)を、前記発光層(14)自身の表面を酸化することにより形成することを特徴とする請求項5に記載の無機EL素子の製造方法。
- 前記発光層(14)自身の表面を酸化することは、加湿雰囲気での加熱によってなされることを特徴とする請求項6に記載の無機EL素子の製造方法。
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